生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_死体保存用注入液
出願番号:2013227216
年次:2015
IPC分類:A01N 1/00,C07C 31/08


特許情報キャッシュ

藤倉 義久 雉鼻 一郎 松村 讓兒 JP 2015086190 公開特許公報(A) 20150507 2013227216 20131031 死体保存用注入液 国立大学法人 大分大学 304028726 株式会社日本医化器械製作所 591221134 学校法人杏林学園 304024865 青木 篤 100099759 石田 敬 100077517 福本 積 100087871 古賀 哲次 100087413 渡辺 陽一 100117019 武居 良太郎 100150810 中村 和美 100134784 藤倉 義久 雉鼻 一郎 松村 讓兒 A01N 1/00 20060101AFI20150410BHJP C07C 31/08 20060101ALI20150410BHJP JPA01N1/00C07C31/08 5 OL 9 4H006 4H011 4H006AA03 4H006AB99 4H006FE11 4H011BB09 4H011BB19 4H011CA05 4H011CB03 4H011CD02 本発明は、死体保存用注入液に関する。より詳しくは、本発明は、医学部や歯学部の学生解剖実習や臨床外科修練の他エンバーミング等の遺体保存処置や小動物の保存に用いる死体保存用注入液に関する。 従来は、例えば献体の保存にホルマリン(ホルムアルデヒド水溶液)を用いることが一般的であった。具体的には、ポンプ又は重力法により、10%ホルムアルデヒド水溶液を大腿動脈から献体に注入し体液(血液を含む)と入れ替えることにより、献体の保存処理が行われてきた。この手法において、ホルムアルデヒドは、献体の組織の細胞内外に浸透し、分子中のアルデヒド基が主に組織中の蛋白質のアミノ基に結合し、さらに架橋することで、蛋白質の立体構造を損なわせ、酵素活性、輸送、分泌などの様々な生物活性を失わせる作用を持っているとされている。 また、Thiel法も知られている。Thiel法は1992年にオーストリアのW. Thielによって報告された新しい解剖体固定法であり、従来のホルマリン法(8〜10%)より、低濃度のホルマリン(3〜6%)で固定すること、プロピレングリコール、亜硫酸ナトリウムといった食品添加物を用いるのが特徴である。固定液の投与方法は従来と同様で。内臓死体保存用注入液を上矢状静脈洞から注入し、遺体還流液を大腿動脈より注入して固定を行う。ホルマリンを用いることで解剖体からの感染のリスクを抑えられるとともに、低濃度に抑えたホルマリンと食品添加物の使用により、皮膚、筋肉、血管、神経の質感がほぼそのままに保たれ、靱帯が硬化しないことから、関節の可動性も良好とされている。 しかし、特定化学物質障害予防規則(特化則)により、ホルマリンを用いる場合は健康障害を防止するための各種措置を講じる必要がある。具体的には、上記の手法においてはホルムアルデヒドガスが空気中に拡散してしまうため、その濃度を0.1ppm以下に維持する措置をとらなければならない。そのため、局所排気装置や全体換気装置などの設備対策が必要となり、また関係スタッフの健康診断や定期的法的検査が要求されるので、多額のコストがかかってしまう。 近年、親水性の高分子化合物を用いる手法が提案されている(特許文献1)。この手法は、組織全域の細胞内水分を親水性モノマー溶液に置換させ、その後に組織細胞内のラジカルソースによって重合反応を開始させるものである。一般的には、親水性モノマーを献体重量の5wt%以上とすることで、献体の組織全体で親水性モノマーをポリマー化させることができ、献体の保存が可能となる。なお、親水性モノマーとしては、N−ビニル−2−ピロリドンなどが用いられる。 また、細胞内に水分とラジカルソースを含む組織あるいは臓器をそのまま包埋標本化するに際して、高い親水性を有すると共に重合すると高分子となる1−ビニル−l−ピロリドン、アクリル酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレートのいずれか一つのモノマーを用いて、当該モノマーの濃度を20〜50%にした水溶液に、前記水溶液100重量部に対し2.0〜4.0重量部の架橋剤と0.01〜0.10重量部の重合阻止剤を含有させて包埋用液体とし、この包埋用液体に前記組織を浸漬し、そのまま静置し又は窒素ガスバブリング後静置して重合させる組織包埋方法が提案されている(特許文献2)。特許第4374435号公報特許第4956839号公報 しかしながら、特許文献1に記載の高親水性高分子による組織包埋法は、電子顕微鏡用の薄切試料等には最適であり、特許文献2に記載の包埋法は臓器をそのまま包埋標本化するには最適であるが、Thiel法を含めこれらのいずれの方法も、医学部や歯学部の学生解剖実習や臨床外科修練で用いる献体の死体保存用注入液に適用するには以下のような不具合があった。(1)保存した献体及び各組織が硬化しない。脳組織は柔らかく、壊れやすい。(2)献体内の体液(主に水分と血液)が体外に漏出するため、全体としてべたべた感触となり、解剖実習を行うことが難しい。(3)心臓や肝臓なども柔らかく、組織の形状を保つことが困難である。(4)組織全体に水ぶくれ感が発生する。(5)大腸や小腸などの組織は硬化しないため、形状の分別識別が図りにくい。(6)脂肪が溶解し、解剖時に細る(例:目が落ち窪むなどの問題が発生し、保存前と保存後で献体の状態が変化する)。(7)保存時に多量の吸い体液が漏出するため、献体の管理保存に手間がかかる。(8)N−ビニル−2−ピロリドンは、一般的に用いられるアセチレン法にて製造されたものの場合、不純物による強い臭気がある。 本発明は、上記の不具合の全てを解決する死体保存用注入液を提供するものである。 本発明者らは、斯かる実状に鑑み鋭意検討した結果、親水性モノマーを30〜70wt%と、エタノール又はエタノール同等液を70〜30wt%とを配合してなる死体保存用注入液が、上記問題点を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は、以下を提供する: (1)親水性モノマーを30〜70wt%と、エタノールを70〜30wt%とを配合してなる死体保存用注入液; (2)親水性モノマーを30〜70wt%と、エタノールを主成分とするエタノール同等液を70〜30wt%とを配合してなる死体保存用注入液; (3)前記親水性モノマーが、N−ビニル−2−ピロリドンである、(1)又は(2)に記載の死体保存用注入液; (4)前記エタノール同等品が、エタノールの他に、水、及び/又はエタノール以外の低級アルコールを含むものである、(2)に記載の死体保存用注入液; (5)前記N−ビニル−2−ピロリドンが、気相製造法で製造された純度95%以上のものである、(3)に記載の死体保存用注入液。 本発明の死体保存用注入液は、以下の優れた効果を呈するため、医学部や歯学部の学生解剖実習や臨床外科修練で用いる死体保存用注入液として極めて有効であり、また、エンバーミングなどの遺体保存処置さらに小動物の保存に有利に用いることができる。(1)保存した死体及び各組織が適度に硬化し引き締まる。(2)死体の各組織が適度に乾燥し、べたべた感触を防止できる。(3)心臓や肝臓などの臓器の形状が良好に保形維持でき、各種の組織モデルとして活用できる。(4)大腸や小腸などの組織の保形維持が可能である。(5)死体の脂肪の溶解を抑制できる。(6)死体の体液の漏出量を低減できる。(7)死体からの臭気を低減できる。(8)ホルマリンを用いる必要がないため、ホルムアルデヒド濃度規制などの法規上の課題も容易にクリアでき、管理コストも削減できる。 以下に本発明の好ましい実施態様を詳細に説明する。 本発明の死体保存用注入液において、前記親水性モノマーは、死体を固定し且つ不活化と防腐するために配合するものであり、例えば、N−ビニル−2−ピロリドン、アクリル酸、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、ビニルアルコールポリマーなど、重合することで高分子になる親水性(水に溶ける)低分子モノマーを用いることができ、中でもN−ビニル−2−ピロリドンが好ましい。特に、特開2001−226431号公報等に記載の気相製造法により製造した不純物の少ないN−ビニル−2−ピロリドン(通常、純度95%以上、好ましくは純度99%以上、より好ましくは純度99.5%以上、特に好ましくは純度99.8%以上)を用いることで、不純物による臭気を低減化することができる。 本発明の死体保存用注入液において、前記エタノール又はエタノール同等液は、死体の硬さを制御するものであり、エタノール同等液とは、エタノールを主成分として例えば濃度75〜98wt%の割合で含み、その他の成分として、コスト低減のために、水及び/又は1−プロパノール、2−プロパノールなどのエタノール以外の低級アルコールを少量含む。 本発明の死体保存用注入液において、親水性モノマーの配合割合は30〜70wt%とし、エタノール又はエタノール同等品の配合割合は70〜30wt%とすることが、上記の効果が全て良好に得られるため好ましい。 即ち、親水性モノマーは、配合割合が70wt%を超えると、エタノール又はエタノール同等液の配合割合が少なくなり、死体の硬さの制御効果が十分に得られず好ましくない。また、親水性モノマーは、配合割合が30wt%未満になると、死体を固定し且つ不活化と防腐効果が十分に得られず好ましくない。 エタノール又はエタノール同等液の配合割合が70wt%を超えると臓器等は固くなり過ぎ、エタノール又はエタノール同等液の配合割合が30wt%未満になると臓器等は軟らかくなり過ぎるので好ましくない。 前記エタノール又はエタノール同等液には、脱水機能、組織収縮機能、そして脂肪の溶解度を減少させる機能があるため、エタノール又はエタノール同等液を親水性モノマーと組み合わせることで、親水性モノマーを単独で使用した場合に比べ、体液の漏出、脂肪の溶解、及び組織の水ぶくれによる軟化を抑制できる。 この結果として、血液を含む体液を残存させての医学部や歯学部の学生解剖実習や臨床外科修練で用いる死体保存用注入液として有効なものとなる。また、本発明の死体保存用注入液は、エンバーミングなどの遺体保存処置や小動物の保存に用いることも可能となる。 本発明の死体保存用注入液を、例えば、学生解剖実習用献体に用いる場合、親水性モノマーに対するエタノール又はエタノール同等液の配合比は、「親水性モノマー≦エタノール又はエタノール同等液」にすると、献体を硬くして構造体形を維持することができる。 本発明の死体保存用注入液を学生解剖(系統解剖)実習に用いる場合には、比較的硬くて形が崩れにくいと作業が容易になるので、配合割合40〜60wt%の親水性モノマーと、配合割合60〜40wt%のエタノール又はエタノール同等液のみからなる死体保存用注入液とすることが好ましい。 一方、本発明の死体保存用注入液を学生解剖(局所解剖)実習に用いる場合には、学生解剖実習用献体の場合より軟らかい方がよいと言われているので、エタノール又はエタノール同等液の配合比を「親水性モノマー>エタノール又はエタノール同等液」と学生解剖実習用献体の死体保存用注入液より低くし、残りを水とすることが好ましい。 本発明の死体保存用注入液を臨床外科修練用献体や遺体保存処置に用いる場合には、親水性モノマーとエタノール又はエタノール同等液の配合比は、同様に「親水性モノマー>エタノール又はエタノール同等液」にして、構造体形に多少弾力性を持たせることが可能となる。さらに、解剖の目的により臓器等に軟性を持たせるためグリセリン又はポリエチレングリコールを加えることもできる。 本発明の死体保存用注入液を臨床外科修練に用いる場合には、生体の手術時と同じ程度の軟らかさが求められるため、親水性モノマーとエタノール又はエタノール同等液との配合比を「親水性モノマー>エタノール又はエタノール同等液」にすることが好ましい。ただし、解剖する部位により異なり、脳は比較的硬いものが求められるので「親水性モノマー<エタノール又はエタノール同等液」にするが、その他の臓器はかなり軟らかいものがよいと言われているので、求められる硬さによって、「親水性モノマー>エタノール又はエタノール同等液」で調節すればよい。 死体保存用注入液を遺体保存処置の用いるエンバーミングの場合、1年以上の保存が求められる学生解剖実習や臨床外科修練と異なり、遺体の保存期間が2〜3週間程度と非常に短いことと、生きていた時とあまり変わらない状態を保持する観点から、エタノール又はエタノール同等液の配合比を学生解剖実習や臨床外科修練より低くすることが好ましい。 また、動物(イヌ、ネコ、ブタ等)の屍体の場合、ヒトの献体と同じ配合比のエタノール又はエタノール同等液を用いることが好ましい。 死体保存用注入液を小動物の保存に用いる場合、そのエタノール又はエタノール同等液の配合比が、親水性モノマーの配合比以下であることが好ましい。 本発明の死体保存用注入液の製造については、大学、病院、研究所等で行う場合は、メーカーで事前に調製して製品として提供されていれば、それを購入して使用することができる。また、メーカーで提供されている親水性モノマーを購入し、親水性モノマーに所定量のエタノール又はエタノール同等液を添加することで、本発明の死体保存用注入液を非常に簡便に調製することもできる。 なお、本発明の死体保存用注入液を製造するにあたっては、換気が良好な場所で、マスク、手袋等一般的防護処置を講じた上で対応することが好ましく、製造環境としては、適切な換気が行える場所を確保し、一般的人間生活環境を維持できる温度に製造環境温度を維持できればよい。 本発明の死体保存用注入液は、死体への注入量は死体の重量の5〜10wt%を注入することが好ましい。 本発明において使用するN−ビニル−2−ピロリドン(NVP)としては、製造法の違いによる臭気の差異を確認した結果、表1に示すように、気相製造法により製造したN−ビニル−2−ピロリドンが、不純物による臭気を低減化することができることが分かった。 例えば特開2001−226431号公報等に記載の気相製造法で製造されたNVP及びアセチレン法(レッペ反応)で製造されたNVPをそれぞれ準備し、液面から15cm離れた箇所に設置した超高感度携帯式VOCモニター(商品名:MiniRAE 3000 Model PGM-7320)により、臭気を測定した。併せて、精製水100wt%に対しても同様の測定を行った。 次に、表2に本発明の実施例と比較例を詳細に紹介する。 なお、結果についての評価記号の意味は次の通りである。1.硬化度の評価記号 ++ : 強直化しており関節はあまり曲がらない + : 関節の動きがある程度制限される − : 関節が良く動く、腰も曲がる2.脂肪の溶融度 ++ : 皮下脂肪がほぼ完全に溶融、皮剥で皮神経や皮静脈が一目瞭然 眼窩脂肪がなくなり眼球が陥凹している + : 所々で皮下脂肪が残っている − : 脂肪はかなり残っている3.体液の漏出度 ++ : 多量(注入量近く)漏出 + : 中等度(注入量の半分くらい)漏出 − : 殆ど漏出していない4.臭気の低減効果 ++ : 換気装置がなくても臭気をあまり感じない + : 臭気はあるが我慢できる程度 − : 換気が必要な程の臭気がある また、用途についての簡略表示の意味は次の通りである。 系:系統解剖(全身を表層から深部に向かって順に解剖、ある程度の硬さが必要) 局:局所解剖(局所を層から深部に向かって順に解剖、ある程度の軟らかさが必要) 外:外科修練(医師が手術等の練習を行う、生体に近い軟らかさが必要) 保:遺体保存(短期間(1週間以内)の遺体の保存、エンバーミング) 括弧内は強いて使用できる用途を示す。 親水性モノマーを30〜70wt%と、エタノールを70〜30wt%とを配合してなる死体保存用注入液。 親水性モノマーを30〜70wt%と、エタノールを主成分とするエタノール同等液を70〜30wt%とを配合してなる死体保存用注入液。 前記親水性モノマーが、N−ビニル−2−ピロリドンである、請求項1又は2に記載の死体保存用注入液。 前記エタノール同等液が、エタノールの他に、水及び/又はエタノール以外の低級アルコールを含むものである、請求項2に記載の死体保存用注入液。 前記N−ビニル−2−ピロリドンが、気相製造法で製造された純度95%以上のものである、請求項3に記載の死体保存用注入液。 【課題】水分の漏出、脂肪の溶解、及び組織の水ぶくれによる軟化を抑制した死体保存用注入液を提供する。【解決手段】親水性モノマーを30〜70wt%と、エタノールを70〜30wt%とを配合してなる死体保存用注入液。【選択図】なし


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