タイトル: | 公開特許公報(A)_フラネオールによるにおいの抑制剤の探索方法 |
出願番号: | 2013219336 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | G01N 33/566,C12Q 1/02,G01N 33/50,G01N 33/15,C12N 15/09 |
難波 綾 齋藤 菜穂子 井上 道晶 鳥谷部 剛 JP 2015081820 公開特許公報(A) 20150427 2013219336 20131022 フラネオールによるにおいの抑制剤の探索方法 花王株式会社 000000918 特許業務法人アルガ特許事務所 110000084 高野 登志雄 100077562 中嶋 俊夫 100096736 村田 正樹 100117156 山本 博人 100111028 難波 綾 齋藤 菜穂子 井上 道晶 鳥谷部 剛 G01N 33/566 20060101AFI20150331BHJP C12Q 1/02 20060101ALI20150331BHJP G01N 33/50 20060101ALI20150331BHJP G01N 33/15 20060101ALI20150331BHJP C12N 15/09 20060101ALN20150331BHJP JPG01N33/566C12Q1/02G01N33/50 ZG01N33/15 ZC12N15/00 A 7 OL 15 2G045 4B024 4B063 2G045BB20 2G045CB01 2G045DA15 2G045FB13 4B024AA11 4B024CA04 4B024CA20 4B024DA03 4B024GA11 4B024HA11 4B063QA01 4B063QQ91 4B063QR02 4B063QR77 4B063QS36 4B063QX02 本発明は、フラネオールによるにおいの抑制剤の探索方法に関する。 我々の生活環境には、極性や分子量が異なる多数の悪臭分子が存在する。多様な悪臭分子を消臭するために、これまで様々な消臭方法が開発されてきた。一般的に消臭方法は、生物的方法、化学的方法、物理的方法、感覚的方法に大別される。悪臭分子の中で、極性の高い短鎖脂肪酸やアミン類については、化学的方法、すなわち中和反応による消臭が可能である。またチオールなどの硫黄化合物に関しては、物理的方法、すなわち吸着処理による消臭が可能である。しかし、従来の消臭法では対応できない悪臭分子が数多く残されている。また、吸着処理による消臭方法では、悪臭の再放出が起きやすいといった問題もある。さらにこれらの従来の方法では、目的とする悪臭以外のにおいも消されてしまう場合がある。これらの問題を克服できる消臭方法が求められている。 芳香剤を使用して別のにおいをより強く認識させることにより悪臭を消臭する方法も知られている。しかし、この方法では、芳香剤のにおいに対する不快感が生じることがある。さらに、香水や芳香剤などの他のにおいで悪臭をマスキングするためには、目的の悪臭物質に対して有効な消臭作用を示すにおい物質を探索しなければならない。従来、においの評価は、専門家による官能試験によって行われてきた。しかし官能試験には、においを評価できる専門家の育成が必要なことや、スループット性が低いなどの問題がある。したがって従来、消臭作用を示すにおい物質の探索は容易なことではなかった。 ヒト等の哺乳動物においては、嗅覚は、鼻腔上部の嗅上皮に存在する嗅神経細胞上の嗅覚受容体ににおい分子が結合し、それに対する受容体の応答が中枢神経系へと伝達されることにより認識されている。ヒトの場合、嗅覚受容体は約400個存在することが報告されており、これらをコードする遺伝子はヒトの全遺伝子の約3%にあたる。一般的に、嗅覚受容体とにおい分子は複数対複数の組み合わせで対応付けられている。すなわち、個々の嗅覚受容体は、構造の類似した複数のにおい分子を異なる親和性で受容することができ、一方で、個々のにおい分子は、複数の嗅覚受容体によって受容され得る。さらに、ある嗅覚受容体を活性化するにおい分子が、別の嗅覚受容体の活性化を阻害するアンタゴニストとして働くことも報告されている。これら複数の嗅覚受容体の応答の組み合わせが、個々のにおいの認識をもたらしている。 従って、同じにおい分子が存在する場合でも、同時に他のにおい分子が存在すると、当該他のにおい分子によって受容体応答が阻害され、最終的に認識されるにおいが全く異なることがある。このような仕組みを嗅覚受容体のアンタゴニズムと呼ぶ。この受容体アンタゴニズムによるにおいの変調は、香水や芳香剤等の別のにおいを付加することによる消臭方法と異なり、悪臭の認識を特異的に失くしてしまうことができ、また芳香剤のにおいによる不快感が生じることもないことから、好ましい消臭手段である。 皮膚タンニング剤(セルフタンニング剤またはサンレスタンニング剤とも称される)は、肌を着色する皮膚化粧料である。皮膚を褐色に変化させる成分としては、主にジヒドロキシアセトン(Dihydroxyacetone, DHA)が単独で、またはエリスルロース(Erythrulose)などとともに使用される。これらの成分は、皮膚の上層と反応し皮膚を褐色に着色する。この着色は、褐変反応によって進行すると考えられているが、その反応メカニズムの詳細についてはほとんど解明されていない。褐変反応は、食品化学の分野ではメイラード反応とも呼ばれ、アミノ酸やタンパク質等の含窒素化合物と還元糖とが重合することによって、メラノイジンと呼ばれる褐色の重合物を生成する反応を指す用語である。メイラード反応は、食品の加熱等によって起こる食品の着色や香気成分の生成に関与している。 2,5−ジメチル−4−ヒドロキシ−3(2H)−フラノン(フラネオール)は、「強くフルーティーなカラメル香」、「焦げたカラメル香」、「焦げた砂糖」、「カレー様フレーバー」、「綿菓子の匂い」などと表現されるにおいを有することが知られている物質である(非特許文献1〜4)。また、特許文献1には、発酵原液中にマルトールおよびフラネオールを生成させることにより風味や香ばしさを増強したビールテイスト飲料が記載されている。国際公開公報第2009/078360号合成香料 化学と商品知識、2005年、化学工業日報社J. Agric. Food Chem., 1997, 45(6):2217-2224ACS Symp Ser., 2002, 836:108-123Anal Chim Acta., 2010, 657(2):198-203 市販の皮膚タンニング剤(セルフタンニング剤またはサンレスタンニング剤)を使用する際に、土臭い(Earthy)、砂糖の焦げたにおい(Burnt sugar)などと表現される独特の不快臭が伴うという問題が報告され(D.M.Hindenlang and M.E.McDonnell,Cosmetics&Toiletries magazine,2008,Vol.123,No.7,p67−74)、改善が求められていた。当該不快臭の原因について調べたところ、皮膚タンニング剤中に含まれるジヒドロキシアセトン(DHA)よりメチルグリオキサールを経由して生成する2,5−ジメチル−4−ヒドロキシ−3(2H)−フラノン(フラネオール)が原因物質のひとつであることが解明された。このようなフラネオールに起因する不快臭を抑えるために、フラネオールのにおいを制御することが求められている。 本発明者は、フラネオールに応答する嗅覚受容体を探索し、それを同定することに成功した。また本発明者は、当該嗅覚受容体の応答を抑制する物質が、嗅覚受容体アンタゴニズムによるマスキングにより、フラネオールによるにおいの認識を抑制することができることを見出した。これらの知見に基づいて、本発明者は、当該嗅覚受容体の応答を指標にフラネオールによるにおいを制御する物質を探索することができることを見出した。 したがって、本発明は、以下: 嗅覚受容体OR5K1またはこれとアミノ酸配列において少なくとも80%の同一性を有するポリペプチドに、試験物質および2,5−ジメチル−4−ヒドロキシ−3(2H)−フラノン(フラネオール)を添加すること; 2,5−ジメチル−4−ヒドロキシ−3(2H)−フラノン(フラネオール)に対する当該嗅覚受容体または当該ポリペプチドの応答を測定すること;および、 測定された応答に基づいて当該嗅覚受容体または当該ポリペプチドの応答を抑制する試験物質を同定すること、を含む2,5−ジメチル−4−ヒドロキシ−3(2H)−フラノン(フラネオール)によるにおいの抑制剤の探索方法を提供する。 本発明によれば、フラネオールによるにおいの抑制剤を、効率よく探索することができる。本発明により同定されたフラネオールによるにおいの抑制剤によれば、嗅覚受容体アンタゴニズムによるマスキングにより、フラネオールによるにおいを選択的に消臭することができる。したがって、本発明により同定されたフラネオールによるにおいの抑制剤は、従来の消臭剤や芳香剤を用いる消臭方法において生じていた芳香剤のにおいに基づく不快感等の問題を生じることがなく、フラネオールによるにおい、例えば、従来のセルフタンニング剤(あるいはサンレスタンニング剤とも称される)を使用した際に発生していた不快臭を消臭することができる。嗅覚受容体のフラネオールに対する応答。横軸は個々の嗅覚受容体、縦軸は応答強度を示す。種々の濃度のフラネオールに対する嗅覚受容体OR5K1の応答。n=3、エラーバー=±SE。各種化合物のフラネオール臭抑制効果の官能評価。n=3、エラーバー=±SE。 本明細書において、においに関する用語「マスキング」とは、目的のにおいを認識させなくするかまたは認識を弱めるための手段全般を指す。「マスキング」は、化学的手段、物理的手段、生物的手段、および感覚的手段を含み得る。例えば、マスキングとしては、目的のにおいの原因となるにおい分子を環境から除去するための任意の手段(例えば、におい分子の吸着および化学的分解)、目的のにおいが環境に放出されないようにするための手段(例えば、封じ込め)、香料や芳香剤などの別のにおいを添加して目的のにおいを認識しにくくする方法、などが挙げられる。 本明細書における「嗅覚受容体アンタゴニズムによるマスキング」とは、上述の広義の「マスキング」の一形態であって、目的のにおいのにおい分子と他のにおい分子をともに適用することにより、当該他のにおい分子によって目的のにおい分子に対する受容体応答を阻害し、結果的に個体に認識されるにおいを変化させる手段である。嗅覚受容体アンタゴニズムによるマスキングは、同様に他のにおい分子を用いる手段であっても、芳香剤等の、目的のにおいを別の強いにおいによって打ち消す手段とは区別される。嗅覚受容体アンタゴニズムによるマスキングの一例は、アンタゴニスト(拮抗剤)等の嗅覚受容体の応答を阻害する物質を使用するケースである。特定のにおいをもたらすにおい分子の受容体にその応答を阻害する物質を適用すれば、当該受容体の当該におい分子に対する応答が抑制されるため、最終的に個体に知覚されるにおいを変化させることができる。 本明細書において、「フラネオール」とは、2,5−ジメチル−4−ヒドロキシ−3(2H)−フラノンをいい、また「フラネオールによるにおい」とは、2,5−ジメチル−4−ヒドロキシ−3(2H)−フラノンによりもたらされるにおいであり得る。本明細書における「フラネオールによるにおい」または「2,5−ジメチル−4−ヒドロキシ−3(2H)−フラノンによるにおい」は、代表的には、カラメル香または焦げた砂糖のにおいなどとして表現され得る。また、本明細書における「フラネオールによるにおい」または「2,5−ジメチル−4−ヒドロキシ−3(2H)−フラノンによるにおい」は、従来のセルフタンニング剤を皮膚に適用した際に発生する不快臭、より具体的には、ジヒドロキシアセトン(DHA)を含有する皮膚タンニング剤を皮膚に適用したときに発生する「砂糖の焦げたにおい(Burnt sugar)」などと表現される不快臭であり得る。 本明細書において、塩基配列およびアミノ酸配列の配列同一性は、リップマン−パーソン法(Lipman−Pearson法;Science,1985,227:1435−41)によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx−Win(Ver.5.1.1;ソフトウェア開発)のホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行なうことにより算出される。 図1に示すとおり、本発明者は、多くの嗅覚受容体の中から嗅覚受容体OR5K1を、フラネオールに対して応答性を有する唯一の受容体として同定した。OR5K1は、これまでフラネオールに応答することが見出されていない、フラネオールについての新規の受容体である。また図2に示すとおり、OR5K1は、フラネオールに対して濃度依存的に応答する。したがって、OR5K1の応答を抑制する物質は、嗅覚受容体アンタゴニズムに基づくマスキングにより、中枢におけるフラネオールによるにおいの認識に変化を生じさせ、結果として、フラネオールによるにおいを選択的に抑制することができる。 したがって、本発明は、フラネオールによるにおいの抑制剤の探索方法を提供する。当該方法は、嗅覚受容体OR5K1に、試験物質およびフラネオールを添加すること;フラネオールに対する当該嗅覚受容体の応答を測定すること;および、測定された応答に基づいて当該嗅覚受容体の応答を抑制する試験物質を同定することを含む。同定された試験物質を、フラネオールによるにおいの抑制剤として選択する。当該本発明の方法は、in vitroまたはex vivoで行われる方法であり得る。 上記本発明の方法においては、嗅覚受容体OR5K1に、試験物質とにおい原因物質であるフラネオールとが添加される。フラネオールは、市販品(例えば、FURANEOL(登録商標);フィルメニッヒ社)を購入して使用することができる。 本発明の方法に使用される試験物質は、フラネオールによるにおいの抑制剤として使用することを所望する物質であれば、特に制限されない。試験物質は、天然に存在する物質であっても、化学的もしくは生物学的方法等で人工的に合成した物質であってもよく、または化合物であっても、組成物もしくは混合物であってもよい。 上記本発明の方法で使用される嗅覚受容体OR5K1は、ヒト嗅細胞で発現している嗅覚受容体であり、GenBankに、GI:115270955として登録されている。OR5K1は、配列番号1で示される塩基配列を有する遺伝子にコードされる、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質である。 本発明の方法において、嗅覚受容体OR5K1は、フラネオールに対する応答性を失わない限り、任意の形態で使用され得る。例えば、当該嗅覚受容体は、生体から単離された嗅覚受容器もしくは嗅細胞等の、当該嗅覚受容体を天然に発現する組織や細胞、またはそれらの培養物;当該嗅覚受容体を担持した嗅細胞の膜;当該嗅覚受容体を発現するように遺伝的に操作された組換え細胞またはその培養物;当該嗅覚受容体を有する当該組換え細胞の膜;当該嗅覚受容体を有する人工脂質二重膜、などの形態で使用され得る。これらの形態は全て、本発明で使用される嗅覚受容体の範囲に含まれる。 好ましい態様においては、嗅覚受容体OR5K1としては、嗅細胞等の上記嗅覚受容体を天然に発現する細胞、または当該嗅覚受容体を発現するように遺伝的に操作された組換え細胞、あるいはそれらの培養物が使用される。当該組換え細胞は、当該嗅覚受容体をコードする遺伝子を組み込んだベクターを用いて細胞を形質転換することで作製することができる。 好適には、嗅覚受容体の細胞膜発現を促進するために、当該嗅覚受容体の遺伝子とともに、RTP(receptor-transporting protein)の遺伝子を細胞に導入する。好ましくは、RTP1S遺伝子、より好ましくはRTP1S遺伝子およびRTP2遺伝子を、当該嗅覚受容体の遺伝子とともに細胞に導入する。RTP1SおよびRTP2の例としては、それぞれ、ヒトRTP1SおよびヒトRTP2が挙げられる。ヒトRTP1Sは、GenBankにGI:50234917として登録されており、配列番号3で示される遺伝子配列を有する遺伝子にコードされる、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質である。ヒトRTP2は、GenBankにGI:258547120として登録されており、配列番号5で示される遺伝子配列を有する遺伝子にコードされる、配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質である。 あるいは、上記ヒトRTP1SまたはRTP2の代わりに、ヒトRTP1Sのアミノ酸配列(配列番号4)またはヒトRTP2のアミノ酸配列(配列番号6)に対して、少なくとも78%、例えば80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、さらにより好ましくは98%以上、なお好ましくは99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つヒトRTP1SまたはRTP2と同様に嗅覚受容体の膜における発現を促進するポリペプチドを使用してもよい。例えば、配列番号7で示される遺伝子配列を有する遺伝子にコードされ、配列番号8で示されるアミノ酸配列からなるヒトRTP1S変異体は、配列番号4で示されるヒトRTP1Sのアミノ酸配列と78.9%の配列同一性を有し、且つ嗅覚受容体の膜における発現を促進する機能を有する。あるいは、マウスRTP1S(Sci Signal.,2009,2:ra9)もまた、配列番号4で示されるヒトRTP1Sのアミノ酸配列と89%の配列同一性を有し、且つ嗅覚受容体の膜における発現を促進する機能を有する。これらヒトRTP1S変異体およびマウスRTP1Sは、上記ヒトRTP1Sの代わりに、上述した嗅覚受容体を発現する組換え細胞の作製に使用することができる。さらに、上記配列番号8で示されるアミノ酸配列からなるヒトRTP1S変異体または上記マウスRTP1Sと、アミノ酸配列において少なくとも80%、例えば80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、さらにより好ましくは98%以上、なお好ましくは99%以上の同一性を有し、且つ嗅覚受容体の膜における発現を促進するRTP1S変異体ポリペプチドもまた、ヒトRTP1Sの代わりに、上述した嗅覚受容体を発現する組換え細胞の作製に使用することができる。 本発明の方法によれば、嗅覚受容体への試験物質およびフラネオールの添加に続いて、フラネオールに対する嗅覚受容体OR5K1の応答が測定される。測定は嗅覚受容体の応答を測定する方法として当該分野で知られている任意の方法、例えば、細胞内cAMP量測定等によって行えばよい。例えば、嗅覚受容体は、におい分子によって活性化されると、細胞内のGαsと共役してアデニル酸シクラーゼを活性化することで、細胞内cAMP量を増加させることが知られている(Mombaerts P.Nat Neurosci.5.263−278)。したがって、におい分子添加後の細胞内cAMP量を指標にすることで、嗅覚受容体の応答を測定することができる。cAMP量を測定する方法としては、ELISA法やレポータージーンアッセイ等が挙げられる。他の嗅覚受容体の応答を測定する方法としては、カルシウムイメージング法が挙げられる。 次いで、測定された上記嗅覚受容体の応答に基づいて、フラネオールへの応答に対して試験物質が及ぼす作用を評価し、当該応答を抑制する試験物質を同定する。試験物質による作用の評価は、例えば、異なる濃度の試験物質を添加した場合に測定されたフラネオールに対する当該受容体の応答を比較することによって行うことができる。より具体的な例としては、より高濃度の試験物質添加群とより低濃度の試験物質添加群との間、試験物質添加群と非添加群との間、試験物質添加群と対照物質添加群との間、または試験物質添加前後で、フラネオールに対する当該受容体の応答を比較する。試験物質添加により、またはより高濃度の試験物質の添加により当該受容体の応答が抑制される場合、当該試験物質を、当該嗅覚受容体のフラネオールに対する応答を抑制する物質として同定することができる。 上記本発明の方法では、嗅覚受容体として、OR5K1の代わりに、それと同等の機能を有するポリペプチドを使用することができる。当該ポリペプチドとしては、上記OR5K1のアミノ酸配列(配列番号2)に対して、少なくとも80%、例えば80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、さらにより好ましくは98%以上、なお好ましくは99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つフラネオールに対する応答性を有するポリペプチドが挙げられる。 あるいは、本発明の方法では、嗅覚受容体として上述したOR5K1およびそれと同等の機能を有するポリペプチドのうちのいずれか1種類を単独で使用してもよく、またはいずれか2種以上を組み合わせて使用してもよい。 上記の手順で同定された試験物質は、フラネオールに対する嗅覚受容体の応答を抑制することによって、個体によるフラネオールによるにおいの認識を抑制することができる物質である。したがって、上記手順で同定された試験物質は、フラネオールによるにおいに対する抑制剤として選択される。例えば、上記の手順で測定された試験物質添加群における受容体応答が、試験物質を添加しない群(例えば、上述の試験物質非添加群、対照物質添加群、または試験物質添加前)と比較して好ましくは60%以下、より好ましくは50%以下、さらに好ましくは25%以下に抑制されていれば、当該試験物質を、フラネオールによるにおいの抑制剤として選択することができる。 上記本発明の方法によって選択された物質は、フラネオールに対する嗅覚受容体の応答抑制に基づく嗅覚マスキングによって、フラネオールによるにおいを抑制することができる。 したがって、一実施形態において、本発明の方法によって選択された物質は、フラネオールによるにおいの抑制剤の有効成分であり得る。あるいは、フラネオールによるにおいを抑制するための化合物または組成物に、フラネオールによるにおいを抑制するための有効成分として含有され得る。またあるいは、フラネオールによるにおいの抑制剤の製造のため、またはフラネオールによるにおいを抑制するための化合物もしくは組成物の製造のために使用することができる。 一実施形態において、本発明の方法によって選択された物質は、フラネオールによるにおい、例えば、カラメル香、焦げた砂糖のにおい、またはセルフタンニング剤を皮膚に適用した際もしくはDHAを含有する製品を使用した際に発生する不快臭(例えば、砂糖の焦げたにおい)などを抑制するための有効成分として使用され得る。 一実施形態において、本発明の方法によって選択された物質は、フラネオールによるにおいの抑制が所望されるあらゆる化合物もしくは組成物において、またはフラネオールによるにおいの抑制が所望されるあらゆる環境下において、フラネオールによるにおいの抑制のための有効成分として使用され得る。あるいは、フラネオールによるにおいの抑制のための有効成分として、フラネオールによるにおいの抑制が所望される化合物または組成物の製造のために使用することができる。フラネオールによるにおいの抑制が所望される化合物または組成物の例としては、皮膚タンニング剤(セルフタンニング剤またはサンレスタンニング剤とも称される)、例えば、発色剤としてDHAを含有する皮膚タンニング剤および褐色反応を利用するその他の皮膚タンニング剤、ならびにその他のDHAを含有する製品が挙げられる。また、飲食品中に過剰にフラネオールが含まれている場合、フラネオールがオフフレーバーとして働くことがある。例えば、粉ミルクにおける過剰なフラネオールの存在は、その風味を低下させる。したがって、フラネオールによるにおいの抑制が所望される化合物または組成物の別の例としては、フラネオールのにおいを低減することが所望される飲食品やそれらを含有する組成物が挙げられる。 本発明の例示的実施形態として、さらに以下の組成物、製造方法、用途あるいは方法を本明細書に開示する。但し、本発明はこれらの実施形態に限定されない。<1>嗅覚受容体OR5K1またはこれとアミノ酸配列において少なくとも80%の同一性を有するポリペプチドに、試験物質およびフラネオールを添加すること; フラネオールに対する当該嗅覚受容体または当該ポリペプチドの応答を測定すること;および、 測定された応答に基づいて当該嗅覚受容体または当該ポリペプチドの応答を抑制する試験物質を同定すること、を含むフラネオールによるにおいの抑制剤の探索方法。<2>上記嗅覚受容体OR5K1が配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質である、<1>記載の方法。<3>上記嗅覚受容体OR5K1とアミノ酸配列において少なくとも80%の同一性を有するポリペプチドが、嗅覚受容体OR5K1とアミノ酸配列において、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%、さらにより好ましくは少なくとも98%、なお好ましくは少なくとも99%の同一性を有するポリペプチドである、<1>または<2>記載の方法。<4>上記嗅覚受容体OR5K1とアミノ酸配列において少なくとも80%の同一性を有するポリペプチドが、嗅覚受容体OR5K1とアミノ酸配列において、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%、さらにより好ましくは少なくとも98%、なお好ましくは少なくとも99%の同一性を有し、且つフラネオールに対する応答性を有するポリペプチドである、<1>〜<3>のいずれか1に記載の方法。<5>好ましくは、上記嗅覚受容体OR5K1またはこれとアミノ酸配列において少なくとも80%の同一性を有するポリペプチドが、当該嗅覚受容または当該ポリペプチドを発現するように遺伝的に操作された組換え細胞上に発現されている、<1>〜<4>のいずれか1に記載の方法。<6>好ましくは、上記組換え細胞が以下の細胞である、<5>記載の方法: 上記嗅覚受容体または上記ポリペプチドの遺伝子と、RTP1S遺伝子とを導入された細胞であるか; 上記嗅覚受容体または上記ポリペプチドの遺伝子と、RTP1S遺伝子およびRTP2遺伝子とを導入された細胞であるか; 上記嗅覚受容体または上記ポリペプチドの遺伝子と、配列番号4で示されるアミノ酸配列と少なくとも78%、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、なお好ましくは98%以上、さらになお好ましくは99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つヒトRTP1Sと同様に嗅覚受容体の膜における発現を促進するポリペプチドをコードする遺伝子とを導入された細胞であるか;または 上記嗅覚受容体または上記ポリペプチドの遺伝子と、ヒトRTP1S変異体をコードする遺伝子とを導入された細胞である。<7>好ましくは、上記嗅覚受容体OR5K1またはこれとアミノ酸配列において少なくとも80%の同一性を有するポリペプチドとして、上記組換え細胞の培養物が使用される、<5>または<6>記載の方法。<8>好ましくは、試験物質を添加しない場合の上記嗅覚受容体または上記ポリペプチドの応答を測定することをさらに含む、<1>〜<7>のいずれか1に記載の方法。<9>好ましくは以下をさらに含む、<8>の方法: 上記試験物質を添加しない場合の上記嗅覚受容体または上記ポリペプチドの応答と比べて、当該試験物質の添加した場合の当該受容体またはポリペプチドの応答が抑制された場合、当該試験物質を、フラネオールに対する当該受容体またはポリペプチドの応答を抑制する物質として同定すること。<10>好ましくは以下をさらに含む、<8>の方法: 上記試験物質を添加した場合の上記嗅覚受容体または上記ポリペプチドの応答が、当該試験物質を添加しない場合の当該嗅覚受容体または当該ポリペプチドの応答に対して、好ましくは60%以下、より好ましくは50%以下、さらに好ましくは25%以下に抑制されていたときに、当該試験物質をフラネオールに対する当該嗅覚受容体または当該ポリペプチドの応答を抑制する物質として同定すること。<11>上記嗅覚受容体またはポリペプチドの応答を測定する工程が、ELISAもしくはレポータージーンアッセイによる細胞内cAMP量測定、またはカルシウムイメージングである、<1>〜<10>のいずれか1に記載の方法。 以下、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。実施例1 フラネオールに応答する嗅覚受容体の同定1)ヒト嗅覚受容体遺伝子のクローニング ヒト嗅覚受容体はGenBankに登録されている配列情報を基に、human genomic DNA female(G1521:Promega)を鋳型としたPCR法によりクローニングした。PCR法により増幅した各遺伝子をpENTRベクター(Invitrogen)にマニュアルに従って組込み、pENTRベクター上に存在するNotI、AscIサイトを利用して、pME18Sベクター上のFlag−Rhoタグ配列の下流に作成したNotI、AscIサイトへと組換えた。2)pME18S−ヒトRTP1Sベクターの作製 ヒトRTP1S(配列番号4)をコードするヒトRTP1S遺伝子(配列番号3)をpME18SベクターのEcoRI、XhoIサイトへ組込んだ。3)嗅覚受容体発現細胞の作製 ヒト嗅覚受容体400種をそれぞれ発現させたHEK293細胞を作製した。表1に示す組成の反応液を調製しクリーンベンチ内で15分静置した後、96ウェルプレート(BD)の各ウェルに添加した。次いで、HEK293細胞(3×105細胞/cm2)を100μLずつ各ウェルに播種し、37℃、5%CO2を保持したインキュベータ内で24時間培養した。4)ルシフェラーゼアッセイ HEK293細胞に発現させた嗅覚受容体は、細胞内在性のGαsと共役しアデニル酸シクラーゼを活性化することで、細胞内cAMP量を増加させる。本研究でのフラネオール応答測定には、細胞内cAMP量の増加をホタルルシフェラーゼ遺伝子(fluc2P−CRE−hygro)由来の発光値としてモニターするルシフェラーゼレポータージーンアッセイを用いた。また、CMVプロモータ下流にウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子を融合させたもの(hRluc−CMV)を同時に遺伝子導入し、遺伝子導入効率や細胞数の誤差を補正する内部標準として用いた。 上記3)で作製した培養物から、培地を取り除き、CD293培地(Invitrogen)で調製したフラネオール(3mM)を含む溶液を75μL添加した。細胞をCO2インキュベータ内で2.5時間培養し、ルシフェラーゼ遺伝子を細胞内で十分に発現させた。ルシフェラーゼの活性測定には、Dual−GloTMluciferase assay system(Promega)を用い、製品の操作マニュアルに従って測定を行った。フラネオールの刺激により誘導されたホタルルシフェラーゼ由来の発光値を、フラネオールの刺激を行わない細胞での発光値で割った値をfold increaseとして算出し、応答強度の指標とした。5)結果 400種類の嗅覚受容体についてフラネオール(3mM)に対する応答を測定した結果、嗅覚受容体OR5K1のみが、フラネオールに対し応答を示した(図1)。OR5K1は、これまでフラネオールに応答することが見出されていない、新規のフラネオール受容体である。実施例2 フラネオールに対するOR5K1の濃度依存的応答 実施例1と同様の手順で、嗅覚受容体OR5K1(配列番号2)をヒトRTP1S(配列番号4)とともにHEK293細胞に発現させ、種々の濃度のフラネオール(0、3、10、30、100、300、1000、および3000μM)に対する応答の濃度依存性を調べた。その結果、OR5K1は、フラネオールに対して濃度依存的な応答を示した(図2)。実施例3 OR5K1アンタゴニストの同定 84種類の試験物質について、嗅覚受容体OR5K1のフラネオール応答に対するアンタゴニスト活性を調べた。 実施例2と同様の手順で、嗅覚受容体OR5K1を発現させたHEK293細胞に、フラネオール(3mM)と試験物質(100μM)を添加して嗅覚受容体の応答を測定し、試験物質添加による受容体応答の変化を評価した。 試験物質による受容体応答の阻害率は、以下のとおり算出した。フラネオール単独での刺激により誘導されたホタルルシフェラーゼ由来の発光値(X)を、同じ受容体を導入しフラネオール刺激を行わなかった細胞での発光値(Y)で引き算し、フラネオール単独刺激による受容体活性(X−Y)を求めた。同様に、フラネオールと試験物質の混合物での刺激による発光値(Z)を、フラネオール刺激を行わない細胞での発光値(Y)で引き算し、試験物質存在下での受容体活性(Z−Y)を求めた。以下の計算式により、フラネオール単独刺激による受容体活性(X−Y)に対する、試験物質存在下での受容体活性(Z−Y)の低下率を算出し、試験物質による受容体応答阻害率を求めた。測定では、独立した実験を二連で複数回行い、各回の実験の平均値を得た。 阻害率(%)={1−(Z−Y)/(X−Y)}×100 その結果、17種類の試験物質では、OR5K1のフラネオール応答に対する阻害率が40%以上になり(応答を60%以下に抑制)、OR5K1に対するアンタゴニスト活性を有することが示された(表2)。実施例4 OR5K1アンタゴニストのフラネオール臭抑制能の評価 実施例3で同定したOR5K1に対するアンタゴニスト活性を有する試験物質のフラネオール臭抑制能を、官能試験により確認した。 フラネオール(1%)を含む生地0.5gに香料0.5μLを添加したものを嗅ぎ、香料を賦香していない生地に対するフラネオール臭の強さを評価した。官能評価試験はパネラー3名で行い、フラネオール臭を強く感じる場合を1、フラネオール臭を全く感じない場合を5とし、評価を行った。 その結果、実施例3でOR5K1のフラネオール応答を抑制することが示された17種類の試験物質は、全てフラネオール臭を抑制した(図3)。 嗅覚受容体OR5K1またはこれとアミノ酸配列において少なくとも80%の同一性を有するポリペプチドに、試験物質および2,5−ジメチル−4−ヒドロキシ−3(2H)−フラノンを添加すること; 2,5−ジメチル−4−ヒドロキシ−3(2H)−フラノンに対する当該嗅覚受容体または当該ポリペプチドの応答を測定すること;および、 測定された応答に基づいて当該嗅覚受容体または当該ポリペプチドの応答を抑制する試験物質を同定すること、を含む2,5−ジメチル−4−ヒドロキシ−3(2H)−フラノンによるにおいの抑制剤の探索方法。 前記嗅覚受容体OR5K1が配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質である、請求項1記載の方法。 前記嗅覚受容体OR5K1とアミノ酸配列において少なくとも80%の同一性を有するポリペプチドが、配列番号2で示されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つ2,5−ジメチル−4−ヒドロキシ−3(2H)−フラノンに対する応答性を有するポリペプチドである、請求項1または2記載の方法。 前記嗅覚受容体OR5K1またはこれとアミノ酸配列において少なくとも80%の同一性を有するポリペプチドが、当該嗅覚受容体または当該ポリペプチドを発現するように遺伝的に操作された組換え細胞上に発現されている、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。 試験物質を添加しない場合の前記嗅覚受容体または前記ポリペプチドの応答を測定することをさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。 前記試験物質を添加した場合の前記嗅覚受容体または前記ポリペプチドの応答が、当該試験物質を添加しない場合の当該嗅覚受容体または当該ポリペプチドの応答に対して60%以下に抑制されていたときに、当該試験物質を2,5−ジメチル−4−ヒドロキシ−3(2H)−フラノンに対する当該嗅覚受容体または当該ポリペプチドの応答を抑制する物質として同定する、請求項5記載の方法。 前記嗅覚受容体またはポリペプチドの応答を測定する工程が、ELISAもしくはレポータージーンアッセイによる細胞内cAMP量測定、またはカルシウムイメージングである、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。 【課題】2,5−ジメチル−4−ヒドロキシ−3(2H)−フラノンによるにおいを抑制する物質の同定。【解決手段】嗅覚受容体OR5K1またはこれとアミノ酸配列において少なくとも80%の同一性を有するポリペプチドに、試験物質および2,5−ジメチル−4−ヒドロキシ−3(2H)−フラノンを添加すること;2,5−ジメチル−4−ヒドロキシ−3(2H)−フラノンに対する当該嗅覚受容体または当該ポリペプチドの応答を測定すること;および、測定された応答に基づいて当該嗅覚受容体または当該ポリペプチドの応答を抑制する試験物質を同定すること、を含む2,5−ジメチル−4−ヒドロキシ−3(2H)−フラノンによるにおいの抑制剤の探索方法。【選択図】なし配列表