タイトル: | 公開特許公報(A)_乳用家畜の乳房炎予防方法、及び乳用家畜の乳房炎予防キット |
出願番号: | 2013216055 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | A61K 47/36,A61K 45/00,A61K 9/06,A61K 47/02,A61K 47/26,A61P 15/14,A61P 31/04 |
松重 浩司 永沢 友康 長谷 峰登 JP 2015078152 公開特許公報(A) 20150423 2013216055 20131017 乳用家畜の乳房炎予防方法、及び乳用家畜の乳房炎予防キット 株式会社トクヤマデンタル 391003576 株式会社トクヤマ 000003182 松重 浩司 永沢 友康 長谷 峰登 A61K 47/36 20060101AFI20150327BHJP A61K 45/00 20060101ALI20150327BHJP A61K 9/06 20060101ALI20150327BHJP A61K 47/02 20060101ALI20150327BHJP A61K 47/26 20060101ALI20150327BHJP A61P 15/14 20060101ALI20150327BHJP A61P 31/04 20060101ALI20150327BHJP JPA61K47/36A61K45/00A61K9/06A61K47/02A61K47/26A61P15/14 171A61P31/04 171 6 OL 21 4C076 4C084 4C076AA09 4C076BB31 4C076BB37 4C076CC18 4C076CC31 4C076DD24P 4C076DD67A 4C076DD67M 4C076EE30P 4C076EE36P 4C076FF31 4C076FF35 4C084AA17 4C084MA63 4C084NA12 4C084ZB352 4C084ZC621 乳牛の重大な疾病の一つに乳房炎がある。乳房炎は、細菌その他の微生物が乳頭口から乳房内へ侵入し、定着・増殖することによって起こる感染病であるが、その発生機序が複雑であるので、いまだに根絶できず、酪農界に重大な経済的損失を与え続けている疾病である。乳房炎には種々のタイプや症状があるが、乳房の発赤、疼痛、膨張、発熱或いは乳汁中への乳魂の出現等、いわゆる臨床症状をともなった乳房炎の発見は容易であり、抗生剤治療の普及につれて世界的にも減少傾向にある。しかし、これらの臨床症状を示さないが乳汁を検査すると体細胞数の増加等の異常が発見される、いわゆる潜在性乳房炎については、産乳量や乳質の低下等多大な経済的損失を及ぼしているにも係わらず、その防除は遅々として進んでいない。 このような乳房炎を防除するために、現在世界的に推奨されているのは「5ポイント」と呼ばれる下記のような重点対策である。(1) ミルカーの点検整備を含めた搾乳施設等の衛生対策、(2) 乳頭の消毒、(3) 臨床型乳房炎の治療、(4) 乾乳期治療(dry cow therapy, DCT)(5) 問題牛の淘汰(以上、非特許文献1,2,3) 上記に挙げられた対策の中でも、乳牛の乳頭消毒は、乳房炎防除の最も重要な予防対策の一つであり、英国のDoddらが1952年に乳頭消毒剤を開発、実施し、日本では昭和40年頃より乳質改善事業の一環として使用が実施されるようになり、今日では40%の普及率となっている。 現在一般に実施されている乳頭消毒は、搾乳後に乳頭をディッピング剤(殺菌消毒剤水溶液)に浸漬する方法(所謂ポストディッピング)であり、乳頭皮膚表面に付着する乳房炎起因菌を殺菌消毒し、さらに保湿剤によりひび割れ等の乳頭皮膚の状態を改善し、乳頭表面の細菌の増殖を抑制することにより、乳房炎を予防することにあり、これまで、様々なポストディッピング剤が提案(たとえば特許文献1、特許文献2)されており、市場では多数の製品が市販されている。 しかしながら、米国のthe National Institute for Research in Dairying により実施された試験において、ポストディッピング実施乳牛群の12カ月間での新たな感染は50%減少したものの、それは既に感染していた乳房の全体からみると僅か14%の減少でしかなかった。このことから、既存菌による亜臨床型感染が持続したことが伺えたと報告している。即ち、このポストディッピングは、伝播性の乳房炎起因菌による新たな感染の率は減少させるものの、いわゆる環境性乳房炎の起因菌に対する防除効果に関しては、思ったほど効果が期待できないということである。 つまり、搾乳後の消毒(ポストディッピング)のみでは、その効果持続期間(例えば適用後、乳頭が牛床などに接触した際に、薬液が乳頭から除かれて効果が失われるまでに、1〜2時間)が比較的短いため、次の搾乳までに殺菌効果が消失してしまうため、環境性の起因菌に対しては、その効果に限界があった。 一方、乳房炎起因菌から乳牛の乳頭を守る手段として、乳牛の乳頭全体をマスキングすることにより、細菌その他の微生物が乳頭口から乳房内へ侵入するのを防止する技術が提案されている。 例えば、特許文献3は、「乳牛の乾乳期において、乳房炎に感染しやすい乾乳期の初めの約2日〜9日程度の間、及び分娩前約2日〜9日程度の間、乳頭を乳頭シール剤に浸漬して乳頭に乳頭口を閉塞する薄膜を形成した状態に保持しておくことにより、乳房炎起因菌の感染を物理的に阻止することを特徴とする乳牛の乳房炎予防方法。」を開示している(請求項1)。さらに、特許文献3は、乳頭口を浸漬させる乳頭シール剤として、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、メチレンクロライド等のフロン代替体、トルエン、キシレン等の芳香族化合物を溶媒として、ウレタンゴム、ラテックスゴム、ブタジエン樹脂、ポリビニルアルコール、液状ブチルゴム、液状ゴム、天然ゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、酢酸ビニルゴム等から選択されたゴム素材を5〜15%の濃度で溶解したものを記載している(段落17,18等)。 ここで、特許文献3には、上記搾乳後の消毒(ポストディッピング)との関係では何も記載されていない。また、該ポストディッピングを施した乳頭に対して、特許文献1に提案されるような、ゴム素材を溶媒に溶解させてなる乳頭シール剤による薄膜を形成させることも考えられるが、本発明者らの検討によれば、斯様にポストディッピングの塗布・乾燥面をゴム素材により被覆した場合には、殺菌効果は持続どころか、初期から大幅低下する結果であった。これは、ポストディッピング剤を塗布した乳頭に特許文献3に記載されている乳頭シール剤を接触させると、シール剤に含まれている溶剤によって、ポストディッピング剤が除去或いは、拡散希釈されてしまうためではないかと考えられる。 また、特許文献3に記載されている乳頭シール剤は、その耐久性にも問題があり、装着後1日後には乾燥による変形により、乳頭との密着性が不十分となり、乳頭付近に細菌が侵入するという問題も有していた。特開平8−175989号公報特開平11−155404号公報特開2000−41529号公報畜産大事典編集委員会代表者 長沢 弘著、1996年2月20日、畜産大事典、株式会社養賢堂酪農大事典 生理・飼育技術・環境管理、2011年3月31日、社団法人農山漁村文化協会株式会社 講談社サイエンティフィック編、新編畜産ハンドブック、2006年9月10日、株式会社講談社 本発明は、乳用家畜の乳頭に塗布されるポストディッピング剤(殺菌消毒剤)の効果を長時間持続させ、乳牛の乳頭を乳房炎から効率的に予防する方法を提案することを目的とする。 本発明者らは上記課題を克服すべく鋭意検討を重ねてきた。その結果、殺菌消毒剤を塗布した乳用家畜の乳頭を、多糖類高分子電解質のゲルで被覆することで、上記課題が解決できることを見出した。 すなわち、本発明の乳用家畜の乳房炎予防方法は、乳用家畜の乳頭に殺菌消毒剤を塗布した後、その塗布面を、多糖類高分子電解質及びゲル化反応材を含むゲル化性材料の水練和物で被覆しゲル化させることを特徴とする。 本発明の乳用家畜の乳房炎予防方法の一実施態様は、前記多糖類高分子電解質がアルギン酸塩であることが好ましい。 本発明の乳用家畜の乳房炎予防方法の一実施態様は、前記ゲル化反応材が硫酸カルシウムであることが好ましい。 本発明の乳用家畜の乳房炎予防方法の一実施態様は、前記ゲル化性材料が、さらに非還元糖を含んでなることが好ましい。 本発明の乳用家畜の乳房炎予防方法の一実施態様は、前記ゲル化性材料が、さらに難水溶性溶媒を含んでなることが好ましい。 さらに、本発明は、上記乳用家畜の乳房炎を予防する為の、(A)殺菌消毒剤、(B)i)多糖類高分子電解質、および、ii)ゲル化反応材を含むゲル化性材料を含んでなる乳用家畜の乳房炎予防キットも提供する。 本発明によれば、乳用家畜の乳頭に施されたポストディッピング剤(殺菌消毒剤)の塗布の均一性が保たれたまま、乳頭が強固な被覆層によってコーティング(外気から遮断)される為、搾乳後から、次の搾乳までの間、いわゆる環境性乳房炎の起因菌から、乳頭を効率的に防御できる為、極めて有望である。 本発明の最大の特徴は、殺菌消毒剤が塗布された乳用家畜の乳頭を、多糖類高分子電解質、ゲル化反応材から成るゲル化性材料の水練和物(以後、単に「ゲル状パック」とも言う。)で被覆した点にある。ここで、もし、一般的に入手可能な市販の乳頭パック材(特許文献3に記載されているようなラバー系乳頭パック)を用いて、殺菌消毒剤の塗布された乳用家畜の乳頭を被覆した場合、前述したように乳房炎の予防効果が、持続どころか初期から十分に発揮しなくなる。 これは、従来から使用されているラバー系乳頭パックは、ゴムを5〜15%等の希薄濃度で有機溶剤に溶解させた形態で、使用の際には、該溶液を乳頭に塗布し、溶剤が乾燥するまでの間放置することによって被膜を形成するものである。従って、その乳頭への塗布当初は全くの液状であり、これを前記殺菌消毒剤の塗布・乾燥面に施した場合には、殺菌消毒成分が、該有機溶剤により洗われてしまう。その結果、乳頭の表面には、殺菌消毒成分が除去や濃度低下した部分が生じたり、他方、乳頭パックと乳頭の間の部分的な液だまりでは該殺菌消毒成分の高濃度部分が生じたりして、均一な被覆でなくなり、上記乳房炎の予防効果が損なわれるものと考えられる。 これに対して、本発明の方法で使用する乳頭パックは、多糖類高分子電解質、ゲル化反応材から成るゲル化性材料の水練和物(ペースト状)であり、ゲル化も短時間であるため、前記ラバー系乳頭パックのように、その被覆面に先に殺菌消毒剤が塗布されていても、これが該乳頭パックの液分により洗い流されることがない。従って、殺菌消毒成分の均一な塗布状態が保たれる。しかも、その上面を被覆する、前記ゲル化性材料のゲル化物は、乾燥に強く、乳頭との密着性にも優れるため、パックは剥離や脱落することなく、上記殺菌消毒成分の塗布面を長くに保護する。よって、乳房炎の予報効果が長期間安定的に持続するものと考えられる。 以下、本発明の乳用家畜の乳房炎予防方法を実施する為に使用される各構成成分について詳細に説明する。(A)ポストディッピング剤 本発明において、ポストディッピング剤は、搾乳後の乳用家畜の乳頭に塗布することで、乳頭に付着する乳房炎起因菌を殺菌消毒する為に使用される。 本発明に使用することができるポストディッピング剤(殺菌消毒剤)は、特に制限されるものでは無く、既に公知のものが何ら制限無く利用できる。そのようなポストディッピング剤は、基本的にはヨウ素化合物、塩化ベンザルコニウム、カプリル酸モノグリセリドなどの脂肪酸エステルと乳酸、クロルヘキシジン、次亜塩素酸ソーダなどの殺菌成分、ポリビニルアルコール、グリセリン、プロピレングリコールなどの保湿成分などを含む水溶液であり、市場では多数の製品が市販されている。入手可能なポストディッピング剤の商品名を具体的に例示すると、「クォーターメイト」(ヨード系 ウェストアグロ社製)、「ソフトディップ」(ヨード系 GEAオリオンファームテクノロジーズ社製)、「コートテンスリー」(ヨード系 GEAオリオンファームテクノロジーズ社製)、「ブライデートグリーン」(脂肪酸、乳酸系 日産合成工業社製)、「プロクール」(塩化ベンザルコニウム系 日本曹達社製)、などが挙げられる。これらの中でも、ヒトに対する皮膚刺激性や、殺菌消毒効果の持続性、およびコスト面における観点から、ヨード系のものが好適である。(B)乳頭を被覆するために使用されるゲル化性材料 本発明の乳用家畜の乳房炎予防方法に使用されるゲル化性材料は、家畜の乳頭に密着させるゲル状パックを形成するための材料であって、少なくとも多糖類高分子電解質,及びゲル化反応剤を含む。このゲル化性材料は、(A) 多糖類高分子電解質及びゲル化反応剤を主成分とする粉材と、水及び難水溶性溶媒などを主成分とする液材とを含む粉末タイプの形態、又は(B) さらに、難水溶性溶媒を成分として含有し、多糖類高分子電解質及び水を主成分とする基材ペーストと、ゲル化反応剤及び該難水溶性溶媒を主成分とする硬化材ペーストとを含むペーストタイプの形態であるのが好ましい。i)多糖類高分子電解質 多糖類高分子電解質として、アルギン酸又はその誘導体、サクラン、ムコ多糖タンパク(ヒアルロン酸等)、スルホン化アルキルセルロース、デキストラン、カラギーナン、ジェランガム等が挙げられる。多糖類高分子電解質は二種以上の混合物であってもよい。 多糖類高分子電解質としてはアルギン酸又はその誘導体(以下単に「アルギン酸類」とよぶことがある)が、乳頭との密着性により優れ、且つ強度にも優れるゲル状パックを得る観点から好ましい。アルギン酸は、β-D-マンヌロン酸(M)とα-L-グルロン酸(G)の2種のブロックが(1-4)-結合した直線状のポリマーであり、その誘導体とは通常カルボン酸部分の反応物であり、アルギン酸塩、アルギン酸のエステル誘導体、アルギン酸のエーテル誘導体等が挙げられる。具体的には、アルギン酸塩としては、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム等のアルギン酸アルカリ金属塩;アルギン酸アンモニウム、アルギン酸トリエタノールアミン等のアルギン酸アンモニウム塩が挙げられる。アルギン酸のエステル誘導体としては、アルギン酸プロピレングリコール等のアルギン酸アルキレングリコールが挙げられ、アルギン酸のエステル誘導体としては、プロピレングリコールアルギン酸エーテル等が挙げられる。中でもアルギン酸アルカリ金属塩がより好ましく、アルギン酸ナトリウムとアルギン酸カリウムが特に好ましく、ゲル化物の強度の観点からアルギン酸カリウムが最も好ましい。 アルギン酸類は、天然物及び合成品のいずれでも良い。代表的な天然物としては、アメリカ西海岸のマクロシスティス、南米チリのレッソニア、北欧のアスコフィラム等があるが、原料の海藻の種類や産地はいずれでも良い。また抽出方法については、アルカリ抽出法や熱水抽出法等があるが、特に規定されない。ゲル状パックを形成するために調製する本組成物の水練和物の粘度は、アルギン酸類の含有量だけでなくアルギン酸類の分子量にも大きく依存する。一般的には1万〜100万の広い範囲の質量平均分子量から採択される。水練和物を取扱い性に優れた一定の粘稠さを備えたものにするためには、上記質量平均分子量は2万〜30万の範囲であるのが好ましい。アルギン酸類の分子量としては、特にアルギン酸類の1質量%濃度水溶液の粘度(23℃)が0.5dPa・s〜10dPa・sの範囲である分子量が好適である。アルギン酸塩は、通常、混練物中において1〜10質量%の範囲で含まれているのが好ましい。 アルギン酸カリウムは、下記の構造式で示すように、β-D-マンヌロン酸(M)のカルボシキル基と、α-L-グルロン酸(G)のカルボキシル基にそれぞれカリウム(K)が結合した直鎖多糖類高分子で、その分子量は通常20,000〜250,000である。 アルギン酸カリウムを水に溶解したときの-COOK基の電離平衡は下記の通りである。 アルギン酸カリウムは水の存在下で-COO-、K+、H+、及びOH-の4種のイオンを発生し、これら4種のイオンが関係する(a)、(b)、(c)及び(d)の四個の電離平衡が可能である。そのため、水の存在下、ゲル化反応剤から生じた多価金属イオン、例えばカルシウムイオン(Ca2+)が介在すると、脱プロトン化したカルボキシル基(COO-)がCa2+とイオン結合して、下記式で示すような三次元ネットワーク構造のゲルを形成する。1個のCa2+を核として、1個の繰り返し単位が有する2個のカルボキシル基がイオン結合し、これらが複雑に重なり合って三次元ネットワーク構造のゲルを形成する。ii)ゲル化反応材 ゲル化反応材は、水の存在下、多糖類高分子電解質と反応してゲル状パックを形成する。ゲル化反応材として、二価以上の多価金属化合物が好ましい。多価金属化合物は、解離して二価以上の多価金属イオンを生成することにより、多糖類高分子電解質の分子鎖内又は分子鎖間にイオン結合を有する三次元ネットワーク構造を形成するので、少なくとも多糖類高分子電解質,ゲル化反応材、水及び難水溶性溶媒を混合し、攪拌すると、ゲル状パックの形成に好適な水練和物が得られる。多価金属化合物として、例えば(i) 硫酸カルシウム2水塩、硫酸カルシウム半水塩、無水硫酸カルシウム等の硫酸カルシウム、(ii) カルシウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウム、鉄、チタン、ジルコニウム、スズ等の2価以上の金属を含む酸化物、(iii) (ii)に示す二価以上の金属を含む水酸化物等が挙げられる。酸化物及び水酸化物の好適な具体例としては、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化スズ、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化鉄等が挙げられる。これらのゲル化反応材は二種以上の混合物であってもよい。 水練和物の硬化性や、硬化したゲル状パックの弾性等の物性を良好なものとするために、ゲル化反応材として硫酸カルシウムを用いるのがより好ましい。ゲル状パック(乳頭パック)の硬化性や、硬化後の弾性等の物性を一層良好なものとするため、ゲル化反応材としては、硫酸カルシウムを主体とし、少量の酸化マグネシウム及び/又は酸化亜鉛を配合したものが好適である。酸化マグネシウム及び/又は酸化亜鉛の配合割合は、硫酸カルシウム100質量部に対して、2〜40質量部が好ましい。 ゲル化反応材の配合量は特に限定されないが、混練物中における多糖類高分子電解質100質量部に対して10質量部〜2000質量部の範囲が好ましく、100質量部〜1000質量部の範囲がより好ましい。iii)水 水は、カルシウムイオン等の多価金属イオンをゲル化反応材から溶出させると共に、ゲル化反応材と多糖類高分子電解質との反応を促進する機能、及びパックをゲル状に保持する機能を有する。混練物中における水の配合量は、多糖類高分子電解質100質量部に対して、100質量部〜7000質量部の範囲が好ましく、500質量部〜5000質量部の範囲がより好ましい。水の配合量が、あまりに多いと、ゲル化性材料の水練和物の粘度が低下しすぎ、乳頭における殺菌消毒剤の塗布・乾燥面に施した際に、該殺菌消毒成分の溶解・分散作用が生じ始めるため、上記上限以下の配合量に抑えるのが好ましい。iv)非還元糖 非還元糖を配合することにより、硬化時の収縮や変形が一層小さく、乳頭に対する密着性が一層高く、長期間使用しても乾燥による変形が一層少ないゲル状パックを形成することができ好ましい。非還元糖としては、還元性を示さない公知の糖類であれば特に制限無く利用できる。ここで、「還元性」とは、アルカリ性水溶液中で、銀や銅等の重金属イオンに対して還元作用を示す性質を意味する。還元性を有する糖類は、重金属イオンに対する還元作用を利用したトレンス試薬、ベネジクト試薬又はフェーリング試薬によって検出される。これに対して、非還元糖は、これら試薬で検出できない糖類を意味する。 上述した特性を示す非還元糖としては、トレハロースやスクロース等の二糖類、ラフィノース、メレジトース、スタキオース、シクロデキストリン類等のオリゴ糖類等、公知の非還元糖が利用できる。しかし、非還元糖の分子量が大き過ぎる場合には、多糖類高分子電解質と非還元糖とが水素結合を形成して凝集してしまう可能性がある。したがって、非還元糖としては、グリコシド結合によって結合した2個〜10個の単糖分子から構成される糖が好ましく、二糖類がより好ましい。さらに、乳頭との密着性及び保湿性の点から、二糖類の中でもトレハロースが特に好ましい。 非還元糖の配合量は、混練物中における多糖類高分子電解質100質量部に対して、100質量部〜2000質量部の範囲が好ましく、400質量部〜1200質量部の範囲がより好ましい。この配合量を100質量部以上とすることにより、パック形成後にゲル状パックをより長時間放置しても、十分な保湿性が得られ、かつ成形精度の低下を抑制することができる。一方、この配合量を2000質量部以下とすることにより、パック形成に際して、非還元糖が多糖類高分子電解質のゲル化反応を阻害するのを抑制することができる。V)難水溶性溶媒 難水溶性溶媒を配合する事で、乳頭にゲル状パックを形成した後、乳頭口から浸み出す乳中のカルシウムイオンにより、乳頭口と接触する多糖類高分子電解質の架橋が進行し過ぎて過硬化してしまうのを防止することができ、長期間乳頭との密着性が維持できる観点からも好ましい。 ここで、「難水溶性溶媒」とは、温度20℃の水1Lに対する溶解度が0.5mg以下の溶媒を意味する。この溶解度は、0.4mg以下が好ましい。難水溶性溶媒としては難水溶性有機溶媒が好ましい。難水溶性有機溶媒としては、上記溶解度を示す有機溶媒であれば公知の有機溶媒が利用できる。このような有機溶媒として、例えば炭化水素化合物、脂肪族アルコール、環式アルコール、脂肪酸、脂肪酸塩、脂肪酸エステル、疎水性重合体等が挙げられる。難水溶性有機溶媒は二種以上の混合物であってもよい。以下、これら各種の難水溶性有機溶媒の好適な例を示す。 炭化水素化合物としては、鎖式化合物又は環式化合物のいずれも使用できる。炭化水素化合物としては、例えばヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ケロシン、2,7−ジメチルオクタン、1−オクテン等の脂肪族鎖状炭化水素化合物、シクロヘプタン、シクロノナン等の脂環式炭化水素化合物、液状飽和炭化水素の混合物である流動パラフィン等が挙げられる。 脂肪族アルコールとしては、例えば1−ヘキサノール、1−オクタノール、トリデカノール等の飽和脂肪族アルコール、及びシトロネロール、オレイルアルコール等の不飽和脂肪族アルコールが挙げられる。環式アルコールとしては、例えばベンジルアルコール、メタ−クレゾール等が挙げられる。 脂肪酸としては、例えばヘキサン酸、オクタン酸等の飽和脂肪酸、及びオレイン酸、リノール酸等の不飽和脂肪酸を挙げることができる。脂肪酸エステルとしては、オクタン酸エチル、フタル酸ブチル、オレイン酸グリセリド、オリーブ油、ごま油等の植物油、肝油、鯨油等の動物脂等が挙げられる。疎水性重合体としては、ポリシロキサン(いわゆるシリコーンオイル)等が挙げられ、具体的には、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリメチルハイドロジェンシロキサン、ポリフェニルハイドロジェンシロキサン等を挙げることができる。 そして、製造コスト、家畜に対する安全性等を考慮した場合、以上に列挙した難水溶性有機溶媒の中でも、炭化水素化合物及び疎水性重合体がより好ましく、流動パラフィン及びシリコーンオイルが特に好ましい。 難水溶性溶媒の配合量は特に制限されないが、一般的に、混練物中におけるゲル化反応材100質量部に対して、10質量部〜200質量部の範囲が好ましく、20質量部〜100質量部の範囲がより好ましい。 [添加剤] 本発明の乳用家畜の乳房炎予防方法に使用するゲル化性材料には、以上に説明した各成分以外にも、必要に応じて各種の添加剤を配合することができる。添加剤としては、たとえば、ゲル化調整剤、充填剤、無機フッ素化合物、アミノ酸化合物、不飽和カルボン酸重合体、香料、着色料、抗菌剤、防腐剤、pH調整剤等が挙げられる。 なお、本実施形態のゲル化性材料がペーストタイプである場合、これら添加剤は、基材ペーストおよび硬化材ペーストのいずれか一方、または、双方に適宜添加することができる。しかしながら、充填剤は、基材ペーストおよび硬化材ペーストの双方に添加することが好ましく、界面活性剤、ゲル化調整剤は硬化材ペーストに添加されることが好ましい。 ゲル化調整剤を用いる場合には、多糖類高分子電解質とゲル化反応材との反応速度を調節(遅延)させることができる。このため、ゲル状パックを構成する各成分を混合・練和してから乳頭に装着するまでに要する作業時間に対応させて、硬化時間を調整することが容易となる。ゲル化調整剤としては、公知のゲル化調整剤を制限無く利用できる。ゲル化調整剤としては、一般的には、i)リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム等のアルカリ金属を含むリン酸塩、ii)蓚酸ナトリウム、蓚酸カリウム等のアルカリ金属を含む蓚酸塩、iii)炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属を含む炭酸塩を挙げることができる。ゲル化調整剤は2種類以上を混合して用いることもできる。 ゲル化調整剤の配合量は、他の配合成分や要求される硬化時間等に応じて適宜選択できるが、水練和物中において、多糖類高分子電解質100質量部に対して1質量部〜30質量部の範囲内が好ましく、3質量部〜15質量部の範囲内がより好ましい。ゲル化調整剤の配合量を上記範囲内とすることにより、作業時間に略対応させて硬化時間を調整することが容易となることに加えて、硬化物を十分に硬化させることができる。 また、硬化物の物性を調整するために、充填剤を用いることが好ましい。充填剤としては、珪藻土、タルク等の粘度鉱物を用いることが好ましく、シリカ、アルミナ等の金属または半金属の酸化物も用いることができる。充填剤の配合量は特に制限されるものではないが、水練和物中において、多糖類高分子電解質100質量部に対して50質量部〜2000質量部の範囲内が好ましく、100質量部〜1000質量部の範囲内がより好ましい。 また、ゲル状パック硬化体の強度調節の観点からは、フッ化チタンカリウム、ケイフッ化カリウム等の無機フッ素化合物、アミノ酸/ホルムアルデヒド縮合体等のアミノ酸化合物などを配合することが好ましい。また、ゲル状パックを構成する各成分を混合・練和した際、粘度の変化速度の制御を容易とするために、不飽和カルボン酸重合体を配合することもできる。 また、種々の目的、たとえば、粉塵抑制、水に対する練和性の改良、あるいは、ゲル化反応材等を主成分とする硬化材成分をペースト化すること等を目的として、界面活性剤を用いることもできる。界面活性剤としては、公知の界面活性剤であれば特に制限なく利用でき、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、および、非イオン界面活性剤、のいずれも使用できる。 陰イオン界面活性剤としては、例えばアルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩等を挙げることができる。陽イオン界面活性剤としては、例えばアルキルアミン塩、四級アンモニウム塩等を挙げることができる。両性界面活性剤としては、例えばアミノカルボン酸塩等を挙げることができる。非イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックポリマー、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖エステル、ポリオキシジエチレンアルキルアミン、ポリシロキサン類とポリオキシエチレン類とのブロックポリマー等が挙げられる。 界面活性剤としては非イオン界面活性剤が好適であり、ポリグリセリン脂肪酸エステルがより好適である。ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、ポリグリセリンと脂肪酸とを1:1〜1:4で常法によりエステル化反応して得られるもので、ポリグリセリンの有する水酸基の一部が脂肪酸とエステル結合している化合物を主成分とするものが挙げられる。ポリグリセリンとしてはモノグリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、デカグリセリン等の重合度n=1〜10のポリグリセリンが使用できる。エステルを形成している脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等の炭素数8〜18のもの等が挙げられ、これらの単体もしくは二種以上の混合物が使用できる。このようなポリグリセリン脂肪酸エステルとして、例えばデカグリセリルトリオレートが挙げられる。 界面活性剤の配合量は特に制限されないが、混練物中におけるゲル化反応材100質量部に対して1質量部〜50質量部の範囲であるのが好ましく、5質量部〜20質量部の範囲であるのがより好ましい。 また、本発明のゲル化材料には、殺菌・消毒作用を有する物質を含めることが好ましい。殺菌消毒成分としては、前述したポストディッピング剤の該薬剤(ヨウ素化合物、塩化ベンザルコニウム、カプリル酸モノグリセリドなどの脂肪酸エステルと乳酸、クロルヘキシジン、次亜塩素酸ソーダなど)の他に、銀、銅、亜鉛等の金属塩、茶葉粉末、ヒノキ粉末、キトサン等のゲル化物への練り込みに適した同薬剤が使用できる。特に、ヨウ素化合物を、必要により他の殺菌消毒剤と併用して用いるのが好ましい。 殺菌消毒剤は、1種類のみを採用してもよいし、2種類以上を採用してもよい。 殺菌消毒剤の配合量は、一般的に水練和物中において、多糖類高分子電解質100質量部に対して、0.1〜1000質量部であるのが好ましい。特に金属塩の場合、水練和物を基準として、多糖類高分子電解質100質量部に対して、10〜500質量部であるのが好ましく、50〜400質量部であるのがより好ましく、100〜300質量部が最も好ましい。特にヨウ素を用いる場合、水練和物を基準として、多糖類高分子電解質100質量部に対して、有効ヨウ素濃度0.1〜10質量部であるのが好ましい。 また、香料、着色料、pH調整剤、防腐剤等から選択されるいずれか1種または複数種の添加剤を必要に応じて配合することができる。 [調整方法及び使用方法](1)ゲル状パックの調整方法 本発明のゲル状パックの調整方法は、特に限定されるものではないが、例えば、下記のようにして調整することができる。すなわち、(i)多糖類高分子電解質、(ii)ゲル化反応材、必要に応じて、(iV)非還元糖(V)難水溶性溶媒(Vi)ゲル化調整剤、界面活性剤などの添加剤を含んでなるゲル化性材料に、使用直前に、(iii)水を加え、練和して得られる水練和物を、ポストディッピング剤(殺菌消毒剤)で処理した乳頭に塗布し、該組成物をゲル化させることにより行うことができる。また、固体成分のみを予め混合しておき、使用直前に、水、難水溶性溶媒、及び界面活性剤などの液体成分を混合して水練和物とする方法でもよい。このような手段を採用することにより、使用時までの、多糖類高分子電解質のゲル化の進行を防ぐとともに、保存が極めて容易となる。 また、予め(i)多糖類高分子電解質、(iii)水、必要に応じて(iV)非還元糖を主構成成分とする基材ペーストと、(ii)ゲル化反応材、必要に応じて(V)難水溶性溶媒、(Vi)ゲル化調整剤、界面活性剤などを主構成成分とする硬化材ペーストとを調整し、特開2001−112785号公報、特開2001−200778号公報、特開2002−263119号公報などに提案されているような、2ペースト自動練和器などにセットして使用しても良い。このような手段を採用することにより、使用する直前に、粉末及び液材の計量や練和操作をする必要が無くなるので、操作が極めて容易となるだけでなく、練和後のペースト中に気泡が混入するなどのトラブルも回避することが可能となり、好ましい。 このようなペーストタイプのゲル化性材料は、通常、基材ペーストおよび硬化材ペーストの双方が、アルミパックなどの包装容器に密封保存された形態で、酪農家などの利用者に提供される。ここで、練和作業に際しては、基材ペーストの包装容器の開口部を練和装置の基材ペースト注入口に連結し、かつ、硬化材ペーストの包装容器の開口部を練和装置の硬化材ペースト注入口に連結する。そしてこの状態で、各々の包装容器から練和装置内へと供給された2種類のペーストが、練和装置内で自動的に練和された後、練和物が、練和装置外へと排出される。これにより、利用者は、ゲル化性材料の水練和物を得ることができる。 このような、自動練和器を用いた練和作業に際して、基材ペーストに対する硬化材ペーストの混合比率Rm(基材ペーストの使用量/硬化材ペーストの使用量〔質量部/質量部〕)は特に制限されるものではないが、通常は、1〜4の範囲内であることが好ましい。ここで、混合比率Rmについては、混合比率情報表示媒体に表示することができる。この混合比率情報表示媒体としては、i)段ボール箱等からなる製品パッケージ、ii)紙媒体および/または電子データとして提供される製品の使用説明書、iii)基材ペーストを密封状態で保管する収納部材(容器、包装袋等)、iv)硬化材ペーストを密封状態で保管する収納部材(容器、包装袋等)、v)紙媒体および/または電子データとして提供される製品カタログ、vi)製品とは別に電子メールや郵便物等により製品利用者に送付される通信文が利用できる。また、混合比率Rmは、上記i)〜vi)に示す以外の態様により製品利用者が認知しうる態様で、製品利用者に提供されてもよい。ここで、基材ペーストを含む収納部材および硬化材ペーストを含む収納部材のセット、あるいは、いずれか1種のペーストを含む収納部材を製品利用者に提供する場合、これら部材に対して、必要に応じて製品パッケージおよび/または紙媒体による使用説明書が付加される。 上記したペーストタイプのゲル化性材料の製造方法は、特に制限されるものではないが、ペースト製造に利用できる公知の攪拌混合機を用いて、基材ペーストおよび硬化材ペーストを製造することができる。ここで、攪拌混合機としては、たとえば、ボールミルのような回転容器型混合混練機、リボンミキサー、コニーダー、インターナルミキサー、スクリューニーダー、ヘンシェルミキサー、万能ミキサー、レーディゲミキサー、バタフライミキサー、等の水平軸または垂直軸を有する固定容器型の混合混練機を利用することができる。また、基材ペーストの製造に際して、非還元糖などのような水に対して相対的に溶解性の高い成分を溶解させる最初の工程を実施した後、続いて、アルギン酸塩などのような水に対して相対的に溶解性の低い成分を順次または一括して溶解させる後工程を実施する場合、最初の工程の実施に際して、溶解対象となる成分や、この成分が溶解した溶液に強いせん断力が加わらない攪拌装置を利用することもできる。このような攪拌装置としては、各種攪拌翼を備えた可搬型攪拌機、同堅型攪拌機、同側面攪拌機、管路攪拌機等を用いることができる。さらに、基材ペーストや硬化材ペーストの製造に際しては、上述した各種の混合混練機を2種類以上組み合わせて利用することもできる。(2)乳用家畜の乳房炎予防方法i)ポストディッピング処理方法 本発明の乳用家畜の乳房炎予防方法において、ポストディッピングの処理方法については、特に制限されるものでは無く、既に公知であるポストディッピング剤(殺菌消毒剤)を用い、既に公知である方法を、何ら制限無く使用することができる。その処理方法を具体的に例示すると、市販のポストディッピング剤をそのままで、或いは水で希釈した後、乳頭がすっぽり収まる程の大きさのカップに6割程注ぎ、乳用家畜の乳頭をこれに1〜5秒間浸漬する方法、市販のポストディッピング剤をそのままで、或いは水で希釈した後、スプレー式の容器に入れ、乳頭先端が完全にディッピング剤に覆われるように噴射する方法、或いは、市販のポストディッピング剤をそのままで、或いは水で希釈した後、はけなどを用いて乳頭に直接塗布する方法などが挙げられる。また、市販のポストディッピング剤をそのままで、或いは水で希釈した後、特開2007−6725号公報に提案されているようなディッピング装置(容器)に入れて使用する方法も好適に実施することができる。 これらの方法で、ポストディッピング剤を乳頭に塗布した後は、数分間、家畜が座り込んだりしないように維持させたり、圧縮空気などを乳頭に吹きかける等してポストディッピング剤中の有機溶剤を飛散させ乾燥面とするのが好ましい。 ポストディッピング剤は乳頭に付着すると、乳頭および乳頭口内粘膜が洗浄および殺菌される。また、後に処理される本発明のゲル状パックの効果により、乳頭の皮膚および乳頭口内粘膜上にディッピング剤中の有効成分(消毒殺菌剤)が維持され、乳頭の皮膚および乳頭口内粘膜を保護し、細菌の増殖が長期間に渡って抑制される。ii)ゲル状パックの形成方法 ゲル状パックは、多糖類高分子電解質及びゲル化反応材を含むゲル化性材料の水練和物を上述した手段などで調製し、得られた水練和物でポストディッピング処理を施した乳用家畜の乳頭を被覆した後、多糖類高分子電解質をゲル化させることにより形成する。 被覆方法としては、浸漬法、はけ塗り法、噴霧法等が挙げられるが、特に制限されない。好ましくは浸漬法である。 浸漬法を用いる場合の水練和物の粘度は、練和物中に乳頭が容易に浸漬するように適宜選択すれば良い。浸漬法を用いる場合の練和物の粘度は、23℃でスパイラル粘度計により測定した値で、50〜1500 dPa・sの範囲にあるのが好ましい。 なお、噴霧法を用いる場合の水練和物の粘度は、噴霧のし易さから50〜600dPa・sの範囲にあるのが好ましい。 浸漬法を用いる場合、例えば家畜の乳頭を収容可能な筒状又はカップ状の容器に水練和物を入れ、容器を乳頭の付け根方向に移動させ(引き上げ)、容器中の水練和物に乳頭を浸漬した後、容器を乳頭先端方向に移動させる(引き下げる)。浸漬は、乳頭長を100%として、長さ基準で、乳頭の90%以上、好ましくは95%以上が水練和物に浸されるように行えばよい。 容器は清潔なものである限り、その材質は制限されず、金属、セラミック、プラスチック、紙等いずれでも使用できる。また容器は、水練和物の無駄を少なくするために、水練和物を乳頭に付着させるために必要な最低限の内容積を有していればよい。円筒状又はカップ状容器の場合、内径が約4cm〜約6cmで、高さが約5cm〜約10cmのものを使用することができる。容器の内側に、適量の水練和物を収容できるようにした目印を備えていると便利である。 水練和物の流動性を確保するために、浸漬は、水練和物の調製直後に開始するのが好ましい。水練和物が十分な流動性を有する間に、水練和物を乳頭に十分に付着させるために、乳頭を水練和物に浸漬する時間は、水練和物の初期硬化時間(ゲル状パック用の水練和物において、上記ゲル化調整剤の作用により当初緩やかに増加していた粘度が、本格的な硬化の開始により急激に粘度増加し始める変曲点に達するまでの時間。好ましくは20〜130秒である。)内とするのが好ましい。また、水練和物を乳頭に均一に付着させるために、浸漬後に容器を乳頭先端方向に移動させる速度(引き下げる速度)は10〜100mm/秒とするのが好ましく、20〜50mm/秒とするのがより好ましい。 先に施したポストディッピング剤の有効成分の拡散希釈を防止し、且つ、均一で強固なゲル状パックを形成するために、ゲル化に要する時間は、1〜10分が好ましく、2〜5分がより好ましい。 ゲル化に要する時間は、基材ペーストと硬化材ペーストの混合比、ゲル化調整剤の添加量、及び両ペーストの練和時の撹拌力の選択などにより調整できる。(3)乳用家畜用ゲル状パック 本発明の乳用家畜用ゲル状パックは、多糖類高分子電解質及びゲル化反応材を含むゲル化性材料の水練和物から、上記(2)のようにして、乳用家畜の乳頭に形成されることを特徴とする。乳用家畜用ゲル状パックは、乳用家畜の乳頭の保護に用いることができる。具体的には、伝染性乳房炎からの保護、環境性乳房炎からの保護、汚れその他の外的環境因子からの保護のために用いることができる。本発明において、乳用家畜とは、特に搾乳用家畜であり、例えば乳牛、山羊、その他搾乳が行われる家畜である。 以下に本発明を、実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。 [原料の略称] 後述する実施例および比較例のゲル状パックの作製に用いた各種原料の略称は以下の通りである。1.多糖類高分子電解質Alg−K:アルギン酸カリウム(20℃ 1%水溶液粘度 600mPa・sec)Alg−Naアルギン酸ナトリウム(20℃ 1%水溶液粘度 120mPa・sec)2.ゲル化反応材無水石膏:無水硫酸カルシウム二水石膏:硫酸カルシウム二水塩3.難水溶性溶媒流動P:流動パラフィン(20℃ 粘度 150mPa・sec、溶解度 < 0.001mg/L 殆ど溶解しない。)SO:シリコーンオイル(ポリジメチルシロキサン)(20℃ 粘度 300mPa・sec、溶解度 < 0.001mg/L 殆ど溶解しない。)5.その他Dec−13:デカグリセリルトリオレートMgO:酸化マグネシウムFTiK:フッ化チタンカリウムZnO:酸化亜鉛P3Na:リン酸三ナトリウムMT−10:粒径0.02μmの非晶質シリカ(メチルトリクロロシラン処理物)6.市販のポストディッピング剤(殺菌消毒剤)製品A:「クォーターメイト」(ヨード系 ウェストアグロ社製)製品B:「ソフトディップ」(ヨード系 GEAオリオンファームテクノロジーズ社製)製品C:「コートテンスリー」(ヨード系 GEAオリオンファームテクノロジーズ社製)7.市販のラバー系乳頭パック製品D:「DRY−OFF」(水系ラテックス乳頭パック GEAオリオンファームテクノロジーズ社製) [評価方法] 後述する実施例および比較例のサンプルにおいて、「ポストディッピング剤残存性」、および「乳頭との密着耐久性」の評価方法は以下の通りである。1.「ポストディッピング剤残存性」の評価方法 乳牛の乳頭の形状(内径3cmφ、長さ4cm)をした型の中に、歯科用親水性シリコーン印象材(GC社製 「フュージョンII」)を入れ、印象材が硬化後、型から取り出し、疑似乳頭を作製した。 各ポストディッピング剤をディッピング用カップ(内径6cmφ、長さ8cmの筒状容器)に注ぎ取り(カップの6割程度)、疑似乳頭の上端を持ち、ディッピング用カップ内のポストディッピング剤に乳頭を完全に浸漬させた状態で5秒間放置し、疑似乳頭をゆっくり引き抜いた後、室温下に2分間放置して、ポストディッピング液が乳頭から滴り落ちない程度まで乾燥し、疑似乳頭全体が均一にポストディッピング液で覆われていることを確認した。 また、各ゲル状パック用ゲル化材料を水練和して得られたペーストを内径6cmφ、長さ8cmの筒状容器の中に満たしておき、ポストディッピング処理を施した疑似乳頭を、各ゲル状パック用ゲル化材料を水練和して得られたペーストで満たされた筒状容器に、乳頭すべてが隠れるまで差し込んだ後、ゆっくり引き抜き、ゲル化材料が硬化するまで放置(3分程度)した。 硬化したゲル状パックを疑似乳頭から、両部材の界面が強く摺れないように、ゆっくり引き剥がし、疑似乳頭表面におけるポストディッピング剤の存在状態を目視観察し、これにさらに乳頭と接触していたゲル状パックの内面部におけるポストディッピング剤の存在状態も目視観察し、ゲル状パックの引き剥がし時の該ゲル状パックの内面への付着移行分も補完して、疑似乳頭を均一に覆っていたポストディッピング剤の残存性を、下記評価基準により評価した。なお、使用したポストディッピング剤はいずれもヨード系であるため茶色をしており、他方、歯科用親水性シリコーン印象材製の疑似乳頭は、薄い緑色をし、さらに、ゲル状パックは白色をしているため、前者の表面及び後者の内面への、ポストディッピング剤の存在状態は目視により、明瞭に観察できた。 さらに、引き剥がしたゲル状パックについて、疑似乳頭の頭頂部付近を覆っていた箇所をカッターナイフにより水平に切断し、その断面を目視観察し、ゲル状パック内部へのポストディッピング剤の浸透・拡散状態も評価した。ポストディッピング剤の残存性の評価基準○:疑似乳頭表面にポストディッピング処理直後と同様、乳頭全体が均一にポストディッピング剤で覆われた状態が保持できている。また、乳頭と接触していたゲル状パック内部へのポストディッピング剤の浸透・拡散は確認されない。△:疑似乳頭の表面全体がポストディッピング剤で覆われているが、濃い部分と薄い部分が存在する。また、乳頭と接触していたゲル状パック内部へのポストディッピング剤の浸透・拡散は確認されない。×:疑似乳頭の表面の一部(全表面積に対して30%未満)にポストディッピング剤が残存していない箇所が認められる。また、乳頭と接触していたゲル状パック内部が茶色く変色している部分が見られ、ポストディッピング剤の浸透・拡散が部分的に認められる。××:疑似乳頭の表面の半分以上の部分においてポストディッピング剤が残存していない。また、乳頭と接触していたゲル状パック内部が茶色く変色しており、ゲル状パック内部へのポストディッピング剤の浸透・拡散が認められる。2.「乳頭との密着耐久性」の評価方法 各ポストディッピング剤をディッピング用カップ(内径6cmφ、長さ8cmの筒状容器)に注ぎ取り(カップの6割程度)、疑似乳頭の上端を持ち、ディッピング用カップ内のポストディッピング剤に乳頭を完全に浸漬させた状態で5秒間放置し、疑似乳頭をゆっくり引き抜いた後、室温下に2分間放置して、ポストディッピング剤が乳頭から滴り落ちない程度まで乾燥し、疑似乳頭全体が均一にポストディッピング剤で覆われていることを確認した。 また、各ゲル状パック用ゲル化材料を水練和して得られたペーストを内径6cmφ、長さ8cmの筒状容器の中に満たしておき、ポストディッピング処理を施した疑似乳頭を、各ゲル状パック用ゲル化材料を水練和して得られたペーストで満たされた筒状容器に、乳頭すべてが隠れるまで差し込んだ後、ゆっくり引き抜き、ゲル化材料を硬化させた。 同試料を10個作製し、乳頭が下方を向くようにぶら下げた状態で25℃インキュベーター内に放置した。所望の時間が経過した時点で、それぞれ試料1つを選択し、ゲル状パックを疑似乳頭から引き剥がし、乳頭との密着性について、下記評価基準により評価した。「乳頭との密着性」評価基準○:乳頭との密着性良好(乳頭とゲル状パックとの間に隙間が無い状態)。△:乳頭とゲル状パックとの間に僅かに隙間が確認されるが、乳頭からの脱落までには至っていない状態。×:乳頭から完全に剥離し、ゲル状パックが脱落してしまった状態。 実施例1 多糖類高分子電解質として、10gのAlg−K、ゲル化反応材として、40gの無水石膏を量りとり、均一な粉末となるまで予め混合して、粉材を得た。次に、150gの蒸留水を量りとり、液材を得た。得られた粉材及び液材全量を練和用カップに入れ、ヘラを用いて均一なペースト状になるまで、気泡が混入しないように練和し、ゲル状パック用ゲル化性材料の練和物を調整した。得られた練和物と、製品Aを用いてポストディッピング処理を施した疑似乳頭を用いて、ポストディッピング剤残存性、および乳頭との密着耐久性の評価を行った。 実施例2〜6 ゲル状パックの組成を、表3に示す内容に変更した以外は、実施例1と同様にして練和物を調整し、得られた練和物と、製品Aを用いてポストディッピング処理を施した疑似乳頭を用いて、ポストディッピング剤残存性、および乳頭との密着耐久性の評価を行った。 実施例7 多糖類高分子電解質として100gのAlg−K、水として1500gの蒸留水、非還元糖として600gのトレハロース、充填材として295gの珪藻土を量りとり、小型混練器(アイコー産業社製アイコーミキサー)を用いて1時間混練し、基材ペーストを調整した。ゲル化反応材として、400gの無水石膏、および200gの二水石膏、難水溶性溶媒として、300gの流動P、その他成分として60gのDec−13、60gのMgO、40gのFTiK、40gのZnO、8gのP3Na、55gの珪藻土、30gのMT−10を量りとり、同小型混練器を用いて1時間混練し、硬化材ペーストを調整した。得られた基材ペースト及び硬化材ペーストを、自動練和器(トクヤマデンタル社製「APミキサーIII」吐出レンジ3を使用)によって練和(混練比:基材ペースト/硬化材ペースト=2.09)し、ゲル状パック用ゲル化性材料の練和物を調整した。得られた練和物と、製品Aを用いてポストディッピング処理を施した疑似乳頭を用いて、ポストディッピング剤残存性、および乳頭との密着耐久性の評価を行った。 実施例8〜11 ゲル状パックの組成および疑似乳頭のポストディッピング処理に使用したポストディッピング剤を、表3に、示す内容に変更した以外は、実施例7と同様にして練和物を調整し、得られた練和物と、製品Aを用いてポストディッピング処理を施した疑似乳頭を用いて、ポストディッピング剤残存性、および乳頭との密着耐久性の評価を行った。 比較例1〜2 製品A、或いは製品Bを用いてポストディッピング処理を施した疑似乳頭を、製品D(市販の水系ラテックス乳頭パック)を用いてパックしたものを用いて、ポストディッピング剤残存性、および乳頭との密着耐久性の評価を行った。 実施例1〜11および比較例1〜2のゲル状パックの組成を、表1及び表2に示した。また、実施例1〜11および比較例1〜2における、ポストディッピング剤残存性、および乳頭との密着耐久性の評価結果を表3に示した。 乳用家畜の乳頭に殺菌消毒剤を塗布した後、その塗布面を、多糖類高分子電解質及びゲル化反応材を含むゲル化性材料の水練和物で被覆しゲル化させることを特徴とする乳用家畜の乳房炎予防方法。 多糖類高分子電解質がアルギン酸塩である、請求項1記載の乳用家畜の乳房炎予防方法。 ゲル化反応材が硫酸カルシウムである、請求項1または請求項2記載の乳用家畜の乳房炎予防方法。 ゲル化性材料が、さらに非還元糖を含んでなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の乳用家畜の乳房炎予防方法。 ゲル化性材料が、さらに難水溶性溶媒を含んでなる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の乳用家畜の乳房炎予防方法。 (A)殺菌消毒剤、(B)i)多糖類高分子電解質、および、ii)ゲル化反応材を含むゲル化性材料を含んでなる乳用家畜の乳房炎予防キット。 【課題】 乳用家畜の乳頭に塗布されるポストディッピング剤(殺菌消毒剤)の効果を長時間持続させ、乳牛の乳頭を乳房炎から効率的に予防する方法を提供する。【解決手段】 乳用家畜の乳頭にポストディッピング剤(殺菌消毒剤)を塗布した後、その塗布面を、多糖類高分子電解質、好適にはアルギン酸塩、及びゲル化反応材、好適には硫酸カルシウムを含むゲル化性材料の水練和物(ゲル状パック)で被覆しゲル化させることを特徴とする乳用家畜の乳房炎予防方法。【選択図】 なし