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タイトル:公開特許公報(A)_緑藻、ならびにそれを用いて生産されるジテルペン、ジテルペン樹脂酸およびロジン代替物
出願番号:2013191683
年次:2015
IPC分類:C12N 15/09,C12N 1/13,C12P 15/00,C12P 7/40


特許情報キャッシュ

村中 俊哉 關 光 吉岡 元気 JP 2015057952 公開特許公報(A) 20150330 2013191683 20130917 緑藻、ならびにそれを用いて生産されるジテルペン、ジテルペン樹脂酸およびロジン代替物 国立大学法人大阪大学 504176911 田中 光雄 100081422 山崎 宏 100084146 冨田 憲史 100122301 稲井 史生 100157956 森山 彩子 100183254 村中 俊哉 關 光 吉岡 元気 C12N 15/09 20060101AFI20150303BHJP C12N 1/13 20060101ALI20150303BHJP C12P 15/00 20060101ALI20150303BHJP C12P 7/40 20060101ALI20150303BHJP JPC12N15/00 AC12N1/13C12P15/00C12P7/40 22 11 OL 32 特許法第30条第2項適用申請有り 公益社団法人 日本生物工学会、2013(平成25年度)第65回日本生物工学会大会講演要旨集、第244頁、平成25年8月25日発行 4B024 4B064 4B065 4B024AA03 4B024BA08 4B024BA10 4B024BA80 4B024CA06 4B024DA20 4B024EA04 4B024FA20 4B024GA12 4B064AB05 4B064AD27 4B064CA08 4B064CA19 4B064CB11 4B064CC24 4B064CE08 4B064DA16 4B065AA83X 4B065AA88Y 4B065AA89Y 4B065AB01 4B065AC14 4B065BA04 4B065BD16 4B065BD18 4B065CA03 4B065CA10 4B065CA60 本発明は、遺伝子組換え緑藻を用いて生産されるジテルペン、ジテルペン樹脂酸およびロジン代替物などに関する。 ロジンはマツから工業生産される天然樹脂成分であり、製紙用サイズ剤、合成ゴム用乳化剤、塗料、接着剤、滑り止め剤、香料、さらには化粧品や医薬品など様々な用途に使用されている。代表的な例として「ガムロジン」、「トールロジン」および「ウッドロジン」があり、これらはその採取方法によって分類される。 ロジンの生産量は年間120万トンであって、中国が最大の生産国である。近年、中国での内需の増加や同国政府の政策により、ロジンの価格が高騰していることが問題となっている。また、マツの生育には10年から15年を要し、急速な事業拡大は難しい。さらに、ロジンの採取方法は、例えばガムロジンの場合であれば、松の木の幹に傷をつけ、分泌する生松脂を採取し、濾過して不純物をとり除き、その後、蒸留して精製する、という方法であり、機械化が難しい手間と時間のかかる作業である。これらのことから、世界情勢や気候変動に左右されず、安定的かつ大量にロジンを生産する方法が必要とされている。 ロジンの主成分はジテルペン樹脂酸である。これは、採取方法、マツの産地等により異なるが、一般的には、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、ピマール酸、イソピマール酸、デヒドロアビエチン酸等のジテルペン樹脂酸の混合物である。このジテルペン樹脂酸は炭素数20のイソプレノイドであるジテルペンの酸化により、生成される。ジテルペン樹脂酸の前駆体であるジテルペンは、ゲラニルゲラニル二リン酸を生合成前駆体として、環化反応を経て生成される。これまで、ジテルペンおよびジテルペン樹脂酸は、これらを生産する植物などから抽出することにより、獲得されてきた。 近年、ジテルペンおよびジテルペン樹脂酸の生合成に関わる遺伝子が複数同定されてきた。特に、ジテルペン樹脂酸の生合成において、環化酵素やチトクロムP450が重要な酵素であることが解明されており(非特許文献1および2)、ジテルペンおよびジテルペン樹脂酸の新たな生産方法の開発において注目されている。 実際、ジテルペンを短期間で獲得するための新しい方法として、大腸菌および酵母などにジテルペン合成遺伝子を導入し、得られた遺伝子組換え微生物によってジテルペンを生産する方法が検討されている(特許文献1)。しかしながら、大腸菌および酵母などは従属栄養生物であるため、培養する際にグルコース、ショ糖などの糖源を必要とする。そのため、ジテルペンの大量生産を目的としてこれらの微生物を大量培養するには、大規模な設備投資やランニングコスト等が必要とされるという問題点がある。従って、短期間でジテルペンおよび/またはジテルペン樹脂酸を安定的にかつ低コストで供給することができる新たな供給源および方法の開発が、依然として望まれている。特表2010−539902号公報Hall DEら、Plant Physiology, February 2013, Vol. 161, pp.600−616Hamberger Bら、Plant Physiology, December 2011, Vol. 157, pp.1677−1695 本発明の解決課題は、ロジンの主成分であるジテルペン樹脂酸およびその前駆体であるジテルペンについての、マツに代わる新たな供給源である緑藻を提供することである。具体的には、ジテルペン樹脂酸およびジテルペンを短期間で安定的にかつ低コストで供給するための遺伝子組換え緑藻を提供すること、ならびに、当該遺伝子組換え緑藻を生産するためのヌクレオチドおよび緑藻形質転換用ベクターを提供することである。また、本発明の他の解決課題は、マツからの産出によらない、ジテルペン、ジテルペン樹脂酸およびジテルペン樹脂酸を含むロジン代替物を提供すること、ならびに、マツを用いないジテルペンおよびジテルペン樹脂酸の生産方法を提供することである。 本発明者らは、緑藻にジテルペンおよびジテルペン樹脂酸の生合成に関わる環化酵素の遺伝子を導入することにより、内在性の基質を利用して、ジテルペン樹脂酸の前駆体であるジテルペンを生産する系を確立した。また、前記環化酵素と共に酸化酵素の遺伝子も緑藻に導入することにより、内在性の基質を利用して、ジテルペン樹脂酸を生産する系を確立した。これにより、従来法よりも比較的容易に、安定的にかつ低コストでジテルペンおよびジテルペン樹脂酸を生産できることを見出し、本発明を完成させた。 すなわち、本発明は、以下を提供するものである: (1)緑藻用にコドンが改変されていることを特徴とする、ジテルペン環化酵素をコードするポリヌクレオチド; (2)ジテルペン環化酵素がTPS−d3サブファミリーから選択される、(1)に記載のポリヌクレオチド; (3)ジテルペン環化酵素がPbmdiTPS1、PcmdiTPS1、PcmdiTPS2、PcmdiTPS3、PbmISO1、PcmISO1、PbmPIM1、PcmPIM1、GbLS、AbCAS、AbISO、AbLAS、AgAS、PbLAS1、PtLAS、PcLAS2、PcLAS1、PsiISO、PaISO、PsiLAS、およびPaLASからなる群から選択される、(2)に記載のポリヌクレオチド; (4)配列番号1に記載の塩基配列を有するポリヌクレオチド; (5)配列番号1に記載の塩基配列と少なくとも90%以上の配列同一性を有する塩基配列を有するポリヌクレオチドであって、ジテルペン環化酵素活性を有するポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド; (6)(1)〜(5)のいずれか一つに記載のポリヌクレオチドを含む、緑藻形質転換用ベクター; (7)酸化酵素をコードするポリヌクレオチドをさらに含む、(6)に記載のベクター; (8)前記酸化酵素がシトクロムP450である、(7)に記載のベクター; (9)前記酸化酵素がCYP720B1である、(8)に記載のベクター; (10)(1)〜(5)のいずれか一つに記載のポリヌクレオチドを含む、緑藻; (11)酸化酵素をコードするポリヌクレオチドをさらに含む、(10)に記載の緑藻; (12)(6)に記載のベクターで形質転換することにより作製される、(10)に記載の緑藻; (13)(7)〜(9)のいずれか一つに記載のベクターで形質転換することにより作製される、(11)に記載の緑藻; (14)前記緑藻がクラミドモナス目(Chlamydomonadales)、ボルボックス目(Volvocales)またはクロロコックム目(Chlorococcales)である、(10)〜(13)のいずれか一つに記載の緑藻; (15)前記緑藻がクラミドモナス属(Chlamydomonas)である、(14)に記載の緑藻; (16)前記緑藻がクラミドモナス・ラインハーディ(Chlamydomonas reinhardtii)である、(15)に記載の緑藻; (17)(6)〜(9)のいずれか一つに記載のベクターを用いて緑藻を形質転換することを特徴とする、緑藻を形質転換する方法; (18)(10)または(12)に記載の緑藻によって生産される、ジテルペン; (19)(11)または(13)に記載の緑藻によって生産される、ジテルペン樹脂酸; (20)(10)または(12)に記載の緑藻によってジテルペンを産生し、産生したジテルペンを回収することを含む、ジテルペンの生産方法; (21)(11)または(13)に記載の緑藻によってジテルペン樹脂酸を産生し、産生したジテルペン樹脂酸を回収することを含む、ジテルペン樹脂酸の生産方法;および (22)(20)に記載の方法を経て得られたジテルペン樹脂酸および/または(21)に記載の方法を用いて得られたジテルペン樹脂酸を含む、ロジン代替物。 本発明によれば、従来法における大腸菌および酵母では必須であった糖源を必要とすることなく、ジテルペンおよびジテルペン樹脂酸を生産することが可能になる。そのため、従来法よりも比較的容易に、安定的にかつ低コストでジテルペンおよびジテルペン樹脂酸を生産できる。改変LAS遺伝子と、PaLAS遺伝子の配列比較。改変LAS遺伝子と、PaLAS遺伝子の配列比較(図1−1の続き)。改変LAS遺伝子と、PaLAS遺伝子の配列比較(図1−2の続き)。改変LAS遺伝子と、PaLAS遺伝子の配列比較(図1−3の続き)。改変LAS遺伝子を含む緑藻形質転換用ベクターのベクターマップ。A:PaLAS/PtufA−TatpB in pCTS3。B:PaLAS/16S−atpA−rbcL in pCTS3。形質転換クラミドモナスのPCR解析の結果。A:葉緑体ゲノム特異的プライマー。B:改変LAS特異的プライマー。形質転換クラミドモナスのウェスタンブロットの結果。GC−MS解析の結果。クラミドモナス抽出物のGC解析。NC:形質転換していないクラミドモナスΔD2−2株。LAS−16S_7およびLAS−16S_17:PaLAS/16S−atpA−rbcL in pCTS3で形質転換したクラミドモナスΔD2−2株。LAS−PtufA_2、LAS−PtufA_3およびLAS−PtufA_4:PaLAS/PtufA−TatpB in pCTS3で形質転換したクラミドモナスΔD2−2株。GC−MS解析の結果。A:図5のピーク1のMS解析。B:レボピマラジエンのMS解析。GC−MS解析の結果。A:図5のピーク2のMS解析。B:アビエタジエンのMS解析。GC−MS解析の結果。A:図5のピーク3のMS解析。B:ネオアビエタジエンのMS解析。改変CYP720B1遺伝子と、テーダマツ由来のCYP720B1遺伝子の配列比較。改変CYP720B1遺伝子と、テーダマツ由来のCYP720B1遺伝子の配列比較(図9−1の続き)。改変CYP720B1遺伝子と、テーダマツ由来のCYP720B1遺伝子の配列比較(図9−2の続き)。改変LAS遺伝子および改変CYP720B1遺伝子を含む緑藻形質転換用ベクターのベクターマップ。A:CYP720B1/16S−atpA−rbcL PaLAS/PtufA−TatpB。B:PaLAS/16S−atpA−rbcL CYP720B1/PtufA−TatpB。形質転換クラミドモナスのPCR解析の結果。 1つの実施態様において、本発明は、緑藻用にコドンが改変されていることを特徴とする、ジテルペン環化酵素をコードするポリヌクレオチドを提供する。 ジテルペン環化酵素は、テルペン合成酵素(TPS)のグループに含まれる酵素であり、ジテルペン合成酵素とも称される。これは、ゲラニルゲラニル二リン酸を環化させることにより、種々のジテルペンを生成する。針葉樹のジテルペン合成酵素は、Tps−c、Tps−dおよびTps−e/fのファミリーに分類され、Tps−dはさらに、Tps−d1、Tps−d2およびTps−d3のサブファミリーに分類されることが、既に知られている(Bohlmannら、1998a;Martinら、2004;Chenら、2011;Keelingら、2011a)。 一実施形態では、本発明で用いられるジテルペン環化酵素は、TPS−d3サブファミリーから選択される。好ましくは、前記酵素は、PbmdiTPS1(例、NCBI登録番号:JQ240317)、PcmdiTPS1(JQ240318)、PcmdiTPS2(JQ240319)、PcmdiTPS3(JQ240320)、PbmISO1(JQ240313)、PcmISO1(JQ240314)、PbmPIM1(JQ240316)、PcmPIM1(JQ240315)、GbLS(Q947C4)、AbCAS(JN254808)、AbISO(JN254806)、AbLAS(JN254805)、AgAS(Q38710)、PbLAS1(JQ240312)、PtLAS(Q50EK2)、PcLAS2(JQ240311)、PcLAS1(JQ240310)、PsiISO(ADZ45512)、PaISO(Q675L5)、PsiLAS(ADZ45517)およびPaLAS(Q675L4)からなる群から選択される。より好ましくは、前記酵素は、AbISO(例、NCBI登録番号:JN254806)、AbLAS(JN254805)、AgAS(Q38710)、PbLAS1(JQ240312)、PtLAS(Q50EK2)、PcLAS2(JQ240311)、PcLAS1(JQ240310)、PsiISO(ADZ45512)、PaISO(Q675L5)、PsiLAS(ADZ45517)およびPaLAS(Q675L4)からなる群から選択される。さらに好ましくは、前記酵素は、PaLAS(例、NCBI登録番号:Q675L4)である。 他の実施態様では、本発明は、配列番号1に記載の塩基配列を有するポリヌクレオチドを提供する。前記ポリヌクレオチドは、ジテルペン環化酵素であるレボピマラジエン/アビエタジエン合成酵素(LAS)活性を有するポリペプチドをコードする、改変LAS遺伝子である。 別の実施態様では、本発明は、配列番号1に記載の塩基配列と少なくとも80%以上、例えば80%、85%、90%、92%、94%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有する塩基配列を有するポリヌクレオチドであって、ジテルペン環化酵素活性、好ましくはLAS活性を有するポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチドを提供する。好ましい実施形態では、前記ポリヌクレオチドの塩基配列は、配列番号1に記載の塩基配列と少なくとも90%以上の配列同一性を有する。より好ましい実施形態では、配列番号1に記載の塩基配列と少なくとも96%以上の配列同一性を有する。さらに好ましい実施形態では、配列番号1に記載の塩基配列と少なくとも98%以上の配列同一性を有する。 配列番号1に記載の塩基配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有する塩基配列を有するポリヌクレオチドは、それによってコードされるポリペプチドがジテルペン環化酵素活性、好ましくはLAS活性を有する限り、配列番号1に記載の塩基配列と比較して、数個、例えば1〜30個、1〜20個、1〜15個、1〜10個、1〜7個、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1〜2個または1個のヌクレオチドが置換、欠失および/または挿入されていてもよい。 本発明のポリヌクレオチドには、該ポリヌクレオチドと実質的に相補的なポリヌクレオチドが含まれうる。「相補的」とは、一つの核酸鎖が別の核酸鎖と塩基対形成することを意味する。「実質的に相補的」とは、各核酸鎖の全ての塩基について塩基対形成が起こっている状態だけでなく、一定数または一定率の塩基が対形成していないか誤って対形成している状態も含むということを意味する。正しく対形成している塩基のパーセンテージは、好ましくは少なくとも70%、例えば70%、80%、85%、90%、92%、94%、96%、97%、98%、99%または100%である。 本発明のポリヌクレオチドと実質的に相補的なポリヌクレオチドとは、本発明のポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドである。「ストリンジェントな条件」とは、2つの配列間に特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう、例えば、6×SSC(1.5M NaCl、0.15M クエン酸三ナトリウムを含む溶液を10×SSCとする)、50%ホルムアミドを含む溶液中で45℃にてハイブリッドを形成させた後、2×SSCで50℃にて洗浄するような条件(Molecular Biology, John Wiley & Sons, N. Y.1989), 6.3.1−6.3.6)等を挙げることができる。「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」に関して、ここで使用されるハイブリダイゼーションは、例えば、Sambrook J., Frisch E. F., Maniatis T.著、モレキュラークローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー発行(Cold Spring Harbor Laboratory press)等に記載される通常の方法に準じて行うことができる。 本発明のポリヌクレオチドには、さらに、本発明のポリヌクレオチドと実質的に相補的なポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドが含まれる。 用語「ポリヌクレオチド」および「核酸」は、本明細書において互換的に用いられる。また、用語「タンパク質」、「ポリペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において互換的に用いられる。 本明細書において、「緑藻用にコドンが改変されている」とは、対象の遺伝子の塩基配列におけるコドンが、緑藻のコドン使用頻度に合うように最適化されていることを意味する。当業者であれば、ある生物のコドン使用頻度を、例えば、かずさDNA研究所のデーターベースCodon Usage Database(http://www.kazusa.or.jp/codon/)を利用して、調査することができる。あるいは、GENEART社の遺伝子配列設計プログラムGeneOptimizer(登録商標)などを用いて、調査することもできる。さらに、そのようにして得られたコドン使用頻度の情報に基づいて、常套的な手段を用いて、対象の遺伝子のコドンを最適化することができる。 上述のコドンの最適化は、緑藻の全ゲノムのコドン使用頻度に基づいてもよい。あるいは、核ゲノム、葉緑体ゲノムおよびミトコンドリアゲノムなど、細胞小器官に存在する特定のゲノムのコドン使用頻度に基づいてもよい。当業者であれば、対象の遺伝子を発現させたい細胞小器官に合わせて、上述の常套的な手段を用いて、対象の遺伝子のコドンを最適化することができる。 本明細書において、用語「改変ジテルペン環化酵素遺伝子」とは、ある生物由来のジテルペン環化酵素のオープンリーディングフレーム(ORF)の塩基配列に、複数個の塩基置換を導入することにより、そのコドン使用頻度を緑藻での遺伝子転写/翻訳に適したコドン使用頻度を有するように最適化した塩基配列を有する遺伝子をいう。「複数個」とは、改変前の塩基配列において、1〜1000個、好ましくは200〜800個、より好ましくは400〜600個、さらに好ましくは500〜600個、最も好ましくは530〜570個である。あるいは、改変前の塩基配列のうち、例えば40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%またはそれより多いヌクレオチドが置換されている。用語「改変ジテルペン環化酵素」とは、「改変ジテルペン環化酵素遺伝子」によってコードされるタンパク質であって、ジテルペン環化酵素活性を有するタンパク質をいう。 「改変ジテルペン環化酵素遺伝子」における上述の塩基置換は、改変前のジテルペン環化酵素のアミノ酸配列と比較して、改変ジテルペン環化酵素のアミノ酸配列におけるアミノ酸を変化させないものであってもよい。あるいは、改変ジテルペン環化酵素がジテルペン環化酵素活性を有する限り、改変前のジテルペン環化酵素と比較して、改変ジテルペン環化酵素のアミノ酸配列におけるアミノ酸を変化させるものであってもよい。 「改変ジテルペン環化酵素」には、改変前のジテルペン環化酵素のアミノ酸配列と少なくとも80%以上、例えば80%、85%、90%、92%、94%、96%、97%、98%、99%または100%の配列相同性または配列同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドも含まれる。好ましくは、改変ジテルペン環化酵素のアミノ酸配列は、改変前のジテルペン環化酵素のアミノ酸配列と少なくとも90%以上の配列相同性または配列同一性を有する。より好ましくは、改変ジテルペン環化酵素のアミノ酸配列は、改変前のジテルペン環化酵素のアミノ酸配列と少なくとも96%以上の配列相同性または配列同一性を有する。さらに好ましくは、改変ジテルペン環化酵素のアミノ酸配列は、改変前のジテルペン環化酵素のアミノ酸配列と少なくとも98%以上の配列相同性または配列同一性を有する。最も好ましくは、改変ジテルペン環化酵素のアミノ酸配列は、改変前のジテルペン環化酵素のアミノ酸配列と100%の配列同一性を有する。 また、「改変ジテルペン環化酵素」には、改変前のジテルペン環化酵素のアミノ酸配列から輸送ペプチド配列に該当する部分を除いた、N末端切断型の配列を有するポリペプチドと少なくとも80%以上、例えば80%、85%、90%、92%、94%、96%、97%、98%、99%または100%の配列相同性または配列同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドも含まれる。好ましくは、改変ジテルペン環化酵素のアミノ酸配列は、改変前のジテルペン環化酵素のN末端切断型アミノ酸配列と少なくとも90%以上の配列相同性または配列同一性を有する。より好ましくは、改変ジテルペン環化酵素のアミノ酸配列は、改変前のジテルペン環化酵素のN末端切断型アミノ酸配列と少なくとも96%以上の配列相同性または配列同一性を有する。さらに好ましくは、改変ジテルペン環化酵素のアミノ酸配列は、改変前のジテルペン環化酵素のN末端切断型アミノ酸配列と少なくとも98%以上の配列相同性または配列同一性を有する。最も好ましくは、改変ジテルペン環化酵素のアミノ酸配列は、改変前のジテルペン環化酵素のN末端切断型アミノ酸配列と100%の配列同一性を有する。 本発明において、「改変ジテルペン環化酵素遺伝子」は、その変異体も包含する。変異体は、例えば、改変ジテルペン環化酵素遺伝子の塩基配列において、数個、例えば、1〜50個、1〜40個、1〜30個、1〜20個、1〜10個、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1〜2個、または1個の塩基が、置換、欠失および/または付加された塩基配列を含み得る。本発明において、「改変ジテルペン環化酵素」は、その変異体も包含する。変異体は、例えば、改変ジテルペン環化酵素のアミノ酸配列において、数個、例えば、1〜50個、1〜40個、1〜30個、1〜20個、1〜10個、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1〜2個、または1個のアミノ酸が、置換、欠失および/または付加されたアミノ酸配列を含み得る。 本発明において、「改変ジテルペン環化酵素」は、好ましくは「改変LAS」である。用語「改変LAS遺伝子」とは、オウシュウトウヒ(Picea abies)由来のレボピマラジエン/アビエタジエン合成酵素(PaLAS)のオープンリーディングフレーム(ORF)の塩基配列(配列番号2)に、複数個の塩基置換を導入することにより、そのコドン使用頻度を緑藻での遺伝子転写/翻訳に適したコドン使用頻度を有するように最適化した塩基配列を有する遺伝子をいう。「複数個」とは、配列番号2の塩基配列において、1〜1000個、好ましくは200〜800個、より好ましくは400〜600個、さらに好ましくは500〜600個、最も好ましくは530〜570個である。用語「改変LAS」とは、「改変LAS遺伝子」によってコードされるタンパク質であって、LAS活性を有するタンパク質をいう。 「改変LAS遺伝子」における上述の塩基置換は、PaLASのアミノ酸配列(配列番号3)と比較して、改変LASのアミノ酸配列におけるアミノ酸を変化させないものであってもよい。あるいは、改変LASがジテルペン環化酵素活性、好ましくはLAS活性を有する限り、PaLASのアミノ酸配列(配列番号3)と比較して、改変LASのアミノ酸配列におけるアミノ酸を変化させるものであってもよい。 「改変LAS」には、PaLASのアミノ酸配列(配列番号3)と少なくとも80%以上、例えば80%、85%、90%、92%、94%、96%、97%、98%、99%または100%の配列相同性または配列同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドも含まれる。好ましくは、改変LASのアミノ酸配列は、PaLASのアミノ酸配列(配列番号3)と少なくとも90%以上の配列相同性または配列同一性を有する。より好ましくは、PaLASのアミノ酸配列(配列番号3)と少なくとも96%以上の配列相同性または配列同一性を有する。さらに好ましくは、PaLASのアミノ酸配列(配列番号3)と少なくとも98%以上の配列相同性または配列同一性を有する。最も好ましくは、PaLASのアミノ酸配列(配列番号3)と100%の配列同一性を有する。 また、「改変LAS」には、PaLASのアミノ酸配列(配列番号3)からそのN末端側に位置する輸送ペプチド配列(配列番号4)を除いたN末端切断型の配列(配列番号5)を有するポリペプチドと少なくとも80%以上、例えば80%、85%、90%、92%、94%、96%、97%、98%、99%または100%の配列相同性または配列同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドも含まれる。好ましくは、改変LASのアミノ酸配列は、PaLASのN末端切断型アミノ酸配列(配列番号5)と少なくとも90%以上の配列相同性または配列同一性を有する。より好ましくは、PaLASのN末端切断型アミノ酸配列(配列番号5)と少なくとも96%以上の配列相同性または配列同一性を有する。さらに好ましくは、PaLASのN末端切断型アミノ酸配列(配列番号5)と少なくとも98%以上の配列相同性または配列同一性を有する。最も好ましくは、PaLASのN末端切断型アミノ酸配列(配列番号5)と100%の配列同一性を有する。 本発明において、「改変LAS」は、好ましくは、配列番号1に記載の塩基配列と少なくとも80%以上、例えば80%、85%、90%、92%、94%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有する塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドであって、ジテルペン環化酵素活性、好ましくはLAS活性を有するポリペプチドである。特に好ましい実施形態では、「改変LAS」は、配列番号1に記載の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドである。 本明細書において、「配列同一性」とは、アミノ酸配列またはヌクレオチド配列が不変である程度をさし、2つの配列間の比較において、同一であるアミノ酸または塩基の数をさす。アミノ酸配列における「配列相同性」とは、保存的アミノ酸変化を含みうる。配列同一性および配列相同性は、当技術分野において知られている標準的なアラインメントツールによって決定できる。かかるアラインメントツールには、FASTA、BLAST、DNASIS(日立ソフトウェアエンジニアリング(株)製)、GENETYX((株)ジェネティクス製)などが挙げられる。アラインメントは、グローバル(配列の全長にわたって、すべてのアミノ酸または塩基を含む、配列のアラインメント)であってもよく、ローカル(最も類似した領域または複数の領域のみを含む、配列の一部のアラインメント)であってもよい。 「配列同一性」および「配列相同性」は、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの配列について、最良アラインメント後に得られる、比較しようとする2つの配列間で同一であるアミノ酸または塩基のパーセンテージ(%)で表す。2つの配列間の相違はそれらの全長にわたってランダムに分布する。2つの配列間の配列比較は、それらを最適にアラインメントした後にこれらの配列を比較することによって行われる。「配列同一性」および「配列相同性」のパーセンテージは、比較される2つの配列間で同一な位置の数を決定し、その数を比較した位置の数で除し、得られた結果に100を乗じることによって算出される。 別の態様において、本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含む、緑藻形質転換用ベクターを提供する。当業者であれば、当該ベクターを導入する緑藻の種類、目的等に応じて、ベクターの種類、本発明のポリヌクレオチドの塩基配列以外に含まれうる塩基配列等を、適宜選択できる。前記ベクターは、緑藻内で発現誘導が可能なプロモーター、5’非翻訳領域(UTR)、シグナル配列をコードする遺伝子、形質転換体選択用マーカー遺伝子、3’非翻訳領域(UTR)などを適宜有していてもよい。プロモーターの例としては、翻訳伸長因子TufAプロモーター配列(配列番号6)およびpsbDプロモーター配列などが挙げられる。プロモーター−5’UTRの例としては、16S rRNAプロモーター配列とatpA遺伝子の5’UTR配列の組み合わせ(配列番号7)およびpsbAプロモーター配列/5’UTR(Rasalaら、Plamt Biotechnol. J. 2011, 9, pp.674−683)などが挙げられる。3’UTRの例としては、atpB遺伝子の3’UTR配列(配列番号8)、rbcL遺伝子の3’UTR配列(配列番号9)、psbA(Rasalaら、Plamt Biotechnol. J. 2011, 9, pp.674−683)などが挙げられる。また、ポリペプチドの発現の確認を容易にするため、GFPやルシフェラーゼなどのレポーター遺伝子をコードする配列、および/またはFLAGタグ、Hisタグ、チオレドキシンもしくはGST(グルタチオンS−トランスフェラーゼ)などの任意のタグをコードする配列が付加されていてもよい。さらに、本発明のポリヌクレオチドとタグ配列の間に、8×Glyスペーサー配列(Gly−Gly−Gly−Gly−Gly−Gly−Gly−Gly)をコードする配列(配列番号10)などのスペーサー配列が含まれていてもよい。 さらに別の態様において、本発明は、酸化酵素をコードするポリヌクレオチドをさらに含む、本発明のポリヌクレオチドを含む緑藻形質転換用ベクターを提供する。好ましい実施形態では、前記酸化酵素はシトクロムP450である。より好ましい実施形態では、前記酸化酵素はCYP720である。さらに好ましい実施形態では、前記酸化酵素はCYP720B1およびCYP720B4などのCYP720Bである。最も好ましい実施形態では、前記酸化酵素はCYP720B1である。前記酸化酵素は、緑藻で酸化酵素活性を有する限り、その由来は限定されない。好ましくは、前記酸化酵素はテーダマツ(Pinus taeda)由来のCYP720B1である。 本発明の緑藻形質転換用ベクターは、核形質転換用、葉緑体形質転換用またはミトコンドリア形質転換用のいずれであってもよい。また、核ゲノムDNA、葉緑体ゲノムDNAまたはミトコンドリアゲノムDNAへの相同性組換え効率を上げるため、ゲノムに挿入されるべき配列の5’側および3’側に、ゲノムDNAに由来する配列(アーム配列)を配置してもよい。アーム配列は、少なくとも500bp程度、一般的には1kb以上の長さであることが好ましい。当業者であれば、配列が挿入されるゲノム上の位置に応じて、必要なアーム配列を適宜選択することができる。 本発明はまた、本発明のポリヌクレオチドを含む緑藻を提供する。かかる緑藻は、本発明のポリヌクレオチドを、少なくとも核、葉緑体またはミトコンドリアのいずれかに含む。好ましい実施形態では、本発明のポリヌクレオチドは、核ゲノムDNA、葉緑体ゲノムDNAまたはミトコンドリアゲノムDNAに組み込まれている。 一実施形態では、本発明のポリヌクレオチドを含む緑藻は、本発明の緑藻形質転換用ベクターで形質転換することにより作製される。この場合、緑藻は、ベクターに含まれる本発明のポリヌクレオチドの塩基配列以外に含まれうる塩基配列、例えばプロモーター、5’非翻訳領域(UTR)、形質転換体選択用マーカー遺伝子、3’非翻訳領域(UTR)、またはそれらの一部分を本発明のポリヌクレオチドと共に含んでもよい。あるいは、本発明のベクターの骨格となっているベクターに由来する塩基配列を含んでもよい。 他の態様において、本発明は、酸化酵素をコードするポリヌクレオチドをさらに含む、本発明のポリヌクレオチドを含む緑藻を提供する。かかる緑藻は、本発明のポリヌクレオチドおよび酸化酵素をコードするポリヌクレオチドを、核、葉緑体またはミトコンドリアのいずれかにおいて含んでいる。好ましい実施形態では、本発明のポリヌクレオチドおよび酸化酵素をコードするポリヌクレオチドは、核ゲノムDNA、葉緑体ゲノムDNAまたはミトコンドリアゲノムDNAに組み込まれている。 一実施形態では、本発明のポリヌクレオチドおよび酸化酵素をコードするポリヌクレオチドの両方を含む緑藻は、本発明の緑藻形質転換用ベクターで形質転換することにより作製される。別の実施形態では、本発明のポリヌクレオチドおよび酸化酵素をコードするポリヌクレオチドの両方を含む緑藻は、本発明のポリヌクレオチドを含む緑藻形質転換用ベクターと酸化酵素をコードするポリヌクレオチドを含む緑藻形質転換用ベクターの両方で、共形質転換をすることにより作製される。この場合、酸化酵素をコードするポリヌクレオチドを含む緑藻形質転換用ベクターで緑藻を形質転換する前に、同時に、あるいは後に、本発明のポリヌクレオチドを含む緑藻形質転換用ベクターで該緑藻を形質転換することができる。いずれの場合においても、緑藻は、ベクターに含まれる本発明のポリヌクレオチドおよび酸化酵素の塩基配列以外に含まれうる塩基配列、例えばプロモーター、5’非翻訳領域(UTR)、形質転換体選択用マーカー遺伝子、3’非翻訳領域(UTR)、またはそれらの一部分を本発明のポリヌクレオチドおよび酸化酵素をコードするポリヌクレオチドと共に含んでもよい。あるいは、本発明のベクターの骨格となっているベクターに由来する塩基配列を含んでもよい。 好ましい実施形態では、前記酸化酵素はシトクロムP450である。より好ましい実施形態では、前記酸化酵素はCYP720である。さらに好ましい実施形態では、前記酸化酵素はCYP720B1およびCYP720B4などのCYP720Bである。最も好ましい実施形態では、前記酸化酵素はCYP720B1である。前記酸化酵素は、緑藻で酸化酵素活性を有する限り、その由来は限定されない。好ましくは、前記酸化酵素はテーダマツ(Pinus taeda)由来のCYP720B1である。 「緑藻(緑藻植物門:Chlorophyta)」とは、光合成の主要色素としてクロロフィルaおよびbを有し、光合成を行う緑色植物亜界(Viridiplantae)内の一群である。光合成によりデンプンを生産し、葉緑体内に貯蔵する生産者である。緑藻には、オオヒゲマワリ類およびクロレラ類などが含まれ、これらはさらにコナミドリムシを含むクラミドモナス目、ボルボックス(オオヒゲマワリ)目、ならびに、クロレラ、アミミドロおよびクンショウモを含むクロロコックム目などへと分類される。好ましい実施形態では、本発明の緑藻は、クラミドモナス目(Chlamydomonadales)、ボルボックス目(Volvocales)またはクロロコックム目(Chlorococcales)である。より好ましい実施形態では、クラミドモナス属(Chlamydomonas)である。さらに好ましい実施形態では、クラミドモナス・ラインハーディ(Chlamydomonas reinhardtii)である。 クラミドモナス・ラインハーディ(Chlamydomonas reinhardtii)は、鞭毛を有する単細胞緑藻であり、生育が速いことで知られている。また、遺伝子操作を容易に行うことができるため、本発明に用いる緑藻として適している。 緑藻は、光合成における炭酸固定反応であるカルビン経路で生成したグリセルアルデヒド−3−リン酸(GAP)と、ピルビン酸を用いて、2−C−メチル−D−エリスリトール−4−リン酸(MEP)経路を介して、イソペンテニル二リン酸(IPP)およびジメチルアリル二リン酸(DMAPP)を産生する。ついで、IPPとDMAPPから、ゲラニルゲラニル二リン酸シンターゼにより、カロテノイド生合成経路の初期中間体であるゲラニルゲラニル二リン酸を産生する。本発明の緑藻は、改変LASの働きにより、ゲラニルゲラニル二リン酸からアビエタジエンなどのジテルペンを産生することができる。また、酸化酵素をさらに含む本発明の緑藻は、改変LASの働きによってゲラニルゲラニル二リン酸からアビエタジエンなどのジテルペンを産生し、次いで産生したジテルペンから、酸化酵素の働きによりジテルペン樹脂酸を産生することができる。 別の態様において、本発明は、本発明のベクターを用いて緑藻を形質転換することを特徴とする、緑藻を形質転換する方法を提供する。好ましい実施形態では、前記緑藻は、クラミドモナス目、ボルボックス目またはクロロコックム目である。より好ましい実施形態では、クラミドモナス属である。さらに好ましい実施形態では、クラミドモナス・ラインハーディ(Chlamydomonas reinhardtii)である。 当業者であれば、緑藻を形質転換するための方法を当然に理解できる。また、当業者であれば、形質転換体の選択に利用できる薬剤耐性マーカーなどを、形質転換された緑藻の種類、導入したベクターの種類、および形質転換の方法などに応じて、適宜選択することができる。また、常套的な実験を用いて、培養条件(培地組成、培養温度、培養時間等)を容易に定めることができる。 例えば、クラミドモナス属の場合、核、葉緑体およびミトコンドリアの形質転換を行うことができる。クラミドモナスの核ゲノムDNAのサイズは100〜160Mbであり、葉緑体およびミトコンドリアのタンパク質を含む、大部分の遺伝情報をコードしている。核の形質転換は、DNAを付着させたタングステン微粒子もしくは金粒子(直径約1μm)を微粒子銃でクラミドモナス細胞へ撃ち込むことにより行うことができる(例えば、Debuchy Rら, The EMBO Journal, vol.8, no.10, pp.2803−2809, 1989を参照)。また、クラミドモナス細胞懸濁液に、DNAと直径約0.5mmのガラスビーズを加え、激しく撹拌することで細胞表面に傷をつけ、DNAを細胞内に導入する、ガラスビーズ法によっても行うことができる(Kindle KL., Proc.Natl.Acad.Sci.USA, Vol.87, pp.1228−1232, February, 1990を参照)。さらに、エレクトロポレーションによっても行うことができる(Shimogawara K.ら, Genetics, 148:1821−1828, April, 1998を参照)。核に導入されたDNAは、核ゲノムにランダムに組み込まれうる。 クラミドモナスの核の形質転換の場合、形質転換体の選択のためのマーカーとして、フレオマイシン耐性を付与するble遺伝子などを用いることができる。また、クラミドモナス用に改変された緑色蛍光タンパク質(GFP)などを用いることもできる。あるいは、栄養要求株を野生型の遺伝子で相補する方法で、形質転換体を選択することも可能である。 クラミドモナスの葉緑体ゲノムDNAのサイズは196kbであり、約70〜80コピーのDNAが存在する。葉緑体の形質転換にも、上述のような微粒子銃法を用いることができる。ATP合成酵素のβサブユニットをコードするatpB遺伝子欠損株を宿主として利用することで、形質転換体の選択をすることができる(Boynton JEら, Science., 1988, Jun, 10;240(4858):1534−8を参照)。また、葉緑体タンパク質合成酵素阻害剤に対する耐性を付与するaadAカセットを用いて、スペクチノマイシン存在下で培養することにより、選択を行うこともできる(Sugiura Mら, FEBS Letters, 426, (1998), 140−144を参照)。あるいは、psbD遺伝子欠損株などの光合成能を欠く変異株を宿主として利用し、恒明条件下での光合成能の修復の有無により形質転換体を選択することができる。葉緑体に導入されたDNAは、相同組換えにより、葉緑体ゲノムDNAに組み込まれうる。形質転換後しばらくは、野生型と形質転換型のコピーが両方存在するヘテロプラスミックな状態となるが、選択圧下、単一のコロニーを数回ピックすることで、全てのコピーが形質転換型に置き換わり、ホモプラズミックな状態の細胞を獲得することができる。 クラミドモナスのミトコンドリアゲノムDNAのサイズは15.8kbであり、直鎖状の分子を構成している。細胞当たりのDNAコピー数は約50コピーである。ミトコンドリアの形質転換にも、上述のような微粒子銃法を用いることができる。また、葉緑体と同様、導入されたDNAは、相同組換えにより、ミトコンドリアゲノムDNAに組み込まれうる。 クロレラの形質転換には、ポリエチレングリコール法(PEG法)、エレクトロポレーション法、アグロバクテリウムのバイナリーベクター法または微粒子銃法等を用いることができる。ボルボックスの形質転換には、微粒子銃法等を用いることができる。 本発明において、好ましい形質転換の方法は、葉緑体形質転換である。 一実施形態では、緑藻を形質転換する方法は、本発明のポリヌクレオチドを含む緑藻形質転換用ベクターと酸化酵素をコードするポリヌクレオチドを含む緑藻形質転換用ベクターの両方で、共形質転換をすることを特徴とする。この場合、酸化酵素をコードするポリヌクレオチドを含む緑藻形質転換用ベクターで緑藻を形質転換する前に、同時に、あるいは後に、本発明のポリヌクレオチドを含む緑藻形質転換用ベクターで該緑藻を形質転換することができる。 好ましい実施形態では、前記酸化酵素はシトクロムP450である。シトクロムP450として、CYP88ファミリー、CYP99ファミリー、CYP701ファミリー、CYP714ファミリー、CYP716ファミリー、CYP720ファミリーなどが例示できる。より好ましい実施形態では、前記酸化酵素はCYP88Aサブファミリー、CYP99Aサブファミリー、CYP701Aサブファミリー、CYP714Aサブファミリー、CYP714Dサブファミリー、CYP716Dサブファミリー、CYP720Bサブファミリーなどが例示できる。さらに好ましい実施形態では、前記酸化酵素はCYP720B1およびCYP720B4などのCYP720Bサブファミリーである。最も好ましい実施形態では、前記酸化酵素はCYP720B1である。前記酸化酵素は、緑藻で酸化酵素活性を有する限り、その由来は限定されない。好ましくは、前記酸化酵素はテーダマツ(Pinus taeda)由来のCYP720B1である。 本発明において用いられ得る酸化酵素をコードするポリヌクレオチドは、その塩基配列に、複数個の塩基置換を導入することにより、そのコドン使用頻度を緑藻での遺伝子転写/翻訳に適したコドン使用頻度を有するように最適化した塩基配列を有するポリヌクレオチドであってもよい。「複数個」とは、改変前の塩基配列において、1〜800個、好ましくは100〜700個、より好ましくは200〜500個、さらに好ましくは300〜400個、最も好ましくは330〜370個である。あるいは、改変前の塩基配列のうち、例えば40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%またはそれより多いヌクレオチドが置換されている。かかる酸化酵素をコードする塩基配列の例として、テーダマツ(Pinus taeda)由来のCYP720B1をコードする塩基配列(配列番号11)を、クラミドモナス用にそのコドンを最適化した、「改変CYP720B1」をコードする塩基配列(配列番号12)が挙げられる。 改変された酸化酵素をコードする遺伝子における上述の塩基置換は、改変前の酸化酵素のアミノ酸配列と比較して、改変された酸化酵素のアミノ酸配列におけるアミノ酸を変化させないものであってもよい。あるいは、改変された酸化酵素が酸化酵素活性を有する限り、改変前の酸化酵素のアミノ酸配列と比較して、改変された酸化酵素のアミノ酸配列におけるアミノ酸を変化させるものであってもよい。 改変された酸化酵素には、改変前の酸化酵素のアミノ酸配列と少なくとも80%以上、例えば80%、85%、90%、92%、94%、96%、97%、98%、99%または100%の配列相同性または配列同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドも含まれる。好ましくは、改変された酸化酵素のアミノ酸配列は、改変前の酸化酵素のアミノ酸配列と少なくとも90%以上の配列相同性または配列同一性を有する。より好ましくは、改変された酸化酵素のアミノ酸配列は、改変前の酸化酵素のアミノ酸配列と少なくとも96%以上の配列相同性または配列同一性を有する。さらに好ましくは、改変された酸化酵素のアミノ酸配列は、改変前の酸化酵素のアミノ酸配列と少なくとも98%以上の配列相同性または配列同一性を有する。最も好ましくは、改変された酸化酵素のアミノ酸配列は、改変前の酸化酵素のアミノ酸配列と100%の配列同一性を有する。 別の態様において、本発明は、本発明の緑藻によって生産されるジテルペンに関する。さらに、酸化酵素を含む本発明の緑藻によって生産されるジテルペン樹脂酸に関する。いずれの場合であっても、当業者であれば、前記緑藻の種類などに応じて、常套的な実験を用いて、ジテルペンおよび/またはジテルペン樹脂酸を生産するための、緑藻の培養条件(培地組成、培養温度、培養時間等)を容易に定めうるものである。 別の態様において、本発明は、本発明の緑藻によってジテルペンを産生し、産生したジテルペンを回収することを含む、ジテルペンを生産する方法に関する。また、酸化酵素を含む本発明の緑藻によってジテルペン樹脂酸を産生し、産生したジテルペン樹脂酸を回収することを含む、ジテルペン樹脂酸を生産する方法に関する。さらに、本発明の緑藻によってジテルペンを産生し、産生したジテルペンを回収すること、ならびに、回収されたジテルペンを化学的・工業的に酸化させることを含む、ジテルペン樹脂酸を生産する方法に関する。いずれの場合であっても、当業者であれば、前記緑藻の種類などに応じて、常套的な実験を用いて、培養条件(培地組成、培養温度、培養時間等)を容易に定めることができる。 ジテルペンまたはジテルペン樹脂酸を回収する方法には特に制限はなく、当業者が通常用いる手段が用いられる。例えば、培養した緑藻を回収し、当業者が通常用いる乾燥手段(ドラム乾燥、熱風式乾燥、嘖霧乾燥、凍結乾燥など)によって乾燥させることにより、緑藻の乾燥物を得る。次いで、水および/または有機溶媒を用いた抽出、機械的破碎(例えば、ビーズビータ一など)もしくは圧搾、またはこれらを組み合わせた抽出が行われる。水および/または有機溶媒を用いた抽出を利用した場合には、抽出後、当業者が通常用いる手段によって水および/または有機溶媒が除去される。 本発明により生産されるジテルペンは、例えば、アビエタジエン(abietadiene)(以下、式1)、ネオアビエタジエン(neoabietadiene)(以下、式2)、パルストラジエン(palustradiene)(以下、式3)、ピマラジエン(pimaradiene)(以下、式4)、イソピマラジエン(isopimaradiene)(以下、式5)、レボピマラジエン(levopimaradiene)(以下、式6)、デヒドロアビエタジエン(dehydroabietadiene)(以下、式7)、サンダラコピマラジエン(sandaracopimaradiene)(以下、式8)が挙げられるが、これらに限定されない。 本発明により生産されるジテルペン樹脂酸は、例えば、共役樹脂酸であるアビエチン酸(abietic acid)(以下、式9)、ネオアビエチン酸(neoabietic acid)(以下、式10)およびパラストリン酸(palustric acid)(以下、式11)、ならびに非共役樹脂酸であるピマール酸(pimaric acid)(以下、式12)、イソピマール酸(isopimaric acid)(以下、式13)、レボピマール酸(levopimaric acid)(以下、式14)およびデヒドロアビエチン酸(dehydroabietic acid)(以下、式15)、サンダラコピマール酸(sandaracopimaric acid)(以下、式16)が挙げられるが、これらに限定されない。 本発明の方法を用いて生産されたジテルペン樹脂酸は、そのままの態様で、または他のジテルペン樹脂酸などと混合して、ロジン代替物として用いることができる。すなわち、本発明は、本発明の方法を経て得られたジテルペン樹脂酸および/または本発明の方法を用いて得られたジテルペン樹脂酸を含む、ロジン代替物に関する。本発明の方法を経て得られたジテルペン樹脂酸とは、例えば、本発明の方法を用いて得られたジテルペンを酸化することによって得られた、ジテルペン樹脂酸である。本明細書において「ロジン」とは、マツ科の植物の樹液である松脂を蒸留して製造される、樹脂酸を主成分とする天然樹脂をさす。「ロジン代替物」とは、マツ科の植物以外の生物資源を原料として製造される、ロジンと同様の特性を有する樹脂様物質をさす。ロジン代替物は、共役樹脂酸であるアビエチン酸、ネオアビエチン酸およびパラストリン酸、ならびに非共役樹脂酸であるピマール酸、イソピマール酸およびデヒドロアビエチン酸等を主成分とする。前記ロジン代替物は、例えば、トールロジン代替物、ガムロジン代替物またはウッドロジン代替物である。トールロジン代替物は、例えば、30〜45重量%のアビエチン酸;2〜5重量%のネオアビエチン酸;10〜15重量%のパラストリン酸;3〜8重量%のピマール酸;4〜10重量%のイソピマール酸;および15〜25重量%のデヒドロアビエチン酸を含む。ガムロジン代替物は、例えば、20〜40重量%のアビエチン酸;15〜25重量%のネオアビエチン酸;20〜30重量%%のパラストリン酸;3〜8重量%のピマール酸;10〜20重量%のイソピマール酸;および3〜8重量%のデヒドロアビエチン酸を含む。ウッドロジン代替物は、例えば、35〜45重量%のアビエチン酸;2〜10重量%のネオアビエチン酸;10〜20重量%のパラストリン酸;5〜8重量%のピマール酸;10〜15重量%のイソピマール酸;および10〜15重量%のデヒドロアビエチン酸を含む。 本発明のロジン代替物の酸価、軟化点および等級は、例えば、以下の表1の通りである。 別の態様において、本発明は、本発明の方法を用いて生産されたジテルペンおよび/またはジテルペン樹脂酸を用いることを特徴とする、ロジン代替物を生産する方法に関する。前記ロジン代替物は、例えば、トールロジン代替物、ガムロジン代替物またはウッドロジン代替物である。トールロジン代替物を生産する方法は、例えば、30〜45重量%のアビエチン酸;2〜5重量%のネオアビエチン酸;10〜15重量%のパラストリン酸;3〜8重量%のピマール酸;4〜10重量%のイソピマール酸;および15〜25重量%のデヒドロアビエチン酸を混合する工程を含む。ガムロジン代替物を生産する方法は、例えば、20〜40重量%のアビエチン酸;15〜25重量%のネオアビエチン酸;20〜30重量%%のパラストリン酸;3〜8重量%のピマール酸;10〜20重量%のイソピマール酸;および3〜8重量%のデヒドロアビエチン酸を混合する工程を含む。ウッドロジン代替物を生産する方法は、例えば、35〜45重量%のアビエチン酸;2〜10重量%のネオアビエチン酸;10〜20重量%のパラストリン酸;5〜8重量%のピマール酸;10〜15重量%のイソピマール酸;および10〜15重量%のデヒドロアビエチン酸を混合する工程を含む。 以下に実施例を示して本発明を具体的かつ詳細に説明するが、実施例は本発明の例示のために用いられ、限定を意図するものではない。1.改変LAS遺伝子の作製(図1−1〜図1−4) 改変LAS遺伝子は、オウシュウトウヒ(Picea abies)由来のレボピマラジエン/アビエタジエン合成酵素(PaLAS)のORFの塩基配列(配列番号2)を基に、コドン使用頻度をクラミドモナスの葉緑体のものに最適化することで作製した。OptimumGene(商標) Codon Optimization Technologyを利用して、コドンの最適化および改変LAS遺伝子を含む人工合成遺伝子(配列番号13)の合成を行った。合成した改変LAS遺伝子を含む人工合成遺伝子は、5’→3’の方向に、制限酵素NdeI切断部位−改変LAS遺伝子(配列番号1から終止コドン「TAA」を除いた配列)−8×Glyスペーサー配列をコードする配列(配列番号10)−FLAGタグ配列(配列番号14)をコードする配列−終止コドン「TAA」−制限酵素XbaI切断部位を有する。なお、NdeI切断部位の第4〜6番目のヌクレオチドATGは、改変LAS遺伝子の開始コドンに該当する。 図1−1〜図1−4に、改変LAS遺伝子(配列番号1)と、PaLAS遺伝子(配列番号2)の配列比較を示す。2.改変LAS遺伝子含有ベクターの作製(図2) クラミドモナスゲノムDNAを鋳型に、プライマーセット(16S_Pro_Fw_BglII(配列番号15)/16S_Pro_Rv_KasI(配列番号16))を用いて16Sプロモーター配列を取得した。同様に、プライマーセット(atpA5’_Fw_KasI(配列番号17)/atpA5’_Rv_NdeI_1(配列番号18))を用いてatpA5’UTR配列を取得した。pCL314ベクター(松尾拓哉博士(名古屋大学)より分譲。名古屋大学にて分譲可能な状態で保存されている。)を鋳型に、プライマーセット(rbcL3’_Fw_XbaI(配列番号19)/rbcL3’_Rv(配列番号20))を用いてrbcL3’UTR配列を取得した。これらの断片をpT7Blue−T (Novagen)にクローニングし、pT7BT/16S、pT7BT/atpA5およびpT7BT/rbcL3を構築した。pT7BT/atpA5をKasIおよびNdeIで消化した。得られた断片を、KasIおよびNdeIで消化したpT7BT/16Sにライゲーションさせ、pT7BT/16S−atpA5を構築した。pT7BT/16S−atpA5をSmaIおよびXbaIで消化した。得られた断片を、HincIIおよびXbaIで消化したpT7BT/rbcL3にライゲーションさせ、pT7Blue T−vec/16S−atpA5’::rbcL3’を構築した。 骨格ベクターとしてpCTS3(Matsuo T,ら、MOLECULAR AND CELLULAR BIOLOGY、Feb.2006、p.863−870)、サブクローニングのためのベクターとしてpHSG/PtufA::TatpB(Matsuo T,ら、MOLECULAR AND CELLULAR BIOLOGY、Feb.2006、p.863−870)およびpT7Blue T−vec/16S−atpA5’::rbcL3’を用いて、改変LAS遺伝子を含有するクラミドモナス葉緑体用形質転換ベクターを構築した。具体的には、実施例1で作製した人工合成遺伝子を制限酵素NdeIおよびXbaIで消化し、NdeIおよびXbaIで消化したpHSG/PtufA::TatpBまたはpT7Blue T−vec/16S−atpA5’::rbcL3’とライゲーションした。構築したpHSG/PtufA::LAS_Cr_opt::TatpBおよびpT7Blue T−vec/16S−atpA5’::LAS_Cr_opt::rbcL3’ベクターをBamHIで消化し、BglIIで消化したpCTS3とライゲーションした。プラスミドDNAの抽出、DNAの電気泳動、DNAの制限酵素による消化、平滑化、ライゲーション、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などの操作は、従来法(Sambrookら、1989)に従って行った。 ベクター構築の宿主には、大腸菌DH5α(ライフテクノロジーズ株式会社)を使用した。大腸菌の培養は、LB培地(Sambrookら、1989)を用いて行い、必要に応じてそれぞれ最終濃度50μg/mLのアンピシリン、25μg/mLのクロラムフェニコールを培地に添加した。大腸菌の形質転換は従来法(Sambrookら、1989)に従って行った。DNAの塩基配列の決定は、3130xl Genetic Analyzer(Applied Biosystems Japan, Tokyo, Japan)を用いて、メーカーのマニュアルに従って行った。決定した塩基配列は、塩基配列解析ソフトであるGENETYX−WIN(GENETYX Corp.)を用いて解析した。 構築したベクター「PaLAS/PtufA−TatpB in pCTS3」および「PaLAS/16S−atpA−rbcL in pCTS3」を、図2AおよびBに示す。各ベクターは、表2に示すようにプロモーター配列、5’非翻訳領域(UTR)および3’非翻訳領域(UTR)を含む。さらに、各ベクターは、葉緑体ゲノムDNAへの相同性組換え効率を上げるため、葉緑体ゲノムDNAに相同な配列(左アームおよび右アーム)を含む。3.クラミドモナスの形質転換 微粒子銃法(Minagawa Jら, Photosynth. Res. 42:121−131)により、クラミドモナス・ラインハーディの葉緑体に、実施例2で構築したベクターを導入した。形質転換の宿主には、クラミドモナス・ラインハーディ変異株ΔD2−2(皆川純博士(北海道大学)より分譲)を用いた。このΔD2−2は、クラミドモナス・ラインハーディ野生株2137mt+を遺伝的背景にもつpsbD欠失株であり、光合成能を欠く。形質転換後、HMS培地(1.5%アガー含有)で、恒明条件下、24℃で3週間程度培養し、光合成能の修復の有無により形質転換体を選択した。さらに、選択圧下、単一のコロニーを数回ピックして、ホモプラズミックな形質転換体を単離した。4.改変LAS遺伝子の確認(図3) 実施例3で作製した改変LAS遺伝子を含む緑藻が、改変LAS遺伝子を有することを確認するため、PCR解析を行った。まず、緑藻を従来法(Caoら,Protoplasma,Mar. 2009,235, p. 107−110)に従って全細胞抽出物を獲得した。次に、その抽出物を鋳型に、葉緑体ゲノム特異的または挿入遺伝子特異的なプライマーセットを用いて、PCRを行った。用いたプライマーセットは表3の通りである。PCRサイクル条件は以下の通りである;(ディネイチャー98℃;アニーリング50℃;エクステンション72℃、4分;35サイクル)。陰性対照として、ベクターを導入していないΔD2−2の全細胞抽出物を鋳型としてPCRを行った。 PCR解析の結果を図3に示す。図3Aは、葉緑体ゲノム特異的プライマーを用いたPCRの結果である。陰性対照(NC)では115bpのバンドが、形質転換体では3600bpのバンドが確認できた。これは、形質転換体の葉緑体ゲノムにDNAが挿入されていることを示している。また、図3Bは、挿入遺伝子特異的プライマーを用いたPCRの結果である。各形質転換体でバンドが確認され、改変LAS遺伝子が挿入されていることがわかる。5.LASタンパク質の検出(図4) 実施例3で作製した改変LAS遺伝子を含む緑藻が、改変LASを産生しているかを確認するために、ウェスタンブロット解析を行った。TAP液体培地で4日間培養した菌体を遠心操作によって回収した。回収した菌体を溶解バッファー(0.2Mリン酸塩 pH7.5、1%Triton X−100、プロテアーゼ阻害剤)に懸濁した。さらに超音波処理によって可溶化させ、遠心操作を行った。上澄みを可溶性画分とし、沈殿物に変性溶解結合バッファー(7M尿素、100mM NaH2PO4、100mM トリス−HCl pH8.0)を加え不溶性画分とした。これをSDS−PAGEの試料とした。12.5% アクリルアミドゲル、10倍希釈ランニングバッファー溶液(10x)SDS−PAGE用、トリス−グリシン(ナカライテスク)を用い、200V、20mA、100分間の電気泳動を行なった。メンブレンにImmobilon(登録商標)−Pトランスファーメンブレン(Millipore)を使用した。12V、300mAで60分間電圧をかけ、ブロッティングを行なった。一次抗体にモノクローナル抗−FLAG(登録商標)M2、クローンM2(SIGMA)、Easy−Western Super(Beacle, Inc.)およびLuminate(商標)Forte Western HPR Substrate(Millipore)を用い、添付のプロトコルに従って反応を行なった。シグナルはTyphoon FLA7000を用いて検出した。 ウェスタンブロットの結果を図4に示す。形質転換体の不溶性画分に93kDaのバンドが確認できる。これは、改変LASが形質転換体において産生されていることを示す。6.ジテルペンの検出(図5〜8) 上記形質転換による、遺伝子組換え緑藻としての遺伝子組換えクラミドモナスが、ジテルペンを産生していることを、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC−MS法)により解析した。解析には、クラミドモナス培養物のn−ペンタン抽出物を用いた。菌体を播種した200ml TAP培養液を恒明条件、24℃、135rpmの振とうで4日間培養した。サンプル25mlに対して10から15mlのn−ペンタンを加えて混合した後、n−ペンタン抽出物を回収した。この操作を3回繰り返した。n−ペンタン抽出物に約5gの硫酸ナトリウムを加え、脱脂綿を詰めたろうとでn−ペンタン抽出物を濾過した。得られたn−ペンタン抽出物を減圧下で約1mlになるように濃縮し、GC−MS分析の試料として用いた。GC−MSは、Automass(JEOL)−6890N(Agilent technologies社)を、カラムは、HP−5MSカラム(J&W Scientific社;0.25mm×30m;0.25μm film thickness)を用い、以下の条件で生成物を分析した。カラムオーブンの昇温条件は60℃から280℃まで毎分3℃で昇温し、280℃で6分40秒保持とした。インジェクション温度は250℃、GCインターフェイス温度は280℃とした。キャリアガスにはヘリウムを用い、流速は毎分0.7mL、サンプル注入量1μL、スプリット比1:10とした。質量分析計は電子イオン化法を用い、イオン化エネルギーは70eV、イオン源温度は250℃とした。m/z:40−350について1回0.5秒でスキャンした。 GC−MSの結果を図5〜8に示す。遺伝子組換えクラミドモナス抽出物からは、ジテルペンと見られる3種類の化合物が検出された。GC解析では、陰性対照(NC)である形質転換をしていないΔD2−2株と比較して、図5の1〜3で示されるピークが確認できた。図6〜8はそれぞれのピークのMS解析結果である。図6Aに示されるピーク1のMS解析結果は、図6Bに示されるレボピマラジエンのMS解析結果(Martinら, 2004, Plant Physiol., 135:1908−1927)と合致した。これより、遺伝子組換えクラミドモナスは、ジテルペンの一つであるレボピマラジエンを産生していることが示された。また、図7Aに示されるピーク2のMS解析結果は、図7Bに示されるアビエタジエンのMS解析結果(Martinら, 2004)と合致した。これより、遺伝子組換えクラミドモナスが、ジテルペンの一つであるアビエタジエンを産生していることが示された。さらに、図8Aに示されるピーク3のMS解析結果は、図8Bに示されるネオアビエタジエンのピークMS解析結果(Martinら, 2004)と合致した。これより、遺伝子組換えクラミドモナスが、ジテルペンの一つであるネオアビエタジエンを産生していることが示された。7.改変CYP720B1遺伝子の作製(図9−1〜図9−3) 改変CYP720B1遺伝子は、テーダマツ(Pinus taeda)由来CYP720B1遺伝子のORFの塩基配列(配列番号11)を基に、コドン使用頻度をクラミドモナスの葉緑体のものに最適化することで作製した。OptimumGene(商標) Codon Optimization Technologyを利用して、コドンの最適化および改変CYP720B1遺伝子を含む人工合成遺伝子(配列番号26)の合成を行った。合成した改変CYP720B1遺伝子を含む人工合成遺伝子は、5’→3’の方向に、制限酵素NdeI切断部位−改変CYP720B1遺伝子(配列番号12から終止コドン「TAA」を除いた配列)−8×Glyスペーサー配列をコードする配列(配列番号10)−FLAGタグ配列(配列番号14)をコードする配列−終止コドン「TAA」−制限酵素XbaI切断部位を有する。なお、NdeI切断部位の第4〜6番目のヌクレオチドATGは、改変CYP720B1遺伝子の開始コドンに該当する。 図9−1〜図9−3に、改変CYP720B1遺伝子(配列番号12)と、テーダマツ由来CYP720B1遺伝子(配列番号11)の配列比較を示す。8.テーダマツ(Pinus taeda)由来CYP720B1遺伝子をさらに含む、改変LAS遺伝子含有ベクターの作製(図10) 酸化酵素をさらに含む、改変LAS遺伝子含有緑藻葉緑体用形質転換ベクターを構築した。実施例7で作製した人工合成遺伝子を制限酵素NdeIおよびXbaIで消化し、NdeIおよびXbaIで消化したpHSG/PtufA::TatpBまたはpT7Blue T−vec/16S−atpA5’::rbcL3’とライゲーションした。調製されたpHSG/PtufA::CYP720B1_Cr_opt::TatpBおよびpT7Blue T−vec/16S−atpA5’::CYP720B1_Cr_opt::rbcL3’をBamHIで消化し、BglIIで消化したpCTS3とライゲーションした。pHSG/PtufA::LAS_Cr_opt::TatpBをBamHIで消化し、BglIIで消化したpCTS3/16S−atpA5’::CYP720B1_Cr_opt::rbcL3’とライゲーションした。また、pHSG/PtufA::CYP720B1_Cr_opt::TatpBをBamHIで消化し、BglIIで消化したpCTS3/16S−atpA5’::PaLAS_Cr_opt::rbcL3’とラーゲーションした。 構築したベクター「CYP720B1/16S−atpA−rbcL PaLAS/PtufA−TatpB」および「PaLAS/16S−atpA−rbcL CYP720B1/PtufA−TatpB」を、図10AおよびBに示す。各ベクターは、表4に示すようにプロモーター配列、5’非翻訳領域(UTR)および3’非翻訳領域(UTR)を含む。さらに、各ベクターは、葉緑体ゲノムDNAへの相同性組換え効率を上げるため、葉緑体ゲノムDNAに相同な配列(左アームおよび右アーム)を含む。9.改変LAS遺伝子および改変CYP720B1遺伝子を含むベクターでのクラミドモナスの形質転換(図11) 実施例8で作製した、改変LAS遺伝子および改変CYP720B1遺伝子を含むベクターを用いて、実施例3と同様に、クラミドモナスを形質転換した。単離した遺伝子組換えクラミドモナスについて、実施例4と同様に、PCR解析よって遺伝子の挿入を確認した。用いた挿入遺伝子特異的プライマーは表5の通りである。PCRの結果を図11に示す。10.ジテルペン樹脂酸の検出 実施例9で作成したクラミドモナス形質転換体から、実施例5と同様に、発現した酵素タンパク質の確認をすることができる。また実施例6と同様に、かかる遺伝子組換えクラミドモナスによって産生されたジテルペンの確認をすることができる。さらに、当技術分野における常套的な手段を用いて、かかる遺伝子組換えクラミドモナスによって産生されたジテルペン樹脂酸を確認することができる。 本発明によれば、緑藻を用いてジテルペンおよびジテルペン樹脂酸を生産することができる。また、そのようにして得られたジテルペン樹脂酸は、ロジン代替物として用いることができる。したがって、本発明は、製紙用サイズ剤、合成ゴム用乳化剤、塗料、接着剤、滑り止め剤、香料、化粧品、医薬品などの分野において利用可能である。配列番号1:改変LAS遺伝子配列番号2:オウシュウトウヒ(Picea abies)由来LAS(PaLAS)遺伝子配列番号3:PaLASアミノ酸配列配列番号4:PaLAS輸送ペプチド配列配列番号5:N末端切断型PaLASアミノ酸配列配列番号6:TufAプロモーター配列配列番号7:16S rRNAプロモーター配列−atpA遺伝子の5’UTR配列配列番号8:atpB遺伝子の3’UTR配列配列番号9:rbcL遺伝子の3’UTR配列配列番号10:8×Glyスペーサー配列をコードする配列配列番号11:テーダマツ(Pinus taeda)由来CYP720B1遺伝子配列番号12:改変CYP720B1遺伝子配列番号13:改変LAS遺伝子を含む合成塩基配列配列番号14:FLAGタグ配列配列番号15:プライマー16S_Pro_Fw_BglII配列番号16:プライマー16S_Pro_Rv_KasI配列番号17:プライマーatpA5’_Fw_KasI配列番号18:プライマーatpA5’_Rv_NdeI_1配列番号19:プライマーrbcL3’_Fw_XbaI配列番号20:プライマーrbcL3’_Rv配列番号21:プライマーpCTS3_4676_Fw配列番号22:プライマーpCTS3_4790_Rv配列番号23:プライマーPtufA_Fw配列番号24:プライマーTatpB_Rv配列番号25:プライマー1514/PaLASCroptFw1904配列番号26:改変CYP720B1遺伝子を含む合成塩基配列配列番号27:プライマー1818/PaLAS_CroptRv218配列番号28:プライマー1819/CYP720B1_CroptRv215 緑藻用にコドンが改変されていることを特徴とする、ジテルペン環化酵素をコードするポリヌクレオチド。 ジテルペン環化酵素がTPS−d3サブファミリーから選択される、請求項1に記載のポリヌクレオチド。 ジテルペン環化酵素がPbmdiTPS1、PcmdiTPS1、PcmdiTPS2、PcmdiTPS3、PbmISO1、PcmISO1、PbmPIM1、PcmPIM1、GbLS、AbCAS、AbISO、AbLAS、AgAS、PbLAS1、PtLAS、PcLAS2、PcLAS1、PsiISO、PaISO、PsiLAS、およびPaLASからなる群から選択される、請求項2に記載のポリヌクレオチド。 配列番号1に記載の塩基配列を有するポリヌクレオチド。 配列番号1に記載の塩基配列と少なくとも90%以上の配列同一性を有する塩基配列を有するポリヌクレオチドであって、ジテルペン環化酵素活性を有するポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド。 請求項1〜5のいずれか一つに記載のポリヌクレオチドを含む、緑藻形質転換用ベクター。 酸化酵素をコードするポリヌクレオチドをさらに含む、請求項6に記載のベクター。 前記酸化酵素がシトクロムP450である、請求項7に記載のベクター。 前記酸化酵素がCYP720B1である、請求項8に記載のベクター。 請求項1〜5のいずれか一つに記載のポリヌクレオチドを含む、緑藻。 酸化酵素をコードするポリヌクレオチドをさらに含む、請求項10に記載の緑藻。 請求項6に記載のベクターで形質転換することにより作製される、請求項10に記載の緑藻。 請求項7〜9のいずれか一つに記載のベクターで形質転換することにより作製される、請求項11に記載の緑藻。 前記緑藻がクラミドモナス目(Chlamydomonadales)、ボルボックス目(Volvocales)またはクロロコックム目(Chlorococcales)である、請求項10〜13のいずれか一つに記載の緑藻。 前記緑藻がクラミドモナス属(Chlamydomonas)である、請求項14に記載の緑藻。 前記緑藻がクラミドモナス・ラインハーディ(Chlamydomonas reinhardtii)である、請求項15に記載の緑藻。 請求項6〜9のいずれか一つに記載のベクターを用いて緑藻を形質転換することを特徴とする、緑藻を形質転換する方法。 請求項10または12に記載の緑藻によって生産される、ジテルペン。 請求項11または13に記載の緑藻によって生産される、ジテルペン樹脂酸。 請求項10または12に記載の緑藻によってジテルペンを産生し、産生したジテルペンを回収することを含む、ジテルペンの生産方法。 請求項11または13に記載の緑藻によってジテルペン樹脂酸を産生し、産生したジテルペン樹脂酸を回収することを含む、ジテルペン樹脂酸の生産方法。 請求項20に記載の方法を経て得られたジテルペン樹脂酸および/または請求項21に記載の方法を用いて得られたジテルペン樹脂酸を含む、ロジン代替物。 【課題】新規な緑藻、ジテルペンおよびジテルペン樹脂酸の供給源、ならびにそれらの生産方法を提供する。【解決手段】緑藻用に最適化した改変ジテルペン環化酵素遺伝子を導入した緑藻を用いて、ジテルペンを生産する。また、改変ジテルペン環化酵素遺伝子および酸化酵素遺伝子を導入した緑藻を用いて、ロジン代替物としてのジテルペン樹脂酸を生産する。さらに、改変ジテルペン環化酵素遺伝子および緑藻用に最適化した改変酸化酵素遺伝子を導入した遺伝子組換え緑藻を用いて、ロジン代替物としてのジテルペン樹脂酸を生産する。【選択図】図11配列表


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