タイトル: | 公開特許公報(A)_pH指示薬 |
出願番号: | 2013182188 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | G01N 31/22,G01N 21/78,G01N 21/80 |
溝口 律子 橋本 秀樹 JP 2015049188 公開特許公報(A) 20150316 2013182188 20130903 pH指示薬 公立大学法人大阪市立大学 506122327 野河 信太郎 100065248 甲斐 伸二 100159385 金子 裕輔 100163407 稲本 潔 100166936 冨田 雅己 100174883 溝口 律子 橋本 秀樹 G01N 31/22 20060101AFI20150217BHJP G01N 21/78 20060101ALI20150217BHJP G01N 21/80 20060101ALI20150217BHJP JPG01N31/22 123G01N21/78 CG01N21/80 8 OL 18 特許法第30条第2項適用申請有り 平成25年3月8日 公益社団法人日本化学会発行の「日本化学会第93春季年会 2013年 講演予稿集」、 平成25年3月24日 公益社団法人日本化学会主催の「日本化学会第93春季年会(2013)」、 平成25年3月5日 一般社団法人日本物理学会発行の「日本物理学会講演概要集 第68回年次大会」および 平成25年3月28日 一般社団法人日本物理学会主催の「日本物理学会第68回年次大会」において発表 2G042 2G054 2G042AA01 2G042BB03 2G042FA12 2G054AA03 2G054AA08 2G054CA03 2G054CE02 2G054EA03 2G054GB02 2G054GB04 本発明は、クロロフィルc若しくはその誘導体又はそれらの塩のpH指示薬としての使用に関する。より具体的には、クロロフィルc若しくはその誘導体又はそれらの塩を含んでなるpH指示薬若しくはpH測定キット又はそれらを使用するpH測定法に関する。 pHの測定は、化学及び生物などの分野において重要である。 発光を原理とするpH応答有機分子(蛍光物質)については、1980年代より様々な取り組みがなされており(特許文献1)、近年では有機分子の難点である安定性、測定するpH範囲の拡大を狙って半導体や無機材料に吸着させて安定性を向上させたものが報告されている(特許文献2及び3)。特表2010-508295号公報特開2008-8893号公報特開2009-161427号公報 上記のような従来のpH指示薬又はセンサーには、半導体や無機材料は廃棄にコストがかかり、特殊な照射光源や検出器を必要とするなどの問題がある。また、pH応答有機分子を用いる場合、天然には存在しない化合物(合成色素)であるために廃液処理の問題が生じ、コストパフォーマンスが悪いという問題がある。更に、色の変化を観察する比色型については定量的な判断が困難であるという問題が存在する。 ところで、クロロフィルcは、珪藻類や褐藻類などの真核性藻類に広く存在している天然色素である。一般的なクロロフィルであるクロロフィルa、バクテリオクロロフィルaなどに比べると励起状態に関する情報は少ない。本発明者らは、クロロフィルcの光学特性について鋭意研究を行った結果、クロロフィルc及びその172位のカルボキシル基以外で誘導体化された誘導体の蛍光がpH依存性を有すること、したがってこの特性を利用して新たなpH指示薬を提供できることを見出した。 よって、本発明の目的は、クロロフィルc若しくはその172位のカルボキシル基以外で誘導体化された誘導体又はそれらの塩のpH指示薬としての用途を提供することである。 本発明は、クロロフィルc若しくはその172位のカルボキシル基以外で誘導体化された誘導体又はそれらの塩を含んでなるpH指示薬を提供する。 本発明はまた、前記pH指示薬を含む容器を含んでなるpH測定キットを提供する。 本発明はまた、前記pH指示薬を測定サンプルに接触させること;励起光を照射して、pH指示薬に蛍光を生じさせること;生じた蛍光を、pH標準液中の当該pH指示薬からの蛍光と比較してpHを決定すること を含んでなるpH測定法を提供する。 本発明はまた、前記pH指示薬を測定サンプルに接触させること;励起光を照射して、pH指示薬に蛍光を生じさせること;生じた蛍光の強度を計測し、該強度からpHを決定すること を含んでなるpH測定法を提供する。 本発明はまた、クロロフィルc若しくはその172位のカルボキシル基以外で誘導体化された誘導体又はそれらの塩のpH指示薬としての使用を提供する。 本発明のpH指示薬は、pHを蛍光強度のみに基いて測定でき、測定系が単純で済む。 クロロフィルc(天然物)を使用する場合、毒性がない(誤って経口摂取しても問題がない)ので、グリーンケミストリーを指向する近年の社会的ニーズに答えられる。酸解離平衡にある物質の蛍光強度F(蛍光量子収率)とpHとの間の理論上の関係を示す図である。Chl c1の吸収スペクトルのpH依存性を示す図である。pH 4.8及び9.0におけるChl c1のブラックライト励起による蛍光発光の様子を示す図である。Chl c1の蛍光スペクトル(励起波長:448.5 nm)のpH依存性を示す図である。Chl c1の蛍光量子収率比のpH依存性を示す図である。Chl c2の吸収スペクトルのpH依存性を示す図である。Chl c2の蛍光スペクトル(励起波長:452 nm)のpH依存性を示す図である。Chl c2の蛍光量子収率比のpH依存性を示す図である。脱Mg Chl c2の吸収スペクトルのpH依存性を示す図である。脱Mg Chl c2の蛍光スペクトル(励起波長:430 nm)のpH依存性を示す図である。脱Mg Chl c2の蛍光量子収率比のpH依存性を示す図である。Chl aの吸収スペクトル及び蛍光スペクトル(励起波長:432 nm)のpH非依存性を示す図である。メチルエステル化Chl c1の吸収スペクトル及び蛍光スペクトル(励起波長:432 nm)のpH非依存性を示す図である。<pH指示薬> 本発明のpH指示薬は、クロロフィルc若しくはその172位のカルボキシル基以外で誘導体化された誘導体を含んでなることを特徴とする。 クロロフィルc若しくはその172位のカルボキシル基以外で誘導体化された誘導体又はそれらの塩は、pH応答性として、発光量の変化が大きい一方、吸収や蛍光のピークシフト(色変化)はほとんどない。そのため、本発明のpH指示薬は、pHを蛍光強度のみに基いて測定できる。 また、蛍光の量子収率が高く、通常光の下ではほとんど無色の希釈溶液でも、蛍光(強度)は顕著に変化するので、単純な系での測定が可能であり、pH指示薬の使用量も少量で済む(コストパフォーマンスがよい) 本発明において、クロロフィルcとは、環状テトラピロール(C17-C18間が二重結合;すなわち、ポルフィリン環;A〜D環)にシクロペンタン環(E環)が縮環したホルビンの誘導体であり、ポルフィリン環の17位炭素にアクリル酸(2-カルボキシビニル基)が結合した、天然界に見出し得る光合成色素(葉緑素)をいう。クロロフィルcは、例えば、海洋性光合成生物中に見出し得る。代表的なクロロフィルcは、それぞれ下記の化学式で表される構造を有するクロロフィルc1(Chl c1)、クロロフィルc2(Chl c2)及びクロロフィルc3(Chl c3)である。 他のクロロフィル(クロロフィルa、b、d、f、バクテリオクロロフィル)は、環がクロリン環(すなわちC17-C18間が単結合)である点、クロリン環の17位炭素に飽和カルボン酸エステル(例えば、クロロフィルaについてはプロピオン酸エステル)が結合している点でクロロフィルcと異なる。 クロロフィルcの172位のカルボキシル基以外で誘導体化された誘導体(以下「本発明に係る誘導体」とも呼ぶ)は、ホルビンの環骨格(すなわち、ポルフィリン環とシクロペンタン環との縮環構造:A〜E環)及び(ポルフィリン環のC17に結合した)アクリル酸骨格(-C=C-C00H)を保持する誘導体である。本発明に係る誘導体の具体例としては、ポルフィリン環中心に配位する金属が脱離又は置換した誘導体が挙げられる。脱金属化誘導体としては、例えば、フェオフィチンc(例えばフェオフィチンc1、フェオフィチンc2、フェオフィチンc3)が挙げられる。金属置換誘導体において、置き換わり得る金属は、例えば、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、鉄(Fe)であり得る。 本発明に係る誘導体はまた、環外置換基(環を構成しない原子又は原子団)の置換により得られる誘導体であり得る。例えば、本発明に係る誘導体は、ポルフィリン環の2、3、5、7、8、10、12、18、20位の炭素、好ましくは2、3、7、8、12、20位の炭素に置換基を有するものであり得る。置換基としては、水素、ヒドロキシル基、C1〜C3アルキル基、C1〜C3アシル基(特に、ホルミル基及びアセチル基)、ヒドロキシC1〜C3アルキル基、エテニル(ビニル)基が挙げられる。 本発明に係る誘導体は、中心配位金属が脱離又は置換していると同時に、環外置換基が置換していてもよい。 本発明において、塩とは、172位のカルボキシル基の塩である。塩には、アルカリ金属塩、例えばNa塩が含まれる。 クロロフィルcは、クロロフィルcを有する天然物(例えば、海洋性光合成生物)から公知の方法により得ることができる。例えば、藻類から、クロマトグラフィー(例えば、向流クロマトグラフィー及び逆相HPLC)により単離・精製して取得できる。単離・精製の例は、特開2012-122750号公報に記載されている。クロロフィルcを有する海洋性光合成生物としては、例えば、ハプト藻類、クリプト藻類、褐藻類、例えばLauderia annulata、Sargassum spp.、Amphidinium carterae、Chroomonas salina、Emiliania huxleyi、Pycnococcus provasoli、モズク(例えば、オキナワモズク)、コンブ、ワカメなどが挙げられる。 クロロフィルc及び本発明に係る誘導体は、下記の実施例において証明されるように、その蛍光強度にpH依存性がある。すなわち、pH4〜10の範囲、好ましくはpH4.5〜10の範囲、より好ましくはpH5〜10の範囲、より好ましくはpH5.0〜9.5の範囲、更に好ましくはpH5.1〜9.3の範囲において、pHが増加するにつれて(よりアルカリ側で)、蛍光強度が増大する。 ここで、本発明は理論に拘束されるものではないが、クロロフィルc及び本発明に係る誘導体の蛍光スペクトル(特に、強度)のpH依存性は、ポルフィリン環の17位炭素に結合したアクリル酸(カルボキシル基)の構造変化(低pH:-COOH;高pH:-COO-)に起因するのであって、中心金属(有無又は種類)や他の置換基(特に、ポルフィリン環上の置換基)には影響されないと考えられる。 クロロフィルc及び本発明に係る誘導体のポルフィリン環状共役系は、C171=C172結合を介して17位側鎖末端のカルボン酸までπ電子共役系が繋がっている。加えて、不斉炭素原子が1つだけである。よって、pH変化時に起こるラセミ化でも完全なエナンチオマーとなり、光学応答は全く変化がないと考えられる。よって、クロロフィルc及び本発明に係る誘導体の発色団における光応答は、周囲のpHに依存した酸解離平衡モデルで記述できると考えられる。 一般に、酸(XH)の酸解離平衡と蛍光量子収率(蛍光強度)の変化との関係は次のように説明できる。 解離状態(X-:塩基性型)と非解離状態(XH:酸性型)で蛍光スペクトルが異なるとき、波長λで励起した蛍光強度Fは、波長λにおけるモル分子吸光係数と濃度、蛍光の量子収率の積の和に比例し、式(1)のように表すことができる。 励起波長λを等吸収点にとると、となるので、式(1)はと書ける。式(2)に、溶液のpHとpKaとの関係式(ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式):を代入すると式(3)が得られる。 式(3)より、等吸収点で励起した蛍光強度は酸性型と塩基性型の蛍光の量子収率の違いを反映する。すなわち、酸XHの溶液のpHと蛍光強度F(蛍光量子収率)との関係は図1のようになると予想される。 クロロフィルc及び本発明に係る誘導体は、溶液中で、アクリル酸(172位のカルボキシル基)の構造が酸性型(-COOH)及び塩基性型(-COO-)をとり得る。そして、下記実施例で示すように、クロロフィルc1及びc2の蛍光量子収率(比)とpHとの関係は式(3)によって記述でき(図5及び8)、172位のカルボン酸のエステル化によりpH依存性を消失するので、クロロフィルc1及びc2の蛍光スペクトルのpH依存性は酸解離平衡による変化で説明でき、同様に、他のクロロフィルc及び本発明に係る誘導体も、アクリル酸(より具体的には172位のカルボキシル基)の構造変化より蛍光強度のpH依存性を示すと考えられる。 クロロフィルcは天然物(例えば、上記のような海洋性光合成生物)由来であり得る。この場合、本発明のpH指示薬は、その使用後、特別の処理を必要とせず(したがってコストをかけず)に廃却できる(すなわち、環境に優しい)。また、例えば食品を取り扱う場所で使用した際に本発明のpH指示薬が誤って食品に混入してしまい、その食品を摂取したとしても、人に健康被害をもたらす可能性は極めて低い。 本発明のpH指示薬は、クロロフィルc若しくは本発明に係る誘導体又はそれらの塩が溶解している溶媒を含んでいてもよい。溶媒は、水性溶液(水、生理食塩水など)、有機溶剤又は水性溶液と水混合性有機溶剤との混合溶剤であり得る。有機溶剤としては、C1-C3アルコール(例えば、メタノール、エタノール)、アセトン、エチレングリコール、ジメチルホルムアミド、トリエチルアミン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、クロロホルム、塩化メチレン、ジエチルエーテル、ヘキサンなどが挙げられる。溶媒は、好ましくは水混合性有機溶剤又はその水性溶液との混合溶媒、より好ましくは水混合性有機溶剤(特に、エタノール)である。 本発明のpH指示薬は、測定時には溶液の形態であるが、貯蔵時には固体で、使用前に溶媒又は測定サンプル(液)で溶解させる形態であってもよい。 本発明のpH指示薬は、溶液の形態で貯蔵する場合、冷凍保存することが好ましい。<pH測定方法> 本発明の1つのpH測定方法は、上記のpH指示薬を測定サンプルに接触させること;励起光を照射して、pH指示薬に蛍光を生じさせること;生じた蛍光を、pH標準液中の当該pH指示薬からの蛍光と比較してpHを決定すること を含んでなることを特徴とする。 本発明の別のpH測定方法は、上記のpH指示薬を測定サンプルに接触させること;励起光を照射して、pH指示薬に蛍光を生じさせること;生じた蛍光の強度を計測し、該強度からpHを決定すること を含んでなることを特徴とする。 測定サンプルには特に制限はなく、多くの分野においてpH測定の対象となり得るサンプルである。例えば、水溶液や有機溶剤などの溶液、懸濁液又は分散液(後二者についての測定対象は媒体)で有り得る。また、細胞内のpHを測定する場合には細胞質が測定サンプルである。 接触は、適切な容器中で適切な任意の方法で行い得る。pH指示薬を測定サンプル中に加えてもよいし、測定サンプルをpH指示薬中に加えてもよいが、後者が好ましい。pH指示薬が固体形態で提供される場合、pH指示薬は、固体形態のままで測定サンプルと接触させてもよいし、予め溶媒に溶解して液体形態で測定サンプルと接触させてもよい。pH指示薬溶液の溶媒は、上記のとおりである。 接触させるクロロフィルc若しくは本発明に係る誘導体又はそれらの塩の量は、使用する励起光によって、使用する観察/検出方法で観察(検出)可能な程度の蛍光発光を生じる量であれば特に限定されないが、蛍光測定時点でのクロロフィルc若しくは本発明に係る誘導体又はそれらの塩の濃度は、例えば0.03〜6μM、好ましくは0.1〜1μM、より好ましくは0.3〜0.6μMであり得る。 測定サンプルを(液体形態の)pH指示薬中に加える場合、pH指示薬に対して加えるサンプル量は、pH指示薬中のクロロフィルc若しくは本発明に係る誘導体又はそれらの塩の量にもよるが、例えば1/10〜1/2、好ましくは1/8〜1/3、1/5〜1/4(容量比)であり得る。 pH指示薬と測定サンプルとの接触により得られる混合液に、なるべく早急に励起光を照射する。照射までに時間を要する場合には、遮光しておくことが好ましい。 励起光は、使用するクロロフィルc又は本発明に係る誘導体のB帯(B-band)の等吸収点の波長(例えば420〜480nm内、好ましくは430〜470nm内、より好ましくは440〜460nm内の波長)を含む光であることが好ましいが、市販のブラックライト(すなわち、波長300〜400nmの紫外光)を用いることもできる。 pHの決定は、定性的、半定量的又は定量的に行うことができる。ここで、pHの定性的決定/測定とは、サンプル中のpHが所定のpH値より高い若しくは低いこと、又はサンプル中のpHが別のpH値と比べて或るpH値により近いことを決定することをいう。 定性的測定は、例えば目視での比色(輝度の比較)により行うことができる。例えば、pH指示薬を測定サンプルと接触させる際に、並行して、同量のpH指示薬を測定サンプルと同量のpH標準溶液に接触させて、測定サンプル(pH指示薬との混合液)からの蛍光とpH標準溶液(混合液)からの蛍光強度とを比較することによってpHを定性的に決定する。pH標準液は、例えば、pH4.0、pH4.5、pH5.0、pH5.5、pH6.0、pH6.5、pH7.0、pH7.5、pH8.0、pH8.5、pH9.0、pH9.5、pH10.0の中から適宜選択される1以上のpH値をそれぞれ有する1以上の溶液であり得る。pH標準液は、酢酸アンモニウム緩衝液、フタル酸塩緩衝液、中性リン酸塩緩衝液、リン酸塩緩衝液、ホウ酸塩緩衝液、炭酸塩緩衝液、シュウ酸塩緩衝液であり得る。 定量的測定においては、測定サンプル(混合液)からの蛍光強度を計測し、得られた値を検量線に内挿することによってpHを決定することができる。検量線は、測定サンプルのpH測定の前に予め作成しておいてもよいし、測定サンプルのpH測定と並行して作成してもよい。 蛍光強度は、公知の方法により、例えば一般的な蛍光光度計を用いて計測することができる。蛍光強度は全波長域について計測してもよいし、特定の波長域について計測してもよい。特定の波長域は、630〜720nmを含む波長域であり得、例えば620〜750nm又は600〜800nmであり得る。 より高精度な測定のためには、蛍光強度の計測の前又は後に、測定サンプル(混合液)の特定波長での吸光度(測定サンプル(混合液)中のクロロフィルc若しくは本発明に係る誘導体又はそれらの塩の濃度を反映)を測定し、得られた吸光度で蛍光強度をノーマライズする。これにより、pH指示薬中のクロロフィルc若しくは本発明に係る誘導体又はそれらの塩の濃度や励起光の強度の影響を排除でき、より正確なpHの決定が可能となる。吸光度測定のための特定波長は、例えば、等吸収波長近辺の波長(例えば420〜480nmの波長)であり得る。 より簡便な測定(半定量的測定)には、デジタルカメラで得られる画像データから求めた蛍光強度を用いることができる。得られた値を検量線に内挿するか又は所定のpH値に対して得られている強度若しくは並行して得られたpH標準溶液(混合液)からの強度と比較してpH値を決定する。このような半定量的測定は、比較的安価で小型の装置(例えば、デジタルカメラとポータブルコンピュータ)で行えるため、任意の場所で、低コストに測定できる。<pH測定キット> 本発明のpH測定キットは、上記のpH指示薬を含む容器を含んでなることを特徴とする。 pH指示薬を含む容器は、例えばガラス製やプラスチック製の容器(例えば、バイアル、チューブ)である。容器は、そのまま蛍光強度測定に使用できるように透明であってもよいし、遮光されていてもよい。透明容器の場合、該容器は更に遮光容器内に収容されていることが好ましい。 容器内のpH指示薬は、固体形態、特に乾燥固体形態であることが好ましい。乾燥固体形態(例えばフィルム状)のpH指示薬は、溶液形態のpH指示薬を容器内に注ぎ、溶媒の蒸発により乾固させることによって製造することができる。なお、封管(適切な場合には溶媒の蒸発〜封管まで)は、不活性気体(例えば窒素)雰囲気下又は減圧下で行ってもよい。 pH指示薬が乾燥固体形態で提供される場合、本発明のキットは溶解用の溶媒を更に含んでなる。溶媒としては上記「pH指示薬」の項に記載したものであり得る。 pH指示薬を含む容器内は無酸素又は低酸素状態であることが好ましい。pH指示薬を含む容器内には不活性気体(例えば窒素)が充填されていてもよい。 本発明のキットは、検量線若しくは所定のpH値についての蛍光強度が記載された指示書若しくはデータシート又は検量線若しくは蛍光強度のデータが格納された記憶媒体(フロッピーディスク、メモリカード、USBメモリなど)を更に含み得る。 1つの実施形態において、本発明のpH測定キットは、pH指示薬を含む2以上の容器及び1以上のpH標準液を含んでなることを特徴とする。2以上の容器の各々は、同量のpH指示薬を含むことが好ましい。pH標準液は上記「pH測定法」の項に記載したものであり得る。 本発明のpH測定キットは、上記のpH測定法における使用に好適である。1.クロロフィル及びクロロフィル誘導体の単離・精製・調製1.1 Chl c1及びChl c2の単離・精製 オキナワモズク抽出液から、高速向流クロマトグラフィー(HSCCC)及び高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、Chl c1及びChl c2を単離・精製した。 オキナワモズク抽出液は、以下のように作製した。 凍結乾燥オキナワモズク盤状体に、メタノール/アセトン(容量比7/2)を、凍結乾燥前の重量10gあたり45 mL加えてゴムベラでつぶし、撹拌後、遠心分離した(10000 rpm、5分間、4℃、CR20G, CR22GIII、R18A3ローター、HITACHI)。ろ紙でろ過し、得られたろ液をエバポレータで乾燥させた。これにエタノール/アセトン/ヘキサン/水(容量比5/5/5/2)の二相系溶媒を加えて、上相と下相に分離させ、下相を抽出液として用いた。 抽出液から、先ず、HSCCCによりChl c1及びChl c2の混合物を分離した。 HSCCCには、クツワ産業社製EASY PRERP320(カラム容量320 mL)を使用し、二相溶媒系としてエタノール/アセトン/ヘキサン/水(容量比5/5/5/2)を用いた。上相を固定相、下相を移動相とした。440 nmの吸光度変化(検出器:SPD-M10AVP、島津製作所、分取用セル)からChl c1及びChl c2の混合物の溶出を確認し、該当画分を採取した。 次いで、得られた混合物から、逆相HPLCによりChl c1及びChl c2の各々を単離・精製した。HPLCには、カラムとしてInertsil ODS-P, 5 μm, 10×250 mm(又は10×150 mm)、GL Sciences Incを使用し、展開溶媒としてメタノール/アセトニトリル/水(容量比400/75/25;50 mM酢酸アンモニウム pH 5.25)を用いた。440 nm及び660 nmの吸光度変化(検出器:SPD-M20A、島津製作所、分析用セル)からChl c1及びChl c2の溶出を確認し、該当画分を採取した。 得られたサンプル画分をジクロロメタンで溶媒置換して、乾燥させることにより、Chl c1及びChl c2を得た。逆相HPLCによる分析プロファイルにおいて、440 nmでの吸光度ピークの面積比から純度を求めたところ、95%以上であった。1.2 Chl aの単離・精製 スピルリナ抽出液からHPLC(カラム:ODS5C18-AR-II, 10×250 mm、nacalai tesque;展開溶媒:メタノール;流速:3 mL/分)によりChl aの単離・精製を行った。Chl aは保持時間約30分で溶出する。 抽出液は次のように作製した:スピルリナ粉末約1gにメタノール5 mLを加え、撹拌後、卓上遠心機で5〜10分間ほど遠心した。溶液を、0.46 μm PTFEシリンジフィルターに通した後、窒素でメタノールを飛ばし、約500 μLまで濃縮した。採取後、約30%アセトンになるようにアセトンを加え、Chl aの脱Mg化を防止した。1.3 脱Mg Chl c2の調製 上記1.1で得られたChl c2をジクロロメタン溶媒に置換し、1%塩酸水をサンプル量と同量程度加えた。定期的に撹拌し吸収スペクトルを測定して、Soret帯の短波長側へのシフトの停止を確認後(約1時間半後)、ジクロロメタン層(サンプル)にエタノールを添加してエバポレータで減圧乾燥させることにより脱Mg Chl c2を得た。1.4 メチルエステル化Chl c1の調製 上記1.1で得られたChl c1にジアゾメタンを加えて、172位のカルボキシル基をメチルエステル化した。2.クロロフィル及びクロロフィル誘導体の吸収・蛍光スペクトルのpH依存性2.1 Chl c1及びChl c2 80%エタノール緩衝液(エタノール/30 mM酢酸アンモニウム水(pH 3.0〜9.8)、容量比4/1;全体pH 5.1〜9.3)中での吸収・蛍光スペクトルを測定した。方法 吸収スペクトルは、光路長1 cmの石英角型セルを用いて、吸収分光光度計(UV-1800、島津製作所)で室温にて測定した(波長間隔:0.2 nm、スキャン速度:中速)。Chl c1については440 nm、Chl c2については445 nmの吸光度を指標にして、濃度が一定になるように補正した。 蛍光スペクトルは、蛍光分光光度計(FP-6600、JASCO)を用いて室温にて測定した(励起バンド幅:3 nm、蛍光バンド幅:20 nm、間隔:0.4 nm、スキャン速度:100 nm/分)。濃度消光を起こさないようにするため、Soret帯のODが約0.1となるように希釈して測定した。励起波長は上記2.1で決定した等吸収点(Chl c1, 448.5 nm;Chl c2, 452 nm)とした。各蛍光スペクトルは、等吸収点の波長の吸光度でノーマライズすることにより、濃度の影響を排除した。 なお、下記において示すpH値は、スペクトル測定状態で、pHメーター(D-51、HORIBA)により測定した値である。結果Chl c1 図2に、pH 5.11〜9.25におけるChl c1の吸収スペクトルを示す。各pHの吸収スペクトルは、3回の測定結果の平均であり、pH 8.95の緩衝液中での440 nmの吸光度でノーマライズした。図からChl c1の吸収スペクトルにpH依存性があることが分かる。pHが増加するにつれて(すなわち、よりアルカリ性の溶液中では)、Soret帯(450.4 nm→441.4 nm, 450 cm-1)、Qx帯(583.4 nm→580.2 nm, 100 cm-1)、Qy帯(635.0 nm→632.8 nm, 50 cm-1)が短波長側にシフトし、シャープニングが起こっている。なかでも、Soret帯にpH依存性が顕著に表れている。Soret帯の等吸収点は、448.3 nm±0.3 nmと決定した。pKaは6.73±0.02と決定した。 図3にpH 4.8及び9.0におけるChl c1(0.44μM)のブラックライト励起による蛍光発光を示す。蛍光強度の変化は肉眼でも観察可能である。 図4にpH 5.11〜9.25におけるChl c1の蛍光スペクトルを示す。各pHの蛍光スペクトルは3回の測定結果の平均であり、各pHの蛍光強度を448.0、448.2、448.4、448.6 nmの4点の吸光度を平均したものででノーマライズした。pHが増加するにつれ、Qy帯からの(0-0)、(0-1)遷移が短波長側にシフトすると共に、蛍光強度の増加が見られる。図5は、蛍光スペクトルの全域の面積比(横軸:波数、縦軸:蛍光強度)をプロットしたものである。蛍光スペクトルの全域の面積比は、励起光の吸収光量が一定であれば蛍光量子収率比に相当する。フィッティングから、pKaは6.75±0.04と決定した。塩基性側の量子収率を1とすると、酸性側の蛍光量子収率は0.82であった。Chl c2 図6に、pH 5.25〜9.28におけるChl c2の吸収スペクトルを示す。各pHの吸収スペクトルは、3回の測定結果の平均であり、pH 9.02の緩衝液中での445 nmの吸光度でノーマライズした。pH変化に対する挙動は、Chl c1と同じであった。Soret帯の等吸収点は、452.3 nm±0.3 nmと決定した。pKaは6.78±0.02と決定した。 図7にpH 5.25〜9.28におけるChl c2の蛍光スペクトルを示す。各pHの蛍光スペクトルは3回の測定結果の平均であり、各pHの蛍光強度を452.0、452.2、452.4、452.6 nmの4点の吸光度を平均したものでノーマライズした。Chl c2の蛍光スペクトルは、pH変化に対してChl c1と同じ挙動を示した。図8は、蛍光量子収率比をプロットしたものである。フィッティングから、pKaは6.73±0.04と決定した。塩基性側の量子収率を1とすると、酸性側の蛍光量子収率は0.81であった。2.4 脱Mg Chl c2 図9に、pH 6.76〜9.02における脱Mg Chl c2の吸収スペクトルを示す。波長シフトは見られず、吸光度のpH依存性ははっきりしない。 図10に、pH 6.76〜9.02の溶媒/緩衝液中での脱Mg Chl c2の蛍光スペクトルを示す。励起波長は430 nmである。pHが増加するにつれ、脱Mg Chl c2の蛍光強度は増加することから、pH依存性があることが分かった。しかし、吸収スペクトルのような波長シフトは見られなかった。図11は、蛍光スペクトルの面積をpH=9.02の時を1としてプロットしたものである。これは、等吸収点で励起したものではないため、蛍光量子収率比を表すものではないが、pH変化を示している。以上から中心金属がなくても、pH依存性を示すことが分かった。2.5 Chl a 図12に、pH 5.25及び9.02におけるChl aの吸収スペクトル及び励起波長432 nmの蛍光スペクトルを示す。いずれのスペクトルにもpH依存性は観察されなかった。2.6 メチルエステル化Chl c1 図13に、pH 5.25及びpH 9.02におけるメチルエステル化Chl c1の吸収及び励起波長445 nmの蛍光スペクトルである。いずれのスペクトルにもpH依存性は観察されなかった。 上記から明らかなように、クロロフィルc及びその172位のカルボキシル基以外で誘導体化された誘導体の蛍光スペクトルはpH依存性を示し、そのpH依存性は、中心金属の配位による影響ではなく、172位のカルボキシル基の構造変化(酸性型/塩基性型)による影響であると考えられる。 よって、クロロフィルc及びその172位のカルボキシル基以外で誘導体化された誘導体並びにそれらの塩は、蛍光強度を指標とするpH指示薬として用いることができる。 上記の実施形態及び実施例は、本発明の理解を容易にするために例示として記載されたものであって、本発明は本明細書又は添付図面に記載された具体的形態及び例のみに限定されるものではない。本明細書に記載された具体的な構成、手段及び方法は、本発明の要旨を逸脱することなく、当該分野において公知の他の多くのものと置換可能である。クロロフィルc若しくはその172位のカルボキシル基以外で誘導体化された誘導体又はそれらの塩を含んでなるpH指示薬。クロロフィルcがクロロフィルc1、クロロフィルc2及びクロロフィルc3からなる群より選択される、請求項1に記載のpH指示薬。誘導体が脱金属化誘導体及び金属置換誘導体からなる群より選択される、請求項1又は2に記載のpH指示薬。請求項1〜3のいずれか1項に記載のpH指示薬を含む容器を含んでなるpH測定キット。請求項1〜3のいずれか1項に記載のpH指示薬を含む2以上の容器及び1以上のpH標準液を含んでなるpH測定キット。 請求項1〜3のいずれか1項に記載のpH指示薬を測定サンプルに接触させること、 励起光を照射して、pH指示薬に蛍光を生じさせること 生じた蛍光を、pH標準液中の当該pH指示薬からの蛍光と比較してpHを決定することを含んでなるpH測定法。 請求項1〜3のいずれか1項に記載のpH指示薬を測定サンプルに接触させること、 励起光を照射して、pH指示薬に蛍光を生じさせること 生じた蛍光の強度を計測し、該強度からpHを決定することを含んでなるpH測定法。クロロフィルc若しくはその172位のカルボキシル基以外で誘導体化された誘導体又はそれらの塩のpH指示薬としての使用。 【課題】新たな蛍光pH指示薬を提供する。【解決手段】クロロフィルc若しくはその172位のカルボキシル基以外で誘導体化された誘導体又はそれらの塩を含んでなるpH指示薬を提供する。また、前記pH指示薬を含む容器を含んでなるpH測定キットを提供する。また、前記pH指示薬を測定サンプルに接触させること、励起光を照射して、pH指示薬に蛍光を生じさせること、生じた蛍光を、pH標準液中の当該pH指示薬からの蛍光と比較してpHを決定することを含んでなるpH測定法を提供する。【選択図】なし