タイトル: | 公開特許公報(A)_マクロファージの分化誘導剤およびそれを用いるマクロファージの分化誘導方法 |
出願番号: | 2013181386 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | C12N 5/0786,A61K 35/14,A61P 29/00,A61P 43/00,A61P 17/02 |
石塚 隆伸 徳江 辰一 JP 2015047125 公開特許公報(A) 20150316 2013181386 20130902 マクロファージの分化誘導剤およびそれを用いるマクロファージの分化誘導方法 テルモ株式会社 000109543 渡辺 望稔 100080159 三和 晴子 100090217 伊東 秀明 100152984 石塚 隆伸 徳江 辰一 C12N 5/0786 20100101AFI20150217BHJP A61K 35/14 20150101ALI20150217BHJP A61P 29/00 20060101ALI20150217BHJP A61P 43/00 20060101ALI20150217BHJP A61P 17/02 20060101ALI20150217BHJP JPC12N5/00 202NA61K35/14 ZA61P29/00A61P43/00 111A61P17/02 10 OL 13 4B065 4C087 4B065AA93X 4B065AC20 4B065BB04 4B065CA44 4C087AA03 4C087BB37 4C087ZA89 4C087ZB11 4C087ZC41 本発明は、単球からマクロファージへの分化誘導剤およびそれを用いる単球からマクロファージへの分化誘導方法に関する。より詳細には、本発明は、単球から活性型マクロファージへの分化誘導剤およびそれを用いる単球から活性型マクロファージへの分化誘導方法に関する。 末梢血液中の単球は、血管壁を通り抜け組織に侵入した後、各組織において様々な環境因子および誘導因子の影響を受けてマクロファージに分化する。マクロファージのフェノタイプには、インターフェロン(IFN)−γ等のTh1サイトカインや腫瘍壊死因子(TNF)−α、リポ多糖(LPS)等の刺激により分化誘導されるM1マクロファージと、インターロイキン(IL)−4、IL−13等のTh2サイトカインによって分化誘導されるM2マクロファージとの少なくとも2種類があることが知られている。マクロファージには活性型(M1,M2)以外にも、休止型(resting)マクロファージがあることが知られている。 M1マクロファージはTNF−α、IL−1等の炎症性サイトカインの発現レベルが高く、それらの分泌を介して酸化ストレスの誘発や好中球浸潤を誘導し、壊死組織を分解し、異物や細菌を除去するとともに、自らの貪食作用によりそれらの一翼を担っていると考えられている。一方、M2マクロファージはIL−10、トランスフォーミング増殖因子(TGF)−β等を高発現しており、IL−10の分泌を介してM1マクロファージからの炎症性サイトカイン分泌を低下させることなどにより炎症を抑制させる方向に働くと共に、TGF−βや血小板由来成長因子(PDGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)等の分泌を介して組織修復にも関与していると考えられている。 近年、創傷治癒過程に関するマクロファージの役割が注目されている。創傷の治癒過程は、経時的に観察すると、血小板が凝集する「出血・凝固期」、好中球等の炎症細胞が遊走し異物を除去する「炎症期」、血管新生、肉芽形成および再上皮化が行われる「増殖期」、ならびに肉芽が吸収され、治癒が終了する「再構築期」の4段階の過程から構成されている。実際の創傷では、これらの過程がオーバーラップして治癒に向かう一連の生体反応が起こる。糖尿病(DM)、末梢動脈障害(PAD)等の基礎疾患を持つ創傷の症例においては、創傷の秩序だった治癒カスケードが障害されることにより、創傷が難治化すると考えられているが、炎症期から増殖期への移行においては、M1およびM2マクロファージのバランスをM2主導に傾かせること、すなわち、M1マクロファージまたは休止型マクロファージからM2マクロファージへの転換が重要な役割を担っていると考えられている。この転換には、核内受容体であり、転写因子としても機能するペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(PPARγ)が関与していると考えられている。 非特許文献1には、スタチン類がPPARαおよびPPARγの活性化作用を有することが記載され、また、非特許文献2には、背部に全層性の皮膚欠損創傷を負わせた糖尿病マウスを、シンバスタチン含有ワセリンを局所塗布する群(シンバスタチン群)と、ワセリンのみ局所塗布する群(ワセリンのみ群)に分け、1日目、4日目、7日目、10日目に塗布を繰り返して経過を比較したところ、2週間後には、シンバスタチン群では90%以上の上皮形成をしていたが、ワセリンのみ群では80%未満の上皮形成にとどまり、シンバスタチンを含有するワセリン軟膏を局所塗布すると、糖尿病マウスの創傷治癒スピードが向上することが記載されている。Yano,M.、外14名、「Statins activate Peroxisome Proliferator-Activated Receptor γ through extracellular signal-regulated kinase 1/2 and p38 mitogen-activated protein kinase-dependent cyclooxygenase-2 expression in macrophages」、Circ.Res.、2007年、第100巻、第10号、p.1442−1451Asai,J.、外10名、「Topical simvastatin accelerates wound healing in diabetes by enhancing angiogenesis and lymphangiogenesis」、Am.J.Pathol.、2012年、第181巻、第6号、p.2217−2224 しかし、本発明者らが、非特許文献2のシンバスタチン含有ワセリン軟膏について、糖尿病マウスの創傷治癒スピードを評価した限りにおいては、創傷治癒スピードに向上は認められず、PPAR活性化作用のみに限定されない、単球からマクロファージへの分化誘導剤が必要であると考えられた。 そこで、本発明は、単球からマクロファージへの分化誘導剤を提供することを課題とする。 本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねたところ、アンジオテンシンII受容体拮抗(ARB)作用およびペルオキシソーム増殖因子γ(PPARγ)活性化作用を有する化合物が、単球をマクロファージに分化誘導することを見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は以下の(1)〜(21)を提供する。(1)アンジオテンシンII受容体拮抗(ARB)作用およびペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)γ活性化作用を有する化合物を含有する、単球からマクロファージへの分化誘導剤。(2)前記マクロファージが活性型マクロファージである、(1)に記載の分化誘導剤。(3)単球から休止型マクロファージを介して活性型マクロファージへ分化誘導する、(1)または(2)に記載の分化誘導剤。(4)前記活性型マクロファージがM1マクロファージおよび/またはM2マクロファージである、(2)または(3)に記載の分化誘導剤。(5)前記化合物が、ロサルタン、テルミサルタン、イルベサルタン、これらの製薬学的に許容可能な塩およびエステルからなる群から選択される少なくとも1つである、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の分化誘導剤。(6)前記単球がヒト末梢血単球である、(1)〜(5)のいずれか1項に記載の分化誘導剤。(7)単球と(1)〜(6)のいずれか1項に記載の分化誘導剤とを in vitro で接触させる工程を含む、単球からマクロファージへの分化誘導方法。(8)以下の工程を含む、(7)に記載の分化誘導方法: (a)単球を含む培養液に請求項1〜5のいずれか1項に記載の分化誘導剤を添加する工程、および (b)(a)の培養液を用いて単球を培養する工程。(9)前記マクロファージが活性型マクロファージである、(7)または(8)に記載の分化誘導方法。(10)単球から休止型マクロファージを介して活性型マクロファージへ分化誘導する、(7)〜(9)のいずれか1項に記載の分化誘導方法。(11)前記活性型マクロファージがM1マクロファージおよび/またはM2マクロファージである、(9)または(10)に記載の分化誘導方法。(12)前記単球がヒト末梢血単球である、(7)〜(11)のいずれか1項に記載の分化誘導方法。(13)(7)〜(12)のいずれか1項に記載の分化誘導方法によって単球をマクロファージに分化させる工程を含む、マクロファージの製造方法。(14)以下の工程を含む、マクロファージ組成物の製造方法: (a)(13)に記載の製造方法によって製造したマクロファージを回収する工程、および (b)回収したマクロファージを生理食塩水、血清または血漿に分散する工程。(15)以下の工程を含む、難治性創傷の治療方法: (a)難治性創傷を持つ患者から単球を採取する工程、 (b)前記患者から採取した単球とアンジオテンシンII受容体拮抗(ARB)作用およびペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)γ活性化作用を有する化合物とを in vitro で接触させ、単球をマクロファージに分化させる工程、 (c)(b)で分化させたマクロファージを回収する工程、 (d)(c)で回収したマクロファージを生理食塩水、血清または血漿に分散し、マクロファージ組成物を製造する工程、および (e)製造したマクロファージ組成物を注射により前記患者に投与する工程。(16)前記マクロファージが活性型マクロファージである、(15)に記載の治療方法。(17)前記マクロファージがM1マクロファージおよび/またはM2マクロファージである、(15)または(16)に記載の治療方法。(18)前記化合物がロサルタン、テルミサルタン、イルベサルタン、これらの製薬学的に許容可能な塩およびエステルからなる群から選択される少なくとも1つである、(15)〜(17)のいずれか1項に記載の治療方法。(19)前記単球が末梢血単球である、(15)〜(18)のいずれか1項に記載の治療方法。(20)前記難治性創傷が、糖尿病性(神経原性)潰瘍、動脈性(虚血性)潰瘍、静脈うっ滞性潰瘍、バージャー病による潰瘍および膠原病に伴う潰瘍からなる群から選択される少なくとも1つの難治性創傷である、(15)〜(19)のいずれか1項に記載の治療方法。(21)前記患者が、糖尿病、末梢動脈障害、下肢静脈瘤、バージャー病および膠原病からなる群から選択される少なくとも1つの基礎疾患を有する、(15)〜(20)のいずれか1項に記載の治療方法。 本発明によれば、単球からマクロファージへの分化誘導剤を提供することができる、また、本発明によれば、その分化誘導剤を用いる単球からマクロファージへの分化誘導方法を提供することができる。図1は、比較例(Comp. ex.)1〜4、ならびに実施例(Ex.)1および2の、CD14陽性細胞(MΦ)中のCD80陽性細胞(M1)の割合(M1/MΦ、%)を表すグラフである。図2は、比較例(Comp. ex.)1〜4、ならびに実施例(Ex.)1および2の、CD14陽性細胞(MΦ)中のCD206陽性細胞(M2)の割合(M2/MΦ、%)を表すグラフである。[単球、マクロファージ]〈単球〉 単球は、血液中を循環している未熟な食細胞であり、抗原提示免疫細胞として働き、病原体や異物を食作用によって取り込み、分解する機能を持つ。 本発明において、単球としては、例えば、マウス、サル、ヒト等の哺乳動物に由来する単球を用いることができる。これらの中でも、ヒト由来の単球が好ましく、ヒト末梢血由来の単球(ヒト末梢血単球)がより好ましい。 単球は、ヒト末梢血由来CD14+単球(プロモセル社製)等の市販品を用いてもよいし、ドナーから採血した末梢血全血からアフェレシスにより採取した単球でもよい。アフェレシスの方法は、全血から単球を分離しうるものであれば特に限定されないが、血液成分分離装置を用いることが好ましい。血液成分分離装置としては、例えば、COBE(R) Spectra(テルモBCT社製)、COM.TEC(フレゼニウスカービ社製)等が挙げられる。また、血液成分分離装置を用いなくても、密度勾配遠心法により全血から単球を分離・回収することができる。なお、ドナーは哺乳動物、好ましくはヒトであり、ドナーから採血する場合には、採血の数日前からドナーに顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)を投与していてもよい。〈マクロファージ〉 マクロファージは、マクロファージのマーカーであるCD14が陽性である細胞を意味する。さらに、マクロファージはそのフェノタイプにより、M1マクロファージおよびM2マクロファージを包含する活性型マクロファージならびに休止型マクロファージに分類することができる。 本発明において、マクロファージは、後述する本発明の分化誘導剤によって、前述した単球から分化誘導して得られる。こうして得られるマクロファージは、活性型マクロファージが好ましく、M1マクロファージおよび/またはM2マクロファージがより好ましい。また、単球から活性型マクロファージへの分化誘導の際には、休止型マクロファージを介して活性型マクロファージに分化誘導されてもよい。 以下に、活性型マクロファージ、M1マクロファージ、M2マクロファージおよび休止型マクロファージについて説明する。(活性型マクロファージ) 活性型マクロファージとは、CD14が陽性であり、かつ、M1マクロファージのマーカーであるCD80またはM2マクロファージのマーカーであるCD206が陽性である細胞をいう。すなわち、活性型マクロファージはM1マクロファージおよびM2マクロファージを含む。(M1マクロファージ) M1マクロファージとは、マクロファージのマーカーであるCD14が陽性で、かつM1マクロファージのマーカーであるCD80も陽性である細胞を意味する。M1マクロファージは、古典的活性化マクロファージ、炎症性マクロファージとしても知られ、免疫を亢進し、炎症を惹起・促進する。(M2マクロファージ) M2マクロファージとは、マクロファージのマーカーであるCD14が陽性で、かつM2マクロファージのマーカーであるCD206も陽性である細胞を意味する。M2マクロファージは、創傷治癒マクロファージ、抗炎症性マクロファージとしても知られ、免疫を抑制し、炎症を終結に向かわせる。(休止型(resting)マクロファージ) 休止型マクロファージとは、マクロファージのマーカーであるCD14が陽性で、かつ、CD80およびCD206がともに陰性である細胞を意味する。休止型マクロファージは、血中から組織へ浸潤した単球がマクロファージに分化しているものの、非活性化状態(休止状態)にある。[単球からマクロファージへの分化誘導剤] 本発明の単球からマクロファージへの分化誘導剤(以下、単に「本発明の分化誘導剤」という場合がある。)は、アンジオテンシンIIタイプ1受容体拮抗(ARB)作用およびペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(PPARγ)活性化作用を有する化合物を含有することを特徴とする。〈有効成分〉 本発明の分化誘導剤の有効成分は、ARB作用およびPPARγ活性化作用を有する化合物であり、これらの作用を有する化合物であれば特に限定されない。また、これらの化合物は1種類を単独で、または2種類以上を組み合わせて使用することができる。なお、これらの化合物は、生理学的に許容可能な塩、エステルその他誘導体の形態を含む。 本発明において、ARB作用とは、アンジオテンシンII(AII)と拮抗し、AIIがAIIタイプ1受容体(AT1受容体)に結合することをブロックする作用をいう。また、PPARγ活性化作用とは、核内受容体であるPPARγ(PPARのγサブタイプ)のリガンド結合ポケットに結合し、PPARγのリガンド依存的な活性化を生じさせる作用をいう。 ARB作用およびPPARγ活性化作用を有する化合物としては、具体的には、例えば、ロサルタン、テルミサルタン、イルベサルタン、これらの製薬学的に許容可能な塩およびエステルが挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1つの化合物が好ましく、テルミサルタン、その製薬学的に許容可能な塩およびエステルからなる群から選択される少なくとも1つの化合物がより好ましい。(製薬学的に許容可能な塩、エステル) 製薬学的に許容可能な塩としては、塩基性化合物の場合は、例えば、有機酸、無機酸等との塩が、酸性化合物の場合は、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、有機塩基等との塩が挙げられる。有機酸としては、例えば酢酸、アジピン酸、安息香酸、クエン酸、フマール酸、アスパラギン酸、乳酸、リンゴ酸、パルミチン酸、サリチル酸、酒石酸、ベンゼンスルホン酸、カンファースルホン酸、トルエンスルホン酸が、無機酸としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸等が挙げられる。アルカリ金属、アルカリ土類金属、有機塩基等としては、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム、テトラメチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム等が挙げられる。 製薬学的に許容可能なエステルとしては、例えば、エチルエステル、酢酸エステル等が挙げられる。〈剤形〉 本発明の分化誘導剤は、生体から採取した単球に対して in vitroで用いられることが好ましいが、直接、生体に対して用いてもよい。生体に対して用いる場合、本発明の分化誘導剤が in vivo で単球に接触し、単球のマクロファージへの分化誘導を促進するため、単球の採取およびマクロファージの移植が不要であり、生体に対して低侵襲であるという利点がある。 本発明の分化誘導剤を生体に対して用いる場合の剤形は、特に限定されず、例えば、口腔内崩壊錠、チュアブル錠、発泡錠、分散錠、溶解錠等を含む錠剤;硬カプセル剤、軟カプセル剤等を含むカプセル剤;発泡顆粒剤等を含む顆粒剤;散剤;エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、リモナーデ剤等を含む経口液剤;シロップ用剤等を含むシロップ剤;経口ゼリー剤;トローチ剤、舌下錠、バッカル錠、付着錠、ガム剤等を含む口腔用錠剤;口腔用スプレー剤;口腔用半固形剤;含嗽剤;輸液剤、埋め込み注射剤、持続性注射剤等を含む注射剤;吸入粉末剤、吸入液剤、吸入エアゾール剤等を含む吸入剤;点眼剤;眼軟膏剤;点耳剤;点鼻粉末剤、点鼻液剤;坐剤;直腸用半固形剤;注腸剤;膣錠;膣用坐剤;外用散剤等を含む外用固形剤;リニメント剤、ローション剤等を含む外用液剤;概要エアゾール剤、ポンプスプレー剤等を含むスプレー剤;軟膏剤;クリーム剤;ゲル剤;および、テープ剤、パップ剤等の貼付剤などの剤形が挙げられる。これらの中では、創傷部位に直接的な作用を及ぼすことができるとともに、血圧降下等の副作用を抑えることができることから、局所投与可能な剤形が好ましい。〈製薬学的に許容可能な添加剤〉 また、本発明の分化誘導剤は、その製造の際に、製薬学的に許容可能な添加剤を用いてもよく、そのような添加剤としては、例えば、でん粉、ゼラチン、ブドウ糖、乳糖、果糖、マルトース、炭酸マグネシウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース又はその塩、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、p−ヒドロキシ安息香酸アルキルエステル、シロップ、水、エタノール、プロピレングリコール、ワセリン、カーボワックス、グリセリン、塩化ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、クエン酸、コラーゲン、アルギン酸ナトリウム、スクロース等が挙げられる。[単球からマクロファージへの分化誘導方法] 本発明の単球からマクロファージへの分化誘導方法(以下、単に「本発明の分化誘導方法」という場合がある。)は、単球と本発明の分化誘導剤とをin vitroで接触させる工程を含むことを特徴とする。 単球と本発明の分化誘導剤とを接触させる方法は特に限定されないが、例えば、本発明の分化誘導剤の存在下で培養する方法が挙げられ、単球を含む培地中に本発明の分化誘導剤を添加することが好ましい。その他にも、本発明の分化誘導剤を培地中に添加する方法と同様の効果を示す方法であれば、いずれも用いることができる。 具体的には、例えば、本発明の分化誘導方法は以下の工程を含む: (a)単球を含む培養液に本発明の分化誘導剤を添加する工程、および (b)(a)の培養液を用いて単球を培養する工程。 単球の培地としては、本発明の目的を損なわない範囲で、従来公知の培地を使用することができる。例えば、ギブコ(R)RPMI1640培地(ライフテクノロジーズ社製)、HL−1既知組成、無血清培地(ロンザ社製)、単球接着培地(プロモセル社製)、単核細胞培地(プロモセル社製)などを使用することができる。 培養条件は、単球の培養に適した方法であれば、特に限定されないが、例えば、単球を培地に好ましくは1×100〜1×107cells/mL、より好ましくは1×102〜1×106cells/mLの密度となるように懸濁し、培養プレートに播種後、温度は、好ましくは30〜39℃、より好ましくは35〜39℃、さらに好ましくは37℃で、時間は、好ましくは1〜10日間、より好ましくは1〜7日間で、好ましくは約5%の二酸化炭素を通したCO2条件下で、培養する方法を挙げることができる。 本発明の分化誘導剤の濃度は、特に限定されないが、有効成分である上述した化合物の濃度として、好ましくは10〜300μM、より好ましくは50〜200μMである。この範囲内であると、より効率的に単球からマクロファージへ分化誘導することができる。 本発明の分化誘導剤を添加した培地を用いて培養する前に、単球の前培養をしてもよい。前培養は、温度は、好ましくは30〜39℃、より好ましくは35〜39℃、さらに好ましくは37℃で、時間は、好ましくは4〜48時間、より好ましくは8〜36時間で、好ましくは5%の二酸化炭素を通したCO2条件下で、インキュベートする方法を挙げることができる。 培養液中で単球を分化誘導することにより得られたマクロファージは、引き続き、公知の方法による細胞回収、分離、精製法を用いることにより、高純度のマクロファージを効率的かつ多量に得ることができる。[マクロファージの製造方法] 上述した本発明の分化誘導方法を使用することによって、単球からマクロファージを製造することができる(製造されたマクロファージを、以下「本発明のマクロファージ」という場合がある。)。 本発明のマクロファージの用途は、特に限定されるものではないが、例えば、後述する難治性創傷の治療の用途に供することができる。 本発明のマクロファージをこの用途に用いる場合、取扱いのし易さ等の観点から、マクロファージを後述するマクロファージ組成物の製造方法によってマクロファージ組成物として用いることが好ましい。[マクロファージ組成物の製造方法] 上述したマクロファージの製造方法によって製造したマクロファージを、遠心分離、膜分離等の公知の方法によって回収し、所望により精製、洗浄等した後、生理食塩水、血清または血漿に分散することによって、マクロファージ組成物を製造することができる(製造されたマクロファージ組成物を、以下「本発明のマクロファージ組成物」という場合がある。)。本発明のマクロファージ組成物は、さらに薬理学的に許容され得る従来公知の添加剤と混合して用いてもよい。 ここで、血清とは、血液(全血)を凝固させ血小板や凝固因子を除いたものをいい、血漿とは、抗凝固剤入りの容器に採血した血液を遠心分離して細胞成分(赤血球、白血球、血小板)を除いたものをいう。 本発明のマクロファージ組成物の用途は、特に限定されるものではないが、例えば、後述する難治性創傷の治療の用途に供することができる。[マクロファージ組成物およびそれを用いる難治性創傷の治療] 本発明のマクロファージ組成物は、難治性創傷の治療の用途に好適である。難治性創傷を有する患者(哺乳動物、好ましくはヒト)においては、創傷の秩序だった治癒が障害されることにより創傷が難治化していると考えられるが、本発明のマクロファージまたはマクロファージ組成物を当該患者に投与することで、創傷部位における治癒カスケード段階にあわせた作用を発揮させることにより、創傷治癒の促進が期待できるからである。 ここで、難治性創傷とは、慢性化した治りにくい創傷をいい、特に限定されないが、例えば、糖尿病性(神経原性)潰瘍、動脈性(虚血性)潰瘍、静脈うっ滞性潰瘍、バージャー病による潰瘍、膠原病に伴う潰瘍等が挙げられる。また、難治性創傷の基礎疾患としては、例えば、糖尿病、末梢動脈障害、下肢静脈瘤、深部静脈血栓症、バージャー病、膠原病等が挙げられる。 マクロファージ組成物を患者に投与する方法としては、注射が好ましく、例えば、筋肉内注射、静脈内注射、皮内注射および皮下注射が挙げられる。 また、マクロファージ組成物を投与される患者と、マクロファージ組成物を製造するために使用される単球のドナーとは、同種の哺乳動物であることが好ましく、同系の哺乳動物であることがより好ましく、同一個体の哺乳動物であることがさらに好ましい。同系とは、例えば、一卵性双生児、純系動物同士の関係にあるものをいう。患者とドナーとが同系または同一個体である場合には、遺伝的に同一なので、拒絶反応のような重篤な副作用もない。 さらに、マクロファージ組成物を製造する際に血清または血漿を使用する場合には、患者から採取したものを用いることで、マクロファージ組成物が投与された患者がウイルスその他の病原体に感染するリスクを低減することができる。 以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。[実施例1、2](1)材料および方法 テルモ社内健常人ボランティアから採取したACD−A(テルモ社製)加全血から、比重遠心法により単核球分画を採取した。RPMI−1640培地(シグマ・アルドリッチ社製)にて約1×106cell/mLに調整した単核球分画を、接着細胞培養用マルチプレート(6ウェル)(日本べクトン社製)に播種し、37℃、5% CO2環境下にて24時間培養した。 RPMI−1640培地を交換後に、テルミサルタン(東京化成工業社製)を最終濃度1μM(実施例1)または10μM(実施例2)となるように各ウェルに添加した。 その後、前記条件にて5日間培養した後、各ウェルから細胞を回収した。回収した細胞を、マクロファージ(MΦ)のマーカーであるCD14、そのフェノタイプであるM1マクロファージ(M1)のマーカーであるCD80、M2マクロファージ(M2)のマーカーであるCD206にて標識し、フローサイトメトリー(Cytomics FC500、ベックマン・コールター社製)を用いてその発現を計測した。計測データからCD14陽性細胞中におけるCD80陽性細胞の割合(M1/MΦ、%)、およびCD14陽性細胞中におけるCD206陽性細胞の割合(M2/MΦ、%)を各々算出した。(2)結果 結果を、表1、図1および図2に示す。[比較例1](溶媒対照) テルミサルタンに代えて、ジメチルスルホキシド(DMSO)(Sigma社製)を終濃度0.5容量%となるように各ウェルに添加した点を除き、実施例1と同様にした。結果を、表1、図1および図2に示す。[比較例2](陽性対照) テルミサルタンに代えて、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)(インビトロジェン社製)を終濃度50ng/mLとなるように各ウェルに添加した点を除き、実施例1と同様にした。結果を、表1、図1および図2に示す。[比較例3、4] テルミサルタンに代えてピオグリタゾン(東京化成工業社製)を終濃度1μM(比較例3)または10μM(比較例4)となるように各ウェルに添加した点を除き、実施例1と同様にした。結果を、表1、図1および図2に示す。 表1、図1および図2から、アンジオテンシンII受容体拮抗作用およびペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ活性化作用を有する化合物であるテルミサルタンは、ヒト末梢血単球をM1マクロファージおよびM2マクロファージへ分化誘導すると考えられる。 アンジオテンシンII受容体拮抗作用およびペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ活性化作用を有する化合物を含有する、単球からマクロファージへの分化誘導剤。 前記マクロファージが活性型マクロファージである、請求項1に記載の分化誘導剤。 単球から休止型マクロファージを介して活性型マクロファージへ分化誘導する、請求項1または2に記載の分化誘導剤。 前記活性型マクロファージがM1マクロファージおよび/またはM2マクロファージである、請求項2または3に記載の分化誘導剤。 前記化合物が、ロサルタン、テルミサルタン、イルベサルタン、これらの製薬学的に許容可能な塩およびエステルからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の分化誘導剤。 前記単球がヒト末梢血単球である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の分化誘導剤。 単球と請求項1〜6のいずれか1項に記載の分化誘導剤とを in vitro で接触させる工程を含む、単球からマクロファージへの分化誘導方法。 以下の工程を含む、請求項7に記載の分化誘導方法: (a)単球を含む培養液に請求項1〜5のいずれか1項に記載の分化誘導剤を添加する工程、および (b)(a)の培養液を用いて単球を培養する工程。 請求項7または8に記載の分化誘導方法によって単球をマクロファージに分化させる工程を含む、マクロファージの製造方法。 以下の工程を含む、マクロファージ組成物の製造方法: (a)請求項9に記載の製造方法によって製造したマクロファージを回収する工程、および (b)回収したマクロファージを生理食塩水、血清または血漿に分散する工程。 【課題】マクロファージへの分化誘導剤および分化誘導方法を提供する。【解決手段】アンジオテンシンII受容体拮抗(ARB)作用およびペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)γ活性化作用を有する化合物を含有する、単球からマクロファージへの分化誘導剤、ならびに単球とARB作用およびPPARγ活性化作用を有する化合物とをin vitroで接触させる工程を含む、単球からマクロファージへの分化誘導方法。【選択図】なし