タイトル: | 公開特許公報(A)_異性化反応制御方法、及び異性体製造方法 |
出願番号: | 2013172953 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | C07C 245/08,G03C 1/73,G03C 5/56 |
高木 慎介 嶋田 哲也 梅本 哲朗 JP 2015040198 公開特許公報(A) 20150302 2013172953 20130823 異性化反応制御方法、及び異性体製造方法 公立大学法人首都大学東京 305027401 松山 裕一郎 100150876 高木 慎介 嶋田 哲也 梅本 哲朗 C07C 245/08 20060101AFI20150203BHJP G03C 1/73 20060101ALI20150203BHJP G03C 5/56 20060101ALI20150203BHJP JPC07C245/08G03C1/73 503G03C5/56 6 1 OL 11 2H123 4H006 2H123AA04 2H123BB07 4H006AA02 4H006AC59 4H006BA56 4H006BA95 本発明は、異性化反応制御方法、及び異性体製造方法に関する。特に、本発明は、無機化合物とイオン性分子との静電相互作用を利用した異性化反応制御方法、及び異性体製造方法に関する。 分子の異性化反応に基づく物性変化を利用した技術は日常の身の回りに数多く存在する。多くの場合、異性化により分子の光吸収物性(例えば、色)や形状が変化する。近年、光を用いて異性化反応を誘起させ、異性化反応に伴う諸物性の変化を利用する研究が盛んになっている。例えば、DVD等の記憶材料においても、この異性化反応が主要な機能のもとになっている。光反応を利用した異性化反応(つまり、光異性化反応)は照射する波長を選択することにより誘起させる異性化反応を選択できる。一例として、色の変化を利用した例では、アゾベンゼンを骨格として有する材料を用いて、紫外線量が増加したときのみ着色するサングラス等がある。また、光異性化反応により形を変える材料も結晶や高分子を用いて試作されている。 例えば、従来、ハイドロタルサイト型化合物等のアニオン吸着能を有する無機層状結晶の熱分解物薄膜に、アニオン性スピロピラン系化合物等のアニオン性フォトクロミック分子と、芳香族炭化水素等の非極性分子とが吸着された構成を有するフォトクロミック薄膜が知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載のフォトクロミック薄膜によれば、アニオン性のフォトクロミック分子の熱的安定性を向上させることができるので、光記録材料としての特性を向上させることができる。特開平6−148791号 しかし、従来技術では、複数の異性化反応、又は正方向、逆方向の異性化反応が混在して起こる場合においては、通常、溶液中での異性化反応では特定の反応のみを選択的に誘起することは困難である。また、光異性化反応を利用する場合においても、複数の光反応の波長帯(つまり、光反応を引き起こすことが可能な波長帯域)が互いに重畳するような状況では、照射する光の波長を選択することによって、特定の異性化反応を優勢にすることができるものの、所望の反応生成物以外にも望まない副産物が生成してしまう。 例えば、アゾベンゼンの光異性化反応の場合、2種類の異性体(すなわち、シス体及びトランス体)間の異性化反応の光の吸収帯には重なる領域がある。紫外光をアゾベンゼンに照射するとシス体の比率が高くなり、可視光をアゾベンゼンに照射するとトランス体の比率が高くなるものの、光による異性化反応のみを用いてどちらか一方の異性体のみを得ることは極めて困難である。アゾベンゼンに照射する光の波長を厳密に選択し、所望の異性体が得られる光の波長を除く波長部分を極力カットすることで、ある程度、一方の異性体の収率を向上させることができるものの、実質的に一方の異性体のみを製造することはできないと共に、装置が大がかりなること等の弊害が大きい。 したがって、本発明の目的は、無機化合物とイオン性分子との静電相互作用を利用して、所望の異性体を高収率で得ることができる異性化反応制御方法、及び異性体製造方法を提供することにある。 本発明は、上記目的を達成するため、複数の第1電荷を含むと共に互いに隣接する複数の第1電荷が予め定められた間隔で表面近傍に配列している無機層状化合物の面上に、複数の第1電荷と引き合う複数の第2電荷を含み、複数の異性体を有する多価イオン性分子を接触させ、第1電荷と第2電荷との静電相互作用により一の異性体から他の異性体への異性化反応の加減速を制御する異性化反応制御工程を備える異性化反応制御方法が提供される。 また、上記異性化反応制御方法において、異性化反応制御工程が、予め定められた間隔を一の異性体に含まれる複数の第2電荷間の距離に対応させることで、一の異性体から他の異性体への異性化反応を抑制することもできる。 また、上記異性化反応制御方法において、無機層状化合物が、粘土鉱物であり、予め定められた間隔が、無機層状化合物の結晶構造に応じて決定されることが好ましい。 また、上記異性化反応制御方法において、無機層状化合物の表面又は裏面の少なくとも一方の面上に多価イオン性分子が吸着するようにすることもできる。 また、上記異性化反応制御方法において、異性化反応を駆動させるエネルギーを加えるエネルギー供給工程を更に備えてもよい。 また、本発明は、上記目的を達成するため、上記いずれか1つの異性化反応制御方法を用いて一の異性体を無機層状化合物の面上に吸着させるか、若しくは面上で他の異性体から一の異性体への異性化反応をさせることで面上に一の異性体を生成させる異性体生成工程と、異性体生成工程によって生成した一の異性体を無機層状化合物から脱離させる脱離工程とを備える異性体製造方法が提供される。 本発明に係る異性化反応制御方法、及び異性体製造方法によれば、無機化合物とイオン性分子との静電相互作用を利用して、所望の異性体を高収率で得ることができる異性化反応制御方法、及び異性体製造方法を提供できる。本実施の形態に係る無機化合物と多価イオン性化合物との間に働く相互作用の概要を示す模式図である。アゾベンゼン誘導体(Azo2+)のトランス体とサポナイト表面の負電荷とのマッチングの概要図である。[実施の形態](異性化反応制御方法の概要) 本実施の形態に係る異性化反応制御方法は、分子が形を変形する異性化反応等の化学反応において、選択的に所定の形状の分子を生成させる反応に関する。具体的に、本実施の形態に係る異性化反応制御方法は、ナノレベルで平滑な平面構造を有するナノ層状無機材料を用い、当該ナノ層状無機材料の表面近傍に存在する電荷によるクーロン場を利用して選択的に所定の形状の分子を生成させる反応に関する。より具体的に、本実施の形態に係る異性化反応制御方法は、粘土鉱物等の無機化合物の表面近傍に存在する電荷と複数の異性体を含むイオン性分子の電荷との間で作用する静電相互作用を利用して、複数の異性体のうちの一の異性体から他の異性体への異性化反応を、粘土鉱物の面内において選択的に促進若しくは抑制する方法である。(異性化反応制御方法の原理の説明) 本実施の形態に係る異性化反応制御方法に用いる無機化合物は、例えば、無機層状化合物である。具体的に、複数の第1電荷を含むと共に互いに隣接する複数の第1電荷が予め定められた間隔で表面近傍に配列している無機層状化合物である。つまり、無機層状化合物は、ナノレベルで平滑なシート構造(すなわち、スタックした場合に層構造を呈する構造)を有し、表面近傍に分子の大きさの間隔(すなわち、数nm程度の間隔)で負電荷が存在する粘土鉱物である(以下、「粘土シート」若しくは「ナノシート」と表す場合がある。)。したがって、「予め定められた間隔」は、無機層状化合物の結晶構造に応じて決定される。無機層状化合物は、例えば、[SiO4]4−四面体が2次元網目状に配列したシートを含む粘土鉱物である。一例として、サポナイト等の無機層状化合物を異性化反応制御方法に用いることができる。なお、サポナイトの負電荷は、Si原子と置換されているAl原子が電荷発生点になっているので、Al原子の上に電荷が存在する。 また、本実施の形態に係る異性化反応制御方法におけるイオン性分子は、複数の第1電荷と引き合う複数の第2電荷を含み、複数の異性体を有する多価イオン性分子である。一例として、多価イオン性分子は、分子の両端に第2電荷の部位を有するアゾベンゼンの誘導体、スチルベンの誘導体等である。なお、本実施の形態において第1電荷が「負」、第2電荷が「正」の場合を説明するが、無機層状化合物、及び多価イオン性分子の選択によっては、第1電荷と第2電荷との極性が逆であってもよい。 本発明者らは、粘土シート表面に多価イオン性分子としての多価カチオン分子を吸着させた場合に、粘土シート表面と多価カチオン分子との間に作用する強力なホスト−ゲスト相互作用(主に静電(クーロン)引力、及び疎水性相互作用)に関する検討を続けている。その結果、多価カチオン分子内に存在する複数のカチオン(つまり、プラス電荷部)間の距離と粘土シート表面において隣接する負電荷間の距離とが一致するとき、この強力なホスト−ゲスト相互作用により、分子は一部が変形するぐらい強く粘土表面に押しつけられることを紫外可視吸収スペクトル等を用いた分析により見出した。すなわち、多価カチオン分子と粘土シート表面との間に非常に強力な引力が働いていることを見出した。この場合、粘土シート表面に強力に吸着した多価カチオン分子は粘土シート表面から脱離せず、分子運動も抑制される等の挙動を示すことも見出した。本実施の形態に係る異性化反応制御方法は、上記説明における静電相互作用を主として利用した異性化反応制御方法である。 図1は、本実施の形態に係る無機化合物と多価イオン性化合物との間に働く相互作用の概要を模式的に示す。 具体的に、本実施の形態に係る異性化反応制御方法は、表面に予め定められた間隔で負電荷を有する無機層状ケイ酸塩を主成分とするナノシートに、分子内に複数のカチオン(正電荷)を有する多価イオン性分子を吸着させる場合において、予め定められた間隔と多価イオン性分子の複数のカチオン間の距離とが実質的に一致する場合に、ナノシートと多価イオン性分子との間で強力な静電引力が作用する現象を利用する。 すなわち、図1に示すように、無機層状化合物1の表面には、第1電荷10と第1電荷10に隣接する第1電荷12とが予め定められた間隔15で配列している。そして、無機層状化合物1の表面に、複数のカチオンとして第2電荷20と第2電荷22とを長さ方向の両端に含む多価イオン性分子2を接触させると、多価イオン性分子2は無機層状化合物1の表面に静電相互作用により吸着する。ここで、予め定められた間隔15と第2電荷20と第2電荷22との間の距離25とが実質的に一致する場合、ナノシートとしての無機層状化合物1の表面と多価イオン性分子2との間で強力な静電引力が作用する。 このような現象を利用すると、光異性化反応するイオン性分子であって製造対象になる一の異性体のイオン性分子がある場合、当該イオン性分子間に存在している複数のカチオン間の距離に実質的に一致する予め定められた間隔を有するナノシートを設計することで、当該一の異性体を選択的にナノシート面内に吸着させることができる。より具体的に、ナノシート上の予め定められた間隔で配列する負電荷と、多価イオン性分子の一の異性体の複数のカチオン間距離とが実質的に一致する場合、ナノシートと当該一の異性体との間に強力な静電引力が作用する。これにより、一の異性体から他の異性体への異性化反応は大きく抑制されるので、相対的に他の異性体から一の異性体への異性化反応のみがナノシート上(つまり、ナノシートの面上)で発生することになる。これにより、ナノシートの面内方向に実質的に一の異性体のみを吸着若しくは生成させることができる。(異性化反応制御方法の詳細) 本実施の形態に係る異性化反応制御方法は、複数の第1電荷を含むと共に互いに隣接する複数の第1電荷が予め定められた間隔で表面近傍に配列している無機層状化合物の面上に、複数の第1電荷と引き合う複数の第2電荷を含み、複数の異性体を有する多価イオン性分子を接触させ、第1電荷と第2電荷との静電相互作用により一の異性体から他の異性体への異性化反応の加減速を制御する異性化反応制御工程を備える。 より具体的に、本実施の形態に係る異性化反応制御方法は、無機層状化合物を準備する無機化合物準備工程と、無機層状化合物の水溶液若しくは無機層状化合物を所定の溶媒に分散した混合液を調製することで無機層状化合物の溶液を調製する溶液調製工程と、多価イオン性分子若しくは多価イオン性分子の誘導体を合成する多価イオン性分子合成工程と、多価イオン性分子の水溶液を調製する多価イオン性分子水溶液調製工程と、多価イオン性分子の水溶液を無機層状化合物の溶液に加えて撹拌混合することで複合体水溶液を調製し、無機層状化合物の面上に多価イオン性分子を接触させ、第1電荷と第2電荷との静電相互作用により一の異性体から他の異性体への異性化反応の加減速を制御する異性化反応制御工程とを備える。 また、異性化反応制御工程は、予め定められた間隔を一の異性体に含まれる複数の第2電荷間の距離に対応させることで、一の異性体から他の異性体への異性化反応を抑制することもできる。したがって、他の異性体から一の異性体への異性化反応が優勢になるので、無機層状化合物の面上に実質的に一の異性体のみが吸着する。なお、無機層状化合物の表面又は裏面の少なくとも一方の面上に多価イオン性分子を吸着させることができる。 なお、本実施の形態に係る異性化反応制御方法において異性化反応の加減速は、無機層状化合物の第1電荷と多価イオン性分子の第2電荷との間の静電相互作用により主として制御されるが、異性化反応を確実に駆動させるために外部からエネルギーを加えるエネルギー供給工程を更に備えることが好ましい。エネルギーとしては、所定の波長の光による光エネルギー、若しくは熱エネルギー等を用いることができる。 また、無機化合物準備工程において、所望の予め定められた間隔の第1電荷を有する無機層状化合物を合成することもできる。ここで、所望の異性体を選択的に抽出することを目的として、所望の異性体の第2電荷間の距離に実質的に一致する予め定められた間隔を有する無機層状化合物の結晶構造を設計し、設計した結晶構造を有する無機層状化合物若しくは無機化合物を合成することができる。 また、多価イオン性分子合成工程において、多価イオン性分子を合成せずに、予め合成した多価イオン性分子を用いることもできる。なお、例えば、所定の化学物質(例えば、薬剤を含む化合物)を合成する場合において、中間体を合成する場合に、本実施の形態に係る異性化反応制御方法を用いることで、極めて高い収率で中間体を合成することができる。(アゾベンゼンの異性化反応制御方法の例) 以下、本実施の形態に係る異性化反応制御方法を用いたアゾベンゼン誘導体分子の異性化反応の例を説明する。 アゾベンゼンは以下の反応式に示すように異性化反応する分子である。 アゾベンゼンのtrans(トランス)体、及びcis(シス)体の各異性体は、アゾベンゼンに特有の光の吸収強度に応じて光を吸収し、所定の効率(量子収率:Φ)で他方へ異性化反応する。なお、アゾベンゼンのシス体からトランス体への異性化反応は光がない状態(つまり、熱反応のみ)でも発生するものの、室温では光反応に比較して実質的に無視できる程度の異性化反応である。また、吸収スペクトルの変化は色の変化に対応するので、アゾベンゼン骨格を元に紫外線が照射されるとシス体がトランス体よりも増加して可視領域において発色する。一方、紫外領域の光が弱まると、アゾベンゼンのシス体が減少して色が消える。この現象を利用して、サングラス材料等にアゾベンゼンが利用される場合がある。 しかしながら、アゾベンゼンのトランス体が吸収せず、シス体のみが強く吸収する波長の光は存在しない。したがって、シス体からトランス体への誘起を目的に光を照射しても、同時に当該光によりトランス体からシス体への反応も必ず誘起される。したがって、アゾベンゼンに単に光を照射するだけでは、トランス体とシス体との混合物が生じるだけであり、光反応では高純度のトランス体を生産することは通常不可能である。同様の問題は、光反応でなくても可逆的な異性化反応では起こりうる。多くの場合それぞれの異性体は反応が熱平衡になるような状態で安定するため、所望の異性体のみを生成させることは困難である。このような問題が起こると、アゾベンゼンの上記のサングラス材料の例では色のついたシス体が残り、サングラス材料は完全な透明にならないのでサングラスの遮光性能は向上しない。 一方、本実施の形態に係る異性化反応制御方法は、生成を要する異性体内の第2電荷間の距離に応じて無機層状化合物の第1電荷間の距離を設計し、無機層状化合物と所望の異性体との間に強力な静電引力を作用させるので、生成を要する異性体への異性化反応のみを抑制若しくは促進できる。 例えば、以下の化学式に示すようなアゾベンゼン分子の両端にカチオン部位を有すると共に、カチオン間の距離がトランス体において無機層状化合物としてのサポナイトの負電荷間距離(1.2nm)に等しいアゾベンゼン誘導体(Azo2+)の例を説明する。 図2は、アゾベンゼン誘導体(Azo2+)のトランス体とサポナイト表面の負電荷とのマッチングの概要を示す。 アゾベンゼン誘導体(Azo2+)のシス体において、分子両端のカチオン部位(N+の部位)間の距離は0.95nmである。一方、アゾベンゼン誘導体(Azo2+)のトランス体において、分子両端のカチオン部位(N+の部位)間の距離は1.2nmである。そして、アゾベンゼン誘導体(Azo2+)をサポナイト表面に導入すると、サポナイトの負電荷間距離に一致するアゾベンゼン誘導体(Azo2+)のトランス体がサポナイトと強く静電相互作用する。これにより、アゾベンゼン誘導体(Azo2+)がサポナイト表面に強力に押し付けられる。その結果、サポナイトの負電荷間距離とアゾベンゼン誘導体(Azo2+)のカチオン間距離との差が広がるトランス体からシス体への異性化反応は静電力に逆らう反応であるので抑制され、シス体からトランス体への異性化反応は加速される。また、アゾベンゼン誘導体(Azo2+)分子はサポナイトに強力に押しつけられているので、異性化が回転機構で起こる場合は当該回転反応も抑制される。 したがって、本実施の形態に係る異性化反応制御方法によれば、複数の異性体のうち特定の異性体(上記アゾベンゼン誘導体の例では、トランス体)への異性化反応を促進させ、無機層状化合物の面上に特定の異性体を吸着させることができる。(異性体製造方法) 上記説明における本実施の形態に係る異性化反応制御方法を用いて所望の異性体を製造する異性体製造方法について説明する。 まず、上記説明における異性化反応制御方法を用い、一の異性体を無機層状化合物の面上に吸着させるか、若しくは無機層状化合物の面上で他の異性体から一の異性体への異性化反応をさせることで無機層状化合物の面上に一の異性体を生成させる(異性体生成工程)。そして、異性体生成工程によって生成した一の異性体を無機層状化合物から脱離させる(脱離工程)。これにより、所望の異性体を製造できる。なお、脱離工程においては、例えば、一の異性体の多価カチオン分子とは異なる他のカチオン分子を導入し、当該一の異性体を無機層状化合物の表面から脱離させることができる。(実施の形態の効果) 本実施の形態に係る異性化反応制御方法によれば、所望の異性体内の第2電荷間の距離に応じて無機層状化合物の第1電荷間の距離を設計することで、無機層状化合物と所望の異性体との間に強力な静電引力を作用させることができる。これにより、異性化反応制御方法によれば、所望の異性化反応のみを抑制若しくは促進できる。したがって、光を用いた異性化反応の場合、一の異性体から他の異性体への異性化反応に要する光の波長帯と、他の異性体から一の異性体への異性化反応に要する光の波長帯とが重畳する場合であっても、所望の異性体ではない異性体が生成する副反応を抑制できると共に、所望の異性体への異性化反応の効率のみを実質的に向上させることができるので、所望の異性体を高収率で製造することができる。 本発明の実施の形態に係る異性化反応制御方法を用い、以下の工程により異性化反応の量子収率を導出した。具体的には、アゾ色素(Azo2+、Azo1+)水溶液とアゾ色素を吸着させた粘土水溶液とをそれぞれ調製し、紫外光照射と可視光照射とによりトランス異性体からシス異性体への光異性化反応と、シス異性体からトランス異性体への光異性化反応とをそれぞれ誘起させて異性化反応の量子収率を導出し比較した。なお、複数のカチオン部位の効果の検証を目的として、カチオン部位が一つのアゾ色素(Azo1+)を比較対象として用いた。アゾ色素(Azo1+)の化学式は以下のとおりである。Azo1+とAzo2+とは、それらの物性や溶液中における反応性は類似している。 アゾ色素である4,4’-bis(N,N,N-trimetylammonium)azobenzene(Azo2+)は以下の方法で合成した。まず、ヨードメタン約5mLと2,6−ルチジン0.1mLとを4−アミノ−4’−ジメチルアミノアゾベンゼン(100mg)のジメチルスルホキシド溶液(4.0mL)へ投入し、1日間環流した。そして、得られた溶液を濾過した後、ジクロロメタンで洗浄し乾燥することで橙色固体を得た。得られた橙色固体は、150.5mgであった。 次に、得られた橙色固体をエタノール(50mL)/水(5mL)を用いて再結晶させ、55.6mgの橙色結晶を得た。続いて、イオン交換カラム(ORGANO AMBERLITE)を用いて、対アニオンをヨウ素イオンから塩素イオンへ交換した。生成物は1H−NMRと元素分析とにより同定した。その結果、得られたAzo2+両端のカチオン間の距離は、DFT(B3LYP/6-31G* level with the Gaussian 09 package)による構造最適化計算により、トランス体で1.21nm、シス体で0.95nmと算出された。 また、4-(N,N,N-trimetylammonium)azobenzene(Azo1+)は以下の方法で合成した。4−ジメチルアミノアゾベンゼン(1g)をヨードメタン(10mL)へ投入し、4日間環流した。そして、得られた溶液を濾過した後、ジクロロメタンで洗浄し乾燥することで褐色固体を得た。得られた褐色固体は、1.381gであった。 次に、得られた褐色固体のうち100mgを水30mLを用いて再結晶させ、45mgの褐色結晶固体を得た。続いて、イオン交換カラム(ORGANO AMBERLITE)を用いて、対アニオンをヨウ素イオンから塩素イオンへ交換した。生成物は1H−NMRと元素分析とにより同定した。なお、Azo2+、Azo1+共にシス体、トランス体は安定であり、室温の暗下、24時間経過後の異性化は実質的に無視し得る程度である。 また、無機層状化合物としての粘土鉱物としては、サポナイト類Sumecton SA(クニミネ工業社製、以下「SSA」と表す。)を用いた。SSAのイオン交換容量(Cation exchange capacity;CEC)は0.997meq g−1であり、この値からSSAにおける平均負電荷間距離は1.2nmと算出された。この平均負電荷距離は、Azo2+のトランス体におけるカチオン間距離に実質的に一致する。 光異性化反応に用いたアゾ色素水溶液は2×10−5Mの濃度に調製した。一方、アゾ色素/SSA複合体水溶液におけるアゾ色素濃度は2×10−5Mに調製し、SSA濃度は2×10−4 equiv L-1 相当に調整し、Loadingレベルは20% vs. CECに調製した。また、複合体水溶液は、アゾ色素水溶液とSSA水溶液とを攪拌混合することで調製した。そして、複合体水溶液中のシス体の存在量とトランス体の存在量とは吸収スペクトル及びNMRで評価した。 ここで、光異性化反応に用いた紫外光光源には、前段にバンドパスフィルター(Hoya U-340)と溶液フィルター([K2CrO4] = 0.28 g L-1, [Na2CO3] = 1.0gL-1)を加えた水銀ランプ(USHIO SX-UI501HQ)を用いた(照射強度:2.7mW)。可視光光源には前段にバンドパスフィルター(Edmund Optics、中心波長420nm、半値全幅10nm)及び赤外カットフィルター(Edmund Optics、#54-516)を加えたキセノンランプ(USHIO SX-UI501XQ)を用いた(照射強度:6.9mW)。 光異性化反応中の吸収スペクトルは、光路長1.0cmのセルに複合水溶液を入れ、異性化反応中の試料の吸収スペクトル変化を分光光度計(Shimadzu UV-3150)により追跡し、光異性化反応中の各異性体の時間変化を導出した。続いて、分光光度計による測定で得られた結果と投入光子数とから光反応の量子収率を算出した。 量子収率を算出した結果、Azo2+において、束縛のない水溶液中における状態と、粘土鉱物の表面に吸着した状態とでは明確に反応性に差異が見られた(表1参照)。粘土鉱物表面にアゾ色素が吸着することによりトランス体からシス体への異性化反応は大幅に抑制され(約10分の1になった)、シス体からトランス体への異性化反応は加速された(約1割加速された)。これは、本実施の形態において説明したように、アゾ色素のカチオン間の距離が予め定められた間隔に実質的に一致し、粘土鉱物表面とアゾ色素との間で強力に静電相互作用が作用していることに起因すると推測された。 一方、アゾ色素の分子両端の2点において粘土鉱物に固定されないことから、粘土鉱物表面に強力には固定されないAzo1+では、同様の効果が得られなかった。係る結果は、上記推測を裏づけるものである。 このような粘土鉱物表面とアゾ色素との間で発生する静電相互作用を応用することを目的として、複合体水溶液への可視光照射による光異性化反応を実施してトランス体の生成を試みた。その結果、シス体からトランス体への異性化反応が促進され、トランス体からシス体への異性化反応は抑制された。その結果、高純度(99%以上)のアゾ色素のトランス体が生成された。 以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない。 1 無機層状化合物 2 多価イオン性分子 10、12 第1電荷 15 間隔 20、22 第2電荷 25 距離 複数の第1電荷を含むと共に互いに隣接する前記複数の第1電荷が予め定められた間隔で表面近傍に配列している無機層状化合物の面上に、前記複数の第1電荷と引き合う複数の第2電荷を含み、複数の異性体を有する多価イオン性分子を接触させ、前記第1電荷と前記第2電荷との静電相互作用により一の異性体から他の異性体への異性化反応の加減速を制御する異性化反応制御工程を備える異性化反応制御方法。 前記異性化反応制御工程が、前記予め定められた間隔を前記一の異性体に含まれる前記複数の第2電荷間の距離に対応させることで、前記一の異性体から前記他の異性体への前記異性化反応を抑制する請求項1に記載の異性化反応制御方法。 前記無機層状化合物が、粘土鉱物であり、 前記予め定められた間隔が、前記無機層状化合物の結晶構造に応じて決定される請求項1又は2に記載の異性化反応制御方法。 前記無機層状化合物の表面又は裏面の少なくとも一方の面上に前記多価イオン性分子が吸着する請求項1〜3のいずれか1項に記載の異性化反応制御方法。 前記異性化反応を駆動させるエネルギーを加えるエネルギー供給工程を更に備える請求項1〜4のいずれか1項に記載の異性化反応制御方法。 請求項1〜5のいずれか1項に記載の異性化反応制御方法を用いて前記一の異性体を前記無機層状化合物の面上に吸着させるか、若しくは前記面上で前記他の異性体から前記一の異性体への前記異性化反応をさせることで前記面上に前記一の異性体を生成させる異性体生成工程と、 前記異性体生成工程によって生成した前記一の異性体を前記無機層状化合物から脱離させる脱離工程とを備える異性体製造方法。 【課題】無機化合物とイオン性分子との静電相互作用を利用して、所望の異性体を高収率で得ることができる異性化反応制御方法、及び異性体製造方法を提供する。【解決手段】異性化反応制御方法は、複数の第1電荷を含むと共に互いに隣接する複数の第1電荷が予め定められた間隔で表面近傍に配列している無機層状化合物1の面上に、複数の第1電荷と引き合う複数の第2電荷を含み、複数の異性体を有する多価イオン性分子2を接触させ、第1電荷と第2電荷との静電相互作用により一の異性体から他の異性体への異性化反応の加減速を制御する異性化反応制御工程を備える。【選択図】図1