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タイトル:公開特許公報(A)_ヒト赤血球前駆細胞株及びヒト脱核赤血球の製造方法
出願番号:2013150872
年次:2014
IPC分類:C12N 5/10,C12N 15/09,C12N 15/00


特許情報キャッシュ

中村 幸夫 栗田 良 JP 2014036651 公開特許公報(A) 20140227 2013150872 20130719 ヒト赤血球前駆細胞株及びヒト脱核赤血球の製造方法 独立行政法人理化学研究所 503359821 特許業務法人セントクレスト国際特許事務所 110001047 中村 幸夫 栗田 良 JP 2012161878 20120720 C12N 5/10 20060101AFI20140131BHJP C12N 15/09 20060101ALI20140131BHJP C12N 15/00 20060101ALI20140131BHJP JPC12N5/00 102C12N15/00 AC12N15/00 8 OL 25 特許法第30条第2項適用申請有り (出願人による申告)文部科学省、「ヒト多能性幹細胞の分化誘導・移植の技術開発と技術支援のための総合拠点」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願 4B024 4B065 4B024AA01 4B024CA04 4B024DA03 4B024EA02 4B024FA02 4B024FA06 4B024GA11 4B065AA93X 4B065AB01 4B065BA02 4B065CA44 本発明は、ヒト赤血球前駆細胞株及びヒト脱核赤血球の製造方法に関し、より詳しくは、ヒト血液幹細胞から不死化したヒト赤血球前駆細胞(ヒト赤血球前駆細胞株)を製造する方法、該製造方法によって得られるヒト赤血球前駆細胞株からヒト脱核赤血球を製造する方法に関する。 献血を基本とする輸血医療体制は、現在では確固たる体制ではあるが、問題が全く存在しない訳ではない。一つには、少子高齢化社会の進行に伴う供給者の相対的減少の問題があり、将来的には輸血用製剤が大幅に不足する事態が危惧されている。また、肝炎ウィルス、エイズウィルス等の感染の初期には、検査で必ずしも陽性と判定できないため、これらウィルスの感染者を完全に特定することは難しく、感染性ウィルス保有者が血液供給者になる可能性を完全に排除することは難しい。従って、不特定多数の供給者からの献血体制においては、感染症のリスクを完全に払拭することは難しいという現実がある。加えて、最近判明した輸血関連急性肺障害(TRALI:Transfusion Related Acute Lung Injury)は輸血製剤中に存在する抗体が原因であると考えられている。故に、安全性を確認したリソース、例えば、幹細胞、不死化細胞株から、人工的に赤血球を生産することが可能となれば、かかる感染症のリスクやTRALI等の現存する問題点を解決できる可能性が高い。 人工的な赤血球生産が熱望されるもう一つの理由に、きわめて稀な血液型に係る輸血医療を担保する必要性がある。例えば、世の中の大半の人間が有する赤血球抗原を有していない赤血球を持つ人(Rh−null型、−D−型等の人)には、当該抗原を有しない赤血球の輸血が必要となる。こうした特殊な血液型の人に関しては、その人達自身から先ずはiPS細胞を樹立し、樹立したiPS細胞から必要とする血液を人工的に生産するという戦略が考えられる。 ES細胞やiPS細胞等の多能性幹細胞から赤血球を生産すること、すなわち、インビトロにて多能性幹細胞から血液幹細胞に、さらに赤血球前駆細胞への分化を介して、成熟した赤血球(脱核赤血球)を生産することは可能となっている(特許文献1)。また、臍帯血由来等の血液幹細胞から赤血球前駆細胞を経て脱核赤血球を生産することも可能となっている(特許文献2)。 しかしながら、これらの方法において、多能性幹細胞又は血液幹細胞から脱核赤血球までに分化誘導するためには、多種かつ大量の増殖因子等を必要とするため、大きなコストが必要となる。何故ならば、多能性幹細胞から分化誘導を実施した場合には、分化誘導後初期には血液系以外の細胞も含まれているため、必要な血液細胞量を得るために多くの培養期間・培養量を必要とするからである。また、多能性幹細胞から分化誘導した血液幹細胞を使用する場合であれ、臍帯血等由来の血液幹細胞を使用する場合であれ、血液幹細胞から赤血球系細胞の分化誘導を実施する場合には、分化誘導後初期には赤血球系以外の血液系細胞も含まれているため、必要な赤血球量を得るために多くの培養期間・培養量を必要とする。従って、赤血球の人工的な生産において、効率良く安定的に脱核赤血球を生産できる方法の開発が求められていた。 かかる状況を鑑み、本発明者らは、赤血球に分化する直前の赤血球前駆細胞を、半永久的な増殖能を有する不死化した細胞株として樹立することを試みた。そして、試験管内における分化誘導操作により、マウスES細胞からかかる赤血球前駆細胞の不死化細胞株を得ることに成功した。さらに、該細胞株から脱核赤血球も安定的に効率よく生産できることも明らかにした(非特許文献1)。国際公開第2009/137629号国際公開第2005/118780号Hiroyama T.ら、「機能的赤血球を産生することができる、マウスES細胞由来の赤血球前駆細胞株の樹立(Establishment of mouse embryonic stem cell−derived erythroid progenitor cell lines able to produce functional red blood cells.)」、PLoS One、2008年2月6日、3巻、2号、e1544. 前述の通り、本発明者らは、マウスES細胞から赤血球前駆細胞の細胞株を樹立し、さらに該細胞株から脱核赤血球を得ることに成功している。しかしながら、同様の方法では、ヒト多能性幹細胞から、脱核赤血球を生産することのできる、不死化した赤血球前駆細胞の細胞株(ヒト赤血球前駆細胞株)を樹立することはできなかった。 本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、ヒト脱核赤血球を効率よく安定的に生産することができるヒト赤血球前駆細胞株の製造方法、並びに該製造方法によって得られるヒト赤血球前駆細胞株からヒト脱核赤血球を製造する方法を提供することを目的とする。 本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ね、先ず、ヒト臍帯血由来又はiPS細胞由来の血液幹細胞のゲノムDNAに、ドキシサイクリン(DOX)の存在下にてヒトパピローマウィルス16型のE6遺伝子及びE7遺伝子(HPV−E6/E7遺伝子)の発現を誘導することが可能な発現カセットを導入した。次いで、DOX存在下にてHPV−E6/E7遺伝子を安定的に発現し得るヒト血液幹細胞を、DOX及び血液系増殖因子(ヒトステムセルファクター(SCF)、ヒトエリスロポエチン(EPO)及びデキサメサゾン(DEX))の存在下にて培養することにより、本発明者らは、ヒト赤血球前駆細胞の不死化細胞株を樹立することに成功した。 さらに、樹立したヒト赤血球前駆細胞株の増殖に関し、DOX(HPV−E6/E7遺伝子の発現)及び血液系増殖因子に対する依存性を解析したところ、該細胞株の増殖には、HPV−E6/E7の発現と、所定の血液系増殖因子とが必須であることが明らかになった。一方、赤血球の分化・成熟過程においては、赤血球前駆細胞から徐々に細胞分裂能が低下し、最終段階である脱核前の正染性赤芽球においては細胞分裂能が完全に喪失していることが明らかになっている。 そこで、細胞増殖能を低下させることにより、効率的に成熟した赤血球への分化誘導ができるのではないかと考え、ヒト赤血球前駆細胞株の増殖に必須であるHPV−E6/E7及び血液系増殖因子を除外した条件下にて培養することにより、成熟した赤血球系細胞(脱核赤血球を含む)への分化誘導を試みた。 その結果、得られた赤血球系細胞には脱核赤血球が高い比率にて含有されており、さらにはヒト赤血球前駆細胞の細胞株のヘモグロビンは、酸素結合・解離能に関し、正常赤血球と同様の機能を有していることを見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は以下を提供するものである。<1> ヒト脱核赤血球を産生するためのヒト赤血球前駆細胞株を、製造するための方法であって、 ヒトパピローマウィルス16型E6遺伝子及びE7遺伝子の発現を外的刺激に応答して誘導することが可能な発現カセットを、ヒト血液幹細胞に導入する工程と、 前記発現カセットが導入されたヒト血液幹細胞を、外的刺激及び血液系増殖因子の存在下にて培養する工程と、を含む方法。<2> 前記ヒト血液幹細胞が、TAL1遺伝子を発現しているヒト多能性幹細胞から分化誘導して得られた細胞である、<1>に記載の方法。<3> ヒトパピローマウィルス16型E6遺伝子及びE7遺伝子の発現を外的刺激に応答して誘導することが可能な発現カセットが導入されており、前記外的刺激及び血液系増殖因子の存在下にて増殖し、前記外的刺激の非存在下にて培養することによりヒト脱核赤血球の産生能を有する、ヒト赤血球前駆細胞株。<4> ヒト脱核赤血球の製造方法であって、 <1>若しくは<2>に記載の方法により得られたヒト赤血球前駆細胞株又は<3>に記載のヒト赤血球前駆細胞株を、前記外的刺激の非存在下にて培養する工程を含む方法。<5> ヒト脱核赤血球の製造方法であって、 ヒトパピローマウィルス16型E6遺伝子及びE7遺伝子の発現を外的刺激に応答して誘導することが可能な発現カセットを、ヒト血液幹細胞に導入する工程と、 前記発現カセットが導入されたヒト血液幹細胞を、外的刺激及び血液系増殖因子の存在下にて培養してヒト赤血球前駆細胞を得る工程と、 前記外的刺激の非存在下にて、前記ヒト赤血球前駆細胞を培養する工程と、を含む方法。<6> 前記ヒト血液幹細胞が、TAL1遺伝子を発現しているヒト多能性幹細胞から分化誘導して得られた細胞である、<5>に記載の方法。<7> ヒトパピローマウィルス16型E6遺伝子及びE7遺伝子の発現を外的刺激に応答して誘導することが可能な発現カセットが導入されている、ヒト赤血球幹細胞。<8> 前記ヒト血液幹細胞が、TAL1遺伝子を発現しているヒト多能性幹細胞から分化誘導して得られた細胞である、<7>に記載のヒト赤血球幹細胞。 本発明によれば、ヒト脱核赤血球を効率よく安定的に生産することができるヒト赤血球前駆細胞株の製造方法、並びに該製造方法によって得られるヒト赤血球前駆細胞株からヒト脱核赤血球を製造する方法を提供することが可能となる。ヒト臍帯血由来の血液幹細胞から、本発明の製造方法により得られたヒト赤血球前駆細胞の細胞株(HUDEP)における、CD71及びグライコフォリンAの発現をフローサイトメーターにて分析した結果を示すプロット図である。ヒトiPS細胞由来の血液幹細胞から、本発明の製造方法により得られたヒト赤血球前駆細胞の細胞株(HiDEP)における、CD71及びグライコフォリンAの発現をフローサイトメーターにて分析した結果を示すプロット図である。HUDEPの増殖における、血液系増殖因子(SCF、EPO及びDEX)並びにDOX(HPV−E6/E7遺伝子の発現を誘導する外的刺激)の依存性を分析した結果を示すグラフである。HiDEPの増殖における、血液系増殖因子及びDOXの依存性を分析した結果を示すグラフである。脱核赤血球への分化誘導後のHUDEPにおける、グライコフォリンA陽性・核染色(SYTO16)陰性の細胞(脱核赤血球)の比率を、フローサイトメーターにて分析した結果を示すプロット図である。脱核赤血球への分化誘導後のHiDEPにおける、グライコフォリンA陽性・核染色陰性の細胞(脱核赤血球)の比率を、フローサイトメーターにて分析した結果を示すプロット図である。HUDEP3株(HUDEP−1、HUDEP−2及びHUDEP−3)及びHiDEP2株(HiDEP−1及びHiDEP−2)におけるGATA1遺伝子の発現量を分析した結果を示すグラフである。なお、図中の相対的発現量は、ヒト胎児肝臓由来の細胞(FL)における発現量を1とした際の値である。ヘモグロビンの合成量を評価するため、HUDEP−1及びHiDEP−1の細胞沈殿を目視にて観察した結果を示す写真である。HUDEP−1の酸素結合・解離能を分析した結果を示すグラフである。HiDEP−1及びHiDEP−2の酸素結合・解離能を分析した結果を示すグラフである。 <ヒト赤血球前駆細胞株の製造方法> 本発明のヒト赤血球前駆細胞株の製造方法においては、先ず、外的刺激に応答してヒトパピローマウィルス(HPV)16型のE6遺伝子及びE7遺伝子の発現を誘導することが可能な発現カセットを、ヒト血液幹細胞に導入する。 本発明において、「赤血球前駆細胞」とは、成熟赤血球への分化能のみを有し、他の血液系細胞への分化能を喪失している細胞を意味する。また、「赤血球前駆細胞株」とは、細胞分裂を無制限に繰り返すことのできる、不死化した赤血球前駆細胞のことを意味する。 本発明において、「血液幹細胞」とは、血液系以外の細胞への分化能は有さず、ありとあらゆる種類の血液系細胞への分化能を有する幹細胞を意味し、「造血幹細胞」とも称される細胞のことである。かかる「血液幹細胞」は、臍帯血、末梢血、骨髄、胎児肝臓等の組織から、造血幹細胞表面抗原(CD34等)に特異的に結合する抗体を用いてフローサイトメトリー法等により分離回収した細胞集団中に豊富に含まれていることが知られている。また、本発明において「血液幹細胞」は、後述の通り、ヒト多能性幹細胞から分化誘導することにより調製することもできる。 本発明にかかる「ヒト多能性幹細胞」としては、自己複製能を有し、血液幹細胞に分化誘導し得る細胞であればよく、かかる細胞としては、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性腫瘍細胞(EC細胞)、胚性生殖細胞(EG細胞)、多能性生殖細胞(mGS細胞)、中胚葉系幹細胞、間葉系幹細胞、MUSE細胞(Kuroda Y.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、2010年、107巻、19号、8639〜8643ページ 参照)等の生体から採取され得る細胞が挙げられ、また当該細胞にはiPS細胞等のように人工的に分化多能性を持たせるよう作製された細胞も含まれる。これらの中では、胚を壊すことなく作製することができるという倫理的な観点から、さらに輸血等に用いる際に、輸血する患者と血液型(赤血球抗原)を適合させ易いという観点から、本発明にかかる多能性幹細胞としてはiPS細胞が優れており、好適に用いられる。 また、本発明にかかる「ヒト多能性幹細胞」としては、血液系細胞(特に赤血球系細胞)への分化誘導効率がより向上されるという観点から、TAL1遺伝子が発現しているヒト多能性幹細胞であることが好ましい。TAL1遺伝子が発現しているヒト多能性幹細胞の作製方法としては、例えば、iPS細胞の作製に用いる遺伝子(例えば、Klf4、Oct3/4、Sox2、c−Myc)と共にTAL1遺伝子を対象の体細胞に導入する方法、または既に樹立されたiPS細胞にTAL1遺伝子を導入する方法、TAL1遺伝子が高発現している細胞にiPS細胞の作製に用いる遺伝子(例えば、Klf4、Oct3/4、Sox2、c−Myc)を導入する方法、等が挙げられる。 なお、TAL1(T細胞急性リンパ性白血病1)遺伝子は、SCL(幹細胞白血病造血性転写因子)遺伝子及びTCL5(T細胞白血病5)遺伝子とも称される遺伝子である。典型的には、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする核酸(例えば、配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNA)である。 ヒト多能性幹細胞からヒト血液幹細胞さらには赤血球系細胞に分化誘導する方法としては特に制限はない。例えば、後述の実施例において示す通り、先ず、ヒト多能性幹細胞を、ヒトインスリン様成長因子II(insulin−like growth factor−II,IGF−II)とヒト血管内皮成長因子(vascular endothelial growth factor,VEGF)との存在下にて、栄養細胞と共培養することにより、血液幹細胞を含む血液系細胞へと分化誘導する。次いで、IGF−II及びVEGFの代わりに、ヒトステムセルファクター(SCF)、ヒトエリスロポエチン(EPO)及びデキサメサゾン(DEX)の存在下にて、栄養細胞と共培養すること等により、赤血球系細胞を豊富に含む細胞集団へと分化誘導することができる。 かかる分化誘導において、前記IGF−II、VEGF、SCF、EPO及びDEXを添加し、用いられる培養液としては、後述の実施例に記載の「血液幹/前駆細胞分化誘導用培養液」等の公知の培養液を適宜選択して用いることができる。また、ヒト多能性幹細胞等と共培養するのに用いられる栄養細胞としても、OP9細胞等の公知の栄養細胞を適宜選択して用いることができる。 ヒト血液幹細胞に導入される「外的刺激に応答して、ヒトパピローマウィルス(HPV)16型のE6遺伝子及びE7遺伝子(HPV−E6/E7遺伝子)の発現を誘導することが可能な発現カセット」は、外的刺激に応答して下流の遺伝子の発現を誘導できるプロモーターと、該プロモーターによって発現が制御されるHPV−E6/E7遺伝子と、ターミネーターとを含む核酸構築物である。 「HPV−E6/E7遺伝子」は、典型的には、配列番号:4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質(HPV−E6タンパク質)及び配列番号:5に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質(HPV−E7タンパク質)をコードする核酸(例えば、配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNA)である。 プロモーターとしては、外的刺激に応答して下流の遺伝子の発現を誘導できるプロモーターであれば特に制限はなく、例えば、外的刺激がテトラサイクリン系抗生物質(テトラサイクリン、ドキシサイクリン等)の存在である場合には、テトラサイクリン系抗生物質とテトラサイクリントランスアクチベーターとの複合体の結合によって、下流の遺伝子の発現を誘導できるプロモーターが挙げられる。一方、外的刺激がテトラサイクリン系抗生物質の非存在である場合には、テトラサイクリンリプレッサーの解離によって、下流の遺伝子の発現を誘導できるプロモーターが挙げられる。また、外的刺激がエクジステロイド(エクジソン、ムリステロンA、ポナステロンA等)の存在である場合には、エクジステロイドと、エクジソン受容体−レチノイド受容体複合体との結合によって、下流の遺伝子の発現を誘導できるプロモーターが挙げられる。さらに、外的刺激がFKCsAの存在である場合には、FKCsAと、FKBP12に融合したGal4 DNA結合ドメイン−シクロフィリンに融合したVP16アクチベータードメイン複合体との結合によって、下流の遺伝子の発現を誘導できるプロモーターが挙げられる。 発現カセットは、必要に応じて、エンハンサー、サイレンサー、選択マーカー遺伝子(例えば、ネオマイシン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子)、SV40複製起点等を含んでいても良い。また、当業者であれば、利用する前記プロモーターの種類等を考慮して、エンハンサー、サイレンサー、選択マーカー遺伝子及びターミネーター等を、公知のものから適宜選択して組み合わせることにより、所望の発現レベルにてHPV−E6/E7遺伝子の発現を誘導することが可能な発現カセットを構築することができる。 また、必要に応じて、本発明にかかるヒト血液幹細胞には、外的刺激に応じてHPV−E6/E7遺伝子の発現を誘導する因子(例えば、テトラサイクリントランスアクチベーター、テトラサイクリンリプレッサー、エクジソン受容体−レチノイド受容体複合体、FKBP12に融合したGal4 DNA結合ドメイン−シクロフィリンに融合したVP16アクチベータードメイン複合体)を核内において恒常的に発現させることが可能な発現カセットも導入されていてもよい。 本発明において、前記発現カセットをヒト血液幹細胞に導入する方法としては特に制限はなく、公知の手法を適宜選択して用いることができる。例えば、前記発現カセットを適当な発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを感染、リポフェクション法、リポソーム法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム共沈殿法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション法にて細胞に導入することができる。 このような発現ベクターとしては、例えば、レンチウィルス、レトロウィルス、ヘルペスウィルス、アデノウィルス、アデノ随伴ウィルス、センダイウィルス等のウィルスベクター、動物細胞発現プラスミドが挙げられるが、増殖活性があまり高くない血液幹細胞のゲノムDNAへの導入効率が極めて高いという観点から、レンチウィルスが好ましい。 このようにして得られる「前記発現カセットが導入されたヒト血液幹細胞」とは、本発明にかかる発現カセットが細胞内に導入された結果、外的刺激の存在下においてHPV−E6/E7遺伝子を安定的に発現し得るヒト血液幹細胞である。また、細胞株の樹立、さらには後述のヒト脱核赤血球への分化段階にて、核と共に本発明にかかる発現カセットが除去できるという観点から、本発明にかかる発現カセットがゲノムDNAに組み込まれているヒト血液幹細胞が好ましい。 本発明のヒト赤血球前駆細胞株の製造方法においては、次に、前記発現カセットが導入されたヒト血液幹細胞を、前記外的刺激及び血液系増殖因子の存在下にて培養する。 本発明において、「血液系増殖因子」は、血液幹細胞から赤血球前駆細胞への分化誘導又は赤血球前駆細胞の増殖に寄与する因子を意味する。このような「血液系増殖因子」としては、例えば、SCF、EPO、TPO(Thrombopoietin、トロンボポエチン)、DEXが挙げられる。 後述の培養液における、SCFの好適な添加濃度としては、50〜100ng/mlであり、EPOの好適な添加濃度としては、3〜5U/mlであり、TPOの好適な添加濃度としては、50〜100ng/mlであり、DEXの好適な添加濃度としては、10−6Mオーダーである。 また、前記外的刺激に関しては、当業者であれば、利用する前記プロモーターの種類等を考慮して、後述の培地への添加量を適宜調製することができる。例えば、外的刺激がドキシサイクリンの存在である場合には、ドキシサイクリンの好適な添加濃度としては、1〜2μg/mlである。 ヒト赤血球前駆細胞への分化誘導のために用いられ、前記外的刺激及び前記血液系増殖因子が添加される培養液としては、例えば、IMDM溶液、a−MEM溶液又はDMEM溶液が挙げられ、さらに、ウシ胎児血清(FBS)、ウシ血清アルブミン(BSA)、ヒトインスリン、ヒトトランスフェリン、2−メルカプトエタノール、セレン酸ナトリウム、アスコルビン酸、アルファモノチオグリセロール、L−グルタミン等が含まれていてもよい。また、必要に応じて、無機塩類(硫酸第一鉄等)、抗生物質(例えば、ストレプトマイシン、ペニシリン等)等が添加してあっても良い。 「ヒト多能性幹細胞由来の血液幹細胞を含む血液系細胞集団」又は「ヒト臍帯血等由来の血液幹細胞を豊富に含む血液系細胞集団」から赤血球前駆細胞を分化誘導する際には、FBSと、ヒトインスリン、ヒトトランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、アスコルビン酸、アルファモノチオグリセロール及びL−グルタミン等を含むIMDM溶液等が好適に用いられる。また、培養細胞の臨床応用を考慮した場合には無血清培養液(FBSを含まない培養液)が好ましい。かかる赤血球前駆細胞を分化誘導する無血清培養液としては、BSA、ヒトインスリン、ヒトトランスフェリン(ヒト鉄飽和(ホロ)トランスフェリン)及び2−メルカプトエタノールを含むIMDM溶液(より具体的には、STEMCELL TECHNOLOGIES社製の「StemSpan SFEM」)等が好適に用いられる。 前記外的刺激及び血液系増殖因子の存在下にて、培養液交換を行いながら赤血球前駆細胞の培養を継続し、不死化細胞株を樹立できたと考えられる培養期間としては、好ましくは3ヶ月間であり、より好ましくは6ヶ月以上培養できた時点で不死化細胞株と判断する。 さらに、前記発現カセットが前記血液幹細胞のゲノムDNAに安定的に導入されるまでの期間を確保するという観点から、前記外的刺激及び血液系増殖因子の存在下にて培養する前に、前記発現カセットを前記血液幹細胞に導入してから、1〜7日間は、前記外的刺激の非存在下及び血液系増殖因子の存在下にて培養してもよい。 また、ヒト多能性幹細胞から血液幹細胞含む血液系細胞を分化誘導する際の培養、及び、ヒト多能性幹細胞から分化誘導した血液系細胞等を継代培養して不死化細胞株を得るまでの培養は、栄養細胞との共培養が好ましい。栄養細胞としては、例えば、OP9細胞、MEF、SNL76/7細胞、PA6細胞、NIH3T3細胞、M15細胞、10T1/2細胞等が挙げられる。これら栄養細胞は、放射線照射や細胞分裂停止薬剤(マイトマイシンC等)の処理により細胞分裂を停止させたものを使用する事が好ましい。 <ヒト脱核赤血球の製造方法> 後述の実施例において示す通り、HPV−E6/E7遺伝子の発現は、樹立した赤血球前駆細胞株の増殖において必要である。一方、赤血球の分化・成熟過程においては、赤血球前駆細胞から徐々に細胞分裂能が低下し、最終段階である脱核前の正染性赤芽球においては、細胞分裂能は完全に喪失していることが明らかになっている。従って、本発明のヒト脱核赤血球の製造方法は、細胞増殖能を低下させることにより、効率的に脱核赤血球への分化が誘導されるという観点から提供されるものである。 すなわち、本発明のヒト脱核赤血球の製造方法は、前述の方法にて製造されたヒト赤血球前駆細胞株を、前記外的刺激の非存在下にて培養する工程を含む方法である。 脱核赤血球への分化誘導のために用いられ、前記外的刺激が除外された培地としては、例えば、IMDM溶液、α−MEM溶液、DMEM溶液が挙げられ、ヒト血漿タンパク質画分、ヒト血清、D−マンニトール、アデニン、リン酸水素ナトリウム、ミフェプリストン、α−トコフェロール、リノール酸、コレステロール、亜セレン酸ナトリウム、ヒトホロトランスフェリン、ヒトインスリン、エタノールアミン、2−メルカプトエタノール、EPO、TPO、SCF等が含まれていてもよい。また、必要に応じて、無機塩類、抗生物質が添加してあっても良い。 後述の実施例において示す通り、本発明のヒト臍帯血由来の赤血球前駆細胞の増殖には、前記外的刺激の他、SCFも必須であり、さらには、EPOは必須ではないものの、該増殖性はEPOの存在下にて向上することも明らかになった。一方、赤血球の分化・成熟過程においては、赤血球前駆細胞から徐々に細胞分裂能が低下し、最終段階である脱核前の正染性赤芽球においては細胞分裂能は完全に喪失していることが明らかになっている。 従って、細胞増殖能を低下させることにより、効率的に脱核赤血球への分化が誘導されるという観点から、本発明のヒト臍帯血由来の赤血球前駆細胞から脱核赤血球への分化誘導においては、SCFを含有していない、例えば下記組成の培地が好適に用いられる。ヒト血清、α−トコフェロール、リノール酸、コレステロール、亜セレン酸ナトリウム、ヒトホロトランスフェリン、ヒトインスリン、エタノールアミン、2−メルカプトエタノール、D−マンニトール及びミフェプリストンを含むIMDM溶液。 さらに、分化誘導に伴う細胞死を抑制する、即ち、分化誘導段階での細胞の生存率を向上させるという観点から、当該培地には、3〜5IU/ml EPOが含まれていても良い。 また、後述の実施例において示す通り、本発明のヒト多能性幹細胞由来の赤血球前駆細胞の増殖には、前記外的刺激の他、EPOも必須であることが明らかになった。従って、前述の観点から、本発明のヒト多能性幹細胞由来の赤血球前駆細胞から脱核赤血球への分化誘導においては、EPOを含有していない、例えば下記組成の培地が好適に用いられる。ヒト血漿タンパク質画分、D−マンニトール、アデニン、リン酸水素ナトリウム及びミフェプリストンを含むIMDM溶液。 また、前記外的刺激の非存在下にて、本発明のヒト赤血球前駆細胞株を培養する期間としては、細胞の生存率を維持しながら、脱核を誘導し、完結させるという観点から、通常1〜7日間であり、好ましくは3〜5日間である。 以上、本発明のヒト脱核赤血球の製造方法の好適な実施形態について説明したが、本発明のヒト脱核赤血球の製造方法は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、下記方法によれば、上述のヒト赤血球前駆細胞株を樹立せずとも、ヒト血液幹細胞からヒト脱核赤血球を製造することができる。 ヒトパピローマウィルス16型E6遺伝子及びE7遺伝子の発現を外的刺激に応答して誘導することが可能な発現カセットを、ヒト血液幹細胞に導入する工程と、 前記発現カセットが導入されたヒト血液幹細胞を、外的刺激及び血液系増殖因子の存在下にて培養してヒト赤血球前駆細胞を得る工程と、 前記外的刺激の非存在下にて、前記ヒト赤血球前駆細胞を培養する工程と、を含む、ヒト脱核赤血球の製造方法。 なお、かかる製造方法についても、当業者であれば、前述の本発明に関する説明及び実施例の具体的な説明を参照しつつ、本発明にかかる発現カセットの構成、該発現カセットの導入方法、各分化段階における培養条件(例えば、培地の組成、培養期間)等を適宜選択しつつ、必要に応じてこれらの方法に適宜、修飾ないし改変を加えることにより、実施することができる。 <ヒト赤血球前駆細胞、ヒト血液幹細胞> 前述の通り、HPV−E6/E7遺伝子の発現は、赤血球前駆細胞株の増殖においては必要であるが、赤血球前駆細胞株から脱核赤血球への分化においては阻害要因になり得ることが、本発明において初めて見出され、赤血球前駆細胞株の増殖維持から脱核赤血球に至るまでには、HPV−E6/E7遺伝子の発現のオンからオフへの切り換えが必要であることが初めて明らかになった。 従って、本発明は、HPV−E6/E7遺伝子の発現のオンオフの切り換えが可能であって、前述のヒト脱核赤血球の製造方法において有用な、下記ヒト赤血球前駆細胞株も提供するものである。 ヒトパピローマウィルス16型E6遺伝子及びE7遺伝子の発現を外的刺激に応答して誘導することが可能な発現カセットが導入されており、外的刺激及び血液系増殖因子の存在下で増殖し、前記外的刺激の非存在下にて培養することによりヒト脱核赤血球の産生能を有する、ヒト赤血球前駆細胞株。 なお、「ヒトパピローマウィルス16型E6遺伝子及びE7遺伝子の発現を外的刺激に応答して誘導することが可能な発現カセットが導入されているヒト赤血球前駆細胞株」とは、前述のヒト血液幹細胞と同様に、本発明にかかる発現カセットが細胞内に導入された結果、外的刺激の存在下においてHPV−E6/E7遺伝子を安定的に発現し得るヒト赤血球前駆細胞株のことであり、細胞株の樹立、さらには後述のヒト脱核赤血球への分化段階にて、核と共に本発明にかかる発現カセットが除去できるという観点から、本発明にかかる発現カセットがゲノムDNAに組み込まれているヒト赤血球前駆細胞株が好ましい。 本発明は、前述のヒト赤血球前駆細胞株の製造方法において有用な、下記ヒト赤血球幹細胞も提供するものである。 ヒトパピローマウィルス16型E6遺伝子及びE7遺伝子の発現を外的刺激に応答して誘導することが可能な発現カセットが導入されている、ヒト赤血球幹細胞。 本発明のヒト血液幹細胞及びヒト赤血球前駆細胞株としては、血液系細胞(特に赤血球系細胞)への分化誘導効率がより向上されるという観点から、TAL1遺伝子が発現しているヒト多能性幹細胞由来の細胞であることが好ましい。また、かかるヒト赤血球前駆細胞株から分化誘導することにより得られた細胞、及び、かかるヒト血液幹細胞からヒト赤血球前駆細胞株を介して分化誘導することにより得られた細胞においては、後述の実施例において示す通り、ヒト脱核赤血球は高い比率(例えば、62%)にて含有されている。 従って、本発明は、外的刺激に応答してHPV16型のE6遺伝子及びE7遺伝子の発現を誘導することが可能な発現カセットが導入されており、ヒト脱核赤血球に分化誘導する効率が30%以上(好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上、特に好ましくは60%以上)である、ヒト赤血球前駆細胞株又はヒト血液幹細胞も提供するものである。 本発明において、「ヒト脱核赤血球に分化誘導する効率」は、例えば、後述の実施例において示すような方法にて算出することができる。すなわち、脱核赤血球への分化誘導後の細胞の、成熟赤血球系細胞のマーカー(例えば、グライコフォリンA)と、核とを染色し、フローサイトメーターにより解析する。そして、当該細胞における、成熟赤血球系細胞のマーカーが陽性であり、かつ核染色が陰性である細胞の割合を算出することにより、「ヒト脱核赤血球に分化誘導する効率」の値を求めることができる。 <本発明の方法によって得られる赤血球の利用方法1> 上述の通り、本発明によれば、ヒト多能性幹細胞又はヒト血液幹細胞よりヒト脱核赤血球を生産することができる。従って、赤血球に関する疾患を罹患しているヒトからヒト多能性幹細胞又は血液幹細胞を調製し、さらに本発明の方法を用い、これら細胞をヒト脱核赤血球に分化誘導することにより、当該疾患のモデルとなる赤血球を大量に提供することができる。「赤血球に関する疾患」としては、例えば、遺伝性球状赤血球症、鎌状赤血球貧血、サラセミア、発作性夜間ヘモグロビン尿症、巨赤芽球性貧血が挙げられる。 また、こうして調製した疾患モデルとなる赤血球を被検化合物と接触させ、当該接触後の赤血球の状態(例えば、形状や大きさ、酸素に対する結合能や解離能)を検出し、赤血球の状態を改善する化合物を選択することにより、赤血球に関する疾患の治療又は予防に有効な医薬品候補化合物をスクリーニングすることができる。 スクリーニングに用いる「被検化合物」としては、特に制限はなく、例えば、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物ライブラリー、ペプチドライブラリー、抗体、細菌放出物質、細胞(微生物、植物細胞、動物細胞)の抽出液及び培養上清、精製又は部分精製ポリペプチド、海洋生物、植物又は動物由来の抽出物、土壌、ランダムファージペプチドディスプレイライブラリーが挙げられる。 被検化合物と赤血球との「接触」は、例えば、本発明の方法によって得られた赤血球を培養、維持している培地中への添加や、本発明の方法によって得られた赤血球を移植した実験動物(好ましくは免疫不全動物)への投与によって行うことができる。 被検化合物の接触後の赤血球の状態の検出は、当業者に公知の方法で行うことができる。例えば、赤血球の形状や大きさの検出であれば、顕微鏡による観察やフローサイトメトリーによる解析によって行うことができ、赤血球の酸素に対する結合能や解離能の検出であれば、市販の解析装置を利用して行うことができる。 赤血球の状態が「改善」しているかどうかは、例えば、遺伝性球状赤血球症においては、赤血球の形状が球状から正常赤血球の円盤状又はそれに近い形状に変化しているかどうかで判断することができ、鎌状赤血球貧血においては、赤血球の形状が鎌状から正常赤血球の円盤状又はそれに近い形状に変化しているかどうかで判断することができ、鎌状赤血球貧血やサラセミア等においては、赤血球の酸素に対する結合能や解離能が向上しているかどうかで判断することができる。 <本発明の方法によって得られる赤血球の利用方法2> 赤血球に関連する疾患の別の態様として、感染症が知られている。特にマラリアは、マラリア原虫による感染症であり、当該原虫が赤血球中で無性生殖により分裂増殖し、さらにはその赤血球を破壊して、別の赤血球に侵入するというサイクルを繰り返すことにより、高熱や腎不全等の症状が引き起こされる。 前述の通り、本発明によれば、マラリア原虫の増殖の場となる赤血球を大量に提供することができる。従って、本発明は、マラリア疾患の治療又は予防に有効な医薬品候補化合物のスクリーニング方法をも提供することができる。この方法においては、被検化合物の存在下、赤血球とマラリア原虫とを接触させ、当該接触後の赤血球におけるマラリア原虫の数を検出し、被検化合物の非存在下と比較して、赤血球におけるマラリア原虫の数を減少させる化合物を選択する。 「マラリア原虫(malarialparasites)」としては、例えば、胞子虫類に属する熱帯熱マラリア原虫Plasmodiumfalciparum、三日熱マラリア原虫Plasmodiumvivax、四日熱マラリア原虫Plasmodium malariae、卵形マラリア原虫Plasmodium ovaleが挙げられる。マラリア原虫と赤血球との接触の方法や、スクリーニングに供される被検化合物については、前記赤血球の利用方法1と同様である。 被検化合物の接触後の赤血球におけるマラリア原虫の数の検出は、当業者に公知の方法で行うことができる。公知の方法としては、例えば、ギムザ染色を施し、光学顕微鏡による観察する方法や、マラリア原虫特異的抗体を用いたフローサイトメトリーによる解析、マラリア原虫のゲノム特異的なプライマーを用いた定量的PCR法が挙げられる。 また、赤血球に直接侵入しないマラリア以外の感染症に対する有効な化合物のスクリーニングにおいても、本発明を用いることができる。例えば、マラリア以外の感染症を引き起こす感染源と被検化合物とを接触させる際に、本発明のヒト多能性幹細胞又はヒト血液幹細胞より産生されるヒト脱核赤血球を加え、ヒト生体内の環境に近い状況を再現した状態を構築できる。当該実験系はin vitro、in vivoのどちらでもよく、この状況下において感染源の数を減少させる化合物をスクリーニングを行うことができる。 <本発明の方法によって得られる赤血球の利用方法3> 本発明の方法によって得られる赤血球を被検化合物と接触させ、当該接触後の赤血球の状態(例えば、形状や大きさ、酸素に対する結合能や解離能)を検出することにより、当該被検化合物が赤血球に対して悪影響を及ぼすか否かを判定することもできる。 かかる判定に供される「被検化合物」としては、前記の赤血球の利用方法と同様に、特に制限はない。例えば、現行又は開発中の医薬品(抗がん剤、免疫抑制剤、抗ウィルス剤等)を用いれば、これら医薬品の赤血球に対する副作用の有無を判定することができる。 被検化合物と赤血球との接触の方法、スクリーニングに供される被検化合物、赤血球の状態の検出については、前記赤血球の利用方法1と同様である。 被検化合物との接触により、例えば、前記接触後の赤血球が、厚さが1〜3μm、直径が5〜10μmである中央がくぼんだ円盤状から、別の形状又は大きさを有する赤血球に変形する場合には、当該被検化合物が赤血球に対して悪影響を及ぼす化合物であると判定することができる。「別の形状への変形」としては、球状等への変形のみならず、溶血を引き起こす赤血球の膜の破壊も含む意味である。 また、被検化合物との接触により、例えば、赤血球の酸素に対する結合能や解離能が、前記接触前の赤血球のそれよりも低下した場合には、当該被検化合物が赤血球に対して悪影響を及ぼす化合物であると判定することができる。 以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、本実施例において用いた細胞、培養液及び形質転換に用いたベクターは以下の通りである。 <細胞> ヒト臍帯血由来血液幹/前駆細胞(CD34陽性細胞)は、理化学研究所バイオリソースセンター細胞材料開発室より購入した(理研細胞記号:C34)。 ヒトiPS細胞は、理化学研究所バイオリソースセンター細胞材料開発室にて、本発明者らが樹立した羊膜由来iPS細胞株(HiPS−RIKEN−3A及びHiPS−RIKEN−4A)を用いた。また、この細胞は、塩基性線維芽細胞増殖因子(b−FGF)含有霊長類ES細胞用培地中、後述の栄養細胞上にて培養することにより維持した(Fujioka T.ら、Human Cell、2010年、23巻、113〜118ページ 参照)。 ヒトiPS細胞の維持培養用の栄養細胞として用いたSNL76/7細胞は、ECACCより購入した。さらに、ヒトiPS細胞の維持培養用の栄養細胞としてはMEFも用いた。このMEFは、本発明者らが標準的な手技手法によりマウス胎児から調製した。また、これらヒトiPS細胞の維持培養用の栄養細胞は、10%FBS含有ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)溶液にて培養することにより、維持した。 また、血液系細胞分化誘導用の栄養細胞として用いたOP9細胞は、理化学研究所バイオリソースセンター細胞材料開発室より購入した(理研細胞記号:RCB1124)。この細胞は、20%FBS含有アルファ最少必須イーグル培地(α−MEM)溶液にて培養することにより、維持した。 <培養液> ヒト臍帯血由来血液幹/前駆細胞から赤血球前駆細胞株(HUDEP)を樹立する過程で使用した培養液として、ヒト造血幹細胞/前駆細胞増殖用の無血清培地(製品名:StemSpan SFEM培養液、STEMCELL THECHNOLOGIES社製)を用いた。 ヒトiPS細胞から血液幹/前駆細胞を分化誘導する過程と、ヒトiPS細胞から分化誘導した血液幹/前駆細胞を用いて赤血球前駆細胞株を樹立する過程とにて用いた培養液(以下、「血液幹/前駆細胞分化誘導用培養液」と称する)の組成は下記の通りである。15%FBS(SIGMA社製)と、ITS液体培地サプリメント(10μg/ml ヒトインスリン、5.5μg/ml ヒトトランスフェリン、5ng/ml 亜セレン酸ナトリウム)(SIGMA社製)、50mg/ml アスコルビン酸(SIGMA社製)、0.45mM アルファモノチオグリセロール(SIGMA社製)及び2mM L−グルタミン(SIGMA社製)とを含むIMDM溶液(SIGMA社製)。 赤血球前駆細胞株から脱核赤血球を得るために用いた培養液(2種類)の組成は下記の通りである。[脱核赤血球産生用培養液1] 0.5% ヒト血漿タンパク質画分(Baxter社製)、14.57mg/ml D−マンニトール(SIGMA社製)、0.14mg/ml アデニン(SIGMA社製)、0.94mg/ml リン酸水素ナトリウム(SIGMA社製)及び1μM ミフェプリストン(グルココルチコイド受容体アンタゴニスト、SIGMA社製)を含むIMDM溶液(SIGMA社製)(Miharada K.ら、Nature Biotechnology、2006年、24巻、10号、1255〜1256ページ 参照)。[脱核赤血球産生用培養液2] 10% ヒトAB型血清(KOHJIN BIO社製)、20ng/ml α−トコフェロール(SIGMA社製)、4ng/ml リノール酸(SIGMA社製)、200ng/ml コレステロール(SIGMA社製)、2ng/ml 亜セレン酸ナトリウム(SIGMA社製)、200μg/ml ヒトホロトランスフェリン(SIGMA社製)、10μg/ml ヒトインスリン(SIGMA社製)、10μM エタノールアミン(SIGMA社製)、0.1mM 2−メルカプトエタノール(2−ME、SIGMA社製)、14.57mg/ml D−マンニトール(SIGMA社製)、1μM ミフェプリストン(SIGMA社製)及び 5 IU/ml EPOを含むIMDM溶液(SIGMA社製) (Miharada K.ら、Nature Biotechnology、2006年、24巻、10号、1255〜1256ページに記載の組成を改変)。 <ベクター> ヒトiPS細胞にTAL1遺伝子を導入するために、CSII−EF−RfAレンチウィルスベクターを用いた。また、後述の赤血球前駆細胞株樹立の工程において、ヒトパピロマウィルス−E6/E7(HPV−E6/E7)遺伝子及びテトラサイクリントランスアクチベーター(rtTA)をコードする遺伝子を導入するために、CSIV−TRE−RfA−UbC−KTレンチウィルスベクターを用いた。CSII−EF−RfA及びCSIV−TRE−RfA−UbC−KTは、いずれも理化学研究所バイオリソースセンター細胞運命情報解析技術開発サブチームより入手した。また、これらレンチウイルスベクターを用いたレンチウイルスの調製は、標準的な手技手法を採用して行った。導入したヒトTAL1遺伝子及びHPV−E6/E7遺伝子の塩基配列は、配列番号:1及び3に各々示す。 なお、非ヒト霊長類ES細胞にTAL1を強制発現させることで、血液系細胞の分化誘導効率が良くなることが報告されている(Kurita R.ら、Stem Cells、2006年、24巻、2014〜2022ページ 参照)。かかる知見に基づき、本発明者らは、後述の実施例2及び3の方法にて、HPV−E6/E7の発現を誘導することなく、ヒトiPS細胞を赤血球前駆細胞へと分化誘導した。その結果、図には示さないが、かかる方法にて、不死化した赤血球前駆細胞株を樹立することはできたが、これら細胞株からは脱核赤血球が得ることはできなかった。 また、CD36陽性赤血球前駆細胞に癌遺伝子であるHPV−E6/E7遺伝子を導入することにより、サイトカイン依存的に増殖する細胞株を得ることができることが明らかになっている。しかしながら、かかる細胞株の赤血球系細胞への分化誘導の効率は著しく低かったことも併せて報告されている(Wong.Sら、Exp Hematol.、2010年、38巻、11号、994〜1005ページ 参照)。 (実施例1) ヒト臍帯血由来血液幹/前駆細胞からの赤血球前駆細胞株の樹立 1x105個のヒト臍帯血由来血液幹/前駆細胞(CD34陽性細胞)を血液系増殖因子(SCF(R&D systems社製) 50ng/ml,ヒトトロンボポエチン(TPO、R&D systems社製) 50ng/ml,ヒトFLT3リガンド(FLT3−L、R&D systems社製) 50ng/ml)の存在下で一晩培養した(37℃、5%CO2で培養。以下全ての培養系において同様の温度・CO2濃度条件にて培養した)。 その後、誘導発現系(ドキシサイクリン(DOX)の存在下で発現が誘導され、非存在下では発現が抑制される系)にてHPV−E6/E7の発現を調節することが可能な遺伝子構造(コンストラクト)を内包する、前述のレンチウイルスを、前記ヒト臍帯血由来血液幹/前駆細胞に導入した。 前記導入後6日間は、50ng/ml SCF、3U/ml EPO(KIRIN Brewery社製)及び10−6M DEX(SIGMA社製)を含むStemSpan SFEM培養液で培養を続けた。 その後(前記導入後7日目以降)は、HPV−E6/E7の発現を誘導するために、さらに1μg/ml DOXを加えて培養を行った。この後は、定期的に培地交換を実施し(週2回程度)、培養を継続した。 かかる培養の結果、前記導入後に6ヶ月以上の継代培養(細胞増殖維持)が可能となり、ヒト赤血球前駆細胞株(HUDEP:ヒト臍帯血由来赤血球前駆細胞株(Human Umbilical Cord Blood−Derived Erythroid Progenitor cell line))を、再現性をもって樹立できることが明らかになった。 (実施例2) ヒトiPS細胞からの赤血球前駆細胞株の樹立 先ず、ヒトiPS細胞に、前述のレンチウイルスを用いて転写因子TAL1を強制導入し、TAL1を恒常的に発現するヒトiPS細胞株を樹立した(iPS−TAL1細胞)。 樹立した4〜8x104個のiPS−TAL1細胞を、あらかじめガンマ線照射したOP9細胞上に播種し、200ng/ml ヒトインスリン様成長因子II(insulin−like growth factor−II,IGF−II、R&D systems社製)と、20ng/ml ヒト血管内皮成長因子(vascular endothelial growth factor,VEGF、R&D systems社製)とを含む前記血液幹/前駆細胞分化誘導用培養液にて10日間培養を行い、血液系細胞を誘導した。 前記血液系細胞への分化誘導開始10日後からは、IGF−II及びVEGFは添加せず、前記血液幹/前駆細胞分化誘導用培養液に50ng/ml SCF、3U/ml EPO及び10−6M DEXを添加し、さらに6日間培養することにより、赤血球系細胞を誘導した。 前記血液系細胞への分化誘導開始後16日目に、前記誘導発現系にてHPV−E6/E7の発現を調節することが可能なコンストラクトを内包する、前述のレンチウイルスを導入した。 導入後4日間(前記血液系細胞への分化誘導開始後16〜20日の間)は、50ng/ml SCF、3U/ml EPO及び10−6M DEXの存在下で培養を続けた。 その後(分化誘導開始後20日目以降)は、HPV−E6/E7の発現を誘導するために、さらに1μg/ml DOXを加えて培養を行った。この後は、定期的に培地交換を実施し(週2回程度)、培養を継続した。 そして、かかる培養の結果、前記血液系細胞への分化誘導開始後に6ヶ月以上の継代培養(細胞増殖維持)が可能となり、ヒト赤血球前駆細胞株(HiDEP:ヒトiPS細胞由来赤血球前駆細胞株(Human iPS cell−Derived Erythroid Progenitor cell line))を、再現性をもって樹立できることが明らかになった。 また、HiDEPは樹立過程では、上記の通り、栄養細胞(OP9細胞)の上で培養したが、得られた全てのHiDEPに関し、前記血液系細胞への分化誘導を開始してから3カ月後には、栄養細胞非存在下にて増殖が可能な細胞になっていることが明らかになった。 <本発明のヒト赤血球前駆細胞株の特性についての評価1> 本発明のヒト赤血球前駆細胞株に関し、赤血球系細胞に特異的な分子の発現を調べた。すなわち、実施例1にて樹立した3株のHUDEP及び実施例2にて樹立した5株のHiDEPについて、市販のフローサイトメーター機器及び市販の抗体を用いて、標準的な手技手法により、CD71(トランスフェリン受容体)及びグライコフォリンAの発現を調べた。得られた結果の代表例として、HUDEP−1及びHiDEP−1の結果を、各々図1及び2に示す。 なお、CD71は、赤血球前駆細胞においては発現が確認される分子であるが、成熟した赤血球系細胞においては発現していないことが明らかになっている。一方、グライコフォリンAは、赤血球前駆細胞及び成熟した赤血球系細胞の双方において発現していることが知られている。 図1及び2に示す通り、HUDEP−1及びHiDEP−1いずれも、赤血球系細胞に特異的な分子(CD71及びグライコフォリンA)を発現している分化段階にある赤血球系細胞株であることが明らかになった。特に、HiDEP−1はグリコフォリンAの発現が高い細胞であるため、HUDEP−1と比較するに、HiDEP−1の方がより成熟した赤血球系細胞であることが示唆された。 次に、本発明のヒト赤血球前駆細胞株に関し、増殖因子の依存性を調べた。すなわち、前記3株のHUDEP及び前記5株のHiDEPを、各々下記増殖因子の組み合わせを含む、StemSpan SFEM培養液及び前記血液幹/前駆細胞分化誘導用培養液にて、9〜12日間培養し、その細胞数の変化を調べた。得られた結果の代表例を各々図3及び4に示す。ALL…全因子(DOX(HPV−E6/E7)、SCF、EPO及びDEX)「−DOX」…DOX非存在(SCF、EPO及びDEX)「−SCF」…SCF非存在(DOX(HPV−E6/E7)、EPO及びDEX)「−EPO」…EPO非存在(DOX(HPV−E6/E7)、SCF及びDEX)「−DEX」…DEX非存在(DOX(HPV−E6/E7)、SCF及びEPO)。 図3及び4に示す通り、前記3株のHUDEP及び前記5株のHiDEPいずれも、全てHPV−E6/E7発現条件下でのみ増殖が可能な細胞であることが明らかになった。 また、図3に示す通り、HUDEP−1の増殖には、SCFも必須であること、さらにはEPOは必須ではないものの、HUDEP−1の増殖性はEPOの存在下にて向上することも明らかになった。また、図4に示す通り、HiDEP−1の増殖性は、EPOにも依存していることが明らかになった。 従って、本発明のヒト赤血球前駆細胞株の増殖には、HPV−E6/E7の発現と、何らしかの少なくとも一の血液系増殖因子とが必須であることが明らかになった。 (実施例3) 本発明のヒト赤血球前駆細胞株から、成熟した赤血球系細胞への分化誘導(脱核赤血球の生産) 前述の通り、HUDEPの増殖には、HPV−E6/E7及びSCFが必須である。また。HiDEPの増殖には、HPV−E6/E7及びEPOが必須である。一方、赤血球の分化・成熟過程においては、赤血球前駆細胞から徐々に細胞分裂能が低下し、最終段階である脱核前の正染性赤芽球においては細胞分裂能は完全に喪失していることが明らかになっている。従って、前述の知見に基づき、本発明のヒト赤血球前駆細胞株に関しては、これら増殖に必須であるHPV−E6/E7及び当該血液系増殖因子を除外した条件下であれば、効率的に成熟した赤血球系細胞(脱核赤血球を含む)に分化誘導できると考えた。 そこで、HUDEPに関しては、HPV−E6/E7の発現誘導の条件となるDOXと、SCFとを除外した前記脱核赤血球産生用培養液2にて培養することにより、成熟した赤血球系細胞(脱核赤血球を含む)に分化誘導することを試みた。また、HiDEPに関しては、DOXとEPOとを除外した前記脱核赤血球産生用培養液1にて培養することにより、成熟した赤血球系細胞(脱核赤血球を含む)に分化誘導することを試みた。 その結果、樹立したヒト赤血球前駆細胞株(HUDEP及びHiDEP)を、HPV−E6/E7非発現条件下、かつ、各々の細胞増殖に必須の血液系増殖因子の非存在下におくことで、いずれの細胞株においても、より成熟した赤血球系細胞への分化誘導が観察された。 また、成熟した赤血球系細胞への分化誘導後の、本発明のヒト赤血球前駆細胞株における脱核赤血球の割合について調べた。すなわち、成熟した赤血球系細胞へ分化誘導してから5日目のHUDEP−1及びHiDEP−1について、市販のフローサイトメーター機器、市販の抗体及び核染色液(SYTO16)を用いて、標準的な手技手法により、グライコフォリンAの発現及び核染色の有無を調べた。得られた結果を、各々図5及び6に示す。 なお、グライコフォリンAは成熟した赤血球系細胞のマ―カ−である。また、SYTO16は、生細胞の膜を透過し、核を染色する染色液である。従って、SYTO16陽性の細胞は核を有する細胞を意味し、陰性細胞は核を有さない細胞(脱核赤血球)を意味する。 図5及び6に示した結果から明らかなように、HUDEP及びHiDEPいずれにおいても、成熟した赤血球系細胞への分化誘導数日(5日)後の細胞の中には脱核赤血球が含まれていた。特に、HiDEP−1に関しては、成熟した赤血球系細胞への分化誘導後の細胞中において、約60%という極めて高い比率にて、脱核赤血球が産生されていることが明らかになった。 <本発明のヒト赤血球前駆細胞株の特性についての評価2> GATA1は、赤血球等の最終分化・成熟に必須の転写因子であることが明らかになっている。そこで、本発明のヒト赤血球前駆細胞株から成熟した赤血球系細胞への分化過程におけるGATA1遺伝子の発現量を調べた。すなわち、HUDEP3株(HUDEP−1、HUDEP−2及びHUDEP−3)及びHiDEP2株(HiDEP−1及びHiDEP−2)に関し、各々の細胞株の成熟した赤血球系細胞への分化誘導前及び分化誘導後の状態にある細胞から、市販試薬を用いて、標準的な手法により、mRNAを抽出し、次いで、これらmRNAを鋳型として逆転写反応を行った。そして、得られたcDNAを鋳型として、市販の定量的PCR機器及び試薬を用いて、定量的RT−PCRを行うことにより、各細胞におけるGATA1遺伝子の発現量を調べた。また、対照として、ヒト胎児肝臓由来の細胞(FL)と、臍帯血中の血液幹細胞から赤血球系細胞に分化誘導してから6、10及び16日目の細胞(CB 6、10、16)とについても、GATA1遺伝子の発現を解析した。なお、胎児肝臓には赤血球前駆細胞が豊富に含まれている事が知られている。また、臍帯血中の血液幹細胞から赤血球系細胞への分化誘導は、Miharada K.ら、Nature Biotechnology、2006年、24巻、10号、1255〜1256ページに記載の方法に沿って行った。得られた結果を図7に示す。図中「B」は成熟した赤血球系細胞への分化誘導前の細胞を解析した結果を示し、「A」は成熟した赤血球系細胞への分化誘導後の細胞を解析した結果を示す。 図7に示す通り、HUDEP−1、HUDEP−2、HUDEP−3、HiDEP−1及びHiDEP−2については、赤血球系細胞への分化誘導前から、GATA1遺伝子がある程度発現しており、分化誘導後にこれらの発現が上昇することが明らかになった。 次に、本発明のヒト赤血球前駆細胞株から成熟した赤血球系細胞への分化過程における、ヘモグロビンの合成について調べた。すなわち、ヘモグロビンの合成が多くなると細胞沈殿はより赤色となるため、前記3株のHUDEP及び前記5株のHiDEPに関し、各々の細胞株の、より成熟した赤血球系細胞への分化誘導前及び分化誘導後の状態にある細胞の細胞沈殿の色を目視にて観察した。得られた結果の代表例として、HUDEP−1及びHiDEP−1についての結果を図8に示す。 前記3株のHUDEP及び前記5株のHiDEPは、合成量に関して細胞株間で差があるものの、恒常的にヘモグロビンを産生していることが明らかになった。図8に示す通り、例えば、HUDEP−1に関しては、より成熟した赤血球系細胞への分化誘導前はかすかにピンク色であったが、分化誘導後には明瞭な赤色に変化し、ヘモグロビンが豊富に合成されていることが明らかになった。また、HiDEP−1に関しては、より成熟した赤血球系細胞への分化誘導前(維持培養中)でも、常に明瞭な赤色の細胞沈殿が観察され、ヘモグロビンが常に豊富に合成されていることが明らかになった。 次に、本発明のヒト赤血球前駆細胞株において合成されているヘモグロビンについて、酸素結合・解離能を解析した。すなわち、HUDEP−1、HiDEP−1及びHiDEP−2の各々の細胞中のヘモグロビンについて、市販の酸素結合・解離能解析装置を用いて、標準的な手技手法にて、酸素結合・解離能を解析した。また、対照として、成人末梢血(正常赤血球)中のヘモグロビンについても、酸素結合・解離能を解析した。得られた結果を図9及び10に示す。 図9及び10に示した結果から明らかなように、低酸素状態において酸素を解離し、高酸素状態においては酸素と結合する能力は、HUDEPにおいても、HiDEPにおいても、正常な血液(図中「PB」参照)と同様なものであった。従って、本発明のヒト赤血球前駆細胞株において合成されているヘモグロビンは、正常赤血球中のそれと同様の機能を有していることが明らかになった。 以上説明したように、本発明によれば、脱核赤血球を効率よく安定的に生産することができる、不死化したヒト赤血球前駆細胞株の製造方法、並びに該製造方法によって得られるヒト赤血球前駆細胞株からヒト脱核赤血球を製造する方法を提供することが可能となる。 従って、本発明の製造方法によって得られる脱核赤血球は、正常な赤血球と同等の酸素結合・解離能を有するヘモグロビンを有しているため、外傷・手術中の失血、貧血、鎌形赤血球貧血や溶血性疾患等の血液疾患を処置するために有用である。 特に、本発明の方法により、O型RhD(−)のヒト赤血球前駆細胞株を樹立すれば、当該細胞株から生産した赤血球は99%以上の人間に使用が可能である。通常の輸血でABO型をマッチングさせる理由は、混在する抗A抗体や抗B抗体によってホストの赤血球が破壊されることを考慮してのことであるが、試験管内でヒト赤血球前駆細胞株(不死化細胞株)から赤血球を生産した場合に、抗体が産生されることはないので、主要抗原(A、B、RhD)を発現していない赤血球、即ちO型RhD(−)の赤血球は99%以上の人間に使用が可能である。 また、本発明の方法によれば、多能性幹細胞から脱核赤血球を生産することも可能である。従って、特殊血液型の患者の細胞(皮膚細胞、血液等)を用いてiPS細胞を調製し、さらに該iPS細胞から本発明の方法により赤血球前駆細胞株(不死化細胞株)を樹立すれば、世の中の大半の人間が有する赤血球抗原を有していない、特殊血液型の患者(Rh−null型、−D−型等の人)に対する、安定した血液供給体制を構築することができる。 本発明のヒト赤血球前駆細胞株等には、外的刺激により発現は制御されているものの、癌遺伝子であるHPV−E6/E7遺伝子が導入されている。しかしながら、この癌遺伝子は、細胞核内に導入されており、脱核の際に喪失することになる。 また、ヒト赤血球前駆細胞株から脱核赤血球を生産した場合に、脱核効率を完璧に100%にすることは技術的に難しく、そこには有核細胞(元のヒト赤血球前駆細胞等)が多かれ少なかれ残存する。しかし、脱核赤血球は直径が10μm以下と小さいので、既に汎用されている白血球除去フィルター等により、有核細胞を除去して、脱核赤血球を選別することが可能である。 かかる方法にて脱核赤血球を選別した場合にも、有核細胞を100%除去することは難しく、ある程度は残存するものと思われる。こうした残存有核細胞は、放射線照射によって滅失(細胞死誘導)することが可能である。放射線照射による有核細胞滅失(白血球除去)は、特定のケースの赤血球輸血において既に臨床で常用されている手技である。 このように、本発明のヒト脱核赤血球の製造方法においては、癌遺伝子であるHPV−E6/E7遺伝子は製造の最終段階において喪失しており、さらに前述の有核細胞を除去する方法を組み合わせることにより、ヒト赤血球前駆細胞株等の腫瘍形成のリスクを完全に排除することが可能となる。 さらにまた、本発明の方法により樹立した赤血球前駆細胞株に関し、感染源(肝炎ウィルス、エイズウィルス等)が混入されていないことを徹底的に検査することにより、本発明によれば、汎用性が高く、極めて安全性が高い赤血球供給体制を構築することが可能となる。 ヒト脱核赤血球を産生するためのヒト赤血球前駆細胞株を、製造するための方法であって、 ヒトパピローマウィルス16型E6遺伝子及びE7遺伝子の発現を外的刺激に応答して誘導することが可能な発現カセットを、ヒト血液幹細胞に導入する工程と、 前記発現カセットが導入されたヒト血液幹細胞を、外的刺激及び血液系増殖因子の存在下にて培養する工程と、を含む方法。 前記ヒト血液幹細胞が、TAL1遺伝子を発現しているヒト多能性幹細胞から分化誘導して得られた細胞である、請求項1に記載の方法。 ヒトパピローマウィルス16型E6遺伝子及びE7遺伝子の発現を外的刺激に応答して誘導することが可能な発現カセットが導入されており、前記外的刺激及び血液系増殖因子の存在下にて増殖し、前記外的刺激の非存在下にて培養することによりヒト脱核赤血球の産生能を有する、ヒト赤血球前駆細胞株。 ヒト脱核赤血球の製造方法であって、 請求項1若しくは2に記載の方法により得られたヒト赤血球前駆細胞株又は請求項3に記載のヒト赤血球前駆細胞株を、前記外的刺激の非存在下にて培養する工程を含む方法。 ヒト脱核赤血球の製造方法であって、 ヒトパピローマウィルス16型E6遺伝子及びE7遺伝子の発現を外的刺激に応答して誘導することが可能な発現カセットを、ヒト血液幹細胞に導入する工程と、 前記発現カセットが導入されたヒト血液幹細胞を、外的刺激及び血液系増殖因子の存在下にて培養してヒト赤血球前駆細胞を得る工程と、 前記外的刺激の非存在下にて、前記ヒト赤血球前駆細胞を培養する工程と、を含む方法。 前記ヒト血液幹細胞が、TAL1遺伝子を発現しているヒト多能性幹細胞から分化誘導して得られた細胞である、請求項5に記載の方法。 ヒトパピローマウィルス16型E6遺伝子及びE7遺伝子の発現を外的刺激に応答して誘導することが可能な発現カセットが導入されている、ヒト赤血球幹細胞。 前記ヒト血液幹細胞が、TAL1遺伝子を発現しているヒト多能性幹細胞から分化誘導して得られた細胞である、請求項7に記載のヒト赤血球幹細胞。 【課題】 脱核赤血球を効率よく安定的に生産することができる、不死化したヒト赤血球前駆細胞株の製造方法、並びに該製造方法によって得られるヒト赤血球前駆細胞株からヒト脱核赤血球を製造する方法を提供すること。【解決手段】 血液幹細胞のゲノムDNAに、DOXの存在下にてHPV−E6/E7遺伝子の発現を誘導することが可能な発現カセットを導入した。そして、該血液幹細胞を、DOX及び血液系増殖因子の存在下にて培養することにより、ヒト赤血球前駆細胞の不死化細胞株を樹立した。さらに、HPV−E6/E7遺伝子の発現が誘導されない条件下にて、前記細胞株を培養することにより、高い比率にて脱核赤血球に分化誘導できることを見出した。【選択図】 なし配列表


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