タイトル: | 公開特許公報(A)_ヒドロキシアパタイト微粒子分散物およびその製造方法 |
出願番号: | 2013148492 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | C01B 25/32,A61L 27/00,G01N 30/88 |
古川 彰 JP 2014065653 公開特許公報(A) 20140417 2013148492 20130717 ヒドロキシアパタイト微粒子分散物およびその製造方法 三菱製紙株式会社 000005980 古川 彰 JP 2012196164 20120906 C01B 25/32 20060101AFI20140320BHJP A61L 27/00 20060101ALI20140320BHJP G01N 30/88 20060101ALN20140320BHJP JPC01B25/32 WA61L27/00 JG01N30/88 101C 2 OL 18 4C081 4C081AB03 4C081AB06 4C081CF031 4C081CF25 4C081DA13 4C081DC13 本発明は結晶性を有するヒドロキシアパタイト微粒子の分散液とその製造方法に関する。詳しくは、体積平均粒子径が30〜300nmの範囲であり、実質的に有機物を含まず、ヒドロキシアパタイト以外のカルシウム塩を含まない、高純度で分散安定性に優れたヒドロキシアパタイト微粒子分散物とその製造方法に関する。 ヒドロキシアパタイトは生体適合性セラミックスとして最もよく利用される素材の一つである。またヒドロキシアパタイトは生体内に於いて骨や歯を構成する素材として重要な位置づけにある。生体内で骨芽細胞により形成されるヒドロキシアパタイトは、大きさが50nm×50nm程度で、厚みが4nm程度の平板状のナノ粒子として産生される。このようにして産生されたヒドロキシアパタイトは、コラーゲン線維にオステオカルシン、オステオポンチンおよびオステオネクチンなどの蛋白質を介して結合することが知られている。生体のこうした環境を模して、例えばインプラント材として人工関節など種々の人工部材の表面にヒドロキシアパタイトをコートすることで、該インプラント材が生体内で異物として認識されず、かつ表面に新生骨が形成されやすくなる所謂骨伝導性を示すことが知られており、これを利用して人工関節などの人工部材と生体骨間の結合を促進することが臨床的に試みられている。 非特許文献1には、インプラント材に関する課題に関し、力学的強度に優れ、生体適合性および耐蝕性に優れたチタン表面に、ヒドロキシアパタイトをプラズマ熔射もしくはフレーム熔射により表面コートした歯科用インプラントの例が報告されている。ヒドロキシアパタイトをチタン表面にコートすることにより、インプラント材表面に早期に骨形成が生じ、インプラント材と骨とが直接結合する等の好ましい特徴が発揮される。しかし一方で、上記したプラズマ熔射やフレーム熔射により得られた熔射膜はポーラスである。このため熔射膜が長期間生体内に留置された場合、膜が溶解しやすく、またチタン基材との密着性が不十分で、熔射膜がチタン基材から剥離する等の問題点が指摘されている。特に、熔射膜を形成するヒドロキシアパタイトが非晶質であるため、生体内での熔射膜の溶解性が比較的高く、かつ熔射膜は熱分解生成物を含んでおり、これらが原因でインプラント材の体内での可使寿命が短くなることが指摘されている。従って、結晶性を有するヒドロキシアパタイトの表面コートの実現が求められているが、後述する従来の種々の方法では実現が困難であった。 非特許文献2では、上記の課題に加えて、インプラント材の表面と生体内部環境が接する界面の制御は極めて重要であること、および組織内に存在する種々の細胞は、界面の物理的、化学的性質に極めて鋭敏に反応することが記載されている。またインプラント材の表面は精密に制御されていることが重要であることが示されている。従って、ヒドロキシアパタイトによるインプラント材などへの表面コートを検討する場合には、ヒドロキシアパタイトの層が物理的、化学的に均一であることが重要である。このためにはヒドロキシアパタイトの粒子径或いは結晶の大きさは、μmオーダーからnmオーダーの大きさで制御されていることが必要となる。 インプラント材に限らず、様々な基材を用いて、表面に均一な状態でヒドロキシアパタイトを表面コートすることで、基材に良好な生体適合性を付与することが可能となる。またヒドロキシアパタイトが保有する種々の特性を基材表面に付与することが可能となる。非特許文献3には、ヒドロキシアパタイトが種々の蛋白質を吸着することから、アフィニティークロマトグラフィー用カラム担体としての応用が記載されている。従って、同様なヒドロキシアパタイトを使用して、様々な基材表面にコートすることで、表面に種々の蛋白に対する吸着性や親和性を付与することも可能である。 特許文献1には、ヒドロキシアパタイト微粒子と共にヒアルロン酸またはその塩を含む虫歯予防のための口腔用組成物が開示されている。ここで用いられるヒドロキシアパタイト微粒子として、結晶性、低結晶性、非晶質のヒドロキシアパタイト微粒子が記載され、結晶性のヒドロキシアパタイト微粒子は、湿式合成法により合成したアパタイトを800℃ほどの温度で焼成することで得られることが記載される。しかし、得られた結晶性のヒドロキシアパタイトの平均粒子径は3.7μmと大きく、またヒドロキシアパタイト微粒子を含有する水性分散物では十分な分散安定性を得ることが困難であった。このため、該ヒドロキシアパタイト微粒子の水性分散物を、本発明が課題とする基材への表面コートに利用しようとした場合、表面がざらついて不均一であり、また基材との接着性、密着性に乏しいため、十分満足できるものではなかった。 他のヒドロキシアパタイト微粒子分散物の製造方法として、例えば特許文献2には、高分子化合物の存在下にカルシウム化合物とリン酸(塩)を反応させることで、平均粒子径500nm以下であるヒドロキシアパタイト微粒子分散物を得る方法が記載されている。ここでは、微粒子は、高分子化合物とヒドロキシアパタイトの複合体であり、天然高分子もしくは合成高分子化合物などの有機高分子化合物が、ヒドロキシアパタイトに対して少なくとも10%以上の質量比で含まれていることが示されている。これらの有機高分子化合物は不純物として作用し、生体適合性や安全性において問題となる場合があったことから、有機物を実質的に含まないヒドロキシアパタイト微粒子分散物の実現が望まれていた。 特許文献3には、カルシウム塩水溶液にリン酸塩水溶液を混合し、さらに2時間以上煮沸して沈殿した生成物をアニオン性界面活性剤を加えて分散するヒドロキシアパタイト微粒子分散液の製造方法が開示される。この場合に於いても、粒子径が1μmを超える粗大粒子が含まれる問題や、有機物であるアニオン性界面活性剤を含むことから、これが不純物として問題になる場合があった。更には、こうした方法で得られる微粒子は必ずしもヒドロキシアパタイトが高純度で含まれるのではなく、他の構造を有する様々なリン酸カルシウム塩の混合物である場合や、或いは非晶質のヒドロキシアパタイト微粒子分散物である場合があった。 特許文献4には、レーザー光の照射により粒子同士が容易に融合可能なヒドロキシアパタイト微粒子として、体積平均粒径が1〜25nmであるヒドロキシアパタイト微粒子、および該微粒子を溶媒中に含む粒子分散物が開示される。同公報にはヒドロキシアパタイト微粒子分散物の製造方法としては、塩基性カルシウム水溶液にリン酸源含有水溶液を添加する方法が記載されている。また該微粒子分散物を製造する際、生成する粒子の成長を抑制するために用いられる有機化合物として、リシン、グリシン、アスパラギン、クリアチン等を用いても良いことが記載される。更に他の水溶性ポリマー(ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ゼラチン等)も使用できると記載されている。しかし有機化合物は生体適合性において問題となる場合がある。また水性分散物を保存した際に変性や腐敗が生じ、安全性の観点からも好ましくない。 特許文献5には熱処理により結晶化させたヒドロキシアパタイトナノ粒子を含む分散液が開示されるが、分散媒として用いられるのは水以外の有機溶剤であり、分散液を製造する際に、解砕工程において残存する粗大粒子を遠心分離により除去する必要があり、また分散安定性に於いても劣るものであった。 特許文献6には、ビニル系単量体の懸濁重合用安定剤として有用なヒドロキシアパタイトを含む水性スラリーの製造方法が記載される。該製造方法では水酸化カルシウムの水性スラリーとリン酸水溶液との反応により得られたヒドロキシアパタイトを含む水性スラリーを、ビーズミルを用いて微粉砕処理が行われる。しかしこの方法で得られるヒドロキシアパタイトは結晶性を有さない。さらにヒドロキシアパタイト微粒子の分散安定性の観点からも十分満足できるものではなかった。 非特許文献4にはヒドロキシアパタイトを水中に於いて分散するための種々の分散剤および界面活性剤の影響について報告されているが、高分子および低分子の添加剤を使用してヒドロキシアパタイトを分散しても、必ずしも安定な分散物が得られず、こうした有機物である分散剤自体の不純物としての問題と共に、粗大粒子を含むことから沈降速度が大きくなり分散安定性に劣る問題があった。特開2007−308422号公報特開2004−26963号公報特開平3−261612号公報特開2008−69048号公報特開2006−315871号公報特開平9−142817号公報吉成正雄、「歯科学報」、103(6),481−490,(2003).吉成正雄、「歯科学報」、103(6),565−572,(2003).Tiselius A.et.al.,Archives of Biochemistry and Biophysics,Vol.65,No.1,132−155,(1956).Amjad Z.,Phosphorous Research Bulletin,Vol.20,159−164,(2006). 本発明は結晶性を有するヒドロキシアパタイト微粒子の分散液とその製造方法に関し、体積平均粒子径が30〜300nmの範囲であり、実質的に有機物を含まず、ヒドロキシアパタイト以外のカルシウム塩を含まない、高純度で分散安定性に優れたヒドロキシアパタイト微粒子の水性分散物とその製造方法を提供することを課題とする。 上記した本発明の課題は、水性媒体中に、体積平均粒子径が30〜300nmの範囲にある結晶性を有するヒドロキシアパタイト微粒子とポリリン酸(塩)を含むヒドロキシアパタイト微粒子分散物、及び水性媒体中でポリリン酸(塩)とともに結晶性を有するヒドロキシアパタイトを湿式分散処理するヒドロキシアパタイト微粒子分散物の製造方法、を用いることで解決される。 体積平均粒子径が30〜300nmの範囲であり、実質的に有機物を含まず、ヒドロキシアパタイト以外のカルシウム塩を含まない、高純度で分散安定性に優れたヒドロキシアパタイト微粒子の水性分散液とその製造方法を提供することが出来る。実施例1で得られたヒドロキシアパタイト微粒子分散物の光散乱回折式粒度分布計により測定を行った粒度分布曲線。湿式分散処理を行う前のヒドロキシアパタイトの広角X線回折パターン。実施例1の湿式分散処理を行った後のヒドロキシアパタイトの広角X線回折パターン。比較例1で得られたヒドロキシアパタイト微粒子分散物の光散乱回折式粒度分布計により測定を行った粒度分布曲線。実施例2で得られたヒドロキシアパタイト微粒子分散物の光散乱回折式粒度分布計により測定を行った粒度分布曲線。実施例3で得られたヒドロキシアパタイト微粒子分散物の光散乱回折式粒度分布計により測定を行った粒度分布曲線。実施例4で得られたヒドロキシアパタイト微粒子分散物の光散乱回折式粒度分布計により測定を行った粒度分布曲線。実施例5で得られたヒドロキシアパタイト微粒子分散液の光散乱回折式粒度分布計により測定を行った粒度分布曲線。実施例6で得られたヒドロキシアパタイト微粒子分散液の光散乱回折式粒度分布計により測定を行った粒度分布曲線。比較例2で得られたリン酸水素カルシウム二水和物分散物の光散乱回折式粒度分布計により測定を行った粒度分布曲線。 本発明は、水性媒体中に、体積平均粒子径が30〜300nmの範囲にある結晶性を有するヒドロキシアパタイト微粒子とポリリン酸(塩)を含むヒドロキシアパタイト微粒子分散物であり、更に、結晶性を有するヒドロキシアパタイトを用いて、湿式分散処理を行う際に、ポリリン酸(塩)を加えて処理を行うことで、該ヒドロキシアパタイトが体積平均粒子径にして30〜300nmの範囲にある微粒子に分割され、実質的に有機物を含まず、ヒドロキシアパタイト以外のカルシウム塩を含まない、高純度で分散安定性に優れたヒドロキシアパタイト微粒子の水性分散液が得られることを見出したものである。 最初に、本発明で用いることの出来るポリリン酸(塩)について説明を行う。本発明においてポリリン酸(塩)とはリン原子に酸素原子が結合した一般式(1)で示される繰り返し単位を分子内に少なくとも2個以上有する化合物を含む。 一般式(1)においてnは2以上の整数を表し、Xは水素原子或いはアルカリ金属イオンを表す。 上記一般式(1)で表される化合物の例として、例えばXがナトリウムイオンである場合には、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラポリリン酸ナトリウム、およびnが5以上である直鎖状のポリリン酸ナトリウムのような直鎖状のポリリン酸塩が挙げられる。或いは一般式(1)で表される化合物の例として、環状化合物であるヘキサメタリン酸ナトリウムなどを含み、実際には高分子化合物であるメタリン酸ナトリウムや、或いは、直鎖状骨格のみならず、分岐構造を含むウルトラリン酸ナトリウムなどを挙げることが出来る。これらの種々のポリリン酸(塩)は複数の種類を任意の割合で混合して用いても良い。また、これらの化合物に於いて、一般式(1)におけるnの値の上限としては特に制限がないが、nが5000を超える場合には水溶液の粘度が高くなり、後述する湿式分散処理においてヒドロキシアパタイトの分散が良好に行われない場合があることから、nは5000以下である場合が好ましい。また、nが1の場合にはヒドロキシアパタイトに添加して湿式分散処理を行っても、添加しない場合と同様の結果であり、効果が認められない。 上記一般式(1)で示される繰り返し単位を分子内に有するポリリン酸(塩)については、後述するように分散物を作製する際の液のpHによって分子内に含まれるXの種類が異なる場合がある。即ち、ポリリン酸はアルカリで段階的に中和すると、含まれるリン酸基が順番に中和されてゆくため、ポリリン酸(塩)を含む分散物のpHによってXが水素原子であるかアルカリ金属イオンであるか、それらの比率が異なることになる。また、中和するアルカリ金属イオンの種類としてはナトリウムイオン以外にカリウムイオンやリチウムイオンなども用いることが出来、これらが混合して用いられる場合であっても良い。 種々のポリリン酸(塩)において、これらがカルシウムイオンと錯体を形成し、水中からカルシウムイオンを捕捉する機能を有することは古くから知られている。例えば洗浄助剤として硬水中のカルシウムイオンを捕捉して水を軟化し、さらには泥などの無機汚れを分散させることで洗剤の洗浄力を高めることが広く用いられている。こうした効果を最大限に発揮するために、ポリリン酸塩の構造とカルシウムイオンの捕捉能の関係はよく調べられており、ピロリン酸ナトリウム<ポリリン酸ナトリウム<メタリン酸ナトリウムの順にカルシウムイオンに対する捕捉能が向上することが知られている。 本発明に於いては結晶性を有するヒドロキシアパタイトを水性媒体中に於いて湿式分散処理を行い、微粒子分散物を作製する際の分散剤として上記のポリリン酸(塩)を用いる。これにより体積平均粒子径が30〜300nmの範囲にある微粒子に分割され、水性媒体中において分散安定性に優れたヒドロキシアパタイト微粒子分散液が得られることを見出したものである。本発明においてヒドロキシアパタイト微粒子の体積平均粒子径が300nmを超えた場合、微粒子分散物中で沈降が生じ十分な分散安定性が得られない。またヒドロキシアパタイト微粒子の体積平均粒子径が30nmを下回った場合、結晶子が小さく明確な結晶性を示さなくなるため、生体内での溶解性が比較的高く、可使寿命が短くなり、好ましいものではない。本発明で用いることの出来る様々なポリリン酸(塩)は、その種類によってpHの値やpH緩衝能力、或いはpH緩衝曲線、溶解度、溶液粘度など様々な性質に於いて異なる。しかし本発明に於いてはこれらの性質はヒドロキシアパタイトの微粒子分散物を作製する際には大きくは作用せず、本発明で使用する分散物の濃度範囲、温度範囲、およびpH範囲においてはいずれのポリリン酸(塩)も好ましく用いることが出来る。 上記において触れた、本発明で使用する分散物の濃度範囲、温度範囲、およびpH範囲については好ましい範囲が存在する。分散物の濃度範囲については、ヒドロキシアパタイト微粒子の分散物中における固形分濃度(質量%)は上限が50質量%未満である場合が好ましい。これ以上の濃度で含まれる場合には分散物の粘度が高くなり、湿式分散処理が効率的に進まない場合がある。また、濃度の下限については特に制限はなく、任意の割合で分散物を水性媒体で希釈して用いることが出来る。次に、分散物の温度範囲についても好ましい範囲が存在し、下限として−20℃以上の温度で使用することが好ましい。これ以下の温度では凍結する場合がある。上限については水性分散物であることから、常圧では100℃未満が好ましい。この温度範囲に於いては、ポリリン酸(塩)の種類による溶解性や分散性に対する影響は特に現れない。分散物のpHについては好ましい範囲が存在し、pHが3〜13の範囲である場合に分散物の分散安定性が良好であり、pHが5〜12の範囲が更に好ましく、更にpHが7.5〜12のアルカリ性の範囲である場合が最も好ましい。分散物のpHが3未満である場合にはヒドロキシアパタイトの溶解性が増加し、またポリリン酸(塩)の溶解性が低下して分散物の分散安定性が低下する場合がある。分散安定性は分散物のpHが高くなるに従って向上し、分散物の粘度も低下する傾向がある。よって、分散物のpHを高くすることは、湿式分散処理が効率的に進行し、結果的に分散物の粒子径が均一でより小さくなることから分散安定性が極めて良好となり好ましく利用することが出来る。 ヒドロキシアパタイト微粒子に対するポリリン酸(塩)の比率についても好ましい範囲が存在する。後述する実施例に於いても示すように、ヒドロキシアパタイト微粒子100質量部に対して、用いられるポリリン酸(塩)の量は、5〜100質量部の範囲が好ましい。またこの範囲で添加して後述する湿式分散処理を行う場合が最も好ましい。これ以下の割合でポリリン酸(塩)を添加して湿式分散処理を行った場合、得られる分散物に含まれるヒドロキシアパタイト微粒子の大きさは、体積平均粒子径で300nmを上回る大きさになる場合があり、こうした場合には良好な分散安定性が得られない。上記の範囲を超えて更に多量のポリリン酸(塩)を用いて湿式分散処理を行っても、得られる分散物に含まれるヒドロキシアパタイト微粒子の大きさは変わらず、むしろ粘度が増大する場合には分散時間を長くしないと均一な分散物が得られない場合がある。 本発明における水性媒体としては、結晶性のヒドロキシアパタイトを分散するための媒体として、水が最も好ましい。また水に対して20質量%未満の添加量であれば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類や、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド等の極性溶媒等、水と混和性のある種々の溶剤を添加して用いることも出来る。 本発明における湿式分散処理にはホモミキサーやホモジナイザー或いは超音波分散装置等の機器を利用して分散を行う方法も可能であるが、より好ましくは、下記のメディアを利用したメディアミルによる湿式分散処理を行うのが最も好ましい。 上記のメディアミルによる湿式分散処理とは、ヒドロキシアパタイトを導入した水性媒体中に於いて、通常ガラスビーズやアルミナビーズ、その他のセラミックビーズ等を加えて振盪や攪拌を行い、ヒドロキシアパタイト粒子と該ビーズが機械的に衝突し、微粉砕されることで微粒化を行う処理方法である。少量をバッチ方式で処理を行う場合には、ペイントコンディショナーを使用して数時間に亘る振盪を行うことで湿式分散処理を行うことが出来る。比較的多量の試料を用いて処理を行う場合には、ダイノミル等のメディア分散機を利用して、メディアとして1個当たりの平均直径が0.01〜10mmの範囲にある、好ましくは0.1〜5mmの範囲にあるセラミックビーズを用いたメディア分散機を複数台直列に配置して1パスで湿式分散処理を行っても良く、或いは1台のメディア分散機を用いて複数回処理を繰り返すことも好ましく行うことが出来る。 メディアミルを利用してヒドロキシアパタイトの湿式分散処理を行う場合、使用するメディアはセラミックビーズを用いることが好ましい。特にヒドロキシアパタイトを分散する場合に、ビーズとヒドロキシアパタイトが接触してビーズが研磨されるなどしてビーズ由来の不純物がヒドロキシアパタイト分散物に混入することを防止することが特に好ましい。こうした目的で利用出来るセラミックビーズとして、具体的にはZrO、立方晶ジルコニア、イットリウム安定化ジルコニア、ジルコニア強化アルミナなどのジルコニアを含有するセラミックビーズや合成ダイヤモンド、窒化珪素ビーズなどを最も好ましく用いることが出来るが、これら以外にも、例えば、ガラスビーズ、アルミナビーズ、チタン酸ストロンチウムビーズ等のビーズを利用することも行われる。こうしたメディアを使用したメディア分散機を用いる湿式分散処理の条件は、通常行われる室温での処理であり、特に処理時間や温度等に関する制限はない。また、パス回数については1回で十分である場合もあるが、2〜7回程度のパス回数で処理を行うことで、より粒子径分布が狭く、かつ分散安定性に優れたヒドロキシアパタイト微粒子の分散物が得られることから好ましく行うことが出来る。 本発明の目的の一つとする分散安定性の良否を判定する評価方法としては、後述する実施例に於いて示すように、固形分濃度を1質量%に希釈したヒドロキシアパタイト微粒子分散物を、室温にて静置した場合に、1週間に亘って凝集物や沈殿物の堆積が生ぜず、液中に於いて分散物が均一に分散した状態が保たれる場合においてのみ、分散安定性が良好と評価し、僅かでも凝集物や沈殿物の堆積が目視で観察された場合には分散安定性は不良であると評価を行った。本発明のヒドロキシアパタイト微粒子の製造方法により得られるヒドロキシアパタイト微粒子分散物は、1μmを超える大きさの分散物が実質的に含まれないことが特徴であり、そのため希釈した分散物を静置しても長時間に渡り安定な分散状態が保たれ、沈殿物等の発生が認められないことが特徴である。 後述する実施例に於いて示すように、上記の湿式分散処理の結果、得られるヒドロキシアパタイト微粒子の大きさとしては、光散乱回折式粒度分布計を使用して求められる体積平均粒子径を指し、数値としてメジアン径を挙げている。このようにして測定されたヒドロキシアパタイト微粒子の大きさとして、平均粒子径が30〜300nmの範囲にある粒子径分布の狭い分散物が得られることが本発明の特徴である。ここで粒子径分布が狭いとは、粒子径が1μmを超える粗大粒子が認められず、また、粒子径が30nm未満である微粒子の存在も認められないことを意味する。このように粒子径分布が狭ければ、前述した表面コートの用途に本発明で得られるヒドロキシアパタイト微粒子分散物を利用した場合、物理的、化学的に均一なコート膜が形成されることができ好ましい。 本発明に於いて用いることの出来る結晶性を有するヒドロキシアパタイトとは、粉体の状態で広角X線回折測定を行った場合に、2θが10〜60度の範囲に於いて結晶性ヒドロキシアパタイトが有する特徴的なピークとして、特に26度付近の(002)面からの回折ピーク、32度付近の(211)面からの回折ピーク、33度付近の(300)面からの回折ピークが分離して観察される場合においてのみ結晶性を有するとする。これらピーク幅がブロードで、(211)面と(300)面からの回折ピークが分離されずにブロードで比較的強度が弱い回折パターンを与える場合には、結晶性を有しない非晶質であるとする。 本発明に於いて用いることの出来る結晶性を有するヒドロキシアパタイトとしては、様々な従来技術を利用して作製された結晶性を有するヒドロキシアパタイトを用いることが出来る。具体的には、試薬或いは工業用薬品或いは食品添加物グレード、化粧品グレード、医薬部外品グレード、医薬品原材料グレード等として入手可能である様々な市販される結晶性を有するヒドロキシアパタイトを用いることが可能である。 また、市販される結晶性を有するヒドロキシアパタイト以外でも、下記文献に示されるような様々なヒドロキシアパタイトの製造方法を用いて作製された結晶性を有するヒドロキシアパタイトを本発明に於いて用いることも可能である。即ち、結晶性を有するヒドロキシアパタイトを得るための様々な製造方法として、例えば特開昭63−159207号公報には、炭酸カルシウム粉末と第二リン酸カルシウム(2水和物)粉末を混合して水性スラリーを調製し、次いでこのスラリーを湿式粉砕機により摩砕混合しながら反応させる方法が示されている。特公平7−115850号公報には、リン酸三カルシウムをpH7〜11に調整された無機ハロゲン化物を含有する水溶液中で熱処理を行うことでヒドロキシアパタイトを作製する方法が示されている。特開平5−170413号公報には酸化カルシウム及び/または水酸化カルシウムの水性スラリーとリン酸水溶液をpH7〜12の範囲に於いて混合することでヒドロキシアパタイトとして純度の高い微粒子を得る方法が開示されている。上記の様々な方法で得られたヒドロキシアパタイトは、更にその結晶性を高めるために、水熱処理や焼結処理を行うことが好ましい。これら様々な方法はいずれも結晶性を有するヒドロキシアパタイトを得るための方法として有効であり、得られるヒドロキシアパタイトは、本発明に於いても好ましく用いることが出来る。 本発明に於いて最も好ましく用いることの出来る結晶性を有するヒドロキシアパタイトとして、非特許文献3に記載されるリン酸水素カルシウム二水和物をアルカリ処理して得られる平板状のヒドロキシアパタイトが挙げられる。この方法で得られるヒドロキシアパタイトは焼結や水熱処理などの熱処理を行わずに結晶性を有し、湿式分散処理において本発明で示されるポリリン酸(塩)との組み合わせで最も効率的に微粒子分散物が得られ、かつ得られるヒドロキシアパタイト微粒子の体積平均粒子径も30〜100nm前後の最も微細な微粒子分散物が得られることから、最も好ましく用いることが出来る。 本発明に於いて用いることの出来る他のヒドロキシアパタイトとしては、ヒドロキシアパタイトに含まれるカルシウムイオンが他の様々な金属イオンに置き換わったアパタイトも同様に好ましく用いることが出来る。例えば、カルシウムイオンの一部或いは全部がマグネシウムイオンに置き換わったマグネシウム置換アパタイトも本発明の目的に対して極めて好ましく用いることが出来る。こうしたマグネシウム置換アパタイトを得るためには、例えば特開2008−290939号公報に記載される方法で得られる結晶性を有するマグネシウム置換アパタイトの製造方法を利用することが出来る。或いは、ヒドロキシアパタイト中のカルシウムイオンの一部或いは全部がストロンチウムに置換されたストロンチウム置換アパタイトも好ましく用いることが出来、例えば特開平5−310410号公報や、加藤らによる日本化学会誌、No.3、pp321−327(2002)に記載される「均一沈殿法」により得られる結晶性を有するストロンチウムアパタイトを好ましく用いることが出来る。更には、バリウムイオンが置換したバリウムアパタイトとしてPhosphorus Research Bulletin Vol.6, pp217−220 (1996)に記載されるUltrasonic Spray−Pyrolysis法を利用して作製される結晶性を有するバリウムアパタイト、および炭酸イオンが置換した炭酸アパタイトとして、例えば、特開平10−36106号公報に記載される方法で得られた結晶性を有する炭酸アパタイトが挙げられる。 本発明に於いて用いることの出来るヒドロキシアパタイトの別の例として、ヒドロキシアパタイト中に含まれる水酸基の一部がフッ素イオンで置換されたヒドロキシフルオロアパタイトも好ましく用いることが出来る。結晶性のヒドロキシフルオロアパタイトとしては、例えば特開昭63−256507号公報等に記載される方法で得られたヒドロキシフルオロアパタイトが挙げられる。 以下に実施例によって本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の百分率は断りのない限り質量基準である。 (実施例1) 市販されるヒドロキシアパタイトとして、太平化学産業(株)より商品名「ヒドロキシアパタイト」(平均粒径4〜6μmの白色粉末で医薬部外品原料規格品。純度99%以上)として市販されるヒドロキシアパタイトを用いて、以下のようにしてビーズミル方式による湿式分散処理を行った。即ち、ヒドロキシアパタイト20グラムを0.2リットルのポリプロピレン容器に移し、これにトリポリリン酸ナトリウム無水物(和光純薬工業製試薬)を3グラム添加し、さらにイオン交換水77グラムおよび粒径0.3mmのジルコニアビーズを160グラム加えて密閉し、ペイントコンディショナーを使用して6時間振盪処理を行った。その後、濾布を使用して分散液からジルコニアビーズを分離した。得られた分散液のpHは10.2であり、固形分濃度は23質量%であった。これを用いて以下のように評価を行った。 上記で得られた分散液を用いて、分散しているヒドロキシアパタイト微粒子の大きさを測定するために、光散乱回折式粒度分布計(堀場製作所製粒度分布測定装置LA−920)を使用して測定した。図1には、実施例1で得られたヒドロキシアパタイト微粒子分散物の光散乱回折式粒度分布計により測定を行った粒度分布曲線を表す。ここで得られた体積平均粒子径は、メジアン径で173nmであった。 上記のヒドロキシアパタイト微粒子分散物を一部ガラスシャーレに移し、室温で乾燥させ粉体を取り出した。また、本実施例で原料として用いた分散処理前のヒドロキシアパタイト粉体を用いて、それぞれ広角X線回折測定を行った。図2は湿式分散処理を行う前のヒドロキシアパタイトの広角X線回折パターンを示す。図3は実施例1の湿式分散処理を行った後のヒドロキシアパタイトの広角X線回折パターンを示す。両者とも2θが10〜60度の範囲に於いて結晶性ヒドロキシアパタイトが有する特徴的なピークとして、特に26度付近の(002)面からの回折ピーク、32度付近の(211)面からの回折ピーク、33度付近の(300)面からの回折ピークが分離して観察されることから、結晶性を有するヒドロキシアパタイトであることを確認した。また、実質的に有機物を含まず、ヒドロキシアパタイト以外のカルシウム塩を含まないことを確認するため、上記の分散物を乾燥して取り出した粉末を使用して、蛍光X線分析により粉末中に含まれる元素分析を行った結果、カルシウムおよびリン原子の存在が確認され、これ以外の元素としてマグネシウムとストロンチウムがそれぞれ0.2質量%および0.1質量%検出された以外は0.1質量%を超えて含まれる他の元素は検出されなかった。また、カルシウムとリン原子の比率は化学量論的にヒドロキシアパタイトとして含まれる値(1.67:1)に一致した。マグネシウムとストロンチウムは共にリン酸塩の形で、本実施例で使用したヒドロキシアパタイトに微量に含まれていると考えられる。 次に、上記で得た分散物の分散安定性を評価するため、固形分濃度を1質量%になるようイオン交換水で希釈し、これを室温にて1週間静置を行ったが、容器底部に凝集物や沈殿物の堆積は認められず、液中に於いて分散物が均一に分散した状態が保たれていることが確認出来た。(比較例1) 実施例1において、トリポリリン酸ナトリウムを添加しない以外は同様にしてヒドロキシアパタイトを用いて湿式分散処理を行い、分散物を作製した。図4は比較例1で得られたヒドロキシアパタイト微粒子分散物の光散乱回折式粒度分布計により測定を行った粒度分布曲線を表す。測定して求められた体積平均粒子径は1.5μmであった。分散物の分散安定性を評価するため、実施例1と同様にして、固形分濃度を1質量%になるようイオン交換水で希釈し、これを室温にて1週間静置を行ったところ、容器底部に沈殿物の堆積が顕著に認められ、また分散物の上澄みが透明で、液中に於いて分散物が沈降していることが確認された。(実施例2〜4) ヒドロキシアパタイトとして、非特許文献3に記載される方法に従って、リン酸水素カルシウム二水和物(和光純薬工業製試薬、食品添加物グレード)に当モルの水酸化ナトリウムを加えて、水中に於いて70℃で3時間加熱攪拌を行い、室温で静置後沈殿した生成物を濾過、水洗および乾燥して結晶性を有するヒドロキシアパタイトの粉末を得た。結晶性の確認は実施例1と同様にして広角X線回折測定を行い、ほぼ同様な回折パターンを得たことから確認した。また、蛍光X線分析により粉末中に含まれる元素分析を行ったが、カルシウムおよびリン原子の存在が確認され、それ以外の元素の存在は確認されず、元素分析的には純粋なヒドロキシアパタイトであることを確認した。 上記で得られたヒドロキシアパタイトを用いて以下のように湿式分散処理を行った。即ち、ヒドロキシアパタイト20グラムを0.2リットルのポリプロピレン容器に移し、これにピロリン酸ナトリウム十水和物(和光純薬工業製試薬)を2グラム(ピロリン酸ナトリウムとして含まれる量は1.2グラムでヒドロキシアパタイトに対する割合は6質量%)添加した場合を実施例2とした。また同じく3グラム(ピロリン酸ナトリウムとして含まれる量は1.8グラムでヒドロキシアパタイトに対する割合は9質量%)添加した場合を実施例3とした。さらに4グラム(ピロリン酸ナトリウムとして含まれる量は2.4グラムでヒドロキシアパタイトに対する割合は12質量%)添加した場合を実施例4とした。上記した混合物それぞれに、さらにイオン交換水100グラムおよび粒径0.3mmのジルコニアビーズを160グラム加えて密閉し、ペイントコンディショナーを使用して3時間振盪処理を行った。その後、濾布を使用して分散液からジルコニアビーズを分離した。得られた分散液のpHは10.1〜10.5であり、固形分濃度は大凡18質量%であった。これを用いて以下のように評価を行った。 上記で得られた分散物を用いて、分散しているヒドロキシアパタイト微粒子の大きさを測定するために、光散乱回折式粒度分布計(堀場製作所製粒度分布測定装置LA−920)を使用して測定した。図5には、実施例2で得られたヒドロキシアパタイト微粒子分散物の光散乱回折式粒度分布計により測定を行った粒度分布曲線を表す。ここで得られた体積平均粒子径は、メジアン径で259nmであった。図6には、実施例3で得られたヒドロキシアパタイト微粒子分散物の光散乱回折式粒度分布計により測定を行った粒度分布曲線を表す。ここで得られた体積平均粒子径は、メジアン径で170nmであった。図7には、実施例4で得られたヒドロキシアパタイト微粒子分散物の光散乱回折式粒度分布計により測定を行った粒度分布曲線を表す。ここで得られた体積平均粒子径は、メジアン径で148nmであった。 次に、上記で得たそれぞれの分散物の分散安定性を評価するため、固形分濃度を1質量%になるようイオン交換水で希釈し、これを室温にて1週間静置を行ったが、いずれの実施例の場合に於いても容器底部に凝集物や沈殿物の堆積は認められず、液中に於いて分散物が均一に分散した状態が保たれていることが確認出来た。(実施例5) 実施例2〜4において使用したヒドロキシアパタイトを使用し、ピロリン酸ナトリウム十水和物に代えて、ポリリン酸ナトリウムを4グラム添加した以外は実施例4と同様にして湿式分散処理を行い、分散物を作製した。図8は実施例5で得られたヒドロキシアパタイト微粒子分散液の光散乱回折式粒度分布計により測定を行った粒度分布曲線を表す。測定して求められた体積平均粒子径は136nmであった。分散物の分散安定性を評価するため、実施例1と同様にして、固形分濃度を1質量%になるようイオン交換水で希釈し、これを室温にて1週間静置を行ったが、容器底部に凝集物や沈殿物の堆積は認められず、液中に於いて分散物が均一に分散した状態が保たれていることが確認出来た。(実施例6) 特開2007−169171号公報に記載される方法に従い、以下のようにして長鎖のポリリン酸塩を含むメタリン酸ナトリウムの精製を行い、本実施例のポリリン酸(塩)として使用した。即ち、食品添加物グレードのヘキサメタリン酸ナトリウム(太平化学産業株式会社製)200グラムをイオン交換水1リットルに溶解し、これにエタノール0.05リットルを添加して一昼夜静置し、沈殿したポリリン酸塩をデカンテーションにより分離した。これをさらにエタノールを用いて数回洗浄を行い、低分子量のポリリン酸塩を除去した粘稠な液状のポリリン酸塩を得た後、乾燥し、本実施例のメタリン酸ナトリウムとして使用した。実施例5において使用したポリリン酸ナトリウムに代えて、本実施例のメタリン酸ナトリウムを4グラム添加した以外は同様にして湿式分散処理を行い、分散物を作製した。図9は実施例6で得られたヒドロキシアパタイト微粒子分散液の光散乱回折式粒度分布計により測定を行った粒度分布曲線を表す。測定して求められた体積平均粒子径は137nmであった。分散物の分散安定性を評価するため、実施例1と同様にして、固形分濃度を1質量%になるようイオン交換水で希釈し、これを室温にて1週間静置を行ったが、容器底部に凝集物や沈殿物の堆積は認められず、液中に於いて分散物が均一に分散した状態が保たれていることが確認出来た。(比較例2) ポリリン酸(塩)がヒドロキシアパタイト以外のリン酸カルシウム化合物に対しても分散剤としての効果を示すか否かを調べるために以下の比較例を行った。即ち、実施例1において、ヒドロキシアパタイトに代えてリン酸水素カルシウム二水和物を用いた以外は同様にして湿式分散処理を行い、分散物を作製した。図10は比較例2で得られたリン酸水素カルシウム二水和物分散物の光散乱回折式粒度分布計により測定を行った粒度分布曲線を表す。測定して求められた体積平均粒子径は937nmであった。分散物の分散安定性を評価するため、実施例1と同様にして、固形分濃度を1質量%になるようイオン交換水で希釈し、これを室温にて1週間静置を行ったところ、容器底部に沈殿物の堆積が顕著に認められ、また分散物の上澄みが透明で、液中に於いて分散物が沈降していることが確認された。本比較例および先の実施例から、本発明に関わるポリリン酸(塩)はリン酸カルシウム化合物の中でもヒドロキシアパタイトに特異的に良好な分散効果を示すものであることが明確となった。(実施例7) ストロンチウムアパタイトとして、加藤らによる日本化学会誌、No.3、pp321−327(2002)に記載される「均一沈殿法」を利用して、結晶性を有するストロンチウムアパタイト粉体を合成した。なおストロンチウムアパタイトの結晶性は、広角X線回折測定を行い確認した。得られたストロンチウムアパタイト20グラムを0.2リットルのポリプロピレン容器に移し、これにトリポリリン酸ナトリウム(和光純薬工業製試薬)を6グラム添加し、さらにイオン交換水70グラムおよび粒径0.3mmのジルコニアビーズを160グラム加えて密閉し、ペイントコンディショナーを使用して6時間湿式分散処理を行った。その後、濾布を使用して分散物からジルコニアビーズを分離した。得られた分散物中に分散しているストロンチウムアパタイト微粒子の大きさを先の場合と同様にして測定し、求められた体積平均粒子径は、メジアン径で260nmであった。分散物の分散安定性を評価するため、実施例1と同様にして、固形分濃度を1質量%になるようイオン交換水で希釈し、これを室温にて1週間静置を行ったが、容器底部に凝集物や沈殿物の堆積は認められず、液中に於いて分散物が均一に分散した状態が保たれていることが確認出来た。(実施例8) 炭酸アパタイトとして、特開平10−36106号公報に記載される方法で得られた結晶性を有する炭酸アパタイトを利用して、先の実施例と同様に炭酸アパタイト微粒子分散物を作製した。なお炭酸アパタイトの結晶性は広角X線回折測定を行い確認した。得られた炭酸アパタイト20グラムを0.2リットルのポリプロピレン容器に移し、これにポリリン酸ナトリウム(和光純薬工業製試薬)を2グラム添加し、さらにイオン交換水70グラムおよび粒径0.3mmのジルコニアビーズを160グラム加えて密閉し、ペイントコンディショナーを使用して6時間湿式分散処理を行った。その後、濾布を使用して分散物からジルコニアビーズを分離した。得られた分散物中に分散している炭酸アパタイト微粒子の大きさを先の場合と同様にして測定し、求められた体積平均粒子径は、メジアン径で200nmであった。分散物の分散安定性を評価するため、実施例1と同様にして、固形分濃度を1質量%になるようイオン交換水で希釈し、これを室温にて1週間静置を行ったが、容器底部に凝集物や沈殿物の堆積は認められず、液中に於いて分散物が均一に分散した状態が保たれていることが確認出来た。(実施例9) ヒドロキシフルオロアパタイトとして、特開昭63−256507号公報に記載される方法で、水酸基の一部をフッ素に置換することで得られた結晶性を有するヒドロキシフルオロアパタイトを利用して、先の実施例と同様にヒドロキシフルオロアパタイト微粒子分散物を作製した。なおヒドロキシフルオロアパタイトの結晶性は広角X線回折測定を行い確認した。得られたヒドロキシフルオロアパタイト20グラムを0.2リットルのポリプロピレン容器に移し、これにメタリン酸ナトリウム(和光純薬工業製試薬)を2グラム添加し、さらにイオン交換水70グラムおよび粒径0.3mmのジルコニアビーズを160グラム加えて密閉し、ペイントコンディショナーを使用して6時間湿式分散処理を行った。その後、濾布を使用して分散物からジルコニアビーズを分離した。得られた分散物中に分散しているヒドロキシフルオロアパタイト微粒子の大きさを先の場合と同様にして測定し、求められた体積平均粒子径は、メジアン径で280nmであった。分散物の分散安定性を評価するため、実施例1と同様にして、固形分濃度を1質量%になるようイオン交換水で希釈し、これを室温にて1週間静置を行ったが、容器底部に凝集物や沈殿物の堆積は認められず、液中に於いて分散物が均一に分散した状態が保たれていることが確認出来た。 本発明の製造方法により得られるヒドロキシアパタイト微粒子分散物は、例えば再生医療用途として骨や歯の修復材料として利用可能であり、これと各種高分子素材を組み合わせて作製した複合材料としてシート状材料やフィルムコーティング材料として利用することも可能である。さらに、遺伝子組み換えに利用されるDNAを担持させたベクターとしての用途や、吸着剤やクロマト用担体、イオン交換材、触媒、抗菌剤等の用途およびプラスチック成形の際の造核剤としての用途にも利用が可能である。 水性媒体中に、体積平均粒子径が30〜300nmの範囲にある結晶性を有するヒドロキシアパタイト微粒子とポリリン酸(塩)を含むヒドロキシアパタイト微粒子分散物。 前記請求項1に記載のヒドロキシアパタイト微粒子分散物の製造方法であって、水性媒体中でポリリン酸(塩)とともに結晶性を有するヒドロキシアパタイトを湿式分散処理する、ヒドロキシアパタイト微粒子分散物の製造方法。 【課題】高純度で分散安定性に優れたヒドロキシアパタイト微粒子の分散液とその製造方法を提供すること【解決手段】水性媒体中に、体積平均粒子径が30〜300nmの範囲にある結晶性を有するヒドロキシアパタイト微粒子とポリリン酸(塩)を含むヒドロキシアパタイト微粒子分散物とその製造方法を用いる。【選択図】なし