タイトル: | 公開特許公報(A)_腎不全改善剤 |
出願番号: | 2013136060 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | A61K 31/724,A61P 13/12 |
安楽 誠 平山 文俊 和田 幸樹 JP 2015010053 公開特許公報(A) 20150119 2013136060 20130628 腎不全改善剤 日本食品化工株式会社 000231453 川口 嘉之 100100549 佐貫 伸一 100126505 丹羽 武司 100131392 安楽 誠 平山 文俊 和田 幸樹 A61K 31/724 20060101AFI20141216BHJP A61P 13/12 20060101ALI20141216BHJP JPA61K31/724A61P13/12 3 1 OL 9 4C086 4C086AA01 4C086AA02 4C086EA20 4C086MA01 4C086MA04 4C086NA14 4C086ZA81 本発明は、医薬品等として有用な腎不全改善剤に関する。 腎不全は、腎機能のうち糸球体濾過速度(GFR)のような排泄機能の低下により特徴付けられた病態疾患である。腎不全は、大きく急性腎不全と慢性腎不全に分類でき、このうち慢性腎不全は、単位ネフロンそれぞれの機能にはほとんど変化が見られないものの、ネフロンそのものの数が減少していくという特徴があり、そのため、腎全体のGFRの低下は進行性を示す。しかしながら、その腎機能がある程度低下した状態では自覚症状は少なく、実際病状がかなり進行してから発覚することがしばしばあり、また他の臓器と異なり、その機能を自ら再生したり、薬によって回復させたりすることはできない。慢性進行性腎不全のなかで最も進行した状態を尿毒症といい、そのGFRは正常時に比べ5%以下に低下している。尿毒症期には、腎機能が低下しているために、正常時には効率よく排泄されていた数多くの代謝産物が蓄積していく。これらの一連の代謝物は尿毒症物質といわれており、これまでに数多くの尿毒症物質が同定されてきた。 これまで、カルバミル化ヘモグロビン、糖化終末産物、顆粒球・単球機能阻害物質、酸化作用促進物質、含硫アミノ酸やグアニジン化合物など、数多くの物質が尿毒症物質として認知されている。尿毒症物質であるためには、1)化学的に同定されており、特異的で正確な定量が可能であること、2)血漿濃度または組織濃度が腎不全患者で増加していること、3)高濃度で特定の尿毒症症状をきたし、低濃度でその症状が軽減、消失すること、及び4)腎不全患者にみられる濃度で、その毒性が実験動物、適当なin vitro 系において証明されていること、を満たさなければならないが、これらすべてを満たすものはインドキシル硫酸、副甲状腺ホルモン、アルミニウムなどの数種の物質にとどまっている。 腎不全を改善する方法としては、尿毒症物質を腎不全改善剤としての活性炭に吸着させて体外に排出する技術が開発されている(非特許文献1)。A. Owada, M. Nakao, J. Koike, K. Ujiie, K. Tomita, and T. Shiigai. Effects of oral adsorbent AST-120 on the progression of chronic renal failure: a randomized controlled study. Kidney Int 63: 188-90 (1997). 前記改善剤は、その服用量が多量であることや不溶性であることにより服用に難があった。 本発明は、より簡便に服用可能な腎不全改善剤を提供することを課題とする。 本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、β-シクロデキストリンおよび/またはβ-シクロデキストリン誘導体が腎不全の改善効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。 即ち、本発明は以下に示すとおりである。<1> β-シクロデキストリンおよび/またはβ-シクロデキストリン誘導体を有効成分とする腎不全改善剤。<2> 前記β-シクロデキストリン誘導体が、炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基、炭素数1〜2のアルキル基および1〜2残基からなる糖類から選ばれる置換基を有するβ-シクロデキストリンである、<1>に記載の腎不全改善剤。<3> <1>または<2>に記載の腎不全改善剤を含有する腎不全改善用の医薬品。 本発明によれば、β-シクロデキストリンおよび/またはβ-シクロデキストリン誘導体を医薬品や飲食品として摂取することにより腎不全を改善することができる。図1は、慢性腎不全モデルラットに対し各シクロデキストリンを経口投与した1カ月後の血清インドキシル硫酸(IS)濃度を示す図である。図2は、慢性腎不全モデルラットに対し各シクロデキストリンを経口投与した1カ月後の血清クレアチン(Cr)濃度を示す図である。図3は、慢性腎不全モデルラットに対し各シクロデキストリンを経口投与した1カ月後の尿中クレアチン(Cr)濃度を示す図である。図4は、慢性腎不全モデルラットに対し各シクロデキストリンを経口投与した1カ月後の尿中尿素窒素(BUN)濃度を示す図である。図5は、インドール酢酸(IA)と各シクロデキストリンのScottプロットを示す図である。[1]腎不全改善剤 本発明は、β-シクロデキストリンおよび/またはβ-シクロデキストリン誘導体により腎不全を改善する技術である。 本発明の一形態は、β-シクロデキストリンおよび/またはβ-シクロデキストリン誘導体を有効成分とする腎不全改善剤である。 腎不全は、全身的な代謝の変化及び尿中への代謝産物の排泄が障害されることによって、尿毒症物質が体内に蓄積し多彩な病態が形成される疾患であり、後述の実施例から明らかなように本発明の腎不全改善剤によってその症状を改善することができる。すなわち、腎不全に伴う尿毒症物質の体内への蓄積、およびそれによる症状を改善することができる。また、尿毒症物質が体内へ蓄積すると、これらが腎不全をさらに悪化させ悪循環を来すと考えられている。したがって、尿毒症物質の体内への蓄積を改善することにより、腎不全の改善及び増悪の防止等の効果を発揮できる。詳しくは、本発明の腎不全改善剤を服用することで尿毒症物質であるインドキシル硫酸の血中濃度を低下させることができる。更には、血清クレアチン濃度、尿中クレアチン濃度や尿中尿素窒素含量を低下させることができる。本発明の腎不全改善剤は、急性及び慢性の腎不全を対象とすることができる。 シクロデキストリン(以下、「CD」と表記する場合がある。)は、環状のα−1,4−グルカンであり、シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼが澱粉等のα−1,4−グルカンに作用することにより、その分子内転移反応によって生成される。その重合度は主として6〜8であり、それぞれα−CD、β−CD、γ−CDと呼ばれる。シクロデキストリンは、立体的に見れば、いわば底のないバケツ様の構造をしており、空洞外部が親水性であるのに対し、空洞内部が疎水性を示すという特徴を有する。この特徴により、シクロデキストリンは空洞内部に特定の有機分子(ゲスト分子)を包み込むように取込む現象(包接)を示し、包接複合体が形成される。一般にシクロデキストリンによるゲスト分子の包接は、シクロデキストリンの空洞のサイズ及びゲスト分子のサイズ又はゲスト分子の構造の一部のサイズが一致する場合に起こり得る。また、シクロデキストリン空洞内部は疎水性であるため、ゲスト分子が疎水性である場合の方が比較的包接されやすい傾向がある。 本発明においては、シクロデキストリンとして、重合度が7であるβ−シクロデキストリンおよび/又はβ−シクロデキストリン誘導体を用いることができる。上述のようにシクロデキストリンとゲスト分子の包接複合体形成は、シクロデキストリンの空洞のサイズに大きく依存しているため、重合度7のβ−シクロデキストリンであれば置換基の有無やその種類に特に制限無く使用できる。β−シクロデキストリン誘導体としては、置換基として例えば炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基を有するもの、炭素数1〜2のアルキル基を有するもの、1〜2残基からなる糖類を有するものが挙げられる。糖類としては、マルトース、グルコース等が挙げられる。β−シクロデキストリン誘導体として、具体的には、ヒドロキシプロピル化β−CD、ヒドロキシブチル化β−CD、メチル化β−CD、マルトシル化β−CD、などが挙げられ、医薬品への応用実績や安全性の点からヒドロキシプロピル化β−CDが好ましい。 前記置換基による、β−シクロデキストリン誘導体における置換位置は、グルコースの2位、3位、6位の水酸基のいずれであってもよい。前記置換基による、β−シクロデキストリン誘導体における置換度は、通常0.2〜2/グルコース、好ましくは0.5〜1/グルコースである。 本発明のメカニズムの詳細は不明であるが、消化管内においてインドキシル硫酸のような尿毒症物質をβ−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体が包接することで複合体を形成し、消化管内から排出され、その結果、消化管内の尿毒症物質が減少し、腎不全の進行を抑制するものと考えられる。ただし、このメカニズムは推定に過ぎず、本発明はこのようなメカニズムによるものに限定されない。 本発明に用いるβ−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体は、結晶品、非結晶粉末品、シラップなどの形態のものを用いてもよい。また、β−CD又はその誘導体以外に、それらの生成や調製の過程の副産物として含まれる、例えばα−CD、γ−CD、マルトオリゴ糖、その他糖質などを含有しているものを用いても当然よい。β−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体は、市販されているものを用いてもよく、常法により製造したものを用いてもよい。 本発明の腎不全改善剤の有効成分であるβ−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体は、水溶性であり、弱いながらも甘味を有するため、活性炭と比べ容易に服用することができる。[2]腎不全改善用の医薬品 本発明の一形態は、前記本発明の腎不全改善剤を含有する腎不全改善用の医薬品である。 本発明の腎不全改善剤は、必要に応じて、有効成分であるβ−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体に対し薬学的に許容される基材や担体を添加して、錠剤、顆粒剤、散剤、液剤、粉末、顆粒、カプセル剤等の形態にして、これを医薬品に利用することができる。このような形態が本発明の医薬品である。このような製剤化は、通常、医薬の製造に用いられる方法に従って、製造することができる。 本発明の医薬品は、β−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体を0.001〜99重量%、より好ましくは0.01〜99重量%含有することが望ましい。β−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体の有効投与量及び投与回数は、投与形態、患者の年齢、体重、治療すべき症状の性質もしくは重篤度によっても異なるが、β−シクロデキストリンでは、通常成人1日当り100〜300mg、好ましくは200〜300mgを、β−シクロデキストリン誘導体では、通常成人1日当り0.5〜20g、好ましくは5〜10gを1回又は数回に分けて投与することができる。 また、本発明の腎不全改善剤は、医薬品以外にも飲食品に添加することで摂取しても良く、例えば、健康食品(特定保健用食品、栄養機能食品、栄養補助食品等)、機能性食品、病者用食品等として利用することもできる。その形態としては、錠剤、液剤、カプセル(軟カプセル、硬カプセル)、粉末、顆粒、スティック、ゼリーなどが挙げられる。このような製剤化は、通常、食品の製造に用いられる方法に従って、製造することができる。なお、「特定保健用食品」とは、機能等を表示して食品の製造または販売等を行う場合に、保健上の観点から法上の何らかの制限を受けることがある食品をいう。 以下に実施例を挙げて本発明の詳細を説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。<実施例1> 表1に示した条件で慢性腎不全モデルラットに対するシクロデキストリン経口投与の影響を評価した。シクロデキストリンは、α−シクロデキストリン(α−CD; 日本食品化工製;セルデックスA-100)、ヒドロキシプロピル化β−シクロデキストリン(HP−β−CD; 日本食品化工製;セルデックスHP-β-CD;置換度4.9(0.7/グルコース))、γ−シクロデキストリン(γ−CD; 日本食品化工製;セルデックスG-100)を使用した。なお、腎不全の指標として、シクロデキストリン経口投与1カ月後の血清インドキシル硫酸(IS)濃度、血清クレアチン(Cr)濃度、尿中クレアチン(Cr)濃度および尿中尿素窒素(BUN)濃度を測定した。 腎不全の指標の測定は、以下のようにして行った。 血清中IS濃度についてHPLC法により測定した。HPLC測定条件以下の通りである。カラム ; Mightysil RP-18(5μL)(関東化学製)ポンプ ; 日立655 A-11型検出器 ; 日立L-7480型蛍光検出器移動相 ; アセトニトリル:0.2M酢酸緩衝液(pH4.5)(v/v) =25:75測定波長; 蛍光モニター(励起波長/蛍光波長=280nm/370nm)流速; 1.0mL/min また、血清クレアチン(Cr)濃度、尿中クレアチン(Cr)濃度および尿中尿素窒素(BUN)濃度については、ファルコバイオシステムズ社に血液検査を依頼し、血清及び尿中クレアチニン濃度においては酵素法を用い、尿中尿素窒素濃度においてはウレアーゼ・グルタミン酸脱水素酵素(GLDH)法を用いてそれぞれ測定を行った。 その結果は図1〜図4に示される通りであった。α−CDやγ−CDを経口投与した慢性腎不全モデルラットの1カ月後の血清インドキシル硫酸濃度はシクロデキストリンを投与しなかったコントロールと変わらなかったのに対し、HP−β−CDを経口投与した慢性腎不全モデルラットの1カ月後の血清インドキシル硫酸濃度はシクロデキストリンを投与しなかったコントロールと比べ有意に低下した。また、血清クレアチン濃度、尿中クレアチン濃度および尿中尿素窒素濃度もコントロールと比べ有意に低下した。よって、HP−β−CDを投与することにより腎不全を改善できることが明らかとなった。<実施例2> 尿毒症物質であり、インドキシル硫酸と構造が類似したインドール酢酸(IA)と各種シクロデキストリンとの安定度定数を以下の通り算出した。 1mMのインドール酢酸溶液を調製した。次に、各種シクロデキストリンの200mM、100mM、50mM、25mM、12.5mM、6.25mM溶液をそれぞれ調製した。その後、前記インドール酢酸溶液と各種シクロデキストリン溶液を当量ずつ混合し、その溶液を10倍希釈することで、最終濃度比としてインドール酢酸:50μM、各種シクロデキストリン:10mM、5mM、2.5mM、1.25mM、0.625mM、0.3125mMの溶液を調製した。なお、前記溶液の調製には、全てリン酸緩衝液(PBS)pH7.4を用いた。上記手法で調製した各種インドール酢酸・シクロデキストリン溶液のUV(279nm)測定を行い、「Inclusion complexes of beta-cyclodextrin with tranquilizing drugs phenothiazines in aqueous solution. Otagiri M, Uekama K, Ikeda K. Chem Pharm Bull (Tokyo). 1975 Jan;23(1):188-95.」に記載の下記のScott式により、安定度定数を算出した結果を図5に示した。 図5から明らかなようにヒドロキシプロピル化β−シクロデキストリン(HP−β−CD)のインドール酢酸に対する高い安定度定数(KHP-β-CD=1520M-1 )が確認され、ヒドロキシプロピル化β−シクロデキストリンが尿毒症物質であるインドール酢酸を包接する事が示された。一方、α−シクロデキストリン(α−CD)およびγ−シクロデキストリン(γ−CD)のインドール酢酸に対する安定度定数は、それぞれKα-CD=150M-1 およびKγ-CD=229M-1 と低く、インドール酢酸の様な尿毒症物質を包接する能力は低いことが示された。 本発明は、医薬品等に応用することができる。 β-シクロデキストリンおよび/またはβ-シクロデキストリン誘導体を有効成分とする腎不全改善剤。 前記β-シクロデキストリン誘導体が、炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基、炭素数1〜2のアルキル基および1〜2残基からなる糖類から選ばれる置換基を有するβ-シクロデキストリンである、請求項1に記載の腎不全改善剤。 請求項1または2に記載の腎不全改善剤を含有する腎不全改善用の医薬品。 【課題】より簡便に服用可能な腎不全改善剤を提供すること。【解決手段】β-シクロデキストリンおよび/またはβ-シクロデキストリン誘導体を有効成分とする腎不全改善剤。【選択図】図1