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タイトル:公開特許公報(A)_有機物試料の深さ方向分析方法
出願番号:2013130691
年次:2015
IPC分類:G01N 23/227


特許情報キャッシュ

岡田 治朗 JP 2015004604 公開特許公報(A) 20150108 2013130691 20130621 有機物試料の深さ方向分析方法 住友金属鉱山株式会社 000183303 阿仁屋 節雄 100091362 油井 透 100090136 清野 仁 100105256 岡田 治朗 G01N 23/227 20060101AFI20141205BHJP JPG01N23/227 8 2 OL 24 2G001 2G001AA01 2G001AA04 2G001BA08 2G001CA03 2G001CA04 2G001GA01 2G001GA06 2G001GA08 2G001HA01 2G001JA13 2G001KA01 2G001LA05 2G001MA05 2G001NA03 2G001PA05 2G001RA10 本発明は、有機物試料の深さ方向分析方法に関し、詳しくは、イオンビームによるスパッタリングを利用して有機物試料を深さ方向に分析する方法に関する。 有機物材料は工業的に極めて重要であり、様々な分野において様々な用途に用いられる。このような材料に対し、新たな特性を付与する、あるいは、表面特性を改善するために、表面処理が行われている。表面処理の一つとして、有機物材料の表面を改質する処理が例示され、たとえば、ポリイミドなどの有機高分子フィルムの表面を電気的、あるいは、化学的に処理し、フィルム表面の汚染物質を除去すること、フィルム表面に存在する官能基を改質すること(親水性の付与等)、表面に凹凸を形成する(粗面効果)こと等が例示される。このような表面の改質処理により、高分子フィルムと他物質との密着性を向上させることができる。このような改質処理の具体例としては、Ar、N2、O2などの気体分子に適切な電圧を印加して発生させたプラズマを試料表面に衝突させ表面層(改質層)を形成するプラズマ処理が例示される。 上述のような処理によって生じた表面層の特性は、材料表面からどの程度の深さ領域まで表面層が生じているか、すなわち、表面層の厚みにも影響される。したがって、表面層の特性(たとえば、他物質との密着性)を評価する際に、表面層の厚みを評価することは重要である。そこで、材料の表面近傍において、有機物に含まれる元素の存在状態を深さ方向に評価する手法が必要となる。 上述のような評価ニーズに対して、種々の深さ方向分析が行われている。たとえば、スパッタリングにより、試料の表面を深さ方向に削りながら元素分析を行うことが知られている。スパッタリングは、イオン銃内で低圧力(1×10−3Pa程度)のガスに熱フィラメントから放出させた100eV程度のエネルギーを有する電子を衝突させ、ガス原子を正イオン化した後、このイオンを目標物(試料)の方向に0.5〜5kVの電圧を引加して加速し、かつ、イオンの進行方向と垂直な平面に適切な電圧をかけて、一定領域にイオンを収束させて、試料に衝突させ、スパッタリング現象を起こしながら、試料表面を削る方法である。 スパッタリングを用いる深さ方向分析として、X線光電子分光法(以下、XPSともいう)による深さ方向分析が知られている。XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)は、試料にX線を入射し、光電効果によって励起された光電子の運動エネルギーを解析することで、試料表面(表面から数nmの深さ領域)の元素情報およびその結合状態の情報を取得できる分析法である。 したがって、一定時間スパッタリングを行った後、試料表面にXPS測定を行う操作を繰り返すことで、深さ方向分析を行うことができる。分析後には、縦軸が試料に含まれる元素濃度、横軸がスパッタリング時間で表される元素のプロファイルを得ることができる。 しかしながら、このようなプロファイルからは、スパッタリングを行った時間(以降、スパッタリング時間ともいう)は分かるものの、スパッタリングにより削られた深さ(以降、スパッタリング深さともいう)に関する情報は直接的に得ることはできない。 そこで、一般的には、厚みが既知の標準試料を用いて、単位時間にスパッタリングされる深さ(スパッタレート)を算出し、このスパッタレートにスパッタリング時間を掛けて、スパッタリング深さに換算する。具体的には、所定のスパッタリング条件で膜厚が既知の薄膜状の標準試料をスパッタリングしながら深さ方向分析を行い、標準試料を貫通させるまでに要した時間からスパッタレート(nm/min)を算出する。次に、同じスパッタリング条件で目的の試料の深さ方向分析を行い、元素のプロファイルを得る。得られるプロファイルにおいて、横軸のスパッタリング時間(min)に、標準試料のスパッタリングから算出されるスパッタレート(nm/min)を掛けて、スパッタリング深さ(nm)に換算する。このようにすることにより、深さ方向における元素濃度のプロファイルを得ることができる。 標準試料としては、Si基板の上に成膜した10〜100nmの膜厚を有するSiO2薄膜、Ta基板上に成膜された30nmまたは100nmの膜厚を有するTa2O5薄膜等が一般的に用いられている。 ところで、上記に示すようなXPSによる深さ方向分析では、イオンビームとして、主に、Ar単原子イオンビームが用いられている。しかしながら、有機物に対してXPSによる深さ方向分析を行う場合、Ar単原子イオンビームを用いて有機物をスパッタリングすると、有機物に入射するArイオンによるミキシング効果により、有機物中の結合が破壊されるという問題が知られている。 上記の問題に対し、近年、クラスターイオンビームを用いたスパッタリングにより有機物に対しても低ダメージで深さ方向分析が可能となってきている。とりわけ、アルゴンガスクラスターイオンビーム(以下、Ar−GCIBともいう)を用いたスパッタリングでは、有機物に対して非常に低ダメージで深さ方向分析が可能であることが示されている(非特許文献1を参照)。また、非特許文献2には、プラズマ処理によって有機高分子フィルムの表面に生じた改質層の深さ方向プロファイルを評価できる可能性が示されている。T.Miyayama et al J.Vac. Sci. Technol. A 28(2), Mar/Apr 2010T.Miyayama et al Surf. Interface Anal. 2010, 42, 1453-1457 無機物の標準試料であるSiO2薄膜またはTa2O5薄膜と比較して、有機物のスパッタレートは数倍以上速い。これはクラスターイオンビームを用いる場合も同様である。そのため、深さ方向分析を行う試料が有機物である場合、分析後に、無機物の標準試料から算出されたスパッタレートを用いて有機物試料のスパッタリング深さに換算すると、得られる深さ方向プロファイルは、有機物試料の実際の深さ方向プロファイルと乖離があるという問題があった。 したがって、有機物試料の深さ方向分析において、深さ方向プロファイルを精度よく得るには、同程度のスパッタレートを有する有機物を標準試料として用いる必要がある。しかしながら、無機物の標準試料に関しては、膜厚が保証された試料が市販されているが、所定の膜厚が保証された有機物の薄膜標準試料を入手することは困難であった。したがって、有機物を標準試料として用いることができず、その結果、有機物のスパッタレートを精度よく算出することはできないという問題があった。 本発明は、上記の状況を鑑みてなされ、有機物試料の深さ方向分析を行う際に、有機物から構成される標準試料を用いて標準試料の厚みに関係なく精度の高いスパッタレートを簡便に算出することができ、このスパッタレートに基づき、有機物試料の深さ方向分析を精度よく行うことができる方法を提供することを目的とする。 アルゴン単原子イオンビームよりも低ダメージであるクラスターイオンビームを用いて有機物をスパッタした場合であっても、直接スパッタされる領域(イオンビームが走査される範囲)だけでなく、該領域の周辺領域(イオンビームが走査される範囲の外側の領域)に含まれる原子も、スパッタリングの影響により削り取られてしまう。その結果、スパッタリングが予定されていない領域の一部がスパッタリングにより削り取られてしまい、スパッタリング深さを測定する際の基準点、すなわち、削り取られていない領域を特定することが困難となり、スパッタリング深さを正確に求めることが困難である。 本発明者らは、スパッタリングされた領域とスパッタリングされていない領域との境界を明確にし、スパッタリング深さを測定する際の基準点を特定しやすくして、正確なスパッタリング深さの測定を可能とすることにより、上記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。 すなわち、本発明の態様は、有機物から構成される有機物試料をイオンビームによりスパッタリングしながら深さ方向分析を行う方法であって、スパッタレートを算出するために用いられ、有機物から構成される標準試料の表面に、イオンビームが照射されスパッタされるスパッタ領域と、スパッタされないように遮蔽する遮蔽領域と、を形成する遮蔽領域形成工程と、スパッタ領域および遮蔽領域が形成された標準試料を所定のスパッタリング条件で所定時間スパッタリングするスパッタリング工程と、標準試料の深さ方向において、遮蔽領域の表面の高さと、スパッタ領域が深さ方向にスパッタリングされて形成された凹部の表面の高さと、の差であるスパッタリング深さを測定するスパッタリング深さ測定工程と、スパッタリング深さと所定時間とから、スパッタレートを算出するスパッタレート算出工程と、所定のスパッタリング条件と同じスパッタリング条件で有機物試料をスパッタリングしながら、深さ方向にX線光電子分光法による測定を行う深さ方向分析工程と、を有し、スパッタリング工程において、遮蔽領域とスパッタ領域との境界の少なくとも一部が、イオンビームを走査する範囲に含まれるようにする有機物試料の深さ方向分析方法である。 上記の態様において、好ましくは、遮蔽領域はマスクにより形成される。 上記の態様において、好ましくは、遮蔽領域とスパッタ領域との境界の全部がイオンビームを走査する範囲に含まれ、スパッタ領域の最大径はイオンビームを走査する範囲の最大径の半分以下である。 上記の態様において、好ましくは、イオンビームがクラスターイオンビームであることが好ましい。 上記の態様において、好ましくは、有機物試料は、有機物試料の表面近傍に含まれる元素の結合状態を変化させて得られる表面層を有しており、有機物試料に含まれる元素の結合状態の深さ方向における変化に基づいて、表面層の厚みを評価する。 上記の態様において、好ましくは、スパッタリング深さ測定工程において、遮蔽領域の表面の高さと、凹部の周縁部の高さと、の差を測定する。 上記の態様において、好ましくは、スパッタリング工程において、標準試料を貫通させないように、スパッタリングを行う。 上記の態様において、好ましくは、有機物試料を構成する有機物の構造と、標準試料を構成する有機物の構造と、が同じまたは類似している。 本発明によれば、有機物試料の深さ方向分析を行う際に、有機物から構成される標準試料を用いて標準試料の厚みに関係なく精度の高いスパッタレートを簡便に算出することができ、このスパッタレートに基づき、精度の高い有機物試料の深さ方向分析を精度よく行うことができる方法を提供することができる。図1は、本実施形態に係る分析方法のフローチャートである。図2(a)は、標準試料の斜視図であり、図2(b)は、遮蔽領域を形成するためのアルミ箔の斜視図であり、図2(c)は、図2(b)に示すアルミ箔により被覆された標準試料の斜視図であり、図2(d)は、図2(c)に示す標準試料をZ軸方向から見た図である。図3(a)は、スパッタリングにより凹部が形成された標準試料の斜視図であり、図3(b)は、図3(a)におけるIIIa−IIIa線に沿う標準試料の断面模式図であり、図3(c)は、遮蔽領域が形成されていない標準試料の凹部をX軸方向から見た断面模式図である。図4(a)は、本発明の実施例において、プラズマ処理前の有機物試料(ポリイミドフィルム)の表面のXPSスペクトル(炭素1sスペクトル)を示す図であり、図4(b)は、プラズマ処理後の有機物試料(ポリイミドフィルム)の表面のXPSスペクトル(炭素1sスペクトル)を示す図である。図5(a)は、本発明の実施例において、標準試料に形成された凹部近傍の3次元プロファイルであり、図5(b)は、遮蔽領域の表面の高さおよび凹部の表面の高さの測定結果を示すグラフである。図6は、本発明の実施例において、有機物試料(ポリイミドフィルム)のXPSスペクトル(炭素1sスペクトル)に関する深さ方向プロファイルである。図7は、本発明の実施例において、有機物試料(ポリイミドフィルム)のスパッタリング深さと、有機物試料に含まれる結合種のピーク面積比と、の関係を示すグラフである。図8は、図7に示すグラフを縦軸方向に拡大したグラフである。図9(a)は、本発明の実施例において、プラズマ処理前の有機物試料(PETフィルム)の表面のXPSスペクトル(炭素1sスペクトル)を示す図であり、図9(b)は、プラズマ処理後の有機物試料(PETフィルム)の表面のXPSスペクトル(炭素1sスペクトル)を示す図である。図10は、本発明の実施例において、有機物試料(PETフィルム)のXPSスペクトル(炭素1sスペクトル)に関する深さ方向プロファイルである。図11は、本発明の実施例において、有機物試料(PETフィルム)のスパッタリング深さと、有機物試料に含まれる結合種のピーク面積比と、の関係を示すグラフである。 以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき、以下の順序で詳細に説明する。1.有機物試料の深さ方向分析方法 1−1 有機物試料 1−2 標準試料 1−3 遮蔽領域形成工程 1−4 スパッタリング工程 1−5 スパッタリング深さ測定工程 1−6 スパッタレート算出工程 1−7 深さ方向分析工程 1−8 解析工程2.本実施形態の効果3.変形例(1.有機物試料の深さ方向分析方法) 本実施形態に係る有機物試料の深さ方向分析方法は、主に、標準試料を用いてスパッタレートを算出する工程と、有機物試料の深さ方向分析を行う工程と、を含む。該分析方法は図1に示すフローチャートを用いて説明する。 (1−1 有機物試料) まず、該分析方法に供する有機物試料を準備する。本実施形態に係る分析方法に供される有機物試料は、有機物を含み、スパッタレートが無機物の標準試料(SiO2薄膜等)のスパッタレートよりも極めて早い(たとえば、10倍以上)試料であれば、特に制限されない。本実施形態では、該有機物試料は、たとえば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の有機高分子材料であることが好ましい。 また、本実施形態では、該有機物試料は表面層を有している。表面層は、有機高分子材料の表面に、公知の表面処理(たとえば、プラズマ処理)を行って形成された層である。すなわち、この表面層は、表面処理により、有機高分子材料の表面近傍に含まれる元素の結合状態を変化させて形成された改質層である。したがって、表面層に含まれる元素の存在割合は、有機物における存在割合からそれほど変化しない。なお、表面層としては、改質層に限定されず、有機高分子材料とは異なる物質が形成されていてもよい。 (1−2 標準試料) 続いて、標準試料を準備する。本実施形態において、標準試料は、スパッタレートを算出するために用いられる試料であり、有機物から構成されている。標準試料を構成する有機物の構造(骨格、置換基、分子量等)は、有機物試料を構成する有機物の構造と異なっていてもよいが、本実施形態では、有機物試料を構成する有機物の構造と同じあるいは類似していることが好ましい。標準試料を構成する有機物の構造を、有機物試料を構成する有機物の構造に近づけることで、後述する有機物試料のスパッタリング深さをより精度の高いものとすることができる。本明細書において、「類似」とは、たとえば、置換基としてアルキル基が含まれている場合に、アルキル基中の炭素の数が異なる場合等をいう。 したがって、標準試料を構成する有機物としては、有機物試料と同じ有機高分子材料(ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)等)であることが好ましい。 標準試料の寸法は、スパッタレートを算出するために用いられる装置に標準試料を設置可能な大きさであれば、特に制限されない。なお、標準試料の厚みの正確性は保証されている必要はない。 (1−3 遮蔽領域形成工程S10) まず、後述する有機物試料と同じ有機高分子材料を標準試料とする。次に、図2(a)に示す試料ホルダー2に保持されている標準試料1の表面に、イオンビームが照射されスパッタされるスパッタ領域と、イオンビームが照射されずスパッタされない遮蔽領域と、を形成する。 遮蔽領域を形成する方法としては、特に制限されず、公知の方法により形成すればよい。本実施形態では、標準試料の表面をマスクすることにより、遮蔽領域を形成する。具体的には、図2(b)に示す所定の範囲が除去された(孔が形成された)膜状の物質で標準試料の表面を覆うことにより、スパッタ領域および遮蔽領域を形成する(図2(c)を参照)。膜状の物質としては、表面汚染が少ない物質であれば特に制限されないが、本実施形態では、入手の容易さ、孔の形成しやすさ等の観点から、アルミ箔が好ましい。 (1−4 スパッタリング工程S20) 続いて、スパッタ領域11と遮蔽領域12とが形成された標準試料1を備えた試料ホルダー2を、スパッタリング装置内に導入してスパッタリングを行う。 図2(c)に示すように、中央に孔4が形成されたアルミ箔3により標準試料1の表面が覆われているため、該標準試料の表面はスパッタ領域11および遮蔽領域12から構成される。スパッタリング工程S20では、この標準試料にZ軸方向からイオンビームが照射され、該標準試料がスパッタリングされることになるが、本実施形態では、図2(c)および(d)に示すように、XY平面においてスパッタ領域11と遮蔽領域12との境界13の少なくとも一部が、スパッタリングに用いるイオンビームを走査する範囲20(以下、ラスター範囲20ともいう)に含まれている。なお、図2(c)および(d)では、ラスター範囲20は斜線部分であり、該境界13の全部がラスター範囲20に含まれている場合を示している。 このようにすることにより、後述するスパッタリング深さ測定工程では、スパッタ領域11がスパッタリングされて形成される凹部のスパッタリング深さを精度よく算出することができる。また、スパッタ領域11の最大径(Ds)は、ラスター範囲20の最大径(Dr)の半分以下であることが好ましい。このようにすることにより、スパッタリング深さの測定誤差を小さくすることができる。 スパッタリング装置は、他の分析装置(たとえば、X線光電子分光装置)に付属の装置であってもよいし、単独の装置であってもよい。 本実施形態では、スパッタリングに用いるイオンビームとしては、元素の結合状態が保存され、ダメージ層が生じないような低ダメージでスパッタリングできるクラスタービームが好ましい。後述する深さ方向分析工程において、表面層の厚みをXPSによる深さ方向分析により測定し、深さ方向における元素の結合状態の違いに基づいて、表面層の厚みを評価するからである。クラスタービームとしては、アルゴンガスクラスターイオンビーム(Ar−GCIB)、C60クラスタービーム等が例示される。本実施形態では、Ar−GCIBを用いる。 スパッタリング工程S20では、スパッタリング装置のイオン銃から放出されるAr−GCIBをZ軸方向に加速し、標準試料の表面にAr−GCIBを衝突させて標準試料の表面を構成する原子をはじき飛ばすことにより、該標準試料がスパッタリングされる。なお、本実施形態では、図2(c)および(d)に示すように、XY平面においてイオンビームを走査する範囲20(ラスター範囲20)内にも遮蔽領域12が含まれるため、標準試料1が実際にスパッタリングされる範囲はラスター範囲20に一致せず、スパッタ領域11のみがスパッタリングされる。 スパッタリング条件およびスパッタリング時間は特に制限されず、準備した標準試料をスパッタリングでき、後述するスパッタリング深さを確実に測定できるように設定すればよい。 なお、X線光電子分光装置に付属するスパッタリング装置を用いてスパッタリングを行う場合、スパッタリングを行いながらXPS測定を行ってもよい。すなわち、一定時間スパッタリングを行ってXPS測定を行う操作を繰り返してスパッタリングを行ってもよい。この操作は、後述する有機物試料の深さ方向分析における操作と同じ操作であるため好ましいが、スパッタリング深さを算出する際には、XPS測定の結果は考慮しない。 スパッタリング終了後、標準試料を取り出し、アルミ箔を除去する。アルミ箔が除去された標準試料1においては、スパッタ領域のみがスパッタリングにより削られており、図3(a)に示すように、スパッタ領域はクレーター状の凹部14を形成している。 (1−5 スパッタリング深さ測定工程S30) スパッタリング深さ測定工程S30では、凹部14の表面の高さと、スパッタリングされていない領域(遮蔽領域12)の高さと、の差(Z軸方向における距離)を測定し、これをスパッタリング深さとする。すなわち、従来のように、厚みが既知の標準試料を貫通させるのに要するスパッタリング時間からスパッタレートを算出するのではなく、実際にスパッタリング深さを測定してスパッタレートを算出する。 スパッタリング後の標準試料1の凹部14近傍の断面模式図である図3(b)において、凹部14と、スパッタリングされていない領域12(12a)と、の境界13aは、遮蔽領域12とスパッタ領域11との境界13にほぼ一致する。また、図3(b)から明らかなように、スパッタリングにより形成された凹部14と、境界13a近傍のスパッタリングされていない遮蔽領域12aと、は極めて明確に区別することができる。すなわち、凹部14と遮蔽領域12との段差が際立つ。これは、遮蔽領域12とスパッタ領域11との境界13の少なくとも一部がラスター範囲20に含まれるようにした結果、実際にスパッタリングされた領域(凹部14)の近傍に、ラスター範囲20内であったにもかかわらずスパッタリングされていない遮蔽領域12aが存在するからである。 これに対し、遮蔽領域が形成されていない場合には、図3(c)に示すように、スパッタリングが予定されている領域(ラスター範囲20に含まれる領域)だけでなく、該領域の周辺部であってラスター範囲20に含まれていない領域15もスパッタリングされてしまうことがある。特に、SiO2のような無機物に比べて、有機物はスパッタリングされやすいため、スパッタリングが予定されていない領域、すなわち、ラスター範囲20外の領域もスパッタリングの影響により、その一部がスパッタリングされてしまうことがある。 その結果、実際にスパッタリングされた領域と、実際にスパッタリングされなかった領域と、の境界13bは緩やかに傾斜し、これらの領域の区別が曖昧となってしまう。スパッタリング深さを正確に測定するには、スパッタリング深さを測定するための基準点を、スパッタリングされていない領域、すなわち、標準試料の表面に設定する必要があるが、図3(c)では、これが困難となってしまう。そうすると、スパッタリング深さを測定したとしても、測定誤差が大きくなってしまい、その結果、正確なスパッタレートを算出することができない。 しかも、標準試料は有機物で構成されているため剛性が低く、スパッタリング時に目視できない程度の試料のたるみ等が生じている場合がある。このような標準試料のたるみの影響により、スパッタリングされた領域と、スパッタリングされなかった領域と、をますます区別しにくくなってしまう。場合によっては、スパッタリングにより形成される凹部がどこに形成されたのかが分からなくなってしまう。さらに、ラスター範囲は通常、数百μmから数mmのオーダーであるため、標準試料の表面粗さ、表面うねり等もスパッタリング深さの測定誤差に影響を与える。 したがって、図3(b)に示すように、凹部14と遮蔽領域12との段差を際立たせることにより、スパッタリング深さを測定するための基準点を、標準試料の表面に確実に設定することができる。そして、凹部14の表面の高さと、遮蔽領域12の表面の高さと、の差から、スパッタリング深さ30を正確に測定することができる。 スパッタリング深さを測定する方法としては特に制限されず、公知の測定機器により測定すればよい。本実施形態では、スパッタリング深さは1μm以下であるため、nmレベルの分解能を有する機器により測定することが好ましい。具体的には、白色干渉計、触針式段差計、原子間力顕微鏡等が例示される。 スパッタリング深さを測定する際には、標準試料の表面(遮蔽領域12)の高さと、凹部14の周縁部の表面の高さと、の差を測定することが好ましい。このようにすることにより、試料全体が傾斜している場合であっても、スパッタリング深さの測定誤差を小さくすることができる。 また、スパッタリング深さ測定工程S30では、上述したように、形成された凹部14と遮蔽領域12aとの段差からスパッタリング深さを正確に測定することができるので、標準試料の厚みの正確性が保証されている必要はない。むしろ、スパッタリング工程S20では、スパッタリング深さを正確に測定するために、標準試料を貫通させないようにスパッタリングを行うことが好ましい。 (1−6 スパッタレート算出工程S40) スパッタレート算出工程S40では、上記で測定されたスパッタリング深さを、スパッタリング時間で除すことによりスパッタレートを算出する。このスパッタレートは、正確に測定されたスパッタリング深さを用いて算出されているため、精度が高い。以上より、有機物から構成される標準試料を用いてスパッタレートを精度よく算出することができる。 (1−7 深さ方向分析工程S50) 深さ方向分析工程S50では、上記において算出したスパッタレートを用いて、有機物試料の表面に形成された表面層の厚みを、XPSによる深さ方向分析により評価する。この表面層は、上述したように、有機物試料の表面をプラズマ処理して形成された改質層である。したがって、有機物試料において、改質層と改質されていない層とを比較すると、構成する元素の割合はあまり変化していないが、元素の結合状態は変化している。 そこで、Ar−GCIBを用いたスパッタリングにより試料の表面を除去しながら、試料の表面(数nm程度)における構成元素の結合状態についての情報を得ることができるXPS測定を行うことにより、試料の深さ方向における元素の結合状態の変化に関する情報を得ることができる。 深さ方向分析工程S50では、改質層を有する有機物試料を準備し、XPSによる深さ方向分析に供する。このとき、有機物試料には遮蔽領域を設けなくてよい。すなわち、有機物試料の表面をアルミ箔等の膜状の物質で覆う必要はない。 また、深さ方向分析工程S50におけるスパッタリング条件は、スパッタリング工程S20において、標準試料を用いてスパッタレートを算出した際のスパッタリング条件と同じにする。特にスパッタレートに大きな影響を与える条件は、同じ条件とすることが好ましい。なお、XPSによる深さ方向分析では、スパッタリングされた領域に、XPS測定のプローブとして、X線および電子線が照射されるため、これらのプローブ径が、スパッタリングされる領域に入るように、ラスター範囲を決定する。したがって、ラスター範囲を標準試料のスパッタリング工程S20におけるラスター範囲と同じにする場合には、XPSによる深さ方向分析におけるX線および電子線のプローブ径を考慮して、標準試料のスパッタリングにおけるラスター範囲を決定することが好ましい。 上記のスパッタリング条件で有機物試料に対し、XPSによる深さ方向分析を行う。具体的には、一定時間スパッタリングを行ってXPS測定を行う操作を繰り返す。このときスパッタリング時間を測定しておく。 (1−8 解析工程S60) 有機物深さ方向分析が終了した後、該分析に要したスパッタリング時間と、標準試料に対するスパッタリングにより予め算出したスパッタレートと、を用いて、有機物試料のスパッタリング深さを算出する。続いて、得られたスパッタリング深さと、測定により得られた元素の結合状態の情報と、に基づいて改質層の厚みを算出する。具体的な解析方法としては特に制限されないが、たとえば、以下に示す方法が例示される。 まず、特定の元素のXPSスペクトルを、カーブフィッティング法により、波形分離し、各結合種のピークを求めて、各結合種の存在比に関する情報(たとえば、ピーク面積)を算出する。得られた各結合種のピーク面積を、スパッタリング深さに対してプロットすることにより、深さ方向において結合種の存在比の変化を示すグラフを得ることができる。そして、このグラフから、結合状態の変化が生じる深さ、すなわち、改質層の厚みを算出することができる。(2.本実施形態の効果) 上記の実施形態では、スパッタリングされるスパッタ領域11と、スパッタリングされないようマスクに覆われた遮蔽領域12と、が形成された標準試料の表面をスパッタリングする際に、スパッタ領域11と遮蔽領域12との境界13がラスター範囲20内に含まれるようにしてスパッタリングを行う。このようにすることにより、スパッタ領域11は確実にスパッタリングされ凹部14が形成されるのに対し、境界13近傍の遮蔽領域12はラスター範囲20内であったにもかかわらず、スパッタリングされず標準試料の表面が保存される。その結果、凹部14と遮蔽領域12との段差が際立つことにより、スパッタリング深さを測定する際の基準点を、スパッタリングされていない領域(標準試料の表面)に確実に設定することができる。したがって、凹部14の表面の高さと標準試料の表面の高さとから、正確なスパッタリング深さを測定することができ、該スパッタリング深さからスパッタレートを精度よく算出することができる。このような方法であれば、厚みが保証されていない標準試料を用いても、スパッタレートを精度よく算出することができる。 また、有機物から構成される標準試料のスパッタレートが精度よく得られるため、有機物試料の深さ方向分析後に得られる深さ方向プロファイルは、有機物試料の実際の深さ方向プロファイルとよく一致する。すなわち、有機物試料の元素の濃度分布を深さ方向に正確に求めることができる。しかも、本実施形態では、イオンビームとしてAr−GCIBを用いるため、有機物試料内部の元素の結合状態が保存され、元素の結合状態の変化も深さ方向において精度よく求めることができる。したがって、改質処理等により、表面近傍において元素の結合状態が変化することにより形成される改質層の厚みも精度よく算出することができる。 上記の実施形態によれば、凹部の周縁部の高さと、遮蔽領域の表面の高さと、からスパッタリング深さを算出することにより、測定誤差を小さくすることができる。また、標準試料を貫通させないようにスパッタリングを行うことで、スパッタリング深さを正確に測定することができる。 また、標準試料を構成する有機物の種類は特に制限されないため、深さ方向分析を行う有機物試料と同じ構造を有する有機物を標準試料として用いることで、スパッタリング深さをより正確に求めることができる。すなわち、標準試料を構成する有機物の選択の自由度が高い。(3.変形例) 上記の実施形態では、イオンビームとして、Ar−GCIBを用いたが、他のイオンビームを用いても、スパッタレートを精度よく求めることができる。たとえば、アルゴン単原子イオンビームを用いてもよい。この場合、上述したように、スパッタリングによりミキシング効果が生じるため、結合状態の変化に関する情報を得ることはできない。しかしながら、アルゴン単原子イオンビームを用いても、有機物試料の表面における深さ方向の元素の濃度分布を得ることはできる。 また、上記の実施形態では、有機物試料の表面層は改質層であるが、有機物試料を構成する有機物とは異なる構造を有する物質により形成された層であってもよい。この場合、表面層の厚みを測定する場合には、深さ方向における各結合種の存在割合を評価する必要はなく、深さ方向における元素の濃度分布により評価することができる。 以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。 以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。 (実施例1) まず、深さ方向分析を行う有機物試料として、ポリイミドフィルム(Kapton)を準備した。このポリイミドフィルムの表面にプラズマ処理を行い、改質層を形成した。また、ポリイミドフィルムの表面にプラズマ処理を行う前後に、X線光電子分光装置(アルバック・ファイ(株)製 Versa ProbeII)を用いて、表面のXPS測定を行った。結果を図4に示す。図4(a)は、プラズマ処理前のポリイミドフィルムのXPSスペクトル(炭素の1sスペクトル)を示し、図4(b)は、プラズマ処理後のポリイミドフィルムのXPSスペクトル(炭素の1sスペクトル)を示している。 図4(a)および(b)より、プラズマ処理によって、ポリイミド中のN−C=O結合の割合が減少し、新たにC=O結合が生じて改質層が形成されていることが確認できた。すなわち、改質されていない層に比べると、改質層はN−C=O結合の割合が少なく、C=O結合の割合が多い層であった。 続いて、スパッタレート算出用の標準試料として、有機物試料と同じポリイミドフィルム(Kapton)を準備した。この標準試料を、X線光電子分光装置(アルバック・ファイ(株)製Versa ProbeII)付属の試料ホルダーに両面テープを用いて固定した。その後、標準試料の表面に、約700μm径の穴が形成されたアルミ箔をマスクとして被せ、固定し、スパッタ領域と遮蔽領域とを形成した。 スパッタ領域と遮蔽領域とが形成された標準試料を、試料ホルダーとともに、X線光電子分光装置に挿入し、スパッタ領域の中心付近にX線および電子線測定位置とラスター範囲の中心位置とが位置するように設定した。イオンビームは、Ar−GCIBを用いた。スパッタリング条件は、Emission:20mA、Ionization:150V、Beam:20kV、Extractor:5kV、Focus:76.55%、Objective:44.1%。Magnet:25A、Bend:-292V、Wien Deflection:16.5V、Target Pressure:650kPa、ラスター範囲:2mm×2mmとし、スパッタリングを30分間行った。 スパッタリング後の標準試料を取り出し、アルミ箔を取り外すと、スパッタ領域がスパッタリングされ、凹部が形成されていた。この凹部を、Zygo社製白色干渉計(NewView6200)を用いて、観察倍率2.5倍の条件で測定し、凹部近傍の3次元プロファイルを取得した。得られた3次元プロファイルを図5(a)に示す。続いて、アルミ箔でマスクした部分(遮蔽領域)と、凹部と、の段差を計測し、スパッタリング深さを評価した。計測した段差を図5(b)に示す。段差の測定は、凹部の周縁部において、再現性を確認するため10箇所について行った。結果を表1に示す。 表1より、スパッタリング深さの平均値は801.9±126.8nm(3σ)であることが確認できた。また、スパッタリング深さ(nm)をスパッタリング時間(min)で除算することでスパッタレートを算出した。スパッタレートは26.7±4.2nm/minであった。 次に、プラズマ処理後の有機物試料(改質層が形成されたポリイミドフィルム)について、Ar−GCIBによりスパッタリングをしながら、XPSによる深さ方向分析を行った。スパッタリング条件は、標準試料を用いてスパッタレートを算出した時と同様の条件とした。深さ方向分析後に、スパッタリング時間に対する有機物試料のXPSスペクトルが得られた。得られたXPSスペクトルにおいて、上記で算出されたスパッタレートを用いて、スパッタリング時間からスパッタリング深さに換算したXPSスペクトルを得ることができた。得られたXPSスペクトルを図6に示す。 図6は有機物試料(ポリイミドフィルム)の炭素1sスペクトルの深さ方向プロファイルである。図6より、スパッタリング深さが深くなるほど、N−C=O結合の割合が増加することが確認できた。すなわち、改質層がスパッタリングされ、改質前のポリイミドフィルムの層が露出していることが確認できた。 図7は、図6に示す炭素1sスペクトルの深さ方向プロファイルをカーブフィッティング法により波形分離し、各結合種のピークを求め、各結合種のピーク面積比(%)をスパッタリング深さ(nm)に対してプロットしたグラフである。また、図8は、図7の縦軸を拡大した図である。図8に示す深さ方向プロファイルから、スパッタリング深さが深くなるほど、N−C=O結合のピーク面積比が増加するとともに、プラズマ処理によって生じたC=O結合のピーク面積比が減少することが分かる。 図8より、改質層の厚さを評価した。すなわち、図8におけるC=O結合のピーク面積比の深さ方向分布に着目し、スパッタリング深さが0(有機物試料の表面)における面積比(6.7%)が半分の3.4%まで減少する点を中点とし、その中点に相当するスパッタリング深さを改質層の厚さとした。その結果、改質層の厚さは2.6nmであることが確認できた。 (実施例2) 実施例2では、深さ方向分析を行う有機物試料および標準試料として、ポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、PETフィルムともいう)を用いた。まず、有機物試料としてのPETフィルムに実施例1と同様の方法でプラズマ処理を行い、実施例1と同様にして、プラズマ処理前後の有機物試料(PETフィルム)に対し、表面のXPS測定を行った。結果を図9に示す。図9(a)は、プラズマ処理前のPETフィルムのXPSスペクトル(炭素の1sスペクトル)を示し、図9(b)は、プラズマ処理後のPETフィルムのXPSスペクトル(炭素の1sスペクトル)を示している。 図9より、プラズマ処理によって、C−O結合およびO−C=O結合の割合が減少し、新たにC=O結合が生じ、改質層が形成されていることが確認できた。すなわち、改質されていない層に比べると、改質層はC−O結合およびO−C=O結合の割合が少なく、C=O結合の割合が多い層であった。 続いて、標準試料(PETフィルム)に対し、実施例1と同様にして、スパッタリングを行い、スパッタレートを算出した。スパッタレートは24.5±3.7nm/minであった。 次に、プラズマ処理後の有機物試料(改質層が形成されたPETフィルム)について、実施例1と同様の方法により、深さ方向分析を行った。スパッタリング条件は、標準試料(PETフィルム)を用いてスパッタレートを算出した時と同様の条件とした。深さ方向分析後に、スパッタリング時間に対する有機物試料のXPSスペクトルが得られた。得られたXPSスペクトルにおいて、上記で算出されたスパッタレートを用いて、スパッタリング時間からスパッタリング深さに換算したXPSスペクトルを得ることができた。得られたXPSスペクトルを図10に示す。 図10は有機物試料(PETフィルム)の炭素1sスペクトルの深さ方向プロファイルである。図10より、スパッタリング深さが深くなるほど、O−C=O結合の割合が増加することが確認できた。すなわち、改質層がスパッタリングされ、改質前のPETフィルムの層が露出していることが確認できた。 図11は、図10に示す炭素1sスペクトルの深さ方向プロファイルをカーブフィッティング法により波形分離し、各結合種のピークを求め、各結合種のピーク面積比(%)をスパッタリング深さ(nm)に対してプロットしたグラフである。図11に示す深さ方向プロファイルから、スパッタリング深さが深くなるほど、O−C=O結合のピーク面積比が増加するとともに、プラズマ処理によって生じたC=O結合のピーク面積比が減少することが分かる。 図11より、改質層の厚さを評価した。すなわち、図11におけるO−C=O結合のピーク面積比の深さ方向分布に着目し、改質前のPETフィルムの層が露出し、O−C=O結合のピーク面積比の変化が平坦になった深さにおいて、改質前のPETフィルムの層が露出したと仮定した。そして、その深さにおけるO−C=O結合のピーク面積比(15.1%)の半分の値(7.5%)を中点とし、その中点に該当するスパッタリング深さを改質層の厚さとした。その結果、改質層の厚さは7.0nmであることが確認できた。1…標準試料 11…スパッタ領域 12、12a…遮蔽領域 13、13a…境界 14…凹部3…アルミ箔 4…孔20…イオンビームを走査する範囲(ラスター範囲) 有機物から構成される有機物試料をイオンビームによりスパッタリングしながら深さ方向分析を行う方法であって、 スパッタレートを算出するために用いられ、有機物から構成される標準試料の表面に、前記イオンビームが照射されスパッタリングされるスパッタ領域と、スパッタリングされないように遮蔽する遮蔽領域と、を形成する遮蔽領域形成工程と、 前記スパッタ領域および前記遮蔽領域が形成された前記標準試料を所定のスパッタリング条件で所定時間スパッタリングするスパッタリング工程と、 前記標準試料の深さ方向において、前記遮蔽領域の表面の高さと、前記スパッタ領域が深さ方向にスパッタリングされて形成された凹部の表面の高さと、の差であるスパッタリング深さを測定するスパッタリング深さ測定工程と、 前記スパッタリング深さと前記所定時間とから、スパッタレートを算出するスパッタレート算出工程と、 前記所定のスパッタリング条件と同じスパッタリング条件で前記有機物試料をスパッタリングしながら、深さ方向にX線光電子分光法による測定を行う深さ方向分析工程と、を有し、 前記スパッタリング工程において、前記遮蔽領域と前記スパッタ領域との境界の少なくとも一部が、前記イオンビームを走査する範囲に含まれるようにすることを特徴とする有機物試料の深さ方向分析方法。 前記遮蔽領域は、マスクにより形成されることを特徴とする請求項1に記載の有機物試料の深さ方向分析方法。 前記遮蔽領域と前記スパッタ領域との境界の全部が前記イオンビームを走査する範囲に含まれ、前記スパッタ領域の最大径は前記イオンビームを走査する範囲の最大径の半分以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機物試料の深さ方向分析方法。 前記イオンビームがクラスターイオンビームであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の有機物試料の深さ方向分析方法。 前記有機物試料は、前記有機物試料の表面近傍に含まれる元素の結合状態を変化させて得られる表面層を有しており、 前記有機物試料に含まれる元素の結合状態の深さ方向における変化に基づいて、前記表面層の厚みを評価することを特徴とする請求項4に記載の有機物試料の深さ方向分析方法。 前記スパッタリング深さ測定工程において、前記遮蔽領域の表面の高さと、前記凹部の周縁部の高さと、の差を測定することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の有機物試料の深さ方向分析方法。 前記スパッタリング工程において、前記標準試料を貫通させないように、スパッタリングを行うことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の有機物試料の深さ方向分析方法。 前記有機物試料を構成する有機物の構造と、前記標準試料を構成する有機物の構造と、が同じまたは類似していることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の有機物試料の深さ方向分析方法。 【課題】有機物の標準試料を用いて精度の高いスパッタレートを算出でき、該スパッタレートに基づき、有機物試料の深さ方向分析を精度よく可能な方法を提供する。【解決手段】スパッタレート算出用であり、スパッタ領域とスパッタされないよう遮蔽する遮蔽領域とを有する有機物標準試料を所定のスパッタリング条件で所定時間スパッタリングするスパッタリング工程と、遮蔽領域とスパッタリングされて形成された凹部との差であるスパッタリング深さを測定し、スパッタリング深さと所定時間とからスパッタレートを算出する工程と、所定のスパッタリング条件と同じスパッタリング条件で有機物試料をXPSによる深さ方向分析を行う工程と、を有し、スパッタリング工程では、遮蔽領域12とスパッタ領域11との境界13の少なくとも一部がイオンビームを走査する範囲20に含まれるようにする有機物試料の深さ方向分析方法。【選択図】図2


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