タイトル: | 公開特許公報(A)_耐熱鋼部材の余寿命診断方法 |
出願番号: | 2013129150 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | G01N 33/20 |
新井 将彦 土井 裕之 小林 新一 村田 健一 JP 2015004558 公開特許公報(A) 20150108 2013129150 20130620 耐熱鋼部材の余寿命診断方法 三菱日立パワーシステムズ株式会社 514030104 ポレール特許業務法人 110000350 新井 将彦 土井 裕之 小林 新一 村田 健一 G01N 33/20 20060101AFI20141205BHJP JPG01N33/20 ZG01N33/20 N 4 5 OL 11 2G055 2G055AA03 2G055BA11 本発明は、高温下で使用される耐熱鋼材料の余寿命診断方法に関する。 タービンを構成するロータシャフト、ケーシング、ケーシングボルトなどは、一般に、CrMoV系低合金鋼や12Cr鋼フェライト系ステンレス鋼などを用いて製造されている。この種の高温部材は、一般に300〜600℃程度の高温雰囲気中で長時間にわたって応力負荷を受けると、結晶粒界および粒内に炭化物が析出したり、粒界にボイドが生成したりすることにより劣化してしまう。そのような劣化は、タービンを構成する各部品に亀裂を発生させ、最終的にはタービンの破壊事故へと繋がる可能性がある。そのような事故を未然に防ぐ観点から、あるいはタービンの経済的な運用のために、タービン部品の寿命を的確に診断することは重要である。 高温雰囲気中に長時間晒される高温部材の損傷状態を調べる従来の方法としては、実際に使用されている部材から直接試験片を切り出し、切り出された試験片に対して行う破壊試験があった。近年は、部材を設置したまま損傷状態を評価することができる非破壊試験による診断法も行われている。 特許文献1には、高温で使用される金属材料部材の寿命損傷程度を非破壊的に簡便に測定することを目的として、高温で使用された金属材料部材の硬さと、その使用温度及び時間で無負荷状態で使用された場合の硬さとの差(ΔH)から、既知のΔHとクリープひずみ損傷率との関係に基いて、未知のクリープひずみ損傷率を求める高温部材の寿命予測法が開示されている。 特許文献2には、検査対象の高強度鋼溶接部を含む所定範囲の熱影響を受けた箇所のクリープ伸びに着目し、その測定結果と、運転初期の高強度鋼溶接部を含む所定範囲の長さとを比較してクリープ歪みを求め、予め求めた運転時間又はクリープ寿命消費率とクリープ歪みとの関係を示すクリープ歪み特性曲線に、得られたクリープ歪みの値を当てはめて、検査対象の寿命消費率を求める高強度鋼溶接部のクリープ伸びによる寿命評価方法が開示されている。特公平2−54514号公報特開2008−122345号公報 特許文献1及び2に記載の寿命予測法は、十分な予測精度が得られるとはいいがたいという意味で改善の余地がある。 本発明は、高温下で使用される耐熱材料部材に適用できる、従来よりも精度が高い高温耐熱鋼部材の余寿命診断方法を提供することを目的とする。 本発明は、高温下で使用される耐熱鋼部材の余寿命診断方法であって、耐熱鋼部材を構成する耐熱鋼材料について複数の加熱温度、付加応力及び加熱時間におけるクリープ破断試験及びクリープ中途止め試験から単純加熱材及び損傷部の硬度を実測し、損傷率及び時間温度パラメータを算出し、単純加熱材及び損傷部の硬度と損傷率又は時間温度パラメータとの関係を求める工程と、単純加熱材の硬度と損傷部の硬度との差を算出し、この差と損傷率との関係を求める工程と、実機に組み込む耐熱鋼部材の使用前における初期硬度を実測する工程と、初期硬度に対応する時間温度パラメータの初期値を算出する工程と、実機における使用温度及び使用時間に対応する時間温度パラメータ増分である等価パラメータを算出する工程と、時間温度パラメータの初期値と等価パラメータとの和に対応する単純加熱材の硬度の推定値を算出する工程と、上記の和に対応する損傷部の硬度を算出し、上記の和に対応する上記の差を算出する工程と、上記の和に対応する上記の差からこの差に対応する損傷率を算出する工程と、を含むことを特徴とする。 本発明の診断方法によれば、タービン部材に使用されるような耐熱鋼材料からなる部材の余寿命を簡単な測定で高精度に診断することができる。本発明の方法は、プラントの安全な運用に寄与するものである。損傷率又は時間温度パラメータと、応力負荷加熱材及び単純加熱材の硬度との関係を示すグラフである。損傷率と硬度の差ΔHとの関係を示すグラフである。時間温度パラメータと硬度の関係を示すグラフである。損傷率と損傷部硬度の関係を示すグラフである。耐熱鋼部材の余寿命診断方法の手順の例を示すフロー図である。 本発明は、高温下で使用される耐熱鋼材料の余寿命診断方法に関する。特に、タービンロータシャフト、タービンケーシング、ボルト、ブレード、バルブ、ダイヤフラム及び配管のような高温下で使用されるタービン部材の劣化状態を非破壊的に検出してタービン部材用耐熱鋼材料の余寿命を診断するのに適した余寿命診断方法に関する。 本発明者は、高温下で使用される耐熱材料部材は、高温下で使用される焼戻し効果と、応力負荷によるクリープ損傷が重畳した硬度低下が生じるため、応力の有無による硬度低下量の差と損傷量との関係を材料損傷評価に結び付けることが有効であることに着目した。さらに、硬度の差ΔHを求める際に、実機材料を実測することにより評価可能な損傷部(高温応力負荷)と比較して、単純加熱部(高温応力無負荷)の硬度を推定することが重要であることに着目し、高温下で使用される耐熱鋼部材の余寿命を診断するための新たな診断法を見出した。 本発明の要旨は、以下のとおりである。 (1)高温下で使用される耐熱鋼部材の余寿命診断方法であって、診断対象の耐熱鋼部材を構成する耐熱鋼材料のクリープ試験を行い、寿命時間およびクリープ試験温度から求めた時間温度パラメータ及び損傷部硬度を求める工程と、加熱温度および加熱時間から時間温度パラメータと単純加熱材硬度を求める工程と、損傷率と硬さの差をプロットした寿命診断線図を作成する工程と、硬度の差と損傷率のマスター線図を用いて耐熱鋼部材の余寿命を診断する工程とを含む、前記方法。 (2)実機使用温度を考慮した推定硬さを、診断対象の初期硬度、および時間温度パラメータと単純加熱材硬度のマスター線図から求めた、上記(1)に記載の方法。 (3)高温下で使用される耐熱鋼部材が、タービンロータシャフト、タービンケーシング、ボルト、ブレード、バルブ、ダイヤフラム、配管のような高温下で使用されるタービン部材である、上記(1)または(2)に記載の方法。 (4)耐熱鋼材料が8〜13質量%のCrを含むフェライト系鋳鍛鋼である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。 (5)耐熱鋼材料が1〜3質量%のCrを含むフェライト系鋳鍛鋼である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。 本発明の余寿命診断方法は、高温下で使用される耐熱鋼材料を診断対象とする。ここで、「高温」とは、金属材料がクリープを起こすような温度(一般に0.4Tm(Tm:金属の融点)とされている。)以上を意味する。 本発明の診断方法は、蒸気タービンの最も厳しい温度条件である、例えば600℃以上の高温にかかわらず、300℃以上で使用されるような高温部材の余寿命診断に適している。本明細書において「耐熱鋼部材」には、タービンロータシャフト、タービンケーシング、ボルト、ブレード、バルブ、ダイヤフラム及び配管が含まれる。 本発明が診断対象とする耐熱鋼部材は、例えば各種化学プラントなどにおいても配管やケーシングなどに用いられている、長時間高温下で使用される部材である。タービン用部材の中でも、500℃以上、特に600℃以上の温度で運転される部材は、高温下に晒されるために特に劣化が進みやすく、また、破損により大事故を引き起こす可能性も高い。本発明の診断方法は、そのようなタービン用部材の余寿命を高精度に診断するのに適している。なお、本明細書におけるタービンには、蒸気タービン、ガスタービンその他の高温で運転されるタービンが含まれる。 本発明の余寿命診断方法は、高温下で使用される耐熱鋼部材の余寿命診断方法であって、診断対象の耐熱鋼部材を構成する耐熱鋼材料のクリープ試験を行って、寿命時間およびクリープ試験温度から求めた時間温度パラメータと損傷部硬度を求める工程、加熱温度および加熱時間から時間温度パラメータと単純加熱材硬度を求める工程、損傷率と硬さの差をプロットした寿命診断線図を作成する工程、並びに硬度の差と損傷率のマスター線図を用いて耐熱鋼部材の余寿命を診断する工程を含むものである。 耐熱鋼材料のクリープ試験は、当業者に知られた一般的な方法、例えばJIS Z 2271(金属材料のクリープ及びクリープ破断試験方法)に従い、平行部径6mm又は10mmの丸棒ツバ付き試験片を用いて測定することができる。クリープ試験は、応力および/または試験温度を変えて複数行う。損傷部硬度は、クリープ試験片の平行部断面の測定により求められる。損傷率φcは、破断時間(tr)と破断する前の中途止め時間(t)とから下記計算式(1)で表される。 φc=t/tr …(1) 図1は、損傷率φc又は時間温度パラメータPと、損傷部の硬度(Hu)及び単純加熱部の硬度(Hnu)との関係を示したものである。 本図において、Hnuは、応力がない場合の硬度の変化を示したものであり、焼戻しを行った場合に相当する。一方、Huは、応力を加えた場合の変化を示したものである。横軸が時間の場合は、Huは応力に依存して、温度、応力ごとの曲線となるが、横軸が時間温度パラメータP、あるいは損傷率φcの場合、曲線は温度、応力に依存しない。すなわち、φcとHuとの関係は、1本の曲線で表される。 本図に示すように、横軸の値が等しい場合におけるHnuとHuとの差をΔHと呼ぶ。 図2は、硬度の差ΔHと損傷率φcとの関係について低次の近似式(できるだけ直線近似が望ましい。)で表したものである(これを「マスター線図」と呼ぶ。)。 本図に示すように、φcが所定値以下の領域では、ΔHと損傷率φcとの関係は、比例関係となる(比例定数はαとする。)。 本図によれば、ΔHからφcを求めることができるため、耐熱鋼材料の寿命診断が可能となる。 本発明において時間温度パラメータとは、クリープ破断時間の推定において短時間の試験結果から長時間挙動を推定するために一般に用いられているパラメータ(P)をいう。主な時間温度パラメータとしては、Orr−Sherby−Dorn(オル・シャービー・ドーン)、Larson−Miller(ラルソン・ミラー)およびManson−Haferd(マンソン・ハファード)のパラメータが挙げられる。 時間温度パラメータは、試験応力に対してプロットした際に所定の関数(好ましくは直線状の関数)により近似できるように、診断対象となる耐熱鋼材料などに応じて適宜選択することができる。例えば、下記計算式(2)で表されるラルソンミラーパラメータは、本発明の診断方法に好適に適用することができる。 P=(log(t)+C)×T …(2) 式中、tは時間、Cはパラメータ定数、Tはクリープ試験温度である。 ラルソンミラーパラメータは、特にフェライト系鋳鍛鋼からなる耐熱鋼材料に好適である。 図3は、硬度Hに対して加熱時間温度パラメータ(ラルソンミラーパラメータ)をプロットし、プロットした点を近似する関数を求め、その曲線を描いたものである。 本発明の特徴である初期硬度(実機に組み込む前記耐熱鋼材料の使用前における初期硬度)を考慮した単純加熱硬度の推定は、(i)初期硬度H0に対応した図中のP0から単純加熱を焼戻しの追加と捉えると、上記計算式(2)から求められる等価パラメータPeq(Teq,teq)を加算し、(ii)パラメータ値P(Teq,t0+teq)から(iii)推定硬度Heva(単純加熱材の硬度の推定値)が求められる。ここで、t0は、Teq,P0に対応する時刻である。 初期硬度を考慮せず、使用時間加熱温度のみのパラメータ値から求めた一義的なマスター線図から硬度推定をすると、初期硬度が高い場合は実際の硬度よりも低く評価することになり、硬度差ΔHが小さくなり、危険側の余寿命診断になってしまう。寿命診断線を耐熱鋼材料ごとに実験的に求めておけば、初期硬度を考慮して得られた推定硬度により、耐熱鋼部材の余寿命を簡単に診断することができる。 耐熱鋼部材の余寿命診断に使用する硬度Hは、例えば化学プラントやタービンなどにおいて運転を停止して行う定期点検時などに、対象となる部材を測定することにより求めることができる。 図5は、上述の耐熱鋼部材の余寿命診断方法の手順をまとめて示すフロー図である。 本図においては、まず、複数の加熱温度及び加熱時間におけるクリープ破断試験及びクリープ中途止め試験から単純加熱材及び損傷部の硬度を実測する(S501)。その結果を用いて、損傷率(φc)及び時間温度パラメータ(P)を算出する(S502)。そして、単純加熱材及び損傷部の硬度と損傷率又は時間温度パラメータとの関係を示すグラフ(図1)を作成する(S503)。 単純加熱材の硬度と損傷部の硬度との差(ΔH)を算出し、当該差(ΔH)と損傷率(φc)との関係を示すマスター線図(図2)を作成する(S504)。 実機に組み込む耐熱鋼部材の使用前における初期硬度(H0)を実測する(S505)。 初期硬度(H0)に対応する時間温度パラメータの初期値(P0)を算出する(S506)。実機における使用温度(T)及び使用時間(t)に対応する時間温度パラメータ増分である等価パラメータ(ΔP)を算出する(S507)。初期値(P0)と等価パラメータ(ΔP)との和(P(Teq,t0+teq))に対応する単純加熱材の硬度の推定値(Heva)を算出する(S508)。なお、S506〜S508は、図3に示す手順である。 和(P(Teq,t0+teq))に対応する損傷部の硬度をグラフから算出する(S509)。和(P(Teq,t0+teq))に対応する硬度の差(ΔH)を算出する(S510)。和(P(T,t−t0))に対応する硬度の差(ΔH)から、ΔHに対応する損傷率(φc)を算出する(S511)。S511は、図2を用いるものである。 図5に示す手順は、本発明の望ましい実施形態の例を示したものであるが、本発明は、この例に限定されるものでなく、グラフやマスター線図等を用いなくてもよい。言い換えると、線図等を用いなくても、数値計算を順次進めることにより実施することができる。数値計算は、プログラムを作成し、これをコンピュータに実行させてもよい。また、このプログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体に記録してもよい。 本発明の診断方法が対象とする耐熱鋼材料は、特に制限されるものではない。1〜3%のCrを含むCrMo系鋳鍛鋼若しくはCrMoV系鋳鍛鋼、又は8〜13%のCrを含む高Cr鋳鍛鋼に適用可能であり、例えば、高温下で使用される耐熱鋼材料としては、Cを0.05〜0.20質量%(好ましくは0.09〜0.15質量%)、Siを0.2質量%以下(好ましくは0.15質量%以下)、Mnを0.01〜1.5質量%(好ましくは0.1〜0.7質量%、より好ましくは0.35〜0.65質量%)、Niを0.005〜0.60質量%(好ましくは0.01〜0.50質量%、より好ましくは0.1〜0.4質量%)、Crを8.0〜13.0質量%(好ましくは9.0〜12.0質量%)、Moを0.05〜2.0質量%(好ましくは0.05〜1.5質量%)、Wを0.2〜5.0質量%(好ましくは0.3〜3.0質量%)、Vを0.05〜0.30質量%(好ましくは0.15〜0.30質量%)、NbおよびTaの少なくとも一つを0.01〜0.20質量%(好ましくは0.04〜0.15質量%)、Coを3質量%以下、Nを0.01〜0.1質量%(好ましくは0.01〜0.04質量%)、Bを0.0001〜0.030質量%(好ましくは0.005〜0.025質量%)、Alを0.0005〜0.04質量%含むフェライト系鋳鍛鋼が特に好ましい。 Cは、焼入性を確保し、焼戻し過程でM23C6型炭化物を析出させて高温強度を高めるために不可欠の元素であり、最低0.05質量%を必要とする。しかし、0.20質量%を越えると、M23C6型炭化物が過度に析出し、マトリックス強度が低下し、長時間側の高温強度を損なう。よって、0.05〜0.20質量%とすることが好ましい。特に、0.09〜0.15質量%とすることが好ましい。 Siは、ラーベス相の生成を促し、粒界偏析等により延性を低下させるので、0.20質量%以下、特に0.15質量%以下に制限することが好ましい。しかし、Siは、脱酸剤として0.01質量%以上の極めて微量加えることによって、後述のAl脱酸との関係から良好な高温特性が得られるものである。 Mnは、δフェライトの生成を抑制し、M23C6型炭化物の析出を促進する元素として最低0.01質量%は必要であるが、1.5質量%を越えると耐酸化性を劣化させる。よって、0.01〜1.5質量%、特に0.1〜0.7質量%、とりわけ0.35〜0.65質量%とすることが好ましい。 Niは、δフェライトの生成を抑制し、靭性を付与する元素であり、最低0.005質量%必要であるが、0.60質量%を越えると高温強度を低下させる。よって、0.005〜0.60質量%、特に0.01〜0.50質量%、とりわけ0.1〜0.50質量%とすることが好ましい。 Crは、耐酸化性を付与し、M23C6型炭化物を析出させて高温強度を高めるために不可欠の元素であり、最低8.0質量%必要であるが、13.0質量%を越えるとδフェライトを生成して高温強度および靭性を低下させる。よって、8.0〜13.0質量%とすることが好ましい。特に、9.0〜12.0質量%とすることが好ましい。 Moは、M23C6型炭化物の微細析出を促進し、凝集を妨げる作用があり、このため高温強度を長時間保持するのに有効であり、最低0.05質量%必要であるが、2.0質量%以上になるとδフェライトを生成し易くする。よって、0.05〜2.0質量%とすることが好ましい。特に、0.05〜1.5質量%とすることが好ましい。 Wは、Mo以上にM23C6型炭化物の凝集粗大化を抑制する作用が強く、また、マトリックスを固溶強化するので高温強度の向上に有効であり、最低0.2質量%必要であるが、5.0質量%を越えるとδフェライトやラーベス相を生成しやすくなり、逆に高温強度を低下させるので、0.2〜5.0質量%とすることが好ましい。特に、0.3〜3.0質量%とすることが好ましい。 Vは、Vの炭窒化物を析出して高温強度を高めるのに有効であり、最低0.05質量%を必要とするが、0.3質量%を越えると、炭素を過度に固定し、M23C6型炭化物の析出量を減じ、逆に高温強度を低下させる。よって、0.05〜0.3質量%とすることが好ましい。特に、0.15〜0.30質量%とすることが好ましい。 Nb及びTaは、NbCやTaCを生成して結晶粒の微細化に役立ち、また、一部は焼入れの際に固溶し、焼戻し過程でNbCやTaCを析出し、高温強度を高める作用があり、最低0.01質量%必要であるが、0.20質量%を越えると、Vと同様炭素を過度に固定してM23C6型炭化物の析出量を減少し、高温強度の低下を招く。よって、0.01〜0.20質量%とすることが好ましい。特に、0.04〜0.15質量%とすることが好ましい。 Coは、δフェライトの生成を抑制する効果があり、また、固溶強化によって高温強度を上げる作用がある。しかし、高価な元素であるため、上限を3質量%程度とすることが好ましい。600℃以上で使用する場合には、1.0質量%以上含むことが有効である。 Nは、Vの窒化物を析出したり、また、固溶した状態でMoやWと共同でIS効果(侵入型固溶元素と置換型固溶元素の相互作用)により高温強度を高めたりする作用があり、最低0.01質量%は必要であるが、0.1質量%を越えると延性を低下させる。よって、0.01〜0.1質量%とすることが好ましい。特に、0.01〜0.04質量%とすることが好ましい。 Bは、粒界強化作用と、M23C6中に固溶してM23C6型炭化物の凝集粗大化を妨げる作用により高温強度を高める効果を有し、最低0.0001質量%添加すると有効である。しかし、0.030質量%を越えると、靭性が低下し、鍛造性を害する。よって、0.0001〜0.030質量%とすることが好ましい。特に、0.0005〜0.025質量%とすることが好ましい。 Alは、脱酸剤及び結晶粒微細化剤として0.0005質量%以上添加することが好ましい。しかし、Alは、強窒化物形成元素であり、クリープに有効に働く窒素を固着することにより、特に0.040質量%を越えると長時間クリープ強度を低下させる要因となる。したがって、その上限値は0.040質量%とすることが好ましい。また、Alは0.001〜0.030質量%とすることが特に好ましい。 以下、実施例を用いて本発明について更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。 1.寿命診断線図の作成 まず、耐熱鋼材のクリープ試験を行い、破断試験及び中途止め試験の結果から、上記計算式(1)で求められる損傷率φcと硬度Hとの関係を示すグラフを作成した。耐熱鋼材料の化学組成は、表1のとおりである。 原料をエレクトロスラグ再溶解法により溶解し、熱間鍛造により試料を作製した。試料は、焼入れ(1100℃×1時間、油冷)後、焼戻し(700℃×4時間、空冷)を行った。この試料から複数のクリープ試験片を採取した。 図4は、クリープ破断試験及びクリープ中途止め試験から求めた損傷部の硬さ(損傷部硬度)及び損傷率について、これらの関係を示したものである。 次に、570℃、600℃、625℃又は650℃の雰囲気下で、複数保持時間で単純加熱を行い、単純加熱材の時間温度パラメータと硬さとの関係を示す図3を求めた。 図3及び図4から、対応するパラメータにおける硬さの差ΔHを求め、損傷率と硬さ(硬度)の差ΔHとの関係を示す寿命診断線図を求めた(図2)。 2.寿命診断線図を用いた耐熱鋼部材の評価 図3を用いて、初期硬度H0の場合における使用条件に対応した推定硬度Hevaを以下のようにして算出した。 まず、H0に対応したパラメータP0を求めた(i)。つぎに、上記計算式(2)で算出した等価パラメータをP0に加算し、パラメータ値P(Teq,t0+teq)を算出した(ii)。このP(Teq,t0+teq)から推定硬度Hevaを求めた(iii)。 つぎに、実機の損傷部の硬度Huを測定した。HuとHevaとから硬度の差ΔHを求め、図2の寿命診断線図を用いて耐熱鋼部材の余寿命診断を行った。 その結果、損傷率は、約40%と診断され、未だ寿命は過ぎていないと診断された。 高温下で使用される耐熱鋼部材の余寿命診断方法であって、前記耐熱鋼部材を構成する耐熱鋼材料について複数の加熱温度、付加応力及び加熱時間におけるクリープ破断試験及びクリープ中途止め試験から単純加熱材及び損傷部の硬度を実測し、損傷率及び時間温度パラメータを算出し、前記単純加熱材及び前記損傷部の硬度と前記損傷率又は前記時間温度パラメータとの関係を求める工程と、前記単純加熱材の硬度と前記損傷部の硬度との差を算出し、前記差と前記損傷率との関係を求める工程と、実機に組み込む前記耐熱鋼部材の使用前における初期硬度を実測する工程と、前記初期硬度に対応する前記時間温度パラメータの初期値を算出する工程と、前記実機における使用温度及び使用時間に対応する時間温度パラメータ増分である等価パラメータを算出する工程と、前記初期値と前記等価パラメータとの和に対応する前記単純加熱材の硬度の推定値を算出する工程と、前記和に対応する前記損傷部の硬度を算出し、前記和に対応する前記差を算出する工程と、前記和に対応する前記差からこの差に対応する前記損傷率を算出する工程と、を含むことを特徴とする耐熱鋼部材の余寿命診断方法。 前記耐熱鋼部材は、タービンロータシャフト、タービンケーシング、ボルト、ブレード、バルブ、ダイヤフラム又は配管であることを特徴とする請求項1記載の余寿命診断方法。 前記耐熱鋼材料は、8〜13質量%のCrを含むフェライト系鋳鍛鋼であることを特徴とする請求項1又は2に記載の余寿命診断方法。 前記耐熱鋼材料は、1〜3質量%のCrを含むフェライト系鋳鍛鋼であることを特徴とする請求項1又は2に記載の余寿命診断方法。 【課題】精度が高い高温耐熱鋼部材の余寿命診断方法を提供する。【解決手段】クリープ破断試験及びクリープ中途止め試験から単純加熱材及び損傷部の硬度を実測し、損傷率及び時間温度パラメータを算出し、硬度と損傷率又は時間温度パラメータとの関係を求める工程と、単純加熱材の硬度と損傷部の硬度との差を算出し、この差と損傷率との関係を求める工程と、耐熱鋼部材の使用前における初期硬度を実測する工程と、初期硬度に対応する時間温度パラメータの初期値を算出する工程と、使用温度及び使用時間に対応する時間温度パラメータ増分である等価パラメータを算出する工程と、時間温度パラメータの初期値と等価パラメータとの和に対応する単純加熱材の硬度の推定値を算出する工程と、上記の和に対応する損傷部の硬度を算出し、上記の和に対応する上記の差を算出する工程と、上記の和に対応する上記の差からこの差に対応する損傷率を算出する工程と、を行う。【選択図】図5