タイトル: | 公開特許公報(A)_パラアミノ安息香酸の生産方法 |
出願番号: | 2013125098 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | C12P 13/00,C12N 15/09 |
岡井 直子 近藤 昭彦 荻野 千秋 樋田 幸三 増田 敬哉 佐藤 嘉弘 駒 大輔 大本 貴士 山中 勇人 酒井 清文 JP 2015000015 公開特許公報(A) 20150105 2013125098 20130613 パラアミノ安息香酸の生産方法 国立大学法人神戸大学 504150450 帝人株式会社 000003001 地方独立行政法人 大阪市立工業研究所 508114454 進藤 卓也 100163647 中道 佳博 100182084 岡井 直子 近藤 昭彦 荻野 千秋 樋田 幸三 増田 敬哉 佐藤 嘉弘 駒 大輔 大本 貴士 山中 勇人 酒井 清文 C12P 13/00 20060101AFI20141202BHJP C12N 15/09 20060101ALN20141202BHJP JPC12P13/00C12N15/00 A 11 OL 32 4B024 4B064 4B024AA03 4B024BA07 4B024CA06 4B024DA05 4B024DA06 4B024DA08 4B024EA04 4B024FA01 4B024GA11 4B024HA01 4B064AE01 4B064CA19 4B064CC24 4B064DA16 本発明は、パラアミノ安息香酸の生産方法に関する。より詳細には、微生物を用いて、パラアミノ安息香酸を効率よく生産するための方法に関する。 パラアミノ安息香酸(p−アミノ安息香酸または「PABA」、あるいは4−アミノ安息香酸とも呼ばれる)は、繊維・プラスチック原料として有用性が大きく期待される。しかし、従来のパラアミノ安息香酸の生産方法は、石油を原料とした化学法によるものであった。 PABAは、微生物における葉酸の生合成の中間体として知られている。PABAの微生物中のその役割および生合成経路について、種々の研究が進められている(非特許文献1〜7)。PABAは、微生物が保有するシキミ酸経路にて合成され得るコリスミ酸から合成される。例えば、大腸菌(Escherichia coli)において、コリスミ酸から4−アミノ安息香酸の変換において、pabAとpabBと称される2つの遺伝子が関与することが示されている(非特許文献2)。ストレプトマイセス・グリセウス(Streptomyces griseus)において、パラアミノ安息香酸シンターゼ(PABAシンターゼ)が、コリスミ酸から4−アミノ安息香酸の変換を触媒することが示されている(非特許文献3)。さらに、コリスミ酸からのPABAの合成には、パラアミノ安息香酸シンターゼ(PABAシンターゼ)に加えて、さらなる酵素4−アミノ−4−デオキシコリスミ酸リアーゼの作用が関与することが報告されている(非特許文献4〜7)。 PABAシンターゼは、2つの異種サブユニットからなる複合体であり、PabABとも称される。大腸菌においては、これらのサブユニットPabAおよびPabBをコードするそれぞれ遺伝子が、別個に発現されている(非特許文献4および5)。放線菌においては、複合体の形態のPabABをコードする遺伝子が発現されている(非特許文献6および7)。 PABAシンターゼを過剰発現するように形質転換酵母を作出した、PABAの生産に関する研究が報告されている(非特許文献8)。Journal of Biotechnology,1951年,62巻,221-230頁Journal of Biotechnology,1970年,102巻,767-773頁Journal of General Microbiology,1985年,131巻,1279-1287頁Proc. Natl. Acad. Sci., USA,1990年,87巻,9391-9395頁The Journal of Biological Chemistry,1989年,264巻,8597-8601頁Microbiology,1996年,142巻,1345-1355頁Microbiology,2001年,147巻,2113-2126頁Journal of Biotechnology,2013年,163巻,184-193頁 本発明は、生物による安全な方法で、効率よくパラアミノ安息香酸を生産する方法を提供することを目的とする。 本発明は、パラアミノ安息香酸を生産する方法であって、 パラアミノ安息香酸シンターゼを発現または発現増強するように形質転換された微生物を、炭素基質を含む培地において培養する工程を含む、方法を提供する。 1つの実施形態では、上記パラアミノ安息香酸シンターゼを発現または発現増強するように形質転換された微生物は、PabAB複合体タンパク質をコードする遺伝子を導入して得られた形質転換微生物、またはPabAタンパク質およびPabBタンパク質をそれぞれコードする遺伝子を共導入して得られた形質転換微生物である。 1つの実施形態では、上記形質転換微生物は、PabCタンパク質をコードする遺伝子をさらに導入して得られた形質転換微生物である。 1つの実施形態では、上記形質転換微生物は原核生物である。 1つの実施形態では、上記原核生物が細菌である。 1つの実施形態では、上記細菌は、エシェリキア属に属する細菌である。 1つの実施形態では、上記細菌は、大腸菌である。 1つの実施形態では、上記細菌は、放線菌類に属する細菌である。 1つの実施形態では、上記細菌は、ストレプトマイセス・リビダンスである。 1つの実施形態では、上記培地は、単糖、二糖、およびグリセロールからなる群より選択される少なくとも1つの炭素基質を含む。 1つの実施形態では、上記単糖は、グルコース、フルクトース、ガラクトース、キシロース、およびアラビノースからなる群より選択される少なくとも1つの糖である。 本発明によれば、微生物発酵を利用することで、パラアミノ安息香酸を生物による安全な方法で、効率よく生産することが可能となる。本願発明の方法においては、特に大腸菌またはストレプトマイセス・リビダンスを宿主微生物として用いる場合、グルコースなどの単糖、マルトースなどの二糖などのバイオマス由来の糖類に加えて、グリセロールなどのバイオマス由来の化合物を原料として用いることができる。PABA−9株(A)およびPABA−25株(B)の発酵培養の間のグルコースおよび発酵生産物の経時変化を示すグラフである。PABA−24株を用いた第1の培養(A)および第2の培養(B)におけるグルコースおよび発酵生産物の経時変化を示すグラフである。ストレプトマイセス・リビダンス(SACE4036)株のHPLCのクロマトグラムである。ストレプトマイセス・リビダンス(SACE4036)株およびコントロールのストレプトマイセス・リビダンス株について、炭素基質として5%(w/v)グルコースを添加したTSB培地で培養した発酵における培養上清中のPABA濃度(mM)の経日変化を示すグラフである。炭素基質として、グルコース(A)、マルトース(B)、スクロース(C)、フルクトース(D)、グリセロール(E)、ガラクトース(F)、アラビノース(G)、セロビオース(H)およびキシロース(I)を用いた場合について、ストレプトマイセス・リビダンス(SACE4036)株およびコントロールのストレプトマイセス・リビダンス株のそれぞれの培養による発酵における培養上清中のPABA濃度(mM)の経日変化を示すグラフである。 本発明は、パラアミノ安息香酸を生産する方法を提供する。この方法は、パラアミノ安息香酸シンターゼを発現または発現増強するように形質転換された微生物を、炭素基質を含む培地において培養する工程を含む。 パラアミノ安息香酸シンターゼ(p−アミノ安息香酸シンターゼまたは「PABAシンターゼ」ともいう)は、コリスミ酸から4−アミノ−4−デオキシコリスミ酸への生成を触媒する活性を有する酵素である。パラアミノ安息香酸シンターゼは、PabABとも称される複合体タンパク質であり、2つのサブユニットであるPabAおよびPabBを有する。パラアミノ安息香酸シンターゼは、由来微生物に依存して、PabAタンパク質とPabBタンパク質とが融合したPabAB複合体タンパク質として、またはPabAタンパク質およびPabBタンパク質のそれぞれの単一ユニットの形態にて存在し得る。PabAタンパク質は、グルタミンアミドトランスフェラーゼ活性を有し、グルタミンからアンモニアを発生させ得、PabBタンパク質は、コリスミ酸へアンモニアをアミノ基として挿入させ得る。 PabAB、PabA、およびPabBは、上記の酵素活性(触媒作用)を奏する限り、異なる名称で知られるタンパク質であってもよい。例えば、PabAとしてTrpGタンパク質(アントラニル酸シンターゼTrpEGの一方のサブユニット)、PabBとしてTrpEタンパク質(アントラニル酸シンターゼTrpEGの他方のサブユニット)を用いてもよく、本明細書中で「PabA」、「PabB」という場合は、これらもまた包含する。本明細書中で「PabAB」という場合は、PabAとPabBとの組み合わせ、TrpGとPabBとの組み合わせ、PabAとTrpEとの組み合わせ、およびTrpGとTrpEとの組み合わせを包含する。 パラアミノ安息香酸シンターゼを発現または発現増強するように形質転換された微生物は、PabABタンパク質をコードする遺伝子を宿主微生物に導入して得られた形質転換微生物であってもよく、またはPabAタンパク質およびPabBタンパク質をそれぞれコードする遺伝子を共導入して得られた形質転換微生物であってもよい。本明細書中では、それぞれPabABタンパク質、PabAタンパク質およびPabBタンパク質をコードする遺伝子を、pabAB、pabA、およびpabBともいう。 「導入」とは、ポリヌクレオチドまたは発現ベクター中の発現を目的とする遺伝子が宿主細胞に導入されるだけでなく、宿主細胞で発現されることも含む。「形質転換」は、細胞の中に遺伝子またはDNAを導入して発現させることにより宿主の遺伝的形質を変えること、またはその操作をいう。遺伝子導入によるその酵素の「発現」または「発現増強」は宿主に依存し得、「発現」は、本来その遺伝子を保有していない宿主に遺伝子を導入することで、形質転換微生物が酵素活性を有するようになることをいい、「発現増強」は、その遺伝子を保有する宿主に遺伝子を(好ましくは過剰発現するように)導入することで、形質転換微生物にて酵素活性を増強させることをいうが、これらは厳密に区別される必要はない。 1つの実施形態では、上記パラアミノ安息香酸シンターゼは、エシェリキア属(Escherichia)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)、ロドコッカス属(Rhodococcus)、コクリア属(Kocuria)、バチルス属(Bacillus)、オーシャンバチルス属(Oceanobacillus)、シュードモナス属(Pseudomonas)、ストレプトマイセス属(Streptomyces)、サッカロポリスポラ属(Saccharopolyspora)などからなる群より選択される属に属する微生物に由来する。 1つの実施形態では、上記パラアミノ安息香酸シンターゼは、大腸菌(Escherichia coli)、コリネバクテリウム・エフィシエンス(Corynebacterium efficiens)、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)、コクリア・リゾフィラ(Kocuria rhizophila)、バチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)、シュードモナス・フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、オーシャンバチルス・イヘヤエンシス(Oceanobacillus iheyensis)、ストレプトマイセス・グリセウス(Streptomyces griseus)、ストレプトマイセス・アベルミチリス(Streptomyces avermitilis)、ストレプトマイセス・ヴェネズエラ(Streptomyces venezuelae)、ストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)、サッカロポリスポラ・エリスレア(Saccharopolyspora erythraea)などからなる群より選択される微生物に由来する。コリネバクテリウム・グルタミカムとしては、ATCC13032株、R株、およびSYPS−062株のいずれに由来するものでもよい。 パラアミノ安息香酸シンターゼに関する遺伝子としては、例えば、大腸菌由来pabA(GenBank/NCBI Accession No.(以下、「遺伝子登録番号」ともいう)AAA58157.1)およびpabB(遺伝子登録番号AAC74882.1)、コリネバクテリウム・エフィシエンスpabAB(遺伝子記号CE1059、遺伝子登録番号BAC17869.1)、ロドコッカス・エリスロポリスpabAB(遺伝子登録番号BAH32556.1)、コクリア・リゾフィラpabAB(遺伝子記号KRH_23130、遺伝子登録番号BAG30660.1)、バチルス・スブチリスpabA(遺伝子登録番号CAB11851.1))およびpabB(遺伝子登録番号CAB11850.1)、シュードモナス・フルオレセンスtrpG(遺伝子登録番号AAY94816.1)およびpabB(遺伝子記号PFL_1856、遺伝子登録番号AAY91144.1)、シュードモナス・プチダtrpG(遺伝子登録番号AAN66050.1)およびpabB(遺伝子登録番号AAN67942.1)、オーシャンバチルス・イヘヤエンシスpabA(遺伝子記号OB0701、遺伝子登録番号BAC12657.1)およびpabB(遺伝子記号OB0702、遺伝子登録番号BAC12658.1)、ストレプトマイセス・アベルミチリスpabAB(遺伝子番号SAV1178)、ストレプトマイセス・ヴェネズエラpabAB(遺伝子番号SVEN0920)、サッカロポリスポラ・エリスレアpabAB(遺伝子番号SACE4036)などが挙げられる。 上記パラアミノ安息香酸シンターゼを発現または発現増強するように形質転換された微生物は、PabCタンパク質をコードする遺伝子をさらに導入して得られた形質転換微生物であってもよい。PabCタンパク質は、アミノデオキシコリスミ酸リアーゼであり、アミノデオキシコリスミ酸リアーゼは、4−アミノ−4−デオキシコリスミ酸からピルビン酸を脱離し、PABAへの生成を触媒する活性を有する酵素である。PabCタンパク質をコードする遺伝子をさらに宿主微生物に導入することにより、アミノデオキシコリスミ酸リアーゼを発現または発現増強し得る。1つの実施形態では、アミノデオキシコリスミ酸リアーゼは、エシェリキア属、ストレプトマイセス属、サッカロポリスポラ属などからなる群より選択される属に属する微生物に由来する。1つの実施形態では、アミノデオキシコリスミ酸リアーゼは、大腸菌、ストレプトマイセス・グリセウス、ストレプトマイセス・アベルミチリス、ストレプトマイセス・セリカラー、サッカロポリスポラ・エリスレアなどからなる群より選択される微生物に由来する。アミノデオキシコリスミ酸リアーゼに関する遺伝子としては、例えば、大腸菌由来pabC(遺伝子登録番号AAC74180.1)、ストレプトマイセス・グリセウス由来pabC2(遺伝子番号SGR6036)およびpabC1(遺伝子番号SGR6331)、ストレプトマイセス・アベルミチリス由来pabC2(遺伝子番号SAV6852)およびpabC1(遺伝子番号SAV1563)、サッカロポリスポラ・エリスレア由来pabC(遺伝子番号SACE7111)などが挙げられる。 また、微生物が通常有するグルコース代謝経路において生成されるホスホエノールピルビン酸からシキミ酸経路に分岐するために作用する酵素をさらに発現または発現増強するように、宿主微生物を形質転換してもよい。このような酵素として、例えば、大腸菌においては、D−アラビノヘプツロン酸7リン酸シンターゼ(DAHP)を用いることができ、そのコードする遺伝子は、例えば、aroF(遺伝子登録番号AAC75650)である。1つの実施形態では、上記パラアミノ安息香酸シンターゼを発現または発現増強するように形質転換された微生物は、このような酵素をコードする遺伝子をさらに導入して得られた形質転換微生物であってもよい。1つの実施形態では、上記パラアミノ安息香酸シンターゼを発現または発現増強するように形質転換された微生物は、このような酵素をコードする遺伝子を、PabCタンパク質(アミノデオキシコリスミ酸リアーゼ)をコードする遺伝子とともに導入して得られたものであってもよい。 本発明においては、宿主微生物は特に限定されない。シキミ酸経路を有する微生物が好ましい。1つの実施形態では、宿主微生物は原核生物である。1つの実施形態では、上記原核生物は細菌である。1つの実施形態では、上記細菌は、エシェリキア属に属する細菌であり、例えば、大腸菌である。別の実施形態では、上記細菌は、放線菌類に属する細菌であり、例えば、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)である。 各酵素をコードする遺伝子は、宿主微生物において内因性であってもよいし、外因性であってもよい。また、公知のこれらの酵素をコードする遺伝子を適宜利用することができ、上述に例示した酵素およびコードする遺伝子に限定されない。遺伝子としては、由来を問わないで利用することができる。すなわち、遺伝子は、上記以外に、動物、植物、真菌(カビなど)、細菌などの生物に由来するものであってもよい。こうした遺伝子に関する情報は、当業者であれば、各種遺伝子データベース(例えば、NCBIなど。放線菌の場合、ストレプトマイセス・セリカラーA3(2)ゲノム情報(GenBank/NCBI Accession No.:PRJNA57801,PRJNA242)、ストレプトマイセス・グリセウス グリセウス亜種(Streptomyces griseus subsp.griseus)NBRC13350ゲノム情報(GenBank/NCBI Accession No.:PRJNA58983,PRJDA20085)、ストレプトマイセス・アベルミチリスMA−4680ゲノム情報(GenBank/NCBI Accession No.PRJNA57739,PRJNA189)、サッカロポリスポラ・エリスレアNRRL2338ゲノム情報(GenBank/NCBI Accession No.:PRJNA62947,PRJEA18489)、Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes(KEGG、http://www.genome.jp/kegg/)およびGenome Project of Streptomyces avermitilis、http://avermitilis.ls.kitasato-u.ac.jp/に公開されたゲノム情報も利用され得る。)のホームページにアクセスすることにより適宜入手することができる。 本発明で用いられる遺伝子は、各酵素活性を有する限りにおいて、データベースなどにおいて開示される配列情報または本願明細書中に具体的に記載された各種遺伝子の配列と一定の関係を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。このような実施形態としては、開示されたアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、本発明において発現または発現増強しようとする酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。開示されるアミノ酸配列に対するアミノ酸の変異は、すなわち、欠失、置換もしくは付加は、いずれか1種類であってもよいし、2種類以上が組み合わされていてもよい。また、これらの変異の総数は、特に限定されないが、好ましくは、1個以上10個以下程度、より好ましくは、1個以上5個以下である。アミノ酸置換の例としては、各酵素活性を有する限りにおいていずれの置換であってもよいが、例えば、保存的置換が挙げられ、具体的には以下のグループ内での置換が挙げられる:(グリシン、アラニン)(バリン、イソロイシン、ロイシン)(アスパラギン酸、グルタミン酸)(アスパラギン、グルタミン)(セリン、トレオニン)(リジン、アルギニン)(フェニルアラニン、チロシン)。 他の実施形態としては、本発明で用いられる遺伝子は、開示されるアミノ酸配列に対して、例えば、70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ本発明において発現または発現増強しようとする酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。配列同一性は、好ましくは74%以上、より好ましくは78%以上、なおより好ましくは80%以上であり、なおより好ましくは85%以上であり、なおさらに好ましくは、90%以上であり、なおさらにより好ましくは95%以上、なおさらにより好ましくは98%以上である。 本明細書において配列の同一性または類似性とは、当該技術分野で知られているとおり、配列を比較することにより決定される、2以上のタンパク質あるいは2以上のポリヌクレオチドの間の関係である。配列の「同一性」とは、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間のアラインメントによって、あるいは場合によっては、一続きの部分的な配列間のアラインメントによって決定されるような、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間の配列不変性の程度を意味する。また、「類似性」とは、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間のアラインメントによって、あるいは場合によっては、一続きの部分的な配列間のアラインメントによって決定されるような、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間の相関性の程度を意味する。より具体的には、配列の同一性と保存性(配列中の特定アミノ酸または配列における物理化学特性を維持する置換)によって決定される。なお、類似性は、後述するBLASTの配列相同性検索結果においてSimilarityと称される。同一性および類似性を決定する方法は、対比する配列間で最も長くアラインメントするように設計される方法であることが好ましい。同一性および類似性を決定するための方法は、公衆に利用可能なプログラムとして提供されている。例えば、AltschulらによるBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)プログラム(例えば、Altschulら, J. Mol. Biol.,1990,215:403-410;Altschylら,Nucleic Acids Res., 1997,25:3389-3402)を利用し決定することができる。BLASTのようなソフトウェアを用いる場合の条件は、特に限定するものではないが、デフォルト値を用いるのが好ましい。 さらに他の実施形態として、開示される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズする遺伝子が挙げられる。ストリンジェントな条件とは、例えば、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、塩基配列の同一性が高い核酸、すなわち開示される塩基配列と例えば、65%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、なおより好ましくは78%以上、なおより好ましくは80%以上、なおより好ましくは85%以上、なおより好ましくは90%以上、なおより好ましくは95%以上、なおより好ましくは98%以上の同一性を有する塩基配列からなるDNAの相補鎖がハイブリダイズし、それより相同性が低い核酸の相補鎖がハイブリダイズしない条件が挙げられる。より具体的には、ナトリウム塩濃度が例えば、15〜750mM、好ましくは50〜750mM、より好ましくは300〜750mM、温度が25〜70℃、好ましくは50〜70℃、より好ましくは55〜65℃、ホルムアミド濃度が0〜50%、好ましくは20〜50%、より好ましくは35〜45%での条件をいう。さらに、ストリンジェントな条件では、ハイブリダイゼーション後のフィルターの洗浄条件が、ナトリウム塩濃度が例えば、15〜600mM、好ましくは50〜600mM、より好ましくは300〜600mM、温度が50〜70℃、好ましくは55〜70℃、より好ましくは60〜65℃である。さらなる他の実施形態として、開示される塩基配列と例えば、65%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、なおより好ましくは78%以上、なおより好ましくは80%以上、なおより好ましくは85%以上、なおより好ましくは90%以上、なおより好ましくは95%以上、なおより好ましくは98%以上の同一性を有する塩基配列を有し、本発明で発現または発現増強しようとする酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子が挙げられる。 このような遺伝子は、例えば、開示されるまたは公知の塩基配列に基づいて設計したプライマーを用いて、各種生物から抽出したDNA、各種cDNAライブラリーまたはゲノムDNAライブラリー等由来の核酸を鋳型としたPCR増幅を行うことにより、核酸断片として得ることができる。また、上記ライブラリーなどに由来する核酸を鋳型とし、本発明で発現または発現しようとする酵素をコードする遺伝子の一部であるDNA断片をプローブとしてハイブリダイゼーションを行うことにより、核酸断片として得ることができる。あるいは遺伝子は、化学合成法等の当技術分野で公知の各種の核酸配列合成法によって、核酸断片として合成してもよい。 また、遺伝子は、例えば、開示されるまたは公知のアミノ酸の配列をコードするDNAを、慣用の突然変異誘発法、部位特異的変異法、エラープローンPCRを用いた分子進化的手法等によって改変することによって取得することができる。このような手法としては、Kunkel法または Gapped duplex法等の公知手法またはこれに準ずる方法が挙げられ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-K(タカラバイオ株式会社製)やMutant-G(タカラバイオ株式会社製))などを用いて、あるいは、タカラバイオ株式会社のLA PCR in vitro Mutagenesisシリーズキットを用いて変異が導入される。 遺伝子は、宿主微生物での発現を最適にするように、コドンが最適化されてもよい。コドンの最適化は、当業者が通常用いる任意の手段、装置を用いて実施され得る。 宿主微生物において、酵素またはタンパク質をコードする遺伝子の発現が増強されている形態は特に限定されない。これら遺伝子の発現を増強する改変が行われる前に比べて、これらのタンパク質の生産量または活性の増大、あるいは、後述するようにPABA生産能力の増強が確認されればよい。遺伝子の発現が増強されている実施形態としては、例えば、内因性のいずれかの遺伝子がより強力なプロモーター(構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターのいずれであってもよい)の制御下に連結された実施形態が挙げられる。また、追加的に内因性および/または外因性のいずれかの遺伝子が導入されている実施形態が挙げられる。追加的に導入されたいずれかの遺伝子は好ましくは構成的プロモーターなど強力なプロモーターで作動可能に保持されている。発現の増強について、本明細書中においては「過剰発現」ともいう。 また、これらの遺伝子のいずれかの遺伝子の発現が増強されている実施形態としては、いずれかの遺伝子の複数コピーが発現可能に保持されている実施形態が挙げられる。この場合、コピー数は特に限定しないが、2以上であることが好ましい。 遺伝子またはDNAの導入、または形質転換のための方法は、形質転換を行う宿主微生物に応じて適宜選択され、当業者が通常用いる手法が用いられ得る。宿主微生物の種類に依存して、ファージ、コスミド、プラスミドなどのベクターの宿主微生物への導入による遺伝子の導入、宿主微生物の染色体DNAへの遺伝子の挿入、宿主微生物の遺伝子と相同組換えを起こして染色体DNAに取り込ませるなどの方法が用いられ得る。エレクトロポレーション法、塩化カルシウム法、プロトプラスト融合法、接合伝達法などが挙げられる。形質転換用に市販されているキットを用いて行うことができる。大腸菌に関しては、「λ−ファージのRed組換え酵素、酵母のフリパーゼ、およびP1ファージを用いた手法」(Komaら,Appl. Microbiol. Biotechnol.,2012年,93巻,815-829頁)が好ましく用いられ得る。 遺伝子を用いて遺伝子発現カセットを構築し得る。遺伝子発現カセットは、その遺伝子の発現を調節するプロモーター、ターミネーター、オペレーター、エンハンサーなどのいわゆる調節因子を含み得る。調節因子は、発現させる遺伝子自身のものであっても、他の遺伝子由来のものであってもよく、当業者によって適宜選択され得る。プロモーターとしては、大腸菌の場合は、例えば、T7プロモーターなどを用いることができ、放線菌の場合は、例えば、ホスホリパーゼD(PLD)プロモーター(特に、Streptoverticillium cinnamoneum(ストレプトベティシリウム・シナモネウム)由来のPLDプロモーター:Oginoら,Appl. Microbiol. Biotechnol.,2004年,64(6)巻,823-828頁)などを用いることができる。発現カセットは、遺伝子発現の目的に応じて、必要な機能配列(例えば、シャイン・ダルガルノ配列(SD配列))をさらに含むこともできる。発現カセットは、必要に応じてリンカーも含み得る。 各種塩基配列を含むDNAの合成および連結は、当業者が通常用い得る手法で行われ得る。 遺伝子または該遺伝子を含む発現カセットを含む、ファージ、プラスミドなどの形態のベクターを調製し得る。必要に応じて、ベクターは、上述したような調節配列を含み得る。ベクターはまた、適切な薬剤耐性遺伝子または代謝酵素などの選択用マーカー遺伝子を含むことが好ましい。選択用マーカー遺伝子としては、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、チオストレプトン耐性遺伝子などが挙げられ、これらはいずれも当業者には周知である。大腸菌以外の微生物の場合、例えば、宿主微生物(例えば、放線菌)と大腸菌とのシャトルベクターを用いることができる。このシャトルベクターは、当該宿主微生物および大腸菌の複製開始点および選択マーカーなどを有する。接合型プラスミドもまた用いられ得る。放線菌宿主用プラスミドベクターの例として、pUC702(Oginoら,Appl. Microbiol. Biotechnol.,2004年,64(6)巻,823-828頁)、pTONA4(特開2009−153516号公報)、pTYM18(HIROYASU ONAKAら、THE JOURNAL OF ANTIBIOTICS,2003年,第56巻,第11号,950-956頁)が挙げられる。1つの実施態様では、ベクターは、高発現型プロモーター、例えば、放線菌宿主の場合PLDプロモーターを含むように構築され得る。 宿主微生物においていずれかの酵素またはタンパク質をコードする遺伝子が発現されているまたは発現が増強されているかは、形質転換微生物が上記各種実施形態を保持しているかどうかを検出する、あるいは形質転換微生物におけるいずれかの遺伝子によってコードされるタンパク質の発現量、当該タンパク質のmRNA発現量、形質転換微生物が産生したタンパク質の活性などのいずれかが、形質転換前と比較して増加または減少しているかどうかを調べることにより評価することができる。発現増強の場合、増加の程度は、こうした発現量などが発現増強前に比較して、好ましくは10%以上であり、より好ましくは30%以上であり、さらに好ましくは50%以上であり、なおより好ましくは70%以上である。 PABAを生産する方法は、上記形質転換微生物を、炭素基質を含む培地で培養する工程(本明細書中において、発酵工程ともいう)を含む。 炭素基質は、形質転換微生物が利用することができる物質または化合物である限り、限定されない。炭素基質としては、形質転換微生物に依存し得るが、例えば、単糖、二糖、オリゴ糖(例えば、3〜10数程度の単糖から構成される)などの糖に加え、さらにグリセロールなどの炭水化物以外の物質が挙げられる。1つの実施形態では、培地は、炭素基質として、単糖、二糖、グリセロールなどの少なくとも1つを含む。単糖としては、グルコース、フルクトース、ガラクトース、キシロース、アラビノースなどが挙げられる。二糖は、上記の各種の同一または異種の2つの単糖からなり得、例えば、マルトース、セロビオース、スクロース、ラクトースなどが挙げられる。例えば、炭素基質としてグルコースを含有する培地とは、形質転換微生物が発酵の培養時にグルコースを用いることができる培地形態を意味し、その形態は特に限定されない。例えば、グルコースにて構成されるオリゴ糖または多糖(例えば、デンプン、セルロース)を、これらの糖を分解可能な酵素を共に培地に含んでもよく(酵素分解にてグルコースが培地中に生じ得る)、または発酵前にこれらの糖を予め分解処理したもの(分解処理物中にグルコースが含まれ得る)を培地に加えてもよい。炭素基質として、例えば、培養前または培養の間に、デンプンおよびセルロースを酵素等により分解(糖化)して得られ得る単糖(グルコース)または二糖形態(マルトース、セロビオース)、あるいは単糖および二糖を含む混合物を、用いてもよい。グルコース、キシロース、アラビノース、ガラクトースなどは、例えば、ヘミセルロースの分解によっても得られ得る。炭素基質は、植物バイオマス中のセルロースおよびヘミセルロースの分解または糖化処理による生成物であってもよい。また、単糖、二糖、グリセロールなどの各種物質を含む混合物の例として、サトウキビ由来の廃糖蜜(スクロース、フルクトース、グルコースなどを含む)が挙げられる。グリセロールは、バイオディーゼル燃料製造の副産物として入手することもできる。炭素基質は、形質転換微生物に応じて適宜選択され得る。培地中の炭素基質の含有量は、その種類または用いる形質転換微生物に依存して適宜設定し得る。1つの実施形態では、培地中の炭素基質の含有量は、0.1(w/v)%〜30(w/v)%である。1つの実施形態では、培地中の炭素基質の含有量は、0.1(w/v)%〜20(w/v)%である。1つの実施形態では、培地中の炭素基質の含有量は、0.1(w/v)%〜15(w/v)%である。1つの実施形態では、培地中の炭素基質の含有量は、0.1(w/v)%〜10(w/v)%である。1つの実施形態では、培地中の炭素基質の含有量は、0.5(w/v)%〜30(w/v)%である。1つの実施形態では、培地中の炭素基質の含有量は、0.5(w/v)%〜20(w/v)%である。1つの実施形態では、培地中の炭素基質の含有量は、0.5(w/v)%〜15(w/v)%である。1つの実施形態では、培地中の炭素基質の含有量は、0.5(w/v)%〜10(w/v)%である。1つの実施形態では、培地中の炭素基質の含有量は、1(w/v)%〜30(w/v)%である。1つの実施形態では、培地中の炭素基質の含有量は、1(w/v)%〜20(w/v)%である。1つの実施形態では、培地中の炭素基質の含有量は、1(w/v)%〜15(w/v)%である。1つの実施形態では、培地中の炭素基質の含有量は、1(w/v)%〜10(w/v)%である。炭素基質は、培地中に逐次添加してもよい。培地の炭素基質以外の組成は、用いる形質転換微生物の培養に通常用いる組成を用いることができる。 発酵工程では、宿主微生物に一般的に適用される培養条件を適宜選択して用いることができる。例えば、発酵のための培養は、静置培養、振とう培養または通気攪拌培養等を用いることができる。気泡塔型培養槽を用いた培養も用いられ得る。通気条件は、宿主微生物に依存して、嫌気条件下、微好気条件下、および好気条件などから適宜選択することができる。培養温度は、宿主微生物に依存して適宜選択し得、例えば、宿主微生物が大腸菌の場合、例えば、15℃〜46℃、好ましくは、25℃〜43℃の範囲、そして宿主微生物が放線菌の場合、例えば、20℃〜30℃、好ましくは、26℃〜28℃の範囲とすることができる。培養時間は必要に応じて設定され、そのような時間は宿主微生物に依存して適宜選択し得、例えば、宿主微生物が大腸菌の場合、例えば、1時間〜5日程度、好ましくは、10時間〜3日程度、そして宿主微生物が放線菌の場合、例えば、2日〜20日程度、好ましくは、4日〜10日程度とすることができる。pHの調整は、無機あるいは有機酸、アルカリなどを用いて適宜行うことができる。宿主微生物が大腸菌の場合、培養中は、必要に応じてアンピシリン、テトラサイクリンなどの抗生物質を培地に添加してもよい。必要に応じて、イソプロピル−β−チオガラクトシド(IPTG)などの誘導因子を添加してもよい。放線菌の場合、チオストレプトン、カナマイシン、ネオマイシンなどの抗生物質を培地に添加、または寒天に含有させて培養プレートに重層してもよい。 発酵工程の実施により、形質転換微生物によってPABAが生産される。発酵終了後、培養液からPABA含有画分を回収する工程、さらにこれを精製または濃縮する工程を実施することもでき、これらの工程およびそれらに要する手段は、当業者によって適宜選択される。 以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。 (実施例1:大腸菌におけるパラアミノ安息香酸生産の評価) (1−1:大腸菌における各種パラアミノ安息香酸生合成酵素遺伝子の発現増強によるパラアミノ安息香酸生産の評価) 遺伝子の増幅はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法で行った。PCRの酵素にはPhusion Hot Start DNA Polymerase(FINNZYMES製)を用い、方法は取扱説明書に従った。なお、アニーリング温度は50℃、サイクル数は25とした。鋳型DNAには各種微生物のゲノムDNAを用いた。クローニングした遺伝子、用いたプラスミドベクター、鋳型DNAの由来微生物、および遺伝子増幅のためのプライマーは表1〜3に示すものを用いた。 増幅した遺伝子を適当な制限酵素で一晩消化し、同様に消化したプラスミドベクターに定法に基づいて連結した後に大腸菌DH5αを形質転換した。Ex Taq DNA Polymerase(タカラバイオ株式会社製)を用いたコロニーPCR法を行うことにより、形質転換体が目的の遺伝子を有するかどうか確認した。コロニーPCRの反応液の調製および反応条件は、取扱説明書に従った。反応液にはジメチルスルホキシド(DMSO)を1.5(w/v)%添加し、各コロニーを鋳型DNAとして用いた。プライマーには、プラスミドベクターのクローニングサイトの上流に位置するT7P(TAATACGACTCACTATAGGG:配列番号35)、ACYCDuetUP1(GGATCTCGACGCTCTCCC:配列番号36)、またはDuetUP2(TTGTACACGGCCGCATAATC:配列番号37)と下流に位置するT7T(GCTAGTTATTGCTCAGCGG:配列番号38)とのセットを用いた。得られた目的の形質転換体からの組換えプラスミドの調製には、PureYield Plasmid Miniprep System(プロメガ株式会社製)を用いた。 コリネバクテリウム・エフィシエンス(Corynebacterium efficiens)YS-314のpabAB遺伝子(cepabAB、遺伝子記号CE1059、遺伝子登録番号BAC17869.1)の塩基配列を大腸菌発現用に最適化し(Operon社に委託)、cepabAB-MOD遺伝子を得た。cepabAB-MOD遺伝子の塩基配列およびコードされるアミノ酸配列を配列番号39および40にそれぞれ示す。これらは、最適化前のcepabAB遺伝子の塩基配列およびコードされるアミノ酸配列に対して、それぞれ78%および100%の配列同一性を有する。cepabAB-MOD遺伝子をpET21a−FRTのNdeI-XhoIサイトに連結し、pTEI23を得た(表3)。 aroF遺伝子に関しては、pARO7(Komaら、Appl. Microbiol. Biotechnol,2012年,93巻,815-829頁)を鋳型とした。さらに、147番目のアスパラギン酸(GAT)をアスパラギン(AAT)に置換することでフィードバック阻害を脱感作したもの(aroFfbr)をクローニングした。 大腸菌の染色体DNAへの遺伝子導入は、「λ−ファージのRed組換え酵素、酵母のフリパーゼ、およびP1ファージを用いた手法」(Komaら、Appl. Microbiol. Biotechnol,2012年,93巻,815-829頁)にて行った。すなわち、カナマイシン耐性遺伝子の下流に連結した目的遺伝子をλ−ファージのRed組換え酵素を用いて大腸菌BW25113(DE3)株の染色体上に導入した(1遺伝子導入株)。つぎに、P1ファージを用いて複数の1遺伝子導入株の遺伝的形質を統合することで、多遺伝子導入株を作製した。必要に応じてカナマイシン耐性遺伝子を酵母のフリパーゼを用いて除去した。作製した組み換え体の遺伝子型を表4〜7に示す。 菌株をLB−G培地(1Lあたり8gグルコース、10gポリペプトン(日本製薬株式会社製)、5g粉末酵母エキスD-3(日本製薬株式会社製)、10g塩化ナトリウム、NaOHでpH7.0に調整)を用いて振とう培養機TC−300(高崎科学器械株式会社製)で、200rpm、27℃で18時間前培養した。M9M培地(1Lあたり10gグルコース、6gリン酸水素二ナトリウム、3gリン酸二水素カリウム、0.5g塩化ナトリウム、2g塩化アンモニウム、1mmol硫酸マグネシウム、10mgチアミン、100μmol塩化カルシウム、50μmol硫酸鉄、1μmol硫酸亜鉛、1μmol塩化コバルト)に対して1%相当を植菌し、振とう培養機BioShaker FH23(タイテック株式会社製)で、250rpm、37℃で4時間培養した。4時間後、IPTGを終濃度1mmol/Lとなるように添加し、振とう培養機TC−300で、200rpm、27℃でさらに44時間培養した。 培養後、OD660、グルコース濃度、生産物量を測定した。OD660の測定には分光光度計UV-160A(株式会社島津製作所製)を用いた。グルコース濃度の測定にはグルコースCII−テストワコー(和光純薬工業株式会社製)を用いた。生産物量は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定した。適当に希釈した培養液1mLを1.5mLチューブに入れ、HPLC用試料とするため200μLのメタノールと50μLの1M塩酸を混合し、10,000rpmで5分間遠心分離した後の上清をコスモナイスフィルター(ナカライテスク株式会社製)でろ過した後に分析に供した。カラムにはCOSMOSIL 5C18-MS-II 3.0×150mm(ナカライテスク株式会社製)を用いた。分析条件は次の通りとした。0.1%トリフルオロ酢酸水溶液を溶離液A、0.1%トリフルオロ酢酸を含む80容量%メタノール溶液を溶離液Bとし、溶離液AとBの比率を5分間のグラジエントで80:20から0:100とし、さらに溶離液Bを15分間流した。流速は1mL/分とした。この条件下で、PABAは約3.4分後に溶出した。生産物の検出にはフォトダイオードアレイSPD-10A(株式会社島津製作所製)を用いた。PABAは222nm、チロシンは222nm、フェニルアラニンは206nmの波長を用いて検出した。 T7プロモーターに連結した大腸菌由来のaroFfbr、pabA、pabB、pabC遺伝子を大腸菌に導入し高発現させ、その時のPABA生産量を測定した。aroFfbr、pabA、およびpabB、または、aroFfbr、pabB、およびpabCの3遺伝子を同時に高発現した場合にPABAの蓄積が認められた(表8)。aroFfbr、pabA、pabB、およびpabCの4遺伝子を同時に高発現した場合に最も高いPABA生産が確認された。 (1−2:パラアミノ安息香酸シンターゼPabAB発現増強大腸菌による発酵におけるパラアミノ安息香酸生産) 大腸菌由来のpabAおよびpabB遺伝子の染色体への導入コピー数について検討した。1〜3コピーの導入において、コピー数の増加に伴ってPABA生産量が増加した(表9)。 外来生物種由来のpabAおよびpabBホモログ遺伝子を染色体に導入した大腸菌におけるPABA生産を検討した。コリネバクテリウム・エフィシエンスのPABA合成系遺伝子cepabAB-MODを過剰発現するPABA−25株において最も高いPABA生産量が観察された(表10)。 PABA−25株(コリネバクテリウム・エフィシエンスのPABA合成系遺伝子cepabAB-MODを過剰発現する)およびPABA−9株(大腸菌のPABA合成系遺伝子(pabA、pabB、およびpabC)を過剰発現する)について、生産速度解析を行った。 図1は、PABA−9株(A)およびPABA−25株(B)の発酵培養の間のグルコースおよび発酵生産物の経時変化を示すグラフである。図中の記号は以下を表す:白丸 OD660;白三角 グルコース;黒丸 PABA;黒三角 フェニルアラニン;および黒四角 チロシン。「rp,max」は最大容量生産速度(Maximum volumetric productivity、培養容量単位時間あたりのPABA生産量:μmol・L−1・分−1)を表し、「qp,max」は最大比生産速度(Maximum specific productivity、菌体(CDW)単位時間あたりのPABA生産量:μmol・g−1CDW・分−1)を表す。その結果、PABA−25株は、PABA−9株と比較して、菌体のPABA生産能力を表す指標の一つである最大比生産速度(qp,max)は9倍であった。 (1−3:パラアミノ安息香酸シンターゼPabAB発現増強大腸菌による発酵条件の検討) PABA−9株およびPABA−25株を、M9M培地および2M9M−Y培地(M9M培地のリン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、塩化ナトリウム、および塩化アンモニウム濃度を2倍とし、1(w/v)%粉末酵母エキスD-3を添加したもの)で培養し、PABA生産量を比較した(表11)。前培養した菌株を培地に1%相当植菌し、37℃で2時間(2M9M−Y培地の場合)または4時間(M9M培地の場合)培養した。1mMとなるようにIPTGを添加して、27℃または37℃で、培養開始から48時間後まで培養した。両株ともに2M9M−Y培地を用いて27℃で培養した時にPABAの生産量は向上した。ただし、2M9M−Y培地を用いても、37℃で培養した場合には生産量は大幅に低下した。 2M9M−Y培地でのPABA生産量が高かったことから、本培地を用いてグルコースと塩化アンモニウムを逐次添加しながらPABA−24株(コリネバクテリウム・エフィシエンスのPABA合成系遺伝子cepabAB-MODを過剰発現する)を培養した。なお、培養液量は100mLとし、培養栓にはキャップタイプのシリコセンを用いた。LB−G培地で前培養した菌株を2M9M−Y培地に1%相当植菌し、37℃で2時間培養した。1mMとなるようにIPTGを添加し、27℃でさらに培養した。なおその際に、培地にはpHの低下を防ぐ目的で5(w/v)%炭酸カルシウムを添加した。培養液のOD660とグルコース濃度を適時測定しながら、表12に示すように、グルコース(「Glc」)、塩化アンモニウム(NH4Cl)および粉末酵母エキスD-3の添加を行った。この培養を便宜上「第1の培養」という。第1の培養におけるグルコース消費およびPABA生産の経時変化を図2の(A)に示す。 その結果、OD660は26程度まで増加し、10mM以上のPABA生産量を確認した(図2(A))。しかしながら、24時間以降OD660の増加は見られず、PABAのさらなる生産も観察されなかった。 通気量を増やすために培養液量を20mLに減らし、さらに培養栓を綿栓に変更し、表13に示すように、グルコース(「Glc」)、塩化アンモニウム(NH4Cl)および粉末酵母エキスD-3を逐次添加して培養した。この培養を便宜上「第2の培養」という。第2の培養におけるグルコース消費およびPABA生産の経時変化を図2の(B)に示す。 その結果、OD660は60に達し、PABA生産量は30mMに達した(図2(B))。 なお、図2は、PABA−24株を用いた第1の培養(A)および第2の培養(B)におけるグルコースおよび発酵生産物の経時変化を示すグラフであり、図中の記号は以下を表す:白丸 OD660;白三角 グルコース;黒丸 PABA;黒三角 フェニルアラニン;および黒四角 チロシン。 (1−4:パラアミノ安息香酸シンターゼPabAB発現増強大腸菌による種々の炭素基質を用いた発酵におけるパラアミノ安息香酸生産) PABA−25株を5mLのLB−G培地で前培養し、M9M培地のグルコースを以下の表14および15に示す炭素基質に変更した培地5mLに、1%相当の前培養した菌株を植菌し、37℃で4時間培養した。終濃度1mMとなるようにIPTGを添加し、27℃でさらに7日間培養し、3日目および7日目にサンプリングした。菌の増殖(OD660)を分光光度計で測定し、生産物量をHPLCで定量した。3日目の結果を表14および7日目の結果を表15に示す。 ガラクトース、キシロース、およびマルトースを用いた場合は、グルコースを用いた場合(5.1mM)と同程度のPABAの生産を確認した。グリセロールまたはフルクトースを用いた場合は、培養時間を延長することにより、グルコースとほぼ同等のPABA生産量であった。スクロースを用いた場合は、PABAの生産量が低かったが、これは、スクロースを分解しにくいためと考えられる。アラビノース、セロビオース、およびラクトースは、本実施例にて使用した株ではこれらの糖を利用できず、菌株が増殖せず、PABAの生産がみられなかった。本来大腸菌はアラビノースおよびラクトースを利用できるが、用いた菌株の遺伝子型がΔaraBADAH33(アラビノース利用能欠失)およびΔlacZWJ16(βガラクトシダーゼ活性欠失)であったためである。 (実施例2:放線菌におけるパラアミノ安息香酸生産の評価) (2−1:放線菌における各種パラアミノ安息香酸生合成酵素の発現増強によるパラアミノ安息香酸生産の評価) 大腸菌からのプラスミド調製を含め、遺伝子操作技術全般はMolecular Cloning A Laboratory Manual 2nd Edition (1989)に従い、放線菌の遺伝子操作技術はPractical Streptomyces Genetics (John Innes Foundation,2000)に従った。PCR全般にはKOD FX DNA polymerase(東洋紡株式会社製)を使用し、目的DNAのゲルからの切り出し、抽出および精製にはWizard SV Gel Extraction Kit(Promega社製)を使用した。入手先を特に記載していない材料としては、当業者が通常入手可能なものを使用した。 遺伝子操作に用いた大腸菌は、E.coli Novablueであり、放線菌遺伝子発現に用いた放線菌−大腸菌シャトルベクターは、pUC702-promoter-PLD(Ogino Cら、Appl. Microbiol. Biotechnol.、2004年、第64巻、第6号、823-828頁:ストレプトベティシリウム・シナモネウムのゲノムから得られたホスホリパーゼD(PLD)遺伝子およびプロモーター領域(PLDプロモーター)、シグナル領域、ターミネーター領域をpUC702へ組込んだプラスミド)から成熟PLDを切り出し、pUC702-universalとして用いた。用いた宿主放線菌は、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)1326株(NBRC 15675)である。 各種放線菌のゲノムからパラアミノ安息香酸生合成酵素遺伝子を選択した。これらの放線菌に由来するパラアミノ安息香酸生合成酵素遺伝子は、公開されている放線菌ゲノム情報ストレプトマイセス・セリカラーA3(2)ゲノム情報(GenBank/NCBI Accession No.:PRJNA57801,PRJNA242)、ストレプトマイセス・グリセウス グリセウス亜種NBRC13350ゲノム情報(GenBank/NCBI Accession No.:PRJNA58983,PRJDA20085)、ストレプトマイセス・アベルミチリスMA−4680ゲノム情報(GenBank/NCBI Accession No.:PRJNA57739,PRJNA189)、サッカロポリスポラ・エリスレアNRRL2338ゲノム情報(GenBank/NCBI Accession No.:PRJNA62947,PRJEA18489)、およびGenome Project of Streptomyces avermitilis、http://avermitilis.ls.kitasato-u.ac.jp/)に基づいて選択した。 以下の表16に示すパラアミノ安息香酸生合成酵素遺伝子を選択した。上の2種はp−アミノ安息香酸シンターゼをコードする遺伝子pabABであり、下の2種はp−アミノデオキシコリスミ酸リアーゼをコードする遺伝子pabC2である。ストレプトマイセス・アベルミチリス(Streptomyces avermitilis、「SAV」)MA-4680のゲノム情報よりpabAB(遺伝子番号SAV1178)およびpabC2(遺伝子番号SAV6852)、サッカロポリスポラ・エリスレア(Saccharopolyspora erythraea、「SACE」)NRRL2338のゲノム情報よりpabAB(遺伝子番号SACE4036)、そしてストレプトマイセス・グリセウス(Streptomyces griseus、「SGR」)IFO13350のゲノム情報よりpabC2(遺伝子番号SGR6036)を選択した。 放線菌のゲノムの抽出のために、独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター(NBRC)より、ストレプトマイセス・グリセウスのグリセウス亜種NBRC13350、ストレプトマイセス・アベルミチリスNBRC 14893、ストレプトマイセス・ビオラセオルバー(Streptomyces violaceoruber)NBRC 15146(ストレプトマイセス・アベルミチリスA3(2)に相当)、サッカロポリスポラ・エリスレアNBRC 13426を入手し、NBRCの記述に従う懸濁培地および培養培地を用い、トリプケースソイブイヨン(TSB)培地(Becton, Dickinson and Co.,製)10mLを含むコイル入り試験管内で28℃、180rpmにて3〜5日培養した。ゲノム抽出はWizard SV Gel Extraction Kit(Promega社製)を用いて行った。 それぞれ対応するプライマー対を用いてPCR法により単離し、得られた各種遺伝子を、対応する制限酵素で消化したプラスミドベクターpUC702-universalにIn-Fusion HD Cloning Kit(クロンテック製)を用いて挿入した。一例として、SACE4036の場合、プライマー対IF-SACE4036-BamHI-F5:TTCGTTTAAGGATGCAGGATCCATGCGGACACTGATCATCGACAAC(配列番号41)およびIF-SACE4036-SphI-R5:GGCGCTCAGTCGTCTCAGCATGCTCACGAGGCCACCTCCGCCTTGT(配列番号42)を用いてPCR法により単離し、得られた遺伝子SACE4036を、対応する制限酵素BamHIおよびSphI(New England Biolab社製)で消化したプラスミドベクターに挿入した。それぞれ得られたプラスミドベクターを表16中のプラスミド名の通り命名した。 上記プラスミドベクターを放線菌ストレプトマイセス・リビダンス1326株(NBRC 15675)に導入して形質転換を行った。形質転換体は、R2YE培地で1日培養後、ベクターが保有する選択マーカーに対応する薬剤チオストレプトン(200μg/mL)を含む0.7%アガー3mLをR2YE培地30mLに重層させた選択培養によって取得した。放線菌の培養および形質転換体の取得(プロトプラスト融合法)は特開2011−223981号公報に記載と同様の方法により行った。 上記各プラスミドベクターを導入して得られた各放線菌形質転換体を、チオストレプトン(Ts)5μg/mLを含むトリプケースソイブイヨン(TSB:Becton, Dickinson and Co.,製)培地5mLを入れた試験管中で28℃、200rpmにて3日間培養した(前培養)。次いで、これらの放線菌形質転換体を5%(w/v)グルコースおよび20μg/mLチオストレプトンを添加したTSB培地10mLおよびコイルを入れた試験管内で28℃、200rpmにて12日間培養した後、培養上清を回収し、HPLCに供した。PABAについて、HPLCシステムProminence(株式会社島津製作所製)にて、カラムはChorester 4.6μm I.D.×150mm(ナカライテスク株式会社製)を用い、20容量%メタノールおよび0.1容量%酢酸緩衝液を溶媒とし、カラム温度30℃および流速1.0ml/分で分離し、紫外部吸光検出系SPD-20A(株式会社島津製作所製)によりUV254nmの波長で検出した。 表16のいずれのプラスミドを用いて形質転換した放線菌ストレプトマイセス・リビダンス1326株においても、PABAの生産を確認した。 図3は、サッカロポリスポラ・エリスレア(SACE)由来PabABを発現増強するように形質転換したストレプトマイセス・リビダンス1326株(本明細書中においては、ストレプトマイセス・リビダンス(SACE4036)ともいう)のHPLCのクロマトグラムである。最上部がPABAサンプルであり、上から2番目(「SACE4036(S12)」)および3番目(「SACE4036(S15)」)が、ストレプトマイセス・リビダンス(SACE4036)の結果を表す。矢印の位置は、PABAのピークの位置を示す。図3より明らかなように、SACE4036(S12)およびSACE4036(S15)ともに、PABAのピークを確認した。 (2−2:パラアミノ安息香酸シンターゼPabAB発現増強放線菌によるグルコースを炭素基質とする発酵におけるパラアミノ安息香酸生産) 表16のサッカロポリスポラ・エリスレア(SACE)由来PabABを発現するように形質転換したストレプトマイセス・リビダンス1326株について、フラスコ内での培養にてグルコースを炭素基質とする発酵によるPABA生産量を観察した。コントロール株として、pUC702を空ベクターとして形質転換した放線菌ストレプトマイセス・リビダンス1326株を用いた。 ストレプトマイセス・リビダンス(SACE4036)株およびコントロール株を上記2−1と同様に前培養を行った後、5%グルコースおよび20μg/mLチオストレプトンを添加したTSB培地30mLを含むフラスコ内で28℃、200rpmにて9日間培養した(本培養)。本培養を開始した翌日から毎日培養上清を回収し、HPLCに供した。PABAについては上記2−1と同様にして検出し、グルコースについては、Shim-pack SPR-Pb(7.8mm×250mm、株式会社島津製作所製)を用いて、水を溶媒とし、カラム温度80℃および流速0.6mL/分で分離し、示差屈折計RID−10A(株式会社島津製作所製)を用いて検出した。 図4は、ストレプトマイセス・リビダンス(SACE4036)株およびコントロール株のそれぞれについて、炭素基質として5%(w/v)グルコースを添加したTSB培地で培養した発酵における培養上清中のPABA濃度(mM)の経日変化を示すグラフである。黒四角はストレプトマイセス・リビダンス(SACE4036)株のPABA生産量(mM)、そして白四角はコントロール株のPABA生産量(mM)を表す。そして黒三角はストレプトマイセス・リビダンス(SACE4036)株のグルコース消費量(g/L)もまた併せて示す(図4中の黒三角)。 図4より明らかなように、ストレプトマイセス・リビダンス(SACE4036)株は、コントロール株と比較して3倍強のPABA生産量を示した。ストレプトマイセス・リビダンス(SACE4036)は、50g/Lグルコースを用いた培養5日後にはグルコースを全て消費し、最終的にグルコース1g当たりで換算して0.22重量%のPABAを生産した。 (2−3:パラアミノ安息香酸シンターゼPabAB発現増強放線菌による種々の炭素基質を用いた発酵におけるパラアミノ安息香酸生産) ストレプトマイセス・リビダンス(SACE4036)株について、上記2−2と同様に前培養を行った後、4(w/v)%各種炭素基質および20μg/mLチオストレプトンを添加したTSB培地25mLを含む200mL容量のバッフル付きフラスコ内にて28℃および180rpmの条件下にて10日間本培養を行って発酵させ、発酵開始から1日毎に培養上清を採取し、採取した上清をHPLCに供し、PABA濃度を測定した。以下の炭素基質を用いた:グルコース、マルトース、スクロース、フルクトース、グリセロール、ガラクトース、セロビオース、アラビノースおよびキシロース。セロビオースについては、1(w/v)%炭素基質および20μg/mLチオストレプトンを添加したTSB培地25mLを用いた。結果を図5に示す。 図5は、炭素基質としてグルコース(A)、マルトース(B)、スクロース(C)、フルクトース(D)、グリセロール(E)、ガラクトース(F)、アラビノース(G)、セロビオース(H)およびキシロース(I)を用いた場合について、ストレプトマイセス・リビダンス(SACE4036)株およびコントロールのストレプトマイセス・リビダンス株のそれぞれの培養による発酵における培養上清中のPABA濃度(mM)の経日変化を示すグラフである。黒丸は、ストレプトマイセス・リビダンス(SACE4036)株のPABA生産量(mM)、そして白丸はコントロール株のPABA生産量(mM)を表す。 図5より明らかなように、ストレプトマイセス・リビダンス(SACE4036)株は、用いたいずれの炭素基質においても、経時的にPABAの生産増大を示した。特に、フルクトースおよびグリセロールにおいて、グルコースと比較して顕著に高い生産量を示した。ガラクトースにおいても、グルコースと比較して高い生産を示した。セロビオース、アラビノース、およびキシロースなどのバイオマス由来糖を用いた場合においても、PABAの生産を観察することができた。 パラアミノ安息香酸は、繊維・化学品原料として有用な物質であり、ビルディングブロックとして活用が期待される。本発明の方法によれば、宿主微生物の発酵を利用することにより、生物による安全な方法で、比較的安価にパラアミノ安息香酸を生産することが可能となる。放線菌、大腸菌などの宿主微生物を用いることにより、原料物質として、単糖、二糖などの糖に加え、さらにグリセロールのような糖以外の炭素基質を使用することが可能である。植物バイオマスに由来する物質を原料に有効に用いることができる。また、廃糖蜜を原料に用いることが期待される。グリセロールは、バイオディーゼル燃料製造の副産物として生成されるが、廃棄されることが多く、本発明によりグリセロールの有効な用途も広がる。 パラアミノ安息香酸を生産する方法であって、 パラアミノ安息香酸シンターゼを発現または発現増強するように形質転換された微生物を、炭素基質を含む培地において培養する工程を含む、方法。 前記パラアミノ安息香酸シンターゼを発現または発現増強するように形質転換された微生物が、PabAB複合体タンパク質をコードする遺伝子を導入して得られた形質転換微生物であるか、またはPabAタンパク質およびPabBタンパク質をそれぞれコードする遺伝子を共導入して得られた形質転換微生物である、請求項1に記載の方法。 前記形質転換微生物が、PabCタンパク質をコードする遺伝子をさらに導入して得られた形質転換微生物である、請求項2に記載の方法。 前記形質転換微生物が原核生物である、請求項1から3のいずれかに記載の方法。 前記原核生物が細菌である、請求項4に記載の方法。 前記細菌が、エシェリキア属に属する細菌である、請求項5に記載の方法。 前記細菌が、大腸菌である、請求項6に記載の方法。 前記細菌が、放線菌類に属する細菌である、請求項5に記載の方法。 前記細菌が、ストレプトマイセス・リビダンスである、請求項8に記載の方法。 前記培地が、単糖、二糖、およびグリセロールからなる群より選択される少なくとも1つの炭素基質を含む、請求項1から9のいずれかに記載の方法。 前記単糖が、グルコース、フルクトース、ガラクトース、キシロース、およびアラビノースからなる群より選択される少なくとも1つの糖である、請求項10に記載の方法。 【課題】生物による安全な方法で、効率的にパラアミノ安息香酸を生産する方法を提供すること。【解決手段】パラアミノ安息香酸を生産する方法が提供される。この方法は、パラアミノ安息香酸シンターゼを発現または発現増強するように形質転換された微生物を、炭素基質を含む培地において培養する工程を含む。パラアミノ安息香酸シンターゼを発現または発現増強するように形質転換された微生物は、PabAB複合体タンパク質をコードする遺伝子を導入して得られた形質転換微生物であっても、またはPabAタンパク質およびPabBタンパク質をそれぞれコードする遺伝子を共導入して得られた形質転換微生物であってもよい。【選択図】なし配列表