タイトル: | 公開特許公報(A)_生殖細胞を凍結保存するための自動植氷機能を持った容器の製造方法 |
出願番号: | 2013106577 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | C12M 1/26,C12N 1/04,C12N 5/076 |
小島 敏之 門上 洋一 岩崎 均 JP 2014217356 公開特許公報(A) 20141120 2013106577 20130430 生殖細胞を凍結保存するための自動植氷機能を持った容器の製造方法 門上 洋一 599115826 小島 敏之 513125371 小島 敏之 門上 洋一 岩崎 均 C12M 1/26 20060101AFI20141024BHJP C12N 1/04 20060101ALN20141024BHJP C12N 5/076 20100101ALN20141024BHJP JPC12M1/26C12N1/04C12N5/00 202F 3 書面 7 4B029 4B065 4B029AA09 4B029AA27 4B029BB11 4B029CC10 4B029GA02 4B029GB05 4B029HA05 4B065AA93X 4B065AC20 4B065BD09 4B065BD12 4B065BD41 4B065CA44 本発明は、生殖細胞を精度よく凍結保存するための容器製造技術に関する。 氷核活性細菌は、氷点下30℃でも凍結しない純水を、氷点下2〜氷点下7℃で凍結させる働きを持つ細菌のことであり、その生成するタンパク質が、凍結を誘導する氷核として働くことが明らかになっている。つまり氷核活性細菌が死菌であっても活性が維持されるが、該タンパク質が細胞膜と共存していることが活性発現に重要であることが明らかになっている。氷核活性細菌にはPseudomonas syringaeやErwinia ananasなどがあり、植物の氷害細菌として知られていた。近年、これら細菌の活性を逆に利用する凍結技術が様々に提案されている。 一般的に、ヒトを含む動物の生殖細胞を長期間保存する方法として液体窒素中での凍結保存が用いられている。しかし無防備に凍結すると、細胞内に氷の結晶が生じ、これらが合体すると細胞内を傷つけ、融解時にさらに細胞を破壊してしまう。現在では、精子の保存にはグリセリンなどの耐凍剤とともに卵黄、糖類、緩衝剤などを組成とする希釈液に精子を浮遊させ、塩化ビニール製等のストロー管に充填して、一定の速度で予備凍結温度まで冷却した後、氷点下197℃の液体窒素中で保存する。精子保存の場合には、卵黄は15〜20%で用い、成分中のリポ蛋白であるリポビテリン、リポビテレニン、およびレシチンが凍害予防に有効であるとされる。糖類は浸透圧の調製、凍害予防、および精子のエネルギー源として有効である。5単糖>6単糖>2糖類>3糖類と分子量の大きい方が凍害保護効果が高い。緩衝剤としては、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(THAM)などの両性緩衝剤が優れており、凍結融解の過程での細胞膜の保存に重要であり、融解後の精子の代謝に有効である。この他、最終7%程度のグリセリンが特に凍害から精子を保護することに有効であることが知られている。胚の保存には、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコールなどの細胞膜透過型の耐凍剤が不可欠で、血清あるいは血清アルブミンを入れた等張の培養液とともに胚の凍結媒液として用いられる。胚の凍結保存には、精子の場合のように、卵黄は通常は用いられない。現在、温度制御緩速冷却法あるいはガラス化保存法が胚の保存に用いられている。 胚の凍結保存方法のうち、汎用されているのが温度制御緩速冷却法である。この方法は、過冷却温度域の媒液の凍結点よりも少し低い温度、通常氷点下7℃、で媒液に氷晶形成を誘起する操作(植氷と呼ばれる)で行なうものである。操作は、予め液体窒素で冷却しておいたピンセットなどで媒液部に容器の外側から触れるという単純な操作によって行なわれる。しかしながら、この方法は熟練された手技が要求される上に、数をこなせない欠点があった。一方、精子の凍結保存法では、温度制御緩速冷却法あるいは液体窒素蒸気中冷却法が汎用されているが、一度に凍結保存するストロー管の本数が多いために、従来、植氷操作は行われていなかった。 過冷却状態では細胞外液及び細胞内液ともに凍結していないが、過冷却が進行すると非常に熱力学的に不安定な状態となり、微小な状態変化が、細胞外液の氷晶形成を引き起こし、細胞内凍結を誘起する危険性が高くなる。細胞内凍結を回避するためには、媒液の凍結点よりも少し低い温度で植氷することによって細胞外液の凍結を誘起すると、凍結の過程の中で媒液の塩濃度が上がり、浸透圧が高まり、細胞内自由水が細胞外へ排出される。 氷晶と同じ六方晶系の構造を持つヨウ化銀を媒液の中に入れておくことによって過冷却温度域の媒液の凍結点よりも少し低い温度で保持している間に、ヨウ化銀から氷晶が発生する現象を応用して自動植氷ができる方法が考案されている(特許文献1および2)。 固定化ヨウ化銀による植氷方法は、主に受精卵と胚に応用されることを前提としているので、精子(精液)の凍結保存には応用されにくい面があった。しかし、精液の凍結保存に植氷を応用することによって対照よりも生存性が改善されたという報告がある(非特許文献1および2)。特に、精液の凍結保存では、採精された精液を希釈して凍結保存するので、数百本のストロー管を一度に凍結するのが通例であり、それに固定化ヨウ化銀を入れる操作は、融解後の生存性を代償にしても大変煩雑な操作となる。したがって、精液の凍結保存用には、容器(ここでは、ストロー管)そのものに自動植氷機能を付与することが必要になってくる。特許1400030号特許1617201号中島 浄、土肥朋子.豚精液処理法が凍結融解後の精子生存性及び受胎性に及ぼす影響.富山県畜産試験場研究報告.12:9−14(1995)深澤映生、石田昌弘、田口貞紀、本田幸和.ハイテクによる人工授精の新技術の開発(豚凍結精液を利用したジーンバンク事業).山梨県畜産試験場研究報告.45:11−17(2000) 本発明の目的は、大量生産可能なタンパク質結合能を持つ素材を見出し、それに植氷機能を持つ氷核活性細菌の死菌液を結合させ、乾燥させ、生殖細胞の保存容器であるストロー管に封入し、氷点下2〜氷点下7℃の範囲内で自動的に氷晶形成する自動植氷ストロー管を提供することである。 本発明は氷核活性細菌の活性に着眼して、自動植氷機能を持った生殖細胞保存容器への利用を創案するものである。発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、氷核活性細菌を、タンパク質の結合能の高い担持素材を利用することにより、上記の問題を解決できるとの知見を得た。 本発明は、この知見に基づいて、1.氷核活性細菌の菌破壊液を多孔質吸着材に固定化し、乾燥させたものをストロー管に詰め、このストロー管に生殖細胞を含んだ溶液を吸い上げ密閉し、氷点下2〜氷点下7℃で植氷させた後、より低温、好ましくは液体窒素下で保存することを特徴とする、生殖細胞の保存容器の製造法、2.氷核活性細菌の菌破壊液は、該細菌を糖を含む培養液で20℃付近で1〜2日培養後、遠心して生理食塩水、もしくは緩衝液に、菌数では104〜106程度になるように懸濁後、加圧、好ましくは氷冷下300MPaの気圧下で3日以上あるいは、25℃以下の温度、5MPaの炭酸ガス圧下で1日以上、行なうか、あるいは減圧することで破壊し、多孔質吸着材に10〜100μL滴下し、風乾もしくは減圧して乾燥した後、ストロー管の一端に挿入することを特徴とする請求項1に記載の生殖細胞の保存容器の製造法、3.多孔質吸着材が、活性炭、炭化綿、ゼオライトあるいはBTSなど多孔質素材であり、これらの粉末を加圧押し出し成形することを特徴とする、請求項1〜2のそれぞれに記載の生殖細胞の保存容器の製造法、を提供する。 ストロー管は内径が2mm、長さ130mmのものが一般に用いられている。ストロー管一端にストロー管と同じ径で、長さが約10mmの吸着素材を封入し、吸着素材には氷核活性細菌を高圧、あるいは減圧によってタンパク質を変性させることなく殺菌したものを、予め微量(約20〜50μL)滴下し、自然風乾あるいは減圧により十分乾燥させておく。吸着素材が安定に固定されるよう、綿栓などを同じ側に封入しておく。吸着素材は、吸着素材に保存希釈液が直接触れるように配置する。 菌吸着素材は繊維状の炭化綿でも活性炭でも良いが、ビオトープサンド(鋳物の製造過程で排出される多孔質の物質)やゼオライトを、高圧で治具から放出させて成形するものが、円柱形になりストロー管に封入しやすい。成形された吸着素材は一定の長さ(5〜10mm)に切っておく。 生殖細胞の入った保存希釈液は、ストロー管の吸着素材の側から吸い取り、ストロー管内に満たした後、ストロー管の他端を熱等で封ずる。これを氷点下2〜7℃に維持したアルコール液などに浸し植氷を確認した後、緩速冷却を行い、最終的に液体窒素中で保存する。 (原理) 家畜精液の凍結保存は、精子の代謝を可逆的に停止し、エネルギー消耗を無くした状態で維持することである。生細胞の凍結過程は、まず細胞外液が凍結することによって細胞内から自由水を排出させ、最終的に細胞内液が凍結しても傷害が起こらない程度まで脱水させる。しかしながら、氷点に達しても凍結しない過冷却状態がしばしば発生する。これは氷晶の核が出来にくいためである。純水であれば、過冷却状態はかなりの低温まで続くが(氷点下39℃)、これは水分子そのものが氷晶となるためである。溶液中に異物があれば、より高い温度で異物を中心に氷晶が形成される。過冷却状態に氷片や冷却した金属片などが触れることでも氷晶形成が始まる。この作業を植氷という。 凍結とは氷晶が形成されることであり、過冷却を破って氷晶が形成されると潜熱が発生し、試料温度が上がる。この温度反発のため冷却温度が上昇することによって氷晶は急成長し、細胞を破壊してしまう。従って、出来るだけ高い温度で過冷却を破る必要がある。 細胞外液が凍結すると細胞外液の氷の成長に伴い、細胞外液の溶質が濃縮し、浸透圧が上昇し、細胞は脱水されて収縮する(細胞外凍結)。細胞外液の凍結がゆっくりと進行すれば、細胞内液の脱水も進み、細胞内に致死的な氷の形成は起こらない。 本発明は、氷核活性細菌のタンパク質画分を、吸着素材に固定化し、過冷却状態を高い温度(氷点下2℃)で破ることの出来る自動植氷機能を持った生殖細胞保存の容器の製造法である。 実施例及び比較例 次に、本発明の実施例及び比較例について説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明の理解を容易にするためのものであって、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。すなわち、本発明の技術思想に基づく、他の例又その変形は、当然本発明に包含されるものである。 [氷核活性細菌の担持] 氷核活性細菌は死菌であっても氷核形成活性があることは知られているので、King B培地(1Lの水に対し、ポリペプトン20g、リン酸水素二カリウム1.5g、硫酸マグネシウム7水和物1.5g、グリセロール10gを溶解したもの)中で20℃、2日間培養を行なったもの(菌数2x109cfu/mL)について、5,000rpmで15分遠心分離し、沈殿を同量の5mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁した。これを脱気装置に取り付け、約250m torrで1時間減圧処理し、菌を破壊、タンパク質を抽出した。あるいは、氷冷下300MPaの気圧下で、3日以上、あるいは、25℃の温度以下で、5MPa炭酸ガス圧下、1日以上で高圧処理を行った。この抽出液について、生菌がいないことをKing B培地で20℃で3日培養して確認した。 抽出液の担持は、活性化炭化綿(1M硝酸溶液で6時間前処理し、洗浄後900℃で6時間密閉容器中で焼成した木綿)、およびビオトープサンドの成型品(ビオトープサンドを加圧押し出し成形機、ダイス径0.3〜1.0mm、で成形したもの。径1.8mm、長さ10mm。)に、抽出液を10〜50μL滴下して行なった。滴下液量は着床素材の飽和量ではなく、滴下後すぐに吸収される量とした。活性化炭化綿も、ビオトープサンド成型品いずれも、水で洗浄してタンパク質の流出は起こらなかった。 これら着床させた素材を、ガラス製のスライドグラスに乗せ、生理食塩水50μLを注ぎ、浮遊させ、氷核活性を調べた。インキュベーター中で−5℃に保温したエチルアルコールにアルミ製のブロックを置き、その上にスライドグラスを乗せ、凍結が起こるかを観察した。対照には、菌を着床させていない活性化炭化綿およびビオトープサンドを同様に生理食塩水に浮遊させて比較を行なった。 その結果、対照ではいずれも凍結が起こらなかったが、抽出液を固定化した生理食塩水は凍結がすぐに起こった。このことから用いた活性化炭化綿およびビオトープサンドの成型品ともに菌抽出液の担持素材として利用できることが示された。 [担持氷核活性細菌の乾燥と活性] 次に、菌抽出液を担持させた素材毎乾燥させた場合に活性が維持されるかどうかを検討した。自動植氷機能を持つストロー管が製品として実現できるかはその製造作業性に依存している。乾燥状態で活性が維持されれば、工業的な生産が可能となり、製品のばらつきを防ぐことが出来るからである。 活性化炭化綿およびビオトープサンド成型品に、本実施例ではフレンチプレスにて加圧溶菌させて調製した菌抽出液を、それぞれ20μLずつ滴下し、吸収させた後、1日風乾し、完全に乾燥させた。 次いで、それぞれを塩化ビニール製ストロー管の一端に差し込み、固定した。形態としては実際の生殖細胞保存ストロー管(0.25mL)と同様である。担持素材側から生理食塩水を吸込み、ストロー管内に満たした。活性化炭化綿は繊維状であるので、吸引には問題なく、ビオトープサンド成型品についても吸引による抵抗はほとんどなかった。ストロー管を熱シールして封印後、実施例1と同様にして氷晶が形成されるかを観察した。その結果、氷晶が担持素材側から反対側に向けて形成されて行くのが確認できた。一方、菌抽出液を担持していない対照では氷晶形成が起こらなかった。この結果から、菌抽出液が乾燥していても氷晶結晶が進むことが明らかとなった。 発明の効果 本発明の自動植氷機能を持った生殖細胞保存容器は、高い温度で氷晶を形成する氷核活性細菌の抽出液を利用しており、それが担持素材に乾燥状態で固定化されている。氷晶形成が高い温度で行なわれるため、生殖細胞が破壊されにくく、生存率が高まる。また、大量の生殖細胞の凍結保存が短時間で、かつ熟練された技術なしに達成され、汎用性が高まる。このため、製造が容易であり、かつ長期間に渡って安定に保存が出来る。 氷核活性細菌の菌破壊液を多孔質吸着材に固定化し、乾燥させたものをストロー管に詰め、このストロー管に生殖細胞を含んだ溶液を吸い上げ密閉し、氷点下2〜氷点下7℃で植氷させた後、より低温、好ましくは液体窒素下で保存することを特徴とする、生殖細胞の保存容器の製造法。 氷核活性細菌の菌破壊液は、該細菌を糖を含む培養液で20℃付近で1〜2日培養後、遠心して生理食塩水、もしくは緩衝液に、菌数では104〜106程度になるように懸濁後、加圧、好ましくは氷冷下300MPaの気圧下で3日以上あるいは、25℃以下の温度、5MPaの炭酸ガス圧下で1日以上、行なうか、あるいは減圧することで破壊し、多孔質吸着材に10〜100μL滴下し、風乾もしくは減圧して乾燥した後、ストロー管の一端に挿入することを特徴とする請求項1に記載の生殖細胞の保存容器の製造法。 多孔質吸着材が、活性炭、炭化綿、ゼオライトあるいはBTSなど多孔質素材であり、これらの粉末を加圧押し出し成形することを特徴とする、請求項1〜2のそれぞれに記載の生殖細胞の保存容器の製造法。 【課題】 生殖細胞保存技術において、自動植氷機能を持ち、凍結融解後の生存率が高く、かつ大量に能率良く製造可能な、生殖細胞保存容器の製造方法を提供する。【解決手段】 氷核活性細菌の破砕液を、空気抵抗の少ない、成形した多孔質素材に吸着固定化し、ストロー管の一端に挿入することで、生殖細胞を含む溶液を他端から吸引封入することが出来る。このことにより、氷点下2℃付近という高温領域での氷晶形成を促す自動植氷機能を持つ保存容器として利用可能となる。