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タイトル:公開特許公報(A)_グラフェン薄膜の製造方法、並びにグラフェン薄膜を備えた電子素子、センサー、アレイ素子およびセンシング方法
出願番号:2013105560
年次:2014
IPC分類:C01B 31/02,H01L 29/786,H01L 21/336,G01N 27/414


特許情報キャッシュ

根岸 良太 小林 慶裕 高坂 成時 大野 恭秀 前橋 兼三 松本 和彦 JP 2014227304 公開特許公報(A) 20141208 2013105560 20130517 グラフェン薄膜の製造方法、並びにグラフェン薄膜を備えた電子素子、センサー、アレイ素子およびセンシング方法 国立大学法人大阪大学 504176911 植木 久一 100075409 植木 久彦 100129757 菅河 忠志 100115082 伊藤 浩彰 100125243 竹岡 明美 100125173 根岸 良太 小林 慶裕 高坂 成時 大野 恭秀 前橋 兼三 松本 和彦 C01B 31/02 20060101AFI20141111BHJP H01L 29/786 20060101ALI20141111BHJP H01L 21/336 20060101ALI20141111BHJP G01N 27/414 20060101ALI20141111BHJP JPC01B31/02 101ZH01L29/78 618BH01L29/78 618AH01L29/78 625G01N27/30 301Z 12 1 OL 23 特許法第30条第2項適用申請有り (1)平成24年11月27日に炭素材料学会発行の「第39回炭素材料学会年会要旨集」並びに平成24年11月30日に炭素材料学会主催の「第39回炭素材料学会年会」において発表(2)平成25年3月11日に公益社団法人応用物理学会発行の「第60回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集」並びに平成25年3月27日に公益社団法人応用物理学会主催の「第60回応用物理学会春季学術講演会」において発表 (出願人による申告)平成24年度、独立行政法人科学技術振興機構、研究成果展開事業/研究成果最適展開支援プログラム/フィージビリティスタディステージ探索タイプ「マルチチャンネルマイクロバイオチップの開発に向けた酸化グラフェン薄膜の機能化」に係る委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願 4G146 5F110 4G146AA01 4G146AA15 4G146AB07 4G146AC16B 4G146AC19B 4G146AC20B 4G146AD28 4G146AD30 4G146BA11 4G146BA12 4G146BB23 4G146BC09 4G146BC16 4G146BC22 4G146BC23 4G146BC25 4G146BC26 4G146BC33B 4G146BC34B 4G146CB10 4G146CB11 4G146CB12 4G146CB13 4G146CB17 4G146CB32 4G146CB35 5F110AA24 5F110BB09 5F110CC07 5F110GG01 5F110GG42 5F110GG58 5F110NN12 5F110NN15 5F110NN27 本発明は、グラフェン薄膜の製造方法、並びにグラフェン薄膜を備えた電子素子、センサー、アレイ素子およびセンシング方法に関するものである。 グラフェンは、グラファイトの層を形成するシート状物質であり、シート全体にπ電子が広がる構造を有する。上記構造のため、グラフェンは電気伝導特性や移動度などの電気的特性に優れており、バイオサンサーなどに応用されている。 グラフェンは、例えばグラファイト結晶から機械的に剥離して抽出される。ところが、このようにして得られるグラフェンの小片、すなわちグラフェンフレークのサイズは非常に小さい。そのため、グラフェン薄膜の大面積化は困難であり、バイオセンサーなどへの実用化に向けて大きな課題となっている。 一方、グラフェン薄膜の製造に、同じグラフェン材料である酸化グラフェン(GO:Graphene Oxide)を用いる方法が活発に行なわれている。酸化グラフェンは比較的安価に大量合成が可能であり、薄膜化することで容易にグラフェンの大面積形成が可能となるため、電子デバイス材料などへの応用が世界的に検討されている。 例えば非特許文献1には、酸化グラフェン(GO)薄膜に対し、ヒドラジンによる還元処理を行なってグラフェンを製造する方法が開示されている。しかしながら、上記還元処理によって得られるrGO(reduced GO)薄膜は、フレーク間のキャリア散乱や化学剥離過程で生成されたグラフェンフレーク内の欠陥構造などにより、移動度や電気伝導度などの電気的特性が低下することが指摘されている。 一方、非特許文献2には、単一の酸化グラフェン(GO)フレークに対し、アルコール気相中における熱処理(熱CVD法)による還元を行なって、グラフェンフレークを製造する方法が開示されている。この方法によれば、酸化グラフェンフレークの還元だけでなく、グラフェンを構成する六員環(π電子)の構造修復が効果的に進行して酸化グラフェンフレーク内の欠陥が低減するため、これをFETのチャネル材料として用いればトランジスタ特性が飛躍的に向上すると報告されている。しかしながら、上記非特許文献2は、単一の酸化グラフェン(GO)フレークを還元した酸化グラフェン(rGO)の製造方法が開示されているに過ぎない。Toshiyuki Kobayashiら、「Channel−Length−Depedndent−Field−Effect Mobility and Cariier Concentration of Reduced Graphene Oxide Thin−Film Transistors」,Small Vol.6,pp.1210−1215,May 2010Ching−Yuan Suら、「Highly Efficient Restoration of Graphitic Structure in Graphene Oxide Using Alcohol Vapors」,ACS NANO,Vol.4,pp.5285−5292,August 2010 近年、抗原、抗体、DNAなどの生命現象に深く関わる複数種のタンパク質を、単一の基板上で、高い感度で、簡便且つ安価に検出可能なバイオセンサー用アレイ素子の提供が求められている。現在、実用化されている表面プラズモン(SPR)バイオセンサーによれば、金属表面に固定化されたホスト分子とゲスト分子の吸着を優れた感度で検出できるが、共鳴を発生させるための光源、プリズム、角度検出器などのシステムの繁雑さ、高コストなどの問題を抱えている。また、SPRバイオセンサーでは、複数種のタンパク質を同時に、感度良く検出することは困難である。 一方、前述した非特許文献1および2のように、安価で大面積の形成が可能な酸化グラフェンを還元してグラフェンを製造する方法も提案されている。しかし、非特許文献1には、ヒドラジンによる還元を行なうと、サイズが数μm程度のグラフェン薄膜にしたときの電気的特性が低下することが報告されている。また、非特許文献2では、単一の酸化グラフェンフレークを用いて還元する方法が開示されているに過ぎず、大面積応用に向けたグラフェン薄膜のための設計指針は提供されていない。 本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、酸化グラフェンを還元してグラフェン薄膜を製造する方法であって、グラフェン本来の優れた電気的特性を低下させることなく、キャリア移動度が高いグラフェン薄膜を製造することが可能な製造方法を提供することにある。 また、本発明の他の目的は、ターゲットとなるタンパク質などの物質を高い感度で、簡便且つ安価に検出することが可能な電界効果トランジスタなどの電子素子;当該素子を備えたpHセンサーやバイオサンサーなどのセンサー;当該素子を同一基板上に複数有するアレイ素子;および当該アレイ素子を用いて同種または異種の、複数の被験物質を同時に検出することが可能なセンシング方法を提供することにある。 上記課題を解決し得た本発明に係るグラフェン薄膜の製造方法(第1の製造方法)は、複数の酸化グラフェンフレーク同士が一部重なり合っている酸化グラフェン薄膜を準備する工程と、前記酸化グラフェン薄膜に炭素含有ガスを接触させて前記酸化グラフェン薄膜を還元する工程と、を含むところに要旨を有するものである。 本発明の好ましい実施形態において、上記炭素含有ガスは、アルコールおよび/または炭化水素を含む。 本発明の好ましい実施形態において、上記炭素含有ガスは、更に水蒸気を含む。 本発明の好ましい実施形態において、上記アルコールはエタノールであり、上記炭化水素はアセチレンである。 本発明の好ましい実施形態において、上記酸化グラフェン薄膜を準備する工程に用いられる酸化グラフェン薄膜は、基板上に酸化グラフェンフレークの分散液をスピンコート法によって塗布して得られるものである。 上記課題を解決し得た本発明に係るグラフェン薄膜の他の製造方法(第2の製造方法)は、酸化グラフェン薄膜を準備する工程と、前記酸化グラフェン薄膜に、炭素含有ガスとして、炭化水素、炭化水素と水との混合物、アルコールと水との混合物、または炭化水素とアルコールと水との混合物を接触させて前記酸化グラフェン薄膜を還元する工程と、を含むところに要旨を有するものである。 本発明には、上記のいずれかに記載の製造方法によって得られたグラフェン薄膜をチャネル層に有する電子素子も含まれる。 本発明の好ましい実施形態において、上記電子素子は電界効果トランジスタである。 本発明の好ましい実施形態において、上記電子素子のキャリア移動度は5cm2/V・s以上である。 本発明には、上記のいずれかに記載の電子素子を備えたセンサーも含まれる。 本発明には、同一基板上に、上記のいずれかに記載の製造方法によって得られた少なくとも第1領域と第2領域とを有するグラフェン薄膜と;前記第1領域のグラフェン薄膜を有する第1のチャネル層と、前記第1のチャネル層の両側に設置された第1のソース電極および第1のドレイン電極と、第1のゲート電極と、を有する第1の電界効果トランジスタと;前記第2領域のグラフェン薄膜を有する第2のチャネル層と、前記第2のチャネル層の両側に設置された第2のソース電極および第2のドレイン電極と、第2のゲート電極と、を有する第2の電界効果トランジスタと;を有するアレイ素子であって、前記第1領域のグラフェン薄膜の表面に、第1の被験物質と結合する第1の官能基を有し、前記第2領域のグラフェン薄膜の表面に、第2の被験物質と結合する第2の官能基を有し、前記第1の被験物質と前記第2の被験物質、および前記第1の官能基と前記第2の官能基は、それぞれ、同一または異なるものであるアレイ素子も含まれる。 本発明には、上記のアレイ素子を用いて検出溶液中の被験物質を検知するセンシング方法であって、前記第1の被験物質を含む第1の検出溶液、および前記第2の被験物質を含む第2の検出溶液をそれぞれ、前記第1のチャネル層、および前記第2のチャネル層に接触させるステップと、前記第1の被験物質および前記第2の被験物質がそれぞれ、前記第1の官能基および前記第2の官能基に結合することによって生じる前記第1のチャネル層および前記第2のチャネル層の電位変化を検出して前記第1の被験物質および前記第2の被験物質を検知するステップと、を含むセンシング方法も含まれる。 本発明に係るグラフェン薄膜の製造方法は上記のように構成されているため、高移動度や高電気伝導度といったグラフェン本来が有する優れた電気的特性を備えたグラフェン薄膜を、簡便且つ安価に製造することができる。 上記製造方法によって得られるグラフェン薄膜を備えたFETのキャリア移動度は、例えば5cm2/V・s以上と非常に高く、単一基板上に均一な大面積薄膜を得ることができる。そのため、上記グラフェン薄膜は、FETなどの電子素子、バイオセンサーなどに代表されるセンサー、FETなどの電子素子を複数有するアレイ素子、当該アレイ素子を用いたセンシング方法などに適用可能である。これにより、同種または異種の、複数の被験物質を同時に、感度良く検出することができる。例えば、本発明の製造方法によって得られるグラフェン薄膜の表面に、ターゲットとなる被験物質と選択的に結合する官能基(例えば、核酸アプタマー、ペプチドアプタマーなどのアプタマー分子など)を配置させることにより、所望とする被験物質を選択的に検出することができる。よって、本発明の技術を用いれば、腫瘍マーカーや免疫反応検査などのように、製薬分野、診断医療分野といった広範囲の分野への応用、展開が期待できる。図1は、実験例1において、各還元処理を行なったときの、rGO−FETのチャネル長さ(Lc;μm)と移動度(cm2/V・s)との関係を示す図である。図2は、実験例2において、酸化グラフェン同士が一部重なり合ったものに各還元処理を行なったときの結果を示す図である。図3は、実験例2において、酸化グラフェン同士が一部重なり合ったものに各還元処理を行なったときの接合状態およびπ電子系の挙動を模試的に示す図である。図4は、エタノールを炭素源としたCVD処理後の酸化グラフェン薄膜からのラマンスペクトルと処理温度の関係、及びエタノールと通常のAr/H2還元処理後の酸化グラフェン薄膜からのラマンスペクトルの比較を示す図である。図5は、本発明の製造方法によって得られたグラフェン薄膜をチャネル層に有するFETによるセンシング原理を説明するための図である。図6は、本発明の製造方法によって得られたグラフェン薄膜をチャネル層に有するアレイ素子の一実施形態を示す図である。図7は、ワンチップ上にFETを複数、並列に配置したアレイ素子を用いたときのpHセンシングの結果を示す図である。図8は、ワンチップ上に上記FETを複数、並列に配置したアレイ素子を用いたときの、被験溶液中のタンパク質検出実験の結果を示す図である。 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねてきた。その結果、酸化グラフェンを還元してグラフェン薄膜を製造するにあたり、出発材料として複数の酸化グラフェンフレーク同士が一部重なり合っている酸化グラフェン薄膜を用い、これに炭素含有ガスを接触させて酸化グラフェンを還元すれば上記課題を解決できることを見出した。 従来、複数の酸化グラフェンフレーク同士が一部重なり合っている酸化グラフェン薄膜をヒドラジンにより還元すると、フレーク間で起こるキャリア散乱により移動度などのデバイス特性が、単一フレークの場合よりも大幅に低下することが前述した非特許文献1に報告されている。そのため、これまでは、出発材料として、このような酸化グラフェン薄膜を用いることは全く考えられていなかった。しかしながら、本発明者らの実験結果によれば、複数の酸化グラフェンフレーク同士が一部重なり合っている酸化グラフェン薄膜に炭素含有ガスを接触させて還元すると、予想に反し、高移動度や高電気伝導度といったグラフェン本来が有する優れた電気的特性を有効に発揮し得るグラフェン薄膜が得られることが分かった(後記する実験例1および2を参照)。 更に本発明者らの実験結果によれば、酸化グラフェンを還元してグラフェン薄膜を製造するにあたり、炭素含有ガスとしてエタノールなどのアルコールのみならず、炭化水素、炭化水素と水との混合物、アルコールと水との混合物、または炭化水素とアルコールと水との混合物を用いても上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。 本明細書において「酸化グラフェン薄膜を還元する」とは、酸化グラフェン薄膜からの酸素の脱離に加えて、酸化グラフェンのπ電子系の回復が促進され、グラフェンの構造が形成されることを意味する。 以下の記載では、酸化グラフェンをGOと略記する。また、酸化グラフェンを還元して得られる酸化グラフェンを、特にrGOと略記する場合がある。 はじめに、以下の実験例1および実験例2を用いて、複数のGOフレーク同士が一部重なり合っているGO薄膜に炭素含有ガスを接触させて得られるrGO薄膜は、高い移動度と低い電気抵抗を有しており、電気的特性に優れることを説明する。 (実験例1) まず、表面にSiO2膜(膜厚280nm)が形成されたSi基板(膜厚380μm)を準備した。次に、GO(Graphene Laboratories Inc.より入手)を水に希釈して100〜500mg/LのGO水溶液を調製した。このようにして得られたGO水溶液を上記のSi基板上に、スピンコート法により塗布し、1〜2層のGO同士が一部重なり合っているGO薄膜を作製した。スピンコート法の塗布条件は以下のとおりである。1000rpmにて60秒保持→10秒間かけて、1000rpmから3000rpmへ回転数を上げる→3000rpmにて60秒保持 次に、下記(I)または(II)の処理により上記GO薄膜を還元した。 (I)炭素源としてエタノールを用いたCVD処理(本発明例) エタノールの流量:0.5sccm キャリアガス(希釈ガス):Arガス中にH2を3%の割合で混合 キャリアガスの流量:100sccm 処理温度:900℃ 処理時間:60分 処理圧力:200Pa (II)Ar/H2雰囲気よる還元処理(従来例) Arガス中にH2を3%の割合で混合 加熱温度:900℃ 次に、このようにして還元されたrGO薄膜をチャネル層として、上記チャネル層に接続されるソース電極およびドレイン電極を、スパッタリング法により、それぞれ形成し、電界効果トランジスタ(rGO−FET)を作製した。なお、ソース電極およびドレイン電極の各材料には、Au(40nm)とNi(5nm)の積層材料を用いた。 次いで、上記rGO−FETの移動度を下式に基づいて算出した。 式中、Cgはゲート容量、Lcはチャネル長、Wchはチャネル幅、Vsdはソース・ドレイン電圧、Vgはゲート電圧、Isdはソース・ドレイン電流をそれぞれ意味する。 図1に、それぞれの還元処理を行なったときの、rGO−FETのチャネル長さ(Lc;μm)と移動度(cm2/V・s)との関係を示す。 ここで、平均的なGOフレークのサイズは1μm以下である。よって、図1において、チャネル長が1μm以下の区間はrGOフレークをチャネル層として有するFETの移動度を反映し、一方、チャネル長が1μm以上の区間は複数のGOフレークからなるrGO薄膜をチャネル層として有するFETの移動度を反映している。 まず、図1において単一フレーク領域に着目すると、本発明のようにアルコールCVD処理により還元したときのFETの移動度は約6.5cm2/V・sであり、従来のAr/H2処理を行なったときのFETの移動度(約0.4cm2/V・s)に比べて、一桁以上の著しい向上が認められた。これは、炭素源として用いたアルコール内の炭素がGOの構造修復を促進し、π電子系の回復が起ることで移動度が向上したためと推察される。 図1において、特に注目すべき点は薄膜領域の結果である。以下に詳述するように、本発明例による還元処理を行なえば、単一フレーク領域での高い移動度が、薄膜領域にかけても維持され、殆ど変化しなかった。 まず、炭素源を含まず従来の還元処理(Ar/H2)で還元したときのチャネル層であるrGOの移動度は、単一フレークの場合に比べ、移動度が著しく低下した。この実験結果は、前述した非特許文献1の結果とも合致しており、フレーク間の散乱の影響によりグラフェン薄膜の移動度が低下したと考えられる。 これに対し、本発明例のようにアルコールCVD処理による還元を行なった場合、チャネル層であるrGOの移動度は、単一フレーク領域から薄膜領域にかけて、殆ど変化しなかった。この結果は、アルコール内の炭素源によりπ電子系の回復・形成が促進される結果、GOフレーク間のキャリア散乱が抑制されたためと推察される。すなわち、それぞれのGOフレークのπ電子系が回復することによりフレーク間におけるπ−πスタックの相互作用が強められる;或いはフレークエッジのダングリングボンドがもう一方のダングリングボンドと結合することで、フレーク間のバリアが低下し、単一フレーク領域と同程度の移動度が観察されたものと考えられる。 (実験例2) ここでは、2つのGOフレークAおよびB同士が一部重なり合った試料を用いて以下の実験を行なった。 まず、上記試料に対し、前述した実験例1に記載の(I)または(II)の還元処理を行なった。但し、上記(I)のアルコール気相処理による処理温度は850℃とし、上記(II)のAr/H2による処理温度は1000℃とした。図2(a)に、還元処理後のrGOフレークの状態を示す。 次に、上記の各還元処理によって得られたrGOフレークにおいて、図2(a)に示す1と2の間、3と4の間(以上、単層領域)、および1と4の間、2と3の間、2と4の間、1と3の間(以上、フレーク同士が重なり合った領域)のシート抵抗を、以下のようにして算出した。まず、rGOフレークAの単層領域におけるシート抵抗ρA(単層)は、抵抗R(単層)(例えば電極1と2の間)を測定し、ρ12(単層)=R12(単層)/(LA/WA)に基づいて算出した。ここでWAおよびLAは、rGOフレークAの幅および長さの平均である。また、各フレークAおよびBが重なり合っている重複領域のシート抵抗ρA(重複)は、個々のρ(単層)および抵抗R(重複)(例えば電極1と4の間)を測定し、R(重複)=(WA/LA)ρA(単層)+(WB/LB)ρB(単層)+(W重複/L重複)ρ(重複)に基づいて算出した。ここでW重複およびL重複は、rGOフレークAおよびBが重なり合っている重複領域の幅および長さの平均である。 このようにして得られた結果を図2に示す。図2(b)は、アルコール気相処理(本発明例)を行なったときの結果であり、図2(c)は、Ar/H2による処理(従来例)を行なったときの結果である。 図2(c)に示すように、従来のAr/H2による還元処理では、単層領域のシート抵抗は80〜128MΩと非常に高く、フレーク同士が重なり合った重複領域のシート抵抗は、同等か、若しくは更に150MΩ程度まで増加した。この実験結果は、前述した非特許文献1の報告とも合致するものである。 これに対し、本発明のようにアルコール気相処理による還元を行なえば、シート抵抗はKΩレベルまで格段に低下した(図2(b)を参照)。更に驚くべきことに、単層領域のシート抵抗(約100〜250KΩ)に比べ、フレーク同士が重なり合った重複領域のシート抵抗の方が低減する傾向が見られ、最低で80KΩまで低下した(2と3の間)。上記の実験結果は、GOフレークとGOフレークの間ではキャリア散乱が避けられず、移動度が大幅に低下してしまうというこれまでの認識を大きく覆すものであった。 このように本発明の製造方法を用いれば、GOフレーク同士が一部重なり合ったGO薄膜を還元しても電気的特性に優れたグラフェン薄膜が得られる理由としては、アルコール内の炭素源種がGOフレークの構造修復を促進し、π電子系の回復が起きることで、フレーク同士が重なり合った領域の接合が非常に強くなったためと推察される。 図3は、上記現象を説明するための模式図である。図3(b)に示すように従来のAr/H2による還元処理を行なうと、フレーク同士が重なり合った領域の接合は非常に弱く、π電子系が局在化して全体に広がらない。そのため、シート抵抗が増加すると考えられる。これに対し、本発明のようにアルコール気相処理による還元を行なえば、図3(a)に示すように、π電子系が全体に広がるため、フレーク同士が重なり合った領域の接合は非常に強くなる。その結果、フレーク同士を一部重ねた場合でも、あたかも単一シートのような低いシート抵抗しか示さないと考えられる。 上記実験例1および実験例2の結果より、アルコール気相処理による還元を行なえば、GOフレーク同士が一部重なり合っている酸化グラフェン薄膜を用いて、電気的特性に優れたグラフェン薄膜を製造できることが確認された。 次に、本発明に係るグラフェン薄膜の製造方法について説明する。本発明の製造方法は、下記第1および第2の製造方法からなる。(1)第1の製造方法 複数のGOフレーク同士が一部重なり合っているGO薄膜を準備して、これに炭素含有ガスを接触させてGO薄膜を還元する方法;好ましくは、上記炭素含有ガスが、アルコールおよび/または炭化水素、或いは、アルコールおよび/または炭化水素に水蒸気を更に含むものであり;より好ましくは、上記アルコールがエタノールであり、上記炭化水素がアセチレンである方法。(2)第2の製造方法 GO薄膜に、炭素含有ガスとして、炭化水素、炭化水素と水との混合物、アルコールと水との混合物、または炭化水素とアルコールと水との混合物を用いる方法。 まず、第1の製造方法について説明する。 (1)第1の製造方法 本発明に係るグラフェン薄膜の製造方法のうち第1の製造方法は、複数のGOフレーク同士が一部重なり合っている酸化グラフェン薄膜を準備する工程と、前記GO薄膜に炭素含有ガスを接触させて前記GO薄膜を還元する工程と、を含むところに特徴がある。ここで、GO薄膜に炭素含有ガスを接触させてGO薄膜を還元する方法としては、代表的には気相化学成長法(CVD法)が挙げられる。 上記第1の発明と前述した非特許文献2に記載の方法を対比すると、両者は、炭素含有ガス(炭素源)としてエタノールを用いてCVD法による還元を行なう点で共通しているが、非特許文献2では、本発明のように出発材料として複数のGOフレーク同士が一部重なり合っているGO薄膜を用いず、単一(単層)のGOフレークを使用している点で相違する。詳細には、両者におけるCVD法による還元条件も相違する(詳細は後述する)。また、非特許文献2では、グラフェン薄膜を製造することは意図しておらず、単一(単層)のGOフレークが還元されたグラフェンフレークを製造する技術が開示されているに過ぎない。 まず、GOフレークを準備する。ここで、本発明に用いられるGOフレークは、サイズ(最大幅;最大長さ)の平均がいずれも、500nm以上2000nm以下(好ましくは1μm以上であり、大きければ大きいほどよい)を有する単一(単層)の小片である。上記GOフレークは、例えば、既知のバルクグラファイトの化学剥離により製造することができる。或いは、上記GOフレークとして市販品を用いることもできる。 次に、上記のGOフレークを用いて、GOフレーク同士が一部重なり合っているGO薄膜を作製する。上記GO薄膜は、例えば基板上にGOフレークの分散液を公知の方法によって塗布することにより得ることができる。その際、GOフレークの分散液の濃度や、スピンコートの塗布条件などを制御することによって、GO薄膜の層数や濃度を適切に調整することができる。 上記方法に用いられる基板は本発明の技術分野において通常用いられるものであれば特に限定されず、例えば、Si基板などが挙げられる。上記基板として、SiO2などが表面に形成されたものを用いても良い。 上記基板は、公知の表面改質処理によって基板表面を疎水性から親水性に改質することが好ましく、これにより、均一な大面積化グラフェン薄膜が得られる。上記表面改質処理は特に限定されず、例えば、UVオゾンを用いた洗浄法が挙げられ、UVオゾンクリーニング法が好ましい。本発明に用いられる好ましいUVオゾンクリーニング法の条件としては、例えば、以下のとおりである。3L/minで酸素ガスを5分間流入→酸素ガスの流入停止後、60分間UV照射 上記方法に用いられる分散液としては、GOフレークを分散し得るものであれば特に限定されないが、例えば、水、ジメチルホルムアミド(DMF)、エタノール、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルピロリドン(NMP)、アセトニトリル、ジメチルエーテル、トルエン;またはこれらを少なくとも二種以上含む混合物が挙げられる。GOフレーク分散液の好ましい濃度は、例えば、100〜500mg/Lの範囲である。 また、上記GOフレークの分散液を基板上に塗布する方法は特に限定されず、例えば、スピンコート法、キャスト法、転写法、各種の印刷方法などが挙げられる。これらのうち、スピンコート法は、均一性の高い薄膜を簡便に生成でき、膜厚の制御が可能なため、好ましく用いられる。例えば、濃度が100〜500mg/LのGO分散液を調製する場合の、スピンコートの好ましい塗布条件は、以下のとおりである。また、滴下回数を変えることによってGO薄膜の膜厚を制御することができる。500〜2000rpmにて30〜180秒保持→1〜10秒間かけて、目的の回転数に上げる→3000〜6000rpmにて30〜180秒保持 次に、上記のようにして得られたGO薄膜に炭素含有ガスを接触させる。 本発明に用いられる炭素含有ガスは、炭素を有していれば良く、その種類は特に限定されないが、アルコール若しくは炭化水素、または、アルコールと炭化水素の混合物が挙げられる。上記アルコールとして、例えば、炭素数が1〜2のアルコールが挙げられる。好ましくはエタノールである。また、上記炭化水素としては、例えば炭素数が1〜2の炭化水素が挙げられる。好ましくはアセチレンである。 上記炭素含有ガスは、更に水蒸気を含んでいてもよく、これにより、エッチングによるアモルファスカーボン構造の除去によるグラフェンの高品質効果が一層促進される。水蒸気の好ましい分圧は、例えば、0.01〜1Paの範囲である。 上記GO薄膜に炭素含有ガスを接触させてGO薄膜を還元する方法としては、代表的には、気相化学成長法(CVD法)が挙げられる。CVD法の種類は特に限定されず、熱CVD法、プラズマCVD法を用いることができる。 炭素含有ガスを用いてCVD法による還元を行なうにあたっては、以下のように制御することが好ましい。 まず、処理温度(還元温度)は高い程良く、これにより、グラフェンの結晶性向上を示すラマンスペクトルの比[2DバンドとGバンドとの強度比=I(2D)/I(G)]が増加する。図4に、エタノールを炭素源としたCVD処理後のGO薄膜からのラマンスペクトル、及び通常のAr/H2還元処理の比較を示す。図4に示すように、エタノールCVD処理は、通常のAr/H2処理と比較して、明らかにグラフェン薄膜の結晶性が向上している。さらに、1100℃の処理温度にてグラフェン薄膜を作製すると、ラマンスペクトルの上記比は0.7以上に高められる。ラマンスペクトルの上記比は、GOの還元や構造修復の進行とも密接に関連するため、処理温度を高くすることにより、これらの進行が一層促進される。但し、処理温度が高すぎると、CVD処理中において気相中で自発的熱分解反応により生成した炭素系分子同士の会合反応により炭素源ガスからアモルファスカーボンが生成され、これらがGO薄膜に堆積し、結晶性や電子特性の著しい劣化を引き起こしてしまう。好ましい処理温度は、例えば600〜2000℃の範囲である。ただし、気相条件の最適化により、例えば3000℃での処理も可能である。 上記と同様の理由により、処理時間(還元時間)も長い程良い。好ましい処理時間は、例えば60〜300分の範囲である。 更に、上記炭素含有ガスの流量や処理圧力を適切に制御することが好ましい。これにより、CVD処理後のグラフェン薄膜の品質が高められる。具体的には、炭素含有ガスの好ましい流量は、0.1〜2.0sccmである。炭素含有ガスの流量が多すぎると供給過剰になってアモルファスカーボンが生成され、電気的特性が低下する。一方、炭素含有ガスの流量が少なすぎると、当該ガス添加による効果が有効に発揮されず、グラフェン薄膜の構造修復効果が不十分である。同様の理由により、好ましい処理圧力は、100〜200Paである。 (第2の製造方法) 本発明に係るグラフェン薄膜の製造方法のうち第2の製造方法は、GO薄膜を準備する工程と、GO薄膜に、炭素含有ガスとして、アルコールと水との混合物、または炭化水素とアルコールと水との混合物を接触させてGO薄膜を還元する工程と、を含むところに特徴がある。 上記第2の製造方法は、下記の点でのみ前述した第1の製造方法と相違し、それ以外は第1の製造方法と同じであるため、重複部分の説明は省略し、相違点のみ説明する。 両者を対比すると、上記第2の製造方法では、出発物質としてGO薄膜を用いれば良く、上記第1の製造方法のようにGOフレーク同士が一部重なり合っているGO薄膜の使用に限定されない点で、第1の製造方法と相違する。よって、上記第2の製造方法では、単一のGO薄膜も用いることができる。上記単一のGO薄膜は、例えば、化学的剥離法によって作製することができる。 更に上記第2の製造方法では、炭素含有ガスとして、アルコール単独ガスを使用しない点で前述した第1の製造方法と相違する。第2の製造方法で用いられる炭素含有ガスは、前述した非特許文献2などに開示されておらず、新規である。上記炭素含有ガスの種類やCVD法などの上限は前述した第1の製造方法を参照すれば良い。 以上、本発明に係るGO薄膜の製造方法について説明した。 次に、本発明の電子素子、センサー、アレイ素子、および当該アレイ素子を用いたセンシング方法について説明する。 本発明の電子素子は、上記製造方法によって得られたグラフェン薄膜をチャネル層に有する。上記電子素子としては、電界効果トランジスタ(FET)、ダイオード、太陽電池などが挙げられる。本発明によれば、グラフェン薄膜を大面積で形成しても、単一フレークと同様に高い移動度を有し、キャリア密度が5cm2/V・s以上と非常に高い電子素子が得られる。そのため、本発明の電子素子は、例えばpHセンサー、バイオサンサーなどのサンサーとして好適に用いられる。 以下、図5を参照しながら、本発明の製造方法によって得られたグラフェン薄膜をチャネル層に有するFETによるセンシング原理を説明する。 図5(a)は、上記グラフェン薄膜をチャネル層に有するFETを備えたポテンショスタットを構成する図である。上記FETは、絶縁基板(例えば、SiO2が形成されたSi基板)と、チャネル層としてグラフェン薄膜と、上記グラフェン薄膜の両側に形成されたソース電極およびドレイン電極と、から構成される。ポテンショスタットには、参照電極RE(トップゲート電極)、カウンター電極CE、ワーキング電極WEが配置され、FETの電流および電圧が測定される。検出したい物質(イオンや電荷を有するタンパク質など)を含む電解液と接触するようにトップゲート電極が形成され、ゲート電圧が上記電解液を介して、センシング部位となるグラフェン薄膜チャネルに印加される。 図5(b)に示すように、FETは、グラフェン薄膜(チャネル)と、検出したい物質を含む電解液との界面で形成される電気二重層に起因するチャネルの電位変化を利用して検出物質を検知するセンサーとして作用する。例えば電解液中にイオンや電荷を有するタンパク質が含まれている場合、当該タンパク質がグラフェン薄膜の表面に近づくことで、イオンやタンパク質がキャパシタとして作用してグラフェン薄膜の表面に吸着し、グラフェン薄膜のポテンシャルが変調する。これにより、図5(c)に示すようにゲート電圧の基準電位が変化(右にシフト)し、FETのソース・ドレイン電流が変化する。これは、実効的にグラフェン薄膜にゲート電圧が印加されたことに等しい。よって、上記ソース・ドレイン電流の変化を測定することにより、イオンやタンパク質の吸着を検出することができる。 本発明の電子素子は、例えばpHセンサーとして有用であり、高い感度でpHの変化を検出することができる。例えば、緩衝溶液中のpHを段階的に変化させた場合、本発明の製造方法によって得られたグラフェン薄膜をチャネル層に有するFETを用いてFETのソース・ドレイン電流の変化を測定すると、上記ソース・ドレイン電流は、pHの変化に対応して明瞭に段階的な変化を示すようになる。 本発明によれば、電子素子の集積化が可能なため、電界効果トランジスタなどの電子素子を複数有するアレイ素子などに適用可能である。上記アレイ素子を用いたセンシング方法により、pHの段階的な変化を明瞭に検出することができる。或いは、複数の被験物質から特定の被験物質を選択的に、感度良く検出することができる。 以下、図6のアレイ素子を用いて本発明のセンシング方法を説明する。ただし、図6は、本発明に係るアレイ素子の一実施形態を示す図であって、本発明のアレイ素子はこれに限定する趣旨ではない。 図6に示すように、アレイ素子10は、基板1の上に、上記製造方法によって得られたグラフェン薄膜2と、少なくとも第1の電界効果トランジスタ7aと第2の電界効果トランジスタ7bを有する。グラフェン薄膜2は、少なくとも第1領域のグラフェン薄膜2aと第2領域のグラフェン薄膜2bとを有している。第1の電界効果トランジスタ7aは、第1領域のグラフェン薄膜2aを有する第1のチャネル層と、第1のチャネル層の両側に設置された第1のソース電極3aおよび第1のドレイン電極4aと、第1のゲート電極5aと、を有する。同様に第2の電界効果トランジスタ7bは、第2領域のグラフェン薄膜2bを有する第2のチャネル層と、第2のチャネル層の両側に設置された第2のソース電極3bおよび第2のドレイン電極4bと、第2のゲート電極5bと、を有する。 第1領域のグラフェン薄膜2aおよび第2領域のグラフェン薄膜2bの表面には、それぞれ、第1の被験物質および第2の被験物質と選択的に結合する第1の官能基および第2の官能基が結合されている。 ターゲットとなる第1の被験物質および第2の被験物質は同一であっても良いし、異なっていても良い。上記被験物質の種類は特に限定されず、例えば、DNA、抗体、タンパク質などが挙げられる。 第1および第2の官能基の種類は、被験物質の種類に応じて適宜選択され得る。例えば特定の抗体と選択的に結合する抗原、特定のDNAやペプチドと選択的に結合するDNAアプタマーやペプチドアプタマーなどのアプタマー分子などが挙げられる。 上記のアレイ素子を用いて検出溶液中の被験物質を検知するセンシング方法は、第1の被験物質を含む第1の検出溶液6a、および第2の被験物質を含む第2の検出溶液6bをそれぞれ、第1のチャネル層、および第2のチャネル層に接触させるステップと、第1の被験物質および第2の被験物質がそれぞれ、第1の官能基および第2の官能基に結合することによって生じる第1のチャネル層および第2のチャネル層の電位変化を検出して第1の被験物質および第2の被験物質を検知するステップと、を含む。 上記センシング方法によれば、前述した図5に示すセンシング原理により、同種または複数種の被験物質を同時に感度良く検出することができる。例えば、上記センシング方法において第1の被験物質と第2の被験物質が同じ場合、被験物質間のバラツキなどを検知することが可能である。また、上記センシング方法において第1の被験物質と第2の被験物質が異なる場合、種類の異なる被験物質を同時に感度良く検知することが可能である。 以下、図7および図8を参照しながら、本発明に係るアレイ素子およびセンシング方法の有用性について、更に詳しく説明する。 図7は、ワンチップ上に電界効果トランジスタ(FET)を複数、並列に配置したアレイ素子を用いたときのpHセンシングの結果を示す図である。いずれのFETにおいても、各pH値(pH=4.0、5.1、8.2)に対して明瞭なソース・ドレイン電流の変化が得られ、各素子の感度にバラツキは殆ど見られなかった。詳細には図中、ΔISDは、それぞれのFETについて、pHの変化(pH4.0からpH8.2)に対するソース・ドレイン電流ISDの変化を示しているが、いずれのFETにおいても、ΔISDは略同程度(約0.14μA±10%)であった。この結果は、均一な大面積グラフェン薄膜を、高感度で得られることを意味している。 図8は、ワンチップ上に上記FETを複数、並列に配置したアレイ素子を用いたときの、被験溶液中のタンパク質検出実験の結果を示す図である。被験溶液中には、ターゲットタンパク質のヒト免疫グロブリンE(IgE:50nM)と、非ターゲットタンパク質のウシ血清アルブミン(BSA:50nM)の両方が含まれている。また、本発明の製造方法によって得られたグラフェン薄膜の表面には、予めターゲットタンパク質のIgEとのみ選択的に結合するアプタマー分子としてIgEアプタマーが配置されている。 図8に示すように、非ターゲットタンパク質(BSA)を注入してもFETのソース・ドレイン電流の変化は認められなかったが、ターゲットタンパク質(IgE)を注入すると、FETのソース・ドレイン電流の変化が明瞭に観察された。すなわち、本発明のアレイ素子を用いれば、既存の表面プラズモン(SPR)と同程度の高い感度(nMレベル)で特定のタンパク質を選択的に検出できることが分かった。 上記では、一種類のターゲットタンパク質と選択的に結合するアダプター分子を用いて当該タンパク質を選択的に検出したが、本発明はこれに限定されない。多数のターゲットタンパク質を同時に検出したい場合は、前述した図6に示すように、第1領域のグラフェン薄膜および第2領域のグラフェン薄膜のそれぞれの表面に、各ターゲットタンパク質と特異的に結合する、異なる官能基を配置させれば良い。また、ターゲットとなる物質は、タンパク質に限定されない。 このように本発明の技術を用いれば、特定のタンパク質を選択的に高感度で検出できるため、例えば、簡便な腫瘍マーカーや免疫反応検査などのように製薬分野、診断医療分野といった広範囲の分野への応用、展開が期待できる。 1 基板 2 グラフェン薄膜 2a 第1領域のグラフェン薄膜 2b 第2領域のグラフェン薄膜 3a 第1のソース電極 3b 第2のソース電極 4a 第1のドレイン電極 4b 第2のドレイン電極 5a 第1のゲート電極 5b 第2のゲート電極 6a 第1の被験物質を含む第1の検出溶液 6b 第2の被験物質を含む第2の検出溶液 7a 第1の電界効果トランジスタ 7b 第2の電界効果トランジスタ 10 アレイ素子 複数の酸化グラフェンフレーク同士が一部重なり合っている酸化グラフェン薄膜を準備する工程と、 前記酸化グラフェン薄膜に炭素含有ガスを接触させて前記酸化グラフェン薄膜を還元する工程と、を含むことを特徴とするグラフェン薄膜の製造方法。 前記炭素含有ガスが、アルコールおよび/または炭化水素を含む請求項1に記載のグラフェン薄膜の製造方法。 前記炭素含有ガスが、更に水蒸気を含む請求項2に記載のグラフェン薄膜の製造方法。 前記アルコールがエタノールであり、前記炭化水素がアセチレンである請求項2または3に記載のグラフェン薄膜の製造方法。 前記酸化グラフェン薄膜を準備する工程に用いられる酸化グラフェン薄膜は、基板上に酸化グラフェンフレークの分散液をスピンコート法によって塗布して得られるものである請求項1〜4のいずれかに記載のグラフェン薄膜の製造方法。 酸化グラフェン薄膜を準備する工程と、 前記酸化グラフェン薄膜に、炭素含有ガスとして、炭化水素、炭化水素と水との混合物、アルコールと水との混合物、または炭化水素とアルコールと水との混合物を接触させて前記酸化グラフェン薄膜を還元する工程と、を含むことを特徴とするグラフェン薄膜の製造方法。 請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法によって得られたグラフェン薄膜をチャネル層に有する電子素子。 電界効果トランジスタである請求項7に記載の電子素子。 キャリア移動度が5cm2/V・s以上である請求項7または8に記載の電子素子。 請求項7〜9のいずれかに記載の電子素子を備えたセンサー。 同一基板上に、 請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法によって得られた少なくとも第1領域と第2領域とを有するグラフェン薄膜と; 前記第1領域のグラフェン薄膜を有する第1のチャネル層と、前記第1のチャネル層の両側に設置された第1のソース電極および第1のドレイン電極と、第1のゲート電極と、を有する第1の電界効果トランジスタと; 前記第2領域のグラフェン薄膜を有する第2のチャネル層と、前記第2のチャネル層の両側に設置された第2のソース電極および第2のドレイン電極と、第2のゲート電極と、を有する第2の電界効果トランジスタと;を有するアレイ素子であって、 前記第1領域のグラフェン薄膜の表面に、第1の被験物質と結合する第1の官能基を有し、 前記第2領域のグラフェン薄膜の表面に、第2の被験物質と結合する第2の官能基を有し、 前記第1の被験物質と前記第2の被験物質、および前記第1の官能基と前記第2の官能基は、それぞれ、同一または異なるものであることを特徴とするアレイ素子。 請求項11に記載のアレイ素子を用いて検出溶液中の被験物質を検知するセンシング方法であって、 前記第1の被験物質を含む第1の検出溶液、および前記第2の被験物質を含む第2の検出溶液をそれぞれ、前記第1のチャネル層、および前記第2のチャネル層に接触させるステップと、 前記第1の被験物質および前記第2の被験物質がそれぞれ、前記第1の官能基および前記第2の官能基に結合することによって生じる前記第1のチャネル層および前記第2のチャネル層の電位変化を検出して前記第1の被験物質および前記第2の被験物質を検知するステップと、を含むことを特徴とするセンシング方法。 【課題】酸化グラフェンを用いてグラフェン薄膜を製造する方法であって、グラフェン本来の高い移動度や高い電気伝導度などの優れた電気的特性を低下させることなくキャリア移動度が高いグラフェン薄膜を製造することが可能な製造方法を提供する。【解決手段】本発明に係るグラフェン薄膜の製造方法は、複数の酸化グラフェンフレーク同士が一部重なり合っている酸化グラフェン薄膜を準備する工程と、酸化グラフェン薄膜に炭素含有ガスを接触させて酸化グラフェン薄膜を還元する工程と、を含む。【選択図】図1


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