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タイトル:公開特許公報(A)_Y染色体及びY染色体上精子形成領域の欠失部位の分析方法
出願番号:2013089854
年次:2013
IPC分類:C12Q 1/68


特許情報キャッシュ

高 栄哲 並木 幹夫 岡田 英樹 嘉藤 香奈 阿部 由紀子 JP 2013236627 公開特許公報(A) 20131128 2013089854 20130422 Y染色体及びY染色体上精子形成領域の欠失部位の分析方法 国立大学法人金沢大学 504160781 株式会社医学生物学研究所 390004097 庄司 隆 100088904 資延 由利子 100124453 大杉 卓也 100135208 曽我 亜紀 100152319 高 栄哲 並木 幹夫 岡田 英樹 嘉藤 香奈 阿部 由紀子 JP 2012096303 20120420 C12Q 1/68 20060101AFI20131101BHJP JPC12Q1/68 A 10 OL 16 (出願人による申告)平成23年度 独立行政法人科学技術振興機構「研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラムフィージビリティスタディステージ探索タイプ」、産業技術力強化法19条の適用を受ける特許出願 4B063 4B063QA01 4B063QA17 4B063QQ03 4B063QQ42 4B063QR32 4B063QR56 4B063QR62 4B063QS25 4B063QS34 4B063QX02 本発明は、Y染色体及びY染色体上精子形成領域の欠失部位の分析方法による、男性不妊症の検査に関する。 挙児を希望するカップルの10%は不妊症であり、その半数は男性に起因している。男性不妊症で必要と考えられる検査は、Y染色体長腕の精子形成領域(Azoospermia Factor:AZF)における欠失部位の検査である。 精子形成に関与するゲノム領域はY染色体長腕上に存在している。1976年TiepoloらはY染色体長腕遠位部の精子形成候補領域をAZFと命名した(非特許文献1)。1996年Vogtらは、無・乏精子症患者のY染色体長腕上の微小欠失と精巣の組織表現型と比較した結果、3領域に微小欠失が集中していることを明らかにし、AZFa、AZFb、AZFcと分類し、AZFa欠失者の精巣組織型はSertoli cell only syndrome(SCO)、AZFb欠失者はmaturationarrestであり、AZFc欠失者は様々な表現型を示すと報告した(非特許文献2)。現在、AZFa、AZFb、AZFc領域を目安とした欠失分類が用いられている。 Y染色体ゲノムが2002年に解読されると、Y染色体遠位側にはY染色体特異産物(アンプリコン)があり、パリンドローム構造(回文構造)を呈していることがわかった。Y染色体特異産物領域には8つのパリンドローム構造(P1〜P8)があり、P1〜P3はさらに小さなサブアンプリコンに分割され、パリンドローム複合体を形成している(非特許文献3)。 染色体の再組換えは相同体とのペア間で生じる。一般に染色体間で再組換えが行われるのみならず、同一染色体内においても、相同組換えが頻繁に生じている。すなわち、ハプロイド染色体であるY染色体内でも再組換えが行われる。これによって、Y染色体の微小欠失は染色体内相同再組換えによって、欠失が生じると説明できることになった(非特許文献4)。(AZFaの欠失) AZFa領域には、直列リピートの2個のHERV(ヒト内在性レトロウイルス)15yq1とHERV15yq2があり、まったく相同な塩基配列ID1とID2が同方向にペアとなり存在する。このID1及びID2において相同組換えが生じた結果、欠失が生じたものと考えられる。この領域には、DFFRYとDDX3Y(DBY)が存在し、この領域の欠失は無精子症を惹起する。(AZFb,c) 従来、AZFb、AZFcとして分類されている領域はパリンドロームP1〜P5を含む(図1〜2)。AZFcにあるパリンドロームはさらに小さなサブパリンドローム複合体を形成している(図2〜3)。この複合体の中のリピート配列同士が相同組換えによって欠失し精子形成が障害される。{AZFcの欠失(b2/b4欠失)} AZFc領域の欠失は図2のサブアンプリコンb2とb4相同性(99.9%以上)によって、相同再組換えが生じた結果、BPY2、DAZ、CDY2が欠失したと考えられる。(gr/gr欠失) パリンドローム(g1,g2)、(r1,r3)、(r2,r4)間の再組換えによる欠失が考えられる(図2)。r1、r2、r3及びr4はそれぞれ遺伝子DAZ1/DAZ2、DAZ3/DAZ4が存在している。前者2つと後者2つはセットになっている。この欠失では、すべてのDAZが欠失することがないので、精子形成能が存在するとされている。したがって、gr/gr欠失は、約1.5Mbの大きな欠失にもかかわらず、欠失遺伝子がなく、臨床的障害を惹起しないと考えられている。ちなみにわが国のgr/gr欠失は、DAZ1/DAZ2欠失であり、ほぼ全男性の30%(縄文系)に存在し妊孕性に影響していないと考えられている(非特許文献5)。 全ゲノムが解明され、理論的に確立した欠失領域は、従来考えられていた欠失領域とは乖離が生じることとなった。また、Y遺伝子欠失のマーカーとして従来使用されていたマーカーは、多くがリピート配列上にあり、特異的に染色体上での位置を反映していなかった。 無精子症の患者の6%が、AZFの欠失患者である。無精子症による不妊のカップルには、精巣内精子採取術(TESE)や卵細胞質内精子注入術(ICSI)が施術される。しかし、AZF欠失の欠失部位によってはTESEが適応とならない。すなわちAZFa欠失、AZFb欠失とAZFb+c欠失はTESEによっても治療効果を得ることはできない。不要な身体的負担、医療費負担をかけないためには、AZFの欠失部位の分析は必須であり、欠失部位の診断を適時に正確に行う必要がある。 特許文献1では、患者検体からからのY染色体の特定の遺伝子座を増幅して得られたポリヌクレオチドをアガロース又はポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけ、正常男性検体から増幅して得られた対応するポリヌクレオチドと比較している。これら特許の出願時にはパリンドローム構造が解明されておらず、欠失部位が正確に解明されていないため正確な分析が困難であった。また、特許文献に記載の方法は電気泳動の操作が煩雑であり、時間がかかるものであった。特表2002−510962号公報Tiepolo,L.,Hum.Genet.,34:119,1976Vogt,P.H.,Hum.Mol.Genet.,5:933,1996高栄哲等、ホルモンと臨床 57(1) 59−65 2009Kuroda―kawaguchi et.al., Nat Genet 2001; 29:279-286.Sin HS et.al., Hum Reprod. 2010 Sep;25(9):2396-403. AZFの欠失部位を分析し、特定することにより、簡易、迅速、正確な男性不妊症の検査を可能にする分析方法を提供することを課題とする。 本発明は、上記課題を解決するために、AZFの欠失パターンを新規に分析する方法を提供する。すなわち、本発明は以下からなる。 1.sy2858欠失分析によりAZFc欠失を分析することを特徴とするY染色体及び/又はY染色体上精子形成領域の欠失部位の分析方法。 2.さらに、sy1191、sy1307及びsy1206から選択される1以上のSTSの欠失分析を含むことを特徴とする前項1に記載の分析方法。 3.sy1024、sy1967、sy1309、sy3199、sy1233、sy3010、sy2990及びsy1197から選択される1以上のSTSの欠失分析によりAZFb欠失を分析することを特徴とするY染色体及び/又はY染色体上精子形成領域の欠失部位の分析方法。 4.前項3の分析方法において、前項1又は前項2の分析方法を組み合わせることによりAZFb欠失、AZFc欠失及び/又はAZFb+c欠失を分析することを特徴とするY染色体及び/又はY染色体上精子形成領域の欠失部位の分析方法。 5.sy1324、sy1316及びsy1714から選択される1以上のSTSの欠失分析によりAZFa欠失を分析することを特徴とするY染色体及び/又はY染色体上精子形成領域の欠失部位の分析方法。 6.前項1〜3、5のいずれか2以上の分析方法を組み合わせることによりAZFa欠失、AZFb欠失、AZFc欠失及び/又はAZFb+c欠失を分析することを特徴とするY染色体及び/又はY染色体上精子形成領域の欠失部位の分析方法。 7.さらに、sy14、sy3118及びsy1251から選択される1以上のSTSの欠失分析を含むことを特徴とする前項6に記載の分析方法。 8.以下の(1)〜(19)からなる群から選択される1以上のSTSの欠失を分析することを特徴とするY染色体及び/又はY染色体上精子形成領域の欠失部位の分析方法。(1)sY14(2)sY3118(3)sY1251(4)sY1324(5)sY1316(6)sY1714(7)sY1024(8)sY1967(9)sY1309(10)sY3199(11)sY1233(12)sy3010(13)sy2990(14)sy1197(15)sy1191(16)sy1307(17)sy1206(18)sy2858(19)sy3159 9.前記(1)〜(19)からなる群から選択されるすべてのSTSの欠失を分析することを特徴とする前項8に記載の分析方法。10.下記のI〜VI群のそれぞれの群の1以上のSTSの欠失を分析することを特徴とするY染色体及び/又はY染色体上精子形成領域の欠失部位の分析方法。 I群 :(1)sY14、(2)sY3118、(3)sY1251 II群 :(4)sY1324、(5)sY1316、(6)sY1714 III群:(7)sY1024、(8)sY1967、(9)sY1309、(10) sY3199、(11)sY1233、(12)sy3010、(13) sy2990、(14)sy1197 IV群 :(15)sy1191、(16)sy1307、(17)sy1206 V群 :(18)sy2858 VI群 :(19)sy3159 本発明の分析方法は、AZFの欠失部位を効率的かつ網羅的に分析することを可能にした。また、1回の分析により、旧来のAZFだけでなく、Y染色体異常、Y染色体微小欠失(亜分類)及びY染色体多型も分析することから精子形成能の評価が可能である。 以上のとおり、本発明の分析方法は、AZFの欠失部位の有無及び複数の欠失部位の同時分析を可能にし、簡易、迅速、正確な検査を可能とし、多くの患者に正しい検査結果を提供できる。これにより、不要なTESE等の手術を回避し、患者に適切な治療を提供することができる。Y染色体のゲノム構造とAZFの位置を表す図である。サブパリンドロームを含むパリンドローム複合体、及びパリンドロームに基づく欠失部位を示す図である。AZFb、c領域におけるSTSの配置。STSの位置を含むY染色体マップである(出所:http://breakpointmapper.wi.mit.edu/mapper.html)。Y染色体微小欠失(主分類)の分析結果(図中の「1」は欠失なし、「0」は欠失ありを意味する)Y染色体異常の分析結果Y染色体微小欠失(亜分類)の分析結果Y染色体多型の分析結果(本発明のAZFの欠失部位の分析方法) 本発明は、下記表1に記載のAZFのSTS(シークエンスタグサイト:分子遺伝子のマッピングのアプローチのための道標として使用される染色体上のDNAの領域である)欠失を分析することを特徴とするAZFの欠失部位の分析方法に関する。本発明の分析方法を以下に詳細に説明する。 上記表1のsy757(番号0)はX染色体上のSTSであり、本発明の分析方法の陽性コントロールとして使用できる。 また、上記表1のsy1291(番号20)は、人種間によって欠失パターンが異なる。よって、必要に応じて、本発明の分析方法の検出対象のSTSに加える(参照:非特許文献5)。{精子形成領域(AZF)} 本発明における精子形成領域(AZF)は、Y染色体長腕上に存在する精子形成に関与するゲノム領域であり、そのゲノム上の位置と表現型からAZFa、AZFb、AZFcに分類される(参照:図1〜3)。(AZFの欠失部位) 本発明におけるAZFの欠失部位とは、AZF上の一部欠失領域である。Y染色体上のAZFのY染色体微小欠失(主分類)、Y染色体異常は精子形成に影響し、例えば、AZFa欠失、AZFb欠失及びAZFb+c欠失はTESEが適合にならない。{Y染色体微小欠失(主分類)} AZFのY染色体微小欠失(主分類)の分析では、AZFa欠失、AZFb(P5/proximal P1)欠失、AZFb+c欠失(P5/distal P1)及びAZFc欠失(b2/b4)の有無を分析する(参照:図5)。 医師、研究者及びその補助者は、AZFの主分類の分析結果を基にして、精子形成能の有無、さらに精子形成能レベルを判定することができる。(Y染色体異常) Y染色体異常の分析では、Y染色体欠失、Y染色体長腕欠失、Y染色体長腕部分欠失I(AZFa以遠)、Y染色体長腕部分欠失II(AZFb以遠)、Y染色体長腕部分欠失III(AZFb以遠)、Y染色体長腕部分欠失IV(AZFb以遠)、Y染色体長腕部分欠失V(AZFb以遠)及びY染色体長腕部分欠失VI(AZFb以遠)の有無を分析する(参照:図6)。 なお、Y染色体異常は、上記主分類の欠失に対応する。例えば、AZFb以遠の欠失はAZFbを含むAZFc及びY染色体長腕部のヘテロクロマチンを含んで欠失しているので、AZFb+c欠失に準じる。 これにより、Y染色体異常の分析結果は、上記AZFの主分類の分析結果と組み合わせることにより、網羅的かつ詳細な欠失部位を容易かつ高精度に検出することができる。{Y染色体微小欠失(亜分類)} Y染色体微小欠失(亜分類)の分析では、上記主分類では分類できない亜型であるYm-1 (P5+P4)欠失、Ym-2 (P5+P4)欠失、Ym-3 AZFb部分欠失、Ym-4 AZFb部分欠失、Ym-5 (P3欠失)欠失、Ym-6 (P1+P2+P3欠失)欠失、Ym-7 (P1+P2+P3欠失)欠失、Ym-8 (b1/b3欠失)欠失、Ym-8 (P3欠失)欠失、Ym-9 (P3欠失)欠失、Ym-10 (b2/b3欠失)欠失、Ym-11 (gr/gr欠失)欠失及びYm-12 (P1欠失)欠失の有無を分析する(参照:図7)。 Y染色体微小欠失(亜分類)の分析結果は、上記AZFの主分類の分析結果及びY染色体異常分析結果と組み合わせることにより、網羅的かつ詳細な欠失部位を容易かつより高精度に検出することができる。なお、上記亜分類、未だ臨床的な表現型が確立していない。(Y染色体多型分析) Y染色体多型分析(参照:図8)では、対象のSTSのいずれかに含まれ、臨床的表現型に影響を与えない1塩基欠失によるY染色体多型を検出し、Y染色体微小欠失(主分類)の分析結果及びY染色体異常分析結果と組み合わせることにより、網羅的かつ詳細な分析結果を反映することができる。(分析方法) 本発明のY染色体上精子形成領域の分析方法では、試料中のゲノムDNA上に存在するAZF領域のSTS(参照:上記表1)を、増幅用プライマーを用いて、該STSを増幅し、増幅産物を得る。さらに、STSの欠失部位を検出することができるプローブを使用して、該増幅産物を検出する。なお、各プローブは、各々対応するAZF上のSTSとハイブリダイズ可能であり、試料中のゲノム上の対応するSTSを検出できる。 本発明の分析方法は、例えば、患者ゲノムDNAから複数のプライマーを用いて増幅させるが、欠失のある場合は増幅されないので、ハイブリダイズされず欠失部位が検出されない。 本発明のY染色体上精子形成領域の分析方法では、下記実施例1のY染色体微小欠失(主分類)の結果より、最も多く検出されたAZFc欠失(b2/b4)を検出するためにsy2858の欠失を分析する。 さらに、AZFb+c欠失(P5/distal P1)及び/又はAZFc欠失(b2/b4)を検出するためにsy1191、sy1307及びsy1206から選択される1以上のSTSの欠失を分析する。 次に、AZFb欠失及び/又はAZFb+c欠失(P5/distal P1)を検出するためにsy1024、sy1967、sy1309、sy3199、sy1233、sy3010、sy2990及びsy1197から選択される1以上のSTSの欠失を分析する。 次に、AZFa欠失を検出するためにsy1324、sy1316及びsy1714から選択される1以上のSTSの欠失を分析する。 次に、Y染色体欠失を検出するためにsy14、sy3118、sy1251から選択される1以上のSTSの欠失を分析する。 また、本発明のY染色体上精子形成領域の分析方法の好適な実施態様では、上記表1の少なくとも1以上、好ましくは10以上、より好ましくは全てのSTSの欠失を分析する。 加えて、本発明のY染色体上精子形成領域の分析方法の別の好ましい実施態様では、下記のI〜VI群のそれぞれの群の1以上のSTSの欠失を分析する。 I群 :(1)sY14、(2)sY3118、(3)sY1251 II群 :(4)sY1324、(5)sY1316、(6)sY1714 III群:(7)sY1024、(8)sY1967、(9)sY1309、(10) sY3199、(11)sY1233、(12)sy3010、(13) sy2990、(14)sy1197 IV群 :(15)sy1191、(16)sy1307、(17)sy1206 V群 :(18)sy2858 VI群 :(19)sy3159(分析方法) 本発明の分析方法は、好ましくは以下の工程を含むが、特に限定されない。(1)試料中のゲノムDNAを抽出する工程(2)上記表1に記載のSTSの増幅用プライマーを用いて、抽出されたゲノムDNAを鋳型として、そのDNA上に存在する対応するSTSを増幅し、増幅産物を得る工程(3)該増幅産物とプローブをハイブリダイズさせる工程(4)該増幅産物と該プローブのハイブリダイズを検出する工程(試料) 本発明における試料は、ゲノムDNAを含む生物から得られる試料である、好ましくは哺乳動物由来であり、血液、体液、組織抽出物等を含む。好ましくはヒトの血液である。(DNAの抽出) 試料からDNAを抽出する方法は当該技術分野においてよく知られており,例えば,フェノール・クロロホルムによる抽出を用いることができる。あるいは市販のDNA抽出試薬を用いてもよい。(抽出されたゲノムDNA上のSTSの増幅) 抽出されたゲノムDNAをテンプレートとして、例えば、そのDNA上に存在する上記表1に記載のSTSをマルチプレックスPCRで増幅する。また、好ましくは、コントロールとしてSy757に対応したプライマーも使用する。プライマーの塩基配列は公知の塩基配列を用いることができる。なお、抽出されたゲノムDNAをテンプレートとすることより、PCR反応系に増幅用プライマーが存在しても、抽出されたゲノムに欠失があれば対応するSTSの増幅産物は生成されない。 プライマーは、自体公知の方法により(例えば汎用のDNA合成装置を用いて)化学的に合成して得ることができる。プライマーの長さは10〜40mer、好ましくは、15〜30merである。フォワードプライマーとリバースプライマーを合成しプライマーセットを調製する。(マルチプレックスPCR) テンプレートとして抽出されたゲノムDNA、選択されたプライマーセットを用いて、マルチプレックスPCRを用い、STSを増幅する。ポリメラーゼとしては例えばEx Taq(登録商標)(TakaraBio)を用いることができる。プライマーのTmに基づいて適当なPCR反応条件を選択する方法は当該技術分野においてよく知られている。(ラベル増幅産物の調整) PCR増幅産物の検出を容易にするために、ラベリングしたヌクレオチドを用いてPCRを行うことができる。このようなラベリング物質としては、当該技術分野においてよく知られる放射性同位体、蛍光物質、化学発光物質、ジゴキシゲニン(DIG)、ビオチン等を用いることができる。(ハイブリダイゼーション及び検出) ラベルされた増幅産物とプローブをハイブリダイズさせ、その後生成したハイブリッドを検出する。本発明の分析方法では、増幅産物とプローブのハイブリダイズが検出されなければ、対応するAZF部位は欠失していることを示す。 好ましくは、プローブはアレイ上に固定されており、ラベルされた増幅産物とアレイを接触させることにより、増幅産物とプローブをハイブリダイズさせ、その後生成したハイブリッドを検出する。アレイ上のプローブのハイブリダイズが検出されなければ、対応するAZF部位は欠失していることを示す。 なお、プローブは、自体公知の方法により(例えば、汎用のDNA合成装置を用いて)化学的にDNAオリゴマープローブを合成する。 ハイブリダイゼーション及び検出は,当該技術分野においてよく知られる方法により行うことができる。例えば、ハイブリダイゼーション後アレイ(メンブレン)をブロッキングしてアルカリフォスファターゼ標識抗DIG抗体、及びNBT/BCIPを用いて、プローブと増幅産物のハイブリッドを青く可視化する。そして、アレイの発色パターンと発色の強度を肉眼で観察し、AZFにおける欠失の有無及び欠失部位を分析し評価する。 本発明の分析方法は、好ましくは、Luminex社のLuminex(登録商標)システムを使用する。該システムは、同時に多数のAZFのSTSの欠失を高感度に検出することができる。 以下に示す実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。 男性不妊を主訴に受診した男性由来のY染色体上精子形成領域のSTSを分析して、Y染色体微小欠失(主分類)、Y染色体異常、Y染色体微小欠失(亜分類)及びY染色体多型を分析した。詳しくは、男性不妊を主訴に受診した男性血液由来DNAを鋳型とするPCRとLuminex(登録商標)システム(Luminex corp.)を使用したPCR-Luminex法にて、AZFにおける欠失部位の分析を行った。詳細は、以下の通りである。(血液からのDNA抽出) 男性不妊を主訴に受診した男性2013例から採取された血液から、市販キットを用いてDNAを抽出回収した。(マルチプレックスPCRによる増幅産物の調整) PCR反応液は、1〜5μLのDNAサンプル(50〜200ng)、0.2μM 各プライマー、200μM dNTPs、1×PCRバッファー(20 mM Tris-HCl (pH8.3), 30 mM KCl, 2.5 mM MgCl2)、0.625U Taq DNA Polymerase(Roche)を含む総量25μLとして調製した。各STS検出に対応するプライマー(STSの増幅用プライマー)は、公共データベースMSY Breakpoint Mapper (http://breakpointmapper.wi.mit.edu/mapper.html) を基に配列設計し、5'末端にビオチン標識したものを使用した。PCRプログラムは、「95℃で2分の熱変性後、95℃で30秒、61℃で30秒、72℃で60秒を45サイクル、さらに72℃で5分の最終伸長」であった。機器としてGeneAmp9700サーマルサイクラー(アプライドバイオシステムズ社製)を用いた。(PCR増幅産物と蛍光標識ビーズ上のブローブとのハイブリダイゼーション反応) 上記増幅後のPCR産物を、蛍光標識したビーズに固相結合した各STSの配列特異的プローブとハイブリダイゼーション反応させた。プローブは、各プライマーセットによる増幅領域に含まれる塩基配列を含む15〜30merのオリゴヌクレオチドであった。各プローブを、Luminex(登録商標)技術に基づき、様々な濃度で組み合わせた2色の蛍光色素で染色したマイクロビーズにコーティングしたカルボキシル基を介して結合させた。このプローブが結合したマイクロビーズとPCR産物を混合し、同一チューブ内でハイブリダイゼーション反応に用いた。ハイブリダイゼーション反応液は、5μL PCR産物、1×ハイブリダイゼーションバッファー(75mM Tris-HCl (pH8.0)、0.6mM EDTA (pH8.0)、0.15% 界面活性剤、4.5M 塩化テトラメチルアンモニウム)20μL、5μL プローブ結合ビーズを含む総量30μLとして調製した。ハイブリダイゼーション反応は、95℃で2分の後、52℃で30分インキュベートすることにより行った。続いて、50μLのPBS-Tween(1xPBS(pH7.5)、0.01% Tween−20)を添加して、2,000 g×1分で遠心して上清を廃棄し、さらに50μLのPBS-Tweenを添加して2,000 g×1分で遠心して上清を廃棄する洗浄操作を2回実施した。(ストレプトアビジン標識フィコエリスリン反応及び測定) ハイブリダイゼーション反応後、ストレプトアビジン標識フィコエリスリン(SA-PE)を反応液に加え、52℃で15分インキュベートすることによって、二次標識した。機器としてGeneAmp9700サーマルサイクラー(アプライドバイオシステムズ社製)を用いた。得られた反応液は、Luminex(登録商標)システム(Luminex corp.)に基づき、フローサイトメトリーの原理を応用したマイクロビースアレイ技術により、各STSマーカーに対応するプローブが結合したビーズのSA-PE由来蛍光値を検出した。マイクロビーズに結合したDNAは1測定あたり各々のビーズを最低50個ずつ測定し、定量されたPEの蛍光強度の中央値(MFI)を使用した。 なお、各プローブ結合ビーズの該中央値について個別のカットオフ値を設定し、その値以上であればSTSの欠失なし、以下であればSTSの欠失ありと判断した。個別のカットオフ値については、男性健常人及び女性健常人由来検体若しくはネガティブコントロール(蒸留水)から得られた数値を参照し設定した。(Y染色体上精子形成領域のSTSの欠失の分析結果) Y染色体微小欠失(主分類)の分析結果を図5、Y染色体異常の分析結果を図6、Y染色体微小欠失(亜分類)の分析結果を図7及びY染色体多型の分析結果を図8に示す。 図5〜8の結果から明らかなように、すべての男性不妊を主訴に受診した男性879名のY染色体上精子形成領域のSTSの欠失を分類することができた(37分類)。なお、1134名の男性不妊を主訴に受診した男性は、AZFの欠失が存在していなかった。 以上により、本発明の分析方法は、Y染色体上精子形成領域のSTSの欠失の有無及び複数の欠失部位の同時分析を可能にし、さらに簡易、迅速、正確な検査を可能とし、多くの男性不妊を主訴にする男性に正しい検査結果を提供できた。 本発明の分析方法は、簡易、迅速、そして正確な分析を可能とし、不妊治療をする多くの人々に正しい検査結果を提供し、患者に適切な治療を提供することを可能にする。 sy2858欠失分析によりAZFc欠失を分析することを特徴とするY染色体及び/又はY染色体上精子形成領域の欠失部位の分析方法。 さらに、sy1191、sy1307及びsy1206から選択される1以上のSTSの欠失分析を含むことを特徴とする請求項1に記載の分析方法。 sy1024、sy1967、sy1309、sy3199、sy1233、sy3010、sy2990及びsy1197から選択される1以上のSTSの欠失分析によりAZFb欠失を分析することを特徴とするY染色体及び/又はY染色体上精子形成領域の欠失部位の分析方法。 請求項3の分析方法において、請求項1又は請求項2の分析方法を組み合わせることによりAZFb欠失、AZFc欠失及び/又はAZFb+c欠失を分析することを特徴とするY染色体及び/又はY染色体上精子形成領域の欠失部位の分析方法。 sy1324、sy1316及びsy1714から選択される1以上のSTSの欠失分析によりAZFa欠失を分析することを特徴とするY染色体及び/又はY染色体上精子形成領域の欠失部位の分析方法。 請求項1〜3、5のいずれか2以上の分析方法を組み合わせることによりAZFa欠失、AZFb欠失、AZFc欠失及び/又はAZFb+c欠失を分析することを特徴とするY染色体及び/又はY染色体上精子形成領域の欠失部位の分析方法。 さらに、sy14、sy3118及びsy1251から選択される1以上のSTSの欠失分析を含むことを特徴とする請求項6に記載の分析方法。 以下の(1)〜(19)からなる群から選択される1以上のSTSの欠失を分析することを特徴とするY染色体及び/又はY染色体上精子形成領域の欠失部位の分析方法。(1)sY14(2)sY3118(3)sY1251(4)sY1324(5)sY1316(6)sY1714(7)sY1024(8)sY1967(9)sY1309(10)sY3199(11)sY1233(12)sy3010(13)sy2990(14)sy1197(15)sy1191(16)sy1307(17)sy1206(18)sy2858(19)sy3159 前記(1)〜(19)からなる群から選択されるすべてのSTSの欠失を分析することを特徴とする請求項8に記載の分析方法。 下記のI〜VI群のそれぞれの群の1以上のSTSの欠失を分析することを特徴とするY染色体及び/又はY染色体上精子形成領域の欠失部位の分析方法。 I群 :(1)sY14、(2)sY3118、(3)sY1251 II群 :(4)sY1324、(5)sY1316、(6)sY1714 III群:(7)sY1024、(8)sY1967、(9)sY1309、(10) sY3199、(11)sY1233、(12)sy3010、(13) sy2990、(14)sy1197 IV群 :(15)sy1191、(16)sy1307、(17)sy1206 V群 :(18)sy2858 VI群 :(19)sy3159 【課題】Y染色体及びY染色体上精子形成領域の欠失部位を分析し、特定することにより、簡易、迅速、正確な男性不妊症の検査を可能にする分析方法を提供することを課題とする。【解決手段】本発明は、上記課題を解決するために、Y染色体及びY染色体上精子形成領域の欠失パターンを新規に分析する方法を提供する。【選択図】なし


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