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タイトル:公開特許公報(A)_ヘパラナーゼ阻害剤及びヘパラナーゼ阻害剤のスクリーニング方法
出願番号:2013075157
年次:2014
IPC分類:A61K 31/702,A61K 38/45,A61K 45/00,A61P 35/00,A61P 35/04,A61K 35/76,A61P 43/00,A61K 31/727,A61K 31/7088,A61K 48/00,C12N 9/99,C12Q 1/02,G01N 33/50,G01N 33/15,C12N 15/09


特許情報キャッシュ

北川 裕之 灘中 里美 田村 純一 JP 2014198695 公開特許公報(A) 20141023 2013075157 20130329 ヘパラナーゼ阻害剤及びヘパラナーゼ阻害剤のスクリーニング方法 北川 裕之 511225701 灘中 里美 513082443 国立大学法人鳥取大学 504150461 福島 一 100170025 北川 裕之 灘中 里美 田村 純一 A61K 31/702 20060101AFI20140926BHJP A61K 38/45 20060101ALI20140926BHJP A61K 45/00 20060101ALI20140926BHJP A61P 35/00 20060101ALI20140926BHJP A61P 35/04 20060101ALI20140926BHJP A61K 35/76 20060101ALI20140926BHJP A61P 43/00 20060101ALI20140926BHJP A61K 31/727 20060101ALI20140926BHJP A61K 31/7088 20060101ALI20140926BHJP A61K 48/00 20060101ALI20140926BHJP C12N 9/99 20060101ALI20140926BHJP C12Q 1/02 20060101ALI20140926BHJP G01N 33/50 20060101ALI20140926BHJP G01N 33/15 20060101ALI20140926BHJP C12N 15/09 20060101ALN20140926BHJP JPA61K31/702A61K37/52A61K45/00A61P35/00A61P35/04A61K35/76A61P43/00 111A61K31/727A61K31/7088A61K48/00C12N9/99C12Q1/02G01N33/50 ZG01N33/15 ZC12N15/00 A 9 21 OL 39 2G045 4B024 4B063 4C084 4C086 4C087 2G045AA40 2G045BA14 2G045BB20 2G045BB22 2G045BB24 2G045CB01 2G045CB02 2G045DA14 2G045DA20 2G045DA30 2G045FB01 2G045FB06 2G045FB12 2G045GC15 4B024AA11 4B024CA04 4B024CA20 4B024DA02 4B024EA04 4B024GA13 4B063QA01 4B063QA05 4B063QA18 4B063QQ08 4B063QQ95 4B063QR77 4B063QR80 4B063QS05 4B063QS33 4B063QS38 4B063QX01 4B063QX07 4C084AA02 4C084AA17 4C084BA44 4C084CA62 4C084DC32 4C084NA14 4C084ZB261 4C084ZB262 4C084ZC201 4C084ZC202 4C086AA01 4C086AA02 4C086EA02 4C086MA01 4C086NA14 4C086ZB26 4C086ZC20 4C087AA01 4C087AA02 4C087BC83 4C087CA12 4C087NA14 4C087ZB26 4C087ZC20 本発明は、ヘパラナーゼ阻害剤及びヘパラナーゼ阻害剤のスクリーニング方法に関し、詳しくは、ヘパラン硫酸の繰り返し二糖単位に着目した新規なヘパラナーゼ阻害剤及びヘパラナーゼ阻害剤のスクリーニング方法に関する。 ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)は、種々の動物組織の細胞表面や細胞外マトリックスに遍在する高分子であり、コアのタンパク質に所定数の直鎖状のヘパラン硫酸(HS)が共有結合することで構成されている。このヘパラン硫酸には、bFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)、HGF(肝細胞増殖因子)、VEGF(血管内皮細胞増殖因子)、HB−EGF(ヘパリン結合EGF様増殖因子)等の増殖因子が結合しており、ヘパラン硫酸プロテオグリカンは、当該増殖因子を細胞外に蓄積させる働きを有していることで知られている。特に、ヘパラン硫酸プロテオグリカンは、表皮と真皮との境界部である基質膜に多量に存在し、基質膜の増殖因子の作用を制御している。 一方、細胞の基底膜の破壊に関与する酵素としてヘパラナーゼが知られている。このヘパラナーゼは、エンド−β−D−グルクロニダーゼと称し、種々のヘパラン硫酸プロテオグリカンのヘパラン硫酸を特異的に分解する酵素であり、血小板、白血球、内皮細胞、平滑筋細胞等の種々の細胞に存在する。このヘパラナーゼは、通常、表皮を構成する表皮角化細胞、真皮の線維芽細胞、血管内皮細胞等で産生されるとともに、ヒトの乳房、結腸、膀胱、前立腺、肝臓癌腫等の各種癌細胞で多量に産生される。 ここで、基底膜に存在するヘパラン硫酸プロテオグリカンのヘパラン硫酸が、例えば、正常細胞外に存在する癌細胞のヘパラナーゼにより分解されると、正常細胞の表皮の良好な増殖・分化の制御が破綻し、癌細胞が正常細胞内に浸潤する。又、ヘパラン硫酸の分解に伴い、当該ヘパラン硫酸に結合していた増殖因子が細胞外で遊離することになり、血管新生を亢進し、癌細胞の増殖及び転移を助長する。そのため、このヘパラナーゼの活性を効果的に阻害出来れば、癌細胞の増殖、転移、血管新生を抑制出来る可能性がある。 一方、従来より、ヘパラナーゼを阻害する物質としてヘパリンが存在する。このヘパリンは、様々な鎖長、硫酸化の程度を示す天然の多糖の不均一な混合物であり、肝臓、筋肉、肺、胸腺、脾臓等に存在している。このヘパリン及びヘパリン誘導体は、ヘパラナーゼの阻害活性により、癌細胞の増殖及び転移の抑制、血管新生の調整に用いられる場合があるものの、ヘパリン自体の抗凝血活性(抗血液凝固活性)により、癌の治療等においてヘパリン等の使用は制限されている。 従って、現在、より効果的なヘパラナーゼ阻害剤(ヘパラナーゼ活性阻害剤)が求められており、様々な観点から、新規なヘパラナーゼ阻害剤の研究開発が行われている。 例えば、特表2005−506326号公報(特許文献1)には、グリコサミノグリカン誘導体、特に脱硫酸化の程度が全ウロン酸単位の60%以下である脱硫酸化されたヘパリンの、ヘパラナーゼ阻害活性及び/又はbFGF増殖因子阻害活性を有する薬物の調製のための使用が開示されている。この誘導体は、ヘパリン様グリコサミノグリカンであるとしている。これにより、抗凝血活性を有さず、抗血管新生及びヘパラナーゼ阻害活性を有するヘパラナーゼ阻害剤を提供できるとしている。 又、特表2007−525494号公報(特許文献2)には、ヘパラナーゼの触媒活性に起因する又は関連する疾患及び障害を治療するための医薬組成物が開示されている。この医薬組成物は、薬学上許容される担体と、ベンゼン環等を有する特定の化合物及び薬学上許容されるそれらの塩の少なくとも1種のヘパラナーゼ阻害剤とを含有するとしている。これにより、癌、炎症性障害及び自己免疫疾患などの疾患及び障害の治療に適したヘパラナーゼ阻害剤を提供できるとしている。 又、特表平11−504018号公報(特許文献3)には、抗脈管形成剤、抗転移剤及び/又は抗炎症剤として使用されるオリゴ糖が開示されている。このオリゴ糖は、一般式I:R1−(Rx)n−R2(I)で示され、式(I)中、R1及びR2並びに各Rxは、単糖単位を表し、その全ては、同一または異なっており、隣接する単糖単位は、1−2、1−3、1−4及び/又は1−6グリコシド結合によって結合されており、nは、1〜6の整数である。又、単糖単位が、フルクトース、グルコース、マンノース、アルトロース、アロース、タロース、ガラクトース、イドース及びグロースからなる群から選択されるヘキソースであるとしている。これにより、抗脈管形成、抗転移、抗炎症として有効であるとしている。 又、ヘパラナーゼは、表皮と真皮との間の増殖因子の制御を崩壊させることから、表皮の肥厚を生じさせて、しわの形成を促進させることが知られている。そのため、しわ改善剤として、例えば、再表2011−040495号公報(特許文献4)には、所定の化学式で示された4−アルキルレソルシノールを有効成分として含んでなるヘパラナーゼ活性阻害剤及びしわ改善剤が開示されている。又、特開2011−74024号公報(特許文献5)には、所定の化学式で示されたテトラゾール誘導体、ナフタレン誘導体、シクロアルカノン誘導体から選択される1種又は2種以上の化合物を活性成分として含んでなるヘパラナーゼ活性阻害剤並びにそれを含有するしわ改善剤及び医薬組成物が開示されている。更に、特開2011−74027号公報(特許文献6)には、所定の化学式で示された桂皮酸誘導体を活性成分として含んでなるヘパラナーゼ活性阻害剤並びにそれを含有するしわ改善剤及び医薬組成物が開示されている。これらの有効成分は、しわの形成の予防又は抑制或いはヘパラナーゼ活性阻害による癌治療に好適であるとしている。 ところで、悪性度の高い癌細胞では、多量のヘパラナーゼが発現し、ヘパラン硫酸プロテオグリカンのヘパラン硫酸が多量に分解される。その際に、ヘパラン硫酸の特定の構造が多量に発現することから、その特徴を利用した発明が存在する。特開2010−281799号公報(特許文献7)には、癌組織の細胞質内に存在するヘパラン硫酸糖鎖分子中のGlcA−GlcNH3+構造の存在の程度を検出するステップを含む、癌の悪性度の検知方法が開示されている。又、他の観点では、GlcA−GlcNH3+構造に結合する抗体を含む、癌の悪性度の診断剤が開示されており、当該抗体が、JM403抗体であるとしている。これにより、簡便且つ正確に癌の悪性度を検知できるとしている。特表2005−506326号公報特表2007−525494号公報特表平11−504018号公報再表2011−040495号公報特開2011−74024号公報特開2011−74027号公報特開2010−281799号公報 しかしながら、特許文献1−6に記載の発明でも、未だに効果的なヘパラナーゼ阻害剤が存在しないという問題がある。更に、新たな発想に基づいた次世代のヘパラナーゼ阻害剤は全く存在しない。 一方、特許文献7に記載の発明のように、悪性度の高い癌には、特定の二糖単位のヘパラン硫酸が多量に発現するが、このような特定の二糖単位がどのような理由で発現しているのか不明であった。 そこで、本発明は、前記問題を解決するためになされたものであり、ヘパラン硫酸の繰り返し二糖単位に着目した新規なヘパラナーゼ阻害剤及びヘパラナーゼ阻害剤のスクリーニング方法を提供することを目的とする。 本発明者は、鋭意研究の結果、ヘパラン硫酸の繰り返し二糖単位の一種であるGlcA−GlcNH3+二糖単位を1つ以上有する少糖を有効成分として細胞に添加することで、当該細胞におけるヘパラナーゼの活性化を阻害することを初めて見出した。 即ち、本発明は、ヘパラナーゼ阻害剤であって、ヘパラン硫酸の繰り返し二糖単位の一種であるGlcA−GlcNH3+二糖単位を1つ以上有する少糖を有効成分とすることを特徴とする。 又、本発明は、ヘパラナーゼ阻害剤であって、細胞内において、ヘパラン硫酸の繰り返し二糖単位の一種であるGlcA−GlcNH3+二糖単位を1つ以上有する少糖の発現量を増加させる、EXTL3を含む化合物Xを有効成分とすることを特徴とする。 又、本発明は、ヘパラナーゼ阻害剤であって、細胞内において、ヘパラン硫酸の繰り返し二糖単位の一種であるGlcA−GlcNH3+二糖単位を1つ以上有する少糖の発現量の増加に関与するEXTL3の発現量を増加させる化合物Yを有効成分とすることを特徴とする。 又、前記少糖は、細胞内のリソソームに取り込まれることで、ヘパラナーゼの活性化を阻害する。 又、前記少糖の有効濃度は、10μM−500μMの範囲内である。 又、本ヘパラナーゼ阻害剤は、高転移性の乳癌細胞に用いられる。 又、本ヘパラナーゼ阻害剤は、ヘパラナーゼ活性に関する症状の治療用又は予防用の薬剤として用いられる。 又、本発明は、被験物質が、細胞内における前記少糖又はEXTL3の発現量を増加させるか否かを指標とするヘパラナーゼ阻害剤のスクリーニング方法として提供することが出来る。 即ち、本発明は、ヘパラナーゼ阻害剤のスクリーニング方法であって、ヘパラン硫酸の繰り返し二糖単位の一種であるGlcA−GlcNH3+二糖単位を1つ以上有する少糖を発現可能な細胞と被験物質とを接触させるステップと、前記細胞における前記少糖の発現量を測定するステップと、前記被験物質を接触させない対照細胞における前記少糖の発現量と比較して、前記少糖の発現量を増加させる被験物質を選択するステップとを備えることを特徴とする。 又、本発明は、ヘパラナーゼ阻害剤のスクリーニング方法であって、ヘパラン硫酸の繰り返し二糖単位の一種であるGlcA−GlcNH3+二糖単位を1つ以上有する少糖の発現量の増加に関与するEXTL3を発現可能な細胞と被験物質とを接触させるステップと、前記細胞における前記EXTL3の発現量を測定するステップと、前記被験物質を接触させない対照細胞における前記EXTL3の発現量と比較して、前記EXTL3の発現量を増加させる被験物質を選択するステップとを備えることを特徴とする。 本発明のヘパラナーゼ阻害剤及びヘパラナーゼ阻害剤のスクリーニング方法によれば、ヘパラン硫酸の繰り返し二糖単位に着目した新規なヘパラナーゼ阻害剤及びヘパラナーゼ阻害剤のスクリーニング方法を提供することが可能となる。各種のヒト乳癌細胞におけるJM403エピトープ構造の発現をELISA法で測定した結果を示す図と、ヒト乳癌細胞の細胞表面受容体による分類表とである。JM403で染色した高転移性のヒト乳癌細胞(MDA-MB-231、BT549)の共焦点顕微鏡画像(Negative control、JM403)である。ヒト乳癌細胞におけるヘパラナーゼ遺伝子の発現量を示す図である。ヒト乳癌細胞における浸潤した細胞の数を示す図である。3種類のヘパラン硫酸の繰り返し二糖単位をそれぞれ有する3種類の少糖を示す図である所定の濃度における各種の少糖のヘパラナーゼ阻害活性を示す図である。少糖TD4-143-1の存否によるヒト乳癌細胞内のヘパラン硫酸の量を示す図である。少糖TD4-143-1の存否によるヒト乳癌細胞内の生存率を示す図である。少糖TD4-143-1の存否によるヒト乳癌細胞の浸潤能を示す図である。少糖TD4-143-1の存否によるヒト乳癌細胞(MDA-MB-231、BT549)の染色後の共焦点顕微鏡画像(GM130、JM403、Merge)である。少糖TD4-143-1の存否によるヒト乳癌細胞(MDA-MB-231、BT549)の染色後の共焦点顕微鏡画像(Lamp-1、JM403、Merge)と、少糖TD5-60-6の存否によるヒト乳癌細胞(MDA-MB-231、BT549)の染色後の共焦点顕微鏡画像(Lamp-1、JM403、HepSS-1、Merge)とである。少糖TD4-143-1又はTD5-60-6を添加したヒト乳癌細胞(MDA-MB-231、BT549)の染色後の共焦点顕微鏡画像(Lamp-1、JM403、HepSS-1)の拡大図である。マウス線維芽細胞(L)、EXTL3ノックダウン細胞(L-shEXTL3)、EXTL3過剰発現細胞(L-EXTL3)のヘパラン硫酸の二糖解析結果である。EXTL3ノックダウン細胞とEXTL3過剰発現細胞における各フラクションサイズ毎のヘパラン硫酸の存在確率を示す図である。EXTL3ノックダウン細胞とEXTL3過剰発現細胞におけるフローサイトメーターの結果である。hNDST-1と人工的に構築した欠失変異体の模式図である。FLAGのタグが付加されたhNDST-1を単独又はhEXTL3とともに発現させた場合のN-硫酸基転移酵素活性の測定結果である。ProteinAが融合されたhNDST-1の欠失変異体を単独又はhEXTL3とともに発現させた場合のN-硫酸基転移酵素活性の測定結果である。hNDST-1(1-882)を単独又はhEXTL3とともに発現させた場合のN-脱アセチル化酵素活性を示す図である。通常の癌細胞の増殖及び転移の過程段階を示す模式図である。本発明の少糖並びにEXTL3(化合物X)の発現量を増加させる化合物Yの細胞内動態及び細胞内におけるEXTL3の作用部位を示す模式図である。細胞内におけるヘパラン硫酸の二糖単位の生合成機構を示す模式図である。GlcA−GlcNH3+二糖単位を有する少糖のヘパラナーゼ阻害活性と抗凝血活性を説明する模式図である。 以下に、添付図面を参照して、本発明のヘパラナーゼ阻害剤及びヘパラナーゼ阻害剤のスクリーニング方法の実施形態について説明し、本発明の理解に供する。尚、以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。 <ヘパラナーゼ阻害剤> 先ず、本発明で着目するヘパラン硫酸の繰り返し二糖単位(繰り返し単位、二糖構造、基本骨格等)は、複数存在する繰り返し二糖単位のうち、GlcA−GlcNH3+二糖単位である。上述の特許文献7に記載のように、悪性度の高い癌細胞では、細胞内のヘパラン硫酸の糖鎖分子中の繰り返し二糖単位のうち、GlcA−GlcNH3+二糖単位が多量に発現することは知られていた。ここで、前記二糖単位におけるGlcAはD-グルクロン酸残基を、GlcNH3+はD-グルコサミン残基を、−はグルコシド結合をそれぞれ示す。しかしながら、GlcA−GlcNH3+二糖単位が多量に発現する理由は定かではなかった。 一方、正常細胞内のヘパラン硫酸の糖鎖分子中の繰り返し二糖単位は、通常、GlcA−GlcNAc二糖単位か、GlcA−GlcNS二糖単位で殆ど構成されており、GlcA−GlcNH3+二糖単位はあまり見られない。ここで、GlcNAcは、N−アセチル−D−グルコサミン残基であり、GlcNSは、N−スルホ−D−グルコサミン残基である。 そこで、本発明者は、癌細胞において多量に発現するGlcA−GlcNH3+二糖単位は、細胞自身の自衛を目的とした何らかの信号ではないかと考え、後述する実施例に基づいて、細胞内におけるGlcA−GlcNH3+二糖単位の機能を解明し、本発明を完成させたのである。 即ち、本発明は、ヘパラナーゼ阻害剤であって、ヘパラン硫酸の繰り返し二糖単位の一種であるGlcA−GlcNH3+二糖単位を1つ以上有する少糖を有効成分とすることを特徴とする。 これにより、本発明の少糖を癌細胞又は正常細胞に添加(投与)すると、細胞内に容易に浸透し、リソソームに直行して取り込まれる。ここで、リソソームでは、ヘパラナーゼを活性化させる機能を有するが、本発明の少糖がリソソームに取り込まれることで、後述する実施例により、当該ヘパラナーゼの活性化を阻害することが判明した。そのため、本発明の少糖は、ヘパラナーゼの活性化を効果的に阻害し、癌細胞の増殖、転移及び血管新生を確実に抑制することが可能となる。 又、本発明の少糖は、元来、細胞表面や細胞外マトリックスに存在するヘパラン硫酸の繰り返し二糖単位を含む構成であるため、細胞の生存率に悪影響が無い。そのため、従来と比較して安全性に優れるヘパラナーゼ阻害剤を提供することが可能となる。 更に、本発明の少糖は、アンチトロンビンIII結合配列に必要な修飾構造を有していないため、抗凝血活性を有さない。従って、本発明は、抗癌性、抗転移性、抗血管新生性、安全性を有するとともに、抗凝血活性を有さない画期的なヘパラナーゼ阻害剤となるのである。 ここで、本発明の少糖に1つ以上有するGlcA−GlcNH3+二糖単位は、D-グルクロン酸残基の1位の水酸基とD-グルコサミン残基の4位の水酸基とをグリコシド結合し、当該D-グルコサミン残基のアミノ基が未修飾である二糖単位である。又、少糖におけるD-グルコサミン残基は、6位が水酸基のままである通常のD-グルコサミン残基であっても、6位の水酸基が硫酸基であるD-グルコサミン残基(N−スルホ−D−グルコサミン−6−硫酸)であっても構わない。又、GlcA−GlcNH3+二糖単位は、JM403抗体で認識される構成、つまり、D-グルコサミン残基のアミノ基が未修飾である構成であれば、D-グルクロン酸残基の水酸基又は/及びD-グルコサミン残基の水酸基が硫酸基等の置換基であっても未修飾であっても構わない。 又、本発明の少糖は、例えば、下記の化学式(1)で表すことが出来る。 ここで、繰り返し二糖単位数nは、数〜数十の範囲内である。 本発明の少糖とは、前記繰り返し二糖単位数が数〜数十の範囲内で直列する糖類を意味し、オリゴ糖を含み、前記繰り返し二糖単位数が数十〜数百以上直列する多糖とは全く異なる。又、前記少糖は、1種類の少糖であっても、複数種の少糖の混合物であっても良く、本明細書に記載の少糖は、これら両方の意味を包含する。 尚、細胞内のヘパラン硫酸は、平均分子量が約380kDa程度であって、多糖と少糖との混合物であるため、本発明の少糖の鎖長に対応する繰り返し二糖単位数の鎖長がヘパラン硫酸に数%〜数十%の範囲内で含まれる場合がある。 又、本発明の少糖における末端基(D-グルコサミン残基の4位の水酸基又はD-グルコサミン残基の1位の水酸基)は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定は無く、例えば、水酸基、炭素数1〜10の直鎖、分岐又は環状のアルキル基、アルコキシ基、ビニル基、ベンジル基、アリル基、アリール基等が挙げられる。 又、本発明の少糖は、繰り返し二糖単位数が一定である均一化合物であっても繰り返し二糖単位数が所定の範囲内に含まれる不均一化合物であっても構わない。 又、本発明の少糖は、細胞に対して外来性であっても、内在性であっても良く、例えば、公知の有機合成方法、生化学合成方法、酵素を用いた合成方法により生成された少糖であっても、公知の抽出方法により細胞から抽出された少糖であっても構わない。 又、本発明の少糖の二糖単位の繰り返し単位数は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定は無いが、例えば、1−26の範囲内であると好ましく、1−10の範囲内であると更に好ましい。これにより、少糖のサイズがリソソームに取り込まれやすいサイズになり、ヘパラナーゼの阻害活性を効果的に発揮させることが可能となる。 又、本発明の少糖の有効濃度は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定は無いが、例えば、10μM−500μMの範囲内であると好ましく、50μM−200μMの範囲内であると更に好ましい。これにより、リソソームへ取り込まれる少糖の量が増加することになり、ヘパラナーゼの阻害活性を確実に実現することが可能となる。 又、本発明のヘパラナーゼ阻害剤が用いられる細胞は、正常細胞でも癌細胞でも良く、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定は無いが、例えば、高転移性の乳癌細胞、結腸癌細胞、膀胱癌細胞、前立腺癌細胞、肝臓癌細胞等のヘパラナーゼの発現量が多い癌細胞であると好ましい。これにより、癌細胞が多量に発現するヘパラナーゼの活性化を効果的に阻害させることが可能となる。 更に、本発明は、細胞内の前記少糖を多量に発現させるという観点に基づいて、細胞内において、前記少糖の発現量を増加させる、EXTL3を含む化合物Xを有効成分とすることを特徴とする。このように構成しても、上述と同様の作用効果を得ることが可能となる。 ここで、本発明の化合物Xは、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定は無いが、例えば、前記少糖、少糖様化合物、少糖誘導体等の化合物、酵素、タンパク質、ペプチド、核酸、天然もしくは合成化学的に調製された有機化合物、無機化合物等が挙げられる。尚、本発明の化合物Xは、当該化合物Xの製薬学的に許容される塩も含まれ、又、当該化合物Xを異常発現する細胞であっても構わない。 又、本発明の化合物Xは、ヘパラン硫酸中のGlcA−GlcNH3+二糖単位の発現量を特異的に増加させるEXTL3、EXTL3様化合物、EXTL3誘導体であると特に好ましい。ここで、EXTL3(exostoses (multiple)-like3、heparan sulfate GlcA/GlcNAc transferase like 3)とは、NDST−1(Glucosaminyl N-deacetylase/N-sulfotransferase 1)のN-硫酸基転移酵素活性を阻害する酵素である。又、NDST−1とは、ヘパラン硫酸に対してN-脱アセチル化酵素活性とN-硫酸基転移酵素活性とを兼ね備える酵素である。前記EXTL3が細胞内に添加されると、細胞内のNDST−1のN-硫酸基転移酵素活性が阻害され、当該NDST−1のN-脱アセチル化酵素活性のみ機能し、細胞内のヘパラン硫酸の繰り返し二糖単位のうち、GlcA−GlcNH3+二糖単位の発現量が特異的に増加する。ヘパラン硫酸には、少糖から多糖までを含む混合物であるから、GlcA−GlcNH3+二糖単位を有する少糖が、細胞内で増加し、上述のようにリソソームへ取り込まれて、ヘパラナーゼの活性化を阻害することになる。 又、本発明の化合物Xが、EXTL3である場合、細胞内のNDST−1は、ヘパラン硫酸に対してN-脱アセチル化酵素活性とN-硫酸基転移酵素活性とを兼ね備えていることが好ましい。前記NDST−1が、例えば、遺伝子工学的手法等の公知の技術により産生され、二つの酵素活性を兼ね備えていない場合、EXTL3が、ヘパラン硫酸のGlcA−GlcNH3+二糖単位の発現量を増加させることが出来ない可能性がある。 又、本発明の化合物Xは、当該化合物Xをコードする遺伝子Xであっても良く、例えば、少糖をコードする遺伝子X、EXTL3をコードする遺伝子X等が挙げられ、更に、当該遺伝子Xの発現量を増加させる化合物であっても当該遺伝子Xを含有する細胞であっても構わない。 更に、本発明は、細胞内の前記EXTL3を多量に発現させるという観点に基づいて、ヘパラナーゼ阻害剤であって、細胞内において、前記EXTL3の発現量を増加させる化合物Yを有効成分とすることを特徴とする。このように構成しても、上述と同様の作用効果を得ることが可能となる。 ここで、本発明の化合物Yは、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定は無いが、例えば、前記EXTL3、EXTL3様化合物、EXTL3誘導体等の化合物、酵素、タンパク質、ペプチド、核酸、天然もしくは合成化学的に調製された有機化合物、無機化合物等が挙げられる。尚、本発明の化合物Yは、当該化合物Yの製薬学的に許容される塩も含まれ、又、当該化合物Yを異常発現する細胞であっても構わない。 又、本発明の化合物Yは、当該化合物Yをコードする遺伝子Yであっても良く、更に、当該遺伝子Yの発現量を増加させる化合物であっても当該遺伝子Yを含有する細胞であっても構わない。 更に、近年、大腸癌細胞において、前記EXTL3のプロモーターがメチル化されることにより、当該EXTL3の発現量が減少されること及び前記EXTL3のプロモーターのメチル化を検出するプライマーが報告されている(Karibe, T. et al. (2008) J. Pathol. 216, 32-42)。この報告を考慮すれば、本発明の化合物Yは、前記EXTL3のプロモーターの脱メチル化を亢進する化合物であっても構わない。 <薬剤> 本発明は、本ヘパラナーゼ阻害剤を、ヘパラナーゼ活性に関する症状の治療用又は予防用の薬剤として用いても良い。本発明の薬剤は、そのまま若しくは公知の薬学的に許容される担体、賦形剤、希釈剤、増量剤、結合剤、滑沢剤、流動助剤、崩壊剤、界面活性剤、慣用の添加剤等と混合して医薬組成物(医薬品、治療剤、治療薬、治療用医薬、予防用医薬等)として調製することが出来る。 又、本発明の薬剤は、調製する形態に応じて、全身的に又は局所的に、経口投与又は非経口投与することが出来る。調整する形態は、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、乳剤、懸濁液等の経口投与剤や注射剤、点滴剤、外用剤、坐剤等の非経口投与剤が挙げられる。又、非経口投与する場合には、静脈投与、皮内投与、皮下投与、直腸投与、経皮投与すること等が可能である。 又、本発明の薬剤は、経口投与剤として用いる場合、例えば、許容される通常の担体、賦型剤、結合剤、安定剤、希釈剤等に有効成分を配合することにより製造することが出来る。又、本発明の薬剤は、非経口投与剤として用いる場合、例えば、許容される緩衝剤、溶解補助剤、等張剤等を添加することが出来る。 又、本発明の薬剤の投与量は、有効成分の種類、投与経路、投与対象又は患者の年齢、体重、症状等によって異なり、一概に規定できないが、通常、経口の場合には、成人で1日あたり有効成分量として数mg〜2g程度、好ましくは5mg〜数十mg程度を、1日1回〜数回に分けて投与することが出来る。非経口(注射)の場合には、成人で有効成分量として約0.1mg〜約500mgを投与すればよく、1日の投与量を1回〜数回に分けて投与することが出来る。 又、本発明の薬剤は、遺伝子治療剤として使用する場合、本発明の薬剤を注射により直接投与する方法のほか、核酸が組込まれたベクターを投与する方法が挙げられる。ベクターとしては、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター等が挙げられ、これらのウイルスベクターを用いることにより効率よく投与することが出来る。 又、本発明の薬剤は、リポソームなどのリン脂質小胞体に導入し、その小胞体を投与することも可能である。例えば、本発明の薬剤を保持させた小胞体をリポフェクション法により所定の細胞に導入する。そして、導入された細胞を、例えば、静脈内、動脈内等に全身投与する。癌細胞を含む組織等に局所的に投与することも出来る。 又、本発明の薬剤の対象となる、ヘパラナーゼ活性に関する症状は、例えば、癌細胞の増殖又は転移、血管新生、皮膚の老化等が挙げられる。具体的には、原発性腫瘍、転移、糖尿病性網膜症、乾癬、水晶体後線維増殖症、血管形成術後再狭窄、冠状動脈バイパス、炎症、関節炎、自己免疫疾患、同種移植片拒絶、循環器疾患、繊維増殖疾患、グッドパスチャー症候群、急性糸球体腎炎、新生児肺性高血圧、喘息、うっ血性心不全、成人性肺性高血圧、腎脈管高血圧、増殖性網膜症、実験的自己免疫脊髄脳炎、多発性硬化症、インシュリン依存性糖尿病、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病等が挙げられる。 又、本発明の薬剤における治療は、ヘパラナーゼ活性に関する症状においてヘパラナーゼの活性化を阻害させる効果の他に、当該症状の発生を抑制する予防的な効果も含まれる。又、本発明は、ヘパラナーゼ活性に関する症状の完全な治療効果を有する必要は無く、部分的な治療効果を有する場合であっても構わない。 又、本発明の薬剤における治療又は予防は、ヘパラナーゼ活性に関する症状の発生を抑制する又は進行を維持又は抑止出来ればよく、更に、予防と治療とを明確に区別されなくてもよい。 <ヘパラナーゼ阻害剤用化合物> 本発明は、ヘパラナーゼ阻害剤用の化合物であって、ヘパラン硫酸の繰り返し二糖単位の一種であるGlcA−GlcNH3+二糖単位を1つ以上有する少糖を有効成分とすることを特徴とする。このような構成であっても、上述と同様の作用効果を得ることが可能となる。尚、本発明に係るヘパラナーゼ阻害剤用の化合物における少糖等の設計事項は、上述したヘパラナーゼ阻害剤と同様であるため、省略する。 <ヘパラナーゼ活性に関する症状の治療方法> 本発明は、ヘパラナーゼ活性に関する症状の治療方法であって、ヘパラン硫酸の繰り返し二糖単位の一種であるGlcA−GlcNH3+二糖単位を1つ以上有する少糖を有効成分とするヘパラナーゼ阻害剤を前記症状の患者に投与することを特徴とする。このような構成であっても、上述と同様の作用効果を得ることが可能となる。尚、本発明に係るヘパラナーゼ活性に関する症状の治療方法における少糖等の設計事項は、上述したヘパラナーゼ阻害剤と同様であるため、省略する。 <ヘパラナーゼ阻害剤のスクリーニング方法> 本発明は、被験物質が、細胞内における前記少糖又はEXTL3の発現量を増加させるか否かを指標とするヘパラナーゼ阻害剤のスクリーニング方法として提供することが出来る。 即ち、本発明は、前記少糖の発現量を指標とする場合、ヘパラナーゼ阻害剤のスクリーニング方法であって、前記少糖を発現可能な細胞と被験物質とを接触させるステップと、前記細胞における前記少糖の発現量を測定するステップと、前記被験物質を接触させない対照細胞における前記少糖の発現量と比較して、前記少糖の発現量を増加させる被験物質を選択するステップとを備えることを特徴とする。これにより、ヘパラン硫酸の繰り返し二糖単位に着目した新規なヘパラナーゼ阻害剤を効率よくスクリーニングすることが可能となる。尚、本発明に係るヘパラナーゼ阻害剤のスクリーニング方法における少糖等の設計事項は、上述したヘパラナーゼ阻害剤と同様であるため、省略する。 ここで、被験物質は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定は無く、例えば、酵素、タンパク質、ペプチド、核酸、天然もしくは合成化学的に調製された有機化合物、無機化合物等が挙げられ、例えば、上述した化合物Xに対応する。 又、対照細胞は、前記少糖を発現可能な細胞において、被検物質を接触させない場合の当該細胞を示し、例えば、被験物質の代わりに被験物質と同量の溶媒(ブランク)を添加した細胞や前記少糖の発現に影響を与えないネガティブコントロール物質を添加した細胞等が挙げられる。又、被験物質と細胞とを接触させる条件は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定は無く、当該細胞が死なないように、その培養条件(温度、pH、培地組成など)を大きく変化させない条件を採用すればよい。 又、前記少糖を発現可能な細胞と接触させる被験物質の有効濃度としては、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定は無く、通常、約0.1μM〜約100μMであればよく、好ましくは、1μM〜50μMであればよい。又、被験物質は、適宜、水、リン酸バッファーもしくはトリスバッファー等のバッファー、エタノール、アセトン、ジメチルスルホキシドもしくはこれらの混合物等の溶媒に溶解又は懸濁して用いることが出来る。 又、前記少糖の発現レベルの検出及び定量は、前記少糖の種類に応じて、当該少糖を検出及び定量可能な公知の方法に従って実施出来る。 又、被験物質を添加した細胞における前記少糖の発現量が、被験物質を添加しない対照細胞における前記少糖の発現量と比較して1.3倍以上、好ましくは1.5倍以上、更に好ましくは2.0倍以上であれば、該被験物質を、本化合物の発現誘導物質として選択することが出来る。 ところで、本発明は、EXTL3の発現量を指標とする場合、ヘパラナーゼ阻害剤のスクリーニング方法であって、前記EXTL3を発現可能な細胞と被験物質とを接触させるステップと、前記細胞における前記EXTL3の発現量を測定するステップと、前記被験物質を接触させない対照細胞における前記EXTL3の発現量と比較して、前記EXTL3の発現量を増加させる被験物質を選択するステップとを備えることを特徴とする。これにより、上述と同様の作用効果を得ることが可能となる。尚、この場合の被験物質は、例えば、上述した化合物Yに対応する。 又、前記EXTL3の発現レベルの検出及び定量は、当該EXTL3を検出及び定量可能な公知の方法に従って実施出来、例えば、当該EXTL3を認識する抗体を用いたウェスタンブロット法等の公知の方法に従って定量出来る。 更に、本発明は、EXTL3をコードするEXTL3遺伝子の発現量を指標とする場合、ヘパラナーゼ阻害剤のスクリーニング方法であって、前記EXTL3遺伝子を発現可能な細胞と被験物質とを接触させるステップと、前記細胞における前記EXTL3遺伝子の発現量を測定するステップと、前記被験物質を接触させない対照細胞における前記EXTL3遺伝子の発現量と比較して、前記EXTL3遺伝子の発現量を増加させる被験物質を選択するステップとを備えることを特徴とする。これにより、上述と同様の作用効果を得ることが可能となる。 ここで、EXTL3遺伝子は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定は無く、例えば、使用する細胞の内在性のEXTL3遺伝子、外来遺伝子として細胞に導入されたEXTL3遺伝子のいずれか又はこれらの組み合わせでも良い。又、外来遺伝子として導入する場合、EXTL3遺伝子は、用いられる細胞の由来動物種のEXTL3遺伝子であることが好ましい。例えば、脂肪組織由来細胞、本遺伝子発現ベクターを導入されてなる形質転換細胞等が挙げられる。由来動物種としては、ラット、マウス、モルモット等のげっ歯類哺乳動物、イヌ、サル、ヒト等が挙げられる。又、前記細胞としては、動物の組織や臓器から分離された細胞や同一の機能・形態を持つ集団を形成している細胞(組織)等も含まれ、いかなる分化過程にある細胞であってもよい。 又、EXTL3遺伝子の発現レベルの検出及び定量は、前記細胞から調製したRNA又はそれから転写された相補的なポリヌクレオチドを用いて、RT-PCR法、ノーザンブロット法等の公知の方法で実施すれば良い。具体的には、EXTL3遺伝子の塩基配列において連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド又はその相補的なポリヌクレオチド又はこれらの組み合わせをプライマー(又はプローブ)として用いることによって、RNA中のEXTL3遺伝子の発現の有無やその発現レベルを検出、測定することが出来る。そのようなプライマーは、EXTL3遺伝子の塩基配列に基づいて、例えば、primer3(HYPERL INK社製)あるいはベクターNTI(Infomax社製)を利用して設計することが出来る。 又、RT-PCR法を利用する場合は、細胞由来のRNAから常法に従ってcDNAを調製して、これを鋳型として標的のEXTL3遺伝子の領域が増幅出来るように、EXTL3遺伝子の塩基配列に基づき調製した一対のプライマー(前記cDNA(−鎖)に結合する正鎖、+鎖に結合する逆鎖)をこれとアニーリングさせて、常法に従ってPCR法を行い、得られた増幅二本鎖DNAを検出する方法を挙げることが出来る。尚、増幅された二本鎖DNAの検出は、前記PCRを予めRIや蛍光物質で標識しておいたプライマーを用いて行うことによって産生される標識二本鎖DNAを検出する方法、産生された二本鎖DNAを常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーさせて、標識した前記プライマーをプローブとして使用してこれとハイブリダイズさせて検出する方法等を用いることが出来る。 又、被験物質を添加した細胞におけるEXTL3遺伝子の発現量が、被験物質を添加しない対照細胞におけるEXTL3遺伝子の発現量と比較して1.3倍以上、好ましくは1.5倍以上、更に好ましくは2.0倍以上であれば、該被験物質を、本遺伝子の発現誘導物質として選択することが出来る。 又、本発明は、他の観点から、EXTL3遺伝子の発現制御領域を用いたレポーター遺伝子アッセイを用いるスクリーニング方法として採用することが出来る。即ち、本発明は、ヘパラナーゼ阻害剤のスクリーニング方法であって、前記EXTL3遺伝子の発現制御領域を機能可能な形で連結されてなるレポーターEXTL3遺伝子を含有する細胞と被験物質とを接触させるステップと、当該細胞における前記レポーターEXTL3遺伝子の発現量を測定するステップと、前記被験物質を接触させない対照細胞における前記レポーターEXTL3遺伝子の発現量と比較して、前記レポーターEXTL3遺伝子の発現量を増加させる被験物質を選択するステップとを備えることを特徴とする。このように構成しても、上述と同様の作用効果を得ることが可能となる。 ここで、EXTL3遺伝子の発現制御用域とは、通常、当該染色体遺伝子の上流数kbから数十kbの範囲を示し、例えば、5’−RACE法、オリゴキャップ法、S1プライマーマッピング等の通常の方法により、5’末端を決定する第一のステップと、Genome Walker Kit(クローンテック社製)等を用いて5’−上流領域を取得し、得られた上流領域について、プロモーター活性を測定する第二のステップとを備える手法等により同定することが出来る。 又、EXTL3遺伝子の発現制御領域を機能可能な形で連結されてなるレポーターEXTL3遺伝子は、当業者に公知の方法で調製すればよい。例えば、通常の遺伝子工学的手法に従って切り出されたEXTL3遺伝子の発現調節領域を、レポーターEXTL3遺伝子を含むプラスミド上に組み込むことが出来る。 又、レポーターEXTL3遺伝子としては、グルクロニダーゼ(GUS)、ルシフェラーゼ、クロラムフェニコールトランスアセチラーゼ(CAT)、β−ガラクトシダーゼ及びグリーン蛍光タンパク質(GFP)等が挙げられる。又、レポーターEXTL3遺伝子を、通常の遺伝子工学的手法を用いて、当該レポーターEXTL3遺伝子を導入する細胞において使用可能なベクターに挿入し、プラスミドを作製し、適当な宿主細胞へ導入することが出来る。レポーターEXTL3遺伝子に応じた選抜条件の培地で培養することにより、形質転換細胞を得ることが出来る。 又、レポーターEXTL3遺伝子の発現量を測定する方法としては、個々のレポーター遺伝子に応じた方法を利用すればよい。例えば、レポーターEXTL3遺伝子としてルシフェラーゼ遺伝子を用いる場合には、前記形質転換細胞を数日間培養後、当該細胞の抽出物を得て、次いで当該抽出物をルシフェリン及びATPと反応させて化学発光させ、その発光強度を測定することによりプロモーター活性を検出することが出来る。この際、市販のルシフェラーゼ反応検出キットを用いることが出来る。 又、上述の報告(Karibe, T. et al. (2008) J.Pathol. 216, 32-42)を考慮すれば、本発明は、前記EXTL3のプロモーターの脱メチル化を指標とする場合、ヘパラナーゼ阻害剤のスクリーニング方法であって、前記EXTL3のプロモーターを発現可能な細胞と被験物質とを接触させるステップと、前記細胞における前記EXTL3のプロモーターの脱メチル化量を測定するステップと、前記被験物質を接触させない対照細胞における前記EXTL3のプロモーターの脱メチル化量と比較して、前記EXTL3のプロモーターの脱メチル化量を増加させる被験物質を選択するステップとを備えることを特徴とする。これにより、上述と同様の作用効果を得ることが可能となる。尚、前記EXTL3のプロモーターの脱メチル化量を測定する方法は、例えば、前記EXTL3のプロモーターのメチル化を検出するプライマーを用いて測定すればよい。 以下に、本発明の実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の適用が本実施例に限定されるものでない。 ヒト乳癌細胞と細胞培養 ヒト乳癌細胞株としてMCF-7、T47D、HCC1954、MDA-MB-231、BT549を採用した。ヒト乳癌細胞株MCF-7(ATCC HTB-22)、T47D(ATCC HTB-133)、HCC1954(ATCC CRL-2338)、BT549(ATCC HTB-122)は、ATCCより入手した。又、ヒト乳癌細胞株MDA-MB-231(Cat.EC92020424-F0)は、ECACCより入手した。ヒト乳癌細胞は、10%ウシ胎仔血清(非動化処理済)、100units/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシン(ナカライテスク社製)を含む培地(RPMI-1640、WAKO社製)で5%のCO2下37度で培養した。 参考例1:ELISA法を用いた各種のヒト乳癌細胞におけるヘパラン硫酸中のGlcA−GlcNH3+二糖構造の定量解析 <手順> ヒト乳癌細胞に含まれるヘパラン硫酸中のGlcA−GlcNH3+の二糖構造をELISA法により定量解析した。先ず、細胞を直径10cmのディッシュで培養し、培養後のディッシュ10枚分の細胞を集めて回収し、遠心により冷アセトン中でホモジナイズした。次に、遠心後に得られた沈殿物を乾燥させて細胞パウダーとし、乾燥重量を測定した。一方、この細胞パウダーの乾燥重量の1/50のアクチナーゼEと10mMのCaCl2と0.1Mホウ酸緩衝液(pH8.0)とを含む溶液を55度で30分間前処理した後、前処理後の溶液を細胞パウダーに加え、55度で2日間消化した。消化後、5%のトリクロロ酢酸を用いてタンパク除去を行った後、エーテル抽出してトリクロロ酢酸を除去し、エーテル抽出後の水層を中和し、凍結乾燥し、PD MiniTrap G-10カラム(GE Healthcare社製)によって脱塩を行った。脱塩後、Micro spinColumn(HARVARD APPARATUS社製)を用いた陰イオンカラムによって精製し、精製後のサンプルを0.15MのNaClを含むリン酸緩衝液(PBS)で洗浄し、更に、1.5MのNaClを含むPBSで溶出した。この溶出画分には目的の硫酸化糖が含まれるため、PD MiniTrap G-10カラムを用いて脱塩を行い、凍結乾燥した。又、このサンプルには、ヘパラン硫酸以外にコンドロイチン硫酸が含まれるため、コンドロイチナーゼABC(生化学工業社製)で消化して、PD MiniTrap G-10カラムで脱塩し、コンドロイチン硫酸由来の二糖を除去した。得られたヘパラン硫酸の量をカルバゾール反応で定量した。 又、ヘパラン硫酸の最終濃度が1mg/mLとなるように、約10μgのヘパラン硫酸に0.1MのMES-NaOHの緩衝液(pH5.5)を10μL添加して溶解し、溶解後の溶液に、Biotin-LC-Hydrazideを2.5μg、カップリング剤としてEDC(水溶性カルボジイミド)を0.25μLだけ添加して、室温で遮光下一晩反応させた(ビオチン化)。そして、Amicon Ultra(Ultracel-5k)(Millipore社製)を用いて限外ろ過を行い、過剰な試薬を除いた。一方、NuncImmobilizer Streptavidinプレート(Nunc社製)を0.1%のTween20を含むPBSで洗浄し、洗浄後のウェルに、40μg/mLのビオチン化標識したヘパラン硫酸を添加した。そして、室温で1時間反応後、0.1%のTween20を含むPBSで洗浄し、2%のウシ血清アルブミンを含むPBS(ブロッキング溶液)を用いて室温30分間ブロッキングを行った。その後、0.1%のTween20を含むPBSで洗浄後、ブロッキング溶液で100倍に希釈したJM403抗体(生化学工業社製)を添加し、4度で一晩反応させた。そして、0.1%のTween20を含むPBSで洗浄後、ブロッキング溶液で1000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識抗マウスIgM+IgG(H+L)抗体(AffinityPure社製)を添加し、室温で2時間反応させた。更に、0.1%のTween20を含むPBSで洗浄後、ABTSsubstrate kit(Vector Laboratories社製)を用いて室温30分間、発色反応を行い、マイクロプレートリーダーモデル550(Bio-Rad社製)を用いて吸光度の波長を405nmとして吸光度を測定した。 <結果> 図1は、各種のヒト乳癌細胞におけるJM403エピトープ構造の発現をELISA法で測定した結果示す図と、ヒト乳癌細胞の細胞表面受容体による分類表(Tang, P. et al. (2009) Diagn.Mol. Pathol. 18, 125-132)とである。JM403は、ヘパラン硫酸中のGlcA−GlcNH3+二糖構造をエピトープ(抗体が認識する抗原の一部分)とする抗体である(van den Born, J. Et al. (2005) J. Biol.Chem. 280, 20516-20523、Fujii,M. Et al. (2010) Glycoconj. J. 27, 661-672、特許文献7等)。そのため、JM403の染色による405nmの吸光度は、ヘパラン硫酸中のGlcA−GlcNH3+二糖構造の量に対応する。図1に示すように、ヒト乳癌細胞のうち、MDA-MB-231、BT549は、特に、ヘパラン硫酸中のGlcA−GlcNH3+二糖構造が多量に発現していることが理解される。又、このヒト乳癌細胞(MDA-MB-231、BT549)は、分類表に基づいて、ヒト乳癌細胞のうち、高転移性のBasal-like型に分類される。そのため、高転移性のヒト乳癌細胞では、ヘパラン硫酸中のGlcA−GlcNH3+二糖構造が多量に発現することが確認出来た。 参考例2:ヒト乳癌細胞におけるヘパラン硫酸中のGlcA−GlcNH3+二糖構造の顕微鏡観察 <手順> 高転移性のヒト乳癌細胞(MDA-MB-231、BT549)におけるヘパラン硫酸中のGlcA−GlcNH3+二糖構造を顕微鏡により観察した。先ず、直径3.5cmのガラスボトムディッシュ(IWAKI社製)上で培養したヒト乳癌細胞(MDA-MB-231、BT549)を0.15MのNaClを含むPBSで洗浄後、4%のパラホルムアルデヒドを含むPBSを用いて氷上20分間固定した。次に、PBSで洗浄した後、0.2%のTritonX-100を含むPBSで室温10分間透過処理を行った。そして、2%のウシ血清アルブミンと0.1%のTween20を含むPBS(ブロッキング溶液)を用いて室温1時間ブロッキングを行った後、ブロッキング溶液を用いて500倍に希釈したJM403を細胞に加え、4度で一晩反応させた。更に、0.1%のTween20を含むPBSで洗浄後、ブロッキング溶液で1000倍に希釈したDylight488標識抗マウスIgM抗体(Rockland antibodies and assays社製)と室温1時間反応させ、0.1%のTween20を含むPBSで洗浄後、5μg/mLのヘキスト33342で核を染色した。そして、PBSで洗浄後、共焦点顕微鏡(LSM700、Carl Zeiss社製)を用いて観察した。 <結果> 図2は、JM403で染色した高転移性のヒト乳癌細胞(MDA-MB-231、BT549)の共焦点顕微鏡画像(Negative control、JM403)である。図2に示すように、JM403で認識されるヘパラン硫酸中のGlcA−GlcNH3+二糖構造は、細胞外ではなく、細胞内に遍在していることが確認出来た。 参考例3:RT-PCR法を用いたヘパラナーゼ遺伝子発現量の定量解析 <手順> ヒト乳癌細胞(MCF-7、T47D、HCC1954、MDA-MB-231、BT549)におけるヘパラナーゼ遺伝子(HSPE-1)の発現量をRT-PCR法により定量解析した。先ず、各細胞を直径6cmのディッシュで培養し、PBSで洗浄後、1mLのTRIzole(Invitrogen社製)で回収し、常法に従ってtotalRNA(tRNA)を単離した。次に、2IUのRQ1 RNase-free DNase(Promega社製)を用いて1μgのtRNAを37度で30分間消化後、反応停止溶液(Promega社製)を添加し、65度で10分間処理した。そして、0.75μgのtRNAを鋳型としてM-MLV逆転写酵素(Invitrogen社製)及びrandom primers(nonadeoxyribonucleotidemixture,pd(N)9)(タカラバイオ社製)を用いてcDNAを合成した。ここで、RT-PCR法は、FastStart DNA Master plus SYBR Green Iを用い、LightCycler1.5(Roche Applied Science社製)により行った。内部標準としてハウスキーピング遺伝子の一つであるGAPDH(glyceraldehyde-3-phosphatedehydrogenase、配列番号1)を用いた。 各遺伝子のプライマーの塩基配列を下記に示す。 Human GAPDH 5’プライマー(フォワードプライマー):5’−ATGGGTGTGAACCATGAGAAGTA−3’(配列番号2) 3’プライマー(リバースプライマー):5‘−GGCAGTGATGGCATGGAC−3’(配列番号3) Human heparanase(HSPE−1) 5’プライマー:5‘−TTGCTATCCGACACCTTTGC−3’(配列番号4) 3’プライマー:5‘−CACGCTTGCCATTAACACCT−3’(配列番号5) <結果> 図3は、ヒト乳癌細胞におけるヘパラナーゼ遺伝子の発現量を示す図である。図3に示すように、高転移性のヒト乳癌細胞(MDA-MB-231、BT549)におけるヘパラナーゼ遺伝子の発現量が、他のヒト乳癌細胞のそれと比較して顕著に増加していることが確認できた。 参考例4:ヒト乳癌細胞の浸潤能の定量解析 <手順> ヒト乳癌細胞(MCF-7、T47D、HCC1954、MDA-MB-231、BT549)における浸潤能を浸潤した細胞の数をカウントすることで算出した。先ず、BD MatrigelTM Invasion Chamber 24-well Plate 8.0 Micon (BDBiosciences社製) のインサート及びウェルの底にRPMI-1640を0.5ml添加し、37度、5%のCO2の条件で2時間水和した後、10%のウシ胎仔血清を含むRPMI-1640をウェルの底に0.75ml加えた。そして、5.0×104個の細胞を含む懸濁液を室温20分間反応させた。その後、水和処理したインベージョンチャンバーに細胞を添加し、37度で22時間培養した後、インサートを取り出し、マトリゲル(細胞培養用の人工基底膜マトリックス)を綿棒で拭き取った後、メンブランをギムザ染色し、浸潤した細胞をカウントした。 <結果> 図4は、ヒト乳癌細胞における浸潤した細胞の数を示す図である。図4に示すように、高転移性のヒト乳癌細胞(MDA-MB-231、BT549)における浸潤した細胞の数が、他のヒト乳癌細胞のそれと比較して顕著に増加していることが確認出来た。これにより、上述の参考例3のヘパラナーゼの発現量の増加により、ヒト乳癌細胞の浸潤能が高まることが確認出来た。 <GlcA−GlcNH3+二糖単位を1つ以上有する少糖の効果について> 実施例1:各種の少糖のヘパラナーゼ阻害活性 <少糖の選択> 先ず、ヘパラン硫酸中の繰り返し二糖単位を有する少糖を3種類選択した。この少糖は、公知の方法により人工的に有機合成したものである(Tamura,J.et al. (2012) Carbohydrate Research 353,13-21等)。図5は、3種類のヘパラン硫酸の繰り返し二糖単位をそれぞれ有する3種類の少糖を示す図である。図5に示すように、第一の少糖は、GlcA−GlcNH3+二糖単位を二つ備える四糖構造の少糖TD4-143-1であり、第二の少糖は、GlcA−GlcNAc二糖単位を二つ備える四糖構造の少糖TD-5-67-9であり、第三の少糖は、GlcA−GlcNS二糖単位を二つ備える四糖構造の少糖TD5-60-6である。ここで、D-グルコサミン残基の6位の水酸基が硫酸基に置換されており、Rは、炭素数8の直鎖のアルキル基である。 <手順> HepActiv Heparanase Activity Assay Kit(InSight社製)を用いてヒトリコンビナントヘパラナーゼ−1(InSight Biopharmaceuticals Ltd.社製)に対する少糖(TD4-143-1、TD-5-67-9、TD5-60-6)のヘパラナーゼ阻害活性を測定した。ここで、実験操作は、Kitに添付の手順書に従って実施した。実験条件は、10ngのヒトリコンビナントヘパラナーゼ−1に対して所定の濃度(約100μM)の少糖を作用させた。又、比較のために市販のヘパラナーゼ阻害剤である低分子化合物OGT2115(OGT、TOCRIS社製)を用意し、10ngのヒトリコンビナントヘパラナーゼ−1に対して所定の濃度の低分子化合物OGT2115を作用させた。 <結果> 図6は、所定の濃度における各種の少糖のヘパラナーゼ阻害活性を示す図である。図6に示すように、少糖のうち、GlcA−GlcNH3+二糖単位を備える少糖TD4-143-1は、他の二糖単位の少糖と比較してヘパラナーゼ阻害活性があることが理解される。又、この少糖TD4-143-1のヘパラナーゼ阻害活性は、市販のヘパラナーゼ阻害剤と同等のヘパラナーゼ阻害活性を示すことが確認出来た。 実施例2:少糖TD4-143-1の存否によるヒト乳癌細胞内のヘパラン硫酸の定量解析 <手順> 次に、ヘパラナーゼ阻害活性のある少糖TD4-143-1の存否によりヒト乳癌細胞(MCF-7、T47D、MDA-MB-231、BT549)内のヘパラン硫酸を定量解析した。先ず、直径10cmのディッシュで培養した細胞を、50μg/mLの少糖TD4-143-1の存在下又は非存在下で2日間培養した。その後、培地を回収し、遠心して死細胞を除き、エタノールの最終濃度が80%となるようにエタノールを加えて、4度でエタノール沈殿を行った。そして、細胞は、PBSで洗浄後、セルスクレーパーにより回収し、エタノール沈殿による沈殿物と回収した細胞は、冷アセトン中でホモジナイズ後、遠心し、得られた沈殿を乾燥させて細胞パウダーとした。一方、各細胞パウダーの乾燥重量の1/50のアクチナーゼEと10mMのCaCl2と0.1Mのホウ酸緩衝液(pH8.0)とを含む溶液を55度で30分間前処理した後、その溶液に細胞パウダーに加え、55度で2日間消化した。消化後、5%のトリクロロ酢酸を用いてタンパク除去を行い、エーテル抽出を行った。その後、エーテル抽出後の水層を中和後、凍結乾燥し、PD MiniTrap G-10カラムによって精製し、粗精製した硫酸化糖画分を1mIUのヘパリナーゼ(EC4.2.2.7)と1mIUのヘパリチナーゼ(EC4.2.2.8)によって37度で4時間消化した。消化により生じた二糖を、2−アミノベンズアミドを用いて蛍光標識し、常法に従ってHPLCで解析した(Okada, M., Nadanaka, S., Shoji, N.,Tamura, J., and Kitagawa, H. (2010) Biochem J 428, 463-471)。尚、実施例2では、解析した二糖の量からヘパラン硫酸の全量を算出した。 <結果> 図7は、少糖TD4-143-1の存否によるヒト乳癌細胞内のヘパラン硫酸の量を示す図である。図7に示すように、高転移性のヒト乳癌細胞(MDA-MB-231、BT549)では、少糖TD4-143-1の存在によりヘパラン硫酸の全量が顕著に増加していることが理解される。これは、少糖TD4-143-1が、ヒト乳癌細胞のヘパラナーゼの活性を阻害したため、ヘパラン硫酸プロテオグリカンが分解されずに残存し、細胞内のヘパラン硫酸の全量を顕著に増加させたと考えられる。 実施例3:少糖TD4-143-1の存否によるヒト乳癌細胞の生存率の測定 <手順> 次に、ヘパラナーゼ阻害活性のある少糖TD4-143-1の存否によりヒト乳癌細胞(MCF-7、T47D、MDA-MB-231、BT549)の生存率を測定した。先ず、2.5×104個の細胞を24ウェルプレートに播種し、50μg/mLの少糖TD4-143-1の存在下又は非存在下で2日間培養した。その後、培地を吸引し、PBSで洗浄後、50μLのPBSと1%のTritonX-100とを1μLずつ添加した後、室温で5分間浸透し、細胞内から乳酸デヒドロゲナーゼを放出させた。この乳酸デヒドロゲナーゼの酵素活性を、Cyto Tox-ONE Homogeneous Membrane Integrity Assay(Promega社製)を用いて測定し、細胞の生存率を測定した。 <結果> 図8は、少糖TD4-143-1の存否によるヒト乳癌細胞内の生存率を示す図である。図8に示すように、全てのヒト乳癌細胞の生存率は、少糖TD4-143-1の存在により変化しなかった。これにより、少糖TD4-143-1は、添加により細胞の生存率に影響を与えず、安全性が高いことが確認出来た。 実施例4:少糖TD4-143-1の存否によるヒト乳癌細胞の浸潤能の測定 <手順> 次に、ヘパラナーゼ阻害活性のある少糖TD4-143-1の存否によりヒト乳癌細胞(MDA-MB-231、BT549)の浸潤能を測定した。尚、参考例4の手順と同様の手順で、細胞の浸潤能の測定を行った。ここで、少糖TD4-143-1の存在下のカウント数を非存在下のカウント数で除算した値を浸潤能(%)として算出した。 <結果> 図9は、少糖TD4-143-1の存否によるヒト乳癌細胞の浸潤能を示す図である。図9に示すように、高転移性のヒト乳癌細胞の浸潤能は、少糖TD4-143-1の存在により半分以下になることが理解される。これにより、少糖TD4-143-1は、高転移性のヒト乳癌細胞の浸潤活性を阻害することが確認出来た。 実施例5:ヒト乳癌細胞における少糖TD4-143-1、TD5-60-6の顕微鏡観察 <手順> 次に、少糖TD4-143-1又はTD5-60-6がヒト乳癌細胞(MDA-MB-231、BT549)内にどのように存在するかを調査した。ここで、対象となる少糖は、ヘパラナーゼ阻害活性のある少糖TD4-143-1と、ヘパラナーゼが切断する部位に対応するGlcA−GlcNS二糖単位を備える少糖TD5-60-6とを選択した。先ず、直径3.5cmのガラスボトムディッシュに細胞を播種し、50μg/mLの少糖TD4-143-1或いはTD5-60-6の存在下又は非存在下で一晩培養した。その後、PBSで洗浄後、4%のパラホルムアルデヒドを含むPBSを用いて氷上20分間固定した。そして、PBSで洗浄した後、0.2%のTritonX-100を含むPBSで室温10分間透過処理を行った。そして、2%のウシ血清アルブミンと0.1%のTween20を含むPBS(ブロッキング溶液)を用いて室温1時間ブロッキングを行い、ブロッキング溶液を用いて500倍に希釈したJM403及び50倍に希釈した抗GM130抗体(BD Biosciences社製)又は500倍に希釈したJM403及び200倍に希釈した抗Lamp-1抗体(BD Biosciences社製)を細胞に加え、4度で一晩反応させた。又、ブロッキング溶液を用いて500倍に希釈したHepSS-1(生化学工業社製)及び50倍に希釈した抗GM130抗体又は500倍に希釈したHepSS-1及び200倍に希釈した抗Lamp-1抗体を細胞に加え、4度で一晩反応させた。そして、0.1%のTween20を含むPBSで洗浄後、ブロッキング溶液で1000倍に希釈したDylight488標識抗マウスIgM抗体及びAlexa568標識抗マウスIgG抗体(MolecularProbes社製)と室温1時間反応させ、0.1%のTween20を含むPBSで洗浄後、5μg/mLのヘキスト33342で核を染色した。そして、PBSで洗浄後、共焦点顕微鏡を用いて観察した。 <結果> 図10は、少糖TD4-143-1の存否によるヒト乳癌細胞(MDA-MB-231、BT549)の染色後の共焦点顕微鏡画像(GM130、JM403、Merge)である。ここで、GM130は、細胞内のcis-ゴルジ体を認識する抗体である(Nakamura, N. et al. (1995) J. Cell Biol. 131, 1715-1726)。図10に示すように、JM403で認識される領域の一部は、GM130で認識される領域と一致したものの、JM403で認識される領域の大部分は、GM130で認識される領域以外の領域であった。又、少糖TD4-143-1がヒト乳癌細胞に添加された場合に、細胞内におけるJM403で認識される少糖TD4-143-1の領域の染色性が増強していた。染色性が増強することは、少糖TD4-143-1が細胞内に取り込まれ、局所的に濃縮されていることを示す。しかしながら、上述のように、このJM403の染色パターンは、GM130の染色パターンに完全に一致しなかった。これは、少糖TD4-143-1が細胞内に取り込まれると、一部はゴルジ体に、その他はゴルジ体以外に分布することを示唆している。 又、図11は、少糖TD4-143-1の存否によるヒト乳癌細胞(MDA-MB-231、BT549)の染色後の共焦点顕微鏡画像(Lamp-1、JM403、Merge)と、少糖TD5-60-6の存否によるヒト乳癌細胞(MDA-MB-231、BT549)の染色後の共焦点顕微鏡画像(Lamp-1、JM403、HepSS-1、Merge)とである。図12は、少糖TD4-143-1又はTD5-60-6を添加したヒト乳癌細胞(MDA-MB-231、BT549)の染色後の共焦点顕微鏡画像(Lamp-1、JM403、HepSS-1)の拡大図である。ここで、Lamp-1は、細胞内のリソソームを認識する抗体である(Chen, JW. et al. (1988) J. Biol. Chem. 263, 8754-8758)。又、HepSS-1は、GlcA−GlcNS二糖単位を認識する抗体である。図11に示すように、少糖TD4-143-1の添加により、JM403で認識される領域は、Lamp-1で認識される領域と一致しており、更に、細胞内のJM403、Lamp-1で認識される領域の染色性が増強していた。又、少糖TD5-60-6の添加により、HepSS-1で認識される領域は、Lamp-1で認識される領域と一致していたものの、細胞内のHepSS-1、Lamp-1で認識される領域の染色性は増強していなかった。 又、図12に示すように、JM403で認識される少糖TD4-143-1の領域の染色性は、細胞内の核近傍で増強しているものの、HepSS-1で認識される少糖TD5-60-6の領域の染色性は、細胞膜付近(白矢印)で増強していることが理解される。これにより、少糖TD4-143-1は、細胞内に取り込まれると、リソソームへ直行する一方、少糖TD5-60-6は、細胞内に取り込まれても、リソソームへ輸送されることなく、エンドソーム−トランスゴルジ体経由で細胞内と細胞膜との間を循環していると考えられる。 ここで、ヘパラナーゼは、通常、細胞で前駆体(非活性型)として合成され、リソソームへ輸送され、活性化される。そして、活性化されたヘパラナーゼが、細胞内のヘパラン硫酸プロテオグリカンのヘパラン硫酸を分解することが報告されている(Zetser, A.et al. (2004) J. Cell Sci. 117,2249-2258)。この報告と実施例1−5の結果とを考察すると、GlcA−GlcNH3+二糖単位を備える少糖TD4-143-1は、リソソームに取り込まれることで、ヘパラナーゼの活性化を阻害すると考えられる。 <ヘパラン硫酸のGlcA−GlcNH3+二糖単位の発現量を増加させるEXTL3の効果について> 実施例6:EXTL3ノックダウン細胞、EXTL3過剰発現細胞のヘパラン硫酸の二糖解析 <EXTL3安定発現株の構築> ヘパラン硫酸は、細胞内において、先ず、NDST-1によりD-グルコサミン残基のN-アセチル基がN-脱アセチル化され、更に、NDST-1によりN-脱アセチル化されたD-グルコサミン残基のアミノ基が硫酸基に転移される。ここで、EXTL3は、NDST-1のN-硫酸基転移酵素活性を阻害する酵素であり、このEXTL3の発現量を制御することで、ヘパラン硫酸のGlcA−GlcNH3+二糖単位の発現量を制御出来る可能性がある。そこで、EXTL3の発現量が制御されたEXTL3安定発現株の構築を行った。 先ず、EXTL3の発現量が少ない、EXTL3をノックダウンした細胞(L-shEXTL3)は、下記の手順で構築した。先ず、FuGENE6(Roche Diagnostics社製)を用いてSure Silencing shEXTL3 plasmids(SuperArrayBioscience社製)をマウス線維芽細胞(L細胞)に遺伝子導入した。その後、400μg/mLの抗生物質G418(Invitrogen社製)と10%のウシ胎仔血清と100units/mLのペニシリンと100μg/mLのストレプトマイシンとを含む培地(DMEM、WAKO社製)中で培養し、G418に抵抗性を示すコロニーをEXTL3ノックダウン細胞として選択した。 又、EXTL3の発現量が多い、EXTL3を過剰発現した細胞(L-EXTL3)は、下記の手順で構築した。先ず、human EXTL3(hEXTL3)(配列番号6)がクローニングされたpCMV-script(Agilent Technologies社製)をマウス線維芽細胞に遺伝子導入した。その後、前記培地(DMEM)中で培養し、G418に抵抗性を示すコロニーをEXTL3過剰発現細胞として選択した。尚、対照実験のための野生型マウス線維芽細胞は、10%ウシ胎仔血清と100units/mLのペニシリンと100μg/mLのストレプトマイシンを含む培地(DMEM)で培養した。 <手順> 先ず、EXTL3ノックダウン細胞とEXTL3過剰発現細胞とのヘパラン硫酸の二糖解析を行った。尚、実施例2の手順と同様の手順で、各種細胞(マウス線維芽細胞、EXTL3ノックダウン細胞、EXTL3過剰発現細胞)が合成するヘパラン硫酸の二糖組成を行った。 <結果> 図13は、マウス線維芽細胞(L)、EXTL3ノックダウン細胞(L-shEXTL3)、EXTL3過剰発現細胞(L-EXTL3)のヘパラン硫酸の二糖解析結果である。ここで、ΔDiHS-0Sは、GlcA−GlcNAc二糖単位を示し、ΔDiHS-NSは、GlcA−GlcNS二糖単位を示す。図13に示すように、EXTL3ノックダウン細胞では、マウス線維芽細胞と比較してGlcA−GlcNAc二糖単位の発現量が減少する一方、GlcA−GlcNS二糖単位の発現量が増加していた。又、EXTL3過剰発現細胞では、マウス線維芽細胞と比較してGlcA−GlcNAc二糖単位の発現量が増加する一方、GlcA−GlcNS二糖単位の発現量が減少していた。そのため、細胞内のEXTL3の発現量を増加させることで、GlcA−GlcNS二糖単位の発現量が減少することを確認出来た。 実施例7:EXTL3ノックダウン細胞、EXTL3過剰発現細胞のヘパラン硫酸の鎖長解析 <手順> 次に、EXTL3ノックダウン細胞と、EXTL3過剰発現細胞とのヘパラン硫酸の鎖長を解析した。先ず、マウス線維芽細胞、EXTL3ノックダウン細胞、EXTL3過剰発現細胞をそれぞれ培養し、セルスクレーパーで回収し、回収後の細胞を冷アセトンを用いて処理し、アセトン処理後の沈殿物を乾燥させて細胞パウダーを得た。次に、細胞パウダー1mg当たりに1MのNaBH4を含む0.05MのNaOHを50μL添加し、4度で一晩反応させ、タンパク質から糖鎖を切り出した。そして、消泡剤としてn-オクチルアルコールを加えた後、氷酢酸で中和し、中和後の溶液に最終濃度が5%となるようにトリクロロ酢酸を添加し、氷上1時間処理し、タンパク質を除去し、エーテル抽出を行った。その後、得られた水層を1MのNH4HCO3で中和した後、凍結乾燥し、PD MiniTrap G-10カラムによって精製した。更に、0.2MのNH4HCO3で平衡化したSuperdex 200 10/300(GE Healthcare社製)(ゲルろ過クロマトグラフィー)を用いて精製後の硫酸化糖鎖を含む画分を流速0.4mL/mL、フラクションサイズ0.4mLの条件で分画した。各分画は、凍結乾燥後、1mIUのヘパリナーゼと1mIUのヘパリチナーゼによって37度で4時間消化し、消化により生じた二糖を、2-アミノベンズアミドを用いて蛍光標識し、常法に従ってHPLCで分析した。 <結果> 図14は、EXTL3ノックダウン細胞とEXTL3過剰発現細胞における各フラクションサイズ毎のヘパラン硫酸の存在確率を示す図である。ここで、フラクションサイズが大きくなる程、ヘパラン硫酸の鎖長が短くなることを示す。又、白矢印は、マウス線維芽細胞とEXTL3過剰発現細胞が発現するヘパラン硫酸の鎖長のうち、最も存在確率が高いヘパラン硫酸の鎖長を示し、黒矢印は、EXTL3ノックダウン細胞が発現するヘパラン硫酸の鎖長のうち、最も存在確率が高いヘパラン硫酸の鎖長を示す。図14に示すように、EXTL3の発現量が増加すると、ヘパラン硫酸の鎖長が長いまま維持される一方、EXTL3の発現量が減少すると、ヘパラン硫酸の鎖長が短くなることが理解される。これは、EXTL3ノックダウン細胞では、ヘパラナーゼによりヘパラン硫酸が切断されたことを示唆する。又、EXTL3の発現量に大小かかわらず、ヘパラン硫酸の鎖長が短い少糖が数%〜数十%の範囲内で存在することが理解される。従って、EXTL3の発現量を増加させることで、実施例1−5の結果に示す少糖TD4-143-1が存在する可能性があることが確認出来た。 実施例8:フローサイトメーターによるGlcA−GlcNH3+二糖単位の発現解析 <手順> 次に、EXTL3ノックダウン細胞と、EXTL3過剰発現細胞とのGlcA−GlcNH3+二糖単位の発現量を解析した。先ず、EXTL3ノックダウン細胞(L-shEXTL3)としてL細胞のEXTL3の発現量(発現レベル)よりも低いEXTL3の発現量である第一のEXTL3ノックダウン細胞(L-shEXTL3 clone 1)と、第一のEXTL3ノックダウン細胞のEXTL3の発現量よりも低いEXTL3の発現量である第二のEXTL3ノックダウン細胞(L-shEXTL3 clone 2)を用意した。次に、0.5×106個の細胞(マウス線維芽細胞、第一、第二のEXTL3ノックダウン細胞、EXTL3過剰発現細胞)を0.1%のアジ化ナトリウムを含むPBSで室温10分間処理した後、PBSで洗浄し、0.2%のウシ血清アルブミンを含むPBS(抗体希釈液)で50倍希釈したJM403を細胞に添加し、氷上1時間反応させた。その後、抗体希釈液で洗浄した後、その細胞に抗体希釈液で100倍希釈したFITC標識抗マウスIgM抗体を氷上1時間反応させた。その後、抗体希釈液で洗浄し、フローサイトメーターBD FACSCalibur(BD Biosciences社製)で解析した。 <結果> 図15は、EXTL3ノックダウン細胞とEXTL3過剰発現細胞におけるフローサイトメーターの結果である。ここで、黒の実線がJM403と反応した結果を示し、灰色の領域がネガティブコントロールを示し、黒の実線のピークが右へシフトする程、JM403に対応するGlcA−GlcNH3+二糖単位の発現量が多いことを示す。図15に示すように、EXTL3の発現量が増加する程、黒の実線のピークが右へシフトしていることが理解される。つまり、EXTL3の発現量の増加により、細胞内におけるヘパラン硫酸のGlcA−GlcNH3+二糖単位の発現量が増加することが分かった。 実施例9:hNDST-1のN-硫酸基転移酵素活性の測定 <hNDST-1とhEXTL3の発現プラスミドの構築> NDST-1は、ヘパラン硫酸のN-脱アセチル化とN-硫酸基転移の2つの酵素反応を触媒する酵素であり、それぞれの酵素活性を担うドメインが独立して存在している(Duncan, MB. Et al. (2006) Biochem. Biophys. Res. Commun.339,1232-1237)。そのため、EXTL3が、NDST-1のN-脱アセチル化酵素領域とN-硫酸基転移酵素領域とにどのように機能するのか調べるために、下記の発現プラスミドを構築した。 先ず、Human NDST-1(NM_001543、hNDST-1)(配列番号7)のC末端にFLAGのタグを有するp3xFLAG CMV14-hNDST-1(1-882)(配列番号8)は、以下の手順で構築した。以下のプライマーを用いてPCRによりhNDST-1を増幅後、pT7Bluevector(Novagen社製)にサブクローニングした。これをNotIとBamHIで消化し、得られた約2.7kbのDNA断片をインサートとしてp3xFLAG CMV14ベクター(Sigma社製)に組み込んだ。 NotI−fwP−3xFLAG−hNDST1 5’−GCGGCCGCGCCACCATGGCTGCCCTGGCATGC−3’(配列番号9)。ここで、5’−GCGGCCGC−3’はNotIサイトを示し、5’−GCCACCATGG−3’はコザック配列を示し、5’−ATG−3’は開始コドンを示す。 rvP−3xFLAG−hNDST1+BamHI 5’−GGATCCCCTGGTGTTCTGGAGGTCCTCTCGTAGCCGG−3’(配列番号10)。ここで、5’−GGATCC−3’はBamHIサイトを示す。 又、膜貫通領域を有さないhNDST-1であって、hNDST-1のN末端にProteinAを融合したpEF-BOS/IP-hNDST-1(42-882)(配列番号11)と、N-硫酸基転移酵素領域を有さないhNDST-1であって、hNDST-1のN末端にProteinAを融合したpEF-BOS/IP-hNDST-1(42-557)(配列番号12)と、膜貫通領域とN-脱アセチル化酵素領域を有さないhNDST-1であって、hNDST-1のN末端にProteinAを融合したpEF-BOS/IP-hNDST-1(558-882)(配列番号13)は、以下の手順で構築した。以下のプライマーを用いてPCRによりhNDST-1の該当領域を増幅後、pEF-BOS/IP vector(Mizushima, S. and Nagata,S. (1990) Nucleic Acids Res. 18, 5322)のBamHIサイトに導入した。 fwP−hNDST1(42−557 or 42−882) 5’−CGGGATCCAAGCGAGGCCTGGAGCCCTC−3’(配列番号14)。ここで、5’−GGATCC−3’はBamHIサイトを示す。 fwP−hNDST1(558−882) 5’−CGGGATCCCTGCAGACACTGCCCCCTGTGC−3’(配列番号15)。ここで、5’−GGATCC−3’はBamHIサイトを示す。 rvP−hNDST1(42−557) 5’−CGGGATCCCTACCGGAGGTTCGTCCAGGAGTGCAG−3’(配列番号16)。ここで、5’−GGATCC−3’はBamHIサイトを示し、5’−CTA−3’は終止コドンを示す。 rvP−hNDST1(42−882 or 558−882) 5’−CGGGATCCCTACCTGGTGTTCTGGAGGTCC−3’(配列番号17)。ここで、5’−GGATCC−3’はBamHIサイトを示し、5’−CTA−3’は終止コドンを示す。 又、pcDNA3.1/Myc-His A-hEXTL3(配列番号18)は、以下の手順で構築した。以下のプライマーを用いてPCRによりhEXTL3を増幅後、pGEM-T(Easy) vectorにサブクローニングした。これをBglIIとHindIIIで消化し、得られたDNA断片をインサートとしてpcDNA3.1/Myc-His Avector(Invitrogen社製)のBamHIサイトとHindIIIサイトに組み込んだ。 EXTL3−S8−BglII 5‘−GAAGATCTGCCACCATGACAGGCTATAC−3’(配列番号19)。ここで、5’−AGATCT−3’はBglIIサイトを示し、5’−GCCACC−3’はコザック配列を示し、5’−ATG−3’は開始コドンを示す。 EXTL3−myc−AS−HindIII 5’−AAGCTTGATGAACTTGAAGCACT−3’(配列番号20)。ここで、5’−AAGCTT−3’はHindIIIサイトを示す。 図16は、hNDST-1と人工的に構築した欠失変異体の模式図である。ここで、5’−ホスホサルフェイト結合部位(5’PSB)と、3’−ホスホサルフェイト結合部位(3’PSB)とは、N-硫酸基転移酵素領域を示す。図16に示すように、hNDST-1は、膜貫通領域(TM)とN-N-脱アセチル化酵素領域とN-硫酸基転移酵素領域とを備え、hNDST-1(1-882)-3xFLAGは、hNDST-1のC末端にFLAGのタグが付加されている。又、ProteinA-hNDST-1(42-882)は、膜貫通領域を有さずにhNDST-1のN末端にProteinAが融合されている。更に、ProteinA-hNDST-1(42-557)は、N-脱アセチル化酵素領域のみを有しhNDST-1のN末端にProteinAが融合されている。又、ProteinA-hNDST-1(558-882)は、N-硫酸基転移酵素領域のみを有しhNDST-1のN末端にProteinAが融合されている。 <手順> さて、次に、hNDST-1及び人工的に構築した欠失変異体のN-硫酸基転移酵素活性を測定した。先ず、上述で構築したhNDST-1発現プラスミドを単独又はpcDNA3.1/Myc-His A-hEXTL3発現プラスミドとともにリポフェクタミン2000(Invitrogen社製)を用いてCOS-1細胞に遺伝子導入した。そして、遺伝子導入した細胞をPBSで洗浄後、1%のTritonX-100と10%のグリセロールと1mMのEDTAと0.15MのNaClとプロテアーゼ阻害剤カクテル(ナカライテスク社製)を含むTris-HCl緩衝液(細胞溶解用緩衝液)(pH7.4)で氷上20分間可溶化した。その後、細胞溶解液を遠心し、得られた上清に抗FLAG M2抗体結合アガロースビーズ(Sigma-Aldrich社製)又はIgG-Sepharoseビーズ(GE Healthcare社製)を添加し、4度で一晩反応させた。この操作により、FLAGのタグが付加されたhNDST-1は、抗FLAG M2抗体結合アガロースビーズに結合され、ProteinAが融合されたhNDST-1は、IgG-Sepharoseビーズに結合される。又、hNDST-1に結合されたhEXTL3もビーズとともに沈降する。その後、沈降したビーズを細胞溶解用緩衝液で洗浄後、0.1%のTween20を含むPBSで洗浄し、酵素源とした。次に、N-硫酸基転移酵素アッセイは、上述した酵素源に、0.1mg/mLのN,O-脱硫酸化ヘパリン(生化学工業社製)と10mMのMnCl2と10mMのMgCl2と5mMのCaCl2と35μMのNaFと60μMの[35S]3’−ホスホアデノシン−5’−ホスホ硫酸(PAPS)(3.7×105dpm)を含む50mMのHEPES-NaOH(pH7.4)を添加し、37度で2時間反応させた。その後、シリンジカラムアッセイ法(Kitagawa, H. et al. (1995) Biochem. J. 117, 1083-1087)を用いてN-硫酸基転移酵素活性を測定した。 <結果> 図17は、FLAGのタグが付加されたhNDST-1を単独又はhEXTL3とともに発現させた場合のN-硫酸基転移酵素活性の測定結果である。図17に示すように、hEXTL3が発現した場合にhNDST-1のN-硫酸基転移酵素活性が阻害されていることが理解される。又、図18は、ProteinAが融合されたhNDST-1の欠失変異体を単独又はhEXTL3とともに発現させた場合のN-硫酸基転移酵素活性の測定結果である。図18に示すように、ProteinA-hNDST-1(42-882)では、hEXTL3の発現によりN-硫酸基転移酵素活性が阻害されているものの、ProteinA-hNDST-1(42-557)とProteinA-hNDST-1(558-882)では、hEXTL3の発現の有無にかかわらず、N-硫酸基転移酵素活性が阻害されていないことが理解される。そのため、EXTL3は、NDST-1がN-脱アセチル化酵素領域とN-硫酸基転移酵素領域とを備える場合に、当該NDST-1のN-硫酸基転移酵素活性を阻害することが確認出来た。 実施例10:hNDST-1のN-脱アセチル化酵素活性の測定 <手順> 次に、hEXTL3の存否とhNDST-1のN-脱アセチル化酵素活性との関係を調べた。先ず、p3xFLAGCMV14-hNDST-1(1-882)を単独又はpcDNA3.1-Myc/His-hEXTL3とともにCOS-1細胞にリポフェクタミン2000を用いて遺伝子導入した。その2日後、細胞をPBSで洗浄し、遺伝子導入した細胞をPBSで洗浄後、Tris-HCl緩衝液(pH7.4)で氷上20分間可溶化した。その後、細胞溶解液を遠心し、得られた上清に抗FLAG M2抗体結合アガロースビーズを添加し、4度で一晩反応させた。そして、遠心により回収したビーズを0.1%のTween20を含むPBSで洗浄後、50mMのMnCl2と1%のTritonX-100と50mMのMes-NaOH緩衝液(pH6.3)で洗浄し、酵素源とした。次に、hNDST-1のN-脱アセチル化酵素活性の測定は、常法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2008) 105, 4751-4756)に従って行った。先ず、50μg/mLの脱硫酸化ヘパリン(生化学工業社製)をCorning96 well EIA/RIA Clear Flat Bottom Polystyrene High Bind Microplateに添加し、室温で一晩吸着させた。その後、各ウェルを0.1%のTween20を含むTBSで洗浄後、上記で調製した酵素源を前記Mes-NaOH緩衝液で懸濁したものに添加し、37度で30分間反応させた。各ウェルを0.1%のTween20を含むTBSで洗浄後、1%のウシ血清アルブミンを含むTBS(ブロッキング液)を用いて室温で2時間ブロッキング反応を行った。そして、0.1%のTween20を含むTBSで洗浄後、ブロッキング液で100倍に希釈したJM403抗体溶液を各ウェルに添加し、4度で一晩反応させた。続いて、0.1%のTween20を含むTBSで洗浄後、ブロッキング液で1000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG+IgM抗体溶液を各ウェルに添加し、室温で2時間反応させた。そして、0.1%のTween20を含むTBSで洗浄後、ABTS substrate kit(Vector Laboratories社製)を用いて室温30分間発色反応を行い、1%のSDSの添加により反応を停止した後、マイクロプレートリーダーモデル550(Bio-Rad社製)を用いて405nmの吸光度を測定した。ここで、hEXTL3の存在下における405nmの吸光度をhEXTL3の非存在下における405nmの吸光度で除算した値をN-脱アセチル化酵素活性(-)として測定した。 <結果> 図19は、hNDST-1(1-882)を単独又はhEXTL3とともに発現させた場合のN-脱アセチル化酵素活性を示す図である。図19に示すように、hEXTL3は、hNDST-1のN-脱アセチル化酵素活性に影響を与えていないことが理解される。 <考察> 図20は、通常の癌細胞の増殖及び転移の過程段階を示す模式図である。図20に示すように、先ず、原発巣の癌細胞が正常組織の正常細胞へ浸潤する場合、癌細胞から放出されるヘパラナーゼが正常細胞に取り込まれ、当該正常細胞の基底膜又は細胞外マトリックスに存在するヘパラン硫酸プロテオグルカンのヘパラン硫酸を分解する。このヘパラン硫酸の分解により基底膜が崩壊し、癌細胞が正常細胞内に浸潤する。浸潤した癌細胞は、血管やリンパ管を通って正常組織内の二次組織へ到達する。 二次組織に到達した癌細胞は、ヘパラナーゼを更に放出し、二次組織に存在するヘパラン硫酸プロテオグルカンのヘパラン硫酸を更に分解する。この分解されたヘパラン硫酸には、bFGF、VEGF等の増殖因子が結合されており、それが遊離して、内皮細胞の対応する受容体(bFGFR、VEGFR等)に結合し、血管新生や細胞増殖を生じさせる。その結果、血管新生や細胞増殖を受けて癌細胞が更に増殖し、転移巣が形成されることになる。 図21は、本発明の少糖並びにEXTL3(化合物X)の発現量を増加させる化合物Yの細胞内動態及び細胞内におけるEXTL3の作用部位を示す模式図である。図21に示すように、本発明では、ヘパラン硫酸の繰り返し二糖単位の一種であるGlcA−GlcNH3+二糖単位を1つ以上有する少糖を有効成分とすることを特徴とする。これにより、本発明の少糖が細胞に取り込まれると、一部がゴルジ体に取り込まれるものの、大部分がエンドソームを介してリソソームへ直行する。ここで、リソソームに取り込まれた少糖は、リソソームに取り込まれるヘパラナーゼの活性化を阻害するため、ヘパラナーゼによるヘパラン硫酸の分解を阻止することが可能となる。即ち、本発明では、初期の段階から癌細胞の増殖を阻止することが可能となり、癌細胞の増殖及び転移を確実に阻害することが可能となるのである。 又、図21に示すように、本発明では、細胞内において、前記少糖の発現量を増加させる、EXTL3を含む化合物Xを有効成分とすることを特徴とする。更に、本発明では、細胞内において、前記少糖の発現量の増加に関与するEXTL3の発現量を増加させる化合物Yを有効成分とすることを特徴とする。これにより、本発明の化合物XのEXTL3又は化合物Yが細胞に取り込まれると、ゴルジ体に取り込まれて、EXTL3の発現量を増加させる。 図22は、細胞内におけるヘパラン硫酸の二糖単位の生合成機構を示す模式図である。細胞内では、NDST-1が、ヘパラン硫酸に作用し、NDST-1のN-脱アセチル化酵素(DA:deacetylase)活性により、ヘパラン硫酸の二糖単位のうち、D-グルコサミン残基のN-アセチル基を未修飾基であるアミノ基に転移する。続いて、NDST-1のN-硫酸基転移酵素(NST:N-sulfotransferase)活性により、D-グルコサミン残基のアミノ基に硫酸基を転移する。本発明では、EXTL3の発現量を増加させることで、EXTL3が、NDST-1のN-硫酸基転移酵素(NST)領域と複合体を形成し、NDST-1のN-脱アセチル化酵素(DA)活性を阻害すること無く、N-硫酸基転移酵素(NST)活性を阻害する。すると、細胞内の少糖を含むヘパラン硫酸のGlcA−GlcNH3+二糖単位の発現量が自動的に増加する。ここで、ヘパラン硫酸の少糖が本発明の少糖として機能することで、当該少糖がリソソームに取り込まれ、自発的にヘパラナーゼ活性を阻害し、初期の段階から癌細胞の増殖を阻止することが可能となるのである。 図23は、GlcA−GlcNH3+二糖単位を有する少糖のヘパラナーゼ阻害活性と抗凝血活性を説明する模式図である。ところで、ヘパラナーゼは、ヘパラン硫酸のGlcA−GlcNS二糖単位のうち、D-グルクロン酸とD-グルコサミンとのグリコシド結合を切断する(J. Biol. Chem. (2010) 285, 14504-14513)。ここで、ヘパラナーゼが切断する部位の二糖単位に着目すると、D-グルクロン酸のカルボキシル基とD-グルコサミンの6位の硫酸基とN位の硫酸基とが負に帯電していることが理解される。一方、本発明の少糖のGlcA−GlcNH3+二糖単位では、D-グルクロン酸のカルボキシル基とD-グルコサミンの6位の水酸基(又は硫酸基)とが負に帯電しているものの、D-グルコサミンのアミノ基は正に帯電することになる。本発明者は、この電荷バランスが、リソソームにおいてヘパラナーゼの活性阻害に大きく寄与していると推察している。 又、抗凝血活性に寄与するアンチトロンビンIII結合配列では、D-グルコサミンの6位の水酸基とアミノ基とがそれぞれ硫酸基に置換されており、この結合配列により抗凝血活性が生じる(Thunberg, L. et al. (1982) Carbohydrate Res. 100, 393-410.)。一方、本発明の少糖のGlcA−GlcNH3+二糖単位では、アンチトロンビンIII結合配列に必要な修飾構造を有していない。そのため、本発明の少糖は、抗凝血活性を有さず、従って、本発明は、ヘパラナーゼ阻害活性を有するとともに、抗凝血活性を有しない新規なヘパラナーゼ阻害剤として成立するのである。 このように、本発明に係るヘパラナーゼ阻害剤は、ヘパラン硫酸の繰り返し二糖単位の一種であるGlcA−GlcNH3+二糖単位を備える少糖を有効成分とすることを特徴とする。又、本発明に係るヘパラナーゼ阻害剤は、細胞内において、前記少糖の発現量を増加させる、EXTL3を含む化合物Xを有効成分とすることを特徴とする。更に、本発明に係るヘパラナーゼ阻害剤であって、細胞内において、前記少糖の発現量の増加に関与するEXTL3の発現量を増加させる化合物Yを有効成分とすることを特徴とする。これにより、抗癌性、抗転移性、抗血管新生性、安全性を有するとともに、抗凝血活性を有さない画期的なヘパラナーゼ阻害剤を提供出来る。 又、本発明に係るヘパラナーゼ阻害剤のスクリーニング方法は、披検物質が前記少糖又はEXTL3の発現量を増加させるか否かを指標とすることを特徴とする。これにより、ヘパラン硫酸の繰り返し二糖単位の一種に着目した新規なスクリーニング方法を提供することが可能となる。 以上のように、本発明に係るヘパラナーゼ阻害剤及びヘパラナーゼ阻害剤のスクリーニング方法は、通常の癌患者はもちろん、重篤な乳癌等の癌患者のためのヘパラナーゼ阻害剤及びヘパラナーゼ阻害剤のスクリーニング方法に有用であり、ヘパラン硫酸の繰り返し二糖単位に着目した新規なヘパラナーゼ阻害剤及びヘパラナーゼ阻害剤のスクリーニング方法として有効である。配列番号1:GAPDH配列番号2:PCR用プライマー配列番号3:PCR用プライマー配列番号4:PCR用プライマー配列番号5:PCR用プライマー配列番号6:pCMVscript-hEXTL3配列番号7:Human NDST1 (NM_001543) mRNA配列番号8:p3xFLAG CMV14-hNDST-1(1-882)配列番号9:PCR用プライマー配列番号10:PCR用プライマー配列番号11:pEF-BOS/IP-hNDST-1(42-882)配列番号12:pEF-BOS/IP-hNDST-1(42-557)配列番号13:pEF-BOS/IP-hNDST-1(558-882)配列番号14:PCR用プライマー配列番号15:PCR用プライマー配列番号16:PCR用プライマー配列番号17:PCR用プライマー配列番号18:pcDNA3.1/Myc-His A-hEXTL3配列番号19:PCR用プライマー配列番号20:PCR用プライマー ヘパラナーゼ阻害剤であって、 ヘパラン硫酸の繰り返し二糖単位の一種であるGlcA−GlcNH3+二糖単位を1つ以上有する少糖を有効成分とすることを特徴とするヘパラナーゼ阻害剤。 ヘパラナーゼ阻害剤であって、 細胞内において、ヘパラン硫酸の繰り返し二糖単位の一種であるGlcA−GlcNH3+二糖単位を1つ以上有する少糖の発現量を増加させる、EXTL3を含む化合物Xを有効成分とすることを特徴とするヘパラナーゼ阻害剤。 ヘパラナーゼ阻害剤であって、 細胞内において、ヘパラン硫酸の繰り返し二糖単位の一種であるGlcA−GlcNH3+二糖単位を1つ以上有する少糖の発現量の増加に関与するEXTL3の発現量を増加させる化合物Yを有効成分とすることを特徴とするヘパラナーゼ阻害剤。 前記少糖は、細胞内のリソソームに取り込まれることで、ヘパラナーゼの活性化を阻害する 請求項1−3のいずれか一項に記載のヘパラナーゼ阻害剤。 前記少糖の有効濃度は、10μM−500μMの範囲内である 請求項1−4のいずれか一項に記載のヘパラナーゼ阻害剤。 本ヘパラナーゼ阻害剤は、高転移性の乳癌細胞に用いられる 請求項1−5のいずれか一項に記載のヘパラナーゼ阻害剤。 本ヘパラナーゼ阻害剤は、ヘパラナーゼ活性に関する症状の治療用又は予防用の薬剤として用いられる 請求項1−6のいずれか一項に記載のヘパラナーゼ阻害剤。 ヘパラナーゼ阻害剤のスクリーニング方法であって、 ヘパラン硫酸の繰り返し二糖単位の一種であるGlcA−GlcNH3+二糖単位を1つ以上有する少糖を発現可能な細胞と被験物質とを接触させるステップと、 前記細胞における前記少糖の発現量を測定するステップと、 前記被験物質を接触させない対照細胞における前記少糖の発現量と比較して、前記少糖の発現量を増加させる被験物質を選択するステップと を備えることを特徴とするスクリーニング方法。 ヘパラナーゼ阻害剤のスクリーニング方法であって、 ヘパラン硫酸の繰り返し二糖単位の一種であるGlcA−GlcNH3+二糖単位を1つ以上有する少糖の発現量の増加に関与するEXTL3を発現可能な細胞と被験物質とを接触させるステップと、 前記細胞における前記EXTL3の発現量を測定するステップと、 前記被験物質を接触させない対照細胞における前記EXTL3の発現量と比較して、前記EXTL3の発現量を増加させる被験物質を選択するステップと を備えることを特徴とするスクリーニング方法。 【課題】ヘパラン硫酸の繰り返し二糖単位に着目した新規なヘパラナーゼ阻害剤及びヘパラナーゼ阻害剤のスクリーニング方法を提供する。【解決手段】ヘパラン硫酸の繰り返し二糖単位の一種であるGlcA−GlcNH3+二糖単位を1つ以上有する少糖を有効成分とすることを特徴とするヘパラナーゼ阻害剤を提供する。又、ヘパラナーゼ阻害剤は、前記少糖の発現量を増加させる、EXTL3を含む化合物XやEXTL3の発現量を増加させる化合物Yを有効成分とする。被験物質が、細胞内における前記少糖又はEXTL3の発現量を増加させるか否かを指標とするヘパラナーゼ阻害剤のスクリーニング方法を提供する。これにより、抗癌性、抗転移性、抗血管新生性、安全性を有するとともに、抗凝血活性を有さない画期的なヘパラナーゼ阻害剤を提供出来る。【選択図】図21配列表


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