タイトル: | 公開特許公報(A)_酒類、その製造方法、酒類香味調節方法および酒造用米 |
出願番号: | 2013065280 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | C12G 3/02,C12G 3/04 |
齋藤 知明 石田 一則 前田 一春 小林 渡 神田 伸一郎 川村 陽一 上村 豊和 今 智穂美 須藤 弘毅 森田 衣緒 須藤 充 三上 泰正 JP 2014187917 公開特許公報(A) 20141006 2013065280 20130327 酒類、その製造方法、酒類香味調節方法および酒造用米 地方独立行政法人青森県産業技術センター 309015019 富沢 知成 100119264 齋藤 知明 石田 一則 前田 一春 小林 渡 神田 伸一郎 川村 陽一 上村 豊和 今 智穂美 須藤 弘毅 森田 衣緒 須藤 充 三上 泰正 C12G 3/02 20060101AFI20140909BHJP C12G 3/04 20060101ALI20140909BHJP JPC12G3/02 119AC12G3/04 22 1 OL 19 特許法第30条第2項適用申請有り 4B015 4B015CG02 4B015LG03 4B015LH12 4B015LP02 本発明は酒類、その製造方法、酒類香味調節方法および酒造用米に係り、特に、高割合に精米しなくても、きれいですっきりした味の清酒を得ることのできる、または官能的に新規な風味の清酒を得ることのできる、酒類、その製造方法、酒類香味調節方法および酒造用米に関するものである。 清酒中のアミノ酸は味に関わる重要なファクターである。つまり清酒の味は、アミノ酸量によって大きく左右される。少なすぎると物足りなく、多くなるとくどく、雑味として感じられる。国税庁で規定する分析法によれば、一般的な清酒のアミノ酸度は1.0〜2.0程度だが、特に米だけを原料とする純米酒ではアミノ酸度が1.8〜2.5程度と高くなる場合が多く、このことは「味がくどい」と認識される原因となっている。 一方、清酒の消費動向は減少傾向が持続しているが、タイプ別の内訳をみれば純米酒の消費比率は上昇している。このことは「アルコール添加されていない米だけの清酒」として安全・安心のイメージが定着していることによると想定されるが、依然として「味がくどい」「すっきり感が欲しい」との声は多い。 米のタンパク質分布は表層に多いことから、純米吟醸酒などでは原料米の重量の40〜60%程度まで高度精米することで原料米中のタンパク質を減らし、アミノ酸度の低い清酒を醸造している。しかし、このことは生産コストの上昇につながり、商品価格に反映されることから、「美味しいが値段が高い」として、清酒の消費拡大の障害となっている。業界でもこのような「手頃な価格で美味い純米酒」を求める市場の声に応えるべく、研究開発の取り組みがなされている。 さて、清酒中の余分なアミノ酸量を減らし、きれいですっきりした味にするためには、かねてより次の二つの方法が行われている。まず上述のように、高度精米をして外部のタンパク質の多い区分を削りこむ方法(大吟醸酒など)。しかしこれには、コスト高という短所のあることは既に述べた。二つ目の方法は、できた酒に活性炭を添加し、アミノ酸等を吸着させ、ろ過する方法である。しかしこれもコスト高である上、旨みや香りが減少しやすいという短所がある。 これらの方法とは異なり、近年、易消化性タンパクのグルテリンの少ない米(低グルテリン米)を用いる方法が考案されている(後掲特許文献1)。当該文献には、雑味低減、香味改良を可能にした清酒、焼酎、みりん等酒類の製造方法として、酒類の製造工程において、突然変異、またはその突然変異体との交雑により得られるグルテリン含量が2.0g%(W/W)以下〔精米歩合75%(W/W)の米湿重量当り換算〕の低グルテリン米を用いる製法が開示されており、低グルテリン米のグルテリン/プロラミン比が、1.0以下であることが好ましいとしている。この技術を用いた商品化例として、低グルテリン米「みずほのか(品種名)」、「ゆめかなえ(登録商標)」、「春陽(品種名)」を用いた清酒が挙げられる。 つまり低グルテリン米は、米に多く含まれている消化されやすいタンパクであるところのグルテリンが少ないため、これを用いた清酒はアミノ酸が少なくなり、それにより味のくどさが低減し、すっきり感を得ることができる。また、清酒醸造においては高精白米を用いることが通常であるところ、低グルテリン米の場合は低精白米によってすっきりとした風味を醸し出せるという利点もある。 また、特許文献2開示技術は特許文献1の関連技術と認められるが、これは、低グルテリン米を使用した清酒製造において問題となる特有の異臭や雑味の発生、および低い酒化率を解消するために、清酒醪に、グルコアミラーゼ仕込活性={(麹のグルコアミラーゼ活性×麹米数量×1.2)+(酵素剤のグルコアミラーゼ活性×使用量)}÷仕込総米数量が72単位/g・総米以上となるように、酵素剤を醪に添加するという技術である。特開平8−89229号公報「酒類の製造方法」(特許第3357478号)特開2004−187673号公報「清酒の製造方法」(特許第3721422号) さて、上述の各文献開示技術に係る低グルテリン米を使用した清酒は、清酒らしさの少ない、すっきりとした香味特性が得られ、商品化例も既に存在する。しかしこれらの低グルテリン米は、すべて同じ育種母本「LGC−1(エルジーシー1)」を交配しているものであるため、耐病性、耐冷性等の点で劣り、安定した収量が見込めないという問題がある。さらに、発酵酵母の栄養となるアミノ酸の欠乏に由来するオフフレーバー発生の問題もある。 そこで本発明が解決しようとする課題は、かかる従来技術の問題点を踏まえ、高割合に精米しなくても、きれいですっきりした味の清酒を得ることのできる、酒類、その製造方法、酒類香味調節方法および酒造用米を提供することである。特に本発明の課題は、耐病性、耐冷性等の点で劣り安定した収量が見込めないだけでなく、アミノ酸の欠乏に由来するオフフレーバー発生の問題を本源的、必然的にはらむ低グルテリン米を用いることなく、高割合に精米しなくても、きれいですっきりした味の清酒を得ることのできる、酒類、その製造方法、酒類香味調節方法および酒造用米を提供することである。 さらに本発明の課題は、低グルテリン米を用いることなく、きれいですっきりした味の清酒を得ることのできる、酒類、その製造方法、酒類香味調節方法および酒造用米を提供することである。また、官能的に新規な風味の清酒を得ることのできる、酒類、その製造方法、酒類香味調節方法および酒造用米を提供することである。 さて出願人は、耐いもち病性強、耐冷性強の酒造好適米を育種する中で、米の主要なタンパクであるグルテリンが少なく、グルテリン前駆体(プログルテリン。プレグルテリンともいう。)の比率が高い胚乳タンパク質組成変異性を有する酒造好適米(黒酒2186。その後、「青系酒184号」名称に特定)を発見した。この米は、青森県太平洋側地域のような冷涼な土地でも栽培可能であり、さらに低温、いもち病のみならず高温障害にも強い米であることがわかった。 また、「青系酒184号」は低グルテリン米とは遺伝的に異なり、また、比較的消化性の低いグルテリン前駆体の比率が高いという特殊なタンパク構成の胚乳タンパク質組成変異性を有することもわかった。なおグルテリン前駆体は、文献等によれば易消化性タンパクに分類されている一方、米中の存在部位により消化スピードが遅いとの報告もある。 本願発明者は、この米を使用して清酒を製造することにより、醸造中に溶出する米タンパク由来のアミノ酸が少なく、酒造用としては敢えて高割合に精米しなくても、きれいですっきりした味の清酒を製造できる可能性に想到した。そして、高割合に精米しなくても清酒中のアミノ酸が少なく、白ワイン風味の新規清酒を製造可能であり、従来の低グルテリン米と同等以上の効果が得られ、十分代替可能であることを確認することができた。そして、これらに基づいて本発明を完成するに至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。 〔1〕 プログルテリン高含有米を原料米として製造され、該原料米はグルテリンよりもプログルテリンを多く含有することを特徴とする、酒類。 〔2〕 前記原料米は、胚乳タンパク質組成中のプログルテリン組成比が10%以上であることを特徴とする、〔1〕に記載の酒類。 〔3〕 前記原料米は、精米歩合90%の白米におけるタンパク質組成中のプログルテリン組成比が10%以上であることを特徴とする、〔1〕に記載の酒類。 〔4〕 前記原料米は低グルテリン米と比較して高い耐病性または高い耐冷性を有することを特徴とする、〔1〕ないし〔3〕のいずれかに記載の酒類。 〔5〕 前記原料米は青森県の系統名たる青系酒184号により特定される米であることを特徴とする、〔1〕に記載の酒類。 〔6〕 前記酒類は清酒であることを特徴とする、〔1〕ないし〔5〕のいずれかに記載の酒類。 〔7〕 つがるロマンを原料米とした場合と比較してアミノ酸度が3割以上低いことを特徴とする、〔6〕に記載の酒類。 〔8〕 白ワイン風味を呈することを特徴とする、〔6〕または〔7〕に記載の酒類。 〔9〕 他の原料米とのブレンドにより製造されたことを特徴とする、〔1〕ないし〔8〕のいずれかに記載の酒類。 〔10〕 前記他の原料米は低グルテリン米以外の酒造用米であることを特徴とする、〔9〕に記載の酒類。 〔11〕 下記<あ>〜<う>の少なくともいずれかの官能的特性を備えた清酒であることを特徴とする、〔9〕または〔10〕に記載の酒類。<あ>渋みまたは苦みの少なくともいずれかが低い風味である<い>すっきりした風味である<う>バランスがより良い風味である 〔12〕 プログルテリン高含有米を原料米として醸造工程がなされ、該原料米は、下記<A>〜<E>の少なくともいずれか一つに該当するものであることを特徴とする、酒類製造方法。<A>グルテリンよりもプログルテリンを多く含有する<B>胚乳タンパク質組成中のプログルテリン組成比が10%以上である<C>精米歩合90%の白米におけるタンパク質組成中のプログルテリン組成比が10%以上である<D>低グルテリン米と比較して高い耐病性または高い耐冷性を有する<E>青森県の系統名たる青系酒184号により特定される米である 〔13〕 前記原料米の精米歩合を70%以上90%以下とすることを特徴とする、〔12〕に記載の酒類製造方法。 〔14〕 白ワイン風味を呈する清酒が得られることを特徴とする、〔12〕または〔13〕に記載の酒類製造方法。 〔15〕 前記原料米と他の原料米がブレンドされて用いられることを特徴とする、請求項12ないし14のいずれかに記載の酒類製造方法。 〔16〕 前記原料米は蒸米の一部としてブレンドされることを特徴とする、〔15〕に記載の酒類製造方法。 〔17〕 〔15〕または〔16〕に記載の酒類製造方法における酒類香味調節方法であって、プログルテリン高含有の前記原料米と他の原料米とのブレンド率により製造される酒類の香味を調節する、酒類香味調節方法。 〔18〕 前記プログルテリン高含有の前記原料米と他の原料米とのブレンドは、仕込みごとの米の用い方によって行うことを特徴とする、〔17〕に記載の酒類香味調節方法。 〔19〕 前記ブレンドは、仕込みごとに蒸米に用いる原料米の種類および量を設計することによって行うことを特徴とする、〔17〕に記載の酒類香味調節方法。 〔20〕 原料米たるプログルテリン高含有米が精米されてなる酒造用米であって、該原料米は、下記<A>〜<E>の少なくともいずれか一つに該当するものであることを特徴とする、酒造用米。<A>グルテリンよりもプログルテリンを多く含有する<B>胚乳タンパク質組成中のプログルテリン組成比が10%以上である<C>精米歩合90%の白米におけるタンパク質組成中のプログルテリン組成比が10%以上である<D>低グルテリン米と比較して高い耐病性または高い耐冷性を有する<E>青系酒184号である 〔21〕 原料米たるプログルテリン高含有米が70%以上の精米歩合により精米されてなることを特徴とする、〔20〕に記載の酒造用米。 〔22〕 酒類製造において他の酒造用米とブレンドして用いられることを特徴とする、〔20〕または〔21〕に記載の酒造用米。 なお本発明は、上記各特許文献開示技術とは全く異なるものである。つまり、低グルテリン米は突然変異により、またはその突然変異体との交雑により得られる米であり、具体的には突然変異米LGC−1を育種材料として人為的に育種された米である。そして、構成タンパクであるプロラミンの比率が高いことを特徴とする。 一方、本発明に用いられる系統米「青系酒184号」はこれとは全く異なり、一般的な交配により発見された系統米である。そして、グルテリン前駆体(プログルテリン)が高度に蓄積された特殊な米であり、タンパク組成が全く異なる。従来、グルテリン前駆体の比率が高い米で、実用化されている米は存在しない。 本発明の酒類、その製造方法、酒類香味調節方法および酒造用米は上述のように構成されるため、これによれば、高割合に精米しなくても、きれいですっきりした味の清酒を得ることができる。また、本発明によれば、官能的に新規な風味の清酒を得ることができる。特に本発明は、耐病性、耐冷性等の点で劣り安定した収量が見込めない上、オフフレーバー発生の問題を本源的、必然的にはらむ低グルテリン米を用いずに、高割合に精米することなくきれいですっきりした味の清酒を得ることができる。さらに本発明によれば、低グルテリン米を用いることなく、官能的に新規な風味の清酒を得ることもできる。 本発明の酒類、その製造方法、酒類香味調節方法および酒造用米に係る米「青系酒184号」のタンパク組成の特徴は、麹の酵素分解を受け難いプログルテリンが多く含まれることである。したがって、この米を100%使用した場合には、清酒中のアミノ酸が3〜6割少なく、これまでの清酒と全く異なった風味をもつ清酒を醸造することができる。また、この米を適宜の比率で用い、他の酒造用米とブレンドして用いることにより、清酒中のアミノ酸組成や濃度をコントロールすることが可能となり、官能的に新規な風味の清酒を自由に開発することもできる。 従来、冷害、高温、病害のいずれにも強い低グルテリン米品種は存在しないところ、本発明に係る「青系酒184号」はこれらいずれにも強いという特性を有する。したがって、栽培面でも有利である。なお、「青系酒184号」は精米中に割れやすい傾向があるが、本発明の酒類製造方法等はそもそも高割合の精米を行う必要がないため、実際上は問題にならない。実施例1を補足説明するスライド図である(その1)。実施例1を補足説明するスライド図である(その2)。実施例1を補足説明するスライド図である(その3)。実施例1を補足説明するスライド図である(その4)。実施例1を補足説明するスライド図である(その5)。実施例1を補足説明するスライド図である(その6)。実施例1を補足説明するスライド図である(その7)。実施例1を補足説明するスライド図である(その8)。実施例1を補足説明するスライド図である(その9)。実施例1を補足説明するスライド図である(その10)。実施例1を補足説明するスライド図である。(その11)。実施例1を補足説明するスライド図である。(その12)。実施例1を補足説明するスライド図である。(その13)。実施例1を補足説明するスライド図である(その14)。実施例1を補足説明するスライド図である(その15)。実施例1を補足説明するスライド図である(その16)。実施例1を補足説明するスライド図である(その17)。実施例1を補足説明するスライド図である(その18)。実施例2の酒類醸造過程における各成分経過のグラフを示す(ボーメ)。実施例2の酒類醸造過程における各成分経過のグラフを示す(アルコール)。実施例2の酒類醸造過程における各成分経過のグラフを示す(酸度)。実施例2の酒類醸造過程における各成分経過のグラフを示す(アミノ酸度)。 以下、本発明を詳細に説明する。 上述したように本発明の酒類における最も基本的な特徴は、これが、グルテリン前駆体(プログルテリン)高含有米を原料米として製造された酒類であるということである。つまり、米の主要なタンパクであるグルテリンが少なく、プログルテリンの比率が高い胚乳タンパク質組成変異性を有する米を酒造用米として用いて製造された酒類である。なお、本発明において想定している主要な酒類は、清酒である。 本発明において好適に酒造用米として好適に用いることのできる米は、下記<A>〜<C>の少なくともいずれかの特質を備えたものとすることができる。<A>グルテリンよりもプログルテリンを多く含有すること。<B>胚乳タンパク質組成中のプログルテリン組成比が10%以上であること。<C>精米歩合90%の白米におけるタンパク質組成中のプログルテリン組成比が10%以上であること。 かかる特質を備えた米として、上述のとおり、現在青森県の系統名たる「青系酒184号」により特定される米(かつての「黒酒2186」)が挙げられる。そしてこの米が、低グルテリン米と比較して高い耐病性、高い耐冷性を備えている優れたものであることも、上述のとおりである。 「青系酒184号」と低グルテリン米「春陽」、一般的な米のタンパク抽出物をSDS電気泳動で解析した結果、それぞれのタンパク組成は「黒酒2186」は57kDa付近のグルテリン前駆体が主体、「春陽」は低グルテリン米の特徴である13kDa付近のプロラミンが主体、そして一般的な米は20〜40kDaのグルテリンが主体だった。このように本発明の酒類に係る具体的酒造用米は、一般的な米とも低グルテリン米とも顕著に異なるタンパク組成を備えているものである。なおSDS電気泳動は、マイクロチップ型電気泳動装置(機種名:アジレント2100バイオアナライザ)にて行った。 また、精米歩合70%白米を掛米に使用して総米100gの小仕込醸造試験を行ったところによれば、「青系酒184号」は一般的な酒米と比べ、酒中のアミノ酸が50%以下を示した。またアミノ酸度を比較したところ、つがるロマンを原料米とした酒に比べて、アミノ酸度が3割以上低いという結果も得られている。 また本発明の酒類(清酒)は、従来の清酒と比較して、白ワイン風味を呈することを、官能的な特徴とする。これは、プログルテリンが醸造中に酵素分解を受け難いため、高割合に精米しなくても清酒中のアミノ酸が少なくなり、それによって、純粋な日本酒(清酒)というよりもむしろ白ワインの風味を感じさせることになっているものと考えられる。いずれにせよ本発明によって、官能的に新規な清酒を製造可能であることが確認されており、これは従来の清酒消費者にも支持されるとともに、従来清酒をあまり飲用しなかった消費者にもアピールし、新規顧客を開拓できるものと考えられる。 なお、以上説明した酒造用米を単独で用いて製造した酒類のみならず、後述するように他の原料米とのブレンドにより製造した酒類もまた、本発明の範囲内である。 本発明の酒類製造方法について、さらに説明する。端的にいえば本発明の酒類製造方法は、プログルテリン高含有米を原料米として醸造工程がなされるものである。繰り返しになるが、用いる原料米は、下記<A>〜<E>の少なくともいずれか一つに該当するものとする。<A>グルテリンよりもプログルテリンを多く含有する米<B>胚乳タンパク質組成中のプログルテリン組成比が10%以上である米<C>精米歩合90%の白米におけるタンパク質組成中のプログルテリン組成比が10%以上である米<D>低グルテリン米と比較して高い耐病性または高い耐冷性を有する米<E>青森県の系統名たる青系酒184号により特定される米 なお、プログルテリン高含有米を原料米とする他は、基本的に従来の醸造工程を大きく変更する必要はない。安定した原料処理等が可能であり、麹製造において酵素力価が通常の範囲に収まっており、精米歩合と米の割れ具合を検証した結果砕米率にも問題がなく、そして醸造工程において安定した発酵が進行するとともに、もろみ中で十分に米が糖化されてアルコール発酵が順調に進みアルコール濃度18%以上を達成できることを、確認済みである。さらに、製造された酒にはオフフレーバーが生じないことも、本発明製法の特徴である。 上述のとおり本発明によれば、敢えて原料米を高割合に精米する必要がない。原料米の精米歩合は、たとえば70%以上90%以下としても、良好に酒類を製造することができる。しかも上述のとおり、白ワイン風味を呈する清酒が得られる。なお、製造工程においてプログルテリン高含有米を単独で用いる場合のみならず、これと他の原料米をブレンドして用いる酒類製造方法も、本発明の範囲内である。かかる製法について、酒類香味調節方法としてより詳しく説明する。 すなわち、以上述べた酒類製造方法における酒類香味調節方法もまた本発明の範囲内であり、これは、プログルテリン高含有の原料米と他の原料米とのブレンド率によって、製造される酒類の香味を調節するというものである。つまり、難溶解性タンパクであるプログルテリン高含有米と一般的な米とを任意の割合にてブレンドして用いることで、清酒中のアミノ酸組成や濃度(量)を調節し、それにより清酒の味の調節を可能とし、官能面での品質向上や新規商品提供を図るものである。 本発明の酒類香味調節方法によれば、「青系酒184号」の配合比率によりアミノ酸組成・量などに基づく酒質を予想可能でき、「ブレンド用酒米」という新たなジャンルを構築することができる。また、渋味、苦味に関連するといわれている疎水性アミノ酸やアルギニンが「青系酒184号」には少ないことから、ブレンドによる渋味、苦味の減少効果も考慮した酒類の官能面の設計を行うことができる。 本発明の酒類香味調節方法(ブレンド技術)によれば、同じ精米歩合相当の酒と比べ「すっきり感」「高級感」を呈することで清酒愛飲層にも強力に差別化された商品を提供できたり、よりニーズに合った純米酒を提供できたりする一方、従来の清酒が苦手な消費者をターゲットとした酒や、ちょっと風変わりな酒の提供を目指した酒類の官能面設計も可能である。たとえば純米酒の高品質化を図る例として、65%精白した一般的な米に70%精米した「青系酒184号」をブレンドして酒類製造する、等である。 なお、ブレンド技術による酒類製造における他の原料米としては、低グルテリン米以外の一般的な酒造用米を用いるものとすることができる。重複するが、製造される酒類が清酒の範疇に属するものの場合に備え得る官能的特性として、下記の少なくともいずれかが挙げられる。<あ>渋みまたは苦みの少なくともいずれかが低い風味である。<い>すっきりした風味である。<う>バランスがより良い風味である。 また、プログルテリン高含有の原料米と他の原料米とのブレンド方法としては、仕込みごとの米の用い方によって行う方法を採ることができる。たとえば、仕込みごとに蒸米に用いる原料米の種類および量を設計することによって行う等である。また、特に、プログルテリン高含有の原料米については蒸米の一部として用いるという方法を採ることもできる。 さて、以上説明した酒類とその製造方法および酒類香味調節方法だけでなく、原料米たるプログルテリン高含有米が精米されてなる酒造用米自体もまた、本発明の範囲内である。また、特に、プログルテリン高含有米が70%以上の精米歩合により精米されてなるものも、本発明の範囲内である。プログルテリン高含有米として、既に述べた<A>〜<E>の少なくともいずれか一つに該当するものを使用可能であることも、上述のとおりである。また、酒類製造において他の酒造用米とのブレンド用に用途を限定した酒造用米も、もちろん補本発明の範囲内である。 以下、本発明を実施例により説明するが、本発明がかかる実施例に限定されるものではない。なお、本発明完成に至る実験過程の説明をもって、実施例とする。<実施例1 胚乳タンパク質組成変異米「青系酒184号」とその酒造特性について>1.目的 青森県で偶然発見された胚乳タンパク質組成変異性を有する酒造好適米「青系酒184号」を利用し、原料に由来する製造的問題がなく、製造した清酒が官能的に新規な清酒として支持される風味を有することを目標に、各種検討を行った(図1、2参照)。2.方法(1)精米特性 物理特性としては、酒造米として重要な要件である精米特性について、精米試験機(株式会社チヨダ製 HS−4型)を用い、想定される70〜90%程度まで精米し、砕米の発生の程度を測定した(図3参照)。(2)麹製造試験および小仕込試験 麹製造試験は麹を試作し、酵素活性等で評価した。なお、酸性プロテアーゼは国税庁注解により分析した。その他はキッコーマン酵素分別定量キットを使用した。単位はα‐グルコシダーゼ、糖化力以外は国税庁注解に換算した。小仕込試験は精米歩合70、80、90%の白米180gを用いて、発酵経過、製成酒の分析を行った(図4、5、6等参照)。(3)タンパク組成解析 また、白米、酒粕についてAgilent 2100バイオアナライザを用い、タンパク組成を解析した。(4)酒類製造および官能評価 上記の結果を受け、精米歩合90%の白米3.6kg程度を用い、純米酒を試作し、一般消費者をパネラーとして官能評価を行った。3.結果(1)精米特性 「青系酒184号」は、一般的な飯米である「つがるロマン」と比較しても砕米率が低く、想定している精米歩合90〜70%では砕米率5%以下であった。また、50%まで高度精米をしても砕米率4.4%であった。したがって、精米特性は極めて良好であり、酒米として全く問題がなかった(図3参照)。(2)麹の性質 表1に、製造した麹の酵素活性を示す。麹製造においては通常の経過をたどるが、酸性カルボキシペプチダーゼの活性は高く、タンパク分解系酵素の力価が強かった。これは、米のタンパク構成の違いに由来するものと考えられた(図4参照)。(3)製成酒の一般分析結果 表2に、製成酒の一般分析結果を示す。精米歩合90〜70%の白米を使用して小仕込み試験を行った結果、製成酒は「つがるロマン」に比べ、アミノ酸度が3割〜6割低く、精米歩合の低い方がより低かった。また、「青系酒184号」は「つがるロマン」に比べて米の溶解がやや低く、辛口になりやすかった。つまり、製成酒はアミノ酸が少なくて、白ワイン風の風味を呈しやすかった(図7、8、9参照)。(4)タンパク組成解析 「青系酒184号」は、遊離アミノ酸としては特に、Val、Leu、Ile、Pheなどの疎水性アミノ酸、およびγ−ABA、Argが低い特徴を示した。そして、一般的な米の「つがるロマン」と比較した場合に電気泳動によるタンパク解析の結果から57kDaのプログルテリンの比率が高く、特殊なタンパク構成を示した。 また、発酵後の酒粕のタンパク組成は、「青系酒184号」の主要なタンパクである57kDaのプログルテリンの比率が高く、このことは57kDaのプログルテリンが麹による酵素分解を受け難いこと、つまり難消化性であることを示しており、これが「青系酒184号」に高比率で含まれているためにアミノ酸が少ないことが立証された(図10、11、12参照)。(5)官能評価 「青系酒184号」による本実施例の製成酒は、官能的には、酵母へ供給するアミノ酸欠乏に由来する硫黄臭を感じるものの、淡泊できれいな酒質であり、特に90%精米では白ワインのような風味が特徴的であると指摘された。また、清酒非飲酒層の過半数の支持を得ることができた。しかしながら一方、本製成酒は、従来の清酒とは香味が異なるものの、清酒以外の酒類とは認識されず、依然として清酒の範疇に属するものと認識される結果だった。すなわち、清酒でありつつも従来の清酒にはない香味・風味があるという評価だった(図13、14、15、16、17、18参照)。<なお、実施例1説明の補足として、グラフ・表・写真および説明文を含むスライド図を、図1〜18に示す。各スライド図中の項目番号は、本文中の項目とは一致しない。><実施例2 青系酒184号のブレンドによる酒質への影響について>1.目的 青系酒184号のブレンドによる酒質への影響について、プラント試験を行い、検討した。2.材料と方法 原料米には、「華想い」50%精白米と「青系酒184号」60%精白米を用いた。仕込配合は表3のとおりであるが、麹米および仲仕込の蒸米に「華想い」、初添と留仕込の蒸米に「青系酒184号」を使用し、「華想い」と「青系酒184号」の重量比は1:1である。 酵母としては、酒母仕込時に培養酵母まほろば吟・まほろば華をそれぞれ半量づつ、合計625mlを添加した。麹は、青森県所有麹菌H−1株を用い、麹蓋法で製造した。もろみ管理は、純米大吟醸酒の製造における一般的な管理を行った。対照として、「華想い」40%精白米を全量使用した純米吟醸酒を製造し、原料米構成以外は同様な方法で仕込み、もろみ管理を行った。分析は、国税庁所定分析法注解によった。3.結果 「華想い」全量を使用したもろみに比べ、「青系酒184号」を半量ブレンドしたもろみは、やや発酵スピードが遅く、後半、品温を下げる時期も遅めにした。 図19〜22に、実施例2の酒類醸造過程における各成分経過のグラフを示す。これらに示すように、「青系酒184号」のもろみはボーメがやや高めであり、酸度は、前半やや低めに推移したものの、最終的にはほぼ同様の成分となった。しかし、「青系酒184号」のもろみはアミノ酸度が低く推移し、最終的にも0.2程度低い値を示した。 上槽し、オリ引き、加熱殺菌後の純米吟醸酒の成分を表4に示す。ここに示されるように、「青系酒184号」を半量ブレンドした酒は、酸度、アミノ酸度、紫外部吸収が低く、着色度は高い特徴を示した。官能的には、「青系酒184号」を半量ブレンドし、製造した酒の方がバランスが良く、すっきりした風味にまとまっていた。 本発明の酒類、その製造方法、酒類香味調節方法および酒造用米によれば、高割合に精米しなくても、きれいですっきりした味の清酒を得ることができ、また、官能的に新規な風味の清酒を得ることができる。さらに本発明によれば、低グルテリン米を用いることなく、官能的に新規な風味の清酒を得ることもできる。またこの米を適宜の比率で用い、他の酒造用米とブレンドして用いることにより、清酒中のアミノ酸組成や濃度をコントロールすることが可能となり、官能的に新規な風味の清酒を自由に開発することもできる。したがって、酒造業およびこれに関連する全ての産業分野において、利用性の高い発明である。プログルテリン高含有米を原料米として製造され、該原料米はグルテリンよりもプログルテリンを多く含有することを特徴とする、酒類。前記原料米は、胚乳タンパク質組成中のプログルテリン組成比が10%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の酒類。前記原料米は、精米歩合90%の白米におけるタンパク質組成中のプログルテリン組成比が10%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の酒類。前記原料米は低グルテリン米と比較して高い耐病性または高い耐冷性を有することを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の酒類。前記原料米は青森県の系統名たる青系酒184号により特定される米であることを特徴とする、請求項1に記載の酒類。前記酒類は清酒であることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれかに記載の酒類。つがるロマンを原料米とした場合と比較してアミノ酸度が3割以上低いことを特徴とする、請求項6に記載の酒類。白ワイン風味を呈することを特徴とする、請求項6または7に記載の酒類。他の原料米とのブレンドにより製造されたことを特徴とする、請求項1ないし8のいずれかに記載の酒類。前記他の原料米は低グルテリン米以外の酒造用米であることを特徴とする、請求項9に記載の酒類。下記<あ>〜<う>の少なくともいずれかの官能的特性を備えた清酒であることを特徴とする、請求項9または10に記載の酒類。<あ>渋みまたは苦みの少なくともいずれかが低い風味である<い>すっきりした風味である<う>バランスがより良い風味であるプログルテリン高含有米を原料米として醸造工程がなされ、該原料米は、下記<A>〜<E>の少なくともいずれか一つに該当するものであることを特徴とする、酒類製造方法。<A>グルテリンよりもプログルテリンを多く含有する<B>胚乳タンパク質組成中のプログルテリン組成比が10%以上である<C>精米歩合90%の白米におけるタンパク質組成中のプログルテリン組成比が10%以上である<D>低グルテリン米と比較して高い耐病性または高い耐冷性を有する<E>青森県の系統名たる青系酒184号により特定される米である前記原料米の精米歩合を70%以上90%以下とすることを特徴とする、請求項12に記載の酒類製造方法。白ワイン風味を呈する清酒が得られることを特徴とする、請求項12または13に記載の酒類製造方法。前記原料米と他の原料米がブレンドされて用いられることを特徴とする、請求項12ないし14のいずれかに記載の酒類製造方法。前記原料米は蒸米の一部としてブレンドされることを特徴とする、請求項15に記載の酒類製造方法。請求項15または16に記載の酒類製造方法における酒類香味調節方法であって、プログルテリン高含有の前記原料米と他の原料米とのブレンド率により製造される酒類の香味を調節する、酒類香味調節方法。前記プログルテリン高含有の前記原料米と他の原料米とのブレンドは、仕込みごとの米の用い方によって行うことを特徴とする、請求項17に記載の酒類香味調節方法。前記ブレンドは、仕込みごとに蒸米に用いる原料米の種類および量を設計することによって行うことを特徴とする、請求項17に記載の酒類香味調節方法。原料米たるプログルテリン高含有米が精米されてなる酒造用米であって、該原料米は、下記<A>〜<E>の少なくともいずれか一つに該当するものであることを特徴とする、酒造用米。<A>グルテリンよりもプログルテリンを多く含有する<B>胚乳タンパク質組成中のプログルテリン組成比が10%以上である<C>精米歩合90%の白米におけるタンパク質組成中のプログルテリン組成比が10%以上である<D>低グルテリン米と比較して高い耐病性または高い耐冷性を有する<E>青系酒184号である原料米たるプログルテリン高含有米が70%以上の精米歩合により精米されてなることを特徴とする、請求項20に記載の酒造用米。酒類製造において他の酒造用米とブレンドして用いられることを特徴とする、請求項20または21に記載の酒造用米。 【課題】低グルテリン米を用いることなく、きれいですっきりした味の清酒を得ることができ、また、官能的に新規な風味の清酒を得ることのできる、酒類およびその製造方法を提供すること。【解決手段】グルテリン前駆体(プログルテリン)高含有米を原料米として酒類を製造する。つまり、米の主要なタンパクであるグルテリンが少なく、プログルテリンの比率が高い胚乳タンパク質組成変異性を有する米を酒造用米として用いて製造する。下記<A>〜<C>の特質を備えた青森県の系統名たる「青系酒184号」により特定される米により、かかる酒類を製造できる。<A>グルテリンよりもプログルテリンを多く含有すること。<B>胚乳タンパク質組成中のプログルテリン組成比が10%以上であること。<C>精米歩合90%の白米におけるタンパク質組成中のプログルテリン組成比が10%以上であること。【選択図】図1