タイトル: | 公開特許公報(A)_オボムコイドアレルゲンを選択的に低減化した卵白素材の製造方法 |
出願番号: | 2013046331 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | A23J 3/04,A23J 3/34,C12P 1/00 |
鈴木 敦士 原 崇 赤坂 一之 松尾 博史 渡辺 真理 JP 2014171424 公開特許公報(A) 20140922 2013046331 20130308 オボムコイドアレルゲンを選択的に低減化した卵白素材の製造方法 国立大学法人 新潟大学 304027279 学校法人近畿大学 000125347 公益財団法人 にいがた産業創造機構 307010144 松浦 康次 100140394 鈴木 敦士 原 崇 赤坂 一之 松尾 博史 渡辺 真理 A23J 3/04 20060101AFI20140826BHJP A23J 3/34 20060101ALI20140826BHJP C12P 1/00 20060101ALN20140826BHJP JPA23J3/04 501A23J3/34C12P1/00 A 6 OL 12 (出願人による申告)平成20年1月〜平成24年12月、独立行政法人科学技術振興機構、「食の高付加価値化に資する基盤技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願 4B064 4B064AG01 4B064CA21 4B064CB06 4B064CD20 4B064CD21 4B064DA10 本発明は、低アレルゲン性および易消化性の卵白素材食品の製造方法に関し、より具体的には、特定の蛋白質におけるアレルゲン性を選択的に低減した卵白素材の製造方法に関するものである。 近年、食生活の変化、食材の多様化等が進むにつれ、食物アレルギーを患う患者が急増している。ここで、食物アレルギーとは、摂取した食物が原因となり、免疫学的機序を介して皮膚・呼吸器・消化器あるいは全身に惹起される炎症などの生体に不利益な反応のことをいう。厚生労働省等の報告によれば、我が国で小児期に最も多い食物アレルギーは鶏卵によるものとされ、3歳児の患者への調査では鶏卵が、食物アレルギーを引き起こす原因食物の約40%とされている。 (薬物療法) この食物アレルギーに対する現状の治療法として、原因食物を患者に摂取させない食事治療が実施され、補助的に、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬等の内服といった薬物治療が実施されている。しかしながら、この治療法では、基本的に、食物アレルギーの患者は、原因食物を含む食事を楽しむことを諦めざるを得ない。このことは、嗜好の問題だけでなく、栄養学的にも問題となる。 (食事療法) また、上述の薬物治療に加えて、薬物治療で症状の落ち着いた患者への食事療法も考えられるが、この食事療法に適当な移行食が開発できているとはいえない状況である。 食物アレルギーのメカニズムは、患者体内の免疫システムを介し、以下に示すように引き起こされる。食物アレルギー患者体内では食物抗原を認識する免疫グロブリンE(IgE抗体とも呼ぶ。)という蛋白質が産生され、このIgEが皮膚や腸粘膜等に存在するマスト細胞の表面に結合した状態となる。この状態で、IgE抗体と、摂取された食物抗原(例えば、オボムコイドやオボアルブミンが挙げられ、アレルゲンとも呼ばれる。)の分子のある特定の構造部位(エピトープ(epitope)とも呼ぶ。)と、が結合することにより、マスト細胞から炎症性化学伝達物質(ヒスタミン、ロイコトリエンなど)が放出されアレルギー反応が引き起こされるものである。 例えば、鶏卵等の卵黄にはアレルゲン活性はほとんどみられず、鶏卵の主要なアレルゲンとなるオボムコイド、オボアルブミン、リゾチーム、オボトランスフェリンなどの蛋白質は卵白に存在する。なお、このうち、オボムコイドは、卵白の約10%を構成し、特に熱変性を受け難く、酵素に対する消化抵抗性を示すため、アレルギーを起こす性質(アレルゲン活性)を失わない最もアレルゲン性の強い鶏卵蛋白質と言われている。つまり、鶏卵アレルギー患者でも、何らかの手段でオボムコイドのアレルゲン活性を除去・低減できれば、そのような鶏卵製品を含む食品を食べてもアレルギー症状を引き起こす危険性が低減されることになる。 従って、食物アレルギーを生み出す原因食物中の特定のアレルゲン(特に、オボムコイド)の組織構造のみを分解し、アレルゲン活性を除去することができれば、患者が被る薬物療法や食事療法の不自由を軽減し、この症状の治療への新たな道を与えるものと期待されている。 オボムコイドを除去する方法として、既に、加熱脱オボムコイド法と呼ばれる方法が提案・開発されているが、この従来の方法では、ゆで卵の白身の状態として得られるため、その用途は著しく限定される。さらに、加熱脱オボムコイド法により得られた鶏卵白は、卵白を構成する他の蛋白質(オボアルブミン等)が変性、凝固してしまうため、オボアルブミン等の存在に由来する起泡性や凝固性なども完全に消失してしまい、鶏卵白としての素材特性や機能を全く提供し得ないものになっている。 鶏卵白は、その素材特性から幅広い食品の製造に多く利用されているが、現在、この素材特性を維持したままでアレルゲン活性の低い(この性質を以下、低アレルギー性とも呼ぶ。)鶏卵白食品は、市場に見当たらない。特開2010−279313号公報特開2011−83228号公報 本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、卵白の素材特性をある程度残したまま、アレルゲン活性を低減した易消化性の卵白素材とその製造方法を提供することを目的とする。 また、本発明は、卵白中の特定のアレルゲンのみを分解する方法を提供することも目的とする。 本発明者らは、鋭意検討の末、(1)卵白に、システインを添加し、これを所定の温度に設定すれば、卵白中のオボムコイドのS−S結合を切断できること、(2)この状態で食品添加物として認可されている蛋白質分解酵素を働かせるとオボムコイドが効率良く分解されること、及び、(3)分解効率を上げるために、これらを添加と同時又は添加後に、極めて高い圧力(100〜500MPa)下に置くと、常圧下に置いた場合よりもさらに効率良くオボムコイドの分解を促進できること、 を見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は、少なくとも次の特徴を備えたものである。(態様1) 卵白に、食品添加可能な蛋白質分解酵素とシステインとを混合する混合ステップと、 混合物の温度を50〜60℃に保ちつつ100MPa〜500MPaの圧力を加えながら前記混合物を反応させる反応ステップと、 を含み、これにより、 前記卵白中のアレルゲンのうち、オボムコイドのアレルゲン活性を選択的に低減することを特徴とする卵白素材の製造方法。(態様2) 前記混合ステップにおける前記蛋白質分解酵素には、ブロメライン、パパイン、及びフィシンの少なくとも1つが選択されることを特徴とする態様1に記載の製造方法。(態様3) 前記混合ステップにおける前記卵白には、液卵白および乾燥卵白の少なくとも1つが選択されることを特徴とする態様1又は2に記載の製造方法。(態様4) 前記反応ステップでは、加圧時間を1分〜180分に設定することを特徴とする態様1〜3のいずれかに記載の製造方法。(態様5) 前記混合ステップと前記反応ステップとを同時に実行することを特徴とする態様1〜4のいずれかに記載の製造方法。(態様6) 卵白に、食品添加可能な蛋白質分解酵素とシステインとを混合する混合ステップと、 混合物の温度を50〜60℃に保ちつつ100MPa〜500MPaの圧力を加えながら前記混合物を反応させる反応ステップと、 を含み、これにより、 前記卵白中のアレルゲンのうち、オボムコイドを選択的に分解することを特徴とする卵白中の蛋白質アレルゲンの分解方法。 なお、先行技術として特許文献1と特許文献2とが存在するが、以下の点から本発明と目的や作用効果が異なるものである。 具体的には、特許文献1には、従来の分解酵素(α−キモトリプシン等が例示)と、分解対象である蛋白質(ユビキチンなどの球状蛋白質等が例示)と、を耐圧容器に入れて加圧することで、当該蛋白質が効率的に分解できることが開示されている。 しかしながら、上述のように、分解酵素の他にシステインを加えるという発想や、これにより、卵白中の特定の蛋白質アレルゲン(オボムコイド)のS−S結合が効率良く切断され、オボムコイドのアレルゲン活性を選択的に低減できることは開示も示唆もされていない。 一方、特許文献2には、卵白をパパイン等の分解酵素で加水分解した後、反応液を65℃〜75℃で加熱処理等を施すことで、卵白中に元来含まれているシステインを増加させることができること、つまり、卵白を原料としたシステイン供給源を提供できることが開示されている。 しかしながら、特許文献2は卵白中のタンパク質を加水分解し、元来アミノ酸残基として含まれているシステインを遊離させて含有量を増やすことが目的であって、卵白中の特定の蛋白質のアレルゲン活性を低減することを目的とする本発明とは全く異なるものである。すなわち、本発明は、分解酵素の他に、別途システイン(例えばシステイン製剤)を添加した上で、温度及び高圧処理を施すことで、本発明の目的を達成するのである。 本発明の製造方法によれば、システイン存在下で卵白に酵素処理と温度管理及び高圧処理とを施すことによって、最も強力な消化抵抗性を示すアレルゲンである卵白中のオボムコイドを選択的且つ効率的に分解することができ、低アレルギー性の卵白素材や消化吸収性を高めた卵白素材を提供することができる。 さらに、本発明によれば、卵白への酵素処理の際、起泡性や凝固性の付与に重要となるオボアルブミンも僅かに分解されるが、処理後も卵白中にある程度残存させることができる。つまり、本発明の方法は、卵白としての素材特性(起泡性、凝固性など)をある程度維持したままで、卵白中のオボムコイドのみを分解除去できる。これにより、幅広い食品製造にも利用可能な低アレルギー性卵白素材を提供することができる。実施例1、比較例1及び比較例2のサンプル中の蛋白質アレルゲン(オボムコイド及びオボアルブミン)の検出結果を示した図である。Inhibition‐ELISAを用いて評価した実施例1、比較例1及び比較例2の各サンプルのIgE結合度を示した図である。オボムコイド(OVM)のNMR解析の結果を示した図である。 以下、本発明を図面に示す実施の形態に基づき説明するが、本発明は、下記の具体的な実施態様に何等限定されるものではない。 (卵白材料) 本発明に適用可能な卵白原料として、鶏、ウズラ、アヒルの他、食用として使用される卵から取得された卵白が挙げられる。また、この卵白は液体状のまま使用しても良いし、本発明の製造方法を適用する前に予め乾燥処理を施した卵白も使用することも可能である。 (卵白中のアレルゲン蛋白質) なお、卵白(例えば、鶏卵白)には、卵アレルギーの症状の主要なアレルゲンとなるオボムコイド(ovomucoid、以下、「OVM」とも呼ぶ。)、オボアルブミン(ovalbumin、以下、「OVA」とも呼ぶ。)、リゾチーム(lysozyme)、オボトランスフェリン(ovotransferrin)などの蛋白質が含まれることが分かっている。なお、このうち、オボアルブミンは卵白の約8割近くを占め、卵白特有の起泡性や凝固性の発揮に欠かせない成分であると言われている。一方、オボムコイドは、卵白の約10%程度を構成し、特に熱や消化酵素の影響を受けにくいとされている。立体構造が特に安定で、強い消化抵抗性を示す特性により、OVMはアレルギーを起こす性質(アレルゲン活性)を失わない最も強力な鶏卵蛋白質と言われている。 (本発明の製造方法の概略) 本発明の低アレルゲン性卵白素材の製造方法は、主に、2つの製造工程(ステップ)から構成される。すなわち、この製造方法は、卵白に食品添加可能な分解酵素とシステインとを添加して混合する混合ステップと、混合物の温度を50℃〜60℃に保ちつつ100MPa〜500MPaの圧力を加えて混合物を反応させる反応ステップと、を含む。 (本発明の製造方法の作用効果) 上述のステップを実行することにより、卵白中のアレルゲンのうち、熱や消化酵素に対して極めて強固なオボムコイドを特異的に分解することができるので、オボムコイドによるアレルゲン活性を選択的に低減した卵白素材を提供することが可能となる。 (混合ステップでの分解酵素の添加) 混合ステップにおいて添加される食品添加可能な蛋白質分解酵素には、厚生労働省や法規制等で食品への添加が認可されているものであればよいが、好ましくは、ブロメライン、パパイン、及びフィシンの少なくとも1つが選択される。 (混合ステップでのシステインの添加) また、混合ステップにおいては上述の蛋白質分解酵素に加えて、アミノ酸の一種であるシステイン(cysteine、Cys)も卵白中に添加することが極めて重要である。なお、システインの分子式はC3H7NO2Sであり、体系名は2-アミノ-3-スルファニルプロピオン酸である。このシステインはその分子構造の残基にSH基(‐SH)を有するために、システインを溶液中に添加すると、もともとOVMに存在するS−S結合を開裂して、生じたシステインのSH基と反応してこれと新たなS−S結合を形成する。このため、S−S結合を失ったOVMの立体構造が不安定化し、50℃〜60℃で立体構造が崩壊するのである。 本発明者らは、このシステインの追加的な添加と50℃〜60℃への昇温が、卵白中の蛋白質アレルゲンのうち、最も強固なオボムコイドのS−S結合の切断に特に有効であることを発見したのである。これにより、オボムコイドの架橋構造が崩れ、システインと併せて添加された蛋白質分解酵素がオボムコイドに非常に接近しやすくなり、後述のオボムコイドの分解除去に好ましい環境が作られる。言い換えれば、オボムコイドの加水分解にはS−S結合の還元による切断が極めて有効である。 特に、オボムコイドのS−S結合の開裂反応は、卵白とシステインとを50℃〜60℃の温度に維持しながら混合することで顕著に進行するが、常温に戻すとS−S結合は修復する可能性がある。なお、この混合ステップで添加するシステインの濃度は、好ましくは反応溶液中のオボムコイドのモル濃度の10倍以上である。 後述の実施例でも示すように、卵白中へのシステインの添加により、オボムコイドの立体構造が崩壊し始める温度が劇的に低下する。この崩壊温度の下限は50℃程度である。一方、必要以上に温度を上げることは望ましくない。具体的には、60℃を超えた温度に設定すると、卵白等の一部が固まったり、その他の有用な成分を壊してしまったりするため、望ましくない。 (反応ステップ) 上記溶液に蛋白質分解酵素を加え50℃〜60℃の温度で保ち、オボムコイドの分解反応を起こさせる。これにより、S−S結合の開裂が進んだ結果、立体構造が崩れた変性状態のオボムコイドに、酵素処理を行うことになるため、OVMはたやすく酵素分解を受けるようになる。ここで、反応溶液に高圧力(100MPa〜500MPa程度)を加えることで、分解効率をさらに向上させることができる。 高圧処理は、水を圧力媒体として高い静水圧(100MPa〜500MPa程度の圧力)を上記混合物に付与する加工法である。この高圧処理には、ピストンで圧力容器を直接加圧する直接加圧式の装置と圧力容器内にポンプで水を送る間接加圧式の装置を用いることができる。この反応ステップでは、反応時間を1分〜180分に設定する。 本発明により分解されたオボムコイドのIgE結合度は、例えば、1/100〜1/10000程度にまで低下させることが可能である。 (同時並行処理) また、上述の添加ステップと反応ステップとを同時に実行してもよい。これにより、オボムコイドの分解除去に要する時間を短縮することができ、ひいては、低アレルゲン性卵白素材の製造時間を短縮することが可能になる。 次に本発明の具体的な実施例について説明する。 乾燥卵白を通常の液卵白にする水分量(乾燥卵白の質量の7倍量)の約90重量%で溶解し、残り約10重量%の水に2000U/mlのブロメライン製剤(天野エンザイム社製、商品名ブロメラインF)と10mM(ミリモーラー)のシステイン(和光純薬工業社製、商品名システイン)を溶解させた後、混合させた。 この混合溶液を100ml程、ポリエチレン袋に入れ、ポリシーラーにより封入し、さらに水を入れた別のポリエチレン袋に入れて封入する。高圧装置(神戸製鋼社製、商品名Dr.CHEF)には300mlを上限とし、400MPa、58℃、及び1時間の加圧条件で加圧処理を行った。加圧酵素処理後、ブロメライン製剤の酵素失活処理として、恒温槽内で75℃、5分間の処理を行った。その後、50mlの遠沈管に25mlずつ分注し、−80℃で冷凍し、3〜4日間の凍結乾燥処理を行った(実施例1)。(比較例) なお、比較例1として、上述の乾燥卵白のまま(つまり、未処理)のものを用意した。また、比較例2として、この混合溶液に、実施例1で付与したような高圧処理を施さずに常圧下(0.1MPa)のままで酵素失活処理と凍結乾燥処理とを行ったものも比較例2として用意した。 (オボムコイド(OVM)及びオボアルブミン(OVA)の検出方法と評価結果) 「アレルギー物質を含む食品の検査方法について」(平成22年9月10日付消食表第286号消費者庁次長通知)に準拠したアレルゲン検査キットであるモリナガFASPEK特定原材料測定キット(森永生科学研究所製)を用いて、上述の実施例1、比較例1及び比較例2のサンプル中の蛋白質アレルゲンの検出を行った。図1(a)及び(b)にオボムコイド及びオボアルブミンの検出結果を示す。 図1(a)及び(b)の右側に示すように、高圧下で酵素処理された実施例1のサンプルでは、オボムコイド(OVM)は検出されず、つまり、検出限界未満まで低減されているが、オボアルブミン(OVA)は検出され、ある程度の量が残存することが確認された。なお、このOVAの残存は、卵白素材を形成する重要な特性(起泡性や凝固性)の維持に有利に働く。 (IgE結合度の評価) 上述のように作製した実施例1、比較例1及び比較例2のサンプルに対し、鶏卵アレルギー患者血清を用いたInhibition‐ELISAを行い、各サンプルのIgE結合度を定量的に評価した。なお、この鶏卵アレルギー患者血清を用いたInhibition‐ELISAでは、鶏卵アレルギー患者(卵白に対するRASTクラス3〜6、オボムコイド(OVM)に対するRASTクラス1〜6に属する患者)9名のプール血清と、抗ヒトIgE抗体(BIOSOURCE社製、商品名抗ヒトIgE抗体)を使用した。 図2にこれらのサンプルの評価結果を示す。高圧下で酵素処理された実施例1のサンプル(図2右側に示す棒グラフを参照)では、未処理の乾燥卵白である比較例1のサンプル(図2左側に示す棒グラフを参照)と比較して、1/1000以下のIgE結合度を示すことが確認された。 (オボムコイド立体構造の崩壊が開始する温度) 次に、常圧下の卵白中のオボムコイド(OVM)と、システインを更に添加した卵白中のOVMと、について、各試料の温度を変化させた状態でNMR解析を行った。図3(a)にシステインが添加されていない場合のNMRのスペクトルを示し、図3(b)にシステインが添加された場合のNMRのスペクトルを示す。なお、各グラフでは、横軸に磁場強度(ppm)を示し、異なる温度条件でのスペクトルを複数示す システインが存在していない場合は、試料の温度を75℃以上にまで上げないと、OVMの立体構造が崩壊しないことが観察された(図3(a)を参照)。一方、システイン存在下では、50℃以上の温度でOVMの立体構造がほぼ完全に崩壊することが観察された(図3(b)参照)。つまり、システインの添加によって、OVMの立体構造の崩壊が始まる温度(立体構造崩壊温度)は、25℃程度も劇的に低下することが判明した。 なお、上述のOVMで観察されたような現象を確認すべくオボアルブミン(OVA)についても同様のNMR解析を行った。図示しないが、システイン添加による立体構造崩壊温度の低下はたかだか6℃程度で、OVMの上記結果と比べるとシステイン添加の効果は微弱である。 本発明によれば、食物アレルギー患者に対し、アレルゲンに対する耐性の獲得を早め、抜本的な治療を施すことが可能になることが期待される。例えば、食物アレルギー患者に対し、前述した従来の薬剤治療を先ず施す。その後、アレルギー症状が落ち着いた(寛解の兆しがみられる)時期にアレルゲン完全除去食を解除し、本発明により製造された低アレルギー性卵白素材を含む食品を移行食として患者に摂取させる食事療法を施すことで、アレルギー症状の発症を回避しつつアレルギーに対する耐性の獲得を患者に促すことが可能になるものと期待される。また、本発明の低アレルギー性卵白素材は易消化性である点から、栄養吸収の点で優位性が見込まれる。 さらに、本発明により製造される低アレルゲン性卵白素材は、一定の市場が見込まれる。例えば、乾燥卵白、泡立て剤、つなぎ剤等の商品にこの卵白素材を幅広く利用できることが期待される。 以上のように、本発明の産業上の利用価値及び利用可能性は非常に高い。 卵白に、食品添加可能な蛋白質分解酵素とシステインとを混合する混合ステップと、 混合物の温度を50〜60℃に保ちつつ100MPa〜500MPaの圧力を加えながら前記混合物を反応させる反応ステップと、 を含み、これにより、 前記卵白中のアレルゲンのうち、オボムコイドのアレルゲン活性を選択的に低減することを特徴とする卵白素材の製造方法。 前記混合ステップにおける前記蛋白質分解酵素には、ブロメライン、パパイン、及びフィシンの少なくとも1つが選択されることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。 前記混合ステップにおける前記卵白には、液卵白および乾燥卵白の少なくとも1つが選択されることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。 前記反応ステップでは、加圧時間を1分〜180分に設定することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。 前記混合ステップと前記反応ステップとを同時に実行することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。 卵白に、食品添加可能な蛋白質分解酵素とシステインとを混合する混合ステップと、 混合物の温度を50〜60℃に保ちつつ100MPa〜500MPaの圧力を加えながら前記混合物を反応させる反応ステップと、 を含み、これにより、 前記卵白中のアレルゲンのうち、オボムコイドを選択的に分解することを特徴とする卵白中の蛋白質アレルゲンの分解方法。 【課題】卵白の素材特性をある程度残したままアレルゲン活性を低減した易消化性の卵白素材の製造方法を提供する。【解決手段】本発明では、以下のステップにより、選択的にオボムコイドを分解した卵白素材を製造することができる。すなわち、(1)卵白に、システインと食品添加可能な蛋白質分解酵素とを混合し、(2)混合物を、50℃〜60℃で保持し、同時に100MPa〜500MPaの圧力を加えて、分解反応を進行させる。これにより、卵白中のアレルゲンのうち、オボムコイドのアレルゲン活性が選択的に低減される。言い換えれば、本発明は、システイン添加によるオボムコイドの立体構造が崩壊する温度の劇的な低下を利用してオボムコイドのアレルゲン活性を選択的に低減するものである。【選択図】なし