タイトル: | 特許公報(B2)_マクリの培養方法 |
出願番号: | 2013035498 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | C12N 1/12 |
伊波 匡彦 岡 直宏 飯沼 喜朗 JP 5699411 特許公報(B2) 20150227 2013035498 20130226 マクリの培養方法 株式会社サウスプロダクト 504426218 特許業務法人 小野国際特許事務所 110000590 伊波 匡彦 岡 直宏 飯沼 喜朗 20150408 C12N 1/12 20060101AFI20150319BHJP JPC12N1/12 A C12N 1/00 A01H 13/00 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII) 特開平05−213871(JP,A) 村岡大祐,紅藻ツルシラモ(Gracilaria chorda)の再生および傷害組織形成過程,東北水研ニュース56,1998年,http://tnfri.fra.affrc.go.jp/tnf/news56/mura.htm参照 難波信由 他,岩手県越喜来湾における褐藻ヒジキの多回収穫型養殖,Sessile Organisms,2008年,Vol.25, No.1,Pases 17-23 藤川義一 他,褐藻フシスジモクの組織培養,青森県水産増殖センター事業報告書,1997年 3月,第26号,362-367頁,http://jsnfri.fra.affrc.go.jp/pref/aomori/zoshoku/jigyo/26/362-367.pdf参照 3 2009100661 20090417 2013099363 20130523 6 20130307 大久保 智之 本発明は、カイニン酸の製造方法に関し、更に詳細には、マクリの附着器の切片を人工的に培養して得られた培養体を原料とすることによって、安定的にカイニン酸を供給することが可能な方法に関する。 マクリ(Digenea simplex)は大西洋、地中海などの暖流流域に分布する紅藻類のひとつであり、不規則に分岐した太い円柱状の枝と、その全面に密生するかたい毛のような小枝とからなる藻体を有し、附着器(座部位)を介して岩上に附着している。マクリは、イミノ酸の一種であるカイニン酸を含有していることが知られている。カイニン酸は下記構造を示す既知の物質であり、その効果として、駆虫作用があることが古くから知られているほか、カイニン酸型グルタミン酸受容体の選択的アゴニストの一つで、中枢神経を著しく興奮させる薬理作用があり、現在の用途としては薬理活性を利用した研究用のツールとして用いられている。 従来、カイニン酸を製造するにあたっては、天然に自生するマクリの藻体部分から抽出・精製されていた。しかしながら、近年乱獲によるマクリの枯渇による供給量の減少が問題となっていた。 したがって、カイニン酸を安定的に供給し得る手段が切望されており、本発明は、そのようなカイニン酸の製造方法を提供することを課題とするものである。 本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究をした結果、マクリの附着器を切片化して人工環境下にて培養すると、切片が伸長して増体するとともに、新芽を形成し、この部分を再度切片化して培養できることを知った。さらに附着器の切片の培養体は、天然のマクリの藻体部分と同等またはそれ以上のカイニン酸を含有することを見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明はマクリ(Digenea simplex)附着器の切片を培養した培養体からカイニン酸を分離することを特徴とするカイニン酸の製造方法である。 また本発明は、マクリの附着器の切片を培養容器へ着床させない条件で培養、増体させることを特徴とするマクリの培養方法である。 従来、マクリの製造においては、自生するマクリの藻体部分が抽出原料として用いられており、附着器の部分の含有成分や、附着器自体の培養方法に関する知見はなかった。本発明の製造方法によれば、マクリの附着器からの切片の作製とその培養を繰り返すことによって、全体の重量を著しく増大させることができ、また得られた培養体は天然の藻体部分と同等あるいはそれ以上のカイニン酸を含有しているため、これを抽出原料として使用することにより、カイニン酸を効率よく多量に製造することが可能である。また、人工的に培養された培養体を用いて繰り返し増殖させることができるため、カイニン酸を安定的に供給することができる。 フジマツモ科(Rhodomelaceae)の紅藻類であるマクリ(Digenea simplex)は、天然において、不規則に分岐した太い円柱状の枝と、その全面に密生するかたい毛のような小枝からなる藻体を有し、附着器を介して岩上に附着しているが、本発明方法では、このうちの附着器の部分を使用する。 マクリの附着器の培養にあたっては、附着器の一部を切断した切片を用いる。マクリの附着器は、上部に成長点を有し、上方に伸長していくとともに、側面から複数の太さ約0.1〜1mm、長さ5mm程度の新芽を形成する。この新芽の部分は増殖が速いため、本発明においては、新芽を切断して切片とすることが好ましい。また新芽の部分を切除しても、附着器は成長点から伸長を続けることができ、伸長した組織から新たに新芽を形成させるため、一つの附着器から繰り返し切片を作製することができる。さらに作製された切片も培養により伸長し新芽を形成する。このように切片化と培養を繰り返し行うことにより、附着器自体が増体するとともに、附着器の個体数が増加して、全体の重量を指数関数的に増大させることが可能となる。 上記附着器の切片は培養容器へ着床させる条件で培養しても、着床させない条件で培養してもよい。例えば、培養器に附着器の切片を入れ静置すると、附着器より仮根が形成され培養器に附着して着床する。より具体的には、静置により附着器を培養する場合は、平面の広い容器を用い附着器またはその切片が重ならないように置き、培養液を定期的に交換すれば良い。 一方、附着器の切片を培養容器へ着床させない条件としては、例えば、連続攪拌培養したり、着床しにくい材料で形成した培養容器中で培養すれば良い。連続攪拌により附着器の切片を培養する場合は、攪拌子や攪拌機による機械攪拌や、通気等による攪拌を行い、培養液全体を攪拌しながら培養すれば良い。攪拌条件は容器の大きさ等により適宜変化するが、例えば、培養容器として1Lの容量の平底フラスコを用い、通気による攪拌を行う場合には、培養容器内に空気を1.0L/分〜2.5L/分、好ましくは1.5L/分〜2.3L/分で導入すれば良い。このように、附着器の切片を培養容器へ着床させない浮遊培養を行った場合には、藻体を形成することなく附着器の組織のまま伸長し、新芽を形成するため、切片化を繰り返し行うことができる。したがって、附着器の切片を着床させない条件の方が、全体の重量を著しく増加させることができるために好ましい。 上記培養の際に用いる培養液は、海藻類を培養することができるものであれば特に制限されないが、滅菌された人工海水または海水に、窒素源およびリン源等の栄養成分を含有したものであることが好ましい。培地中に添加可能なその他の栄養成分としては、ビタミンB12、ビオチン、チアミンが例示できる。これらの栄養成分を含有する培養液として、例えば公知のPESI培地(Masakazu Tatewaki、Formation of a crustaceous sporophyte with unilocular sporangia in Scytosiphon lomentaria、Phycologia 6(1)1966.)等を使用することができ、また、KW21(第一製網製)やノリシード(第一製網製)の商品名で市販されている藻類培養液を用いることもできる。これらの培養液を窒素源およびリン源が上記濃度となるよう添加すれば良い。 また、この培養は恒温条件下で行うことが好ましい。通常15〜30℃、好ましくは15〜25℃、より好ましくは20〜25℃の温度である。この範囲であると、増体量が大きくなる。 更に、この培養は光照射条件下で行うことが好ましい。好ましくは10〜160μmol・m−2・s−1であり、より好ましくは20〜80μmol・m−2・s−1である。この範囲であると、増体量が大きくなる。このような光量により、8L:16D〜24L:0D、好ましくは12L:12D〜16L:8Dの光周期で照射を行えば良い。 上記培養に供するマクリの附着器の種苗としては、天然から採集したマクリの附着器またはこれを予備培養した培養体を使用することができる。これらは単藻化されたものであることが好ましく、天然のマクリを使用する場合には、附着器の部分を採取して、これを5mm×0.2mm程度の大きさに切断して切片化し、次いでエタノールなどの有機溶媒による殺菌や真水洗浄などの処理を行うことにより単藻化することができる。これをそのまま種苗として培養に供してもよいが、さらに予備培養した培養体を種苗としてもよく、このような培養体は、侠雑物の繁茂が抑えられているため、再度殺菌や真水洗浄などを行う必要がない。予備培養は、上記培養方法と同様にして行うことができる。 一方、マクリの附着器切片の培養体から、カイニン酸を抽出するために使用される溶媒は、カイニン酸を抽出することのできるものであれば特に制限されないが、例えば、水、酢酸等の有機酸、メタノール、エタノール等のアルコール類もしくはこれらの混合溶媒が好ましく、水がより好ましい。これらの溶媒は、マクリに対して4:1〜1000:1、好ましくは4:1〜200:1の質量比で添加すれば良い。 上記溶媒を用いる抽出は常法により行うことができ、例えば、溶媒として水を用いる場合であれば、15℃〜40℃、好ましくは15℃〜25℃の温度で、8時間〜24時間、好ましくは12時間〜16時間抽出を行えば良い。また、抽出に当たっては、必要により、超音波、攪拌機等により攪拌を行っても良い。 以上のようにして得られる抽出物から、カイニン酸を分離、取得するには、抽出物をそのまま、あるいは残渣を取り除いてからHPLC等に付し、これにより分離・精製を行えばよい。 斯くして得られるカイニン酸は上記した駆虫作用を示す薬品として、もしくは薬理活性を利用した研究用のツールとしての用途に使用することができる。 以下に、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。 参 考 例 1 マクリ附着器種苗の調製: 天然藻体の附着器(座部位)を5×0.2mm程度に切片化し、121℃40分間オートクレーブしたろ過海水を入れたシャーレに移した。絵画用の筆などで表面を軽く撫で附着物を取り除き、布などで吸湿したのち、水:エタノール=4:1を染み込ませた布で表面を拭いた。これを下記表1の組成のPESI培養液を満たしたガラスシャーレに浸漬し、水温25℃、光量20μmol・m−2・s−1、光周期12L:12D下に置いた。4日後、附着器から伸長した新芽をハサミとピンセットを用い切断し、単藻化された附着器の種苗を得た。 実 施 例 1 マクリ附着器の浮遊培養: 下記表1の組成のPESI培養液を2%添加したろ過海水を121℃40分間オートクレーブしたものを培養液とした。この培養液400mlを500mlの平底フラスコに入れ、参考例1で得られた単藻化した附着器(長さ5mm)40本(湿重量30mg)を加え、空気を2.3L/分で導入し、温度25℃、光量40μmol・m−2・s−1、光周期12L:12D下で4週間培養した。培養液の交換は5日毎に行った。新芽が形成され次第、培養液交換時に切片化を行った。培養後湿重量を測定した。4週間後の湿重量は500mgで、4週間で約16倍量となった。 実 施 例 2 培養マクリからのカイニン酸の製造: (カイニン酸の抽出) 実施例1で得られたマクリ附着器の培養体を凍結乾燥し、50倍容の水にて20℃で16時間抽出を行なった。抽出液は残渣を除去した後、減圧下にて溶媒を留去し、残留物を一定量の水に再溶解し、分析用サンプルとした。下記方法により、カイニン酸を測定した。また天然から採集したマクリの藻体部分についても同様にしてカイニン酸含量を測定した。天然藻体と培養体の分析結果を表2に示す。 (カイニン酸の定量方法) カイニン酸はHPLCにより定量を行った。カラムはWakosil−II 5C18HG(和光純薬工業製、内径4.6x150mm)を用い、移動相はアセトニトリル/燐酸緩衝液の混合液(80:20)を用いた。カイニン酸の検出は波長210nmの吸収で行い、流速は1.0ml/minで分析を行った。なお、移動相の燐酸緩衝液は、リン酸二水素カリウム2.7gおよび硫酸水素テトラブチルアンモニウム1.7gを1Lの水に溶解し、水酸化カリウム溶液にてpH7.0に調整したものである。 附着器の培養体は、天然のマクリの藻体部分と同等のカイニン酸を含有することが示された。 本発明によれば、カイニン酸を効率的かつ多量に製造することができ、またマクリの人工的な培養体を原料とするため安定供給が可能である。したがって、医薬品や試薬に用いる原料の製造方法として極めて有用である。 以 上 マクリ(Digenea simplex)の附着器から伸長した新芽を切断して得られる切片を培養容器へ着床させない条件で培養、増体させることを特徴とするマクリの培養方法。 培養が、連続撹拌培養により行われるものである請求項1記載のマクリの培養方法。 撹拌が、通気による攪拌または機械撹拌である請求項2項記載のマクリの培養方法。