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タイトル:公開特許公報(A)_不均質セルロースフィルムの製造方法
出願番号:2013034613
年次:2014
IPC分類:C08B 16/00,C08J 5/18,C07D 233/58


特許情報キャッシュ

熊田 賢太郎 鈴木 恵介 八尾 滋 浜崎 大士 山内 久代 JP 2014162844 公開特許公報(A) 20140908 2013034613 20130225 不均質セルロースフィルムの製造方法 フタムラ化学株式会社 592184876 学校法人福岡大学 598015084 後藤 憲秋 100079050 熊田 賢太郎 鈴木 恵介 八尾 滋 浜崎 大士 山内 久代 C08B 16/00 20060101AFI20140812BHJP C08J 5/18 20060101ALI20140812BHJP C07D 233/58 20060101ALN20140812BHJP JPC08B16/00C08J5/18C07D233/58 3 1 OL 16 特許法第30条第2項適用申請有り 4C090 4F071 4C090AA04 4C090BA24 4C090CA04 4C090CA06 4C090DA31 4F071AA09 4F071AF07 4F071AH02 4F071BA02 4F071BB02 4F071BC01 4F071BC08 4F071BC12 4F071BC16 本発明は、不均質セルロースフィルムの製造方法に関し、特にイオン液体等の混合溶媒を用いてセルロース原料を溶解する工程を含む不均質セルロースフィルムの製造方法に関する。 パルプのセルロースを原料としてセルロースのフィルム状物、つまりセロハンを製造する場合、ビスコース法が一般的である。ビスコース法による製造の場合、パルプを水酸化ナトリウム等のアルカリ溶液に浸漬した後、二硫化炭素を添加して硫化し、さらにアルカリ溶解によりビスコースを調製していた。そしてビスコースを熟成後、これに硫酸等の酸溶液中へ膜状に吐出することにより凝固反応が生じ、事後セロハン等のセルロースフィルムを得ることができる。 その後、セルロースの加工性、つまり、セルロース原料の溶液調製をより簡便に改善するべく、イオン液体により効率よく溶解する手法が開発されている(特許文献1、2、3、4、5等参照)。 特許文献1は、セルロースにイミダゾリウム塩等のイオン液体を添加、混合し、ここにマイクロ波を照射して溶解を促す方法を開示する。特許文献2は、主に複素環のイオン液体とポリアクリロニトリル等を混合して溶媒を調製し、これとセルロース等の樹脂を混合した後、凝固溶媒として水を用いて適宜形状に形成する方法を開示する。特許文献3は、イミダゾリウム塩等のイオン液体を使用し、当該イオン液体と水、イオン液体とアルコール、またはイオン液体とアセトアミドの組み合わせからなるセルロースを溶解する溶剤を開示する。特許文献4は、イミダゾリウム塩等のイオン液体を使用し、当該イオン液体と窒素系有機溶媒からなるセルロースを溶解する溶剤を開示する。併せて、前記調製の溶剤にセルロースを溶解後、アルコール浴中で繊維状、フィルム状に加工した例を開示する。特許文献5によると、イミダゾリウム塩等のイオン液体と、ハンセン法の溶解度パラメータで規定した非プロトン性有機溶媒を用いてセルロースを溶解する手法を開示する。 前記の各特許文献は、一般に均一形態、均一性状のセルロースフィルムの生成を対象とした手法である。そのため、既存のセロハンフィルムの製造方法の代替として期待されている。ここで、セルロースフィルムは高い親水性をはじめとする特性を有することから、浸透膜や分離膜等の機能性膜への応用も検討される。この場合、セルロースフィルムは平滑であるよりも凹凸を増やすことによって表面積を増やすことができる。 ビスコース法や各特許文献に記載の方法では均質性状のセルロースフィルムの製造は可能ではある。しかしながら、あえて表面を粗面化した不均質なセルロースフィルムを調製することは難しかった。特許第4242768号公報(WO2003/029329)特表2007−530743号公報(WO2005/098546)特開2008−50595号公報特開2009−203467号公報特開2011−184541号公報 発明者はイオン液体を用いたセルロースの溶解について鋭意検討、改良を重ねた。その結果、セルロースの溶解にイオン液体等の混合溶媒を用いる技術を発展させ、新たな不均質セルロースフィルムの製造方法を見出すに至った。 本発明は、前記の点に鑑みなされたものであり、セルロース原料の溶解にイオン液体を用いた新たなセルロースフィルムの製造方法であって、再生セルロースの性状を不均質状の粗面とする不均質セルロースフィルムの製造方法を提供する。 すなわち、請求項1の発明は、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルの少なくとも1種から選択した非プロトン性有機溶媒に、セルロース原料を分散して分散物を得る原料分散工程と、前記分散物に(i)式で表されるイオン液体を添加して20〜80℃の温度条件下で前記セルロース原料を溶解し粘質液を得る溶解工程と、前記粘質液を膜状物に加工する膜化工程と、前記膜状物を凝固用有機溶媒、水の順に接触させてセルロース凝固物を得る凝固工程と、前記セルロース凝固物を親水性有機溶媒に接触させてセルロース固定化物を得る固定化工程とを有することを特徴とする不均質セルロースフィルムの製造方法に係る。 (i)式中、R1は炭素数1ないし4のアルキル基、R2は炭素数1ないし4のアルキル基またはアリル基、Xはハロゲン、擬ハロゲン、カルボキシル基より選択される。 請求項2の発明は、前記溶解工程における前記イオン液体と前記非プロトン性有機溶媒の重量混合比が、前記イオン液体:前記非プロトン性有機溶媒として、40:60〜70:30である請求項1に記載の不均質セルロースフィルムの製造方法に係る。 請求項3の発明は、前記セルロース原料がパルプである請求項1または2に記載の不均質セルロースフィルムの製造方法に係る。 請求項1の発明に係る不均質セルロースフィルムの製造方法によると、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルの少なくとも1種から選択した非プロトン性有機溶媒に、セルロース原料を分散して分散物を得る原料分散工程と、前記分散物にイオン液体を添加して20〜80℃の温度条件下で前記セルロース原料を溶解し粘質液を得る溶解工程と、前記粘質液を膜状物に加工する膜化工程と、前記膜状物を凝固用有機溶媒、水の順に接触させてセルロース凝固物を得る凝固工程と、前記セルロース凝固物を親水性有機溶媒に接触させてセルロース固定化物を得る固定化工程とを有するため、新規かつ迅速に再生セルロースの性状を不均質状の粗面とする不均質セルロースフィルムの製造方法を確立することができた。 請求項2の発明に係る不均質セルロースフィルムの製造方法によると、請求項1の発明において、前記溶解工程における前記イオン液体と前記非プロトン性有機溶媒の重量混合比が、前記イオン液体:前記非プロトン性有機溶媒として、40:60〜70:30であるため、イオン液体との反応温度下において好適に溶解を進めることができる。 請求項3の発明に係る不均質セルロースフィルムの製造方法によると、請求項1または2の発明において、前記セルロース原料がパルプであるため、樹脂状であり高純度でI型結晶のセルロースが含まれる。本発明の不均質セルロースフィルムの製造方法に係る工程図である。実施例2の電子顕微鏡写真(1500倍)である。実施例2の電子顕微鏡写真(3000倍)である。実施例4の電子顕微鏡写真(1500倍)である。実施例15の電子顕微鏡写真(1500倍)である。比較例13の電子顕微鏡写真(1500倍)である。 本発明の製造方法により製造される不均質セルロースフィルムとは、天然物由来のセルロースをイオン液体にいったん溶解することにより流動性を高めて加工性を向上させ、その上であらためてフィルム状にして得た成形物である。当該成形物中、I型結晶のセルロースを残存させることによってII型結晶のセルロースと混在させてセルロースフィルム自体の組成を不均質としていると考えられている。この点は、既存のビスコース法によるセロハンの製造とは著しく異なる。フィルム内の構造組成を不均質化することにより、例えば、フィルム表面の平滑さが失せて凹凸が多くなりフィルム表面積が増加し、新たな機能が付与される。例えば、セルロースの親水性に起因した分離膜や透過膜として有望である。これより、図1の工程図を用い本発明の不均質セルロースフィルムの製造方法について順に説明する。 出発原料となるセルロース原料(CM)(Cellulose Meterials)としては、パルプが好ましく挙げられる。パルプは、主に木材を粉砕し、リグニン等の不純物を除去してセルロース成分の純度が高められた原料である。また、綿花からも不純物を除去してセルロース成分の純度が高められたコットンリンターパルプが用いられる。特に高純度でI型結晶のセルロースを含有していることに加え、樹脂状であるためパルプはセルロース原料として好ましい。 セルロース原料は非プロトン性有機溶媒(非プロトン性極性有機溶媒)(NS)(Non−Protonic Organic Solvent)に分散されてセルロース原料の分散物を得ることができる(S1)。当該工程(S1)が原料分散工程である。 非プロトン性有機溶媒(非プロトン性極性有機溶媒)は、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルの少なくとも1種から選択した溶媒種である。その他、N,N−ジメチルホルムアミド、1−メチル−2−ピロリドン(N−メチル−2−ピロリドン)、ピリジン等も挙げられる。非プロトン性有機溶媒は、最終的にセルロース原料を溶解した溶液(後出の粘質液)の流動性を適度に調整できるため用いられる。イオン液体のみとセルロース原料の混合の場合、粘度が高くなりすぎる。このため、セルロース原料へのイオン液体の浸透が悪化して均一に溶解することが難しい。 そこで、非プロトン性有機溶媒はイオン液体による均質な溶解を短時間で可能とするべく用いられる。なお、イオン液体は自明ながら強い電荷を有する。セルロース原料は分子内に水酸基を大量に備えることから、水素結合等で静電気的に結合しやすい。仮にプロトン系の溶媒を用いる場合、プロトン系の溶媒とイオン液体との相互作用(水素結合)が生じてしまい、イオン液体によるセルロースの水素結合の切断は阻害される。そのため、プロトン系の有機溶媒は不適当である。 次に、イオン液体(IL)(Ionic Liquid)にセルロース原料の分散物が添加される。ここで、セルロース原料はイオン液体中に完全に溶解され、粘質液を得ることができる(S2)。このとき、分散物とイオン液体の混合は20ないし80℃の温度範囲内で行われる。イオン液体との混合温度は、セルロース原料の溶解を過剰に進めることなく適度に抑える必要から規定される。 イオン液体との溶解温度が20℃よりも低い場合、低温により反応性が乏しいため溶解が進まず製膜に至らない。この点から、少なくとも20℃以上の温度が必要となる。また、溶解温度が80℃を超える場合、イオン液体の反応性により溶解が促進し過ぎて所望の不均質な性状とならない。そこで、分散物とイオン液体の混合は20ないし80℃の温度範囲内とし、品質の安定化や処理の制御のし易さから、好ましくは20ないし60℃の温度範囲内としている。 むろん、溶解反応は温度以外に時間も考慮される。ただし、溶解時の温度を上げ短時間の処理とすることは可能ではあるものの、粘質液の均質性、残存する結晶成分の制御が難しい。このため、本発明においては溶解促進の制御に時間的な余裕を生じさせ、途中の操作を容易とすることを優先した。後記の実施例によるとおよそ20ないし180分間の攪拌時間である。当該工程(S2)が溶解工程である。 イオン液体は、(i)式のイミダゾリウム塩の複素環化合物、及びその誘導体として示される。式中、R1は炭素数1ないし4のアルキル基、R2は炭素数1ないし4のアルキル基またはアリル基である。Xはハロゲン、擬ハロゲン、カルボキシル基である。 前述のとおり、イオン液体は有機化合物でありながらイオン結合を有する塩である。イオン液体は、有機物としての疎水性と塩に由来する水素結合との親和性の両方を適度に併せ持つ。このため、セルロース原料における結晶性セルロース同士の間に浸透して、分子間または分子内の水素結合を解す。同時に、分子中の疎水部分の作用により再度結びつきあうことを防ぐ役割を果たしていると考えられる。 イミダゾリウム塩のイオン液体の具体例として、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムブロマイド、1−アリル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−アリル−3−メチルイミダゾリウムブロマイド、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムブロマイド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムホルメート等がある。その他、(i)式のイミダゾリウム塩以外にも、他の五員環や六員環等の複素環化合物のイオン液体の使用も十分に可能である。 溶解工程S2から理解されるように、粘質液は、パルプ等のセルロース原料、非プロトン性有機溶媒、イオン液体の少なくとも3種類の混合物である。セルロース原料の溶解をより良好にするためには、非プロトン性有機溶媒とイオン液体の量的関係が重要である。そこで、イオン液体と非プロトン性有機溶媒の重量混合比は、後記する実施例から明らかであるように、イオン液体(前者):非プロトン性有機溶媒(後者)として、40:60ないし70:30の重量混合比に規定される。重量混合比は非プロトン性有機溶媒の種類により変動がある。 非プロトン性有機溶媒にアセトニトリルを用いる場合、イオン液体(前者)と非プロトン性有機溶媒(後者)との重量混合比は70:30のとおり、非プロトン性有機溶媒は相対的に少量となる。これに対し、非プロトン性有機溶媒にN,N−ジメチルアセトアミドを用いた場合、イオン液体(前者)と非プロトン性有機溶媒(後者)との重量混合比は40:60ないし60:40となり、出来上がる不均質セルロースフィルムの性質から50:50の重量混合比が好例である。単位は双方の合計を100とする重量部(重量パーセント)である。 両者間の重量混合比において、非プロトン性有機溶媒の重量比が30重量部(40重量部)よりも少なくなる場合、相対的にイオン液体の割合が増して粘性が上昇し、セルロース原料の溶解が進みにくくなる。混合溶媒における非プロトン性有機溶媒の重量比が60重量部よりも多くなる場合、相対的にイオン液体の割合が減少して原料セルロースの溶解が悪化する。特に、前述のとおりセルロース原料は温和な温度下による溶解条件である。このため、イオン液体と非プロトン性有機溶媒の使用量を規定し、極力溶解時にセルロース原料が受ける変性の影響を減らして溶解を制御するべく、前記の重量混合比の範囲が選択される。 セルロース原料がイオン液体中に溶解して見かけの上で均質に仕上がった粘質液は、膜状物に加工される。当該工程(S3)が膜化工程である。粘質液を膜状にする方法は特段限定されない。また、膜厚は以降の工程におけるセルロースへの転化に支障を来さない限り適宜である。例えば、Tダイ等から薄く流延させる方法、ドクターナイフ、へら、バーコーター等により薄く伸ばす方法、テープキャスティング法、あるいは2本以上のローラー間に通して薄膜に圧延する方法等が例示される。量産性に優れていることから、既存のビスコースからセロハンを製造する際の製膜方法が転用可能である。 膜化工程を経て得られた膜状物は凝固用有機溶媒、水の順に接触させられる。この時点で膜状物からセルロース以外の成分が脱離してセルロース凝固物、すなわちセルロースの膜状物に変化する。当該工程(S4)が凝固工程である。 凝固用有機溶媒はトルエン、ベンゼン、キシレン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ヘキサン、シクロヘキサン等から選択される。これらの中でもベンゼンやトルエン等の芳香族系の溶剤は安価で調達容易であるため好ましく用いられる。 凝固用有機溶媒との接触は20ないし40℃前後、特には20ないし25℃の常温条件下において5分間前後、あるいはそれ以下である。日本薬局方によると常温は15ないし25℃と規定されている。膜状物が凝固用有機溶媒と接触することにより、はじめに膜状物中の非プロトン性有機溶媒とイオン液体が凝固用有機溶媒中に溶出されて凝固用有機溶媒と入れ替わり、溶媒置換が起こる。その結果、ほぼ凝固用有機溶媒に置換された溶媒とセルロース成分からなる透明な湿潤膜が残存する。凝固工程の実施に際し、例えば、凝固用有機溶媒が満たされた溶媒槽が用意される。ここに膜状物が順次搬送され槽内に所定時間浸される。凝固用有機溶媒に溶出した非プロトン性有機溶媒とイオン液体は回収され、必要な分離処理を経て再び原料として利用される。 続いて行われる水との接触では、20ないし40℃前後の温度条件下において、膜状物は1分以内の極短時間水に晒される。水との接触により前記の湿潤膜中に含まれる凝固用有機溶媒は急激に水と溶媒置換を起こす。しかし、セルロースは高分子量であるため溶媒置換に追従することができず、湿潤膜表面及び同膜中のセルロース濃度に乱れが生じ、不均質な状態が生じる。このような不均質な性状とは、一般的に均質な高分子相溶系あるいは高分子溶液が急激に相分離領域に移行したときに生じるスピノーダル分解と類似の現象が生じていると考えられる。この結果、膜表面は、滑面や粗面、凹凸等の入り交じった不均質な状態である。水はセルロースに対して濡れやすい(親和性の高い)溶媒ではあるものの溶解性はない。このため、セルロースは不均質な状態で半固定される。ただし、長時間の浸漬は、いったん生じた不均質構造が緩和することになり、均質な構造へと移行する。 凝固工程を経て得られたセルロース凝固物は、親水性有機溶媒に接触させられる。最終的にセルロース凝固物は固化してセルロース固定化物に変化する。当該工程(S5)が固定化工程である。親水性有機溶媒は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、tert−ブタノール等の各種アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、ホルムアルデヒド等の溶媒である。 親水性有機溶媒との接触も、20ないし40℃前後の温度条件下において凝固物は1分以内の極短時間親水性有機溶媒に晒される。親水性有機溶媒は両親媒性物質であるため、セルロース凝固物に含有されている水分の脱水、その他の有機成分の除去に作用すると考えられる。この結果、セルロース成分のみを最終産物とするセルロース固定化物の乾燥を早めることができる。以上の詳述し図示の各工程を経ることにより、本発明に規定する不均質セルロースフィルム(CF)が得られる。 発明者らは、表1ないし表6に基づく原料、試薬を用い、原料セルロースの溶解並びに製膜により、実施例及び比較例の不均質セルロースフィルムを作成した。そして、それぞれの外観を目視により観察した。また、電子顕微鏡により不均質セルロースフィルムの表面も観察した。 〔原料等〕 使用原料とともに表中の略号を説明する。各実施例並びに比較例はいずれもセルロース原料として、溶解パルプ(日本製紙ケミカル株式会社製)を使用した。 ・イオン液体 1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド(下記式(ii)参照)(メルク株式会社製),略号“BMIMCl”を使用した。 1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムブロマイド(下記式(iii)参照)(メルク株式会社製),略号“BMIMBr”を使用した。 ・非プロトン性有機溶媒 N,N−ジメチルアセトアミド(東京化成工業株式会社製),略号“DMAc”、 ジメチルスルホキシド(ナカライテスク株式会社製),略号“DMSO”、 アセトニトリル(ナカライテスク株式会社製),略号“AcNt”、及び nヘキサン(キシダ化学株式会社製),略号“nHex”を使用した。 ・凝固用有機溶媒 トルエン(キシダ化学株式会社製)、 ベンゼン(キシダ化学株式会社製)、 キシレン(キシダ化学株式会社製)、 テトラヒドロフラン(キシダ化学株式会社製),略号“THF”、 酢酸エチル(キシダ化学株式会社製),略号“EtOAc”、 nヘキサン(前記同様)、 シクロヘキサン(キシダ化学株式会社製),略号“CHex”、及び メチルシクロヘキサン(キシダ化学株式会社製),略号“MeCHx”を使用した。 ・その他 アセトン(キシダ化学株式会社製)、 メチルエチルケトン(キシダ化学株式会社製),略号“MEK”を使用した。 〔セルロース原料の溶解〕 はじめにセルロース原料(溶解パルプ)を粉砕機により綿状に粉砕した。粉砕したセルロース原料を非プロトン性有機溶媒中に投入し、セルロース原料をマグネティックスターラー(アズワン株式会社製,HOT−STIRRER HS−5BH)により同溶媒中に均一状に分散し分散物とした。 セパラブルフラスコに冷却管、熱電対、ホモジナイザー(アズワン株式会社製,AHD−160,シャフト径18mm)を装着し、加温用のマントルヒーターを設置した。セパラブルフラスコ内に分散物とイオン液体を投入し各実施例並びに比較例の温度、時間の条件下でセルロース原料を溶解して粘質液に調製した。粘質液は淡黄色を呈した。非プロトン性有機溶媒とイオン液体の量的割合(重量比)は表1ないし表6に準ずる。セルロース濃度(%)は粘質液中に占めるセルロース原料の重量パーセントである。 〔膜状化〕 各実施例並びに比較例の条件により調製した粘質液を適量ガラス板に垂らし、アプリケータを用いて伸ばし膜状物とした。その後、表1ないし表6に開示の凝固用有機溶媒に常温下(20ないし30℃)、約5分間、ガラス板ごと膜状物を浸漬した。この時点でほぼ無色透明に変化した。凝固用有機溶媒から引き上げ、直ちにガラス板ごと膜状物を水浴に浸漬した。水浴への浸漬は常温下(15ないし25℃)においてほぼ瞬時(1分未満の秒単位)とした。たいてい、良品例の場合、水との接触により膜状物は白濁し、ガラス板から剥離した。続いて、膜状物を親水性有機溶媒で満たされた槽内に浸漬した。親水性有機溶媒との浸漬は常温下(15ないし25℃)においてほぼ瞬時(1分未満の秒単位)とした。 以上の手順により調製した実施例並びに比較例の不均質セルロースフィルムについて、親水性有機溶媒から回収後、常温下にて乾燥した。そして、一部の実施例、比較例について電子顕微鏡により表面を観察し、また、比表面積(m2/g)も測定した。 実施例並びに比較例の不均質セルロースフィルムに関する調製条件、外観、評価は表1ないし表6である。順に非プロトン性有機溶媒(NS)、イオン液体(IL)、イオン液体と非プロトン性有機溶媒の重量比(IL:NS)、セルロース濃度(%)、溶解温度(℃)、溶解時間(分)、凝固用有機溶媒、凝固浴、及び親水性有機溶媒を表示する。そして、フィルムの外観、そして、総合評価を下した。外観は通常の視覚を有する者による目視観察である。総合評価は外観の良否と作成条件等を加味して「良」、「普通」、「不可」とした。「良」は好ましい白濁となった例である。「普通」はやや白濁の薄い例である。「不可」は製膜不能または白濁が生じなかった例である。 〔電子顕微鏡観察〕 図2ないし図6は不均質セルロースフィルムのガラス板と接触していない面を電子顕微鏡で撮影した写真である。図3は倍率3000倍でありその他は倍率1500倍である。図2及び図3は実施例2の表面である。フィルム表面に凹凸が存在する。この凹凸は細かな窪みの無数の連続である。図4は実施例4の表面である。実施例2と同様にフィルム表面に同形状の凹凸が存在する。図5は実施例15の表面である。幾分、フィルム表面の凹凸量は少なくなっているものの、同形状の凹凸が存在する。図6は比較例13の表面である。実施例のフィルムとの比較から自明であるように、表面の凹凸はほとんどなく、平滑面である。 〔表面積測定〕 電子顕微鏡観察に加え、Micrometritics社製,TriStar 3000 V6.08Aを使用し、窒素吸着法により不均質セルロースフィルムの比表面積(m2/g)を測定して比較を試みた。測定結果は実施例1及び2、比較例1について、厚さ(mm)とともに比表面積を示した表7である。測定方法の「P/P0」とは、窒素の分圧(P)と窒素の飽和蒸気圧(P0)の相対圧から求めた比表面積である。「BET」はBrunauer,Emmett,Teller(BET)の吸着等温式から算出した比表面積である。 実施例1,2の不均質セルロースフィルムは前掲の表1より白濁状であり、測定方法を問わず比表面積は比較例1の半透明状のフィルムよりも大きい。比表面積が大きいとは、フィルム表面に凹凸が発達したことを意味する。また、前掲の電子顕微鏡観察の結果とも符合する。 従って、実施例のフィルムにおける表面積の増大を裏付けることができた。このように、出発原料を同一としながらも製造方法を変更することにより形態や性質の異なるセルロースフィルムを作り分けることが可能となった。特に、イオン液体を使用する手法を採用しつつ好適な条件を見出すことにより不均質セルロースフィルムを得るに至った意義は大きい。 〔結果と考察〕 ・使用原料の種類 N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルを使用した実施例からは、白濁したセルロースの膜状物を得ることができた。しかしながら、比較例4のnヘキサンの使用からは膜状物の生成自体ができなかった。この比較から、反応に際し極性を有する種類の非プロトン性有機溶媒(非プロトン性極性有機溶媒)の選択が必要である。 次に、イオン液体については、BMIMClもBMIMBrも使用できる。よって、前出(i)式構造のイオン液体の有効性を確認することができた。 凝固用有機溶媒については、各実施例の全体傾向から芳香族系溶媒が良好であった。ただし、実施例11の酢酸エチルは良好であるものの、比較例12,13,14の二重結合を有さない炭化水素の溶媒では不均質性状が見られなかった。双方の相違については明確な理由は不明である。 ・イオン液体、非プロトン性有機溶媒の量的関係 実施例9の場合、非プロトン性有機溶媒としてのアセトニトリル量を相対的に少なくすることができる。このことから、イオン液体(前者):非プロトン性有機溶媒(後者)として70:30の重量混合比を導き出すことができる。ただし、アセトニトリル使用の場合、出来上がるフィルムが幾分脆い。そこで、フィルム強度の観点から、非プロトン性有機溶媒としてN,N−ジメチルアセトアミドやジメチルスルホキシドがより好ましい。この場合、比較例2では非プロトン性有機溶媒へのセルロース原料の分散が不十分であり、イオン液体による溶解ができなかった。実施例2と比較例1との対比から、非プロトン性有機溶媒の相対量40は製膜可能ではある。しかし相対量33では製膜不能となる。従って、添加するイオン液体との均衡からより好ましいイオン液体(前者):非プロトン性有機溶媒(後者)との重量混合比は60:40である。 非プロトン性有機溶媒の上限については、実施例4と比較例3からわかるように、概ね相対量60が限度である。この量を超える場合、相対的にイオン液体自体が減少する。それゆえ、セルロース原料の溶解効率が低下して不適切である。従って、イオン液体(前者):非プロトン性有機溶媒(後者)との重量混合比は40:60である。なお、性質等の安定さから、双方ともに同量ずつとすることが望ましい。 ・セルロース原料の溶解温度 非プロトン性有機溶媒に分散したセルロース原料にイオン液体を添加しセルロース成分を溶解するに際し、実施例7のように80℃の条件においても製膜可能である。そこで、溶解温度の上限を80℃とすることができる。80℃以上の加熱は可能ではあるものの、過剰な加熱であることと反応性が高まりすぎて制御に支障を来すと考える。そこで、好ましい上限は実施例6の60℃前後である。ここで、常温の下限15℃の比較例5では、低温につき反応性に乏しくイオン液体による溶解が進まなかった。以上から、反応系の取り扱いやすさから常温域による反応促進が望ましく、そのうち15℃よりも液温を高めた20℃付近が温度の下限として適切である。 各実施例、比較例においてイオン液体による溶解に要した時間(攪拌時間)は20分に統一した。この時間は今後の規模拡大による量産を見越して円滑な反応を実現するために規定した。むろん、20分間よりも増減することは可能である。ただし、極端に短い場合、反応が激しく調整が難しい。つまり、セルロースの結晶構造の変化が著しくなるためである。逆に長い場合、生産効率上好ましくない。比較例2ないし5はこの20分間に溶解しなかった例である。 ・まとめ 以上の実施例及び比較例の対比から、本発明に規定したセルロース原料のイオン液体による溶解後、凝固用有機溶媒、水、そして親水性有機溶媒の順の浸漬による接触を行わなければいずれも所望の不均質セルロースフィルムに至らないことを明らかにした(比較例6ないし10参照)。その上で前述のとおり、適切な原料と配合割合、反応温度の選択が重要であることを見出した。特に、イオン液体との反応後の凝固に関する処理は、迅速に進むため、生産効率上有利である。 本発明の不均質セルロースフィルムの製造方法は、溶解後のセルロースを再び結晶に戻す際の過程に改良を加えることにより、簡便に粗面化することができる。そこで、透過膜や浸透膜等のセルロースの性状を利用する膜状物の量産性に貢献できると考える。 N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルの少なくとも1種から選択した非プロトン性有機溶媒に、セルロース原料を分散して分散物を得る原料分散工程と、 前記分散物に(i)式で表されるイオン液体を添加して20〜80℃の温度条件下で前記セルロース原料を溶解し粘質液を得る溶解工程と、 前記粘質液を膜状物に加工する膜化工程と、 前記膜状物を凝固用有機溶媒、水の順に接触させてセルロース凝固物を得る凝固工程と、 前記セルロース凝固物を親水性有機溶媒に接触させてセルロース固定化物を得る固定化工程とを有する ことを特徴とする不均質セルロースフィルムの製造方法。 (i)式中、R1は炭素数1ないし4のアルキル基、R2は炭素数1ないし4のアルキル基またはアリル基、Xはハロゲン、擬ハロゲン、カルボキシル基より選択される。 前記溶解工程における前記イオン液体と前記非プロトン性有機溶媒の重量混合比が、前記イオン液体:前記非プロトン性有機溶媒として、40:60〜70:30である請求項1に記載の不均質セルロースフィルムの製造方法。 前記セルロース原料がパルプである請求項1または2に記載の不均質セルロースフィルムの製造方法。 【課題】セルロース原料の溶解にイオン液体を用いながら、再形成されるセルロースの性状を不均質状の粗面とする不均質セルロースフィルムの製造方法を提供する。【解決手段】N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルの少なくとも1種から選択した非プロトン性有機溶媒(NS)に、セルロース原料(CM)を分散して分散物を得る原料分散工程(S1)と、分散物にイオン液体(IL)を添加して20〜80℃の温度条件下でセルロース原料を溶解し粘質液を得る溶解工程(S2)と、粘質液を膜状物に加工する膜化工程(S3)と、膜状物を凝固用有機溶媒、水の順に接触させてセルロース凝固物を得る凝固工程(S4)と、セルロース凝固物を親水性有機溶媒に接触させてセルロース固定化物を得る固定化工程(S5)を有する。【選択図】図1


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