タイトル: | 公開特許公報(A)_チタン合金鍛造材およびその製造方法ならびに超音波探傷検査方法 |
出願番号: | 2013025373 |
年次: | 2013 |
IPC分類: | C22C 14/00,C22F 1/18,B21J 5/00,G01N 29/04,C22F 1/00 |
伊藤 良規 村上 昌吾 木下 敬之 JP 2013189708 公開特許公報(A) 20130926 2013025373 20130213 チタン合金鍛造材およびその製造方法ならびに超音波探傷検査方法 株式会社神戸製鋼所 000001199 磯野 道造 100064414 多田 悦夫 100111545 富田 哲雄 100123249 伊藤 良規 村上 昌吾 木下 敬之 JP 2012028183 20120213 C22C 14/00 20060101AFI20130830BHJP C22F 1/18 20060101ALI20130830BHJP B21J 5/00 20060101ALI20130830BHJP G01N 29/04 20060101ALI20130830BHJP C22F 1/00 20060101ALN20130830BHJP JPC22C14/00 ZC22F1/18 HB21J5/00 EG01N29/08 501G01N29/10 501C22F1/00 601C22F1/00 624C22F1/00 651BC22F1/00 630GC22F1/00 602C22F1/00 630BC22F1/00 691BC22F1/00 691CC22F1/00 692AC22F1/00 692BC22F1/00 682C22F1/00 683G01N29/04 503 5 1 OL 17 2G047 4E087 2G047AA06 2G047BB06 2G047BC07 2G047BC14 2G047DA03 4E087BA05 4E087CB01 4E087CB04 4E087DB16 4E087DB24 本発明は、超音波検査にて欠陥の有無を検査されるα+β型チタン合金のβ鍛造材およびその製造方法に関する。 Ti−6Al−4V合金に代表されるα+β型チタン合金は、軽量、高強度、高耐食性に加え、溶接性、超塑性、拡散接合性等の諸特性を有することから、エンジン部品等、航空機産業で多く使用されている。α+β型チタン合金は、主相である稠密六方晶(hcp構造)のα相と体心立方晶(bcc構造)のβ相とが室温で安定に共存し、β変態点(Tβ)以上の温度域でβ相単相となる。α+β型チタン合金の鍛造材には、Tβ以上の温度に到達しないようにTβ未満の温度域(α+β二相域)に加熱してこの温度域で鍛造するα+β鍛造によるものと、Tβ以上の温度域(β単相域)に加熱して鍛造するβ鍛造によるものとがあり、形成される材料組織は全く異なり、それに伴い材料特性が異なることが知られている。 チタン合金鍛造材は、β鍛造によれば、針状α相組織となる。具体的には、次のように組織が形成される。すなわち、Tβ以上の温度域でβ相単相となり、鍛造加工により等軸状のβ相が扁平に潰れた後、Tβ未満の温度域まで冷却されてこの温度域で保持されると、β相(β粒)の結晶粒界にα相が膜状に析出し、引き続き、β粒の結晶粒内にα相が針状に析出する(図2(a)で白く示されているのがα相)。なお、β鍛造には、β単相域で鍛造を完了させるもの、β単相域外(α+β二相域)に温度降下後も鍛造が継続されるもの、およびα+β二相域に温度が降下してから鍛造を開始するものがある。さらにβ鍛造材は、鍛造条件やその後の冷却条件によって、旧β粒の結晶粒界のα相の形態や厚さ、また粒内の針状α相の長さや厚さが変化し、さらには粒界α相が存在しないものもあり得る。一方、チタン合金鍛造材は、α+β鍛造によれば、粒状α組織となる(図2(b)参照)。一般的に、α+β型チタン合金鍛造材において、破壊靭性はβ鍛造をされた鍛造材の方がα+β鍛造をされた鍛造材よりも優れ、逆に疲労強度特性はα+β鍛造をされた鍛造材の方がβ鍛造をされた鍛造材よりも優れることが知られている。 航空機のエンジン部品は、高い信頼性が要求されることから、超音波探傷により欠陥の有無が検査される。超音波探傷検査は、探触子から発信(送信)された超音波を被検査体の表面から内部に入射させ、傷等の欠陥で反射する反射波を同じく探触子で受信することで、内部の欠陥の有無を判定する検査である。しかし、α相とβ相が共存するα+β型チタン合金は、α+β鍛造材かβ鍛造材かにかかわらず、超音波探傷時に材料組織に起因するノイズが高く、このノイズのため、欠陥の検出精度が低下したり、あるいは材料組織起因のノイズを欠陥と誤認したりして、問題となっている。そのため、α+β型チタン合金(以下、チタン合金)で形成されるエンジン部品等には、超音波探傷時のノイズを低減して超音波探傷性を向上させることが求められている。 そこで、ノイズを低減したα+β型チタン合金材として、例えば、α+β二相域での熱間圧延前に、β単相域から急冷して組織を微細化して、その後のα+β二相域での熱間圧延および熱処理により、等軸α組織を得たチタン合金圧延板が提案されている(特許文献1)。特許第2988269号公報 しかしながら、前記した従来技術はα+β鍛造によるα+β型チタン合金材に関するものである。一方、β鍛造材については、前記した通りα+β鍛造材とは材料組織の形成過程および最終的に形成される形態が大きく異なるので、超音波探傷時のノイズの原因が異なると考えられ、これに伴い改善方法も異なるため、前記技術を適用してノイズを低減することができない。 本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、α+β型チタン合金のβ鍛造材について、疲労強度特性等の航空機用部品に要求される機械的特性を保持しつつ、超音波探傷時のノイズを低減した超音波探傷性に優れるチタン合金鍛造材およびその製造方法を提供することを目的とする。 本発明者らは鋭意研究の結果、β鍛造により送信波の入射方向に垂直な広い面を有する扁平な形状に潰れた旧β粒の粒界で送信波が正反射し易く、この反射波が探触子で受信されてノイズの主原因となることを解明するに至った。さらに、材料組織を適正に制御することにより、疲労強度特性等を保持しつつ、β鍛造材の超音波探傷性を向上することができることを明らかにした。 すなわち、本発明に係るチタン合金鍛造材は、超音波探傷検査が行われるβ鍛造をされた鍛造材であって、厚み方向の径が50μm以上500μm以下でアスペクト比が3を超える旧β粒の結晶粒である扁平粒と、前記方向の径が30μm以上200μm以下でアスペクト比が1以上3以下である旧β粒の結晶粒である非扁平粒と、の混粒組織を有する。そして、前記チタン合金鍛造材は、前記扁平粒が40%以上99%以下、前記非扁平粒が1%以上60%以下、前記扁平粒と前記非扁平粒とが合計で90%以上存在することを特徴とする。 かかる構成のチタン合金鍛造材は、扁平でない所定の大きさの旧β粒が所定範囲で混在する組織を有するため、β鍛造材としての強度を低下させることなく、この非扁平な旧β粒の粒界で送信波が反射することで探触子に受信されず、ノイズが低減するため超音波探傷性に優れる。 さらに、本発明に係るチタン合金鍛造材は、次式(1)で表されるMo当量[Mo]eqが2.7を超え15未満であるチタン合金からなることが好ましい。 [Mo]eq=[Mo]+[Ta]/5+[Nb]/3.6+[W]/2.5+[V]/1.5+1.25[Cr]+1.25[Ni]+1.7[Mn]+1.7[Co]+2.5[Fe] ・・・(1) ただし、前記式(1)の[X]は、前記チタン合金における元素Xの含有量(質量%)とする。 かかる構成により、チタン合金鍛造材は、α+β型チタン合金となり、旧β粒の形状の影響が強くなって、機械的特性と超音波探傷性とを並存させることができる。 また、本発明に係るチタン合金鍛造材は、厚さが少なくとも50mmであってもよい。かかる構成により、厚肉化しても、深部まで精度よく超音波探傷検査を行うことができ、信頼性の高い製品が得られる。 本発明に係るチタン合金鍛造材は、β鍛造を行って製造される。この本発明に係るチタン合金鍛造材の製造方法は、前記β鍛造が、β変態点をTβで表したとき、Tβ+10℃以上に加熱して、β結晶粒径が400μm以上1000μm以下の範囲になるまで保持し、Tβ−30℃以上の温度域で鍛造し、前記温度域で20秒間以上であって次式(2)で表される限界保持時間(秒間)tmax未満の時間保持した後、直ちにTβ−150℃以下の温度まで冷却することを特徴とする。 tmax=[11.64(1−TH/1425)]4.35 ・・・(2) ただし、前記式(2)のTHは、前記鍛造後における保持時の温度(℃)とする。 かかる手順により、チタン合金鍛造材の製造方法は、鍛造後にβ変態点以上の温度域で所定時間保持されて、非扁平な旧β粒が適度に成長し、鍛造で生じた扁平な旧β粒との混粒組織を有するチタン合金鍛造材が得られる。 本発明に係るチタン合金鍛造材に対する超音波探傷検査方法は、プローブ径が5〜30mmの範囲である探触子を用いて、周波数が1〜20MHzの範囲である超音波にて、前記チタン合金鍛造材の鍛造圧下量の最も大きい方向に平行な方向に探傷する工程を含むことを特徴とする。 かかる方法により、超音波探傷検査方法は、比較的高ノイズとなる方向に探傷しても十分にノイズが少ないため、チタン合金鍛造材における面積の広い面を探触子で走査することができ、検査が容易になり、かつ高精度な検査を行うことができる。 本発明に係るチタン合金鍛造材によれば、超音波探傷検査にて欠陥を高精度で検出可能となり、航空機のエンジン部品等の製品の信頼性が向上する。そして、本発明に係るチタン合金鍛造材の製造方法によれば、前記の効果を有するチタン合金鍛造材を容易に製造することができる。また、本発明に係る超音波探傷検査方法によれば、前記のチタン合金鍛造材に対して高精度な検査を行うことができる。チタン合金のβ鍛造材の組織の状態を示す模式図であり、超音波検査におけるノイズとの関係を説明するモデルである。チタン合金鍛造材の組織の画像写真であり、(a)はβ鍛造材、(b)はα+β鍛造材のそれぞれの一例である。 以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。〔チタン合金鍛造材〕 本発明に係るチタン合金鍛造材は、従来のβ鍛造材と同様に、航空機のエンジン部品に適用され、特に超音波探傷検査にて内部の欠陥を検査することを必要とするものに好適である。具体的にはディスクやシャフトに利用されるチタン合金鍛造材に適用することができ、厚さ(鍛造方向長さ)が最薄部でも50mm以上とすることができる。 本発明に係るチタン合金鍛造材は、α+β型チタン合金(以下、チタン合金)からなり、従来のβ鍛造材と同様に、旧β粒(β相)と、旧β粒の結晶粒界や結晶粒内に析出したα相とを有する。ただし、本発明に係るチタン合金鍛造材は、旧β粒の結晶粒について、厚み方向の径が50μm以上500μm以下でアスペクト比が3を超える扁平粒と、前記方向の径が30μm以上200μm以下でアスペクト比が1以上3以下の非扁平粒と、を含んだ混粒組織を有する。さらに、チタン合金鍛造材は、前記の扁平粒が40%以上99%以下、非扁平粒が1%以上60%以下、扁平粒と非扁平粒とが合計で90%以上存在する。以下、旧β粒について詳細に説明する。 (混粒組織) 本発明においては、旧β粒のうち、アスペクト比が3を超えるものを扁平粒、3以下(1以上3以下)のものを非扁平粒と定義する。β鍛造においては、チタン合金材がβ変態点(Tβ)以上の温度域(β単相域)に加熱されて保持されることで、β相単相状態となって、等軸状(非扁平)のβ相(β結晶粒)が形成され成長する。そして、鍛造加工により、β結晶粒が潰されて鍛造方向(圧下方向)に垂直に広がった扁平形状に変形し、パンケーキ形状となったβ結晶粒が積み重なった組織となる。従来のβ鍛造材は、β単相域での鍛造後、直ちに冷却されてTβ未満の十分に低い温度域(α+β二相域)に降下するため、図1(b)に示すように、β結晶粒はほぼ全てが扁平粒である。一方、本発明に係るチタン合金鍛造材は、図1(a)に示すように、扁平粒と非扁平粒との混粒組織を有する。なお、図1(a)、(b)いずれにおいても、β結晶粒(旧β粒)の粒界や粒内には冷却中に形成されたα相が存在するが、α相は図示を省略する。 (扁平粒:厚み方向の径50〜500μm、存在割合40〜99%) 本発明に係るチタン合金鍛造材は、従来のβ鍛造材と同様に、扁平形状のβ結晶粒(旧β粒)の多結晶構造により、高い破壊靱性および疲労強度を有する。旧β粒の扁平粒をアスペクト比3超と定義したのは、アスペクト比3以下の結晶粒では、チタン合金鍛造材の疲労強度の向上に寄与しないためである。一方、旧β粒の扁平粒のアスペクト比の上限は特に規定しないが、一般的な鍛造条件では30以下となる。言い換えると、アスペクト比が30を超える結晶粒を得るためには、圧下率90%程度以上で鍛造する必要があり、実用的でない。また、旧β粒の扁平粒は、厚み方向の径(最小となる方向の径)が50μm未満ではチタン合金鍛造材の超音波探傷方向における粒界数が増加し、ノイズ増大の虞があり、一方、厚み方向の径が500μmを超えるとチタン合金鍛造材の疲労強度が低下する。扁平粒の厚み方向は、チタン合金鍛造材の形状にもよるが、鍛造方向(圧下方向)と一致する場合が多い。なお、本発明において、アスペクト比とは、厚み方向の径に対するこの方向に垂直な方向の径を指す(非扁平粒も同様)。 そして、チタン合金鍛造材は、前記範囲の大きさの扁平粒の存在割合が多いほど、疲労強度が向上する。チタン合金鍛造材は、扁平粒が40%未満では扁平粒による疲労強度の向上効果が十分に得られないため、扁平粒は40%以上とし、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、最も好ましくは70%以上である。一方、チタン合金鍛造材は、扁平粒が99%を超えると超音波探傷検査におけるノイズが増大するため、扁平粒は99%以下とし、好ましくは97%以下、より好ましくは95%以下、さらに好ましくは90%以下である。したがって、本発明に係るチタン合金鍛造材は、厚み方向の径が50μm以上500μm以下でアスペクト比が3を超える旧β粒の扁平粒が、40%以上99%以下存在するものとする。このような形状および大きさの旧β粒の扁平粒は、鍛造前にβ単相域に加熱した際に保持温度と時間を調整してβ結晶粒を適度な大きさに成長させて、十分な圧下率で鍛造することによりアスペクト比3超に変形させて得られる。さらに鍛造後の保持時間により、旧β粒の扁平粒の存在割合を制御することができる。 (非扁平粒:厚み方向の径30〜200μm、存在割合1〜60%) β鍛造材は、表面から内部に入射した超音波が旧β粒の粒界で反射し易い。超音波を鍛造方向と平行方向に入射させた場合、旧β粒が主に扁平粒である従来のβ鍛造材は、図1(b)に示すように、粒界の多くが鍛造方向に垂直な面であるため、入射波が正反射することになり、かかる反射波の多くが探触子で受信されてノイズとなる。本発明に係るチタン合金鍛造材は、図1(a)に示すように、旧β粒の扁平粒に非扁平粒を混在させた混粒組織を有することで、反射波を分散させてノイズにならないようにする。旧β粒の非扁平粒は、アスペクト比3以下でないと、反射波の分散効果が小さく、ノイズ低減効果が得られない。また、旧β粒の非扁平粒は、厚み方向の径(最小となる方向の径)が200μmを超えると、疲労強度や破壊靭性の低下を招く虞がある。反対に、旧β粒の非扁平粒は、厚み方向の径が30μm未満では当該非扁平粒の粒界の面積が狭く、ノイズ低減効果が得られない。 そして、チタン合金鍛造材は、前記範囲の大きさの非扁平粒が1%未満では、非扁平粒によるノイズ低減効果が十分に得られないため、非扁平粒は1%以上とし、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上、最も好ましくは10%以上である。一方、チタン合金鍛造材は、非扁平粒の存在割合が多くなるにしたがい、相対的に扁平粒が少なくなって疲労強度が低下する。チタン合金鍛造材は、具体的には非扁平粒が60%を超えると疲労強度が不足するため、非扁平粒は60%以下とし、好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下、さらに好ましくは30%以下、最も好ましくは20%以下である。したがって、本発明に係るチタン合金鍛造材は、厚み方向の径が30μm以上200μm以下でアスペクト比が3以下の旧β粒の非扁平粒が、1%以上60%以下存在するものとする。このような形状および大きさの旧β粒の非扁平粒は、鍛造後のβ単相域における保持温度およびそれに応じた保持時間により、大きさおよび存在割合を制御することができる。 (旧β粒の扁平粒と非扁平粒の合計の存在割合90%以上) チタン合金鍛造材は、旧β粒について前記したアスペクト比および径の扁平粒、非扁平粒の合計が90%未満では、これらの範囲外である微細なβ結晶粒または粗大なβ結晶粒が過剰で、疲労強度や破壊靱性が不足したり、超音波探傷検査におけるノイズが増大したりする。したがって、本発明に係るチタン合金鍛造材は、旧β粒の扁平粒と非扁平粒が合計で90%以上とし、好ましくは92%以上、より好ましくは94%以上である。 本発明において、チタン合金鍛造材の旧β粒の扁平粒、非扁平粒の各存在割合は、断面における面積率を指す。チタン合金鍛造材の旧β粒のアスペクト比や径、面積率は、チタン合金鍛造材を鍛造方向と平行な面で切断し、断面を研磨(機械研磨、電解研磨)仕上げの後に腐食させてこの面を観察した結果を基に求めることができる。例えば、断面から1〜数mm角程度の視野を複数選択し、光学顕微鏡により断面組織を観察する。そして、断面の鍛造方向と鍛造方向に直交する方向とのそれぞれにおける旧β粒の長さ(径)を測定し、鍛造方向(厚み方向)の径およびアスペクト比に基づいて扁平粒、非扁平粒を定義し、視野におけるそれぞれの面積率を算出すればよい。 (チタン合金:Mo当量2.7を超え15未満) 本発明に係るチタン合金鍛造材を形成するチタン合金は、α+β型チタン合金であれば適用することができるが、次式(1)で表されるMo当量[Mo]eqが2.7を超え15未満となる組成であることが好ましい。チタン合金は、Mo当量が大きくなるにしたがい、α相の体積含有率が減少して旧β粒界の形状の影響が強くなって、前記した旧β粒の扁平粒による破壊靱性および疲労強度の向上効果がいっそう得られる。チタン合金のMo当量は、より好ましくは3.5以上、さらに好ましくは4.5以上である。一方、チタン合金は、Mo当量[Mo]eqが大きくなるにしたがい、合金元素が偏析し易くなり、組織がばらつく虞があるため、15未満とすることが好ましい。チタン合金のMo当量は、より好ましくは12以下、さらに好ましくは10以下である。 [Mo]eq=[Mo]+[Ta]/5+[Nb]/3.6+[W]/2.5+[V]/1.5+1.25[Cr]+1.25[Ni]+1.7[Mn]+1.7[Co]+2.5[Fe] ・・・(1) ただし、式(1)の[X]は、チタン合金における元素Xの含有量(質量%)とする。 このようなチタン合金としては、具体的にはAMS4981,AMS4995で規定されるチタン合金が挙げられる。AMS4981で規定されるチタン合金(Ti−6Al−2Sn−4Zr−6Mo合金、Ti−6246合金)は、Al:5.50〜6.50質量%、Sn:1.75〜2.25質量%、Zr:3.50〜4.50質量%、Mo:5.50〜6.50質量%を含有し、残部はTiおよび不可避的不純物であり、各元素の平均値から計算されるMo当量は6.0である。前記不可避的不純物としては、概ね、N:0.04質量%、C:0.08質量%、H:0.015質量%、Fe:0.15質量%、O:0.15質量%を含有する。 AMS4995で規定されるチタン合金(Ti−5Al−2Sn−2Zr−4Cr−4Mo合金、Ti−17合金)は、Al:4.5〜5.5質量%、Sn:1.5〜2.5質量%、Zr:1.5〜2.5質量%、Cr:3.5〜4.5質量%、Mo:3.5〜4.5質量%、O:0.08〜0.12質量%であって、残部はTiおよび不可避的不純物であり、各元素の平均値から計算されるMo当量は9.5である。前記不可避的不純物としては、概ね、Fe:0.03質量%、C:0.05質量%、N:0.04質量%、H:0.0125質量%を含有する。〔チタン合金鍛造材の製造方法〕 本発明に係るチタン合金鍛造材は、所望の組成のチタン合金からなるインゴットを公知の方法でビレットに鍛造し(ビレット鍛造工程と称する)、必要に応じて機械加工を行ってから、β鍛造を行って所望の製品形状に製造される。ビレット鍛造工程は、例えば、β鍛造→α+β鍛造→β熱処理→応力除去焼鈍→α+β鍛造→焼鈍の順序で行われる。α+β鍛造はβ変態点(適宜、Tβと表す)よりも10〜200℃程度低い温度域に、β鍛造はTβよりも10〜150℃程度高い温度域に、それぞれ加熱し、所定の鍛錬比(鍛伸方向に垂直な断面の、鍛造前に対する鍛造後の面積比、例えば1.5)の鍛造を行い、室温に冷却する。ビレット鍛造工程における鍛造をα+β鍛造とするかβ鍛造とするかは製品に要求される特性に応じて設定すればよく、鍛造の回数も所望するビレットの径等に応じて行えばよい。また2回の焼鈍はそれぞれ必要に応じて行えばよく、例えば2回目の焼鈍はその後の機械加工をし易くするために行われる。さらにチタン合金ビレットを機械加工することで、表面の酸化皮膜やシワやバリが除去され、表面粗度を整えることができ、その後の鍛造(チタン合金鍛造材の製造におけるβ鍛造)がし易くなる。そして、本発明に係るチタン合金鍛造材を製造するために、チタン合金ビレットを以下の方法でβ鍛造する。β鍛造前にチタン合金ビレットに対してα+β二相域にて荒地鍛造を行い、所望の形状に仕上げてもよい。なお、チタン合金鍛造材のβ鍛造前をチタン合金素材と称し、ここではチタン合金素材としてチタン合金ビレットを適用する。 本発明に係るチタン合金鍛造材の製造方法は、チタン合金素材(チタン合金ビレット)をTβ+10℃以上に加熱して、β結晶粒径(平均粒径)が400μm以上1000μm以下の範囲になるまで保持し、Tβ−30℃以上の温度域で鍛造し、この温度域で20秒間以上であって次式(2)で表される限界保持時間(秒間)tmax未満の時間保持した後、直ちにTβ−150℃以下の温度まで冷却する。 tmax=[11.64(1−TH/1425)]4.35 ・・・(2) ただし、前記式(2)のTHは、鍛造後における保持時の温度(℃)とする。 (鍛造前加熱温度:Tβ+10℃以上) 鍛造前加熱は、一般的なβ鍛造と同様に、鍛造前に、チタン合金ビレットをβ単相域まで加熱してβ相単相にするために行われる。β単相域とはβ変態点(Tβ)以上の温度域であり、Tβはチタン合金ビレットの全体(100%)がβ相となる最低温度で、当該チタン合金ビレット(チタン合金鍛造材)を形成するチタン合金の組成によって変化する。例えば、AMS4981で規定されるチタン合金(Ti−6246合金)のTβは960℃程度であり、AMS4995で規定されるチタン合金(Ti−17合金)のTβは890℃程度である。本発明においては、チタン合金ビレットを深部まで確実にβ相単相とし、またTβ−30℃以上の温度域で鍛造を完了させ、さらにその後に一定時間、同温度域で保持する。一方、チタン合金ビレットがβ単相域において高温になるにしたがい、β相の結晶粒の成長速度が速くなるため結晶粒径を制御し難くなり、またTβ+150℃を超えると、表面に厚い酸化スケールが形成され易く、鍛造後に除去する必要が生じるため、加熱温度はTβ+150℃以下が好ましい。さらに、鍛造前の加熱温度が過剰に高いと、鍛造完了時の温度が高くなって、鍛造後にTβ−30℃以上の温度域外(Tβ−30℃未満)に冷却されるまでに、後記するようにβ結晶粒(非扁平粒)が過剰に成長する虞がある。 チタン合金ビレットを加熱してβ単相域に到達させた後、鍛造開始前に一定時間保持して、β結晶粒を適度な大きさ、具体的には径400μm以上1000μm以下の範囲に成長させる。保持時間は、チタン合金ビレットの保持温度によって異なるが、例えば1000℃で60〜480分間程度保持すればよい。なお、いったん所望のβ結晶粒組織が形成された後は、チタン合金ビレットの温度は、鍛造前にTβ+10℃未満に降下してもよいが、後記するように、鍛造完了、さらにその後の保持時間内までTβ−30℃以上の温度域を保持することができるように設定する。 (鍛造温度:Tβ−30℃以上) 加熱して一定時間保持したチタン合金ビレットを鍛造して、製品の形状とする。鍛造に使用される金型は、400℃以上に加熱されていることが好ましく、鍛造温度(チタン合金ビレットの温度)に加熱されていることがさらに好ましい。このように加熱された金型を使用することで、鍛造されるチタン合金ビレットの表面が内部に対して早期に冷却され過ぎることがなく、表面近傍もTβ−30℃以上に保持して鍛造を完了することができる。Tβ−30℃未満に温度が降下してから鍛造を完了すると、後記するように、その後に非扁平粒が形成されない。鍛造の完了温度は、Tβ−10℃以上が好ましく、Tβを超えることがさらに好ましい。なお、鍛造完了、さらに後記の保持終了までTβ−30℃以上の温度域に保持されるのは、チタン合金鍛造材の製品部分でよく、鍛造後(冷却後)に除去される表層等の余肉(製品部分以外)は、鍛造中またはその後の保持中に前記温度域外(Tβ−30℃未満)に冷却されてもよい。 鍛造における加工率(圧下率)は特に規定されず、一般的な仕上げ鍛造と同様の条件で鍛造することができる。β結晶粒をアスペクト比が3を超える扁平粒にするためには、平坦面を有する金型による円柱形状ビレットの鍛造を例にすると、圧下率45%以上、好ましくは55%以上の加工、あるいはそれに相当する加工を加えることが好ましい。また、チタン合金ビレットに対する金型の移動速度は、ひずみ速度が10-3〜10(1/s)とすることが好ましい。 (鍛造後の温度(℃)TH(≧Tβ−30℃)での保持時間(秒間):20以上[11.64(1−TH/1425)]4.35未満) チタン合金ビレットを鍛造した後、引き続きTβ−30℃以上の温度に所定時間保持する。このように、鍛造されたチタン合金ビレットをTβ−30℃以上の温度域に保持することで、鍛造で扁平粒となったβ結晶粒とは別に、新たに非扁平なβ結晶粒(非扁平粒)が形成される。チタン合金は前記温度域未満に冷却されると非扁平なβ結晶粒の形成、成長がほぼ停止するため、チタン合金ビレットの鍛造後にTβ−30℃未満で保持しても、本発明の効果が得られず、逆に旧β粒の粒界に太く連続したα相が析出して、疲労強度を劣化させる虞がある。鍛造後の保持温度は、Tβ−10℃以上が好ましく、Tβを超えることがさらに好ましい。一方、鍛造後の保持温度の上限は、非扁平粒が形成される速度が速くなって大きさや存在割合を制御し難くなるため、1160℃以下が好ましく、Tβが1010℃未満のチタン合金の場合、Tβ+150℃以下がより好ましい。 鍛造後の保持時間が20秒間未満では、非扁平粒の大きさ(厚み方向の径)や存在割合が不十分で、非扁平粒による超音波探傷検査におけるノイズ低減効果が得られない。したがって、鍛造後のTβ−30℃以上での保持時間は、20秒間以上とし、好ましくは30秒間以上、より好ましくは40秒間以上である。一方、保持時間の経過にしたがい、非扁平粒の存在割合が増加して相対的に扁平粒の存在割合が減少するため、この温度域で過剰に長い時間保持すると、チタン合金鍛造材の疲労強度が低下する。 ここで、β結晶粒の成長速度は保持温度に依存し、温度が高いほど速くなる。このような速度挙動は、原子の拡散挙動に基づいて推測される。そこで、原子の拡散し易さを表す拡散方程式に基づいた、温度(℃)Tと、β結晶粒が成長してある存在割合に到達するまでの時間(秒間)tとの関係式を次式(3)に表す。なお、a,b,nは定数である。 t=[b(1−T/a)]n ・・・(3) 本発明者らは、実験により、鍛造後のチタン合金ビレットの保持温度(℃)THを変化させて、非扁平粒が本発明に係るチタン合金鍛造材における存在割合の上限(60%)を超えるまでの保持時間(限界保持時間)tmaxを測定し、式(3)に挿入して定数a,b,nを求めた。その結果、a=1425、b=11.64、n=4.35となり、限界保持時間tmaxを算出するための式(2)が得られた。 tmax=[11.64(1−TH/1425)]4.35 ・・・(2) したがって、鍛造後のTβ−30℃以上での保持時間は、保持温度THに基づいて式(2)で表される限界保持時間tmax秒間未満とする。なお、式(2)から、保持温度THが高いほど限界保持時間tmaxは短くなるため、保持温度THとして最も高い鍛造完了時の温度に基づきtmaxを算出するようにする。 鍛造後のチタン合金ビレットを、前記保持時間の経過後に直ちにTβ−150℃以下に冷却することで、β単相域外(α+β二相域)として非扁平なβ結晶粒の成長を停止させ、かつ旧β粒の粒界に太く連続したα相が析出することを抑制して、得られたチタン合金鍛造材の疲労強度の劣化を防止する。そのために、保持後の冷却速度は、好ましくは10℃/min以上、より好ましくは50℃/min以上である。一方、冷却速度の上限は特に規定しないが、500℃/min以下が実用的であり、また粒内の針状α相を長くして破壊靭性を向上させるため、好ましい。冷却方法は、空冷、送風、水冷、湯冷、油冷等の公知の方法を適用すればよい。なお、Tβ−150℃未満における冷却速度は特に規定せず、その他の要求される特性に応じて設定すればよい。 得られたチタン合金鍛造材は、必要に応じて、公知の方法にて溶体化処理および時効処理にて調質熱処理を行い、さらに機械加工を行って酸化皮膜や余肉を除去し、以下の超音波探傷検査を実施される。具体的には表面から1mm以上の厚さを除去し、表面粗度6.3S以上に平滑化してから、超音波探傷検査を行うことが好ましい。チタン合金鍛造材は、その後、必要に応じて再度機械加工されてエンジン部品等の製品となる。これらの処理は、公知の方法で行われてよい。〔超音波探傷検査方法〕 本発明に係るチタン合金鍛造材に対する超音波探傷検査は、公知の方法で行うことができ、探触子はプローブ径が5〜30mmの範囲のものから選択し、超音波(送信波)は周波数1〜20MHzの範囲を使用する。プローブ径は10mm以上、超音波の周波数は15MHz以下が好ましい。また、欠陥の検出分解能が高い水浸探傷法にて検査を行うことが好ましい。本発明に係るチタン合金鍛造材は、鍛造における圧下量の最も大きい方向と平行な方向を含む方向に探傷する超音波探傷検査に供すことができる。超音波探傷検査の方向とは、送信波の進行方向(チタン合金鍛造材の内部を透過させる方向)を指す(図1参照)。チタン合金鍛造材は鍛造圧下量の最も大きい方向が最もノイズが多い傾向があるが、本発明に係るチタン合金鍛造材は、かかる方向に探傷しても十分にノイズが少なく高精度な検査を行うことができる。また、チタン合金鍛造材は、この方向の厚さが最も小さい(薄い)場合が多いので、深部まで精度よく検査を行うことができ、さらに探触子を走査するこの方向に垂直な表面の面積が広い場合が多いので、検査し易い。また、チタン合金鍛造材(製品)の形状に応じて、前記1方向での探傷、またはさらに方向を変化させて合計2回以上検査することが好ましい。さらに、チタン合金鍛造材の厚さ(送信波の進行方向長さ)によっては、逆方向から送信波を入射してもよい。 以上、本発明を実施するための形態について述べてきたが、以下に、本発明の効果を確認した実施例を、本発明の要件を満たさない比較例と対比して具体的に説明する。なお、本発明はこの実施例によって制限を受けるものではなく、請求項に示した範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。〔試験体作製〕 チタン合金素材として、AMS4981で規定されるTi−6246合金(Tβ:960℃、Mo当量:6.0)からなるφ120mmのビレットを長さ(軸方向)180mmに切断して使用した。 (β鍛造) チタン合金ビレットの内部の温度分布が一定となるように、炉内にて920℃で2時間保持した後、表1に示す鍛造温度に加熱した。表1に示すβ結晶粒径になるまで、前記鍛造温度で、当該鍛造温度に応じて30〜480分間保持してからチタン合金ビレットを炉から出し、予め低周波加熱装置で鍛造温度に加熱した金型を用いて鍛造した。鍛造は、平坦な面形状の一対の金型を用い、表1に示す金型移動速度で、変形方向(圧下方向)をビレット軸方向として圧下率67%で行った(鍛造後の素材長さ60mm)。なお、鍛造温度をTβ未満とした試験体No.10については、チタン合金ビレットを1010℃まで加熱し、他の試験体と同様に表1に示すβ結晶粒径になるまで保持した後に炉から出して、表1に示す鍛造温度まで空冷させた後に鍛造した。 鍛造後、金型の負荷荷重を徐荷し、チタン合金ビレットの上下面を鍛造温度に加熱した金型で挟み込み、かつチタン合金ビレットの側面を断熱材で覆うことで、鍛造完了時から表1に示す鍛造後保持時間が経過するまで保持し、その後直ちに取り出して室温まで冷却して、チタン合金鍛造材を得た。また、試験体No.6は空冷、それ以外の試験体は水冷にて冷却した。なお、チタン合金ビレットは、加熱や保持、鍛造時に、1/2H,1/4D位置(H:鍛造材の厚み、D:鍛造材の直径)、すなわち鍛造材の厚み方向と半径方向のそれぞれの中間位置の温度を熱電対で測定して鍛造温度等を管理した。また、表1に記載の鍛造後の冷却速度は予備実験により測定した。すなわち、チタン合金鍛造材と同形状のチタン合金素材を用意し、その1/2H,1/4D位置に熱電対を挿入し、1050℃に加熱保持した後、空冷ならびに水冷を行い、冷却曲線を取得した。その後、900℃に到達した時から700℃に到達した時までの冷却速度が一定であるとして、冷却速度を算出した。また、鍛造温度を鍛造後の保持温度THとして、式(2)より限界保持時間tmaxを算出し、表1に併記する。 (調質) 室温に冷却したチタン合金鍛造材を、Tβ未満(α+β二相域)の935℃に加熱して2時間保持して30℃/minで冷却する溶体化処理の後、595℃で8時間保持して35℃/minで室温まで冷却する時効処理を行い、試験体とした。 (材料組織の観察) 試験体における1/2H,1/4D位置を含む15mm角の立方体の小片試料を試験体から切り出した。そして、旧β粒界の観察を容易にするために、Tβ未満(α+β二相域)の900℃に加熱して、30分間保持後に空冷する熱処理を行った。このように、α+β二相域での熱処理により、β粒の再結晶や粒成長は起こらず旧β粒の形状は維持しつつ、旧β粒内の針状α相の面積率を低下させるため、旧β粒界の観察が容易となる。前記熱処理を施した小片から、試験体の鍛造方向と半径方向とに平行な面な断面を切り出し、前記断面に対して、エメリー紙で機械研磨を行い、ダイヤモンド砥粒による仕上げ研磨の後、フッ硝酸溶液で腐食を行い、組織観察に供した。組織観察は光学顕微鏡にて行い、倍率100倍で3200μm×2000μmの視野をパノラマ状に観察し、旧β粒について、アスペクト比と厚み方向(軸方向)の径を求め、本発明の要件を満たす扁平粒と非扁平粒とを検出した。そして、扁平粒、非扁平粒の面積率を求めた。その結果を表1に示す。〔評価〕 試験体について、チタン合金鍛造材の超音波探傷性の評価として、水浸探傷法にて超音波探傷検査を行い、また、機械的特性として疲労強度を評価した。いずれの評価も試験体No.8を基準に、すなわち1として規格化して(試験体No.8の値で除する)表1に示す。 (超音波探傷性) 試験体から53mm角の立方体の試験片を切り出し、水浸探傷法にて超音波探傷検査を行った。プローブ径19.05mm、焦点距離152.4mmの探触子を使用し、周波数5MHzの超音波を送信波とし、水距離(探触子から試験片表面までの距離)は160mmとした。標準化試験片を用いて直径0.62mmの平底穴からの反射強度が80%となるように感度調整を行った後、試験片表面(鍛造方向に垂直な面)における中央の40mm×40mmを検査領域として、探触子を移動走査させながら、鍛造圧下量の最も大きい方向として、試験体の軸方向(一方向に鍛造)に平行な方向に超音波探傷試験を行って、Cスコープを取得した。 なお、Cスコープとは、水距離を一定として被検査体の表面に沿って探触子を移動走査させ、探触子が検出した探傷深さ範囲における最大ノイズ強度値を表面走査点毎に抽出し、二次元表示した探傷結果である。各試験片において移動走査させた探触子が検出した最大ノイズについて、試験体No.8を基準に、0.8以下を合格とする。 (疲労特性) 試験体の1/2H,1/4D位置から、試験体の周(接線)方向が荷重軸と平行になる疲労試験片を切り出した。室温にて、ASTM規格のE466に準拠した低サイクル疲労試験を、荷重制御で、最大荷重1000MPa、応力比0、台形波の条件で、疲労試験片が破断するまで行った。破断サイクル数について、試験体No.8を基準に、0.3以上を合格とする。 表1に示すように、旧β粒の扁平粒の存在割合(面積率)が多いほど、疲労強度は高くなり、一方で超音波探傷検査におけるノイズが増大する傾向が確認された。試験体No.8,9はβ単相域での鍛造後にほとんど温度を保持せずに冷却したため、従来のβ鍛造材に相当し、旧β粒のほとんどが扁平粒であって非扁平粒が不足し、疲労強度は高いが、超音波探傷性に劣った。 これに対して、試験体No.1〜7,13〜15は、本発明に係る製造方法、すなわちβ単相域での鍛造後に温度を所定範囲の時間保持したことにより、旧β粒の非扁平粒が適度に成長し、非扁平粒、扁平粒のそれぞれの存在割合が本発明に係るチタン合金鍛造材の範囲を満足する実施例となった。その結果、試験体No.1〜7,13〜15は、試験体No.8と比較して疲労強度は僅かに低いものの、航空機のエンジン部品等として必要な機械的特性を保持しつつ、優れた超音波探傷性を示した。特に、試験体No.6,7,13,14は、疲労特性を高いレベルで維持しつつ、超音波探傷時のノイズを効果的に低減できた。このことから、本実施例で用いた組成のチタン合金からなるチタン合金鍛造材については、扁平粒の存在割合が90〜98%、かつ非扁平粒の存在割合が1.5〜10%であることが特に好ましいことがわかる。 一方、試験体No.11,12は、鍛造後に過剰に長い時間保持したために、非扁平粒が過剰に成長した。そのため、低ノイズであるが、疲労強度が大きく低下した。試験体No.10は、鍛造前にβ単相域に加熱された後、Tβ−30℃未満(α+β二相域)に冷却してから鍛造されたため、過冷β相の状態で鍛造が開始され(βプロセスともいう)、微細なα相が形成されたため、疲労強度が特に高かった。しかし、試験体No.10は、鍛造開始時にすでにTβ−30℃未満であり、その後もβ単相域で保持されていないため、旧β粒の非扁平粒が全く形成されず、ノイズが特に多かった。〔試験体作製〕 チタン合金素材として、AMS4995で規定されるTi−17合金(Tβ:890℃、Mo当量:9.5)からなるφ105mmのビレットを長さ(軸方向)175mmに切断して使用した。 (β鍛造) チタン合金ビレットの内部の温度分布が一定となるように、炉内にて850℃で2時間保持した後、表2に示す鍛造温度に加熱した。β結晶粒径が550μmとなるまで、前記鍛造温度で、当該鍛造温度に応じて150〜200分間保持してからチタン合金ビレットを炉から出し、予め低周波加熱装置で鍛造温度に加熱した金型を用いて鍛造した。鍛造は、平坦な面形状の一対の金型を用い、金型移動速度1800mm/minで、変形方向(圧下方向)をビレット軸方向として圧下率67%で行った(鍛造後の素材長さ58mm)。なお、鍛造温度をTβ近傍とした試験体No.18については、確実にβ単相組織を得るために、チタン合金ビレットを940℃まで加熱し、他の試験体と同様にβ結晶粒径が550μmとなるまで保持した後に炉から出して、表2に示す鍛造温度まで空冷させた後に鍛造した。 鍛造後、実施例1と同様に、鍛造温度等を管理しつつ、チタン合金ビレットの上下面を鍛造温度に加熱した金型で挟み込んで、鍛造完了時から表2に示す鍛造後保持時間が経過するまで保持し、その後直ちに取り出して室温まで送風で冷却して、チタン合金鍛造材を得た。また、表2に記載の鍛造後の冷却速度は、加熱温度等を除いて実施例1と同様に、予備実験により測定した。すなわち、チタン合金鍛造材と同形状のチタン合金素材を用意し、その1/2H,1/4D位置に熱電対を挿入し、960℃に加熱保持した後、送風で冷却し、冷却曲線を取得した。その後、900℃に到達した時から750℃に到達した時までの冷却速度が一定であるとして、冷却速度を算出した。また、鍛造温度を鍛造後の保持温度THとして、式(2)より限界保持時間tmaxを算出し、表2に併記する。 (調質) 室温に冷却したチタン合金鍛造材を、Tβ未満(α+β二相域)の805℃に加熱して2時間保持して445℃/minで冷却する溶体化処理の後、610℃で8時間保持して60℃/minで室温まで冷却する時効処理を行い、試験体とした。 (材料組織の観察) 試験体における1/2H,1/4D位置を含む15mm角の立方体の小片試料を試験体から切り出し、試験体の鍛造方向と半径方向とに平行な面な断面を切り出した。この小片から、試験体の鍛造方向と半径方向とに平行な面な断面を切り出し、前記断面に対して、エメリー紙で機械研磨を行い、ダイヤモンド砥粒による仕上げ研磨の後、フッ硝酸溶液で腐食を行い、組織観察に供した。組織観察は、実施例1と同様に行い、扁平粒、非扁平粒の面積率を求めた。その結果を表2に示す。〔評価〕 試験体について、チタン合金鍛造材の超音波探傷性の評価として、水浸探傷法にて超音波探傷検査を行い、また、機械的特性として疲労強度を評価した。いずれの評価も試験体No.18を基準に、すなわち1として規格化して(試験体No.18の値で除する)表2に示す。 (超音波探傷性) 実施例1と同様に、試験体から53mm角の立方体の試験片を切り出し、超音波探傷試験を行って、Cスコープを取得した。最大ノイズについて、試験体No.18を基準に、0.8以下を合格とする。 (疲労特性) 試験体の1/2H,1/4D位置から、試験体の周(接線)方向が荷重軸と平行になる疲労試験片を切り出した。室温にて、ASTM規格のE466に準拠した低サイクル疲労試験を、荷重制御で、最大荷重1030MPa、応力比0、台形波の条件で、疲労試験片が破断するまで行った。破断サイクル数について、試験体No.18を基準に、0.3以上を合格とする。 試験体にTi−6246合金を適用した実施例1と同様、表2に示すように、旧β粒の扁平粒の存在割合(面積率)が多いほど、疲労強度は高くなり、一方で超音波探傷検査におけるノイズが増大する傾向が確認された。試験体No.18はβ単相域での鍛造後にほとんど温度を保持せずに冷却したため、従来のβ鍛造材に相当し、旧β粒のほとんどが扁平粒であって非扁平粒が不足し、疲労強度は高いが、超音波探傷性に劣った。 これに対して、試験体No.16,17は、本発明に係る製造方法、すなわちβ単相域での鍛造後に温度を所定範囲の時間保持したことにより、旧β粒の非扁平粒が適度に成長し、非扁平粒、扁平粒のそれぞれの存在割合が本発明に係るチタン合金鍛造材の範囲を満足する実施例となった。その結果、試験体No.16,17は、試験体No.18と比較して疲労強度は僅かに低いものの、航空機のエンジン部品等として必要な機械的特性を保持しつつ、優れた超音波探傷性を示した。 超音波探傷検査が行われる、β鍛造をされたチタン合金鍛造材であって、 厚み方向の径が50μm以上500μm以下でアスペクト比が3を超える旧β粒の結晶粒である扁平粒と、前記方向の径が30μm以上200μm以下でアスペクト比が1以上3以下である旧β粒の結晶粒である非扁平粒と、の混粒組織を有し、 前記扁平粒が40%以上99%以下、前記非扁平粒が1%以上60%以下、前記扁平粒と前記非扁平粒とが合計で90%以上存在することを特徴とするチタン合金鍛造材。 次式(1)で表されるMo当量[Mo]eqが2.7を超え15未満であるチタン合金からなることを特徴とする請求項1に記載のチタン合金鍛造材。 [Mo]eq=[Mo]+[Ta]/5+[Nb]/3.6+[W]/2.5+[V]/1.5+1.25[Cr]+1.25[Ni]+1.7[Mn]+1.7[Co]+2.5[Fe] ・・・(1) ただし、前記式(1)の[X]は、前記チタン合金における元素Xの含有量(質量%)とする。 厚さが少なくとも50mmであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のチタン合金鍛造材。 β鍛造を行って請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のチタン合金鍛造材を製造する製造方法であって、 前記β鍛造は、β変態点をTβで表したとき、Tβ+10℃以上に加熱して、β結晶粒径が400μm以上1000μm以下の範囲になるまで保持し、Tβ−30℃以上の温度域で鍛造し、前記温度域で20秒間以上であって次式(2)で表される限界保持時間(秒間)tmax未満の時間保持した後、直ちにTβ−150℃以下の温度まで冷却することを特徴とするチタン合金鍛造材の製造方法。 tmax=[11.64(1−TH/1425)]4.35 ・・・(2) ただし、前記式(2)のTHは、前記鍛造後における保持時の温度(℃)とする。 請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のチタン合金鍛造材に対する超音波探傷検査方法であって、 プローブ径が5〜30mmの範囲である探触子を用いて、周波数が1〜20MHzの範囲である超音波にて、前記チタン合金鍛造材の鍛造圧下量の最も大きい方向に平行な方向に探傷する工程を含むことを特徴とする超音波探傷検査方法。 【課題】疲労強度等の航空機用部品に要求されるβ鍛造材の機械的特性を保持しつつ、超音波探傷検査時のノイズを低減したチタン合金鍛造材およびその製造方法を提供する。【解決手段】厚み方向の径が50〜500μmでアスペクト比が3を超える旧β粒の結晶粒である扁平粒と、前記方向の径が30〜200μmでアスペクト比が1以上3以下である旧β粒の結晶粒である非扁平粒と、の混粒組織を有するチタン合金鍛造材であって、前記扁平粒が40〜99%、前記非扁平粒が1〜60%、前記扁平粒と前記非扁平粒とが合計で90%以上存在することを特徴とする。【選択図】図1