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タイトル:公開特許公報(A)_ノイズ除去方法及びノイズ除去装置
出願番号:2013021018
年次:2014
IPC分類:G01N 21/65,G01N 21/27


特許情報キャッシュ

副島 武夫 又木 安隆 JP 2014153098 公開特許公報(A) 20140825 2013021018 20130206 ノイズ除去方法及びノイズ除去装置 日本分光株式会社 000232689 岩橋 祐司 100092901 副島 武夫 又木 安隆 G01N 21/65 20060101AFI20140730BHJP G01N 21/27 20060101ALI20140730BHJP JPG01N21/65G01N21/27 Z 16 3 OL 23 2G043 2G059 2G043AA01 2G043CA03 2G043EA03 2G043NA01 2G059AA01 2G059BB04 2G059EE03 2G059MM01 2G059MM09 2G059MM10 本発明は、ノイズ除去方法及び装置に関し、具体的には、MCR(多変量カーブ分解)を用いて測定位置または測定時間ごとの試料のスペクトルデータからノイズを有効に除去する方法及び装置に関する。 ラマン分光分析は分子の振動情報より分子構造を解析する振動分光法である。試料に含まれる各成分の官能基情報はラマンスペクトルから好適に得られる場合がある。特にS−S結合やC=C結合に関する情報の分析には、赤外分光分析よりもラマン分光分析の方が適している。 ラマン分光分析は次の手順でなされる。まず、単色光を試料に照射し、試料からの散乱光を集光する。次いで、照射光と同一波長のレイリー散乱光をノッチフィルターで除去し、波長シフトしたラマン散乱光のみを取得する。そして、ラマン散乱光からラマンスペクトルを得る。 ガラスセルを用いた際はガラス自身のラマン散乱のピークも現れるので、スライドガラス上に置いた試料の厚みが小さい場合や、ガラス越しに内部を測定する場合には、試料のピークだけでなく、本来意図しないガラスのラマン散乱のピークが混入したラマンスペクトルが取得されることになる。これを取り除くため、通常は測定後に全体のラマンスペクトルからガラスのラマンスペクトルが差引かれる。 しかし、そのように処理しても、スライドガラスに試料を乗せ、試料面上をマッピング測定する際は、測定位置ごとにどの程度、ガラスのラマンスペクトルが影響するかを考慮して全体のスペクトルを補正しなければならない。 このとき、仮に測定面全体に対して「一律に」同じ標準スペクトルを差し引いて差分スペクトルを求める補正をすると、測定位置ごとに試料の厚さが異なる場合や、測定位置によってはスライドガラスが露出している場合があり、ガラスのラマンスペクトルの影響が測定位置ごとに異なることにより、結果として補正の精度が低下する恐れがある。また、全体のスペクトルからガラスのラマンスペクトルを差引き、差分スペクトルを求めていくのは、測定面上に測定点が多数あるため煩雑である。 一方、試料中に不純物となる成分(以下、混入成分という)をマッピングデータから除去するには、混入成分のマッピングデータを求める必要があるが、それには手間がかかる。ある混入成分のマッピングデータを得るには、測定位置ごとにその混入成分の標準スペクトルと濃度データを乗算しなければならないし、仮に混入成分名が既知であり標準スペクトルを選択できたとしても、その混入成分の濃度分布を別途求める必要があるためである。 ところで、以上の混入成分のラマンスペクトルは、未知成分の分析を妨害するノイズと考えることもできる。そこで、これをホワイトノイズと区別するため、スペクトルノイズと呼ぶことにした。なお、前述のスライドガラス等も混入成分の1つとみなすことができるので、スライドガラス等に起因するラマンスペクトルもスペクトルノイズに含める。 スペクトルノイズを精度よく取り除くには、混入成分等の濃度分布を得て、それをもとに各測定位置の濃度データと混入成分のスペクトルとを波長域ごとに乗算して混入成分のマッピングスペクトルを得て、全体のマッピングスペクトルからそれを差し引かなければならない。それには精度よく混入成分の濃度分布を求める方法もしくは機構が必要となる。 さらに、ラマンスペクトルにホワイトノイズが含まれるとスペクトルが歪むため、ピーク分析で成分を同定することが困難になる。ホワイトノイズを除去する方法としてはスペクトルを複数回取得し、スペクトルデータを積算していくのが一般的であるが、積算回数を増やすとその分、測定時間がかかることになる。 そこで、主成分分析(以下、PCAという)等の統計的手法を用いて、スペクトルを取得した後に、事後的な演算によりスペクトルデータを補正してスペクトル波形を整えることによって、ホワイトノイズやスペクトルノイズを除去することがある。 PCAは多変量データの次元を圧縮し、データ全体に見られる特徴を分析するための多変量解析の手法である。PCAでは、まず、マッピングデータを、お互いに直交する複数の固有ベクトル(主成分スペクトル、ローディングベクトルとも呼ぶ)と主成分スコアで展開する。次に、ノイズを捉えていると考えられる高次の固有ベクトルを省いて、低次の固有ベクトルのスコアのみでマッピングデータを再構築する。これによりノイズを除去したスペクトルデータが得られる。 また、PCAで求めた各固有ベクトル(主成分スペクトル)のうち、混入成分のスペクトルに該当する(形状が類似する)ものについての主成分スコアを混合スペクトル行列から除去することにより、スペクトルノイズを除去しようとする。 各主成分(固有ベクトル)を求める際の手順について簡潔に説明する。実際の各測定値と各変数の平均値との偏差xpを求め、それをデータ行列Xpとし、Wを結合次数とすれば、第n主成分をZn=WnXpとして表せる。そして、この結合次数Wは、種々の公知の方法で固有値と固有ベクトルを求めることにより、求められる。固有値、固有ベクトルを求める行列計算には、様々な公知のアルゴリズムが使用でき、そのアルゴリズムにはラグランジュ乗数法の他、ヤコビ法、QR分解、NIPALS、特異値分解等がある。 各主成分(固有ベクトル)を求めた後、低次の固有ベクトルのみを採用して、それぞれのスペクトルデータごとに主成分スコアを求める。ここで高次の固有ベクトルはノイズとみなしてスペクトルデータから除去される。その後、ノイズ除去後のスペクトルデータを用いてスペクトルを再構築する。そうすることにより、測定データ全体と相関の低いスペクトルデータをノイズとみなして除去できるのである。 上記操作において第何次の固有ベクトルまで採用するか判断する必要があり、第何次の固有ベクトル以降を除去するか、その判断に任意性が残る。高次の固有ベクトルまで採用すると、ノイズ成分が有効に除去できないことがある。また、反対に低次の固有ベクトルのみを採用すると、ノイズだけでなく多くの有意の情報まで除去されることになりかねない。 このようにPCAは、データ全体の分散を見てそれぞれの因子の主成分スコアを求め、高次の固有ベクトルにのみ寄与する因子を、統計的にノイズ成分と判断して除去するにすぎず、確実性に乏しい。また、全体の試料スペクトルからスペクトルノイズを除去する際は、或る固有ベクトルを混入成分とみなして全体のスペクトルから差し引くが、その固有ベクトルが混入成分のスペクトルに十分に一致していないと、スペクトルデータを精度よく再構築できなくなる。そのため、このような場合は他の統計的分析手法を検討すべきである。 なお、取得されたスペクトルのSN比が小さい場合、低次の固有ベクトルのみ採用してもノイズが残ることもある。特開2008−157843号公報 本発明は、試料のスペクトルデータからPCA等の統計的手法によりノイズを除去する際に、有意な情報までもが除去されてしまう、という課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、試料のスペクトルデータから、有意な情報が除去されることなく、混入成分等に起因するスペクトルノイズ、及び、その他の要因から生じるホワイトノイズを除去する方法、及び、その装置を提供することにある。 本発明者らが前記課題について鋭意検討を重ねた結果、複数成分を含む試料より得られるスペクトルデータ(以下、混合スペクトルデータという)から、混入成分等に起因するスペクトルノイズやその他の要因から生じるホワイトノイズを除去した各成分のスペクトルを出力するには、MCR(多変量カーブ分解)において以下の二つの操作を行うのが有効であると考えた。 一つ目は、MCRにおいてループ処理を適切に実行することによって、ホワイトノイズを除去することである。 MCRでは、試料面の複数の測定位置又は測定時間における混合スペクトルデータを保持した行列(以下、混合スペクトル行列A)に対してループ処理がなされる。このループ処理においては、混合スペクトル行列Aに基づいて、純成分のスペクトルデータ行列(以下、純スペクトル行列K)と、複数の測定位置又は測定時間における各成分の濃度データを保持した行列(以下、濃度行列C)とを交互に計算して求める。純スペクトル行列Kは、濃度行列Cと混合スペクトル行列Aにより、K=(CTC)−1CTAから求められ、濃度行列Cは、純スペクトル行列Kと混合スペクトル行列Aにより、C=AKT(KKT)−1から求められる。このループ処理を繰り返し、純スペクトル行列Kと濃度行列Cとを収束させる。このときホワイトノイズはノイズ行列Nに分離される。 二つ目は、純スペクトル行列Kの初期設定およびループ処理において、以下の操作手順を採用することである。 まず、PCA等によって、混合スペクトル行列Aから各成分の初期スペクトルを推定する。そして、成分数と同数の初期スペクトルを行列内に配列したものを純スペクトル行列Kとして形成する。 ここで、予め試料の混入成分が判明している場合、その混入成分の標準スペクトルを、上記の初期スペクトルの1つとして用いるとともに、ループ処理においても純スペクトル行列Kの拘束条件として用いる。これによって、他の初期スペクトルの当否に関わらず、MCRによるスペクトルの分離精度を向上させることができる。ここで、標準スペクトルを純スペクトル行列Kの拘束条件に用いるとは、ループ処理において純スペクトル行列Kが繰り返し計算される都度、初期に標準スペクトルが代入された行列Kの成分をその標準スペクトルに置き換えることを示す。この操作により、混入成分の濃度分布が精度よく求められ、また未知成分も精度よく分析される。特に、複数成分のピーク域が重なっている場合は有用である。 また、予め試料の混入成分が判明している場合であっても、その混入成分の標準スペクトルを初期スペクトルの1つとしては用いないで、PCA等によって推定された純スペクトル行列Kをそのまま使ってループ処理を開始し、ループ処理の途中からその標準スペクトルを純スペクトル行列Kの拘束条件に使用してもよい。ループ処理の途中で、混入成分が判明した場合も、同様に、ループ処理の途中から拘束条件を適用すればよい。これらの操作によって、純スペクトル行列Kの初期設定における初期スペクトルの当否に関わらず、MCRによるスペクトルの分離精度を向上させることができる。 本発明に係る方法の手順についてまとめる。まず、試料面の各測定点から混合スペクトルを取得し、必要に応じて前処理を行い(前処理については後述する。)、混合スペクトル行列Aを得る。次いで、混合スペクトル行列Aに対してPCA処理を実行し、各主成分の固有ベクトルから計算される累積寄与率などを参考にして純スペクトル行列Kの成分数を決定する。(累積寄与率の算出と利用方法については後述する。)さらに、PCA処理により求めた固有ベクトルのうち、低次の固有ベクトルから昇順に決定された成分数だけ固有ベクトルを選択し、それら固有ベクトルの各ベクトル成分の絶対値をとったものを暫定的に各成分のスペクトルデータとみなし、純スペクトル行列Kに入力する。これにより純スペクトル行列Kの初期値が決定される。 そして、純スペクトル行列Kを使って上述のループ処理を実行する。ここで、少なくともループ処理の途中から、混入成分の標準スペクトルデータを純スペクトル行列Kの拘束条件として用いる。ループ処理の終了条件を満たした時点で処理を停止し、純スペクトル行列Kと濃度行列Cの各収束値を得る。このとき純スペクトル行列Kからは各成分のスペクトルが得られる。一方、濃度行列Cからはマッピング測定の場合は濃度分布が得られ、クロマトグラフィの場合は濃度行列Cから測定時間ごとの各成分の濃度データが得られる。 すなわち、本発明に係るノイズ除去方法は、複数成分を含む試料の二次元若しくは三次元上の異なる測定位置ごとの、又は、複数成分を含む試料について測定時間ごとの、複数のスペクトルデータから混合スペクトル行列Aを求め、該混合スペクトル行列Aを多変量カーブ分解により純スペクトル行列K及び濃度行列Cに分解し、これら純スペクトル行列K及び濃度行列Cに基づいて前記スペクトルデータに含まれるノイズを除去する方法であって、 (1)測定位置又は測定時間ごとに試料のスペクトルデータを得る試料測定工程と、 (2)横方向(列数)をスペクトルデータの波長又は波数とし、縦方向(行数)を測定位置又は測定時間として、試料のスペクトルデータを行列成分とする混合スペクトル行列Aを形成する混合スペクトル行列計算工程と、 (3)混合スペクトル行列Aから各成分のスペクトルデータを推定するとともに、横方向をスペクトルデータの波長又は波数とし、縦方向を試料の成分数として、推定された各成分のスペクトルデータを行列成分とする純スペクトル行列Kの初期値を形成する純スペクトル行列推定工程と、 (4)横方向を試料の成分数とし、縦方向を測定位置又は測定時間として、試料の各成分の濃度データを行列成分とする濃度行列Cの初期値を形成するとともに、濃度行列C及び純スペクトル行列Kの収束値を求めるループ処理工程と、を備え、 ループ処理工程は、 (i)混合スペクトル行列Aと純スペクトル行列Kからなる式(C=AKT(KKT)−1)より濃度行列Cを求め、該濃度行列Cの負の値をとる要素を0に置き換える濃度行列計算段階と、 (ii)混合スペクトル行列Aと濃度行列計算段階で得た濃度行列Cからなる式(K=(CTC)−1CTA)より純スペクトル行列Kを求め、該純スペクトル行列Kの負の値をとる要素を0に置き換える純スペクトル行列計算段階と、を有し、 (iii)濃度行列計算段階と純スペクトル行列計算段階とを交互に繰り返して、濃度行列C及び純スペクトル行列Kの収束値を得るとともに、 ループ処理の少なくとも途中から、純スペクトル行列計算段階において、計算された純スペクトル行列Kのいずれかの一定の行を、試料に含まれている成分の標準スペクトルデータと置換する処理を実行し、 ループ処理で得られた純スペクトル行列K及び濃度行列Cの収束値から、ノイズに該当する混入成分のスペクトルデータと濃度データを得て、試料のスペクトルデータからノイズを除去することを特徴とする。 なお、本発明に係る行列は、本書で説明する各行列の転置行列も含むものとする。つまり、説明中の行と列を単に入れ換えただけの行列を用いた発明も、本発明に含まれる。 ここで、純スペクトル行列推定工程は、形成された純スペクトル行列Kのいずれかの一定の行を、試料に含まれている成分の標準スペクトルデータと置換する処理を含み、 純スペクトル行列計算段階では、純スペクトル推定工程にて置換された行と同じ行を、試料に含まれている成分の標準スペクトルデータと置換することが好適である。 このように、純スペクトル行列Kのいずれかの一定の行を例えば混入成分の標準スペクトルデータに置換する時期を、純スペクトル行列Kの初期設定時点にしてもよい。上述のように、ループ処理の途中から置換する場合は、置換した時点から混入成分の標準スペクトルデータを純スペクトル行列Kの拘束条件に設定する。 また、純スペクトル行列推定工程では、混合スペクトル行列Aを主成分分析して複数の固有ベクトルを求め、採用する固有ベクトルの数を純スペクトル行列Kの成分数に指定し、主成分分析による低次の固有ベクトルから昇順に成分数だけの固有ベクトルが各成分のスペクトルデータであると推定することが好適である。 この際、純スペクトル行列推定工程において、複数の固有ベクトルを高次から順に並べて、低次の固有ベクトルから順に累積寄与率を算出し、該累積寄与率をもとに前記純スペクトル行列Kの成分数を決定することがより好適である。 また、ラマンスペクトル測定の際に測定光を試料に照射することにより蛍光が発生し、バックグラウンドが盛り上がる場合がある。蛍光により盛り上がったバックグラウンドはノイズとみなすことができ、MCR処理のスペクトルの分離精度の低下の原因となる。 そこで、混合スペクトル行列Aを得る際の前処理として、試料のスペクトルをベースライン補正するのが好適である。これにより蛍光の影響を抑えることができる。 すなわち、本発明に係る方法は、前記試料測定工程で前記試料のスペクトルを得た後、該試料のスペクトルに対してベースライン補正を行うベースライン補正工程をさらに備え、混合スペクトル行列計算工程でベースライン補正後の前記試料のスペクトルに基づいて、各成分のスペクトルデータを推定し、混合スペクトル行列Aの初期値を形成することが好適である。 マッピングデータの各スペクトルからスライドガラスの信号を除去するため、MCR処理で分離した濃度行列Cと純スペクトル行列Kの中で、スライドガラスのスペクトルの行とそれに対応する濃度の列を除いてマッピングデータを再構築すると良い。スライドガラスのように混入している成分の標準スペクトルが判明している場合は、その標準スペクトルを純スペクトルデータKの拘束条件とすることにより、スペクトルの分離精度が高くなる。結果として、マッピングデータの再構築の精度も高くなる(但し、スライドガラスの標準スペクトルを拘束条件としなくても、スペクトルの分離精度が高い場合は、敢えてスライドガラスの標準スペクトルで拘束する必要はない)。 先述のループ処理で純スペクトル行列Kと濃度行列Cを求めた後、純スペクトル行列Kの混入成分の行と、それに対応する濃度行列Cの列とをそれぞれ乗算することで、混入成分のスペクトル行列が得られる。このスペクトル行列は、測定位置または測定時間ごとの混入成分のスペクトルデータを含む。 また、ノイズ成分に対応する純スペクトル行列Kの行を除去して純スペクトル行列K’を求め、同じくノイズ成分に対応する濃度行列Cの列を除去して濃度行列C’を求め、それらを乗算すれば、スペクトルノイズやホワイトノイズを取り除いた混合スペクトル行列A’が得られ、混合スペクトル行列を再構築することができる。なお、ノイズ行列Nにホワイトノイズが含まれている。 すなわち、本発明に係るノイズ除去方法は、さらに、純スペクトル行列Kの収束値から混入成分に対応する行を除去して純スペクトル行列K’とし、濃度行列Cの収束値から混入成分に対応する列を除去して濃度行列C’とし、純スペクトル行列K’と濃度行列C’とを乗算することにより、混合スペクトル行列Aを再構築する再構築工程を備えてもよい。 また、特徴的な波長域にピークを示す成分(以下、特定成分)が試料に含まれる場合がある。その特徴的なピークを検出すれば、試料中のその特定成分の有無を判断できる。また、散乱強度は濃度に比例することから、特定成分のピーク強度も濃度に比例する。したがって、この原理を利用すればその特定成分の濃度分布または時間変化を求めることが可能である。 そこで、特定成分のピーク強度からその濃度分布を求め、標準スペクトルと乗算して、特定成分のスペクトル行列を得て、混合スペクトル行列Aからこれを差し引くことにより、混合スペクトル行列Aから特定成分のスペクトルデータを除去することにした。MCR処理を始める前に、混合スペクトル行列Aから特定成分のスペクトルをあらかじめ除いておくことで、その分、少ない成分数で分析でき、好適な条件で分析できる。特に、一定の波長域(波数域)に複数成分のピークが重なっている場合に、この処理は有効である。 前処理としての特定成分のスペクトルデータ除去手順を説明する。まず、混合スペクトルデータにおいて特徴的なピークの有無によって、特定成分の有無を判断する。特定成分が有ると判断された場合、測定位置(または測定時間)ごとに特徴的なピークの強度情報を取得し、特定成分の濃度データを得る。次いで、この濃度データと特定成分の標準スペクトルデータを用いて、特定成分のスペクトル行列を得る。(このスペクトル行列は特定成分の測定位置等ごとのスペクトルデータを、行列成分としている。)そして、混合スペクトル行列Aからこの特定成分のスペクトル行列を差し引く。 すなわち、本発明に係る方法に係る混合スペクトル行列計算工程において、他の成分がピークを示さない波長域においてピークを示すような特定成分のピーク強度を測定位置又は測定時間ごとに測定し、該ピーク強度に基づき特定成分の濃度分布又は濃度変化を求め、該濃度分布又は濃度変化と該特定成分の標準スペクトルデータとから該特定成分のスペクトルデータ行列を得、混合スペクトル行列Aから該特定成分のスペクトルデータ行列を差し引く処理を行うことが好適である。 ここでいう測定位置又は測定時間ごとの濃度データ群は、マッピング測定の場合は濃度分布、クロマトグラフィの場合は濃度の時間変化を意味する。上記のノイズ除去方法をマッピング測定に使用する場合は、測定位置ごとにスペクトルを測定し、混合スペクトル行列Aを計算し、さらにループ処理を経て、純スペクトル行列K及び濃度行列Cを求めればよい。濃度行列Cは各成分の濃度分布を示す。純スペクトル行列Kに含まれる混入成分のスペクトルデータと、濃度行列Cに含まれる混入成分の濃度分布とにより、混入成分のスペクトル行列が得られる。よって、これを混合スペクトル行列Aから差し引くことにより、スペクトルノイズを容易に除去できる。 また、本発明に係るノイズ除去方法をクロマトグラフィに使用する場合、測定時間ごとに溶出試料のスペクトルを測定し、混合スペクトル行列Aを計算し、ループ処理を経て、純スペクトル行列K及び濃度行列Cを求める。このとき、濃度行列Cは各成分濃度の時間変化を示すことになる。もちろん混入成分等の濃度の時間変化も得られる。純スペクトル行列Kに含まれる混入成分のスペクトルデータと、濃度行列Cに含まれる混入成分の濃度の時間変化とにより、混入成分のスペクトル行列が得られる。よって、これを混合スペクトル行列Aから差し引くことにより、スペクトルノイズを容易に除去できる。 本発明のノイズ除去装置について説明する。試料測定部にて、測定位置または測定時間ごとに試料の混合スペクトルを取得した後、混合スペクトルデータ行列計算部にて混合スペクトルから混合スペクトル行列Aの初期値を設定する。混合スペクトル行列Aを求める前に、前処理として混合スペクトルに対して前述のベースライン補正をしてもよい。 次いで、純スペクトル行列推定部にて混合スペクトル行列AをPCA処理し、得られた各主成分の固有ベクトルから累積寄与率を計算し、これを参考に採用する固有ベクトルの数を決定して、純スペクトル行列Kの成分数に指定する。 ところで、実際の分析では、固有ベクトルの数を決定する際に基準とする累積寄与率を一義的に決定するのが難しいこともある。分析の結果、成分数が適切でないと判断されたときは、成分数を変更して再分析し、試行錯誤しつつ最適な成分数を決定すればよい。 低次の固有ベクトルから昇順に成分数だけの固有ベクトルを初期スペクトルデータとして推定する。そして、それぞれの初期スペクトルデータを純スペクトル行列Kに代入する。これらの操作により純スペクトル行列Kが初期設定される。 純スペクトル行列Kの初期値を設定した後、例えば判明している混入成分の標準スペクトルデータを、純スペクトル行列Kの任意の行と置き換えてもよい。さらに、ループ処理部においても、混入成分の標準スペクトルデータを純スペクトル行列Kの拘束条件とする。もしくは、初期設定時には純スペクトル行列Kの置換を実行しないで、ループ処理部において、ループ処理の途中から、混入成分の標準スペクトルデータを純スペクトル行列Kの拘束条件としてもよい。 ループ処理部には終了条件が設定されており、終了条件を満たした時点で計算を停止し、純スペクトル行列Kと濃度行列Cの各収束値を得る。純スペクトル行列Kの収束値からは各成分のスペクトルが得られ、濃度行列Cの収束値からは各成分の濃度分布又は濃度変化が得られる。 すなわち、本発明に係るノイズ除去装置は、複数成分を含む試料の二次元若しくは三次元上の異なる測定位置ごとの、又は、複数成分を含む試料について測定時間ごとの、複数のスペクトルデータから混合スペクトル行列Aを求め、該混合スペクトル行列Aを多変量カーブ分解により純スペクトル行列K及び濃度行列Cに分解し、これら純スペクトル行列K及び濃度行列Cに基づいて前記スペクトルデータに含まれるノイズを除去する装置であって、 (1)測定位置又は測定時間ごとに試料のスペクトルデータを得る試料測定部と、 (2)横方向(列数)をスペクトルデータの波長又は波数とし、縦方向(行数)を測定位置又は測定時間として、試料のスペクトルデータを行列成分とする混合スペクトル行列Aを形成する混合スペクトル行列計算部と、 (3)混合スペクトル行列Aから各成分のスペクトルデータを推定するとともに、横方向をスペクトルデータの波長又は波数とし、縦方向を試料の成分数として、推定された各成分のスペクトルデータを行列成分とする純スペクトル行列Kの初期値を形成する純スペクトル行列推定部と、 (4)複数成分の標準スペクトルデータを記憶しているスペクトルデータベースと、 (5)横方向を試料の成分数とし、縦方向を測定位置又は測定時間として、試料の各成分の濃度データを行列成分とする濃度行列Cの初期値を形成するとともに、濃度行列C及び純スペクトル行列Kの収束値を求めるループ処理部と、を備え、 前記ループ処理部は、 (i)混合スペクトル行列Aと純スペクトル行列Kからなる式(C=AKT(KKT)−1)より濃度行列Cを求め、該濃度行列Cの負の値をとる要素を0に置きかえる濃度行列計算部と、 (ii)混合スペクトル行列Aと濃度行列計算部で得た濃度行列Cからなる式(K=(CTC)−1CTA)より純スペクトル行列Kを求め、該純スペクトル行列Kの負の値をとる要素を0に置きかえる純スペクトル行列計算部と、を有し、 (iii)濃度行列計算部での濃度行列Cの計算と、純スペクトル行列計算部での純スペクトル行列Kの計算と、を交互に繰り返して、濃度行列C及び純スペクトル行列Kの収束値を得るとともに、 純スペクトル行列計算部は、試料に含まれる成分の標準スペクトルデータをスペクトルデータベースから選択し、ループ処理部の繰り返し計算の少なくとも途中から、計算された純スペクトル行列Kのいずれかの一定の行を、選択した標準スペクトルデータと置換する処理を実行し、 ループ処理部によって計算された純スペクトル行列K及び濃度行列Cの収束値から、ノイズに該当する混入成分のスペクトルデータと濃度データを得て、試料のスペクトルデータからノイズを除去することを特徴としている。 ここで、純スペクトル行列推定部は、試料に含まれる成分の標準スペクトルデータをスペクトルデータベースから選択し、形成された純スペクトル行列Kのいずれかの一定の行を、選択した標準スペクトルデータと置換する処理を行ない、 純スペクトル行列計算部は、純スペクトル推定部にて置換された行と同じ行を、選択した標準スペクトルデータと置換することが好適である。 また、純スペクトル行列推定部は、混合スペクトル行列Aを主成分分析して複数の固有ベクトルを求め、採用する固有ベクトルの数を純スペクトル行列Kの成分数に指定し、主成分分析による低次の固有ベクトルから昇順に成分数だけの固有ベクトルが各成分のスペクトルデータであると推定することが好適である。 ここで、純スペクトル行列推定部は、複数の固有ベクトルを高次から順に並べて、低次の固有ベクトルから順に累積寄与率を算出し、該累積寄与率をもとに前記純スペクトル行列Kの成分数を決定することがより好適である。 また、本発明に係るノイズ除去装置は、さらに、スペクトルデータベースから純スペクトル行列Kの行に含まれているスペクトルデータに対応する標準スペクトルデータを検索するマッチング処理部を備え、 マッチング処理部は、純スペクトル行列Kの収束値の行に含まれているスペクトルデータを、スペクトルデータベースでマッチング処理することにより、対応する成分を同定することが好ましい。 また、本発明に係るノイズ除去装置は、さらに、マッチング処理部によって同定された成分、及び、該成分についての濃度行列Cの収束値に含まれている濃度データに基づく濃度分布又は濃度変化、を表示する画面部を備えているとよい。 また、本発明に係るノイズ除去装置は、試料測定部で試料のスペクトルを得た後、該試料のスペクトルに対してベースライン補正を行うベースライン補正部をさらに備え、 ベースライン補正部により試料のスペクトルをあらかじめベースライン補正した上で、混合スペクトル行列Aを形成してもよい。 また、試料を載置するスライドガラスや、試料を注入するセルに由来するスペクトルを、混入成分のスペクトルとみなせば、スライドガラス等に起因するスペクトルを混入成分と同様に処理できる。 例えば、純スペクトル行列推定部にて、純スペクトル行列Kの任意の行を、スライドガラス等の標準スペクトルデータに置換し、さらに、純スペクトル行列計算部にて、該純スペクトル行列Kの拘束条件としてもよい。もしくは、ループ処理の途中から、純スペクトル行列計算部にて、純スペクトル行列Kの拘束条件としてもよい。 また、混合スペクトル行列計算部は、他の成分がピークを示さない波長域においてピークを示すような特定成分のピーク強度を測定位置又は測定時間ごとに測定し、該ピーク強度に基づき特定性分の濃度分布又は濃度変化を求め、該濃度分布又は濃度変化と該特定成分の標準スペクトルデータとから該特定成分のスペクトルデータ行列を得、混合スペクトル行列Aから該特定成分のスペクトルデータ行列を差し引く処理を行ってもよい。 また、純スペクトル行列K及び濃度行列Cの各収束値を用いて混合スペクトル行列Aを再構築する再構築部を備え、 再構築部は、純スペクトル行列Kの収束値から混入成分に対応する行を除去して純スペクトル行列K’とし、濃度行列Cの収束値から混入成分に対応する列を除去して濃度行列C’とし、純スペクトル行列K’と濃度行列C’とを乗算することにより、混合スペクトル行列Aを再構築してもよい。 なお、本発明に係る方法及び装置はラマン分光分析の他、IR分析、紫外可視光分析、蛍光分析等に用いることも可能である。 試料中に含まれる成分数が多く、各純スペクトルのピークが同一波数域(波長域)に重なり合う場合においても、各純スペクトルを分離することができるのがMCR分析のメリットではあるが、その分離精度に改善の余地があった。そこで、本発明者らは成分数が多い場合においても、より純スペクトルデータの分離精度を高める方法を見出したのである。 試料中の混入成分のうち、あらかじめ含まれていることが分かっているものがある場合に、その混入成分の標準スペクトルデータを純スペクトル行列Kの拘束条件としておく。そうするとループ処理においてその都度、純スペクトル行列Kの対応行がその成分の標準スペクトルデータに置き換えられる。そうすることにより、他の成分の純スペクトルデータの初期値が、その成分の本来のスペクトルデータの形に落ち着くように、随時、軌道修正されていく。その結果、全て成分のスペクトルデータと、濃度データとが正確に計算される。 混合スペクトル行列Aを再構築する際は、純スペクトル行列Kの収束値の行のうち、混入成分に対応する行と、それに対応する濃度行列Cの列を除去して、それぞれ純スペクトル行列K’、濃度行列C’とし、それらを乗算すれば、混合スペクトル行列Aから混入成分やホワイトノイズが除去された混合スペクトル行列A’が得られる。 混合スペクトル行列Aを再構築するにはこの他に、純スペクトル行列K、濃度行列Cの行数を変更しなくても、それぞれ混入成分に対応する行または列に0を挿入して、純スペクトル行列K’、濃度行列C’として、それらを乗算することにより混合スペクトル行列A’を求めてもよい。また、純スペクトル行列Kの各測定対象成分の行または列と、それに対応する濃度行列Cの行または列とをそれぞれ乗算し、全て足し合わせることによって、混合スペクトルA’を求めてもよい。 なお、このときスライドガラスやセルに由来するスペクトルについても、混合スペクトル行列Aから除去される。 また、MCR処理でのループ処理の終了条件を適切に設定すれば(例えば、終了回数を設定する)、ホワイトノイズをノイズ行列Nに分離できるだけでなく、スペクトルノイズを精度良く分離することも可能となる。ループ処理の終了条件の具体例としては、まずループ回数を100回に設定し、さらに純スペクトル行列のスペクトルデータが或る条件を充足するかを終了条件として設定し(or条件文とする)、いずれかを満たすまでという終了条件を設定することもできる。 また、ラマン分析における試料からの蛍光の発生や、赤外分光測定における試料表面の粗さ等が原因でスペクトルのベースラインが盛り上がることがある。そのまま処理すると、各成分のベースラインに歪みが生じてスペクトルの強度スケールが大きくなり、その結果、各成分のスペクトルに由来するピーク強度が相対的に小さくなる。これは各試料のピークを検出しにくくするので好ましくない。 そこで、本発明においては混合スペクトル行列Aを求める前の前処理として、ベースライン補正することにした。それから混合スペクトル行列Aから各成分のスペクトルデータを求めれば、各成分のスペクトルの歪みが解消される。これにより各成分の同定が容易になり、各成分の濃度分布や時間変化が正確に求められる。2成分を混合した試料のスペクトルをそれぞれ純スペクトルに分離する様子を概略的に示した図である。本発明に係るノイズ除去装置の構成を示した図である。MCR処理によってマッピング測定後のスペクトルデータ群から純スペクトル行列Kと濃度行列Cとを求める概括的手順をフローチャートで表した図である。混合スペクトル行列A、濃度行列C、及び純スペクトル行列Kの行及び列の関係と、それぞれの行列の関係について説明した図である。濃度行列Cから混入成分に対応する列を除去し、純スペクトル行列Kから混入成分に対応する行を除去し、これらの行列を乗算して、混合スペクトル行列を再構築する方法を視覚的に示した説明図である。ループ処理された純スペクトル行列Kの行に相当する成分をスペクトルデータベースで検索し、その成分名を表示するとともに、濃度行列Cからその成分の濃度分布を画面に表示した時の様子を視覚的に示した図である。6成分を含んだ試料のマッピングデータに対してMCR処理をする際、デンプンの標準スペクトルを純スペクトル行列Kの拘束条件とした場合に得られた各成分のスペクトルを示した図である。6成分を含んだ試料のマッピングデータに対してMCR処理をする際、特に混入成分についての拘束条件を設定しない場合に得られた各成分のスペクトルを示した図である。6成分の標準スペクトルを示した図である。6つの測定位置の混合スペクトルを示した図である。図10の混合スペクトルに対してスライドガラスの標準スペクトルを純スペクトル行列Kの拘束条件とした場合に得られた各成分の純スペクトルを示した図。図11の3成分の純スペクトルを使って再構築した混合スペクトルを示した図である。図11の純スペクトルのうちのスライドガラス以外の2成分の純スペクトルを使って再構築した混合スペクトルを示した図である。 本発明に係るMCR処理方法は、IR分析、蛍光分析、紫外可視光分析等、様々な分析におけるスペクトルの処理に適用できる。例えば、ラマン分析では、試料に単色光を照射し、試料からの散乱光を集光して、ノッチフィルターを通せば、単色光と同一波長のレイリー散乱光を除去できる。このとき他の波長域にあるラマン散乱光はノッチフィルターを透過するので、それを検出することによりラマンスペクトルが得られる。このように得られたスペクトルデータに対して本発明に係るMCR処理を施すことについて、以下に詳しく説明する。 (MCRの概略) スペクトルの波長方向のプロット数をnとした時、ラマンスペクトルは、n次元空間にある一つのベクトルとして表される。これをMCR処理すれば、このベクトルが分割され、試料中に含まれる各成分が一つの単位ベクトルとして表される。 例えば、図1は、2成分試料の混合スペクトルを各成分のスペクトル(純スペクトル)に分離する様子を概略的に示したものである。図1(e)の混合スペクトルは、同図(a)に示す成分1の純スペクトルと、同図(c)に示す成分2の純スペクトルとを足し合わせたスペクトルである。同図(b),(d)の各ベクトルは、成分1,2の各純スペクトルを単位ベクトルで表したものである。図1(e)の混合スペクトルをn次のベクトルで表示すると、図1(f)のように、成分1の単位ベクトルと成分2の単位ベクトルの和で表される。すなわち、MCR処理は、図1(e)の混合スペクトルに係るベクトルを、成分1の単位ベクトル(図1(b))と成分2の単位ベクトル(図1(d))に分解することができる。 (純スペクトル行列の推定) 次に、純スペクトル行列Kの推定について簡潔に説明する。MCRは、未処理のスペクトルデータをまとめた混合スペクトル行列Aと、後述する方法で推定された純スペクトル行列Kとを使って、各成分の濃度を示す濃度行列Cを求める計算式を立てることから開始し、最終的に純スペクトル行列K及び濃度行列Cの収束値を求める処理である。MCR処理をするためには、暫定的に各成分の初期スペクトルを決める必要があり、これらを純スペクトル行列Kの初期値として用いる。 純スペクトル行列Kの初期値の推定には主にPCAを用いる。PCAにより、混合スペクトル行列Aから試料に含まれる成分数に相当する数の固有ベクトル(主成分スペクトルとも呼ぶ)を求める。それぞれの固有ベクトルの各ベクトル成分の絶対値をとったものを、暫定的に各成分のスペクトルデータとみなし、純スペクトル行列Kに初期値として入力する。こうして純スペクトル行列Kが推定される。 なお、この時点で純スペクトル行列Kが各成分のスペクトルデータと完全に一致する必要はなく、初期スペクトルとしては固有ベクトルの各ベクトル成分の絶対値をとったもので十分であることが多い。 また、初期スペクトルを推定するために、必ずしもPCAを使う必要はなく、マッピングスペクトルデータの中から含まれていると予想されうる成分の標準スペクトルに近いものを適宜抽出し、初期スペクトルデータに採用してもよい。 図2は、多変量カーブ分解(MCR)でスペクトル処理する装置構成を示したブロック図である。このスペクトル処理装置は、MCR処理部10、外部入力部11、スペクトルデータベース26及び外部出力部27を備えている。 外部入力部11は、測定部12と入力部14を有する。測定部12は、複数成分を含む試料に対して赤外分光測定、紫外可視分光測定、ラマン分光測定等を行い、試料上の各測定点での測定光を検出する。入力部14は、純スペクトル行列Kの初期設定、混入成分の標準スペクトルデータ等を入力する際に使用される。 また、MCR処理部10は、混合スペクトルデータ演算部16と、純スペクトル行列初期値推定部18と、濃度行列・純スペクトル行列記憶・演算部20と、マッチング処理部28と、を備える。 混合スペクトルデータ演算部16は、測定部12がマッピング測定によって取得した各測定点におけるスペクトルデータに基づいて、混合スペクトル行列Aを計算する。純スペクトル行列初期値推定部18は、混合スペクトル行列AをPCA処理して固有値及び固有ベクトルを得て、それをもとに純スペクトル行列Kの初期値を推定する。 濃度行列・純スペクトル行列記憶・演算部20は、ループ処理によって、各成分の濃度分布を示す濃度行列C、及び、各成分の純スペクトルを示す純スペクトル行列Kの各収束値を算出し、これを記憶する。マッチング処理部28は、ループ処理で得られた純スペクトル行列Kに含まれるスペクトルデータに相当する成分をスペクトルデータベース26から検索し、各成分を同定する。 また、外部出力部27は各成分の濃度分布等の分析結果を表示する画面24と、各成分の成分名、濃度分布、及び純スペクトル等を画面24に出力する画像出力部22を備える。 図3の概括的処理手順を示したフローチャートを使って、MCR処理する手順を説明する。MCR処理を開始する前に、試料測定面をマッピング測定し、各測定点のスペクトルデータを得ておく(図示なし)。MCR処理の開始後、必要に応じて適宜、スペクトルデータに対してベースライン補正等の前処理(S24)を実行する。次に、各測定位置のスペクトルデータから混合スペクトル行列Aを計算する(S12)。この処理では、まず、各測定点のスペクトルデータから、スペクトルの波長方向のプロット数をnとして、混合スペクトルデータを抽出する。この混合スペクトルデータには、測定対象成分のスペクトルデータ以外に、混入成分、試料セルの窓板や試料を載置するスライドガラスのスペクトルデータも含まれている。各測定点の混合スペクトルデータは、図4に示すような混合スペクトル行列Aの各行に代入される。つまり、混合スペクトル行列Aの横方向(列数)は、スペクトルの波長方向に対応し、縦方向(行数)は、測定位置に対応している。 次いで、混合スペクトル行列Aに対してPCA処理を実行して、純スペクトル行列Kを推定する(S14)。それにはまず、試料に含まれる成分の数を決定(S26)し、純スペクトル行列Kの行数を設定する必要がある。そのため、累積寄与率Rを計算し、累積寄与率Rの大きさを参考に成分数を決定する。 累積寄与率Rの計算手順について説明する。まず、混合スペクトル行列AをPCA処理し、各主成分の固有値、固有ベクトルを求める。各固有値を次式(1)に代入して各主成分の累積寄与率Rを求める。(数1)T=Σλk R=Σ(λk/T) (λ1≧λ2≧・・・≧λp≧0,k→p)・・・(1) T:固有値の合計値、 R:累積寄与率、 λk:第k主成分の固有値 そして、低次の固有値から累積寄与率Rを計算していき、累積寄与率Rが所定値以上となる固有ベクトルのみを採用する。条件を満たした固有ベクトルの数を試料中の成分数に指定し、純スペクトル行列Kの行数とする。ところで、先述の所定値は試行錯誤により決定されることがある。なお、あらかじめ試料に含まれる成分数が分かっている場合は、上記計算で成分数を求めなくともよく、その成分数を行数とする。 次いで、採用した固有ベクトル(主成分スペクトル)を初期値として純スペクトル行列Kを設定する。固有ベクトルを求める方法としては、例えば、PCAにより混合スペクトル行列Aから固有値を求め、固有値を降順に並べ、固有値が大きい順に(つまり、低次の固有値から)成分数に相当する数の固有値を得る。次いで、それぞれの固有値をラグランジュ乗数法から導出される式(V−λI)Wn=0(V:共分散行列、λ:固有値、I:単位行列;(第n主成分))に代入して、主成分ごとに固有ベクトル(結合次数W)を算出していく(他の方法で固有ベクトルを求めてもよい)。各固有ベクトルを各成分の初期スペクトルデータとみなし、これを純スペクトル行列Kに入力し、純スペクトル行列Kの初期値とする(S14)。 このとき初期値の各要素には負の値をとるものもあるが、その絶対値をとり正の値として取り扱うことが好ましい。そうすることにより分離精度が上がることが経験的に分かっているためである。 なお、本実施形態では、純スペクトル行列Kの縦方向は、成分数に対応し、横方向は、スペクトルの波長方向に対応している(図4)。つまり、各成分の初期スペクトルデータは、純スペクトル行列Kの各行に代入される。ただし、混合スペクトル行列Aの縦方向が波長方向に対応し、横方向が測定位置に対応する場合は、純スペクトル行列Kの行と列とを転置させて、純スペクトル行列Kの横方向を成分数に対応させ、縦方向を波長方向に対応させるようにする。 このとき、あらかじめ試料中に含まれる混入成分のうち、予測できるものがある場合は入力部14(図2)からその成分名を入力する(S26)。また、試料を載置するスライドガラス等のスペクトルデータを純スペクトル行列Kに入れたい場合は、入力部14(図2)からスライドガラスの材質の成分名を入力する(S26)。 成分名が入力されると、スペクトルデータベース26(図2)で該当する標準スペクトルデータが検索される。そして、混合スペクトル行列Aに基づいて推定された純スペクトル行列Kの任意の行のスペクトルデータが、検索された標準スペクトルに置き換えられる(S14)。 次いで、S14の手順で得られた純スペクトル行列Kから濃度行列Cを求める(S16)。この濃度行列Cの横方向は、純スペクトル行列Kと同じ成分数に対応し、縦方向は、測定位置に対応している(図4)。つまり、濃度行列Cの各列は、各成分の濃度分布を表す。ただし、混合スペクトル行列Aの縦方向が波長方向に対応し、横方向が測定位置に対応する場合は、濃度行列Cの行と列とを転置させて、濃度行列Cの横方向を測定位置に対応させ、縦方向を成分数に対応させるようにする。 濃度行列Cを求める手順を説明する。混合スペクトル行列A、濃度行列C、純スペクトル行列Kの各行列の関係は、ランベルトベールの式を多成分、多波長(多波数)に拡張した以下の式で表わされる。まず、 A=CKより、AKT=C(KKT)が導かれ、さらに、 AKT(KKT)−1=CKKT(KKT)−1となる。よって、濃度行列Cは次式(2)で表される。(数2) C=AKT(KKT)−1 ・・・(2) 式(2)から濃度行列Cを求める。このとき濃度行列Cに負の要素があるときは、負の要素を0に置き換えるという拘束条件が適用される(S18)。 次いで、純スペクトル行列Kを一旦空白にし、濃度行列Cと混合スペクトル行列Aとを用いて次式(3)により純スペクトル行列Kを求める(S20)。(数3) K=(CTC)−1CTA ・・・(3) このとき、Kに負の要素があれば、負の要素を0に置き換えるという拘束条件が適用される(S22)。 本発明においては拘束条件として、これ以外に2つの条件を設定している。 まず、純スペクトル行列Kの推定時(S14)に、上述した通り、純スペクトル行列Kの任意の行のスペクトルデータを混入成分の標準スペクトルデータに置き換えている。そして、推定時に置換した行については、ループ処理のS20において純スペクトル行列Kが計算されたときにも、同一行のスペクトルデータが混入成分の標準スペクトルデータに置き換えられる(S22)。つまり、ループ処理時に混入成分の標準スペクトルデータを純スペクトル行列Kの拘束条件としている。 また、予め試料の混入成分が判明している場合であっても、純スペクトル行列Kの任意の行のスペクトルデータをその混入成分の標準スペクトルに置き換えないで、PCA等によって推定された純スペクトル行列Kをそのまま使ってループ処理を開始し、ループ処理の途中からその標準スペクトルを純スペクトル行列Kの拘束条件に使用してもよい。ループ処理の途中で、混入成分が判明した場合も、同様に、ループ処理の途中から拘束条件を適用してもよい。 もう一つの拘束条件は、純スペクトル行列Kの各行における要素の絶対値を足し合わせて総和を求め、同じ行の各要素をその総和で除算し、その行の要素の総和が1になるようにする。いわゆるノルムを揃えるのである。そうすることにより、ある行の絶対値が他の行の絶対値と比べて大きくなりすぎたり、小さくなりすぎたりするのを防ぐことが可能となる。 図3において濃度行列Cを一旦空白にし、純スペクトル行列Kと混合スペクトル行列Aとを用いて濃度行列Cを求め(S16)、拘束条件を適用する操作と(S18)、純スペクトル行列Kを一旦空白にして濃度行列Cと混合スペクトル行列Aとを用いて純スペクトル行列Kを求め(S20)、拘束条件を適用する操作(S22)を、終了条件(S28)を満たすまで繰り返す。これにより濃度行列Cと純スペクトル行列Kの各収束値を求める。 この終了条件としては濃度行列C及び純スペクトル行列Kの変動が十分に小さくなる条件が好ましい。例えば、S16〜S22までの処理を所定の回数(例えば100回)繰り返すことを終了条件としてもよい。 終了条件(S28)を適切に設定することによりノイズ行列Nにホワイトノイズが分離される。PCAによってノイズを除去する際は、高次の主成分を捨てた上でデータを再構築するので、有意な情報が損失されないよう留意する必要があったが、MCRによってノイズを除去する際は、全ての情報が利用されるので、有意な情報まで除去されることは少ない。 従来のPCAによるノイズ除去方法は、ノイズ成分と判断される固有ベクトルの数の見積もりが困難で、ノイズ以外の信号までも損失させる可能性がある。これに対して、本実施形態におけるMCR処理では、スペクトルを精度高く、濃度行列Cと純スペクトル行列Kに分離して、スペクトル行列の再構築によってノイズを除去するため、情報損失が少なくて済む。 (混合スペクトル行列の再構築) 混合スペクトル行列Aから混入成分のスペクトルデータを取り除いて、混合スペクトル行列Aを再構築する再構築部を設けてもよい。上述のようにループ処理し、純スペクトル行列K及び濃度行列Cを求めた後、混入成分に対応する純スペクトル行列Kの対応行、濃度行列Cの対応列をそれぞれ除去して純スペクトル行列K’、濃度行列C’を得る。それらを乗算することにより混合スペクトル行列Aが再構築され、混合スペクトル行列A’を得る(図5)。なお、ホワイトノイズはノイズ行列Nに分離されている。 (各成分の濃度分布図の表示) 濃度行列Cの各列が各成分の濃度分布を示しており、濃度行列Cを用いれば、各成分の濃度分布をモニタに分かりやすく表示することができる。 例えば、図6に示した濃度行列Cの列数が成分数となっており、濃度行列Cの一列目をA成分としたとき一列目はA成分の濃度分布となり、最終列をB成分としたとき最終列はB成分の濃度分布となる。濃度行列Cの縦方向が各測定位置に対応しているので濃度行列Cを用いれば、図6右欄のように試料面の測定位置ごとのA成分とB成分の濃度分布をモニタ上に表示できる。また、マッチング処理部28により、純スペクトル行列Kに含まれている該当成分の純スペクトルデータに相当する成分をスペクトルデータベース26から検索することにより、成分名を濃度分布と一緒に表示することができる。 (特徴的なピークについて) 成分(以下、特定成分)によっては他の成分がピークを示さない波長域にピーク(以下、特徴的なピーク)を示すことがある。スペクトルからその特徴的なピークを検出すれば、試料中に含まれる特定成分を認知できる。さらに、測定位置ごとにその特徴的なピークのピーク強度を測定することにより、その特定成分の濃度分布が得られる。 特定成分の濃度分布が得られたら、図3の混合スペクトル行列Aの計算(S12)の段階で、このようにして求めた特定成分の濃度分布と特定成分の標準スペクトルとを乗算し、特定成分のスペクトル行列を求め、混合スペクトル行列Aからその特定成分のスペクトル行列を差し引く処理を実行するとよい。 そうすることにより、混合スペクトル行列Aから特定成分のスペクトルデータを取り除くことができるのである。MCR処理を行う前にこのような前処理を行えば、より好適に分析できる。 (クロマトグラフィの測定への適用) 本発明はクロマトグラフィにも応用できる。クロマトグラフィにおいては、サンプル挿入からの時間経過に伴って溶出する試料の変化を測定する。溶出試料のスペクトルを測定することにより、溶出試料について各成分の濃度の時間変化を測定することができる。 本発明をクロマトグラフィで使用する場合、各行列を以下のように構成する。混合スペクトル行列Aについては、縦方向を測定時間に対応させ、横方向をスペクトルの波長方向に対応させる。つまり、測定時間ごとのスペクトルデータを混合スペクトル行列Aの各行に入力する。また、純スペクトル行列Kについては、縦方向を成分数に対応させ、横方向をスペクトルの波長方向に対応させる。濃度行列Cについては、縦方向を測定時間に対応させ、横方向を成分数に対応させる。後は、実施例1と同様の処理となる。マッピング測定と同様に処理することにより、各成分のスペクトルデータを示す純スペクトル行列Kが得られるとともに、各成分の濃度の時間変化を示す濃度行列Cが得られる。実施例1(5成分混合物を用いた分離精度) 実際に6成分(酸化チタン、アセトアミノフェン、ステアリン酸カルシウム、カフェイン、デンプン、アセチルサリチル酸)が混合した試料を用意し、ラマン分光測定により混合スペクトル行列Aを得て、MCR分析を行った。また純スペクトル行列Kの初期設定時の行数を6に設定した。 本実施例の測定対象成分は、酸化チタン、アセトアミノフェン、ステアリン酸カルシウム、カフェイン、デンプン、アセチルサリチル酸の6成分であるが、このうちデンプンについては予め試料中に含まれていると仮定している。参考として、各成分の標準スペクトルデータを図9に示す。そして、デンプンのスペクトルを純スペクトル行列Kの拘束条件に設定した場合(実施例1)と、拘束条件に設定しなかった場合(比較例1)とに分け、それぞれの場合で混合スペクトル行列Aの再構築を行った。結果として、いずれの場合でもホワイトノイズは有効に除去されたが、デンプンのスペクトルを拘束条件とした実施例1の方が、分析精度が高いものとなった。 その具体的な結果を、図7、図8を用いて説明する。図7は、実施例1の処理結果を示すもので、初期設定でデンプンを純スペクトル行列Kの拘束条件に設定してMCR分析し、分離後の6成分のそれぞれの純スペクトルを示したものである。デンプンの純スペクトルは標準スペクトルになっている。一方、図8は、比較例の処理結果を示すもので、拘束条件を設定せずにMCR分析し、分離後の6成分の純スペクトルを示したものである。両者の測定結果を比較したところ、図9の標準スペクトルと対比すれば明らかなように、前者の実施例1の方がアセトアミノフェンに係る純スペクトルのピーク波数が精度よく表れた。 具体的には、図7では、点線で囲んだ位置に760[cm-1]と2800−3200[cm-1]の波数域にアセトアミノフェンのピークが表れている。それに対して、図8では、同じ波数域にアセトアミノフェンのピークは表れておらず、代わりにデンプンの純スペクトルにおいて同じ波長域に本来現れないはずのピークが現れている。これはデンプンのピークが誤ってアセトアミノフェンに反映されたことによるものであると考えられる。これに対して、デンプンの拘束条件を設定した場合、ループ処理において純スペクトル行列Kを求めるたびにデンプンのピークがアセトアミノフェンに反映されないよう随時軌道修正がなされるため、スペクトルの分離精度が向上したものと考えられる。実施例2(スライドガラスに起因するスペクトルノイズの除去) 次に、スライドガラスに起因するスペクトルをスペクトルノイズとみなし、つまり、スライドガラスを混入成分とみなして、実施例1と同様に、スライドガラスの標準スペクトルデータを純スペクトル行列Kの拘束条件に用いてMCR分析を実施した。また、分離された純スペクトルを用いて混合スペクトルを再構築することにより、ホワイトノイズを除去した混合スペクトルを作成した。さらに、スライドガラス以外の成分の純スペクトルを用いて混合スペクトルを再構築することにより、スライドガラスのスペクトルを除去した混合スペクトルを作成した。 具体的には、デンプンとアクリルを混ぜた試料をスライドガラス上に置き、ラマン分光でマッピング測定を行った。未処理のマッピングデータの一部を図10に示す。6つの測定位置で得られた各スペクトルを縦方向に並べて示す。これらのスペクトルは、3つの成分(デンプン、アクリル、スライドガラス)の各ピークが混合した混合スペクトルである。また、MCRで分離した3つの純スペクトルを図11に示す。 図11に示すように、MCRで分離された各純スペクトルは、デンプン、アクリル及びスライドガラスの各標準スペクトルデータとよく一致した。次に、3成分の純スペクトル及び濃度データの全てを用いて、混合スペクトル(マッピングデータ)を再構築した結果を図12に示す。図10の未処理の混合スペクトルと比較して、再構築によって混合スペクトルからホワイトノイズが除去されていることが分かる。さらに、スライドガラス以外の2成分の純スペクトル及び濃度データを用いて、混合スペクトル(マッピングデータ)を再構築した結果を図13に示す。図11の混合スペクトルと比較して、スライドガラス起因の信号が小さくなり、スライドガラスのピークに隠されていたデンプンとアクリルのピークが明らかになっている。つまり、図13の混合スペクトルは、ホワイトノイズだけでなくスペクトルノイズも除去されていることが分かった。 以上の各実施例に示したように、スペクトルノイズとして、混入成分の標準スペクトルを拘束条件としておけば、他の純スペクトルにスペクトルノイズが干渉するのを防ぐことができるのである。 以上、本発明に係る方法ないし装置を用いてマッピングデータを処理すれば、スペクトルの分離精度が向上する結果、混入成分等の濃度分布が精度よく求められ、他成分の濃度分布の精度も向上される。同時にホワイトノイズの除去も確実になされる。さらに、測定対象の成分に係る純スペクトル行列Kの行又は列、及び、測定対象の成分に係る濃度行列Cの行又は列を残して、純スペクトル行列Kと濃度行列Cを乗算すれば、ノイズを除去された混合スペクトル行列Aを再構築することもできる。 10・・・MCR処理部 12・・・測定部(試料測定部) 14・・・入力部 16・・・混合スペクトルデータ演算部(混合スペクトル行列計算部) 18・・・純スペクトル行列初期値推定部(純スペクトル行列推定部) 20・・・濃度行列・純スペクトル行列記憶・演算部(ループ処理部) 22・・・画像出力部 24・・・画面 26・・・スペクトルデータベース 28・・・マッチング処理部 複数成分を含む試料の二次元若しくは三次元上の異なる測定位置ごとの、又は、複数成分を含む試料について測定時間ごとの、複数のスペクトルデータから混合スペクトル行列Aを求め、該混合スペクトル行列Aを多変量カーブ分解により純スペクトル行列K及び濃度行列Cに分解し、これら純スペクトル行列K及び濃度行列Cに基づいて前記スペクトルデータに含まれるノイズを除去する方法であって、 前記測定位置又は測定時間ごとに前記試料のスペクトルデータを得る試料測定工程と、 横方向を前記スペクトルデータの波長又は波数とし、縦方向を前記測定位置又は測定時間として、前記試料のスペクトルデータを行列成分とする前記混合スペクトル行列Aを形成する混合スペクトル行列計算工程と、 前記混合スペクトル行列Aから各成分のスペクトルデータを推定するとともに、横方向をスペクトルデータの波長又は波数とし、縦方向を前記試料の成分数として、推定された前記各成分のスペクトルデータを行列成分とする前記純スペクトル行列Kの初期値を形成する純スペクトル行列推定工程と、 横方向を前記試料の成分数とし、縦方向を前記測定位置又は測定時間として、前記試料の各成分の濃度データを行列成分とする前記濃度行列Cの初期値を形成するとともに、前記濃度行列C及び前記純スペクトル行列Kの収束値を求めるループ処理工程と、を備え、 前記ループ処理工程は、 前記混合スペクトル行列Aと前記純スペクトル行列Kからなる式(C=AKT(KKT)−1)より前記濃度行列Cを求め、該濃度行列Cの負の値をとる要素を0に置き換える濃度行列計算段階と、 前記混合スペクトル行列Aと前記濃度行列計算段階で得た濃度行列Cからなる式(K=(CTC)−1CTA)より純スペクトル行列Kを求め、該純スペクトル行列Kの負の値をとる要素を0に置き換える純スペクトル行列計算段階と、を有し、 前記濃度行列計算段階と前記純スペクトル行列計算段階とを交互に繰り返して、前記濃度行列C及び前記純スペクトル行列Kの収束値を得るとともに、 前記ループ処理の少なくとも途中から、前記純スペクトル行列計算段階において、計算された純スペクトル行列Kのいずれかの一定の行を、前記試料に含まれている成分の標準スペクトルデータと置換する処理を実行し、 前記ループ処理で得られた前記純スペクトル行列K及び前記濃度行列Cの収束値から、ノイズに該当する混入成分のスペクトルデータと濃度データを得て、前記試料のスペクトルデータからノイズを除去することを特徴とするノイズ除去方法。 請求項1記載のノイズ除去方法において、 前記純スペクトル行列推定工程は、形成された前記純スペクトル行列Kのいずれかの一定の行を、前記試料に含まれている成分の標準スペクトルデータと置換する処理を含み、 前記純スペクトル行列計算段階では、前記純スペクトル推定工程にて置換された行と同じ行を、前記試料に含まれている成分の標準スペクトルデータと置換することを特徴とするノイズ除去方法。 請求項1又は2に記載のノイズ除去方法において、 前記純スペクトル行列推定工程では、前記混合スペクトル行列Aを主成分分析して複数の固有ベクトルを求め、採用する固有ベクトルの数を前記純スペクトル行列Kの成分数に指定し、前記主成分分析による低次の固有ベクトルから昇順に前記成分数だけの固有ベクトルが各成分のスペクトルデータであると推定することを特徴とするノイズ除去方法。 請求項3記載のノイズ除去方法において、 前記純スペクトル行列推定工程にて、前記複数の固有ベクトルを高次から順に並べて、低次の固有ベクトルから順に累積寄与率を算出し、該累積寄与率をもとに前記純スペクトル行列Kの成分数を決定することを特徴とするノイズ除去方法。 請求項1〜4のいずれかに記載のノイズ除去方法において、 前記混合スペクトル行列計算工程にて、他の成分がピークを示さない波長域においてピークを示すような特定成分のピーク強度を前記測定位置又は測定時間ごとに測定し、該ピーク強度に基づき前記特定成分の濃度分布又は濃度変化を求め、該濃度分布又は濃度変化と該特定成分の標準スペクトルデータとから該特定成分のスペクトルデータ行列を得、前記混合スペクトル行列Aから該特定成分のスペクトルデータ行列を差し引く処理を行うことを特徴とするノイズ除去方法。 請求項1〜5のいずれかに記載のノイズ除去方法は、 前記純スペクトル行列Kの収束値から前記混入成分に対応する行を除去して純スペクトル行列K’とし、前記濃度行列Cの収束値から前記混入成分に対応する列を除去して濃度行列C’とし、前記純スペクトル行列K’と前記濃度行列C’とを乗算することにより、混合スペクトル行列Aを再構築する再構築工程を備えることを特徴とするノイズ除去方法。 請求項1〜6のいずれかに記載のノイズ除去方法において、 前記試料測定工程は、試料表面をマッピング測定するものであり、前記試料上の各測定位置をスペクトル測定することを特徴とするノイズ除去方法。 請求項1〜6のいずれかに記載のノイズ除去方法において、 前記試料測定工程は、クロマトグラフィによる測定であり、測定時間ごとに溶出試料のスペクトルを測定することを特徴とするノイズ除去方法。 複数成分を含む試料の二次元若しくは三次元上の異なる測定位置ごとの、又は、複数成分を含む試料について測定時間ごとの、複数のスペクトルデータから混合スペクトル行列Aを求め、該混合スペクトル行列Aを多変量カーブ分解により純スペクトル行列K及び濃度行列Cに分解し、これら純スペクトル行列K及び濃度行列Cに基づいて前記スペクトルデータに含まれるノイズを除去する装置であって、 前記測定位置又は測定時間ごとに前記試料のスペクトルデータを得る試料測定部と、 横方向を前記スペクトルデータの波長又は波数とし、縦方向を前記測定位置又は測定時間として、前記試料のスペクトルデータを行列成分とする前記混合スペクトル行列Aを形成する混合スペクトル行列計算部と、 前記混合スペクトル行列Aから各成分のスペクトルデータを推定するとともに、横方向をスペクトルデータの波長又は波数とし、縦方向を前記試料の成分数として、推定された前記各成分のスペクトルデータを行列成分とする前記純スペクトル行列Kの初期値を形成する純スペクトル行列推定部と、 複数成分の標準スペクトルデータを記憶しているスペクトルデータベースと、 横方向を前記試料の成分数とし、縦方向を前記測定位置又は測定時間として、前記試料の各成分の濃度データを行列成分とする前記濃度行列Cの初期値を形成するとともに、前記濃度行列C及び前記純スペクトル行列Kの収束値を求めるループ処理部と、を備え、 前記ループ処理部は、 前記混合スペクトル行列Aと前記純スペクトル行列Kからなる式(C=AKT(KKT)−1)より濃度行列Cを求め、該濃度行列Cの負の値をとる要素を0に置きかえる濃度行列計算部と、 前記混合スペクトル行列Aと前記濃度行列計算部で得た濃度行列Cからなる式(K=(CTC)−1CTA)より純スペクトル行列Kを求め、該純スペクトル行列Kの負の値をとる要素を0に置きかえる純スペクトル行列計算部と、を有し、 前記濃度行列計算部での濃度行列Cの計算と、前記純スペクトル行列計算部での純スペクトル行列Kの計算と、を交互に繰り返して、前記濃度行列C及び前記純スペクトル行列Kの収束値を得るとともに、 前記純スペクトル行列計算部は、前記試料に含まれる成分の標準スペクトルデータを前記スペクトルデータベースから選択し、前記ループ処理部の繰り返し計算の少なくとも途中から、計算された純スペクトル行列Kのいずれかの一定の行を、選択した前記標準スペクトルデータと置換する処理を実行し、 前記ループ処理部によって計算された前記純スペクトル行列K及び前記濃度行列Cの収束値から、ノイズに該当する混入成分のスペクトルデータと濃度データを得て、前記試料のスペクトルデータからノイズを除去することを特徴とするノイズ除去装置。 請求項9記載のノイズ除去装置において、 前記純スペクトル行列推定部は、前記試料に含まれる成分の標準スペクトルデータを前記スペクトルデータベースから選択し、形成された前記純スペクトル行列Kのいずれかの一定の行を、選択した前記標準スペクトルデータと置換する処理を行ない、 前記純スペクトル行列計算部は、前記純スペクトル推定部にて置換された行と同じ行を、選択した前記標準スペクトルデータと置換することを特徴とするノイズ除去装置。 請求項9又は10記載のノイズ除去装置において、 前記純スペクトル行列推定部は、前記混合スペクトル行列Aを主成分分析して複数の固有ベクトルを求め、採用する固有ベクトルの数を前記純スペクトル行列Kの成分数に指定し、前記主成分分析による低次の固有ベクトルから昇順に前記成分数だけの固有ベクトルが各成分のスペクトルデータであると推定することを特徴とするノイズ除去装置。 請求項11記載のノイズ除去装置において、 前記純スペクトル行列推定部は、前記複数の固有ベクトルを高次から順に並べて、低次の固有ベクトルから順に累積寄与率を算出し、該累積寄与率をもとに前記純スペクトル行列Kの成分数を決定することを特徴とするノイズ除去装置。 請求項9〜12のいずれかに記載のノイズ除去装置は、さらに、 前記スペクトルデータベースから前記純スペクトル行列Kの行に含まれているスペクトルデータに対応する標準スペクトルデータを検索するマッチング処理部を備え、 前記マッチング処理部は、前記純スペクトル行列Kの収束値の行に含まれているスペクトルデータを、前記スペクトルデータベースでマッチング処理することにより、対応する成分を同定することを特徴とするノイズ除去装置。 請求項13記載のノイズ除去装置は、さらに、 前記マッチング処理部によって同定された成分、及び、該成分についての前記濃度行列Cの収束値に含まれている濃度データに基づく濃度分布又は濃度変化、を表示する画面部を備えていることを特徴とするノイズ除去装置。 請求項9〜14のいずれかに記載のノイズ除去装置において、 前記混合スペクトル行列計算部は、他の成分がピークを示さない波長域においてピークを示すような特定成分のピーク強度を前記測定位置又は測定時間ごとに測定し、該ピーク強度に基づき前記特定性分の濃度分布又は濃度変化を求め、該濃度分布又は濃度変化と該特定成分の標準スペクトルデータとから該特定成分のスペクトルデータ行列を得、前記混合スペクトル行列Aから該特定成分のスペクトルデータ行列を差し引く処理を行うことを特徴とするノイズ除去装置。 請求項9〜15のいずれかに記載のノイズ除去装置は、 前記純スペクトル行列K及び濃度行列Cの各収束値を用いて混合スペクトル行列Aを再構築する再構築部を備え、 前記再構築部は、前記純スペクトル行列Kの収束値から前記混入成分に対応する行を除去して純スペクトル行列K’とし、前記濃度行列Cの収束値から前記混入成分に対応する列を除去して濃度行列C’とし、前記純スペクトル行列K’と前記濃度行列C’とを乗算することにより、混合スペクトル行列Aを再構築することを特徴とするノイズ除去装置。 【課題】多変量カーブ分解(MCR)を用いて、試料のスペクトルデータから、有意な情報が除去されることなく、ノイズを除去する方法、及び、その装置を提供すること。【解決手段】試料のスペクトルデータに基づいて混合スペクトル行列Aを形成し、PCA処理を施して各成分のスペクトルデータを推定し、純スペクトル行列Kの初期値を設定する。各成分の濃度分布を行列成分とする濃度行列Cの初期値を設定する。式(C=AKT(KKT)−1)による行列Cの計算と、計算された行列Cを使った式(K=(CTC)−1CTA)による行列Kの計算を、交互に繰り返すループ処理をして、各収束値を得る。ループ処理の少なくとも途中から、計算された行列Kのいずれかの一定の行を、判明している成分の標準スペクトルと置換する。行列Kと行列Cの収束値から、ノイズに該当するスペクトルデータと濃度データを得て、試料のスペクトルデータからノイズを除去する。【選択図】図3


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