タイトル: | 公開特許公報(A)_オイルパーム蒸留酒の製造法 |
出願番号: | 2013015166 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | C12G 3/12,C13B 5/00,C13B 10/00 |
阿部 利彦 八島 芳信 森 仁 阿部 智幸 浅海 晃一 野副 昌子 栗原 一典 JP 2014143963 公開特許公報(A) 20140814 2013015166 20130130 オイルパーム蒸留酒の製造法 日本素材株式会社 592200338 日本パーム株式会社 507323673 阿部 利彦 八島 芳信 森 仁 阿部 智幸 浅海 晃一 野副 昌子 栗原 一典 C12G 3/12 20060101AFI20140718BHJP C13B 5/00 20110101ALI20140718BHJP C13B 10/00 20110101ALI20140718BHJP JPC12G3/12C13B5/00C13B10/00 5 1 OL 7 4B015 4B015NB02 4B015NG04 4B015NG17 4B015NP01 本発明は、利用価値が少ないオイルパーム古木の樹幹に多量に含まれる樹液から、風味の良い蒸留酒を造る樹液の処理技術と、劣化を防ぎながら効率的に樹液を採集する方法に関する。 果実からのパーム油採取を目的として、オイルパーム(油ヤシ)は、マレーシア、インドネシアをはじめとする世界各国で多量に栽培されている。オイルパームは樹齢20年を過ぎると樹勢が衰えるとともに、樹高が増して果実の採取が困難になるので、伐採して植え替えられる。これらの植え替えは計画的に行われており、例えばマレーシアでは年間1500万トンのオイルパーム古木が伐採されている。これら伐採された木の大部分は放置され腐敗(メタン発酵)して肥料となるが、二酸化炭素の40倍の温暖化作用を有するメタンガスを大量に放出することが世界的な環境問題となっている。 パーム油は果実を蒸気で加熱した後、粉砕・圧縮して採取される。油を絞った残りの殻と、果実を包んでいた房(繊維)はよく燃えるので燃料として用いられる。一方、オイルパームの樹幹は柔らかくて水分が多いので、伐採材のごく一部のみが合板の製造に使用されているに過ぎない。このように伐採されたオイルパーム古木の大部分は用途がなく、倒木あるいはそれらを切り刻んだ状態で放置される状態が続いており、その有効な用途開発が求められている。 オイルパーム樹幹が低強度で、かつ腐敗しやすい原因は含水率が高いことによるので、その豊富な樹液に着目した研究がなされた。非特許文献1はオイルパームの樹幹が多量のデンプンやグルコース(ブドウ糖)を含むことを示している。この文献によれば乾燥したオイルパーム樹幹の25%を占める柔組織は、重量比56%のデンプンと22%の糖を含み、同じく乾燥した繊維組織(75%を占める)は20%のデンプンと80%の糖を含むとしている。従って、デンプンと糖を多量に含む樹液を樹幹から効率よく採取できるならば、麹や酵母、あるいは酵素によって解糖と発酵を行うことにより、容易にエタノールを得ることができる、特許文献1はオイルパーム樹液を微生物発酵させて燃料用エタノールと乳酸を得る方法である。特許文献1によれば採取した樹液は6.5%の糖(グルコース)を含み、この液を発酵させることで3%のエタノールを得ている。理論的には発酵によってグルコースの51%のエタノールが得られるので、特許文献1の方法は効率良く発酵が行われたことがわかる。また特許文献2はヤシ科植物の圧搾液をアミラーゼ処理した後、発酵処理によって木質系バイオマスとしてバイオエタノールを得る方法である。特許文献3はサゴヤシを粉砕して酵素を加えて液化し、これを細菌か酵母で発酵させてエタノールを得る方法である。 以上の特許資料はいずれも、ヤシの樹液を原料として発酵によってバイオエタノールを得る方法に関するものあって、発明の目的は燃料用のバイオエタノールを得ることである。日本や欧米はガソリンに一定量のエタノールを添加することが義務化されている。一方、マレーシア、インドネシアなどのパーム油生産国は石油、天然ガスの産出国でもあるので、ガソリンへのエタノール添加は義務化されていない。このために交通機関用バイオ燃料としてはエタノールよりも、パーム油由来のバイオジーゼル燃料の普及促進がなされている。例えばマレーシアでは5%まで軽油へのバイオジーゼル燃料の添加が認められており2007年は12万トンのバイオジーゼル燃料が生産されている。Chemical Characteristics of Oil Palm Trunks,農林総研研報No.362(1992)p133−142特開2008−178355特開2009−112246特開2007−195406現在、パーム油の用途の90%は食用油、ショートニング、クリームなどの食品関連製品であり、残り10%はせっけん、化粧品など食用以外の用途である。このようにオイルパームは食品関連産業と関係が深いので、食に関連する製品としてオイルパーム樹液から蒸留酒を製造する可能性を検討した。現在、マレーシアではパームワイン(商標)Palm Wineが製造販売されている。これはココナッツの果汁を発酵させた、白濁した醸造酒(いわゆる「やし酒」)であって、アルコール度数が低く甘酒に近い飲料である。この商品は生産地の嗜好に合わせたジュースと酒の中間的な性格の飲料であって、国際的な競争力を有する商品とすることは難しい。そこでオイルパーム樹液関連製品として、樹液を原料としてアルコール濃度と風味が高い、高品質な蒸留酒を製造することを検討した。消毒用のエタノールや工業用純エタノールは無味無臭に近く、酒としての風味が備わっていない。従って、これらのエタノールを水で薄めても酒としての飲用に全く適しないことは良く知られている。また、昔の合成酒の原料や、あるいは現在も安価な酒の増量材として醸造エタノールが添加されている。しかし醸造エタノールの添加によって酒の味や風味が良くなる、あるいは、高級感が増すということもない。このように酒とエタノールはエタノールの濃度が違うだけではなく、何よりも風味が全く異なる製品である。 オイルパーム樹液を発酵させると3%程度のエタノールを含む蒸留用原液ができる。このようにエタノール濃度が低い原液から高濃度のエタノールを抽出するには蒸留を繰り返すか、あるいは連続蒸留法を用いる必要がある。後者の方法は蒸留によってエタノールの濃度が増した蒸留液の一部を原液に戻し、この過程を繰り返すことによって高濃度のエタノールを得る蒸留法である。しかしながら、オイルパーム樹液を原料として、このような一般的な製法で発酵と蒸留を行ったエタノールは酒としての風味が全く備わっていなかった。その原因として、連続法で繰り返して蒸留される過程でエタノールの純度が上がり、芳香や風味の元となる物質が失われたことが考えられる。蒸留酒には連続蒸留法で作られる焼酎やウオッカのように、酒としての風味を有するが無味無臭に近い酒と、単式蒸留法で作られる泡盛やジンのように、特有の強い芳香と風味を有する酒がある。オイルパーム樹液を原料とする蒸留酒として、その特徴を出すには後者のように芳香と風味の強い酒を製造することが望ましい。我々は、その製造方法について鋭意研究を繰り返し、オイルパーム樹液から、香りが高く風味が強い蒸留酒の製造を開発することに成功し、本発明をなすに到った。 以上の課題に鑑み、本願発明は、以下の技術を用いて上記の課題を解決した。 オイルパーム(油やし)の樹液を強く加熱することによりデンプンの一部を糖分に分解し、同時に加熱蒸発によって樹液の糖分と芳香成分を濃縮した後に、アルコール発酵させる。自然界に存在するデンプンはβデンプンであるが、加熱すると消化しやすいαデンプンに変化する。また、バイ(火偏の倍)焼酒のように加熱によってデンプンを発酵原料としてエタノール発酵に供することができる。このように加熱濃縮して発酵させた樹液を蒸留することにより、アルコール度数が高く芳香を有するオイルパーム蒸留酒を製造する。加熱濃縮の過程で雑菌が死滅するので、風味を低減する不必要な発酵が抑えられる。また、加熱によって水分が蒸発し樹液の糖分濃度が増す結果、生成するエタノール濃度と、併せて、芳香と風味の元となる物質の濃度を増すことができる。 加熱によるパーム樹液の濃縮率(元の体積/加熱後の体積)を2から6の範囲内とする。濃縮率が2以下の場合は加熱による殺菌効果だけが現れて濃縮の効果は少ない。また、濃縮率が6以上となると濃縮樹液の粘性が大きくなりすぎるので、蒸留過程の障害となる。望ましい濃縮率は3から5の範囲にある。この濃度に樹液を濃縮すると発酵後のエタノール濃度は9〜15%まで高くなる。 加熱によって上記の範囲に濃縮したオイルパーム樹液を発酵させた後、単式蒸留によって蒸留する。蒸留温度と時間を適切に調整することで、エタノールを26%から50%の任意の範囲で含む蒸留酒が得られる。 樹液の採取は特許文献1、3のように樹幹を細かく粉砕すると収率は増すが、余分なエネルギーと時間が必要なこと、酸化により風味成分が失われる問題がある。また特許文献2のように圧搾する方法では収率が悪い。本発明の方法は、切断し樹皮を除いたオイルパーム樹幹を回転させながら、刃物で連続的に薄板にスライス加工する。スライスした薄板を引き続き圧延すると新鮮な樹液が搾り出される。スライス工程と圧延工程を連続させることによって、樹液の劣化を防止して新鮮な樹液を採取できる。 スライス加工したオイルパーム薄板から樹液を効率よく採取するためには、圧延を繰り返す必要がある。一組のローラーを有する圧延装置の場合は、スライスした薄板を何度も繰り返して圧延する必要があるが、複数組のローラーを備えた多段ロール圧延法によれば一工程の圧延で90%以上の樹液を採取することができる。 本発明は、オイルパーム樹幹に含まれる樹液を短時間で収率良く採取し、これを加熱濃縮後に発酵する。この結果、風味成分とエタノール含有率の高い蒸留原液が得られる。この液を単式蒸留して香りが良く、高い風味のオイルパーム酒を得る。また、切削・圧延によって樹液を採取した残りの薄板は繊維樹液が少なく、繊維の含有率が高いので高強度合板が製造できるので資源の有効利用に繋がるという利点を有する。オイルパーム樹幹をスライスした薄板を連続圧延して樹液を採取する装置4倍の濃度に加熱濃縮・発酵させたオイルパーム樹液1.2kgを蒸留した時の蒸留時間による滴下した酒の量、エタノール含有率、エタノール量の変化 以下、図1によって本発明を実施するための形態を説明する。直径40cmのオイルパーム樹幹1を長さ約1mに切断して樹皮を取り除いた。これを60rpmで回転させながら切削刃物2によって直径が20cmになるまで厚さ6mmの連続する薄板3にスライスした。スライスした薄板3はガイドローラー4によって多段圧延ローラー5に導かれる。スライスした薄板は多段圧延ローラー5を通す間に樹液が搾り出され、樹液受け7を介して容器8に集められる。樹液を取った薄板6は合板の製造に用いる。 次に、本願発明の詳細を実施例に基づいて説明する。なお、この実施例は当業者の理解を容易にするためのものである。すなわち、本願発明は明細書の全体に記載される技術思想によってのみ限定されるものであり、本実施例によってのみ限定されるものでないことは理解されるべきことである。図1の方法でオイルパーム樹幹2m分をスライスし、連続圧延することによって10kgの樹液が得られた。この樹液から8kgを分けて2kgになるまで加熱濃縮した(濃縮率は4)。この濃縮樹液に酵母を添加して室温(約30℃)で放置すると1日後には盛んに泡を発生してエタノール発酵が進行していることが分かった。5日後に濃縮樹液のエタノール濃度は12%に達したので、発酵液1.2kgを蒸留装置に移して加熱した。蒸留装置の凝縮器に毎分20リットルの水道水を流しながら、凝縮器入り口温度を観察した。この温度が70℃になると芳香の強いオイルパーム酒の滴下が始まった。エタノール濃度は一定体積の重量から検量線によって求めた。加熱開始12分間に滴下したオイルパーム酒の量は55.2gでありそのエタノール濃度は50%であった。次の15分間で59.0g滴下して濃度は48%であり、次の15分間で67.9gが滴下し、濃度は43%であった。この間、凝縮器入り口温度は81℃を中心に1〜2℃上下した。次の15分間に蒸留器入り口温度は85℃に上昇し、滴下量は57.7g、濃度46%であった。次第に滴下量が減り、ガスの火力を強めると凝縮器入り口温度は94℃に上昇し、最後の15分間で53.6g滴下して濃度は26%に低減した。ここで蒸留を停止した。 4倍に濃縮して発酵させた樹液1.2kgから採集できたオイルパーム蒸留酒は293.4gであり、この中のエタノール濃度は43%であった。蒸留直後のオイルパーム蒸留酒は強い芳香を放ち、熟成前ではあるが商品化するのに問題ない良い味であった。 4倍に濃縮して発酵させた樹液1.2kgの蒸留時間と酒量、酒のエタノール濃度、エタノール量の関係を図2に示す。図2から蒸留速度を増すとエタノール含有率が低下することと、エタノール含有率が45%の蒸留酒を作る場合の蒸留時間は一時間程度であることが分かる。 加熱濃縮しないオイルパーム樹液2kgに酵母を添加して、室温に放置したところ、5日後のエタノール濃度は3%に達した。蒸留装置に移して加熱した。加熱開始17分後、凝縮器入り口温度が84℃の時に、エタノールの滴下が開始した。14分間で100.7g滴下して、その濃度は11%であった。さらに11分後に65.6gが滴下してその濃度は8%に低下した。得られた蒸留液はエタノール濃度が低いので、このままでは酒には適しなかった。そこで蒸留を3回繰り返すことによってエタノール濃度が41%である蒸留液120gを得た。 樹液をそのまま発酵させて、蒸留を3回繰り返して得た蒸留液はエタノール濃度が41%であって実施例1のオイルパーム酒(43%)とほぼ同じであった。しかし、芳香は著しく劣っていた。その理由として、(1)蒸留を3回繰り返したために芳香成分が失われたことと、(2)オイルパームの樹液を加熱しないで発酵させたために、雑菌が増殖して風味を落とす成分が混入していた可能性が考えられる。 1 オイルパーム樹幹 2 切削刃物 3 スライスした薄板 4 ガイドローラー 5 多段圧延ローラー 6 樹液を取った薄板 7 樹液受け 8 容器 オイルパーム(油やし)樹幹の樹液を煮沸することによりデンプンの一部を糖分に分解し、同時に進行する加熱蒸発によって樹液の糖分と芳香成分を濃縮した後、これをアルコール発酵させ蒸留することを特徴とするオイルパーム蒸留酒の製造方法。 加熱によるオイルパーム樹液の濃縮率(元の体積/加熱後の体積)が2から6であることを特徴とする請求項1に記載のオイルパーム蒸留酒の製造方法。 濃縮して発酵させた樹液に含まれる芳香成分を、単式蒸留することを特徴とする請求項1に記載のオイルパーム蒸留酒の製造方法。 切断し樹皮を除いたオイルパーム樹幹を回転させながら、刃物で連続的に薄板にスライス加工するとともに、その薄板を引き続き圧延することにより樹液を採取することを特徴とするオイルパーム樹幹からの樹液の採取方法。 スライス加工したオイルパーム薄板の圧延法が連続する多段圧延であって、スライス加工した薄板から繰り返し樹液を採取することを特徴とする請求項4記載の樹液の採取方法。 【課題】オイルパーム樹液を原料として、風味と味の優れた蒸留酒を造る。【解決手段】オイルパーム(油やし)樹幹の樹液を煮沸することによりデンプンの一部を糖分に分解し、同時に進行する加熱蒸発によって樹液の糖分と芳香成分を濃縮した後、これをアルコール発酵させて蒸留することにより、芳香を有しアルコール濃度が高いオイルパーム蒸留酒を製造する。また、この蒸留酒の原料となる樹液は、切断し樹皮を除いたオイルパーム樹幹を回転させながら、刃物で連続的に薄板にスライス加工するとともに、その薄板を引き続き圧延することにより、劣化を防ぎながら採取することができる。【選択図】図1