タイトル: | 公開特許公報(A)_電子染色剤及びその製造方法並びに電子染色法 |
出願番号: | 2013006254 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | G01N 1/30,G01N 1/28 |
百生 秀人 山崎 孝則 JP 2014137293 公開特許公報(A) 20140728 2013006254 20130117 電子染色剤及びその製造方法並びに電子染色法 日立金属株式会社 000005083 絹谷 信雄 100068021 百生 秀人 山崎 孝則 G01N 1/30 20060101AFI20140701BHJP G01N 1/28 20060101ALI20140701BHJP JPG01N1/30G01N1/28 F 6 1 OL 8 2G052 2G052AA18 2G052AD52 2G052EB01 2G052GA33 本発明は、ポリマー材料を電子顕微鏡で観察する際に、そのポリマー材料を電子染色するための電子染色剤及びその製造方法並びに電子染色法に関するものである。 ポリマー材料の特性にはその内部の相分離構造や微細構造が影響する場合があり、その構造の観察の手法について解説された文献例として非特許文献1を示す。非特許文献1には、ポリマー材料の微細構造を電子顕微鏡で観察する際の試料前処理として、電子染色の手法が記載されている。 これは多くのポリマー材料が基本的にはC,H,N,Oなどの軽元素で構成され、そのまま電子顕微鏡観察しても十分なコントラストの像が得にくいため、ポリマー材料の特定相や微細構造の特定部に重元素を反応、または沈着させ、その部位の電子線散乱能を相対的に増大させ、コントラストを得る方法である。また、こうした電子染色処理により、ポリマー材料の分子鎖が固定化されることにより、高強度化し、薄片加工が容易になったり、電子線照射時のダメージが軽減する効果も期待される。 電子染色剤には様々なものがあるが、気相でポリマー材料と反応させる代表的な電子染色剤として四酸化オスミウムと四酸化ルテニウムがある。四酸化オスミウムは主として脂肪族の二重結合との反応性が選択的に高く、四酸化ルテニウムはその酸化能から多くのポリオレフィンと反応する。 これらの過酸化物は沸点は室温以上であるが、昇華性があるため、室温で蒸気の形で試料と反応する。このため、保存は低温でなされる。また、これらは水への溶解度が非常に高いため、水溶液のアンプルの形でも販売されている。ただし、固体の形で使用した方が蒸気濃度が高く、反応効率の点で有利である。 固体の四酸化ルテニウムでポリマー材料を染色する場合には、容器内に電子染色したいポリマー材料と凍結した四酸化ルテニウムの欠片を入れ、密封し、凍結した四酸化ルテニウムの欠片が昇華し、その昇華したガスがポリマー材料に反応した後、試料を取り出す。四酸化ルテニウムの量、取り出すまでの時間は試料の反応性、染色の程度を勘案して調整する。なお、四酸化ルテニウムの蒸気は人体組織(眼、喉などの粘膜、皮膚)に対しても速やかに作用し、非常に危険であるため、これらの電子染色作業は保護具(手袋、マスク、ゴーグルなど)を着用の上、局所排気設備の中で行うものである。特開2005−308505号公報ポリマーABCハンドブック,エヌ・ティー・エス(2001)172−176頁 ところで、四酸化ルテニウムが比較的大きな結晶形状をしていれば、容器(ガラスなど)から薬匙やピンセットで取り出すことが比較的容易である。しかし、四酸化ルテニウムの融点は25.5℃、四酸化オスミウムの融点は40.6℃と低く、常温で融解するため、一旦融解後に再び凍結すると、容器の底で薄く広がり、一塊になる。 この融解は、常温下での採取に手間取っている間に容器の温度が上がったり、あるいは冷凍保管に用いた冷凍装置が停電したりすることで容易に起き得る。 そうなると、容器内の四酸化ルテニウムを取り出すために、融解して固まった四酸化ルテニウムを削ったり、穿ったりする必要がある。局所排気設備の中で手袋をしてそうした作業を行うのは手間であり、時間が掛かれば手袋を通して熱が伝わり、四酸化ルテニウムの昇華が始まるので、危険でもある。また、四酸化ルテニウムより融点は高いものの、四酸化オスミウムについても同様の問題がある。 このように、四酸化ルテニウムなどの電子染色剤は、室温近辺で融解、昇華する性質から管理や取り扱いが面倒である。 そこで本発明の目的は、上記課題を解決し、作業性、安全性のより高い電子染色剤及びその製造方法並びに電子染色法を提供することにある。 上記目的を達成するために本発明の電子染色剤は、ポリマー材料に金属過酸化物の蒸気を接触させて電子染色する電子染色剤において、無機酸化物からなる多孔質体内の孔中に、前記金属過酸化物を保持させたものである。 前記多孔質体が、酸性酸化物からなることが好ましい。 前記多孔質体が、2〜50μmの孔径を有することが好ましい。 前記金属過酸化物が、四酸化ルテニウムや四酸化オスミウムからなることが好ましい。 また本発明の電子染色剤の製造方法は、ポリマーに金属過酸化物の蒸気を接触させて電子染色する電子染色剤の製造方法において、前記金属過酸化物を蒸気にして無機酸化物からなる多孔質体内の孔内に吸着させると共にこれを孔内で凝固させて保持させたものである。 本発明の電子染色法は、上記に記載の電子染色剤を用い、その電子染色剤の多孔質体内に保持した金属過酸化物を蒸気化し、この蒸気化した金属過酸化物をポリマーに反応或いは沈着させて電子染色するようにしたものである。 本発明は、取り扱い性の良い電子染色剤が提供され、ポリマー材料の電子顕微鏡による相構造解析のための前処理である電子染色の作業効率、安全性が向上するという優れた効果を発揮する。本発明の一実施の形態を示す図である。本発明の他の実施の形態を示す図である。 以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。 発明者らは電子染色剤の化学反応性、温度特性に鑑み、以下の方法により電子染色剤をピンセットや薬匙で取り扱い易い形態に加工することを発明し、有効であることを見出した。 すなわち、本発明は、シリカゲル、メソポーラスシリカなどの無機酸化物からなり、粒や粉、或いは板からなる形状の多孔質体内の孔中に、電子染色の蒸気源となる金属過酸化物を保持させたものである。 無機酸化物からなる多孔質体としては、特に過酸化物を形成しない酸性酸化物であるシリカゲルやメソポーラスシリカが好ましく、金属過酸化物としては、四酸化ルテニウムや四酸化オスミウムが好ましい。 通常、電子染色剤として使用される四酸化ルテニウムは、酸化力が強いため、ポリマー材料を酸化させ、化学反応を生させるが、既に酸化物になっているシリカなどの無機酸化物を、更に酸化する酸化力はないため、シリカガラス容器に保管されている。また、四酸化ルテニウムの蒸気は酸性ガスであるが、シリカは酸性酸化物であるため、アルカリに弱いが、酸には強い。シリカは製法により、内部に多くの孔を有するシリカゲルを作製することができる。 そこで、本発明では、四酸化ルテニウムのガス中に多孔質体としてのシリカゲルを入れ、表面や内部の孔の中に四酸化ルテニウムを吸着あるいは凝集させて保持することにより、表面や内部に四酸化ルテニウムを含んだシリカゲルで電子染色剤とするものである。 この四酸化ルテニウムを含んだシリカゲルからなる本発明の電子染色剤を冷凍保存しておき、これを常温に放置すれば、昇温と共にシリカゲル表面や内部の孔から四酸化ルテニウムの蒸気が発生し、四酸化ルテニウムの結晶と同じように電子染色作業が実施できる。 この本発明の電子染色剤は、昇温によりシリカゲルの表面、内部に保持された四酸化ルテニウムが、液化・昇華するが、再冷却の際に内部の孔に再び吸着するので、容器底に全てがこびり付く四酸化ルテニウム単独の形態より、ピンセットや薬匙で取り扱い易い形態を維持することができる。 多孔質体としてのシリカゲルの孔径は2〜50μmが好ましい。 シリカゲルは、製法により孔の寸法が異なる。 孔が小さ過ぎると凝集した四酸化ルテニウムで孔の入り口が塞がり易く、内部に四酸化ルテニウムが完璧には入りきらない可能性がある。シリカゲルの一種であるゼオライトは孔径が0.5〜2nmと非常に小さいので、四酸化ルテニウムを吸収させる際に早々と孔を塞がないよう吸着速度に注意を要する。 逆に孔が大き過ぎると、温度が上がった時に液体状の四酸化ルテニウムの多くがシリカゲルの外に流れ出してしまう。流れ出た四酸化ルテニウムが再凍結でシリカゲル同士を固着させると作業性が悪くなる。しかし、孔のサイズが数10nm程度と適度に小さければ、毛管現象により孔から流れにくくなるため、孔径は1μm以上100μm以下の範囲がよい。 メソポーラスシリカと呼ばれるシリカゲルは、孔径が2〜50nmと適当であり、メソポーラスシリカに四酸化ルテニウム蒸気を吸着させることにより良好な電子染色剤となる。 なお、メソポーラスシリカを製造する技術については例えば特開2011−162391号公報に記載されており、細孔容量1.0cm3/g以上、BET比表面積500m2/g以上のメソポーラスシリカの製法が記されている。 乾燥剤用途の塊状のシリカゲルは一般にゼオライトであり、内部に四酸化ルテニウムを大量に吸着させるためには、前記のようにゆっくり行うと良い。粒が比較的大きいためピンセットでも取り扱うことができ、作業性が良い。なお、吸湿の程度をモニタするために塩化コバルトを添加したシリカゲル(乾燥時:青色、吸湿時:ピンク色)もあるが、本目的に対しては塩化コバルトを含まない無色のシリカゲルを用いる。 メソポーラスシリカは市販品は粉状が多く、高速液体クロマトのカラム充填剤などの用途に用いられている。粉状の為、薬匙で取り扱うと良い。 次に、図1を用いて本発明の電子染色剤の製造方法の一例を説明する。 密閉可能な容器1の底にシリカゲル等の多孔質体の粒2を入れ、底部を寒剤3で冷却する。寒剤として氷単独では、0℃であるが、食塩を併用すれば最低で−21℃まで下がる。冷却手段には寒剤でなく、ペルチェ素子などを用いても良い。低温にするほど四酸化ルテニウムの析出の速度は上がるが、あまり析出速度が大き過ぎると内部に拡散する前に孔の入り口側で析出した四酸化ルテニウムが孔を塞いで含有量が少なくなるので、シリカゲルを摂氏0度前後に制御するのが望ましい。四酸化ルテニウムの蒸気圧は摂氏5度以上から大きくなるので、少なくともこの温度以下にシリカゲルを冷却する。 多孔質体(シリカゲル)の粒2が冷却され、温度が十分に安定してから、容器1の上部に凍結させた四酸化ルテニウム等の金属過酸化物の結晶4を入れた小容器5を固定して、蓋6で密閉する。 小容器5は冷却されないようにし、四酸化ルテニウムの結晶4の温度は、結晶4から四酸化ルテニウムが揮発する温度以上に保持し、シリカゲルの粒2の温度は、四酸化ルテニウムが凝固する温度以下とする。 小容器5内で凍結した四酸化ルテニウムの結晶4が徐々に昇温すると、小容器5の開口部から、昇華した四酸化ルテニウムの蒸気7が下方のシリカゲルからなる粒2に流れ、メソポーラスシリカの表面や内部の孔中に吸着する。四酸化ルテニウムの結晶4の量はシリカゲルの粒2の量やその比表面積を勘案して決める。 小容器5中の四酸化ルテニウムの結晶4が全て気化して下方の冷却部位に移行後、容器1全体を氷点下16度以下に冷却した後、容器1を開封し、小容器5を取り出し、次いで四酸化ルテニウムを吸着させたシリカゲルの粒2を取り出し、保管用の容器(予め冷却)に移し、保管する。 このようにして四酸化ルテニウムを吸着させたシリカゲルの粒2は、ポリマー材料の電子顕微鏡観察試料の前処理である電子染色の際に四酸化ルテニウムからなる電子染色剤の結晶と同様に使用することができる。 シリカゲルの代わりに粉状のメソポーラスシリカを用いても同様の処理が可能である。 以上は少量の製造方法の一例であるが、もう少し大量に製造する例を図2を用いて説明する。 容器8の蓋9から金属過酸化物としての四酸化ルテニウム10を底に入れ、温度調節部11で冷却する。温度調節部にペルチェ素子を用いれば冷却も加温も可能である。容器8は接続部12を介して容器13に接続している。容器13の蓋14からシリカゲルの粒15を入れた籠16を底に入れ、温度調節器17で冷却する。温度調節器11と温度調節器17はそれぞれ独立して温度管理する。温度調節器17はシリカゲルの粒15が0℃前後で安定するように調節し、温度が安定したら、温度調節器11の温度を少しづつ上げ、四酸化ルテニウム10が昇華する温度(摂氏5度以上)にする。 昇華した四酸化ルテニウムの蒸気は、接続管12を経てシリカゲルの粒15に吸着する。十分に吸着させたら、温度調節器11で容器8の底の温度を大きく下げる。容器8中の四酸化ルテニウムの蒸気は容器8の底に析出し、容器8、13の蒸気の濃度は低下する。 その後、温度調節器17でシリカゲルの粒15と籠16の温度を十分下げてから蓋14から籠16ごと四酸化ルテニウムを吸着したシリカゲルの粒15を電子染色剤として回収する。 次に、蓋14を閉めた後、温度調節器17により容器13の底に吸着した四酸化ルテニウムを昇華させ、接続管12を介して冷却している容器8の底に析出させる。その後温度調節器17でまた容器13の底を冷却し、蓋14から新しいシリカゲルの粒15の入った籠16を入れ、蓋14を閉じ、前記の吸着、回収の作業を繰り返す。四酸化ルテニウム10が少なくなれば蓋9から補給する。 以上の繰り返し作業により、大量に本発明の電子染色剤を作製できる。 また、本発明の電子染色剤を用いて電子染色する際には、電子染色するポリマー材料と共に本発明の電子染色剤を電子染色用容器にセットする。 この場合、本発明の電子染色剤は、四酸化ルテニウムなどが孔内に保持された粒2、15からなるため、薬匙やピンセットで容易に取り出して電子染色用容器内にセットすることが可能となる。 電子染色の際には、セットした電子染色剤を昇温すれば多孔質体内に保持された四酸化ルテニウムなどの金属過酸化物が蒸発し、その重金属化合物がポリマー材料の特定の構造と反応或いは沈着して電子染色できる。 なお、この電子染色は常温・常圧で行う代わりに真空下で行うようにしてもよい。 1 密閉可能容器 2 粒(シリカゲル) 4 金属過酸化物の結晶(四酸化ルテニウム) 5 小容器 6 蓋 ポリマー材料に金属過酸化物の蒸気を接触させて電子染色する電子染色剤において、無機酸化物からなる多孔質体内の孔中に、前記金属過酸化物を保持させたことを特徴とする電子染色剤。 前記多孔質体が、酸性酸化物からなる請求項1記載の電子染色剤。 前記多孔質体が、2〜50μmの孔径を有する請求項1または2記載の電子染色剤。 前記金属過酸化物が、四酸化ルテニウムや四酸化オスミウムからなる請求項1〜3のいずれかに記載の電子染色剤。 ポリマーに金属過酸化物の蒸気を接触させて電子染色する電子染色剤の製造方法において、前記金属過酸化物を蒸気にして無機酸化物からなる多孔質体内の孔内に吸着させると共にこれを孔内で凝固させて保持させたことを特徴とする電子染色剤の製造方法。 請求項1〜4のいずれか1項に記載の電子染色剤を用い、その電子染色剤の多孔質体内に保持した金属過酸化物を蒸気化し、この蒸気化した金属過酸化物をポリマーに反応或いは沈着させて電子染色することを特徴とする電子染色法。 【課題】作業性、安全性のより高い電子染色剤及びその製造方法並びに電子染色法を提供する。【解決手段】ポリマー材料に四酸化ルテニウム等の金属過酸化物の蒸気を接触させて電子染色する電子染色剤において、無機酸化物からなる多孔質体内の孔中に、四酸化ルテニウム等の金属過酸化物の蒸気7を吸着して保持させたものである。【選択図】図1