タイトル: | 公開特許公報(A)_うつ病マーカー、アッセイ方法、うつ病決定方法、うつ病薬のスクリーニング方法及びキット |
出願番号: | 2013005911 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | G01N 33/53,G01N 33/15,G01N 33/50,C12Q 1/68 |
鍋島 俊隆 毛利 彰宏 野田 幸裕 JP 2014137282 公開特許公報(A) 20140728 2013005911 20130117 うつ病マーカー、アッセイ方法、うつ病決定方法、うつ病薬のスクリーニング方法及びキット 学校法人 名城大学 599002043 北川 治 100097733 北川 英陸 100162466 鍋島 俊隆 毛利 彰宏 野田 幸裕 G01N 33/53 20060101AFI20140701BHJP G01N 33/15 20060101ALI20140701BHJP G01N 33/50 20060101ALI20140701BHJP C12Q 1/68 20060101ALI20140701BHJP JPG01N33/53 DG01N33/15 ZG01N33/50 ZC12Q1/68 A 12 5 OL 26 2G045 4B063 2G045AA25 2G045CA25 2G045DA14 2G045DA36 2G045FB01 2G045FB03 4B063QA19 4B063QQ02 4B063QQ53 4B063QQ79 4B063QQ96 4B063QR08 4B063QR32 4B063QR42 4B063QR48 4B063QS25 4B063QS32 4B063QS34 4B063QX02 本発明は、うつ病に関する新規マーカーを利用する方法及びキットに関する。 うつ病とは、アメリカ精神医学会の精神障害の診断・統計マニュアル第4版(DSM−4)において、慢性的な抑うつ気分、興味・喜びの消失、著しい体重の変化、不眠もしくは過眠、気力の減退、精神運動性の焦燥もしくは静止、無価値感・罪悪感、思考力・集中力の減退、自殺念慮などの症状を示す病である。 うつ病の病態においては、セロトニン、ノルアドレナリンおよび、ドーパミンの神経伝達の低下が関与するモノアミン仮説が提唱されている。ノルアドレナリンに関しては、健常人ではシナプス前神経終末からシナプス間隙に十分な量のノルアドレナリンが放出され、シナプス後神経終末に存在するノルアドレナリン受容体がノルアドレナリンを受容することでシグナル伝達が行われ、ノルアドレナリントランスポーターがシナプス間隙の余剰のノルアドレナリンを除去し、再度シナプス前神経終末からシナプス間隙にノルアドレナリンが放出される。 一方、うつ病の患者ではシナプス前神経終末からのノルアドレナリン放出量が不十分であり、シナプス後神経終末は十分なノルアドレナリンを受容できないと考えられる。即ち、うつ病の患者ではシナプス間隙のノルアドレナリン量が不足していると考えられる。 上記モノアミン仮説を前提として、ノルアドレナリンを指標としたうつ病の診断やデシプラミン等のノルアドレナリン再取り込み阻害物質を有効成分とする抗うつ薬がある。 上記ノルアドレナリントランスポーターは中枢神経系での発現と白血球等の末梢での発現が報告されている。白血球におけるノルアドレナリントランスポーターが中枢ノルアドレナリン神経のノルアドレナリントランスポーターと多くの点で共通した性質を持っていることから、末梢血から得られるリンパ球を含む白血球をうつ病の生物学的マーカーとして応用するための研究がなされている。 更に、ノルアドレナリントランスポーター結合能変化と、ノルアドレナリンとその代謝物の比率およびうつ病などの精神症状との関連が報告されている。この報告は、ノルアドレナリントランスポーターに作用する薬物の結合数から検討している。しかし、当該関連を裏付けるメカニズムは未だ明らかではない。 また、ノルアドレナリンが関連するうつ病を治療する抗うつ薬を創製するために多くのうつ病モデル動物が提案されている。これらモデル動物はうつ病様の行動態様を示し、シナプス間隙からのノルアドレナリン再取り込みの阻害によりうつ病様の行動態様を示さなくなる。よって、抗うつ薬の候補物質のスクリーニングを行うためにうつ病モデル動物が利用される。Bruss M, KunzJ, Lingen B, Bonisch H. Chromosomal mapping of the human gene for the tricyclicantidepressant-sensitive noradrenaline transporter. Hum Genet. 1993Apr;91(3):278-80. 上記非特許文献1には、脳と末梢のノルアドレナリントランスポーターは同一遺伝子に由来することの開示がある。Klimek V,Stockmeier C, Overholser J, Meltzer HY, Kalka S, Dilley G, Ordway GA. Reducedlevels of norepinephrine transporters in the locus coeruleus in majordepression. J Neurosci. 1997 Nov 1;17(21):8451-8. 上記非特許文献2には、うつ病患者の自殺による死後脳のノルアドレナリントランスポーターの発現の変化が認められることの開示がある。Mata S, UrbinaM, Manzano E, Ortiz T, Lima L. Noradrenaline transporter and its turnover rateare decreased in blood lymphocytes of patients with major depression. JNeuroimmunol. 2005 Dec 30;170(1-2):134-40. 上記非特許文献3には、うつ病患者において、リンパ球のノルアドレナリントランスポーター結合能およびノルアドレナリンとその代謝物の比率に変化が認められることの開示がある。Jayanthi LD,Annamalai B, Samuvel DJ, Gether U, Ramamoorthy S. Phosphorylation of thenorepinephrine transporter at threonine 258 and serine 259 is linked to proteinkinase C-mediated transporter internalization. J Biol Chem. 2006 Aug18;281(33):23326-40 上記非特許文献4には、ノルアドレナリントランスポーターはリン酸化することにより、膜表面での存在量の低下とともにトランスポーター活性に低下が認められることの開示がある。 うつ病は、患者の行動態様から診断することが可能である一方で特定のマーカーを利用して物理的・化学的・生物学的に診断することも可能である。 従前、上記モノアミン仮説に基づき血中のノルアドレナリン量をマーカーとするうつ病の診断方法が開示されていたが、その精度が必ずしも満足できるものではなかった。即ち、体内のノルアドレナリンは副腎髄質および交感神経にも存在するため、血中のノルアドレナリン量が脳内のその量をあまり反映しないためである。 また、脳におけるノルアドレナリントランスポーターを可視化してうつ病を診断する方法も開示されているが、高価な装置が必要であり、また、人体への放射性トレーサーの投与が必須であるので、より簡便なうつ病の診断方法が望まれていた。 本願発明者はMAGE−D1遺伝子欠損マウスを用いて、その生理機能を検討した。その結果、MAGE−D1遺伝子欠損マウスが、うつ病様の行動態様を示すこと、及び、ヒトに対して効果がある選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬を当該マウスに投与することでうつ病様の行動態様を示さなくなること等を見出した。即ち、ノルアドレナリンが関連するヒトのうつ病において、本マウスが非常に妥当性の高いうつ病モデルであることを発見した。MAGE−D1遺伝子欠損マウスは、ヒトうつ病様の行動態様を示しヒト抗うつ薬によりうつ病様の行動態様を示さなくなるので、ヒトと同様のうつ病メカニズムを有していると考えられる。 本願発明者はうつ病患者の末梢血を由来とするリンパ球ではノルアドレナリントランスポーターの発現量は健常者におけるそれと比較して高いことを発見した。 見出した当該関連性に基づいてノルアドレナリンが関与するうつ病のメカニズムを更に探索した結果、本願発明者は、ノルアドレナリントランスポーターがユビキチン化されることを同定した。また、ノルアドレナリントランスポーターはリン酸化されることで機能が低下することが報告されている。 MAGE−D1遺伝子欠損マウス及びうつ病患者由来のリンパ球を用いた以上の結果から、ユビキチンやリン酸が付加されることにより、ノルアドレナリントランスポーターの発現量や機能が調節されると考えられた。そして、この流れはMAGE−D1蛋白質により調節される、と考えられた。 以上の知見に基づき、本願発明者は本発明を完成させた。うつ病に関する新規マーカーを利用する方法及びキットを提供することを本発明が解決すべき課題とする。 (第1発明) 上記課題を解決するための本願第1発明の構成は、 ノルアドレナリントランスポーター及びドーパミントランスポーターから選ばれる1種以上を含むうつ病マーカーである。 (第2発明) 上記課題を解決するための本願第2発明の構成は、 被験者から採取した血液検体における第1発明に記載のうつ病マーカーの発現量を調べる工程を含むうつ病の決定方法である。 本願においてマーカーの発現量とは、翻訳物量を意味する。言いかえれば、マーカーは蛋白質レベルで測定・分析できる。 (第3発明) 上記課題を解決するための本願第3発明の構成は、 更に、少なくとも1人の健常者から得た対照たる第1発明に記載のうつ病マーカーの発現量と、被験者から採取した血液検体における第1発明に記載のうつ病マーカーの発現量とを比較する工程を含む第2発明に記載のうつ病決定方法である。 (第4発明) 上記課題を解決するための本願第4発明の構成は、 前記比較の結果、被験者から採取した血液検体における第1発明に記載のうつ病マーカーの発現量が対照より高レベルである場合に当該被験者がうつ病であると決定する第3発明に記載のうつ病決定方法である。 (第5発明) 上述の通り、本願発明者は、ノルアドレナリントランスポーターがユビキチン化されることを同定した。また、ノルアドレナリントランスポーターはリン酸化されることで機能が低下することが報告されている。そして、ノルアドレナリントランスポーターはリン酸が付加することにより膜表面から細胞内へと移動することにより活性が調節され、ユビキチンが付加されることにより高分子量化しプロテアソームにより分解される、とヒトにおいても合理的に推測される。 上記課題を解決するための本願第5発明の構成は、 被験者から採取した血液検体において下記の(1)及び(2)の分析をする工程を含むうつ病決定方法である。(1)ノルアドレナリントランスポーター発現量(2)ユビキチン化及び/又はリン酸化されたノルアドレナリントランスポーターの比率 (第6発明) 上記課題を解決するための本願第6発明の構成は、 前記うつ病決定方法が、更に少なくとも1人の健常者から得た対照たる下記の(3)及び(4)の分析結果と、被験者における分析結果とを比較する工程を含む第5発明に記載のうつ病決定方法である。(3)ノルアドレナリントランスポーター発現量(4)ユビキチン化及び/又はリン酸化されたノルアドレナリントランスポーターの比率 (第7発明) 上記課題を解決するための本願第7発明の構成は、 前記比較の結果、被験者から採取した血液検体から得たノルアドレナリントランスポーター発現量が対照より高レベルである場合、もしくは、被験者から採取した血液検体から得たユビキチン化及び/又はリン酸化されたノルアドレナリントランスポーターの比率が対照より低レベルである場合に当該被験者がうつ病であると決定する第6発明に記載のうつ病決定方法である。 (第8発明) 上記課題を解決するための本願第8発明の構成は、 第1発明に記載のうつ病マーカーの検出材を含むキットである。 (第9発明) 上記課題を解決するための本願第9発明の構成は、 更に、ユビキチン化蛋白質回収材及びリン酸化蛋白質回収材から選ばれる1以上を含む第8発明に記載のキットである。 (第10発明) 上記課題を解決するための本願第10発明の構成は、 第1発明に記載のうつ病マーカーの発現量を調べる工程を含む、うつ病の診断を補助するためのアッセイ方法である。 (第11発明) 上記課題を解決するための本願第11発明の構成は、 第1発明に記載のうつ病マーカーのユビキチン化及び/又はリン酸化を調べる工程を含む、うつ病の診断を補助するためのアッセイ方法である。 (第12発明) 上記課題を解決するための本願第12発明の構成は、 第1発明に記載のうつ病マーカーの発現量の変化を調べる工程を含む、うつ病薬のスクリーニング方法である。 上述の通り、ノルアドレナリントランスポーターの発現量の増加はうつ病の指標になりうることがヒトにおいても合理的に推測される。また、ノルアドレナリントランスポーターはユビキチンが付加されることにより高分子量化しプロテアソームにより分解される、と合理的に推測される。また、ノルアドレナリントランスポーターはリン酸が付加されることにより、その機能が低下すると合理的に推測される。 本願発明者は、先の出願であるPCT/JP2012/068348において、セロトニントランスポーターとそのユビキチン化と、うつ病との関連に着目した発明を開示している。 以上より、セロトニントランスポーター及びノルアドレナリントランスポーターの発現量やユビキチン化等がうつ病と関連していることが示唆される。モノアミン仮説を考慮すると、ドーパミントランスポーターもうつ病に関連していることが推測される。 よって、第1発明により、有用なうつ病マーカーが提供される。当該うつ病マーカーは、例えば、うつ病の診断を補助するためのアッセイ、うつ病の診断、うつ病の決定、及びうつ病薬のスクリーニングから選ばれる1以上に好ましく用いることができる。 更に、第1発明に記載のうつ病マーカーのユビキチン化・リン酸化の比率を用いることが有用であると合理的に推測される。上記第5発明〜第7発明により、新規マーカーであるノルアドレナリントランスポーター発現量ならびに、ユビキチン化・リン酸化されたノルアドレナリントランスポーターの比率を利用するうつ病決定方法が提供される。 本願発明者の発見事実に基づけば、ノルアドレナリントランスポーターがユビキチン化およびリン酸化されないと、体内に過剰のノルアドレナリントランスポーターが存在しシナプス間隙におけるノルアドレナリン量が不十分になり、うつ病が引き起こされると考えられる。また、上述の通り、ノルアドレナリントランスポーターは中枢神経系での発現と血小板およびリンパ球を含む白血球での発現に関連が報告されている。 第5発明〜第7発明はノルアドレナリントランスポーターの発現量および、ユビキチン化・リン酸化されたノルアドレナリントランスポーターの同一検体におけるその比率を利用するので、血液検体の採取状況(体調の変化、採取量の相違、採取時期の相違など)や個人差による影響を少なくでき、高い精度の結果が得られると考えられる。 ノルアドレナリントランスポーターはユビキチン化を受けた後にプロテアソームにより分解されると考えられるので、血液検体の分析から得たユビキチン化されたノルアドレナリントランスポーターの比率は血液検体を取得した段階のみならず時間的な幅を持つノルアドレナリン量変化の測定結果に相当する情報を含んでいると考えられる。 また、ノルアドレナリントランスポーターはリン酸化を受けた後に細胞膜表面から内部へ移行することにより、活性が低下すると考えられるので、血液検体の分析から得たリン酸化されたノルアドレナリントランスポーターの比率は血液検体を取得した段階のみならず時間的な幅を持つノルアドレナリン量変化の測定結果に相当する情報を含んでいると考えられる。 従前は、ノルアドレナリントランスポーターのユビキチン化を経る分解経路およびリン酸化を経る活性調節経路が明らかでなかったため血中のノルアドレナリン量の変化であっても予測が困難であり、また、被験者の連続的な採血は人体への負担が大きいので、血液検体を取得した段階のみの血中ノルアドレナリン量という限られた情報に基づいてうつ病の診断がなされていた。更に、上述の通り、体内のノルアドレナリンは交感神経系・副腎髄質等にも存在するため、血中のノルアドレナリン量は脳内のその量をあまり反映しないと考えられる。 一方、ノルアドレナリンではなくノルアドレナリントランスポーターに着目すると、血小板およびリンパ球を含む白血球におけるノルアドレナリントランスポーターが中枢ノルアドレナリン神経のノルアドレナリントランスポーターと多くの点で共通した性質を持っている。本願が開示するうつ病マーカーを用いる発明は血液検体取得時の血中ノルアドレナリン量をマーカーとするうつ病の診断方法と比べて、より多く、より質の高い情報を加味した方法であるので精度が高いと考えられる。 また、脳におけるノルアドレナリントランスポーターを可視化してうつ病を診断する方法と比べると、本発明は高価な可視化装置が不要であること、人体への放射性トレーサーの投与が不要であることから、簡便で人体への負担が少ない診断方法である。 被験者の血液検体から得たユビキチン化及び/又はリン酸化されたノルアドレナリントランスポーターの比率と健常者から得た対照たるユビキチン化及び/又はリン酸化されたノルアドレナリントランスポーターの比率との比較を利用することでより有効なうつ病決定方法となる。 そして、被験者の血液検体から得たノルアドレナリントランスポーター発現量が高レベル、または、ユビキチン化及び/又はリン酸化されたノルアドレナリントランスポーターの比率が対照より低レベルである場合にうつ病と決定すると、更に有効なうつ病決定方法となる。 上記第8発明〜第9発明により、有用なキットが提供される。当該キットの構成は、「本願が開示するうつ病マーカーは、ユビキチンが付加されることにより高分子量化しプロテアソームにより分解される、また、リン酸化を受けた後に細胞膜表面から内部へ移行することにより、活性が低下すると考えられる」という本願発明者の知見に基づくものである。当該キットは特に、うつ病の診断に用いることで有利な効果を奏する。また、上記本願が開示するうつ病マーカーを用いる発明の実施に使用することも有用である。モデルマウスにおけるうつ様の行動が、ノルアドレナリントランスポーターに阻害作用のあるヒト抗うつ薬デシプラミンおよび抗注意欠陥多動性障害(ADHD)薬アトモキセチンにより緩解されることを示す。脳内ノルアドレナリン含有量がモデルマウスの前頭皮質、海馬ならび扁桃体において有意に低下することを示す。高カリウム刺激による細胞外ノルアドレナリン遊離量の増加が、モデルマウスの前頭皮質ならびに海馬において有意に低下することを示す。(a)モデルマウスの前頭皮質ではノルアドレナリントランスポーター蛋白質量が増加していることを示す。(b)このようなモデルマウスと対照マウスで、ノルアドレナリントランスポーターmRNA量に有意な差がないことを示す。(c)マウスにおいてユビキチン化ノルアドレナリントランスポーター蛋白質量が認められる。しかし、モデルマウスと対照マウスで、ユビキチン化ノルアドレナリントランスポーター量に有意な差がないことを示す。抗うつ薬に応答性のうつ病患者由来の株化リンパ球におけるノルアドレナリントランスポーターの発現は健常者におけるそれと比較して、有意に高かったことを示す。 以下に、本発明を実施するための形態を、最良の形態を含めて説明する。 本発明においてユビキチンは、ユビキチン依存性プロテアソーム系による蛋白質分解に利用されるものである限り特に限定されない。 本発明においてリン酸は、ノルアドレナリントランスポーター、ドーパミントランスポーターの修飾に利用されるものである限り特に限定されない。 本発明において、ノルアドレナリントランスポーター及びドーパミントランスポーターを含むうつ病マーカーは、それぞれノルアドレナリン、ドーパミンの取り込みに関与するものである限り特に限定されない。好ましいうつ病マーカーはノルアドレナリントランスポーターである。 ノルアドレナリントランスポーターは、例えば、野生型〔GenBankのアクセッションNo.: AK312793.1〕とエキソン6欠損の遺伝子多型があり、種々の分子量のノルアドレナリントランスポーターが血小板、リンパ球を含む白血球等から調製したサンプルのウェスタンブロッティングにおいても検出され得る。 ドーパミントランスポーターは、例えば、野生型〔GenBankのアクセッションNo.:NM001044.4〕が知られている。 また、うつ病マーカーは、好ましくは、シナプス間隙を形成する神経細胞に表出するうつ病マーカー、血小板に存在するうつ病マーカー、リンパ球を含む白血球に存在するうつ病マーカー、各末梢組織の交感神経に存在するうつ病マーカー、副腎髄質に存在するうつ病マーカーであり、より好ましくはシナプス間隙を形成する神経細胞に表出するうつ病マーカー、血小板に存在するうつ病マーカー、リンパ球を含む白血球に存在するうつ病マーカーであり、更に好ましくは血小板に存在するうつ病マーカー、リンパ球に存在するうつ病マーカーである。 本発明においてユビキチン化されたうつ病マーカーとは、1以上のユビキチンが結合したうつ病マーカーである。ユビキチンは分子量約8.6kDの低分子量タンパクであり、例えばユビキチン化されたノルアドレナリントランスポーターは泳動等において本来の分子量(約80kD)からスメア状に高分子量のシグナルが認められ、好ましくは100kD以上のユビキチン化されたノルアドレナリントランスポーターである。 うつ病マーカーはユビキチンが付加されることにより高分子量化しプロテアソームにより分解される、とヒトにおいても合理的に推測される。更に、うつ病マーカーがユビキチン化されないと、体内に過剰のうつ病マーカーが存在しシナプス間隙におけるノルアドレナリン等の量が不十分になり、うつ病が引き起こされると考えられる。よって、ユビキチン化されたうつ病マーカーの割合が低くなるほどうつ病を患っている可能性が高くなると考えられる。 本発明においてユビキチン化されたうつ病マーカーの比率は検体におけるユビキチン化されたうつ病マーカーの割合を示す。当該比率の計算式は適宜選択可能であるが、例えば、(イ)うつ病マーカー全量に対するユビキチン化されたうつ病マーカー量、(イ’)ユビキチン化されたうつ病マーカー量に対するうつ病マーカー全量、(ロ)ユビキチンが結合していないうつ病マーカー量に対するユビキチン化されたうつ病マーカー量、(ロ’)ユビキチン化されたうつ病マーカー量に対するユビキチンが結合していないうつ病マーカー量、(ハ)うつ病マーカー全量に対する高分子量うつ病マーカー量、(ハ’)高分子量うつ病マーカー量に対するうつ病マーカー全量、(ニ)ユビキチンが結合していないうつ病マーカー量に対する高分子量うつ病マーカー量、(ニ’)高分子量うつ病マーカー量に対するユビキチンが結合していないうつ病マーカー量等を例示することができる。計算式の選択によっては比率の値が大きくなるほど、ユビキチン化されたうつ病マーカーの割合が低くなることを示す場合がある。被験者の当該比率を健常者から得た対照と比較する場合、被験者の当該比率の算出方法と対照の算出方法を統一することが好ましい。 また、プロテアソーム阻害剤によりユビキチン化されたうつ病マーカーのプロテアソームでの分解を抑制した検体において、より顕著にユビキチン化されたうつ病マーカーの割合の変化について検討することも本発明の実施形態に含む。 本発明においてリン酸化されたうつ病マーカーの比率は検体におけるリン酸化されたうつ病マーカーの割合を示す。当該比率の計算式は適宜選択可能であるが、例えば、上記したユビキチン化の比率で示した計算式(イ)〜(ニ’)と同様の計算式を選択してもよい。計算式の選択によっては比率の値が大きくなるほど、リン酸化されたうつ病マーカーの割合が低くなることを示す場合がある。被験者の当該比率を健常者から得た対照と比較する場合、被験者の当該比率の算出方法と対照の算出方法を統一することが好ましい。 「ユビキチン化及び/又はリン酸化された」には、うつ病マーカーがユビキチン化された場合、うつ病マーカーがリン酸化された場合、並びに、うつ病マーカーがユビキチン化及びリン酸化された場合を含む。そして、適宜、うつ病マーカーのユビキチン化の比率やリン酸化の比率を利用できる。即ち、当該両比率は双方を利用しても良いし、適宜片方を利用しても良い。 うつ病マーカー量や上記比率を算出する際に使用する単位は特に限定されず、検体を分析する方法にあわせて適宜選択可能である。例えば、質量を用いても良いし、分子数を用いても良いし、ウェスタンブロッティング法を含む泳動法によるシグナル強度を用いても良い。 定量手法として、例えば、ウェスタンブロッティング法、フローサイトメトリー法、ELISA法、EIA法、RIA法、FIA法、化学発光イムノアッセイ、ECLIA法などの免疫学的な方法を例示することができる。その他、電気泳動を利用する方法、吸光度を利用する方法等公知の方法を適宜利用することができる。好ましくは、ウェスタンブロッティング法によるシグナル強度を用いる。より好ましくは、ELISA (Enzyme−Linked ImmunoSorbent Assay)、EIA (Enzyme immunoassay) 及びRIA(Radio−Immuno Assay)による質量もしくは分子数を用いる。質量などユビキチン化やリン酸化の度合いで値が変化する単位を用いる場合は、例えば、ユビキチン化やリン酸化されたうつ病マーカー量としてユビキチン量やリン酸量を除いた換算値を用いることが好ましい。被験者と健常者の上記比率を比較する場合、単位は統一することが好ましい。 〔うつ病に関する新規マーカーを利用する方法〕 上記うつ病マーカーは、うつ病の診断に用いることができる。 上記うつ病マーカーは、うつ病の診断を補助するアッセイに用いることができる。 例えば、当該アッセイは上記うつ病マーカーの発現量を調べる工程を含んでよい。本願発明者の知見によれば、うつ病患者はうつ病マーカーの発現量が健常者より高い。よって、うつ病マーカー発現量の高低についての知見は、うつ病の診断を補助するのに役立つ。 また、例えば、当該アッセイは上記うつ病マーカーのユビキチン化及び/又はリン酸化を調べる工程を含んでよい。本願発明者の知見によれば、上記うつ病マーカーはユビキチン化されることでプロテアソームによる分解に供されると考えられる。また、上記うつ病マーカーはリン酸化されて細胞膜表面から内部へ移行することにより、活性が低下すると考えられる。即ち、上記うつ病マーカーのユビキチン化及び/又はリン酸化が低レベルである場合、シナプス間隙におけるノルアドレナリン等のモノアミン分子量が不足すると考えられる。よって、うつ病マーカーのユビキチン化及び/又はリン酸化レベルの高低についての知見は、うつ病の診断を補助するのに役立つ。 上記うつ病マーカーは、うつ病の決定方法に用いることができる。うつ病の決定方法は医師による医療行為を含まない。 当該うつ病決定方法は、被験者から採取した血液検体における上記うつ病マーカーの発現量を調べる工程を含む。 本発明では、血液検体を提供する当該うつ病決定方法の実施対象者を被験者と称する。必ずしも医師によってうつ病を患っていると診断された者に限定されない。 血液検体は上記うつ病マーカーを含む限り特に限定されない。上述の通り、ノルアドレナリントランスポーターは中枢神経系での発現とリンパ球を含む白血球での発現に関連が報告されており、血小板やリンパ球を含む白血球におけるノルアドレナリントランスポーターの変化と、中枢神経系での機能およびうつ病などの精神症状との関連が報告されている。よって、被験者の血液は好適な検体である。当該血液検体は動脈血や静脈血の別も限定されず、当該血液検体を採取する部位も限定されない。好ましい血液検体は、抹消血、脊髄液を例示でき、より好ましくは抹消血を例示することができる。血液検体は公知である常法に従って被験者から採取可能である。また、血液検体は公知である常法に従って保存可能である。 血液検体は更に分画することも可能である。即ち、血液検体から分画した検体における上記うつ病マーカーを分析してもよい。当該うつ病決定方法においては血小板画分、リンパ球を含む白血球画分を例示することができ、血小板画分、リンパ球画分を好ましく例示できる。 上述した血液検体等の検体は、当該検体を含む組成としても良い。以下に例示する分析の手法に合わせて適宜選択可能である。 当該うつ病決定方法に使用する検体の量は上記うつ病マーカーの量を求めることができる限り特に限定されない。作業工程数や使用する試薬・機器の性能等にあわせて適宜決定すればよい。 うつ病決定方法は、更に、少なくとも1人の健常者から得た対照たる上記うつ病マーカーの発現量と、被験者から採取した血液検体における上記うつ病マーカーの発現量とを比較する工程を含んでよい。 当該うつ病決定方法において「健常者」にはうつ病を患っていない者を限定なく含むが、好ましくは医師によってうつ病でないと診断された者であり、より好ましくは、心理的ストレスに暴露されていない者、他の神経・精神疾患に罹患していない者である。 対照たるうつ病マーカーの発現量とは、健常者から得たうつ病マーカーの発現量である。健常者における検体は特に限定されないが、血液検体であることが好ましい。少なくとも1人の健常者から得れば十分であるが、複数の健常者から得たうつ病マーカー量の平均を対照として採用すれば、うつ病決定方法の精度向上が期待できる。 健常者と被験者の上記うつ病マーカー量を比較するので、検体量、検体処理方法、うつ病マーカーの測定方法は両者で統一することが好ましい。 うつ病決定方法は、更に、前記比較の結果、被験者から採取した血液検体における上記うつ病マーカーの発現量が対照より高レベルである場合に当該被験者がうつ病であると決定してよい。 「高レベル」とは、被験者における上記うつ病マーカーの発現量が対照より多ければ足りる。被験者における上記うつ病マーカーの発現量と対照に有意差があることが好ましい。 例えば、ノルアドレナリントランスポーターをうつ病マーカーとして選択した場合は、被験者及び健常者から得たノルアドレナリントランスポーターの発現量どうしを比較する。ドーパミントランスポーターをうつ病マーカーとして選択した場合も同様である。 また、例えば、ノルアドレナリントランスポーター及びドーパミントランスポーターをうつ病マーカーとして選択した場合は、ノルアドレナリントランスポーターの発現量どうし、ドーパミントランスポーターの発現量どうしを比較する。その結果、被験者におけるいずれかのうつ病マーカーの発現量が対照より高レベルであれば当該被験者がうつ病であると決定してよい。好ましくは、両うつ病マーカーの発現量が対照より高レベルである場合に当該被験者がうつ病であると決定する。 次に、うつ病マーカーのユビキチン化及び/又はリン酸化に着目したうつ病決定方法について説明する。 うつ病決定方法は、被験者から採取した血液検体において下記の(1)及び(2)の分析をする工程を含むこととしてよい。(1)ノルアドレナリントランスポーター発現量(2)ユビキチン化及び/又はリン酸化されたノルアドレナリントランスポーターの比率 うつ病決定方法は、更に、少なくとも1人の健常者から得た対照たる下記の(3)及び(4)の分析結果と、被験者における分析結果とを比較する工程を含んでよい。(3)ノルアドレナリントランスポーター発現量(4)ユビキチン化及び/又はリン酸化されたノルアドレナリントランスポーターの比率 うつ病決定方法は、更に、前記比較の結果、被験者から採取した血液検体から得たノルアドレナリントランスポーター発現量が対照より高レベルである場合、もしくは、被験者から採取した血液検体から得たユビキチン化及び/又はリン酸化されたノルアドレナリントランスポーターの比率が対照より低レベルである場合に当該被験者がうつ病であると決定してよい。 上記比較は、被験者及び健常者から得たノルアドレナリントランスポーター発現量どうし、被験者及び健常者から得たユビキチン化及び/又はリン酸化されたノルアドレナリントランスポーターの比率どうしで行う。 ユビキチン化及び/又はリン酸化されたノルアドレナリントランスポーターの比率を利用するうつ病決定方法において、血液検体はユビキチン化及び/又はリン酸化された上記うつ病マーカーを含む限り特に限定されない。上記説明の通り、血液検体は好ましい検体である。 更に検体にプロテアソーム阻害剤を加えることでユビキチン化ノルアドレナリントランスポーターを感度良く検出する方法とすることが好ましい。 ノルアドレナリントランスポーター並びにユビキチン化及び/又はリン酸化されたノルアドレナリントランスポーターをユビキチン化及び/又はリン酸化されたノルアドレナリントランスポーターの比率を求めるために検体から精製する場合、当該精製方法は特に限定されない。血液検体におけるユビキチン化及び/又はリン酸化されたノルアドレナリントランスポーターの比率が維持される精製方法が好ましい。例えば、クロマトグラフィーや電気泳動を含む分子量や電荷等を利用した分画、沈殿、遠心分離、塩析、免疫沈降法、ユビキチン又はノルアドレナリントランスポーター特異的結合材を利用する方法等公知の方法を適宜利用することができる。定量手法によっては、血液検体をそのまま用いることができるし、また、血液検体からノルアドレナリントランスポーター並びにユビキチン化及び/又はリン酸化されたノルアドレナリントランスポーターを簡便に分画するだけでよい場合もある。 対照たるユビキチン化及び/又はリン酸化されたノルアドレナリントランスポーターの比率とは、健常者から得たユビキチン化及び/又はリン酸化されたノルアドレナリントランスポーターの比率である。ユビキチン化及び/又はリン酸化されたノルアドレナリントランスポーターの比率の算出方法は被験者と健常者で統一することが好ましい。 上記「低レベル」とは、少なくとも被験者の血液検体から得たユビキチン化及び/又はリン酸化されたノルアドレナリントランスポーターの割合が対照のユビキチン化及び/又はリン酸化されたノルアドレナリントランスポーターの割合未満で足りる。対照より有意差をもって低いことが好ましい。上述の計算式等の選択によっては、被験者の血液検体から得たユビキチン化及び/又はリン酸化されたノルアドレナリントランスポーターの比率の値が対照の値より大きくても「低レベル」と判断する場合がありえる。 被験者から採取した血液検体から得たノルアドレナリントランスポーター発現量が対照より高レベルであるか、被験者から採取した血液検体から得たユビキチン化及び/又はリン酸化されたノルアドレナリントランスポーターの比率が対照より低レベルであれば、うつ病と決定できる。これら2つの条件を満たした場合にうつ病と決定することも好ましい。 別の実施態様では、血液検体の他、被験者及び健常者の健康を維持できる範囲で取得可能な他の検体を利用することができる。例えば、脳脊髄液、リンパ液、再生医療技術を応用して任意の細胞や組織から誘導・分化させた神経細胞や組織、リンパ球などを株化させた細胞等を例示することができる。また、可視化技術を応用しても良い。 上記うつ病マーカーは、うつ病薬のスクリーニングに用いることができる。例えば、当該スクリーニングは上記うつ病マーカーの量の変化を調べる工程を含んでよい。 より具体的には、候補成分をうつ病患者由来の検体に投与し、上記うつ病マーカー量が投与前より減少したら、当該候補成分はうつ病薬として有用であると考えられる。また、候補成分の投与によりうつ病マーカーのユビキチン化及び/又はリン酸化の割合が投与前より高くなれば、当該候補成分はうつ病薬として有用であると考えられる。 候補成分を投与する対象(スクリーニング検体)として、上記した血液検体、モデル動物を例示することができる。 スクリーニング試験は複数連行うことが好ましいが、少なくとも1連で改善効果が確認されれば、その候補成分はうつ病薬として有用である可能性がある。 〔キット〕 本発明のキットは、少なくとも上記うつ病マーカーの検出材を含む。好ましくは、当該キットは更に、ユビキチン化蛋白質回収材及びリン酸化蛋白質回収材から選ばれる1以上を含む。より好ましくは、当該キットは、更に、プロテアソーム阻害剤を含む。 上記うつ病マーカーの検出材として、例えば、抗うつ病マーカー抗体を例示できる。 抗うつ病マーカー抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体いずれも使用可能である。人工的に創製した抗体フラグメント等も使用できる。抗うつ病マーカー抗体は適宜市販品を用いても良い。 抗うつ病マーカー抗体として、抗ノルアドレナリントランスポーター抗体、抗ドーパミントランスポーター抗体を例示できる。 抗ノルアドレナリントランスポーター抗体として、Anti−Noradrenaline transporter antibody (abcam:カタログNo.ab41559)、 Anti−Norepinephrine Transporter Antibody (MilliporeCorporation:カタログNo.AB2234)、Norepinephrine Transporter Antibody(Rockland:カタログNo.200−301−D97)を例示できる。 抗ドーパミントランスポーター抗体として、Anti−Dopamine transporter antibody (abcam:カタログNo.ab5990)、Anti―Dopamine transporter, N―terminus(MilliporeCorporation:カタログNo.MAB369)、Anti―Dopamine transporter, C―terminus(MilliporeCorporation:カタログNo.AB1766)、Anti―Dopaminetransporter (N―terminal) antibody(Sigma−Aldrich:カタログNo.D6944)を例示できる。 ユビキチン化蛋白質の回収材は、ユビキチンを識別可能であり、当該識別された蛋白質が回収されうる限り特に限定されない。例えば、抗体、ユビキチン結合蛋白質回収ビーズ等を例示することができる。ユビキチン化蛋白質の回収材は1又は2以上の部材の組み合わせでよく、適宜選択できる。適宜市販品を用いても良い。 リン酸化蛋白質の回収材は、リン酸化蛋白質を識別可能であり、当該識別された蛋白質が回収されうる限り特に限定されない。例えば、抗リン酸化スレオニン、抗リン酸化セリン、抗リン酸化チロシンなどの抗体、リン酸化蛋白質回収ビーズ等を例示することができる。 プロテアソーム阻害剤として、例えば、MG−132、ラクタシスチンが好ましい。 当該キットに含まれる材の使用順序は限定されず、これらを用いて上記うつ病マーカーの検出が可能である。また、上記うつ病マーカーとユビキチン化及び/又はリン酸化されたうつ病マーカーの判別を行うことができる。また、他の物と組み合わせて使用しても良い。 当該キットは検体に含まれる上記うつ病マーカー量を分析するのに適している。当該量の分析は検体中の絶対量の測定、相対量の測定を限定なく含み、特定の1又は2以上の他の成分との比較も含む概念である。好ましくは、検体における、上記うつ病マーカーとユビキチン化及びリン酸化されたうつ病マーカーの比率を分析するのに適している。 当該キットにおける上記検体は上記うつ病マーカーを含む限り特に限定されない。動物、植物、微生物、再生医療技術の応用により取得した物等を限定なく含む。また、細胞、組織、器官、個体の別も限定されず、適宜選択可能である。動物から得られる検体が好ましく、動物の体液及び動物の組織若しくは器官のホモジネートがより好ましく、血液が更に好ましく、血液から分画した血小板画分、リンパ球を含む白血球画分が更に好ましく、血小板画分、リンパ球画分が特に好ましい。検体は公知の常法により適宜取得可能である。 当該キットは、うつ病の診断に用いられることが好ましい。また、上述のうつ病に関する新規マーカーを利用する方法の実施に用いられることも好ましい。その他、自閉症・アスペルガー症候群などの他の精神疾患の診断の用途に用いることも好ましい。 当該キットは、上記うつ病マーカーの分析手法に合わせて、当該分析手法に適した物品を更に含んでも良い。分析手法としては、上述の定量方法を好ましく例示できる。例えば、各種の抗体、酵素、緩衝液、塩、培地、培養シート等の培養材料、安定化剤、防腐剤、形質転換細胞、形質転換用ベクター、プライマー、プローブ、遺伝子断片、siRNA、shRNA等の核酸、マーカー等を含んでも良いし、放射性物質、蛍光物質、色素等の適当な標識物質を含んでも良いし、反応プレート等の容器を含んでも良い。 以下に、本発明の実施例を説明する。本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されない。(A)方法と材料〔(1)MAGE−D1(Melanoma antigen gene−D1)遺伝子欠損マウスの作製〕 MAGE−D1遺伝子(Gene bank:NM_019791.2)エキソンを薬物(G418)耐性遺伝子(GenBank:U00004.1)に相同組換えするターゲティングベクター(Stratagene: pBlueScript)を129Svjマウス由来の胚性幹(ES)細胞(独立行政法人 国立長寿医療研究センター研究所より入手)にエレクトロポレーションし,薬物耐性コロニーを選択した。当該選択した耐性コロニーからサザンブロッティングにより相同組換え体の同定を行った。当該同定した目的の相同組換えES細胞クローンをC57BL/6Jマウスの胚盤胞期胚に注入し,キメラマウスを作製した。当該キメラマウスを野生型C57BL/6Jマウスと交配し、F1世代のヘテロ型MAGE−D1遺伝子欠損マウスを作製した。野生型C57BL/6Jとヘテロ型MAGE−D1遺伝子欠損マウスをF10世代まで交配させ、99.9パーセント(一度のC57BL/6Jマウスとの交配により、生まれてくるマウスの約半分の遺伝子が交配に使用したC57BL/6Jマウス由来となる。つまり、C57BL/6Jマウスとn回交配することで、約[1−(1/2)n+1]x100%がC57BL/6Jマウス由来の遺伝子になると考えられる。)のC57BL/6Jの遺伝的背景をもつマウスを用いた。当該遺伝的背景をもつマウスをMAGE−D1遺伝子欠損マウス(以下、モデルマウスとも称する。)として以下の試験に用いた。〔(2)強制水泳試験によるうつ病様行動の評価〕 実験装置・手順:水槽(直径15cm x 高さ20cm)に水(水温約22℃x深さ13cm)を入れたものを実験装置とした。水槽に対照である野生型C57BL/6Jマウス又はモデルマウスを入れ、その直後から1分間隔で10分間、無動時間をScanetMV−10 AQ (Brainscience・idea,Osaka,Japan)によって測定した。 生理食塩水で溶解した10mg/kgデシプラミン (Sigma, St. Louis, MO) および3mg/kgアトモキセチン(LKT Laboratories, Inc,MN) は本試験30分前に腹腔内投与した。また、コントロールとして溶媒を腹腔内投与した。〔(3) 高速液体クロマトグラフ法による脳組織ノルアドレナリン含量の評価〕野生型C57BL/6Jマウス又はモデルマウスを断頭し、氷冷下で各脳部位前頭皮質・海馬・扁桃体・視床下部・側坐核・線条体を摘出し、使用するまで−80℃で保管した。内部標準物質(Isoproterenol)を加え、0.2M PCA (perchronic acid) の存在下で超音波によりホモジナイズし、除タンパクを行った。遠心分離(20,000g、15分、1℃)により上清採取したものを酢酸ナトリウムでpH調整し、フィルターろ過したものをサンプルとした。サンプル中のノルアドレナリンの含有量をHPLC―ECD (EICOM Corp, Kyoto) を用いて測定した。分離カラム (EICOMPAK SC−5ODS, EICOM Corp)を用いて分析し、検出には作用電極にグラファイト電極 (WE−3G) を備えた電気化学検出器を用い、設定加電圧を+400 mV vs Ag/AgClに設定した。〔(4)In vivo マイクロダイアリシス法によるノルアドレナリン遊離能の評価〕 ペントバルビタールナトリウム(50 mg/kg, i.p.)麻酔下のマウスを脳固定器に固定し、脳地図(Franklin and Paxinos, 1997) を参考に、ガイドカニューレ (AG−6, EICOM Corp., Kyoto, Japan) を前頭皮質 (頭蓋の十字縫合から吻側:1.7mm 右側:+1.0mm 深さ: −1.5mm) に15°の角度をつけて挿入した。ガイドカニューレを歯科用セメント (SHOFU Inc., Kyoto, Japan) により頭蓋骨に固定した。 手術翌日にガイドカニューレからダイアリシスプローブ (A−I−6−1, 1 mm membrane length, EICOM Corp.) を前頭皮質に挿入したマウスをアクリルケース (30 cm x 30 cm x 35 cm) の中に入れ、自由に行動できるようにした。リンゲル液 (NaCl: 147 mM, KCl: 4 mM, CaCl2: 2.3 mM) を1.0 μl/minの流速にてプローブ内に灌流した。灌流液は10分ごとに回収し、回収した液中のノルアドレナリン含量を高速液体クロマトグラフィー (HTEC−500, EICOM Corp.) により定量した。移動相は1%(v/v)メタノール、デカンスルホン酸ナトリウム (SDS, 500 mg/L) およびEDTA・2Na (50 mg/L) を含む99%(v/v)0.1 M リン酸ナトリウム緩衝液 (pH 6.0) を使用し、流速500 μl/minで通液した。分離カラム (EICOMPAK PP−ODS, 30 x 4.6 mm phi, EICOM Corp.)、プレカラム (EICOM PREPAKSET CA−ODS, EICOM Corp.) を用いて分析し、検出には作用電極にグラファイト電極 (WE−3G) を備えた電気化学検出器を用い、設定加電圧を+400 mV vs Ag/AgClに設定した。 タイムスケジュールは、細胞外ノルアドレナリン遊離量が安定した(−60分〜0分)後、高カリウムリンゲル液 (NaCl: 101 mM, KCl: 50 mM, CaCl2: 2.3 mM) をプローブ内に20分間灌流し(0〜20分)、その後灌流液を上記リンゲル液に戻して3時間まで細胞外ノルアドレナリン遊離量を測定した。〔(5) ウエスタンブロッティング法によるノルアドレナリントランスポーター蛋白質の発現量の評価〕 脳サンプルおよび細胞は溶解バッファー [lysis buffer; 20 mM Tris−HCl, 150 mM NaCl, 50 mM NaF, 1 mM EDTA, 1 mM EGTA, 1%(w/v)Triton X−100, 1 mM sodium orthovanadate, 0.1%(w/v)SDS, 1%(w/v)sodium deoxycholate, 0.5 mM dithiothreitol, 10 mM sodium pyrophosphate decahydrate, 1 mM phenylmethylsulfonyl fluoride, 10 μg/mL aprotinin, 10 μg/mL leupeptin, and 10 μg/mL pepstatin (pH 7.4)] 中4℃でソニケーターにより超音波破砕し,これらの操作によりホモジネートを得た。ホモジネートを4℃、13000 x gで20分間遠心分離し,得られた上清を使用した。蛋白質量を調整した各上清サンプルにサンプルバッファー [sample buffer; 0.125 M Tris−HCl (pH 6.8), 2%(w/v)SDS, 5%(w/v)glycerol, 0.002%(w/v)bromphenol blue, and 5%(w/v)2−mercaptoethanol] を加えた後,95℃で5分間煮沸した。その後蛋白質 (20 μg) は10%ポリアクリルアミドゲルを用いて電気泳動を行い,ポリビニリデンジフルオリド (PVDF) 膜 (Millipore Corporation, Billerica, MA, USA) へ蛋白質を転写し,Detector Block Kit (Kirkegaard and Perry Laboratories, Gaithersburg, MD, USA) を加えてブロッキングした。PVDF膜にノルアドレナリントランスポーター蛋白質に対する1次抗体 (anti−NAT) (Abcam, Cambridge, MA) を加え,冷蔵庫内(4℃)にて一晩静置した後,2次抗体 (HRP−conjugated anti−rabbit IgG) (Kirkegaard and Perry Laboratories)を加え,室温にて3時間静置した。ウエスタンブロッティング検出試薬のECL (GE Healthcare Biosciences, Piscataway, NJ, USA) を用いて免疫複合体による発光を検出し,その発現量を発光による強度の画像解析により算出した。 次いで,内因性標準物質のβアクチン蛋白質の発現量を調べるため,ストリッピングを行い,1次抗体 (anti−β−actin) (Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA) を加え,インキュベーションした。結果は,得られたノルアドレナリントランスポーター蛋白質のバンドをβアクチン蛋白質のバンドで補正し,コントロール群に対する発現量を百分率(%)として示した。〔(6) ユビキチン化ノルアドレナリントランスポーター蛋白質の発現量の評価〕 上記A(5)に記載の手法に従い、溶解バッファー[lysis buffer]でホモジナイズしたホモジネートからUbiQapture−Q kit(Enzo Life Sciences International, Inc, Plymouth Meeting, PA)を用いてユビキチン化蛋白質を単離し、上記A(5)と同様の条件のウエスタンブロット法によりユビキチン化ノルアドレナリントランスポーター蛋白質を検出した。〔(7) ノルアドレナリントランスポーターmRNAの定量的評価〕 対照である野生型C57BL/6Jマウス及びモデルマウスの前頭皮質からtotalRNAを抽出し、逆転写酵素により合成したcDNAをリアルタイムRT−PCRのテンプレートとして用いた。mRNA発現量はTaqmanプローブ法により定量した。ノルアドレナリントランスポーター遺伝子については以下の配列番号1及び2に示すプライマー、並びに以下の配列番号3に示すTaqmanプローブを用いた。配列番号1:5’−GAGCAGTGGGATCCATGACATC−3’配列番号2:5’−CCAGAGGCTGAAATACAAGACAAG−3’配列番号3:5’−ACGACCATCAGGCAGAGCAGCAGC−3’ また、内部標準として使用したベータアクチンについては以下の配列番号4及び5に示すプライマー、並びに以下の配列番号6に示すTaqmanプローブを用いた。配列番号4:5’−GGGCTATGCTCTCCCTCACG−3’配列番号5:5’−GTCACGCACGATTTCCCTCTC−3’配列番号6:5’−CCTGCGTCTGGACCTGGCTGGC−3’ なお、万が一本実施例に記載の配列と配列表に記載の配列に齟齬がある場合、本実施例に記載の配列が優先する。〔(8)健常者およびうつ病患者血液からの株化リンパ球の作製〕 健常者、並びに、選択的セロトニン再取込阻害薬である抗うつ薬フルボキサミンの効果があったうつ病患者を対象とした。ハミルトンうつ病評価尺度(Hamilton Depression Scale:HAM−D)を判断基準として、当該うつ病患者は医師によりうつ病であると診断された者である。当該健常者は、医師により健常者であると判断された者である。 無菌的に上記各対象者から採血した血液を滅菌した生理食塩水で2倍希釈した。次いで、希釈した当該血液をFicoll−Paque液(GEヘルスケア,Uppsala,Sweden)を3.5ml入れたチューブに静かに重層し、600xgで30分間遠心分離した。次いで、当該遠心分離したサンプルに認められる中間部の白い単核球層及びそのすぐ下層のFicoll−Paque液層を回収した。次いで、当該回収したサンプルを生理食塩水で懸濁し、400xgで30分間遠心分離した。次いで、当該遠心分離により得られた沈渣に生理食塩水を加えて240xgで5分間遠心分離した。次いで、当該遠心分離により得られた沈渣に液体培地(RPMI1640)を加えて再度240xgで5分間遠心分離した。次いで、当該遠心分離で得られた沈渣をリンパ球画分とし、20%胎児ウシ血清、20%Epstein−Barr virusウイルス放出細胞株(B95−8)の培養上清、と2μg/mlシクロスポリンAを加えたRPMI1640を加えて培養した。1週間以上培養し、増殖が認められたものを株化リンパ球とし、10%胎児ウシ血清を加えたRPMI1640を用いて継代培養した。各対象者の血液から調製した株化リンパ球に含まれるノルアドレナリントランスポーター蛋白質発現量の評価は上記A(5)と同様の手順で行った。(B)結果 〔MAGE−D1遺伝子欠損マウス〕 本実施例においては、モデル動物としてMAGE−D1遺伝子欠損マウスを使用した。うつ病様の行動評価として強制水泳試験を用いた。水を入れた狭いシリンダーに入れたマウスが逃避不可能であることを認知し、水に浮き無動状態になっている時間を意欲の低下として評価するものである。当該モデルマウスは強制水泳試験においては無動時間の延長から意欲の低下が認められ、その無動時間の延長はデシプラミン及びアトモキセチンよって、ともに有意に緩解された(図1)。各試験は3連行い、図1は平均値にて作成した。無働時間の平均は、デシプラミン投与試験では、対照マウスは0mg/kgで203秒、10mg/kgで215秒であった。モデルマウスは0mg/kgで425秒、10mg/kgで334秒であった。アトモキセチン投与試験では、対照マウスは0mg/kgで203秒、3mg/kgで205秒であった。モデルマウスは0mg/kgで425秒、3mg/kgで283秒であった。 モデルマウスはノルアドレナリントランスポーターに阻害作用をもつヒト抗うつ薬に強い応答性を示すうつ様行動を示すことが示唆された。また、ノルアドレナリントランスポーターに阻害作用をもつヒト抗注意欠陥・多動性障害薬に対してもモデルマウスは強い応答性を示すうつ様行動を示すことが示唆された。モデルマウスはヒト抗うつ薬によってうつ病様の行動が緩解されるので、モデルマウスで確認される効果はヒトにおいても有効であると合理的に推測される。さらに、うつ病のメカニズムについても、モデルマウスとヒトでノルアドレナリントランスポーターに対して共通点があると合理的に推測される。 うつ病の病態にモノアミン仮説があり、特にノルアドレナリン作動性神経系はセロトニン作働性神経系とともに抗うつ薬の標的として注目されている。モデルマウスの脳組織内ノルアドレナリン含量について、高速液体クロマトグラフィー測定法を用いて評価した。また、モデルマウスの前頭皮質、海馬および扁桃体において、ノルアドレナリン含量は対照マウスと比較して有意に低下していた(図2)。 モデルマウスおよび対象マウスについて各10連試験を行い、図2は平均値にて作成した。前頭皮質のノルアドレナリン含量の平均は、対照マウスは967ng/g、モデルマウスは856ng/gであった。海馬のノルアドレナリン含量の平均は、対照マウスは921ng/g、モデルマウスは795ng/gであった。扁桃体のノルアドレナリン含量の平均は、対照マウスは866ng/g、モデルマウスは740ng/gであった。視床下部のノルアドレナリン含量の平均は、対照マウスは3378ng/g、モデルマウスは2492ng/gであった。側坐核のノルアドレナリン含量の平均は、対照マウスは521ng/g、モデルマウスは520ng/gであった。線条体のノルアドレナリン含量の平均は、対照マウスは374ng/g、モデルマウスは282ng/gであった。 さらにモデルマウスの脳内ノルアドレナリン作動性神経機能について、脳内マイクロダイアリシス法を用いて評価した。また、モデルマウスの前頭皮質および海馬において、高カリウム刺激による細胞外ノルアドレナリン遊離量の増加は対照マウスと比較して有意に低下していた(図3)。 モデルマウス及び対照マウスについて4から5連試験を行い、図3は平均値にて作成した。基礎遊離量とは、−30分〜0分まで、3回に分けて、マウス脳からの流速1μl/minの灌流液を10分間回収した液中のノルアドレナリン濃度の平均であり、モデルマウスの前頭皮質は1.08 ± 0.32 pmol/10μl/10min、対照マウスの前頭皮質は0.87 ± 0.27 pmol/10μl/10 minであり、モデルマウスの海馬は0.92 ± 0.17 pmol/10μl/10min、対照マウスの海馬は0.92 ± 0.13 pmol/10μl/10 minであり、図3は基礎遊離量に対する割合で示した。 前頭皮質における細胞外ノルアドレナリン量の平均は、対照マウスは0分(高カリウム刺激付与直後)で147.3%、20分で175.5%、40分で218.2%、60分で231.1%、80分で304.7%、100分で263.7%、120分で264.4%、140分で263.7%、160分で255.5%、180分で216.6%であった。モデルマウスは0分で101.5%、20分で160.2%、40分で123.7%、60分で134.7%、80分で91.0%、100分で92.4%、120分で84.6%、140分で79.8%、160分で82.7%、180分で67.3%であった。また、海馬における細胞外ノルアドレナリン量の平均は、対照マウスは0分(高カリウム刺激付与直後)で137.0%、20分で269.4%、40分で366.2%、60分で339.4%、80分で295.3%、100分で257.4%、120分で257.4%、140分で238.0%、160分で240.0%、180分で229.4%であった。モデルマウスは0分で195.2%、20分で226.4%、40分で205.5%、60分で172.9%、80分で128.7%、100分で127.8%、120分で151.4%、140分で142.2%、160分で136.2%、180分で128.1%であった。モデルマウスにおいてノルアドレナリン作働性神経系の機能低下が示唆された。 〔実施例1:MAGE−D1遺伝子欠損マウスにおけるノルアドレナリントランスポーターの発現〕 モデルマウス及び対照である野生型C57BL/6Jを用い、モデルマウスにおけるノルアドレナリン作動性神経系の機能低下が何によるかについて、前頭皮質のノルアドレナリントランスポーター蛋白質の発現変化について上記A(5)に記載のウエスタンブロッティングで検討したところ、モデルマウスの前頭皮質においてノルアドレナリントランスポーター蛋白質(80kD)量の増加が認められた(図4a:対照マウスに対して124.2%)。このようなノルアドレナリントランスポーター蛋白質量の増加における転写調節の関与について検討するため、上記A(7)に記載のリアルタイムPCR法にてノルアドレナリントランスポーターmRNAを定量した。ノルアドレナリントランスポーターmRNA量はモデルマウスと対照マウスとで差が認められなかった(図4b:対照マウスに対して84.8%)。また、上記A(6)に記載の手法にて、ノルアドレナリントランスポーター蛋白質のタンパク分解の関与についてそのユビキチン化を検討したところ、ユビキチン化ノルアドレナリントランスポーター蛋白質量はモデルマウスと対照マウスとで有意な差が認められなかった(図4c:対照マウスに対して91.0%)。MAGE−D1遺伝子欠損により、モデルマウスにおいてノルアドレナリントランスポーター蛋白質量が増加することが示唆された。しかし、ノルアドレナリントランスポーターmRNAの合成やユビキチン化を介したノルアドレナリントランスポーター蛋白質の代謝には変化が認められなかった。 図4a〜cに結果を記載した上記試験はモデルマウス及び対照マウスについて各3連試験を行い、試験結果は平均値にて記載した。〔実施例2:うつ病患者由来の株化リンパ球におけるノルアドレナリントランスポーター発現量〕 健常者由来の株化リンパ球におけるノルアドレナリントランスポーターの発現量(当該発現量をノルアドレナリントランスポーター蛋白質量のコントロールとする。)と比較して、抗うつ薬の効果のあったうつ病患者由来の株化リンパ球のノルアドレナリントランスポーター発現量は130.1%であり有意な増加が認められた。上記各試験は6連行い、結果は平均値にて記載した。 これらの結果から、抗うつ薬応答性のうつ病患者由来の株化リンパ球においてノルアドレナリントランスポーター発現量の増加が認められた。 これら実験における有意差検定には一元配置分散分析及びポストホック解析であるFisher‘s PLSD法を用いた。 本発明により、有用なうつ病に関する新規マーカーを利用する方法及びキットが提供される。ノルアドレナリントランスポーター及びドーパミントランスポーターから選ばれる1種以上を含むうつ病マーカー。被験者から採取した血液検体における請求項1に記載のうつ病マーカーの発現量を調べる工程を含むうつ病の決定方法。更に、少なくとも1人の健常者から得た対照たる請求項1に記載のうつ病マーカーの発現量と、被験者から採取した血液検体における請求項1に記載のうつ病マーカーの発現量とを比較する工程を含む請求項2に記載のうつ病決定方法。前記比較の結果、被験者から採取した血液検体における請求項1に記載のうつ病マーカーの発現量が対照より高レベルである場合に当該被験者がうつ病であると決定する請求項3に記載のうつ病決定方法。被験者から採取した血液検体において下記の(1)及び(2)の分析をする工程を含むうつ病決定方法。(1)ノルアドレナリントランスポーター発現量(2)ユビキチン化及び/又はリン酸化されたノルアドレナリントランスポーターの比率前記うつ病決定方法が、更に少なくとも1人の健常者から得た対照たる下記の(3)及び(4)の分析結果と、被験者における分析結果とを比較する工程を含む請求項5に記載のうつ病決定方法。(3)ノルアドレナリントランスポーター発現量(4)ユビキチン化及び/又はリン酸化されたノルアドレナリントランスポーターの比率前記比較の結果、 被験者から採取した血液検体から得たノルアドレナリントランスポーター発現量が対照より高レベルである場合、もしくは、 被験者から採取した血液検体から得たユビキチン化及び/又はリン酸化されたノルアドレナリントランスポーターの比率が対照より低レベルである場合 に当該被験者がうつ病であると決定する請求項6に記載のうつ病決定方法。請求項1に記載のうつ病マーカーの検出材を含むキット。更に、ユビキチン化蛋白質回収材及びリン酸化蛋白質回収材から選ばれる1以上を含む請求項8に記載のキット。請求項1に記載のうつ病マーカーの発現量を調べる工程を含む、うつ病の診断を補助するためのアッセイ方法。請求項1に記載のうつ病マーカーのユビキチン化及び/又はリン酸化を調べる工程を含む、うつ病の診断を補助するためのアッセイ方法。請求項1に記載のうつ病マーカーの発現量の変化を調べる工程を含む、うつ病薬のスクリーニング方法。 【課題】うつ病に関する新規マーカーを利用する方法及びキットを提供すること。【解決手段】ノルアドレナリントランスポーター及びドーパミントランスポーターから選ばれる1種以上を含むうつ病マーカー。被験者から採取した血液検体における上記うつ病マーカーの発現量を調べる工程を含むうつ病の決定方法。【選択図】図5配列表