タイトル: | 特許公報(B2)_ポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体の製造方法 |
出願番号: | 2012555854 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | C07D 487/22 |
佐藤 剛史 伊藤 直次 伊藤 智志 JP 5823988 特許公報(B2) 20151016 2012555854 20120130 ポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体の製造方法 国立大学法人宇都宮大学 304036743 吉村 俊一 100117226 佐藤 剛史 伊藤 直次 伊藤 智志 JP 2011019291 20110131 20151125 C07D 487/22 20060101AFI20151105BHJP JPC07D487/22 C07D 487/22 C09B 47/00−47/32 CAplus/REGISTRY(STN) CASREACT(STN) 特表2003−527448(JP,A) 特表2003−519711(JP,A) 特表平08−504399(JP,A) 特開平11−217385(JP,A) 特開2010−229145(JP,A) 特表2009−515002(JP,A) 国際公開第2007/142132(WO,A1) 特表2003−501432(JP,A) 特開2000−247978(JP,A) 特表2002−535332(JP,A) 特表2002−526502(JP,A) 特表2002−521384(JP,A) 特表2001−521939(JP,A) 特開平06−234661(JP,A) 特開昭61−189284(JP,A) 2 JP2012051961 20120130 WO2012105483 20120809 22 20141010 谷尾 忍 本発明は、ポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体の製造方法に関する。 ポルフィリン型骨格を有する化合物の一つであるポルフィリンの金属錯体は、様々な特徴を有している。例えば、ポルフィリンの金属錯体は、分子内にπ共役系を有し、π電子がポルフィリン分子内を自由に動き回ることで、生命活動にとって重要な情報伝達やエネルギーの伝達をする。また、π共役系が一定の広がりを有しており、その広がりが、紫外光や可視光の吸収に大きな影響を与えるので、紫外可視領域における特徴的な光学特性を有する。具体的には、ポルフィリンの金属錯体は、骨格中のヘテロポリエン構造(18π電子系)に起因して、ソーレー帯と呼ばれる400nm〜500nm付近の鋭い吸収帯と、Q帯と呼ばれる500nm〜700nm付近の広い吸収帯とを有し、前者は禁制遷移であるのに対して、後者は許容遷移であるので、それぞれの分子吸光係数に大きな差があるという特徴がある。また、Q帯は、ポルフィリン単独の場合は4つに分裂しているが、錯体にすると対称性が上がるため分裂数が減少するという特徴がある。さらに、ソーレー帯やQ帯等の吸収スペクトルは、ポルフィリンの金属錯体の、骨格形状、外部置換基、中心金属及び配位子等によって異なるという特徴がある。このような多様な性質を持つことから、ポルフィリンの金属錯体は、生体系に存在するのみでなく、機能性物質として多く活用されるとともに、盛んに研究されている。 例えば、ポルフィリンの金属錯体は、上記した特徴的な光学特性に基づいて、分析試薬として活用されている。また、ポルフィリン型骨格を有する化合物であるクロロフィルの金属錯体やポルフィリンの亜鉛錯体は、吸収した光によって光電子移動を引き起こすので、太陽電池への応用が検討されている。また、ポルフィリンの金属錯体は、発光性のものが多く、それらは有機ELの発光材料として検討されている。また、ポルフィリンの金属錯体のうち、安定な酸化還元特性を示すものは、有機合成等の触媒として活用されている。さらに、ポルフィリンの金属錯体は、π共役系に由来する相互作用によって、それ自身で超分子になる。また、ポルフィリンの金属錯体は、軸配位子による錯形成によっても、超分子になる。ポルフィリンの金属錯体は、DNAへも強くスタッキングするため、光治療用の増感剤としての研究も行われている。このように、ポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体は、様々な特徴を持つため、近年、太陽電池や触媒等の機能性材料や、増感剤等の医薬、及び農薬等の幅広い分野での応用が期待されている。 このような背景の下、ポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体の合成方法に関する種々の研究がなされている。還流させた酢酸又はぎ酸中で、ポルフィリンと主に金属酢酸塩とを反応させることで、ポルフィリンの金属錯体を合成できるとされている。例えば、還流させた酢酸又はぎ酸中で、ポルフィリンと酢酸銅とを反応させるとポルフィリン銅錯体を生成し、ポルフィリンと酢酸銀とを反応させるとポルフィリン銀錯体を生成し、ポルフィリンと塩化金とを反応させるとポルフィリン金錯体を生成し、ポルフィリンと酢酸亜鉛とを反応させるとポルフィリン亜鉛錯体を生成し、ポルフィリンと酢酸マンガンとを反応させるとポルフィリンマンガン錯体を生成し、ポルフィリンと酢酸鉄とを反応させるとポルフィリン鉄錯体を生成し、ポルフィリンと酢酸コバルトとを反応させるとポルフィリンコバルト錯体を生成し、ポルフィリンと酢酸ニッケルとを反応させるとポルフィリンニッケル錯体を生成するとされている(非特許文献1)。 また、ピリジン中でも、ポルフィリンと主に金属酢酸塩とを反応させることで、ポルフィリンの金属錯体を合成できるとされている。例えば、ピリジン中で、ポルフィリンと酢酸カドミウムとを反応させるとポルフィリンカドミウム錯体を生成し、ポルフィリンと酢酸水銀とを反応させるとポルフィリン水銀錯体を生成し、ポルフィリンと酢酸タリウムとを反応させるとポルフィリンタリウム錯体を生成し、ポルフィリンと塩化スズとを反応させるとポルフィリンスズ錯体を生成し、ポルフィリンと酢酸鉛とを反応させるとポルフィリン鉛錯体を生成し、ポルフィリン酢酸マグネシウムとを反応させるとポルフィリンマグネシウム錯体を生成するとされている(非特許文献2)。 また、ポルフィリン型骨格を有する化合物に金属を導入する方法として、有機溶媒中でポルフィリンと主に金属カルボニルとを反応させることで、ポルフィリンジメチルエステルを得ることができるとされている。例えば、有機溶媒中で、ポルフィリンと、クロム、コバルト、ニッケル、鉄、バナジウムのカルボニル、及びジフェニルチタニウムのいずれか一つとを反応させることで、それぞれのポルフィリンジメチルエステルを生成するとされている(非特許文献3)。 現在、ポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体の合成方法として、ポルフィリン型骨格を有する化合物と金属塩との双方が溶解する極性有機溶媒に、これらを溶解させてポルフィリンの金属錯体を合成する方法が提案されている(非特許文献4)。具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、酢酸及びピリジン等の極性有機溶媒中にポルフィリン型骨格を有する化合物と金属塩とを溶解させて反応させることで、ポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体を合成できるとされている。例えば、テトラフェニルポルフィリンと、亜鉛、銅、マグネシウム、ニッケル、コバルト、鉄、クロム、マンガン、酸化バナジウム、水銀、カドミウム、鉛、スズ、マグネシウム、バリウム、カルシウム、パラジウム及び銀から選ばれるいずれかの、酢酸塩、ハロゲン化物、水酸化物又は炭酸塩とを、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)中で反応させると、当量のテトラフェニルポルフィリン金属錯体を生成するとされている(非特許文献5)。 さらに、テトラフェニルポルフィリンと塩化銅とをジメチルスルホキシド(DMSO)中で35℃〜60℃で反応させると、テトラフェニルポルフィリン銅錯体を生成することが提案されている(非特許文献6)。P.Rothemund and A.R.Menotti, “Porphryn Studies.V The Metal Complex Salts of α,β,γ,δ―Tetraphenylporphine", J.Am.Chem.Soc., 70, 1808-1812(1948).G.D.Dorough, J.R.Miller and F.M.Huennekens, “Spectra of the Metallo-derivatives of α,β,γ,δ―Tetraphenylporphine", J.Am.Chem.Soc., 73, 4315-4320(1951).M.Tsutsui, R.A.Velapoldi, K.Suzuki, F.Vohwinkel, M.Ichikawa and T.Koyano, “Unusual metalloporphyrins. IV. Novel methods for metal insertion into porphyrins", J.Am.Chem.Soc., 91, 6262-6266(1969).A.D.Adler, F.R.Longo, J.D.Finarelli, J.Goldmacher, J.Assour and L.Korsakoff, “A Simplified Synthesis for meso-Tetraphenylporpjhin", J.Org.Chem., 32, 476(1967).A.D.Adler, F.R.Longo, F.Manpas and J.Kim, “On the preparation of metalloporphyrins", J.Inorg.Nucl.Chem., 32, 2443-2445(1970).R.F.Pasternack, G.C.Vogel, C.A.Skowronek, R.K.Harris and J.G.Miller, “Copper(II) Incorporation into Tetraphenylporphine in Dimethyl Sulfoxide", J. Inorg.Chem., 20, 3763-3765(1981). しかしながら、通常の有機溶媒は、金属塩を溶解しにくいという問題がある。また、極性有機溶媒は、金属塩を溶解できるが、有害であり、種類によっては悪臭を発する等、ハンドリングが容易ではないという問題がある。また、極性有機溶媒は、反応原料であるポルフィリン型骨格を有する化合物及び金属塩を溶解するだけでなく、生成物である金属錯体も溶解してしまうため、生成された金属錯体の分離が困難であるという問題がある。さらに、極性有機溶媒を用いる場合は、極性溶媒から生成物を分離させるために、高沸点の極性有機溶媒を揮発させる工程や共溶媒の添加と再分離の工程が必要である等、分離工程が煩雑であるという問題がある。 本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、反応させる時に有機溶媒を用いず、反応させた後は金属錯体と水とを容易に分離することができる、環境負荷が極めて小さくかつ少ない工程で効率的なポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体の製造方法を提供することにある。 本発明者らは、鋭意検討した結果、水中で金属塩とポルフィリン型骨格を有する化合物との混合物を高温高圧状態にし、高温高圧水中に金属塩とポルフィリン型骨格を有する化合物とを溶解させることで、有機溶媒を用いることなくポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体を製造する手法を見出し、本発明を完成させた。 上記課題を解決するための本発明に係るポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体の製造方法は、ポルフィリン型骨格を有する化合物及び金属塩を水中で200℃以上450℃以下の反応温度で反応させることを特徴とする。 この発明によれば、ポルフィリン型骨格を有する化合物及び金属塩を水中で200℃以上450℃以下の反応温度で反応させるので、有害で悪臭を発する有機溶媒を使用せずに、水を用いて、ポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体を製造することができる。また、水を溶媒として用いているので、生成物である金属錯体を水溶媒から容易に分離することができる。その結果、極性有機溶媒を用いた場合のように、反応させた後の溶媒中に、反応原料であるポルフィリン型骨格を有する化合物及び金属塩と、生成物であるポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体との全てが溶解してしまい、分離が困難になるという問題を回避することができる。さらに、金属錯体と水とを分離させる時に、高沸点の極性有機溶媒を用いた場合のような揮発工程や共溶媒の添加と再分離工程が不要であり、極性有機溶媒を用いた場合よりも分離工程を簡略化することができる。このように、本発明に係る製造方法によれば、ポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体を、環境負荷が極めて小さい方法で、かつ少ない工程で効率的に、製造することができる。 上記課題を解決するための本発明に係るポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体の製造方法の好ましい態様は、前記ポルフィリン型骨格を有する化合物が下記式(1)で表されるテトラフェニルポルフィリンである。式(1)中、Phはフェニル基を表す。 この発明によれば、ポルフィリン型骨格を有する化合物が上記式(1)で表されるテトラフェニルポルフィリンであるので、ポルフィリン型骨格を有する一般的な化合物に、幅広く適用することが容易になる。 上記課題を解決するための本発明に係るポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体の製造方法は、ポルフィリン型骨格を有する化合物及び金属塩を水中で200℃以上450℃以下の反応温度で反応させてポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体を生成させる反応工程と、前記反応温度を下げて前記水と前記ポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体とを分離させる分離工程と、を備えることを特徴とする。 この発明によれば、上記した反応工程と分離工程とを備えるので、有害で悪臭を発する有機溶媒を使用せずに、水のみを用いたクリーンなプロセスを実現することができる。また、水を溶媒として用いているので、生成物である金属錯体を水溶媒から容易に分離することができる。その結果、極性有機溶媒を用いた場合のように、反応させた後の溶媒中に、反応原料であるポルフィリン型骨格を有する化合物及び金属塩と、生成物であるポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体との全てが溶解してしまい、分離が困難になるという問題を回避することができる。さらに、金属錯体と水とを分離させる時に、高沸点の極性有機溶媒を用いた場合のような揮発工程や共溶媒の添加と再分離工程が不要であり、極性溶媒を用いた場合よりも分離工程を簡略化することができる。このように、本発明に係る製造方法によれば、ポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体を、環境負荷が極めて小さい方法で、かつ少ない工程で効率的に、製造することができる。 上記課題を解決するための本発明に係るポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体の製造方法の好ましい態様は、前記ポルフィリン型骨格を有する化合物が下記式(1)で表されるテトラフェニルポルフィリンであり、前記ポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体が下記式(2)で表されるテトラフェニルポルフィリン金属錯体である。式(1)中、Phはフェニル基を表す。式(2)中、Phはフェニル基を表し、Mは金属を表す。 この発明によれば、ポルフィリン型骨格を有する化合物が上記式(1)で表されるテトラフェニルポルフィリンであり、その金属錯体が上記式(2)で表されるテトラフェニルポルフィリン金属錯体であるので、ポルフィリン型骨格を有する一般的な化合物に、幅広く適用することが容易になる。 上記課題を解決するための本発明に係るポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体の製造方法の好ましい態様は、前記金属塩が硫酸塩である。 この発明によれば、金属塩として硫酸塩を用いるので、金属種が陽イオンの状態で存在しやすくなる。その結果、金属塩がポルフィリン型骨格を有する化合物と反応しやすくなり、金属錯体を高収率で安定的に製造することができる。また、安価な金属塩を用いてポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体を製造することができる。 本発明に係るポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体の製造方法によれば、反応させる時に有機溶媒を用いず、反応させた後は金属錯体と水とを容易に分離することができる。その結果、ポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体を、環境負荷が極めて小さい方法で、かつ少ない工程で効率的に、製造することができる。 具体的には、所定の反応温度の場合のみ、水中にポルフィリン型骨格を有する化合物及び金属塩の双方が溶解するという現象を利用する。その結果、有害な有機溶媒を用いずに、かつ生成した金属錯体と水との分離が容易なポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体を製造することができる。ポルフィリン型骨格を有する化合物への金属導入反応を示す図である。テトラフェニルポルフィリンと硫酸銅水溶液との反応に対する温度の影響を示す薄膜クロマトグラフィーである。テトラフェニルポルフィリンと硫酸銅水溶液との反応の温度依存性を示すグラフである。テトラフェニルポルフィリンと硫酸ニッケル水溶液との反応の温度依存性を示すグラフである。テトラフェニルポルフィリンと硫酸コバルト水溶液との反応の温度依存性を示すグラフである。テトラフェニルポルフィリン銅錯体の収率と反応時間との関係を示すグラフである。陰イオンの効果を示すグラフである。金属種依存性を示すグラフである。ポルフィリン種依存性を示すグラフである。 以下、本発明に係るポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体の製造方法について、図面を参照しつつ具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施形態及び実験例に限定されるものではない。 [金属錯体の製造方法] 本発明に係るポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体(以下、単に「金属錯体」ともいう。)の製造方法は、ポルフィリン型骨格を有する化合物及び金属塩を水中で200℃以上450℃以下、好ましくは300℃以上400℃以下の反応温度で反応させるものである。 (ポルフィリン型骨格を有する化合物) ポルフィリン型骨格は、ポルフィリンのような骨格構造のことであり、ポルフィリン型骨格を有する化合物は、そのような骨格構造を有する化合物のことである。具体的には、ポルフィリン型骨格を有する化合物は、下記式(3)及び下記式(4)で表される構造を有する化合物を含むものである。式(3)中、Zia及びZibは水素原子、ハロゲン原子又は1価の有機基を表し、R1〜R4は、水素原子、ハロゲン原子又は1価の有機基を表し、iは1〜4の整数を示す。式(4)中、Zia及びZibは水素原子、ハロゲン原子又は1価の有機基を表し、iは1〜4の整数を示す。 上記式(3)及び上記式(4)のZia及びZib(iは1〜4の整数を示す。)としては、水素原子;水酸基;炭素数1〜10の置換されていてもよい、アルキル基、アルコキシ基、メルカプト基(アルキルチオ基)、アシル基及びカルボキシル基;カルボキシル基と炭素数1〜10のアルコールとのエステル;ホルミル基;カルバモイル基;フッ素、塩素、臭素及びヨウ素等のハロゲン原子;炭素数1〜10のアルキル基で置換されていてもよいアミノ基及びニトロ基;等が挙げられる。これらはさらに置換基を有していてもよい。また、Zia及びZibは、相互に結合して環を形成していてもよく、Zia−CH=CH−Zibの構造として形成される環としては、ベンゼン環、ナフタレン環及びアントラセン環等の芳香族炭化水素;ピリジン環、キノリン環、フラン環及びチオフェン環等の複素環;シクロヘキセン等の非芳香族環状炭化水素;等が挙げられる。また、R1〜R4の1価の有機基としては、置換されていてもよい、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、メルカプト基、カルボキシル基及びカルボキシル基と炭素数1〜10のアルコールとのエステル等が挙げられる。 ポルフィリン型骨格を有する化合物は、特に、下記式(1)で表されるテトラフェニルポルフィリン及びテトラt−ブチルテトラアザポルフィリンから選ばれる1種又は2種であることが好ましい。式(1)中、Phはフェニル基を表す。 ポルフィリン型骨格を有する化合物は、後述する水中に、5×10−4mol/L〜1mol/Lに相当する範囲で含まれ、好ましくは、5×10−3mol/L〜1×10−1mol/Lに相当する範囲で含まれ、より好ましくは、1×10−2mol/L〜5×10−2mol/Lに相当する範囲で含まれる。 (金属塩) 金属塩は、ポルフィリン型骨格を有する化合物と反応して金属錯体を生成するための反応原料であれば、特に限定されないが、文字通り金属塩であってもよいし、金属とハロゲン原子等の他の原子とが結合したものの塩(金属錯塩)であってもよいし、金属錯体であってもよい。金属塩及び金属錯塩としては、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、酢酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸二水素塩、水酸化物、及びクエン酸塩等を挙げることができる。 金属塩、金属錯塩及び金属錯体を構成する金属としては、例えば、Li、Na及びK等のアルカリ金属;Mg、Ca及びBa等のアルカリ土類金属;Fe、Ni、Cu及びAu等の遷移金属;等を挙げることができる。金属錯塩を構成する、金属と他の原子とが結合したものとしては、上記した金属とハロゲン原子等とが結合したもの等を挙げることができる。 金属錯体としては、上記した金属を有するポルフィリン金属錯体を挙げることができる。ポルフィリン金属錯体は、常温の水には不溶であるが、本発明では溶媒として高温高圧水を用いるので、ポルフィリン金属錯体が水に溶ける。その結果、ポルフィリン金属錯体を、金属錯体を生成するための反応原料として用いることができる。このようなポルフィリン金属錯体としては、1個のポルフィリン環が1個又は2個以上の金属原子を配位しているポルフィリン金属錯体、2個以上のポルフィリン環が1個又は2個以上の金属原子を共有して結合したポルフィリン金属錯体、及びこれらが3個以上結合して長鎖状につながったポルフィリン金属錯体等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。 金属塩は、好ましくは、Cu、Ni、Co、V=O、Fe、Mn、Mg、Cr、Zn、Fe−B1、Al−B2、Ti=O、及びSi−B3B4から選ばれる1種又は2種以上を含み、より好ましくは、Cu、Ni、Co、及びV=Oから選ばれる1種又は2種以上を含む。なお、「Ti=O」及び「V=O」における「=」は二重結合を示し、「Fe−B1」、「Al−B2」、及び「Si−B3B4」における「−」は単結合を示す。また、B1、B2、B3及びB4はハロゲン原子、アルキル基、及びアルコキシ基から選ばれる1価の基のいずれかを示す。 金属塩は、後述する水によく溶解するので、高価な酢酸塩を用いなくても、硫酸塩、塩化物及び水酸化物等の安価な金属塩を用いることができる。上記した金属塩の中でも、生成物の収率を高める点で硫酸塩が好ましい。具体的には、硫酸銅、硫酸ニッケル、硫酸コバルト及び硫酸バナジルから選ばれる1種又は2種以上であることが好ましい。 金属塩は、後述する水中に、1×10−3mol/L〜5mol/Lの範囲で含まれ、好ましくは、1×10−2mol/L〜5×10−1mol/Lの範囲で含まれ、より好ましくは、5×10−2mol/L〜1×10−1mol/Lの範囲で含まれる。 (水) 水は、溶媒として作用する。本発明では、有機溶媒は使用しないので、環境負荷が極めて小さいクリーンな金属錯体の製造方法とすることができる。また、水は、上述した金属塩をよく溶解するので、酢酸塩等の高価な金属塩を用いなくても、硫酸塩、塩化物及び水酸化物等の安価な金属塩を用いて金属錯体を製造することができる。また、製造される金属錯体は、所定の反応温度未満では水には不溶なので、金属錯体を製造させた後は、例えば、水の温度を常温にするだけで、金属錯体を水から容易に分離でき、製造工程の簡略化、及び経済化を図ることができる。さらに、金属錯体を水から容易に分離できるので、金属錯体を高収率で回収することができ、工業的生産が期待できる。このように、溶媒として水を用いることで、環境負荷が小さく、安価な金属塩を利用でき、かつ金属錯体を容易に分離及び回収できる製造方法にすることができる。 水は、金属塩等の無機塩をよく溶解する。しかし、常温の水は誘電率が高いため、無極性の有機物をほとんど溶解しない。そのため、水の温度を250℃以上400℃以下にし、さらに高圧にする。こうした高温高圧水は、極性有機溶媒と同程度の低い誘電率を有し、無機塩を溶解するとともに無極性の有機物も溶解する。特に、水の臨界温度(374.1℃)付近では、水は、様々な有機物と均一相を形成できるほど有機物をよく溶解する。このように、高温高圧水は、無機物及び有機物の双方を溶解することが可能な反応溶媒になるという特長がある。 例えば、ポルフィリン型骨格を有する化合物であるテトラフェニルポルフィリン(以下「TPP」と略すことがある。)を水に溶解させる溶解実験を行うと、250℃(3.4MPa)で液相(水相)に少し溶解し、300℃(7.8MPa)で液相(水相)に溶解する。温度が上昇し、気相中の水の密度が液相中の水の密度に近づくにつれ、TPPは気相中の水にも溶解する。375℃(21.3MPa)で気相と液相とが均一になると、TPPは水に完全に溶解する。このように、高温高圧水は、ポルフィリン型骨格を有する化合物を溶解するので、新たな反応場として期待される。 高温高圧水がポルフィリン型骨格を有する化合物を溶解するメカニズムは、次のように考えられる。水の温度が上昇するにつれ、水の誘電率が低下する。これに伴い、水の極性も小さくなり無極性へと近づく。このことから、水の温度が上昇するにつれ、高温高圧水が有機物を溶解するようになり、TPPをよく溶解するようになる。 本発明に係るポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体の製造方法は、ポルフィリン型骨格を有する化合物及び金属塩を水中で200℃以上450℃以下の反応温度で反応させてポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体を生成させる反応工程と、反応温度を下げて、水とポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体とを分離させる分離工程と、を具備する。このような反応工程と分離工程とを具備することで、極めて簡便に、安価に、環境負荷の小さい、さらには工業的に採用しやすい、クリーンなポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体の製造方法を提供することができる。 (反応工程) 反応工程は、ポルフィリン型骨格を有する化合物及び金属塩を水中で200℃以上450℃以下の反応温度で反応させてポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体を生成させる工程である。反応工程では、200℃以上450℃以下の高温、及び1.0MPa以上50.0MPa以下の高圧状態で、水中にポルフィリン型骨格を有する化合物が溶解し、金属塩と反応する。反応温度が200℃未満であると、反応速度が遅いために効率が悪くなり、反応温度が450℃を超えると、目的生成物である金属錯体以外への副反応が進行しやすくなる。反応温度は、好ましくは300℃以上400℃以下であり、より好ましくは350℃以上380℃以下である。反応工程で用いるポルフィリン型骨格を有する化合物、金属塩及び水については、上述のとおりである。 反応工程は、例えば、密閉された反応容器(例えば、温度及び圧力を加えることができる高温高圧容器等)内に金属塩水溶液とポルフィリン型骨格を有する化合物とを導入し、その高圧容器をサンドバスに投入して、所定の温度及び圧力にすることで行うことができる。反応時間は、10分以上120分以下であり、好ましくは30分以上60分以下である。反応時間を上記の範囲とすることで、金属錯体を確実に製造することができる。なお、ここでの反応時間とは、反応容器内部が高温高圧状態となってから経過した時間を意味する。 図1は、ポルフィリン型骨格を有する化合物としてテトラフェニルポルフィリン(TPP)を用いた場合の金属錯体の生成反応を示す図である。図1に示すように、TPP及び金属塩を水中で、高圧下で300℃以上400℃以下の温度で反応させる。金属塩とポルフィリン型骨格を有する化合物との混合物を水中で高温高圧状態とすることで、高温高圧水中に金属塩とポルフィリン型骨格を有する化合物とを溶解させることができ、有機溶媒を用いることなくポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体を製造することができる。 なお、反応工程に先だって、ポルフィリン型骨格を有する化合物及び金属塩を準備する工程等、必要な前工程を適宜加えることができる。また、反応工程では、本発明の要旨の範囲内であれば、ポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体の製造に際して必要な成分を水中に適量含有させてもよい。 (分離工程) 分離工程は、上記した反応工程の後、反応温度を下げて、水と金属錯体とを分離する工程である。ポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体は、上記した所定の反応温度未満の温度では、水に不溶であるため、反応工程の後、反応温度を下げることで、金属錯体が固体生成物となって析出する。その結果、金属錯体と水とを容易に分離することができる。反応温度を常温まで下げると、金属錯体と水とを分離できるとともに、その後の操作が容易になる。常温とは、概ね100℃以下で液相が形成される温度をさす。水と金属錯体との分離は、例えば、反応させた後の反応容器を水浴に投入して冷却することで行うことができる。その後、反応させた後の水をろ過して固体生成物をろ別し、固体生成物に含まれる金属錯体を回収することができる。 なお、反応させた後の水中に未反応のポルフィリン型骨格を有する化合物がある場合は、固体生成物には、未反応のポルフィリン型骨格を有する化合物も含まれている。この場合は、カラムクロマトグラフィー等によって、固体生成物中に含まれる金属錯体と未反応のポルフィリン型骨格を有する化合物とを分離することができる。こうして、固体生成物中に含まれる金属錯体を回収することができる。また、反応させた後の水中に、未反応の金属塩がある場合は、この水中には、未反応の金属塩も含まれている。この場合、水は、未反応の金属塩を含む金属塩水溶液ということもできる。 なお、必要に応じ、分離工程の後、他の工程を加えてもよい。こうした工程としては、例えば、反応後の反応容器内にクロロホルム等の無極性有機溶媒を加えて、金属錯体を有機相に抽出し、この有機相を揮発させて濃縮させる工程や、カラムクロマトグラフィーを用いて、金属錯体と、未反応のポルフィリン型骨格を有する化合物及び副生成物等とを分離する工程等を挙げることができる。 [金属錯体] 本発明に係るポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体の製造方法によって生成される金属錯体としては、テトラフェニルポルフィリン金属錯体、フタロシアニン金属錯体、及びテトラアザポルフィリン金属錯体等を挙げることができる。得られる金属錯体は、紫外可視分光光度計や質量分析計等で分析することで定性することができる。 以上説明したように、本発明に係るポルフィリン金属錯体の製造方法は、有害で悪臭を発する有機溶媒を使用せずに、水を用いて、ポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体を製造することができる。また、水を溶媒として用いているので、生成物である金属錯体を水溶媒から容易に分離することができる。その結果、分離工程を簡略化することができる。このように、本発明に係る製造方法によれば、ポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体を、環境負荷が極めて小さい方法で、かつ少ない工程で効率的に、製造することができる。 次に、本発明を実施例でさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。 (溶解観察) テトラフェニルポルフィリン(TPP)の水への溶解性の確認を、内容積10cm3の可視化セルを用いて行った。具体的には、TPPと水とが入った可視化セルを、50℃(0.1MPa)、150℃(0.3MPa)、200℃(1.3MPa)、250℃(3.4MPa)、300℃(7.8MPa)、325℃(11.2MPa)、350℃(16.0MPa)及び375℃(21.3MPa)のそれぞれの条件に設定して、TPPが水に溶解するか否かを観察した。その結果、250℃(3.4MPa)で液相(水)に少し溶解し、300℃(7.8MPa)で液相(水相)に溶解した。温度が上昇するにつれ、TPPは気相中の水にも溶解した。375℃(21.3MPa)で気相と液相とが均一になると、TPPは水に完全に溶解した。 (実験例1−1) 50mLメスフラスコを用いて、金属塩として硫酸銅1.208gを50mLの蒸留水に溶解させ、0.1mol/LのCuSO4水溶液を調製した。次に、反応容器である内容積6cm3の回分式反応器(ステンレス製)内に、ポルフィリン型骨格を有する化合物としてテトラフェニルポルフィリン(TPP)0.02g(3.3×10−5mol)、硫酸銅水溶液3.0g、及び反応容器腐食防止のために硫酸銅と当量の炭酸ナトリウム0.032gを仕込み、反応容器内をアルゴン置換して密閉した。次に、350℃に設定したサンドバス内に反応容器を投入した。約4分で反応容器内は反応温度に到達した。 投入してから60分間反応させた後、反応容器を水浴に投入して急冷した。クロロホルムで反応容器内を洗浄し、反応容器内の水相及びクロロホルム相を全てスクリュー管瓶に回収し、分液ロートに移し、水相とクロロホルム相とを分離した。続いて、クロロホルム相を蒸留水及び飽和食塩水で洗浄した。次に、クロロホルム相を硫酸ナトリウムに通して水分を除去した後、ロータリーエバポレーターでクロロホルムを除去した。得られた固形分について、シリカゲル60N(関東化学株式会社製)を充填剤とし、クロロホルム−ヘキサンの1:1溶液を展開溶媒としたカラムクロマトグラフィーで分離し、TPP銅錯体溶液を得た。カラムクロマトグラフィーを行う際、適宜薄層クロマトグラフィーを用いて、TPP銅錯体が分離しているかを確認した。その後、さらに展開溶媒を流して、未反応TPP溶液及び副生成物等を回収した。 これらのサンプルを乾燥して秤量した。なお、乾燥して得られた固体生成物は、分析時に必要に応じてクロロホルムに再び溶解させた。分析は、紫外可視分光光度計(V−560、日本分光株式会社製)で可視光吸収スペクトルを測定し、さらにマトリックス支援レーザー脱離イオン化法−飛行時間型質量分析計(autoflex TOF/TOF、BRUKER社製)でマススペクトルを測定することで定性を行った。 (実験例1−2) 反応温度を150℃、200℃、250℃、300℃及び400℃にそれぞれ変更した以外は、実験例1−1と同様に、TPP銅錯体を製造した。各反応温度における薄層クロマトグラフィーの展開状況を図2に示し、TPP銅錯体の収率に対する反応温度の影響を示すグラフを図3に示した。図3中、菱形のプロットはTPP銅錯体の収率(mol%)を表し、四角のプロットはTPPの収率(mol%)を表している。 図2に示すように、反応温度が150℃ではTPP銅錯体のラインは薄くてTPPのラインが濃いことから、反応がほとんど進行していないことがわかった。反応温度が200℃では、150℃よりもTPP金属錯体のラインが濃く、反応温度が250℃及び300℃に上昇すると、TPP銅錯体のラインが濃くなった。また、反応温度が350℃及び400℃に上昇すると、TPP銅錯体のラインは濃いまま、TPPのラインがだんだん薄くなった。したがって、温度上昇にともない反応が効率よく進行していることがわかった。 なお、各反応温度における反応容器内の圧力は、詳しくは、150℃では0.5MPaであり、200℃では1.6MPaであり、250℃では4.0MPaであり、300℃では8.6MPaであり、350℃では16.5MPaであり、380℃では27.1MPaであり、400℃では37.2MPaであった。 図3に示すように、TPPと硫酸銅水溶液の反応の温度依存性について検討した。TPP銅錯体の収率は、150℃で8mol%、200℃で8mol%、250℃で18mol%、300℃で32mol%、350℃で80mol%及び400℃で91mol%であった。これらの結果から、350℃付近で反応が急激に進行し、図2に示した溶解観察結果と一致した。TPP銅錯体の収率は90mol%以上であった。 (実験例1−3) 反応時間を10分、20分、30分及び120分にそれぞれ変更した以外は、実験例1−1と同様に、TPP銅錯体を製造した。各反応時間における金属錯体の収率を表すグラフを図6に示した。図6に示すように、TPP金属錯体の収率は、反応時間が10分の場合は27mol%、20分の場合は41mol%、30分の場合は42mol%、60分の場合は80mol%及び120分の場合は66mol%であった。 (実験例2−1) 金属塩として、CuSO4に代えて、CoSO4、NiSO4、VOSO4、Co(NO3)2、Ni(NO3)2、Cu(NO3)2、CoCl2、NiCl2及びCuCl2をそれぞれ用いた以外は、実験例1−1と同様に、TPP金属錯体を製造した。図7及び図8に、それぞれの金属塩を用いた場合のTPP金属錯体、未反応TPP及び副生成物等の収率を示した。図7は、金属塩の陰イオンの効果を示すグラフであり、図8は、金属種の効果を示すグラフである。図7及び図8に示すように、金属塩としてCoSO4を用いた場合のTPP金属錯体の収率は67mol%であり、未反応TPPの収率は27mol%であり、副生成物及び未回収物の収率は6mol%であった。金属塩としてNiSO4を用いた場合のTPP金属錯体の収率は43mol%であり、未反応TPPの収率は53mol%であり、副生成物及び未回収物の収率は4mol%であった。 金属塩としてCuSO4を用いた場合のTPP金属錯体の収率は、図7及び図8に示すように、80mol%であり、未反応TPPの収率は11mol%であり、副生成物及び未回収物の収率は8mol%であった。金属塩としてCo(NO3)2を用いた場合のTPP金属錯体の収率は、図7に示すように、37mol%であり、未反応TPPの収率は20mol%であり、副生成物及び未回収物の収率は43mol%であった。 図7に示すように、金属塩としてNi(NO3)2を用いた場合のTPP金属錯体の収率は、27mol%であり、未反応TPPの収率は60mol%であり、副生成物及び未回収物の収率は13mol%であった。金属塩としてCu(NO3)2を用いた場合のTPP金属錯体の収率は、18mol%であり、未反応TPPの収率は40mol%であり、副生成物及び未回収物の収率は42mol%であった。 図7に示すように、金属塩としてCoCl2を用いた場合のTPP金属錯体の収率は64mol%であり、未反応TPPの収率は25mol%であり、副生成物及び未回収物の収率は11mol%であった。金属塩としてNiCl2を用いた場合のTPP金属錯体の収率は、63mol%であり、未反応TPPの収率は32mol%であり、副生成物及び未回収物の収率は6mol%であった。 金属塩としてCuCl2を用いた場合のTPP金属錯体の収率は、図7に示すように、72mol%であり、未反応TPPの収率は16mol%であり、副生成物及び未回収物の収率は12mol%であった。金属塩としてVOSO4を用いた場合のTPP金属錯体の収率は、図8に示すように、43mol%であり、未反応TPPの収率は48mol%であり、副生成物及び未回収物の収率は9mol%であった。 (実験例2−2) 実験例2−1に記載の金属塩のうちNiSO4を用い、反応温度を150℃、200℃、250℃、300℃及び400℃にそれぞれ変更したこと以外は実験例2−1と同様に、TPPニッケル錯体を製造した。その結果を図4に示した。図4は、TPPと硫酸ニッケル水溶液の反応との温度依存性を示すグラフである。図中、菱形のプロットはTPPニッケル錯体の収率(mol%)を表し、四角のプロットはTPPの収率(mol%)を表している。TPPニッケル錯体の収率は、200℃では4mol%、250℃では21mol%、300℃では27mol%、350℃では43mol%、400℃では50mol%であった。なお、150℃ではTPPニッケル錯体は得られなかった。これらの結果から、350℃付近で反応が急激に進行し、実験例1−2と同様、図2に示した溶解観察結果と一致した。 (実験例2−3) 実験例2−1に記載の金属塩のうちCoSO4を用い、反応温度を150℃、200℃、250℃、300℃及び400℃にそれぞれ変更したこと以外は実験例2−1と同様に、TPPコバルト錯体を製造した。その結果を図5に示した。図5は、TPPと硫酸コバルト水溶液との反応の温度依存性を示すグラフである。図中、菱形のプロットはTPPコバルト錯体の収率(mol%)を表し、四角のプロットはTPPの収率(mol%)を表している。TPPコバルト錯体の収率は、200℃では4mol%、250℃では18mol%、300℃では39mol%、350℃では67mol%及び400℃では82mol%であった。なお、150℃ではTPPコバルト錯体は得られなかった。これらの結果から、350℃付近で反応が急激に進行し、実験例1−2と同様、図2に示した溶解観察結果と一致した。 (実験例3−1) ポルフィリン型骨格を有する化合物を、下記式(5)で表される2,3,7,8,12,13,17,18−オクタエチルポルフィリン、下記式(6)で表されるテトラチエニルポルフィリン、及び下記式(7)で表される5,10,15,20−テトラキス(2,4,6−トリメチルフェニル)ポルフィリンにそれぞれ変更したこと以外は実験例1−1と同様に、反応温度350℃及び反応時間60分の条件でポルフィリン金属錯体を製造した。それぞれの場合の、ポルフィリン金属錯体、未反応のポルフィリン、及び副生成物等の収率を、図9に示した。図9は、ポルフィリン種依存性を示すグラフである。図9に示すように、2,3,7,8,12,13,17,18−オクタエチルポルフィリンを用いた場合は、ポルフィリン金属錯体の収率は60mol%で、残りの40%は未回収物及び副生成物であった。テトラチエニルポルフィリンを用いた場合は、ポルフィリン金属錯体の収率は43mol%であり、未反応ポルフィリンの収率は10mol%であり、残りの47mol%は未回収物及び副生成物であった。5,10,15,20−テトラキス(2,4,6−トリメチルフェニル)ポルフィリンを用いた場合は、ポルフィリン金属錯体の収率は44mol%であり、未反応ポルフィリンの収率は54mol%であり、残りの2mol%は未回収物及び副生成物であった。 (実験例3−2) ポルフィリン型骨格を有する化合物を、下記式(8)で表されるベンゾポルフィリンにしたこと以外は実験例1−1と同様に、反応温度350℃及び反応時間60分の条件でポルフィリン金属錯体を製造した。分析は、内容物を回収した後に乾燥させ、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法−飛行時間型質量分析計でピークの有無を評価することで定性した。その結果、511.388m/z及び571.304m/zにピークを確認し、未反応のベンゾポルフィリン及びベンゾポルフィリン銅錯体の生成を確認した。また、451.312m/z等に副生成物のピークを確認した。 (実験例3−3) ポルフィリン型骨格を有する化合物を、下記式(9)で表されるフタロシアニンにし、金属塩をCuSO4、NiSO4及びCoSO4のいずれかにしたこと以外は実験例1−1と同様に、反応温度350℃及び反応時間60分の条件でフタロシアニン金属錯体を製造した。分析は、内容物を洗浄して回収した後に乾燥させて回収物とし、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法−飛行時間型質量分析計でピークの有無を評価することで定性した。その結果を以下の表1に示した。表1に示すように、金属塩としてCuSO4を用いた場合は、514.270m/z及び575.199m/zにピークを確認し、NiSO4を用いた場合は、514.311m/z及び570.233m/zにピークを確認し、CoSO4を用いた場合は、514.282m/z及び571.205m/zにピークを確認し、いずれの場合も、未反応のフタロシアニン及びフタロシアニン金属錯体の生成を確認した。 (実験例3−4) ポルフィリン型骨格を有する化合物を、下記式(10)で表される2,3−ナフタロシアニンにし、金属塩をCuSO4、NiSO4及びCoSO4にそれぞれ変更したこと以外は実験例1−1と同様に、反応温度350℃及び反応時間60分の条件でナフタロシアニン金属錯体を製造した。分析は、内容物を洗浄回収後乾燥させて回収物とし、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法−飛行時間型質量分析計でピークの有無を評価することで定性した。その結果を以下の表1に示した。表1に示すように、金属塩としてCuSO4を用いた場合は、714.303m/z及び775.239m/zにピークを確認し、未反応の2,3−ナフタロシアニン及び2,3−ナフタロシアニン金属錯体の生成を確認した。金属塩としてNiSO4を用いた場合は、714.336m/z及び770.277m/zにピークを確認し、未反応の2,3−ナフタロシアニン及び2,3−ナフタロシアニン金属錯体の生成を確認するとともに、737.342m/z等に副生成物のピークを確認した。金属塩としてCoSO4を用いた場合は、714.419m/z及び771.378m/zにピークを確認し、未反応の2,3−ナフタロシアニン及び2,3−ナフタロシアニン金属錯体の生成を確認するとともに、737.460m/z等に副生成物の生成を確認した。 以上説明したように、有害な有機溶媒を一切用いることなく、溶媒として水を使用して、ポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体を製造することができる。また、反応させた後の金属錯体の分離及び回収も極めて容易である。具体的には、適切に反応温度を設定することで、有害かつ悪臭を発する極性有機溶媒を使用せず、ポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体を高収率で合成することが可能である。水を用いるので、安価で安全な金属塩(硫酸塩、塩化物及び水酸化物等)を利用することもできる。特に、反応温度が400℃でTPP銅錯体の収率が90%以上であることが確認されている。また、生成される金属錯体は所定の反応温度未満では水に不溶であるため、反応させた後に温度を下げることで、水と金属錯体とを簡単に分離し、金属錯体を容易に回収することができる。 下記式(3)又は式(4)で表されるポルフィリン型骨格を有する化合物及び金属塩を水中で200℃以上450℃以下の反応温度、及び1.0MPa以上50.0MPa以下の圧力で反応させることを特徴とするポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体の製造方法。(式(3)及び式(4)中、Zia及びZibは、それぞれ独立に、水素原子;炭素数1〜10の、アルキル基、アルコキシ基、メルカプト基、アシル基;カルボキシル基と炭素数1〜10のアルコールとのエステル;ホルミル基;カルバモイル基;ハロゲン原子;又はニトロ基であり、Zia及びZibは相互に結合して芳香族炭化水素環、複素環又は非芳香族環状炭化水素を形成していてもよい。iは1〜4の整数を示す。R1〜R4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、メルカプト基、カルボキシル基と炭素数1〜10のアルコールとのエステル、又はチエニル基である。) 前記金属塩が硫酸塩である、請求項1に記載のポルフィリン型骨格を有する化合物の金属錯体の製造方法。