生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_植物ベンジルイソキノリンアルカロイドの生産方法
出願番号:2012535056
年次:2015
IPC分類:C12P 17/12,C12N 1/21,C12N 15/09


特許情報キャッシュ

中川 明 南 博道 片山 高嶺 熊谷 英彦 JP 5761723 特許公報(B2) 20150619 2012535056 20110921 植物ベンジルイソキノリンアルカロイドの生産方法 石川県公立大学法人 511169999 田中 光雄 100081422 山崎 宏 100084146 冨田 憲史 100122301 中川 明 南 博道 片山 高嶺 熊谷 英彦 JP 2010212261 20100922 20150812 C12P 17/12 20060101AFI20150723BHJP C12N 1/21 20060101ALI20150723BHJP C12N 15/09 20060101ALN20150723BHJP JPC12P17/12C12N1/21C12N15/00 A C12P 1/00−19/00 C12N 1/00− 7/08 C12N 15/00−15/90 CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII) 国際公開第2008/153094(WO,A1) 国際公開第2006/091676(WO,A2) 化学と生物,2009年,Vol.47,p.528-530 Phytochemistry,1990年,Vol.29,p.3499-3503 J Biol Chem.,1994年,Vol.269,p.26684-26690 Appl Microbiol Biotechnol.,2007年,Vol.75,p.103-110 KEGG PATHWAY:Tyrosine metabolism-Escherichia coli K-12 MG1655,2011年12月15日,URL,http://www.genome.jp/kegg-bin/show_pathway?org_name=eco&mapno=00350&mapscale=1.0&show_description=show 7 JP2011071520 20110921 WO2012039438 20120329 35 20130627 特許法第30条第1項適用 平成23年5月24日電気通信回線を通じて発表(URL:http://www.nature.com/ncomms/journal/v2/n5/full/ncomms1327.html) (出願人による申告)平成22年度、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センター、イノベーション創出基礎的研究推進事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願 小金井 悟 本発明は、植物ベンジルイソキノリンアルカロイドの生産方法に関する。 イソキノリンアルカロイドは6000種にも及ぶ多様な化合物群であり、モルヒネやベルベリン等有用医薬品を多く含んでおり、植物の生産する重要な有用二次代謝産物である。これまで、その生産のほとんどは天然物からの抽出に依存していた。しかし、植物細胞における二次代謝産物の蓄積レベルが低いため、抽出によって高い収量を得ることは困難である。 ベンジルイソキノリンアルカロイド、例えば、鎮痛化合物であるモルヒネおよびコデイン、および抗菌剤であるベルベリンおよびパルマチンは、モクレン科、キンポウゲ科、メギ科、ケシ科、およびその他の多くの植物種において、チロシンから(S)-レチクリンを介して合成される。(S)-レチクリンは、多くのタイプのベンジルイソキノリンアルカロイドの生合成経路における分岐点中間体である。即ち、(S)-レチクリンは抗マラリア薬および抗癌薬の開発に有用な医薬上重要な非麻薬性アルカロイドである。 最近の研究により、これらのアルカロイドは新規な医薬として有用である可能性があることも示唆されている。例えば、アポルフィン型アルカロイドであるマグノフロリンは、動脈硬化性疾患の発症を防ぐために酸化ストレスの際に高密度リポタンパク質を保護すること、およびHIV-1によるヒトリンパ芽球様細胞殺傷を阻害することが報告されている(非特許文献1〜3)。最近の報告によると抗菌剤であるベルベリンがコレステロール低下活性を有することも示されている (非特許文献4)。 医薬としての使用可能性において非常に注目されているために、いくつかのベンジルイソキノリンアルカロイドは全合成によって化学合成されてきた。例えば、麻薬性鎮痛薬であるモルヒネの全合成が報告されている(非特許文献5)。しかしながら、アルカロイドが有する複雑な構造やキラリティーのため、費用効率の高い生産方法を開発することは困難である。したがって、酵素による合成が、環境に優しく効率のよいアルカロイド生産のために望ましい。 植物代謝工学ではアルカロイド経路の最終生成物の量を増加させる試みがしばしばなされてきており、選抜された植物細胞では、工業的利用に十分な量の二次代謝産物を生産することができる(非特許文献6)。しかしながら、植物における二次代謝のフローは複雑かつ厳密に制御されているため、所望の産物を得ることは非常に難しく、植物代謝工学の成功例はわずかしか報告されていない。 これまで、コデイノンレダクターゼにRNAiを施した形質転換ケシ(opium poppy)植物およびベルベリン架橋酵素(BBE)にRNAiを施した形質転換ハナビシソウ(California poppy)細胞がレチクリンを生産するものとして報告されている(非特許文献7および8)。形質転換ケシはレチクリンの生産に好適であるが、植物および培養細胞によって生成物の量が非常に変動しやすく、かつ、植物および培養細胞は成育に長い時間がかかる(非特許文献9)。さらに、これら形質転換ケシはレチクリンのメチル化誘導体をいくらか蓄積した。形質転換アプローチは代謝工学に非常に強力なツールであり得るが、RNAiを含むこの技術には、所望の代謝産物生産に利用するにはいまださらなる改善の余地がある。 最近、植物全生合成工程を再構成する試みが微生物系において調べられるようになった(非特許文献10および11)。微生物系はその他の植物代謝産物を含まないため、二次代謝産物の量を増加させるのみならず、その質も改善させることが出来る。微生物系には化学物質の生体内変換についていくつかの有利な点があるが、特に植物代謝産物については、例えば、基質入手可能性が制限されていることといった不利な点も有する。微生物および植物由来遺伝子の組合せは、様々な化合物の生産のための効率的な系の確立に有用である。 ベンジルイソキノリンアルカロイド経路においては、ノルコクラウリンからベルベリンまでのほぼすべての生合成遺伝子が単離されており、それらの活性は微生物システムにおいて示されている(非特許文献12および13)。ベンジルイソキノリンアルカロイド経路において、ノルコクラウリンシンターゼ(以下、NCSとも称する)によってドーパミンと4-ヒドロキシフェニルアセトアルデヒド(以下、4-HPAAとも称する)とをカップリングすることから、(S)-ノルコクラウリンを介して(S)-レチクリンが産生されることが明らかとなっている。(S)-ノルコクラウリンは次いでノルコクラウリン 6-O-メチルトランスフェラーゼ(以下、6OMTとも称する)によってコクラウリンに変換され、コクラウリンは、コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼ(以下、CNMTとも称する)によってN-メチルコクラウリンに変換され、N-メチルコクラウリンは、P450ヒドロキシラーゼ(CYP80B)によって3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン(以下、6-O-メチルラウダノソリンとも称する)に変換され、そして3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリンは、3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン-4'-O-メチルトランスフェラーゼ(以下、4'OMTとも称する)によって、(S)-レチクリンに変換される(図4)。 本発明者らはこれまでに、微生物において、植物および微生物の酵素を組み合わせてイソキノリンアルカロイド生合成経路を再構築し、インビトロまたはインビボで、ドーパミンを出発物質としてレチクリンを生産する方法を開発してきた(特許文献1)。かかる方法は、微生物由来のモノアミンオキシダーゼ(以下、MAO とも称する)を用いることによってドーパミンから 3,4-ジヒドロキシフェニルアセトアルデヒド(以下、3,4-DHPAAとも称する)を合成し、該 3,4-ジヒドロキシフェニルアセトアルデヒドとドーパミンをカップリングさせることを一つの特徴としており、レチクリン生合成経路におけるヒドロキシル化のステップを省略しつつ、ドーパミンのみから効率的にレチクリンを合成することを可能にするものである。 しかしながら、かかる方法においては、出発物質としてドーパミンを添加することが必須である。また、インビボで反応を行う場合には、(R,S)-ラセミ混合物としてレチクリンが得られるため、多くのベンジルイソキノリンアルカロイドの生合成経路における分岐点中間体である(S)-レチクリンのみを得るためには、キラルカラムによる光学分割等を行う必要がある。 また、上記特許文献1の方法と同様に、イソキノリンアルカロイド生合成経路を微生物において再構築し、ドーパミンと他のアミンを基質として共存させて反応を行うことにより、レチクリンに加えて様々なアルカロイドを生産する方法も開発されている(特許文献2)。しかしながら、当該方法においても、出発物質としてドーパミンを用いることが必須であり、インビボで反応を行う場合には(R,S)-ラセミ混合物としてレチクリンが得られる。 一方、Hawkins および Smolke は、ノルラウダノソリンのラセミ混合物を出発物質として用い、組換え酵母細胞によって(R,S)-レチクリンおよびその誘導体を生産することに成功している(非特許文献14)。 しかしながら、上記特許文献1および2ならびに非特許文献14に記載される方法において出発物質として用いられるドーパミンならびにノルラウダノソリンは比較的高価であり、培養の間に容易に酸化されて褐色の不溶性ポリマーを形成する性質を有する。そのため、かかる化合物を出発物質として用いる上記のアルカロイド生産方法を経済的なシステムとすることは困難である。 このような背景から、上記ドーパミンおよびノルラウダノソリンのような出発物質を用いず、安価で入手しやすい基質からベンジルイソキノリンアルカロイドを効率的に生産することが可能なシステムを確立することが望まれていた。特開2009−225669号公報国際公開WO2008/153094号パンフレットHung TM, et al. (2007) Magnoflorine from Coptidis rhizoma protects high density lipoprotein during oxidant stress. Biol Pharm Bull 30: 1157-1160Hung TM, et al. (2007) Protective effect of magnoflorine isolated from Coptidis rhizoma on Cu2+-induced oxidation of human low density lipoprotein. Planta Med 73: 1281-1284Rashid MA, et al. (1995) Anti-HIV alkaloids from Toddalia asiatica. Nat Prod Res 6: 153-156Kong W, et al. (2004) Berberine is a novel cholesterol-lowering drug working through a unique mechanism distinct from statins. Nature Med 10: 1344-1351Gates M, Tschudi G (1952) The synthesis of morphine. J Am Chem Soc 74: 1109-1110Sato F, Inui T, Takemura T (2007) Metabolic engineering in isoquinoline alkaloid biosynthesis. Curr Pharm Biotech 8: 211-218Allen RS, et al. (2004) RNAi-mediated replacement of morphine with the nonnarcotic alkaloid reticuline in opium poppy. Nat Biotechnol 22: 1559-1566Fujii N, Inui T, Iwasa K, Morishige T, Sato F (2007) Knockdown of berberine bridge enzyme by RNAi accumulates (S)-reticuline and activates a silent pathway in cultured California poppy cells. Transgenic Res 16: 363-375Sato F, Yamada Y (2008) in Bioengineering and Molecular Biology of Plant Pathways, Volume 1, eds Bohnert HJ, Nguyen HT, Lewis N, (Elsevier, Amsterdam), pp 311-346.Rathbone DA, Bruce NC (2002) Microbial transformation of alkaloids. Curr Opin Microbiol 5: 274-281Ro DK, et al. (2006) Production of the antimalarial drug precursor artemisinic acid in engineered yeast. Nature 440: 940-943Minami, H., Dubouzet, E., Iwasa, K., & Sato, F. Functional analysis of norcoclaurine synthase in Coptis japonica. J. Biol. Chem. 282, 6274-6282 (2007)Morishige, T., Tsujita, T., Yamada, Y., & Sato, F. Molecular characterization of the S-adenosyl-L-methionine:3'-hydroxy-N-methylcoclaurine 4'-O-methyltransferase involved in isoquinoline alkaloid biosynthesis in Coptis japonica. J. Biol. Chem. 275, 23398-23405 (2000)Hawkins, K.M. & Smolke, C.D. (2008) Production of benzylisoquinoline alkaloids in Saccharomyces cerevisiae. Nat. Chem. Biol. 4, 564-573 本発明の目的は、ドーパミン等の比較的高価な出発物質を用いず、安価で入手しやすい基質からベンジルイソキノリンアルカロイドを生産するシステムを確立することにある。 このたび、本発明者は、植物および微生物の代謝に関わる遺伝子を組み合わせて、ベンジルイソキノリンアルカロイドの生合成経路を微生物において再構築することにより、所望のベンジルイソキノリンアルカロイドを生産することが可能な微生物系を確立した。 具体的には、本発明者は、ベンジルイソキノリンアルカロイドの生合成経路における分岐点中間体として重要な(S)-レチクリンを、その生合成に必要な酵素を発現する形質転換微生物の培養によって合成することに成功した。 すなわち、本発明は、L-チロシンを生産する代謝経路を有するイソキノリンアルカロイド非生産性細胞に、チロシナーゼおよびそのアダプタータンパク質、L-DOPA特異的デカルボキシラーゼ、モノアミンオキシダーゼ、ノルコクラウリンシンターゼ、ノルコクラウリン 6-O-メチルトランスフェラーゼ、コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼならびに3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン-4'-O-メチルトランスフェラーゼからなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子が導入されてなる、チロシナーゼおよびそのアダプタータンパク質、L-DOPA特異的デカルボキシラーゼ、モノアミンオキシダーゼ、ノルコクラウリンシンターゼ、ノルコクラウリン 6-O-メチルトランスフェラーゼ、コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼならびに3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン-4'-O-メチルトランスフェラーゼを発現する組換え宿主細胞を提供する工程、および該組換え宿主細胞を、炭素源としてグルコース、フルクトース、ガラクトース、スクロース、ラクトースおよびマルトースからなる群より選択される1種以上の糖および/またはグリセロールを含む培地において培養する工程を含む、(S)-レチクリンを生産する方法を提供する。 また、本発明は、L-チロシンを生産する代謝経路を有するイソキノリンアルカロイド非生産性細胞に、フィードバック阻害耐性の3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソン酸-7-リン酸シンターゼ、フィードバック阻害耐性のコリスミ酸ムターゼ/プレフェナートデヒドロゲナーゼ、トランスケトラーゼ、ホスホエノールピルビン酸シンテターゼ、チロシナーゼおよびそのアダプタータンパク質、L-DOPA特異的デカルボキシラーゼ、モノアミンオキシダーゼ、ノルコクラウリンシンターゼ、ノルコクラウリン 6-O-メチルトランスフェラーゼ、コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼならびに3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン-4'-O-メチルトランスフェラーゼからなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子が導入されてなる組換え宿主細胞であって、フィードバック阻害耐性の3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソン酸-7-リン酸シンターゼ、フィードバック阻害耐性のコリスミ酸ムターゼ/プレフェナートデヒドロゲナーゼ、トランスケトラーゼ、ホスホエノールピルビン酸シンテターゼ、チロシナーゼおよびそのアダプタータンパク質、L-DOPA特異的デカルボキシラーゼ、モノアミンオキシダーゼ、ノルコクラウリンシンターゼ、ノルコクラウリン 6-O-メチルトランスフェラーゼ、コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼならびに3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン-4'-O-メチルトランスフェラーゼを発現し、かつ、tyrR遺伝子を有しないかまたはその機能が欠損している組換え宿主細胞を提供する工程、および該組換え宿主細胞を、炭素源としてグルコース、フルクトース、ガラクトース、スクロース、ラクトースおよびマルトースからなる群より選択される1種以上の糖および/またはグリセロールを含む培地において培養する工程を含む、(S)-レチクリンを生産する方法を提供する。 さらに、本発明は、L-チロシンを生産する代謝経路を有するイソキノリンアルカロイド非生産性細胞に、チロシナーゼおよびそのアダプタータンパク質、L-DOPA特異的デカルボキシラーゼ、モノアミンオキシダーゼ、ノルコクラウリンシンターゼ、ノルコクラウリン 6-O-メチルトランスフェラーゼ、コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼならびに3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン-4'-O-メチルトランスフェラーゼからなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子が導入されてなる、チロシナーゼおよびそのアダプタータンパク質、L-DOPA特異的デカルボキシラーゼ、モノアミンオキシダーゼ、ノルコクラウリンシンターゼ、ノルコクラウリン 6-O-メチルトランスフェラーゼ、コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼならびに3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン-4'-O-メチルトランスフェラーゼを発現する組換え宿主細胞を提供する。 本発明によると、ベンジルイソキノリンアルカロイドの生合成に必要な遺伝子を発現させた組換え宿主細胞を、微生物の培養に通常用いられる培地中で培養することにより、目的のベンジルイソキノリンアルカロイド、特に(S)-レチクリンを高効率で生産することができる。すなわち、本発明によれば、微生物用の培地を構成する安価かつ容易に入手可能な基質からベンジルイソキノリンアルカロイドを生産することができ、出発物質として追加の基質を用いる必要がない。したがって、本発明の微生物系は、希少なベンジルイソキノリンアルカロイドを生産するコストを劇的に減少させることが可能な、簡便かつ費用効率の高いシステムである。 本発明により、多様な有用化合物生産のための素材であるベンジルイソキノリンアルカロイドが大量に生産できる基盤が構築されるとともに、さらなる代謝変換により、新たなる創薬資源の開発が可能となる。さらに、本発明の微生物系は、新規なイソキノリンアルカロイドの生産のための新規経路を開発するためにも有用である。 また、本発明の微生物系において再構築されるベンジルイソキノリンアルカロイド生合成経路の個々のステップは、いずれも既知かつ制御可能なものである。したがって、個々の生合成遺伝子の発現レベルを最適化することおよび経路の流れを改良することによって、さらに効率的な生産を達成することが可能となりうる。本発明において宿主細胞中に再構築される(S)-レチクリンの生合成経路を示す。本発明によって構築されるテイラーメイドの生合成経路は、TYR、DODC および MAO からなる。NCS以降の植物の生合成経路は、CYP80Bの反応を回避するよう改変されている。略語は以下の通りである: E4P、エリトロース-4-リン酸; PEP、ホスホエノールピルビン酸; DAHP、3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソン酸-7-リン酸; HPP、4-ヒドロキシフェニルピルビン酸; 3,4-DHPAA、3,4-ジヒドロキシフェニルアセトアルデヒド; fbr-DAHPS、フィードバック阻害耐性の 3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソン酸-7-リン酸シンターゼ; fbr-CM/PDH、フィードバック阻害耐性のコリスミ酸ムターゼ/プレフェナートデヒドロゲナーゼ; PEPS、ホスホエノールピルビン酸シンテターゼ; TKT、トランスケトラーゼ; TYR、チロシナーゼ; DODC、L-DOPA特異的デカルボキシラーゼ; MAO、モノアミンオキシダーゼ; NCS、ノルコクラウリンシンターゼ; 6OMT、ノルコクラウリン 6-O-メチルトランスフェラーゼ; CNMT、コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼ; 4'OMT、3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン-4'-O-メチルトランスフェラーゼ。組換え宿主細胞を用いた(S)-レチクリンの生産。 (a) 大腸菌細胞における(S)-レチクリン生産の経時変化(左軸、実線)。NCS-ORF378-TYR-DODC-optMAO/pET-21d および 6OMT-4'OMT-CNMT/pACYC184 を有し、L-チロシンを過剰生産する大腸菌株(丸印、“組換え生産株A”)または NCS-ORF378-TYR-DODC-optMAO/pET-21d および 6OMT-4'OMT-CNMT/pACYC184 を有するが、L-チロシンの生産に関わる代謝経路が改変されていない大腸菌株(四角印、“組換え生産株B”)を、炭素源としてグルコースを含む培地を用いてジャーファーメンター中において培養した。組換え生産株Aについては、グルコースを含まない培地においても培養を行った(三角印)。各々の株の細胞増殖(右軸、破線、記号は(S)-レチクリン生産と同じ対応関係)を 600nm における吸光度として示す。矢印は、それが指し示す時点における IPTG(50μM)の添加を示す。実験を3回繰り返し、本質的に同じ結果を得た。代表的な1つの実験からのデータを図に示す。 (b) 本発明の組換え宿主細胞の培養によって得られた反応生成物の LC-MS/MS 解析。選択イオンモニタリング(SIM)のパラメーター: m/z = 330(レチクリン)。炭素源としてグルコースを含む培地における(S)-レチクリンの生産に対する IPTG 濃度の影響。L-チロシンを過剰生産し、レチクリン生合成遺伝子を発現する大腸菌株(“組換え生産株A”)を、IPTG の添加(矢印)の前に、OD600 が 10 になるまで増殖させた; IPTG 誘導なし(丸)、50μM IPTG(四角)、150μM IPTG(三角)、500μM IPTG(×印)。実験を3回繰り返し、本質的に同じ結果を得た。1つの代表的な実験からのデータを図に示す。提唱されている植物のベンジルイソキノリンアルカロイド生合成経路、および L-チロシンから (S)-レチクリンまでのベンジルイソキノリンアルカロイド生合成に関与する遺伝子。略語は以下の通りである: 4-HPAA、4-ヒドロキシフェニルアセトアルデヒド; TH、チロシンヒドロキシラーゼ; TYDC、チロシン/DOPAデカルボキシラーゼ; NCS、ノルコクラウリンシンターゼ; 6OMT、ノルコクラウリン 6-O-メチルトランスフェラーゼ; CNMT、コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼ; CYP80B、N-メチルコクラウリン 3'-ヒドロキシラーゼ; 4'OMT、3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン-4'-O-メチルトランスフェラーゼ。レチクリンからマグノフロリンまたはスコウレリンに至るイソキノリンアルカロイドの生合成経路を示す。略語は以下の通り: CNMT、コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼ; CYP80G2、コリツベリンシンターゼ; BBE、ベルベリン架橋酵素。(R,S)-レチクリンに関する反応生成物の立体選択性の解析。 標準(R,S)-レチクリン(a)および本発明の組換え宿主細胞(“組換え生産株A”)の培養によって得られた反応生成物(b)を、キラルカラムを備える Agilent HPLC system 上で分離した後、LC-MS を用いてモニターした。選択イオンモニタリング(SIM)パラメーター: m/z = 330(レチクリン)培地中に存在する中間産物の量および増殖中におけるグリセロール消費。図2、3および9と対応する様々な時点において培地を回収し、L-チロシン(丸印)、L-DOPA(四角印)およびドーパミン(三角印)の濃度を決定した。グリセロール消費(×印)を、各時点における培地中の濃度および添加したグリセロールの量から算出した。実験を3回繰り返し、本質的に同じ結果を得た。1つの代表的な実験からのデータを図に示す。(S)-レチクリン生産のために用いたプラスミドの模式図。 pCOLADuet-1 は、tyrAfbr、aroGfbr、tktA および ppsA 遺伝子を含む。pET-21d は、NCS、ORF378、TYR、DODC および optMAO 遺伝子を含む。pACYC184 は、6OMT、4'OMT および CNMT 遺伝子を含む。いずれの遺伝子も、T7プロモーターによって制御されている。tyrAfbr-aroGfbr-tktA-ppsA/pCOLADuet-1 および 6OMT-4'OMT-CNMT/pACYC184 は、各々が、それぞれ ppsA および CNMT 遺伝子の下流に位置する T7ターミネーター配列を有する。NCS-ORF378-TYR-DODC-optMAO/pET-21d は2つの T7ターミネーター配列を有しており、1つは NCS の下流に位置し、もう1つは optMAO の下流に位置している。 略号:T7p、T7プロモーター; T7t、T7ターミネーター; Kanr、カナマイシン耐性遺伝子; Ampr、アンピシリン耐性遺伝子; Cmr、クロラムフェニコール耐性遺伝子。炭素源としてグリセロールを含む培地における(S)-レチクリン生産の経時変化(左軸、実線)。L-チロシンを過剰生産し、レチクリン生合成遺伝子を発現する大腸菌株(“組換え生産株A”)を、50μM IPTG を用いて(丸)または IPTG を用いずに(四角)培養した。各々の場合の細胞増殖(右軸、破線、記号は(S)-レチクリン生産と同じ対応関係)を 600nm における吸光度として示す。実験を3回繰り返し、本質的に同じ結果を得た。1つの代表的な実験からのデータを図に示す。本発明の組換え大腸菌株を培養した培地からの(S)-レチクリンの迅速な精製。精製前(a)および精製後(b)の培地を、MS によってイオンスキャンモード(m/z = 130〜530)で解析した。m/z = 330 は、(S)-レチクリンのピークを示す。(S)-レチクリン生産のために用いたプラスミドの模式図。pET-21d は、NCS、RsTYR、DODC および optMAO 遺伝子を含む。いずれの遺伝子も、T7プロモーターによって制御されている。NCS-RsTYR-DODC-optMAO/pET-21d は2つの T7ターミネーター配列を有しており、1つは NCS の下流に位置し、もう1つは optMAO の下流に位置している。 略号: RsTYR、Ralstonia solanacearum由来のTYR; T7p、T7プロモーター; T7t、T7ターミネーター; Ampr、アンピシリン耐性遺伝子。炭素源としてグリセロールを含む培地における(S)-レチクリン生産の経時変化(左軸、実線)。Streptomyces castaneoglobisporus由来のTYRおよびアダプタータンパク質ORF378を用いたレチクリン生産株(“組換え生産株A”)(四角)、およびRalstonia solanacearum由来のTYRを用いたレチクリン生産株(“組換え生産株C”)(丸印)を培養した。矢印は、その時点でIPTG(50μM)を添加したことを示す。細胞増殖(右軸、破線、記号は(S)-レチクリン生産と同じ対応関係)を 600nm における吸光度として示す。エラーバーは、3つの独立した実験の標準偏差を示す。 本発明は、L-チロシンを生産する代謝経路を有するイソキノリンアルカロイド非生産性細胞に、チロシナーゼ(以下、TYR とも称する)およびそのアダプタータンパク質、L-DOPA特異的デカルボキシラーゼ(以下、DODC とも称する)、モノアミンオキシダーゼ(MAO)、ノルコクラウリンシンターゼ(NCS)、ノルコクラウリン 6-O-メチルトランスフェラーゼ(6OMT)、コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼ(CNMT)ならびに 3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン-4'-O-メチルトランスフェラーゼ(4'OMT)からなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子が導入されてなる、チロシナーゼ(TYR)およびそのアダプタータンパク質、L-DOPA特異的デカルボキシラーゼ(DODC)、モノアミンオキシダーゼ(MAO)、ノルコクラウリンシンターゼ(NCS)、ノルコクラウリン 6-O-メチルトランスフェラーゼ(6OMT)、コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼ(CNMT)ならびに 3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン-4'-O-メチルトランスフェラーゼ(4'OMT)を発現する組換え宿主細胞を提供する工程、および 該組換え宿主細胞を、炭素源としてグルコース、フルクトース、ガラクトース、スクロース、ラクトースおよびマルトースからなる群より選択される1種以上の糖および/またはグリセロールを含む培地において培養する工程、を含む、(S)-レチクリンを生産する方法を提供する。 かかる方法によれば、特定の酵素を発現する組換え宿主細胞を、微生物の培養に通常用いられる培地において培養することにより、グルコースおよびグリセロール等の安価で入手容易な基質から、インビボにおいて(S)-レチクリンを効率的に生産することが可能となる。好ましくは、本発明の方法によって得られるレチクリンは、実質的に(R)-レチクリンを含まないものである。 本発明の方法において用いる組換え宿主細胞は、tyrR遺伝子を有しないかまたはその機能が欠損しているものであることが好ましい。tyrR遺伝子の産物は芳香族アミノ酸の生合成に関与する遺伝子の発現を抑制する機能を有しているため、例えばtyrR遺伝子を有しない宿主細胞を用いることやtyrR遺伝子の機能を喪失させることにより、本発明の方法において再構築される生合成経路において重要な L-チロシンの生合成に対する抑制を解除することができる。 本発明の方法において用いる組換え宿主細胞は、フィードバック阻害耐性の 3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソン酸-7-リン酸シンターゼ(以下、fbr-DAHPS とも称する)および/またはフィードバック阻害耐性のコリスミ酸ムターゼ/プレフェナートデヒドロゲナーゼ(以下、fbr-CM/PDH とも称する)を発現するものであることが好ましい。かかる酵素の発現により、該組換え宿主細胞において L-チロシンの生産効率が向上し、(S)-レチクリンの収量を増大させることができる。 本発明の方法において用いる組換え宿主細胞は、トランスケトラーゼ(以下、TKT とも称する)および/またはホスホエノールピルビン酸シンテターゼ(以下、PEPS とも称する)を過剰発現するものであることが好ましい。かかる酵素の過剰発現により、該組換え宿主細胞においてシキミ酸経路の出発物質であるエリトロース-4-リン酸(E4P)および/またはホスホエノールピルビン酸(PEP)の量が増加し、L-チロシン生産量の増大を経て、(S)-レチクリンの収量を増大させることができる。 したがって本発明は、L-チロシンを生産する代謝経路を有するイソキノリンアルカロイド非生産性細胞に、フィードバック阻害耐性の 3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソン酸-7-リン酸シンターゼ(fbr-DAHPS)、フィードバック阻害耐性のコリスミ酸ムターゼ/プレフェナートデヒドロゲナーゼ(fbr-CM/PDH)、トランスケトラーゼ(TKT)、ホスホエノールピルビン酸シンテターゼ(PEPS)、チロシナーゼ(TYR)およびそのアダプタータンパク質、L-DOPA特異的デカルボキシラーゼ(DODC)、モノアミンオキシダーゼ(MAO)、ノルコクラウリンシンターゼ(NCS)、ノルコクラウリン 6-O-メチルトランスフェラーゼ(6OMT)、コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼ(CNMT)ならびに 3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン-4'-O-メチルトランスフェラーゼ(4'OMT)からなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子が導入されてなる組換え宿主細胞であって、フィードバック阻害耐性の 3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソン酸-7-リン酸シンターゼ(fbr-DAHPS)、フィードバック阻害耐性のコリスミ酸ムターゼ/プレフェナートデヒドロゲナーゼ(fbr-CM/PDH)、トランスケトラーゼ(TKT)、ホスホエノールピルビン酸シンテターゼ(PEPS)、チロシナーゼ(TYR)およびそのアダプタータンパク質、L-DOPA特異的デカルボキシラーゼ(DODC)、モノアミンオキシダーゼ(MAO)、ノルコクラウリンシンターゼ(NCS)、ノルコクラウリン 6-O-メチルトランスフェラーゼ(6OMT)、コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼ(CNMT)ならびに 3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン-4'-O-メチルトランスフェラーゼ(4'OMT)を発現し、かつ、tyrR遺伝子を有しないかまたはその機能が欠損している組換え宿主細胞を提供する工程、および 該組換え宿主細胞を、炭素源としてグルコース、フルクトース、ガラクトース、スクロース、ラクトースおよびマルトースからなる群より選択される1種以上の糖および/またはグリセロールを含む培地において培養する工程、を含む、(S)-レチクリンを生産する方法をさらに提供する。 また、本発明は、L-チロシンを生産する代謝経路を有するイソキノリンアルカロイド非生産性細胞に、fbr-DAHPS、fbr-CM/PDH、TYRおよびそのアダプタータンパク質、DODC、MAO、NCS、6OMT、CNMT ならびに 4'OMT からなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子が導入され、かつ、TKTおよび PEPS をコードする遺伝子が導入されてなる組換え宿主細胞であって、fbr-DAHPS、fbr-CM/PDH、TYRおよびそのアダプタータンパク質、DODC、MAO、NCS、6OMT、CNMT ならびに 4'OMT を発現し、TKTおよび PEPS を過剰発現し、かつ、tyrR遺伝子を有しないかまたはその機能が欠損している組換え宿主細胞を提供する工程、および 該組換え宿主細胞を、炭素源としてグルコース、フルクトース、ガラクトース、スクロース、ラクトースおよびマルトースからなる群より選択される1種以上の糖および/またはグリセロールを含む培地において培養する工程、を含む、(S)-レチクリンを生産する方法を提供する。 また、本発明によれば、レチクリンを出発物質として作用するイソキノリンアルカロイド生合成酵素をコードする遺伝子を組換え宿主細胞にさらに導入することによって、安価で入手容易な基質から、インビボにおいてイソキノリンアルカロイドを生産することも可能である。 すなわち、本発明は、L-チロシンを生産する代謝経路を有するイソキノリンアルカロイド非生産性細胞に、TYRおよびそのアダプタータンパク質、DODC、MAO、NCS、6OMT、CNMT、4'OMT ならびにレチクリンを出発物質として作用するイソキノリンアルカロイド生合成酵素からなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子が導入されてなる、TYRおよびそのアダプタータンパク質、DODC、MAO、NCS、6OMT、CNMT、4'OMT ならびにレチクリンを出発物質として作用するイソキノリンアルカロイド生合成酵素を発現する組換え宿主細胞を提供する工程、および 該組換え宿主細胞を、炭素源としてグルコース、フルクトース、ガラクトース、スクロース、ラクトースおよびマルトースからなる群より選択される1種以上の糖および/またはグリセロールを含む培地において培養する工程、を含む、イソキノリンアルカロイドを生産する方法を提供する。 レチクリンを出発物質として作用するイソキノリンアルカロイド生合成酵素の例としてはコリツベリンシンターゼ(以下、CYP80G2 とも称する)およびベルベリン架橋酵素(以下、BBE とも称する) が挙げられ、CYP80G2 を発現させることによりコリツベリンを介してマグノフロリンを合成することができ、BBE を発現させることによりプロトベルベリンアルカロイドであるスコウレリンを合成することができる(図5)。また、CYP80G2 を発現させる場合には、NADPH-シトクロームP450レダクターゼを共に発現させるのが好ましい。 また、本発明は、L-チロシンを生産する代謝経路を有するイソキノリンアルカロイド非生産性細胞に、TYRおよびそのアダプタータンパク質、DODC、MAO、NCS、6OMT、CNMT ならびに 4'OMT からなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子が導入されてなる、TYRおよびそのアダプタータンパク質、DODC、MAO、NCS、6OMT、CNMT ならびに 4'OMT を発現する組換え宿主細胞を提供する。 本発明の組換え宿主細胞は、以下の(i)から(iii)のうち1以上の性質を有していることが好ましい: (i) tyrR遺伝子を有しないかまたはその機能が欠損しているものであること、 (ii) fbr-DAHPS および/または fbr-CM/PDH を発現するものであること、 (iii) TKT および/または PEPS を過剰発現するものであること。 これらの性質を有することにより、該組換え宿主細胞における L-チロシンの生産性が向上し、(S)-レチクリンないし他のイソキノリンアルカロイドの収量を増大させることができる。 したがって本発明は、L-チロシンを生産する代謝経路を有するイソキノリンアルカロイド非生産性細胞に、fbr-DAHPS、fbr-CM/PDH、TKT、PEPS、TYRおよびそのアダプタータンパク質、DODC、MAO、NCS、6OMT、CNMT ならびに 4'OMT からなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子が導入されてなる組換え宿主細胞であって、fbr-DAHPS、fbr-CM/PDH、TKT、PEPS、TYRおよびそのアダプタータンパク質、DODC、MAO、NCS、6OMT、CNMT ならびに 4'OMT を発現し、かつ、tyrR遺伝子を有しないかまたはその機能が欠損している組換え宿主細胞をさらに提供する。 また、本発明は、L-チロシンを生産する代謝経路を有するイソキノリンアルカロイド非生産性細胞に、fbr-DAHPS、fbr-CM/PDH、TYRおよびそのアダプタータンパク質、DODC、MAO、NCS、6OMT、CNMT ならびに 4'OMT からなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子が導入され、かつ、TKTおよび PEPS をコードする遺伝子が導入されてなる組換え宿主細胞であって、fbr-DAHPS、fbr-CM/PDH、TYRおよびそのアダプタータンパク質、DODC、MAO、NCS、6OMT、CNMT ならびに 4'OMT を発現し、TKTおよび PEPS を過剰発現し、かつ、tyrR遺伝子を有しないかまたはその機能が欠損している組換え宿主細胞を提供する。 また、本発明においては、上記の「TYRおよびそのアダプタータンパク質」に代えて、その活性を示すためにアダプタータンパク質を必要としないTYR、例えばRalstonia solanacearum由来のTYRを用いることもできる。したがって、本発明は、L-チロシンを生産する代謝経路を有するイソキノリンアルカロイド非生産性細胞に、Ralstonia solanacearum由来のチロシナーゼ(以下、RsTYR とも称する)、DODC、MAO、NCS、6OMT、CNMTならびに4'OMTからなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子が導入されてなる、RsTYR、DODC、MAO、NCS、6OMT、CNMTならびに4'OMTを発現する組換え宿主細胞を提供する工程、および 該組換え宿主細胞を、炭素源としてグルコース、フルクトース、ガラクトース、スクロース、ラクトースおよびマルトースからなる群より選択される1種以上の糖および/またはグリセロールを含む培地において培養する工程、を含む、(S)-レチクリンを生産する方法をさらに提供する。 同様に、本明細書に記載される様々な本発明の(S)-レチクリンを生産する方法および組換え宿主細胞において「TYRおよびそのアダプタータンパク質」に代えてRalstonia solanacearum由来のTYR(RsTYR)を用いる態様も、本発明の好ましい態様として提供される。 なお、本明細書において、RsTYRとの用語はRalstonia solanacearum由来のTYRを意味するが、単にチロシナーゼ(TYR)と表記した場合には、その由来に関わらずあらゆるTYRが該用語に包含されるものとする。 ここで、ベンジルイソキノリンアルカロイドを生産する植物における、L-チロシンから(S)-レチクリンに至る生合成経路を図4に示す。 一方、本発明の方法において再構築される生合成経路は、MAO を用いることによってドーパミンから 3,4-DHPAA を合成し、該 3,4-DHPAA とドーパミンを NCS の作用を介してカップリングさせることにより (S)-ノルラウダノソリンを生成させるものである(図1)。これにより、植物の生合成経路における N-メチルコクラウリン 3'-ヒドロキシラーゼ(以下、CYP80B とも称する)による水酸化の工程(図4参照)を省略することができる。 しかし、芳香族L-アミノ酸デカルボキシラーゼが本発明の方法において再構築される生合成経路中に存在すると、該芳香族L-アミノ酸デカルボキシラーゼの作用によって芳香族L-アミノ酸が脱炭酸されて芳香族アミンが生成し、これが MAO と反応してしまうため好ましくない。特に、L-チロシンが脱炭酸されるとチラミンが生成し、MAO はドーパミンよりもチラミンに対し高い選択性を示す(すなわちチラミンと優先的に反応する)ため、本発明の方法が意図しない 4-HPAA が生成されてしまう。該 4-HPAA は NCS の作用によりドーパミンとカップリングし、(S)-ノルコクラウリンが生成される。この場合、該(S)-ノルコクラウリンから(S)-レチクリンを得るためには、6OMT、CNMT、4'OMT に加えて CYP80B を用いる必要があるが(図4)、該 CYP80B はチトクロームP450酵素であるため、微生物内ではうまく機能しないことが多い。 そこで、本発明の方法においては、L-DOPA特異的デカルボキシラーゼ(DODC)を宿主細胞に導入して発現させる。具体的には、本発明の方法は、(i) ベンジルイソキノリンアルカロイド生合成経路の再構築において、L-チロシンを脱炭酸する芳香族L-アミノ酸デカルボキシラーゼを用いることを避け、その代わりに (ii) チロシナーゼ(TYR)またはチロシナーゼ(TYR)およびそのアダプタータンパク質を発現させて L-チロシンから L-DOPA への変換経路を作り、さらに (iii) L-DOPA特異的デカルボキシラーゼ(DODC)を発現させて L-DOPA からドーパミンへの変換経路を作ることを特徴とする。 したがって、本発明の組換え宿主細胞および本発明の方法において用いる組換え宿主細胞は、L-DOPA特異的デカルボキシラーゼ以外の芳香族L-アミノ酸デカルボキシラーゼをコードする遺伝子が導入されていないものであることが好ましい。 これにより、宿主細胞へ導入する遺伝子にコードされる酵素によって L-チロシンからチラミンが生成されることは無く、その一方で TYRまたはTYR およびそのアダプタータンパク質ならびに DODC の発現によってドーパミンが高い効率で生産される。その結果、ドーパミンと 3,4-DHPAA とのカップリングによる(S)-ノルラウダノソリンの生成を経て(S)-レチクリンに至る経路へと代謝フローを効率的に流すことが可能となる(図1)。 なお、植物および動物においては、L-DOPA は主にチロシンヒドロキシラーゼ(TH、EC 1.14.16.2)によって L-チロシンから合成され、かかる反応には補因子としてテトラヒドロビオプテリン(BH4)が必要である。しかし、本発明の方法において好適に用いられる大腸菌細胞は、該テトラヒドロビオプテリンを合成することができない。そこで、本発明の方法においては、L-チロシンから L-DOPA への変換のために、銅およびアダプタータンパク質(例えばORF378)以外の補因子を必要としない、細菌のチロシナーゼ(TYR、EC 1.14.18.1)を用いることが好ましい。また、アダプタータンパク質を必要としないRalstonia solanacearum由来のTYRも好適に用いることができる。 本発明に係る組換え宿主細胞は、通常、L-チロシンを生産する代謝経路を有するイソキノリンアルカロイド非生産性細胞に、TYRまたはTYRおよびそのアダプタータンパク質、DODC、MAO、NCS、6OMT、CNMT ならびに 4'OMT からなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子を導入することによって得ることができる。 例えば、L-チロシンを生産する代謝経路を有するイソキノリンアルカロイド非生産性細胞が、「TYRまたはTYRおよびそのアダプタータンパク質、DODC、MAO、NCS、6OMT、CNMT ならびに 4'OMT」からなる群より選択されるタンパク質をコードする1つ以上の遺伝子を既に有している場合には、当該群に含まれる他の全ての遺伝子を該細胞に導入することにより、「TYRまたはTYRおよびそのアダプタータンパク質、DODC、MAO、NCS、6OMT、CNMT ならびに 4'OMT」の全てを発現する本発明の組換え宿主細胞を得ることができる。また、L-チロシンを生産する代謝経路を有するイソキノリンアルカロイド非生産性細胞が「TYRまたはTYRおよびそのアダプタータンパク質、DODC、MAO、NCS、6OMT、CNMT ならびに 4'OMT」をコードする遺伝子のいずれも有していない場合には、「TYRまたはTYRおよびそのアダプタータンパク質、DODC、MAO、NCS、6OMT、CNMT ならびに 4'OMT」をコードする遺伝子の全てを該細胞に導入することにより、本発明の組換え宿主細胞を得ることができる。 本発明に係る組換え宿主細胞を得るために遺伝子を導入する宿主細胞は、L-チロシンを生産する代謝経路を有するイソキノリンアルカロイド非生産性細胞であれば特に限定されないが、より効率的な(S)-レチクリン生産のためには、L-チロシンを大量に生産する能力を有する宿主細胞であることが好ましい。 L-チロシンを大量に生産する能力は、典型的には、以下の(1)〜(3)から選択される1以上の方法によって宿主細胞に付与することができる: (1) 宿主細胞が有する tyrR遺伝子の機能喪失(loss of function)または tyrR遺伝子の発現抑制(ここにいう機能喪失には、完全な機能喪失と部分的な機能喪失が含まれる); (2) fbr-DAHPS および/または fbr-CM/PDH をコードする1以上の遺伝子の宿主細胞への導入および宿主細胞における発現; (3) TKT および/または PEPS をコードする1以上の遺伝子の宿主細胞への導入および宿主細胞における過剰発現。 ここで、tyrR遺伝子の機能は、当該技術分野における公知の手段、例えば相同組換えを利用したノックイン/ノックアウト、トランスポゾン等の転移因子の転移を利用した遺伝子破壊等によって喪失させることができる。また、tyrR遺伝子の発現は、当該技術分野における公知の手段、例えばコサプレッション、アンチセンス法、RNAiなどによって抑制することができる。 tyrR遺伝子を有しないかまたはその機能が欠損している本発明の組換え宿主細胞は、例えば以下の方法によって得ることが可能である: (1) tyrR遺伝子を有しないかまたはその機能が欠損している宿主細胞に、TYR等の必要な遺伝子を導入すること、 (2) 宿主細胞が有するtyrR遺伝子の機能を喪失させた後、該宿主細胞にTYR等の必要な遺伝子を導入すること、または (3) 宿主細胞にTYR等の必要な遺伝子を導入した後、該宿主細胞が有するtyrR遺伝子の機能を喪失させること。 fbr-DAHPS および/または fbr-CM/PDHを発現している細胞や、TKT および/または PEPSを高レベルで発現している細胞等を、本発明に係る組換え宿主細胞を得るために遺伝子を導入する宿主細胞として用いてもよい。 「fbr-DAHPS、fbr-CM/PDH、TKT、PEPS、TYRまたはTYRおよびそのアダプタータンパク質、DODC、MAO、NCS、6OMT、CNMT ならびに 4'OMT」を発現する本発明の組換え宿主細胞は、例えば以下の方法によって得ることが可能である: (1) これら全ての遺伝子を宿主細胞に導入すること、または (2) 「fbr-DAHPS、fbr-CM/PDH、TKT、PEPS、TYRまたはTYRおよびそのアダプタータンパク質、DODC、MAO、NCS、6OMT、CNMT ならびに 4'OMT」からなる群より選択されるタンパク質をコードする1つ以上の遺伝子を有している宿主細胞に、当該群に含まれる他の全ての遺伝子を導入すること。 好ましい態様において、本発明の組換え宿主細胞は、例えば、tyrR遺伝子の機能を喪失させた宿主細胞に、「fbr-DAHPS、fbr-CM/PDH、TKT、PEPS、TYRまたはTYRおよびそのアダプタータンパク質、DODC、MAO、NCS、6OMT、CNMT ならびに 4'OMT」をコードする遺伝子の全てを導入することによって得ることができる。 また、上記の方法に限らず、自然に生じる突然変異または公知の突然変異誘発法などによって L-チロシンを大量に生産する能力を獲得した突然変異株を、本発明に係る組換え宿主細胞を得るために遺伝子を導入する宿主細胞として用いてもよい。 本発明の方法において遺伝子を導入する宿主細胞としては、イソキノリンアルカロイド非生産性細胞であれば特に限定されないが、例えば大腸菌、酵母、枯草菌および糸状菌などが挙げられ、中でも大腸菌が特に好ましい。 宿主細胞に遺伝子を導入する場合、遺伝子を直接導入してもよいが、遺伝子が組み込まれたベクターを宿主に導入するのが好ましい。導入遺伝子はすべて同一のベクターに組み込んでもよいし、2以上の別々のベクターに分けて組み込んでもよい。 導入遺伝子を組み込むベクターとしては、宿主細胞内で自律的に複製しうるプラスミドまたはファージから遺伝子組換え用として構築されたものが適している。ベクターは、導入される宿主細胞に適合した複製開始起点、選択可能なマーカー、プロモーター等の発現制御配列、およびターミネーター配列を含むものが好ましい。プラスミドベクターとしては、例えば大腸菌で発現させる場合は、pETベクター系、pQEベクター系、pColdベクター系などが挙げられ、酵母で発現させる場合は、pYES2ベクター系、pYEXベクター系などが挙げられる。 選択可能なマーカーとしては、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ストレプトマイシン耐性遺伝子などの抗生物質耐性遺伝子が挙げられる。 その内部に組み込まれた導入遺伝子を発現させるベクター(以下において、発現ベクターと称する)は、発現制御配列を含むものが好ましい。発現制御配列とは、DNA配列に適切に連結した場合、宿主細胞において、そのDNA配列からなる遺伝子の発現を制御すること、すなわち、該DNA配列のRNAへの転写を誘導および/または促進すること、あるいは抑制することができる配列を意味する。発現制御配列には少なくともプロモーターが含まれる。プロモーターは構成的プロモーターであっても誘導可能なプロモーターであってもよい。さらに該発現ベクターには転写終結シグナル、即ちターミネーター配列が含まれることが好ましい。 本発明に用いる発現ベクターは、上記遺伝子の末端に、常法により適当な制限酵素認識部位を付加することにより作成することが出来る。 発現ベクターの宿主細胞への形質転換方法としては、従来公知の方法を用いることが出来、例えば、塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法、ヒートショック法などが挙げられる。 組換え宿主細胞の培養条件は、該組換え宿主細胞が良好に生育し、かつ、目的とする一群のタンパク質、例えば「TYRまたはTYRおよびそのアダプタータンパク質、DODC、MAO、NCS、6OMT、CNMT ならびに 4'OMT」や「fbr-DAHPS、fbr-CM/PDH、TKT、PEPS、TYRまたはTYRおよびそのアダプタータンパク質、DODC、MAO、NCS、6OMT、CNMT ならびに 4'OMT」が全て発現し、それぞれの機能または酵素活性が発揮される条件であれば特に限定されない。具体的には、培養条件は、宿主の栄養生理学的性質を考慮して適宜選択すればよく、通常、液体培養で行われる。 組換え宿主細胞の培養に用いる培地の炭素源としては、宿主細胞が利用できる物質であれば特に限定されないが、糖およびグリセロールが挙げられ、特に好ましくはグリセロールである。糖の例としては、単糖、例えばグルコース、フルクトース、ガラクトース等、および二糖、例えばスクロース、ラクトース、マルトース等が挙げられ、その中でもグルコースが好ましい。また、グリセロールを炭素源として用いて培養すると、グルコースを用いる場合よりも(S)-レチクリンの生産効率が高くなる。また、窒素源としては硫酸アンモニウム、カザミノ酸などが挙げられる。その他、塩類、特定のアミノ酸、特定のビタミンなどを所望により使用できる。 例えば、大腸菌を培養する培地としては、LB培地、2×YT培地、M9最少培地が挙げられ、酵母を培養する培地としては、SC培地、SD培地、YPD培地が挙げられる。 培養温度は、宿主細胞が成育し、目的の酵素を発現し、その活性が発揮される範囲で適宜変更できるが、例えば、大腸菌の場合、温度 25℃、80時間、pH 7.0 の培養条件を用いることができる。酵母の場合、例えば、温度 30℃、60時間、pH 5.8 の培養条件を用いることができる。 (S)-レチクリンを含む目的のイソキノリンアルカロイドの生産は、当業者に周知のあらゆる手段によって確認することが出来る。具体的には、反応生成物と目的のイソキノリンアルカロイド標品とを、LC-MS に供し、得られるスペクトルを比較することによって同定することが出来る。また、反応生成物と目的のイソキノリンアルカロイド標品との NMR分析による比較によっても確認することが出来る。 本明細書において、特定の遺伝子を「発現」するとは、該遺伝子を構成する核酸分子が少なくとも RNA分子へ転写されることをいい、ポリペプチドをコードする遺伝子の場合には、該遺伝子を構成する核酸分子が RNA分子へ転写され、該 RNA分子がポリペプチドに翻訳されることをいう。 遺伝子の発現レベルは、当該技術分野における公知の方法、例えばノーザンブロット、定量的PCR などによって確認することができる。 本明細書において、特定の酵素を「発現」するとは、該酵素のポリペプチドをコードする核酸分子から RNA分子への転写および該 RNA分子からポリペプチドへの翻訳が正常に行われ、活性を有する酵素タンパク質が生み出されて細胞内または細胞外に存在する状態となることをいう。 酵素の発現レベルは、その酵素活性のアッセイにより確認できる。即ち、目的酵素の基質から生成物への変換をアッセイすることにより確認することが出来る。また、ウエスタンブロット、ELISA など公知の手法を用いて酵素タンパク質を検出および定量することによっても確認することができる。 本明細書において、特定の遺伝子または酵素を「過剰発現」するとは、該特定の遺伝子または酵素に相当する内在性の遺伝子または酵素を宿主細胞が有している場合には、該内在性遺伝子または酵素の発現レベルと、導入された該特定の遺伝子またはそれにコードされる酵素の発現レベルとを合わせて、該宿主細胞の通常の状態における該内在性遺伝子または酵素の発現レベルを超える遺伝子または酵素の発現レベルを該宿主細胞内において達成することをいう。また、特定の遺伝子または酵素に相当する内在性遺伝子または酵素を宿主細胞が有していない場合には、該特定の遺伝子または酵素を「過剰発現」するとは、導入された該特定の遺伝子またはそれにコードされる酵素について、常套の検出方法によって検出できるレベルの発現を該宿主細胞内において達成することをいう。 本明細書において、生合成経路を「再構築」するとは、所望の化合物を天然には生産しない宿主細胞中において、該所望の化合物が得られるよう、該化合物を生合成するために必要な1または複数の反応を触媒する1または複数の酵素を発現させて、該化合物へと繋がる代謝経路を作り出すことをいう。かくして宿主細胞内に「再構築」される生合成経路は、該細胞が天然には有していないものである。本発明の方法において、典型的には、所望の化合物はイソキノリンアルカロイド、特に(S)-レチクリンであり、必要な酵素の発現は、該酵素をコードする遺伝子を宿主細胞に導入することによって達成することができる。 本明細書において、本発明の方法によって得られるレチクリンが「実質的に(R)-レチクリンを含まない」とは、(R)-レチクリンに対する(S)-レチクリンのエナンチオマー過剰率が少なくとも80%以上、好ましくは90%以上、最も好ましくは100%であることをいう。 本発明において用いられるチロシナーゼ(TYR)は、L-チロシンのベンゼン環の3位を水酸化して L-DOPA に変換する反応を触媒する酵素活性を有するものであれば特に限定されない。また、TYR の由来は特に限定されないが、微生物由来のものであることが好ましく、例えば Streptomyces castaneoglobisporus 由来のものが挙げられる。本発明の方法においては、例えば、配列番号6に示すヌクレオチド配列にコードされる S. castaneoglobisporus 由来の TYRを好適に用いることができる。 また、TYRとしてRalstonia solanacearum由来のTYR(RsTYR)を用いることもでき、本発明においては、例えば配列番号36または37に示すヌクレオチド配列にコードされるRsTYRを好適に用いることができる。RsTYRは、その酵素活性を示すのにアダプタータンパク質を必要としない。したがって、TYRとして RsTYR を用いる場合には、後述のアダプタータンパク質を発現させる必要はない。また、TYRは通常、L-DOPAまたはドーパミンをそのキノン誘導体に変換する能力(o-ジフェノラーゼ活性)を有するが、配列番号36または37に示すヌクレオチド配列にコードされる RsTYR は、かかる o-ジフェノラーゼ活性が低い(Hernandez-Romero, D. et al, FEBS Journal 273 (2006), 257-270)。したがって、配列番号36または37に示すヌクレオチド配列にコードされるRsTYRを用いることにより、ドーパミンの生産量を増大させ、(S)-レチクリンの生産効率を向上させることができる。 本発明において用いられるチロシナーゼ(TYR)のアダプタータンパク質、例えばORF378タンパク質は、TYR の触媒中心への2価の銅イオン(Cu(II))の輸送を補助するタンパク質である。少なくとも、Streptomyces属の細菌に由来するTYRについては、該TYR が完全な触媒活性を示すためにアダプタータンパク質が必要とされる。例えば、S. castaneoglobisporus の染色体上においては、TYR遺伝子と ORF378 が直列に並んでメラニン合成酵素遺伝子オペロンを構成しており、TYR および ORF378タンパク質の両方が発現することによって TYR が活性を示す(K. Ikeda et al., Appl. Microbiol. Biotechnol. 45, 80-85 (1996); Y. Matoba et al., J. Biol. Chem. Vol.281, No.13, pp.8981-8990 (2006))。TYRのアダプタータンパク質の例としては、S. castaneoglobisporus 由来のORF378タンパク質や Streptomyces antibioticus 由来のORF438タンパク質が挙げられ、本発明においては、例えば、配列番号7に示すヌクレオチド配列にコードされる S. castaneoglobisporus 由来の ORF378タンパク質を好適に用いることができる。 本明細書中でTYRのアダプタータンパク質について用いる用語に関し、ORF378を例にとると、「ORF378」との用語は、TYRのアダプタータンパク質であるORF378タンパク質をコードする遺伝子またはオープンリーディングフレームを意味し、「アダプタータンパク質ORF378」または「ORF378タンパク質」との用語は、ORF378によりコードされるタンパク質を意味するものとする。 本発明において用いられる L-DOPA特異的デカルボキシラーゼ(DODC)は、L-DOPA からカルボキシル基を脱離させてドーパミンに変換する反応を触媒する酵素活性を有し、L-DOPA 以外の他の芳香族L-アミノ酸に比して少なくとも10倍、好ましくは100倍、より好ましくは1000倍以上の L-DOPA選択性を示す、芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素をいう。DODC の由来は特に限定されないが、例えば微生物、例えば Pseudomonas putida 由来のものが挙げられる。本発明の方法においては、例えば、配列番号8に示すヌクレオチド配列にコードされる P. putida 由来の DODC を好適に用いることができる。 本発明において用いられるモノアミンオキシダーゼ(MAO)は、ドーパミンを 3,4-DHPAA に変換する反応を触媒する酵素活性を有するものであれば特に限定されない。MAO の由来としては、例えば微生物、例えば Micrococcus luteus、Escherichia coli、Arthrobacter aurescens、Klebsiella aerogenes が挙げられるが、Micrococcus luteus 由来のものを用いるのが好ましい。本発明の方法においては、例えば、配列番号9に示すヌクレオチド配列にコードされる M. luteus 由来の MAO を好適に用いることができる。 本発明において用いられる、ノルコクラウリンシンターゼ(NCS)はドーパミンと 3,4-DHPAA から 3'-ヒドロキシノルコクラウリン(以下、ノルラウダノソリンとも称する)を得る反応、ノルコクラウリン 6-O-メチルトランスフェラーゼ(6OMT)は 3'-ヒドロキシノルコクラウリンから 3'-ヒドロキシコクラウリンを得る反応、コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼ(CNMT)は 3'-ヒドロキシコクラウリンから 3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリンを得る反応、3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン-4'-O-メチルトランスフェラーゼ(4'OMT)は 3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリンからレチクリンを得る反応をそれぞれ触媒する酵素活性を有するものであれば特に限定されない。 また、NCS、6OMT、CNMT および 4'OMT は、特に限定されないが、イソキノリンアルカロイド生産性植物由来のものが好ましい。イソキノリンアルカロイド生産性植物としては、ハナビシソウ、ケシ、エンゴサク等のケシ科植物、メギ等のメギ科植物、キハダ等のミカン科植物、コブシ等のモクレン科植物、オオツヅラフジなどのツヅラフジ科植物、ならびにオウレン(Coptis japonica)等のキンポウゲ科植物などのイソキノリンアルカロイド産生植物などが挙げられ、好ましくはオウレンである。本発明の方法においては、例えば、配列番号11、12、13および14に示すヌクレオチド配列にコードされる、いずれもオウレン由来の NCS、6OMT、CNMT および 4'OMT を好適に用いることが出来る。 本発明において用いられるレチクリンを出発物質として作用するイソキノリンアルカロイド生合成酵素は、レチクリンを出発物質として目的のイソキノリンアルカロイドを得る経路を構成する1または複数の酵素であり、それぞれの経路の反応を触媒する酵素活性を有するものであれば特に限定されない。また、レチクリンを出発物質として作用するイソキノリンアルカロイド生合成酵素は、特に限定されないが、イソキノリンアルカロイド生産性植物由来のものであるのが好ましい。 一方、イソキノリンアルカロイド生合成酵素としてシトクロームP450の1種である CYP80G2(コリツベリンシンターゼ)を用いる場合に、共に用いるのが好ましい、NADPH-シトクロームP450レダクターゼの由来は、特に限定されないが、酵母、植物、哺乳類が挙げられる。 本発明の方法においてマグノフロリンを生産する場合、レチクリンからコリツベリンへの反応を触媒する酵素、およびコリツベリンからマグノフロリンへの反応を触媒する酵素を用いればよく、かかる反応を触媒する酵素活性を有するものであれば特に限定されない。例えば、レチクリンからコリツベリンへの反応を触媒する酵素として、配列番号15に示すヌクレオチド配列にコードされる CYP80G2 を好適に用いることができ、これと共に配列番号16に示すヌクレオチド配列にコードされるP450レダクターゼを用いることができる。また、コリツベリンからマグノフロリンへの反応を触媒する酵素として、例えば、配列番号13に示すヌクレオチド配列にコードされる CNMT を好適に用いることができる。 本発明の方法においてスコウレリンを生産する場合、レチクリンからスコウレリンへの反応を触媒する酵素を用いればよく、かかる反応を触媒する酵素活性を有するものであれば特に限定されない。具体例として、配列番号17に示すヌクレオチド配列にコードされる BBE を好適に用いることが出来る。 さらに、ベルベリンを生産する場合、レチクリンからスコウレリンを介してベルベリンに至る経路を構成する酵素を用いればよく、各段階の反応を触媒する酵素活性を有するものであれば特に限定されない。例えば、BBE、SMT(スコウレリン-9-O-メチルトランスフェラーゼ)、CYP719A1(カナジンシンターゼ)および THBO(テトラヒドロベルベリンオキシダーゼ)を用いるとよい。BBE としては、配列番号17に示すヌクレオチド配列にコードされるものが好適に用いられる。SMT、CYP719A1、THBO の配列情報については、NCBI:National Center for Biotechnology Information の提供する GenBank (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)から得ることが出来る。 本発明において宿主細胞を改変するために用いることができる tyrR遺伝子は、芳香族アミノ酸の生合成や輸送に関わる複数の遺伝子の発現を調節する機能を有する DNA結合性転写調節因子をコードしており、該 tyrR遺伝子にコードされる転写調節因子は、L-チロシンを生合成するいわゆるシキミ酸経路において機能する、3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソン酸-7-リン酸シンターゼ(DAHPS)をコードする aroG遺伝子およびコリスミ酸ムターゼ/プレフェナートデヒドロゲナーゼ(CM/PDH)をコードする tyrA遺伝子の発現を抑制する(A.J. Pittard et al., Mol. Microbiol. 5(7), 1585-1592 (1991))。したがって、本発明において宿主細胞を改変するために利用することができる tyrR遺伝子は、少なくとも aroG遺伝子および/または tyrA遺伝子の発現を抑制する機能を有するものであれば特に限定されない。 本発明において用いる宿主細胞が tyrR遺伝子を有するか否かは、既知の tyrR遺伝子の配列情報、例えば大腸菌 K-12 DH10B株の tyrR遺伝子の配列情報(配列番号1、EMBL受入番号 ACB02543、KEGG登録番号 ECDH10B_1442)をもとに、該宿主細胞のゲノム配列等に対して配列相同性検索を行うことによって推定できる。相同な遺伝子(いわゆるホモログ)の存在が推定される場合、当該相同な遺伝子の配列情報をもとに行う PCR増幅および配列決定等の手法によってその存在を確認できる。あるいは、既知配列からなる tyrR遺伝子の核酸分子とのハイブリダイゼーションによって、直接的に tyrR遺伝子の核酸分子を取得することも可能である。 宿主細胞に tyrR遺伝子が存在する場合、取得した tyrR遺伝子の配列情報あるいは核酸分子をもとに、人工的核酸合成あるいはクローニング後の突然変異導入などの手法によって、遺伝子破壊または発現抑制用の核酸を取得することができ、該核酸を用いて、相同組換えや RNAiなど公知の手段によって宿主細胞が有する tyrR遺伝子の機能を喪失させるかまたは tyrR遺伝子の発現を抑制することが可能である。 相同性検索は、公知の手段、例えば BLASTアルゴリズム、FASTAアルゴリズムなどを利用して行うことができる。 本発明において、宿主細胞を改変するために用いることができる fbr-DAHPS は、エリトロース-4-リン酸(E4P)とホスホエノールピルビン酸(PEP)から、3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソン酸-7-リン酸(DAHP)を生成する反応を触媒する酵素活性を有し、フェニルアラニンによるフィードバック阻害を受けないものであれば特に限定されない。ここで、「フェニルアラニンによるフィードバック阻害を受けない(フィードバック阻害耐性である)」とは、フェニルアラニンによって DAHPS の酵素活性が全く阻害されないか、またはフェニルアラニンによる酵素活性の阻害の程度が野生型の DAHPS と比較して有意に小さいことをいう。fbr-DAHPS は、フェニルアラニン存在下での酵素活性が同非存在下での酵素活性と同等またはそれ以上であることが好ましい。また、fbr-DAHPS は、特に限定されないが、微生物由来のものであるのが好ましく、大腸菌由来のものであるのがより好ましい。本発明において、例えば、配列番号2に示すヌクレオチド配列にコードされる、大腸菌由来の fbr-DAHPS を好適に用いることが出来る。 本発明において、宿主細胞を改変するために用いることができる fbr-CM/PDH は、コリスミ酸からプレフェン酸を生成する反応およびプレフェン酸から 4-ヒドロキシフェニルピルビン酸(HPP)を生成する反応を触媒する酵素活性を有し、チロシンによるフィードバック阻害を受けないものであれば特に限定されない。ここで、「チロシンによるフィードバック阻害を受けない(フィードバック阻害耐性である)」とは、チロシンによって CM および/または PDH の酵素活性が全く阻害されないか、またはチロシンによる酵素活性の阻害の程度が野生型の CM/PDH と比較して有意に小さいことをいう。fbr-CM/PDHは、チロシン存在下での酵素活性が同非存在下での酵素活性と同等またはそれ以上であることが好ましい。また、fbr-CM/PDH は、特に限定されないが、微生物由来のものであるのが好ましく、大腸菌由来のものであるのがより好ましい。本発明において、例えば、配列番号3に示すヌクレオチド配列にコードされる、大腸菌由来の fbr-CM/PDH を好適に用いることが出来る。 本発明において、宿主細胞を改変するために用いることができる TKT は、カルボニル基を含む構造、例えば -C(=O)CH2OH で表される構造を、ある糖から別の糖へ転移させる反応を触媒する酵素活性を有するものであれば特に限定されない。また、TKT は、特に限定されないが、微生物由来のものであるのが好ましく、大腸菌由来のものであるのがより好ましい。本発明において、例えば、配列番号4に示すヌクレオチド配列にコードされる、大腸菌由来の TKT を好適に用いることが出来る。 本発明において、宿主細胞を改変するために用いることができる PEPS は、ピルビン酸からホスホエノールピルビン酸(PEP)を生成する反応を触媒する酵素活性を有するものであれば特に限定されない。また、PEPS は、特に限定されないが、微生物由来のものであるのが好ましく、大腸菌由来のものであるのがより好ましい。本発明において、例えば、配列番号5に示すヌクレオチド配列にコードされる、大腸菌由来の PEPS を好適に用いることが出来る。 即ち、本発明に使用される酵素としては、これらに限定されないが、以下の(a)または(b)のタンパク質が挙げられる:(a) 配列番号2、3、4、5、6もしくは36もしくは37、7、8、9もしくは10、11、12、13、14、15、16または17のヌクレオチド配列にコードされるアミノ酸配列からなるタンパク質;(b) 配列番号2、3、4、5、6もしくは36もしくは37、7、8、9もしくは10、11、12、13、14、15、16または17のヌクレオチド配列にコードされるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、fbr-DAHPS、fbr-CM/PDH、TKT、PEPS、TYR、ORF378、DODC、MAO、NCS、6OMT、CNMT、4'OMT、CYP80G2、P450レダクターゼまたは BBE の酵素活性を有するタンパク質。 本発明に使用されるタンパク質としては、以下の(b')のタンパク質も挙げられる。(b') 配列番号2、3、4、5、6もしくは36もしくは37、7、8、9もしくは10、11、12、13、14、15、16または17のヌクレオチド配列にコードされるアミノ酸配列に対して、70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、fbr-DAHPS、fbr-CM/PDH、TKT、PEPS、TYR、ORF378、DODC、MAO、NCS、6OMT、CNMT、4'OMT、CYP80G2、P450レダクターゼまたは BBE の酵素活性を有するタンパク質。 上記の、(b) のタンパク質は、「fbr-DAHPS、fbr-CM/PDH、TKT、PEPS、TYR、ORF378、DODC、MAO、NCS、6OMT、CNMT、4'OMT、CYP80G2、P450レダクターゼまたは BBE の酵素活性を有する」という(a)のタンパク質の機能が失われない程度にアミノ酸変異(欠失、置換、付加)が起こっているタンパク質である。このような変異には、自然界において生じる変異の他に、人為的な変異も含まれる。人為的な変異を生じさせる手段としては、部位特異的突然変異誘発法(Nucleic Acids Res. 10, 6487-6500, 1982)が挙げられるがこれに限定されるわけではない。変異(欠失、置換、付加)したアミノ酸の数は、上記(a)のタンパク質の酵素活性が失われない限りその個数は制限されないが、好ましくは50アミノ酸以内であり、さらに好ましくは30アミノ酸以内である。 (b')のタンパク質も、「fbr-DAHPS、fbr-CM/PDH、TKT、PEPS、TYR、ORF378、DODC、MAO、NCS、6OMT、CNMT、4'OMT、CYP80G2、P450レダクターゼまたは BBE の酵素活性を有する」という(a)のタンパク質の機能が失われない程度の(a)のタンパク質に対する相同性を有するタンパク質である。相同性は、70%以上が好ましく、90%以上が特に好ましい。 本発明において「相同性」とは、2つのポリペプチドあるいはポリヌクレオチド間の配列の類似の程度を意味し、比較対象のアミノ酸配列または塩基配列の領域にわたって最適な状態(配列の一致が最大となる状態)にアラインメントされた2つの配列を比較することにより決定される。相同性の数値(%)は、アラインメントされた両方の(アミノ酸または塩基)配列において同一のアミノ酸または塩基が存在する部位の数を決定し、次いで当該部位の数を比較対象の配列領域内のアミノ酸または塩基の総数で割り、得られた数値に100をかけることにより算出される。最適なアラインメントおよび相同性を得るためのアルゴリズムとしては当業者が通常利用可能な種々のアルゴリズム(例えば、BLASTアルゴリズム、FASTAアルゴリズムなど)が挙げられる。アミノ酸配列の相同性は、例えばBLASTP、FASTAなどの配列解析ソフトウェアを用いて決定される。塩基配列の相同性は、BLASTN、FASTAなどのソフトウェアを用いて決定される。 タンパク質が fbr-DAHPS、fbr-CM/PDH、TKT、PEPS、TYR、ORF378、DODC、MAO、NCS、6OMT、CNMT、4'OMT、CYP80G2、P450レダクターゼまたは BBE の酵素活性を有するか否かは、該タンパク質調製物にそれぞれの反応基質を添加し、それぞれの酵素の反応生成物が生成したか否かを調べることにより判定することが出来る。fbr-DAHPS についてはエリトロース-4-リン酸(E4P)およびホスホエノールピルビン酸(PEP)を添加し、3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソン酸-7-リン酸(DAHP)が生成したか、fbr-CM/PDH についてはコリスミ酸を添加し、4-ヒドロキシフェニルピルビン酸(HPP)が生成したか、TKT については例えばリボース-5-リン酸(R5P)およびキシルロース-5-リン酸(Xu5P)を添加し、グリセルアルデヒド-3-リン酸(GAP)およびセドヘプツロース-7-リン酸(S7P)が生成したか、PEPS についてはピルビン酸を添加し、ホスホエノールピルビン酸(PEP)が生成したか、TYR(またはTYR および ORF378)については L-チロシンを添加し、L-DOPAが生成したか、DODC については L-DOPAを添加し、ドーパミンが生成したか、MAO についてはドーパミンを添加し、3,4-DHPAA が生成したか、NCS についてはドーパミンと 3,4-DHPAA を添加し、3'-ヒドロキシノルコクラウリンが生成したか、6OMT については 3'-ヒドロキシノルコクラウリンを添加し、3'-ヒドロキシコクラウリンが生成したか、CNMT については 3'-ヒドロキシコクラウリンを添加し、3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリンが生成したか、4'OMT については 3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリンを添加し、レチクリンが生成したかを調べることにより、その活性の有無を判定することが出来る。また、CYP80G2 および P450レダクターゼについては、それらの共存下でレチクリンを添加し、コリツベリンが生成したか、そして BBE については、レチクリンを添加し、スコウレリンが生成したかを調べることによりその活性の有無を判定することが出来る。なお、コリツベリンからマグノフロリンの反応を触媒する CNMT は、3'-ヒドロキシコクラウリンから 3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリンの反応を触媒する CNMT と同じものを用いることが出来るが、コリツベリンからマグノフロリンへの反応を触媒するか否かを、コリツベリンを添加し、マグノフロリンが生成したかを調べることによりその活性の有無を判定するとよい。 fbr-DAHPS がフィードバック阻害耐性であるか否かは、フェニルアラニンの存在下および非存在下それぞれにおいて酵素活性を測定し、同条件における野生型の DAHPS の酵素活性と比較することによって確認することができる(例えば、Kikuchi, Y. et al., Appl. Environ. Microbiol. 63, 761-762 (1997) 参照)。同様に、fbr-CM/PDH がフィードバック阻害耐性であるか否かは、チロシンの存在下および非存在下それぞれにおいて酵素活性を測定し、同条件における野生型の CM/PDH の酵素活性と比較することによって確認することができる(例えば、Lutke-Eversloh, T. and Stephanopoulos, G., Appl. Environ. Microbiol. 71, 7224-7228 (2005) 参照)。 反応生成物が、3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソン酸-7-リン酸(DAHP)、4-ヒドロキシフェニルピルビン酸(HPP)、グリセルアルデヒド-3-リン酸(GAP)、セドヘプツロース-7-リン酸(S7P)、ホスホエノールピルビン酸(PEP)、L-DOPA、ドーパミン、3,4-DHPAA、3'-ヒドロキシノルコクラウリン、3'-ヒドロキシコクラウリン、3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン、レチクリンあるいは目的のイソキノリンアルカロイド(例えば、マグノフロリン、スコウレリン、ベルベリン等)であるか否かは、当業者に周知のあらゆる手段によって確認することが出来る。具体的には、反応生成物と 3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソン酸-7-リン酸(DAHP)、4-ヒドロキシフェニルピルビン酸(HPP)、グリセルアルデヒド-3-リン酸(GAP)、セドヘプツロース-7-リン酸(S7P)、ホスホエノールピルビン酸(PEP)、L-DOPA、ドーパミン、3,4-DHPAA、3'-ヒドロキシノルコクラウリン、3'-ヒドロキシコクラウリン、3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン、レチクリンまたは目的のイソキノリンアルカロイドのそれぞれの標品とを、LC-MS に供し、得られるスペクトルを比較することによって同定することが出来る。また、生成物と対応する標品との NMR分析による比較によっても確認することが出来る。 次いで、本発明に利用できる fbr-DAHPS、fbr-CM/PDH、TKT、PEPS、TYR、ORF378、DODC、MAO、NCS、6OMT、CNMT、4'OMT またはレチクリンを出発物質として作用するイソキノリンアルカロイド生合成酵素をコードする遺伝子について説明する。 本発明において好適に使用される、fbr-DAHPS、fbr-CM/PDH、TKT、PEPS、TYR、ORF378、DODC、MAO、NCS、6OMT、CNMT、4'OMT、またはイソキノリンアルカロイド生合成酵素の具体例である CYP80G2、P450レダクターゼもしくは BBE をコードする遺伝子としては、例えば、それぞれ配列番号2、3、4、5、6もしくは36もしくは37、7、8、9もしくは10、11、12、13、14、15、16または17に示すヌクレオチド配列からなる遺伝子が挙げられる。 即ち、本発明に使用される遺伝子は、これらに限定されないが、好ましくは、以下の(a)または(b)のDNAである遺伝子である:(a) 配列番号2、3、4、5、6もしくは36もしくは37、7、8、9もしくは10、11、12、13、14、15、16または17のヌクレオチド配列からなるDNA;(b)(a)のヌクレオチド配列からなるDNAと相補的なヌクレオチド配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、fbr-DAHPS、fbr-CM/PDH、TKT、PEPS、TYR、ORF378、DODC、MAO、NCS、6OMT、CNMT、4'OMT、CYP80G2、P450レダクターゼまたは BBE の酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA。 さらに、本発明に使用される遺伝子としては、以下の(c)のDNAである遺伝子も挙げられる:(c) 配列番号2、3、4、5、6もしくは36もしくは37、7、8、9もしくは10、11、12、13、14、15、16または17のヌクレオチド配列に対して、70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するヌクレオチド配列からなり、かつ、fbr-DAHPS、fbr-CM/PDH、TKT、PEPS、TYR、ORF378、DODC、MAO、NCS、6OMT、CNMT、4'OMT、CYP80G2、P450レダクターゼまたは BBE の酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA。 ここで、ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリダイゼーションのみが起こり、非特異的なハイブリダイゼーションが起きないような条件をいう。このような条件は、通常、6M尿素、0.4% SDS、0.5xSSC程度である。ハイブリダイゼーションにより得られるDNAは(a)のヌクレオチド配列からなるDNAと70%以上の高い相同性を有することが望ましく、さらに80%以上の相同性を有することが好ましい。ここで「相同性」については上記したとおりである。 上記遺伝子によってコードされるタンパク質が「fbr-DAHPS、fbr-CM/PDH、TKT、PEPS、TYR、ORF378、DODC、MAO、NCS、6OMT、CNMT、4'OMT、CYP80G2、P450レダクターゼまたは BBE の酵素活性を有する」か否かの確認方法は、タンパク質について上記したとおりである。 上記遺伝子は、当業者に周知の PCR またはハイブリダイゼーション技術によって取得することが可能であり、あるいは DNA合成機などを用いて人工的に合成してもよい。配列の決定は常套方法により配列決定機を用いて行うことが出来る。材料 全ての合成遺伝子は、GenScript Inc. から入手した。(R,S)-ノルラウダノソリンは、Acros Organics から購入した。L-チロシン、L-DOPAおよびドーパミンは、Sigma-Aldrich から購入した。(R,S)-レチクリンは、三井化学株式会社から寄贈されたものを使用した。発現ベクターの構築tyrAfbr-aroGfbr-tktA-ppsA/pCOLADuet-1 の構築 L-チロシンを過剰生産する宿主細胞を作出するために、以下の4つの遺伝子を含む発現ベクターを構築した:tyrAfbr(fbr-CM/PDH)、aroGfbr(fbr-DAHPS)、tktA(TKT)および ppsA(PEPS)。 まず、pUC57 にクローニングされた tyrAfbr および aroGfbr 遺伝子を、GenScript Inc. から購入した。該プラスミドにおいて、tyrAfbr は NcoI および EcoRI 制限酵素の認識サイトに隣接しており、aroGfbr は、T7プロモーターに連結していた。また、EcoRI 部位が該T7プロモーターの上流に位置しており、SacI 部位が aroGfbr の下流に位置していた。 tktA および ppsA 遺伝子を、大腸菌 K-12 MG1655 のゲノムDNAから、それぞれ NdeI-tktA-F(配列番号18)と tktA-XhoI-R(配列番号19)のプライマーセットおよび NdeI-ppsA-F(配列番号20)と ppsA-XhoI-R(配列番号21)のプライマーセット(表1)を用いて増幅した。NdeI-XhoI を用いた制限酵素消化の後、tktA および ppsA 遺伝子を個別に、それぞれ pET-41a(Novagen)および pCOLADuet-1(Merck)の NdeI-XhoI 部位へクローニングした。 上記4つの遺伝子を含む発現プラスミドを構築するため、tyrAfbr 遺伝子を含む DNA断片を NcoI および EcoRI を用いて tyrAfbr/pUC57 から切り出し、その後、pCOLADuet-1 の NcoI-EcoRI 部位へクローニングした。次に、aroGfbr/pUC57 の EcoRI-SacI 断片(T7プロモーターに結合した aroGfbr 遺伝子を含む)を、tyrAfbr/pCOLADuet-1 の EcoRI-SacI 部位へクローニングした。かくして、tyrAfbr-aroGfbr の発現ベクター(tyrAfbr-aroGfbr/pCOLADuet-1)を得た。 次いで、T7プロモーターの制御下にある tktA を、tktA/pET-41a から、プライマー 5Sac-T7(配列番号22)および 3NottktA(配列番号23)(表1)を用いて増幅した。次いで、該 tktA および T7プロモーターを、tyrAfbr-aroGfbr/pCOLADuet-1 の SacI-NotI 部位へクローニングし、tyrAfbr-aroGfbr-tktA/pCOLADuet-1 を得た。 最後に、NotI および XhoI を用いて ppsA/pCOLADuet-1 を消化し、ppsA 遺伝子および T7プロモーターを含む断片を得た。次いでこの断片を tyrAfbr-aroGfbr-tktA/pCOLADuet-1 の NotI-XhoI 部位へクローニングして tyrAfbr-aroGfbr-tktA-ppsA/pCOLADuet-1 を得(図8)、その配列を確認した。NCS-ORF378-TYR-DODC-optMAO/pKK223-3 の構築 ノルラウダノソリンの合成経路を再構築するため、以下の4つの酵素をコードする遺伝子を含む発現ベクターを構築した: Streptomyces castaneoglobisporus のチロシナーゼ(TYR)(TYRの完全な活性のため、TYRおよびそのアダプタータンパク質ORF378を共発現させる)、Pseudomonas putida の L-DOPA特異的デカルボキシラーゼ(DODC)、Micrococcus luteus のモノアミンオキシダーゼ(MAO)およびオウレン(Coptis japonica)のノルコクラウリンシンターゼ(NCS)。 まず、特開2009−225669号公報および Minami, H. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 105, 7393-7398 (2008) に記載される方法に従って、Micrococcus luteus の MAO 遺伝子(配列番号9)およびオウレン(C. japonica)の NCS 遺伝子(配列番号11)を含む発現ベクター pKK223-3(NCS-MAO/pKK223-3)を作成した。 ここで、天然の MAO は大腸菌における発現レベルが低いため、本発明者らはコドンを最適化した MAO(配列番号10、以下、optMAO と称する)を用いることとした。具体的には、pGS-21a プラスミドにクローニングされた optMAO 遺伝子を GenScript Inc.から購入し、上記 NCS-MAO/pKK223-3 中に含まれる MAO 遺伝子を、T7プロモーターに駆動される optMAO 遺伝子によって置き換えた。当該置換は、上記購入した optMAO 遺伝子を含む pGS-21a プラスミドから、プライマー 5Bam-T7(配列番号24)および 3oMAO(配列番号25)(表1)を用いる PCR によって optMAO 遺伝子および T7プロモーターを含む BamHI-HindIII 断片を生成し、該断片を NCS-MAO/pKK223-3の BamHI-HindIII 部位へ組み込むことによって達成され、その結果 NCS-optMAO/pKK223-3 を得た。 Pseudomonas putida KT2440 株のL-DOPA特異的デカルボキシラーゼ(DODC; EC 4.1.1.28 に属する芳香族 L-アミノ酸デカルボキシラーゼ)の遺伝子(配列番号8)を、同株のゲノムDNAからプライマー 5NdeDODC(配列番号26)および 3BamDODC(配列番号27)(表1)を用いて PCRにより増幅した。当該 PCR産物を NdeI-BamHI で消化した後、pET-3a(Novagen)の NdeI-BamHI 部位へ連結することにより、DODC/pET-3a を得た。かかるDODCは、他の芳香族アミノ酸に比して103倍を超える L-DOPA選択性を示すデカルボキシラーゼである。次いで、T7プロモーターを伴う DODC遺伝子を、該 DODC/pET-3a からプライマー 5BamSacRVT7(配列番号28)および 3BamDODC(配列番号27)(表1)を用いて増幅し、これを NCS-optMAO/pKK223-3 の BamHI 部位へクローニングして NCS-DODC-optMAO/pKK223-3 を得た。 pGS-21a 中に直列にクローニングされ、各々が独立して T7プロモーターに駆動されている、Streptomyces castaneoglobisporus の TYR遺伝子(配列番号6)および ORF378(配列番号7)を、GenScript Inc.から購入した。このコンストラクトにおいては、両遺伝子のコドン使用頻度が最適化されている。プライマー 5Sac-T7(配列番号22)および 3pGSEcoRV(配列番号29)(表1)を用いて増幅された、TYR遺伝子および ORF378 を含む PCR産物(SacI-EcoRV 断片)を、NCS-DODC-optMAO/pKK223-3 の NCS と DODC の間に位置する SacI-EcoRV 部位に連結し、NCS-ORF378-TYR-DODC-optMAO/pKK223-3を得た。NCS-ORF378-TYR-DODC-optMAO/pET-21d の構築 骨格の異なるプラスミドを有する宿主細胞の間で生産を比較するために、pET-21d(Novagen)プラスミドに基づくベクターを作成した。 まず、NCS に結合した T7プロモーターを含む断片を、NCS-MAO/pKK223-3から、プライマー 5BglII-T7(配列番号30)および 3NCSBamSacRV(配列番号31)(表1)を用いて増幅した。次いで、該断片を、pET-21d の BglII-BamHI 部位へ連結した。DODC および optMAO遺伝子を含む、NCS-DODC-optMAO/pKK223-3 の SacI-HindIII 断片を、NCS/pET-21d の SacI-HindIII 部位へ連結して、NCS-DODC-optMAO/pET-21dを得た。最後に、TYR遺伝子および ORF378 を含む上記のPCR産物(SacI-EcoRV 断片)を、NCS-DODC-optMAO/pET-21d の SacI-EcoRV 部位に連結して、NCS-ORF378-TYR-DODC-optMAO/pET-21dを得た(図8)。NCS-RsTYR-DODC-optMAO/pKK223-3 および NCS-RsTYR-DODC-optMAO/pET-21d の構築 pGS-21a 中にクローニングされた、Ralstonia solanacearumのTYR(RsTYR)遺伝子(配列番号37)を、GenScript Inc.から購入した。このコンストラクトにおいては、RsTYR遺伝子のコドン使用頻度が最適化されている。上記の NCS-ORF378-TYR-DODC-optMAO/pKK223-3 および NCS-ORF378-TYR-DODC-optMAO/pET-21d の構築と同じ手順に従い(プライマーも同一のものを使用)、Streptomyces castaneoglobisporusのTYR遺伝子およびORF378の代わりに該RsTYR遺伝子(配列番号37)の配列を用いて、NCS-RsTYR-DODC-optMAO/pKK223-3 および NCS-RsTYR-DODC-optMAO/pET-21d を作成した(図11、後者のコンストラクトのみを示す)。 振盪フラスコ培養を用い、pET-21d および pKK223-3 プラスミドコンストラクトを有する組換え宿主細胞の間で生産性を比較したところ、pKK223-3 よりも pET-21d に基づくプラスミドを有する組換え宿主細胞の方が、わずかにレチクリンの生産レベルが高いという結果を得た(データ示さず)。したがって、本発明者らは NCS-ORF378-TYR-DODC-optMAO/pET-21d および NCS-RsTYR-DODC-optMAO/pET-21d を、ノルラウダノソリン合成経路の酵素を発現させるためのプラスミドとして選択した。6OMT-4'OMT-CNMT/pACYC184 の構築 ノルラウダノソリンからレチクリンを合成する経路を再構築するため、前述の特開2009−225669号公報および Minami, H. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 105, 7393-7398 (2008) に記載される方法に従って、オウレン(C. japonica)の 6OMT、4'OMT および CNMT 遺伝子を含む発現ベクター pACYC184(6OMT-4'OMT-CNMT/pACYC184)を構築した(図8)。 本実施例において用いた代表的な PCR 条件を以下に示す: 最初の変性工程、94℃、2 分; 94℃、15 秒の変性、50℃、30 秒のアニーリング および 68℃、90 秒の DNA 伸長からなるサイクルを 30 サイクル; そして最後の 68℃、5 分の伸長; これには KOD-plus DNA ポリメラーゼ (東洋紡) を用いた。本実施例において、PCR は、鋳型とする DNA配列およびプライマーの長さ、Tm値などに応じて適宜条件を変更して行った。PCR 条件を最適化することは、当業者に周知の手法である。レチクリン生産株の作出 まず、L-チロシンを過剰生産する宿主細胞を作出するため、Lutke-Eversloh, T., and Gregory Stephanopoulos, G., Appl. Microbiol. Biotechnol. (2007) 75:103-110 に記載されている L-チロシンを過剰生産する大腸菌株の遺伝的構成を採用した。具体的には、tyrR遺伝子中にノックアウト突然変異を有し、tyrAfbr、aroGfbr、tktA および ppsA を発現するプラスミドを有する大腸菌株を作出した。 tyrR遺伝子の欠失は、Quick & Easy E.coli Gene Deletion Kit(Gene Bridges)を用いて、PCR産物との組換えによって達成した。具体的には、該キットに含まれる FRT-PGK-gb2-neo-FRT の配列を有するプラスミドを鋳型とし、tyrR遺伝子と相同な配列を 5'末端に有するプライマー d-tyrR-Sm-F(配列番号32)および d-tyrR-Sm-R(配列番号33)(表1)を用いて FRT配列を有するカナマイシン耐性遺伝子カセットを PCR増幅することにより、FRT配列を有するカナマイシン耐性遺伝子カセットの両端に tyrR遺伝子と相同な配列を有する DNA断片を得た。次いで、該断片を用いて大腸菌 BL21(DE3)を形質転換し、相同組換えによって FRT配列を有するカナマイシン耐性遺伝子カセットを tyrR遺伝子内部に導入した。その後、FLP発現ベクター(708-FLPe; Gene Bridges)を用いて該大腸菌 BL21(DE3)を形質転換し、FLPリコンビナーゼの作用によってカナマイシン耐性遺伝子カセットを除去した。最後に、tyrR::null 変異を、プライマー 5tyrRKOcheck(配列番号34)および 3tyrRKOcheck(配列番号35)(表1)を用いて、PCR によって確認した。 上記 tyrR::null 変異を有する大腸菌 BL21(DE3)を、tyrAfbr-aroGfbr-tktA-ppsA/pCOLADuet-1(図8)を用いて形質転換し、L-チロシン過剰生産株を得た。次いで、該 L-チロシン過剰生産株を、NCS-ORF378-TYR-DODC-optMAO/pET-21d および 6OMT-4'OMT-CNMT/pACYC184(図8)を用いて形質転換して、レチクリン生産株を得た(本明細書において、かかる株を「組換え生産株A」と称する)。また、L-チロシンの生産に関して上記の改変(tyrR::null 変異および tyrAfbr-aroGfbr-tktA-ppsA/pCOLADuet-1 の導入)がなされていない大腸菌 BL21(DE3)株を NCS-ORF378-TYR-DODC-optMAO/pET-21d および 6OMT-4'OMT-CNMT/pACYC184 を用いて形質転換して組換え大腸菌株を得た(本明細書において、かかる株を「組換え生産株B」と称する)。さらに、上記L-チロシン過剰生産株(tyrR::null変異を有し、かつ、tyrAfbr-aroGfbr-tktA-ppsA/pCOLADuet-1で形質転換されている大腸菌BL21(DE3))を、NCS-RsTYR-DODC-optMAO/pET-21d(図11)および 6OMT-4'OMT-CNMT/pACYC184 を用いて形質転換して、レチクリン生産株を得た(本明細書において、かかる株を「組換え生産株C」と称する)。これら組換え生産株A、BおよびCを、レチクリン生産のために使用した。 本実施例において用いたプライマーの配列を、以下に示す。培養条件 宿主細胞を液体 LB培地中において 37℃で終夜培養し、10 mL の細胞培養物を、1 Lの改変した常套の培地(3 Lのジャーファーメンター(BMS-03PI、ABLE)中において、1リットルあたり以下を含む: 47.6 g の Turbo Broth(商標)(Athena Enzyme System)、1.6 g の NH4Cl、2.49 mg の CuSO4・5H2O、3 g のグルコースまたは 5 g のグリセロール、50 mg のアンピシリン、25 mg のカナマイシン、および 50 mg のクロラムフェニコール)に接種した。 28 % の NH4OH および 1M の HCl を自動添加することにより、pH を 7.1 に維持した。接種時における撹拌速度は 100 r.p.m.であり、溶存酸素レベルは、1 v・v-1・m-1 の連続的通気を用いて、酸素飽和度 10 % まで低下させた。グルコース濃度は、0.5 g/mL のグルコース溶液の添加によって、0.1 から 7 g/L の間に維持した。グリセロール濃度は、1 g/mL のグリセロール溶液の添加によって、0.1 から 6 g/L の間に維持した。必要に応じ、OD600 が 10(炭素源としてグルコースを用いる培地における培養の場合)または 15(炭素源としてグリセロールを用いる培地における培養の場合)に達した時点で、ベクター付属の説明書等において示された、あるいは指定された濃度(最終濃度)の IPTG を培養物に添加して発現誘導を行った。化合物の検出および定量 製造元の説明書に従い、グルコースCII−テストワコー(和光純薬工業株式会社)を用いてムタロターゼ−グルコース法によって培地中のグルコースを解析した。製造元の説明書に従い、Glycerol Assay Kit(Cayman Chemical Co.)を用いて培地中のグリセロールを解析した。 培地中におけるレチクリン以外の芳香族化合物は、Discovery HS F5カラム(Supelco)を備える HPLC によって解析した。0.5 mL/分の流速で、10 mM のギ酸アンモニウム(pH 3.0)中におけるアセトニトリル濃度を 3 % から 20% まで増大させることにより、化合物をカラム上で分離した。280 nmにおける吸光度を測定することにより、化合物の溶出をモニターした。 生産されたレチクリンを測定するため、様々な時点で培養上清を回収し、2 % のトリクロロ酢酸を用いてタンパク質を沈殿させた。上清を、Agilent HPLC system 上で分離した後、LC-MS(3200 Q TRAP、Applied Biosystems Japan Ltd.)によって解析した。HPLC の条件は以下の通りであった: カラム、TSKgel ODS-80Ts(4.6×250 mm; 東ソー株式会社); 溶媒系、A:0.1 % 酢酸水溶液、B:0.1 % の酢酸を含有するアセトニトリル溶液; グラジエントモード: 90 % の A(0-5分)、90 % から 60 % の A(5-20分)、10 % の A(20-30分); 流速、0.5 mL/分、温度:40℃。レチクリンを、LC-タンデムMS(LC-MS/MS)における断片化スペクトルについて標準レチクリン(研究室ストック)と比較することによって同定した。Analyst 1.4.1 ソフトウェアを用いて、検量線(μmol対ピーク面積)からレチクリンの量を推定した。 生産されたレチクリンを、Agilent HPLC system 上で分離した後、LC-MS に供することによって、該レチクリンの立体選択性を解析した。HPLC の条件は以下の通りであった: カラム、CHIRALCEL OD-H(4.6×250 mm、ダイセル化学工業株式会社); 溶媒系、ヘキサン/2-プロパノール/ジエチルアミン(72:28:0.1); 流速、0.55 mL/分、温度:40℃。(S)-レチクリンの精製 Oasis HLB 固相抽出カートリッジ(Waters)および HPLC により、培養上清から(S)-レチクリンを精製した。培養上清をロードする前に、該カートリッジを水で前平衡化した。カートリッジを 5% のメタノールで洗浄し、その後 100% のメタノールを用いて(S)-レチクリンを溶出した。溶出液を、上記の条件において、TSKgel ODS-80Ts カラムを備える HPLC に供試した。(S)-レチクリンに相当するピーク画分を回収し、その後、精製の程度を MS 解析によって確認した。結果組換え宿主細胞による(S)-レチクリンの生産 上記の通りに作出した2種の組換え大腸菌株(tyrR::null 変異を有し、発現プラスミド tyrAfbr-aroGfbr-tktA-ppsA/pCOLADuet-1、NCS-ORF378-TYR-DODC-optMAO/pET-21d および 6OMT-4'OMT-CNMT/pACYC184 を有する「組換え生産株A」、および、L-チロシンの生産に関わる代謝経路が改変されておらず、発現プラスミド NCS-ORF378-TYR-DODC-optMAO/pET-21d および 6OMT-4'OMT-CNMT/pACYC184 を有する「組換え生産株B」)を、炭素源としてグルコースを含む培地を用いてジャーファーメンター中において培養し、レチクリンの生産を測定するために培地を様々な時点において回収した。 液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)の結果、組換え生産株Bは 80時間のうちに培地中のグルコースから(S)-レチクリンを培地 1L あたり 0.53 mg の収量で生産し、一方、組換え生産株Aは、80時間のうちに培地中のグルコースから (S)-レチクリンを培地 1L あたり 2.2 mg の収量で生産したことが示された(図2)。また、グルコースを含まない培地においては、組換え生産株Aによる(S)-レチクリンの収量は80μg/Lと極めて低かった(図2)。これらの結果は、単純な炭素源であるグルコースから(S)-レチクリンが得られたことを示す。 また、上記組換え生産株Aにおいては、IPTG による誘導がなくとも、導入した生合成遺伝子のリーク発現によって(S)-レチクリンが生産された(図3)。これは本発明による(S)-レチクリンの生産コストを実質的に減少させることが可能であることを意味する。さらに、炭素源としてグリセロールを含む培地を用いて組換え生産株Aを培養した場合には、80時間における (S)-レチクリンの収量は培地 1L あたり 6.2mg にまで増大し(図9)、これは炭素源としてグルコースを用いた培地における生産量よりもおよそ3倍高いものであった。 別の実験として、上記組換え生産株AおよびCを、炭素源としてグリセロールを含む培地において培養し、レチクリン生産量を測定した。その結果、組換え生産株Cにおいては、同条件において組換え生産株Aを用いた場合の収量のおよそ7倍にあたる、培地 1L あたり最大 46mg(3回の独立した実験の平均として 40.5±4.8mg/L)の (S)-レチクリンが生産された(図12)。かかる結果は、RsTYRの採用によってアダプタータンパク質を用いることなくレチクリンの生産を達成でき、かつ、レチクリン生産量を増大させ得ることを実証したものと言える。 RsTYRを用いたドーパミン生産株(上記L-チロシン過剰生産株にRsTYRおよびDODCを導入した株)が、S. castaneoglobisporusのTYRを用いたドーパミン生産株(上記L-チロシン過剰生産株にS. castaneoglobisporusのTYRおよびDODCを導入した株)のほぼ4倍の収量にあたる 1.05±0.05g/L(6.85±0.30mM)のドーパミンを生産したことから(データ示さず)、ドーパミンの生産能力の増大が、組換え生産株Cにおけるレチクリン生産の増大に寄与している可能性が考えられる。 インビボでレチクリンを生産するための公知の方法(特許文献1および2、非特許文献14)においてはラセミ体としてレチクリンが生産されるのに対し、本発明の上記組換え生産株Aを用いる方法においては、(S)-レチクリンのみが生産された(図6)。また、該組換え生産株Aの培養中、静止期においては中間体として L-チロシンが蓄積したが、培養期間全体において L-DOPA およびドーパミンの蓄積は観察されなかった(図7)。ドーパミンが全く蓄積しないことにより、(S)-体特異的にノルラウダノソリンを生成する NCS の触媒作用によらないでドーパミンと 3,4-DHPAA とが自発的縮合反応を起こすことが妨げられる。その結果、(R,S)-ラセミ混合物としてノルラウダノソリンが生成されることはなく、(S)-レチクリンのみが得られるものと考えられる。 本発明の組換え宿主細胞を用いるレチクリンの生産方法は、光学的に活性な(S)-レチクリンを、植物培養細胞の培養または遺伝子組換え植物による生産(通常、数ヶ月から1年程度の期間を要する)よりもずっと速く、例えば2〜3日で生産することを可能にするものである。 ドーパミンやノルラウダノソリンなどの出発物質と比較して、本発明の方法において炭素源として用い得るグルコースやグリセロール等の物質は安価かつ入手が容易である。したがって、例えば特許文献1および2ならびに非特許文献14に開示される、従来の微生物による生産方法と比較して、本発明の方法による(S)-レチクリンの生産コストは非常に低いものとなる。 本発明のさらなる利点は、単純かつ効率的な精製操作によって、望まない代謝産物(目的としないイソキノリンアルカロイドを含む)の混入がほとんど無い(S)-レチクリンを得ることができる点である。例えば、固相抽出および高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて培地から(S)-レチクリンを精製した結果、精製された(S)-レチクリンを90%よりも多く回収することができた(図10)。かかる単純かつ高収率の精製操作により、本発明の(S)-レチクリン生産方法は経済的に実現可能なものとなる。 L-チロシンを生産する代謝経路を有するイソキノリンアルカロイド非生産性細胞に、フィードバック阻害耐性の3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソン酸-7-リン酸シンターゼ、フィードバック阻害耐性のコリスミ酸ムターゼ/プレフェナートデヒドロゲナーゼ、トランスケトラーゼ、ホスホエノールピルビン酸シンテターゼ、チロシナーゼまたはチロシナーゼおよびそのアダプタータンパク質、L-DOPA特異的デカルボキシラーゼ、モノアミンオキシダーゼ、ノルコクラウリンシンターゼ、ノルコクラウリン 6-O-メチルトランスフェラーゼ、コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼならびに3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン-4'-O-メチルトランスフェラーゼからなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子が導入されてなる組換え宿主細胞であって、フィードバック阻害耐性の3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソン酸-7-リン酸シンターゼ、フィードバック阻害耐性のコリスミ酸ムターゼ/プレフェナートデヒドロゲナーゼ、トランスケトラーゼ、ホスホエノールピルビン酸シンテターゼ、チロシナーゼまたはチロシナーゼおよびそのアダプタータンパク質、L-DOPA特異的デカルボキシラーゼ、モノアミンオキシダーゼ、ノルコクラウリンシンターゼ、ノルコクラウリン 6-O-メチルトランスフェラーゼ、コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼならびに3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン-4'-O-メチルトランスフェラーゼを発現し、かつ、tyrR遺伝子を有しないかまたはその機能が欠損している組換え宿主細胞を提供する工程、および 該組換え宿主細胞を、炭素源としてグルコース、フルクトース、ガラクトース、スクロース、ラクトースおよびマルトースからなる群より選択される1種以上の糖および/またはグリセロールを含む培地において培養する工程、を含む、(S)-レチクリンを生産する方法。 得られるレチクリンが、実質的に(R)-レチクリンを含まないものであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。 イソキノリンアルカロイド非生産性細胞が、大腸菌、酵母、枯草菌および糸状菌からなる群より選択される、請求項1または2に記載の方法。 組換え宿主細胞に、L-DOPA特異的デカルボキシラーゼ以外の芳香族L-アミノ酸デカルボキシラーゼをコードする遺伝子が導入されていないことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。 L-チロシンを生産する代謝経路を有するイソキノリンアルカロイド非生産性細胞に、フィードバック阻害耐性の3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソン酸-7-リン酸シンターゼ、フィードバック阻害耐性のコリスミ酸ムターゼ/プレフェナートデヒドロゲナーゼ、トランスケトラーゼ、ホスホエノールピルビン酸シンテターゼ、チロシナーゼまたはチロシナーゼおよびそのアダプタータンパク質、L-DOPA特異的デカルボキシラーゼ、モノアミンオキシダーゼ、ノルコクラウリンシンターゼ、ノルコクラウリン 6-O-メチルトランスフェラーゼ、コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼならびに3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン-4'-O-メチルトランスフェラーゼからなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子が導入されてなる組換え宿主細胞であって、フィードバック阻害耐性の3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソン酸-7-リン酸シンターゼ、フィードバック阻害耐性のコリスミ酸ムターゼ/プレフェナートデヒドロゲナーゼ、トランスケトラーゼ、ホスホエノールピルビン酸シンテターゼ、チロシナーゼまたはチロシナーゼおよびそのアダプタータンパク質、L-DOPA特異的デカルボキシラーゼ、モノアミンオキシダーゼ、ノルコクラウリンシンターゼ、ノルコクラウリン 6-O-メチルトランスフェラーゼ、コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼならびに3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン-4'-O-メチルトランスフェラーゼを発現し、かつ、tyrR遺伝子を有しないかまたはその機能が欠損している、組換え宿主細胞。 大腸菌、酵母、枯草菌および糸状菌からなる群より選択される、請求項5に記載の組換え宿主細胞。 L-DOPA特異的デカルボキシラーゼ以外の芳香族L-アミノ酸デカルボキシラーゼをコードする遺伝子が導入されていないことを特徴とする、請求項5または6に記載の組換え宿主細胞。配列表


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