タイトル: | 特許公報(B2)_架橋ヒアルロン酸組成物及び自己架橋ヒアルロン酸粒子 |
出願番号: | 2012530678 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | A61K 31/728,A61K 9/08,A61P 19/02,C08B 37/08 |
橋本 正道 守川 忠志 宮田 喜明 大野 昭男 高橋 啓 小笠原 大輔 藤井 健治 架間 晃明 竹田 茉利子 JP 5824455 特許公報(B2) 20151016 2012530678 20110823 架橋ヒアルロン酸組成物及び自己架橋ヒアルロン酸粒子 デンカ株式会社 000003296 長谷川 芳樹 100088155 清水 義憲 100128381 橋本 正道 守川 忠志 宮田 喜明 大野 昭男 高橋 啓 小笠原 大輔 藤井 健治 架間 晃明 竹田 茉利子 JP 2010186491 20100823 JP 2010186487 20100823 20151125 A61K 31/728 20060101AFI20151105BHJP A61K 9/08 20060101ALI20151105BHJP A61P 19/02 20060101ALI20151105BHJP C08B 37/08 20060101ALI20151105BHJP JPA61K31/728A61K9/08A61P19/02C08B37/08 Z A61K 31/00− 31/80 C08B 1/00− 37/18 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII) 特開2004−149599(JP,A) 国際公開第2004/016275(WO,A1) 特開2004−181121(JP,A) 8 JP2011068978 20110823 WO2012026468 20120301 42 20140603 牧野 晃久 本発明は、架橋ヒアルロン酸組成物及びそれに用いられる自己架橋ヒアルロン酸粒子並びに当該架橋ヒアルロン酸組成物を含有する注射剤及びそれを収容するプレフィルドシリンジ製剤に関する。 ヒアルロン酸は、β−D−N−アセチルグルコサミンとβ−D−グルクロン酸が交互に結合した直鎖状の高分子多糖である。ヒアルロン酸は、優れた生体適合性及び粘弾性を示すことから、医用分野への展開が進んでいる。その一つとして、変形性膝関節症のための粘性補充剤として架橋されたヒアルロン酸を用いることが特許文献1に開示されている。特表2008−526747号公報 しかし、変形性膝関節症の疾患関節部位にヒアルロン酸を注入する場合には、有効な治療効果を得るために数回〜10回もの投与回数が必要となり、患者に大きな負担となっていた。 そこで、本発明の目的は、従来よりも投与回数を少なくした場合であっても、変形性膝関節症に対して充分な治療効果の得られる架橋ヒアルロン酸組成物及びそれに用いる自己架橋ヒアルロン酸粒子を提供することにある。 本発明は、平衡膨潤倍率が3〜10倍の自己架橋ヒアルロン酸の粒子と、水系溶媒とを含有する架橋ヒアルロン酸組成物であって、架橋ヒアルロン酸組成物の全体積に対する、自己架橋ヒアルロン酸の粒子の乾燥重量は3〜8w/v%である、架橋ヒアルロン酸組成物を提供する。 従来より知られているヒアルロン酸又は架橋ヒアルロン酸を用いて、変形性膝関節症の注射剤を製造するに当たり、投与回数を低減しようとして高濃度(例えば乾燥重量で3〜8w/v%)にすると、粘度が急激に上昇し、注射器(シリンジ)から患部へ注入することが非常に困難であった。一方で、注射器からの注入を容易にしようとすれば、ヒアルロン酸又は架橋ヒアルロン酸の分子量や濃度を低下させざるを得ず、少ない投与回数では充分な変形性膝関節症の治療効果を得ることができなかった。 本発明では、平衡膨潤倍率が上記所定範囲内である自己架橋ヒアルロン酸の粒子を用いることにより、高濃度にしても粘度が急激に上昇しないことから、架橋ヒアルロン酸組成物を注射剤に適用した場合に、少ない投与回数であっても、充分な変形性膝関節症の治療効果を得ることができる。 本発明の架橋ヒアルロン酸組成物において、自己架橋ヒアルロン酸の粒子は、平均体積粒径が10〜100μmであることが好ましい。平均体積粒径と平衡膨潤倍率が上記所定範囲内である自己架橋ヒアルロン酸の粒子を用いることにより、高濃度にしても粘度が急激に上昇しないことから、架橋ヒアルロン酸組成物を注射剤に適用した場合に、少ない投与回数であっても、充分な変形性膝関節症の治療効果を得ることができる。 平均体積粒径と平衡膨潤倍率が上記所定範囲内である本発明の架橋ヒアルロン酸組成物においては、自己架橋ヒアルロン酸の粒子は、自己架橋エステル化度が0.05〜0.50mol%であることが好ましい。また、自己架橋ヒアルロン酸粒子は生体内の条件で容易に加水分解するエステル結合によって架橋した自己架橋ヒアルロン酸から成っている。エステル結合が加水分解されると分子状のヒアルロン酸が生成する。加水分解されて生成するヒアルロン酸の分子量(一次分子量と定義し、粘度平均分子量で表される)は、その治療効果から80万以上であることが好ましい。 また、本発明の架橋ヒアルロン酸組成物においては、自己架橋ヒアルロン酸の粒子は、エチルエステル量が0.05mol%以下であり、自己架橋エステル化度が0.05〜0.50mol%であることが好ましい。エチルエステル量、自己架橋エステル化度及び平衡膨潤倍率が上記所定範囲内である自己架橋ヒアルロン酸の粒子を用いることにより、高濃度にしても粘度が急激に上昇しないことから、架橋ヒアルロン酸組成物を注射剤に適用した場合に、少ない投与回数であっても、充分な変形性膝関節症の治療効果を得ることができる。 エチルエステル量、自己架橋エステル化度及び平衡膨潤倍率が上記所定範囲内である本発明の架橋ヒアルロン酸組成物において、自己架橋ヒアルロン酸粒子は生体内の条件で容易に加水分解するエステル結合によって架橋した自己架橋ヒアルロン酸から成っている。エステル結合が加水分解されると分子状のヒアルロン酸が生成する。加水分解されて生成するヒアルロン酸の分子量(一次分子量と定義し、粘度平均分子量で表される)は、その治療効果から80万以上であることが好ましい。 自己架橋ヒアルロン酸の粒子として、平均体積粒径10〜100μm、平衡膨潤倍率3〜10倍、一次分子量80万以上、自己架橋エステル化度が0.05〜0.50mol%のものを用いること、又は、自己架橋ヒアルロン酸の粒子として、エチルエステル量0.05mol%以下、自己架橋エステル化度0.05〜0.50mol%、平衡膨潤倍率3〜10倍、一次分子量が80万以上のものを用いることにより、投与回数の低減及び変形性膝関節症の治療効果がより顕著になる。例えば、pH7.0±0.5、温度36.0±2.0℃の10mMリン酸緩衝化生理的食塩水中に浸漬することにより、30日以内で架橋ヒアルロン酸が全量溶解でき、この時充分に高分子量のヒアルロン酸が生成させることができ、これにより高い治療効果を得ることができる。また、コーンプレートを使う回転粘度測定法により、25±2℃、せん断速度50S−1において測定した粘度が、300mPa・s以下にすることができるため、注射剤としての注入が容易となる。 本発明は、上記の架橋ヒアルロン酸組成物を含有する注射剤を提供する。従来のヒアルロン酸ベースの注射剤では、上述のとおり、ヒアルロン酸を3〜8w/v%といった高濃度にすると、粘度が急激に上昇し、注射器(シリンジ)から患部へ注入することが非常に困難であった。しかし、本発明に係る注射剤は、上記所定の物性を備えた自己架橋ヒアルロン酸の粒子を含む架橋ヒアルロン酸組成物を用いるため、少ない投与回数であっても、充分な変形性膝関節症の治療効果を得ることができる。 本発明は、1回あたり1.25mg/kg体重以上の上記自己架橋ヒアルロン酸が投与されるように用いられる注射剤、又は、1回あたり75mg以上の上記自己架橋ヒアルロン酸が投与されるように用いられる注射剤を提供する。従来のヒアルロン酸ベースの注射剤では、上述のとおり、ヒアルロン酸が高濃度では粘度が上昇しシリンジから患部への注入が困難であった。そのため、充分な治療効果を生じる量のヒアルロン酸を1回で投与することができなかった。しかし、本発明に係る注射剤は、上記の物性を備えた自己架橋ヒアルロン酸の粒子を含む架橋ヒアルロン酸組成物を用いるため、1回あたり1.25mg/kg体重以上又は1回あたり75mg以上の自己架橋ヒアルロン酸が投与されるように用いられることができ、単回投与であっても、充分な変形性膝関節症の治療効果を得ることができる。 本発明は上記注射剤を収容した、プレフィルドシリンジ製剤を提供する。従来のヒアルロン酸ベースの注射剤を収容したプレフィルドシリンジ製剤は、上述のとおりヒアルロン酸を高濃度(例えば3〜8w/v%)にすると、粘度が非常に高くなるため、シリンジから注射剤を患部へ注入することが困難であった。しかし、本発明に係るプレフィルドシリンジ製剤は、上記所定の物性を備えた自己架橋ヒアルロン酸の粒子を含む架橋ヒアルロン酸組成物を注射剤として注射筒内部に収容しているため、少ない投与回数であっても、充分な変形性膝関節症の治療効果を得ることができる。 また、本発明は、平均体積粒径が10〜100μmであり、平衡膨潤倍率が3〜10倍である自己架橋ヒアルロン酸粒子を提供する。上記所定の物性を備えた自己架橋ヒアルロン酸粒子は、それを含有する架橋ヒアルロン酸組成物が注射剤に適用された場合に、3〜8w/v%といった高濃度にしても粘度が急激に上昇しないため、少ない投与回数であっても、充分な変形性膝関節症の治療効果を得ることができる。 平均体積粒径と平衡膨潤倍率が上記所定範囲内である本発明の自己架橋ヒアルロン酸粒子は、一次分子量が80万以上であり、自己架橋エステル化度が0.05〜0.50mol%であることが好ましい。このような自己架橋ヒアルロン酸粒子を用いることにより、投与回数の低減及び変形性膝関節症の治療効果がより顕著になる。 また、本発明は、エチルエステル量0.05mol%以下、自己架橋エステル化度0.05〜0.50mol%、平衡膨潤倍率3〜10倍である自己架橋ヒアルロン酸粒子を提供する。上記所定の物性を備えた自己架橋ヒアルロン酸粒子は、それを含有する架橋ヒアルロン酸組成物が注射剤に適用された場合に、3〜8w/v%といった高濃度にしても粘度が急激に上昇しないため、少ない投与回数であっても、充分な変形性膝関節症の治療効果を得ることができる。 エチルエステル量、自己架橋エステル化度及び平衡膨潤倍率が上記所定範囲内である本発明の自己架橋ヒアルロン酸粒子は、一次分子量が80万以上であることが好ましい。このような自己架橋ヒアルロン酸粒子を用いることにより、投与回数の低減及び変形性膝関節症の治療効果がより顕著になる。 本発明によれば、従来よりも投与回数を少なくした場合であっても、変形性膝関節症に対して充分な治療効果の得られる架橋ヒアルロン酸組成物及びそれに用いる自己架橋ヒアルロン酸粒子を提供することができる。本発明に係る自己架橋ヒアルロン酸粒子の製造に用いられる高速回転装置の概略構成図である。本発明の第1実施形態に係る架橋ヒアルロン酸組成物と、参考例であるヒアルロン酸製剤の注射針をつけたシリンジからの吐出圧を比較して示すグラフである。本発明の第1実施形態に係る架橋ヒアルロン酸組成物と、参考例であるヒアルロン酸製剤の疼痛抑制効果を比較して示すグラフである。第1実施形態に係る自己架橋ヒアルロン酸粒子の加熱時間に対する半減期、一次分子量の変化を示すグラフである。第1実施形態に係る自己架橋ヒアルロン酸粒子の加熱時間に対する平衡膨潤倍率の変化を示すグラフである。第1実施形態に係る自己架橋ヒアルロン酸粒子の加熱時間に対する架橋度の変化を示すグラフである。第1実施形態に係る自己架橋ヒアルロン酸粒子の架橋度に対する平衡膨潤倍率、半減期の変化を示すグラフである。第1実施形態に係る自己架橋ヒアルロン酸粒子の半減期に対するゲル分率到達日数の変化を示すグラフである。第1実施形態に係る自己架橋ヒアルロン酸粒子の架橋度に対するゲル分率到達日数の変化を示すグラフである。本発明の第2実施形態に係る架橋ヒアルロン酸組成物と、参考例であるヒアルロン酸製剤の注射針をつけたシリンジからの吐出圧を比較して示すグラフである。本発明の第2実施形態に係る架橋ヒアルロン酸組成物と、参考例であるヒアルロン酸製剤の疼痛抑制効果を比較して示すグラフである。第2実施形態に係る自己架橋ヒアルロン酸粒子の加熱時間に対する半減期、一次分子量の変化を示すグラフである。第2実施形態に係る自己架橋ヒアルロン酸粒子の加熱時間に対する平衡膨潤倍率の変化を示すグラフである。第2実施形態に係る自己架橋ヒアルロン酸粒子の加熱時間に対する架橋度の変化を示すグラフである。第2実施形態に係る自己架橋ヒアルロン酸粒子の架橋度に対する平衡膨潤倍率、半減期の変化を示すグラフである。第2実施形態に係る自己架橋ヒアルロン酸粒子の半減期に対するゲル分率到達日数の変化を示すグラフである。第2実施形態に係る自己架橋ヒアルロン酸粒子の架橋度に対するゲル分率到達日数の変化を示すグラフである。 以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。 本発明の第1実施形態に係る架橋ヒアルロン酸組成物は、平均体積粒径が10〜100μmであり、平衡膨潤倍率が3〜10倍の自己架橋ヒアルロン酸粒子を含有する。 また、本発明の第2実施形態に係る架橋ヒアルロン酸組成物は、エチルエステル量が0.05mol%以下であり、自己架橋エステル化度が0.05〜0.50mol%であって、平衡膨潤倍率が3〜10倍の自己架橋ヒアルロン酸粒子を含有する。 本発明において自己架橋ヒアルロン酸粒子とは、自己架橋ヒアルロン酸が粒子化されたものである。ここで、自己架橋ヒアルロン酸とは、架橋構造を有するヒアルロン酸をいい、ヒアルロン酸分子中の一部のカルボキシル基が同一及び/又は別のヒアルロン酸分子の水酸基と自己エステル結合することによって、三次元網目構造を形成したものであり、化学的架橋剤や化学的修飾剤等を使用したものは含まない。 自己架橋ヒアルロン酸粒子における自己架橋エステル化度は、ヒアルロン酸の主鎖構造に由来する化学シフトのピークの積分値に対する、架橋エステルに由来する化学シフトのピークの積分値の割合をモル%で表したものである。 本発明の第1実施形態に係る自己架橋ヒアルロン酸粒子における自己架橋エステル化度は、0.05〜0.50mol%が好ましい。より好ましくは0.08〜0.30mol%である。また、本発明の第2実施形態に係る自己架橋ヒアルロン酸粒子における自己架橋エステル化度は、0.05〜0.50mol%である。好ましくは0.08〜0.30mol%である。 自己架橋エステル化度の測定は、あらかじめヒアルロン酸の主鎖構造を加水分解し、低分子量化する必要がある。ここで、自己架橋エステル結合の加水分解を抑制する必要があるため、自己架橋ヒアルロン酸の主鎖構造のみを選択的に加水分解するヒアルロン酸加水分解酵素による加水分解処理を行い、プロトン核磁気共鳴法(NMR)により化学シフトのピークの積分値を測定する。具体的には、アセチルメチル基(2.05ppm)相当のピークに対するエステル架橋部分(4.18ppm)相当のピークとの面積割合を自己架橋エステル化度として算出する。 本発明の第1実施形態に係る自己架橋ヒアルロン酸粒子におけるエチルエステル量は、0.05mol%以下であることが好ましい。また、本発明の第2実施形態に係る自己架橋ヒアルロン酸粒子におけるエチルエステル量は、0.05mol%以下である。エチルエステル量は、自己架橋ヒアルロン酸粒子に含まれるエチルエステルの含有量であり、残留溶媒としてヒアルロン酸原料に含まれるエタノールがエチルエステル化したものと考えられる。 しかし、エチルエステルは、自己エステル化を阻害すると考えられることから、ヒアルロン酸原料に含まれるエタノールを、凍結真空乾燥、80℃通風、アセトン洗浄又は室温通風を2〜3日行い除去することによって、自己架橋ヒアルロン酸粒子におけるエチルエステル量を0.05mol%以下にすることができる。ヒアルロン酸原料に含まれるエタノールの含有率は、ガスクロマトグラフィ/質量分析計(GC−MS)を用いアセトニトリルにより抽出し測定できる。 自己架橋ヒアルロン酸粒子におけるエチルエステル量は、0.03mol%以下がより好ましい。エチルエステル量は、自己架橋エステル化度と同様にNMRにより測定することができる。 本発明において、ヒアルロン酸は、動物組織から抽出したものでも、発酵法で製造したものでもその起源を問うことなく使用できる。 発酵法で使用する菌株は自然界から分離されるストレプトコッカス属等のヒアルロン酸生産能を有する微生物、又は特開昭63−123392号公報に記載したストレプトコッカス・エクイFM−100(微工研菌寄第9027号)、特開平2−234689号公報に記載したストレプトコッカス・エクイFM−300(微工研菌寄第2319号)のような高収率で安定にヒアルロン酸を生産する変異株が望ましい。上記の変異株を用いて培養、精製されたものが用いられる。 また、ヒアルロン酸は、そのアルカリ塩、例えばナトリウムやカリウム、リチウムの塩をも包含する概念で使用される。 自己架橋ヒアルロン酸は、ヒアルロン酸と、ヒアルロン酸濃度5質量%以上にする水、及びヒアルロン酸のカルボキシル基と等モル以上の酸成分とを共存させ、該共存状態を低温で保持することにより得られる。 ヒアルロン酸と共存させる酸は特に限定はされず、公知のいずれの酸も使用できるが、ヒアルロン酸よりも強い酸であることが好ましく、無機酸であることがより好ましい。さらに好ましくは、塩酸、硝酸、硫酸であり、その中でもハンドリング等に優れた硝酸が特に好ましい。 共存させる酸の量は特に限定されないが、ヒアルロン酸のカルボキシル基と等モル以上の酸成分の量とすることができる。 ヒアルロン酸と共存させる酸とは、ヒアルロン酸が全体の15質量%以上、好ましくは、20質量%以上、40質量%以下で含まれるような量で保持することが好ましい。この保持は、−30℃から25℃の間の温度で、1時間から20日間の間のいずれの期間でも行い得る。特に好ましくは、−25℃から−5℃の間の温度にて、1日から15日の間で、行うことができる。ヒアルロン酸と共存させる酸との混合は、共存させる酸にヒアルロン酸を全体の15質量%以上、好ましくは20質量%以上になるよう混練りし、共存させる酸を均一な状態にすることができる。さらにヒアルロン酸に共存させる酸を全体の15質量%以上、好ましくは20質量%以上になるよう含浸することができる。また低濃度で調整したヒアルロン酸の酸性水溶液を、ヒアルロン酸が、全体の15質量%以上、好ましくは、20質量%以上で含まれるように濃縮することができる。 本発明の第1実施形態に係る自己架橋ヒアルロン酸粒子の平均体積粒径は、10〜100μmであり、好ましくは20〜80μmであり、より好ましくは40〜70μmである。また、本発明の第2実施形態に係る自己架橋ヒアルロン酸粒子の平均体積粒径は、10〜100μmであることが好ましく、より好ましくは20〜80μmであり、さらに好ましくは40〜70μmである。自己架橋ヒアルロン酸粒子の平均体積粒径が膨潤時に上記範囲にあり、平衡膨潤倍率が3〜10倍であると、架橋ヒアルロン酸組成物を高濃度にしても粘度が急激に上昇せず、ヒアルロン酸をより多く生体内に注入することが可能となる。 自己架橋ヒアルロン酸粒子は、さまざまな形状や大きさの粒子の集合体であることから、平均体積粒径は例えば、粒子の撮影時に投影される粒子像と等しい面積を持つ円の直径を円相当径として求める。例えば、約10,000個の粒子像を解析し、円相当径を直径とする球形粒子の体積を算出し、体積の小さいものから加算していった際に、10,000個の粒子体積総和の50%に到達した点の粒子の円相当径を、平均体積粒径として採用することができる。具体的な測定は、例えば、粒度・形状分布測定器PITA−1(商品名、セイシン企業製)を用いることができる。 自己架橋ヒアルロン酸粒子は、自己架橋ヒアルロン酸と水系溶媒との混合液を、50℃未満で、せん断力を与えながらスリットを通過させて微粒子化させることによって、製造することができる。例えば、せん断力を与えながらスリットを通過させて微粒子化させる高速回転装置を用いて自己架橋ヒアルロン酸を破砕することによって、平均体積粒径が10〜100μmとなるように微粒化することができる。また、破砕時に50℃未満に冷却温度制御することは、製造される自己架橋ヒアルロン酸及び自己架橋ヒアルロン酸から溶出するヒアルロン酸の分子量を高く保つことができることから好ましい。 図1は、本発明に係る自己架橋ヒアルロン酸粒子の製造に用いられる高速回転装置の概略構成図である。高速回転装置10は、ローター1とスクリーン2を備え、ローター1とスクリーン2が逆方向に回転し、スクリーン2のスリット3を自己架橋ヒアルロン酸が通過することによって、自己架橋ヒアルロン酸粒子として微粒化する。このように、ローター1とスクリーン2が逆方向に回転することによって、大きなせん断力が得られ、微粒化された自己架橋ヒアルロン酸粒子を得ることができる。また、上記高速回転装置10で自己架橋ヒアルロン酸を微粒化する際に、微粒子を構成するヒアルロン酸の主鎖をランダムに切断することがなく、効率よく破砕することができるため、高分子量でありながら低粘性を有する自己架橋ヒアルロン酸粒子を得ることができると推定される。 このような高速回転装置としては、例えば、クレアミクスダブルモーション(商品名、エムテクニック(株)製))が好ましい。本装置は、高速回転するローターとそれを囲むように配置されたスクリーンから構成され、高速回転するローター表面近傍における大きな速度勾配により、スクリーンの通液孔(スリット)を通過する自己架橋ヒアルロン酸の大きな粒子はせん断力を受け、微粒化される。 高速回転装置による微粒化の度合いは、ローターとスクリーンの回転速度と、処理時間によって表1のとおり規定される。ローターの回転速度に対するスクリーンの回転速度の割合は、5〜10割が好ましく、特に9割が好ましい。 高圧型破砕装置としては、例えば、ナノマイザー(商品名、ナノマイザー(株)製)があるが、高圧・高速化された試料が高温になりやすく、自己架橋ヒアルロン酸の物性劣化度合いが大きいことから、本発明に係る自己架橋ヒアルロン酸粒子のための微粒化処理に用いることは好ましくない。また、高速回転装置であっても、例えばT.K.ホモミック(商品名、プライミクス(株)製)のように、粒子の平均体積粒径を200μm以下に微粒化できない装置は、本発明に係る自己架橋ヒアルロン酸粒子のための微粒化処理に用いることは好ましくない。 ここで、物性劣化とは、破砕前の自己架橋ヒアルロン酸の60℃溶解性半減期や一次分子量などの物性が、破砕等の粒子化(微粒化)によって、破砕前の初期値よりも劣ることをいう。微粒化処理による自己架橋ヒアルロン酸粒子の物性は、できるだけ劣化しないことが好ましい。 なお、60℃溶解性半減期とは、60℃、pH7.4の条件下で自己架橋ヒアルロン酸の加熱を行った際に、開始時100%としたゲル分率が50%となるまでの時間をいう。例えば、60℃溶解性半減期が、粒子化前の初期値は25時間であるのに対し、粒子化後の半減期が20時間である場合には、初期値の保持率は80%となり、粒子化により20%の物性劣化が生じたことになる。 ゲル分率とは、架橋ヒアルロン酸組成物中の全ヒアルロン酸量のうち、自己架橋ヒアルロン酸粒子として沈澱するヒアルロン酸量の割合を百分率で表した値であり、下記式(1)のとおり、エステル架橋が加水分解されヒアルロン酸として溶媒中に遊離・溶解したヒアルロン酸量を全ヒアルロン酸量から差し引いて算出することができる。 ゲル分率(%)=(1−(溶解ヒアルロン酸量/全ヒアルロン酸量))×100・・・(1) 本発明の自己架橋ヒアルロン酸粒子の一次分子量は、自己架橋ヒアルロン酸粒子のエステル結合が加水分解されて生成するヒアルロン酸の分子量であり、80万以上であることが好ましく、80万以上300万までの範囲内であることがより好ましい。上記範囲内の一次分子量のものであれば、高分子量のものから加水分解処理等をして得た低分子量のものまで同様に好ましく使用できる。 上記一次分子量は、粘度平均分子量として表され、自己架橋ヒアルロン酸の架橋点を切断し溶解させヒアルロン酸とした後、GPCに検出器として示差屈折率計を使い、分子量分布のピークトップのリテンションタイムから算出することができる。リテンションタイムからの粘度平均分子量の算出には、粘度平均分子量が既知のヒアルロン酸の分子量分布のピークトップのリテンションタイムを用いて作成した検量線を用いる。検量線作成に用いるヒアルロン酸の粘度平均分子量は、ヒアルロン酸を0.2M塩化ナトリウム溶液で溶解し、ウベローデ型粘度計を使用し30℃に於ける流下時間を測定し、得られた還元粘度から極限粘度を算出し、Laurentの式[η]=0.00036×M0.78([η]:極限粘度、M:粘度平均分子量)を用いて算出する。 自己架橋ヒアルロン酸粒子の平衡膨潤倍率は、架橋ヒアルロン酸組成物の水系溶媒(緩衝液)を濾過によって除去した際の自己架橋ヒアルロン酸粒子の体積と、該自己架橋ヒアルロン酸粒子をさらに乾燥させた際の倍率により表される。 上記平衡膨潤倍率は、濾過によって架橋ヒアルロン酸組成物の水系溶媒(緩衝液)を除去した際の自己架橋ヒアルロン酸粒子の湿潤重量と、さらに乾燥させた際の自己架橋ヒアルロン酸粒子の重量の比(Qw)と密度を用いて、下記式(2)により算出することができる。 平衡膨潤倍率=1+(ρ/ρ0)×(Qw−1)・・・(2)(ρ:自己架橋ヒアルロン酸粒子の密度、ρ0:水系溶媒(緩衝液)の密度) 平衡膨潤倍率は、溶媒の塩濃度やpH,温度、膨潤時間等に影響を受けるが、本発明においては、例えば、10mMリン酸緩衝生理食塩水(pH6.0)で、NaCl濃度は0.9wt%のものを用いることができ、5℃で1日間膨潤させ、平衡膨潤状態に到達した後に、測定することができる。 濾過によって架橋ヒアルロン酸組成物の溶媒を除去する方法は特に限定されないが、例えば遠心式フィルターユニットを用いた遠心濾過方法、メンブランフィルターを用いた減圧濾過方法などを適宜用いることができる。 本発明の自己架橋ヒアルロン酸粒子の平衡膨潤倍率は、3〜10倍であり、好ましくは4〜8倍である。自己架橋ヒアルロン酸粒子の平衡膨潤倍率が上記範囲であることによって、架橋ヒアルロン酸組成物に含有されたときに膨らみすぎて注射器から吐出できないという不都合が生じず、高濃度のヒアルロン酸を生体内に注入することが可能となる。 本発明の架橋ヒアルロン酸組成物において、架橋ヒアルロン酸組成物の全体積に対する、自己架橋ヒアルロン酸の粒子の乾燥重量は3〜8w/v%である。例えば3w/v%は、架橋ヒアルロン酸組成物における自己架橋ヒアルロン酸の粒子の濃度を示し、架橋ヒアルロン酸組成物1mlを−20℃、200mTorr以下、20時間以上の条件で乾燥すると、乾燥重量として自己架橋ヒアルロン酸の粒子30mgが得られることを意味する。架橋ヒアルロン酸組成物の全体積に対する、自己架橋ヒアルロン酸の粒子の乾燥重量は、好ましくは3〜7w/v%である。 自己架橋ヒアルロン酸の粒子の濃度は、例えば、以下のように定量することができる。まず架橋ヒアルロン酸懸濁液を蒸留水で希釈し、水酸化ナトリウム溶液を添加し、室温にて静置することで、自己架橋ヒアルロン酸のエステル架橋を加水分解し、自己架橋ヒアルロン酸を溶解する。次に、この溶液に塩酸を添加し中和した後、カルバゾール硫酸法によりグルクロン酸濃度を定量する。このグルクロン酸濃度と、既知濃度のヒアルロン酸を標準物質として、自己架橋ヒアルロン酸の粒子の濃度を算出することができる。 本発明の架橋ヒアルロン酸組成物において、pH7.0±0.5、温度36.0±2.0℃の10mMリン酸緩衝生理食塩水中に浸漬すると30日以内に自己架橋ヒアルロン酸が全量溶解し、粘度平均分子量が80万以上のヒアルロン酸が生成される。このようなヒアルロン酸の生成条件は、典型的には、pH7.4、温度37.0℃の10mMリン酸緩衝化生理的食塩水中での浸漬である。 架橋ヒアルロン酸組成物に含有される水系溶媒は、架橋ヒアルロン酸組成物の全体積に対する、自己架橋ヒアルロン酸の粒子の乾燥重量が3〜8w/v%となるように、架橋ヒアルロン酸組成物中に含有される溶媒である。水系溶媒としては、生理的に受容な水性媒質を有する水溶液であればよい。生理的に受容とは、関節治療剤が関節腔内に注入されたとき、水性媒質自身が好ましくない作用もしくは副作用、例えば、組織の膨潤または収縮、炎症等の原因とならないことを意味する。生理的に受容な水性媒質は、通常アルカリもしくはアルカリ土類金属の塩化物、硫酸塩、リン酸塩または重炭酸塩のような無機塩類、例えば塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化マグネシウム、及び対応するカリウム、カルシウム塩、乳酸ナトリウム、酢酸ナトリウムのような有機酸の塩、またはグルコース、マンノース、多価アルコールのような中性有機物質、例えばグリセリン、マンニトール等から選択される1つ以上の低分子量物質の水溶液である。 製剤は、その剤型に応じ、製剤学的に公知の手法により、適切な賦形剤;等張化剤;防腐剤;乳化剤;分散剤;安定化剤;溶解補助剤;アスコルビン酸のような抗酸化剤;低分子量(約10残基未満の)ポリペプチド(例えば、ポリアルギニンまたはトリペプチド);タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチン、またはイムノグロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸、またはアルギニン);キレート剤(例えば、EDTA);対イオン(例えば、ナトリウム);及び/又は非イオン性界面活性剤(例えば、ポリソルベート、ポロキサマー)、などの医薬品添加物、ヒアルロン酸などと適宜混合することにより調剤することができる。等張性及び化学的安定性を増強するこのような物質は、使用された投薬量及び濃度においてレシピエントに対して非毒性である。 本発明に係る架橋ヒアルロン酸組成物の保存安定性を示す指標として、ゲル分率到達日数を用いることができる。ゲル分率到達日数とは、架橋ヒアルロン酸組成物を一定の測定条件下で静置した場合に、徐々にヒアルロン酸が遊離し、ゲル分率が基準値に低下するまでの日数である。例えば、自己架橋ヒアルロン酸に水系溶媒を加え、一定濃度に調整した架橋ヒアルロン酸懸濁液を一定環境下で加熱し、所定のゲル分率(例えば97%ゲル分率や95%ゲル分率)に到達するまでの時間をゲル分率到達日数として求めることができる。 平衡沈降濃度とは、架橋ヒアルロン酸懸濁液を静置し、完全に自己架橋ヒアルロン酸粒子を沈降させた際の、沈澱中に含まれるヒアルロン酸濃度である。架橋ヒアルロン酸懸濁液において外力を加えない平衡状態では、平衡沈降濃度がヒアルロン酸濃度の上限とみなせる。すなわち、ヒアルロン酸濃度が平衡沈降濃度と等しい架橋ヒアルロン酸懸濁液とは、懸濁液全体が沈澱であり上清がなく、これ以上ヒアルロン酸濃度を増加させることはできないことを示す。 平衡沈降濃度は、懸濁状の架橋ヒアルロン酸組成物のヒアルロン酸濃度[C]、体積[V0]及び沈澱の体積[V]を測定し、下記式(3)を用いて求めることができる。 平衡沈降濃度=C×(V0/V)・・・(3) 架橋ヒアルロン酸組成物の粘度は、25±2℃、せん断速度50S−1において、300mPa・s以下が好ましい。架橋ヒアルロン酸組成物の粘度が300mPa・s以下であることによって、注射剤として注射器を用いて生体内へ投入される際に、容易に注射することができ、患者の負担が軽減される。 架橋ヒアルロン酸組成物の粘度は、例えば、回転粘度測定法を用いることにより測定することができる。回転粘度測定法は、コーンプレート1.009°(D=49.938mm)を用い、せん断速度50S−1、25℃にて行うことができる。 架橋ヒアルロン酸組成物の吐出圧は、内径0.40mm、針の長さ25mmの23Gの注射針をつけた内径0.45cmの注射器を用い、温度25℃、注入速度50mm/minにおいて、0.8N以下であることが好ましく、より好ましくは0.2〜0.8Nであり、さらに好ましくは0.2〜0.6Nである。吐出圧が上記範囲の架橋ヒアルロン酸組成物は、注射剤として注射器(シリンジ)を用いて生体内へ投入される際に、容易に注射することができ、患者の負担が軽減される。 架橋ヒアルロン酸組成物の吐出圧は、架橋ヒアルロン酸組成物を注射器に充填し、注射針をつけ、所定の速度により注射器(シリンジ)から押し出す際にかかる吐出圧を押し出し圧測定機により測定することができる。押し出し圧測定機としては、一般的な材料試験で用いられる静的圧縮試験機を用いることができる。 本発明の注射剤は、上述の架橋ヒアルロン酸組成物を含有する。本架橋ヒアルロン酸組成物を用いた注射剤は、粘度及び吐出圧が低いことから、生体内へ投入する際に注入しやすくなる。 本発明の注射剤は、1回あたり1.25mg/kg体重以上、又は1回あたり75mg以上の上記自己架橋ヒアルロン酸が投与されるように用いられることが好ましい。従来より用いられているヒアルロン酸関節製剤は、ヒアルロン酸濃度が1w/v%程度であり、1回あたりの投与量は約25mgであるが、本発明に係る注射剤は、上記所定の物性を備えた自己架橋ヒアルロン酸の粒子を含む架橋ヒアルロン酸組成物を用いるため、3w/v%以上の濃度にすることができるため、1回あたり75mg以上の自己架橋ヒアルロン酸が投与されるように用いられることができる。また、人間の平均的な体重を60kgとすると、1回あたり1.25mg/kg体重以上の自己架橋ヒアルロン酸が投与されるように用いられることができる。 上記注射剤は、好ましくは、1回あたり1.7mg/kg体重以上、又は1回あたり100mg以上の上記自己架橋ヒアルロン酸が投与されるように用いられ、より好ましくは、1回あたり2.0mg/kg体重以上、又は1回あたり120mg以上の上記自己架橋ヒアルロン酸が投与されるように用いられる。また、上限値としては、1回あたり4.2mg/kg体重以下、又は1回あたり250mg以下の上記自己架橋ヒアルロン酸が投与されるように用いられ、より好ましくは、1回あたり3.3mg/kg体重以下、又は1回あたり200mg以下の上記自己架橋ヒアルロン酸が投与されるように用いられる。 本発明のプレフィルドシリンジ製剤は、注射筒内部に上記注射剤を収容しており、上述のとおり本架橋ヒアルロン酸組成物を用いた注射剤は、粘度及び吐出圧が低いことから、高分子量の自己架橋ヒアルロン酸を容易に生体内へ注入することができる。 本発明の架橋ヒアルロン酸組成物は、任意の適当な投与経路で、生体に投与され得る。非経口でなされることが好ましく、注射剤として調製されることが好ましい。本発明による架橋ヒアルロン酸組成物をウサギの関節に注射剤として投与すると、生体中で粘度平均分子量が80万以上のヒアルロン酸を生成することが確認され、本発明による自己架橋ヒアルロン酸は、生体内のpHや温度により架橋点が切断され、関節内にヒアルロン酸が生成されると考えられる。 本発明の架橋ヒアルロン酸組成物の投与は、非経口でなされる場合、筋肉内、皮下などにも行うことができ、特に好ましくは関節腔内などの組織に直接行うことができる。 処方及び投与のための技術は、例えば、日本薬局方の最新版及び最新追補、「REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES」(Maack Publishing Co.、Easton、PA)の最終版に記載されている。 本発明の架橋ヒアルロン酸組成物は、ヒアルロン酸が意図する目的を達成するのに有効な量で含有される薬剤とすることができ、「治療的有効量」又は「薬理学的有効量」は当業者に十分に認識され、薬理学的結果を生じるために有効な薬剤の量をいう。治療的有効用量の決定は十分に当業者に知られている。 治療的有効量とは、投与により疾患の状態を軽減する薬剤の量をいう。治療効果及び毒性は、細胞培養又は実験動物における標準的な薬学的手順によって決定され得る。用量は、好ましくは、毒性をほとんど又は全く伴わないLD50を含む循環濃度の範囲内にある。この用量は、使用される投与形態、患者の感受性、及び投与経路に依存してこの範囲内で変化する。一例として、複合体の投与量は、年齢その他の患者の条件、疾患の種類、使用する複合体の種類等により適宜選択される。 本発明の自己架橋ヒアルロン酸粒子、架橋ヒアルロン酸組成物は、変形性膝関節症以外にも、一般の生体内分解性医用材料及びヒアルロン酸が用いられる分野であれば特に制限なく使用することができる。例えば、薬理活性物質の担体、創傷被覆剤、組織置換型生体組織修復剤、癒着防止剤、止血剤、人工細胞外マトリクス、診断・治療に用いる医療器具・医療用具等の生物医学的製品又は医薬組成物への使用が挙げられる。 以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。(実施例1(第1実施形態))<自己架橋ヒアルロン酸の合成> 2Nの硝酸75gを自公転型混練り装置(プライミクス製)に入れ、−10℃に冷却し、シャーベット状の硝酸凍結物を得た。硝酸凍結物に粘度平均分子量220万のヒアルロン酸ナトリウムの粉末22.5g(水分含量10%)を投入し、−10℃、100rpmで均一なゴム状になるまで1時間練り混ぜた(ヒアルロン酸ナトリウム20.8質量%)。 このヒアルロン酸と硝酸の混合物を−20℃に設定した冷凍庫に入れた。10日後、5℃の純水1Lに投入し、1時間おきに純水を交換することを2回繰り返した。さらに5℃、50mMのリン酸緩衝液1Lに投入し、1時間おきに50mMのリン酸緩衝液を交換することを5回繰り返し、硝酸が完全に無くなるまで中和洗浄を行い、自己架橋ヒアルロン酸を得た。<自己架橋ヒアルロン酸の粒子化> 上記のとおり得られた自己架橋ヒアルロン酸を中和後30分間静置し、上清をデカンテーションで除き、沈降した自己架橋ヒアルロン酸に対して、9倍の重量の50mMリン酸緩衝液を加えた。次に、この架橋ヒアルロン酸懸濁液を高速回転装置(製品名:クレアミクスダブルモーション、エムテクニック(株)製)に投入し、装置のローターを順方向20,000rpm、スクリーンを逆方向に18,000rpmで回転させ、50℃未満になるよう冷却しながら15分間微粒化した。ローターは後退角度0度ローターを使用し、スクリーン上に存在するスリットの巾が1.0mmのものを使用した。 得られた自己架橋ヒアルロン酸粒子の粒子径について、粒度・形状分布測定器PITA−1(セイシン企業製)を用い定量した。前処理として自己架橋ヒアルロン酸をメチレンブルーにより染色(染色液濃度:1w/v%、染色時間:1分以上)した。PITA−1の測定条件としては、キャリア液は蒸留水を用い、測定粒子数は10,000個、対物レンズ4倍で測定した。その結果、得られた自己架橋ヒアルロン酸粒子の平均体積粒径は65μmだった。(実施例2) 実施例1と同様に自己架橋ヒアルロン酸を合成し、得られた自己架橋ヒアルロン酸について、処理時間を30分とした以外は、実施例1と同様に粒子化させた。その結果、得られた自己架橋ヒアルロン酸粒子の平均体積粒径は52μmだった。(実施例3) 実施例1と同様に自己架橋ヒアルロン酸を合成し、得られた自己架橋ヒアルロン酸について、処理時間を120分とした以外は、実施例1と同様に粒子化させた。その結果、得られた自己架橋ヒアルロン酸粒子の平均体積粒径は41μmだった。(比較例1) 実施例1で得た自己架橋ヒアルロン酸粒子を、高圧型破砕装置(製品名:ナノマイザー、ナノマイザー(株)製)を用いて破砕した。装置破砕部にはφ100μmの衝突型ジェネレーターを取り付け、自己架橋ヒアルロン酸粒子が直ちに室温以下となるように冷却しながら、200MPaで3回処理した。この自己架橋ヒアルロン酸粒子の粒子径を、レーザー回折・散乱式粒度分布計(製品名:SALD−7000、島津製作所製)を用いて測定した。測定条件として、試料の屈折率を1.300とし、分散媒には10mMリン酸緩衝生理食塩水を使用した。その結果、得られた自己架橋ヒアルロン酸粒子の平均体積粒径は5μmだったが、収率が非常に低く実用的でなかった。(比較例2) また、上述の自己架橋ヒアルロン酸の合成方法に従って調製した自己架橋ヒアルロン酸を用い、中和後30分間静置し、上清をデカンテーションで除き、沈降した自己架橋ヒアルロン酸に対して、9倍の重量の50mMリン酸緩衝液を加えた。次に、架橋ヒアルロン酸懸濁液を高速破砕装置(製品名:T.K.ホモミックス、プライミクス(株)製)に投入し、ローターを16,000rpmとし、50℃未満になるよう冷却しながら60分間破砕した。この自己架橋ヒアルロン酸粒子の粒子径について、粒度・形状分布測定器PITA−1(セイシン企業製)を用いて定量したが、大粒子混在のため測定できなかった。そのため、開き目0.2mmのふるいを用いて分級したところ、重量ベースで90%以上ふるい上に残留したため、平均体積粒径は200μm以上とした。<溶解性半減期の測定> 上記で得られた実施例1〜3及び比較例1〜2の自己架橋ヒアルロン酸粒子について、溶解性半減期を測定した。pH7.4のリン酸緩衝液を用いて、60℃環境で加熱を行い、5時間間隔でサンプル採取した。採取したサンプルを希釈し、遠心分離により上清と沈殿部に分け、それぞれの部分のヒアルロン酸濃度を測定し、ゲル分率を算出した。加熱時間に対するゲル分率の挙動を読み取り、ゲル分率50%に到達する加熱時間を求めた。<粘度平均分子量> 生理的食塩水に10mM濃度でリン酸緩衝成分を加え、pH7.4のリン酸緩衝化食塩水を調整した。このリン酸緩衝化生理的食塩水100mlに対して実施例1〜3及び比較例1〜2の自己架橋ヒアルロン酸粒子を添加し、自己架橋ヒアルロン酸が完全に溶解するまで30日間、37.0℃で浸漬した。 リン酸緩衝化生理的食塩水中に溶出したヒアルロン酸の粘度平均分子量は、上澄を0.2μmのメンブランフィルターでろ過した後、GPC装置に0.1ml注入して測定した。ヒアルロン酸の粘度平均分子量は、GPC装置の検出器として示差屈折率計を使い、分子量分布のピークトップのリテンションタイムから算出した。GPC装置は、GPCカラムとして昭和電工社製SB806HQを1本、示差屈折率検出器としてShodex社製RI−71Sを使用して、溶媒硝酸ナトリウムの0.2M水溶液、測定温度40℃、流速0.3ml/分で測定した。リテンションタイムからの粘度平均分子量の算出には、粘度平均分子量が既知のヒアルロン酸の分子量分布のピークトップのリテンションタイムを用いて作成した検量線を用いた。検量線作成に用いるヒアルロン酸の粘度平均分子量は、ヒアルロン酸を0.2M塩化ナトリウム溶液で溶解し、ウベローデ型粘度計を使用し30℃に於ける0.2M塩化ナトリウム溶液の流下時間(t0)及び試料溶液の流下時間(t)を測定し、t0、tより得られた還元粘度ηredから時間0に於ける極限粘度を算出し、Laurentの式[η]=0.00036×M0.78([η]:極限粘度、M:粘度平均分子量)を用いて算出した。 実施例1〜3及び比較例1〜2の測定結果を表2に示す。 実施例1の自己架橋ヒアルロン酸粒子は、処理後の溶解性半減期が25時間、粘度平均分子量が170万であり、処理前からの保持率がそれぞれ100%と、粒子化による物性劣化が生じなかった。また、実施例2及び3の自己架橋ヒアルロン酸粒子も、粒子化による物性劣化はほとんど生じなかった。一方、比較例1の自己架橋ヒアルロン酸粒子は、粒子化後の溶解性半減期が18時間、粘度平均分子量が130万であり、粒子化前からの保持率が69%、76%と、粒子化による物性劣化が生じ、また収率が非常に低く実用的でなかった。<架橋ヒアルロン酸組成物の調製>(実施例4) 実施例1で得られた自己架橋ヒアルロン酸粒子を、5℃、pH7.0の10mMリン酸緩衝生理食塩水に投入し、一時間おきに10mMリン酸緩衝生理食塩水を交換することを2回繰り返した。この架橋ヒアルロン酸組成物の全体積に対する、自己架橋ヒアルロン酸粒子の乾燥重量(濃度)が6w/v%になるように以下のように調整した。 自己架橋ヒアルロン酸の濃度の定量は、架橋ヒアルロン酸組成物50mgを蒸留水1.55mlで希釈し、そこに1N水酸化ナトリウム溶液を0.2ml添加し、室温にて30分静置することで、自己架橋ヒアルロン酸のエステル架橋を加水分解し、自己架橋ヒアルロン酸を溶解した。さらに1N塩酸0.2mlを添加し、中和した後、カルバゾール硫酸法により、既知濃度のヒアルロン酸(粘度平均分子量190万)を標準物質として、自己架橋ヒアルロン酸の濃度を計算した。この定量結果を基に、自己架橋ヒアルロン酸粒子の濃度が、6w/v%となるように調整し、架橋ヒアルロン酸組成物を得た。(実施例5) 架橋ヒアルロン酸組成物の全体積に対する自己架橋ヒアルロン酸粒子の乾燥重量が3w/v%になるように、pH7.0の10mMリン酸緩衝生理食塩水に投入して調整した以外は、実施例4と同様にして架橋ヒアルロン酸組成物を調製した。(比較例3) 自己架橋ヒアルロン酸の粒子化に高速回転装置(製品名:クレアミクスシングルモーション、エムテクニック(株)製)を使用し、装置のローターを順方向に10,000rpm回転させ、架橋ヒアルロン酸が30℃未満になるよう冷却しながら6分間微粒化した以外は、実施例1と同様にして平均体積粒径が300μmの自己架橋ヒアルロン酸粒子を調製した。さらに、実施例4と同様にして自己架橋ヒアルロン酸粒子の濃度が、6w/v%の架橋ヒアルロン酸組成物を調製した。(比較例4) 自己架橋ヒアルロン酸の粒子化に高速回転装置(製品名:クレアミクスシングルモーション、エムテクニック(株)製)を使用し、装置のローターを順方向に20,000rpmで回転させ、架橋ヒアルロン酸が30℃未満になるよう冷却しながら4分間微粒化した以外は、実施例1と同様にして平均体積粒径が153μmの自己架橋ヒアルロン酸粒子を調製した。さらに、実施例4と同様にして自己架橋ヒアルロン酸粒子の濃度が、6w/v%の架橋ヒアルロン酸組成物を調製した。(比較例5) 自己架橋ヒアルロン酸の粒子化に高速回転装置(製品名:クレアミクスシングルモーション、エムテクニック(株)製)を使用し、装置のローターを順方向に20,000rpmで回転させ、自己架橋ヒアルロン酸の冷却を行わずに20分間微粒化し、平均体積粒径100μmの自己架橋ヒアルロン酸粒子を調製した。この時、自己架橋ヒアルロン酸の温度は85℃まで上昇した。さらに、実施例4と同様にして自己架橋ヒアルロン酸粒子の濃度が、6w/v%の架橋ヒアルロン酸組成物を調製した。(参考例1) ヒアルロン酸関節製剤「スベニール」(商品名、中外製薬(株)製) (粘度平均分子量200万、ヒアルロン酸濃度1w/v%)(参考例2) ヒアルロン酸関節製剤「アルツ」(商品名、生化学工業(株)製) (粘度平均分子量80万、ヒアルロン酸濃度1w/v%)(参考例3) ヒアルロン酸関節製剤「Synvisc」(商品名、ジェンザイムコーポレーション社製) (ヒアルロン酸濃度0.8w/v%)(参考例4) ヒアルロン酸関節製剤「Durolane」(商品名、Q−MED社製) (ヒアルロン酸濃度2.0w/v%)(参考例5) 生理食塩水「大塚生食注」(商品名、大塚製薬(株)製) 実施例4及び5並びに比較例3〜5で得られた架橋ヒアルロン酸組成物の特性を、参考例1〜5とともに、以下のとおり測定及び評価した。<架橋ヒアルロン酸組成物の粘度測定> 粘度測定装置であるレオメーターとして、MCR300(商品名、Physica製)を使用した。コーンプレートはコーン角1.009°(D=49.938mm)を用い、せん断速度50S−1、25℃にて測定した。実施例4及び5並びに比較例3の架橋ヒアルロン酸組成物、参考例1〜5の粘度比較を行った。表3に粘度の測定結果を示す。 表3のとおり、特に実施例4の架橋ヒアルロン酸組成物は、6w/v%と高濃度の自己架橋ヒアルロン酸粒子を含有するにもかかわらず、参考例1の粘度平均分子量80万、1w/v%のヒアルロン酸と比べ、粘度が1/6以下となった。<架橋ヒアルロン酸組成物の吐出圧測定(1)> 架橋ヒアルロン酸組成物1mlを内径0.45cmの注射器テルモシリンジSS−01T(商品名、テルモ社製)に詰め、内径0.40mm、針の長さ25mmの注射針23G(テルモ社製)を付けた。押し出し圧測定機EZ−TEST(商品名、島津製作所(株)製)を用い、温度25℃で速度50mm/分の吐出条件で、実施例4、比較例3及び比較例4の架橋ヒアルロン酸組成物、参考例1〜5のこのシリンジにかかる圧力を測定した。表4に測定結果を示す。 表4のとおり、特に実施例4の架橋ヒアルロン酸組成物は、6w/v%と参考例1の6倍も高濃度のヒアルロン酸を含有するにもかかわらず、吐出圧を低く押さえることができた。<架橋ヒアルロン酸組成物の吐出圧測定(2)> 吐出圧測定(1)で使用した「注射針23G(内径0.40mm)よりも細い24G、25G及び27Gの注射針を使用し、実施例4及び参考例1〜5のサンプル1mlを注射針のついたシリンジ(テルモ社製)に詰め、吐出圧測定(1)と同様にしてシリンジにかかる圧力を測定した。その結果を以下の表5及び図2に示す。 表5及び図2のとおり、特に実施例4の架橋ヒアルロン酸組成物は、6w/v%と参考例1の6倍も高濃度のヒアルロン酸を含有するにもかかわらず、吐出圧を低く押さえることができ、かつ細い針が使用可能であることから、注射時の患者の疼痛を軽減し得ることが示唆された。<架橋ヒアルロン酸の一次分子量測定> 実施例4及び5並びに比較例5のサンプルについて、自己架橋ヒアルロン酸に換算して10mg分を、0.1N水酸化ナトリウム溶液1mlに投入し、0℃で30分間静置し、自己架橋ヒアルロン酸を溶解した。この溶解液に、0.1N塩酸1mlを添加して中和し、GPC溶媒で濃度を0.01質量%になるように希釈調製し、0.2μmのメンブランフィルターでろ過した後、GPC装置に0.1ml注入して、一次分子量として粘度平均分子量の測定を行った。 ヒアルロン酸の粘度平均分子量は、GPC装置の検出器として示差屈折率計を使い、分子量分布のピークトップのリテンションタイムから算出した。GPC装置は、GPCカラムとして昭和電工社製SB806HQを1本、示差屈折率検出器としてShodex社製RI−71Sを使用して、溶媒硝酸ナトリウムの0.2M水溶液、測定温度40℃、流速0.3ml/分で測定した。リテンションタイムからの粘度平均分子量の算出には、粘度平均分子量が既知のヒアルロン酸の分子量分布のピークトップのリテンションタイムを用いて作成した検量線を用いた。検量線作成に用いるヒアルロン酸の粘度平均分子量は、ヒアルロン酸を0.2M塩化ナトリウム溶液で溶解し、ウベローデ型粘度計を使用し30℃に於ける0.2M塩化ナトリウム溶液の流下時間(t0)及び試料溶液の流下時間(t)を測定し、t0、tより得られた還元粘度ηredから時間0に於ける極限粘度を算出し、Laurentの式[η]=0.00036×M0.78([η]:極限粘度、M:粘度平均分子量)を用いて算出した。<架橋ヒアルロン酸から溶出したヒアルロン酸の粘度平均分子量測定> 生理的食塩水に10mM濃度でリン酸緩衝成分を加え、pH7.4のリン酸緩衝化食塩水を調整した。このリン酸緩衝化生理的食塩水100mlに対して実施例4及び5並びに比較例5のサンプル0.5mlを添加し、自己架橋ヒアルロン酸が完全に溶解するまで30日間、37.0℃で浸漬した。リン酸緩衝化生理的食塩水中に溶出したヒアルロン酸の粘度平均分子量は、上記架橋ヒアルロン酸の粘度平均分子量測定と同様に行った。 表6に示すように、冷却温度制御を行わなかった比較例5は、破砕時に自己架橋ヒアルロン酸の一次分子量が低下し、自己架橋ヒアルロン酸から溶出するヒアルロン酸の粘度平均分子量も70万と低くなった。それに対し、破砕時に50℃未満に冷却温度制御した実施例4及び5は、自己架橋ヒアルロン酸から溶出するヒアルロン酸の粘度平均分子量が170万と高く保つことができた。<関節中で自己架橋ヒアルロン酸から溶出したヒアルロン酸の粘度平均分子量測定> ウサギ(日本白色種 オス)、重量約3kgを麻酔(麻酔組成:ケタミン(4ml)+キシラジン(3ml)+生食(5ml))し、後足両膝に実施例4及び5、比較例3及び5、並びに、参考例1及び3のサンプルを、内径0.45cmのシリンジに23G注射針を用い、投与量0.1ml/kgで注入した。 注入7日後、麻酔下で安楽死させ、膝を切り出し、関節液を高粘性用ピペットで回収した。関節液は、蒸留水で正確に100倍希釈し、4℃、15,000rpm、10分間で遠心分離した。その上澄を0.2μmのメンブランフィルターでろ過した後、GPC装置に0.1ml注入して粘度平均分子量の測定を行った。測定結果を表7に示す。 表7に示すとおり、比較例5、参考例1及び3は、サンプル非投与と同様に、関節液量30μl、関節液の粘度平均分子量170万以上、ヒアルロン酸濃度0.3質量%であった。これに対し、実施例4及び5の関節液量は、200及び300μl、関節液の粘度平均分子量170万以上、ヒアルロン酸濃度は0.6重量%となった。なお比較例3は、針詰まりが生じ、関節への注入が困難だった。実施例4及び5の関節液の増量と関節液中のヒアルロン酸濃度の上昇は、本発明の架橋ヒアルロン酸組成物に由来すると考えられ、本発明の架橋ヒアルロン酸組成物を注射剤として用いれば、注射して7日後でも、粘度平均分子量170万以上のヒアルロン酸が関節液中に保持されることがわかった。<自己架橋ヒアルロン酸による疼痛抑制効果の測定> 実施例4及び5並びに参考例1及び5の関節腔内注射が疼痛に及ぼす作用を、ウサギの膝関節半月板部分切除による実験的変形性関節症を用いて測定した。<使用動物及び飼育方法> 動物としては、13週齢のKbl:JW(SPF)系ウサギ(雄)を実施例・参考例毎に8羽ずつ用いるために計32羽を準備した。動物を入荷後3〜8日の毎日、評価装置に対する訓化として、小動物用鎮痛評価装置Incapacitance Tester(Linton Instrument製)の本体容器(ホルダー)に入れ、5秒間静止させる操作を行った。 動物は、可動式ラックに装着したブラケット式金属製金網床ケージ(350W×500D×350H mm)に個別に収容し、温度20±3℃、湿度50±20%、換気回数12〜18回/時間、照明時間8:00〜20:00(明12時間、暗12時間)の環境下で飼育した。飼料は、ステンレス製給餌器により、実験動物用固形飼料RC4(オリエンタル酵母工業社製)を150g/日の制限給餌として与え、飲料水はポリプロピレン製給水瓶(先管ステンレス製)により水道水を自由に与えた。動物の個体識別は耳介にマジックインキで個体識別番号を記入して識別し、ケージには群分け前は性別及び個体識別番号を記入したカードを、群分け後は試験番号、投与群、性別、動物番号、手術日、投与日、部検日及び個体識別番号を記入したカードを付けた。<動物の選択及び群分け> 半月板部分切除手術日の前日に、群分けを行った。群分け日に、全例の体重と両後足重量配分を測定した。測定した両後足重量配分より左後足重量配分比((左荷重/両側合計荷重)×100(%))を算出した。左後足重量配分比を基準とし、個体値が平均値に近い順に選択した。選択した動物は、左後足重量配分比による層別連続無作為化法を用いて各群に割り付けた。左後足重量配分比の平均値が各群で同様の値を示し、群間に差がないことを確認後、体重についても平均値が各群で同様の値を示し、群間に差がないことを確認した。<変形性関節症モデルの作製(半月板部分切除)> 半月板部分切除手術は群分け日の翌日に行い、半月板部分切除手術日を術後0日と定義した。14〜15週齢の動物を用い、参考文献1〜3に記載の方法を参考にして、半月板部分切除変形性関節症モデルを作製した。 ここで、上記文献のうち、例えば参考文献1にはKBL:JW家兎(13週齢、雌)32羽を用意し、ケタミン及びキシラジン麻酔下に、左側膝関節の外側側副靭帯及び種子骨靭帯を切離し、半月板を3.0〜4.0mm部分切除し、26Gの注射針を用いて、膝関節内に2週間に5回の割合で、AおよびB群の各8羽には高分子量HA溶液を注入し、対照のC群8羽には生理的食塩水を注入し、C群及びD群にはロキソニンを毎日経口投与し、疼痛抑制効果及び軟骨変性防止効果を評価することが記載されている。また参考文献2には、ニュージーランド白色家兎(体重2〜3kg)72羽を用意し、麻酔下に、左側膝関節の靭帯を切離し、半月板を3〜4mm部分切除し、膝関節内に週2回の割合で期間2及び4週間で、A群の48羽には分子量190万の1〜0.01%HA溶液を注入し、B群の12羽には分子量80万の1〜0.01%HA溶液を注入し、C群の12羽には生理的食塩水を注入し、屠殺後、膝関節を採取し薬効を評価することが記載されている。また参考文献3には、日本白色家兎(雌,2.5kg)15羽をペントバルビタールナトリウム麻酔下に、左側膝関節の外側側副靭帯及び種子骨靭帯を切離し、半月板を3.0〜4.0mm部分切除し、25Gの注射針を用いて膝関節内に週2回の割合で注入し、対照として生理食塩水を同量注入し、屠殺後、膝関節を採取し薬効を評価することが記載されている。 参考文献1:M. Mihara, S. Higo, Y. Uchiyama、 K.Tanabe、 K. Saito:Different effects of high molecular weighit sodium hyaluronate and NSAID on the progression of the cartilage degeneration in rabbit OA model,Osteoarthritis and Cartilage, Vol.15,No.5, pp.543−549(2007) 参考文献2:T. Kikuchi, H. Yamada and M. Shimmei:Effect of high molecular weight hyaluronan on cartilage degeneration in a rabbit model of osteoarthritis,Osteoarthritis and Cartilage, Vol.4,No.2, pp.99−110(1996) 参考文献3:菊池 寿幸,山田 治基,堀田 拓,館田 智昭,小松 修一, 新名 正由:家兎変形性関節症モデルにおける高分子hyaluronanの軟骨変性抑制作用,関節外科,Vol.15,No.11,92−98(1996) 参考文献4:舘田 智昭,永峯 春代,岩館 克治,中村 亨:ウサギの実験的変形性関節症(OA)モデルおよび固定関節拘縮(PS)モデルにおけるヒアルロン酸ナトリウム製剤(ME3710)の薬効薬理試験,薬理と治療,23,833−841(1995) 参考文献5:野地 裕美,八木 直美,小田 康弘,岩館 克治,田元 浩一,関川 彬:室温保存可能な新規高分子ヒアルロン酸ナトリウム製剤の生物学的同等性試験,薬理と治療,33,303−312(2005) 参考文献6:渡辺 耕志,並木 脩,豊島 弘道,楠本 剛夫:固定関節に対する高分子ヒアルロン酸の影響,整形外科基礎科学,Vol.9,77−79(1982) 参考文献7:宮崎 匡輔,長野 聖,鈴木 啓太郎,後藤 幸子,山口 敏二郎,並木 脩:ウサギ固定関節に対するヒアルロン酸ナトリウムの影響,整形外科基礎科学,Vol.11,125−127(1984) 参考文献8:T. kawano, H. Miura, T. Mawatari, T. Moro−Oka, Y. Nakanishi, H. Higashi and Y. Iwamoto:Mechanical Effects of the Intraarticular Administration of High Molecular Weight Hyaluronic Acid Plus Phospholipid on Synovial Joint Lubrication and Prevention of Articular Cartilage Degeneration in Experimental Osteoarthritis, Arthritis & Rheumatism, Vol.48,No.7, pp.1923 − 1929 (2003) 具体的には、塩酸ケタミン(製品名:ケタラール筋注用500mg、三共エール薬品社製)及びキシラジン(製品名:スキルペ、2%注射液、インターベット社製)の併用麻酔下(大腿部筋肉内注射)でウサギの左膝関節部を除毛し、北島式固定器(夏目製作所社製)に背位固定した。無菌的に膝蓋の外側直下皮膚に約2cmの切開を加え、外側側副靭帯を露呈させた後、この靭帯を切除した。さらに、膝窩筋起始部の腱を切除することにより外側半月板を露呈させ、半月板のほぼ中央部を3.0−4.0mmに渡り切除した。その後、皮下筋層と皮膚をそれぞれ結節縫合し、アンピシリン(製品名:ビクシリンゾル−15%、明治製菓社製)約0.2mlを大腿部筋肉内に注射した。<関節腔内に注入する群の構成> 参考文献1〜8に記載の方法を参考にして、実施例4及び5並びに参考例1及び5の注射剤を0.1mL/kg関節腔内に注入する4群を、表8のとおり設定した。 全群全例について、術後4日(疼痛発症日)の両後足重量配分測定後に1回、実施例4及び5並びに参考例1及び5の注射剤0.1ml/kgを、手術側(左側)膝関節腔内に1ml注射筒(テルモシリンジ1mlツベルクリン用、(株)テルモ)及び23G注射針(テルモ注射針23G、(株)テルモ)を用いて投与した。投与液量は投与日に測定した体重に基づく液量換算により個別に算出した。<疼痛抑制効果の測定方法> 両後足重量配分の測定には小動物用鎮痛評価装置Incapacitance Tester(英国Linton Instrument社製)を用いた。本装置は、本体容器に入れた動物の左右の脚への重量配分を、容器底面に設置したデュアルチャンネルのセンサーパッドにより、左右それぞれの重量をグラム単位で正確に検出し、その値を試験者が設定した時間にて平均化した。本体容器はウサギ用のものを使用した。測定設定時間は動物の静止状態で5秒とした。 動物をウサギ用本体容器(ホルダー)内に移動し、動物の静止状態で測定し(1度目)、次に動物をホルダーから出し、再度入れて静止状態で測定し(2度目)、この操作を再度繰り返した(3度目)。3度測定した両後足重量配分のそれぞれについて、左右重量(荷重)から左後足重量配分比(%)を下記式(4)により算出した。 左後足重量配分比(%)={左荷重(g)/(右荷重(g)+左荷重(g))×100}・・・(4) 3度算出した左後足重量配分比(%)の平均値を、測定1回当たりの左後足重量配分比(%)と定義した。その結果を図3に示す。 図3に示すように、実施例4及び5の自己架橋ヒアルロン酸は、参考例1よりも疼痛抑制効果が向上していることがわかった。なお、図3中、*、**は参考例5である陰性対照(生理的食塩水投与)と比較して有意差があることを示す。(*:p<0.05、**:p<0.01(t検定))<各種自己架橋エステル化度の自己架橋ヒアルロン酸の調製> 実施例1で得られた自己架橋ヒアルロンを50mMリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)の溶媒に交換し、6wt%の懸濁状の架橋ヒアルロン酸組成物を調製した。得られた架橋ヒアルロン酸組成物7mlを採取し、容器に移し密閉した。同様の架橋ヒアルロン酸組成物採取を繰り返し、5本の試験サンプルを得た。 上記5本の試験サンプルを60℃に設定した恒温環境試験機(エスペック製)に入れ、所定時間加熱した。加熱時間は5本の試験サンプルで異なる時間とした。すなわち加熱開始より0,2,4,6,10時間後の各時点に試験サンプル1本ずつ取り出した。以上の工程により、5種類の架橋ヒアルロン酸組成物を得た。これらを上記加熱時間の短い順に、実施例6〜9及び比較例6とした。<平衡膨潤倍率の測定> 架橋ヒアルロン酸組成物0.4mlを、遠心式フィルターユニット(0.45マイクロメートル孔径,ミリポア社製)を用いて5℃、2,000rpm、30分間遠心分離して溶媒を除去し、さらに遠心式フィルターユニットごと20時間乾燥することで、溶媒除去した自己架橋ヒアルロン酸重量と乾燥した自己架橋ヒアルロン酸重量を求め、平衡膨潤倍率を算出した。溶媒は、10mMリン酸緩衝生理食塩水(pH6.0)で、NaCl濃度は0.9wt%であり、5℃で1日間膨潤させ、平衡膨潤状態に到達した後に、測定した。<60℃溶解性半減期の測定> 実施例6〜9及び比較例6の架橋ヒアルロン酸組成物について、実施例1〜3及び比較例1〜2における測定方法と同様に、60℃溶解性半減期を測定した。<一次分子量の測定> 実施例6〜9及び比較例6の架橋ヒアルロン酸組成物の一次分子量として、実施例1〜3及び比較例1〜2における測定方法と同様に、粘度平均分子量を測定した。<架橋度(自己架橋エステル化度)の測定> 自己架橋ヒアルロン酸中の架橋度(自己架橋エステル化度)は、プロトン核磁気共鳴法(NMR)による化学シフト強度(ピーク面積値)によって求めた。測定のためには、あらかじめヒアルロン酸構造を加水分解し、低分子量化する必要があったため、自己架橋ヒアルロン酸の主鎖構造のみを選択的に加水分解するヒアルロン酸加水分解酵素による加水分解処理を行った。ヒアルロン酸加水分解酵素は、Hyaluronidaze from sheep testes TypeV,lyophilized powder、activity:>1,500 units/mg solid(シグマアルドリッチ社製)を用い、不純物を除くため陽イオン交換カラムMono S 5/50GL(GEヘルスケア社製)を用い精製した。精製は、上記の酵素を0.1g/mL濃度になるよう10mM、pH5.0酢酸緩衝液に溶解し、この溶液0.1mLを同緩衝液で平衡化した上記のカラムに通液し、NaCl濃度0.05〜0.15mol/Lで溶出してくる精製画分の酵素溶液0.8mLを得た。加水分解処理は、架橋ヒアルロン酸を10mM、pH5.0酢酸緩衝生理食塩水1.0mLに濃度3wt%になるように調整し、上記の精製酵素溶液0.2mLを添加し、37℃160rpm振とう条件下で24時間反応させ、その後、酵素溶液0.2mLを加えて同条件下でさらに24時間反応させた。反応後の溶液は、−30℃で凍結し、その後18時間凍結乾燥させた後、NMR測定試料とした。 なお、測定条件を以下のとおりとした。機器:AVANCEIII 500、観測幅:500.232MHz、パルス幅:10.5μs(90°)、測定モード:13Cデカップル−1Hノンデカップル法、積算回数:7600回、測定温度:30℃。 測定で得られたスペクトル図より、架橋エステル基に相当する化学シフト(Ha:4.18ppm)及びアセチルメチル基に相当する化学シフト(Hb:2.05ppm)の積分値を求め、以下の式(5)より架橋度を算出した。 架橋度=100×([Ha]×2)/([Hb]/3)・・・(5) 実施例6〜9及び比較例6の架橋ヒアルロン酸組成物の測定結果を表9及び図4〜7に示した。 表9及び図4〜7のとおり、加熱時間を増加させることによって、架橋度を小さくさせた架橋ヒアルロン酸組成物は、60℃溶解性半減期も小さくなり、二次関数的な相関を示した。一方、平衡膨潤倍率は、架橋度を小さくさせた架橋ヒアルロン酸組成物ほど大きくなり、フローリー・レーナー式に相似する相関を示した。<保存安定性の評価> 実施例6〜9及び比較例6の架橋ヒアルロン酸組成物の溶媒を、10mMリン酸緩衝化生理食塩水(pH6.0)に交換し、自己架橋ヒアルロン酸の濃度が6w/v%となるように調整した。60℃環境での加熱中、適当な間隔でサンプル採取を行い、遊離したヒアルロン酸量を測定し、ゲル分率を測定した。加熱時間に対するゲル分率の挙動を読み取り、ゲル分率97%に到達する加熱時間を求めた。また、ゲル分率95%に到達する加熱時間も上記と同様に求めた。その測定結果を以下の表10及び図8〜9に示す。 表10のとおり、加熱時間の増加に従い、ゲル分率到達日数が短くなった。特に、比較例6においては、ゲル分率97%に到達する加熱時間が0.7日、ゲル分率95%に到達する加熱時間が1.1日と短くなった。また、半減期及び架橋度が少なくなるほど、ゲル分率到達日数も短くなり、これらの物性値と保存安定性が相関することを示した(図8及び図9)。(平均沈降濃度の測定) また、実施例6〜9及び比較例6の架橋ヒアルロン酸懸濁液について、平均沈降濃度の測定を行った。平衡沈降濃度は、懸濁液のヒアルロン酸濃度[C]、懸濁液の体積[V0]及び沈澱の体積[V]を測定し、下記式(6)のとおり求めた。 平衡沈降濃度=C×(V0/V)・・・(6) その測定結果を以下の表11に示す。 表11のとおり、設定可能な濃度上限である平衡沈降濃度が加熱時間と相関した。特に、比較例6は平均沈降濃度が5.2重量%と低く、実施例6〜9と比べて濃度を高くすることができないことを示した。(実施例10(第2実施形態))<ヒアルロン酸原料中のエタノール除去前処理> 粘度平均分子量220万のヒアルロン酸ナトリウムの粉末を通気フィルター付き容器に入れ、室温下でポンプにより吸引し、3日間通気してエタノールを除去した。<自己架橋ヒアルロン酸の合成> 2Nの硝酸75gを自公転型混練り装置(プライミクス製)に入れ、−10℃に冷却し、シャーベット状の硝酸凍結物を得た。硝酸凍結物に上記処理を施したヒアルロン酸ナトリウムの粉末22.5g(水分含量10%)を投入し、−10℃、100rpmで均一なゴム状になるまで1時間練り混ぜた(ヒアルロン酸ナトリウム20.8質量%)。 このヒアルロン酸と硝酸の混合物を−20℃に設定した冷凍庫に入れた。10日後、5℃の純水1Lに投入し、1時間おきに純水を交換することを2回繰り返した。さらに5℃、50mMのリン酸緩衝液1Lに投入し、1時間おきに50mMのリン酸緩衝液を交換することを5回繰り返し、硝酸が完全に無くなるまで中和洗浄を行い、自己架橋ヒアルロン酸を得た。<自己架橋ヒアルロン酸の粒子化> 上記のとおり得られた自己架橋ヒアルロン酸を中和後30分間静置し、上清をデカンテーションで除き、沈降した自己架橋ヒアルロン酸に対して、9倍の重量の50mMリン酸緩衝液を加えた。次に、この架橋ヒアルロン酸懸濁液を高速回転装置(製品名:クレアミクスダブルモーション、エムテクニック(株)製)に投入し、装置のローターを順方向20,000rpm、スクリーンを逆方向に18,000rpmで回転させ、50℃未満になるよう冷却しながら15分間微粒化した。ローターは後退角度0度ローターを使用し、スクリーン上に存在するスリットの巾が1.0mmのものを使用した。(実施例11) 1000ppmのエタノールを含有するように調整したヒアルロン酸原料を用い、実施例10と同様にして、自己架橋ヒアルロン酸粒子を得た。(比較例7) 31000ppmのエタノールを含有するように調整したヒアルロン酸原料を用い、実施例10と同様にして、自己架橋ヒアルロン酸粒子を得た。(比較例8) 116000ppmのエタノールを含有するように調整したヒアルロン酸原料を用い、実施例10と同様にして、自己架橋ヒアルロン酸粒子を得た。<自己架橋エステル化度(架橋度)の測定> 自己架橋ヒアルロン酸中の自己架橋エステル化度(架橋度)は、プロトン核磁気共鳴法(NMR)による化学シフト強度(ピーク面積値)によって求めた。測定のためには、あらかじめヒアルロン酸構造を加水分解し、低分子量化する必要があったため、自己架橋ヒアルロン酸の主鎖構造のみを選択的に加水分解するヒアルロン酸加水分解酵素による加水分解処理を行った。ヒアルロン酸加水分解酵素は、Hyaluronidaze from sheep testes TypeV,lyophilized powder、activity:>1,500 units/mg solid(シグマアルドリッチ社製)を用い、不純物を除くため陽イオン交換カラムMono S 5/50GL(GEヘルスケア社製)を用い精製した。精製は、上記の酵素を0.1g/mL濃度になるよう10mM、pH5.0酢酸緩衝液に溶解し、この溶液0.1mLを同緩衝液で平衡化した上記のカラムに通液し、NaCl濃度0.05〜0.15mol/Lで溶出してくる精製画分の酵素溶液0.8mLを得た。加水分解処理は、架橋ヒアルロン酸を10mM、pH5.0酢酸緩衝生理食塩水1.0mLに濃度3wt%になるように調整し、上記の精製酵素溶液0.2mLを添加し、37℃160rpm振とう条件下で24時間反応させ、その後、酵素溶液0.2mLを加えて同条件下でさらに24時間反応させた。反応後の溶液は、−30℃で凍結し、その後18時間凍結乾燥させた後、NMR測定試料とした。 測定で得られたスペクトル図より、架橋エステル基に相当する化学シフト(Ha:4.18ppm)及びアセチルメチル基に相当する化学シフト(Hb:2.05ppm)の積分値を求め、以下の式(4)より架橋度を算出した。 架橋度=100×([Ha]×2)/([Hb]/3)・・・(4)<エチルエステル量の測定> 上記で得られた実施例10〜11及び比較例7〜8の自己架橋ヒアルロン酸粒子について、エチルエステル量をNMRにより測定した。 測定で得られたスペクトル図より、ヒアルロン酸のエチルエステル基に相当するピーク(Ha:4.27〜4.33ppm)及びヒアルロン酸のアセチルメチル基に相当するピーク(Hb:2.05ppm)の積分値を求め、以下の式(5)よりヒアルロン酸のエチルエステルを定量した。 ヒアルロン酸のエチルエステル量(モル%)=100×([Ha]/2)/([Hb]/3)・・・(5)<溶解性半減期の測定> 上記で得られた実施例10〜11及び比較例7〜8の自己架橋ヒアルロン酸粒子について、溶解性半減期を測定した。pH7.4のリン酸緩衝液を用いて、60℃環境で加熱を行い、5時間間隔でサンプル採取した。採取したサンプルを希釈し、遠心分離により上清と沈殿部に分け、それぞれの部分のヒアルロン酸濃度を測定し、ゲル分率を算出した。加熱時間に対するゲル分率の挙動を読み取り、ゲル分率50%に到達する加熱時間を求めた。<粘度平均分子量> 生理的食塩水に10mM濃度でリン酸緩衝成分を加え、pH7.4のリン酸緩衝化食塩水を調整した。このリン酸緩衝化生理的食塩水100mlに対して実施例10〜11及び比較例7〜8の自己架橋ヒアルロン酸粒子を添加し、自己架橋ヒアルロン酸が完全に溶解するまで30日間、37.0℃で浸漬した。 リン酸緩衝化生理的食塩水中に溶出したヒアルロン酸の粘度平均分子量は、上澄を0.2μmのメンブランフィルターでろ過した後、GPC装置に0.1ml注入して測定した。ヒアルロン酸の粘度平均分子量は、GPC装置の検出器として示差屈折率計を使い、分子量分布のピークトップのリテンションタイムから算出した。GPC装置は、GPCカラムとして昭和電工社製SB806HQを1本、示差屈折率検出器としてShodex社製RI−71Sを使用して、溶媒硝酸ナトリウムの0.2M水溶液、測定温度40℃、流速0.3ml/分で測定した。リテンションタイムからの粘度平均分子量の算出には、粘度平均分子量が既知のヒアルロン酸の分子量分布のピークトップのリテンションタイムを用いて作成した検量線を用いた。検量線作成に用いるヒアルロン酸の粘度平均分子量は、ヒアルロン酸を0.2M塩化ナトリウム溶液で溶解し、ウベローデ型粘度計を使用し30℃に於ける0.2M塩化ナトリウム溶液の流下時間(t0)及び試料溶液の流下時間(t)を測定し、t0、tより得られた還元粘度ηredから時間0に於ける極限粘度を算出し、Laurentの式[η]=0.00036×M0.78([η]:極限粘度、M:粘度平均分子量)を用いて算出した。 実施例10〜11及び比較例7〜8の測定結果を表12に示す。 表12のとおり、実施例10〜11の自己架橋ヒアルロン酸粒子は、エタノール含量が少なく、エチルエステル量も少なく、溶解性半減期及び一次分子量の低下は見られなかった。一方、エタノール含量及びエチルエステル量が多い比較例7〜8の自己架橋ヒアルロン酸粒子は、実施例10〜11と比較して、溶解性半減期及び一次分子量の値が低く、物性劣化が生じていた。また、比較例7〜8の自己架橋エステル化度は実施例10〜11と比較して低くなっていることから、エチルエステル化が自己エステル化を阻害していることを確認した。<平均体積粒径> 実施例10で得られた自己架橋ヒアルロン酸粒子の粒子径について、粒度・形状分布測定器PITA−1(セイシン企業製)を用い定量した。前処理として自己架橋ヒアルロン酸をメチレンブルーにより染色(染色液濃度:1w/v%、染色時間:1分以上)した。PITA−1の測定条件としては、キャリア液は蒸留水を用い、測定粒子数は10,000個、対物レンズ4倍で測定した。その結果、得られた自己架橋ヒアルロン酸粒子の平均体積粒径は65μmだった。<架橋ヒアルロン酸組成物の調製>(実施例12) 実施例10で得られた自己架橋ヒアルロン酸粒子を、5℃、pH7.0の10mMリン酸緩衝生理食塩水に投入し、一時間おきに10mMリン酸緩衝生理食塩水を交換することを2回繰り返した。この架橋ヒアルロン酸組成物の全体積に対する、自己架橋ヒアルロン酸粒子の乾燥重量(濃度)が6w/v%になるように以下のように調整した。 自己架橋ヒアルロン酸の濃度の定量は、架橋ヒアルロン酸組成物50mgを蒸留水1.55mlで希釈し、そこに1N水酸化ナトリウム溶液を0.2ml添加し、室温にて30分静置することで、自己架橋ヒアルロン酸のエステル架橋を加水分解し、自己架橋ヒアルロン酸を溶解した。さらに1N塩酸0.2mlを添加し、中和した後、カルバゾール硫酸法により、既知濃度のヒアルロン酸(粘度平均分子量190万)を標準物質として、自己架橋ヒアルロン酸の濃度を計算した。この定量結果を基に、自己架橋ヒアルロン酸粒子の濃度が、6w/v%となるように調整し、架橋ヒアルロン酸組成物を得た。(実施例13) 架橋ヒアルロン酸組成物の全体積に対する自己架橋ヒアルロン酸粒子の乾燥重量が3w/v%になるように、pH7.0の10mMリン酸緩衝生理食塩水に投入して調整した以外は、実施例12と同様にして架橋ヒアルロン酸組成物を調製した。(比較例9) 自己架橋ヒアルロン酸の粒子化に高速回転装置(製品名:クレアミクスシングルモーション、エムテクニック(株)製)を使用し、装置のローターを順方向に10,000rpmで回転させ、架橋ヒアルロン酸が30℃未満になるよう冷却しながら6分間微粒化した以外は、実施例10と同様にして平均体積粒径が300μmの自己架橋ヒアルロン酸粒子を調製した。さらに、実施例12と同様にして自己架橋ヒアルロン酸粒子の濃度が、6w/v%の架橋ヒアルロン酸組成物を調製した。(比較例10) 自己架橋ヒアルロン酸の粒子化に高速回転装置(製品名:クレアミクスシングルモーション、エムテクニック(株)製)を使用し、装置のローターを順方向に20,000rpmで回転させ、架橋ヒアルロン酸が30℃未満になるよう冷却しながら4分間微粒化した以外は、実施例10と同様にして平均体積粒径が153μmの自己架橋ヒアルロン酸粒子を調製した。さらに、実施例12と同様にして自己架橋ヒアルロン酸粒子の濃度が、6w/v%の架橋ヒアルロン酸組成物を調製した。(比較例11) 自己架橋ヒアルロン酸の粒子化に高速回転装置(製品名:クレアミクスシングルモーション、エムテクニック(株)製)を使用し、装置のローターを順方向に20,000rpmで回転させ、自己架橋ヒアルロン酸の冷却を行わずに20分間微粒化し、平均体積粒径100μmの自己架橋ヒアルロン酸粒子を調製した。この時、自己架橋ヒアルロン酸の温度は85℃まで上昇した。さらに、実施例12と同様にして自己架橋ヒアルロン酸粒子の濃度が、6w/v%の架橋ヒアルロン酸組成物を調製した。(参考例1) ヒアルロン酸関節製剤「スベニール」(商品名、中外製薬(株)製) (粘度平均分子量200万、ヒアルロン酸濃度1w/v%)(参考例2) ヒアルロン酸関節製剤「アルツ」(商品名、生化学工業(株)製) (粘度平均分子量80万、ヒアルロン酸濃度1w/v%)(参考例3) ヒアルロン酸関節製剤「Synvisc」(商品名、ジェンザイムコーポレーション社製) (ヒアルロン酸濃度0.8w/v%)(参考例4) ヒアルロン酸関節製剤「Durolane」(商品名、Q−MED社製) (ヒアルロン酸濃度2.0w/v%)(参考例5) 生理食塩水「大塚生食注」(商品名、大塚製薬(株)製) 実施例12〜13並びに比較例9〜11で得られた架橋ヒアルロン酸組成物の特性を、参考例1〜5とともに、以下のとおり測定及び評価した。<架橋ヒアルロン酸組成物の粘度測定> 粘度測定装置であるレオメーターとして、MCR300(商品名、Physica製)を使用した。コーンプレートはコーン角1.009°(D=49.938mm)を用い、せん断速度50S−1、25℃にて測定した。実施例12〜13並びに比較例9の架橋ヒアルロン酸組成物、参考例1〜5の粘度比較を行った。表13に粘度の測定結果を示す。 表13のとおり、特に実施例12の架橋ヒアルロン酸組成物は、6w/v%と高濃度の自己架橋ヒアルロン酸粒子を含有するにもかかわらず、参考例1の粘度平均分子量80万、1w/v%のヒアルロン酸と比べ、粘度が1/6以下となった。<架橋ヒアルロン酸組成物の吐出圧測定(1)> 架橋ヒアルロン酸組成物1mlを内径0.45cmの注射器テルモシリンジSS−01T(商品名、テルモ社製)に詰め、内径0.40mm、針の長さ25mmの注射針23G(テルモ社製)を付けた。押し出し圧測定機EZ−TEST(商品名、島津製作所(株)製)を用い、温度25℃で速度50mm/分の吐出条件で、実施例12及び比較例9〜10の架橋ヒアルロン酸組成物、参考例1〜5のこのシリンジにかかる圧力を測定した。表14に測定結果を示す。 表14のとおり、特に実施例12の架橋ヒアルロン酸組成物は、6w/v%と参考例1の6倍も高濃度のヒアルロン酸を含有するにもかかわらず、吐出圧を低く押さえることができた。<架橋ヒアルロン酸組成物の吐出圧測定(2)> 吐出圧測定(1)で使用した「注射針23G(内径0.40mm)よりも細い24G、25G及び27Gの注射針を使用し、実施例12及び参考例1〜5のサンプル1mlを注射針のついたシリンジ(テルモ社製)に詰め、吐出圧測定(1)と同様にしてシリンジにかかる圧力を測定した。その結果を以下の表15及び図10に示す。 表15及び図10のとおり、特に実施例12の架橋ヒアルロン酸組成物は、6w/v%と参考例1の6倍も高濃度のヒアルロン酸を含有するにもかかわらず、吐出圧を低く押さえることができ、かつ細い針が使用可能であることから、注射時の患者の疼痛を軽減し得ることが示唆された。<架橋ヒアルロン酸の一次分子量測定> 実施例12及び13並びに比較例11のサンプルについて、自己架橋ヒアルロン酸に換算して10mg分を、0.1N水酸化ナトリウム溶液1mlに投入し、0℃で30分間静置し、自己架橋ヒアルロン酸を溶解した。この溶解液に、0.1N塩酸1mlを添加して中和し、GPC溶媒で濃度を0.01質量%になるように希釈調製し、0.2μmのメンブランフィルターでろ過した後、GPC装置に0.1ml注入して、実施例10〜11及び比較例7〜8と同様に、一次分子量として粘度平均分子量の測定を行った。測定結果を表16に示す。<架橋ヒアルロン酸から溶出したヒアルロン酸の粘度平均分子量測定> 生理的食塩水に10mM濃度でリン酸緩衝成分を加え、pH7.4のリン酸緩衝化食塩水を調整した。このリン酸緩衝化生理的食塩水100mlに対して実施例12及び13並びに比較例11のサンプル0.5mlを添加し、自己架橋ヒアルロン酸が完全に溶解するまで30日間、37.0℃で浸漬し、実施例10〜11及び比較例7〜8と同様に、粘度平均分子量の測定を行った。測定結果を表16に示す。 表16に示すように、冷却温度制御を行わなかった比較例11は、破砕時に自己架橋ヒアルロン酸の一次分子量が低下し、自己架橋ヒアルロン酸から溶出するヒアルロン酸の粘度平均分子量も70万と低くなった。それに対し、破砕時に50℃未満に冷却温度制御した実施例12及び13は、自己架橋ヒアルロン酸から溶出するヒアルロン酸の粘度平均分子量が170万と高く保つことができた。<関節中で自己架橋ヒアルロン酸から溶出したヒアルロン酸の粘度平均分子量測定> ウサギ(日本白色種 オス)、重量約3kgを麻酔(麻酔組成:ケタミン(4ml)+キシラジン(3ml)+生食(5ml))し、後足両膝に実施例12及び13、比較例9及び11、並びに、参考例1及び3のサンプルを、内径0.45cmのシリンジに23G注射針を用い、投与量0.1ml/kgで注入した。 注入7日後、麻酔下で安楽死させ、膝を切り出し、関節液を高粘性用ピペットで回収した。関節液は、蒸留水で正確に100倍希釈し、4℃、15,000rpm、10分間で遠心分離した。その上澄を0.2μmのメンブランフィルターでろ過した後、GPC装置に0.1ml注入して粘度平均分子量の測定を行った。測定結果を表17に示す。 表17に示すとおり、比較例11、参考例1及び3は、サンプル非投与と同様に、関節液量30μl、関節液の粘度平均分子量170万以上、ヒアルロン酸濃度0.3質量%であった。これに対し、実施例12及び13の関節液量は、200及び300μl、関節液の粘度平均分子量170万以上、ヒアルロン酸濃度は0.6重量%となった。なお比較例9は、針詰まりが生じ、関節への注入が困難だった。実施例12及び13の関節液の増量と関節液中のヒアルロン酸濃度の上昇は、本発明の架橋ヒアルロン酸組成物に由来すると考えられ、本発明の架橋ヒアルロン酸組成物を注射剤として用いれば、注射して7日後でも、粘度平均分子量170万以上のヒアルロン酸が関節液中に保持されることがわかった。<自己架橋ヒアルロン酸による疼痛抑制効果の測定> 実施例12及び13並びに参考例1及び5の関節腔内注射が疼痛に及ぼす作用を、ウサギの膝関節半月板部分切除による実験的変形性関節症を用いて測定した。<使用動物及び飼育方法> 動物としては、13週齢のKbl:JW(SPF)系ウサギを実施例・参考例毎に8羽ずつ用いるために計32羽を準備した。動物を入荷後3〜8日の毎日、評価装置に対する訓化として、動物を小動物用鎮痛評価装置Incapacitance Tester(Linton Instrument製)の本体容器(ホルダー)に入れ、5秒間静止させる操作を行った。 動物は、可動式ラックに装着したブラケット式金属製金網床ケージ(350W×500D×350H mm)に個別に収容し、温度20±3℃、湿度50±20%、換気回数12〜18回/時間、照明時間8:00〜20:00(明12時間、暗12時間)の環境下で飼育した。飼料は、ステンレス製給餌器により、実験動物用固形飼料RC4(オリエンタル酵母工業社製)を150g/日の制限給餌として与え、飲料水はポリプロピレン製給水瓶(先管ステンレス製)により水道水自由に与えた。動物の個体識別は耳介にマジックインキで個体識別番号を記入して識別し、ケージには群分け前は性別及び個体識別番号を記入したカードを、群分け後は試験番号、投与群、性別、動物番号、手術日、投与日、部検日及び個体識別番号を記入したカードを付けた。<動物の選択及び群分け> 半月板部分切除手術日の前日に、群分けを行った。群分け日に、全例の体重と両後足重量配分を測定した。測定した両後足重量配分より左後足重量配分比((左荷重/両側合計荷重)×100(%))を算出した。左後足重量配分比を基準とし、個体値が平均値に近い順に選択した。選択した動物は、左後足重量配分比による層別連続無作為化法を用いて各群に割り付けた。左後足重量配分比の平均値が各群で同様の値を示し、群間に差がないことを確認後、体重についても平均値が各群で同様の値を示し、群間に差がないことを確認した。<変形性関節症モデルの作製(半月板部分切除)> 半月板部分切除手術は群分け日の翌日に行い、半月板部分切除手術日を術後0日と定義した。14〜15週齢の動物を用い、上述の参考文献1〜3に記載の方法を参考にして、半月板部分切除変形性関節症モデルを作製した。 具体的には、塩酸ケタミン(製品名:ケタラール筋注用500mg、三共エール薬品社製)及びキシラジン(製品名:スキルペン2%注射液、インターベット社製)の併用麻酔下(大腿部筋肉内注射)でウサギの左膝関節部を除毛し、北島式固定器(夏目製作所社製)に背位固定した。無菌的に膝蓋の外側直下皮膚に約2cmの切開を加え、外側側副靭帯を露呈させた後、この靭帯を切除した。さらに、膝窩筋起始部の腱を切除することにより外側半月板を露呈させ、半月板のほぼ中央部を3.0−4.0mmに渡り切除した。その後、皮下筋層と皮膚をそれぞれ結節縫合し、アンピシリン(製品名:ビクシリンゾル−15%、明治製菓社製)約0.2mlを大腿部筋肉内に注射した。<関節腔内に注入する群の構成> 上述の参考文献1〜8に記載の方法を参考にして、実施例12及び13並びに参考例1及び5の注射剤を0.1mL/kg関節腔内に注入する4群を、表18のとおり設定した。 全群全例について、術後4日(疼痛発症日)の両後足重量配分測定後に1回、実施例12及び13並びに参考例1及び5の注射剤0.1ml/kgを、手術側(左側)膝関節腔内に1ml注射筒(テルモシリンジ1mlツベルクリン用、(株)テルモ)及び23G注射針(テルモ注射針23G、(株)テルモ)を用いて投与した。投与液量は投与日に測定した体重に基づく液量換算により個別に算出した。<疼痛抑制効果の測定方法> 両後足重量配分の測定には小動物用鎮痛評価装置Incapacitance Tester(英国Linton Instrument社製)を用いた。本装置は、本体容器に入れた動物の左右の脚への重量配分を、容器底面に設置したデュアルチャンネルのセンサーパッドにより、左右それぞれの重量をグラム単位で正確に検出し、その値を試験者が設定した時間にて平均化した。本体容器はウサギ用のものを使用した。測定設定時間は動物の静止状態で5秒とした。 動物をウサギ用本体容器(ホルダー)内に移動し、動物の静止状態で測定し(1度目)、次に動物をホルダーから出し、再度入れて静止状態で測定し(2度目)、この操作を再度繰り返した(3度目)。3度測定した両後足重量配分のそれぞれについて、左右重量(荷重)から左後足重量配分比(%)を下記式(6)により算出した。 左後足重量配分比(%)={左荷重(g)/(右荷重(g)+左荷重(g))×100}・・・(6) 3度算出した左後足重量配分比(%)の平均値を、測定1回当たりの左後足重量配分比(%)と定義した。その結果、図11に示すように、実施例12及び13の自己架橋ヒアルロン酸は、参考例1よりも疼痛抑制効果が向上していることがわかった。なお、図11中、*、**は参考例5である陰性対照群(生理的食塩水投与)と比較して有意差があることを示す。(*:p<0.05、**:p<0.01(t検定))<各種自己架橋エステル化度の自己架橋ヒアルロン酸の調製> 実施例10で得られた自己架橋ヒアルロンを50mMリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)の溶媒に交換し、6wt%の懸濁状の架橋ヒアルロン酸組成物を調製した。得られた架橋ヒアルロン酸組成物7mlを採取し、容器に移し密閉した。同様の架橋ヒアルロン酸組成物採取を繰り返し、5本の試験サンプルを得た。 上記5本の試験サンプルを60℃に設定した恒温環境試験機(エスペック製)に入れ、所定時間加熱した。加熱時間は5本の試験サンプルで異なる時間とした。すなわち加熱開始より0,2,4,6,10時間後の各時点に試験サンプル1本ずつ取り出した。以上の工程により、5種類の架橋ヒアルロン酸組成物を得た。これらを上記加熱時間の短い順に、実施例14〜17及び比較例12とした。<平衡膨潤倍率の測定> 架橋ヒアルロン酸組成物0.4mlを、遠心式フィルターユニット(0.45マイクロメートル孔径,ミリポア社製)を用いて5℃、2,000rpm、30分間遠心分離して溶媒を除去し、さらに遠心式フィルターユニットごと20時間乾燥することで、溶媒除去した自己架橋ヒアルロン酸重量と乾燥した自己架橋ヒアルロン酸重量を求め、平衡膨潤倍率を算出した。溶媒は、10mMリン酸緩衝生理食塩水(pH6.0)で、NaCl濃度は0.9wt%であり、5℃で1日間膨潤させ、平衡膨潤状態に到達した後に、測定した。<60℃溶解性半減期の測定> 実施例14〜17及び比較例12の架橋ヒアルロン酸組成物について、実施例10〜11及び比較例7〜8における測定方法と同様に、60℃溶解性半減期を測定した。<一次分子量の測定> 実施例14〜17及び比較例12の架橋ヒアルロン酸組成物の一次分子量として、実施例10〜11及び比較例7〜8における測定方法と同様に、粘度平均分子量を測定した。<架橋度(自己架橋エステル化度)の測定> 実施例14〜17及び比較例12の架橋ヒアルロン酸組成物について、実施例10〜11及び比較例7〜8における測定方法と同様に、架橋度(自己架橋エステル化度)を測定した。なお、測定条件を以下のとおりとした。機器:AVANCEIII 500、観測幅:500.232MHz、パルス幅:10.5μs(90°)、測定モード:13Cデカップル−1Hノンデカップル法、積算回数:7600回、測定温度:30℃。 実施例14〜17及び比較例12の架橋ヒアルロン酸組成物の測定結果を表19及び図12〜15に示した。 表19及び図12〜15のとおり、加熱時間を増加させることによって、架橋度を小さくさせた架橋ヒアルロン酸組成物は、60℃溶解性半減期も小さくなり、二次関数的な相関を示した。一方、平衡膨潤倍率は、架橋度を小さくさせた架橋ヒアルロン酸組成物ほど大きくなり、フローリー・レーナー式に相似する相関を示した。<保存安定性の評価> 実施例14〜17及び比較例12の架橋ヒアルロン酸組成物の溶媒を、10mMリン酸緩衝化生理食塩水(pH6.0)に交換し、自己架橋ヒアルロン酸の濃度が6w/v%となるように調整した。60℃環境での加熱中、適当な間隔でサンプル採取を行い、遊離したヒアルロン酸量を測定し、ゲル分率を測定した。加熱時間に対するゲル分率の挙動を読み取り、ゲル分率97%に到達する加熱時間を求めた。また、ゲル分率95%に到達する加熱時間も上記と同様に求めた。その測定結果を以下の表20及び図16〜17に示す。 表20のとおり、加熱時間の増加に従い、ゲル分率到達日数が短くなった。特に、比較例12においては、ゲル分率97%に到達する加熱時間が0.7日、ゲル分率95%に到達する加熱時間が1.1日と短くなった。また、半減期及び架橋度が少なくなるほど、ゲル分率到達日数も短くなり、これらの物性値と保存安定性が相関することを示した(図16及び図17)。(平均沈降濃度の測定) また、実施例14〜17及び比較例12の架橋ヒアルロン酸懸濁液について、平均沈降濃度の測定を行った。平衡沈降濃度は、懸濁液のヒアルロン酸濃度[C]、懸濁液の体積[V0]及び沈澱の体積[V]を測定し、下記式(7)のとおり求めた。 平衡沈降濃度=C×(V0/V)・・・(7) その測定結果を以下の表21に示す。 表21のとおり、設定可能な濃度上限である平衡沈降濃度が加熱時間と相関した。特に、比較例12は平均沈降濃度が5.2重量%と低く、実施例14〜17と比べて濃度を高くすることができないことを示した。 本発明によれば、従来よりも投与回数を少なくした場合であっても、変形性膝関節症に対して充分な治療効果の得られる架橋ヒアルロン酸組成物及びそれに用いる自己架橋ヒアルロン酸粒子を提供することができる。 1・・・ローター、2・・・スクリーン、3・・・スリット、10・・・回転装置。 平均体積粒径が10〜100μmであり、平衡膨潤倍率が3〜10倍であり、一次分子量が80万以上であり、自己架橋エステル化度が0.05〜0.50mol%である自己架橋ヒアルロン酸の粒子と、 水系溶媒とを含有する架橋ヒアルロン酸組成物であって、 前記架橋ヒアルロン酸組成物の全体積に対する、前記自己架橋ヒアルロン酸の粒子の乾燥重量は3〜8w/v%である、架橋ヒアルロン酸組成物。 前記自己架橋ヒアルロン酸の粒子は、エチルエステル量が0.05mol%以下である、請求項1記載の架橋ヒアルロン酸組成物。 請求項1又は2記載の架橋ヒアルロン酸組成物を含有する注射剤。 1回あたり1.25mg/kg体重以上の前記自己架橋ヒアルロン酸が投与されるように用いられる、請求項3記載の注射剤。 1回あたり75mg以上の前記自己架橋ヒアルロン酸が投与されるように用いられる、請求項3記載の注射剤。 請求項3〜5のいずれか一項に記載の注射剤を収容した、プレフィルドシリンジ製剤。 平均体積粒径が10〜100μmであり、平衡膨潤倍率が3〜10倍であり、一次分子量が80万以上であり、自己架橋エステル化度が0.05〜0.50mol%である自己架橋ヒアルロン酸粒子。 エチルエステル量が0.05mol%以下である、請求項7記載の自己架橋ヒアルロン酸粒子。