| タイトル: | 特許公報(B2)_糖液の製造方法 |
| 出願番号: | 2012518654 |
| 年次: | 2013 |
| IPC分類: | C12P 19/14,C13K 1/02 |
栗原 宏征 山本 優樹 山田 勝成 JP 5246379 特許公報(B2) 20130419 2012518654 20120302 糖液の製造方法 東レ株式会社 000003159 栗原 宏征 山本 優樹 山田 勝成 JP 2011046623 20110303 20130724 C12P 19/14 20060101AFI20130704BHJP C13K 1/02 20060101ALI20130704BHJP JPC12P19/14 AC13K1/02 C12P 19/14 C13K 1/02 CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) 特開2006−87319(JP,A) 特開昭63−87994(JP,A) 特開2008−206484(JP,A) 7 JP2012055323 20120302 WO2012118171 20120907 27 20130117 松原 寛子 本発明は、バイオマスから糖液を製造する方法に関する。 近年、セルロース含有バイオマスを酸、熱水、アルカリなどで前処理した後、セルラーゼを添加し加水分解することで糖液を製造する方法が広く検討されている。しかしながら、こうしたセルラーゼを使用する方法の欠点として、セルラーゼの使用量が多く、かつ価格も高いため、糖液製造コストが増大するという課題がある。 本課題を解決する手法として、セルロース加水分解に使用したセルラーゼを回収再利用する方法が提案されている。例えば、スピンフィルターによる連続固液分離を行い、得られた糖液を限外濾過膜に通じて濾過し、セルラーゼを回収する方法(特許文献1)、酵素糖化の段階において界面活性剤を投入することでセルラーゼ吸着を抑制し回収効率を向上させる方法や(特許文献2)、酵素糖化後の残さを通電処理することでセルラーゼ成分を回収する方法(特許文献3)などが開示されているが根本的な課題解決には至っていない。特開2006−87319号公報特開昭63−87994号公報特開2008−206484号公報 本発明の解決しようとする課題は、前述の通りセルロースの加水分解で使用するセルラーゼの使用量を削減することにある。 本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、セルロース加水分解物に廃糖蜜を混合することを着目した。その結果、セルロース加水分解物に含まれるセルラーゼの回収量を向上することを見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は以下の[1]〜[7]の構成を有する。 [1]以下の工程(1)〜(3)を含む、糖液の製造方法。工程(1):セルロース前処理物に糸状菌由来セルラーゼを添加し、加水分解物を得る工程、工程(2):前記加水分解物に廃糖蜜を添加混合し、混合糖液を得る工程、工程(3):前記混合糖液を固液分離し、得られた溶液成分を限外濾過膜に通じて濾過し、非透過液として糸状菌由来セルラーゼを回収し、透過液として糖液を得る工程。 [2]工程(1)の糸状菌由来セルラーゼがトリコデルマ由来セルラーゼである、[1]に記載の糖液の製造方法。 [3]工程(1)のセルロース前処理物が、水熱処理、希硫酸処理およびアルカリ処理の群から選ばれる1以上の処理物である、[1]または[2]に記載の糖液の製造方法。 [4]工程(2)において、加水分解物に廃糖蜜を添加混合し、混合糖液の糖濃度を50〜200g/Lの範囲で調製する、[1]から[3]のいずれかに記載の糖液の製造方法。 [5]工程(2)において、混合糖液を40〜60℃の温度範囲で保温する工程を含む、[1]から[4]のいずれかに記載の糖液の製造方法。 [6]工程(3)の糖液を、ナノ濾過膜および/または逆浸透膜に通じて濾過し、透過液として発酵阻害物質を除去し、非透過液として糖濃縮液を得る工程を含む、[1]から[5]のいずれかに記載の糖液の製造方法。 [7][1]から[6]のいずれかに記載の糖液の製造方法で得られる糖液を発酵原料として化学品を生産する能力を有する微生物を発酵培養する、化学品の製造方法。 本発明により、セルロース加水分解物から糸状菌由来セルラーゼの酵素回収率が向上することによって、糖液の製造工程に使用されるセルラーゼ使用量を削減できることができる。また、本発明ではセルロース加水分解物に廃糖蜜を添加し混合糖液とすることにより、セルロースからだけではなく廃糖蜜からも糖成分を回収することができる。本発明の工程概略フロー図である。本発明を実施する装置略図である。濃縮糖液の製造に関する装置略図である。糖液および/または濃縮糖液を発酵原料として化学品を製造する略図である。既存製糖プラント脇に図2の装置を含む糖液製造プラントを建設した際の装置構成略図である。 本発明を実施するための形態に関し、工程ごとに詳細に説明する。 [工程(1)] 工程(1)におけるセルロース前処理物とは、セルロース含有バイオマスを加水分解のための前処理を行ったものを指す。セルロース含有バイオマスの具体例としては、バガス、スイッチグラス、ネピアグラス、エリアンサス、コーンストーバー、稲わら、麦わら、などの草本系バイオマス、あるいは樹木、廃建材などの木質系バイオマス、さらに藻類、海草、など水生環境由来のバイオマスのことを指す。こうしたバイオマスには、セルロースおよびヘミセルロース(以下、セルロースとヘミセルロースの総称として「セルロース」という。)の他に芳香族高分子であるリグニン等を含有している。特に本発明では、糸状菌由来セルラーゼによるバイオマス加水分解効率を向上させるために、セルロース含有バイオマスの前処理を行い、その結果得られたものをセルロース前処理物という。 前処理としては、酸処理、硫酸処理、希硫酸処理、アルカリ処理、水熱処理、亜臨界水処理、微粉砕処理、蒸煮処理、乾燥処理が挙げられるが、アルカリ処理、水熱処理または希硫酸処理は、他手法に比べ酵素糖化効率が優れ酵素使用量が少なくてすむことから、本発明においては水熱処理、希硫酸処理またはアルカリ処理であることが好ましい。 水熱処理は、セルロース含有バイオマスが、0.1〜50重量%となるよう水を添加後、100〜400℃の温度で、1秒〜60分処理する。こうした温度条件において処理することにより、セルラーゼによって加水分解されやすいセルロース前処理物を得ることができる。処理回数は特に限定されず該処理を1回以上行えばよい。特に該処理を2回以上行う場合、1回目と2回目以降の処理を異なる条件で実施してもよい。 希硫酸処理は、硫酸の濃度は0.1〜15重量%であることが好ましく、0.5〜5重量%であることがより好ましい。反応温度は100〜300℃の範囲で設定することができ、120〜250℃で設定することが好ましい。反応時間は1秒〜60分の範囲で設定することができる。処理回数は特に限定されず前記処理を1回以上行えばよい。特に上記処理を2回以上行う場合、1回目と2回目以降の処理を異なる条件で実施してもよい。希硫酸処理によって得られた加水分解物は、酸を含んでおり、さらにセルラーゼによる加水分解反応を行うため、あるいは発酵原料として使用するために、中和を行う必要がある。 アルカリ処理は、セルロース含有バイオマスに対して、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、アンモニアから選ばれるアルカリを作用させる方法である。アルカリ処理における、使用するアルカリとして、特にアンモニアが好ましく使用できる。こうしたアンモニア処理は、特開2008−161125号公報や特開2008−535664号公報に記載の方法の手法で実施することができる。例えば、使用するアンモニア濃度はセルロース含有バイオマスに対して0.1〜15重量%の範囲で添加し、4〜200℃、好ましくは90〜150℃で処理する。添加するアンモニアは液体状態、あるいは気体状態のどちらであってもよい。さらに添加する形態は純アンモニアでもアンモニア水溶液の形態でもよい。処理回数は特に限定されず前記処理を1回以上行えばよい。特に前記処理を2回以上行う場合、1回目と2回目以降の処理を異なる条件で実施してもよい。アンモニア処理によって得られた処理物は、さらに酵素による加水分解反応を行うため、アンモニアの中和あるいはアンモニアの除去を行う必要がある。中和は、加水分解物より固形分を固液分離により除去したアンモニアに対し行ってもよいし、固形分を含んだままの状態で行ってもよい。中和に使用する酸試薬は特に限定されない。アンモニアの除去は、アンモニア処理物を減圧状態に保つことでアンモニアを気体状態に揮発させて除去することができる。また除去したアンモニアは、回収再利用してもよい。 前述のセルロース前処理物について、工程(1)ではセルラーゼにより加水分解を行い、加水分解物を得ることを特徴としている。セルロースの加水分解とは、セルロースを低分子量化せしめることを指す。また、セルロースの加水分解においては、キシラン、マンナン、アラビナン、などのヘミセルロース成分も同時に加水分解される。加水分解物に含まれる単糖成分として、グルコース、キシロース、マンノース、ガラクトースなどであり、主な単糖成分は、セルロースの加水分解物であるグルコースである。また加水分解が不十分な場合、セロビオース、キシロビオースなどの2糖、セロオリゴ糖、キシロオリゴ糖などが含まれている。 工程(1)では、セルロース前処理物を糸状菌由来セルラーゼにより加水分解する。糸状菌由来セルラーゼは、トリコデルマ属(Trichoderma)、アスペルギルス属(Aspergillus)、セルロモナス属(Cellulomonas)、クロストリジウム属(Clostridium)、ストレプトマイセス属(Streptomyces)、フミコラ属(Humicola)、アクレモニウム属(Acremonium)、イルペックス属(Irpex)、ムコール属(Mucor)、タラロマイセス属(Talaromyces)、ファネロカエーテ(Phanerochaete)属、白色腐朽菌、褐色腐朽菌、などが例できる。こうした糸状菌由来セルラーゼの中でも、セルロース分解活性が高いトリコデルマ由来セルラーゼを使用することが好ましい。 トリコデルマ由来セルラーゼとは、トリコデルマ属微生物由来のセルラーゼを主成分とする酵素組成物である。トリコデルマ属微生物は特に限定されないが、トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)が好ましく、具体的にはトリコデルマ・リーセイQM9414(Trichoderma reesei QM9414)、トリコデルマ・リーセイQM9123(Trichoderma reeseiQM9123)、トリコデルマ・リーセイRutC−30(Trichoderma reeseiRut C−30)、トリコデルマ・リーセイPC3−7(Trichoderma reesei PC3−7)、トリコデルマ・リーセイCL−847(Trichoderma reeseiCL−847)、トリコデルマ・リーセイMCG77(Trichoderma reesei MCG77)、トリコデルマ・リーセイMCG80(Trichoderma reeseiMCG80)、トリコデルマ・ビリデQM9123(Trichoderma viride9123)を例示することができる。また、前述のトリコデルマ属に由来する微生物であって、これらを変異剤あるいは紫外線照射などで変異処理を施し、セルラーゼ生産性が向上した変異株であってもよい。 本発明で使用するトリコデルマ由来セルラーゼは、セロビオハイドラーゼ、エンドグルカナーゼ、エキソグルカナーゼ、βグルコシダーゼ、キシラナーゼ、キシロシダーゼなどの複数の酵素成分を含む、セルロースを加水分解して糖化する活性を有する酵素組成物である。トリコデルマ由来セルラーゼは、セルロース分解において複数の酵素成分の協奏効果あるいは補完効果により効率的なセルロースの加水分解を実施することができる。特に本発明に使用するセルラーゼは、トリコデルマ由来セロビオハイドラーゼおよびキシラナーゼを含むことが好ましい。 セロビオハイドラーゼとは、セルロースの末端部分から加水分解していくことを特徴とするセルラーゼの総称であり、EC番号:EC3.2.1.91としてセロビオハイドラーゼに帰属される酵素群が記載されている。 エンドグルカナーゼとは、セルロース分子鎖の中央部分から加水分解することを特徴とするセルラーゼの総称であり、EC番号:EC3.2.1.4、EC3.2.1.6、EC3.2.1.39、EC3.2.1.73としてエンドグルカナーゼに帰属される酵素群が記載されている。 エキソグルカナーゼとは、セルロース分子鎖の末端から加水分解することを特徴とするセルラーゼの総称であり、EC番号:EC3.2.1.74、EC3.2.1.58としてエキソグルカナーゼに帰属される酵素群が記載されている。 βグルコシダーゼとは、セロオリゴ糖あるいはセロビオースに作用することを特徴とするセルラーゼの総称であり、EC番号:EC3.2.1.21としてβグルコシダーゼに帰属される酵素群が記載されている。 キシラナーゼとは、ヘミセルロースあるいは特にキシランに作用することを特徴とするセルラーゼの総称であり、EC番号:EC3.2.1.8としてキシラナーゼに帰属される酵素群が記載されている。 キシロシダーゼとは、キシロオリゴ糖に作用することを特徴とするセルラーゼの総称であり、EC番号:EC3.2.1.37としてキシロシダーゼに帰属される酵素群が記載されている。 トリコデルマ由来セルラーゼとしては、粗酵素物が好ましく使用される。粗酵素物は、トリコデルマ属の微生物がセルラーゼを産生するよう調製した培地中で、任意の期間該微生物を培養した培養上清に由来する。使用する培地成分は特に限定されないが、セルラーゼの産生を促進するために、セルロースを添加した培地が一般的に使用できる。そして、粗酵素物として、培養液をそのまま、あるいはトリコデルマ菌体を除去したのみの培養上清が好ましく使用される。 粗酵素物中の各酵素成分の重量比は特に限定されるものではないが、例えば、トリコデルマ・リーセイ由来の培養液には、50〜95重量%のセロビオハイドラーゼが含まれており、残りの成分にエンドグルカナーゼ、βグルコシダーゼ等が含まれている。また、トリコデルマ属の微生物は、強力なセルラーゼ成分を培養液中に生産する一方で、βグルコシダーゼに関しては、細胞内あるいは細胞表層に保持しているため培養液中のβグルコシダーゼ活性は低いため、粗酵素物に、さらに異種または同種のβグルコシダーゼを添加してもよい。異種のβグルコシダーゼとしては、アスペルギルス属由来のβグルコシダーゼが好ましく使用できる。アスペルギルス属由来のβグルコシダーゼとして、ノボザイム社より市販されているNovozyme188などを例示することができる。粗酵素物に異種または同種のβグルコシダーゼを添加する方法としては、トリコデルマ属の微生物に遺伝子を導入し、その培養液中に産生されるよう遺伝子組換えされたトリコデルマ属の微生物を培養し、その培養液を単離する方法でもよい。 糸状菌由来セルラーゼの加水分解反応温度は、15〜100℃の範囲が好ましく、40〜60℃がより好ましく、50℃が最も好ましい。また、加水分解反応時のpHは、pH3〜9の範囲が好ましく、pH4〜5.5がより好ましく、pH5が最も好ましい。pH調製には、酸あるいはアルカリを目的のpHとなるように添加し調製することができる。また、適宜緩衝液を使用してもよい。 その他、セルロース前処理物の加水分解では、セルロース前処理物と糸状菌セルラーゼの接触を促進させるため、また加水分解物の糖濃度を均一にするため攪拌混合を行うことが好ましい。セルロース前処理物の固形分濃度は、1〜25重量%の範囲であることがより好ましい。特に工程(1)においては、セルロース前処理物の固形物濃度を2〜10重量%の範囲と低濃度で設定して行うことが好ましい。これは、後段の工程(2)での廃糖蜜を希釈するための十分な水量を確保することを目的としているためである。また、別の利点として、固形物濃度を2〜10重量%の低濃度で設定することで、セルロース前処理物の加水分解効率が向上するという効果を有している。これは、糸状菌由来セルラーゼが、加水分解による生成物であるグルコース、セロビオースなどの糖生成物により酵素反応が阻害されるという性質を有するためである。 本発明の工程(1)で得られる加水分解物の糖濃度は特に限定されないが、単糖濃度として10〜100g/Lの範囲であることが好ましく、20〜80g/Lであることがより好ましい。この糖濃度範囲であれば、後段工程として廃糖蜜と混合した際、最適な糖濃度に調製することができるためである。 [工程(2)] 本発明では、前述工程(1)で得られた加水分解物に廃糖蜜を添加混合することを特徴としている。廃糖蜜(モラセス、Morasess)とは、製糖用作物であるサトウキビや甜菜、砂糖大根、ビート、ぶどう等の絞り汁、あるいはこれらを一度結晶化した粗糖からの製糖の過程で生成する副産物であって、製糖過程における糖結晶化工程後に残った糖成分を含む溶液のことを指す。一般的に、糖結晶化工程は、複数回行うことが通常であり、1回目の結晶化を行い得た結晶成分である1番糖、さらに1番糖の残り液(1番糖蜜)の結晶化を行い得た結晶成分である2番糖、さらに2番糖の残り液(2番糖蜜)の結晶化を行い得た3番糖、のように結晶化を繰り返し行い、その残り液として得た最終段階の糖蜜のことを廃糖蜜という。廃糖蜜に含まれる糖成分としては、スクロース、グルコース、フルクトースを主成分として含んでおり、キシロース、ガラクトースなどのその他の糖成分も若干含まれる場合がある。一方、結晶化の回数が多くなるに伴い、糖成分以外の製糖作物に由来する成分が廃糖蜜中に濃縮されるという特徴も有しており、その結果として、発酵阻害物質も多く含まれることが知られている。廃糖蜜に含まれる発酵阻害成分としては、酢酸、ギ酸、ヒドロキシメチルフルフラール、フルフラール、バニリン、アセトバニロン、グアイヤコール、各種無機物(イオン)などを例示することができる。但し、廃糖蜜に含まれる糖および発酵阻害物質の成分あるいは量に関しては、特に限定されるものではない。 工程(2)で使用される廃糖蜜としては、結晶化回数が多く経た後の糖蜜であることが好ましく、具体的には、好ましくは少なくとも2回以上、より好ましくは3回以上結晶化を行った後に残る廃糖蜜である。また、糖濃度が200g/L以上であるものが好ましく、500g/L以上であるものがより好ましく使用できる。廃糖蜜中の糖成分濃度が200g/Lより低い場合、糸状菌由来セルラーゼの回収性が向上しないため好ましくない。一方、工程(2)で使用される廃糖蜜中の糖成分濃度の上限については特に限定はないが、通常の製糖工程で得られる廃糖蜜の上限は800g/Lであると考えられる。なお、廃糖蜜中の糖濃度は、HPLCなどの公知の測定手法によって定量することができる。また廃糖蜜は、前述した糖に加え、K+イオンを含むことが好ましい。K+イオンの濃度は、1g/L以上、より好ましくは5g/L以上、最も好ましくは10g/L以上含むものが好ましく本発明に使用することができる。 工程(1)での加水分解物に対し、廃糖蜜を添加混合し、混合糖液とする。混合糖液の糖濃度は、高すぎると粘度が高くなりすぎるため、後段の限外濾過膜処理におけるフラックスを低下させることがあるため、混合糖液の糖濃度は、200g/L以下が好ましく、150g/L以下がより好ましい。一方、混合糖液の糖濃度が、40g/L未満であると、最終的に得られる糖液濃度が低くなってしまう場合があるため、混合糖液の糖濃度は、40g/L以上が好ましく、50g/L以上がより好ましい。すなわち、混合糖液の糖濃度は、好ましくは40〜200g/Lの範囲、より好ましくは50〜150g/Lの範囲になるよう混合する。また混合糖液は、室温(25℃)でも構わないが、40〜60℃の温度範囲で保温することが好ましく、50℃の温度範囲で保温することがさらに好ましい。こうすることで、後段限外ろ過膜によって回収できる酵素量が増大するため好ましい。 廃糖蜜を発酵原料として使用する場合、発酵で使用する微生物の種類によっては、廃糖蜜の主要糖分であるスクロースを炭素源として利用する効率が低い微生物が存在しており、こうした微生物を化学品等の製造に使用する際、予め廃糖蜜に含まれるスクロースをグルコースとフルクトースに加水分解したものを使用する方が好ましい。廃糖蜜の加水分解処理としては、酸性またはアルカリ条件下で加熱処理することでもよい。また、インベルターゼやスクラーゼによる酵素処理を行ってもよい。インベルターゼとは、別名β−フルクトフラノシダーゼといい、スクロースをグルコースとフルクトースに加水分解する酵素のことを指す。スクラーゼも、スクロースをグルコースとフルクトースに加水分解する酵素のことを指す。本発明で、使用するインベルターゼに関して特に限定されないが、酵母由来のインベルターゼが日本バイオコン株式会社、三菱化学フーズ株式会社から市販されており、これらを購入使用することができる。インベルターゼ処理の処理条件は、通常の効率的な作用条件であればよい。使用するスクラーゼについても特に限定されないが、和光純薬工業(株)、三菱化学フーズ(株)から市販されており、これらを購入して使用することができる。スクラーゼ処理条件は、通常の効率的な反応条件を採用することができる。前述したインベルターゼあるいはスクラーゼ処理は、廃糖蜜単独に予め添加し実施していてもよく、工程(1)の加水分解物に廃糖蜜を添加し、混合糖液とした後に実施してもよい。前述のように混合糖液にした後、40〜60℃の温度範囲にて保温することによって回収酵素量が増大するため、その際にインベルターゼあるいはスクラーゼを添加しておくと、スクロースの加水分解反応も実施できる。 [工程(3)] 工程(3)では、まず、工程(2)で得られた混合糖液を固液分離して溶液成分を回収する。固液分離は、スクリューデカンタなどの遠心分離法、加圧・吸引濾過などの濾過法、あるいは精密濾過などの膜濾過法といった公知の固液分離手法により実施することができる。こうした固液分離は1以上の複数手法組み合わせて実施してもよく、効率的に固形物を除去する手段であれば限定されない。但し、後段限外濾過膜のファウリングを抑制するという観点において、固液分離後の溶液成分には極力固形物が含まれないことが好ましく、具体的には遠心分離法もしくはフィルタプレスなどの濾過法にて1回目の固液分離した後、得られた溶液成分を、さらに精密濾過膜によって膜濾過することで、完全に固形物を除去することが好ましい。精密濾過膜とは、メンブレンフィルトレーションとも呼ばれ、圧力差を駆動力として、微粒子懸濁液から0.01〜10μm程度の粒子を分離除去できる分離膜である。精密濾過膜の表面には0.01〜10μmの範囲の細孔を有し、その細孔以上の微粒子成分は膜側に分離除去することができる。精密濾過膜の材質は、酢酸セルロース、芳香族ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、セラミック、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))などが例示できるが特に限定されるものではなく、対汚性、薬品耐性、強度、濾過性といった観点において、ポリフッ化ビニリデン製の精密ろ過膜であることが好ましい。 次に、溶液成分を限外濾過膜処理する。限外濾過膜とは、一般的に細孔径1.5ナノメートルから250ナノメートルの範囲であって、分子量1,000〜200,000の範囲の水溶性高分子を非透過液として阻止することが可能な分離膜のことを指す。限外濾過膜は、糸状菌由来セルラーゼを回収できる分画分子量であればよく、好ましい分画分子量は1,000〜100,000Da、より好ましくは10,000〜30,000Daである。限外濾過膜の素材としては、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリフッ化ビニルデン(PVDF)、再生セルロースなどの素材の膜を使用することができるが、セルロースは、糸状菌由来セルラーゼによる分解を受けるため、PES、PVDFなどの合成高分子を素材とした限外濾過膜を使用することが好ましい。限外濾過膜形状は、チューブラー式、スパイラルエレメント、平膜などが好ましく使用できる。限外濾過膜の濾過は、クロスフロー方式、デッドエンド濾過方式が挙げられるが、ファウリングあるいはフラックスの面でクロスフロー濾過方式が好ましい。 溶液成分を限外濾過膜に通じて濾過することにより、透過液として、糖液を得ることができる。得られる糖液は、混合糖液に本来含まれている固形物が固液分離によってほぼ完全に除去された液体である。一方、限外濾過膜に通じて濾過処理することで、非透過液側には、混合糖液中の着色物質、水溶性高分子が除去されるが、水溶性高分子に工程(1)で使用した糸状菌由来セルラーゼ成分が含まれる。回収される糸状菌由来セルラーゼ成分は、特に限定されないが、加水分解に使用した糸状菌由来セルラーゼ成分のうち、その全部の成分あるいは一部の成分に関して、非透過液として回収することができる。なお、非透過液には混合糖液由来の糖成分も含まれているため、こうした糖成分の回収を行うために、非透過液に加水して、さらに限外濾過膜に通じて濾過する操作を繰り返してもよい。 工程(3)の結果として、従来技術よりも回収酵素に含まれる糸状菌由来セルラーゼ酵素量が顕著に増大する効果が見られ、特に糸状菌由来セルラーゼ成分のうち、セロビオハイドラーゼおよびキシラナーゼが高効率で回収される。回収された糸状菌由来セルラーゼは、セルロース前処理物の加水分解に再利用することによって、糸状菌由来セルラーゼの使用量を削減することが可能になる。回収された糸状菌由来セルラーゼは、単独で加水分解に再利用してもよく、また未使用の糸状菌由来セルラーゼと混合して再利用してもよい。また、場合によっては、セルロースの加水分解以外の用途に有効活用してもよい。 [糖濃縮工程] 工程(3)で得られた糖液は、さらにWO2010/067785号に記載される方法である、ナノ濾過膜および/または逆浸透膜に通じて濾過することにより、非透過液として、糖成分が濃縮された濃縮糖液を得ることができる。 ナノ濾過膜とは、ナノフィルター(ナノフィルトレーション膜、NF膜)とも呼ばれるものであり、「一価のイオンは透過し、二価のイオンを阻止する膜」と一般に定義される膜である。数ナノメートル程度の微小空隙を有していると考えられる膜で、主として、水中の微小粒子や分子、イオン、塩類等を阻止するために用いられる。 逆浸透膜とは、RO膜とも呼ばれるものであり、「一価のイオンを含めて脱塩機能を有する膜」と一般に定義される膜である。数オングストロームから数ナノメートル程度の超微小空隙を有していると考えられる膜で、主として海水淡水化や超純水製造などイオン成分除去に用いられる。 本発明で使用されるナノ濾過膜あるいは逆浸透膜の素材には、酢酸セルロース系ポリマー、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミド、ビニルポリマー、ポリサルホンなどの高分子素材を使用することができるが、前記1種類の素材で構成される膜に限定されず、複数の膜素材を含む膜であってもよい。 本発明で用いるナノ濾過膜は、スパイラル型の膜エレメントが好ましく使用される。好ましいナノ濾過膜エレメントの具体例としては、例えば、酢酸セルロース系のナノ濾過膜エレメントであるGE Osmonics社製GEsepa、ポリアミドを機能層とするアルファラバル社製ナノ濾過膜エレメントのNF99またはNF99HF、架橋ピペラジンポリアミドを機能層とするフィルムテック社製ナノ濾過膜エレメントのNF−45、NF−90、NF−200、NF−270またはNF−400、あるいは架橋ピペラジンポリアミドを主成分とする東レ株式会社製ナノ濾過膜のUTC60を含む同社製ナノ濾過膜エレメントSU−210、SU−220、SU−600またはSU−610が挙げられ、より好ましくはNF99またはNF99HF、NF−45、NF−90、NF−200またはNF−400、あるいはSU−210、SU−220、SU−600またはSU−610であり、さらに好ましくはSU−210、SU−220、SU−600またはSU−610である。 本発明で使用される逆浸透膜の素材としては、酢酸セルロース系のポリマーを機能層とした複合膜(以下、酢酸セルロース系の逆浸透膜ともいう)またはポリアミドを機能層とした複合膜(以下、ポリアミド系の逆浸透膜ともいう)が挙げられる。ここで、酢酸セルロース系のポリマーとしては、酢酸セルロース、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース等のセルロースの有機酸エステルの単独もしくはこれらの混合物並びに混合エステルを用いたものが挙げられる。ポリアミドとしては、脂肪族および/または芳香族のジアミンをモノマーとする線状ポリマーまたは架橋ポリマーが挙げられる。 本発明で使用される逆浸透膜の具体例としては、例えば、東レ株式会社製ポリアミド系逆浸透膜モジュールである超低圧タイプのSUL−G10、SUL−G20、低圧タイプのSU−710、SU−720、SU−720F、SU−710L、SU−720L、SU−720LF、SU−720R、SU−710P、SU−720Pの他、逆浸透膜としてUTC80を含む高圧タイプのSU−810、SU−820、SU−820L、SU−820FA、同社酢酸セルロース系逆浸透膜SC−L100R、SC−L200R、SC−1100、SC−1200、SC−2100、SC−2200、SC−3100、SC−3200、SC−8100、SC−8200、日東電工株式会社製NTR−759HR、NTR−729HF、NTR−70SWC、ES10−D、ES20−D、ES20−U、ES15−D、ES15−U、LF10−D、アルファラバル製RO98pHt、RO99、HR98PP、CE4040C−30D、GE製GE Sepa、Filmtec製BW30−4040、TW30−4040、XLE−4040、LP−4040、LE−4040、SW30−4040、SW30HRLE−4040、KOCH製TFC−HR、TFC−ULP、TRISEP製ACM−1、ACM−2、ACM−4などが挙げられる。 ナノ濾過膜および/または逆浸透膜を使用して、糖液を濃縮する効果として、糖液中の糖濃度を高めるとともに、透過液として発酵阻害物質を除去できるという利点を有する。ここでいう発酵阻害物質とは、後段発酵工程で発酵を阻害する糖以外の成分のことを指し、具体的には、芳香族化合物、フラン系化合物、有機酸、1価無機塩などを例示することができる。こうした代表的な、芳香族化合物およびフラン系化合物の例としては、フルフラール、ヒドロキシメチルフルフラール、バニリン、バニリン酸、シリンガ酸、コニフェリルアルデヒド、クマル酸、フェルラ酸などを例示できる。有機酸、無機塩としては、酢酸、ギ酸、カリウム、ナトリウムなどを例示することができる。濃縮糖液の糖濃度は、ナノ濾過膜および/または逆浸透膜の処理条件によって、50g/L〜400g/Lの範囲で任意に設定することができ、濃縮糖液の用途等に応じて任意に設定すればよい。また前述した発酵阻害物質をより除去したい場合、糖液あるいは濃縮糖液に加水し、ナノ濾過膜および/または逆浸透膜で目的の糖濃度となるまで濃縮すればよく、この際、透過液として発酵阻害物質を除去することができる。 なお、逆浸透膜に比べ、ナノ濾過膜を使用した方が、発酵阻害物質の除去効果が高いため好ましい。ナノ濾過膜を使用するか、あるいは逆浸透膜を使用するかは、混合糖液に含まれる発酵阻害物質の濃度、あるいは後段発酵で影響を鑑みて選択すればよい。 また前述した濃縮糖液を、さらに真空式蒸発缶、多重効用缶、凍結乾燥、スプレードライヤー、熱風乾燥、などによってさらに濃縮してもよい。 [糖液・濃縮糖液] 本発明により得られた糖液および/または濃縮糖液は、食用、甘味料、飼料用途、発酵原料などの用途に使用することができる。 [化学品製造工程] 本発明により得られた糖液および/または濃縮糖液を発酵原料として化学品を生産する能力を有する微生物を生育させることで、各種化学品を製造することができる。ここでいう発酵原料として微生物を生育させるとは、糖液に含まれる糖成分あるいはアミノ源を微生物の栄養素として利用し、微生物の増殖、生育維持を行うことを意味している。化学品の具体例としては、アルコール、有機酸、アミノ酸、核酸など発酵工業において大量生産されている物質を挙げることができる。こうした化学品は、糖液中の糖成分を炭素源として、その代謝の過程において生体内外に化学品として蓄積生産する。微生物によって生産可能な化学品の具体例として、エタノール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、グリセロールなどのアルコール、酢酸、乳酸、ピルビン酸、コハク酸、リンゴ酸、イタコン酸、クエン酸などの有機酸、イノシン、グアノシンなどのヌクレオシド、イノシン酸、グアニル酸などのヌクレオチド、カダベリンなどのアミン化合物を挙げることができる。さらに、本発明の糖液は、酵素、抗生物質、組換えタンパク質などの生産に適用することも可能である。こうした化学品の製造に使用する微生物に関しては、目的の化学品を効率的に生産可能な微生物であればよく、大腸菌、酵母、糸状菌、担子菌などの微生物を使用することができる。 本発明の糖液および/または濃縮糖液を化学品製造のための発酵原料に使用する場合、必要に応じて、窒素源、無機塩類、及び必要に応じてアミノ酸、ビタミンなどの有機微量栄養素を適宜含有させてもよい。さらに場合によっては、キシロースに加え、炭素源として、グルコース、スクロース、フラクトース、ガラクトース、ラクトース等の糖類、これら糖類を含有する澱粉糖化液、甘藷糖蜜、甜菜糖蜜、ハイテストモラセス、あるいは酢酸等の有機酸、あるいはエタノールなどのアルコール類、グリセリンなどを追加して、発酵原料として使用してもよい。窒素源としては、アンモニアガス、アンモニア水、アンモニウム塩類、尿素、硝酸塩類、その他補助的に使用される有機窒素源、例えば油粕類、大豆加水分解液、カゼイン分解物、その他のアミノ酸、ビタミン類、コーンスティープリカー、酵母または酵母エキス、肉エキス、ペプトン等のペプチド類、各種発酵菌体およびその加水分解物などが使用される。無機塩類としては、リン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩、マンガン塩等を適宜添加することができる。 微生物の培養方法は、バッチ培養、フェドバッチ培養、連続培養など公知の発酵培養方法が利用できる。特に本発明の糖液および/または濃縮糖液は、限外濾過膜等によって固形物が完全に除去されているという特徴を有しており、発酵に使用した微生物を遠心分離、膜分離などの手法により分離回収し、再利用を行うことができる。こうした微生物の分離回収および再利用は、培養期間中に新たな糖液および/または濃縮糖液を添加しながら、連続的に微生物を分離回収してもよく、また、培養終了後に微生物を分離回収し、次バッチの培養に再利用してもよい。 [糖液製造装置構成] 次に本発明の糖液の製造方法に関し、使用する装置について、略図を使用して説明する。 図1は、本発明の工程概略フロー図であり、詳細は前述の通りである。 図2は、本発明を実施する装置略図である。セルロース前処理物および糸状菌由来セルラーゼは、加水分解反応槽(2)に投入され、ここで加水分解を行う。加水分解を効率的に行うために、保温装置(1)および混合装置(3)を加水分解槽(2)に具備されてなることが好ましい。加水分解終了後、加水分解反応槽(2)に対し、廃糖蜜が添加される。添加する廃糖蜜は、ハンドリングの容易さを考え、事前に希釈されたものであってもよい。廃糖蜜を加水分解物に添加後、混合装置(3)を使用して混合することが好ましい。また、糸状菌由来セルラーゼの回収効率を高めるために、保温装置(1)を使用して、加水分解槽温度を40〜60℃の範囲に保持してもよい。次に、加水分解槽(2)で調製調製した混合糖液は、固液分離装置(5)に送液ポンプ(4)などの移液手段を使用して投入する。固液分離装置(5)は、遠心分離、プレスフィルター、スクリュープレス、ロータリードラムフィルター、ベルトフィルターなどの公知の固液分離装置を使用できる。好ましくは、分離膜を使用する濾過法の方が好ましい。固液分離装置(5)を使用して、得られた溶液成分は、さらに精密濾過膜装置(6)を使用して濾過してもよい。このように固液分離工程として、固液分離装置(5)および精密濾過膜装置(6)を通じて得られた溶液成分は、溶液回収槽(7)に回収される。溶液回収槽(7)は、限外濾過膜ポンプ(8)を通じて、限外濾過膜(9)に連結しており、ここで糸状菌由来セルラーゼと糖液に分離される。限外濾過膜(9)は、スパイラルモジュールなどのモジュール状に加工されてなるものが好ましく使用できる。限外濾過膜(9)で分離された糸状菌由来セルラーゼは、非透過液として、溶液回収槽(7)を通じて回収される。一方、限外濾過膜(9)の透過液は、糖液として回収でき、化学品製造などに使用することができる。 図3は、本発明の糖液をさらに濃縮する装置略図である。本発明の糖液は、糖液回収槽(10)に保持され、高圧ポンプ(11)を通じて、ナノ濾過膜および/または逆浸透膜(12)に連結してなる。本発明の糖成分は、ナノ濾過膜および/または逆浸透膜(12)の非透過液として回収され、糖液回収槽(10)に濃縮糖液として回収される。また、ナノ濾過膜および/または逆浸透膜(12)の透過液としては、発酵阻害物質が余剰水とともに除去される。 図4は、本発明の糖液および/または濃縮糖液を使用して、化学品を製造する装置略図である。本発明の糖液および/または濃縮糖液は、攪拌装置(15)および保温装置(13)を具備する発酵槽(14)に投入される。微生物は、発酵槽に投入され、生育することにより化学品を製造するとともに、培養終了時、あるいは培養過程において、微生物分離装置(16)によって、微生物と化学品を含む培養液を分離することができる。微生物分離装置(16)によって分離された微生物は、発酵槽(14)に回収される。 図5は、本発明の糖液製造装置を含む糖液プラントを既存製糖プラント脇に建設した際の装置構成略図である。既存製糖プラントとして、製糖原料としてサトウキビを使用した際の実施形態一例を示す図面である。製糖プラントには、サトウキビを裁断するためのシュレッダー(裁断工程)(17)、サトウキビジュースを搾汁する圧搾機(搾汁工程)(18)、サトウキビジュースを貯留するジュースタンク(19)、サトウキビジュースを濃縮する効用缶(多重効用缶)(濃縮工程)(20)、濃縮液に含まれる糖を結晶化する晶析装置(結晶化工程)(21)、結晶化した原料糖を分離する分離装置(22)、が含まれる。本発明で使用する廃糖蜜は、晶析装置(21)、あるいは分離装置(22)より排出される。圧搾機(18)で排出されたサトウキビバガスは、コンベアーなどの輸送装置(23)によって糖液プラントに輸送される。サトウキビバガスは、前処理工程の前段階に粉砕機(24)によって粉砕される。粉砕機は、グラインダーミル、カッターミル、ハンマーミルなどを使用することができ、また複数の組み合わせであってもよい。粉砕されたサトウキビバガスは、少なくとも加熱機能を有する加熱装置(25)にて前処理される(前処理工程)。前処理は、前述したように、酸、アルカリ、希硫酸、アンモニア、苛性ソーダなどを添加してもよい。セルロース前処理物は、前述した図2の装置にて、糸状菌由来セルラーゼによる加水分解を行う(工程1)。その後、製糖プラントより排出される廃糖蜜(モラセス)を工程(1)の加水分解物に添加する。廃糖蜜は、輸送ライン(26)にて図2の装置に連結されていればよい。図2の装置の後に、糖濃縮のための図3の装置を加えてもよい。また、前述のように本発明の糖液は、食用、飼料用途、発酵原料などに使用できる。 以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。 (参考例1)セルロース前処理物の調製調製(水熱処理) セルロース含有バイオマスとして、サトウキビバガスを使用した。前記セルロース含有バイオマスを水に浸し、撹拌しながら180℃で20分間オートクレーブ処理(日東高圧株式会社製)した。処理後は溶液成分とセルロース前処理物に遠心分離(3000G)を用いて固液分離した。得られたセルロース前処理物を以下実施例に使用した。 (参考例2)糖濃度の測定 糖液に含まれるスクロース、グルコースおよびキシロース濃度は、下記に示すHPLC条件で、標品との比較により定量した。 カラム:Luna NH2(Phenomenex社製) 移動相:ミリQ:アセトニトリル=25:75(流速0.6mL/分) 反応液:なし 検出方法:RI(示差屈折率) 温度:30℃。 (参考例3)発酵阻害物質の分析 芳香族化合物・フラン系化合物は下記に示すHPLC条件で、標品との比較により定量した。なお各分析サンプルは、3500Gで10分間遠心分離を行い、その上清成分を下記分析に供した。 カラム:Synergi HidroRP 4.6mm×250mm(Phenomenex製) 移動相:アセトニトリル−0.1% H3PO4(流速1.0mL/min) 検出方法:UV(283nm) 温度:40℃ 酢酸、ギ酸は下記に示すHPLC条件で、標品との比較により定量した。なお各分析サンプルは、3500Gで10分間遠心分離を行い、その上清成分を下記分析に供した。 カラム:Shim−PackとShim−Pack SCR101H(株式会社島津製作所製)の直列 移動相:5mM p−トルエンスルホン酸(流速0.8mL/min) 反応液:5mM p−トルエンスルホン酸、20mM ビストリス、0.1mM EDTA・2Na(流速0.8mL/min) 検出方法:電気伝導度 温度:45℃。 (参考例4)トリコデルマ由来セルラーゼの調製 トリコデルマ由来セルラーゼは以下の方法で調製した。[前培養] コーンスティップリカー5%(w/vol)、グルコース2%(w/vol)、酒石酸アンモニウム0.37%(w/vol)、硫酸アンモニウム0.14(w/vol)、リン酸二水素カリウム0.2%(w/vol)、塩化カルシウム二水和物0.03%(w/vol)、硫酸マグネシウム七水和物0.03%(w/vol)、塩化亜鉛0.02%(w/vol)、塩化鉄(III)六水和物0.01%(w/vol)、硫酸銅(II)五水和物0.004%(w/vol)、塩化マンガン四水和物0.0008%(w/vol)、ホウ酸0.0006%(w/vol)、七モリブデン酸六アンモニウム四水和物0.0026%(w/vol)となるよう蒸留水に添加し、100mLを500mLバッフル付き三角フラスコに張り込み、121℃で15分間オートクレーブ滅菌した。放冷後、これとは別にそれぞれ121℃で15分間オートクレーブ滅菌したPE−MとTween80をそれぞれ0.01%(w/vol)添加した。この前培養培地にトリコデルマ・リーセイPC3−7を1×105個/mLになるように植菌し、28℃、72時間、180rpmで振とう培養し、前培養とした(振とう装置:TAITEC社製 BIO−SHAKER BR−40LF)。 [本培養] コーンスティップリカー5%(w/vol)、グルコース2%(w/vol)、セルロース(アビセル)10%(w/vol)、酒石酸アンモニウム0.37%(w/vol)、硫酸アンモニウム0.14%(w/vol)、リン酸二水素カリウム0.2%(w/vol)、塩化カルシウム二水和物0.03%(w/vol)、硫酸マグネシウム七水和物0.03%(w/vol)、塩化亜鉛0.02%(w/vol)、塩化鉄(III)六水和物0.01%(w/vol)、硫酸銅(II)五水和物0.004%(w/vol)、塩化マンガン四水和物0.0008%(w/vol)、ホウ酸0.0006%(w/vol)、七モリブデン酸六アンモニウム四水和物0.0026%(w/vol)となるよう蒸留水に添加し、2.5Lを5L容撹拌ジャー(ABLE社製 DPC−2A)容器に張り込み、121℃で15分間オートクレーブ滅菌した。放冷後、これとは別にそれぞれ121℃で15分間オートクレーブ滅菌したPE−MとTween80をそれぞれ0.1%添加し、あらかじめ前記の方法にて液体培地で前培養したトリコデルマ・リーセイPC3−7を250mL接種した。その後、28℃、87時間、300rpm、通気量1vvmにて培養を行い、遠心分離後、上清を膜濾過(ミリポア社製 ステリカップ−GV 材質:PVDF)した。この前述条件で調製した培養液に対し、βグルコシダーゼ(Novozyme188)をタンパク質重量比として、1/100量添加し、これをトリコデルマ由来セルラーゼとして、以下、実施例に使用した。 (参考例5)糸状菌由来セルラーゼの回収酵素量の測定方法 工程(3)で回収できる糸状菌由来セルラーゼの回収酵素量は、1)結晶セルロース分解活性、2)セロビオース分解活性、3)キシラン分解活性、の3種の分解活性(以下、活性値という。)を測定することにより定量した。 1)結晶セルロース分解活性 酵素液(所定条件で調製)に対し、結晶セルロースであるアビセル(Merch社製、Cellulose Microcrystalline)を1g/L、酢酸ナトリウム緩衝液(pH 5.0)を100mMとなるよう添加し、50℃で24時間反応させた。反応液は1mLチューブで調製し、前記条件にて回転混和しながら反応を行った。反応後、チューブを遠心分離し、その上清成分のグルコース濃度を測定した。グルコース濃度は、参考例2に記載の方法に準じて測定した。結晶セルロース分解活性は、生成したグルコース濃度(g/L)をそのまま活性量として使用し、回収酵素量の比較に使用した。 2)セロビオース分解活性 酵素液に対し、セロビオース(和光純薬)500mg/L、酢酸ナトリウム緩衝液(pH 5.0)を100mMとなるよう添加し、50℃で0.5時間反応させた。反応液は1mLチューブで調製し、前記条件にて回転混和しながら反応を行った。反応後、チューブを遠心分離し、その上清成分のグルコース濃度を測定した。グルコース濃度は、参考例2に記載の方法に準じて測定した。セロビオース分解活性は、生成したグルコース濃度(g/L)をそのまま活性量として使用し、回収酵素量の比較に使用した。 3)キシラン分解活性 酵素液に対し、キシラン(Birch wood xylan、和光純薬)10g/L、酢酸ナトリウム緩衝液(pH 5.0)を100mMとなるよう添加し、50℃で4時間反応させた。反応液は1mLチューブで調製し、前記条件にて回転混和しながら反応を行った。反応後、チューブを遠心分離し、その上清成分のキシロース濃度を測定した。キシロース濃度は、参考例2に記載の方法に準じて測定した。キシロース分解活性は、生成したキシロース濃度(g/L)をそのまま活性量として使用し、回収酵素量の比較に使用した。 (参考例6)無機イオン濃度の測定 糖液に含まれるカチオンおよびアニオン濃度は、下記に示すHPLC条件で、標品との比較により定量した。 1)カチオン分析 カラム:Ion Pac AS22(DIONEX社製) 移動相:4.5mM Na2CO3/1.4mM NaHCO3(流速1.0mL/分) 反応液:なし 検出方法:電気伝導度(サプレッサ使用) 温度:30℃ 2)アニオン分析 カラム:Ion Pac CS12A(DIONEX社製) 移動相:20mMメタンスルホン酸(流速1.0mL/分) 反応液:なし 検出方法:電気伝導度(サプレッサ使用) 温度:30℃ (参考例7)廃糖蜜の成分分析 廃糖蜜として、「廃糖蜜(Molasses Agri)」(製造元:オーガニックランド株式会社)を使用した。本廃糖蜜の原料は、サトウキビ由来粗糖である。廃糖蜜の糖成分、有機酸、芳香族・フラン系化合物、無機イオンの分析結果を表1〜表4に示す。また前記各成分に関し、成分別で累計した濃度を表5に示す。なお各成分の分析は、参考例2、参考例3、参考例6に順じて実施した。 (参考例8)エタノール濃度分析 エタノール蓄積濃度の測定には、ガスクロマトグラフ法により定量した。Shimadzu GC−2010キャピラリーGC TC−1(GL science) 15 meter L.*0.53mm I.D.,df1.5μmを用いて、水素塩イオン化検出器により検出・算出して評価した。 (比較例1)加水分解物に廃糖蜜を添加混合しない糖液製造 工程(1): 参考例1で調製したセルロース前処理物(0.5g)に蒸留水を加え、参考例4で調製したトリコデルマ由来セルラーゼ0.5mLを添加し、総重量が10gとなるようさらに蒸留水を添加した。さらに本組成物のpHが4.5〜5.3の範囲となるよう希釈硫酸あるいは希釈苛性ソーダで調製した。pHを調製した本組成物を枝付試験管に移し(東京理化器械株式会社製 φ30 NS14/23、小型メカニカルスターラー CPS−1000、変換アダプター、三方コック付添加口、保温装置 MG−2200)、50℃にて24時間保温および攪拌し、加水分解物を得た。 工程(2): 比較例のため実施せず。 工程(3): 工程(1)で得た加水分解物を遠心分離(3000G、10分)にて固液分離し、溶液成分(6mL)と固形物に分離した。また、溶液成分は、さらにマイレクスHVフィルターユニット(33mm、PVDF製、細孔径0.45μm)を使用して濾過を行った。得られた溶液成分の糖濃度(グルコースおよびキシロース濃度)は、参考例2記載の方法で測定した。測定した糖濃度を表6に示す。得られた溶液成分は、分画分子量10000の限外濾過膜(Sartorius stedim biotech社製 VIVASPIN 20 材質:PES)で濾過し、膜画分が1mLになるまで4500Gにて遠心した。蒸留水10mLを膜画分に添加し、再度膜画分が1mLになるまで4500Gにて遠心した。この操作を再度行った後、膜画分から回収酵素液を回収した。回収酵素量は、参考例5に準じて各活性値を測定することにより定量した。なお、本比較例1で測定した活性値は、「1(基準)」として、後述比較例2および実施例1との回収酵素量の比較のために使用した(表7)。 (比較例2)加水分解物に試薬糖液を添加する糖液製造 工程(1): 比較例1の工程(1)と同じ手順で実施した。 工程(2): 廃糖蜜ではない試薬糖液を工程(1)の加水分解物に添加混合した。試薬糖液は、参考例7に記載の廃糖蜜と同じ糖濃度となるように調製した。すなわち、試薬糖液は、グルコース148g、フルクトース163g、スクロース371gをRO水1Lに完全に溶解させ調製し、試薬糖液とした。こうして得た試薬糖液0.5mLを工程(1)の加水分解物添加した。添加後、均一になるよう室温(25℃)で5分程度混合した後、これを混合糖液とした。 工程(3): 工程(2)で得られた混合糖液を使用して、比較例1の工程(3)と同じ手順で、固液分離および限外濾過膜処理を行った。得られた糖濃度を表6に示す。また測定した活性値は、比較例1の活性値で除した値を比較例2の回収酵素量として表7に示す。 (実施例1)セルロース加水分解物に廃糖蜜を添加混合する糖液の製造方法 工程(1): 比較例1の工程(1)と同じ手順で実施した。 工程(2): 工程(1)で得られた加水分解物(10mL)に対し、廃糖蜜(参考例7:糖濃度689g/L)を、0.5g添加した。添加後、均一になるよう、室温(25℃)で5分程度混合した後、これを混合糖液とした。 工程(3): 工程(2)で得られた混合糖液を使用して、比較例1の工程(3)と同じ手順で、固液分離および限外濾過膜処理を行った。得られた糖濃度を表6に示す。また測定した活性値は、比較例1の活性値で除した値を実施例1の回収酵素量として表7に示す。 比較例1、比較例2、実施例1を比較したところ、実施例1では、比較例1よりも回収酵素量が増大することから、廃糖蜜成分に回収酵素量を増加させる成分が含まれていることが示唆された。また比較例2の回収酵素量は、比較例1とほぼ同程度であることから、廃糖蜜に含まれる糖成分(スクロース、グルコース、フルクトース)が、回収酵素量に影響することはなく、それ以外の成分が酵素回収増加に関与することが示唆された。 (実施例2)廃糖蜜の添加量と回収酵素量との関係 実施例1の工程(2)において、廃糖蜜の添加量0.1g(実施例1)、0.5g、1g、2g、5gをそれぞれ添加した際、回収できる糸状菌由来セルラーゼの回収酵素量を比較した。各実験区からの回収酵素の活性値を比較例1の活性値で除した値を回収酵素量(相対値)として表8に示す。その結果、廃糖蜜の添加量が増大するに伴い、回収酵素量、特に結晶セルロース分解活性に関与する酵素量が増大することが判明した。 (比較例3)試薬糖添加量と回収酵素量の関係 比較例2の工程(2)において、試薬糖液の添加量を0.1g(比較例2)、0.5g、1g、2g、5gと設定し、これらを添加した際、回収される糸状菌由来セルラーゼの酵素量を比較したところ、表9に示すように、実施例2の結果とは異なり、試薬糖の添加量が増えても、回収酵素量は、いずれも増大しないことが判明した。すなわち、廃糖蜜に含まれる糖以外の成分が、回収酵素量の増大に関与していることが判明した。 (実施例3)混合糖液の保温温度と回収酵素量の関係 実施例1の工程(2)において、廃糖蜜の添加量0.5g添加、混合糖液とした後、保温する温度を、25℃(実施例1)、40℃、50℃、60℃、70℃と設定し、各実験区での回収酵素量を回収酵素の活性値を測定することにより比較した(表10)。その結果、混合糖液を40〜60℃の温度範囲で保温することにより、回収酵素量がさらに増大することが判明した。 (実施例4)ナノ濾過膜または逆浸透膜を使用して濃縮糖液を得る工程 [糖液の調製] 糖液(1L)を以下条件で調製した。 工程(1): 参考例1で得られたセルロース前処理物(400g)にトリコデルマ由来セルラーゼ4gを添加し、総重量が8kgとなるようさらに蒸留水を添加した。さらに本組成物のpHが4.5〜5.3の範囲となるよう希釈苛性ソーダで調製した。この液を液温が45〜50℃を保つよう保温しながら、かつpHが4.5〜5.3の範囲を保つように希釈硫酸、希釈苛性ソーダを添加して24時間保温し、加水分解物8kgを得た。 工程(2): 工程(1)で得られた加水分解物8kgに廃糖蜜0.4kgを添加した。添加後、均一になるように5分混合した後、これを混合糖液とした。 工程(3): 工程(2)で得られた混合糖液を固液分離および限外濾過膜処理を行った。固液分離は、小型フィルタプレス装置(薮田産業株式会社製フィルタプレス MO−4)を用いて行った。ろ布はポリエステル製織布(薮田産業株式会社製 T2731C)を使用した。混合糖液8Lを小型タンクの中に入れて下から圧縮空気で曝気しながら液投入口を開いてエアーポンプ(タイヨーインタナショナル製 66053−3EB)で徐々にろ室内にスラリー液を投入した。次にろ室に付設されているダイヤフラムを膨らませて圧搾工程を行った。徐々に圧搾圧力を上昇させていき、0.5MPaまで上昇させてから約30分間放置してろ液として溶液成分を回収した。得られた溶液成分の総量は6Lであった。残りの液成分については装置デッドボリュームのために損失した。次に固液分離の溶液成分は、精密濾過膜を使用して濾過を行った。精密濾過は、ステリカップHV1000mL(ミリポア社製、PVDF、平均細孔径0.45μm)を使用して実施し、5Lのろ液を得た。得られたろ液(溶液成分)は、分画分子量10000の限外濾過膜(GE製 SEPA PWシリーズ 機能面材質:ポリエーテルスルホン)平膜をセットした小型平膜濾過装置(GE製 Sepa(登録商標) CF II Med/High Foulant System)を使用して実施した。原水側流速2.5L/分、膜フラックスが0.1m/Dと一定になるように操作圧力を制御しながら5Lのうち4Lを濾過し、糖液を得た。 [糖液のナノ濾過膜または逆浸透膜処理] 前記工程(1)〜(3)で製造した糖液1Lを使用してナノ濾過膜濃縮または逆浸透膜濃縮を実施した。ナノ濾過膜は“DESAL−5L”(デザリネーション社製)を使用し、逆浸透膜は架橋全芳香族系逆浸透膜“UTC80”(東レ株式会社製)を使用し、それぞれの膜を小型平膜濾過装置(GE製 “Sepa”(登録商標) CF II Med/High Foulant System)にセットし、原水温度を25℃、高圧ポンプの圧力を3MPaで濾過処理を行った。この処理により、0.5Lのナノ濾過膜濃縮液濃縮液および0.5Lの透過液を得た(2倍濃縮)。ナノ濾過膜を使用して得た濃縮糖液を表11に、逆浸透膜を使用して得た濃縮糖液を表12にそれぞれ示す。表11および表12に示す通り、糖成分の濃縮は、ナノ濾過膜、逆浸透膜のいずれの膜でも実施可能であるものの、ナノ濾過膜で濃縮した場合、発酵阻害物質であるHMF、フルフラール、酢酸、カリウムイオンなどを除去できる効果が高いことが判明した。 (実施例5)糖液を発酵原料とするエタノール発酵試験 実施例4の糖液調製工程(工程(1)〜(3)実施)で得られた糖液を使用して、酵母(Saccharomycecs cerevisiae OC−2:ワイン酵母)を使用して、エタノール発酵試験を行った。比較のため、実施例4の糖液調製工程における工程(1)〜(2)までを実施して得られた混合糖液も発酵原料として使用した。前述酵母をYPD培地(2%グルコース、1%酵母エキス(Bacto Yeast Extract/BD社)、2%ポリペプトン(日本製薬株式会社製)にて、1日間25℃で前培養を行った。次に、得られた培養液を、糖液および混合糖液(糖濃度57g/L)に対し、1%(20mL)となるように添加した。微生物を添加後、25℃で2日間インキュベートした。この操作で得られた培養液を参考例8の手順でエタノール蓄積濃度を分析した。表13に示すように、セルロース加水分解物と廃糖蜜を混合しただけの混合糖液のままでは、エタノール蓄積濃度が低いことが判明した。これは、本来、工程(3)で除去されるべき物質が発酵阻害要因として作用したことによるものと予想された。 (実施例6)濃縮糖液を発酵原料とするエタノール発酵試験 実施例5と同じ手順で、実施例4で得られたナノ濾過膜による濃縮糖液および逆浸透膜による濃縮糖液にRO水にて2倍希釈したものを発酵培地として使用した。その結果、表14に示すように、いずれの濃縮糖液も実施例5を上回る発酵成績であり、特にナノ濾過膜による濃縮糖液が発酵培地として優れることが判明した。 (実施例7)混合糖液のインベルターゼ処理 実施例1の工程(2)の加水分解物(10mL)に対し、廃糖蜜(参考例7:糖濃度689g/L)を、0.5g添加した。添加後、均一になるよう、室温(50℃)で5分程度混合した後、これを混合糖液とした。その後、酵母由来インベルターゼ1g(Invertasesolution, from yeast、和光純薬工業)を添加し、さらに1時間放置した。 工程(3): 工程(2)で得られた混合糖液を使用して、比較例1の工程(3)と同じ手順で、固液分離および限外濾過膜処理を行った。得られた糖濃度を表15に示す。 表15に示すように実施例1の糖濃度と比較として、スクロースの加水分解によって、グルコースおよびフルクトースの糖濃度が増加することが判明した。 (実施例8)インベルターゼ処理した糖液によるL−乳酸生産 ラクトコッカス・ラクティスJCM7638株を、実施例7の糖液5mLに植菌し、24時間、37℃の温度で静置培養した。培養液に含まれるL−乳酸濃度を以下条件で分析した。カラム:Shim-Pack SPR-H(株式会社島津製作所製)移動相:5mM p−トルエンスルホン酸(流速0.8mL/min) 反応液:5mM p−トルエンスルホン酸、20mM ビストリス、0.1mM EDTA・2Na(流速0.8mL/min)検出方法:電気伝導度温度:45℃ 分析の結果、L−乳酸が26g/L蓄積していることが確認され、本発明の糖液により乳酸生産が可能であることが確認できた。 (比較例4)試薬糖液によるL−乳酸生産 比較のため表15記載の糖濃度になるようにグルコース、キシロース、スクロース、フルクトースを混合した試薬糖液5mLを調製した。ラクトコッカス・ラクティスJCM7638株を前述試薬糖液に植菌し、24時間、37℃の温度で静置培養したが、生育は確認されなかった。これは、実施例8の糖液には、乳酸菌生育のためのアミノ酸、ビタミンなど含まれるのに対して、試薬糖液には含まれないことが、その要因と考えられた。 (参考例9) セルロース含有バイオマスとして、サトウキビバガスを使用した。前記セルロース含有バイオマスを硫酸1%水溶液に浸し、150℃で30分オートクレーブ処理(日東高圧株式会社製)した。処理後、固液分離を行い、硫酸水溶液(以下、希硫酸処理液)とセルロース前処理物(希硫酸)に分離した。 (比較例5)加水分解物に廃糖蜜を添加混合しない糖液製造 参考例9で調製したセルロース前処理物(希硫酸)を使用して、比較例1と同じ手順で、回収酵素液を回収した。回収酵素量は、参考例5に準じて各活性値を測定することにより定量した。なお、本比較例5で測定した活性値を「1(基準)」として、後述比較例6および実施例9との回収酵素量の比較のために使用した(表16)。 (比較例6)加水分解物に試薬糖液を添加する糖液製造 工程(1): 比較例1の工程(1)と同じ手順で実施した。 工程(2):比較例2と同じ手順で実施した。 工程(3): 工程(2)で得られた混合糖液を使用して、比較例1の工程(3)と同じ手順で、固液分離および限外濾過膜処理を行った。測定した活性値は、比較例5の活性値で除した値を比較例6の回収酵素量として表16に示す。 (実施例9)セルロース加水分解物に廃糖蜜を添加混合する糖液の製造方法 工程(1): 比較例1の工程(1)と同じ手順で実施した。 工程(2): 実施例1と同じ手順で実施した。 工程(3): 工程(2)で得られた混合糖液を使用して、比較例1の工程(3)と同じ手順で、固液分離および限外濾過膜処理を行った。測定した活性値は、比較例5の活性値で除した値を実施例9の回収酵素量として表16に示す。 比較例5、比較例6、実施例9を比較したところ、実施例9では、比較例5よりも回収酵素量が増大することから、廃糖蜜成分に回収酵素量を増加させる成分が含まれていることが示唆された。また比較例6の回収酵素量は、比較例5とほぼ同程度であることから、廃糖蜜に含まれる糖成分(スクロース、グルコース、フルクトース)が、回収酵素量に影響することはなく、それ以外の成分が酵素回収増加に関与することが示唆された。本結果は、セルロース前処理に関係なく、廃糖蜜で回収酵素活性が増大することを示す結果である。 本発明によって、セルロースを含むバイオマスから、各種化学品を発酵製造するための発酵原料となる糖液を製造することができる。1 保温装置2 加水分解槽 3 混合装置4 送液ポンプ5 固液分離装置6 精密濾過膜装置7 溶液回収槽8 限外濾過膜ポンプ9 限外濾過膜10 糖液回収槽11 高圧ポンプ12 ナノ濾過膜および/または逆浸透膜13 保温装置14 発酵槽15 攪拌装置16 微生物分離装置17 シュレッダー18 圧搾機19 ジュースタンク20 効用缶21 晶析装置22 分離装置23 輸送装置24 粉砕機25 加熱装置26 輸送ライン 以下の工程(1)〜(3)を含む、糖液の製造方法。工程(1):セルロース前処理物に糸状菌由来セルラーゼを添加し、加水分解物を得る工程、工程(2):前記加水分解物に廃糖蜜を添加混合し、混合糖液を得る工程、工程(3):前記混合糖液を固液分離し、得られた溶液成分を限外濾過膜に通じて濾過し、非透過液として糸状菌由来セルラーゼを回収し、透過液として糖液を得る工程。 工程(1)の糸状菌由来セルラーゼがトリコデルマ由来セルラーゼである、請求項1に記載の糖液の製造方法。 工程(1)のセルロース前処理物が、水熱処理、希硫酸処理およびアルカリ処理の群から選ばれる1以上の処理物である、請求項1または2に記載の糖液の製造方法。 工程(2)において、加水分解物に廃糖蜜を添加混合し、混合糖液の糖濃度を40〜200g/Lの範囲で調製する、請求項1から3のいずれかに記載の糖液の製造方法。 工程(2)において、混合糖液を40〜60℃の温度範囲で保温する工程を含む、請求項1から4のいずれかに記載の糖液の製造方法。 工程(3)の糖液を、ナノ濾過膜および/または逆浸透膜に通じて濾過し、透過液として発酵阻害物質を除去し、非透過液として糖濃縮液を得る工程を含む、請求項1から5のいずれかに記載の糖液の製造方法。 請求項1から6のいずれかに記載の糖液の製造方法により糖液を製造する工程、および該工程で得られる糖液を発酵原料として化学品を生産する能力を有する微生物を発酵培養する工程を含む、化学品の製造方法。