生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_化学修飾されたペプチドを有するファージおよびその製造方法
出願番号:2012287045
年次:2014
IPC分類:C12N 7/00,C12N 7/06,C12N 15/09


特許情報キャッシュ

瀧 真清 福永 圭佑 JP 2014128211 公開特許公報(A) 20140710 2012287045 20121228 化学修飾されたペプチドを有するファージおよびその製造方法 国立大学法人電気通信大学 504133110 三好 秀和 100083806 高橋 俊一 100101247 瀧 真清 福永 圭佑 C12N 7/00 20060101AFI20140613BHJP C12N 7/06 20060101ALI20140613BHJP C12N 15/09 20060101ALI20140613BHJP JPC12N7/00C12N7/06C12N15/00 A 9 OL 17 4B024 4B065 4B024AA01 4B024AA11 4B024AA20 4B024BA80 4B024CA02 4B024EA03 4B024FA20 4B024GA11 4B024HA01 4B024HA20 4B065AA98X 4B065AB01 4B065AC12 4B065AC20 4B065BA01 4B065BD25 4B065CA46 4B065CA60 本発明は、システイン残基を含むペプチドを有し、該システイン残基の硫黄原子を介して化学的に修飾されている、バクテリオファージ、およびその製造方法に関する。 生体分子であるペプチドの配列と構造を、有機化学的手法および/または生化学的手法によって拡張して、非天然ペプチドのライブラリーを作製する試みが、近年、創薬分野において注目を集めている。 例えば、特許文献1には、両端にシステイン残基を有し、それ以外はランダムな配列を有するペプチドのライブラリーをスクリーニングすることにより、腫瘍細胞に取り込まれる性質を有する環状ペプチドを同定したことが記載されている。 非天然ペプチドのライブラリーを作製する方法としては、in vitro翻訳において非天然アミノ酸をペプチドの特定の位置に取り込ませる手法が、しばしば用いられる(非特許文献1)。このin vitroの翻訳システムは、得られるペプチドの多様性という面で非常に優れている。しかしながら、このシステムは、種々の非天然アミノ酸、RNA触媒、および再構成無細胞翻訳系(PUREシステム)等の高価な試薬を使用することに加え、取り扱いに手間のかかるmRNAをペプチド合成の媒体とする必要があるという欠点を有する。 一方で、バクテリオファージ上にペプチドを提示させ、その提示ペプチドに対して人工的な官能基化を施すことにより、非天然ペプチドライブラリーを作製する手法も知られている。このファージディスプレイ系によるライブラリーは、得られるペプチドの多様性が上記in vitro翻訳系よりも若干劣るものの、in vitro翻訳系と異なり、比較的簡易な設備や試薬を用いた経済的な非天然ペプチドライブラリー作製を可能とし得る、という利点がある。作製されたライブラリーは、有用なペプチドを単離するためのスクリーニングに使用することができ、単離されたペプチドのアイデンティティーは、対応するファージのDNA配列を読むことで容易に決定することができる。しかしながら、ファージが提示するペプチドの特異的修飾は技術的に極めて難しく、M13ファージを使った数例しか報告例がない。 ファージが提示するペプチドの特異的修飾が難しい主な理由の1つは、ファージの本体部分、すなわち提示ペプチド以外の部分までもが、予期せぬ副反応によって改変されてしまうことである。事実、2009年にHeinisらが発表した論文(非特許文献2)では、M13ファージを用いて、コートタンパク質pIIIに融合された提示ペプチドの化学修飾化を行うことによって非天然ペプチドライブラリーの作製に成功したことが報告されているものの、提示ペプチドのシステイン残基を特異的に化学修飾するためには、pIIIタンパク質本体に本来あるシステイン残基を、遺伝子工学的改変により事前に除去する必要があることが教示されている。この文献はまた、提示ペプチドのシステイン残基の特異的な修飾が得られる場合であっても、上記遺伝子工学的改変および化学修飾反応の結果、ファージの感染能が低下することを記載している。 システインは、ペプチドの残基の1つとして、構造的・機能的に特に重要な役割を果たす。1つのシステイン残基のSH基は、同じペプチド配列中の別の位置にあるもう1つのシステイン残基のSH基、または、異なるペプチド中にあるシステイン残基のSH基と、容易にジスルフィド結合(−S−S−)を形成することができ、このジスルフィド結合形成によって、システイン残基はペプチドの高次構造形成にしばしば貢献する。SH基は、ジスルフィド結合形成の他にも多様な反応の基質となり得るので、ペプチドを人為的に修飾するにあたって、システイン残基は修飾部位の良い候補となる。その反面、非特許文献2の実験にも示されていた通り、特定のシステイン残基を操作することを試みる際に、実験系内の別の場所で意図しない副反応が起こったり、タンパク質の高次構造が損なわれたりすることが、しばしばある。従って、タンパク質やウイルス粒子の中で、それらの機能(例えば、感染能)を損なうことなく、意図するシステインだけを自在に化学修飾することは、容易ではない。具体的には、遺伝子工学により改変された特殊な株を使用することや、予備的反応を含む複雑な反応手順を経ることが必要とされると考えられる。特開2005-21021号公報国際公開第2011/024887号Kawakami T., Murakami H., Suga H., Chem Biol 2008, 15, (1), 32-42.Heinis C., Rutherford T., Freund S., Winter G., Nat Chem Biol. 2009 Jul;5(7):502-7.Kim Y.,Stites W., Biochemistry 2008, 47, 8804-8814. 本発明の課題は、複雑な反応手順を経ることなく調製可能であり、かつ、提示ペプチドにおいて特異的に修飾されたファージディスプレイ系、及び該ファージディスプレイ系の調製方法を提供することである。 すなわち、本発明は以下の側面を含む。1.遺伝子操作によってキャプシドタンパク質gp10のC末端に導入された、少なくとも1つのシステイン残基を含むペプチドと、 該システイン残基の硫黄原子を介して連結された化学的修飾要素と、 を有するT7ファージ。2.前記化学的修飾要素が、下記式(1)または式(2): −CHR1C(=O)− (1) −R2−SO2- (2)(R1は水素原子またはメチレン基であり、R2は炭素数1〜5のアルキレン基である)で表される構造を含む、少なくとも1つの連結部を有し、式(1)のカルボニル基のα炭素で、または、式(2)のR2で、前記硫黄原子に連結されている、前項1記載のT7ファージ。3.前記式(1)中のカルボニル基の炭素原子が窒素原子に結合されている、前項2記載のT7ファージ。4.前記化学的修飾要素が、前記ペプチド中の、前記システイン残基とは別の位置にある残基にも連結されている、前項1〜3のいずれかに記載のT7ファージ。5.前記別の位置にある残基が、システイン残基である、前項4に記載のT7ファージ。6.ファージの表面に提示された少なくとも1つのシステイン残基を含むペプチドを化学的に修飾する方法であって、(a)前記ファージ、および(b)ハロアセトアミド化合物を還元剤の存在下で反応させる工程を含む方法。7.前記還元剤がTCEPである、前項6に記載の方法。 本発明によれば、提示ペプチドのシステイン残基が特異的に化学修飾されたファージを、極めてシンプルな工程により提供することができる。T7ファージは、本来的に構成タンパク質中に非常に多くのシステイン残基を有することを考えると、これは驚くべき効果である。 つまり、T7ファージは、415個のgp10タンパク質(ファージディスプレイにおいて提示ペプチドを融合させるタンパク質としても使用され、提示ペプチドを除いても、1分子あたり2個のシステイン残基を有する)が会合したものからキャプシド部が形成されていることから、キャプシド部だけでも少なくとも830個のシステイン残基を含んでおり、他にも例えば、宿主大腸菌と直接接触して感染を媒介するテール部も、システイン残基を複数含むタンパク質の会合から形成されている。T7ファージ本来の構造と機能に関わるこれらの多数のシステイン残基に悪影響を及ぼすことなく、きわめてシンプルな工程で、提示ペプチドを優先的に化学修飾できるという本発明の効果は、予測外であり、かつ、きわめて有用である。図1は、異なる濃度の修飾化合物5-TMRIAを用いた、ペプチド非提示T7ファージおよびペプチド提示T7ファージの化学修飾実験の結果を示す図である。提示ペプチドが最も選択的に修飾されていることが示されている。蛍光イメージング(左上)において、点線で囲った部分は、特異的修飾(specific modification)を受けたペプチド融合gp10を示す。右側の模式図において、各々の丸印は提示ペプチドの1アミノ酸残基を示し、星印はシステイン残基に連結された化学的修飾要素を示す(図2、3において同じ)。図2は、蛍光イメージング、ウェスタンブロット、およびゲル染色(a)、ならびにエンテロキナーゼ切断実験(b)の結果を示す図である。提示ペプチドのシステイン残基が特異的に修飾されていることが示されている。図3は、化学修飾する前と後での、提示ペプチドを有するgp10タンパク質の分子量のシフトを、CBBゲル染色によって調べた結果を示す図である。化学修飾がきわめて高効率で起こったことが示されている。図4は、化学修飾されていたのが、gp10に融合された提示ペプチドのシステイン残基であったことを確認する、質量分析実験の結果を示す図である。図5は、システイン残基の周囲のアミノ酸配列を変えたT7ファージクローン(a)、および、T7ファージライブラリー(b)においても、提示ペプチドのシステイン残基における特異的化学修飾が同様に達成されることを示す図である。図6は、LC-MS/MSによるEBB修飾ペプチドの構造決定を示す図である。(上パネル)MSスペクトル。(下パネル)MS/MSスペクトル。図7は、EBBリンカーで修飾したT7ファージライブラリーを用いたスクリーニングにおいて、Hsp90に結合する環状ペプチドを提示するファージが選択されたことを示す図である。縦軸は、ELISA法において定量化された吸光度を示し、Hsp90に結合するファージの濃度を表している。「mock」は、Hsp90を省いた対照を表す。図8は、T7ファージへの化学修飾が大腸菌感染能に影響を与えないことを示す図である。(A)プラークアッセイによる大腸菌感染能の評価。(B)タイターの比較。 本発明の第一の側面では、遺伝子操作によってキャプシドタンパク質gp10のC末端に導入された、少なくとも1つのシステイン残基を含む提示ペプチドと、該システイン残基の硫黄原子を介して連結された化学的修飾要素とを有するT7ファージが提供される。 いずれのファージタンパク質のどの部位にペプチドを融合させればそのペプチドがファージ外表面に提示されるかは、当業者が実験的に見出すことも可能であるが、いくつかの実用的な例が確立されている。その一例として、T7ファージのキャプシドタンパク質gp10(gp10Bまたはgp10A)のC末端にペプチドを融合させると、そのペプチドはファージ表面に提示されることが知られている。本発明の第一の側面におけるT7ファージは、キャプシドタンパク質gp10のC末端に融合させた提示ペプチドが化学的修飾要素と連結しているものである。そして、この部位特異性により、本発明のT7ファージは、宿主細胞への感染能を維持することができる。しかしながら、キャプシドタンパク質gp10以外のタンパク質に融合させた提示ペプチドが化学的修飾要素と連結しているT7ファージの態様を排除する趣旨ではない。 本明細書でいうファージディスプレイとは、ファージ(「バクテリオファージ」または「ファージウイルス」ともいう)の外表面にペプチドを露出させて提示させる技術である。ファージディスプレイの方法は当業者にはよく知られている。具体的には、天然のファージゲノムにコードされていないペプチドを、遺伝子操作に基づいてファージタンパク質に融合させ、ファージ表面に提示させることができる。そのようなペプチドを「提示ペプチド」と呼ぶ。すなわち、提示ペプチドは、ファージの構成タンパク質の1つまたは複数に、ペプチド結合により結合している。上記遺伝子操作において、提示ペプチドの一部または全部のアミノ酸配列をランダムにすることができ、それによって、ファージ粒子の1つ1つが互いに配列の異なるペプチドを提示している「ライブラリー」を得ることができる。目的に応じたアッセイを用いて、ライブラリーをスクリーニングすることにより、所望の化学的、物理的、および/または生物学的特性を有する修飾ペプチドを単離することができる。 本明細書でいう遺伝子操作とは、目的のペプチドをコードするDNA配列をファージゲノムの適切な位置に挿入することを意味し、これを行う方法は当業者には既に知られているか、または当業者によるルーチン実験によって見出すことができる。事前にそのような遺伝子操作がなされたファージやそのDNA、または、そのような遺伝子操作を容易に行えるようにクローニングサイト等が導入されたDNAを、購入することもできる。上記のように遺伝子操作されたファージゲノムDNAを、ファージタンパク質と混合してパッケージングを行い、および/または、宿主大腸菌細胞に導入することにより、提示ペプチドを有するファージ粒子を新たに獲得することができる。宿主大腸菌にも、目的に応じて使い分けられる様々な種類の株が知られており、当業者は目的に応じて適切な株を選択できる。例えば、提示ペプチドが融合されていない野生型gp10タンパク質をコードする遺伝子を含む大腸菌株(例えばBLT5403株)を宿主として用いて、上記遺伝子操作をしたファージDNAと組み合わせれば、提示ペプチドを有するgp10と有しないgp10とが混在するT7ファージを得ることができる。このようにして、ファージ粒子あたりの提示ペプチドの発現量を調節することもできる。 なお、本発明においては、目的のペプチドをコードするDNA配列を挿入すること以外に、他の遺伝子操作は特に必要とされない。特に、本発明は、遺伝子工学的に改変された特殊なファージ株の使用を必要としないことは、特筆に価する。言い換えると、本発明のT7ファージは、容易に入手できる既存のT7ファージを使用して作製することができる。しかしながら、所望ならば、本発明のファージのゲノムに他の改変を施すことも可能である。そのような他の改変の例としては、タンパク質コード部分の配列変更、プロモーターやクローニングサイト等のDNAエレメントの挿入や削除、遺伝子の挿入や削除、等が挙げられる。 ファージディスプレイ実施またはファージライブラリー作製のための、DNAおよびキット、ならびに、既製の各種ファージライブラリーが市販されている。メルクミリポア社の「T7Select」システムにより提供されるDNAまたはファージは、本発明の第一の側面において特に好適に使用できる。 本明細書において、「ペプチド」という用語は、2分子以上のアミノ酸がペプチド結合によって連結した構造を含む化合物のことを意味する。従って、いわゆるオリゴペプチドまたはポリペプチドも、ペプチドの一種である。ペプチドに関して使用される「融合」という用語は、1つのペプチド(例えば、gp10タンパク質)と別のペプチド(例えば、遺伝子操作により導入された提示ペプチド)とが、ペプチド結合により繋がり、結果として単一のペプチドを形成していることを意味する。 提示ペプチドの長さは、特に限定されないが、例えば2〜1200アミノ酸、より好ましくは3〜900アミノ酸、最も好ましくは4〜50アミノ酸である。提示ペプチドに含まれるシステイン残基の数は、特に限定されないが、例えば1〜20個、より好ましくは2〜10個、さらに好ましくは2〜6個、最も好ましくは2個である。提示ペプチド中のシステイン残基の数は、偶数であるほうがより好ましい。化学修飾される提示ペプチドとファージタンパク質との間に、酵素(例えばエンテロキナーゼ)により切断される配列や、抗体等に認識または結合されるタグ配列や、スペーサーとなる配列等を挿入してもよい。 システインは、タンパク質構成天然アミノ酸の中で唯一、SH基(チオール基、スルフヒドリル基、またはメルカプト基ともいう)を含む側鎖を有するという特徴がある。本発明では、システイン残基のこのSH基が、化学的修飾要素による化学修飾の対象となる。ここでいう化学修飾とは、SH基の水素原子(H)を、化学的に置き換えることを意味する。従って、システイン残基の硫黄原子(S)に水素原子以外のもの(化学的修飾要素)が結合している場合、そのシステイン残基は「化学修飾されている」または「化学的修飾要素に連結している」という。ただし、同一ペプチド内の2つのシステイン残基の硫黄原子同士が直接ジスルフィド結合した構造は、特に人為的な操作をせずとも自然に発生することがあり、例えば既存のT7ファージライブラリー中にも多く存在していると考えられるので、そのような同一ペプチド内システイン残基同士の直接的なジスルフィド結合の形成は、本明細書でいうところの「化学修飾」には含めない。しかしながらこれは、「化学修飾」から一律にジスルフィド結合を除外することを意図するものではない。すなわち、SH基を有する化合物を外部から加えて、提示ペプチド内のシステイン残基とジスルフィド結合を形成させることは、本明細書でいうところの「化学修飾」に含まれる。 本発明の「化学的修飾要素」としては、多種多様なものが包含される。SH基と反応して水素原子を置換することができる構造を有する化合物としては、例えば、ハロアルキル類、ハロアセトアミド類等のハロゲン原子を含むもの、マレイミド類、ビニルスルホン類等の不飽和構造を含むもの、及びチオール類等が挙げられ、これらのうち、ハロアセトアミド類、及びマレイミド類が好ましい。これらの化合物が、システイン残基のSH基と反応した後には、H原子と置き換わって該化合物由来の原子団がS原子上に共有結合して残されることになるが、その原子団が本明細書でいうところの「化学的修飾要素」に該当する。つまり、SH基と反応する、上記ハロゲン原子、不飽和基等を含むものであれば、原理的にいかなる化合物でも、提示ペプチドのシステイン残基に連結させて化学的修飾要素とすることができる。 従って、本発明における化学的修飾要素が、いかなる種類のものであり、いかなる機能を有するものであるかは、使用者が修飾ペプチドを作製する目的に依存する。化学的修飾要素の例としては、ペプチドに検出可能性を付与し得る発光物質、蛍光物質、色素、および放射性物質等、生理活性を有し得る薬剤、毒素、酵素、抗体、核酸、アミノ酸、ペプチド、糖類、金属、および脂質等、各種ポリマー等、ならびに上記のものの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。 化学的修飾要素は、提示ペプチド内の2箇所以上の残基と連結して環状ペプチドを形成する、リンカー構造であってもよい。リンカー構造は、ペプチドに特定の立体構造およびそれに伴う新規な特性を付与し得るので、創薬の分野で特に有用であると考えられる。本発明において、上記2箇所以上の残基のうちの1つは、システイン残基であるが、他の残基は、システイン以外(例えば、側鎖において、またはペプチドのN末端として、アミノ基を有するアミノ酸)であってもよい。リンカーが連結する2箇所以上の残基がいずれもシステイン残基である方が、製造過程において、単一の反応条件下で一度に結合を完了させることができるので、より好ましい。該リンカーには、一つの化学的修飾要素と、もう一つの化学的修飾要素(またはアミノ酸残基の側鎖)とが、それぞれ金属と配位結合することによってリンカー構造が形成されているものも包含される。システイン残基のSH基と反応できる官能基の例、および、リンカー構造の例は、例えば特許文献2および非特許文献3に記載されている。 化学的修飾要素のうち、システイン残基の硫黄原子と結合する連結部分は、下記式(1)または(2)のいずれかの構造を含むことが好ましい。 −CHR1C(=O)− (1) −R2−SO2− (2) これらの式中、R1は水素原子またはメチレン基であり、R2は炭素数1〜5のアルキレン基、より好ましくは炭素数1〜2のアルキレン基、最も好ましくはエチレン基である。また、「−」は共有結合を表し、それぞれの式の左端に表示された共有結合は、提示ペプチドのシステイン残基由来の硫黄原子に対する結合である。式(1)で表される連結部分は、例えば、ハロアルキル類、ハロアセトアミド類、またはマレイミド類の化合物をシステイン残基のSH基と反応させて化学修飾を行って得ることができる。より好ましくは、式(1)のカルボニル基の炭素原子が窒素原子に結合されている。一方、式(2)の連結部分は、ビニルスルホン類をシステイン残基のSH基と反応させて化学修飾を行って得ることができる。 特に好ましい化学的修飾要素の例としては、以下の式で表されるものが挙げられる。ここで、星印(*)は、提示ペプチドのシステイン残基由来の硫黄原子を表す。また、Y1、Y2、Y3は、各々独立して、炭素数1〜5のアルキレン基を表す。 さらに好ましい化学的修飾要素の例としては、以下の式で表されるものが挙げられる。ここで、星印(*)は、提示ペプチドのシステイン残基由来の硫黄原子を表す。また、nは0〜5の整数、より好ましくは1〜3の整数を表す。ポリエチレングリコール基を含み、リンカー構造を形成するこの化学的修飾要素は、従来のリンカー構造と比較して、修飾ペプチドの水溶性の向上、他分子への非特異的吸着の抑制、凝集体形成の抑制、生体内安定性の向上、および免疫原性の低下等の効果を提供し得る。 別の態様では、化学的修飾要素のうち、システイン残基の硫黄原子と結合する連結部分が、式 -S- で表される構造を有する。この式中、「−」は共有結合を表し、式の左端に表示された共有結合は、提示ペプチドのシステイン残基由来の硫黄原子に対する結合(すなわちS-S結合)である。提示ペプチドのシステイン残基のSH基を、外部から加えたSH基含有化合物と反応させて化学修飾を行った場合には、結果として得られる化学的修飾要素は、上記式で表される連結部分を有することとなる。 本発明の別の側面では、ファージの表面に提示されたシステイン残基含有ペプチドを化学的に修飾する新規な方法が提供される。提示ペプチドのシステイン残基が化学的修飾要素によって修飾された上記T7ファージは、この方法を使用すれば、きわめて容易に作製することができる。 通常、ファージ上に提示されたペプチドのシステイン残基を修飾しようとする場合、還元剤による前処理を行うことにより、酸化状態にある硫黄原子含有基をSH基の状態に戻す操作が行われる。従来は、この前処理をした後、還元剤を除去し、その後あらためて修飾反応が行われていた。還元剤の除去は、例えば、ポリエチレングリコールの添加および遠心分離によりファージ粒子を沈殿させて、液相と分離させることにより、通常行われる。しかしながら、本発明者らは、還元剤処理と同時に、すなわち、還元剤の存在下で、システイン残基の修飾反応を行えることを見出し、きわめてシンプルな修飾反応法を確立した。 本発明で使用され得る還元剤の例としては、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)、ジチオスレイトール(DTT)、およびβ-メルカプトエタノール等が挙げられるが、TCEPが特に好ましい。例えばTCEPのようなトリアルキルホスフィンは、ハロ酢酸やそのアミド誘導体と反応してしまうことが報告されている。このため、一般的には、システイン残基の還元およびアルキル化は、二段階の独立した反応により行われる。しかしながら、本発明者らは、TCEPによる還元の後に精製を行うことなく、一段階で、すなわち、「ワンポット」で、還元およびアルキル化の反応ができることを見出した。 上記ワンポット反応における、還元剤の濃度は、特に限定されないが、好ましくは10〜2000μM、より好ましくは100〜1000μM、さらに好ましくは200〜800μM、最も好ましくは400〜600μMである。 本発明において、システイン残基のSH基と反応させる化合物であって、反応後に化学的修飾要素となる化合物(本明細書では、「修飾化合物」と呼ぶこともある)の種類は、SH基と反応し得る官能基(例えばハロアルキル、ハロアセトアミド、マレイミド、チオール、およびビニルスルホン等)を有する限り特に限定されず、使用者が修飾ペプチドを作製する目的に依存する。修飾化合物の例としては、発光物質、蛍光物質、色素、放射性物質、薬剤、毒素、酵素、抗体、核酸、アミノ酸、ペプチド、糖類、脂質、および各種ポリマー等、ならびに上記のものの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。最も好ましいのは、ハロアセトアミド基を有する化合物であり、例えばフルオロアセトアミド化合物、クロロアセトアミド化合物、ブロモアセトアミド化合物、またはヨードアセトアミド化合物である。 修飾化合物は、提示ペプチド内の2箇所以上の残基と結合して環状ペプチドを形成する、リンカー化合物であってもよい。リンカー化合物は、ペプチドの2つ以上の残基とそれぞれ反応する、2つ以上の官能基を有する。本発明において、上記2つ以上の官能基のうちの1つは、SH基と反応する基であるが、他の官能基は、SH基以外の構造(例えばアミノ基)と反応する基である態様も想定される。しかしながら、リンカー化合物の上記2つ以上の官能基は、いずれもSH基と反応する基である方が、ワンポット反応を確実に行うためには望ましい。リンカー化合物は、2つ以上のハロアセトアミド基を有する化合物であることが最も好ましい。リンカー化合物の例は、例えば特許文献2および非特許文献3に開示されている。 特に好ましい修飾化合物の例としては、以下の式で表されるものが挙げられる。ここで、Xはハロゲン原子を表す。また、Y1、Y2、Y3は、各々独立して、炭素数1〜5のアルキレン基を表す。 さらに好ましい修飾化合物の例としては、以下の式で表されるものが挙げられる。ここで、Xはハロゲン原子を表す。また、nは0〜5の整数、より好ましくは1〜3の整数を表す。 上記ワンポット反応における、修飾化合物の濃度は、特に限定されないが、好ましくは10〜2000μM、より好ましくは20〜1500μM、さらに好ましくは50〜1200μM、最も好ましくは50〜1000μMである。修飾化合物の濃度が1000μMを超えると、提示ペプチド以外のペプチド、特にgp10タンパク質の本体が修飾されやすくなる。しかしながら、むしろ意図的に、提示ペプチドとgp10本体との両方を修飾することを望む場合等、特定の態様においては、高濃度の修飾化合物を用いることも有用となり得る。ワンポット反応の反応液に含まれるファージ粒子の数は、特に限定されず、所望の反応効率に応じて変動させ得るが、好ましくは1×107〜1×1010 pfu/μl、より好ましくは5×107〜5×109 pfu/μl、さらに好ましくは1×108〜1×109 pfu/μl、最も好ましくは1×108〜2×108 pfu/μlである。 ワンポット反応のpHは、中性付近または弱塩基性であることが好ましく、例えば6〜10、より好ましくは6.5〜8.5、さらに好ましくは7〜8.5、最も好ましくは7〜8である。pHを調整するためにワンポット反応に含ませることができるバッファーは、当業者にはよく知られており、例えばリン酸バッファー、Trisバッファー、およびHEPESバッファー等が挙げられる。リン酸バッファーが最も好ましい。バッファーの適切な強度は、当業者が適宜決定することができる。ワンポット反応の反応液はさらに、NaCl、KCl等の塩を含むことが好ましい。好ましい塩濃度は、例えば0〜1000 mM、より好ましくは50〜800 mM、さらに好ましくは100〜600 mM、最も好ましくは150〜500 mMである。ワンポット反応の反応温度は、例えば1〜50℃、より好ましくは3〜37℃、さらに好ましくは3〜25℃、最も好ましくは3〜5℃である。50℃を超える温度は、ファージ粒子自体の崩壊を引き起こし得るので、好ましくない。ワンポット反応の反応時間は、特に限定されず、意図する反応効率等の要素に応じて変動させ得るが、例えば、数秒間、数分間、数時間、または数日間であり得る。 上述したように、本発明のワンポット反応では、ファージ、修飾化合物、および還元剤、ならびにその他の添加成分を、単一の反応液中に混合することによって反応が行われ、その反応液中で、化学的修飾要素と連結されたファージが生成する。従って、本発明の第一の態様である、提示ペプチドのシステイン残基が化学的修飾要素によって修飾されたT7ファージは、従来から知られたマルチステップ反応を使用しても作製できることは言うまでもないが、本明細書に記載されたワンポット反応で作製することが特に好ましい。ワンポット反応液中で生成した上記化学修飾ファージを、反応後に適宜精製することも可能である。ワンポット反応は、T7ファージ以外のファージ、さらには、ファージ以外の物質のSH基を反応させる場合にも応用し得る。 以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。実施例1[T7ファージライブラリーの作製] T7Select10-3bシステム(メルクミリポア社)を用い、マニュアルに従いながら、gp10のC末端に提示ペプチドが融合されたT7ファージライブラリーを作製した。その際、検出および解析を容易にするために、gp10と提示ペプチドとの間には、エンテロキナーゼ切断部位(DDDDK)の配列を有するFLAGタグを挿入した。提示ペプチドは、2つのシステイン残基およびそれらを囲むランダムな配列を有するようにデザインした(図1〜3の模式図を参照のこと)。手短に述べると、まず、以下の配列:5’- GGTGGAGGTGGCGACTACAAGGATGACGATGACAAGGGATCA(NNK)3TGC(NNK)7TGT(NNK)3TGAAAGCTTGGA-3’を有するオリゴヌクレオチドを合成した(Nはランダム化したヌクレオチド(すなわち「A、C、G、またはT」)を意味し、Kは「GまたはT」を意味する)。制限酵素EcoRIおよびHindIIIの認識配列をそれぞれ含む適切な2つのプライマーを用いたPCRによって、上記オリゴヌクレオチドから二本鎖DNAを増幅した。PCR産物を精製し、EcoRIおよびHindIIIで切断した。DNA断片をさらに精製し、T7Select10-3bベクターにライゲーションした。ライゲーション産物を、T7パッケージングエキストラクトを用いてパッケージングを行った後、大腸菌BLT5403細胞に感染させた。ランダムに選んだクローンのDNA配列をチェックすることにより、T7ライブラリーの品質を確認した。以下の実験では、特に断りがないかぎり、無作為に選んだ個々のファージクローンを使用した。[5-TMRIAによるT7ファージの化学修飾] T7ファージを化学修飾するために、以下の条件を用いた。T7ファージ粒子(約1.0 × 1011プラーク形成単位(pfu))を、700μLのリン酸緩衝食塩水(10 mM Na2HPO4および1.76 mM KH2PO4(pH 7.4)、387 mM NaCl、2.7 mM KCl)中で超音波処理することにより、よく懸濁させた。遠心分離処理をした後の上清を、化学修飾反応に用いた。修飾化合物のモデルとして、ハロアセトアミド類の蛍光物質であるテトラメチルローダミン-5-ヨードアセトアミド(5-TMRIA)(Molecular Probes社、カタログ番号T-6006)を使用した。上記上清を、最終濃度500 μMのTCEP(NaOHで中性とした)、および、最終濃度200μMの5-TMRIAと、4℃で混合した。この混合物を、4℃で3時間インキュベートした。 次に、最終濃度10 mMのヨードアセトアミドを加え、未反応のシステイン残基が、サンプルの熱変性処理の際に思いがけず5-TMRIAと反応してしまう可能性を排除するために、上記混合物を、暗所において、4℃でさらに1時間インキュベートした。ポリエチレングリコール6000および塩化ナトリウム(最終濃度はそれぞれ5%(w/v)および0.5 M)を加えて、T7ファージ粒子を沈殿させた。遠心分離後、沈殿を1×サンプルバッファー(62.5 mM トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン-HCl(pH 6.8)、10%グリセロール、2% SDS、5% 2-メルカプトエタノール、0.002%ブロモフェノールブルー) に懸濁させた。この懸濁液を95℃で5分間、熱変性処理し、その後SDS-PAGEで解析した。また、図1で示す通り、異なる濃度の5-TMRIAを用いて同様に実験を行った。[ゲル内蛍光イメージング解析およびウェスタンブロット解析] 10%または10〜20%勾配のSDSポリアクリルアミドゲル(和光純薬)を用いた電気泳動によって、上記ファージサンプル内のタンパク質を分離した。電気泳動後、検出用バンドパスフィルター(555 BP20)を備えたFMBIO III-SC01(日立製作所)を使用して、励起波長488 nmにおいて、ゲル内蛍光イメージング解析を行った。 ウェスタンブロット解析は以下のようにして行った。まず、ゲル内のタンパク質を、フッ化ポリビニリデン(PVDF)膜(バイオラッド社)に移した。このブロッティング膜を、マウス抗FLAGモノクローナル抗体(M2、シグマ社)とインキュベートし、その後、HRPコンジュゲートを有する抗マウスIgG二次抗体(セルシグナリングテクノロジー社)とインキュベートした。ブロッティング膜を、数回洗浄した後、ECL plus試薬(GEヘルスケア社)とインキュベートし、ChemiDoc XRS+(バイオラッド社)を使用して化学発光の検出を行った。[エンテロキナーゼによる、ペプチド融合gp10の部位特異的切断] ペプチド融合gp10の部位特異的切断は以下のようにして行った。まず、未変性のT7ファージを、0.1ユニットのリコンビナントエンテロキナーゼ(メルクミリポア社)の存在下または非存在下で、反応バッファー(20 mM トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン-HCl(pH 7.4)、50 mM NaCl、2 mM CaCl2)に懸濁し、37℃で16時間インキュベートした。4×サンプルバッファーを加えることによって反応を停止させた。[質量分析] 質量分析を行うために、まず、ゲルをrapid stain CBBキット(ナカライテスク社)で染色した。染色されたタンパク質のバンドを含むゲル片を、ゲル全体から切り出し、切り出したゲル片に対して以下の処理を行った。切り出したゲル片のタンパク質サンプルを、10 mMのDTTを用いて65℃で10分間、還元した後、15 mMのヨードアセトアミドによって、室温、暗所において60分間、アルキル化した。修飾トリプシン(プロメガ社)を使用して、37℃で一晩、消化処理を行った。消化ペプチドを、LCQ-Fleet質量分析計(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)に接続されたアジレント1100 HPLCシステム(アジレント・テクノロジー社)を使用して解析した。0.1%ギ酸を含むアセトニトリルの0〜50%勾配を使用して、300μL/分の流速で40分間かけてペプチドを分離し、溶出したペプチドを直接、質量分析計にスプレーした。質量分析装置は外部校正を行い、data-dependent modeで運用した。質量スペクトルは400-2000 m/zのレンジで取得を行った。イオン強度の高い多価イオンについて、イオントラップ内で衝突誘起解離(CID)を行い、フラグメントイオンを生成させた。CIDに用いるエネルギーは35%とした。データはXcaliburソフトウェア(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いて取得・解析を行った。[結果] ゲル内蛍光イメージング解析は、5-TMRIAが提示ペプチドに選択的に結合したことを示した(図1、図2)。5-TMRIAの濃度を高くすると、提示ペプチドの他にgp10タンパク質本体も5-TMRIAによって修飾されると見られた(図1)。しかしながら、提示ペプチドとgp10タンパク質以外の部分に対する修飾反応は、ほとんど検出されなかった。 図2 (a)では、システイン残基を含む提示ペプチド(GIWCFGAGPLGCRRG)と、含まない提示ペプチド(WSFAWVRRLGGVGL)とを用いた、蛍光イメージング解析の結果を比較している。この比較により、システイン残基を含む提示ペプチドに特異的に化学修飾が起こったことがわかる。また、FLAGタグに対する抗体を用いた検出(図2 (a)中段パネル)およびゲルの銀染色(図2 (a)下パネル)、ならびに、ゲルのCBB染色(図3)において、ペプチド融合gp10の大部分が分子量シフトを示していることから、この化学修飾の効率は非常に高いことがわかる。また、エンテロキナーゼ処理をして提示ペプチドをgp10から切り離したところ、ペプチド融合gp10タンパク質に相当する分子量(約45kD)において検出されていた蛍光バンドは完全に消失したことから(図2 (b))、融合タンパク質のうち提示ペプチドの部分が特異的に修飾されていたことがわかる。 さらに詳細な5-TMRIA修飾の定性を行うため、質量分析法による修飾ペプチドの構造決定を行った。CBB染色後に、ポリアクリルアミド内で蛍光を示していたバンドを切り出し、トリプシンによるタンパク質消化後、LC-ESI-IT質量分析計で解析を行った。テトラメチルローダミンに特有の500 nm以上の吸光がLCの23.6分で検出され(図4、左上パネル)、修飾ペプチドの理論値と一致するイオン(実測値:3価789.0;4価592.3。 理論値: 3価789.3;4価 592.2)がMSで同定された(図4、左下パネル)。タンデム質量分析(MS/MS)の結果、修飾された提示ペプチドに特有のフラグメントイオンが同定され(図4、右パネル)、デザインしたシステインにのみ特異的に5-TMRIAが導入されていることが示された。また、上記トリプシン消化ペプチドについてMascotデータベース検索を行った結果、多くのgp10由来ペプチドが同定され、修飾されたタンパク質は確かにgp10-ペプチド融合タンパク質であったことが確認された(データはここに示さない)。 次に、周りのアミノ酸配列に関係なく、デザインしたシステインに化学的修飾要素を導入できることを確認するために、複数のT7ファージクローンを用いて、上記と同様の修飾反応を行った。SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動後に蛍光イメージングで修飾を確認したところ、提示ペプチド中にシステインを含むクローンは、システインの周囲の配列に関わらず、いずれも5-TMRIAによって修飾されていた(図5 (a)、レーン1, 3-5, 7-8)。一方、提示ペプチドにシステインを含まないクローンは修飾されなかった(図5 (a)、レーン2, 6)。このことから、周囲のアミノ酸の配列に関わらず、システイン残基の化学修飾を行えることが明らかとなった。 最後に、個々のファージクローンではなく、T7ファージライブラリーそのものを用いて修飾反応を行った。上記同様、蛍光イメージングでは、gp10-ペプチド融合タンパク質の特異的修飾が検出された(図5 (b)上パネル)。抗FLAG抗体を用いたウェスタンブロット解析の結果、5-TMRIA修飾によりgp10-ペプチド融合タンパク質の高分子量側へのシフトが観察された(図5 (b)下パネル)。一方で、高分子量側へのシフトを示さないごく少量のバンドも存在していた(図5 (b)下パネル)。これは、ライブラリーの中にシステインを含まないペプチドを提示するT7ファージが少数含まれているためだと考えられる。結論として、本発明によって、T7ファージ上の提示ペプチドを特異的に化学修飾したファージライブラリーが作製された。実施例2[EBBによるT7ファージの化学修飾(提示ペプチドの人工環状化)] 修飾化合物として、以下の式で表されるリンカー化合物(EBBと呼ぶ)を使用した他は、実施例1と本質的に同様の化学修飾実験を行った。 400 mM塩化ナトリウムを含む中性のリン酸緩衝液(pH 7.4)中で、終濃度500μMのEBBを、500μMのTCEPとT7ファージと共に混和し、4℃で3時間反応させた。化学修飾後のT7ファージは、SDSサンプルバッファーに溶解し、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(ゲル濃度10%)でタンパク質の展開を行った。ゲルをCBB染色した後に、gp10-ペプチド融合タンパク質のバンドを切り出し、リシルエンドペプチダーゼによるタンパク質消化後、LC-ESI-IT質量分析計で解析を行った。EBB修飾ペプチドの理論値と一致するイオン(実測値:2価 967.9; 3価 645.9; 4価 484.7, 理論値: 2価 967.5; 3価 645.3; 4価 484.2)がMSで同定された(図6、上パネル)。タンデム質量分析(MS/MS)の結果、人工環状ペプチドに特有のフラグメントイオンが同定され(図6、下パネル)、システイン同士がEBBリンカーにより適切に架橋されていることが確認された。[EBB修飾したT7ファージライブラリーを用いた、Hsp90結合ペプチドのスクリーニング] EBB修飾したペプチドを提示するT7ファージおよびそのライブラリーの有用性の一例を示すため、抗がん剤の分子標的として着目されているHsp90(Heat Shock Protein 90)に結合する人工環状ペプチドのスクリーニングを行った。 スクリーニングには、X3CX7CX3(X:ランダムなアミノ酸、C:システイン)というペプチド配列を提示するT7ファージライブラリー(Sakamoto et al., 2009, J. Biol. Chem. 284, pp. 9986-9993)に、EBB修飾を組み合わせて用いた。また、標的とするHsp90は、大腸菌で発現させたヒトHsp90βタンパク質を、キット(Biotin Labeling Kit -NH2、Dojindo社)を用いてビオチン化したものを用いた。 ビオチン化Hsp90をストレプトアビジン磁気ビーズ(Dynabeads Streptavidin、VERITAS社)にあらかじめ結合させておき、スクリーニング自動化装置(Target Angler 8、多摩川精機)を用いて、ファージの結合および洗浄を行った。この時、EBBリンカーにより提示ペプチドを人工環状化した上記T7ファージ 2×1010 pfu分を、スクリーニングの対象となる初期ライブラリーとして用いた。洗浄後のHsp90-ファージ複合体は、磁気ビーズから溶出させることなく、大腸菌BLT5403株に感染させ、増幅・精製を行った。以上の操作をスクリーニングの第1ラウンドとした。第2ラウンド以降では、上記初期ライブラリーの代わりに、直前のラウンドで増幅・精製されたファージライブラリー試料をスクリーニング対象として用いて、同様の操作を行った。この操作を第6ラウンドまで繰り返し、Hsp90に結合するファージの濃縮を行った。 ELISA法(Enzyme-Linked Immunosorbent Assay)を用いて、スクリーニング過程におけるファージ濃縮の評価を行った。解析の結果、Hsp90に結合するEBB修飾ファージが濃縮されたこと、すなわち、Hsp90に結合する環状の提示ペプチドが選択されたことが明らかとなった(図7)。以上の例により、T7ファージが提示するペプチドを人工官能基化する本発明の技術の有用性の一例が示された。実施例3[化学修飾したT7ファージの大腸菌感染能] ファージへの化学修飾を行う際の関心事の一つが、化学修飾に伴うファージの大腸菌感染能の低下である。T7ファージへの化学修飾が、大腸菌感染能へ影響を与えるか否かを調べるため、次のように試験した。6×1010 pfuのT7ファージを、400 mM塩化ナトリウムを含む中性のリン酸緩衝液(pH 7.4)に溶解し、終濃度500μMのTCEPを加えた。さらに、超純水、終濃度150μMの5-TMRIA、あるいは終濃度500μMのEBBを加えた後に、4℃で3時間反応させた。その後、PEG沈殿によりバッファーをリン酸緩衝液(pH 7.4)に置換した。ファージを含む溶液を段階希釈し、プラークアッセイに供したところ、化学修飾の有り無しで大腸菌感染能の差異は認められなかった(図8)。これは、化学修飾を行ったT7キャプシドが大腸菌の感染に関与しないためであると考えられる。 発明者らは、T7ファージ上の提示ペプチドのシステイン残基を特異的に、ワンステップで化学修飾する手法を確立した。ハロアセトアミド誘導体など様々な修飾化合物は容易に購入可能であり、また、ユーザー自身によって容易に有機合成され得る。本発明によるT7ファージ提示ペプチドの化学修飾は、酵素学的な修飾と比べても遜色のない特異性を持っている。本発明は、修飾ペプチドに基づく新規薬剤開発のためのスクリーニングにおいて特に有用である。 遺伝子操作によってキャプシドタンパク質gp10のC末端に導入された、少なくとも1つのシステイン残基を含むペプチドと、 該システイン残基の硫黄原子を介して連結された化学的修飾要素と、 を有するT7ファージ。 前記化学的修飾要素が、下記式(1)または式(2): −CHR1C(=O)− (1) −R2−SO2− (2)(R1は水素原子またはメチレン基であり、R2は炭素数1〜5のアルキレン基である)で表される構造を含む、少なくとも1つの連結部を有し、式(1)のカルボニル基のα炭素で、または、式(2)のR2で、前記硫黄原子に連結されている、請求項1記載のT7ファージ。 前記式(1)中のカルボニル基の炭素原子が窒素原子に結合されている、請求項2記載のT7ファージ。 前記化学的修飾要素が、前記ペプチド中の、前記システイン残基とは別の位置にある残基にも連結されている、請求項1〜3のいずれかに記載のT7ファージ。 前記別の位置にある残基が、システイン残基である、請求項4に記載のT7ファージ。 前記化学的修飾要素が、以下の式で表される構造を有し、ここで、星印(*)は前記システイン残基由来の硫黄原子を表し、nは0〜5の整数を表す、請求項5に記載のT7ファージ。 ファージの表面に提示された少なくとも1つのシステイン残基を含むペプチドを化学的に修飾する方法であって、(a)前記ファージ、および(b)ハロアセトアミド化合物を還元剤の存在下で反応させる工程を含む方法。 前記還元剤がトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩である、請求項7に記載の方法。 前記ハロアセトアミド化合物が、以下の式で表される構造を有し、ここで、Xはハロゲン原子を表し、nは0〜5の整数を表す、請求項7または8に記載の方法。 【課題】提示ペプチドのシステイン残基が特異的に化学修飾されているファージを提供する。【解決手段】T7ファージを、還元剤の存在下で、修飾化合物と反応させることにより、提示ペプチド中のシステイン残基を特異的に修飾する。【選択図】なし


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