生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_クマル酸の製造方法
出願番号:2012277461
年次:2014
IPC分類:C12N 1/21,C12N 1/15,C12N 1/19,C12N 5/10,C12P 7/42,C12N 15/09,C12R 1/01


特許情報キャッシュ

近藤 昭彦 荻野 千秋 岡井 直子 野田 修平 三好 孝則 JP 2014117272 公開特許公報(A) 20140630 2012277461 20121219 クマル酸の製造方法 国立大学法人神戸大学 504150450 帝人株式会社 000003001 進藤 卓也 100163647 近藤 昭彦 荻野 千秋 岡井 直子 野田 修平 三好 孝則 C12N 1/21 20060101AFI20140603BHJP C12N 1/15 20060101ALI20140603BHJP C12N 1/19 20060101ALI20140603BHJP C12N 5/10 20060101ALI20140603BHJP C12P 7/42 20060101ALI20140603BHJP C12N 15/09 20060101ALN20140603BHJP C12R 1/01 20060101ALN20140603BHJP JPC12N1/21C12N1/15C12N1/19C12N5/00 101C12P7/42C12N15/00 AC12P7/42C12R1:01 10 OL 17 4B024 4B064 4B065 4B024AA03 4B024BA07 4B024BA80 4B024CA02 4B024DA05 4B024DA08 4B024EA04 4B064AD41 4B064CA04 4B064CA19 4B064CC24 4B064DA01 4B064DA13 4B065AA01X 4B065AA01Y 4B065AB01 4B065AC14 4B065BA02 4B065CA10 4B065CA44 4B065CA46 本発明は、クマル酸の製造方法に関し、より詳細には、クマル酸産生形質転換微生物を用いてクマル酸を効率的に製造するための方法に関する。 クマル酸はリグノセルロースの構成成分である芳香族化合物である。クマル酸は、紫外部吸収剤、医薬品原料などに利用され得る。クマル酸はまた、有機−無機ハイブリッド高分子の原料として注目されている。クマル酸から合成されるポリマーは、高い耐熱性と強度を持つ軽量ポリマーとして、例えば、低燃費車などの構成部材への応用が期待されている。 従来のクマル酸の製造方法は主に石油を原料とした化学法によるものであった。これに対し、近年、赤色酵母Rhodotorula glutinis(ロドトルラ・グルチニス)(別名Rhodosporidium toruloides(ロドスポリジウム・トルロイデス))のフェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)の遺伝子が導入された形質転換大腸菌もしくは酵母(非特許文献1)、または上記遺伝子が導入されかつfcs遺伝子がノックアウトされたPseudomonas putida(シュードモナス・プチダ)S12(非特許文献2)が、グルコースを炭素源とする発酵によりクマル酸を生産することが報告されている。また、Rhodobacter sphaeroides(ロドバクター・スフェロイデス)に由来するチロシンアンモニアリアーゼ(TAL)の遺伝子が導入された形質転換大腸菌が報告されている(特許文献1)。しかしながら、クマル酸生産濃度や炭素収率をさらに高める技術が望まれている。特表2006−501819号公報T. Vannelliら,Metabolic. Engineering.,2007年,第9巻,142-151頁K. Nijkampら,Appl. Microbiol. Biotechnol.,2007年,第74巻,pp. 617-624頁 本発明の目的は、石油を原料とした化学法によらず、クマル酸生産濃度や炭素収率を向上させた形質転換微生物を用いてクマル酸を製造する方法、および該方法に用いるクマル酸産生形質転換微生物を提供することである。 本発明者らは、上記課題を解決するために、チロシンアンモニアリアーゼ(TAL)の遺伝子を微生物に導入して得られるクマル酸産生形質転換微生物を用いることによって、グルコースを炭素源としてクマル酸を効率よく発酵生産できることを見出し、本発明を完成させた。 本発明は、クマル酸産生形質転換微生物を提供し、該形質転換微生物は、チロシンアンモニアリアーゼ(TAL)をコードする遺伝子を微生物に導入して得られる。 1つの実施態様では、上記TAL遺伝子は、Rhodobacter(ロドバクター)属に由来する遺伝子である。さらなる実施態様では、上記TAL遺伝子は、Rhodobacter sphaeroides(ロドバクター・スフェロイデス)に由来する遺伝子である。 1つの実施態様では、上記形質転換微生物は、上記微生物にセルラーゼをコードする遺伝子をさらに導入して得られる。 1つの実施態様では、上記セルラーゼは、エンドグルカナーゼ、セロビオヒドロラーゼおよびβ−グルコシダーゼからなる群より選択される少なくとも1種である。 1つの実施態様では、上記微生物は放線菌である。 1つの実施態様では、上記セルラーゼをコードする遺伝子は、Thermobifida fusca(サーモビヒダ・フスカ)に由来するエンドグルカナーゼ遺伝子である。 本発明はまた、クマル酸の製造方法を提供し、該方法は、上記形質転換微生物を、炭素源を含む培地で培養する工程を含む。 1つの実施態様では、上記炭素源は、グルコース、グリセロール、スクロース、マルトース、デンプン、キシロース、セロビオース、セルロース、およびそれらの1種以上の組み合わせからなる群から選択される。 本発明はさらに、上記形質転換微生物を使用する方法であって、該使用方法は、該形質転換微生物を、炭素源を含む培地で培養してクマル酸を得る工程を含む。 本発明によれば、石油を利用する化学法によらず、効率よくクマル酸を製造することができる。本発明においては、バイオマスを利用することができるので、従来の化学法などと比較して、環境負荷を著しく低下することができる。各種エンドグルカナーゼ遺伝子を導入した形質転換ストレプトマイセス・リビダンスの培養上清をウェスタンブロッティングにより分析した結果を示す電気泳動写真である。サーモビヒダ・フスカYX株由来Tfu0901を導入した形質転換ストレプトマイセス・リビダンスおよびストレプトマイセス・リビダンス1326株由来celBを導入した形質転換ストレプトマイセス・リビダンスの培養上清中のエンドグルカナーゼ活性(U/L)をジニトロサリチル酸(DNS)法により経時的に測定した結果を示すグラフである。形質転換放線菌ストレプトマイセス・リビダンスS.lividans Tfu0901+およびS.lividans celB+、ならびに放線菌ストレプトマイセス・リビダンス野生株を培養した発酵における培養上清中のエンドグルカナーゼ活性(U/L)の経時変化を示すグラフである。形質転換放線菌ストレプトマイセス・リビダンスS.lividans Tfu0901+(pUC702-RsTAL)を、炭素源として1%(w/v)グルコース、1%(w/v)セロビオースまたは1%(w/v)リン酸膨潤セルロース(PASC)のいずれかを添加したTSB培地で培養した発酵における培養上清中のクマル酸濃度(mg/L)の経時変化を示すグラフである。形質転換放線菌ストレプトマイセス・リビダンスS.lividans Tfu0901+(pUC702-RsTAL)を、炭素源として1%(w/v)グルコースおよび窒素源として5%(w/v)トリプトン、5%(w/v)硫酸アンモニウムまたは5%(w/v)硝酸アンモニウムのいずれかを添加したTSB培地で培養した発酵における培養上清中のクマル酸濃度(mg/L)の経時変化を示すグラフである。形質転換放線菌ストレプトマイセス・リビダンスS.lividans Tfu0901+(pUC702-RsTAL)を、炭素源として1%(w/v)グルコースおよび窒素源として1%(w/v)、3%(w/v)、または5%(w/v)トリプトンのいずれかを添加したTSB培地で培養した発酵における培養上清中のクマル酸濃度(mg/L)の経時変化を示すグラフである。形質転換放線菌ストレプトマイセス・マリチマスを、5%(w/v)トリプトン(窒素源)および炭素源として3%(w/v)グルコースを添加したTSB培地で培養した発酵における培養上清中のクマル酸濃度(mg/L)の経時変化を示すグラフである。形質転換放線菌ストレプトマイセス・リビダンスS.lividans(pUC702-RsTAL)およびS.lividans(pUC702)を、炭素源として50g/Lグルコースを添加したTSB培地で培養した発酵における培養上清中のクマル酸濃度(mg/L)の経時変化を示すグラフである。形質転換放線菌ストレプトマイセス・リビダンスS.lividans(pUC702-Rsp3574)およびS.lividans(pUC702)を、炭素源として50g/Lグルコースを添加したTSB培地で培養した発酵における培養8日後の培養上清中のクマル酸濃度(mg/L)を示すグラフである。 (クマル酸産生形質転換微生物) 本発明のクマル酸産生形質転換微生物は、チロシンアンモニアリアーゼ(TAL)をコードする遺伝子を微生物に導入して得られる。 「クマル酸」は、ケイ皮酸に水酸基がついた構造を持つ有機化合物であり、ヒドロキシ経皮酸(HCA)とも呼ばれる。フェニル基の水酸基の位置により、o−クマル酸、m−クマル酸、p−クマル酸がある。本明細書中では、特にp−クマル酸(パラヒドロキシ桂皮酸(pHCA))をいう。 「チロシンアンモニアリアーゼ(TAL)」とは、チロシンからクマル酸の生成を触媒する酵素をいう。本発明における「TAL」は、炭素源(下記)からのクマル酸の生成を触媒する限り、チロシン以外のアミノ酸(例えば、フェニルアラニン、ヒスチジン)を基質とする触媒作用を有していてもよく、例えば、フェニルアラニンから桂皮酸を生成する触媒する活性を有していてもよい。TALをコードする遺伝子は、細菌、酵母、植物などのいずれに由来する遺伝子であってもよく、例えば、Rhodobacter sphaeroides(ロドバクター・スフェロイデス)ATCC17029由来遺伝子Rsph17029_3256(「RsTAL」とも呼ばれる;遺伝子登録番号NCBI−Gene ID:4899183);Rhodobacter sphaeroides 2.4.1(NBRC12203)由来遺伝子RSP_3574(hutH)(遺伝子登録番号NCBI−Gene ID:3722088);Rhodobacter sphaeroides KD131由来遺伝子RSKD131_3741(遺伝子登録番号NCBI−Gene ID:7353737)、Halorhodospira halophila(ハロロドスピラ・ハロフィラ)由来遺伝子Hhal_1820(遺伝子登録番号NCBI−Gene ID:4711043)、Actinosynnema mirum(アクチノシンネミア・ミルム)由来遺伝子Amir_4353(遺伝子登録番号NCBI−Gene ID:8328550)、Salinibacter ruber(サリニバクター・ルバー)DSM 13855由来遺伝子SRU_0717(遺伝子登録番号NCBI−Gene ID:3853153)などが挙げられる。例えば、Rsph17029_3256の塩基配列は配列番号1に示され、該遺伝子によりコードされたアミノ酸配列は配列番号2に示される。TALをコードする遺伝子は、PCRまたはハイブリダイゼーションなどの常法によって調製され得る。PCRまたはハイブリダイゼーションに用い得るプライマーまたはプローブは、その遺伝子の配列情報に基づいて調製し得る。例えば、RsTALをコードする遺伝子は、ロドバクター・スフェロイデス(ATCC17029)のゲノムDNAを鋳型として、この遺伝子の塩基配列情報(例えば、配列番号1の塩基配列)に基づいて設計され得るプライマー対(例えば、配列番号19および20)を用いるPCRによって調製され得る。 微生物としては、特に限定されず、例えば、大腸菌、放線菌、乳酸菌、酵母、および真菌が挙げられる。好ましくは、放線菌である。放線菌としては、特に限定されず、例えば、Streptomyces lividans(ストレプトマイセス・リビダンス)、S. maritimus(ストレプトマイセス・マリチマス)、S. coelicolor(ストレプトマイセス・セリカラー)、S. violaceoruber(ストレプトマイセス・バイオラセオルバー)、S. avermitilis(ストレプトマイセス・アベルミチリス)、およびS. griseus(ストレプトマイセス・グリセウス)が挙げられる。微生物は、例えば、微生物寄託分譲機関から分譲を受けることによって入手され得る。 クマル酸産生形質転換微生物は、セルラーゼをコードする遺伝子がさらに導入されてもよい。セルラーゼをコードする遺伝子は、細菌、酵母、植物などのいずれに由来する遺伝子であってもよい。セルラーゼとしては、特に限定されず、例えば、エンドグルカナーゼ(EG)、セロビオヒドロラーゼ、β−グルコシダーゼまたはこれらの組み合わせが挙げられる。好ましくは、エンドグルカナーゼ(EG)である。放線菌宿主の場合、エンドグルカナーゼとしては、好ましくは中度高熱性放線菌Thermobifida fusca(サーモビヒダ・フスカ)に由来するEGまたはストレプトマイセス・リビダンスに由来するEGであり、より好ましくはサーモビヒダ・フスカYX株由来Tfu0901(Nodaら,Microbial. Cell. Factories.,2012年,11巻,:49)またはストレプトマイセス・リビダンス1326株celB(GeneBank;U04629.1)であり、よりさらに好ましくはTfu0901である。 遺伝子を用いて遺伝子発現カセットを構築し得る。遺伝子発現カセットは、その遺伝子の発現を調節するプロモーター、ターミネーター、オペレーター、エンハンサーなどのいわゆる調節因子を含み得る。調節因子は、発現させる遺伝子自身のものであっても、他の遺伝子由来のものであってもよく、当業者によって適宜選択され得る。例えば、プロモーターとしては高発現型プロモーターが好ましく、例えば、ホスホリパーゼD(PLD)プロモーター(特に、Streptoverticillium cinnamoneum(ストレプトベティシリウム・シナモネウム)由来のPLDプロモーター:Oginoら,Appl. Microbiol. Biotechnol.,2004年,64(6)巻,823-828頁)が挙げられる。発現カセットは、遺伝子発現の目的に応じて、必要な機能配列(例えば、シャイン・ダルガルノ配列(SD配列))をさらに含むこともできる。発現カセットは、必要に応じてリンカーも含み得る。 各種塩基配列を含むDNAの合成および連結は、当業者が通常用い得る手法で行われ得る。 遺伝子または該遺伝子を含む発現カセットは、プラスミドの形態のベクターに挿入され得る。必要に応じて、ベクターは、上述したような調節配列を含み得る。ベクターはまた、適切な薬剤耐性遺伝子または代謝酵素などの選択用マーカー遺伝子を含むことが好ましい。選択用マーカー遺伝子としては、チオストレプトン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子などが挙げられ、これらはいずれも当業者には周知である。放線菌と大腸菌とのシャトルベクターが用いられ得、例えば、放線菌および大腸菌の複製開始点および選択マーカーなどを有し得る。接合型放線菌プラスミドもまた用いられ得る。プラスミドベクターの例として、pUC702(Oginoら,Appl. Microbiol. Biotechnol.,2004年,64(6)巻,823-828頁)、pTONA4(特開2009−153516号公報)、pTYM18(HIROYASU ONAKAら、THE JOURNAL OF ANTIBIOTIC,2003年,第56巻,第11号,950-956頁)を含む。1つの実施態様では、ベクターは、高発現型プロモーター、例えば、PLDプロモーターを含むように構築され得る。 本明細書で遺伝子の「導入」とは、細胞の中に遺伝子またはDNAを導入するだけでなく、発現させることも意味する。「形質転換」は、細胞の中に遺伝子またはDNAを導入して発現させることにより宿主の遺伝的形質を変えること、またはその操作をいう。遺伝子またはDNAの導入、または形質転換のための方法は、形質転換を行う宿主微生物に応じて適宜選択され、当業者が通常用いる手法が用いられ得る。放線菌に関しては、プロトプラスト融合法、接合伝達法などが用いられ得る。 微生物にTALをコードする遺伝子が導入され、形質転換されたかどうかは、選択マーカーによる選択に加え、例えばチロシンからのまたはグルコースからのクマル酸の生産を例えばHPLCによって調べることによって確認することができる。微生物にセルラーゼをコードする遺伝子が導入され、形質転換されたかどうかもまた、選択マーカーによる選択に加え、例えば導入した酵素の活性を当業者が周知の方法に基づいて調べることによって確認することができる。 (クマル酸の製造方法およびクマル酸産生形質転換微生物の使用方法) 本発明においては、クマル酸が、上記クマル酸産生形質転換微生物を、炭素源を含む培地で培養することによって得られる。クマル酸製造のための培地としては、製造されたクマル酸の回収、分離および精製が容易であるため、液体培地が好ましい。炭素源としては、クマル酸産生形質転換微生物が資化可能な任意の糖が用いられ得、特に限定されないが、例えば、グルコース、グリセロール、スクロース、マルトース、デンプン、キシロース、セロビオース、セルロース、およびそれらの1種以上の組み合わせなどが挙げられる。1つの実施態様では、環境負荷の少ない製造方法、製造コストの抑制の観点から、セルロースが用いられ得る。セルロースとは、リン酸膨潤セルロース(PASC)などの誘導体も包含する。炭素源を含む培地はさらに窒素源を含んでいてもよい。窒素源としては、特に限定されず、例えば、アンモニウム塩、硝酸塩(例えば、硝酸アンモニウム)、硫酸塩(例えば、硫酸アンモニウム)、尿素などの無機窒素源、およびアミノ酸、ペプトン、トリプトンなどの有機窒素源が挙げられる。用いる培地の種類および培養条件、培地中の炭素源および窒素源の種類および量は、用いるクマル酸産生形質転換微生物の種類に応じて適宜選択され得る。 クマル酸産生形質転換微生物は、上記培養工程の前に、予め培養して細胞数を増大させてもよい。前培養の培地および培養条件は、用いるクマル酸産生形質転換微生物の種類に応じて適宜選択され得る。 本発明のクマル酸の製造方法について、以下、クマル酸産生形質転換微生物が放線菌である場合を例に挙げて説明するが、これに限定されない。 上記培養工程に先立って行われ得る前培養では、クマル酸産生形質転換微生物が放線菌である場合、例えば、放線菌の培養で通常用いられる培地(例えば、トリプケースソイブイヨン(TSB培地、Becton, Dickinson and Co.,より市販され得る)が用いられ得る。培地には、形質転換放線菌の選択のため、選択マーカーの薬剤または抗生物質(例えば、チオストレプトン、カナマイシン)が添加され得る。培養温度(例えば20〜28℃)、培養時間(例えば24〜72時間)、培地のpH(例えば6〜7)などは、適宜設定され得る。 クマル酸製造のための本培養では、クマル酸産生形質転換微生物が放線菌である場合、放線菌の培養のために通常用いられる培地に炭素源および必要に応じて窒素源を添加した培地が用いられ得る。例えば、上述のトリプケースソイブイヨン(TSB培地)は培地成分としてグルコースおよびトリプトンを含有するが、TSB培地にさらに炭素源(上述)を添加してもよく、または炭素源に加えて窒素源(上記)をさらに添加してもよい。培地中の炭素源は、例えば10〜100g/L(または1〜10%(w/v))、好ましくは10〜50g/L(または1〜5%(w/v))であり得る。窒素源は、培地中に、例えば5〜50g/L(または0.5〜5%(w/v))、好ましくは10〜50g/L(または1〜5%(w/v))で含有され得る。本培養の培地にも、形質転換放線菌の選択のため、選択マーカーの薬剤または抗生物質(例えば、チオストレプトン、カナマイシン)が添加され得る。本培養の培養条件は、放線菌(例えば、ストレプトマイセス属)が良好に増殖し、クマル酸が生産される限り限定されない。本培養の培養温度は、例えば20〜28℃、好ましくは28℃である。本培養の培養期間は、3日以上であり得、好ましくは、3〜10日間、より好ましくは6〜8日間である。培地のpHは、例えば5〜8、好ましくは6〜7である。クマル酸産生形質転換放線菌は、好気条件下で好適に培養され得る。 クマル酸産生形質転換微生物は、炭素源を含む培地で培養することによって、クマル酸を産生する。産生されるクマル酸の量は、培地中の炭素源の種類および量、ならびに培養条件などによって変動し得るが、その培養上清中の濃度にて、例えば、60mg/L以上、好ましくは80mg/L以上、より好ましくは、100mg/L以上、さらに好ましくは300mg/L以上、さらにより好ましくは500mg/L以上でクマル酸が産生され得る。炭素収率は炭素原の種類または量に応じて変動し得るが、クマル酸産生形質転換微生物は、炭素収率において、例えば5Cmol%以上、好ましくは10Cmol%以上でクマル酸を産生し得る。 製造されたクマル酸の回収、分離および精製は常法に従って行われ得る。例えば、培養液から遠心分離によって菌体を除去して得られた培養上清をそのまままたは濃縮してクマル酸として使用してもよく、またはさらに純度の高いクマル酸を得るために各種クロマトグラフィーなどの公知の精製手段に供してもよい。 以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。 大腸菌からのプラスミド調製を含め、遺伝子操作技術全般はMolecular Cloning A Laboratory Manual 2nd Edition (1989)に従った。PCR全般にはKOD FX DNA polymerase(東洋紡株式会社製)を使用し、目的DNAのゲルからの切り出し、抽出および精製にはWizard SV Gel Extraction Kit(Promega社製)を使用した。入手先を特に記載していない材料としては、当業者が通常入手可能なものを使用し得る。 (実施例1) (1−1:各種EGの活性評価) 以下の表1に示すように、各種生物から各種EG遺伝子を、対応するプライマー対を用いてPCR法により単離し、得られた各EG遺伝子を、対応する制限酵素を用いてプラスミドベクターpUC702-universal(Ogino Cら、Appl. Microbiol. Biotechnol.、2004年、第64巻、第6号、pp. 823-828:ストレプトベティシリウム・シナモネウムのゲノムから得られたPLD遺伝子周辺のプロモーター領域、シグナル領域、ターミネーター領域をpUC702へ組込んだプラスミド)に挿入した。 このようにして、中度高熱性放線菌Thermobifida fusca(サーモビヒダ・フスカ)YX株由来Tfu0901遺伝子、同Tfu1074遺伝子、同Tfu2130遺伝子、および同Tfu2712遺伝子、ならびにストレプトマイセス・リビダンス1326株由来celB遺伝子を発現させ、各遺伝子がコードするEGを分泌させるための遺伝子導入プラスミドベクターpUC702-Tfu0901、pUC702-Tfu1074、pUC702-sTfu2130、pUC702-Tfu2130、pUC702-Tfu2712、およびpUC702-celBをそれぞれ構築した。 上記プラスミドベクターを放線菌ストレプトマイセス・リビダンス1326株(NBRC 15675)に導入して形質転換を行った。形質転換体は、ベクターが保有する選択マーカーに対応する薬剤チオストレプトン(5μg/ml)を培地に含有させた選択培養によって取得した。放線菌の培養および形質転換体の取得(プロトプラスト融合法)は特開2011−223981号公報に記載と同様の方法により行った。 上記各プラスミドベクターを導入して得られた各放線菌形質転換体を、5%トリプトンおよび5μg/mLチオストレプトンを添加したTSB培地(以下、用いたTSB培地の組成は以下のとおりである:Bacto Tryptone 17g/L;Bacto Soytone 3g/L;Bacto Dextrose 2.5g/L)5mLを用いて3日間前培養した後、同培地100mLを用いて28℃および200rpmの条件下にて5日間本培養し、毎日培養上清2mLを回収した。本培養の4日目に回収した培養上清をウェスタンブロッティングにより分析した結果を図1に示す。なお、抗体は、Promega社製、primary rabbit anti-(His)6(1次抗体)およびPromega社製、secondary goat anti-rabbit immunoglobulin G alkaline-phosphatase-conjugated antibodies(2次抗体)を用いた。 図1は、各種エンドグルカナーゼ遺伝子を導入した形質転換ストレプトマイセス・リビダンスの培養上清をウェスタンブロッティングにより分析した結果を示す電気泳動写真である。図1より明らかなように、サーモビヒダ・フスカYX株由来Tfu0901(46kDa)、同Tfu1074(42kDa)、同Tfu2712(68kDa)およびストレプトマイセス・リビダンス1326株由来celB(36kDa)については、所定の分子量を示す位置にバンドを確認し、それぞれのEGの分泌生産を確認した。 次いで、培養上清中のEG活性をジニトロサリチル酸(DNS)法により経時的に測定した。その結果を図2に示す。なお、DNS法によるEG活性の測定は、以下のように実施した。まず、1%カルボキシメチルセルロース(CMC)溶液650μLにTris-HCl緩衝液(pH7.0)50μLを加え、次いで酵素サンプル300μLを加え、50℃にて1時間インキュベートした。次いで、氷上で冷却し、反応を停止させた後、反応液100μLとDNS試薬150μLを加え混合し、100℃にて5分間インキュベートした後、直ちに氷上で冷却した。次いで、冷却後、625μLの蒸留水を用いて希釈し、540nmの吸光度を測定した。ブランクとして、同酵素サンプル300μLを100℃にて5分間インキュベートして失活させ、その後にCMC溶液650μL、Tris-HCl緩衝液(pH7.0)50μL加えたものを用いた。検量線の作成には、基質としてD−グルコースを異なる5つの濃度で希釈した溶液を用いた。 図2は、サーモビヒダ・フスカYX株由来Tfu0901およびストレプトマイセス・リビダンス1326株由来celBを導入した形質転換ストレプトマイセス・リビダンスの培養上清中のエンドグルカナーゼ活性(U/L)をジニトロサリチル酸(DNS)法により経時的に測定した結果を示すグラフである。図2より明らかなように、サーモビヒダ・フスカYX株由来Tfu0901およびストレプトマイセス・リビダンス1326株由来celBは、それぞれ900U/L、700U/Lという高いEG活性を示した。 (1−2:クマル酸産生形質転換放線菌の作出) 放線菌ストレプトマイセス・リビダンスを形質転換するために用いるプラスミドベクターとして、以下の表2に示すように、EG遺伝子発現用ベクターpTYM18-Tfu0901およびTAL遺伝子発現用ベクターpUC702-RsTALを構築した。 EG遺伝子発現用ベクターpTYM18-Tfu0901の構築の手順は以下のとおりである。サーモビヒダ・フスカYX株由来のEG遺伝子Tfu0901を放線菌のゲノムに組み込むために、プラスミドベクターpUC702-Tfu0901を鋳型として、配列番号15(フォワード)および配列番号16(リバース)からなるプライマー対を用いたPCRによって5’末端側にNheI部位および3’末端側にBamHIを付加したTfu0901遺伝子断片を取得し、次いでこの遺伝子断片をゲノム組み込み用プラスミドベクターpTYM18-universal(ストレプトベティシリウム・シナモネウムのゲノムから得られたPLD遺伝子周辺のプロモーター領域、シグナル領域、ターミネーター領域をpTYM18(HIROYASU ONAKAら、THE JOURNAL OF ANTIBIOTIC,2003年,第56巻,第11号,950-956頁)へ組込んだプラスミド)に、制限酵素NheIおよびBglIIを用いて挿入した。このようにして、サーモビヒダ・フスカYX株由来Tfu0901遺伝子をゲノムに組み込み、ゲノムから発現させ、これらの遺伝子がコードするEGを分泌させるためのプラスミドベクターpTYM18-Tfu0901を構築した。 ストレプトマイセス・リビダンス由来のEG遺伝子celBを放線菌のゲノムに組み込むために、プラスミドベクターpUC702-celBを鋳型として、配列番号17(フォワード)および配列番号18(リバース)からなるプライマー対を用いたPCRによって5’末端側にNheI部位および3’末端側にBamHIを付加したcelB遺伝子断片を取得したこと以外は同様にしてpTYM18-celBを構築した。 上記構築したpTYM18-Tfu0901およびpTYM18-celBを接合伝達法(Plactical Streptomyces Genetics(The John Innes Foundation, 2000)に従う)により放線菌ストレプトマイセス・リビダンス1326株に導入して形質転換を行った。形質転換体は、ベクターが保有する選択マーカーに対応する薬剤カナマイシン(50μg/mL)を培地に含有させた選択培養によって取得した。pTYM18-Tfu0901およびpTYM18-celBの導入により得られたそれぞれの形質転換放線菌ストレプトマイセス・リビダンスS.lividans Tfu0901+およびS.lividans celB+について、5%(w/v)トリプトンおよび5μg/mLチオストレプトンを含有するTSB培地5mLを用いて3日間前培養した後、同培地100mLを用いて28℃および200rpmの条件下にて5日間本培養し、毎日培養上清2mLを回収した。培養上清中のエンドグルカナーゼ活性を上記と同様にして経時的に測定した。その結果を図3に示す。 図3は、形質転換放線菌ストレプトマイセス・リビダンスS.lividans Tfu0901+およびS.lividans celB+、ならびに放線菌ストレプトマイセス・リビダンス野生株を培養した発酵における培養上清中のエンドグルカナーゼ活性(U/L)の経時変化を示すグラフである。図3より明らかなように、野生株ではほとんどEG活性を確認することができなかったが、形質転換放線菌ストレプトマイセス・リビダンスS.lividans Tfu0901+およびS.lividans celB+では、それぞれ最大616U/Lおよび289U/LのEG活性を示した。 一方、TAL遺伝子発現用プラスミドベクターを構築するために、光合成細菌ロドバクター・スフェロイデス(ATCC17029)由来のゲノムDNAから、配列番号19(フォワード)および配列番号20(リバース)からなるプライマー対を用いてPCR法により、Rsph17029_3256の遺伝子(これを「RsTAL」ともいう)を単離した(NCBI−Gene ID:4899183;本遺伝子の塩基配列およびコードされたアミノ酸配列はそれぞれ配列番号1および2に記載のとおりである)。次いで、単離したRsTAL遺伝子を、In-Fusion HD Cloning Kit(Clontech Laboratories社製)を用いてプラスミドベクターpUC702に挿入し、pUC702-RsTALを構築した。 次いで、上記形質転換放線菌ストレプトマイセス・リビダンスS.lividans Tfu0901+に、上記構築したTAL遺伝子発現用プラスミドベクターpUC702-RsTALを導入して形質転換を行った。形質転換には、プロトプラスト融合法を用いた。形質転換体は、ベクターが保有する選択マーカーに対応する薬剤チオストレプトン(5μg/mL)を培地に含有させた選択培養によって取得した。 (1−3:形質転換放線菌ストレプトマイセス・リビダンスによるクマル酸の発酵生産) 形質転換放線菌ストレプトマイセス・リビダンスS.lividans Tfu0901+(pUC702-RsTAL)を、5%(w/v)トリプトン(窒素源)および5μg/mLチオストレプトンを添加したTSB培地5mLを用いて3日間前培養した後、同培地100mLを用いて28℃および200rpmの条件下にて5日間本培養し、毎日培養上清2mLを回収した。本培養では、炭素源として、1%(w/v)グルコース、1%(w/v)セロビオースまたは1%(w/v)リン酸膨潤セルロース(PASC)のいずれかを添加した。リン酸膨潤セルロース(PASC)は、Avicel(Fluka社製)10gにリン酸(ナカライテスク株式会社製)525mLを加えて一晩膨潤させ、2000mLの水を徐々に添加したのち炭酸ナトリウム(ナカライテスク株式会社製)を加えてpH6に中和し、水で洗浄を繰り返して中性としたものを用いた。培養上清中のクマル酸濃度をHPLC分析により経時的に定量した。その結果を図4に示す。 なお、HPLC分析では、COSMOSIL Choresterカラム(4.6mm(I.D.)×250mm、ナカライテスク製)を用いたHPLCシステムProminence(株式会社島津製作所製)により、移動相A;リン酸ナトリウムバッファー(pH2.0)および移動相B:アセトニトリルを用いて、0〜8.5分;移動相A:移動相B=80:20、8.5〜12分:移動相B 20%から50%の直線濃度勾配、12〜17分;移動相A:移動相B=50:50により、カラム温度30℃および流速1.2mL/分でクマル酸を分離し、紫外部吸光検出系SPD-20A(株式会社島津製作所製)によりUV254nmの測定にて定量した。 図4は、形質転換放線菌ストレプトマイセス・リビダンスS.lividans Tfu0901+(pUC702-RsTAL)を、5%(w/v)トリプトン(窒素源)および炭素源として1%(w/v)グルコース、1%(w/v)セロビオースまたは1%(w/v)リン酸膨潤セルロース(PASC)のいずれかを添加したTSB培地で培養した発酵における培養上清中のクマル酸濃度(mg/L)の経時変化を示すグラフである。図4より明らかなように、約1週間の発酵により、いずれの炭素源を用いても、600mg/Lを超える濃度でクマル酸が培養上清に蓄積した。また、PASCを炭素源として用いても、500mg/Lを超える濃度でクマル酸が培養上清に蓄積した。培養上清中のクマル酸濃度と炭素収率をまとめたので、以下の表3に示す。なお、PASCは分子量が不明であるため、炭素収率を示していない。 表3より明らかなように、いずれの炭素源を用いても、500mg/Lを超える濃度でクマル酸が培養上清に蓄積した。グルコースおよびセロビオースについて、炭素収率(Cmol%)も10Cmol%を超える高い値を示した。この炭素収率は、非特許文献1および2で報告された値(0.02〜6.5Cmol%)を上回る優れた値である。 (1−4:窒素源の検討) 炭素源として1%(w/v)グルコース、および窒素源として5%(w/v)トリプトン、5%(w/v)硫酸アンモニウムまたは5%(w/v)硝酸アンモニウムのいずれかを添加したこと以外は、上記1−3と同様にして、形質転換放線菌によるクマル酸の発酵生産を行った。結果を図5に示す。 図5は、形質転換放線菌ストレプトマイセス・リビダンスS.lividans Tfu0901+(pUC702-RsTAL)を、炭素源として1%(w/v)グルコースおよび窒素源として5%(w/v)トリプトン、5%(w/v)硫酸アンモニウムまたは5%(w/v)硝酸アンモニウムのいずれかを添加したTSB培地で培養した発酵における培養上清中のクマル酸濃度(mg/L)の経時変化を示すグラフである。図5より明らかなように、窒素源として、硫酸アンモニウムまたは硝酸アンモニウムを用いた場合は、培養上清中のクマル酸の濃度は低かったのに対し、トリプトンを用いた場合は、7日間の培養で753mg/Lのクマル酸を培養上清中に蓄積した。 次いで、炭素源として1%(w/v)グルコース、および窒素源として、1%(w/v)、3%(w/v)、または5%(w/v)トリプトンを用いたこと以外は、上記1−3と同様にして、形質転換放線菌によるクマル酸の発酵生産を行った。結果を図6に示す。 図6は、形質転換放線菌ストレプトマイセス・リビダンスTfu0901+(pUC702-RsTAL)を、炭素源として1%(w/v)グルコースおよび窒素源として1%(w/v)、3%(w/v)、または5%(w/v)トリプトンのいずれかを添加したTSB培地で培養した発酵における培養上清中のクマル酸濃度(mg/L)の経時変化を示すグラフである。図6より明らかなように、トリプトン濃度の増加に伴い上清のクマル酸生産量は増加し、5%(w/v)トリプトン添加の場合に最もクマル酸を生産していた(7日間の培養で753mg/L)。 (実施例2) TAL遺伝子発現用ベクターとして、単離したRsTAL遺伝子を、In-Fusion HD Cloning Kit(Clontech Laboratories社製)を用いてプラスミドベクターpTONA4に挿入し、pTONA4-RsTALを構築した。放線菌ストレプトマイセス・マリチマス(DSM 41777、type strain)に、pTONA4-RsTALを導入して形質転換を行った。形質転換には、接合伝達法を用いた。形質転換体は、ベクターが保有する選択マーカーに対応する薬剤カナマイシン(50μg/mL)を培地に含有させた選択培養によって取得した。 炭素源として3%(w/v)グルコースを添加したこと以外は実施例1と同様にして、この形質転換放線菌ストレプトマイセス・マリチマスによるクマル酸の発酵生産を行った。結果を図7に示す。 図7は、形質転換放線菌ストレプトマイセス・マリチマスを、5%(w/v)トリプトン(窒素源)および炭素源として3%(w/v)グルコースを添加したTSB培地で培養した発酵における培養上清中のクマル酸濃度(mg/L)の経時変化を示すグラフである。図7より明らかなように、実施例2では、約700mg/Lの高濃度でクマル酸が培養上清に蓄積した。 (実施例3) 放線菌ストレプトマイセス・リビダンス1326株(NBRC 15675)に、pUC702-RsTALを導入して、形質転換放線菌ストレプトマイセス・リビダンスS.lividans(pUC702-RsTAL)を得た。コントロールとして、RsTAL遺伝子を含まないベクターpUC702を導入した形質転換放線菌ストレプトマイセス・リビダンスS.lividans(pUC702)を得た。 これらの形質転換放線菌をそれぞれ、本培養に50g/Lグルコースを添加したTSB液体培地(窒素源は添加していない)を用いた以外は、上記1−3と同様に、クマル酸発酵および生成したクマル酸濃度の測定を行った。結果を図8に示す。 図8は、形質転換放線菌ストレプトマイセス・リビダンスS.lividans(pUC702-RsTAL)およびS.lividans(pUC702)を、炭素源として50g/Lグルコースを添加したTSB培地で培養した発酵における培養上清中のクマル酸濃度(mg/L)の経時変化を示すグラフである。図8より明らかなように、S.lividans(pUC702)では4日で58mg/Lほどのクマル酸が認められたのに対して、S.lividans(pUC702-RsTAL)は7日間で1127mg/Lのクマル酸を培養上清中に生産していた。なお、両株とも3日以降グルコース(50g/L)を完全に消費していた。 (実施例4) 放線菌ストレプトマイセス・リビダンス1326株(NBRC 15675)に、pUC702-Rsp3574を導入して、形質転換放線菌ストレプトマイセス・リビダンスS.lividans(pUC702-Rsp3574)を得た。コントロールとして、RsTAL遺伝子を含まないベクターpUC702を導入した形質転換放線菌ストレプトマイセス・リビダンスS.lividans(pUC702)を得た。 pUC702-Rsp3574は以下のように調製した。Rhodobacter sphaeroides 2.4.1(NBRC12203株)由来のゲノムDNAから、配列番号21(フォワード)および配列番号22(リバース)からなるプライマー対を用いてPCR法により、Rsp3574(hutH)の遺伝子を単離した(以下「Rsp3574」ともいう;NCBI−Gene ID:3722088)。次いで、単離したRsp3574遺伝子がコードするタンパク質のC末端側にHis tag配列が付加されるように、In-Fusion HD Cloning Kit(Clontech Laboratories社製)を用いてプラスミドベクターpUC702に挿入し、pUC702-Rsp3574を構築した。 形質転換放線菌ストレプトマイセス・リビダンスS.lividans(pUC702-Rsp3574)およびS.lividans(pUC702)のクマル酸発酵および生産されたクマル酸濃度の測定は、上記実施例3と同様に行った。 図9は、形質転換放線菌ストレプトマイセス・リビダンスS.lividans(pUC702-Rsp3574)およびS.lividans(pUC702)を、炭素源として50g/Lグルコースを添加したTSB培地で培養した発酵における培養8日後の培養上清中のクマル酸濃度(mg/L)を示すグラフである。図9より明らかなように、培養8日後に、S.lividans(pUC702)では45mg/Lほどのクマル酸が認められたのに対して、S.lividans(pUC702-Rsp3574)は80mg/Lのクマル酸を培養上清中に生産していた。 本発明によって製造されたクマル酸は、紫外部吸収剤、医薬品原料などに好適に利用できる。また、合成されるポリマーは、高い耐熱性と強度を持つ軽量ポリマーとして、例えば、低燃費車などの構成部材への応用が期待される。本発明によれば、微生物による安全な方法でクマル酸を生産することができる。さらに、バイオマスの主要な構成要素であるセルロースの利用も期待できる。 チロシンアンモニアリアーゼをコードする遺伝子を微生物に導入して得られる、クマル酸産生形質転換微生物。 前記チロシンアンモニアリアーゼをコードする遺伝子が、ロドバクター属に由来する遺伝子である、請求項1に記載の形質転換微生物。 前記チロシンアンモニアリアーゼをコードする遺伝子が、ロドバクター・スフェロイデスに由来する遺伝子である、請求項2に記載の形質転換微生物。 前記微生物にセルラーゼをコードする遺伝子をさらに導入して得られる、請求項1から3のいずれかに記載の形質転換微生物。 前記セルラーゼが、エンドグルカナーゼ、セロビオヒドロラーゼおよびβ−グルコシダーゼからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項4に記載の形質転換微生物。 前記微生物が放線菌である、請求項1から5のいずれかに記載の形質転換微生物。 前記セルラーゼをコードする遺伝子が、サーモビヒダ・フスカに由来するエンドグルカナーゼ遺伝子である、請求項4から6のいずれかに記載の形質転換微生物。 クマル酸の製造方法であって、 請求項1から7のいずれかに記載の形質転換微生物を、炭素源を含む培地で培養する工程を含む、方法。 炭素源が、グルコース、グリセロール、スクロース、マルトース、デンプン、キシロース、セロビオース、セルロース、およびそれらの1種以上の組み合わせからなる群から選択される、請求項8に記載の方法。 請求項1から7のいずれかに記載の形質転換微生物を使用する方法であって、該形質転換微生物を、炭素源を含む培地で培養してクマル酸を得る工程を含む、方法。 【課題】石油を原料とした化学法によらず、クマル酸生産濃度や炭素収率を向上させた形質転換微生物を用いてクマル酸を製造する方法、および該方法に用いるクマル酸産生形質転換微生物を提供すること。【解決手段】チロシンアンモニアリアーゼをコードする遺伝子を微生物に導入して得られるクマル酸産生形質転換微生物。該形質転換微生物を、炭素源を含む培地で培養する工程を含む、クマル酸の製造方法。【選択図】なし配列表


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