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タイトル:公開特許公報(A)_ヒト由来上皮細胞接着分子に対するモノクローナル抗体、およびこれを用いた循環腫瘍細胞の検出方法
出願番号:2012256774
年次:2014
IPC分類:C07K 16/28,G01N 33/574,G01N 33/536,C12N 5/10,C12P 21/08,C12N 15/09


特許情報キャッシュ

永井 豊 高尾 雅 JP 2014105159 公開特許公報(A) 20140609 2012256774 20121122 ヒト由来上皮細胞接着分子に対するモノクローナル抗体、およびこれを用いた循環腫瘍細胞の検出方法 日本光電工業株式会社 000230962 八田国際特許業務法人 110000671 永井 豊 高尾 雅 C07K 16/28 20060101AFI20140513BHJP G01N 33/574 20060101ALI20140513BHJP G01N 33/536 20060101ALI20140513BHJP C12N 5/10 20060101ALI20140513BHJP C12P 21/08 20060101ALN20140513BHJP C12N 15/09 20060101ALN20140513BHJP JPC07K16/28G01N33/574 DG01N33/536 DG01N33/536 EC12N5/00 102C12P21/08C12N15/00 A 12 3 OL 25 4B024 4B064 4B065 4H045 4B024AA01 4B024AA11 4B024BA41 4B024CA01 4B024CA04 4B024CA09 4B024CA11 4B024CA20 4B024DA02 4B024EA04 4B024GA01 4B024GA11 4B024HA01 4B024HA11 4B064AG27 4B064CA10 4B064CA20 4B064CC24 4B064DA01 4B064DA13 4B065AA90X 4B065AA90Y 4B065AB01 4B065AC14 4B065BA01 4B065BA08 4B065BD22 4B065CA25 4B065CA44 4B065CA46 4H045AA11 4H045AA20 4H045AA30 4H045BA10 4H045CA40 4H045DA76 4H045EA20 4H045EA50 4H045FA74 本発明は、ヒト由来上皮細胞接着分子に対するモノクローナル抗体、およびこれを用いた循環腫瘍細胞の検出方法に関する。 循環腫瘍細胞(Circulating Tumor Cell;CTC)は、がん患者の末梢血流を循環する腫瘍細胞と定義され、原発腫瘍または転移腫瘍から血管中へ浸潤した腫瘍細胞である。このCTCの検出は、転移性悪性腫瘍の早期発見の方法の一つとして近年注目されている。その理由は、X線写真や血清中の腫瘍マーカー検出よりも低侵襲かつ正確に転移性悪性腫瘍の診断を行え、患者の予後予測や治療効果の指標として利用できる点にある。 CTCは非常に稀少な細胞であり、転移性がん患者の血液に含まれる109〜1010個/mLの血液細胞のうち、わずか1細胞程度しか存在しないことが知られている。このため、末梢血から稀少なCTCを正確に検出するための技術開発に多大な努力が注がれている。これまでに開発されてきた主要な検出方法には、免疫組織化学法、PCR法、フローサイトメトリー法などがある。しかしながら、前述したようにCTCは非常に稀少な細胞であるため、血液をそのままこれらの検出方法に供することはできない。したがって、通常は前処理として、CTCの濃縮操作が必須であり、検出法に則したレベルまでCTCを濃縮する必要がある。 CTCの濃縮方法として開発されてきた様々な手法の中で、最も広く利用されているのは、細胞表面の特異的抗原を標的とした腫瘍細胞の濃縮である。その多くは、上皮細胞接着分子(Epithelial cell adhesion molecule;EpCAM;「CD326」とも称される)に対するモノクローナル抗体を固定化した磁気ビーズを血液試料と混合した後、磁石を用いて腫瘍細胞を濃縮する方法をとっている。 CTCの検出を効率的かつ正確なものにするためには、濃縮と検出といった技術を首尾一貫して行うことが必要である。多段階のハンドリング操作、例えば細胞の染色、洗浄、分離、分注などの操作はCTCのロスを引き起こすため、可能な限りこれらの操作を避け、一体の検出装置中で分析が一貫して行える形が望ましい。CellSearch(登録商標)(Veridex社)システムはCTC検出装置として唯一FDAの認可を受けた装置であり、転移性乳がん、大腸がんおよび前立腺がんの無増悪生存率(PFS)および全生存率(OS)を予測するのに用いられている。この装置では、全血に対して抗EpCAM抗体固定化磁気ビーズによるCTCの濃縮を行い、腫瘍細胞に対して免疫染色を行った後、自動化蛍光顕微鏡を用いて腫瘍細胞の計数が行われる。より具体的には、まず、血液試料7.5mLをコニカルチューブに移し、緩衝液と混和した後に遠心分離器で赤血球層を分離し、除去する。その後、抗EpCAM抗体がナノ鉄粒子に結合されてなる磁気ビーズにより血液中の多くの細胞から上皮細胞を特異的に分離・抽出する。次いで、分離された上皮細胞に蛍光標識サイトケラチンモノクローナル抗体を反応させるとともに蛍光性のDNA染色物質(DAPI)を用いて細胞の核を染色する。この際、混入した白血球をCTCと識別するために、同様に蛍光標識した抗CD45抗体を反応させる。このようにして、血液試料中のCTCの検出・定量が行われるのである。 上述したCellSearchシステムによる血液試料中のCTCの検出・定量方法では、細胞内への抗体透過が必要なため、細胞固定と細胞膜透過処理を行う必要があった。したがって、CellSearchシステムによる分析が終了した試料を別途のさらなる分析(例えば、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応 Reverse Transcription − Polymerase Chain Reaction;RT−PCR、染色体異数性検査、変異分析などの遺伝子診断・ゲノム解析)に供することはできない。 血液試料中のCTCの検出・定量を経た血液試料が別途のさらなる分析に供されうるようにするためには、細胞の生存能力を維持したままCTCの検出・定量の分析を行う必要がある。これを可能とする技術として、完全循環腫瘍細胞計数分析(intact CTC enumeration and analysis procedure;iCeap)法が提案されている(例えば、非特許文献1)。 iCeap法もまた、CellSearchシステムと同様にCTCの表面に発現しているEpCAMを標的とするものであるが、2種の異なる抗EpCAMモノクローナル抗体を用いる点で、CellSearchシステムとは異なる。iCeap法では、用いられる2種の異なる抗EpCAMモノクローナル抗体の一方を磁性ビーズに結合させ、他方を蛍光標識する(以下、iCeap法において用いられる2種の異なる抗EpCAMモノクローナル抗体のうち、磁性ビーズと結合するものを「第1の抗体」と称することがあり、蛍光標識されるものを「第2の抗体」と称することがある)。 iCeap法は、例えば、以下のように行われる。まず、血液試料中の赤血球を溶解させ、遠心分離した後、上清を除去してペレットを得る。これに第1の抗体−磁気ビーズ複合体および蛍光標識された第2の抗体を接触させる。ここで、非特許文献1では、第1の抗体としてHEA−125を用い、第2の抗体としてEBA−1を用いている。このとき、第1の抗体および第2の抗体はともにCTCの表面に発現しているEpCAMタンパク質を特異的に認識してこれに結合する。続いて、MACS磁気細胞分離システムによりCTCを磁気濃縮し、生存している細胞を識別するために核を染色するが、上述した第1の抗体および第2の抗体は試料に含まれる白血球の一部とも非特異的に結合することがある。このため、核を染色するのと同時に、蛍光標識した抗CD45モノクローナル抗体を試料に添加しておき、このようにして得られた試料を用いてフローサイトメトリー法による分析を行うことで、生存/死滅しているCTCをそれぞれ、白血球に対する非特異的な結合とは区別して検出・定量することが可能となる。 このiCeap法によるCTCの検出・定量は、試料に含まれる細胞の生存能力にほとんど影響を及ぼさないことから、iCeap法による分析が終了した試料については、上述したCellSearchシステムを経た試料とは異なり、別途のさらなる分析(例えば、RT−PCR、染色体異数性検査、変異分析などの遺伝子診断・ゲノム解析)に供することが可能である。少なくともこの点で、iCeap法はCellSearchシステムにはない利点を有する優れた分析技術であるといえる。 上述したように、非特許文献1に開示されているiCeap法の実施形態では、第1の抗体としてHEA−125抗体を用い、第2の抗体としてEBA−1抗体を用いている。従来知られている抗EpCAMモノクローナル抗体としては、これらのHEA−125抗体やEBA−1抗体のほかにもVU−1D9抗体などがあり、いずれもマウスに腫瘍細胞株を免疫処置することによって確立されたものである。そして、HEA−125抗体はヒト由来EpCAMに特異的であるのに対し、EBA−1抗体は他の動物に対しても交差反応性を示すものであることが従来知られていたことから、HEA−125抗体が認識するヒト由来EpCAMタンパク質のエピトープとEBA−1抗体のエピトープとは異なることが示唆されていた。このため、非特許文献1ではこれら2種の抗EpCAMモノクローナル抗体がそれぞれ第1の抗体および第2の抗体として採用されていたのである。Takao et al., Cytometry, Part A, 79A: 107-117, 2011 本発明者らは、非特許文献1に開示されているiCeap法のさらなる改良のために鋭意検討を行った。そしてその過程において、驚くべきことに、上述したような従来の当業者による認識とは異なり、HEA−125抗体およびEBA−1抗体はヒト由来EpCAMタンパク質において同一のエピトープを認識するという事実を突き止めた。具体的には、これら2種の抗EpCAMモノクローナル抗体はいずれも、ヒト由来EpCAMタンパク質のN末端上皮成長因子(Epidermal Growth Factor;EGF)様ドメインをエピトープとして認識することを見出したのである。 本発明は、上述した予期せぬ発見に基づきなされたものである。すなわち、ヒト由来EpCAMタンパク質の同一のエピトープを認識するHEA−125抗体とEBA−1抗体との組み合わせを用いてiCeap法を行うと、これらの抗体がエピトープ部位において競合的に拮抗してしまい、検出効率の低下といった問題が生じる虞がある。そこで本発明は、従来公知の抗EpCAMモノクローナル抗体が認識するエピトープ(N末端EGF様ドメイン)とは異なるエピトープを特異的に認識する抗EpCAMモノクローナル抗体を提供することを目的とする。また本発明は、当該モノクローナル抗体を産生しうるハイブリドーマ、並びに、当該モノクローナル抗体を用いたCTCの検出方法およびこれに用いるためのCTC検出用キットをも提供することを目的とする。 本発明者らは、ヒト由来EpCAMタンパク質を一過性に発現させたHEK293細胞を用いてマウスに免疫処置を施し、ヒト由来EpCAMタンパク質に対する免疫応答を誘導した。そして、当該マウスの脾臓細胞とミエローマとを融合させてハイブリドーマの集団を作製し、ヒト由来EpCAMタンパク質のN末端EGF様ドメインとは異なるエピトープを特異的に認識する抗EpCAMモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを探索した。その結果、この条件を満たすハイブリドーマのクローンを選抜することに成功した。そして、当該ハイブリドーマから所望のモノクローナル抗体を取得することに成功し、本発明を完成させた。 すなわち、本発明の第1の形態によれば、ヒト由来EpCAMに対するモノクローナル抗体であって、ヒト由来EpCAMのCP領域に対して特異的に反応するモノクローナル抗体が提供される。 上記第1の形態に係るモノクローナル抗体は、ヒト由来EpCAMのN末端EGF様ドメインに反応しないものであることが好ましい。また、上記第1の形態に係るモノクローナル抗体のサブクラスは、マウスIgMであることが好ましい。 また、本発明の第2の形態によれば、受領番号がNITE ABP−1449であるハイブリドーマKIJY2により産生される、ヒト由来EpCAMに対するモノクローナル抗体が提供される。 さらに、本発明の第3の形態によれば、上記第2の形態に係るモノクローナル抗体と同一のエピトープに結合するモノクローナル抗体が提供される。 また、本発明の第4の形態によれば、以下の工程: (a)被験者から血液試料を採取する工程;および、 (b)上記のいずれかのモノクローナル抗体を用いて、前記血液試料に含まれる循環腫瘍細胞を検出する工程、を含む、循環腫瘍細胞の検出方法が提供される。 上記第4の形態に係る検出方法において、前記モノクローナル抗体は蛍光標識されたものであることが好ましい。また、上記第4の形態に係る検出方法では、前記(b)工程において、ヒト由来EpCAMのN末端EGF様ドメインに対して特異的に反応する第2のモノクローナル抗体をさらに用いることが好ましい。そして、前記第2のモノクローナル抗体は磁性ビーズに結合したものであることが好ましい。上記第4の形態における特に好ましい実施形態では、前記(b)工程が、完全循環腫瘍細胞計数分析(iCeap)法により行われる。 さらに、本発明の第5の形態によれば、上記第4の形態に係る検出方法に用いられるCTC検出用キットであって、上記第1〜第3の形態のいずれかに係るモノクローナル抗体を含む、CTC検出用キットが提供される。 そして、本発明の第6の形態によれば、受領番号がNITE ABP−1449であるハイブリドーマKIJY2が提供される。 本発明によれば、従来公知の抗EpCAMモノクローナル抗体が認識するエピトープ(N末端EGF様ドメイン)とは異なるエピトープを特異的に認識する抗EpCAMモノクローナル抗体が提供される。また、本発明によれば、当該モノクローナル抗体を産生しうるハイブリドーマ、並びに、当該モノクローナル抗体を用いたCTCの検出方法およびこれに用いるためのCTC検出用キットもまた、提供される。 本発明により新たに提供される抗EpCAMモノクローナル抗体がエピトープとして認識するヒト由来EpCAMタンパク質のCP領域は、その特性が未知のものである。したがって、本発明に係る抗EpCAMモノクローナル抗体を利用することで、EpCAMタンパク質の構造および機能に関する研究のさらなる進展が期待される。また、本発明に係る抗EpCAMモノクローナル抗体を利用することで、iCeap法に代表されるようなCTCの検出方法における検出感度や検出精度のよりいっそうの向上も期待される。実施例における「免疫染色」の実験において、HEA−125−FITCおよびKIJY2−555を用いて共免疫染色したLNCaP細胞について、BIOREVO BZ−9000(株式会社キーエンス)により撮影した位相コントラスト画像および蛍光画像である。図1において、左(PhC)は位相コントラスト画像を示し、中央(HEA 125−FITC)はHEA 125−FITCによる蛍光画像を示し、右(KIJY2−555)はKIJY2−555による蛍光画像を示す。なお、対物レンズとしては20×Plan Flを用いた。また、図1に示す画像において蛍光を呈している細胞内の部位は、HEA−125−FITCおよびKIJY2−555のいずれについても細胞膜である。実施例における「ELISA」の実験において、固相ELISAによる力価試験を行った結果を示すグラフである。実施例における「ELISA」の実験において、液相ELISAによる結合特異性試験を行った結果を示すグラフである。実施例における「PC−3細胞へのKIJY2抗体の結合能の評価」の実験において、PC−3細胞の表面に発現したEpCAMへのKIJY2抗体の結合能を評価するために、KIJY2およびVU−1D9抗体を並列で、ストレプトアビジン−PE共役体を用いて可視化した結果を示す写真である。図2Cの左は位相コントラスト画像であり、中央は12ビット画像であり、右は輝度調整後の画像である。なお、中央の12ビット画像において矢尻で示された円の部位は、左の輝度調整後の画像において可視化されるようになったEpCAM低発現PC−3細胞の位置を示す。実施例における「エピトープマッピング」の実験において、KIJY2抗体のヒト由来EpCAMへの結合ドメインを同定する目的で、エピトープマッピングを行った結果を示す写真および説明図である。図3のそれぞれは以下の通りである。A:空ベクター、B:全長ヒトEpCAM構築物、C〜E:マウスEGFドメイン、TYドメイン、またはCP領域で置換されたEpCAM構築物(それぞれ、Hyb.1、Hyb.2、またはHyb.3)。図3のA〜Eについては、左からそれぞれ、位相コントラスト画像、FITC蛍光画像、およびHiLyte Fluor 555蛍光画像を示す。また、図3のFはエピトープマッピングの内容を要約した説明図であり、黒塗り領域は置換マウスEpCAMを示す。図4のAは、実施例における「がん細胞の同時検出」の実験において、PC−3細胞へのKIJY2抗体の反応性をさらに定量化する目的で、フローサイトメトリー(FCM)分析により、EBA−1抗体、VU−1D9抗体、およびKIJY2抗体の3種の抗体によるPC−3細胞への競合的結合性を試験した結果を示す図である。処理したサンプルをFCM分析した結果を示すヒストグラムである。また、図4のBは、HEA125−FITCおよび、HiLyte Fluor 647で標識されたKIJY2抗体(KIJY2−647)によるPC−3細胞の二重染色試験を行った結果を示す図である。なお、図4のBにおいて、上段のパネルは、蛍光補正後に得られたスキャッタグラムである。また、図4のBにおいて、下段のパネルは、KIJY2−647およびHEA125−FITCの双方で染色された細胞のヒストグラムを、いずれか一方のみの抗体で染色したヒストグラムと比較した結果を示す図である(上のパネルがKIJY2−647単独との対比であり、下のパネルがHEA125−FITCとの対比である)。 以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。 まず、ヒト由来EpCAMの構造について説明する。ヒト由来EpCAMは314個のアミノ酸からなる約40kDaの膜貫通糖タンパク質であり、上皮由来の細胞(すなわち、循環腫瘍細胞の多く)の表面に発現している。このヒト由来EpCAMの細胞外部分(EpEx)は、N末端EGF様ドメイン、TY様ドメイン、および1回膜貫通へリックスに近接した未同定の低システイン(cysteine−poor;CP)領域から構成されている。このEpExはE−カドヘリンを阻害して、カドヘリンを介する細胞−細胞接合を無効とし、腫瘍の浸出および局所侵入を促進させる。一方、膜内タンパク質分解によって放出されるEpCAMの細胞内ショートドメイン(EpICD)は、転写因子LEF/TCFとともに核シグナリングに役割を果たし、c−MycおよびサイクリンA/Eをアップレギュレートし、細胞増殖を促進させる。 従来公知の抗ヒトEpCAMモノクローナル抗体は、いずれもこのN末端EGF様ドメインを特異的に認識するものであった。ここで、「EGF様ドメイン」について簡単に説明すると、上皮増殖因子(EGF)は53個のアミノ酸からなるペプチドで、6個のシステイン残基によって形成される3個のジスルフィドループからなる特徴的な構造を有している。数多くのタンパク質がこの構造を有しており、この構造が「EGF様ドメイン」と称されているのである。 ヒト由来EpCAMをコードする遺伝子(cDNA)はすでに単離されており、ヒト由来EpCAMのアミノ酸配列も知られている。配列番号:1にヒト由来EpCAMをコードする遺伝子のCDS(終止コドン含む)のヌクレオチド配列(NCBI RefSeq Accession Number: NM_002354)を示し、配列番号:2にヒト由来EpCAMのアミノ酸配列(NCBI RefSeq Accession Number: NP_002345)を示す。 本発明の第1の形態に係るモノクローナル抗体は、ヒト由来EpCAMに対するモノクローナル抗体であるが、従来公知の抗ヒトEpCAMモノクローナル抗体とは異なり、ヒト由来EpCAMのCP領域に対して特異的に反応する点に特徴を有している。 上記第1の形態に係るモノクローナル抗体は、ヒト由来EpCAMのN末端EGF様ドメインに反応しないものであることが好ましい。また、上記第1の形態に係るモノクローナル抗体のサブクラスは特に制限されないが、マウスIgMであることが好ましい。 本形態に係るモノクローナル抗体を製造する方法としては、公知の方法をそのまま採用することができ、例えばケーラーとミルシュタインの細胞融合法を基礎として製造することができる。概説すれば、ヒト由来EpCAMに対する免疫応答が誘導されたマウス等の動物の脾臓細胞とミエローマとを融合してハイブリドーマの集団を作製し、該ハイブリドーマの集団から所望のモノクローナル抗体を産生するものを選抜する。そして、選抜したハイブリドーマを培養し、その培養物から所望のモノクローナル抗体を単離・精製することができるのである。 ヒト由来EpCAMに対する免疫応答を誘導する方法としては、動物にヒト由来EpCAM(タンパク質)を接種する一般的なタンパク免疫の手法によってもよいが、動物にヒト由来EpCAM遺伝子を投与する遺伝子免疫の手法によってもよい。 タンパク免疫によって動物に免疫応答を誘導する場合には、一般的に行われている方法をそのまま採用することができる。例えば、精製したヒト由来EpCAMを用意し、アジュバントとの混合液を調製する。この混合液をマウス等に皮下注射し、ヒト由来EpCAMに対する免疫応答を誘導する。必要に応じて、間隔をあけて複数回投与し、追加免疫してもよい。また、後述する実施例に記載のように、ヒト由来EpCAMタンパク質を一過性に発現させた細胞(例えば、HEK293細胞)をマウス等の動物に投与することによって、ヒト由来EpCAMに対する免疫応答を誘導してもよい。 免疫される動物としては特に限定はないが、好ましくは、マウスが用いられる。これにより、マウス由来のモノクローナル抗体を得ることができる。 ハイブリドーマの作製は、ケーラーとミルシュタインの方法によって行うことができる。すなわち、上記した手順でタンパク免疫または遺伝子免疫され、ヒト由来EpCAMに対する免疫応答が誘導された動物から脾臓を摘出し、脾臓細胞を採取する。そして、脾臓細胞とミエローマとを細胞融合し、ハイブリドーマの集団を作製する。ハイブリドーマの選抜は、例えば、HAT選択培地を用いて行うことができる。また、ハイブリドーマのクローニングは、例えば、限界希釈法により行うことができる。このようにして、ヒト由来EpCAMのCP領域に反応(当該領域を特異的に認識して結合)する抗ヒトEpCAMモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを選抜して、クローニングすればよい。 本発明に係るモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの1つは「KIJY2」と命名され、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託されている。寄託の詳細は以下のとおりである。 微生物の識別の表示:KIJY2 受領番号:NITE ABP−1449 受領日:2012年11月2日 選抜およびクローニングされたハイブリドーマを培養することにより、前記の性質を有する抗ヒトEpCAMモノクローナル抗体を製造することができる。ハイブリドーマの培養は、動物の腹腔内で行ってもよく、ディッシュ等を用いてインビトロで行ってもよい。動物の腹腔内でハイブリドーマを培養する場合には、腹水を採取し、その腹水からモノクローナル抗体を単離・精製することができる。インビトロで培養する場合には、その培養液からモノクローナル抗体を単離・精製することができる。 モノクローナル抗体の精製については、各種クロマトグラフィー、塩析、透析、膜分離等の公知の手法を組み合わせて行うことができる。 KIJY2(受領番号がNITE ABP−1449であるハイブリドーマ)により産生される抗ヒトEpCAMモノクローナル抗体と同一のエピトープに結合するモノクローナル抗体、換言すれば、KIJY2により産生される抗ヒトEpCAMモノクローナル抗体と「機能的に同等」であるモノクローナル抗体も、本発明に含まれる。このようなモノクローナル抗体を得るには、例えば、KIJY2により産生される抗ヒトEpCAMモノクローナル抗体のエピトープを、ヒトEpCAMタンパク質の部分ペプチド等を用いたエピトープマッピング法により解析する。そして、同定されたエピトープを含む合成ペプチドを抗原として用い、前記抗ヒトEpCAMモノクローナル抗体と同一のエピトープに結合するモノクローナル抗体を得ればよい。なお、2つの抗体についてエピトープが同一か否かを調べる方法としては、競合実験による方法が挙げられる。例えば、KIJY2により産生される抗ヒトEpCAMモノクローナル抗体を第一抗体とする。そして、当該第一抗体とヒトEpCAMとの結合が、試験対象である第二抗体によって競合阻害を受ける場合には、当該第二抗体は、前記第一抗体と同じエピトープに結合するものであるといえる。 本発明に係るモノクローナル抗体は、種々の用途に使用できる。例えば、本発明に係る抗EpCAMモノクローナル抗体がエピトープとして認識するヒト由来EpCAMタンパク質のCP領域は、その特性が未知のものである。したがって、本発明に係る抗EpCAMモノクローナル抗体を利用することで、EpCAMタンパク質の構造および機能に関する研究のさらなる進展が期待される。また、本発明に係る抗EpCAMモノクローナル抗体を利用することで、iCeap法に代表されるような循環腫瘍細胞(CTC)の検出方法における検出感度や検出精度のよりいっそうの向上も期待される。 以下、iCeap法に代表される循環腫瘍細胞(CTC)の検出方法について、説明する。 本発明に係るCTCの検出方法は、以下の工程: (a)被験者から血液試料を採取する工程;および、 (b)上述した本発明に係るいずれかの抗EpCAMモノクローナル抗体を用いて、前記血液試料に含まれるCTCを検出する工程、を含む。 本明細書において、「被験者」は、がんに罹患するまたは罹患した可能性のある動物であればよく、ヒトへの適用が好ましい。本発明に係る検出方法は、このうち、がんに罹患している疑いのあるヒト、またはがんに罹患した後のヒト等において特に好ましく行われる。 循環腫瘍細胞(CTC)を検出する「血液試料」としては、CTCが含まれる場合に当該CTCを検出できるものであれば特に制限されない。ただし、血液試料中の赤血球を溶解させ、遠心分離した後、上清を除去して得られたペレットを用いることが好ましい。また、血液試料には、凝固防止等を目的としてEDTAカリウム塩やヘパリン等の添加剤が添加されてもよい。被験者から血液試料を採取するために採血するタイミングは、特に制限されない。 本発明に係る検出方法で使用する血液試料は、被験者から採取直後のものを測定に用いることが好ましいが、保存したものを用いてもよい。血液試料の保存方法としては、試料中のCTCの量が変化しない条件であれば特に制限はなく、例えば0〜10℃の凍結しない程度の低温条件、暗所条件および無振動条件下が好ましい。 血液試料中のCTCを検出(および場合によっては定量)する方法について特に制限はなく、従来公知の手法が適宜採用されうる。本発明の好ましい実施形態として、完全循環腫瘍細胞計数分析(iCeap)法があるが、iCeap法による場合には、例えば非特許文献1(Takao et al., Cytometry, Part A, 79A: 107-117, 2011)の記載が参照されうる。 ここで、例えばiCeap法などによってCTCの検出(および定量)を行う場合には、上述した本発明に係る抗EpCAMモノクローナル抗体は、蛍光標識されたものであることが好ましい。この際、蛍光標識するための蛍光色素について特に制限はなく、FITC、HiLyte Fluor 555、HiLyte Fluor 647などが用いられうる。 また、上記(b)工程において、本発明に係る抗EpCAMモノクローナル抗体とは異なるエピトープ(例えば、EpCAMのN末端EGF様ドメイン)に対して特異的に反応する第2のモノクローナル抗体をさらに用いて、検出をより確実に行うこととしてもよい。この際、第2のモノクローナル抗体としては、従来公知の抗EpCAMモノクローナル抗体であるHEA−125、VU−1D9、EBA−1、Ber−EP4、323/A3、311−1K1などが用いられうる。この第2のモノクローナル抗体は、本発明に係る抗EpCAMモノクローナル抗体とは異なる蛍光標識されたものであってもよいし、磁性ビーズに結合したものであってもよい。第2のモノクローナル抗体として磁性ビーズに結合したものを用いることによって、iCeap法においてそうであるように、磁気を用いたEpCAM発現CTCの分離(磁気濃縮)と、本発明に係る抗EpCAMモノクローナル抗体によるその検出(免疫蛍光染色)との2つのメカニズムによって、CTCの存在を確実に把握し、場合によってはその存在量を定量することが可能となる。なお、場合によっては、本発明に係る抗EpCAMモノクローナル抗体を磁性ビーズと結合したものとし、第2のモノクローナル抗体を上述した蛍光色素により蛍光標識して、同様に用いてもよい。 このような本発明に係る検出方法によれば、例えば本発明に係る抗EpCAMモノクローナル抗体と、これとは異なるエピトープを認識する第2のモノクローナル抗体とを併用することで、エピトープに対する競合阻害の虞がなくなることから、iCeap法などによるCTCの検出効率のよりいっそうの向上が期待される。また、本発明に係る抗EpCAMモノクローナル抗体がエピトープとして認識するヒト由来EpCAMタンパク質のCP領域は、その特性が未知のものである。したがって、本発明に係る抗EpCAMモノクローナル抗体を利用することで、EpCAMタンパク質の構造および機能に関する研究のさらなる進展も期待される。 本発明の他の形態によれば、上述したCTCの検出方法に用いられるCTC検出用キットもまた、提供される。この検出用キットは、上述した検出方法で使用される試薬等を含むものである。具体的には、当該検出用キットに含まれる試薬として、上述した本発明に係る抗EpCAMモノクローナル抗体(例えば、蛍光標識されたものや、磁性ビーズと結合したもの)が挙げられる。上述した第2のモノクローナル抗体(例えば、磁性ビーズと結合したものや、蛍光標識されたもの)もまた、当該検出用キットに含まれうる。さらに、検出用キットは、上記抗体や採取された試料を希釈するための緩衝液、洗浄液、二次抗体、蛍光色素、反応容器、陽性対照、陰性対照、検査プロトコールを記載した指示書等の構成要素をさらに含んでもよい。また、これらの構成要素は、必要に応じて予め混合または複合化しておくこともできる。この検出用キットを使用することにより、本発明に係るCTCの検出が簡便となり、早期の治療方針決定や予後の診断、治療効果の確認などに非常に有用である。 以下、実施例を用いて本発明の実施形態をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲が下記の実施例に限定されるわけではない。 (細胞株および培養) 乳腺腺がん細胞株であるMCF−7は、独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンターの細胞バンクから入手した。転移性前立腺がん細胞株であるLNCaPおよびPC−3は、国立大学法人東北大学加齢医学研究所医用細胞資源センターから入手した。これらの細胞株については、ペニシリンおよびストレプトマイシン添加10%FCS含有RPMI1640(Gibco-Life Technologies)中で培養した。また、HEK293細胞株および形質転換体は、抗生物質添加10%FCS含有D−MEM(和光純薬工業株式会社)中で培養した。 (HEK293細胞株におけるEpCAMの発現) ヒトまたはマウスのEpCAMタンパク質をコードするcDNAを、それぞれNCBI RefSeq Accession Number: NM_002354(ヒト)およびGenBank: BC094465.1(マウス)のヌクレオチド配列に基づいてタカラバイオ株式会社に委託することにより合成した。なお、ヒト−マウスハイブリッドcDNAを作製するために、アミノ酸配列を変更することなくドメイン内に適切な制限酵素部位を導入した。そして、ヒトEpCAMタンパク質をコードするcDNAを、発現ベクターpBApo−CMV Neo(タカラバイオ株式会社)にクローニングした。また、ヒトEpCAM骨格中にマウスEpCAMのEGFドメイン、TYドメインおよびCP領域をそれぞれ有するHyb.1、Hyb.2およびHyb.3ポリペプチドをコードする各cDNAを、同様に発現ベクターpBApo−CMV Neoにクローニングした。ここで、Hyb.1、Hyb.2およびHyb.3のそれぞれをコードするcDNAのヌクレオチド配列は以下のとおりである(下線部がマウスEpCAMに対応する配列である)。 その後、トランスフェクション試薬としてX−tremeGENE HP(ロシュ)を用いて、HEK293細胞にそれぞれの発現ベクターをトランスフェクションした。そして、G418(ロシュ)を用いた選択によりそれぞれについて安定的なHEK293−EpCAMクローンを樹立した。 (マウスの免疫処置およびハイブリドーマクローンの作製) 上記で樹立した一過性EpCAM発現HEK293細胞を用いて、Balb/cマウスを免疫処置した。なお、ハイブリドーマクローンの作製およびモノクローナル抗体の精製は、委託研究として株式会社日本バイオテスト研究所において行われた。その手法を概説すれば、まず、免疫処置したマウスから脾臓を摘出し、脾臓細胞を採取し、これをミエローマP3U1細胞株と細胞融合してハイブリドーマの集団を作製した。このようにして得られたハイブリドーマの集団から、所望のハイブリドーマクローンをEpCAM過剰発現細胞株であるMCF−7細胞株を用いてスクリーニングした。陽性をさらに親のHEK293陰性細胞およびEpCAM安定発現HEK293陽性細胞を基準としてスクリーニングした。その結果得られたハイブリドーマクローンを「KIJY2」と名付け、無血清培地中で培養した。そして、これが産生する抗体(KIJY2抗体)を均質に精製した。なお、KIJY2抗体は、有意な非特異的結合を有しないIgMに属する。 (免疫染色) 精製したKIJY2抗体を、メーカー説明書に従ってN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)系標識キット(株式会社同仁化学研究所)で蛍光標識した。LNCaP細胞を35mm培養ディッシュ中で培養し、PBSを用いて洗浄し、上記で得られた蛍光色素結合KIJY2抗体と反応させた。そして、HEA−125−FITC(ミルテニーバイオテク)に対する適切な希釈およびHiLyte Fluor 555―結合KIJY2抗体(KIJY2−555)に対する濃度を1〜2×105/サンプルの培養細胞に対してそれぞれ1/25および0.4μg/mLと決定した。 HEA−125−FITCおよびKIJY2−555を用いて共免疫染色したLNCaP細胞について、BIOREVO BZ−9000(株式会社キーエンス)により、位相コントラスト画像および蛍光画像を得た。 得られた画像を示す写真を図1に示す。図1において、左(PhC)は位相コントラスト画像を示し、中央(HEA 125−FITC)はHEA 125−FITCによる蛍光画像を示し、右(KIJY2−555)はKIJY2−555による蛍光画像を示す。なお、対物レンズとしては20×Plan Flを用いた。また、図1に示す画像において蛍光を呈している細胞の部位は、HEA−125−FITCおよびKIJY2−555のいずれについても細胞膜である。 (ELISA) EpCAMを発現するMCF−7細胞およびPC−3細胞(〜5×104/mL)をそれぞれ96ウェル ポリ−L−リジンコートマイクロプレート(住友ベークライト株式会社)上に播種し、24時間培養した。接着細胞を4%パラホルムアルデヒド(PFA)のPBS溶液を用いて15分間固定し、これをELISAにおける抗原として用いて、ハイブリドーマクローンを選択し、力価試験を行い、滴定曲線を作成した。 固相ELISAについては、HRP Protein Detector Microwell Kit(KPL)を用いて行った。この際、抗EpCAMモノクローナル抗体であるHEA−125(IgG1、ab46714、Abcam、UK)をポジティブコントロールとして用いた。そして、未希釈のHEA−125または50μg/mLのKIJY1抗体もしくはKIJY2抗体から始めて、文献に記載されているMCF−7細胞およびPC−3細胞に対して力価を決定した。KIJY2抗体の検出用に、二次抗体を抗マウスIgM−HRP等価物(Sigma−Aldrich)で置換した。 この固相ELISAによる力価試験の結果を図2Aに示す。図2Aに示すように、HEA−125ではMCF−7細胞よりもPC−3細胞を検出する際により高濃度の抗体を要することがわかる。また、予期せぬことに、KIJY2抗体はMCF−7細胞にはある程度結合するものの、PC−3細胞にはほとんど結合しなかった。これにより、KIJY2抗体のエピトープがPFA処理に対して非常に高い感受性を示す一方で、そのままの(非固定)細胞に対する結合能は維持できることが示された。 次に、懸濁液における非固定細胞の結合特異性を試験する目的で、以下の手法により液相ELISAを行った:TrypLE Express(Life Technologies)を用いて剥離したPC−3細胞を4%PFA含有PBS中に懸濁し、105細胞/サンプルで低結合マイクロチューブ(PROTEOSAVE SS、住友ベークライト株式会社)に分けた。次いで、すぐに10×体積の培地で希釈し、活性剤フリーPBSで2回洗浄して、得られた細胞ペレットを液相ELISAに用いた。なお、液相ELISAにはM−Buffer(0.5%BSAおよび2mM EDTA含有PBS)を用いた。また、パラホルムアルデヒド感受性を試験するために、HEA−125(1/10希釈)またはKIJY2抗体(5μg/mL)の過剰量を分析条件中維持し、同様の実験を3回行った。 この液相ELISAによる結合特異性試験の結果を図2Bに示す。図2Bに示すように、HEA−125のエピトープは4%PFAによる処理の直後に若干露出した(最大1.5倍)。一方、KIJY2抗体のエピトープは4%PFAによる処理の後、迅速に消失した。ここで、EpCAMは多量体を形成しうること、および、他のタンパク質と相互作用しうることが知られている。EpCAMのこれらの性質は、PFAによる固定エピトープへのKIJY2抗体の接近可能性を阻害する可能性がある。また、他の可能性としては、PFA処理によってEpCAMの固有の構造が壊れることも考えられるが、いずれにせよ、細胞の固定化が免疫反応性に影響を及ぼすことがあることに留意すべきであろう。 (PC−3細胞へのKIJY2抗体の結合能の評価) 天然のがん細胞(PC−3細胞)の表面に発現したEpCAMへのKIJY2抗体の結合能を評価するために、KIJY2およびVU−1D9抗体を並列で可視化した。具体的には、それぞれの抗体に結合した細胞を、ストレプトアビジン−PE共役体を用いて可視化した。ここで、PC−3細胞のEpCAMレベルは既知のEpCAM陽性がん細胞株の中では比較的低く、かつ、EpCAMの発現レベルの異なる亜集団を含む。このため、本実験では、CTC検出への実用化を考慮し、検出が困難ながん細胞株として、PC−3細胞が選ばれたのである。 具体的には、BSAフリーの抗EpCAMモノクローナル抗体であるVU−1D9(サンタクルーズバイオテクノロジー)およびKIJY2抗体(各100μg)をビオチン標識キット−NH2(株式会社同仁化学研究所)を用いて並行してビオチン化した。PC−3細胞をビオチン化モノクローナル抗体(0.4μg/105細胞)の存在下、M−Buffer中、室温にて30分間インキュベートした。PBSで洗浄した後、細胞をストレプトアビジン−PE(ベクターラボラトリーズ)と推奨希釈(1/100)で15分間混合した。懸濁液中の細胞をディスポーザブル血球計算板C−Chip(ソウル、韓国)中に静置し、BZ−9000によって分析した(対物レンズ:10×Plan Apo)。 100μL細胞懸濁液中でHEK293一過性形質転換体(1.5〜2×105細胞/サンプル)にHEA125−FITC(4μL)およびKIJY2(0.4μg)を混合し、上述したようにC−Chip中でモニターした。 ストレプトアビジン−PE共役体を用いてPC−3細胞を可視化した結果を図2Cに示す。図2Cにおいて、上段はKIJY2抗体を用いた結果を示し、下段はUV−1D9を用いた結果を示す。また、図2Cの左は位相コントラスト画像であり、中央は12ビット画像であり、右は輝度調整後の画像である。なお、中央の12ビット画像において矢尻で示された円の部位は、左の輝度調整後の画像において可視化されるようになったEpCAM低発現PC−3細胞の位置を示す。図2Cに示す結果から、KIJY2抗体およびUV−1D9の双方のモノクローナル抗体が、EpCAMの発現レベルの高いPC−3細胞(中央)および発現レベルの低いPC−3細胞(右)の亜集団を同様にして検出しうることがわかる。これにより、KIJY2抗体は、細胞におけるEpCAMの発現レベルにかかわらず、VU−1D9抗体と同程度に有効に無傷の(intact)がん細胞を検出しうることが示された。 (エピトープマッピング) 続いて、KIJY2抗体のヒト由来EpCAMへの結合ドメインを同定する目的で、エピトープマッピングを行った。 ここでは、EpCAMタンパク質の三次元分子構造をそのまま維持したハイブリッドタンパク質を得るために、ヒト−マウスEpCAMハイブリッドcDNA構築物を調製した。具体的には、ヒトEpCAMタンパク質のEGFドメイン、TYドメイン、またはCP領域をそれぞれマウスのカウンターパートによって置換して、Hyb.1、Hyb.2、およびHyb.3を得た。一時的にこれらのキメラタンパク質を発現するHEK293細胞を、HEA125−FITCおよびKIJY2−555を用いて同時に染色した。 染色の結果を図3に示す。図3のそれぞれは以下の通りである。A:空ベクター、B:全長ヒトEpCAM構築物、C〜E:マウスEGFドメイン、TYドメイン、またはCP領域で置換されたEpCAM構築物(それぞれ、Hyb.1、Hyb.2、またはHyb.3)。図3のA〜Eについては、左からそれぞれ、位相コントラスト画像、FITC蛍光画像、およびHiLyte Fluor 555蛍光画像を示す。なお、対物レンズとしては20×Plan Apoを用いた。また、図3のFはエピトープマッピングの内容を要約した説明図であり、黒塗り領域は置換マウスEpCAMを示す。 図3に示す結果から、HEA−125およびKIJY2抗体は、それぞれEpCAM分子の異なる部分を認識することを示している。具体的には、図3のBに示されるように、完全なEpCAMはHEA125−FITCおよびKIJY2−555の双方により染色された。そして、図3のCに示されるように、EGFドメインを欠くHyb.1はKIJY2−555により染色されたが、HEA−125により染色されなかった。この結果は、HEA−125がヒト由来EpCAMのEGFドメインを認識するという従来の知見を裏付けるものである。また、図3のEに示されるように、CP領域を欠くHyb.3はHEA−125により染色されたが、KIJY2−555により染色されなかった。この結果から、KIJY2抗体はヒト由来EpCAMのCP領域を特異的に認識し、これと反応するものであることが示された。 EpCAMは細胞膜から切断される現象が知られている。この切断を調べるために、膜に近接するCP領域に特異的なモノクローナル抗体であるKIJY2抗体は、EpCAM切断を評価するのに有用であろう。また、CP領域に特異的な抗EpCAMモノクローナル抗体である311−1K1は、未変性のEpCAMを染色せず、かつ、FCMではうまく作用しないが、初期の報告では使用されていた。KIJY2抗体は、FCMでうまく作用するため未変性のEpCAMによりよく結合している図2Cに示される画像から、KIJY2抗体はVU−1D9抗体と同様にEpCAM低発現PC−3細胞(EpCAMlow)を検出できることが示されている。また、この画像から、KIJY2およびVU−1D9抗体が共局在化していることもわかる。 (がん細胞の同時検出) PC−3細胞へのKIJY2抗体の反応性をさらに定量化するために、FCM分析を行った。まず、従来エピトープがマッピングされていなかった抗ヒト由来EpCAMモノクローナル抗体であるEBA−1、EGFドメインに特異的な抗ヒト由来EpCAMモノクローナル抗体であるVU−1D9、および上記でCP領域に特異的なことが判明したKIJY2抗体の3種の抗体によるPC−3細胞への競合的結合性を試験した。 具体的には、まず、PC−3細胞(100μLのサンプル中に、2×105細胞)を、60分間、M−Buffer中で100μLの非希釈HEA−125(Abcam、ab46714)、4μgのVU−1D9、4μgのEBA−1(サンタクルーズバイオテクノロジー)、または4μgのKIJY2抗体(いずれも過剰量)とともに、またはこれらを含まずにプレインキュベートした。その後、15分間、10μLのHEA125−FITCを混合した。 上記のように処理したサンプルをFCM分析した結果(ヒストグラム)を図4のAに示す。図4のAに示すように、HEA125−FITCによって染色されたPC−3細胞のみがダブルピークのヒストグラムを示すことが繰り返し観察された(図4のA、最上段パネル)。なお、FS/SSスキャッタグラムでは特定の亜集団は識別されなかった(図示せず)。従来、同様のヒストグラムが報告されていることから、異種EpCAM発現が本来のPC−3細胞株の性質であると考えられる。また、細胞をHEA−125、VU−1D9、またはEBA−1抗体とともにプレインキュベートすると、陽性のシグナルが消え、またはかなり減弱した(図4のA、下の3つのパネル)。これらの結果から、EBA−1はEpCAMのEGFドメインに特異的なモノクローナル抗体であり、EBA−1およびVU−1D9抗体はEGFドメインでHEA−125のエピトープに対して競合的に結合することが示された。これに対し、KIJY2抗体でプレインキュベートしたサンプルのFITCヒストグラムにはほとんど変化がなかった(図4のA、上から2つめのパネル)。このことから、KIJY2抗体の事前の結合は、その後のHEA−125の結合反応を妨げなかったことがわかる。つまり、KIJY2抗体のエピトープは、HEA−125とは異なることが確認された。 続いて、HEA125−FITCおよび、HiLyte Fluor 647で標識されたKIJY2抗体(KIJY2−647)によるPC−3細胞の二重染色試験を行った。 具体的には、PC−3細胞を、30分間、HEA125−FITC(10μL)およびKIJY2−647(0.4μg)と同時に混合した。洗浄後、細胞をCytomics FC 500 Flow Cytometry System(ベックマン・コールター)によって分析した。なお、励起波長は、FITCで488nm、HiLyte Fluor 647で633nmであった。また、検出チャンネルは、FL1(495〜555nm)およびFL4(645〜705nm)であった。比較のために、10000事象ごとのデータを取得した。 結果を図4のBに示す。なお、図4のBにおいて、上段のパネルは、蛍光補正後に得られたスキャッタグラムである。このスキャッタグラムに示されるように、PC−3細胞株細胞集団におけるEpCAM高発現の亜集団(EpCAMhigh)およびEpCAM低発現の亜集団(EpCAMlow)をともに共染色することができた。 また、図4のBにおいて、下段のパネルは、KIJY2−647およびHEA125−FITCの双方で染色された細胞のヒストグラムを、いずれか一方のみの抗体で染色したヒストグラムと比較した結果を示す図である(上のパネルがKIJY2−647単独との対比であり、下のパネルがHEA125−FITCとの対比である)。これらのヒストグラムに示されるように、FITCおよびHiLyte Fluor 647の双方において蛍光強度の若干の減少およびEpCAMhighからEpCAMlowへの分布シフトが、各単一色素を用いた染色のヒストグラムに対して観察された。ここで、EpCAMはダイマーまたはテトラマーを形成する傾向にあることが知られており、上述したようにKIJY2抗体はPFAで固定されたEpCAMを認識しない(図2B)。このように、KIJY2抗体は、他の抗体またはPFA架橋による構造が固定化された分子よりも、膜での遊離形態のEpCAM分子を優先的に認識している可能性がある。 なお、KIJY2−647は、HEA−125が存在するか否かにかかわらず、バックグラウンドシグナルから全PC−3細胞を識別できるという点に留意すべきである。PC−3が51,667 EpCAM/細胞を発現するという従来の報告によると、EpCAM低発現細胞の下限は、FCM分析で約2,000 EpCAM/細胞と推定される。この値は、転移性がん患者から推定されるEpCAM陽性CTCにおけるEpCAMの発現量(細胞あたり、9,900〜246,000分子)をカバーするのに十分である。 〔配列番号:1〕 ヒト由来EpCAMをコードする遺伝子のCDS(終止コドン含む)のヌクレオチド配列(NCBI RefSeq Accession Number: NM_002354)である。 〔配列番号:2〕 ヒト由来EpCAMのアミノ酸配列(NCBI RefSeq Accession Number: NP_002345)である。 〔配列番号:3〕 実施例において合成したHyb.1(マウスEpCAMのEGFドメインを有する)をコードするcDNAのヌクレオチド配列である。 〔配列番号:4〕 実施例において合成したHyb.2(マウスEpCAMのTYドメインを有する)をコードするcDNAのヌクレオチド配列である。 〔配列番号:5〕 実施例において合成したHyb.3(マウスEpCAMのCP領域を有する)をコードするcDNAのヌクレオチド配列である。 ヒト由来上皮細胞接着分子(EpCAM)に対するモノクローナル抗体であって、ヒト由来上皮細胞接着分子(EpCAM)のCP領域に対して特異的に反応するモノクローナル抗体。 ヒト由来上皮細胞接着分子(EpCAM)のN末端EGF様ドメインに反応しない、請求項1に記載のモノクローナル抗体。 サブクラスがマウスIgMである、請求項1または2に記載のモノクローナル抗体。 受領番号がNITE ABP−1449であるハイブリドーマKIJY2により産生される、ヒト由来上皮細胞接着分子(EpCAM)に対するモノクローナル抗体。 請求項4に記載のモノクローナル抗体と同一のエピトープに結合するモノクローナル抗体。 以下の工程: (a)被験者から血液試料を採取する工程;および、 (b)請求項1〜5のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体を用いて、前記血液試料に含まれる循環腫瘍細胞を検出する工程、を含む、循環腫瘍細胞の検出方法。 前記モノクローナル抗体が蛍光標識されたものである、請求項6に記載の検出方法。 前記(b)工程において、ヒト由来上皮細胞接着分子(EpCAM)のN末端EGF様ドメインに対して特異的に反応する第2のモノクローナル抗体をさらに用いる、請求項6または7に記載の検出方法。 前記第2のモノクローナル抗体が磁性ビーズに結合したものである、請求項8に記載の検出方法。 前記(b)工程を、完全循環腫瘍細胞計数分析(iCeap)法により行う、請求項6〜9のいずれか1項に記載の検出方法。 請求項6〜10のいずれか1項に記載の検出方法に用いられる循環腫瘍細胞検出用キットであって、請求項1〜5のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体を含む、循環腫瘍細胞検出用キット。 受領番号がNITE ABP−1449であるハイブリドーマKIJY2。 【課題】従来公知の抗EpCAMモノクローナル抗体が認識するエピトープ( N末端EGF様ドメイン)とは異なるエピトープを特異的に認識する抗EpCAMモノクローナル抗体の提供。【解決手段】ヒト由来上皮細胞接着分子(EpCAM)に対するモノクローナル抗体であって、ヒト由来上皮細胞接着分子(EpCAM)のCP領域に対して特異的に反応するモノクローナル抗体、および受託番号がNITE BP−1449であるハイブリドーマにより産生される、ヒト由来上皮細胞接着分子(EpCAM)に対するモノクローナル抗体。【選択図】図3配列表20130903A16333全文3 ヒト由来上皮細胞接着分子(EpCAM)に対するモノクローナル抗体であって、ヒト由来上皮細胞接着分子(EpCAM)のCP領域に対して特異的に反応するモノクローナル抗体。 ヒト由来上皮細胞接着分子(EpCAM)のN末端EGF様ドメインに反応しない、請求項1に記載のモノクローナル抗体。 サブクラスがマウスIgMである、請求項1または2に記載のモノクローナル抗体。 受託番号がNITE BP−1449であるハイブリドーマKIJY2により産生される、ヒト由来上皮細胞接着分子(EpCAM)に対するモノクローナル抗体。 請求項4に記載のモノクローナル抗体と同一のエピトープに結合するモノクローナル抗体。 以下の工程: (a)被験者から血液試料を採取する工程;および、 (b)請求項1〜5のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体を用いて、前記血液試料に含まれる循環腫瘍細胞を検出する工程、を含む、循環腫瘍細胞の検出方法。 前記モノクローナル抗体が蛍光標識されたものである、請求項6に記載の検出方法。 前記(b)工程において、ヒト由来上皮細胞接着分子(EpCAM)のN末端EGF様ドメインに対して特異的に反応する第2のモノクローナル抗体をさらに用いる、請求項6または7に記載の検出方法。 前記第2のモノクローナル抗体が磁性ビーズに結合したものである、請求項8に記載の検出方法。 前記(b)工程を、完全循環腫瘍細胞計数分析(iCeap)法により行う、請求項6〜9のいずれか1項に記載の検出方法。 請求項6〜10のいずれか1項に記載の検出方法に用いられる循環腫瘍細胞検出用キットであって、請求項1〜5のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体を含む、循環腫瘍細胞検出用キット。 受託番号がNITE BP−1449であるハイブリドーマKIJY2。A1633000183 また、本発明の第2の形態によれば、受託番号がNITE BP−1449であるハイブリドーマKIJY2により産生される、ヒト由来EpCAMに対するモノクローナル抗体が提供される。A1633000233 そして、本発明の第6の形態によれば、受託番号がNITE BP−1449であるハイブリドーマKIJY2が提供される。A1633000403 微生物の識別の表示:KIJY2 受託番号:NITE BP−1449 受託日(原寄託日):2012年11月2日 選抜およびクローニングされたハイブリドーマを培養することにより、前記の性質を有する抗ヒトEpCAMモノクローナル抗体を製造することができる。ハイブリドーマの培養は、動物の腹腔内で行ってもよく、ディッシュ等を用いてインビトロで行ってもよい。動物の腹腔内でハイブリドーマを培養する場合には、腹水を採取し、その腹水からモノクローナル抗体を単離・精製することができる。インビトロで培養する場合には、その培養液からモノクローナル抗体を単離・精製することができる。A1633000423 KIJY2(受託番号がNITE BP−1449であるハイブリドーマ)により産生される抗ヒトEpCAMモノクローナル抗体と同一のエピトープに結合するモノクローナル抗体、換言すれば、KIJY2により産生される抗ヒトEpCAMモノクローナル抗体と「機能的に同等」であるモノクローナル抗体も、本発明に含まれる。このようなモノクローナル抗体を得るには、例えば、KIJY2により産生される抗ヒトEpCAMモノクローナル抗体のエピトープを、ヒトEpCAMタンパク質の部分ペプチド等を用いたエピトープマッピング法により解析する。そして、同定されたエピトープを含む合成ペプチドを抗原として用い、前記抗ヒトEpCAMモノクローナル抗体と同一のエピトープに結合するモノクローナル抗体を得ればよい。なお、2つの抗体についてエピトープが同一か否かを調べる方法としては、競合実験による方法が挙げられる。例えば、KIJY2により産生される抗ヒトEpCAMモノクローナル抗体を第一抗体とする。そして、当該第一抗体とヒトEpCAMとの結合が、試験対象である第二抗体によって競合阻害を受ける場合には、当該第二抗体は、前記第一抗体と同じエピトープに結合するものであるといえる。


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