タイトル: | 公開特許公報(A)_架橋密度の試験方法 |
出願番号: | 2012236747 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | G01N 24/08 |
小森 佳彦 林 繁信 JP 2014085309 公開特許公報(A) 20140512 2012236747 20121026 架橋密度の試験方法 住友ゴム工業株式会社 000183233 独立行政法人産業技術総合研究所 301021533 特許業務法人 安富国際特許事務所 110000914 小森 佳彦 林 繁信 G01N 24/08 20060101AFI20140415BHJP JPG01N24/08 510LG01N24/08 510N 10 OL 11本発明は、ゴム組成物の架橋密度を正確に評価できる架橋密度の試験方法に関する。タイヤ等に使用されるゴム組成物は加硫(架橋)されており、ゴム組成物の架橋密度を測定することはゴム物性を制御する上で重要である。架橋密度を測定する手法として、トルエン膨潤法が知られており、指標としてよく使用されている。トルエン膨潤法とは、例えば、特許文献1に記載されているように、ゴムをトルエンに膨潤させて、その体積や質量の変化を測定するものであり、架橋密度が高くなると、膨潤しにくくなることを原理としている。しかしながら、トルエン膨潤法は、架橋密度を正確に評価することができないという点で改善の余地がある。特開2011−84650号公報本発明は、前記課題を解決し、ゴム組成物の架橋密度を正確に評価することができる架橋密度の試験方法を提供することを目的とする。本発明者らが検討した結果、前述のトルエン膨潤法は、フィラーを含まない純ゴムには適用できるが、フィラーを含有するゴム組成物の場合、架橋密度を正確に測定できないことが明らかとなった。ここでいう架橋とは、硫黄架橋によって高分子鎖の運動が束縛されることを意味する。フィラーを含有しないゴム組成物の場合、トルエンの膨潤度は硫黄架橋の程度(架橋密度)を反映しており、架橋密度が高いと膨潤しにくく、架橋密度が低いと膨潤しやすい傾向がある。この関係より、膨潤度から架橋密度を推定することが可能となる。フィラーを含むゴム組成物の場合、フィラーとゴムとの相互作用により、必ずしも前記の関係が成り立たない。つまり、架橋密度が同程度でも、フィラーとゴムとの相互作用が大きい場合、膨潤しにくい場合がある。例えば、カーボンブラックの含有量以外は全く同じ組成のゴム組成物について、トルエン膨潤度を比較した場合、カーボンブラックを含有しないゴム組成物のトルエン膨潤度が374%であるのに対し、カーボンブラックを50質量部含有したゴム組成物のトルエン膨潤度は275%となる。これらのゴム組成物は硫黄量が同じであるため、架橋密度は同程度であると推測されるが、カーボンブラックとゴムとの間の相互作用によってトルエン膨潤度が低くなり、見かけ上の架橋密度が高くなっていると考えられる。このように、フィラーを含有するゴム組成物の場合、トルエン膨潤度は硫黄の架橋密度を正確に反映しているとは考えにくいという問題がある。また、NMR測定で得られる横緩和時間定数(T2)からゴム組成物の架橋密度を評価する手法も知られているが、本発明者らが検討した結果、横緩和時間定数と膨潤度の間には相関性はなく、横緩和時間定数だけでは架橋密度を正確に評価することはできないことが明らかとなった。図1は、フィラーを含有していないイソプレンゴム組成物において、硫黄量及び加硫促進剤量を変化させることにより架橋密度を変化させた試料の膨潤度(Swell)と横緩和時間定数(T2)との関係を示すグラフである。図1から、横緩和時間定数は、架橋密度を反映する膨潤度と相関がなく、横緩和時間定数では、加硫ゴム組成物の架橋密度を正確に判定できないことがわかる。そこで、本発明者らは、架橋密度を反映する新しい尺度として、残留双極子結合定数(Dres)に着目した。ここでいう双極子はプロトンに対応する。残留双極子結合定数とは、残存しているプロトン間のカップリングの大きさであり、プロトン−プロトン間の相互作用の大きさを意味する。プロトン−プロトン間の相互作用が大きくなると、残留双極子結合定数の値は大きくなる。また、プロトン−プロトン間の相互作用が小さいと、残留双極子結合定数の値は小さくなる。架橋密度が高くなると、プロトン−プロトン間の相互作用が大きくなり、残留双極子結合定数が大きくなる。実際に、フィラーを含有していないイソプレンゴム組成物において、硫黄量及び加硫促進剤量を変化させることにより架橋密度を変化させた試料の膨潤度(Swell)と残留双極子結合定数(Dres)とを測定した結果を図2に示す。図2に示すように、膨潤度が小さくなると(架橋密度が高くなると)、残留双極子結合定数が大きくなる傾向がある。従って、膨潤度、すなわち架橋密度は、残留双極子結合定数と相関があることがわかる。そして、本発明者らが更に検討した結果、架橋密度を反映する尺度として残留双極子結合定数を用いることで、フィラーの影響を受けずに、ゴム組成物の架橋密度を正確に評価できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、ゴム組成物の架橋密度を残留双極子結合定数から判定する架橋密度の試験方法に関する。上記ゴム組成物がフィラーを含むことが好ましい。上記ゴム組成物のNMR測定を行い、得られた横磁化減衰曲線を解析して上記残留双極子結合定数を求めることが好ましい。上記横磁化減衰曲線の解析において、上記残留双極子結合定数に分布関数を導入することが好ましい。上記NMR測定において、ハーンエコー法を用いて上記横磁化減衰曲線を得ることが好ましい。上記NMR測定において、プロトン共鳴周波数が50MHz以下のNMR装置を用いて上記横磁化減衰曲線を得ることが好ましい。上記ゴム組成物がスチレンブタジエンゴムを含むことが好ましい。上記ゴム組成物がイソプレンゴムを含むことが好ましい。上記ゴム組成物がスチレンブタジエンゴムを含む場合、40〜150℃の測定温度でNMR測定を行うことが好ましい。本発明はまた、上記試験方法で測定される残留双極子結合定数が50〜1500Hzであるゴム組成物に関する。本発明によれば、ゴム組成物の架橋密度を残留双極子結合定数から判定する架橋密度の試験方法であるので、架橋密度を正確に評価することができる。従って、フィラーを含まないゴム組成物だけでなく、フィラーを含むゴム組成物についても、架橋密度を正確に評価することができる。フィラーを含有していないイソプレンゴム組成物において、硫黄量及び加硫促進剤量を変化させることにより架橋密度を変化させた試料の膨潤度(Swell)と横緩和時間定数(T2)との関係を示すグラフである。フィラーを含有していないイソプレンゴム組成物において、硫黄量及び加硫促進剤量を変化させることにより架橋密度を変化させた試料の膨潤度(Swell)と残留双極子結合定数(Dres)との関係を示すグラフである。NMR測定で得られた横磁化減衰曲線を示すグラフである。実施例で評価したIR04における架橋剤の状態を示す模式図である。実施例で評価したIR05における架橋剤の状態を示す模式図である。本発明は、ゴム組成物の架橋密度を残留双極子結合定数から判定する架橋密度の試験方法である。残留双極子結合定数を用いることで、フィラーを含有しないゴム組成物だけでなく、フィラーを含有するゴム組成物についても、架橋密度を正確に評価することができる。これは、残留双極子結合定数は、フィラーの影響を受けないゴムマトリックス部分のみの架橋密度を反映しているためであると考えられる。残留双極子結合定数は、例えば、1H−NMR測定で得られる横磁化減衰曲線から求めることができる。横磁化減衰曲線を得る手法としては、ソリッドエコー法、ハーンエコー法、CPMG法などが知られているが、残留双極子結合定数を正確に求めるためには、ハーンエコー法が好ましい。ハーンエコー法で測定される横磁化減衰曲線の減衰パラメータは、横緩和時間定数(T2)と残留双極子結合定数(Dres)の2つを含んでいる。そこで、横磁化減衰曲線のフィッティングを行う場合は、横緩和時間定数と残留双極子結合定数を分離することが必要となる。横磁化減衰曲線は、例えば、下記式に変形してフィッティングを行うことができる。下記式では、ゴム組成物がA、B及びCの3成分で構成されていると仮定している。Dres.A、Dres.Bは、それぞれA成分のDres、B成分のDresを意味する。また、M(t)はある時間tにおける磁化の強度を、M(0)は初期の磁化の強度を意味する。なお、横緩和時間定数は別の手法で測定することも可能である。ゴム組成物の場合、ゴム高分子鎖の運動の速さを考慮すると、横緩和時間定数(T2)=スピンロック時の緩和時間定数(T1ρ)が原理的におおよそ成り立つ。そこで、T1ρを測定することで、その値をT2として代用することが可能である。上述の残留双極子結合定数を決定する手順をまとめると、下記(1)〜(3)となる。(1)ハーンエコー法により、横磁化減衰曲線を得る。(2)T1ρ(スピンロック時の緩和時間定数)を求める。(3)T2=T1ρと仮定して、横磁化減衰曲線からDresを求める。ゴム中の分子構造は非晶質であり、プロトン−プロトン間距離は単一ではない。よって、プロトン−プロトン間相互作用の大きさも単一ではなく、分布をもつと考えられる。そこで、残留双極子結合定数に分布関数を導入して解析することが好ましい。分布関数としては、例えば、下記式が挙げられる。下記式において、F(S)は頻度、βAは分布幅に関係する定数を意味する。また、RAは前述の横磁化減衰曲線のフィッティング関数におけるRAを、RAmはその平均値を意味する。NMR測定に使用する装置は、低磁場のNMR装置が好ましく、具体的には、50MHz以下のNMR装置が好ましい。市販されているタイプでは、20MHzのNMR装置が好ましい。高磁場になると、化学シフトの影響を受けて、横磁化減衰曲線の解析が複雑になる、又は、解析できないおそれがある。また、20MHz未満になると、シグナルが弱くなり、解析が複雑になる、又は、解析できないおそれがある。測定温度は試料により変更してもよい。架橋密度の変化に伴う残留双極子結合定数の変化は±20Hz程度である。例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)の場合、室温で測定する残留双極子結合定数は1000Hz程度であり、±20Hz程度の差は判別しがたい。そこで、測定温度を100℃程度にあげることにより、残留双極子結合定数が200Hz程度となり、±20Hz程度の差が判別しやすくなる。高分子成分がSBRのみの場合、測定温度は40〜150℃が好ましい。本発明の試験方法は、ゴム成分を複数種含むゴム組成物に適用して、架橋密度をゴム成分ごとに分離して判定することもできる。例えば、室温測定において、SBRの残留双極子結合定数は1000Hz程度、IRは200Hzであり、SBR及びIRのブレンドゴムを測定した場合は、2成分として観測される。そのため、SBR及びIRのそれぞれについて架橋密度を測定することが可能となる。この場合は、測定温度を上げると、SBR、IRともに200Hz程度となり、両者の区別がつきにくくなるので、両者を区別して測定する場合は、室温(307K程度)での測定が好ましい。本発明の試験方法で測定するゴム組成物において、ゴム成分としては特に限定されず、前述のSBR、IRなどの一般的なものを使用できる。また、フィラーについても同様に、カーボンブラック、シリカなどの一般的なものを使用できる。本発明の試験方法で測定するゴム組成物は、硫黄や加硫促進剤等の加硫剤によって加硫されたものである。硫黄や加硫促進剤については特に限定されず、一般的なものを使用できる。本発明の試験方法で測定される残留双極子結合定数が、室温で測定した場合に、50〜1500Hz(好ましくは100〜1000Hz、より好ましくは150〜900Hz)であるゴム組成物は、タイヤ用途に好適である。実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。〈ゴム組成物の作製に使用した試薬〉イソプレンゴム(IR):日本ゼオン(株)製のIR2200(cis−1,4−ポリイソプレン)スチレンブタジエンゴム(SBR):ランクセス社製のVSL5025カーボンブラック(CB):キャボットジャパン(株)製のN220シリカ:Rhodia社製の115GRシランカップリング剤:EVONIK−DEGUSSA社製のSi266(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄加硫促進剤NS:大内新興化学工業(株)製のノクセラ−NS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)加硫促進剤CZ:大内新興化学工業(株)製のノクセラ−CZ(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)加硫促進剤D:大内新興化学工業(株)製のノクセラ−D(1,3−ジフェニルグアニジン)亜鉛華:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華2種ステアリン酸:日油(株)製の椿〈ゴム組成物の作製〉表1〜4の配合処方に従い、ゴム、フィラー(CB、シリカ/シランカップリング剤)、添加剤(硫黄、加硫促進剤、亜鉛華、ステアリン酸)を混練機で混合した後、150℃でプレスすることで加硫ゴムを得た。シリカ配合では、シランカップリング剤を添加しない試料も作製した。〈1H−NMR測定(実施例)〉ブルカー社製のBruker Minispec mq20(測定周波数:19.65 MHz)を用いて加硫ゴムの1H−NMR測定を行い、横磁化減衰曲線を得た。測定パルスはHahn echo法(90°−τ−180°−τ−echo)を用いた。T1ρ測定はspin−lock法を用い、spin−lock fieldは12kHzとした。なお、特に記載が無い場合、測定は室温(307K)で行った。横磁化減衰曲線は以下の式に変形してフィッティングを行った。また、残留双極子結合定数は下記式に示す分布関数を導入して解析した。〈膨潤度測定(比較例)〉トルエン溶媒を用いて、加硫ゴムの体積膨潤度を測定した。上記方法によって解析した例を図3に、解析に用いたパラメータを表1に示す。図3より、非常によくフィッティングできているのがわかる。なお、この例ではC成分の存在は認められなかった。〈IR含有ゴム組成物の評価結果〉ポリマーとしてIRを用いたゴム組成物の評価結果を下記表2に示す。なお、表2において、Dres変化率は、IR01のDresを100としてその比で示した。フィラーを配合しないIR01と、CBを配合したIR02、IR03との比較から、CBを配合すると膨潤度は減少するが、Dresは変化しないことがわかる。すなわち、膨潤度の結果では、CBとポリマーとの相互作用によって見かけ上架橋密度が向上しているように見えると考えられるが、Dresの結果では、架橋密度は変化していないことがわかる。シリカを配合し、シランカップリング剤を配合しないIR04は、シリカ及びシランカップリング剤の両方を配合したIR05と比較して、Dresが低く、架橋密度が低くなっていることがわかる。これは、図4に示すように、シリカが加硫促進剤等の架橋剤を吸着し、吸着された架橋剤が失活されてしまうことで、架橋が阻害されたためであると推測される。シリカ及びシランカップリング剤の両方を配合したIR05では、図5に示すように、シリカ表面をシランカップリング剤が被覆することで、シリカによる架橋の阻害が抑制され、高い架橋密度が得られていると推測される。〈SBR含有ゴム組成物の評価結果〉次に、ポリマーとしてSBRを用いたゴム組成物の評価結果を下記表3に示す。なお、表3において、Dres変化率は、SBR01のDresを100としてその比で示した。SBRでもIRの場合と同様の傾向が得られており、膨潤度の結果では、シリカやカーボンブラックを配合すると値が低下し、架橋密度が高くなっているように見えるが、Dresの結果では、値があまり変化しておらず、架橋密度に変化がないことがわかる。また、室温測定(307K)では、Dresが800Hz前後の値であり、解析に任意性がでて、ばらつきが大きい。この場合、任意性が±100Hz程度である。一方、360Kで測定することで、Dresが200Hz程度の値となり、ばらつきが少ない解析が可能となる。〈SBR及びIR含有ゴム組成物の評価結果〉次に、SBR及びIRをブレンドして用いたゴム組成物の評価結果を下記表4に示す。なお、表4において、SBRのDres変化率はBlend01のA成分のDresを、IRのDres変化率はBlend05のB成分のDresを100としてその比で示した。膨潤度の結果では、ブレンドゴム全体が400%前後であるという結果しか得ることができず、SBR、IRのそれぞれの架橋密度の値は評価できない。一方、横磁化減衰曲線を解析すると、2成分が検出され、SBR、IRの架橋密度を別々に評価できる。SBR、IRをブレンドしたBlend02〜04の場合、SBR、IRともにDresが低い値となっている。これは、ブレンドすることで両相の架橋状態がゆるくなっているか、又は、分子鎖の運動がしやすくなっていると推測される。以上の結果から、Dresよりゴム組成物の架橋密度を求める手法は非常に有用であると考えられる。1 ゴムマトリックス2 架橋剤2’失活した架橋剤3 シリカ4 シランカップリング剤ゴム組成物の架橋密度を残留双極子結合定数から判定する架橋密度の試験方法。前記ゴム組成物がフィラーを含む請求項1記載の架橋密度の試験方法。前記ゴム組成物のNMR測定を行い、得られた横磁化減衰曲線を解析して前記残留双極子結合定数を求める請求項1又は2記載の架橋密度の試験方法。前記横磁化減衰曲線の解析において、前記残留双極子結合定数に分布関数を導入する請求項3記載の架橋密度の試験方法。前記NMR測定において、ハーンエコー法を用いて前記横磁化減衰曲線を得る請求項3又は4記載の架橋密度の試験方法。前記NMR測定において、プロトン共鳴周波数が50MHz以下のNMR装置を用いて前記横磁化減衰曲線を得る請求項3〜5のいずれかに記載の架橋密度の試験方法。前記ゴム組成物がスチレンブタジエンゴムを含む請求項1〜6のいずれかに記載の架橋密度の試験方法。前記ゴム組成物がイソプレンゴムを含む請求項1〜7のいずれかに記載の架橋密度の試験方法。40〜150℃の測定温度でNMR測定を行う請求項7記載の架橋密度の試験方法。請求項1〜9のいずれかに記載の試験方法で測定される残留双極子結合定数が50〜1500Hzであるゴム組成物。 【課題】ゴム組成物の架橋密度を正確に評価することができる架橋密度の試験方法を提供する。【解決手段】ゴム組成物の架橋密度を残留双極子結合定数から判定する架橋密度の試験方法に関する。【選択図】なし