生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_カイコ由来細胞株
出願番号:2012232267
年次:2014
IPC分類:C12N 5/07,C12N 1/36,C12N 5/10,C12N 15/09


特許情報キャッシュ

岩永 将司 JP 2014082954 公開特許公報(A) 20140512 2012232267 20121019 カイコ由来細胞株 国立大学法人宇都宮大学 304036743 廣田 雅紀 100107984 小澤 誠次 100102255 東海 裕作 100096482 ▲高▼津 一也 100120086 堀内 真 100131093 岩永 将司 C12N 5/07 20100101AFI20140415BHJP C12N 1/36 20060101ALI20140415BHJP C12N 5/10 20060101ALI20140415BHJP C12N 15/09 20060101ALI20140415BHJP JPC12N5/00 202ZC12N1/36C12N5/00 102C12N15/00 A 4 OL 13 4B024 4B065 4B024AA03 4B024AA20 4B024BA26 4B024CA02 4B024DA02 4B024EA04 4B024FA02 4B024GA11 4B065AA90X 4B065AA91Y 4B065AB01 4B065AC14 4B065BA02 4B065BA23 4B065BB32 4B065CA24 4B065CA46 4B065CA60 本発明は、無血清培地に順化したBmN4細胞変異株や、該BmN4細胞変異株を培養することによる目的タンパク質の生産方法に関する。 昆虫細胞と核多角体病ウイルス(Nucleopolyhedorovirus: NPV)(これ以後「バキュロウイルス」ともいう)とを組み合わせたバキュロウイルス遺伝子発現ベクター系は、大腸菌では困難なタンパク質のフォールディングや翻訳後修飾を行うことができ、膜タンパク質の発現に適しているため、有用タンパク質の発現系として注目されている。 バキュロウイルスは、感染細胞の核内にポリヘドリンというタンパク質からなる多角体を大量に作るが、ポリヘドリン遺伝子の非常に強力なプロモーターにより、その発現量は感染後期には細胞タンパク質の半分近くにも達するといわれている。しかし、多角体はウイルスの増殖そのものには必要ではなく、ポリヘドリンの代わりに目的タンパク質遺伝子を組み込んでも感染や増殖作用に変化はないので、上記ポリヘドリン遺伝子プロモーターの下流に目的タンパク質遺伝子が組み込まれた組換えバキュロウイルスを用いて、ウイルスが感染した昆虫細胞内や昆虫培養細胞株内で目的タンパク質を大量に発現させることが試みられてきた。 哺乳動物細胞では通常約60回で細胞分裂が終了するため、がん化した細胞株を除いては、連続継代性の哺乳動物培養細胞株は未だ樹立されていない。これに対し、昆虫細胞由来の連続継代性の培養細胞株の樹立については複数報告があり、特に日本では、古くから養蚕が盛んであったため、カイコから樹立した細胞は多数報告されている。中でもカイコ卵巣から樹立されたBmN4細胞株(例えば、非特許文献1参照)は、BmNPVに高い感受性を示すため、目的遺伝子がBmNPVのゲノム上で作動可能なように組み込む作業、即ち組換えバキュロウイルスの作製の際の宿主細胞として、更にこの様にして作製した組換えバキュロウイルスを用いて有用タンパク質を大量に生産するための宿主細胞株として広く産業利用されている。 しかしながら、上記BmN4細胞株は、細胞の増殖とBmNPVの感染のためには、牛胎児血清(FBS)等動物由来の血清成分の培地への添加が不可欠であるとされており、そのため培養に際して、血清成分に混入したタンパク性感染因子によって汚染が生じるおそれがあり、また、血清成分のロット間による作用効果の差が生じるおそれがあった。 BmNPV感受性のカイコ由来連続継代性細胞株としては、酵母抽出物、ラクトアルブミン、シルクパウダーを含む昆虫細胞培養用培地において培養されるNIAS−Bm−Ke1細胞(受託番号 FERM P−20572)(例えば、特許文献1参照)や、該NIAS−Bm−Ke1細胞から連続継代性の培養細胞株をクローニングすることにより作出されたNIAS−Bm−Ke17株(受託番号FERM P−21829)が報告されているが、かかるNIAS−Bm−Ke17株は、BmNPV感染をより効果的に誘発するためには、2〜5℃における低温処理や、カイコの体液を添加することなどが必要であった(例えば、特許文献2参照)。また、BmNPV感受性がBmN4の3倍であるBme21細胞株についての報告もあるが、かかる細胞株も培養やウイルス感染には、10%FBSが添加された培地が用いられている(例えば、特許文献3参照)特開2007−75102号公報特開2011−67203号公報国際公開2007/125982号パンフレットMaeda S. et al.,(1985) Nature 315, 592-594 本発明の課題は、無血清培地にて継代培養することができ、カイコ等の昆虫の体液の他、動物や昆虫由来の血液成分の非存在下で低温処理を行うことなくウイルス感染することができるカイコ培養細胞株を提供することにある。 本発明者らは、インターフェロンの生産に用いられる等、研究や産業利用の面で最も実績のあるBmN4細胞を親株として選択し、無血清培地で培養を試みた。多くの細胞は継代培養後まもなく死滅し、残りの細胞も数回継代した後死滅したが、数十個の細胞は継代培養で生存することがわかった。しかし、そのほとんどは50回程度の継代培養後に死滅した。その中で、数個の細胞を2年間にわたり200回ほど継代を続けた結果、無血清培地で半永久的に増殖可能な連続継代性BmN4細胞変異株(BmN−SFM株)として得ることができた。かかる知見をもとに、同様の実験を繰り返したところ、この方法で本発明において目的とする株を得ることができることを確認した。さらに、かかるBmN−SFM株にBmNPVの感染を試みたところ、まったく思いがけず、従前必要とされていた低温処理や、カイコの体液や動物の血液の添加等の処理を行うことをせずに、BmNPVが容易に感染することを確認した。また、目的タンパク質をコードするDNAが作動可能なように組み込まれたBmNPV(以下「組換えBmNPV」ともいう。)を感染させたBmN−SFM細胞株は、親株であるBmN4細胞株と同等の組換えタンパク質生産能を有することを確認した。本発明は上記の知見に基づき完成されるに至ったものである。 すなわち、本発明は、(1)無血清培地で増殖可能であって、BmNPV感受性とするために、2〜5℃の低温処理をすることなく、かつ、カイコの体液又は動物の血液を必要とせず、26℃の温度条件下でBmNPV感受性であることを特徴とするBmN4細胞変異株;(2)BmN−SFM細胞株(NITE P−1418)であることを特徴とする上記(1)記載のBmN4細胞変異株;(3)目的タンパク質をコードするDNAが作動可能なように組み込まれた組換えBmNPVに感染していることを特徴とする上記(1)又は(2)記載のBmN4細胞変異株;に関する。 また、本発明は、(4)上記(3)記載のBmN4細胞変異株を培養することを特徴とする目的タンパク質の生産方法;に関する。 本発明のBmN4細胞変異株によれば、無血清培地にて継代培養することが可能であり、培養温度にて目的タンパク質をコードするDNAが作動可能なように組み込まれた組換えBmNPVに感染させることができ、組換えBmNPVに感染した上記BmN4細胞変異株は目的タンパク質を産生することができる。親株BmN4細胞と本願発明のBmN−SFM細胞の形態を示した図である。Rは、Round cellを、Spは、Spindle-shaped cellを示す。GEN1プライマー(5´-GTTTCGCTCC-3´)、GEN2プライマー(5´-GGTGCGGGAA-3´)、GEN3プライマー(5´- CCCGTCAGCA -3´)の3種類のランダムプライマーを用いてRAPD PCRを行った。各プライマーにおいて、レーン1はBmN4細胞株,レーン2はBmN−SFM細胞株,レーン3はSf−9細胞株、レーン4はNIAS−BoMa−529b細胞株,レーン5はBmVF細胞株におけるRAPD PCRの結果を示す。FBS不含BmNPVをBmN4細胞及びBmN−SFM細胞にそれぞれ感染させ、感染後96時間経過時の細胞を光学顕微鏡下で観察した図である。図中のバーは50μmを示す。BmNPV感染後96時間経過時におけるBmNPVの増殖量を示す図である。縦軸はPFU/mLを示す。BmNPV感染後96時間経過時におけるポリヘドリンプロモーターの活性を示す図である。縦軸はルシフェラーゼの相対発光量(Relative Light Unit:RLU)/細胞を示す。組み換えバキュロウイルス発現系によるmIL3の細胞外分泌、糖鎖修飾の様子を示す図である。縦軸はタンパク質のサイズ(kDa)を示す。 本発明のBmN4細胞変異株としては、無血清培地で増殖可能であって、BmNPV感受性とするために、2〜5℃の低温処理をすることなく、かつ、カイコの体液又は動物の血液を必要とせず、26℃の温度条件下でBmNPV感受性である、無血清培地に順化した細胞変異株であれば特に制限されないが、NITE P−1418を特に好適に挙げることができる。なお、NITE P−1418は、平成24年(2012年)9月26日(受託日)付で特許微生物寄託センター(NPMD)に受託されている。BmN4細胞変異株の親株であるBmN4細胞株は、カイコ卵巣から樹立された連続継代性細胞株であり、細胞増殖やウイルス感染のためには血清培地にて培養を行うことを必要とする。この親株BmN4細胞株は、独立行政法人農業生物資源研究所、又はフナコシ株式会社から入手することができる。また、BmNPVは、カイコの幼虫、カイコの蛹及びカイコの培養細胞に感染して、感染した細胞の核内に多角体をつくる核多角体病ウイルス(バキュロウイルス)である。 本発明における無血清培地で増殖可能であるBmN4細胞変異株の作製方法としては、上記BmN4細胞株を前記無血清培地に播種し、20〜30℃、好ましくは23〜28℃、より好ましくは25〜27℃にて培養し、接着性が低調で増殖の悪い細胞を取り除きながら、細胞が培養フラスコ面にコンフルエントに増殖した時点で増殖性のよい細胞をピペッティングで培養フラスコ面から剥離し、新しい培養フラスコに移すことにより継代を行い、親株BmN4株と異なる特性を有し、半永久的に増殖可能である細胞として取得することができる。より具体的には、無血清培地でBmN4細胞株の培養を開始した場合、培養当初、BmN4細胞株は血清成分が増殖に必須とされているので増殖速度が顕著に低下するが、その内の数%の細胞株は次第に増殖速度が上昇して、ついには一定速度となり、その中でも数%の細胞株は植継ぎを行う間隔が一定してから相当期間、例えば、増殖速度が上昇し始めた時点から30〜80継代後、好ましくは40〜70継代後、より好ましくは50〜60継代後に、無血清培地で増殖可能である目的の細胞株として樹立することができる。 上記無血清培地としては、ウシ胎児血清、ウシ新生児血清、仔ウシ血清、ウシ血清、ウマ血清、ブタ血清、ヤギ血清、ウサギ血清、トリ血清、マウス血清、ラット血清、モルモット血清等の血清を含まない培地であれば特に制限されず、具体的には、Sf−900培地(インビトロジェン社製)、Sf−900II培地(インビトロジェン社製)、Sf−900培地III(インビトロジェン社製)、EX−CELL420培地(ニチレイ社製)、EX−CELL405培地(ニチレイ社製)、Hyclone SFX−Insect培地(サーモフィッシャー社製)、ESF921/ESF AF培地(アサヒガラス社製)、KBM710培地(コージンバイオ社製)、Insect−XPRESS培地(タカラバイオ社製)を挙げることができるが、Sf−900II培地が好ましい。 本発明のBmN4細胞変異株は、上述のとおり26℃の温度条件下でBmNPV感受性であることが必要であるが、本発明においてBmNPV感受性には、組換えBmNPVに感受性であることも含み、BmNPVに感受性であるとは、BmNPVに高い頻度で感染し、BmNPVを増殖できることをいい、具体的には、既に産業利用されているBmN4細胞株と比較して、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上のBmNPV感受性を有する場合を挙げることができる。また、BmNPV感受性の評価方法としては、例えば実施例2に記載されているとおり、細胞株に感染したBmNPV量をプラークアッセイによって測定する方法を例示することができ、また、実施例3に記載されているとおり、ルシフェラーゼ等のタンパク質の遺伝子を組み込んだ組換えウイルスを対象とする細胞に感染後、適時に細胞を回収し、ルシフェラーゼ等のタンパク質量をBmNPVの感染・増殖量として評価する方法も挙げることができる。 本発明のBmN4細胞変異株にBmNPVや組換えBmNPVを感染させる方法としては、例えば、以下の1)と2)の各ステップを備える方法を挙げることができる。1)上記無血清培地を用いて、本発明のBmN4細胞変異株をシャーレに播種し、さらにBmNPVや組換えBmNPVを無菌的にシャーレに添加し、20〜30℃、好ましくは23〜28℃、より好ましくは25〜27℃にて、15分〜5時間、好ましくは30分〜3時間、より好ましくは45分〜2時間ゆっくりと振盪するステップ。なお、BmNPVをBmN−4変異株の培養液に添加する場合のmoi(Multiplicity of Infection:感染多重度: 細胞1個に対するウイルスの数)としては、0.1〜100、好ましくは0.5〜50、より好ましくは1〜20、さらに好ましくは5〜15を挙げることができる。2)その後、添加したウイルス液をアスピレーターによって吸引除去した後、それぞれの細胞培養シャーレへ新鮮培地を添加するステップ。 上記組換えBmNPVの作製方法としては、常法によって行うことができるが、例えば、目的タンパク質をコードするDNAを、BmNPV用トランスファーベクター内のポリヘドリンプロモーターやp10プロモーター等の強力なプロモーターを備える発現調節部分の下流に作動可能に連結して組換えトランスファーベクターを作製し、かかる組換えトランスファーベクターと野生型のBmNPVとをBmNPV感受性細胞にコトランスフェクションして2〜7日、好ましくは3〜6日、より好ましくは4〜5日培養し、トランスファーベクターDNAとBmNPVのDNAとが相同組換えを行なうことによって産生した組換えBmNPVを限界希釈法やプラークアッセイ等の公知の方法によって精製する方法を挙げることができる。なお、上記BmNPVのゲノムDNAは直鎖化されたDNAを用いてもよい。また、目的タンパク質にはヘキサヒスチジン(6×His)、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、FLAGタグ等の検出・精製用のタグを付加することもできる。目的タンパク質をコードするDNAが組み込まれた組換えBmNPVは多角体の形成能がないことから、野性型のBmNPVと区別できる。 上記目的タンパク質としては、生理活性作用のあるタンパク質が好ましく、具体的には、ヒトインターフェロン−α、トリインターフェロン−γ、ブタインターフェロン−γ、ウシインターフェロン−β、ウシインターフェロン−τ、ネコインターフェロン−ω、イヌインターフェロン−α、イヌインターフェロン−γ等のインターフェロン類や、ヒトインターロイキン−1、トリインターロイキン−2、ブタインターロイキン−4等のインターロイキン類や、破傷風毒素断片C、百日咳主要表面抗原、HIV(ヒト免疫不全症ウイルス)インテグラーゼ、ヒトパピローマウイルスL1、インフルエンザHAタンパク質等の抗体産生を刺激することができるタンパク質などを挙げることができる。 上記BmNPV用トランスファーベクターとしては、市販のpBK283(フナコシ社製)を例示することができる。 本発明の目的タンパク質の生産方法としては、本発明のBmN4細胞変異株と上記組換えBmNPVとを用いて行う方法であれば特に制限されず、上記組換えBmNPVを本発明のBmN4細胞変異株に感染させることにより形質転換し、該形質転換BmN4細胞変異株を前記無血清培地で培養後、目的タンパク質を調製する方法を挙げることができる。例えば、目的タンパク質が精製用タグを融合した組換えタンパク質として発現している場合に、目的タンパク質が細胞内タンパク質のときは該形質転換BmN4細胞変異株を細胞可溶化剤で処理後に、また、目的タンパク質が分泌タンパク質のときは培養液の上清を回収後に、適宜カラム精製を行うことで目的タンパク質を精製することができる。なお、目的タンパク質を含む溶液に塩化ベンザルコニウム、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)又は界面活性剤などを添加することにより組換えBmNPVを不活化することができる。 本発明のBmN4細胞変異株は、BmNPV感受性とするために、2〜5℃の低温処理、例えば48時間の2〜5℃の低温処理をする必要がないばかりか、BmNPV感受性とするために、カイコの体液や動物の血液を必要とせず、かつ、少なくとも26℃の温度条件下においてBmNPV感受性であることが必要とされるが、本発明のBmN4細胞変異株は、好ましくは15〜30℃、より好ましくは20〜29℃、さらに好ましくは22〜28℃、特に好ましくは24〜27℃の温度条件下においてもBmNPV感受性であり、また、0〜20℃、好ましくは1〜10℃、より好ましくは2〜5℃等の低温処理をした場合に上記BmNPV感受性を有していてもよい。なお、発明のBmN4細胞変異株は、BmNPV感受性を維持するために、冷蔵装置が不要であり、低温処理に関する操作が不要であるというメリットがある。 以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。[無血清培地で培養可能な連続継代性の細胞株の樹立](親株の培養) 本発明の株を無血清培地で培養可能な連続継代性の細胞株として樹立するにあたり、親株として、発明者らの研究室に保存してあったカイコ卵巣から樹立された連続継代性の培養細胞株であるBmN4株を用いた。BmN4は26℃にて10%の牛胎児血清(FBS)を含むTC−100培地(SAFC Bioscience社製)で培養した後、無血清培地での継代培養に供した。BmNPVとしては、T3株を用いた。(継代培養) BmN4株の細胞を、培養フラスコ(グライナーバイオワン社製tissue culture flask 250mL No.658170)を用い、TC−100培地(SAFC Bioscience社製)12mLに1×108個播種し、26℃にて培養を開始した。その後、4日毎に培地の20%を無血清培地であるSf−900II培地(インビトロジェン社製)に置換し、合計10回の置換後、全ての培地を無血清培地であるSf−900II培地に置換した。その後、200回程度の継代を行った。 上記無血清培地への置換の過程において、又は置換後に、増殖性の悪い細胞を取り除きながら、細胞が培養フラスコ面にコンフルエントに増殖した時点で継代を行った。継代は、増殖性の悪く接着性が低下した細胞を極めて軽く培養フラスコを叩くことで剥離・除去し、その後、増殖性が良く、接着性の高い細胞を新しい培養フラスコに移すことにより行った。また、細胞の増殖度が低調な場合には、増殖が盛んであった時の培地を保存しておき、条件培地として10%程度加えた。この様にして無血清培地へと順化する過程の細胞の増殖速度は当初低調であったが、継代50代以降は増殖速度が徐々に増加し、継代80代以降は、増殖速度が安定化し、継代を96時間毎に行うようになった。合計2年間にわたり、200回以上継代した細胞を、樹立された連続継代性の細胞株としてBmN-SFM株と命名した。この細胞株は付着性であった。親株BmN4細胞と本願発明のBmN−SFM細胞を光学顕微鏡で観察し、形態を観察した結果を図1に示す。 図1より明らかなとおり、親株BmN4細胞の形態が、長さ平均74μm、幅平均13μmの紡錘形、又は平均直径が16μmの球形からなるのと同様に、BmN−SFM細胞の形態は、長さ平均72μm、幅平均20μmの紡錘形、又は平均直径が22μmの球形からなり、本発明のBmN−SFM細胞は親株BmN4細胞よりもやや球形の形態的特徴を有することが確認された。(RAPD PCR) GEN1プライマー、GEN2プライマー、GEN3プライマー(北海道システムサイエンス社製)の3種類のランダムプライマーを用いて、RAPD(Ramdom Amplified Polymorphic DNA)PCR解析を行い、バンドの出現パターンによる解析を行った。BmN−SFM細胞株(レーン2)のDNAと、以下の株とのRAPD(Ramdom Amplified Polymorphic DNA)PCR解析を行った。比較として用いた細胞株は、本願細胞株の親株であるカイコ卵巣由来BmN4細胞株(レーン1)、ヨトウガの一種であるツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)卵巣由来Sf−9細胞株(レーン3)、クワコ脂肪体由来であるNIAS−BoMa−529b株(独立行政法人農業生物資源研究所より供与)(レーン4)、マキュラ様潜在ウイルス(Bombyx mori macula-like virus; BmMLV)フリー培養細胞株であるBmVF(Bombyx mori virus free)細胞株(独立行政法人農業生物資源研究所より供与)(レーン5)である。結果を図2に示す。 図2より明らかなとおり、BmN−SFM細胞株のバンド出現パターンは、BmN4株のバンド出現パターンと同一であり、BmN−SFM細胞株は、親株と同一な遺伝子型を有することが明らかとなった。他のカイコ由来細胞株や同じ鱗翅目に属するヨトウガ由来細胞株とは遺伝子型が異なることも確認された。[BmNPVの感染] まず、BmNPV T3のウイルス粒子からフェノール抽出によりゲノムDNAを抽出し、得られたゲノムDNA1μgを4×106個のBmN−SFM細胞にセルフェクチン(インビトロジェン社製)を用いてトランスフェクションし、FBS不含BmNPVを得た。次に得られたFBS不含BmNPVを用いて、BmN4細胞及びBmN−SFM細胞にそれぞれBmNPVの感染を試みた。BmN4細胞の場合は10%FBS含有TC−100培地を用い、BmN−SFM細胞の場合は上記Sf−900II培地を用いて、それぞれ4×106個の細胞をファルコン社製60mm細胞培養シャーレへ播種した。ウイルス感染は、FBS不含BmNPVをそれぞれmoi=10となるように、無菌的にそれぞれのシャーレへ添加し、26℃にて1時間ゆっくりと振盪することにより行った。その後、ウイルス液を吸引除去し、それぞれの新鮮培地を4mL添加した。新鮮培地を添加した時点をウイルス感染後0時間とした。FBS不含BmNPV感染後96時間経過時のそれぞれの細胞を光学顕微鏡下で観察した結果を図3に示す。(感染細胞の形態) 図3より明らかなとおり、BmN−SFM細胞はウイルス感染後96時間において親株であるBmN4と同様に多角体を形成したことから、BmNPVに対して低温処理等を必要とせずに、容易に感染可能であることが明らかとなった。(プラークアッセイ) FBS不含BmNPVを用いて、BmN4細胞及びBmN−SFM細胞のウイルス産生能についてプラークアッセイで検証した。BmN4細胞及びBmN−SFM細胞に、FBS不含BmNPVをそれぞれmoi=10となるようにそれぞれ感染させた。感染は前記BmNPVの感染と同様に行った。その後、ウイルス感染後96時間の培地を回収し、プラークアッセイによりウイルスの力価を測定した。プラークアッセイでは、ウイルス感染後96時間の培地を1000万から1億倍に希釈し、培地に含まれるウイルス量を計測した。まず、希釈したウイルス液をBmN4細胞へ感染させた。次に、感染に用いたウイルス液を完全に除去し、そこへ予め37℃に保温したトップアガー(1%アガロースを含む培養液)を重層した。その後、およそ120時間で光学顕微鏡によりプラーク形成数を計測した。結果を図4に示す。図4中、それぞれのBmNPVの力価は3回の独立反復実験の平均値を示しており、グラフ上のバーは標準偏差を示す。 図4より明らかなとおり、無血清培地Sf−900II培地で26℃にて上記BmNPVを感染させたBmN−SFM細胞と、FBS含有培地TC−100で26℃にて上記BmNPVを感染させたBmN4細胞とは、感染後96時間後のBmNPVの増殖量がほぼ同程度であり、BmN−SFM細胞は無血清培地であるSf−900II培地において、既に広く産業利用されている親株BmN4細胞株と同等のウイルス産生能を有することが確認された。(ポリヘドリンプロモーター活性) ポリヘドリン遺伝子をルシフェラーゼ遺伝子に代替したBmNPVであるLuc-Bm(Nakanishi et al.,Journal of Virology 84, 5191-5200, 2010)を用いて、BmN4細胞及びBmN−SFM細胞のポリヘドリンプロモーター活性を測定した。まず、実施例2と同様に、ウイルス粒子からBm−LucのゲノムDNAを抽出し、これをBmN−SFMへと導入することによりFBS不含のLuc-Bmウイルス液を得た。次にBmN4細胞及びBmN−SFM細胞に、Luc-Bmをそれぞれmoi=10となるように感染させた。感染の方法は、ウイルスとしてBmNPV-Lucを用いたこと以外は上記実施例2と同様に行った。感染後96時間経過時の細胞を回収し、106個の細胞に調製して、Blight-Glo luciferase assay system(プロメガ社製)を用いてルシフェラーゼアッセイを行った。ルシフェラーゼの発光量はwallac ARVOsx 1420マルチラベルカウンター(パーキンエルマー社製)を用いた。結果を図5に示す。ルシフェラーゼの発光量は3回の独立反復実験の平均値を示しており、グラフ上のバーは標準偏差を示す。 図5より明らかなとおり、感染96時間後におけるポリヘドリンプロモーター活性は、無血清培地で26℃にてLuc-Bmを感染させたBmN−SFM細胞の場合と、血清含有培地で26℃にてBmNPV-Lucを感染させたBmN4細胞の場合とでほぼ同じであり、BmN−SFM細胞は、既に広く産業利用されている親株BmN4細胞と同等の組換えタンパク質産生能を有することが確認された。(組換えバキュロウイルス発現系によるmIL3の糖鎖修飾及び細胞外分泌) マウスインターロイキン3タンパク質(mIL3)をコードするcDNAを挿入したBmNPVであるIL−Bm(上記Nakanishi et al. 2010)を用いて、BmN4細胞及びBmN−SFM細胞の糖鎖修飾及び細胞外分泌について検討した。まず実施例2と同様にIL?Bmのウイルス粒子からウイルスゲノムDNAを抽出し、これをBmN−SFMへ導入することでFBS不含IL−Bmを調製した。次にIL−BmをBmN4細胞及びBmN−SFM細胞に、それぞれmoi=10となるように感染させた。感染は、ウイルスとしてIL−Bmを用いたこと以外は上記実施例2と同様に行った。感染直後に10mg/mLのツニカマイシン又はネガティブコントロールとしてDMSOを添加した。感染後72時間経過時に培養上清と細胞をそれぞれ別々に回収し、培養上清と細胞それぞれに対し、mIL3をコードするcDNAのN末端に結合したエピトープタグであるFLAGタグに対する抗FLAG抗体を用いてウエスタン解析を行った。結果を図6に示す。図6中、「M」はモック感染を、「+」はツニカマイシンを添加した培養上清・細胞を、「−」はDMSOを添加した培養上清・細胞を示す。 マウスインターロイキン3タンパク質はN末端側に存在するシグナルペプチドが認識されて細胞外へと分泌される。また、N型糖鎖修飾を受けることによって、その分子量が増加することが知られている。図6より明らかなとおり、抗FLAG抗体によるウエスタン解析の結果、マウスインターロイキン3タンパク質はBmN4だけでなく、BmN−SFMにおいてもウイルス感染細胞外へと細胞外分泌されていることが明らかとなった。このことから、組換えタンパク質の細胞外分泌がBmN−SFMにおいてもBmN4と同様に行われていることが明らかとなった。さらにウエスタン解析によって得られたシグナルの位置を確認すると、感染細胞においても培地上清においても、ネガティブコントロールのサンプルでは、BmN−SFM細胞においても、BmN4細胞においても約22〜26kDaのタンパク質のシグナルが検出されているのに対し、N型糖鎖修飾阻害剤であるツニカマイシンを添加したサンプルでは、BmN−SFM細胞においても、BmN4細胞においても約20kDaのタンパク質のシグナルが検出され、ツニカマイシンが添加されていることによって糖鎖修飾が阻害されたと考えられた。これらの結果、BmN−SFM細胞は、BmN4細胞と同等の組換えタンパク質の細胞外分泌能と、糖鎖修飾能を有することが明らかとなった。無血清培地で増殖可能であって、BmNPV感受性とするために、2〜5℃の低温処理をすることなく、かつ、カイコの体液又は動物の血液を必要とせず、26℃の温度条件下でBmNPV感受性であることを特徴とするBmN4細胞変異株。BmN−SFM細胞株(NITE P−1418)であることを特徴とする請求項1記載のBmN4細胞変異株。目的タンパク質をコードするDNAが作動可能なように組み込まれた組換えBmNPVに感染していることを特徴とする請求項1又は2記載のBmN4細胞変異株。請求項3記載のBmN4細胞変異株を培養することを特徴とする目的タンパク質の生産方法。 【課題】無血清培地にて継代培養することができ、カイコ等の昆虫の体液の他、動物や昆虫由来の血液成分の非存在下で低温処理を行うことなくウイルス感染することができるカイコ培養細胞株を提供すること。【解決手段】研究や産業利用の面で最も実績のあるBmN4細胞を親株として選択し、無血清培地で培養を試み、継代を続けた結果、無血清培地で半永久的に増殖可能な連続継代性BmN4細胞変異株(BmN−SFM株)を得、かかるBmN−SFM株は、従前必要とされていた低温処理やカイコの体液の添加等の処理を行うことをせずに、BmNPVに容易に感染することができ、親株であるBmN4細胞株と同等の組換えタンパク質生産能を有する。【選択図】なし配列表


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