生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_足場依存性細胞の培養方法
出願番号:2012227132
年次:2014
IPC分類:C12N 5/00,C12N 5/0735,C12N 5/074,C12N 5/0775,C12N 5/0789,C12N 5/0797


特許情報キャッシュ

中島 雄太 南 和幸 JP 2014079171 公開特許公報(A) 20140508 2012227132 20121012 足場依存性細胞の培養方法 国立大学法人山口大学 304020177 廣田 雅紀 100107984 小澤 誠次 100102255 東海 裕作 100096482 ▲高▼津 一也 100120086 堀内 真 100131093 中島 雄太 南 和幸 C12N 5/00 20060101AFI20140411BHJP C12N 5/0735 20100101ALI20140411BHJP C12N 5/074 20100101ALI20140411BHJP C12N 5/0775 20100101ALI20140411BHJP C12N 5/0789 20100101ALI20140411BHJP C12N 5/0797 20100101ALI20140411BHJP JPC12N5/00C12N5/00 202CC12N5/00 202DC12N5/00 202HC12N5/00 202QC12N5/00 202T 7 OL 19 4B065 4B065AA90X 4B065AC20 4B065BC47 4B065BD32 4B065CA01 4B065CA16 4B065CA22 4B065CA44 本発明は、足場依存性細胞の培養方法に関し、より詳しくは、足場依存性細胞を、アルギン酸多価金属被膜基板上で浮遊培養後に、培養液にアルギン酸多価金属被膜の可溶化剤を添加し、基板上のアルギン酸多価金属被膜を可溶化させることにより、細胞を基板上に接着させて培養を行うことを特徴とする培養方法や、培養態様を浮遊培養から接着培養へと切換えるための細胞培養キットに関する。 再生医療において、iPS細胞などの多分化能を有する未分化細胞の開発が進み、かかる未分化細胞を特定の機能を有する細胞へと分化誘導するためのメカニズムの解明が期待されている。 多細胞生物の個体は、細胞、組織、器官、個体と段階的に構成されており、細胞は細胞同士が接着し、細胞外の物質に接着することで組織となる。かかる接着性を有する細胞は、細胞外に存在する非細胞成分である細胞外マトリックスと接着することで自らの存在している周りの環境を感知し、分化、増殖、アポトーシス等のいかなる方向へ進むべきかを判断しながら、生命活動を維持している。 ディッシュやマルチウェルプレート等の一般的な培養容器を使用して細胞を二次元培養した場合、細胞は容器表面に接着・伸展しながら増殖するが、工業的に有用物質を生産するためにはスケールアップの点から細胞を浮遊させて培養するほうが有利であるため、足場依存性細胞を基材に接着させずに培養する三次元培養の研究が進んでいる。例えば、表面の接触角が60度以上である疎水性基材の表面に、リン脂質の疎水基が疎水結合や物理吸着し、基材表面が親水性の極性基でほぼ飽和している培養基材に、足場依存性細胞を播種することによって、該細胞を基材にほとんど接着させることなく経時的に凝集塊を形成させ、その機能を維持向上させながら培養することを特徴とする、足場依存性細胞の浮遊培養方法(例えば、特許文献1参照)や、細胞非接着性の底面から重力方向における最下位置へ連続する斜面を有する細胞非接着性の凹陥部を複数有する培養容器に、付着性細胞の懸濁液を注入する第1ステップと、上記懸濁液が注入された培養容器を静置して、当該培養容器の凹陥部においてスフェロイド(細胞凝集塊)を形成させる第2ステップとを含むスフェロイド培養方法(例えば、特許文献2参照)が提案されている。 また、表面が非接着性の容器内における無血清培地中で胚性幹細胞を培養する胚性幹細胞の維持方法においては、培養後数日で細胞が集合した球状体が認められる旨の記載があり、表面が非接着性の容器として、市販の非表面コートポリスチレン製の培養皿や、低接着性培養皿が例示されている(例えば、特許文献3参照)。また、間葉系幹細胞を細胞凝集塊として培養するのに好適な細胞培養担体として、上面に複数のウェルが形成されており、前記上面は、2乗平均粗さRqが100〜280nm、かつ、長さ1μmあたりの線密度が1.6〜3.0である担体、具体的には、セラミックス焼結体からなり、かつ、該セラミックス焼結体の平均細孔径が0.15〜0.45μmである担体が提案されており、上面がこのような表面状態を有する担体を用いることにより、扁平化した間葉系幹細胞が上面に付着しないため、球状を維持することができる旨の記載がある(例えば、特許文献4参照)。 しかしながら、かかる三次元的な方法による培養により形成される凝集体は、そのサイズが不均一で、中心部の細胞が壊死を起こす場合もあり、また、足場に接着していないため分化誘導のステップに移行させても安定した結果を得ることが難しいという問題点があった。 一方、アルギン酸カルシウム等のアルギン酸塩は、生分解性を有するため、近年バイオマテリアル素材として注目されているが、動物細胞との親和性が低く、接着性細胞の基質としては用いることができないとされていた。例えば、アルギン酸ビーズ状ゲル中に培養細胞を包埋することを特徴とする細胞培養法においては、足場非依存性コロニー形成能を有する形質転換細胞が、ビーズ状ゲル内で増殖可能であり、アルギン酸ビーズ状ゲルをカルシウムイオンのキレート剤又はアルギン酸分解酵素によって分解することにより容易に細胞を回収できる旨が報告されている(例えば、特許文献5参照)。 また、アルギン酸のアルカリ金属塩に鉄イオンを加えることにより調製された鉄架橋アルギン酸ゲルは、薄膜状、スポンジ状、ゼリー状いずれにおいても細胞接着性を有し、増殖した細胞を、キレート剤を用いて回収できる旨が報告されている(例えば、特許文献6参照)。さらに、アルギン酸カルシウムゲルを含む細胞培養担体であって、その表面がコラーゲンにより被覆されており、かつ該コラーゲンがキトサンを介して含水ゲルの表面に結合した細胞培養担体は、キレート剤水溶液の使用により培養された細胞を細胞シートとして脱離させることもできる旨が報告されている(例えば、特許文献7参照)。特開平05−336956号公報特開2010−088347号公報特開2007−228815号公報特開2012−050426号公報特開平10−248557号公報特開2009−011215号公報特開2004−033135号公報 本発明の課題は、三次元的に培養されている浮遊細胞を任意の時期に二次元的に培養することができる接着性細胞に転換して、培養を継続させるための方法や、細胞凝集体が基板に接着するメカニズムを観察するシステムを提供することにある。 本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討し、アルギン酸カルシウム被膜が成膜された基板を用いてマウス筋芽細胞C2C12株(以下「C2C12株」ともいう。)を浮遊培養し、培養細胞回収用に用いてきたエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を、浮遊培養している培養液に添加して放置していたところ、浮遊していた細胞が所定の時間経過後に基板に接着して増殖を始めたことを見いだした。発明者らは、さらに、C2C12株を用いて、アルギン酸カルシウム被膜の膜厚とEDTAの添加による膜の可溶化スピードの関係を検討し、浮遊細胞を任意の時間経過後に基板に接着させて培養することができることを確認し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は、(1)(a)基板にアルギン酸多価金属被膜を成膜することにより、アルギン酸多価金属被膜基板を調製する、アルギン酸多価金属被膜基板調製工程:(b)足場依存性細胞を、培養液中の上記(a)工程において調製されたアルギン酸多価金属被膜基板上に浮遊させて培養する、浮遊培養工程:(c)培養液にアルギン酸多価金属被膜可溶化剤を添加し、基板上のアルギン酸多価金属被膜を可溶化する、アルギン酸多価金属被膜可溶化工程:(d)上記(b)工程において浮遊培養した足場依存性細胞を基板上に接着させて培養を行う、接着培養工程:を備えたことを特徴とする足場依存性細胞の培養方法;(2)基板がガラスであることを特徴とする上記(1)記載の培養方法;(3)アルギン酸多価金属被膜がアルギン酸カルシウム被膜であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の培養方法;(4)アルギン酸カルシウム被膜の膜厚が0.4〜1.5μmであることを特徴とする上記(3)記載の培養方法;(5)足場依存性細胞が、幹細胞であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか記載の培養方法;(6)アルギン酸多価金属被膜可溶化剤がキレート剤であることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれか記載の培養方法;(7)アルギン酸一価金属塩と多価金属塩とアルギン酸多価金属被膜可溶化剤とを含む、細胞培養途中に細胞接着面を細胞非接着性から細胞接着性へと切換えるための細胞培養キット;に関する。 本発明の足場依存性細胞の培養方法によると、キレート剤を添加するという簡単な操作で、同一培養容器内で、浮遊培養細胞を、任意のタイミングで接着培養細胞へと変化させることができるため、接着する瞬間の応答や、足場に接着するメカニズムや、細胞の接着が細胞機能発現に及ぼす影響などを解明することが可能となる。膜厚1.5μmのアルギン酸カルシウム被膜を成膜したガラス基板をEDTA水溶液に浸漬してアルギン酸カルシウム被膜の一部を除去したガラス基板の写真を示す。スピンコーターMS−A100を用いた場合の、アルギン酸カルシウム被膜の膜厚(縦軸)とスピンコーターの回転数(横軸)との関係を示す。(a)無被膜ガラス基板上に培養した筋芽細胞C2C12株の培養開始後0h、6h、12h、24h経過時の様子を示す。(b)0.5μmの膜厚のアルギン酸カルシウム被膜上に培養したC2C12株の培養開始後0h、24h経過時の様子を示す。膜厚0(コントロール)、0.3、0.4、0.5、0.7、1.1、1.5μmの各アルギン酸カルシウム被膜基板について、基板へのC2C12株の細胞接着阻害率(縦軸)と培養時間(横軸)との関係を示す。膜厚0.5μmの被膜基板を培養容器にセットして、C2C12株を培養している培地にEDTAを添加した場合の、添加時(0h)、添加後3、6,12時間経過時の細胞の様子を示す。EDTA添加後のアルギン酸カルシウム被膜の可溶化後のC2C12株の基板への接着率(縦軸)を示す。培養5日後にEDTAを添加した場合の細胞の様子を示す。 本発明の足場依存性細胞の培養方法としては、(a)基板にアルギン酸多価金属被膜を成膜することにより、アルギン酸多価金属被膜基板を調製する、アルギン酸多価金属被膜基板調製工程:(b)足場依存性細胞を、培養液中の上記(a)工程において調製されたアルギン酸多価金属被膜基板上に浮遊させて培養する、浮遊培養工程:(c)培養液にアルギン酸多価金属被膜可溶化剤を添加し、基板上のアルギン酸多価金属被膜を可溶化する、アルギン酸多価金属被膜可溶化工程:(d)上記(b)工程において浮遊培養された足場依存性細胞を基板上に接着させて培養を行う、接着培養工程:を備えた方法であれば特に制限されず、また、本発明の細胞培養途中に細胞接着面を細胞非接着性(浮遊培養)から細胞接着性(接着培養)へと切換えるための細胞培養キットとしては、アルギン酸一価金属塩と多価金属塩とアルギン酸多価金属被膜可溶化剤、例えば、アルギン酸ナトリウムとカルシウム塩とアルギン酸カルシウム被膜可溶化剤とを含むものであれば特に制限されない。 上記足場依存性細胞としては、アルギン酸多価金属被膜を成膜した基板上においては浮遊培養が可能であり、アルギン酸多価金属被膜を可溶化後は基板に接着して増殖可能である、動物組織に由来する細胞であれば特に制限されず、筋芽細胞、血管内皮細胞、骨芽細胞、脂肪細胞、筋細胞、心筋細胞、軟骨細胞等へ分化する間葉系幹細胞や、ニューロンやグリア細胞へ分化する神経幹細胞や、白血球、赤血球、血小板、肥満細胞、樹状細胞等へ分化する造血幹細胞又は骨髄幹細胞や、スフェロイド状態から胚様体(EB体)と呼ばれる擬似的な胚の形成を経て様々な組織への分化・誘導のステップに進むことが知られている胚性幹細胞(ES細胞)や、iPS細胞等の多能性幹細胞が好ましく、具体的には、筋管に分化することが知られているC2C12株や、脂肪細胞に分化することが知られている3T3-L1株や、マウス胎児の大脳線条体由来のマウス神経幹細胞(MNSC)やラット胎児の中脳由来のラット神経幹細胞(RNSC)や、ラットの肝臓由来細胞株の3’−mRLh−2や、足場非依存性コロニー形成能を有する形質転換細胞(例えば、特開平10−248557参照)や、本来接着性細胞であるチャイニーズハムスター卵巣由来のCHO細胞、ベイビーハムスター腎臓由来のBHK細胞、ヒト子宮頸部癌由来のHeLa細胞、マウス乳癌由来のC−127細胞、マウス線維芽細胞であるNIH/3T3やBALB3T3、さらにアフリカミドリザル腎臓由来のVerotsS3などを、例えば特願平6−104221号公報に記載の方法で浮遊馴化した細胞を挙げることができる。 アルギン酸多価金属被膜基板調製工程(a)における基板としては、細胞が、物理化学的や生物的に接着可能な細胞接着面を有することが必要であり、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリジメチルシロキサン、ポリイミド、エポキシ、テフロン(登録商標)等のポリマー基板、ヒドロキシアパタイトセラミックス、アルミナセラミックス等のセラミックス基板、ガラス基板、シリコン基板等の半導体基板などを挙げることができ、基板の具体的態様としては、スライドガラス、ペトリ皿、組織培養フラスコ、マイクロキャリアを挙げることができる。なお、異なる基板を組み合わせて用いることで、細胞の接着状態の相違を観察することも可能である。 本発明のアルギン酸多価金属被膜の構造としては、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム等のアルギン酸の一価金属塩被膜に、多価金属塩の溶液を接触させて界面反応させることにより、上記多価金属のイオンがナトリウムイオンやカリウムイオン等の一価金属イオンと置換し、D−マンヌロン酸とL−グルロン酸に配位して架橋構造を構築し、アルギン酸多価金属ゲルを形成させたうえで乾燥することにより得られた被膜構造を挙げることができる。 上記アルギン酸ナトリウムは、D−マンヌロン酸とL−グルロン酸とがβ−又はα(1→4)グリコシド結合により結合することにより構成される多糖のアルギン酸のナトリウム塩であり、具体的には、アルギン酸ナトリウム(和光純薬社製)、ダックアルギンNSPH2 1,000±100mPa・s、ダックアルギンNSPH 500±50mPa・s、ダックアルギンNSPM 350±50mPa・s、ダックアルギンNSPL 150±30mPa・s、ダックアルギンNSPLL 45±5mPa・s等のダックアルギンシリーズ(いずれもキッコーマンバイオケミファ社製)や、キミカアルギンI、キミカアルギンHighGや、キミカアルギンHighM、キミカアルギンULV等のキミカアルギンシリーズ(キミカ社製)等の市販品や、海草から抽出した天然品を調製したものを挙げることができる。 上記アルギン酸多価金属被膜における多価金属としては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)等のアルカリ土類金属や、マンガン(Mn)等の第7族に属するマンガン族元素や、銅(Cu)等の第11族に属する銅族元素や、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)等の第12族に属する亜鉛族元素や、鉛(Pb)等の第14族に属する炭素族元素等を例示でき、アルカリ土類金属が好ましい。アルギン酸多価金属被膜としては、アルギン酸マグネシウム被膜、アルギン酸カルシウム被膜、アルギン酸ストロンチウム被膜、アルギン酸バリウム被膜、アルギン酸マンガン被膜アルギン酸銅被膜、アルギン酸亜鉛被膜、アルギン酸カドミウム被膜、アルギン酸鉛被膜を挙げることができるが、アルギン酸カルシウム被膜を特に好適に例示することができる。 アルギン酸多価金属被膜を基板へ成膜する方法としては、(i)アルギン酸一価金属塩被膜基板調製ステップと、(ii)アルギン酸多価金属被膜基板調製ステップとを備える方法を例示することができる。 上記(i)ステップにおいては、アルギン酸一価金属塩をPBS溶液に溶解することで調製されたアルギン酸一価金属塩・PBS溶液を基板に塗布することによりアルギン酸一価金属塩被膜基板を調製することができる。上記塗布する手段としては、スプレーコーティング法、ディップコーティング法、フローコーティング法、ロールコーティング法、フィルムアプリケーター法、スクリーン印刷法、バーコーター法、刷毛塗り法、スポンジ塗り法等の方法を挙げることができるが、アルギン酸多価金属被膜の膜厚を制御できる点で、スピンコーティング法が好ましい。 上記(ii)ステップにおいては、調製されたアルギン酸一価金属塩被膜基板を、多価金属塩溶液に5秒〜24時間、好ましくは20秒〜2時間浸漬後、乾燥処理を行うことにより、アルギン酸多価金属被膜基板を調製することができる。多価金属塩の溶液としては、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、又はこれらの混合物の溶液を挙げることができ、多価金属がカルシウムである場合、0.5〜5mg/mL、好ましくは1〜3mg/mL、より好ましくは1.5〜2.5mg/mLの塩化カルシウム溶液、硝酸カルシウム溶液、乳酸カルシウム溶液、クエン酸カルシウム溶液を例示することができる。 上記(ii)ステップにおいて調製されたアルギン酸多価金属被膜の膜厚としては、0.05〜2μmを挙げることができ、0.07〜1.5μmが好ましく、0.08〜1μmがより好ましく、0.1〜0.5μmがさらに好ましい。 アルギン酸多価金属被膜の膜厚を制御する方法としては、スピンコーターの回転数を変更する方法が挙げられる。例えば、アルギン酸ナトリウム溶液を用いる場合は、溶液の濃度や滴下量を適宜選択してスピンコーターの回転数を変更することにより、膜厚を制御することができ、より具体的には、10〜20mg/mL、好ましくは13〜17mg/mLのアルギン酸ナトリウム溶液を、基板に0.1〜2mL/cm2滴下してMS−A100スピンコーター(ミカサ社製)に適用した場合、回転数を500rpmとして1.3〜1.7μm、回転数を1000rpmとして0.9〜1.3μm、回転数を1500rpmとして0.6〜0.8μm、回転数を2000rpmとして0.45〜0.6μm、回転数を2500rpmとして0.35〜0.45μm、回転数を3000rpmとして0.25〜0.35μm、回転数を6000rpmとして0.05〜0.15μmの膜厚のアルギン酸カルシウム被膜を調製することにより、各々の被膜の膜厚を制御することができる。 アルギン酸多価金属被膜として好ましい上記アルギン酸カルシウム被膜の特性としては、基板表面に均一でかつ制御された膜厚の被膜として形成することができる他、いずれの膜厚におけるアルギン酸カルシウム被膜基板を、一般的な細胞培養用培地や、血清含有細胞培養用培地や、PBS、30〜100v/v%エタノール、100%メタノール、100%アセトン等に浸漬した場合や、上記いずれの膜厚におけるアルギン酸カルシウム被膜基板に超音波を照射した場合に、アルギン酸カルシウム被膜に亀裂や剥離を生じることはなく、薬品や超音波に対して強耐性である点を挙げることができる。 上記浮遊培養工程(b)においては、足場依存性細胞は、培養液中の上記(a)工程において調製されたアルギン酸多価金属被膜基板上で、凝集塊を形成して、又は凝集塊を形成することなく、アルギン酸多価金属被膜基板に実質的に接着することなく培養される。 上記培養液としては、本発明に用いられる足場依存性細胞が培養可能な培養液であれば特に制限されず、ダルベッコの改変イーグル最小必須培地(DMEM:Eagle's minimal essential medium)、HamのF−10培地、F−12培地、RPMI−1640培地、MCDB153培地、199培地等の公知の細胞培養用基礎培地を挙げることができ、必要に応じて各細胞の培養に適合した、浮遊培養を維持するために適した因子をさらに添加して用いることができる。 浮遊培養を維持するために適した因子としては、ウシ胎児血清培地(FBS:Fetal Bovine Serum)、ウマ血清(HS:Horse Serum)や、LIF等の未分化性を維持するための因子などを挙げることができ、かかる因子の添加時期としては、培養液にアルギン酸多価金属被膜可溶化剤を添加する前に添加することが好ましく、浮遊培養を行っている期間に添加することがより好ましく、浮遊培養を行う前に添加することがさらに好ましい。 アルギン酸多価金属被膜可溶化工程(c)において、培養液に添加されるアルギン酸多価金属被膜可溶化剤としては、アルギン酸多価金属被膜を基板上で可溶化することができるものであれば特に制限されず、多価金属イオンとキレート錯体を形成することにより、アルギン酸多価金属被膜を構成するカチオン成分を除去することができるキレート剤や、アルギン酸のグリコシド結合を切断することができるアルギン酸リアーゼ等を挙げることができる。 上記キレート剤としては、EDTA、エチレンジアミンジオルトヒドロキシフェニル酢酸、ジアミノプロパン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジヒドロキシエチルグリシン、エチレンジアミン二酢酸、エチレンジアミン二プロピオン酸、イミノ二酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、1,3-ジアミノプロパノール四酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、トランスシクロヘキサンジアミン四酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、O,O’−ビス(2−アミノエチル)エチレングリコール-N,N,N’,N'-四酢酸(EGTA)、エチレンジアミンテトラキスメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、ニトリロトリメチレンホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、1,1-ジホスホノエタン−2−カルボン酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、1−ヒドロキシ−1−ホスホノプロパン−1,3,3−トリカルボン酸、カテコール−3,5−ジスルホン酸、ピロリン酸ナトリウム、テトラポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、クエン酸、フィチン酸、シュウ酸、乳酸、酒石酸、グルコン酸を挙げることができ、中でもEDTAがとくに好ましい。 上記アルギン酸リアーゼとしては、β−脱離反応によりアルギン酸分子中のグリコシド結合を切断し、非還元末端に二重結合を有する不飽和糖を生成する酵素等を挙げることができ、例えばシュードモナス属、キサントモナス(Xanthomonas)属、フラボバクテリウム(Flavobacterium)属、ビブリオ(Vibrio)属、クレブシエラ(Klebsiella)属及びエンテロバクター(Enterobacter)属等に属する微生物由来のアルギン酸リアーゼや、アワビ、カキ等の消化管で産生される天然由来のアルギン酸リアーゼを挙げることができる。これらは常法により製造することもできる他、フラボバクテリウム属由来のアルギン酸リアーゼS(ナガセケムテックス社製)やアルギン酸リアーゼ(シグマアルドリッチ社製)等の市販品を用いることもできる。 上記EDTAの添加量としては、培養液に対して0.01〜0.5g/L、好ましくは0.05〜0.4g/L、より好ましくは0.1〜0.3g/Lを例示することができる。 上記アルギン酸リアーゼの添加量としては、培養液に対して0.005〜0.1mg/mL、好ましくは0.01〜0.07mg/mL、より好ましくは0.02〜0.06mg/mL、さらに好ましくは0.03〜0.05mg/mLを例示することができる。 上記アルギン酸多価金属被膜可溶化剤の添加により、基板からアルギン酸多価金属被膜を可溶化させることができたか否かについては、例えば倒立顕微鏡で目視することにより確認することができ、また、かかる観察により、アルギン酸多価金属被膜の膜厚を測定し、アルギン酸多価金属被膜可溶化剤添加時から、基板からアルギン酸多価金属被膜の可溶化に至る時間を記録することで、アルギン酸多価金属被膜の膜厚と可溶化との関係を可溶化レート(μm/min)として算出することができる。 上記アルギン酸多価金属被膜の可溶化レートは、アルギン酸多価金属被膜の膜厚によって異なり、膜厚が薄いほど、可溶化レートが速くなるが、0.01〜0.2μm/minが好ましく、0.02〜0.19μm/minがより好ましく、0.03〜0.18μm/minがさらに好ましい。各種細胞が任意の基板面に接着するメカニズムや接着する瞬間の応答、細胞の接着が細胞機能発現に及ぼす影響などを解明するためには、可溶化レートが速いことが好ましいが、使用の簡便性の点で、EDTA等のキレートを用いることが好ましく、目的に応じて、アルギン酸多価金属被膜可溶化剤の濃度やアルギン酸多価金属被膜の膜厚を調整して本発明の方法を実施することができる。 上記アルギン酸多価金属被膜可溶化工程(c)においては、接着を促進する因子をさらに添加することができ、かかる接着促進因子としては、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、コンドロイチン硫酸や、ジスピロトリピペラジン誘導体又はその塩を含む、支持体への細胞接着促進剤(例えば、再表2009/154201参照)を挙げることができる。かかる因子の添加時期としては、細胞を基板に接着させるために好ましい時期であれば特に制限されず、培養液にアルギン酸多価金属被膜可溶化剤を添加する前又は直後が好ましい。 接着培養工程(d)においては、上記(b)工程において浮遊培養された足場依存性細胞が基板上に接着することにより、細胞が基板に接着する瞬間の応答や、足場に接着するメカニズムや、足場に接着する過程や、細胞の接着が細胞機能発現に及ぼす影響などを観察することができる。そして、これらの結果は、細胞生物学、発生生物学、分子生物学等の基礎生物学における新たな知見となり、再生医療、細胞治療、移植医療等の今後の研究を進める上で重要な情報となる。 上記接着培養工程(d)においては、細胞を成長させるための因子をさらに添加することができ、かかる成長因子としては、アスコルビン酸、プロリン、L−グルタミン、デキサメタゾン、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸、TGFβ、BMPを挙げることができる。かかる成長因子の添加時期としては、細胞を基板に接着した細胞が、分化や成長をするために好ましい時期であれば特に制限されず、培養液にアルギン酸多価金属被膜可溶化剤を添加する前や後が好ましい。 以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。なお、筋芽細胞C2C12株は、ATCC(American Type Culture Collection)より購入した。 (アルギン酸カルシウム被膜基板の調製) アルギン酸ナトリウム(和光純薬社製)をダルベッコリン酸バッファー(Dulbecco Phosphate Buffered Saline:D−PBS)(和光純薬社製)に溶解し、15mg/mLのアルギン酸ナトリウム・D−PBS溶液を調製した。2mLの15mg/mのLアルギン酸ナトリウム・D−PBSをガラス基板(Micro Cover Glass、Matsunami社製)上に1(mL/cm2)滴下し、スピンコーターMS−A100(ミカサ社製)を用いて、500rpmにてガラス基板にアルギン酸ナトリウムを成膜し、アルギン酸ナトリウム被膜基板を調製した。その後、2mg/mLの塩化カルシウム水溶液にアルギン酸ナトリウム被膜基板を2分間浸漬して、その後基板を塩化カルシウム水溶液から取り出し、30℃のホットプレート上で24時間乾燥させ、アルギン酸カルシウム被膜基板を調製した。 調製されたアルギン酸カルシウム被膜基板の一部を0.2g/LのEDTA(和光純薬社製)水溶液に60分間浸漬してアルギン酸カルシウム被膜の一部を除去し、ガラス基板表面とアルギン酸カルシウム被膜の表面との段差をレーザー顕微鏡(LEXT OLS4000 オリンパス社製)で観察した写真を図1に示す。スピンコート法により成膜されたアルギン酸カルシウム被膜は、ガラス基板と約1.5μmとの段差が生じており、基板表面に均一な厚さ約1.5μmのアルギン酸カルシウムが被膜していることが確認された。(スピンコート法における回転数と膜厚の検討) 上記スピンコーターMS−A100を用いて、500〜3000rpmの範囲の様々な回転数にてガラス基板にアルギン酸ナトリウムを成膜したことのほかは、実施例1と同様の方法でアルギン酸カルシウム被膜基板を調製した。スピンコーターの回転数とアルギン酸カルシウム被膜の膜厚との関係を図2に示す。(結果) 図2から明らかなとおり、スピンコート法により成膜を行った場合、回転数が増加すればするほど、膜厚が薄くなることが確認された。具体的には回転数を500rpmとするとアルギン酸カルシウム被膜の厚さは約1.5μmであり、1000rpmとすると約1.1μmであり、1500rpmとすると約0.7μmであり、2000rpmとすると約0.5μmであり、2500rpmとすると約0.4μmであり、3000rpmとすると約0.3μmであった。また、データには示されていないが回転数を6000rpmとすると、膜厚は約0.1μmであった。500rpm〜3000rpmの範囲で回転数を変化させることによって、0.1μm〜1.5μmの範囲の任意の厚さで成膜されているアルギン酸カルシウム被膜基板を得ることが可能であった。(アルギン酸カルシウム被膜の薬品への耐性の検討) 細胞培養実験においては、様々な培地を用い、また滅菌処理等に様々な薬品を使用する。そこで上記で調製したアルギン酸カルシウム被膜基板について、薬品への耐性の検討を行った。実施例2で調製した0.1μm、0.3μm、0.4μm、0.5μm、0.7μm、1.1μm、1.5μmの膜厚の各アルギン酸カルシウム被膜基板について耐薬品性を調べた。すなわち、以下の9種類の薬品に各アルギン酸カルシウム被膜基板を12時間以上浸漬した。(1)25℃にて、DMEM+10%FBS(2)37℃にて、DMEM+10%FBS(3)25℃にてPBS、(4)25℃にて100%エタノール(5)25℃にて70v/v%エタノール(6)25℃にて50v/v%エタノール(7)25℃にて30v/v%エタノール(8)25℃にて100%メタノール(9)25℃にて100%アセトン(結果) 上記いずれの膜厚のアルギン酸カルシウム被膜基板においても各薬品への浸漬後にアルギン酸カルシウム被膜に亀裂や剥離が観察されることはなかった。上記(3)〜(9)の条件下で超音波を照射しても。また、上記各薬品に浸漬後に超音波を照射しても亀裂や剥離は生じなかった。したがって、ガラス基板とアルギン酸カルシウム被膜との密着性は膜厚にかかわらず強固であり、細胞培養に使用する薬品への耐性もあるため、様々な培地条件や処理において本発明が利用可能であることが明らかとなった。(アルギン酸カルシウム被膜の可溶化の検討)1)実施例2で調製した0.4μm、0.5μm、0.7μm、1.1μm、1.5μmの膜厚の各アルギン酸カルシウム被膜基板について、実施例1と同様の方法でEDTA水溶液に浸漬し、アルギン酸カルシウム被膜が可溶化する様子を倒立顕微鏡で観察した。また、アルギン酸カルシウム被膜が完全に可溶化されるまでの時間を計測し、各アルギン酸カルシウム被膜の膜厚における可溶化レート(μm/min)を算出した。結果を以下の表1に示す。2)EDTA水溶液の代わりに、アルギン酸カルシウム分解作用を有する0.04mg/mLのアルギン酸リアーゼ(シグマアルドリッチ社製)を用いて上記1)と同様の算出を行った。結果を以下の表2に示す。(結果) 上記表1から明らかなとおり、アルギン酸カルシウム被膜の膜厚が厚くなればなるほど、可溶化レートの値は小さくなることが確認された。(結果) 上記表2から明らかなとおり、アルギン酸カルシウム被膜の膜厚が厚くなればなるほど、原則として可溶化レートの値は小さくなることが確認された。最適な可溶化レートは、約0.12μm/minである。(細胞接着性の検討1) アルギン酸カルシウム被膜をしていないガラス基板(以下、「無被膜ガラス基板」ともいう)と、膜厚0.5μmのアルギン酸カルシウム被膜基板とにおける、細胞の細胞接着性を比較した。各基板が設置されたそれぞれの培養容器に、10%FBS(ウシ胎児血清)含有D−MEM(インビトロジェン社製)を添加し、C2C12株を1×105Cells/mL播種し、37℃にて5%CO2の雰囲気下で24時間培養を行った。一定時間経過毎に、細胞の接着の様子を倒立顕微鏡CKX41(オリンパス社製)で観察した。図3(a)に無被膜ガラス基板上に培養したC2C12株の培養開始後0h、6h、12h、24h経過時の様子を示し、図3(b)0.5μmの膜厚のアルギン酸カルシウム被膜上に培養した筋芽細胞C2C12株の培養開始後0h、24h経過時の様子を示す。(結果) 図3(a)から明らかなとおり、無被膜ガラス基板上に培養された筋芽細胞は、培養開始直後は浮遊細胞(Floating cells)であるものの、6時間経過すると無被膜ガラス基板上に接着を開始していく様子が観察され、12時間、24時間と時間の経過とともに徐々に基板上へと接着して、接着細胞(Bound cells)となることが確認された。一方、図3(b)から明らかなとおり、アルギン酸カルシウム被膜基板上に培養された細胞は、培養直後から24時間が経過しても、細胞形状が球状であり、基板表面に接着することはなかった。(細胞接着性の検討2) 膜厚0(コントロール)、0.3、0.4、0.5、0.7、1.1、1.5μmのアルギン酸カルシウム被膜基板を調製し、各基板が設置されたそれぞれの培養容器に、上記10%FBS含有D−MEMを添加し、C2C12株を1×105Cells/mL播種し、37℃にて5%CO2の雰囲気下で24時間培養を行った。C2C12株の各基板に対する細胞接着の阻害率を細胞の非接着領域の面積を培養表面全体の面積で除することによって算出した。阻害率についての結果を図4のグラフに示す。(結果) 図4から明らかなとおり、いずれのアルギン酸カルシウム被膜基板においても、膜厚に依存することなく、C2C12株の基板への接着はほぼ100%阻害された。一方、膜厚0(コントロール)のガラス基板においては、筋芽細胞の基板への接着が培養時間の経過とともに進行し、細胞接着の阻害率は、時間が経過するにしたがい減少した。(アルギン酸カルシウム被膜可溶化についての検討1) 膜厚0.5μmの被膜基板を培養容器にセットし、上記10%FBS含有D−MEMを添加し、C2C12株を1×105Cells/mL播種し、3時間培養後、EDTAを終濃度0.2g/Lとなるように添加し、37℃にて5%CO2の雰囲気下で12時間培養を行い、細胞接着の様子を倒立顕微鏡CKX41で観察・記録した。EDTA添加時を0h(時間)とした結果を図5に示す。(結果) 図5から明らかなとおり、EDTA添加直後は細胞の形状に変化はなく浮遊状態であるが、3時間後には一部の細胞の基板への接着が観察され、6時間後には約半数の細胞の基板への接着が観察され、12時間後にはほとんどすべての細胞が基板へ接着した状態となった。このことは、EDTAの添加により、ガラス基板に成膜されていたアルギン酸カルシウム被膜が可溶化されて、細胞がガラス基板へ接着することができるようになったことを示す。細胞がガラス基板に接着することにより、アルギン酸カルシウム被膜の可溶化により浮遊培養から接着培養へと任意のタイミングで変換できることが確認された。(アルギン酸カルシウム被膜可溶化についての検討2) 膜厚0(コントロール)、0.3、0.4、0.5、0.7、1.1、1.5μmのアルギン酸カルシウム被膜基板を調製し、各基板を培養容器にセットし、上記10%FBS含有D−MEMを添加し、C2C12株を1×105Cells/mL播種し、3時間培養後、EDTAを終濃度0.2g/Lとなるように添加し、37℃にて5%CO2の雰囲気下で12時間培養を行った。EDTA添加時を0h(時間)とした場合の接着率についての結果を図6に示す。なお、式:接着率(%)=100−細胞接着の阻害率(%)を用いて接着率を算出した。(結果) 図6から明らかなとおり、上記各膜厚の基板において、細胞の接着率が時間の経過と共に上昇した。アルギン酸カルシウム被膜の可溶化処理による細胞接着率の上昇傾向とアルギン酸カルシウム被膜を成膜していないガラス基板への細胞接着率の上昇傾向とは、ほとんど同じ傾向を示したため、アルギン酸カルシウム被膜の可溶化処理は、細胞の培養に何ら影響を及ぼさないことも示された。(培養面の細胞接着性の切換えによる細胞の分化誘導) アルギン酸カルシウム被膜を成膜したスライドガラスを細胞培養ディッシュに設置し、その中にC2C12株を播種した。培地はD−MEM+10%FBS+2%のHS(ウマ血清)を用い、37℃にて5%CO2雰囲気下にて培養した。細胞を播種して5日後(120時間後)に終濃度0.2g/LのEDTAをディッシュ内に添加した。10日目までの細胞の様子を、倒立顕微鏡CKX41を用いて経時的に観察した結果を図7に示す。(結果) 図7から明らかなとおり、アルギン酸カルシウム被膜上ではC2C12株の細胞は浮遊しており、培養1日後には凝集塊の形成が始まり、培養3日後には凝集塊が存在している。EDTAを添加した培養5日後は、細胞は凝集塊同士が結合したさらに大きな凝集塊が形成されており、培養6日後(EDTA添加後24時間)には浮遊した細胞が、接着細胞の態様を示し、足場を必要とする細胞に変化し始め、培養7日後(EDTA添加後48時間)以降は、基板に完全に接着し細胞同士が融合を開始して、明らかに足場を必要とする細胞・組織に分化した。したがって、本発明の培養方法により、浮遊培養用から接着培養用に幹細胞が分化誘導することが確認された。すなわち、本実験及び図6の結果から、本発明により、任意のタイミングでアルギン酸多価金属被膜を短時間で可溶化し、足場を必要とする細胞形態へと分化するため、細胞を取り出し別の容器へ移し替えることによる細胞培養の環境変化や種々の刺激の影響を受けることなく、幹細胞を容易に分化誘導できることが明らかとなった。また、幹細胞以外の細胞についても分化誘導の態様を観察することが可能となる。 細胞の足場への接着メカニズムを解明することにより、再生医療や細胞治療や移植医療などの次世代医療開発につなげることができる。 以下の工程(a)〜(d)を備えたことを特徴とする足場依存性細胞の培養方法。(a)基板にアルギン酸多価金属被膜を成膜することにより、アルギン酸多価金属被膜基板を調製する、アルギン酸多価金属被膜基板調製工程:(b)足場依存性細胞を、培養液中の上記(a)工程において調製されたアルギン酸多価金属被膜基板上に浮遊させて培養する、浮遊培養工程:(c)培養液にアルギン酸多価金属被膜可溶化剤を添加し、基板上のアルギン酸多価金属被膜を可溶化する、アルギン酸多価金属被膜可溶化工程:(d)上記(b)工程において浮遊培養した足場依存性細胞を基板上に接着させて培養を行う、接着培養工程:基板がガラスであることを特徴とする請求項1記載の培養方法。アルギン酸多価金属被膜がアルギン酸カルシウム被膜であることを特徴とする請求項1又は2記載の培養方法。アルギン酸カルシウム被膜の膜厚が0.4〜1.5μmであることを特徴とする請求項3記載の培養方法。足場依存性細胞が、幹細胞であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の培養方法。アルギン酸多価金属被膜可溶化剤がキレート剤であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の培養方法。アルギン酸一価金属塩と多価金属塩とアルギン酸多価金属被膜可溶化剤とを含む、細胞培養途中に細胞接着面を細胞非接着性から細胞接着性へと切換えるための細胞培養キット。 【課題】三次元的に培養されている浮遊細胞を任意の時期に二次元的に培養されている細胞に転換して、培養を継続させるための方法や、細胞凝集体が基板に接着するメカニズムを観察するシステムを提供すること。【解決手段】(a)培養用基板にアルギン酸カルシウム被膜を成膜する工程;(b)幹細胞等の足場依存性細胞を、培養液中の上記アルギン酸カルシウム金属被膜基板上に浮遊させて培養する工程;(c)培養液にEDTA等のアルギン酸多価金属被膜可溶化剤を添加し、培養用基板上のアルギン酸多価金属被膜を可溶化する工程;(d)浮遊培養した足場依存性細胞を基板上に接着させて培養を行う工程;を備えた足場依存性細胞の培養方法。【選択図】なし


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