生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_水素細菌の代謝制御方法
出願番号:2012208860
年次:2014
IPC分類:C12N 1/20,C12P 7/40,C12P 13/04


特許情報キャッシュ

平野 伸一 松本 伯夫 JP 2014060976 公開特許公報(A) 20140410 2012208860 20120921 水素細菌の代謝制御方法 一般財団法人電力中央研究所 000173809 村瀬 一美 100087468 平野 伸一 松本 伯夫 C12N 1/20 20060101AFI20140314BHJP C12P 7/40 20060101ALI20140314BHJP C12P 13/04 20060101ALI20140314BHJP JPC12N1/20 AC12P7/40C12P13/04 8 1A OL 31 (出願人による申告)平成23年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(先端的低炭素化技術開発)委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願 4B064 4B065 4B064AD02 4B064AD05 4B064AD06 4B064AD87 4B064AE03 4B064BJ04 4B064BJ11 4B064CA06 4B064CC03 4B064CD01 4B064CD05 4B064DA10 4B065AA01X 4B065AC14 4B065AC20 4B065BB02 4B065BB05 4B065BD28 4B065BD50 4B065CA10 4B065CA13 4B065CA17 本発明は、水素細菌の代謝制御方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、特にハイドロジェノバクター サーモフィラス(Hydrogenobacter themophilus)に適用して好適な代謝制御方法と、この方法を利用した有用物質の生産方法等に関する。 大気中の二酸化炭素等の温室効果ガスの増加は、地球温暖化や気候変動等を引き起こす要因となり得ることから、地球規模の環境問題として重要視されている。例えば、電気事業においては、火力発電所から多量の二酸化炭素が排出される。このような排出二酸化炭素の回収処分方法として、水素細菌を利用した二酸化炭素固定法が知られている(例えば、非特許文献1を参照)。 水素細菌とは、水素(遊離水素)をエネルギー源とし、二酸化炭素を唯一炭素源として増殖可能な独立栄養生物である。水素細菌は増殖速度(炭酸同化速度)が速いことから、大量の二酸化炭素を固定・資源化する上で非常に有用であると考えられている。電力中央研究所報告U92058 ところで、水素細菌の有用性をより向上させる上では、水素細菌の代謝を制御して、二酸化炭素固定産物として水素細菌により産生される代謝産物中の有用物質量を増大させることが有効であると考えられる。しかしながら、水素細菌の代謝を制御する方法は未だ確立されていない。 そこで、本発明は、水素細菌の代謝を制御する方法を提供することを目的とする。 また、本発明は、水素細菌の代謝を制御することによって、有用物質を生産する方法を提供することを目的とする。 さらに、本発明は、水素細菌の代謝を制御することによって、通常よりも有用物質が蓄積されている水素細菌、さらにはこの水素細菌を含む微生物含有組成物を提供することを目的とする。 かかる課題を解決するため、本願発明者が鋭意研究を行った結果、ハイドロジェノバクター サーモフィラス(Hydrogenobacter themophilus)TK−6の細胞内から、酸化体と還元体の両形態をとり得る電子媒体物質を介して電子を引き抜きながら培養を行うことによって、通常の培養を行う場合よりもアミノ酸及び脂肪酸の産生を増大させる方向に代謝を制御できることを知見するに至った。 本願発明者は、上記知見から、ハイドロジェノバクター サーモフィラス(Hydrogenobacter themophilus)TK−6だけでなく、ハイドロジェノバクター サーモフィラス(Hydrogenobacter themophilus)全般、さらには水素細菌全般について、酸化体と還元体の両形態をとり得る電子媒体物質を介して電子を引き抜くことによって、代謝を制御できる可能性が導かれることを知見するに至り、さらに種々検討を重ねて本発明を完成するに至った。 即ち、本発明の水素細菌の代謝制御方法は、培地中の水素細菌に対し、酸化体と還元体の両形態をとり得る電子媒体物質を介して電子の引き抜きを行いながら、水素と二酸化炭素と水素細菌の最終電子受容体として機能する物質とを与えて培養を行うようにしている。 ここで、本発明の水素細菌の代謝制御方法において、電子の引き抜きを、以下の(1)及び/又は(2)の方法で実施することが好ましい。(1)水素細菌の細胞表面に電子媒体物質を吸着させると共に培地に電極を接触させて、電極に酸化電位を印加する(2)培地に電子媒体物質を添加すると共に培地に電極を接触させて、電極に酸化電位を印加する また、本発明の水素細菌の代謝制御方法において、水素細菌を、ハイドロジェノバクター サーモフィラス(Hydrogenobacter themophilus)とすることが好ましい。 次に、本発明の有用物質の生産方法は、本発明の水素細菌の代謝制御方法を行う工程を含むものとしている。 また、本発明の有用物質の生産方法は、本発明の水素細菌の代謝制御方法を、ハイドロジェノバクター サーモフィラス(Hydrogenobacter themophilus)を用いて行う工程を含むようにしており、これにより、アミノ酸及び脂肪酸からなる群から選択される1種以上の有用物質を生産することができる。 次に、本発明の水素細菌は、本発明の代謝制御方法により得られる、通常よりも有用物質が蓄積されている水素細菌である。ハイドロジェノバクター サーモフィラス(Hydrogenobacter themophilus)に対して本発明の代謝制御方法を適用した場合には、通常よりもアミノ酸及び脂肪酸が蓄積されているハイドロジェノバクター サーモフィラス(Hydrogenobacter themophilus)が得られる。そして、本発明の微生物含有組成物は、これらの水素細菌を含むものである。 本発明の代謝制御方法によれば、水素細菌の代謝を制御して、二酸化炭素固定産物として水素細菌により産生される代謝産物中の有用物質量を増大させることが可能となる。したがって、本発明の代謝制御方法を利用することで、有用物質をより効率よく生産することが可能となる。また、有用物質を従来よりも多く蓄積させた水素細菌を提供することが可能となる。本発明の水素細菌の代謝制御方法の実施形態の一例を示す図である。本発明の水素細菌の代謝制御方法の実施形態の他の例を示す図である。電子媒体物質がTK−6の生育に与える影響を検討した結果を示す図である(実施例1)。TK−6が電子媒体物質を最終電子受容体(呼吸基質)として利用しているか否かを検討した図である(実施例2)。実施例にて使用した電気培養装置の構成概略図である。培養試験における電流値の経時変化を示す図である(実施例4)。NAD+とNADHの測定結果を示す図である(実施例4)。図6の通電無しの結果についてNAD+/NADHを1とした場合の、通電有りのNAD+/NADHの換算結果を示す図である(実施例4)。培養終了後の菌体密度を示す図である(実施例6)。培養終了後の硝酸濃度を示す図である(実施例6)。培養試験における電流値の経時変化を示す図である(実施例6)。通電により増加した各種脂肪酸の化学構造式である(実施例7)。本実施例の結果から推定される電子引き抜きによる水素細菌の推定代謝機構である。 以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて詳細に説明する。 図1Aに、本発明の水素細菌の代謝制御方法の実施形態の一例を概念的に示す。本発明の水素細菌の代謝制御方法は、培地4中の水素細菌2に対し、酸化体と還元体の両形態をとり得る電子媒体物質5を介して電子の引き抜きを行いながら、水素(H2)と二酸化炭素(CO2)と水素細菌の最終電子受容体として機能する物質(例えば、O2またはNO3−)とを与えて培養を行うようにしている。 図1Aに示す実施形態において、水素細菌2からの電子の引き抜きは、培地(培養液)4に電極9を接触(浸漬)させて、電極9に酸化電位を印加することにより行うようにしている。電極9に酸化電位を印加することで、水素細菌2に還元された電子媒体物質5が酸化されて、水素細菌2からの電気化学的な電子の引き抜きを持続的に行うことができる。 ここで、図1Bに示すように、電子媒体物質5は、水素細菌2の細胞表面に吸着させてもよい。この場合、電子媒体物質5を介した水素細菌2からの電子の引き抜きをより効率よく行い得る。 本発明の代謝制御方法を適用する対象となる水素細菌2は、水素(遊離水素)をエネルギー源とし、二酸化炭素を唯一炭素源として増殖可能な独立栄養生物であれば特に限定されるものではない。例示すると、Alcaligenes eutrophus (Cupriavidus necator), Alcaligenes hydrogenophilus, Alcaligenes ruhlandii, Alcaligenes latus, Alcaligenes paradoxus, Aquaspirillum autotrophicum, Azospirillum lipoferum, Calderobacterium hydrogenophilum, Derxia gummosa, Flavobacterium autothermophilum, Hydrogenobacter thermophilus, Microcyclus aquaticus, Microcyclus ebruneus, Paracoccus denitrificans, Pseudomonas facilis, Pseudomonas flava, Pseudomonas pseudoflava, Pseudomonas hydrogenovora, Pseudomonas hydrogenothermophila, Pseudomonas palleronii, Pseudomonas thermophila, Pseudomonas saccharophila, Renobacter vacuolatum, Rhizobium ja ponicuni, Xanthobacter autotrophicus, Xanthobacter flavus, Arthrobacter spp., Bacillus schlegelii, Bacillus tusciae, Mycobacterium gordonae, Nocardia autotrophica, Nocardia opaca, Hydrogenovibrio marinus等が挙げられ、特にHydrogenobacter themophilusが好適である。また、Hydrogenobacter themophilusの中でも、特にHydrogenobacter themophilus TK-6株が好適である。Hydrogenobacter themophilus TK-6株は、増殖速度が速く(1.5時間で2倍に増殖)、二酸化炭素の固定能を有する微生物の中でも最高レベルの増殖速度を有している。また、水素細菌2は、遺伝子組み替えにより新たな物質生産能等が組み込まれたものとしてもよい。 尚、水素細菌は自然界の至る所から簡単に単離することのできる微生物であり、入手が容易であるという利点もある。 水素細菌2の培養のための培地4は、水素細菌2の培地として一般的なものを、水素細菌2の種類に応じて適宜選択すればよい。また、水素と二酸化炭素の供給量及び培養温度についても、使用する水素細菌2の種類に応じて適宜選択すればよい。 水素細菌2の最終電子受容対として機能する物質は、水素細菌2に対する好ましい培養環境の条件(好気であるか嫌気であるか)に応じて適宜選択される。即ち、培養環境を好気条件とする場合には、培地4にバブリング等により供給される酸素とすればよい。培養環境を嫌気条件とする場合には、例えば硝酸イオン等として水素細菌2に硝酸呼吸を行わせればよい。尚、Hydrogenobacter themophilusは、培養環境を好気条件と嫌気条件のいずれとしても、生育・増殖させることが可能である。 電子媒体物質5としては、酸化体と還元体の両形態をとり得る物質であり、水素細菌2を失活させることがなく、水素細菌2により還元され得る物質を適宜選択すればよい。例示すると、アントラキノン誘導体(アントラキノン−1−スルホン酸ナトリウム、アントラキノン−1,5−ジスルホン酸ジナトリウム、アントラキノン−1,8−ジスルホン酸ジカリウム、アントラキノン−2−スルホン酸ナトリウム、1−アミノ−4−ブロモアントラキノン−2−スルホン酸ナトリウム及びアントラキノン−2,6−ジスルホン酸ジナトリウム等)及び2−メチル−1,4−ナフトキノン等のキノン化合物、メチルビオロゲン等の農薬系物質、インジゴカルミン、ニュートラルレッド、レマゾールブリリアントブルー、クリスタルバイオレット、2,6−ジクロロフェノール−インドフェノール、アルシアンブルー、サフラニン及びチオニン等の色素系物質、又はヘキサシアノ鉄酸カリウム、鉄イオン錯体(鉄(III)−EDTA等)、Mn(II)Cl2、ヨウ化カリウム及びセレン酸等の金属系物質等が挙げられる。 ここで、水素細菌2の細胞表面に電子媒体物質5を吸着させる場合には、電子媒体物質5として、色素系物質の使用が好適である。例えば、水素細菌2をHydrogenobacter themophilusとする場合には、ニュートラルレッドの使用が好適である。但し、水素細菌2の細胞表面に電子媒体物質5を吸着させずとも本発明の効果は得られる。例えば、水素細菌2をHydrogenobacter themophilusとする場合には、アントラキノン誘導体等のキノン化合物も好適に使用し得る。 電子媒体物質5の添加量は、電子媒体物質5の種類、使用する水素細菌2の種類、菌体密度等に応じてその最適量が適宜変化するが、概ね0.5〜10mM、好適には0.5〜5mM、より好適には0.5〜3mM、さらに好適には2mM程度とすればよい。電子媒体物質5の添加量が少なすぎると水素細菌2からの電子の引き抜きが十分に起こらず、代謝制御効果が得られにくくなる。また、電子媒体物質5の添加量が多すぎると、電子媒体物質5の種類によっては水素細菌2の活性が阻害されることもあり得る。 電極9としては、例えば炭素板やグラッシーカーボン等の炭素電極、白金電極等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。 水素細菌2は、酸化型の電子媒体物質5を還元して還元型の電子媒体物質5に変換する(換言すると、酸化型の電子媒体物質5に電子を供給して還元型の電子媒体物質5に変換する)機能を有している。したがって、電極9に酸化電位を印加することで、還元型の電子媒体物質5から電子が引き抜かれて酸化型の電子媒体物質5に変換される。これら一連の流れにより、水素細菌2から電気化学的に電子が持続的に引き抜かれ、水素細菌2の代謝が制御される。 ここで、電極9に印加する酸化電位の値は、電子媒体物質5のサイクリックボルタモグラムに基づいて求めることができる。例えば、電子媒体物質5としてニュートラルレッドを用いる場合には、電極9に+0.4V程度の電位を印加すればよい。電子媒体物質5としてアントラキノン−2,6−ジスルホン酸ジナトリウムを用いる場合には、電極9に+0.6V程度の電位を印加すればよい。 本発明の代謝制御方法により水素細菌2の代謝を制御することで、水素細菌2の代謝産物中に含まれる有用物質の割合を増大させることができる。具体的には、水素細菌2をHydrogenobacter themophilusとする場合には、アミノ酸と脂肪酸の生産量を増大させることができる。 ここで、水素細菌2をHydrogenobacter themophilusとする場合、アミノ酸として特にリシンとアルギニンの量を増大させたい場合には、増殖の定常期又は対数増殖期後期にあるHydrogenobacter themophilusに対して本発明の代謝制御方法を適用するのが好適である。また、電子の引き抜きを行いながら培養する期間については、長すぎると菌数が低下したり、所望の代謝産物量の増大効果が小さくなることもあるので、例えば850分よりも短く、好適には500分以下、より好適には300分以下、さらに好適には150分程度である。 また、水素細菌2をHydrogenobacter themophilusとする場合、脂肪酸として特に炭素数3〜12の直鎖飽和脂肪酸であるプロピオン酸、酪酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクチル酸、ペラルゴン酸、デカン酸、ウンデカン酸及びラウリン酸(この中でも特に炭素数11と12のウンデカン酸及びラウリン酸)の量を増大させたい場合には、増殖期(対数増殖期前、対数増殖期初期あるいは中期、好適には対数増殖期前)にあるHydrogenobacter themophilusに対して本発明の代謝制御方法を適用するのが好適である。電子を引き抜きながら、対数増殖期を得て増殖の定常期に至るまで培養を行うことで、上記直鎖飽和脂肪酸を増大する効果が得られやすくなる。 本発明の代謝制御方法により、水素細菌2の有用物質の生産量を増大させることができる。水素細菌2をHydrogenobacter themophilusとする場合には、アミノ酸と脂肪酸の量を増大させることができる。したがって、本発明の代謝制御方法を利用することで、水素細菌を利用して有用物質を効率よく生産することが可能になる。 また、本発明の代謝制御方法により、水素細菌2に蓄積される有用物質の量を通常(つまり、水素細菌から電子を引き抜くこと無く通常の培養を行う場合)よりも増大させることができる。即ち、有用物質の蓄積量を通常よりも増大させた水素細菌2が得られる。したがって、この水素細菌2を微生物タンパク資源(SCP)として利用することができる。 また、有用物質の蓄積量を通常よりも増大させた水素細菌2を含む微生物含有組成物を提供することも可能となる。微生物含有組成物としては、例えば家畜飼料が挙げられる。アミノ酸と脂肪酸の蓄積量が通常よりも増大したHydrogenobacter themophilusを含む微生物含有組成物を家畜飼料とすることで、栄養価の高い家畜飼料を提供し得る。その他にも、アミノ酸等の摂取を目的としたサプリメントや食糧等として提供し得る。 上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では、電極9を用いて電気化学的に電子媒体物質5を酸化するようにしていたが、電子媒体物質5の酸化は、電気化学的な手法には限定されない。例えば、電気化学的に酸化可能な化合物の大半は酸素によっても酸化可能であることから、培地4中にバブリング等を行って効率的に酸素を供給することによって、電子媒体物質5の酸化することもできる。つまり、培地4中に酸素を持続的に供給することによって、水素細菌2から電子媒体物質5を介して電子を引き抜きながら培養を行い、本発明の代謝制御方法を実施することも可能である。 以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。(使用菌体) 東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命工学専攻応用微生物研究室より分譲を受けたハイドロジェノバクター サーモフィラス(Hydrogenobacter themophilus)TK−6を水素細菌として用いた。以降の説明では、この水素細菌を単にTK−6と呼ぶこともある。尚、TK−6は、理化学研究所バイオリソースセンター微生物材料開発室からも入手可能である。 TK−6の培養に使用した培地の組成を以下に示す。尚、後述する培養試験においても、以下の組成を有する培地を使用した。[培地組成(脱イオン水1L中)] (NH4)2SO4 3g KH2PO4 1g K2HPO4 2g NaCl 0.25g FeSO4・7H2O 0.014g MgSO4・7H2O 0.5g CaCl2 0.03g 微量元素溶液 500μL[微量元素溶液(脱イオン水1L中)] MoO3 4mg ZnSO4・7H2O 28mg CuSO4・5H2O 2mg H3BO3 4mg MnSO4・5H2O 4mg CoCl2・6H2O 4mg TK−6は、前培養してから後述する培養試験に供した。即ち、上記培地を使用し、嫌気条件下(培養容器であるガラスバイアル瓶内の気相部分のガス組成をH2:N2:CO2=75:10:15(1.5kPa)に制御)にて、70℃で振とう培養してから、後述する培養試験に供した。(実施例1) 電子媒体物質がTK−6の生育に与える影響を検討した。 100mL容ガラスバイアル瓶(Duran)に収容した10mLの上記培地に、菌体密度が1×107cells/mLとなるようにTK−6を添加した。さらに、上記培地には、NaNO3を60mMとなるように添加すると共に、以下の電子媒体物質(酸化体)を2mMとなるように添加した。そして、当該バイアル瓶の気相のガス組成をH2:N2:CO2=75:10:15(1.5kPa)としてバイアル瓶の蓋を閉め、70℃で振とう培養し、バッチ試験を実施した。また、電子媒体物質を添加しない培養試験を対照試験として実施した。[電子媒体物質] アントラキノン−2,6−ジスルホン酸ジナトリウム アントラキノン−1,5−ジスルホン酸ジナトリウム Fe(III)−EDTA レマゾールブリリアントブルー 培養60時間後の菌体密度を図2に示す。図2に示される結果から、電子媒体物質の添加によって、TK−6の生育が阻害されることはないことが確認された。 また、電子媒体物質としてアントラキノン−2,6−ジスルホン酸ジカリウムとアントラキノン−1,5−ジスルホン酸ジナトリウムを使用した場合には、TK−6によるこれらの電子媒体物質の還元によって、培地色が無色(透明)から還元色(赤色)に変化することも確認された。(実施例2) TK−6が電子媒体物質を最終電子受容体(呼吸基質)として利用しているか否かを検討した。 検討条件は、以下の通りとした。 (a)酸素呼吸条件 (b)硝酸呼吸条件 (c)電子媒体物質条件1:アントラキノン−2,6−ジスルホン酸ジナトリウム (d)電子媒体物質条件2:アントラキノン−1,5−ジスルホン酸ジナトリウム (e)電子媒体物質条件3:Fe(III)−EDTA(a)酸素呼吸条件 100mL容ガラスバイアル瓶(Duran)に収容した10mLの培地に、OD540=0.1となるようにTK−6を添加し、当該バイアル瓶の気相のガス組成をH2:CO2:O2=75:15:10(1.5kPa)として、70℃で振とう培養し、バッチ試験を実施した。つまり、この条件においては、最終電子受容体は酸素である。(b)硝酸呼吸条件 100mL容ガラスバイアル瓶(Duran)に収容した10mLの培地に、OD540=0.1となるようにTK−6を添加した。さらに、培地には、NaNO3を60mMとなるように添加した。そして、当該バイアル瓶の気相のガス組成をH2:CO2:N2=75:15:10(1.5kPa)としてバイアル瓶の蓋を閉め、70℃で振とう培養し、バッチ試験を実施した。また、電子媒体物質を添加しない培養試験を対照試験として実施した。つまり、この条件においては、最終電子受容体は硝酸である。(c)〜(e)電子媒体物質条件 100mL容ガラスバイアル瓶(Duran)に収容した10mLの培地に、OD540=0.1となるようにTK−6を添加した。さらに、培地には、電子媒体物質を2mMとなるように添加した。そして、当該バイアル瓶の気相のガス組成をH2:CO2:N2=75:15:10(1.5kPa)としてバイアル瓶の蓋を閉め、70℃で振とう培養し、バッチ試験を実施した。 培養試験結果を図3に示す。(a)の酸素呼吸条件と(b)の硝酸呼吸条件においては、TK−6の良好な生育が確認された。しかし、(c)〜(e)の電子媒体物質条件では、TK−6が生育しなかった。このことから、TK−6は、上記のような電子媒体物質を最終電子受容体として呼吸することで生育することはできないことが明らかとなった。 ここで、実施例1では、電子媒体物質としてアントラキノン−2,6−ジスルホン酸ジナトリウムとアントラキノン−1,5−ジスルホン酸ジナトリウムを使用した場合に、TK−6によるこれらの電子媒体物質の還元によって、培地色が無色(透明)から還元色(赤色)に変化することが確認された。また、本実施例においてはこれらの電子媒体物質がTK−6の最終電子受容体としては機能していないことが確認された。これらの結果から総合的に判断すると、電子媒体物質を使用することで、TK−6細胞内の代謝過程の電子を、細胞外に引き抜くことができる可能性が示唆された。(実施例3) TK−6細胞内から細胞外への電子授受を効率的に行う上では、培養液溶解型の電子媒体物質を使用するよりも、細胞吸着型の電子媒体物質の使用が好適であると考えられた。そこで、細胞吸着型の電子媒体物質について検討した。 以下の9種類の電子媒体物質の溶液にTK−6細胞懸濁液を添加し、6時間後に電子媒体物質のTK−6の吸着を評価した。 ・フェリシアン化カリウム ・PMS(フェナジンメトサルフェート) ・メチルビオロゲン ・ニュートラルレッド ・Fe(III)−EDTA ・インジゴカルミン ・メチレンブルー ・DCPIP(2,6−ジクロロフェノール−インドフェノール) ・レマゾールブリリアントブルー その結果、ニュートラルレッドについて、溶液のニュートラルレッド濃度が低下する傾向が見られた。このことから、ニュートラルレッドがTK−6に吸着し、TK−6とともに沈降したものと推定された。(実施例4) ニュートラルレッドを吸着させたTK−6から、ニュートラルレッドを介して電気化学的に電子を引き抜くことによる影響について検討した。換言すると、TK−6細胞内の電子の流れ(酸化還元バランス)を、電気化学的に変化させることによる影響について検討した。 本実施例においては、ニュートラルレッドを吸着させたTK−6から、ニュートラルレッドを介した電気化学的な電子の引き抜きを行うために(具体的には、水素→TK−6細胞内→ニュートラルレッド→電極の流れで電子を回収)、図4に示す電気培養装置1を使用した。この電気培養装置1は、100mL用ねじ口瓶(Duran)(以下、容器20と呼ぶ)を培養槽とした。容器20には蓋30を取り付けた。蓋30の上面30aにはシリコーンゴム栓を設けて、配線や電極、管を通した際の容器20の密閉性を確保した。 対極槽としての小容器21は、イオン交換膜6を成型して袋状(以下、袋21と呼ぶこともある)とした。具体的には、陽イオン交換膜(デュポン製、ナフィオンK)をヒートシーラーで熱圧着により加工し上部はシリコン系接着剤で埋めて密閉した。陰イオン交換膜6の片側面積は10.5cm2に相当する。袋21の内部には電解液4aを収容すると共に対電極10を収容して電解液4aに浸した。電解液4aは、使用菌体の欄で説明した上記培地とした。 容器20に培養液4(使用菌体の欄で説明した上記培地)を100mL収容し、培養液4に小容器21と作用電極9を浸した。作用電極9と対電極10の配線は、蓋30に設けたシリコーンゴム栓を介して容器20の外側に引き出した。銀・塩化銀参照電極11(RE−1B、BAS株式会社)は蓋30から容器20内に向けて突き刺して培養液4と接触させた。 培養期間中に容器20内にて発生したガスは、容器20の上部に設置したアルミニウム製サンプリングバッグ40(ジーエルサイエンス製、商品名:アルミニウムバッグ、1L)に回収した。 作用電極9と対電極10は共に炭素板とした。作用電極9のサイズは6cm×2.3cmとした。対電極10のサイズは5cm×1cmとした。 ニュートラルレッドを吸着させたTK−6は、使用菌体の欄で説明した前培養(硝酸呼吸条件下)を行って回収した菌体(対数増殖期後期)を、ニュートラルレッドを2mM含有する溶液に懸濁し、細胞表面にニュートラルレッドを吸着させた後、菌体を培地で洗浄して余剰のニュートラルレッドを洗い流してから培養試験に供した。 上記手順によりニュートラルレッドを吸着させたTK−6を、電気培養装置1の容器20内に収容した培養液4に添加し(OD540=2.3)、電流値の経時変化を測定した。尚、本実施例におけるTK−6の添加量は、菌体が増殖しない高菌体密度条件(静止菌条件)である。 試験条件は以下の3条件とした。また、容器20の気相部分のガス組成はH2:N2:CO2=75:10:15(1.5kPa)に制御し、培養温度は70℃とした。(1)ニュートラルレッドを吸着させたTK−6を添加、NaNO3添加有り(60mM)(2)ニュートラルレッドを吸着させたTK−6を添加、NaNO3添加無し(3)菌体添加無し、ニュートラルレッド添加有り(2mM)、NaNO3添加無し 作用電極9への印加電位は+0.4Vとした。 尚、本実施例、さらには以降の実施例では、電気化学的な酸化の効果を正確に評価するために、電子媒体物質が電極上以外で酸化されたり、酸素が電極上で反応したりすることのない嫌気条件(硝酸呼吸条件)にて試験を実施した。 電流値の経時変化を図5に示す。条件(1)と条件(2)ともに、菌体由来の電流値が200分付近において検出された。また、電流値は、条件(1)<条件(2)であったことから、条件(2)では本来呼吸鎖を介して硝酸に流れるべき電子が、ニュートラルレッドを介して電極に流れたものと推定された。尚、条件(1)において、実験終了後(600分後)には硝酸濃度が37.1mMまで減少していた。 次に、条件(1)の実験終了後、細胞内代謝において電子授受反応に使用される重要な物質であるNAD+(酸化体)とNADH(還元体)の測定を行った。具体的には、実験終了後の培養液を1mL採取した後、遠心分離(15000rpm、4℃、10分)により菌体を回収し、回収した菌体をNAD+抽出バッファー(0.5M 過塩素酸)もしくはNADH抽出バッファー(50mM 水酸化ナトリウム、1mM EDTA)に浸漬して、30秒間超音波処理を5回繰り返し行い、代謝産物抽出液を得た。この抽出液について、CycLex NAD+/NADH Colorimetric assay kitを用いて、NAD+とNADHの測定を行った。また、対照試験として、条件(1)を非通電で実施した場合についても同様に試験し、NAD+とNADHの測定を行った。 結果を図6に示す。また、通電無しの結果についてNAD+/NADHを1とした場合の、通電有りのNAD+/NADHの換算結果を図7に示す。図6及び図7に示される結果から、通電を行うことで、酸化体であるNAD+の割合が増加することが明らかとなった。したがって、細胞から電極への電子の引き抜きを行うことで、代謝における電子授受に関わる重要なNAD+(酸化体)/NADH(還元体)の増加が起こることが明らかとなった。また、このことから、TK−6について、電気化学的に代謝を制御できる可能性が示唆された。(実施例5) 電気培養試験(静止菌試験)を行った後の試料について、メタボローム解析を実施した。 実施例4の条件(1)と同様の条件、及び実施例4の条件(1)を非通電とした条件で培養を行い、培養開始から150分後、850分後にそれぞれ培養液を採取した。採取した培養液に含まれる菌体を吸引ろ過装置を用いて、フィルター(Millipore Isopore Membrane Filter HTTP 0.4 μm pore 47 mm diameter, Millipore)上に回収した。フィルター上に回収した菌体を10 mLのMilliQ水で2回洗浄し、内部標準 (H3304-1002, HMT) を含有するメタノール (LC/MS用, Wako) 2 mLを入れた密閉シャーレにフィルターの菌体付着面を下にしてフィルターをメタノールに浸漬させた。メタノールに浸漬させたフィルターを30秒、超音波処理を行い、代謝産物抽出液を得た。回収した菌数は以下の通りであった。(a)150分通電 : 6.7×109cells(b)150分非通電: 6.7×109cells(c)850分通電 : 3.4×109cells(d)850分非通電: 5.8×109cells 回収した菌体は、1600μLのクロロホルム及び640μLのMilliQ水を加えて撹拌し、遠心分離(2300×g、4℃、5分)を行った。遠心分離後、水層を限外ろ過チューブ(MILLIPORE、ウルトラフリーMC PLHCC HMT 遠心式フィルターユニット 5kDa)に325μL×4本移し取った。これを遠心(9100×g、4℃、120分)し、限外ろ過処理を行った。ろ液を乾固させ、再び50μLのMilli−Q水に溶解し、代謝産物の測定(菌体試料)に供した。 また、培養開始から850分後に培養液を40μL回収し、この40μLの試料に対し、内部標準物質の濃度が1000μMとなるように調製した10μLの水溶液を加えて撹拌し、限外ろ過チューブ(MILLIPORE、ウルトラフリーMC PLHCC HMT 遠心式フィルターユニット 5kDa)に325μL×4本移し取った。これを遠心(9100×g、4℃、120分)し、限外ろ過処理を行った。ろ液を乾固させ、再び50μLのMilli−Q水に溶解し、代謝産物の測定(上清試料)に供した。 代謝産物の分析はCE−TOF MS system(Agilent)を使用し、陽イオン性物質および陰イオン性物質をカチオンモード、アニオンモードでそれぞれ測定した。カチオンモードとアニオンモードの測定条件を以下に示す。[カチオンモードの測定条件] Run buffer : Cation Buffer Solution (p/n : H3301-1001) Rinse buffer : Cation Buffer Solution (p/n : H3301-1001) Sample injection : Pressure injection 50 mbar, 10 sec CE voltage : Positive, 27 kV MS ionization : ESI Positive MS capillary voltage : 4,000 V MS scan range : m/z 50-1,000 Sheath liquid : HMT Sheath Liquid (p/n : H3301-1020)[アニオンモードの測定条件] Run buffer : Anion Buffer Solution (p/n : H3302-1021) Rinse buffer : Anion Buffer Solution (p/n : H3302-1022) Sample injection : Pressure injection 50 mbar, 25 sec CE voltage : Positive, 30 kV MS ionization : ESI Negative MS capillary voltage : 3,500 V MS scan range : m/z 50-1,000 Sheath liquid : HMT Sheath Liquid (p/n : H3301-1020) CE−TOF MSで検出されたピークは自動積分ソフトウェアのMasterHands ver.2.9.0.9(慶應義塾大学開発)を用いて自動抽出し、ピーク情報として質量電荷比(m/z)、泳動時間(Migration time:MT)とピーク面積値を得た。得られたピーク面積値は下記の[式1]を用いて相対面積値に変換した(菌体試料については、採取細胞数による補正を行った。つまり、下記の式[1]中の試料数を採取細胞数として計算した。)。また、これらのデータにはNa+やK+などのアダクトイオン及び、脱水、脱アンモニウムなどのフラグメントイオンが含まれているので、これらの分子量関連イオンを削除した。しかし、物質特異的なアダクトやフラグメントも存在するため、すべてを精査することはできなかった。精査したピークについて、m/zとMTの値をもとに、各試料間のピークの照合・整列化を行った。 相対面積値=目的ピークの面積値/(内部標準物質の面積値×試料量)・・・[式1] 検出されたピークに対してm/zとMTの値をもとにHMT代謝物質データベースに登録された全物質との照合、検索を行った。検索のための許容誤差はMTで±0.5min、m/zでは±10ppmとした。 質量誤差(ppm)=(実測値−理論値×106)/実測値 主要代謝産物としてアミノ酸、有機酸、糖リン酸及び核酸を含む108物質について解析を行った。検量線は内部標準物質により補正したピーク面積を用い、各物質について100μMの一点検量(内部標準物質200μM)として濃度を算出した。 メタボローム解析を行った結果、菌体試料については130ピーク(カチオン42、アニオン88)を検出し、このうち62物質(カチオン28、アニオン34)を定量可能であった。また、上清試料については43ピーク(カチオン25、アニオン18)を検出し、このうち33物質(カチオン24、アニオン9)を定量可能であった。 菌体試料(150分)について、非通電時よりも通電時の方が増加した代謝産物を表1に示す。 ピリミジングループでは、CTP(シチジン三リン酸)、CDP(シチジン二リン酸)、CMP(シチジン一リン酸)が増加した。 プリングループでは、Guanine(グアニン)、GMP(グアノシン一リン酸)、GDP(グアノシン二リン酸)、GTP(グアノシン三リン酸)が増加した。 アミノ酸グループでは、Trp(トリプトファン)、His(ヒスチジン)、Glu(グルタミン酸)、Arg(アルギニン)、Lys(リシン)、Asp(アスパラギン酸)が増加した。 その他、Propionic acid(プロピオン酸)、2−aminoadipic acid(2−アミノアジピン酸)、CoA(補酵素A)が増加した。 次に、菌体試料(850分)について、非通電時よりも通電時の方が増加した代謝産物を表2に示す。 ピリミジングループでは、CMP(シチジン一リン酸)、CDP(シチジン二リン酸)、CTP(シチジン三リン酸)、dCMP(デオキシシチジン一リン酸)、dCDP(デオキシシチジン二リン酸)、dCTP(デオキシシチジン三リン酸)、dTMP(チミジン一リン酸)、dTDP(チミジン二リン酸)、dTTP(チミジン三リン酸)、UDP(ウリジン二リン酸)が増加した。 プリングループでは、GMP(グアノシン一リン酸)、GDP(グアノシン二リン酸)、GTP(グアノシン三リン酸)、IMP(イノシン一リン酸)、adenine(アデニン)、ADP(アデノシン二リン酸)、dADP(デオキシアデノシン二リン酸)、dATP(デオキシアデノシン三リン酸)が増加した。 アミノ酸グループでは、Lys(リシン)、Arg(アルギニン)、Ala(アラニン)、Trp(トリプトファン)、Tyr(チロシン)、Phe(フェニルアラニン)、Ser(セリン)、Thr(トレオニン)、Gly(グリシン)、His(ヒスチジン)、Pro(プロリン)、Uric acid(尿酸)、Oxoproline(オキソプロリン)が増加した。 TCAサイクルグループでは、Citric acid(クエン酸)、cis−Aconitic acid(シス−アコニット酸)、Succinic acid(コハク酸)が増加した。 糖新生グループでは、AcCoA(アセチル補酵素A)、Lactic acid(乳酸)、Glyceric acid(グリセリン酸)、F6P(フルクトース−6−リン酸)が増加した。 その他、Choline(コリン)、Ethanolamine(エタノールアミン)、Urea(尿素)が増加した。 表1及び表2に示される結果から、菌体試料については、通電により、特に、CTP(シチジン三リン酸)、CDP(シチジン二リン酸)、CMP(シチジン一リン酸)、Guanine(グアニン)、GMP(グアノシン一リン酸)、GDP(グアノシン二リン酸)、GTP(グアノシン三リン酸)、Trp(トリプトファン)、His(ヒスチジン)、Arg(アルギニン)、Lys(リシン)の増加量が多くなり、この中でも特に、Arg(アルギニン)、Lys(リシン)の増加量が顕著に多くなることが明らかとなった。 表3に、通電による増加量が顕著に多かったArg(アルギニン)、Lys(リシン)について、通電(Electrolysis)と非通電(Control)における濃度の比較データを示す。 表3に示される結果から判断すると、通電を850分行って菌体を回収するよりも、通電を150分行って菌体を回収した方が、Arg(アルギニン)、Lys(リシン)をより多く回収できると考えられた。 次に、上清試料について、非通電時よりも通電時の方が増加した代謝産物を表4に示す。 ピリミジングループでは、UDP(ウリジン二リン酸)、CMP(シチジン一リン酸)、UMP(ウリジン一リン酸)が増加した。 プリングループでは、GMP(グアノシン一リン酸)、AMP(アデノシン一リン酸)が増加した。 アミノ酸グループでは、Gly(グリシン)、Val(バリン)、Leu(ロイシン)、lle(イソロイシン)、Asn(アスパラギン)、Gln(グルタミン)、His(ヒスチジン)、Tyr(チロシン)、Pro(プロリン)、Phe(フェニルアラニン)、Ser(セリン)、Arg(アルギニン)、Lys(リシン)、5−Oxoproline(5−オキソプロリン)が増加した。 TCAサイクルグループでは、Succinic acid(コハク酸)、Malic acid(リンゴ酸)が増加した。 脂肪酸グループでは、Butyric acid(酪酸)、Isovaleric acid(イソ吉草酸)、Adipic acid(アジピン酸)、trans−Ferulic acid(トランス−フェルラ酸)、Sebacic acid(セバシン酸)が増加した。(実施例6) 実施例4では高菌体密度条件(静止菌条件)にて培養試験を実施したが、本実施例では増殖条件で実施例4と類似の培養試験を実施し、代謝の制御性について検討した。 具体的には、TK−6にニュートラルレッドを吸着させることなく、電子媒体物質としてアントラキノン−2,6−ジスルホン酸ジナトリウムを培養液4に溶解させ(2mM)、作用電極9の印加電位を+0.6Vとし、初期菌体密度を1.0×107cells/mLとした以外は、実施例4の条件(1)と同様の条件で培養試験を実施した。また、同様の培養試験を非通電で実施した。 培養試験終了後の菌体密度を図8に示し、培養液の硝酸濃度を図9に示す。通電を行うことで、培養終了後の菌体密度が増加し、それに対応して硝酸濃度が減少していることが明らかとなった。 次に、通電条件において、菌体の有無による電流値の経時変化について検討した結果を図10に示す。菌体有りの場合には、菌体の増殖に伴った電流値の増加が見られた。したがって、菌体の増殖に伴って、アントラキノン−2,6−ジスルホン酸ジナトリウムを介した電流が検出されることが明らかとなった。(実施例7) 電気培養試験(増殖条件)を行った後の試料について、メタボローム解析を実施した。 実施例6と同様の条件で培養試験を行い、電流値の増加が観察される培養開始から3000分経過後に菌体を回収した。回収した菌数は以下の通りであった。(a)通電 : 5.0×109cells(b)非通電: 2.8×109cells 尚、菌体回収方法、メタボローム解析条件は、実施例5と同様とした。 メタボローム解析を行った結果、96ピークを検出し、通電により増加した代謝物質は30物質であった。通電により増加したアミノ酸グループ及びアミノ酸生合成グループの代謝産物を表5に示し、通電により増加した直鎖飽和脂肪酸グループ等の代謝産物を表6に示す。また、図11に、通電により増加した各種脂肪酸の化学構造式を示す。 アミノ酸グループでは、Gln(グルタミン)、Val(バリン)、Glu(グルタミン酸)、Pro(プロリン)、lle(イソロイシン)、Asp(アスパラギン酸)、Ala(アラニン)、Tyr(チロシン)、Leu(ロイシン)が増加した。 アミノ酸生合成グループでは、Betaine(ベタイン)、2,6−diaminopimelic acid(2,6−ジアミノピメリン酸)、2−Aminoadipic acid(2−アミノアジピン酸)、2−Hydroxyisobutyric acid(2−ヒドロキシイソ酪酸)、Glycerol 3−phosphate(グリセロール 3−リン酸)が増加した。 直鎖飽和脂肪酸グループでは、Undecanoic acid(ウンデカン酸)、Lauric acid(ラウリン酸)、Decanoic acid(デカン酸)、Butyric acid(酪酸)、Octanoic acid(オクチル酸)、Propionic acid(プロピオン酸)、Pelargonic acid(ペラルゴン酸)、Heptanoic acid(ヘプタン酸)、Hexanoic acid(ヘキサン酸)が増加した。 その他、Isovaleric acid(イソ吉草酸)、Tiglic acid(チグリン酸)が増加した。 以上の結果から、増殖条件においても、静止菌条件と同様に、通電によってアミノ酸の量が増加することが明らかとなった。また、増殖条件においては、炭素数3〜12の直鎖飽和脂肪酸量が増加していることが特徴的であった。特に、鎖長が長い炭素数11、12の直鎖飽和脂肪酸(ウンデカン酸、ラウリン酸)の増加効果が大きいことが明らかとなった。(まとめ) 本実施例の結果から推定される水素細菌の代謝機構を図12に示す。電気化学的に電子を引き抜くことで、電子媒体物質の還元体(NRred(ニュートラルレッドの還元体)又は2,6−AQDSred(アントラキノン−2,6−ジスルホン酸ジナトリウムの還元体))が、電子媒体物質の酸化体(NRox(ニュートラルレッドの酸化体)又は2,6−AQDSox(アントラキノン−2,6−ジスルホン酸ジカリウムの酸化体))に酸化される。水素細菌細胞内では、水素由来の電子によってNAD+がNADHに還元されるが、電極による電子媒体物質を介した電子の引き抜きによって、NADHがNAD+に酸化される反応が支配的となり、NADHに対するNAD+の量が増加する。つまり、水素細菌細胞内の酸化還元バランスが酸化にシフトし、アミノ酸及び脂肪酸の生産性が向上するものと推定される。水素細菌は非常に増殖速度の速い生物であり、固定した二酸化炭素は効率的に自らの細胞を構築することに利用される。そのため、通常の培養条件では細胞内に有用物質の有意な蓄積はほとんどないと考えられる。これに対し、本発明によれば、代謝を制御することで、アミノ酸、脂肪酸を有意に蓄積することができる。有用物質を細胞内に有意に蓄積できる点で、通常の培養方法と比較して極めて優れた手法であると言える。2 水素細菌4 培地5 電子媒体物質9 電極 培地中の水素細菌に対し、酸化体と還元体の両形態をとり得る電子媒体物質を介して電子の引き抜きを行いながら、水素と二酸化炭素と前記水素細菌の最終電子受容体として機能する物質とを与えて培養を行うことを特徴とする水素細菌の代謝制御方法。 前記電子の引き抜きを、以下の(1)及び/又は(2)の方法で実施する、請求項1に記載の代謝制御方法。(1)前記水素細菌の細胞表面に前記電子媒体物質を吸着させると共に前記培地に電極を接触させて、前記電極に酸化電位を印加する(2)前記培地に前記電子媒体物質を添加すると共に前記培地に電極を接触させて、前記電極に酸化電位を印加する 前記水素細菌を、ハイドロジェノバクター サーモフィラス(Hydrogenobacter themophilus)とする、請求項1又は2に記載の代謝制御方法。 請求項1又は2に記載の代謝制御方法を行う工程を含む、有用物質の生産方法。 請求項3に記載の代謝制御方法を行う工程を含む、アミノ酸及び脂肪酸からなる群から選択される1種以上の有用物質の生産方法。 請求項1又は2に記載の代謝制御方法により得られる、通常よりも有用物質が蓄積されている水素細菌。 請求項3に記載の代謝制御方法により得られる、通常よりもアミノ酸及び脂肪酸が蓄積されているハイドロジェノバクター サーモフィラス(Hydrogenobacter themophilus)。 請求項6又は7に記載の水素細菌を含む微生物含有組成物。 【課題】水素細菌の代謝を制御する。【解決手段】培地4中の水素細菌2に対し、酸化体と還元体の両形態をとり得る電子媒体物質5を介して電子の引き抜きを行いながら、水素と二酸化炭素と水素細菌の最終電子受容体として機能する物質とを与えて培養を行うようにした。水素細菌がハイドロジェノバクターサーモフィラスであり、該細菌を利用したアミノ酸及び脂肪酸からなる群から選択される1種以上の有用物質の生産方法。【選択図】図1A


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