タイトル: | 公開特許公報(A)_代謝物の抽出方法 |
出願番号: | 2012206518 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | B01D 11/02,G01N 1/10,C12Q 1/00 |
佐々木 一謹 佐藤 基 JP 2014061459 公開特許公報(A) 20140410 2012206518 20120920 代謝物の抽出方法 ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社 504059429 高矢 諭 100080458 松山 圭佑 100076129 牧野 剛博 100089015 佐々木 一謹 佐藤 基 B01D 11/02 20060101AFI20140314BHJP G01N 1/10 20060101ALI20140314BHJP C12Q 1/00 20060101ALN20140314BHJP JPB01D11/02 AG01N1/10 FC12Q1/00 Z 9 2 OL 11 2G052 4B063 4D056 2G052AA28 2G052AB16 2G052AD29 2G052FB02 2G052FD09 2G052GA22 4B063QQ01 4B063QQ63 4B063QS12 4B063QS14 4D056AB17 4D056AC06 4D056AC11 4D056AC22 4D056AC29 4D056CA01 4D056CA39 本発明は、代謝物の抽出方法に係り、特に、培養細胞や微生物中の親水性代謝物を定性・定量解析したり、生産物質を抽出する際に用いるのに好適な、酸化を抑制しながら代謝を迅速に停止させ、親水性物質を効率的に抽出することが可能な、代謝物の抽出方法に関する。 メタボローム解析は、生体内の代謝物を網羅的に分析する手法であるが、代謝をより正確に把握するには、代謝を迅速に停止させ、且つ、酸化を抑制させ、効率的に代謝物を抽出する方法が必要である。 細胞中の代謝物を抽出する簡便な方法としては、メタノールやアセトニトリルなどの有機溶媒もしくは有機溶媒と水の混液で抽出する手法がある(非特許文献1)。 また、メタノール・水・クロロホルムの3液を用いて液液抽出を行い、代謝物を抽出する方法もある(特許文献1〜3、非特許文献2)。 更に、非特許文献3には、メタノールで抽出した後、抽出残渣に水を加えて抽出を行う2段階での抽出法が報告されている。特開2007−192746号公報特開2008−5778号公報特開2012−145398号公報Dietmair S et al., Anal Biochem. 2010 Sep 15;404(2):155-64.Canelas AB et al., Anal Chem. 2009 Sep 1;81(17):7379-89.Sellick CA et al., Nat Protoc. 2011 Jul 28;6(8) :1241-9. しかしながら、有機溶媒のみで抽出を行うと、ATPなど特に極性の高い親水性代謝物の抽出効率が悪い。又、有機溶媒と水の混液を最初から加えると、酵素が十分失活せず、代謝が十分に停止していない可能性がある。メタノール・水・クロロホルムの3液を用いて液液抽出を行い抽出する方法でも代謝が十分に停止していない可能性があり、酸化は抑制されず、更に操作が煩雑である。また、メタノールで抽出した後、更に抽出残渣に水を加えて抽出を行う2段階での抽出法も操作が煩雑であり細胞内の代謝物を複数定量する場合、抽出法における正確な回収率を求めることが困難となる等の問題点を有していた。 本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、簡便な方法で、酸化を抑制しつつ代謝の進行を迅速に停止させながら、親水性の代謝物を効率的に抽出することを課題とする。 本発明は、代謝物の抽出に際して、まず、水と任意に混合する有機溶媒を添加して、酸化を抑制しつつ酵素を失活させる第1ステップと、次いで、水を添加することにより、親水性の代謝物を液相に溶解させる第2ステップと、その後、液相を分取する第3ステップとを含むことにより、前記課題を解決したものである。 なお、非特許文献3に記載された手法は、2段階の操作をするという点では本発明に類似しているが、溶媒を加えるごとに抽出を行っており、本発明のように2段階で溶媒を加えて1回で抽出するものではない。 ここで、前記第1ステップで添加する有機溶媒を、メタノール又はアセトニトリルとすることができる。 又、前記第2ステップで添加する水を超純水又は純水とすることができる。 又、前記第1ステップで添加する有機溶媒を、所定割合以下の水を含む第1の溶液とすることができる。 又、前記第2ステップで添加する水を、所定割合以下の有機溶媒を含む第2の溶液とすることができる。 又、前記第2の溶液中の有機溶媒の割合を、前記第1の溶液中の有機溶媒の割合よりも小さくすることができる。 又、前記第1の溶液と前記第2の溶液の合計量に対する前記第1の溶液中の有機溶媒と前記第2の溶液中の有機溶媒の合計量の割合を所定値以上とすることができる。 又、前記の抽出方法を用いてチオール化合物を抽出することができる。 又、前記の抽出方法を用いて接着細胞から代謝物を抽出することができる。 本発明によれば、まず、有機溶媒を添加するので、酸化を抑制しながら酵素を確実に失活させ、代謝の進行を迅速に停止することができる。次いで、水を添加するので、有機溶媒に溶けにくい親水性代謝物を液相に溶解して、液相を回収することができる。特に、チオール基を有する様な酸化されやすい物質やアセチルCoA、ピルビン酸において改善効果が大きい。したがって、簡便な方法で、酸化を抑制しつつ代謝の進行を迅速に停止し、親水性代謝物を効率的に抽出することが可能となり、再現性も向上する。 更に、液液抽出を行わないため、操作が簡便で、多数の検体が処理可能である。 又、接着細胞から代謝物を抽出する際は、従来方法では、まず、シャーレから細胞を剥ぎ取るという操作を加える必要があるが、本発明では剥ぎ取る必要がなくなる。本発明の実施形態の手順を示す流れ図本発明の実施形態を実施している様子を示す図本発明の実施例1と液液抽出法における抽出量及び再現性を比較して示す図同じく実施例1とメタノール水溶液抽出法における抽出量及び再現性を比較して示す図本発明の実施例2と液液抽出法における抽出量及び再現性を比較して示す図本発明の実施例1、3及び4における抽出量及び再現性を比較して示す図 以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。 図1は本実施形態の手順を示す流れ図である。 細胞中の酵素は、有機溶媒により失活するため、まずステップ110で水と任意に混合する有機溶媒(例えばメタノール、アセトニトリルなど)(図2ではメタノール14)を、図2(A)に例示する如く、例えばシャーレ12中の培養細胞10に添加する。 添加する有機溶媒は100%が望ましいが、例えば10%程度、水が混合していてもよい。 親水性の代謝物質は有機溶媒に溶けにくいため、その後ステップ120で、図2(B)に示す如く、水、例えば超純水16を添加することにより、親水性の代謝物が液相に溶解し易い状態にした後、ステップ130で液相を分取して回収する。 ここで添加する水は100%が望ましいが、有機溶媒が混ざっていてもよい。更に、ここで加える水は、不純物の問題が無ければ、超純水に限定されず、純水や水道水でも良い。 なお、このステップ120で加える有機溶媒の比率は、ステップ110で添加した有機溶媒の比率よりも低く抑える必要がある。 次いで、ステップ130で液相を分取し、図2(C)に例示する如く、フィルタ18を通して、例えば限外ろ過する。ここで、限外ろ過を行うのは、キャピラリー電気泳動質量分析計(CE−MS)による測定に際して、タンパク質を完全に除くためであり、用途によっては、通常のフィルタによるろ過でも良い。 このようにして、抽出する溶媒を2段階に分けて培養細胞に加えることにより、酸化を抑制しつつ酵素を確実に失活させ、且つ、効率的に親水性の代謝物を抽出することができる。この際、液液抽出を行わないため、操作が簡便である。 例えば直径90mmシャーレ上の接着状態にある2×107個の培養細胞にメタノールを800μL加え、シャーレ上の培養細胞全体にメタノールを浸潤させ、酸化を抑制しながら酵素を失活させ、代謝を停止させた。 メタノールを浸潤させた後、水を550μL加え、メタノールと混合させながらシャーレ上の培養細胞全体に水を浸潤させ、親水性物質を抽出した。 混合液を1mL回収し、後は従来法と同様に、遠心分離した後、上澄みを限外ろ過し、ろ液を蒸発乾固させ、例えば50μLの水に溶解し、例えばCE−MSで測定を行った。 比較のため、同じ培養細胞に対して、メタノール1000μL、クロロホルム1000μL、水を400μL及び超音波を用いた液液検出を行った。 それぞれの条件で3回繰り返し実験を行い、ばらつきも評価した。 抽出量及び再現性の液液抽出法との比較結果を図3に示す。 液液抽出法と比較して本発明法では、酸化が進んでおらず、還元型グルタチオン、CoAなど、チオール基を有する化合物の抽出量が高い。また、本発明法ではチオール基の酸化が抑えられ、チオール基を有する化合物が酸化してできるジスルフィド化合物が減少している。すなわち、チオールからジスルフィドへの変換が抑えられている。 本発明法と液液抽出法で差がある物質については、液液抽出法の方でばらつきが大きい。例えば酵素的な反応を続けていると考えられるアセチルCoAやピルビン酸などである。 表1にCoAとアセチルCoAの定量値を示す。 液液抽出法ではアセチルCoAの相対標準偏差RSDが大きいが、アセチルCoAとCoAの総和を取るとRSDが小さくなる。すなわち、液液抽出法ではアセチルCoAからCoAへの変換が生じており、本発明法ではそれが抑えられているものと考えられる。 例えばCoAには脂質代謝の際に消費され、アセチルCoAが生成されるといった反応があり、液液抽出法では酵素が完全に失活せず、このような反応が生じているものと考えられる。代謝経路上、ピルビン酸はアセチルCoAの直後の代謝物であり、ピルビン酸もその影響を受けているものと考えられる。 60%メタノール水溶液抽出法と本発明の実施例1の抽出量及び再現性の比較結果を図4に示す。 メタノール水溶液抽出法は、同じ培養細胞に対して60%メタノールを1300μL添加することにより行った。 液液抽出との比較の際と同様、チオールの酸化が抑えられて、還元型グルタチオン、CoAなどのチオール化合物の抽出量が増加し、ジスルフィド化合物(システイングルタチオンジスルフィド)の抽出量が減少している。すなわち、化合物の酸化が抑えられている。 また、NADPHの抽出量が増加し、NADP+の抽出量が減少している。NADPHは酵素的にNADP+へ酸化されるが、本発明法ではその反応が抑えられている。 また、本発明法では、O−アセチルホモセリン、チオプロリン、ピルビン酸、グリセロアルデヒド3−リン酸のRSDが顕著に小さくなる。 以上から、本発明法では従来法と比較し、酸化や代謝を止めながら再現性の高い抽出が可能といえる。 例えば直径90mmシャーレ上の接着状態にある2×107個の培養細胞に90%アセトニトリル水溶液(v/v)80μLを加え、シャーレ上の培養細胞全体に90%アセトニトリル水溶液を浸潤させ、酸化を抑制しながら酵素を失活させ、代謝を停止させた。 90%アセトニトリル水溶液を浸潤させた後、水を600μL加え、90%アセトニトリル水溶液と混合させながらシャーレ上の培養細胞全体に水を浸潤させ、親水性物質を抽出した。 混合液を1mL回収し、後は従来法と同様に、遠心分離した後、上澄みを限外ろ過し、ろ液を蒸発乾固させ、例えば50μLの水に溶解し、例えばCE−MSで測定を行った。 抽出量及び再現性の液液抽出法との比較結果を図5に示す。 チオール関連物質のばらつきが減少し、システイングルタチオンジスルフィドが減少しており、液液抽出法と比較し、実施例1と同様チオール化合物の酸化が抑えられている。アセチルCoAのばらつきも減少しており、液液抽出法と比較し、実施例1と同様アセチルCoAの代謝が抑えられている。 例えば直径90mmシャーレ上の接着状態にある2×107個の培養細胞にメタノール650μLを加え、シャーレ上の培養細胞全体にメタノールを浸潤させ、酸化を抑制しながら酵素を失活させ、代謝を停止させた。 メタノールを浸潤させた後、水を650μL加え、メタノールと混合させながらシャーレ上の培養細胞全体に水を浸潤させ、親水性物質を抽出した。 混合液を1mL回収し、後は従来法と同様に、遠心分離した後、上澄みを限外ろ過し、ろ液を蒸発乾固させ、例えば50μLの水に溶解し、例えばCE−MSで測定を行った。 例えば直径90mmシャーレ上の接着状態にある2×107個の培養細胞にメタノール900μLを加え、シャーレ上の培養細胞全体にメタノールを浸潤させ、酸化を抑制しながら酵素を失活させ、代謝を停止させた。 メタノールを浸潤させた後、水を400μL加え、メタノールと混合させながらシャーレ上の培養細胞全体に水を浸潤させ、親水性物質を抽出した。 混合液を1mL回収し、後は従来法と同様に、遠心分離した後、上澄みを限外ろ過し、ろ液を蒸発乾固させ、例えば50μLの水に溶解し、例えばCE−MSで測定を行った。 実施例1、3及び4における抽出量及び再現性の比較結果を図6に示す。実施例1(メタノールの割合800/(800+550)≒60%)と実施例3(メタノールの割合650/(650+650)=50%)を比較すると、液液抽出の比較時程ではないがチオール関連化合物の再現性が悪化する傾向が見られた。それ以外の物質についてはほぼ同一の結果が得られた。実施例1、4(メタノールの割合900/(900+400)≒70%)ではほぼ同じ結果となった。従って、抽出に用いる有機溶媒の最終的な割合が50%以下の条件は好ましくない。 以上のように、液液抽出法と比較した場合、本発明法は、溶媒を問わず、チオールの酸化の抑制やアセチルCoAに関連した物質の代謝の抑制が確認された。 又、メタノール水溶液抽出法と比較した場合、本発明法は、ばらつきの大きい物質について再現性が改善され、チオールの酸化の抑制、NADPHの酸化の抑制が確認された。 以上、本発明法は、これまでの抽出法と比較し、物質の酸化を抑制しつつ代謝の進行を効率的に止めながら高い抽出効率を実現できた。 本発明法により調製した試料は、CE、液体クロマトグラフィ、ガスクロマトグラフィ、MS、薄層クロマトグラフィ、核磁気共鳴、分光学的手法などを用いた分析などに適用できる。 又、本発明法により調製した試料は、酵素反応の基質としても利用することができる。 本発明は、更に、培養細胞や微生物を用いた物質生産におけるターゲット物質の効率的な抽出法としても利用できる。 本発明法は、大腸菌、酵母等の微生物、培養動物細胞、培養植物細胞、血球、精子、卵子、その他の単細胞試料や肝臓や脳、筋肉などの生体組織に適用することができる。 10…培養細胞 12…シャーレ 14…メタノール 16…超純水 18…フィルタ 代謝物の抽出に際して、 まず、水と任意に混合する有機溶媒を添加して、酸化を抑制しながら酵素を失活させる第1ステップと、 次いで、水を添加することにより、親水性の代謝物を液相に溶解させる第2ステップと、 その後、液相を分取する第3ステップとを含むことを特徴とする代謝物の抽出方法。 前記第1ステップで添加する有機溶媒が、メタノール又はアセトニトリルであることを特徴とする請求項1に記載の代謝物の抽出方法。 前記第2ステップで添加する水が超純水又は純水であることを特徴とする請求項1又は2に記載の代謝物の抽出方法。 前記第1ステップで添加する有機溶媒が、所定割合以下の水を含む第1の溶液とされていることを特徴とする請求項1又は2に記載の代謝物の抽出方法。 前記第2ステップで添加する水が、所定割合以下の有機溶媒を含む第2の溶液とされていることを特徴とする請求項1又は3に記載の代謝物の抽出方法。 前記第2の溶液中の有機溶媒の割合が、前記第1の溶液中の有機溶媒の割合よりも小さいことを特徴とする請求項5に記載の代謝物の抽出方法。 前記第1の溶液と前記第2の溶液の合計量に対する前記第1の溶液中の有機溶媒と前記第2の溶液中の有機溶媒の合計量の割合が所定値以上とされていることを特徴とする請求項5又は6に記載の代謝物の抽出方法。 請求項1乃至7のいずれかに記載の抽出方法を用いてチオール化合物を抽出することを特徴とする代謝物の抽出方法。 請求項1乃至8のいずれかに記載の抽出方法を用いて接着細胞から代謝物を抽出することを特徴とする代謝物の抽出方法。 【課題】簡便な方法で、酸化を抑制しつつ代謝の進行を迅速に停止させながら、親水性の代謝物を効率的に抽出する。【解決手段】代謝物の抽出に際して、まず、水と任意に混合する有機溶媒(メタノール14)を添加して、酸化を抑制しながら酵素を失活させる第1ステップと、次いで、水(超純水16)を添加することにより、親水性の代謝物を液相に溶解させる第2ステップと、その後、液相を分取する第3ステップとを含む。ここで、第1ステップで添加する有機溶媒を、メタノール14又はアセトニトリルとし、前記第2ステップで添加する水を超純水16又は純水とすることができる。【選択図】図2