タイトル: | 公開特許公報(A)_シリコーン製モノリス体及びそれを用いた分離、精製、濃縮方法 |
出願番号: | 2012206388 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | B01J 20/26,G01N 30/88,G01N 30/02,B01J 20/30 |
中西 和樹 金森 主祥 早瀬 元 古野 正浩 武井 義之 JP 2014061457 公開特許公報(A) 20140410 2012206388 20120919 シリコーン製モノリス体及びそれを用いた分離、精製、濃縮方法 国立大学法人京都大学 504132272 ジーエルサイエンス株式会社 390030188 高橋 三雄 100063842 高橋 大典 100118119 中西 和樹 金森 主祥 早瀬 元 古野 正浩 武井 義之 B01J 20/26 20060101AFI20140314BHJP G01N 30/88 20060101ALI20140314BHJP G01N 30/02 20060101ALI20140314BHJP B01J 20/30 20060101ALI20140314BHJP JPB01J20/26 BG01N30/88 201XG01N30/88 201GG01N30/88 101PG01N30/88 101KG01N30/02 BB01J20/30 14 1 OL 21 特許法第30条第2項適用申請有り 2012年3月19日 における公開 4G066 4G066AB05A 4G066AB15A 4G066AB16A 4G066AB18A 4G066AB21A 4G066AC28B 4G066AC31B 4G066AC35B 4G066BA01 4G066BA23 4G066BA38 4G066CA01 4G066CA46 4G066CA56 4G066DA03 4G066DA07 4G066EA01 4G066FA07 4G066FA11 本発明は、連続貫通孔を持ち、且柔軟性を有し、担体を必要とせず分離、精製、濃縮に有用性のあるシリコーン製モノリス体及びそれを使用した方法に関する。 分離、精製、濃縮の対象物質は大気または水中の有害化学物質や金などの貴金属であり、分野は主に分析化学における試料前処理に関するものであるが、工業規模での分離、回収にも適用できる。コールドプレス法といわれるかんきつ類などからの香料/精油の回収媒体としても適用できる。 分離、精製、濃縮に利用される充填材や捕集剤は、シリカゲルや珪藻土などの担体にシリコーンなどの固定相液体を固定化した充填剤と、活性炭やゼオライトなどの吸着型の充填剤を利用するもの、フェノール樹脂やアクリレート樹脂、またスチレン−ジビニルベンゼン共重合体などのポリマー系充填剤に大きく三つに分類される。 固定相液体型の充填剤を用いて、大気などの気相から分析対象物質を分離濃縮するときの機構は気液分配平衡であり、水系試料から分離濃縮するときの機構は液液分配平衡とされている。吸着型の充填剤を用いるときは、それぞれ気固平衡(気相−固相間の吸着平衡)、液固平衡とされている。ポリマー系充填剤は、分析対象物質がポリマー剤に溶解することがあり、気固平衡と気液平衡または液固平衡と液液平衡の両者の機構が働いているとされているが、多孔質ポリマーの細孔へのファンデルワールス力での保持が支配的であり、気固または液固の吸着平衡が強く作用している。 一般的に、吸着型充填剤やポリマー系充填剤は、機械的強度が高く粒子状のものや最近ではモノリス状のものがカラム容器に充填して利用される。粒子間やモノリスの貫通孔が気体または液体の通路となり、特に担体を必要としない。 又、吸着型充填剤やポリマー系充填剤は、保持力が強く揮発性の物質を効率良く保持できるが、反面、不安定な物質の分離、精製、濃縮には適していない、特に脱離時にエネルギーが必要であり、その際に変性する化学種も多い。 担体を使用しない充填剤として、ポリマー充填剤がある。それには、フェノール系、スチレン−ジビニルベンゼン系などがあり、前者はTenax TA、後者にはPorapack(登録商標)などの充填剤が市販されている。これらの形状は粒状である。また、担体を使用しない充填剤として、有機ポリマーモノリスがある(非特許文献1)。有機ポリマーモノリスは、アクリルアミド系、メタクリル酸エステル系、スチレン−ジビニルベンゼン系のものが主に研究され、スチレン系、メタクリル酸エステル系が市販されている。 これらポリマー充填剤はポリマー表面に存在する細孔内にファンデルワールス力によって対象とする化学種が捕獲され吸着(濃縮)が行われる。吸着した化学種を脱離させる場合、GC分析ではポリマー充填剤を加熱し不活性ガスでパージする手法(加熱脱離)が行われる。この用途に於いて、Tenax TAは、2−メチルイソボルネオールの脱水が起きることがある。このことは、分析対象となる化学種(分析対象の化学種に限り、以下、分析種という。)がポリマー充填剤表面の細孔に入り込む(吸着)ことに起因する問題である。 充填剤に吸着した分析種を溶媒脱離する場合、充填剤は容器に充填し使用する。このため粒子と粒子の間には「ベット(床)ボリューム」と呼ばれる空隙が存在することになり、溶媒脱離時には、分析種の脱離以外に空隙を満たすための溶媒が余分に必要となる。ベットボリューム分を置換するための有機溶媒の使用により、濃縮した分析種が希釈されることになる。 一方、分配平衡型の充填剤は、固定相への分析種の溶解脱離が容易であり不安定な分析種の測定に適しているが、反面、保持力が弱く、大量のマトリックスから対象の分析種を抽出するためには、多量の充填剤を用いなければならなかった。 特に、分配平衡型の充填剤に固定相液体として塗布されるシリコーンは、低温から高温まで安定ですぐれた素材で最も多用されている。 シリコーンポリマーは、液体の如く分析種を溶解させる性質を有しており、分配平衡の原理に基づく充填剤(固定相液体)と成りえる。この原理に基づく分析種の濃縮/脱離は、従来ポリマー充填剤のような細孔内による分析種の濃縮/脱離過程で生じる問題がない。 一般的にポリジメチルシロキサン(以下PDMSと略す)フォームは材料中に発泡剤を混入し、化学反応で発生するガスにより気孔を生成させることで、多孔材料としている。そのため、PDMSフォームは、不均一な多孔構造であり、その孔は閉じられており、構造内部を貫通する流路を構築することは不可能である。 PDMSフォームは、構造内部に流路が無く、均一な骨格を有していないことから分析種の相間(気相または液相とシリコーン間)の物質移動に時間がかかるため、抽出効率と脱着効率が悪いことが推測される。 PDMSフォームに濃縮した分析種をガスクロマトグラフに加熱脱離する際にも、物質移動に時間がかかる。このことは、分析においてピーク試料導入時のバンドの広がりを生じ、ピークバンドのフォーカッシングが不可欠となる。ピークバンドのフォーカッシングを怠れば、クロマトグラムのピーク形状を悪化させ、分析精度の低下を招く要因となる。 食品フレーバーをPDMSフィルムで回収し分析する例は、Dong−Sun Leeにより報告されている(非特許文献2参照。)。 液体のPDMSと硬化剤を混合し、フィルム状となったPDMSをディスク状にカットし、固相抽出材料として使用している。 作製したPDMSフィルムをサンプルボトルに試料と一緒に入れ密栓する。試料からの揮発性成分をPDMSフィルムに分配平衡により固相抽出する。その後、PDMSフィルムを取り出し、マイクロチューブ内に脱離溶媒としてアセトニトリルを入れ、サンプリングしたPDMSフィルムを投入する。マイクロチューブを密栓し、3秒間撹拌後、PDMSフィルムをマイクロチューブから取り出す。アセトニトリル溶液1μLをGCMSに導入し分析を行う。 フィルム面積を大きくすることで、分析種の回収率を増加できるが、PDMSフォームと同様内部に流路を持っていないので、分配平衡に達するにも、脱離にも時間が必要とされる。 ガラス製ニードル表面にシリコーンポリマー(PDMSなど)をコーティングしたSPME(Solid Phase Micro Extraction)が知られており市販されている(非特許文献3参照。)。シリコーンの量は0.2mg程度である。 デメリットは固定相液体としてのシリコーンポリマー量が少なく、高感度分析には不向きである。また、PDMSフォームと同様内部に流路を持っていないので、分配平衡に達するにも、脱離にも時間が必要とされる。 マグネチックスターラー表面にシリコーンポリマー(PDMS)をコーティングしたSBSE(Stir Bar Sorptive Extraction)が知られており市販されている(非特許文献4参照。)。シリコーンの量はSPMEの数十倍の量(24mg)である。SPMEと比較すると液相量が多いので、大幅に回収率が向上する。 デメリットは固定相液体としてのシリコーンポリマー量が多く、分配平衡で取り込んだ分析種を脱離するための時間を要する。これにより、GCで加熱抽出により分析する場合、液体窒素などによるバンドフォーカッシング操作が必要となり、分析の生産性が下がる。特許第2893104号公報特許第3397255号公報分析化学vol157,No7,517(2008)Bull.KoreanChem.Soc,2011,Vol32,No3603http://ir.lib.hiroshimaru.ac.jp/metadb/up/diss/disc_ko5043.pdf同上 試料の分離、精製、濃縮に使用される充填剤や捕集剤に於いて、一般的に吸着型充填剤やポリマー系充填剤は、保持力が強く、揮発性物質を効率良く保持できるが、反面、不安定な物質の分離、精製、濃縮には適していない。特に脱離時にエネルギーが必要であり、その際に変性するものが多い。 又、分配平衡型充填剤で特にシリコーンはその性状から、何らかの担体に固定化して使用しないかぎり、気体や液体の流路を確保することはできない。また、分配平衡の理論式から、多量の固定相液体を用いれば試料からの回収率が向上するが、担体に固定化できる量は限られている。 又、従来のシリコーン製ポリマーを使用する場合、分析種の離脱のために時間を要することにより、加熱抽出分析時、バンドフォーカッシング操作等により分析の生産性が下がる等の問題があった。 そこで本発明者らの研究により、分配平衡型の固定相として利用できるシリコーン組成に於いて、担体に固定することなく、分離、精製、濃縮操作に供することの出来る、自立した柔軟な多孔質固体であり、且、大きさの制御された連続貫通孔をもつモノリス体の作製方法を見出した。 従来、相分離を伴うゾル−ゲル反応は、シリカ、チタニア等の酸化物、および三官能アルコキシシランを出発物質とする有機無機ハイブリッド系において、大きさの制御された連続貫通孔をもつモノリス状多孔材料を得る方法として知られてきた(特許第2893104号、特許第3397255号)。しかしこれらの多孔体ではゲルの弾性率が極めて低く、また全体として脆性が高いために、大変形に耐える柔軟性を付与することは困難であった。 本発明においては、三官能アルコキシシランと二官能アルコキシシランの両方を含む出発組成から、相分離を伴うゾル−ゲル反応を行うことにより、従来の材料ではなしえなかった高い柔軟性と高い気孔率を併せもつ、連続貫通孔をもつシリコーン製モノリス体を作製することが可能となった。このシリコーン製モノリス体においては、加水分解・重縮合反応に関与しないケイ素に直接結合した炭化水素鎖等の官能基が、細孔表面に露出して、細孔表面の化学的性質に顕著な影響を及ぼす。 したがって、シリコーン製モノリス体を分離、精製、濃縮に応用する際には、出発物質として用いる2種類以上のアルコキシシランの種類を適切に選択することによって、目的の化合物に対して最適な化学的性質を与えるように調節することが出来る。連続貫通孔の大きさや、シリコーン製モノリス体全体に対する連続貫通孔の体積分率(気孔率)は、出発組成を適切に選択することによって、孔の直径を1〜50ミクロンの範囲で、気孔率を50〜95%の範囲で、おのおの独立かつ自在に制御することが出来る。 本発明は、新規物質としてのシリコーン製モノリス体とその作製法、およびシリコーン製モノリス体材料を利用して、担体を必須とする液体状シリコーン固定相を用いる分離、精製、濃縮方法に関する問題点を解決する方法を提案するものであり、さらにシリコーンの柔軟性を生かし、脱離に要する溶媒消費量を大幅に削減する従来にはない前処理法を提供するものである。 以上のような課題を解決するための本発明は、二官能基のアルコキシシランと、三官能基のアルコキシシラン又は三官能以上のアルコキシシラン類との両方を出発原料とし、ゾルゲル反応によりこれらのシランを共重合させ、Si−O結合によりネットワークを形成させると共に相分離を行い、連続貫通流路と化学種を溶解できるシリコーン骨格とを有するエアロゲル又はキセロゲルのシリコーン製モノリス体の製造方法。又、二官能基アルコキシシランのアルコキシ基を除く二つの官能基のうち一つ以上が、メチル基、フェニル基、フロロアルキル基、ビニル基、メルカプトプロピル基からなる群より選択したことを特徴とするシリコーン製モノリス体の製造方法である。又、シリコーン製モノリス体のネットワークを形成するため、−Si−C−C−Si−構造または−Si−フェニル−Si−構造を持つアルコキシシランを架橋剤として出発原料に含めたことを特徴とするシリコーン製モノリス体の製造方法である。又、エアロゲル又はキセロゲルのモノリス体のシリコーン骨格が化学種を溶解し、連続貫通流路が化学種のシリコーン骨格への接触を容易にし、且つ広い温度範囲での柔軟性を付与するために、Si−Oネットワークの結合様式と骨格と貫通流路のサイズを制御したシリコーン製モノリス体である。又、二官能基アルコキシシランのアルコキシ基を除く二つの官能基のうち一つ以上が、メチル基、フェニル基、フロロアルキル基、ビニル基、メルカプトプロピル基からなる群より選択したことを特徴とするシリコーン製モノリス体である。 又、シリコーン製モノリス体のネットワークを形成するため、−Si−C−C−Si−または−Si−フェニル−Si−構造を持つアルコキシシランを架橋剤として出発原料に含めたことを特徴とするシリコーン製モノリス体である。又、シリコーン製モノリス体は、連続貫通孔が1−50μmであり、骨格径は1−30μmであることを特徴とするシリコーン製モノリス体である。又、シリコーン製モノリス体を、使用することを特徴とする分離、精製、濃縮試料処理方法である。又、分離、精製、濃縮方法であって、分析に供する試料の前処理を行なうことを特徴とする試料処理方法である。又、シリコーン製モノリス体を機械的に圧縮しシリコーン製モノリス体の貫通孔に担持された抽出溶媒を押出回収することを有することを特徴とする試料処理方法である。又、大量の水系試料に対し少量の溶媒で分析種又は特定の化学種を抽出する均一液液抽出において、抽出溶媒と同時に分析種又は化学種をモノリス体に回収することを特徴とする試料処理方法である。又、大量の水系試料に対し、水に溶解しない少量の溶媒で分析種又は特定の化学種を抽出する際に、分析種又は特定の化学種を含む溶媒のエマルジョンをモノリス体に回収することを特徴とする試料処理方法である。 又、シリコーン製モノリス体を試料処理方法に用いることを特徴とする試料処理装置である。 又、前記試料処理装置がプランジャーによる圧搾であることを特徴とする試料処理装置である。 本発明に於いては、三官能アルコキシシランと二官能アルコキシシランの両方を含む出発組成から、従来の材料ではなし得なかった高い柔軟性と高い気孔率を併せもつ連続貫通孔をもつシリコーン製モノリス体を作製することが出来た。 このシリコーン製モノリス体は、加水分解、重複合反応に関与しないケイ素に直接結合した炭化水素等の官能基が細孔表面に露出して細孔表面の化学的性質に大なる影響を与え、目的の化合物に対し最適の化学的性質を付与でき、このシリコーン製モノリス体は担体を必要とせず、更に柔軟性を生かし、分離、精製、濃縮操作に供することが出来る。 又、本発明のシリコーン製モノリス体は、分析種の離脱は機械的圧力等の操作により、極めて簡単に行うことが出来、分析種離脱時にエネルギーを必要とせず、効率的な回収操作が出来、分析の生産性を大幅に向上できる。 又、本発明のシリコーン製モノリス体は、大量の水素試料に対し、少量の溶媒で分析種を抽出でき、或いは水に溶解しない少量の溶媒で分析種或いは化学種を抽出する際に溶媒のエマルジョンを回収できる等その使用範囲は大である。本願発明メチル基導入シリコーン製モノリス体の電子顕微鏡写真(1000倍)本願発明メチル基導入シリコーン製モノリス体の3点曲げ試験による応力−歪み曲線本願発明メチル基導入シリコーン製モノリス体の29Si CP/MAS 固体 NMR スペクトル本願発明メチル基導入シリコーン製モノリス体の熱重量/示差熱分析(TG/DTA)曲線本願発明メチル基導入シリコーン製モノリス体への液体窒素含浸と搾り出しの様子を示した写真乾燥後および320℃において24時間熱処理後のシリコーン製モノリス体の赤外吸収スペクトル本願発明フロロアルキル基導入シリコーン製モノリス体の電子顕微鏡写真(1000倍)同上80%一軸圧縮変形テスト於ける歪み曲線図本願発明フェニル基導入シリコーン製モノリス体の電子顕微鏡写真(1000倍)同上80%一軸圧縮変形テスト於ける歪み曲線図本願発明ビニル基導入シリコーン製モノリス体の電子顕微鏡写真(1000倍)同上80%一軸圧縮変形テスト於ける歪み曲線図本願発明メルカプト基導入シリコーン製モノリス体の電子顕微鏡写真(1000倍)同上50%一軸圧縮変形テスト於ける歪み曲線図本願発明架橋ブリッジ基導入シリコーン製モノリス体の電子顕微鏡写真(1000倍)同上80%一軸圧縮変形テスト於ける歪み曲線図メチル基、フロロ基、フェニル基、ビニル基、メルカプト基が導入されたシリコーン製モノリス体の赤外吸収スペクトル本願発明シリコーン製モノリス体使用により得られた2−MIBの破過容量を確認したクロマトグラム本願発明シリコーン製モノリス体使用により得られた水中カビ臭成分のクロマトグラム本願発明シリコーン製モノリス体の一使用例説明図本願発明シリコーン製モノリス体を用いた市販果実ジュースフレーバーの分析フロー図本願発明シリコーン製モノリス体を用いた市販果実ジュースフレーバーのクロマトグラム本願発明シリコーン製モノリス体を用いた水中農薬成分分析フロー図本願発明シリコーン製モノリス体を用いた水中農薬成分のクロマトグラム本願発明メルカプト基導入シリコーン製モノリス体が金微粒子を保持している様子を示した写真 本願発明に於いて、二官能のアルコキシシランとは、珪素の4本の結合基のうち重合(結合)に関与するアルコキシ(−OR)基が二つ、残りの反応に関与しない修飾基は二つ。この修飾基は、分離/精製/濃縮の目的により選択される。同様に、三官能のアルコキシシランとは、重合(結合)に関与するアルコキシ(−OR)基が三つ、残りの反応に関与しない修飾基が一つの物をさす。3官能以上のアルコキシシラン類とは、重合(結合)に関与するアルコキシ(−OR)基が三つ以上のものをさす。Siの結合基は4つであるが、−Si−C−C−Si−構造を持つものを使用すれば6つの官能基が利用でき、より緻密なシリコーンのネットワークが可能となる。 前処理法は、気液分配捕集(濃縮)−加熱脱離、気液分配捕集(濃縮)−溶媒脱離、液液分配―溶媒脱離(所謂、固相抽出法)であり、このシリコーン製モノリス体はそのいずれにも適用できる。 本発明は、前記のような試料処理法に適した任意の細孔径に制御された連続貫通流路を持ち、かつ柔軟性を有するシリコーン製モノリス体(骸骨状の一体構造)(図1)のエアロゲルまたはキセロゲルであり、さらに担体を必要としない当該多孔性シリコーン製モノリス体材料の用途に関するものである。 当該多孔性シリコーン製モノリス体材料は、ゾル−ゲル反応により二官能のアルコキシシランと、三官能のアルコキシシランまたは3官能以上のアルコキシシラン類の両方を出発原料として、合成される。重合反応は、加水分解によって生じたシラノール基が、できるだけゲル構造内に残存しないような条件で行なわれるので、二官能および三官能アルコキシシランに結合した官能基が、作製されるシリコーン製モノリス体の表面の化学的状態に強く影響する(図3)。これらの出発原料が、共重合反応によりSi−O結合のネットワークを形成するときに、界面活性剤の存在下で相分離を行うことにより連続貫通流路を形成する。 シリコーン製モノリス体の構造化後にSi−O結合の側鎖となるアルコキシシランの官能基の種類は、重合反応には重要でないが、目的とする材料の機能発現では重要であり、そのために出発原料や重合条件は制御される。このように合成されるシリコーン製モノリス体は液体窒素温度(−195.8℃、一気圧下)から320℃以上の広い温度範囲で柔軟性をもち(図4、図5および図6)、物質分子を溶解/脱離する能力をもち、かつ担体を必要としない。 柔軟性のあるシリコーン材としては発泡シリコーンが知られているが、当該多孔性シリコーン製モノリス体とは、その構造が大きく異なる。前者は気泡をシリコーンの隔壁で閉じ込めるのに対して、後者は積極的に均一な細孔を形成し、構造は骸骨状の骨格で保つ。シリコーン製モノリス体は、3点曲げ試験において広い変形範囲で線形の弾性応答を示し、柔軟性と復元力を併せもつ(図2)。試料は直径8mmの丸棒状。柔軟性が高いため、歪みの大きい領域では試料中央部の支点への局所的な応力集中により、線形性が失われる。気孔率90%程度のシリコーン製モノリス体は、丸棒状、角柱状に成形して一軸圧縮すると、線形に90%程度の圧縮が可能となり、除荷すると完全に元の形状を回復する。制御された均一な細孔により得られる連続貫通構造は、シリコーン骨格に物質分子を効率よく保持または脱離する際の通路となる。当該多孔性シリコーン製モノリス体の気孔率は概ね80%以上である。 さらに、本願発明者らは、当該シリコーン製モノリス体に目的に応じて種々の官能基を導入し、さらに最適な構造体にならしめて、様々な分離、精製、濃縮に応用する方法を新規に開発した。 シリコーン製モノリス体の構造において、流路としての貫通孔と固定相液体としての均一な骨格径を有することは、最適な分析を実施する上で不可欠である。 シリコーン製モノリス体の貫通孔と骨格径は、シリコーン製モノリス体を使用する場面(気液分配または液液分配)で最適な構造が異なる。気液分配では、気体成分を供給する必要があるので、圧力損失が大きくなり、液液分配では、液体成分は貫通孔を浸透するので、圧力損失は小さい。 骨格径サイズは、分析種のシリコーン内の拡散速度を考慮し、均一な骨格のシリコーン製モノリス体を製造する場合のシリコーン量が決定される。 気液分配用シリコーン製モノリス体の貫通孔は5〜80μmであり、骨格径は0.1〜500μmであり、液液分配用シリコーン製モノリス体の貫通孔は1〜50μmであり、骨格径は1〜30μmである。 上記の如く、本発明に於いては、3官能性と2官能性のアルコキシドを前駆体として用い、ゾルゲル反応により、これら出発原料を共重合によりSi−O結合のネットワーク化しつつ界面活性剤CTAC(塩化n−ヘキサデシルトリメチルアンモニウム)で相分離を制御しながら、酢酸触媒と尿素の加水分解に基づく酸塩基2段階反応を行うことで、柔軟なゲルの操作が出来た。 同一の合成プロセスの下で前駆体の種類を組み合わせることでシロキサンの側鎖に様々の官能基の導入が可能である。 次にジメチルシリコーン製モノリス体の例を示す。5mMの酢酸水溶液15mLに、相分離に必要とされる界面活性剤塩化n−ヘキサデシルトリメチルアンモニウム0.8gと尿素5gをガラス容器で混合する。 次いで、メチルトリメトキシシラン3mLとジメチルジメトキシシラン2mLを加え、30分間スターラーで撹拌する。この操作で、アルコキシシランの加水分解が始まる。撹拌後に、この溶液を密封容器に移し、80℃でゲル化行うと同時に尿素の加水分解による塩基性条件下で二日間熟成する。得られたウェットゲルを水/イソプロピルアルコール(1:1)溶液に含浸させ、その後、イソプロピルアルコールにて洗浄し未反応試薬や界面活性剤を除去する。 この製造法より得られるモノリス状ゲルを、80℃、圧力14MPaの炭酸ガスで超臨界乾燥させるとエアロゲルが得られ、ノルマルヘキサンに含浸させ溶媒置換した後に、40℃でゆっくり乾燥させるとキセロゲルが得られる。いずれの乾燥法においても、極端に短時間で乾燥しない限り、同程度の気孔率を保持したマクロ多孔性ゲルが得られ、分離、精製、濃縮の目的に好適に使用できる。 二官能アルコキシシランと三官能アルコキシシランの量比、および界面活性剤と尿素の量を制御することにより、それぞれの前処理に適した貫通孔と骨格を作ることが出来る。 ジメチルシリコーン製モノリス体は疎水性が高く無極性であり、大気・水中の揮発性有害物質など比較的に無極性の分析対象物質の試料処理に適している。側鎖にフェニル基を導入したものは、芳香族化合物や農薬など、中極性の分析対象物質の試料処理に適している。側鎖にフロロアルキル基を導入したものは、健康障害が懸念されるフッ素化合物の捕集に適している。側鎖にビニル基を導入したものは、シリコーン製モノリス体を作製した後に種々の官能基を導入して選択的な分析対処物質の捕集に使用する。メルカプト基を導入したものは、S−S結合を利用してチオール類や含硫アミノ酸などの捕集に利用することができる。それぞれのスタート原料の組成の例は次の通りである。 以下の各例とも5mMの酢酸水溶液15mL、相分離に必要な界面活性剤塩化n−ヘキサデシルトリメチルアンモニウム0.8g、尿素5gを使用する。 1.フロロアルキル基導入シリコーン製モノリス体としては、 メチルトリメトキシシラン 0.0210mol ジメチルジメトキシシラン 0.0070mol 3,3,3−トリフロロプロピルメチルジメトキシシラン 0.070mol より成るものが例示される。 上記により得られたフロロアルキル基導入シリコーン製モノリス体の電子顕微鏡写真(倍率1000倍)を図7に示す。 又、その柔軟性テスト結果を図8に示す。 2.フェニル基導入シリコーン製モノリス体としては、 メチルトリメトキシシラン 0.0210mol ジメチルジメトキシシラン 0.0070mol メチルフェニルジメトキシシラン 0.0070mol より成るものが例示される。 上記により得られたフェニル基導入シリコーン製モノリス体の電子顕微鏡写真(倍率1000倍)を図9に示す。 又、上記により得られたフェニル基導入シリコーン製モノリス体の80%までの一軸圧縮変形における応力歪み曲線として、その柔軟性テスト結果を図10に示す。 3.ビニル基導入シリコーン製モノリス体としては、 ビニルトリメトキシシラン 0.0210mol メチルビニルジメトキシシラン 0.0140mol より成るものが例示される。 上記により得られたビニル基導入シリコーン製モノリス体の電子顕微鏡写真(倍率1000倍)を図11に示す。 又、上記により得られたビニル基導入シリコーン製モノリス体の80%までの一軸圧縮変形における応力歪み曲線として、その柔軟性テスト結果を図12に示す。 4.メルカプト基導入シリコーン製モノリス体としては、 3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン 0.0210mol 3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン 0.0140mol より成るものが例示される。 上記により得られたメルカプト基導入シリコーン製モノリス体の電子顕微鏡写真(倍率1000倍)を図13に示す。 又、上記により得られたメルカプト基導入シリコーン製モノリス体の50%までの一軸圧縮変形における応力歪み曲線として、その柔軟性テスト結果を図14に示す。 メルカプト基を導入したゲルに於いては、金微粒子を安定にその細孔表面に担持することが出来、ジスルフィド結合など硫黄原子を含む化学結合をもつ化学種の分離、精製、濃縮に特に好適である。 5.架橋ブリッジ基導入シリコーン製モノリス体としては、 1.2−ビス(メチルジエトキシシリル)エタン 0.0062mol ジメチルジメトキシシラン 0.0140mol より成るものが例示される。 上記により得られた架橋ブリッジ基導入シリコーン製モノリス体の電子顕微鏡写真(倍率1000倍)を図15に示す。 又、上記により得られた架橋ブリッジ基導入シリコーン製モノリス体の80%までの一軸圧縮変形における応力歪み曲線として、その柔軟性テスト結果を図16に示す。 二官能性および三官能性アルコキシシランの官能基にメチル基、フロロ基、フェニル基、ビニル基、メルカプト基が導入されたものから得られたモノリス状シリコーンの赤外吸収スペクトルを図17に示す。 上記構造例に於いて得られた本願シリコーン製モノリス体(以下、本固相材料と云う)を用いた気固吸着−加熱導入による、カビ臭成分である2−メチルイソボルネオール(以下、2−MIB)のGC−MS分析を実施した。 図18は、本固相材料とTenax TAを気固吸着剤として使用したとき、サンプリング温度60℃、サンプリング流量80mL/min程度の場合、2−MIBの破過容量を確認したクロマトグラムである。 解析の結果、本固相材料は、4.8分、Tenax TAは2.5分から2−MIBの溶出が始まっていることが確認できた。 本結果から両者の破過容量を求めた。本固相材料は393.6mL(82mL/min×4.4min)、Tenax TAは206.0mL(82.4mL/min×2.5min)であった。本固相材料の破過容量のほうが2倍弱(1.9倍)大きいことが判明し、Tenax TAより濃縮効果が高い。 本固相材料を利用してパージトラップ法により水中カビ臭成分(2−MIB)を分析した。 実験条件 (1)カビ臭抽出・濃縮条件 1.試料水濃度:10ppt 2.試料水抽出温度:60℃ 3.試料水流量:2mL/min 4.パージガス流量:80mL/min 5.抽出時間:2.5min 6.捕集剤:本固相材料PDMS(50mg) 7.捕集時温度:60℃ (2)GCMS測定条件(OPTIC TDモード) 1.試料導入時捕集管加熱温度:220℃(5℃/秒)、(保持時間10min) 2.分析カラム流量:1mL/min 3.スプリット:10mL/min 4.GCオーブン温度:40℃(12min)−20℃/min−250℃(5min) 6.キャピラリーカラム:InertCap 5MS/Sil、0.25mmI.D.x30m、df=0.25μm 8.SIMモード:2−MIB m/z95,107、 Geosmin m/z112,125 本固相材料は柔軟性があり、本固相材が含んだ(膨潤した)有機溶媒を機械的に搾り出すことができる。例えば、注射筒を使用して本固相材から有機溶媒を搾り取ることが出来る。(図20) (1)有機溶媒を含んだ本固相材を注射筒へ投入 (2)プランジャーを挿入 (3)有機溶媒を含んだ本固相材をプランジャーで押付け、有機溶媒を搾り取る。空間体積分の有機溶媒のみで、分析種が抽出できるので、従来法のような濃縮操作が不要となり、有機溶媒使用量も少なくなる。 本固相材を用い、市販果実ジュースの気液分配捕集(濃縮)−溶媒離脱にて香気成分を分析した。 分析手順のフロー図(図21)を示す。ヘッドスペースバイアルに市販果実ジュースを30mL入れ、本固相材(5mm×5mm×5mm)をヘッドスペース部分に設置し、この状態で60℃一定の状態で4時間静置した。本固相材を取り出し、ジクロロメタン100μLを本固相材に滴下し、注射筒に投入し、搾り出したジクロロメタンから1μLをGC/MSに試料導入した。モノトラップ(登録商標)に対し、溶媒消費量1/10に削減できた。 クロマトグラムを図22に示す。果実由来の香料成分を確認することが出来た。 GCMS分析条件 カラム:InertCap Pure−WAX、0.25mmI.D.x30M、df=0.25μm オーブン温度プログラム:40℃(5min)−4℃/min−250℃(5min) 試料導入:スプリットレス、1μL、250℃ MS測定条件:EIスキャンモード(m/z40−450) 又、本固相材は撥水性があるので、ボウショウ投入による脱水操作も不要である。従来のモノトラップ(登録商標)のような前処理操作における多量の有機溶媒の使用や濃縮操作による人為的操作を避けることによる分析制度の向上が出来た。 本固相材料を用いた水中農薬の液液−固相抽出によるGC−MS分析を実施した。分析手順のフロー図を図23に示す。 固相材料を試料溶液から引き上げ、固相材料から抽出溶媒を搾り出し、搾り出した抽出溶媒のうち20μLをGC大量注入したときのクロマトグラムを図24に示す。 GCMS分析条件 カラム:InertCap Pesticides、0.25mmI.D.x30M リテンションギャップカラム:0.5325mmI.D.x1.5M オーブン温度プログラム:62℃(2min)−10℃/min−280℃(5min) アットカラム注入条件 (1)試料気化室温度条件:初期温度49℃,昇温速度5℃/秒,280℃(5分),50℃冷却 (2)溶媒排出:流量50mL/分、時間30秒 (3)試料注入量:20μL MS測定条件:EIスキャンモード(m/z45−550) 本願発明メルカプト基導入シリコーン製モノリス体が金微粒子を保持している様子を示した写真を図25に示す。金コロイドの吸収による深赤色が観察される。二官能基のアルコキシシランと、三官能基のアルコキシシラン又は三官能以上のアルコキシシラン類との両方を出発原料とし、ゾルゲル反応によりこれらのシランを共重合させ、Si−O結合のネットワークを形成させると共に相分離を行い、連続貫通流路と化学種を溶解できるシリコーン骨格とを有するエアロゲル又はキセロゲルのシリコーン製モノリス体の製造方法。二官能基アルコキシシランのアルコキシ基を除く二つの官能基のうち一つ以上が、メチル基、フェニル基、フロロアルキル基、ビニル基、メルカプトプロピル基からなる群より選択したことを特徴とする請求項1に記載のシリコーン製モノリス体の製造方法。シリコーン製モノリス体のネットワークを形成するため、−Si−C−C−Si−構造または−Si−フェニル−Si−構造を持つアルコキシシランを架橋剤として出発原料に含めたことを特徴とする請求項1又は2に記載のシリコーン製モノリス体の製造方法。エアロゲル又はキセロゲルのモノリス体のシリコーン骨格が化学種を溶解し、連続貫通流路が化学種のシリコーン骨格への接触を容易にし、且つ広い温度範囲での柔軟性を付与するために、Si−Oネットワークの結合様式と骨格と貫通流路のサイズを制御したシリコーン製モノリス体。二官能基アルコキシシランのアルコキシ基を除く二つの官能基のうち一つ以上が、メチル基、フェニル基、フロロアルキル基、ビニル基、メルカプトプロピル基からなる群より選択したことを特徴とする請求項4に記載のシリコーン製モノリス体。 シリコーン製モノリス体のネットワークを形成するため、−Si−C−C−Si−または−Si−フェニル−Si−構造を持つアルコキシシランを架橋剤として出発原料に含めたことを特徴とする請求項4又は5に記載のシリコーン製モノリス体。シリコーン製モノリス体は、連続貫通孔が1−50μmであり、骨格径は1−30μmであることを特徴とする請求項4乃至6の何れか1項に記載のシリコーン製モノリス体。請求項4乃至7の何れか1項に記載のシリコーン製モノリス体を、使用することを特徴とする分離、精製、濃縮試料処理方法。請求項8に記載の分離、精製、濃縮方法であって、分析に供する試料の前処理を行なうことを特徴とする試料処理方法。シリコーン製モノリス体を機械的に圧縮しシリコーン製モノリス体の貫通孔に担持された抽出溶媒を押出回収することを有することを特徴とする請求項8又は9の何れかに記載の試料処理方法。大量の水系試料に対し少量の溶媒で分析種又は特定の化学種を抽出する均一液液抽出において、抽出溶媒と同時に分析種又は化学種を請求項4乃至7に記載のモノリス体に回収することを特徴とする請求項8乃至10に記載の試料処理方法。大量の水系試料に対し、水に溶解しない少量の溶媒で分析種又は特定の化学種を抽出する際に、分析種又は特定の化学種を含む溶媒のエマルジョンを請求項4乃至7に記載のモノリス体に回収することを特徴とする請求項8乃至10に記載の試料処理方法。 請求項4乃至7に記載のシリコーン製モノリス体を請求項9乃至12に記載の試料処理方法に用いることを特徴とする試料処理装置。 前記試料処理装置がプランジャーによる圧搾であることを特徴とする請求項13に記載の試料処理装置。 【課題】シリコーン製モノリス体を用い、担体を必要としない且柔軟性を有し、物質分子の溶解能力を有する製品を得る。【解決手段】二官能基のアルコキシシランと三官能基のアルコキシシラン又は三官能以上のアルコキシシラン類の両方を原料とし、ゾルゲル反応により、これらの出発原料を共重合によりSi−O結合のネットワーク化させつつ、相分離を行なって合成された連続貫通流路を有するシリコーン製モノリス体であって、エアロゲル又はキセロゲルとし、柔軟性を有すると同時に物質分子を溶解できるシリコーン製モノリス体。【選択図】 図1