タイトル: | 公開特許公報(A)_NMR測定方法 |
出願番号: | 2012194864 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | G01R 33/46,G01N 24/08 |
西山裕介 マイケル・エイチ・フレイ JP 2014052202 公開特許公報(A) 20140320 2012194864 20120905 NMR測定方法 株式会社 JEOL RESONANCE 511132029 井島 藤治 100085187 西山裕介 マイケル・エイチ・フレイ G01R 33/46 20060101AFI20140221BHJP G01N 24/08 20060101ALI20140221BHJP JPG01N24/08 520MG01N24/08 520GG01N24/08 510D 4 4 OL 19 本発明は、NMR(核磁気共鳴)測定において、バックグラウンド信号と呼ばれる不要信号を抑制するために用いられる。NMRスペクトルには、対象とする測定試料からの信号以外に、測定試料以外の物質(主にNMRプローブの素材)からの信号が重なり合って測定されることが多い。この信号は通常、バックグラウンド信号と呼ばれる。測定試料からの信号が十分強いときには、弱いバックグラウンド信号はそれほど大きな問題とならないが、微量試料の測定の場合のような微弱な信号を測定する際には、大きな問題を引き起こす。 また、測定試料の量が十分存在しているときでも、19Fなど、プローブの材料中にも大量に含まれている核種の測定の場合には、バックグラウンド信号は大きな問題となる。また、バックグラウンド信号は、一般的にブロードな幅広い線形で観測されるため、測定試料の信号が幅広い線形を示すときには、バックグラウンド信号と試料由来の信号との区別が困難である。このような問題を引き起こすバックグラウンド信号を効率よく抑制するために本発明は利用される。 しばしば測定される1H核領域において、バックグラウンド信号を抑制するために、NMRプローブの素材には、1H核を含まないテフロン(「テフロン」はデュポン社の登録商標)などのフッ素樹脂がよく利用されている。その反面、そういったプローブでは19F核の測定に支障をきたす。また、13C核を含まない素材は少なく、しばしば測定される13C核領域においてバックグラウンド信号を与えないような素材に置き換えることが困難である。 バックグラウンド信号を抑制する手法のもう一つのアプローチに測定法を工夫する手法がある。バックグラウンド信号は抑制して、測定試料からの信号のみを取り出す手法が提案されている。しかしながら、これらの手法はバックグラウンド信号を抑制するために多くの回数の積算が必要であり、測定時間が長くかかり効率が悪い。本発明は、効率よく短時間でバックグラウンド信号を抑制することのできるNMR測定方法の技術分野に属している。 [プローブの素材に注目するアプローチ] 先に述べたように、プローブの素材中に、実際に観測する核種が含まれていなければ、バックグラウンド問題は解決する。1H核はよく測定されるので、多くの場合、1H核が含まれていないテフロンなどの19Fポリマーがプローブの素材として用いられる。これは、1H核のバックグラウンドを抑制するのみならず、1H核が絡む多核種測定においても、バックグラウンド信号を抑制するという効果をもたらす。 たとえば、固体NMR測定で広く用いられる13C−CPMAS(Cross Polarization Magic Angle Spinning)測定では、1H核の磁化を13C核に移すことにより、13C核由来の信号を効率よく測定することができる。そのため、たとえプローブの素材中に13C核が含まれていても、素材中に1H核さえ存在していなければ、13C−CPMASスペクトルにはバックグラウンド信号が現れない。 これは溶液NMR測定でも同様で、13C核の直接観測ではバックグラウンド信号が現れる場合でも、1H核が絡む測定(たとえばHMQCやHSQCなど)を行なうことにより、13C核のバックグラウンド信号が消去できる。 このように、19Fポリマーを素材に利用することにより、1H核に関連するバックグラウンド信号は大幅に低減することができる(図1)。その反面、19F核の測定には、19Fポリマー由来の非常に強いバックグラウンド信号が観測されることになる。また、13C核に関しては、多くの場合、13C−CPMAS測定ではバックグラウンド信号は問題とならないが、CP測定を用いない13C核の直接観測の場合には、13C核のバックグラウンド信号が現れる。これは19Fポリマーにより水素核をフッ素核に置き換えても13C核の数自体は減っていないためである。13C核を含まない素材、例えば無機セラミックス系の素材中には、多くの場合、27Al核や29Si核などが含まれており、27Al−NMR測定や29Si−NMR測定の際に、新たなバックグラウンド問題を引き起こす。 以上のように、NMRプローブの素材選定には細心の注意が払われているが、多くの場合、何らかの他の核種を犠牲としてバックグラウンド信号を抑制することになる。そのため、全ての核種に利用できる有効な手法ではない。 [RF磁場強度の違いを用いたアプローチ] NMRプローブは、試料からの信号強度を効率よく受信できるように設計されている。そのため、試料の位置が受けるRF磁場強度と、試料以外の位置が受けるRF磁場強度は強度的に異なる。この違いに着目してバックグラウンド信号を抑制するDEPTHnと呼ばれるアプローチが提案された(非特許文献1、2)。 このアプローチでは、まず90度パルスで磁化を励起した後、ひとつ、もしくは複数の180度パルス(このパルスの数がnである)を連続して加えることにより、適切なRF強度を受けている磁化からの信号のみを取り出す。 具体的に90度パルスがひとつ、180度パルスがひとつからなるDEPTH1(または単にDEPTH)シーケンスを考える。このとき、90度パルスおよび180度パルスのパルス幅を、試料の位置でそれぞれ正確に90度パルス、および180度パルスとなるように設定する。これにより、試料の位置では180度パルスは全く何も作用しないか、もしくは単なる反転パルスとして作用する。 一方、試料以外の位置では、たとえば、試料の位置でのRF磁場強度の半分程度のRF磁場強度を受ける場所では、90度パルスとして照射されているものは45度パルスとして作用し、180度パルスとして照射されているものは90度パルスとして作用する。そのため、試料以外の位置では、これらのパルスのために、試料以外の位置にある核由来の信号が乱されて、試料中の核由来の信号とは異なった挙動を示す(図2)。 90度パルスと180度パルスの位相を、例えば90度単位で個別に変えながら一連の実験を繰り返し行ない、その結果得られた信号をパルス位相を考慮して加減算することにより、核由来の信号を残して乱された信号を除去することができる。この手順は、位相回し(Phase Cycling)と呼ばれる。90度パルスがひとつ、180度パルスが2つからなるパルス列はDEPTH2と呼ばれるが、この場合、必要になる位相回しの回数は、3つのパルス毎に4通りで合計64回であることが報告されている。 すなわち、64回実験を繰り返して、初めてバックグラウンド信号を消去することが可能になる。64回の位相回しを行わなくても、16回でもある程度十分な性能が得られることも報告されているが、それでもやはり、16回の位相回しが必要となる。 このように、RF磁場強度の違いを用いたDEPTHのアプローチでは、位相回しが必要ではあるが、バックグラウンド信号をきれいに除去して、試料からの信号だけを選択的に取り出すことが原理的に可能である。本発明はこの手法の改良に関わるものである。D. G. Cory, W. M. Ritchey, Journal of Magnetic Resonance, vol. 80, pp. 128-132 (1988).M. R. Bendall, R. E. Gordon, Journal of Magnetic Resonance, vol. 53, pp. 365-385 (1983).M. H. Levitt, P. K. Madhu, C. E. Hughes, Journal of Magnetic Resonance, vol. 155, pp. 300-306 (2002). [RF磁場強度の違いを用いたアプローチ] 上記DEPTHシーケンスは、非常にうまく動作する。しかしながら、最大の問題は、多くの回数の位相回しが必要になる点である。原理的には64回(減らしても16回)もの位相回しが必要になってしまう。そのため、それほど積算を必要としない感度の高い試料の場合でも最低64回(もしくは16回)の積算が必要になってしまう。すなわち、位相回しを完了させるために必要以上の積算が必要になり、無用に長い測定時間がかかってしまうことが問題である。 これは主に、19F核測定の場合によく見られる問題である。また、試料からの信号が微弱で、積算が必要な場合でも、64回(もしくは16回)単位でしか積算回数を設定できず、積算回数設定の自由度が減ってしまう。 本発明では、RF磁場強度の違いを用いたアプローチに立脚しつつ、積算回数設定の自由度が減るという問題点を緩和し、より少ない位相回しで同じバックグラウンド抑制を実現することを目的とする。 この目的を達成するため、本発明にかかるNMR測定方法は、NMR装置のプローブの素材から出るバックグラウンド由来の信号を低減させるNMR測定方法であって、 試料に対して90度パルスとそれに続く1つ又は複数の180度パルスとから構成するRFパルス列を、各パルスの高周波位相を位相回しにより変化させながら繰り返し照射して測定を繰り返し行うと共に、各測定で得られたNMR信号を積算するNMR測定方法において、 前記位相回しをcogwheel位相回しに基づいて行うことを特徴としている。 また、NMR装置のプローブの素材から出るバックグラウンド由来の信号を低減させるNMR測定方法であって、 試料に対して90度パルスとそれに続く1つ又は複数の180度パルスとから構成するRFパルス列を、各パルスの高周波位相を位相回しにより変化させながら繰り返し照射して測定を行うと共に、各測定で得られたNMR信号を積算するNMR測定方法において、 前記位相回しに当たり、前記90度パルスの高周波位相をN回の測定の都度2πmν0/N(m=0,1,・・・,N−1)とN段階に変化させると共に、90度パルスに続く1つ又は複数の180度パルス(1801,1802,・・・,180i)について、測定の都度その高周波位相を2πmνi/N(i=1,2,・・・)としたことを特徴としている。ただし、Nは必要となる位相回しの回数の総数、ν0は前記90度パルスについての係数、νiは前記180度パルス(180i)にかかわる係数。 また、前記N及び前記νiの数値は、事前のシミュレーションに基づいて最適値が選定されることを特徴としている。 また、請求項1乃至3のいずれかに記載のNMR測定方法において、前記90度パルスとして核磁化に対して90度パルスと同等に横磁化を発生させるシングルパルス又はパルス列を用いたことを特徴としている。 本発明のNMR測定方法によれば、NMR装置のプローブの素材から出るバックグラウンド由来の信号を低減させるNMR測定方法であって、 試料に対して90度パルスとそれに続く1つ又は複数の180度パルスとから構成するRFパルス列を、各パルスの高周波位相を位相回しにより変化させながら繰り返し照射して測定を繰り返し行うと共に、各測定で得られたNMR信号を積算するNMR測定方法において、 前記位相回しをcogwheel位相回しに基づいて行うことを特徴としているので、RF磁場強度の違いを用いたアプローチに立脚しつつ、積算回数設定の自由度が減るという問題点を緩和し、より少ない位相回しで同じバックグラウンド抑制を実現することが可能になった。従来のプローブの素材に注目するアプローチを示す図である。従来のRF磁場強度の違いを用いたアプローチを示す図である。本発明にかかる第1の実施例を示す図である。本発明によって測定されたNMRのバックグラウンド・スペクトルである。本発明にかかる第2の実施例を示す図である。 以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。 [実施例1] 本発明者は、DEPTH(RF磁場強度B1の違いに注目したアプローチ)は、本質的にはコヒーレンス選択に帰着できると言うことを見出した。 一方、コヒーレンス選択に着目して位相回し回数を低減する手法の一つとして「Cogwheel phase cycling」(以下、Cogwheel位相回し)が提案されている。(非特許文献3) このCogwheel位相回しでは、複数のパルスから構成されるパルスシーケンスが複数のブロックに分けられ、測定のつど各ブロックの高周波位相がブロックごとに定められた倍率(比率)で同時に増加される。この手法により、従来型の位相回しに比べて少ない位相回し回数で、同じ効果が得られる。 このCogwheel位相回しは、例えば固体NMRのMQ−MAS(Multi Quantum-Magic Angle Spinning)測定などに利用されてきたが、DEPTHに使用されたことはない。 本発明は、DEPTHにcogwheel位相回しを適用することにより、より少ない位相回し回数でバックグラウンド抑制を実現するものであり、以下に詳説する。 NMRのパルスの効果を評価するために、コヒーレンスという概念がある。これは、パルスにより生じる磁化の挙動を記述するものであり、平衡磁化は0、横磁化は±1、観測される磁化は−1という「コヒーレンスの次数」と呼ばれる値をとることが知られている。また、コヒーレンスは、パルスを照射するときのみに、異なる次数へ移動することが可能である。このコヒーレンスの移動経路を確認することで、パルスの役割を深く理解する助けになる。 平衡磁化では、コヒーレンスは0の状態にある。ここで90度パルスを照射すると、+1、または−1、もしくはその混合の状態に、コヒーレンスが移動する。次に、180度パルスを照射すると、+1のコヒーレンスは−1に、−1のコヒーレンスは+1に移動する。最終的には、−1のコヒーレンスにある信号だけが観測される。 それぞれのパルスに適切な位相を与え、90度パルスおよび180度パルスが完全なとき、DEPTH1は図3において太い矢印で示すように、0→+1→−1のコヒーレンス移動経路のみをたどる。しかしながら、90度パルスが90度からずれているときや、180度パルスが180度からずれているときには、このルートのみならず、細い矢印で示すようなさまざまな別のコヒーレンス移動経路もたどる。パルスのずれが多いほど、別のルートの割合が多くなる。 さて、プローブの素材に含まれるバックグラウンド信号を与える物質は、試料よりも弱いRF磁場の照射を受けている。そこで、試料の位置で90度、180度パルスとなるようにパルスの幅を調整しておくと、素材の位置では90度パルスや180度パルスから大きく外れた値のRFパルスとなる。すなわち、図4で述べた別の経路をたどる信号が非常に多くなる。 ここで、90度パルスと180度パルスの位相を適切に変化させながら、信号を観測し足し合わせることにより、正規のルートをたどる磁化の信号の中から、別のルートをたどる磁化の信号を消去することができる。すなわち、正規のルートのみをコヒーレンス選択することにより、別のルートを通る信号を抑制することができる。これは、試料の信号を観測しながら、バックグラウンド信号を抑制することにつながる。 [従来の位相回しのコヒーレンス選択からの解釈] コヒーレンスの選択は、パルスの位相を変えながら複数の測定を行ない、信号を足し合わせることにより実現される。このアプローチを位相回しと呼ぶ。照射するパルスの位相を時間の順にφi(i=0、1、2、……)と表記し、(i−1)番目のパルスとi番目のパルスの間のコヒーレンスの次数をpiと定義する。p0=0とする。それぞれのパルスで移動するコヒーレンスの差をΔpi=pi+1−piと表記する。次の関係式により与えられる信号観測位相をNMR位相検波回路のリファレンス信号の位相φrecに設定して、それぞれのパルスの位相を変化させて信号を足し合わせると、コヒーレンス選択が実現する。 それぞれのパルスの位相の変化させ方は次の式で与えられる。 ここでφi(k)はφiのk回目の位相回しの際にとるべきφiの値であり、kは0からNi−1まで変化させる。Niはいくつの経路の中からひとつの経路を選ぶのかという数を表している。すなわち、それぞれのパルスに対してNi回の位相回しが必要になるので、全部で必要になる位相回しの回数は、で与えられる。 DEPTH1の場合は、90度パルスの位相をφ0、180度パルスの位相をφ1、信号観測位相をφrecと表記して考えてみる。正規のコヒーレンス移動経路を通るΔp0は、0次から+1次へのコヒーレンスの移動なので、Δp0=+1、Δp1は+1次から−1次への移動なのでΔp2=−2となる。それぞれ3つの経路のうちからひとつの経路を選んでいるので、N0=N1=3となる。これに従うと、φ0にN0回の位相回しが必要で、それぞれのφ0に対して、φ1の位相回しがN1回だけ必要になる。すなわち、全部で必要になる位相回しの回数は最低でもN0×N1=9回となる。すなわち、バックグラウンドを抑制した1枚のスペクトルを得るため、9回の位相を変えた実験を行なう必要がある。一般的には、4の倍数のNiが好まれるため、N0=N1=4が用いられることが多く、その場合は全部で必要になる位相回しの回数は16回となる。 DEPTH2の場合には、(Δp0、Δp1、Δp2)=(−1、+2、−2)、(N0、N1、N2)=(3、3、3)となる。最低でも必要になる位相回しの回数は27回である。一般的には、4の倍数が用いられ、その場合は64回の位相回しが必要になる。 一般的には、DEPTHnの場合には、最低でも3nの位相回しが必要になり、nが大きいときには、非常に多くの位相回しが必要になることがわかる。 すでに報告されており広く用いられているDEPTH2では、4の倍数を用いて64回の位相回しが用いられている。この位相回しは、経験的に16回にまで減らすことができることが報告されている(非特許文献1)。 [Cogwheel位相回しについて] 上に示したように、多くのパルスを照射するときには、必要となる位相回しの回数が指数関数的に大きくなってしまう。そのときには、非常に多くの回数の測定が必要になり、測定に時間がかかってしまう。この問題を解決する一般論として、cogwheel位相回しという効率的な位相回しが提案された(非特許文献3)。 このアプローチでは、上に示したアプローチのようにそれぞれのパルスの位相をひとつずつ個別に変化させるのではなく、複数のパルスから構成されるパルスシーケンスが複数のブロックに分けられ、測定のつど各ブロックの高周波位相がブロック毎に定められた倍率(比率)で同時に増加させることにより、効率の良い位相回しが実現される。 Cogwheel位相回しにおける位相のまわし方は次の式で表される。 ここでNは、必要となる位相回しの回数の総数であり、φi(m)はm回目(m=0、1、……、N−1)の位相回しの際に、i番目のブロックの位相φiがとるべき位相を示す。νiはwinding numberと呼ばれ、i番目のブロックについて決められた倍率を示す係数(整数)である。ここでwinding numberの差を次のように定義する。 このとき、Nおよびwinding number νiを適切に設定し、(i−1)番目のブロックとi番目のブロックの間で取り得るコヒーレンスの次数pitrialに対して、次の式を評価する。 この式が、Δi+1trial≠Δpi+1となる全ての取り得るコヒーレンス経路に対して成立しないΔνiおよびNが存在すれば、それらの値を用いて、効率の良い位相回しを行なうことができる。ν0(最初のブロックのwinding number)は任意の値を取り得るが、例えば0とおくと、(5)式のΔνiから、すべてのνiを決めることができる。それぞれのパルスの位相は、νiおよびNから(4)式を用いて決定できる。また、そのときの信号観測位相は、(1)式により決定できる。 このアプローチは、発表されてからMQMAS(Multi-Quantum Magic Angle Spinning)測定や、TOSS(Total Sideband Suppression)、PASS(Phase-Adjusted Spinning Sidebands)などに適用できることが示され、非常に少ない位相回しの回数Nで効率の良いコヒーレンス選択ができることが示された。 また、winding numberの検索は、総当り方式で検索する必要があるが、CCCP++などのソフトウェアが提供されており、このようなソフトウェアを用いて解を見つけることができる。従来の位相回しで必要になる回数((3)式)よりも、cogwheel位相回しを用いたときのNは、圧倒的に少ないことが知られている。 例えば、TOSSの場合は、以前は81回の位相回しが必要とされてきたが、cogwheel位相回しを用いることにより、9回にまで減らせることが示された。また、cogwheel位相回しは、パルスの数が多くなればなるほど、従来の方法による位相回しと比べて、効率が良くなる。 [DEPTHへのcogwheel位相回しの適用] 以前の方法によるDEPTHシーケンスでは、それぞれのパルスの位相を個別に変化させる従来の位相回しに基づいて位相選択を行ない、バックグラウンド信号の抑制を行っていた。そのため、DEPTH1では最低でも9回、DEPTH2では最低でも27回、DEPTHnでは最低でも3n回の位相回しが必要であり、非常に多くの位相回しが要求されていた。 本発明では、DEPTHにcogwheelの位相回しを適用するという新規な発想に基づき、必要とされる位相回しの回数を減らす。DEPTH1の場合には、のコヒーレンス経路を通ることが要求される。このコヒーレンスを通る位相回しは、従来法では32=9回の位相回しが必要とされてきた。ここで、DEPTH1にcogwheel位相回しを適用し、winding numberおよび位相まわし回数Nを検索すると、多くの解が得られるが、N=5が最も小さいNを持つ解として得られる。N=5の解も複数得られるが、ひとつの例として、(ν0、ν1)=(0、3)の解が得られる。このときの位相回しはとなる。この位相回しで測定を行なった5つの測定結果を足し合わせることで、(p0、p1、p2)=(0、+1、−1)のコヒーレンス経路を通る信号だけが得られる。これにより、効率の良いバックグラウンド抑制が実現する。 従来法では9回の位相回しが必要であったが、本発明では5回の位相回しでバックグラウンド抑制が完了する。 180度パルスの数が増えるにしたがって、従来法と本発明の差は大きくなる。DEPTH2の場合、従来法では最低でも27回の位相回しが必要であるが、本発明に従うと7回の位相まわして完了する。すなわち、N=7の解が存在するからである。DEPTH2で選ぶべきコヒーレンス経路は、(p0、p1、p2、p3)=(0、−1、+1、−1)であり、これを満たすcogwheel位相回しの解のひとつは、となる。この位相回しを用いて7回の測定を行ない、結果を足し合わせることで、(p0、p1、p2、p3)=(0、−1、+1、−1)のコヒーレンス経路選択が完了する。従来法と比べると、27回から7回までの、位相回し回数の大幅な抑制が実現できる。 3つの180度パルスからなるDEPTH3の場合は、従来法では81回の位相回しが必要であった。一方、cogwheelを用いると、最も小さなNを持つ解としてはN=9の解が得られる。 このように、従来法で81回の位相回しが必要であったところが、本発明により、わずか9回にまで位相回しを減らすことが可能になる。 4つの180度パルスからなるDEPTH4では、従来法では273回の位相回しが必要であったが、本発明により11回にまで位相回しを減らすことができる。すなわちN=11の解が存在するからである。 なお、上記にあげたcogwheel位相回しの解はあくまで一例であり、同様の効果を持った複数の解が存在することを強調しておく。 [測定例] これらのバックグラウンド抑制シーケンスの効果を、実際の測定により確かめた。図4の一番上が、バックグラウンド抑制なしで測定を行った13C−NMRスペクトルである。図の横軸は13C−NMRスペクトルの化学シフト値(単位:ppm)、図の縦軸は13C−NMRスペクトルの信号強度で、120〜130ppm付近に13C核由来の強いNMRバックグラウンド信号が現れている。 次に、本発明の効率的なバックグラウンド抑制を、DEPTH1に適用した例を図4の上から2番目に示す。バックグラウンド信号が大幅に抑制されており、ベースラインはほとんど平らな状態であることがわかる。同様に、DEPTH2、DEPTH3、DEPTH4の場合も効果的に働いている。 これらの性能を、従来法のDEPTH2と比較しても、同等のバックグラウンド抑制が実現できていることがわかる。一方、必要な位相回しは、従来法と比べて非常に少なくなっており、非常に効率的にバックグラウンド抑制が実現できることがわかる。 [実施例2] 本発明によるバックグラウンド信号抑制は、横磁化にn個の180度パルスを照射することにより実現される。実施例1では、90度パルスにより生成された横磁化に180度パルスを照射する例を示した。実施例2ではより一般化して、横磁化を生成させることのできる他のパルス(例えば270度パルスなど)やパルス列との組み合わせを記述する。このパルス(列)が90度のシングルパルスであるものが、実施例1である。 DEPTHnのうち、nが奇数の場合には、横磁化を用意するパルス列は+1の磁化、nが偶数の場合には、横磁化を用意するパルス列は−1の磁化が必要となる。ここではDEPTH2の例を考える。 横磁化を用意するパルス列は、−1の磁化を作る。まず、このパルス列による不完全性を無視する。すなわち、このパルス列の直後では、コヒーレンスの次数が−1の磁化のみが存在すると考える。 そのとき、図5に示すような、(p1、p2、p3、p4)=(0、−1、+1、−1)のコヒーレントのルートを選ぶと、バックグラウンド信号抑制ができる。 このルートを選ぶひとつの例として、N=5の解を示す。 DEPTH3の場合は、N=7の例を示す。 なお、ここでは、横磁化を用意するパルスによって±1の磁化が用意されると仮定したが、さらにφ1に位相回しを加えることによって、横磁化を用意するパルスによる位相選択を付け加えることも可能である。 固体試料/溶液試料のNMRスペクトル測定に広く利用できる。NMR装置のプローブの素材から出るバックグラウンド由来の信号を低減させるNMR測定方法であって、 試料に対して90度パルスとそれに続く1つ又は複数の180度パルスとから構成するRFパルス列を、各パルスの高周波位相を位相回しにより変化させながら繰り返し照射して測定を繰り返し行うと共に、各測定で得られたNMR信号を積算するNMR測定方法において、 前記位相回しをcogwheel位相回しに基づいて行うことを特徴とするNMR測定方法。NMR装置のプローブの素材から出るバックグラウンド由来の信号を低減させるNMR測定方法であって、 試料に対して90度パルスとそれに続く1つ又は複数の180度パルスとから構成するRFパルス列を、各パルスの高周波位相を位相回しにより変化させながら繰り返し照射して測定を行うと共に、各測定で得られたNMR信号を積算するNMR測定方法において、 前記位相回しに当たり、前記90度パルスの高周波位相をN回の測定の都度2πmν0/N(m=0,1,・・・,N−1)とN段階に変化させると共に、90度パルスに続く1つ又は複数の180度パルス(1801,1802,・・・,180i)について、測定の都度その高周波位相を2πmνi/N(i=1,2,・・・)としたことを特徴とするNMR測定方法。ただし、Nは必要となる位相回しの回数の総数、ν0は前記90度パルスについての係数、νiは前記180度パルス(180i)にかかわる係数。前記N及び前記νiの数値は、事前のシミュレーションに基づいて最適値が選定されることを特徴とする請求項2に記載のNMR測定方法。請求項1乃至3のいずれかに記載のNMR測定方法において、前記90度パルスとして核磁化に対して90度パルスと同等に横磁化を発生させるシングルパルス又はパルス列を用いたことを特徴とするNMR測定方法。 【課題】RF磁場強度の違いを用いたアプローチに立脚しつつ、積算回数設定の自由度が減るという問題点を緩和し、バックグラウンド抑制を実現する。【解決手段】NMR装置のプローブの素材から出るバックグラウンド由来の信号を低減させるNMR測定方法であって、試料に対して90度パルスとそれに続く1つ又は複数の180度パルスとから構成するRFパルス列を、各パルスの高周波位相を位相回しにより変化させながら繰り返し照射して測定を繰り返し行うと共に、各測定で得られたNMR信号を積算するNMR測定方法において、前記位相回しをcogwheel位相回しに基づいて行う。【選択図】図4