生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_食品に使用される微生物の生残性を向上させる方法
出願番号:2012193181
年次:2014
IPC分類:C12N 1/20,C12N 1/00,A23L 1/30


特許情報キャッシュ

山本 裕司 向井 孝夫 佐々木 諒子 濱口 翔平 JP 2014045743 公開特許公報(A) 20140317 2012193181 20120903 食品に使用される微生物の生残性を向上させる方法 学校法人北里研究所 598041566 棚井 澄雄 100106909 飯田 雅人 100188558 山本 裕司 向井 孝夫 佐々木 諒子 濱口 翔平 C12N 1/20 20060101AFI20140218BHJP C12N 1/00 20060101ALI20140218BHJP A23L 1/30 20060101ALN20140218BHJP JPC12N1/20 AC12N1/00 TA23L1/30 Z 13 OL 9 特許法第30条第2項適用申請有り ▲1▼ウェブサイトの掲載日 平成24年3月5日 ▲2▼ウェブサイトのアドレス http://jsbba.bioweb.ne.jp/jsbba2012/download_pdf.php?p_code=2C25p08 [刊行物等] ▲1▼開催日 平成24年3月23日 ▲2▼集会名、開催場所 日本農芸化学会2012年度大会 京都女子大学(京都市東山区今熊野北日吉町35) [刊行物等] ▲1▼発行日 平成24年7月1日 ▲2▼刊行物 日本乳酸菌学会誌 Vol.23(2012)No.2、第111頁 日本乳酸菌学会発行 [刊行物等] ▲1▼発行日 平成24年7月12日 ▲2▼刊行物 日本乳酸菌学会2012年度大会講演要旨集、第23頁 日本乳酸菌学会2012年度大会実行委員会発行 [刊行物等] ▲1▼開催日 平成24年7月12日 ▲2▼集会名、開催場所 日本乳酸菌学会2012年度大会 つくば国際会議場(茨城県つくば市竹園2−20−3) 4B018 4B065 4B018MD87 4B018ME11 4B018MF01 4B018MF14 4B065AA30X 4B065AC20 4B065BA23 4B065BB13 4B065BC06 本発明は、酸素に感受性の微生物、特に、プロバイオティクスなどの食品に使用される微生物において、酸素耐性微生物を作出する方法、生残性が向上した微生物の作出方法、およびこれらの方法により得られる微生物、特にプロバイオティクスなどの食品に使用される微生物、より詳しくは乳酸菌およびビフィズス菌に関する。 乳酸菌やビフィズス菌などの微生物は、ヒトや動物の腸管をはじめとして、自然界に広く分布するとともに、様々な発酵食品の製造に利用されている。近年は特に乳酸菌やビフィズス菌などの有用微生物の摂取による保健的効果、プロバイオティクスが注目されている。プロバイオティクスとは、「適正量を摂取した際に宿主に有用な作用を示す生菌体」と定義されており、乳酸菌やビフィズス菌が代表的なプロバイオティクスである。プロバイオティクスでは、生きた微生物がヒトや動物の腸管に到達することが重要であるため、プロバイオティクスとして用いられる微生物は製品中で生きた状態で保持される必要がある。また、発酵食品の製造には、乳酸菌やビフィズス菌をスターターとして添加することが多いが、スターターとして用いる微生物の生菌数と代謝活性が、製造の生産性や安定性に大きく影響する。このように乳酸菌や他のプロバイオティクスとして利用される微生物の生残性を向上させることは産業的に非常に重要である。 乳酸菌やビフィズス菌の生残性の低下には複数の要因が関与するが、酸素ストレスが主要な要因の一つであることが知られている(非特許文献1)。酸素ストレスとは、酸素分子自身あるいは酸素分子から発生する活性酸素種(過酸化水素、スーパーオキシド、ヒドロキシラジカル等)によって細胞が損傷を受けることを意味し、ヒトのような高等動物には酸素ストレスに対する防御機構が備わっている。しかし、有用乳酸菌の中には酸素に弱く酸素に感受性を示す菌が存在する。特に、プロバイオティクスとして用いられる乳酸菌は腸管などの嫌気的環境から分離された株が多く、酸素に感受性を示すものが多い。ビフィズス菌は偏性嫌気性細菌であり、乳酸菌以上に酸素ストレスによる生残性の低下が問題となる。 これまで、酸素ストレスの低減をはじめとして、生残性を向上させる幾つかの方法が検討されている。例えば、過酸化物を分解するためのパーオキシダーゼミックス(特許文献1)や保護効果の高い乳酸菌の生菌体あるいは死菌体を添加する方法(特許文献2、特許文献3)、および酸素透過生の低い容器の使用が提案されている。しかし、添加物の利用は製造コストの増加につながるとともに、味や風味への影響が懸念される。一方、酸素透過性の低い容器は一旦開封するとその効果が失われることや、容器コストの増加などが問題となるため、根本的な問題の解決には至っていない。 以上のような理由から、生残性の問題を解決するには、対象とする微生物の生残性自体を向上させるか、元々生残性が高い株を選抜することが最も望ましい。自然界から生残性の高い株を分離した例としては、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) FERM BP-778株が挙げられ、同種のビフィズス菌と比べ、乳の発酵性、発酵乳中の生残性のいずれも高いと報告されている(特許文献4)。しかし、このように自然界から生残性の高い株を選抜するには、多くの時間と労力が必要とされる。また、得られた生残性の高い菌株が、必ずしもプロバイオティクスとして有用な性質を持つとは限らない。このため、既存の有用菌株から生残性が向上した変異株を作出することが検討されている。これまで、乳酸菌ではラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ビフィズス菌ではビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)で生残性が向上した変異株が作出されており(特許文献5、特許文献6)、いずれの場合も培養した菌を低温で保存し、その際に生き残った株の中から生残性が向上した株を選抜している。しかしながら、このような方法で生残性が向上した株を取得するには多くの時間と労力を必要とする。特許文献6記載の発明では、Bifidobacterium bifidum YIT4007 株を好気条件下低温で21日間保存した際に生き残った株を再度培養し、再び低温保存するという作業を数回繰り返すことで生残性が向上した株を取得している。一方、特許文献5記載の発明では、親株であるLactobacillus gasseri OLL2716 のDNA ポリメラーゼIII に変異を導入することで、DNA 変異効率が増加した株をはじめに作出し、その株を用いて生残性が向上した株をスクリーニングしている。また、生残性の向上がリボフラビン・トランスポーターを欠損によることを併せて報告しており、遺伝子組み換え技術を用いてリボフラビン・トランスポーターを欠損させることで、Lactobacillus gasseri OLL2716 株とラクトバチルス・デルブリュッキイ・サブスピーシーズ・ブルガリカス (Lactobacillusdelbrueckii subsp. bulgaricus) T-11 株の生残性の向上にも成功している。しかし、遺伝子組み換え微生物の食品への利用には制約が多い。 また、乳酸菌のラクトコッカス・ラクティス (Lactococcus lactis) において、活性酸素耐性株として過酸化水素に対する耐性株が報告されている(非特許文献2)。しかし、この方法では、過酸化水素自体が不安定な物質であるため、耐性株の取得が困難である。しかも他種類の乳酸菌では生残性が向上した株は得られなかった。 以上のように、既存の有用株からの酸素ストレス耐性株の作出は有効な手段であるが、遺伝子組み換え技術を除くと、生残性が向上した株の作出には、多くの時間と労力が必要とされる。特開平10−262550号公報特開2009−232716号公報特開2008−5811号公報特許第3875237明細書特開2011−135804号公報特許第4881304号明細書山本裕司、「プロバイオティクスとして用いられる微生物の低温保存時の挙動と生残性に影響を与える要因」、日本冷凍空調学会誌冷凍、社団法人日本冷凍空調学会、2011年4月15日、第86巻、p.317−322Rochat T. 等, Appl. Envioron. Microbiol., 2005, 71, p.2782- 2788 上述のように、酸素ストレス耐性株の作出には多くの時間と労力を必要としていた。また、遺伝子組み換え技術を用いた場合、得られる微生物の食品への利用には制約が多い。本願発明の目的は、簡便に、しかも効率よく、微生物の酸素ストレス耐性能を向上させて生残性の高い変異株を作出する方法を提供することである。 上記の課題を解決すべく、本発明者らは、酸素ストレス耐性能が向上した微生物、特にプロバイオティクスとして用いられる乳酸菌やビフィズス菌において酸素ストレス耐性能が向上した菌株を作出する方法について鋭意検討を行った。酸素ストレスでは、酸素分子自身よりも酸素から発生する活性酸素が細胞を傷つけ、致命的な損傷をもたらすことが多い。そこで、本発明者らは、酸素ストレス耐性能が向上した菌株を作出するために、活性酸素に対して耐性を示す変異株を選抜することに着目した。そして、活性酸素発生剤としてストレプトニグリン(Streptonigrin)を用い、これに対する耐性株を選抜することにより、酸素ストレス耐性能が向上し、生残性が高い株を容易に取得しうることを見出し、本発明を完成した。 即ち、本発明は、以下の通りである。1.ストレプトニグリン含有培地で微生物を培養し、ストレプトニグリン耐性株を選抜することを含む、酸素耐性微生物を作出する方法。2.前記微生物が食品に使用できる微生物である、上記1記載の方法。3.前記食品に使用できる微生物がプロバイオティクスである、上記2記載の方法。4.前記プロバイオティクスが乳酸菌である、上記3記載の方法。5.前記プロバイオティクスがビフィズス菌である、上記3記載の方法。6.前記乳酸菌がラクトバチルス属細菌である、上記4記載の方法。7.ラクトバチルス属細菌が、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)またはラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)である、上記6記載の方法。8.請求項1〜7のいずれかに記載の方法により、好気性条件下での生残性が向上した微生物を作出する方法。9.微生物をストレプトニグリン含有培地で培養し、ストレプトニグリン耐性を生じさせることを含む、微生物の酸素耐性能を向上させる方法。10.請求項9記載の方法により、微生物の好気性条件下での生残性を向上させる方法。11.請求項1〜7のいずれかに記載の方法で得られる酸素耐性微生物。12.好気性条件下での生残性が向上した、請求項11記載の微生物。13.ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus) SH138株 (受託番号NITE P-1380 として寄託) またはラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)SH208 株 (受託番号NITE P-1381 として寄託) である、請求項11または12記載の微生物。 本発明によれば、簡便な方法で効率よく、酸素耐性能の向上した微生物を作出できる。特に、食品に用いる有用微生物、例えば乳酸菌やビフィズス菌等のプロバイオティクスにおいて酸素耐性能を向上させ、好気性条件下での生残性を改善することができる。微生物を生きた状態で腸管に到達させることが必要な食品においては、その製造中や保存中の微生物の生残性は重要な要件である。本発明により作出された微生物を用いれば、従来のように生残性を維持するための添加物や高価な酸素透過性の低い容器を使用する必要がなくなり、食品の本来の風味や嗜好性に影響を与えることなく、製造コストを削減できる。また、本発明で得られる微生物を発酵食品のスターターとして用いる場合、製造の生産性や安定性を高めることができる。 さらに、本発明の方法は、食品に使用されている酸素に感受性の乳酸菌やビフィズス菌だけでなく、広く種々の微生物に適用して酸素耐性能を付与することが期待される。例えば、有用物質の生産に使用する微生物において生残性の高い微生物を作出し、この微生物を用いることにより生産性を上げることができる等、その利用範囲は広い。 本発明方法で用いるストレプトニグリンは比較的安定な試薬であり、従来方法で用いる過酸化水素に比べてもその取り扱いや使用が容易である。そしてストレプトニグリンは、活性酸素発生剤であり、効果的な変異原性剤でもあるので、微生物に対して予め変異処理を行わなくても、ストレプトニグリン含有培地で培養するだけで、変異株の作出と酸素耐性株の選択を行うことができる。親株とストレプトニグリン耐性株の好気条件下での低温生残性を示すグラフである。Aは、Lactobacillus acidophilus の親株 (JCM1132 株) とストレプトニグリン耐性株(SH138 およびSH141)を4℃で保存し、1週間ごとに生菌数を測定した結果を示す。Bは、Lactobacillus gasseriの親株 (JCM1131 株) とストレプトニグリン耐性株(SH195,SH196, SH208, SH211 およびSH212)を4℃で保存し、1週間ごとに生菌数を測定した結果を示す。 本発明の酸素耐性微生物を作出する方法は、ストレプトニグリン含有培地で微生物を培養し、ストレプトニグリン耐性株を選抜することを含む。 使用するストレプトニグリンは、アミノキノンを含む既知の抗腫瘍剤であり、物質名は3−メチル−4−(2−ヒドロキシ−3,4−ジメトキシフェニル)−5−アミノ−6−〔5,8−ジオキソ−6−メトキシ−7−アミノキノリン−2−イル〕ピリジン−2−カルボン酸である。ストレプトニグリンは、細胞内の鉄と複合体を形成し、鉄触媒によって活性酸素を発生することでDNAやRNAを分解する。ストレプトニグリンのDNA分解活性は、活性酸素分解酵素であるSODやカタラーゼ、あるいは鉄キレート剤であるEDTAで抑制されることから、少なくとも3種の活性酸素(スーパーオキシド、過酸化水素、ヒドロキシラジカル)を発生させると推測される(Bolxan AD. et al., Mutant Res., 2001, 488:25-37)。即ち、細胞のこれら活性酸素に対する分解能が向上した場合や、活性酸素の発生を触媒する鉄イオンが減少すると、ストレプトニグリンに耐性を示すと推測され、ストレプトニグリンに対する耐性株を分離することにより、活性酸素に耐性能を示す株を取得できると考えられる。これは、以下の実施例において実証されている。即ち、実施例において、プロバイオティクスとして一般的に使用される乳酸菌であり、酸素ストレスに弱いという特徴をもつラクトバチルス属細菌においてストレプトニグリン耐性株を分離することにより、酸素耐性および生残性が向上した株を簡便に得ることができた。 ストレプトニグリンによる細胞内における活性酸素発生の機構は、微生物一般に共通しているので、ストレプトニグリン耐性株の選択により酸素耐性および生残性が向上した株を得る方法は、上記ラクトバチルス属細菌以外の微生物においても適用でき、同様の効果をもたらすことが期待される。 本発明の作出方法の対象となる微生物は、食品に使用できる微生物であるのが好ましく、プロバイオティクスであるのがより好ましい。プロバイオティクスとしては、ラクトバチルス属細菌、ラクトコッカス(Lactococcus)属細菌、ストレプトコッカス(Streptococcus)属細菌、エンテロコッカス(Enterococcus)属細菌、ワイセラ(Weissella)属細菌、ペディオコッカス(Pediococcus)属細菌、ロイコノストック(Leuconostoc)属細菌などの乳酸菌やビフィズス菌が挙げられる。ラクトバチルス属細菌には、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・パラプランタラム(Lactobacillus paraplantarum)、ラクトバチルス・ヘルベティクス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・デルブリュッキイ(Lactobacillus delbrueckii)等が例示できる。ビフィズス菌としては、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフォドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・アドレッセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobacterium infantis)、ビフィドバクテリウム・アニマリス(Bifidobacterium animalis)、ビフィドバクテリウム・シュードロンガム(Bifidobacterium pseudolongum)等が挙げられる。 乳酸菌およびビフィズス菌以外で本発明方法が適用できる微生物としては、酸素に感受性であるClostridium属細菌などがある。 本発明方法で得られた微生物の具体例は、実施例に記載のラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus) SH138株 (独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター (千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に2012年6月22日付で受託番号NITE P-1380 として寄託されている )およびSH141 株、およびラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri) SH208 株 (独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター (千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に2012年6月22日付で受託番号NITE P-1381 として寄託されている) 、SH195 株、SH211 株、SH212 株およびSH196 株が挙げられる。 自然界より生残性の高い株を選抜する方法では、前述したように多くの労力と時間を必要とするだけでなく、選抜した株が必ずしも目的にかなった性質、例えばプロバイオティクスとして有用な性質をもつわけではない。本発明方法を用いれば、既に有用株として使用されている株において、生残性を高めることができ、生残性の向上した有用菌株を簡便に作出できる。 本発明の作出方法において使用するストレプトニグリン含有培地は、親株として使用する菌株の培養に適した培地に、この菌株のストレプトニグリンに対する最小生育阻止濃度よりも高い濃度でストレプトニグリンを添加した培地である。ラクトバチルス属細菌を用いる場合はGYP培地、MRS培地、あるいはスキムミルク培地などにストレプトニグリンを添加するのが好適である。 本発明の作出方法では、まず上記ストレプトニグリンを最小生育阻止濃度より高い濃度で含有する培地に親株を接種し、培養する。培養は、使用する菌株に適した培養方法および培養条件で行えばよく、ラクトバチルス属細菌では37℃で24〜72時間静置培養や振盪培養を行うのが好ましい。ストレプトニグリンは変異原性剤でもあるので、上記培地で親株を培養することにより、親株において変異が誘発され各種の変異株が生じ、そのうちのストレプトニグリン耐性株が生き残り増殖する。このようにして、ストレプトニグリンを最小生育阻止濃度より高い濃度で含有する培地で増殖する株をストレプトニグリン耐性株として得る。 得られたストレプトニグリン耐性株の酸素耐性、即ち好気性条件下での生残性は、培養液を好気性条件下 (大気下) で一定期間保存した後の生菌数を計測することにより測定できる。このようにして、酸素耐性および生残性の向上した株を取得できる。 本発明の方法で作出される酸素耐性および生残性の向上した微生物は、プロバイオティクスとして食品に添加したり、発酵食品のスターターとして利用することができる。あるいは、既知の担体や賦形剤などを配合し、必要に応じ食品添加物などを加えて、各種剤型の製剤として利用できる。また、有用物質を生産しうる株として物質製造に用いることができる。 以下、本発明を実施例によって説明する。なお、以下の実施例は、本発明を説明するために挙げた例であり、これにより本発明を限定するものではない。 プロバイオティクスとして一般的に使用される乳酸菌であるが、酸素ストレスに弱いという特徴をもつ、Lactobacillus acidophilus およびLactobacillus gasseri を用いて酸素耐性および生残性に優れた変異株を以下のようにして作出した。 両乳酸菌の基準株であるLactobacillus acidophilus JCM1132 (独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター微生物材料開発室(埼玉県和光市広沢2-1)に保存) 、Lactobacillus gasseriJCM1131 (独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター微生物材料開発室(埼玉県和光市広沢2-1)に保存) を親株として用いた。それぞれの株のストレプトニグリン (Sigma 社製) に対する最小生育阻止濃度を測定した。培地としては、GYP培地(グルコース1%、酵母エキス1%、プロテオースペプトン0.5%、酢酸ナトリウム0.2%、牛肉エキス0.2%、硫化マグネシウム七水和物0.02 %、硫化マンガン四水和物0.001%、硫化鉄七水和物0.001%、塩化ナトリウム0.001%、Tween 80 0.05%、pH6.8に調整)を用いた。最小生育阻止濃度は、 Lactobacillus acidophilus JCM1132で0.625μg/ml、Lactobacillus gasseri JCM1131で2.5μg/mlであった。 次いで、決定した最小生育阻止濃度よりも段階的に高い濃度のストレプトニグリン (Lactobacillus acidophilus JCM1132では0.625、1.25、2.5、5.0、10.0μg/ml、Lactobacillus gasseriJCM1131では2.5、5.0、10.0、20.0μg/ml)をGYP培地に添加し、37℃で24〜72時間で静置または振盪培養を行い、最小生育阻止濃度よりも高いストレプトニグリン濃度存在下で増殖した株をストレプトニグリン耐性株として純化した。Lactobacillus acidophilus のストレプトニグリン耐性株としてSH138 およびSH141 株をLactobacillus gasseri のストレプトニグリン耐性株としてSH195 、SH196 、SH208 、SH211 およびSH212 を得た。 得られたストレプトニグリン耐性株の生残性の測定には、MRS液体培地(Difco 社製) で吸光度がA600 =1.0 となるまで37℃で静置培養したLactobacillus acidophilus またはLactobacillus gasseri の培養液を用いた。この培養液を好気条件下4℃で28日間保存し、7日ごとに適宜希釈した培養液をMRS寒天培地に播いて培養することにより生菌数を測定した。結果を図1に示す。 図1から明らかなように、親株であるLactobacillus acidophilus JCM1132 は日数の経過とともに生菌数が大きく低下したのに対し、Lactobacillus acidophilus のストレプトニグリン耐性株であるSH138 およびSH141 株の両株では、大きく生残性が向上し、28日後では野生株と比較して約500 〜1000倍高い生菌数を示した。一方、Lactobacillus gasseri のストレプトニグリン耐性株 (SH195 、SH196 、SH208 、SH211 およびSH212)も保存開始14日目の時点では、親株と比べ約30〜200 倍高い生菌数を示した。21日以降は生菌数が低下したが、ヨーグルトなどの一般的な消費期限である2週間では生残性の向上が確認された。このように、ストレプトニグリン耐性株を分離することにより、生残性が向上した株を簡便に得ることができた。 ストレプトニグリン含有培地で微生物を培養し、ストレプトニグリン耐性株を選抜することを含む、酸素耐性微生物を作出する方法。 前記微生物が食品に使用できる微生物である、請求項1記載の方法。 前記食品に使用できる微生物がプロバイオティクスである、請求項2記載の方法。 前記プロバイオティクスが乳酸菌である、請求項3記載の方法。 前記プロバイオティクスがビフィズス菌である、請求項3記載の方法。 前記乳酸菌がラクトバチルス属細菌である、請求項4記載の方法。 ラクトバチルス属細菌が、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)またはラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)である、請求項6記載の方法。 請求項1〜7のいずれかに記載の方法により、好気性条件下での生残性が向上した微生物を作出する方法。 微生物をストレプトニグリン含有培地で培養し、ストレプトニグリン耐性を生じさせることを含む、微生物の酸素耐性能を向上させる方法。 請求項9記載の方法により、微生物の好気性条件下での生残性を向上させる方法。 請求項1〜7のいずれかに記載の方法で得られる酸素耐性微生物。 好気性条件下での生残性が向上した、請求項11記載の微生物。 ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus) SH138株 (受託番号NITE P-1380 として寄託) またはラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)SH208 株 (受託番号NITE P-1381 として寄託) である、請求項11または12記載の微生物。 【課題】簡便に効率よく、微生物、特に乳酸菌の酸素ストレス耐性能を向上させて生残性の高い株を作出する方法を提供する。【解決手段】ストレプトニグリン含有培地で微生物を培養することによりストレプトニグリン耐性株を選抜し、酸素耐性および後期生条件下での生残性の向上した株を作出する。微生物としては食品に使用できる微生物、特にプロバイオティクス、特に好ましくは乳酸菌(特にラクトバチルス属細菌)やビフィズス菌が挙げられる。【選択図】なし


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