タイトル: | 公開特許公報(A)_親水性化合物の分析方法 |
出願番号: | 2012188120 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | G01N 30/06,G01N 30/72,G01N 30/04,G01N 30/88 |
和田 豊仁 JP 2014044175 公開特許公報(A) 20140313 2012188120 20120828 親水性化合物の分析方法 株式会社島津製作所 000001993 喜多 俊文 100098671 江口 裕之 100102037 和田 豊仁 G01N 30/06 20060101AFI20140214BHJP G01N 30/72 20060101ALI20140214BHJP G01N 30/04 20060101ALI20140214BHJP G01N 30/88 20060101ALI20140214BHJP JPG01N30/06 ZG01N30/72 AG01N30/04 AG01N30/88 C 5 1 OL 10 本発明は、ガスクロマトグラフ分析法またはガスクロマトグラフ質量分析法により親水性化合物を高感度で分析を行うことを目的とした分析方法に関する。 海や河川における環境の水質検査では泥などを含む含水試料または水試料を採取し、ガスクロマトグラフ分析法またはガスクロマトグラフ質量分析法によって分析が行われている。水道等の水質検査では水試料を採取し、ガスクロマトグラフ分析法またはガスクロマトグラフ質量分析法によって分析が行われている。 前記の分析法の中でも、ヘッドスペース法またはパージアンドトラップ法または固相マイクロ抽出法が主な分析法である。 ヘッドスペース法は密閉容器に水試料等を封入し、一定時間加熱後の気相部分の一部を採取し、揮発性化合物を分析する分析法である。試料ガス導入ラインがシンプルであるためにメンテナンスが簡単である。 パージアンドトラップ法は密閉容器に水試料を封入し水相部分に清浄な不活性ガスをバブリングさせ、揮発性化合物を含むバブリング後のガスをトラップ管でトラップし、揮発性成分を分析する分析法である。パージアンドトラップ法はヘッドスペース法に比べ、高感度である。 固相マイクロ抽出法は、まず、密閉容器に水試料等を封入し、脂溶性液相または吸着剤を固定させた固相マイクロ抽出器具を前記密閉容器中の気相または水相に保持し、一定時間加熱して、揮発性化合物を固相マイクロ抽出器具に吸着させ抽出する。その後に、取り出した固相マイクロ抽出器具から揮発性化合物を加熱または溶媒脱離させて分析する分析法である。 ヘッドスペース法、パージアンドトラップ法、固相マイクロ抽出法は水相と気相間の濃度平衡または水相と液相間における濃度平衡を利用して分析するものであり、気相に移行しやすい化合物(低沸点の化合物)または水に溶けにくい化合物(脂溶性化合物)ほど、高感度分析が可能となる。 非特許文献1では、河川水・海水・底質の試料水に炭酸カリウム(K2CO3)を加え、塩析により水に対する溶解度を減少させて溶液中に析出させ、これをXAD−4樹脂に吸着または有機溶媒で抽出し、溶媒を蒸発させる等により濃縮させてガスクロマトグラフ質量分析法により、定量する方法が示されている。 非特許文献2では尿中のアセトン(Acetone)、メタノール(MEOH)およびメチルエチルケトン(MEK)の定量を行う際に塩析剤として硫酸ナトリウム(Na2SO4)を加え、ヘッドスペースガスクロマトグラフ分析法により分析を行う方法が示されている。国立環境研究所ホームページ アドレス:http://db-out3.nies.go.jp/emdb/BunsekiText.php?bunsekiID=587産業医学 Jpn Ind Health 1992;34:243−252 「ヘッドスペース・ガスクロマトグラフ(HS・GC)法による尿中アセトン,メタノール,およびメチルエチルケトンの定量」 しかしながら、親水性が高い化合物は、相対的に気相に移行しにくく、かつ脂溶性液相や吸着剤にも保持させにくいため、ヘッドスペース法、パージアンドトラップ法または固相マイクロ抽出法では高感度分析が困難であった。 水試料中の揮発成分を高感度化する手法として水相に塩化ナトリウム(NaCl)等の塩を添加することが行われるが、親水性化合物への感度向上作用は低かった。 パージアンドトラップ法は、ヘッドスペース法と比べて感度が高いが、装置が高価である。 試料に塩を添加すると流路の洗浄に手間がかかり、洗浄を怠ると分析精度に影響を与える問題があった。 非特許文献1の試料水に炭酸カリウムを加え、塩析により水に対する溶解度を減少させ、XAD−4樹脂に吸着または有機溶媒で抽出し、ガスクロマトグラフ質量分析法により定量する方法は、溶媒を加熱し試料を濃縮することによって高感度にするものであり、高沸点化合物の分析に適するが、低沸点の親水性が高い化合物の分析では、溶液を加熱すると親水性化合物とともに溶媒も気相に移行してしまうので、適していない。 非特許文献2の尿中のアセトン、メタノールおよびメチルエチルケトンの定量を行う際に塩析剤として、硫酸ナトリウムを加え、ヘッドスペースガスクロマトグラフ分析法により分析する方法は、分析精度や再現性は優れているが、硫酸ナトリウムを添加しない場合と比較して最高2.4倍程度の感度上昇しか得られなかった。 本発明は上記課題を解決し、ガスクロマトグラフ分析法またはガスクロマトグラフ質量分析法のいずれかのうち、特にヘッドスペース法またはパージアンドトラップ法または固相マイクロ抽出法において親水性化合物を高感度で分析するための方法を提供することを目的としている。 上記、課題を解決するため本発明の親水性化合物の分析方法は、含水試料中に含まれる親水性化合物を分離して定量を行う分析において、含水試料に炭酸カリウムを添加する工程とガスクロマトグラフ分析法またはガスクロマトグラフ質量分析法によって親水性化合物を分析する工程とを有することを特徴とする。 また、本発明の親水性化合物の分析方法は、前記含水試料が水試料であることを特徴とする。 また、本発明の親水性化合物の分析方法は、前記炭酸カリウムを添加する工程が前記水試料の20%以上の重量の炭酸カリウムを添加する工程であることを特徴とする。 また、本発明の親水性化合物の分析方法は、前記ガスクロマトグラフ分析法または前記ガスクロマトグラフ質量分析法が、ヘッドスペース法またはパージアンドトラップ法または固相マイクロ抽出法であることを特徴とする。 また、本発明の親水性化合物の分析方法は、前記親水性化合物が、揮発性親水性アルコール類、揮発性親水性ケトン類、揮発性親水性ニトリル類、及び、揮発性水溶性環状エーテル類からなる群から選ばれる少なくとも一の化合物であることを特徴とする。 本発明の親水性化合物の分析方法によれば、炭酸カリウム無添加の場合と比較して親水性化合物が、約2.9倍〜11倍の高感度で分析できるという効果を奏する。これは、約110g/100mL(20℃)と非常に水溶解度が高い炭酸カリウムを含水試料に溶解させると、親水性化合物の水への溶解度が低下し気相に移行することによるものである。 また、炭酸カリウムは、非常に水溶解度が高いことから相当量添加しても過飽和状態にならず析出しないので、流路は汚れにくく流路の洗浄が非常に容易であるという効果を奏する。 本発明の親水性化合物の分析方法において、含水試料を水試料とすると親水性化合物の含有量が増加するため、より感度が上がるという効果を奏する。 本発明の親水性化合物の分析方法において、約110g/100mL(20℃)と水溶解度が高い炭酸カリウムを水試料の20%の重量で添加することによって、親水性化合物は約1.4倍以上の感度で分析できるという効果を奏する。炭酸カリウムを水試料の100%の重量で添加すれば、2.9倍以上の感度で分析できるという効果を奏する。 本発明の親水性化合物の分析方法においては、炭酸カリウムを添加することによって、親水性化合物を液相から気相に容易に移行させることができるので、ガスクロマトグラフ分析法またはガスクロマトグラフ質量分析法のうち、ヘッドスペース法またはパージアンドトラップ法または固相マイクロ抽出法によって、親水性化合物の分析を行えば高感度で定量できるという効果を奏する。 本発明の親水性化合物の分析方法においては、特に揮発性親水性アルコール類または揮発性親水性ケトン類または揮発性親水性ニトリル類または揮発性水溶性環状エーテル類の分析について高感度で定量できるという効果を奏する。本発明の親水性化合物の分析方法の工程を示すフローチャートである。本発明の親水性化合物の分析方法の一実施例を示すフローチャートである。2mL標準溶液に炭酸カリウム3g添加時と炭酸カリウム未添加時のクロマトグラムを比較したものである。 本発明の実施形態について図を参照して説明する。 図1は、本発明の親水性化合物の分析方法の工程を示すフローチャートである。本発明の分析方法は、まず、ヘッドスペースバイアル(22mL)に炭酸カリウムを添加する(S1)。その後、同バイアルに水試料を添加し、封入する(S2)。振とうし、炭酸カリウムを溶解させる(S3)。これによって、水への溶解度が低下した親水性化合物が気相へと移行する。ヘッドスペースバイアルの気相部分を採取し(S4)、ガスクロマトグラフ分析装置等で定量する(S5)。 なお、非特許文献1に示した従来の試料水に炭酸カリウムを加え、水に対する溶解度を減少させ塩析し、XAD−4樹脂に吸着または有機溶媒で抽出し、ガスクロマトグラフ質量分析法により定量する方法は、溶媒を加熱し試料を濃縮することによって高感度にするものであり、高沸点化合物の分析に適用する。本発明のように低沸点の親水性が高い化合物の水への溶解度を低下させて気相へ移行したものを分析する方法とは異なる。 本発明の親水性化合物の分析方法によれば、格別な前処理を行うことなく、炭酸カリウム無添加の場合と比較して親水性化合物が、約2.9倍〜11倍の高感度で分析できる程度に水試料から分離することができる。 以下、本発明の親水性化合物の分析方法の一実施例について説明する。 図2は、本発明の親水性化合物の分析方法の一実施例を示すフローチャートである。最初に水試料を10mL程度採取しておく(S11)。 この水試料に炭酸カリウムを添加すると、水試料中の親水性化合物の水への溶解度を大幅に低下させることができる。炭酸カリウムの水溶解度は約110g/100mL(20℃)と非常に高い。例えば、水試料2mLに対して、炭酸カリウム2gを添加した場合には、炭酸カリウムはすべて水試料に溶解し、まだ飽和していない状態である。また、水試料2mLに対して、炭酸カリウム3gを添加した場合には、過飽和の状態になり、0.8g程度が溶解せずに残る。本実施例では、炭酸カリウムを飽和に近い状態または過飽和の状態にし、親水性化合物を十分に気相に移行させるために、水試料2mLに対し、炭酸カリウム2〜3gの量を空のヘッドスペースバイアル(22mL)に添加する(S12)。 炭酸カリウムを添加したヘッドスペースバイアルに水試料2mLを添加して、封入する(S13)。同バイアルをミキサーで、添加した炭酸カリウムの量によって、完全に溶解するか、飽和状態になるまで振とうする(S14)。 同バイアルを80℃で10分保温した後の気相部分をシリンジ等で採取し、回収する(S15)。その際、ヘッドスペースオートサンプラーを使用すると、保温やガスクロマトグラフ分析装置への注入等の精度が高く、定量を再現性よく行うことができる。 ガスクロマトグラフ分析装置に注入し定量する(S16)。 次に、炭酸カリウムを添加することによって得られる分析の効果を調べるための実験を行った。炭酸カリウムを添加する重量を変えて、ヘッドスペースガスクロマトグラフ法によって分析を行ったもの、または無添加、同条件でヘッドスペースガスクロマトグラフ法によって分析を行ったもの、または塩化ナトリウムを添加して同条件でヘッドスペースガスクロマトグラフ法によって分析を行ったもの、または塩化カルシウム(CaCl2)を添加する重量を変えて、同条件でヘッドスペースガスクロマトグラフ法によって分析を行ったものの結果を比較した。 試料調製は以下のとおり行った。メタノール、エタノール(ETOH)、アセトニトリル(Acetnitril)、アセトン、n−プロパノール(n−PrOH)、テトラヒドロフラン(THF)、n−ブタノール(n−BuOH)、1,4ジオキサン(14Dioxane)を等体積で混合し、50mLの純水に8μLを添加し、よく振とうしたものを標準溶液(STD)とした(各濃度は1μL/50mL=20PPM(v/v)とする)。炭酸カリウム(和光純薬製)、塩化ナトリウム(和光純薬製)、塩化カルシウム(和光純薬製)を一定量秤量し、ヘッドスペースバイアルに別々に添加したものを用意する。併せて、いずれの塩も添加しないバイアルも用意する。続いてこれらのバイアルに上記標準溶液を2mL添加し、封入後、振とう溶解し、分析に供する。 分析は、ガスクロマトグラフ分析装置に80℃で10分保温した後のヘッドスペースバイアルの気相部分を各試料2回ずつ注入して実施し、平均値を算出し、各化合物のクロマトグラムの面積値(μv×sec)の変化を調べた。表1に詳細な分析条件を示す。 表2に標準溶液のみの定量をヘッドスペースガスクロマト分析法によって行った際のクロマトグラムの面積値(μv×sec)を示した。 表3に、標準溶液2mLに塩化ナトリウム0.4gを添加して、ヘッドスペースガスクロマト分析法によって分析した際のクロマトグラムの面積値(μv×sec)を示した。 表4に標準溶液2mLを分析した際のクロマトグラムの面積値(μv×sec)と、標準溶液2mLに塩化ナトリウム0.4gを添加して分析した際のクロマトグラムの面積値(μv×sec)を比較してその面積比を示した。塩化ナトリウム無添加時に比べ、塩化ナトリウム添加時は、すべての化合物の親水性化合物は約1.2〜2倍高感度であったことがわかる。 表5に、標準溶液2mLに炭酸カリウム0.4g〜3gを添加して、ヘッドスペース分析法によって分析した際のクロマトグラムの面積値(μv×sec)を示した。 表6に、標準溶液2mLに炭酸カリウム無添加時と0.4g〜3g添加時のクロマトグラムの面積比を示した。炭酸カリウム0.4g添加時は、無添加時に比べ、すべての親水性化合物は約1.4〜2.6倍高感度で、塩化ナトリウムを同量添加した時より高感度化した。炭酸カリウムは水溶解度が高く(約110g/100mL 20℃)、水試料に対して塩化ナトリウムよりも過剰量を添加できる(塩化ナトリウムの水溶解度は35g/100mL)。2mLの標準溶液に2g添加した場合、親水性化合物は約2.9〜11倍高感度になった。2mLの標準溶液に3g添加(2mLの水に対して3gの添加は過飽和状態)した場合、親水性化合物は約3.5〜22倍高感度になった。図3に2mLの標準溶液に炭酸カリウムを3g添加した場合と未添加の場合のクロマトグラムの比較を示す。炭酸カリウムを3g添加した場合は非常に高感度にクロマトグラムが得られるため、高精度な解析を行うことが可能となることがわかる。 対比のために水溶解度の高い塩化カルシウム(水溶解度 約75g/100mL)についても同様の試験を行なった。標準溶液2mLに塩化カルシウム0.4g〜1.5gを添加して、ヘッドスペース分析法によって分析した際のクロマトグラムの面積値(μv×sec)と、塩化カルシウム無添加時と0.4g〜1.5g添加時のクロマトグラムの面積比を表7に示した。2mL標準溶液に1.5g添加したとき、親水性化合物は約1.2〜1.9倍高感度になった。 しかし、炭酸カリウム1.5g添加時の親水性化合物の分析結果は、無添加時と比較して2.5〜8.2倍高感度であり、炭酸カリウムの添加の効果が非常に高いことがわかる。 本実施例および効果の実証実験では、ヘッドスペース法の適用例を示したが、炭酸カリウムの添加により密閉バイアル中の親水性化合物の水相濃度が低下し、気相濃度が著しく上昇するため、パージアンドトラップ法、固相マイクロ抽出法においても親水性化合物の分析結果が高感度化することは明らかである。ここでは水試料の適用例を示したが、含水試料の水分中に溶解している親水性化合物についても炭酸カリウムの添加によって気相に移行させることができるのは明らかであり、親水性化合物の分析結果が高感度化することは明らかである。 また、分析装置としてガスクロマトグラフ分析装置の例を示しているが、ガスクロマトグラフ分析装置と質量分析計とを組み合わせた分析計としてもよい。 含水試料中に含まれる親水性化合物を分離して定量を行う分析において、含水試料に炭酸カリウムを添加する工程と、ガスクロマトグラフ分析法またはガスクロマトグラフ質量分析法によって親水性化合物を分析する工程と、を有することを特徴とする親水性化合物の分析方法。 前記含水試料が水試料であることを特徴とする請求項1記載の親水性化合物の分析方法。 前記炭酸カリウムを添加する工程が前記水試料の20%以上の重量の炭酸カリウムを添加する工程であることを特徴とする請求項2記載の親水性化合物の分析方法。 前記ガスクロマトグラフ分析法または前記ガスクロマトグラフ質量分析法が、ヘッドスペース法またはパージアンドトラップ法または固相マイクロ抽出法であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項記載の親水性化合物の分析方法。 前記親水性化合物が、揮発性親水性アルコール類、揮発性親水性ケトン類、揮発性親水性ニトリル類、及び、揮発性水溶性環状エーテル類からなる群から選ばれる少なくとも一の化合物であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項記載の親水性化合物の分析方法。 【課題】ガスクロマトグラフ分析法またはガスクロマトグラフ質量分析法のいずれかのヘッドスペース法またはパージアンドトラップ法または固相マイクロ抽出法において親水性化合物を高感度で分析するための方法を提供する。【解決手段】水試料に炭酸カリウムを水試料の20%以上の重量で添加し、ガスクロマトグラフ分析法またはガスクロマトグラフ質量分析法によってバイアルの気相部分を分析し親水性化合物を定量する。【選択図】 図1