タイトル: | 公開特許公報(A)_魚介類の麻酔方法および装置 |
出願番号: | 2012184628 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | A01K 63/02,A61K 33/00,A61P 23/00 |
久木野 憲司 久木野 睦子 朝倉 富子 JP 2014039514 公開特許公報(A) 20140306 2012184628 20120823 魚介類の麻酔方法および装置 マリンバイオテクノロジー株式会社 513221916 久木野 憲司 久木野 睦子 朝倉 富子 A01K 63/02 20060101AFI20140207BHJP A61K 33/00 20060101ALI20140207BHJP A61P 23/00 20060101ALI20140207BHJP JPA01K63/02 AA61K33/00A61P23/00 171 6 OL 9 2B104 4C086 2B104AA01 2B104BA16 2B104CA09 2B104EB01 2B104EB20 2B104EF09 4C086AA01 4C086AA02 4C086HA21 4C086MA02 4C086MA05 4C086MA17 4C086NA05 4C086NA06 4C086ZA04 4C086ZA21 4C086ZC65本発明は、溶存二酸化炭素を含む水中において魚介類に長時間の麻酔を施す方法および装置に関する。従来、魚の養殖現場などでは、疾病予防のためのワクチン接種、トラフグの噛み合い防止のための歯切りなどの場面において、魚体の損傷及び消耗を防止するために作業中の魚の鎮静化の必要から麻酔薬が使用されている。現在、食品添加物の一種であるオイゲノール(4−アリル−2−メトキシフェノール)を主成分とする麻酔薬が動物用医薬品として承認を受けて販売されており(商品名:FA100)、魚の麻酔薬に使用されている。しかし、養殖現場などで用いた場合、使用済み麻酔液はそのまま海洋や河川に投棄されるため環境保全の観点から好ましくない。また、食の安全に対する消費者の関心の高まりにともなって養殖魚の体内に残留するおそれのある麻酔剤の使用が敬遠されるようになってきたこと、また農林水産省の指導などにより水揚げ前の7日間は使用禁止となったことなどもあり、使用できる場面は狭まってきている。麻酔薬を用いない魚の麻酔方法としては、水中に溶存させた二酸化炭素による短時間麻酔技術が従来から知られており、最近では、炭酸水素ナトリウムとコハク酸と固形化促進剤を主原料とし、食品添加物として公認されている原料のみで作った固形状炭酸ガス発泡剤からなる魚類用の麻酔剤が開発されている(特許文献1参照)。また、特許文献2には、魚の冷温処理と併用して炭酸ガス分圧を55〜95mmHgに調節した水槽中で活魚を長時間麻酔状態に維持する技術が開示されている。さらに、特許文献3には、活イカを氷温状態の低温状態に保管運搬するための氷温海水冷却装置が開示されている。長時間麻酔方法に関しては、活魚輸送への適用など広い用途への応用が水産関係者から期待されつつも、従来の長時間麻酔方法においては全て活魚車の水温を下げる方法を基本にしており、冷却水槽を備えた活魚車による活魚輸送方法は特殊車両設備の費用負担と魚種別低温生理特性の不確実性による運送中の斃死の危険性を避けられないことから、実用的な麻酔方法として幅広く活用できないとの問題点がある。二酸化炭素は陸生生物にも水生生物にも麻酔効果を持つことが古くから知られており、何らの有害物質も生体内に残さないという点で食品素材となる生物に対する麻酔方法としては理想的な麻酔方法ともいえる。しかし、水生生物に対して麻酔ガスとして用いた場合、ごく短時間の内に呼吸不全による頓死を引き起こすことから、疾病予防のためのワクチン接種や噛み合い防止のためのトラフグの歯切りなど限られた用途に用いる短時間麻酔方法だと考えられてきた(例えば、非特許文献1を参照)。一方で、魚介類の流通に関わる者の一般的な認識として、魚介類への酸素供給は溶存酸素(DO)が飽和ないしそれに近い状態が保持されていることで十分であり、麻酔下においてさえ飽和溶存酸素下にあれば酸素欠乏はないと信じられている。しかしながら、この認識は誤りであり、二酸化炭素による魚介類の長時間麻酔が今日まで成功していないのはこの誤った認識に起因している。魚介類を取り扱う水温(20℃前後)下において二酸化炭素による麻酔を魚介類(鰓呼吸をする水生生物)に施す場合、麻酔により低下した鰓呼吸器運動のために、[水中溶存酸素分圧]−[鰓の毛細血管内溶存酸素分圧]間で行われる酸素の拡散移動速度は減少し、鰓薄板毛細血管に摂取される酸素量は低下する。その程度によっては、仮に魚介類の個体が飽和溶存酸素の水中に置かれていた場合であっても、鰓から吸収される酸素量が個体の酸素需要量を満たすことができない状態に陥ることが推論される。実際の魚介類の二酸化炭素麻酔の事例においても、エアレーションを行いながらの飽和溶存酸素水中における魚介類に二酸化炭素を用いて麻酔を施した場合も分単位のごく短時間で全個体が呼吸を停止して例外なく頓死するという事実はこの推論の正しさを証明している。そうすると、二酸化炭素麻酔下における魚介類の呼吸不全を防止するためには、個体の酸素需要自体を引き下げるか、あるいは飽和溶存酸素水を超える酸素環境を実現するかの何れかの方法しかないことになる。個体の酸素需要自体を引き下げる方法として、人工冬眠誘導方法(特許文献4)あるいは低温下における寒冷炭酸ガス麻酔方法(非特許文献2)、さらには麻酔装置を使ったより精密な低温麻酔方法(特許文献2)などがある。しかし、これらの低温麻酔方法は魚介類を頓死させることなく低温下(5℃以下)に馴化させるにはまる一日の時間を要すること、また、環境水ごと温度を低下させるには大がかりな装置と多くの電力消費が避けられないことから、麻酔方法としての実用的用途はごく限られる。一方、通常の魚介類を取り扱う水温(20℃前後)下において二酸化炭素による麻酔を魚介類に施す場合には、たとえ十分な濃度の溶存酸素を含む麻酔用炭酸水を予め製造してから一定濃度の溶存炭酸ガスおよび溶存酸素を含む新鮮な麻酔用炭酸水を常時麻酔用水槽に供給する装置(特許文献2)を用いたとしても、最長で20分間程度の短時間麻酔が可能となるだけである。麻酔下においては、飽和溶存酸素の水中にあっても鰓から吸収される酸素量は魚介類の個体の酸素需要量を満たすことができないため、分単位のごく短時間で魚介類は呼吸不全を起こし、例外なく頓死する。特許第4831409号公報特許第4951736号公報韓国特許第10−0531728号公報特許第4332206号竹田達右ら著、「二酸化炭素麻酔の活魚輸送への応用可能性の検討」、日本水産学会誌、49(5)、1983年、p.725−731満田久輝ら著、「寒冷炭酸ガス麻酔の活魚輸送への応用」、凍結及び乾燥研究会会誌、37、1991年、p.54−60本発明は、従来の麻酔方法における前述した課題を解決すべくなされたものであり、溶存二酸化炭素を含む環境下において安全かつ実用的な簡便さをもって魚介類に長時間の麻酔を施す方法および装置を提供するものである。本発明における麻酔の原理は次のとおりである。通常水温(20℃前後)下において魚介類に対して二酸化炭素による長時間麻酔を実現するためには、飽和溶存酸素水を超える高酸素環境を魚介類に提供しなければならない。二酸化炭素麻酔により低下した呼吸運動は、鰓部における[水中溶存酸素分圧]−[鰓の毛細血管内溶存酸素分圧]の分圧差による酸素拡散を減少させ、鰓薄板毛細血管に摂取される酸素量が低下することで低酸素血症を引き起こして頓死を招く。これを防ぐには鰓部における酸素拡散を顕著に増加させる方法が必要であり、そのための新たな方法として、気体酸素を含む酸素気泡によって酸素供給を行う方法を考案した。すなわち、酸素気泡を鰓部に接触させることで、[水中溶存酸素分圧]−[鰓の毛細血管内溶存酸素分圧]の分圧差を超えた[気体酸素分圧]−[鰓の毛細血管内溶存酸素分圧]の分圧差を生み出し、鰓薄板毛細血管に摂取される酸素量を顕著に増加させる方法である。本発明の第一の態様は、対象となる魚介類に対して麻酔効果を奏する二酸化炭素濃度を水中に生成する工程と、水中に酸素を含む酸素気泡を供給する工程を含む、魚介類の麻酔方法である。酸素気泡は魚介類の鰓に接触させるように供給するのが好ましく、さらには、魚介類の鰓上皮細胞膜表面に接触させるように供給するのが望ましい。酸素気泡の粒径の最頻値が300nm以下であることが好ましく、さらには、酸素気泡を4000万個/ml以上の密度で供給することが望ましい。本発明の第二の態様は、対象となる魚介類を収容する水槽と、前記水槽内に二酸化炭素を供給する手段と、前記水槽内に酸素を含む酸素気泡を供給する手段を備えた、魚介類の麻酔装置である。本発明において、魚介類とは、魚類の他に、頭足類および甲殻類等の鰓呼吸によって酸素を摂取する遊泳性を持った水生生物を含む概念である。 本発明によれば、水中に二酸化炭素を溶解させて対象となる魚介類に対して麻酔効果を有する濃度の溶存二酸化炭素を供給するとともに、麻酔下では飽和溶存酸素環境でも個体の酸素需要を満たせない問題を解決する方法として、酸素を含む酸素気泡を供給することによって、通常水温(20℃前後)下で魚介類を頓死させることなく安全に麻酔を施すことができる。本発明の実施に係る麻酔方法の概要について説明する。魚介類の種毎に存在する適正麻酔深度(ヒトの全身麻酔における麻酔第3期第1相から第2相に相当する麻酔深度=視床、皮質下核、脊髄の麻痺)を誘導維持するのに適した濃度の二酸化炭素を持続的にかつ正確に個体の鰓部分に供給するために、水槽全体に任意の二酸化炭素を通気溶解させて麻酔の誘導維持に適した濃度に調整する。同時に、魚介類の個体の酸素需要量を超える酸素を供給するために気泡として気体酸素を個体の鰓部分に直接接触するように水流によって持続的に供給する。酸素気泡が接した鰓部分では、[気体酸素分圧]−[鰓の毛細血管内溶存酸素分圧]間の分圧差で酸素の拡散移動が行われるため、この部分から鰓薄板毛細血管に摂取される酸素量は飛躍的に増加する。鰓薄板毛細血管に摂取される酸素量は、鰓上皮細胞の膜表面に接する酸素気泡の径、気泡内圧、気泡数に依存した拡散係数に従って、より小さな気泡がより多く鰓上皮細胞の膜表面に接することで鰓薄板毛細血管に摂取される酸素量は増加することになり、この方法により二酸化炭素麻酔下において個体の酸素需要を上回る高酸素濃度環境を実現することが理論的に可能である。次に、麻酔下において魚介類の酸素需要量を満たすことを可能とする環境酸素濃度について説明する。空気の酸素濃度はおよそ21%(大気組成=体積百分率は、窒素78%、酸素21%、アルゴン0.93%、二酸化炭素約0.03%)であり、肺呼吸を行っている陸上動物はこの酸素濃度下で個体の酸素需要に見合う酸素を補給している。ヒトや家畜などの陸上動物を麻酔する際には、麻酔の合併症としての呼吸不全を回避するために酸素吸入を施すが、この時の酸素濃度はおよそ40%〜80%の範囲で調整される。すなわち、健常時に呼吸するおよそ2〜4倍の酸素供給を行なうことで麻酔によって抑制された自発呼吸運動下において発生する合併症としての呼吸不全を回避している。麻酔で抑制された呼吸中枢により自発呼吸運動が低下して低酸素血症を引き起こし、全身の末梢において酸素濃度が低下することで合併症としての呼吸不全を惹起するが、これを防ぐために肺に吸入される酸素濃度を2〜4倍にして[肺胞内酸素分圧]−[肺胞の毛細血管内酸素分圧]の分圧差を高め、肺胞の毛細血管内に摂取される酸素量を上げることで機能低下した肺呼吸運動を補完している。肺呼吸を行っている陸上動物に見られる現象、すなわち、麻酔下においては通常の生存環境よりも数倍の酸素供給が必要であるということが魚介類においても該当することが当然に推定されるが、そうであるならば、海水に生息する魚類及び頭足類に長時間の麻酔を施すことは困難である。なぜならば海洋表層の酸素濃度は殆どの調査地点において6〜7.5mg/Lの範囲(飽和酸素濃度の85〜100%)であり、魚介類は溶存酸素がほぼ飽和した水中に生存しているからである。いかなる方法によっても溶存酸素100%の状態の水に対して、その溶存酸素濃度を数倍に引き上げることは不可能である。そのため、通常魚介類を取り扱う水温(20℃前後)下において二酸化炭素による麻酔を施すと分単位のごく短い時間内に麻酔で抑制された呼吸運動によって低酸素血症を引き起こし、呼吸不全となって頓死するのである。これを防ぐためには、通常生存環境の少なくとも数倍以上の酸素濃度環境を麻酔下の魚介類に提供することが必要になる。次に、魚介類に高い酸素濃度環境を与えるための酸素気泡の径と密度について説明する。水中に存在する気泡は、その径により浮力の大きさが決まり、水中を上昇する速度に反映される。水中における気泡の上昇速度は液物性に依存するが、水中では直径100μmほどでレイノルズ数Reがほぼ1になる。さらに、Re<1では球形気泡界面の流動状態により個体球として振る舞うことから、Stokes式がよく適応する。また、蒸留水や水道水を用いた実験の測定結果もStokes式による計算値とほぼ一致することが知られている。そのため、水中における気泡の上昇速度は下表のように計算される。すなわち、径が1μm以下の気泡(ナノバブル)は、時間単位で考えれば、浮上することなく位置が保持されている。そのため、麻酔下で移動できない魚介類の個体に安定的した濃度で持続的に酸素気泡を供給するためには浮力を持たない粒径1μm以下の気泡が適している。酸素気泡が接した鰓部分では、[気体酸素分圧]−[鰓の毛細血管内溶存酸素分圧]間の分圧差で酸素の拡散移動が行われる。鰓薄板毛細血管に摂取される酸素量は、鰓上皮細胞の膜表面に接する酸素気泡の径(気泡内圧力)と数に依存した拡散係数にしたがって変化し、より小さな気泡がより多く鰓上皮細胞の膜表面に接することで鰓薄板毛細血管に摂取される酸素量は増加する。水中の気泡径と気泡内圧力の関係はYoung−Laplaceの式で表せ、その関係は「ΔP=4σ/d」で与えられる。この時、水の表面張力σ=72.8mN/m(20℃)、気泡周囲の圧力は1atmとすると、以下のようになる。すなわち、酸素の拡散速度を上げて、鰓薄板毛細血管に摂取される酸素量は増加させるために[気体酸素分圧]−[鰓の毛細血管内溶存酸素分圧]間の分圧差を大きくするためには、酸素気泡径は小さいほど幾何級数的に効率がよくなる。現実的には鰓上皮細胞の膜表面に接することが可能な酸素気泡数にはある程度の限界があることから、[気体酸素分圧]−[鰓の毛細血管内溶存酸素分圧]間の分圧差が10倍以上となる粒径300nm以下の酸素気泡が鰓薄板毛細血管に摂取される酸素総量を高めるために顕著な効果を発揮するものと考えられる。次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。《実施例1:水温20℃で魚介類に二酸化炭素麻酔を行った時の麻酔限界時間の確認》通常魚介類を取り扱う水温(20℃前後)下で魚介類に二酸化炭素麻酔を行うと飽和溶存酸素かにおいてもごく短時間内で頓死することが知られている。麻酔の限界時間を実験により確認する。実験に供した魚介類の種類と個体数は表3に示した。実験用700L水槽内の水温は20℃に調整し、通常のエアポンプとエアストーンを用いて水槽内海水の溶存酸素(DO)を飽和状態に保った。飽和溶存酸素下において二酸化炭素を水中に通気させて毎分増加量0.5%の速度で溶存二酸化炭素の濃度を上げ、魚介類に麻酔が掛かるまで濃度を高めた。遊泳行動が無く鰓部分の呼吸運動を除いた体動が停止した状態をモニタカメラで確認した時点を麻酔開始と評価した。その後、麻酔が掛かった二酸化炭素濃度よりも若干高い濃度に維持して麻酔を継続した。5分毎に鰓部分の活動が停止した個体を引き上げて頓死を確認した。その結果、全ての個体は麻酔後30分以内で頓死に到り、その経過は表4に示した通りである。なお、水中の二酸化炭素濃度は東亜ディーケーケー社製CGP−31型炭酸ガス濃度計で測定し、v/v%にて表記した。《実施例2:魚介類に麻酔効果が現れる二酸化炭素濃度の確認》実験に供した魚介類の種類と個体数は表6に示した。実験用700L水槽内の水温は20℃に調整し、酸素気泡発生装置(ナック社製FormestCT)によって水槽に表5に示した粒径分布の酸素気泡を持続的に供給するとともに、二酸化炭素を水中に通気させて毎分増加量0.5%の速度で溶存二酸化炭素の濃度を上げ、魚介類に麻酔が掛かるまで濃度を高めた。遊泳行動が無く鰓部分の呼吸運動を除いた体動が停止した状態をモニタカメラで確認した時点を麻酔開始と評価した。その後、麻酔が掛かった二酸化炭素濃度よりも若干高い濃度に達したところで二酸化炭素の供給を止め、その直後からエアレーションによって二酸化炭素を水槽から追い出し、減少量1%/30minの速度で徐々に二酸化炭素濃度を下げて魚介類を麻酔から覚醒させた。その結果、実験に供した全ての魚介類は正常に覚醒し、覚醒後6時間時点の肉眼的所見においても何らかの異常が観察される個体を認めることはなかった。すなわち、広範な魚介類に対して通常魚介類を取り扱う水温(20℃前後)下での長時間二酸化炭素麻酔が可能であることが明らかになり、その経過は表7に示した通りである。なお、アオリイカについては麻酔初期の興奮状態が引き金となって3匹中1匹がスミを吐いたことから一旦実験を中断し、換水した後、引き続き同一個体を用いて行った再実験結果を示している。イカ類に麻酔する場合には麻酔初期に現れる軽度の興奮状態が引き金となって起こすと思われるスミを吐く反応を完全に抑えるために、麻酔誘導期の興奮が少なくする二酸化炭素濃度上昇方法を探索する必要があると考えられる。《実施例3:二酸化炭素による長時間麻酔の実証実験》実験には重さ約450gのイサキ5匹を用いた。実験用700L水槽内の水温は20℃に調整し、酸素気泡発生装置(ナック社製FormestCT)によって水槽に表5に示した粒径分布の酸素気泡を持続的に供給するとともに、二酸化炭素を水中に通気させて溶存二酸化炭素の濃度を5%にまで上げてイサキに麻酔を施した。溶存二酸化炭素の濃度が5%に達した時点で、全ての個体は遊泳行動が無く鰓部分の呼吸運動を除いた体動が停止した状態であることをモニタカメラで確認した。その後、5.0〜4.5%の範囲に二酸化炭素濃度を維持して20時間の麻酔を実施した。麻酔後、エアレーションによって二酸化炭素を水槽から追い出し、1%/30minの速度で徐々に二酸化炭素濃度を下げて魚介類を麻酔から覚醒させた。二酸化炭素濃度が十分低下した2〜3時間に実験に供した全ての個体は正常に覚醒し、覚醒24時間後の所見でも異常な個体を認めることはなかった。すなわち、溶存二酸化炭素とナノサイズ酸素バブルの同時供給により、通常取扱水温(20℃前後)下において安全かつ長時間の麻酔を魚介類に施すことができることが実証され、その経過は表8に示した通りである。本発明によれば、麻酔によって鎮静化させた魚介類の長時間・長距離輸送を行うことが可能となる。麻酔によって鎮静化させた魚介類は生理・代謝活性が低下しているため、水質悪化を抑制することができ、限られた水槽内における積載率を向上させることができる。魚介類に対して安全な長時間麻酔を施した後、再び元の覚醒状態にもどして活魚として泳ぎ回ることを可能にした新たな麻酔技術によって、陸路、空路、海路、いずれの輸送手段においても、従来不可能とされた遠距離まで生かしたまま魚介類を運ぶことが可能となる。また、魚の養殖現場などでは、疾病予防のためのワクチン接種、トラフグの噛み合い防止のための歯切りなど様々な場面で、魚体の損傷及び消耗を防止するための魚の鎮静化に使用することができる。対象となる魚介類に対して麻酔効果を奏する二酸化炭素濃度を水中に生成する工程と、前記水中に酸素を含む酸素気泡を供給する工程を含む、魚介類の麻酔方法。前記酸素気泡を前記魚介類の鰓に接触させるように供給する工程を含む、請求項1に記載の魚介類の麻酔方法。前記酸素気泡を前記魚介類の鰓上皮細胞膜表面に接触させるように供給する工程を含む、請求項2に記載の魚介類の麻酔方法。前記酸素気泡の粒径の最頻値が300nm以下である、請求項1乃至3の何れかに記載の魚介類の麻酔方法。前記酸素気泡を4000万個/ml以上の密度で供給する、請求項1乃至4の何れかに記載の魚介類の麻酔方法。請求項1乃至5の何れかに記載の方法を実施するための装置であって、対象となる魚介類を収容する水槽と、前記水槽内に二酸化炭素を供給する手段と、前記水槽内に酸素を含む酸素気泡を供給する手段を備えた、魚介類の麻酔装置。 【課題】溶存二酸化炭素を含む環境下において安全かつ実用的な簡便さをもって魚介類に長時間の麻酔を施す。【解決手段】気体酸素を含む酸素気泡を魚介類の鰓上皮細胞膜表面に接触させることで、[水中溶存酸素分圧]−[鰓の毛細血管内溶存酸素分圧]の分圧差を超えた[気体酸素分圧]−[鰓の毛細血管内溶存酸素分圧]の分圧差を生み出し、鰓薄板毛細血管に摂取される酸素量を顕著に増加させる。これにより麻酔によって抑制された自発呼吸運動下において発生する呼吸不全を回避し、通常魚介類を取り扱う水温(20℃前後)下での長時間二酸化炭素麻酔を可能にした。【選択図】なし