タイトル: | 公開特許公報(A)_芽胞形成菌の培養方法 |
出願番号: | 2012181901 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | C12N 1/20,C12Q 1/02,G01N 27/04,G01N 27/22,C12R 1/01 |
三宅 眞実 星 英之 安木 真世 鎌田 洋一 JP 2014036641 公開特許公報(A) 20140227 2012181901 20120820 芽胞形成菌の培養方法 公立大学法人大阪府立大学 505127721 公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 803000056 志村 尚司 100104307 三宅 眞実 星 英之 安木 真世 鎌田 洋一 C12N 1/20 20060101AFI20140131BHJP C12Q 1/02 20060101ALI20140131BHJP G01N 27/04 20060101ALI20140131BHJP G01N 27/22 20060101ALI20140131BHJP C12R 1/01 20060101ALN20140131BHJP JPC12N1/20 AC12Q1/02G01N27/04 ZG01N27/22 ZC12N1/20 AC12R1:01 5 3 OL 13 2G060 4B063 4B065 2G060AA15 2G060AD06 2G060AD08 2G060AF07 2G060AF10 4B063QA01 4B063QA08 4B063QQ06 4B063QR41 4B063QR43 4B063QR75 4B063QS31 4B063QX01 4B063QX04 4B065AA01X 4B065BA21 4B065BB14 4B065BD27 4B065BD35 4B065CA60 本発明は、芽胞形成菌の培養方法に関する。 ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)は芽胞形成性の嫌気性桿菌であり、食中毒の原因菌の一つである。ウェルシュ菌による食中毒の発生件数は比較的少ないが、その患者数はサルモネラによる食中毒の患者数に次いで多い。 ウェルシュ菌による食中毒は次のように考えられている。小腸下部に到達したウェルシュ菌が腸管腔内で初期増殖して、芽胞を形成するとともにエンテロトキシン(以下、「CPE」と称す。)を産生する。それにより腸上皮によるバリア層が破壊され、ウェルシュ菌が急激に増殖する。その結果、腸管組織が破壊して、下痢に至る。 この間、ウェルシュ菌は腸管上皮細胞や管腔内の因子と刻々と相互作用を行いつつ必要な遺伝子を適宜発現していると考えられるが、その詳細な分子メカニズムは未だ解明されていない。 このメカニズムを解明するためには、インビトロにおける実験系の確立が必要である。ヒトの腸管モデルとしてヒト大腸ガン由来のCaco2-細胞を用いた腸管バリアモデルは公知である。この腸管バリアモデルに用いられているCaco2-細胞を宿主細胞とし、Caco2-細胞の共存下においてDMEM(Dulbecco's Modified Eagle Medium)培地中で培養してウェルシュ菌を感染させる実験系(共培養法)が提案されている。しかし、この系では食中毒株はバリア破壊能を示さず、芽胞形成やCPE産生は生じない。この状況下で、DMEM培地中の糖原をグルコースから可溶性でんぷんに置換してウェルシュ菌を感染させたところ、食中毒菌による芽胞形成やCPE産生が誘導され、バリア破壊能も発現したことが報告されている(非特許文献1)。一方、この実験系ではグルコース存在下のDMEM培地で観察された非食中毒菌のバリア破壊能も変化しなかった。 しかしながら、DMEM培地中の糖原をグルコースから可溶性でんぷんに置換した培地では、後述するように、ウェルシュ菌などのCPE産生菌の培養のために通常使用されるダンカンストロング培地(DS培地)を用いた場合に比べて、芽胞形成量やCPEの産生量が少なく、バリア破壊能の再現や下痢発症の分子メカニズムを解明するという観点からは上記の実験系は十分に完成されたものとは言えない。 ところで、培養中におけるウェルシュ菌の芽胞形成に関して、非特許文献2には胆汁酸がウェルシュ菌の芽胞形成を促進することが記載されているが、当該文献ではDMEM培地とは異なるD mediumが使用されている。また、非特許文献3や非特許文献4にはDS培地に胆汁末を加えると芽胞形成が促進されることが記載されているが、胆汁末の組成が不明である。非特許文献5にはDS培地において0.3mM程度以上の胆汁酸が芽胞形成を促進することが記載されているが、非特許文献6にはDS培地において胆汁酸の促進効果が認められず、非特許文献7にはDS培地への胆汁酸の添加が芽胞形成を抑制したことが記載されており、胆汁酸の効果は未だ確定したとは言えない。 その他、芽胞形成やCPEの産生に関して、非特許文献8には無機リン酸塩がウェルシュ菌の芽胞形成を促進することや、非特許文献9がウェルシュ菌の芽胞形成を抑制することが記載されている。さらには、特許文献1には、リン酸緩衝液及びグルコース等を含むGM培地に発芽性因子及び発芽率の指標となる直線反応速度(LRV)を増加させる因子として各種のアミノ酸が添加された培地が記載されている。 しかしながら、上記の報告はいずれもCaco2-細胞を用いた共培養系における効果ではなく、Caco2-細胞の共存下で芽胞形成や毒素産生を促進する化合物は知られていないというのが実情である。特表2001−511356号公報星 英之ら,第32回日本食品微生物学会学術総会, 2011Norma L. Heredia et al., FEMS Microbiol Lett. 84: 15-22, 1991T. Ushijima et al., J. Microbiol. Methods, 6 145-152, 1987赤枝 宏ら, 日本細菌学雑誌., 42: 575, 1987牛嶋 彊, 医学と生物学, 113: 193-195, 1986A. E. I. DE JONG et al., J. Food Prot., 65: 1457-1462, 2002C. S. Hickey et al., Appl. Environ. Microbiol., 41: 124, 1981Valeria A. Philippe、Infect. Immun., 74; 3651-3656, 2006Saeed Akhtar et al., Food Microbiol., 25: 802-808, 2008 本発明は、ヒトの腸管モデルとして汎用されるCaco2-細胞との共存下において芽胞産生や毒性産生を十分に行わせ、ヒト腸管における感染を再現しうる実験モデルを提供することにある。 本発明の芽胞形成菌の培養方法は、Caco2-細胞の共存下で芽胞形成菌を培養する方法であって、糖原の少なくとも一部若しくはその全量が可溶性でんぷんに置換されたでんぷん置換DMEM培地に、コール酸、デオキシコール酸、グリココール酸、ケノデオキシコール酸、タウロコール酸、リトコール酸及びこれらの塩からなる群から選ばれる1種若しくは2種以上の化合物を添加した培地を用いる方法である。 本発明の培養方法によると、従来の共培養法に比べて芽胞形成やCPE産生が促進され、よりヒト腸管内に近い環境下でウェルシュ菌などの芽胞形成菌を培養できる。図1は従来法による芽胞形成能を示すグラフである。左図は非特許文献1に記載された方法による場合を、右図はダンカンストロング培地を用いた試験管培養による場合を示す。図2は従来法による毒素産生能を示す画像である。左図は非特許文献1に記載された方法による場合を、右図はダンカンストロング培地を用いた試験管培養による場合を示す。図3は本発明に係る共培養による芽胞形成能(左図)と、試験官培養による芽胞形成能(右図)を示すグラフである。図4は本発明に係る共培養法によるCPE産生能(左図)と、試験官培養によるCPE産生能(右図)を示す画像である。図5はデオキシコール酸の添加が芽胞形成能に与える効果を示すグラフであって、(a)は試験官培養による場合を、(b)は共培養による場合を示す。図6は本発明に係る方法による培養状態を示す画像であって、(a)は位相差顕微鏡による観察画像、(b)はギムザ染色による観察画像である。図7は胆汁酸の添加が芽胞形成能及び毒素産生能に与える効果を示すグラフである。 本発明の芽胞形成菌の培養方法では、コール酸(Cholic acid)、デオキシコール酸(Deoxycholic acid)、グリココール酸(Glycocholic acid)、ケノデオキシコール酸(Chenodeoxycholic acid)、タウロコール酸(Taurocholic acid)、リトコール酸(Lithocholic acid)及びこれらの塩からなる群から選ばれる1種若しくは2種以上の化合物を含む可溶性でんぷん置換DMEM培地が用いられる。 DMEM培地(Dulbecco's Modified Eagle Medium:ダルベッコ・フォークト変法イーグル最小必須培地)は、ヒトやサル、ハムスター、ラット、マウス、ニワトリの細胞を含むほとんどの種類の細胞を培養できる培養用培地であり、これらの細胞用培地として周知である。DMEM培地は必須成分としてアミノ酸、塩化カルシウムや塩化カリウムなどの塩、葉酸やニコチンアミドなどのビタミンや糖原であるグルコースを含む。本発明における可溶性でんぷん置換DMEM培地は、DMEM培地中のグルコースの少なくとも一部、好ましくはその全てが可溶性でんぷんに置換された培地である。本明細書において可溶性でんぷんは、当業者にとって通常の意味で用いられる物質であり、常温の水に溶けるでんぷんを意味する。本発明においては可溶性でんぷんであれば、分子量やそのでんぷん構造は限定されない。 DMEM培地は通常4500mg/L〜1000mg/Lのグルコースを含む。本発明における可溶性でんぷん置換DMEM培地は、DMEM培地中に含まれるグルコースの一部、好ましくはその全てが可溶性でんぷんに置換された培地であり、培地中の糖原量はグルコースと可溶性でんぷんの総量が置換前のグルコース総量と等しくなるように置換される。置換量は培養後の芽胞形成菌の芽胞産生や毒素産生の程度に応じて適宜定めることができるが、可溶性でんぷん置換DMEM培地中の糖原は望ましくは可溶性でんぷんのみであり、培地中4500mg/L〜1000mg/Lの可溶性でんぷんを含む培地が好適に使用される。 糖原以外の必須成分は公知であるDMEM培地中の必須成分と同じである。可溶性でんぷん置換DMEM培地は公知のDMEM培地と同様に、HEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)やフェノールレッド、ピルビン酸ナトリウムなどの任意的成分を含み得る。また、製造会社や販売会社により組成が異なる多種類のDMEM培地が市販されているが、DMEM培地として市販されているDMEM培地であれば何れの培地を使用しても差し支えないが、任意的成分を含まないDMEM培地の基本的組成から なる培地が望ましく用いられる。なお、芽胞形成菌の培養に用いられる可溶性でんぷん置換DMEM培地は牛胎児血清を含まない。 芽胞形成菌の培養に使用される可溶性でんぷん置換DMEM培地は、上記の必須成分や任意的成分の他に、必須成分としてコール酸、デオキシコール酸、グリココール酸、ケノデオキシコール酸、タウロコール酸、リトコール酸及びこれらの塩からなる群から選ばれる1種若しくは2種以上の化合物を含む。特にデオキシコール酸が好ましい。 これらの化合物の培地中濃度は、化合物の総量として培地中に1μM以上、好ましくは10μM以上、さらに望ましくは50μM以上である。10μM未満であると十分な芽胞形成や毒素産生が行われない。また、その上限は問われないが、250μMを越えないことが好ましい。その添加効果は10〜250μMでプラトーに達し、250μMを越えると芽胞形成や芽胞形成菌の培養に悪影響が懸念されるからである。 本発明において培養しうる芽胞形成菌は芽胞を形成する細菌であればいずれの細菌でもよい。芽胞形成菌はクロストリジウム属やバシラス属に属する菌であり、例えば、炭疽菌であり、セレウス菌であり、枯草菌であり、破傷風菌であり、ボツリヌス菌であり、ウェルシュ菌であり得る。また、本発明に係る培養方法では芽胞形成のみならず毒素産生も良好に行われることから、芽胞形成菌は好ましくは毒素産生菌であり、例えばウェルシュ菌であり、ボツリヌス菌である。 培養は公知の方法と同様の方法で行えばよく、例えば非特許文献1に開示された方法が例示される。具体的に例示すると、嫌気的条件下においてDMEM培地でCaco2-細胞を培養した後、培地を可溶性でんぷん置換DMEM培地に交換して、芽胞形成菌を潘種する。その後、同様の嫌気的条件下で培養する。Caco2-細胞の培養条件や共培養の条件は適宜設定され得る。例えば、ウェルシュ菌の場合、非特許文献1に記載された条件と同様の条件でよく、例えば、37℃、5%CO2雰囲気下の条件が例示される。培養時間も適宜設定される。例えば、ウェルシュ菌の芽胞形成能や毒素産生能を調べるためには、例えば8〜24時間の培養時間が設定される。特に本発明の培養方法では、8時間程度の短い培養時間で、芽胞形成能や毒素産生能を調べることができる。また、腸管バリアの破壊確認には24時間〜1週間程度の培養時間が設定される。共存させるCaco2-細胞数や芽胞形成菌の潘種量は、適宜当業者により定めることができる。 本発明の培養方法によると、Caco2-細胞の共存下において、芽胞形成や毒素産生が十分に行われ、ヒトの腸管内に近い環境下での感染を再現できる。従って、当該培養方法を利用する腸管バリア層の実験モデルはヒト腸管における芽胞形成菌の感染モデルとして利用できる。 本発明に係る腸管バリア層の実験モデルは、培養されたCaco2-細胞層、好ましくはほぼ単層に培養されたCaco2-細胞層と、Caco2-細胞層と接触させながら芽胞形成菌を増殖させるための培地を有し、当該培地は、糖原の少なくとも一部若しくはその全量が可溶性でんぷんに置換されたでんぷん置換DMEM培地にコール酸、デオキシコール酸、グリココール酸、ケノデオキシコール酸、タウロコール酸、リトコール酸及びこれらの塩からなる群から選ばれる1種若しくは2種以上の化合物を含む培地である。 この腸管バリア層の実験モデルでは、単層に培養されたCaco2-細胞がタイトジャンションを形成し得る。Caco2-細胞によるタイトジャンクションの形成方法も周知である(例えば、Hidalgo IJ, et al., Characterization of the human colon carcinoma cell line (Caco-2) as a model system for intestinal epithelial permeability、Gastroenterology、96(3)、pp.736-749(1989)やM. Miyake et al., Biochem Biophys Res Commun 337, pp.922-927(2005))。タイトジャンクションを形成したCaco2-細胞層に、例えばウェルシュ菌を感染させ、ウェルシュ菌を増殖させる。当該ウェルシュ菌を増殖させる際に、上記デオキシコール酸などの化合物を含む可溶性でんぷん置換DMEM培地が使用される。ウェルシュ菌の培養条件は上記方法と同じ条件であり得る。 ウェルシュ菌が増殖するに従い、芽胞形成、毒素産生が生じて、最終的にはバリア層が破壊される。バリア層の破壊はタイトジャンクションの破壊として検出し得る。タイトジャンクションの破壊は、経上皮/内皮電気抵抗値(TER)の変化又はキャパシタンス(Ccl)の変化から観察される。TERやCclの変化は、上市されている種々の細胞層バリア機能解析装置により測定され得る。 この腸管バリア層のモデルは、ウェルシュ菌などの芽胞形成菌の抗菌物質(例えば、抗生物質)のスクリーニングに用いられる。つまり、本発明に係るスクリーニング方法は、被検物質の非存在下において、培養したCaco2-細胞にウェルシュ菌を感染させ、培養前後のCaco2-細胞層(タイトジャンクション)の電気抵抗及び/又は電気容量の変化を測定する工程と、被検物質の存在下において、被検物質の非存在下と同じ条件にて、培養前後のCaco2-細胞層の電気抵抗及び/又は電気容量の変化を測定する工程と、これら2つの工程で得られたCaco2-細胞層の電気抵抗及び/又は電気容量の変化を対比する工程とを有する。被検物質の存在下及び非存在下における電気抵抗等の変化を対比した結果、被検物質の存在下で変化が改善されれば、抗菌性があると判断できる。 もっとも、本発明に係るスクリーニング方法では、Caco2-細胞の共存下でウェルシュ菌を感染させることができればよく、タイトジャンクションの形成は必須ではない。この場合においては、例えば、Caco2-細胞の共存下において産生された芽胞数(芽胞量)や毒素量を指標とすることができる。 1.従来法における芽胞形成能及び毒素産生能 まず、可溶性でんぷんを糖原としたDMEM培地を用いたCaco2-細胞共培養における芽胞形成能及び毒素産生能とダンカンストロング(DS)培地を用いた試験管培養における芽胞形成能及び毒素産生能について調べた。 (Caco2-細胞共培養における芽胞形成能) 10%牛胎児血清添加Dulbecco's modified Eagle medium(DMEM)培地(4.0g/Lのグルコースを含む)で維持したヒト大腸がん由来Caco2-細胞を24穴プレートに播種(1.3×10 cells/well)後、CO2インキュベータ内で4日間前培養した。ウェルシュ菌の感染前にCaco2-細胞を1mlのPBSで3回洗浄後、血清を含まない0.65mlの可溶性でんぷん置換DMEM培地を添加してCO2インキュベータ内で1時間培養した。Fluid Thioglycolate(FTG)培地で37℃、一晩嫌気培養した菌液の3mlを遠心で集菌し、10mlPBSで2回洗浄後、ペレットを3mlのPBSに懸濁して接種菌液とした。これを上記Caco2-細胞に感染させ(MOI=10〜20)、CO2インキュベータ内で37℃、20〜24時間培養した。 次に、培養上清をbrain heart infusion(BHI)培地で10倍段階希釈の後、希釈液の50μlをBHI寒天培地に接種、37℃で一晩嫌気培養した後、出現したコロニー数を計測して生菌数(CFU)を算出した。また、培養上清を75℃で20分間加熱した後、氷中で急冷したものを同様に10倍段階希釈後培養して、出現したコロニー数を計測して芽胞数(CFU)を算出した。 また、培養上清中の毒素をウェスタンブロッティングによって検出した。500μlの培養上清を12,000×g、10分間遠心した後、0.22μmポアサイズのフィルターで濾過滅菌した。これをLaemmliの方法(Laemmli UK. 1970. Cleavage of structural proteins during the assembly of the head of bacteriophage T4. Nature 227: 680-685)で電気泳動後、ゲル中の蛋白質をPVDF膜(ミリポア社)に転写した。膜は0.1%Tween20及び150mMのNaClを含むトリス緩衝液(TBS-T)で3回洗浄した後、5%スキムミルクを含むTBS-Tで4℃、一晩ブロッキングし、抗毒素ウサギ抗体(大阪大学微生物病研究所、堀口教授より分与)とHRP標識抗ウサギIgG抗体をそれぞれ1時間反応させた後、毒素バンドをimmobilon Western chemiluminescent HRP substrate(ミリポア社)を使って検出した。 なお、可溶性でんぷん置換DMEM培地は、グルコース不含DMEM培地(インビトロジェン社、No.11966-025)にフィルター濾過滅菌した可溶性でんぷん(Difco(r) soluble starch、ベクトン・ディッキンソン アンド カンパニー社製)を最終濃度が4.0g/L(0.4%)となるように添加して調整した。また、ウェルシュ菌には食中毒事例から分離されたA型ウェルシュ菌NCTC8239を用いた。ウェルシュ菌は、FTG培地で37℃、24時間嫌気的に培養して試験に供した。 (試験管培養における芽胞形成能) 中試験管に容れた10mlのDuncan-Strong芽胞形成培地(Duncan CL and Strong DH. 1968. Improved medium for sporulation of Clostridium perfringens. Appl. Microbiol. 16: 82-89)に、前記ウェルシュ菌の接種菌液1mlを加え、37℃で一晩培養した。培養後、培養液中の生菌数、芽胞数及び毒素を、前記方法と同様にして検出した。 これらの結果を図1及び図2に示した。この結果から、Caco2-細胞共存下においては、DS培地を用いた場合に比べ、細胞数では約1/500、芽胞数では約1/100程度しか増殖せず、Caco2-細胞共存下では毒素はほとんど産生されなかった。 2.デオキシコール酸の添加効果 次に、Caco2-細胞共培養と試験管培養におけるデオキシコール酸の添加効果を調べた。図3に示す濃度となるようにデオキシコール酸をそれぞれ可溶性でんぷん置換DMEM培地及びDS培地に加えて上記1.と同様の試験を行い、芽胞形成能及び毒素産生能を調べた。その結果を図3〜5に示す。また、上清中のラテックス試薬の凝集価を、PET-RPLA「生研」(デンカ生研社)を用いて測定した。その結果を表1に示す。 各図及び表1に示すように、Caco2-細胞共培養では、10μMの濃度まではデオキシコール酸の添加量に比例して形成された生菌数及び芽胞数が増加し、それ以上の濃度では形成された生菌数及び芽胞数はほぼプラトーに達した。一方、DS培地を用いた従来法では、デオキシコール酸の添加は生菌数には影響を与えず、芽胞数の増加に寄与するものの十分に芽胞数の増加や毒素産生に寄与することはなかった。このように1〜250μMのデオキシコール酸の添加が、Caco2-細胞共存下で芽胞の形成や毒素産生を促進することが確認された。 また、図6にデオキシコール酸を添加したCaco2-細胞共培養下におけるウェルシュ菌の画像を示す。画像に示されたようにウェルシュ菌が良好に増殖していることが観察された。以上の結果から、デオキシコール酸の添加はウェルシュ菌の生育に影響を与えることはなく、本発明に係る培養系はヒトの腸管内に近い培養系であると結論づけられる。 3.各種胆汁酸化合物の添加効果 次に、Caco2-細胞共培養における各種胆汁酸化合物の添加効果を調べた。50μMの濃度で図7に示す胆汁酸をそれぞれ可溶性でんぷん置換DMEM培地及びDS培地に加えて上記1.と同様の試験を行い、芽胞形成能及び毒素産生能を調べた。その結果を7に示す。この結果から、デオキシコール酸以外の胆汁酸もデオキシコール酸と同様に芽胞形成や毒素産生を促進することが確認できた。 本発明による培養方法によると生体内に近い条件で、ウェルシュ菌の培養、芽胞形成、毒素産生が再現される。従って、ウェルシュ菌による食中毒の機構解明が期待されるだけでなく、食中毒の予防や治療に有効な薬剤のスクリーニング方法に利用できる。 Caco2細胞の共存下で芽胞形成菌を培養する方法であって、 糖原の少なくとも一部若しくはその全量が可溶性でんぷんに置換されたでんぷん置換DMEM培地に、コール酸、デオキシコール酸、グリココール酸、ケノデオキシコール酸、タウロコール酸、リトコール酸及びこれらの塩からなる群から選ばれる1種若しくは2種以上の化合物を添加した培地を用いる芽胞形成菌の培養方法。 前記培地は10μM以上の前記化合物を含む請求項1に記載の芽胞形成菌の培養方法。 前記芽胞形成菌は、ウェルシュ菌である請求項1又は2に記載の芽胞形成菌の培養方法。 芽胞形成菌の感染モデルとして利用し得る腸管バリア層の実験モデルであって、 培養されたCaco2細胞層と、 前記Caco2細胞層と接触させながら芽胞形成菌を増殖させるための培地を有し、 前記培地は、糖原の少なくとも一部若しくはその全量が可溶性でんぷんに置換されたでんぷん置換DMEM培地にコール酸、デオキシコール酸、グリココール酸、ケノデオキシコール酸、タウロコール酸、リトコール酸及びこれらの塩からなる群から選ばれる1種若しくは2種以上の化合物が添加された培地である腸管バリア層の実験モデル。 芽胞形成菌に対する抗菌物質のスクリーニング方法であって、 被検物質の存在下において、糖原の少なくとも一部若しくはその全量が可溶性でんぷんに置換されたでんぷん置換DMEM培地に、コール酸、デオキシコール酸、ケノデコキシコール酸、タウロコール酸、グリコケノデオキシコール酸及び又はこれらの塩からなる群から選ばれる1種若しくは2種以上の化合物が添加された培地を用いて芽胞形成菌をCaco2細胞と共培養し、培養前後における芽胞形成数、毒素産生量、Caco2細胞層の電気抵抗及び/又は電気容量の変化の少なくとも何れかの指標を測定する工程と、 被検物質の非存在下において、培養前後における前記指標と同一指標を前記工程と同じ方法にて測定する工程と、 被検物質の存在下において測定された前記指標と、被検物質の非存在下において測定された前記指標を対比する工程を有するスクリーニング方法。 【課題】 ヒトの腸管モデルとして汎用されるCaco2-細胞との共存下において芽胞産生や毒性産生を十分に行わせ、ヒト腸管における感染を再現しうる実験モデルを提供する。【解決手段】 糖原の少なくとも一部若しくはその全量が可溶性でんぷんに置換されたでんぷん置換DMEM培地に、コール酸、デオキシコール酸、ケノデコキシコール酸、タウロコール酸、グリコケノデオキシコール酸及び又はこれらの塩からなる群から選ばれる1種若しくは2種以上の化合物を添加した培地を用いて、Caco2-細胞の共存下でウェルシュ菌を培養する。【選択図】図3