タイトル: | 公開特許公報(A)_発達障害治療または予防剤 |
出願番号: | 2012181043 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | A61K 31/4745,A61P 25/00,A61P 25/28 |
池本 一人 中野 昌彦 古川 昭栄 福光 秀文 JP 2014037384 公開特許公報(A) 20140227 2012181043 20120817 発達障害治療または予防剤 三菱瓦斯化学株式会社 000004466 稲葉 良幸 100079108 内藤 和彦 100134120 岡野 聡二郎 100118991 池本 一人 中野 昌彦 古川 昭栄 福光 秀文 A61K 31/4745 20060101AFI20140131BHJP A61P 25/00 20060101ALI20140131BHJP A61P 25/28 20060101ALI20140131BHJP JPA61K31/4745A61P25/00A61P25/28 5 OL 14 4C086 4C086AA01 4C086AA02 4C086CB05 4C086MA01 4C086MA04 4C086MA52 4C086MA66 4C086NA14 4C086ZA02 4C086ZA15 本発明は、発達障害の治療剤または予防剤に関する。 発達障害とは、精神遅滞、境界知能、自閉症スペクトラム障害、学習障害、注意欠陥多動性障害(ADHD)、発達性協調運動障害、その他これに類する脳機能障害であって、社会適応に支障が生じる場合にその診断が行われる。これらの障害はそれぞれ医学的な診断基準が存在する。しかし、実際には各障害の間の境界線はあいまいで、いくつかの障害の特徴を併せ持つ人のほうが多いとされている。通常低年齢で発現し問題となるが、成人においても問題となることがある。 発達障害の患者数は全人口の1〜2%と考えられている。 わが国では毎年1兆円を超える予算が、発達障害に関連して、医療費や支援費として計上されているため、社会的損失であるだけでなく、医療経済上の大きな問題ともなっている。 精神遅滞とは、知的機能と概念・社会・実践的適応スキルで表現される適応行動の著しい制約によって特徴づけられる障害である。18歳以前に始まる。 境界知能とは、知能指数71〜84の領域を言う。 自閉症スペクトラム障害とは、(1)社会性障害、(2)コミュニケーション障害、(3)想像力の障害、というイギリスの精神科医ローナ・ウイングが提唱した3つの中核症状を呈する時に用いられる診断名である。 また、自閉症を中心とする社会性の障害を生来もつ発達障害のグループは新しい国際診断基準によって、自閉症スペクトラム障害と呼ばれることが決定されている(非特許文献1)。 自閉症スペクトラム障害には、自閉症のほかに、アスペルガー症候群(言葉の遅れが認められない)、高機能自閉症(知能指数が平均かそれ以上)、小児期崩壊性障害、その他特定不能の広汎性発達障害の一部を含み、その症状は通常3歳までに発現する。特定不能とは、生活上の問題がありながら、いずれの障害とも特定できず、診断が確定しないものをいう。近年、知的障害がなく、より軽度であるが発達障害児・者が増加傾向にあり、その一部が社会的な問題行為を多発させていることが問題視されている。 学習障害とは、全般的に知的発達に遅れはなく、身体的な障害はないものの、読む、書く、計算するという学習に必要な能力のいずれかが低く、学習に支障が表れている状態である。 注意欠陥多動性障害(ADHD)とは、注意力を保ったり、さまざまな情報をまとめたりすることが苦手なため、気が散りやすい(不注意)、じっとしていられない(多動性)、思いつくとすぐに行動してしまう(衝動性)といった症状が目立つ状態である。 発達性協調運動障害とは、協調的運動がぎこちない、あるいは全身運動(粗大運動)や微細運動(手先の操作)がとても不器用な障害を言う。そのために、学習や日常生活に大きな影響を及ぼしている場合である。 子ども虐待とは、子供に対して積極的な行為である虐待と子供のニーズを満たさない不作為のネグレクト、養育の怠慢、放置、拒否を合わせて言う。 子ども虐待は前記の発達障害に対して原因となっていることがあり、子ども虐待を受けたことに由来して脳疾患を発症する。また、子ども虐待を受けるなど、子ども時代に適切な養育を受けられなかった場合に、不適切な養育に由来する脳疾患を発症することがある。 発達障害の発症原因には、幼児期の疾患や外傷の後遺症や、保護者からの不良な養育を受けたことを理由とする子ども時代の心理的な環境要素や教育などが引き金などである場合もあるが、先天的な要素として、遺伝的要素が絡むことは間違いない。しかし、特に自閉症スペクトラム障害では、感覚過敏・鈍麻などの認知のひずみに基づく病態独自の体験世界や子供虐待をはじめとする迫害体験が心的外傷となり、病態を悪化させるあるいは発症の引き金を引くという仮説が提唱されている(非特許文献2)。 また、発達障害の病理の詳細は不明であるが、認知のひずみからくる不安・恐怖が情動系の神経回路の発達に影響を与えていることは想像に難くない。 発達障害の中でも、自閉症では、脳内のセロトニンやカテコールアミン神経系、あるいはノルアドレナリン神経系、ドーパミン神経系の変化や障害が関与していると考えられている。また、ADHDでは、ドーパミンやノルアドレナリンといった脳の神経伝達物質に関連した神経系の機能障害があると考えられている。 そこで、発達障害に対する既存の治療薬は、情動系の失調に起因する2次障害の改善を目的としている。ここでいう、情動系の失調とは、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、うつ、解離性障害、適応障害、行為障害などを意味する。 2次障害の改善を企図して、例えば、攻撃性や激しい行動を緩和するための神経弛緩薬、不安症状、抑うつ症状を緩和するための選択的セロトニン再吸収阻害薬であるSSRI、衝動性や多動性を改善するための神経刺激薬などが一般に用いられている。 患者の状態を見ながらの、熟練した医師による極めて微量の薬の併用処方が、2次障害の症状改善に一定の効果を示すことがあることが知られている(非特許文献3)。また、副作用の出にくい漢方薬による治療も行なっている医療機関もあるが、処方は各医師の判断により変わる難しい治療である上に、科学的根拠に乏しい(非特許文献4)。 さらに、ホスファチジルセリンやテアニンのような健康食品素材での効果を見出している例もある(非特許文献5、特許文献1)。 ピロロキノリンキノン(PQQ)は、生物のエネルギー獲得系にとって必須な酸化還元酵素の補酵素の一つとして1979年に発見された水溶性キノン化合物である。 生物界に広く分布し、種々の生理活性機能を示すとともに、必須栄養素の一つであると考えられている。身近には日常摂取しているお茶、納豆、野菜類などの飲食品にも微量含まれる。 最近、PQQは、健康食品や化粧品の素材としても用いられ、注目されている。 PQQに代表されるPQQ類は、有機化学的合成法および発酵法(特許文献2)などにより製造することが可能で、比較的安価に提供することが可能である。 PQQは経口投与で生体内に取り込まれることが分かっている。また、PQQは強力な抗酸化作用を示す他にも、神経成長因子(NGF)の増強作用やミトコンドリア新生の作用を持っており、神経系の保護、再生効果が期待される。ラットを用いた動物試験から、学習能力の増強や記憶低下の抑制が示され(非特許文献5)、さらにはヒト試験において、短期記憶や識別能力等の脳機能が改善されること(非特許文献6)が示されている。特許第4812968号特許第2751183号DSM-5:The Future of Psychiatric Diagnosis、[online][平成24年8月1日検索] <URL:<http://www.dsm5.org/Pages/Default.aspx>杉山登志郎「発達障害のいま」(講談社現代新書、2011)宮尾益知「発達障害の治療法がよくわかる本」(講談社、2010)平山卓磨「AD/HD症状に対するPSの有効性とアプリケーション提案」、FOODSTYLE21、14巻(9号)、p.42−44、(2010)K. Ohwada et al., Pyrroloquinoline quinone (PQQ) prevents cognitive deficit caused by oxidative stress in rats, J. Clin. Biochem. Nutr., 42, 29-34, 2008.中野昌彦ら「中高年の脳機能に対するピロロキノリンキノン(PQQ)の効果」、FOODSTYLE21、13巻(7号)、p.50−53、(2009) しかしながら、認知基盤の発達障害、あるいはそれに起因する情動障害(2次障害)の発生を予防する有用な薬剤はこれまで知られていない。 また、発達障害についての治療または予防において、PQQ類の科学的実証データはまったく得られていない。 本発明が解決しようとする課題は、発達障害の治療または予防を行うことのできる化合物を見出すことである。 そこで、本発明者らは鋭意検討した結果、PQQ類が発達障害の治療剤または予防剤とすることができることを見出し、本発明を完成した。 本発明は以下のとおりである。(1) ピロロキノリンキノン類を含む発達障害治療または予防剤。(2) ピロロキノリンキノン類がピロロキノリンキノンまたはその塩である、(1)に記載の治療または予防剤。(3) 発達障害が、精神遅滞、境界知能、自閉症スペクトラム障害、学習障害、注意欠陥多動性障害(ADHD)、発達性協調運動障害、子ども虐待などの不適切な養育を受けたことに由来する脳疾患、またはその他これに類する脳機能障害である、(1)または(2)に記載の治療または予防剤。(4) 発達障害が、自閉症スペクトラム障害、子ども虐待などの不適切な養育を受けたことに由来する脳疾患、またはその他これに類する脳機能障害である、(1)〜(3)のいずれかに記載の治療または予防剤。(5) 経口剤または注射剤である、(1)〜(4)のいずれかに記載の治療または予防剤。 本発明により発達障害の治療または予防が可能になる。行動試験1におけるgap crossing testに用いた実験装置を示す。出生直後頬髯切除処理に伴う空間認知能に対するPQQ−2Na投与による行動試験1における結果を示す。行動試験2におけるtube testに用いた実験装置を示す。出生直後頬髯切除処理に伴う空間認知能に対するPQQ−2Na投与による行動試験2における結果を示す。 以下、本発明を実施するための形態について以下詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。 本発明は、ピロロキノリンキノン類を含有する発達障害の治療剤または予防剤である。 本発明において用いられるピロロキノリンキノン類(PQQ類)は、ピロロキノリンキノンと同等であると考えられる化合物群を意味する。 ピロロキノリンキノン類には、ピロリキノリンキノン(PQQ)に加え、その塩またはそのエステルなどが含まれ、また、ハーフエステルの塩であってもよく、それらの水和物や溶媒和物であってもよい。 本発明において、ピロロキノリンキノン(PQQ)とは、下記式(I)で示される化合物である。式(I) PQQ類は、式(I)に示されるような酸化型の構造を有するピロロキノリン及びピロロキノリンキノンと同等であると考えられる化合物群だけではなく、還元型ピロロキノリンキノンを始めとして、還元型ピロロキノリンキノンと同等であると考えられる化合物群であってもよい。 PQQは、特に限定されることなく、従来公知の方法により製造することができるが、かかる製造方法としては、有機化学的方法または発酵法などを挙げることができる。 PQQの製造法としては、例えば、メタノール資化性を有し、かつPQQを生産する能力を有する細菌を、炭素源としてメタノールを使用して培養することによりPQQを製造することが可能である。 PQQの塩としては、特に限定されることなく、PQQに存在する3つのカルボン酸のアルカリ塩であってもよく、ピリジンNやピロールNの酸塩であってもよい。 また、塩は、3つのカルボン酸または2つのNの塩として、例えば、カルボン酸を例示して示せば、モノカルボン酸塩、ジカルボン酸塩、トリカルボン酸塩であってもよく、モノカルボン酸塩については、いずれのカルボン酸の塩であってもよく、ジカルボン酸塩については、2つのカルボン酸の塩であれば任意の組み合わせの塩であってもよい。 PQQの塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、トリエタノールアミン塩、トリメチルアミン塩等の有機アミン塩、リジン塩、アルギニン塩等の塩基性アミノ酸塩などを挙げることができる。 PQQの塩としては、特に限定されることなく、従来公知の方法により対応する酸または塩基をPQQに対して適当量加えることにより製造することができるが、製造が容易であることから、PQQのナトリウム塩またはカリウム塩が使用しやすく、より好ましくはジナトリウム塩である。 PQQのエステルとしては、特に限定されることなく、従来公知の方法によりPQQよりエステル化反応を行うことにより製造することができる。 PQQのトリエステル体は、例えば、PQQまたはその塩を酸性条件下でアルコール類と反応させる方法(特開平3−123781号公報、特開平3−145492号公報)や、PQQまたはその塩を塩基の存在下でハロゲン化アルキル、ハロゲン化アラルキル、ハロゲン化アルキルアリール、ハロゲン化アルケニル、ハロゲン化アルキニル等と反応させる方法などにより合成することができる。また、上記方法によって得られるPQQのトリエステル体を酸性または塩基性条件下で部分加水分解することで、モノエステル体、ジエステル体を得ることができる。また、エステル形成反応において、部分エステル化してもよい。 PQQ類としては、PQQのエステルとPQQの塩の任意の組み合わせが含まれる。すなわち、モノアルキルエステルジカルボン酸塩、ジアルキルエステルモノカルボン酸塩なども含まれる。 PQQ類は、カラムクロマトグラフィー、再結晶法、または溶媒抽出法などの通常の方法により、反応液中から分離、精製することができる。また、それらの同定には、元素分析、NMRスペクトル、IRスペクトル、質量分析などの各種手段が用いられる。 本発明において発達障害とは、精神遅滞、境界知能、自閉症スペクトラム障害、学習障害、注意欠陥多動性障害(ADHD)、発達性協調運動障害、またはその他これに類する脳機能障害などが挙げられる。尚、子ども虐待などの不適切な養育に由来する脳機能障害を発達障害に含める学説もあり、発達障害の悪化であるか、原因であるかについては両方の可能性が示唆されており、議論の分かれるところである。また、症状のみから両者を区別することは非常に難しいことはよく知られているものの、本発明においては、子ども虐待などの不適切な養育を受けたことに由来する脳疾患についても発達障害に含まれる。 発達障害の治療または予防により、情動系の脳機能失調およびその原因となる認知のひずみが改善され、発達障害に関連する行動障害を軽減させることができる。かかる行動障害とは、発達障害児・者の環境への著しい不適応を意味し、激しい不安、興奮、混乱の結果、多動、疾走、奇声、自傷、固執、強迫、攻撃、不眠、拒食、異食などの行動上の問題が日常生活の中で出現し、現状の養育環境では処遇困難となるものをいい、そうした行動面から定義される。行動障害は、その人が生来的に持っている資質そのものではなく、病態そのものの症状ではなく、二次的な症状であって、本発明においてはPQQ類の投与により軽減または抑制することが可能である。 本発明においては、発達障害の治療または予防に用い得ることを確認するために、以下の実施例で記載するように頬髯切除処理されたマウスを発達障害モデルマウスとして用いている。 出生直後にマウスの頬髯(洞毛)を除去しておくと、成熟後、異常行動が発現することは知られており(L.-J. Lee et al., Experimental Neurology 219, 524-532, 2009)、出生直後頬髯除去マウスでは体性感覚の認知機能が変化する。また、出生直後に頬髯を除去されると、子が親の存在に気付くことが難しくなり、母子間の愛着形成(ここでは母体と接触することによる安心感など)が阻害される原因となることが予想され、頬髯除去マウスは、発達障害の病態脳に類似した、中でも特に、自閉症スペクトラム障害や子ども虐待などの不適切な養育を受けたことに由来する脳疾患の病態脳に類似した、神経回路の発達障害を起こしていると推定されるモデル動物である。さらに、マウスは頬髯を用いて外界情報を収集し、行動を起こす際の判断基準としている。出生直後にこの頬髯を切除すると、外界認知機能を司る脳神経基盤の発達が抑制され、マウスは空間認知能が低下するとともに、攻撃性が亢進し、社会性が低下する。 以上の観点から、本発明では、出生直後に頬髯切除処理されたマウスを発達障害モデルマウスとして用いて行動試験の評価を行った。また、出生直後の頬髯切除処理を行うことにより、マウスに対し後天的な感覚機能の発達不全に基づく心的外傷が与えられていると考えられ、発達障害のモデルとして用いることができるものである。 かかる発達障害モデルマウスにおいては、感覚機能の不全(頬髯の触覚機能)、情動障害(過敏性≒攻撃性の亢進)といった発達障害に特有の行動が観察される。 本発明においては発達障害モデルマウスを作製し、行動試験における評価を行った。 発達障害モデルマウスにおいて、実施例に示すように、行動試験として、gap crossing testまたはtube testを行うことにより、投与されたPQQ類による効力を確認することができ、本発明における発達障害の治療または予防剤としてPQQ類を用いることができることを確認することができる。 本発明においては、PQQ類をそのまま投与することも可能であるが、通常各種の製剤として提供することが望ましい。 製剤の投与形態は、例えば、経口投与、または静脈内、腹腔内、皮下若しくは経皮等の非経口投与などを挙げることができる。 製剤の剤型としては、例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、丸剤、懸濁剤、乳剤、浸剤・煎剤、カプセル剤、シロップ剤、液剤、エリキシル剤、エキス剤、チンキ剤、流エキス剤、注射剤(点滴剤を含む)、クリーム剤、坐剤等の経口剤や非経口剤などを挙げることができる。 経口剤として製剤化する場合は、賦形剤、結合剤、崩壊剤、潤沢剤、分散剤、懸濁剤、乳化剤、希釈剤、緩衝剤、抗酸化剤、細菌抑制剤等の医薬品や食品として許容可能な添加剤を用いて製剤化することができる。 経口投与に適当な、例えばシロップ剤のような液体調製物として製剤化する場合は、水、蔗糖、ソルビトール、果糖等の糖類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、ゴマ油、オリーブ油、大豆油等の油類、p−ヒドロキシ安息香酸エステル類等の防腐剤、パラオキシ安息香酸メチル等のパラオキシ安息香酸誘導体、安息香酸ナトリウム等の保存剤、ストロベリーフレーバー、ペパーミント等のフレーバー類等を添加して製剤化することができる。 また、経口投与に適当な、例えば錠剤、散剤または顆粒剤等として製剤化する場合は、乳糖、ブドウ糖、蔗糖、マンニトール、ソルビトール等の糖類、バレイショ、コムギ、トウモロコシ等の澱粉、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム等の無機物、結晶セルロース、カンゾウ末、ゲンチアナ末等の植物末等の賦形剤、澱粉、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、アルギン酸ナトリウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルク、水素添加植物油、マクロゴール、シリコーン油等の滑沢剤、ポリビニールアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルメロース、ゼラチン、澱粉のり液等の結合剤、脂肪酸エステル等の界面活性剤、グリセリン等の可塑剤などを添加して製剤化することができる。 経口投与に適当な製剤には、一般に飲食品に用いられる添加剤、例えば食甘味料、着色料、保存料、増粘安定剤、酸化防止剤、発色剤、漂白剤、防かび剤、ガムベース、苦味料、酵素、光沢剤、酸味料、調味料、乳化剤、強化剤、製造用剤、香料、香辛料抽出物等が添加されてもよい。経口投与に適当な製剤は、そのまま、または例えば粉末食品、シート状食品、瓶詰め食品、缶詰食品、レトルト食品、カプセル食品、タブレット状食品、流動食品、ドリンク剤等の形態のものであってもよいし、健康食品、機能性食品、栄養補助食品等の飲食品として用いてもよい。 飲食品として用いる場合には、本発明における用途を逸脱しない範囲で、例えば、発達障害の治療または予防に関連して有効性を有するとの表示を付した飲食品とすることができる。この場合、本発明の要旨の範囲内で、表示を適宜定めた、特定保険用食品、栄養機能性食品、健康食品、機能性食品、健康補助食品等として用いることもできる。 非経口投与に適当な、例えば注射剤は、好ましくは受容者の血液と等張であるPQQ類を含む滅菌水性剤と、塩溶液、ブドウ糖溶液、または塩溶液とブドウ糖溶液の混合物からなる担体等を用いて調製することができる。また、これら非経口剤においても、経口剤で例示した希釈剤、防腐剤、フレーバー類、賦形剤、崩壊剤、潤沢剤、結合剤、界面活性剤、可塑剤などから選択される1種またはそれ以上の補助成分を添加することができる。この時のPQQ類の濃度は0.1〜5mg/MLの濃度であることが好ましい。濃度が低い場合は大量の注射が必要であり、また、濃度を高くすると結晶が析出しやすくなる。 本発明のPQQ類の濃度は、製剤の種類、該製剤の投与により期待する効果等に応じて適宜選択されるが、例えば経口剤の場合、PQQ類として、通常は0.1〜100重量%、好ましくは0.5〜70重量%、より好ましくは1〜50重量%である。 PQQ類の投与量および投与回数は、投与形態、投与対象者の年齢、体重、損傷の程度等により異なるが、通常、成人一日当たり、PQQ類として、通常は、0.01〜1500mg/kg、好ましくは0.05〜100mg/kgとなるように、一日一回ないし数回投与する。 注射液として使用する場合は0.5〜5mg/kgが好ましく、より好ましくは0.5〜3mg/kgとなるように調整して投与する。 投与期間は、特に限定されないが、継続的に使用することが好ましい。本治療剤または予防剤は継続使用する可能性が高いため、食品、もしくは錠剤の形式で摂取することが、患者への負担を減らすために望ましい。また、注射する場合、長期間の保存に耐える必要がある。 本発明の製剤は、ヒトだけでなく、ヒト以外の動物(以下、非ヒト動物と略す)に対しても使用することができる。非ヒト動物としては、ほ乳類、鳥類、は虫類、両生類、魚類等、好ましくはほ乳類に属する非ヒト動物を挙げることができる。動物に使用する場合、注射でない場合、飼料に混合させて使用することができる。つまり、一般的に使用する穀物等でできた家畜用飼料に混合、ペットフードに混合して使用することができる。 以下、本発明を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、本発明に用いられる評価方法及び測定方法は以下のとおりである。 以下の実験にはピロロキノリンキノンジナトリウム(三菱瓦斯化学製、製品名:BioPQQ)を使用した。以下、本実施例においては、「ピロロキノリンキノンジナトリウム」を「PQQ−2Na」と記載する。(発達障害モデルマウスの作成) ddY系マウスは妊娠動物(妊娠18日齢)として日本SLC社より購入し、24±1℃、湿度60%、12時間の明暗サイクル下(AM8:00−PM8:00;点灯、PM8:00−AM8:00;消灯)で飼育した。 購入翌日出生した仔マウスを生後1日齢とし、10日齢になるまでの10日間毎日、仔マウスの片手で体全体を包み込むようにして頭部を保定し、もう一方の手ではさみを用いて、両側の頬髯を2mm以下となるように切除処理した。1回の処理に要する時間は2分以下であった。 仔マウスは頬髯の切除処理を行う時以外は通常飼育条件下で母獣に養育させ、生後4週齢以降は母獣から離して飼育した。仔マウスが生後8週齢に達した後、順次行動評価を行った。また、片手で2分間の保定のみを出生後10日間行ったマウスを頬髯切除処理の対照とした。(PQQ投与) 生後4日齢から生後15日齢までの12日間毎日、リン酸バッファー(PBS)に溶解したPQQ−2Naを0.5,2.5,5.0mg/kgの用量になるように皮下注射した。PBSのみを投与したマウスを対照群として用いた。本研究では、頬髯切除処理とPQQ−2Na投与を組合せ、計8群を用いて実験を行った。また、情動が関わる行動にはセロトニンの関与が示唆されており、セロトニンはエストロゲンを介した性周期との関連が指摘されているため、行動試験には雄マウスのみを用いた。行動試験1(gap crossing test) 本試験では、Barneoud Pらの「Vubrissa−related behavior in mice: transient effect of ablation of the barrel cortex.」(Behav Brain Res、44、p.87−99(1991))に記載の方法を以下のように変更して行った。 図1に示すように、測定装置は高さ20cm、幅6cm、奥行き15cmの2つの直方体からなる。この直方体の箱の中央部に開いた穴に、円柱の棒を通してあり、両側に引っ張ることで2つの箱間の距離(ギャップ)を0−5cmまで自由に変えることができる。また、2つの箱の向い合う面の天板の両脇には、高さ5cm、幅5cmの壁を設けてある。一方の箱の天板の先端部に餌箱を設置し、他方にマウスを置くとマウスは箱間を移動して餌をとる。この時、箱間のギャップを0.5cm間隔で広げていくと、マウスは頬髯を使ってギャップの距離を測り、飛び越えられる距離であると判断した時に、もう一方の箱へと移動する。天板の両脇についている壁は、マウスがギャップの大きさを測る際に補助の役割を果たす。本試験ではマウスの頬髯(触覚)を介した空間認知能を調べることができる。この空間認知能に欠陥があるマウスでは、跳び越えることのできるギャップの幅が狭くなる。 実験開始24時間前からマウスを絶食させた。まず、ギャップ0cmの状態でマウスを自由探索させ、装置の対側に餌があることを学習させた。その後、マウスをいったん装置からホームゲージに戻した。ギャップを0.5cmに広げ、再度マウスを装置に戻した。順次、0.5cmずつギャップの間隔を広げて同じ施行を繰り返した。マウスを一方の箱の天板上に放ってから、2分以内に他方の箱の天板上への移動を完了しなかった場合、再試行を行った。 同じギャップを2回越えられなかった場合、その時点までに跳び越えられたギャップの最大間隔を最大跳越距離と定義して評価した。 出生直後10日間頬髯を処理し、PBSを連日投与した群(10日切除処理+PBS群,n=11)では、頬髯処理を行わず連日PBSを投与した群(切除処理なし+PBS群,n=9)と比較して、有意に最大跳越距離が減少した。この最大跳越距離の減少は0.5、5.0mg/kgのPQQ−2Naを投与した群(それぞれn=2,6)で回復傾向がみられ、2.5mg/kg投与群で有意な回復が認められた(n=10)。一方、頬髯処理を行わなかったマウスでは2.5mg/kgPQQ−2Na投与群とPBS投与群の間には最大跳越距離に変化がみられなかったことから、PQQ−2Naは正常マウスの頬髯を介した空間認知力には影響を与えないが、出生直後の頬髯切除に伴う空間認知力の低下を抑止できることが分かった(図2参照)。行動試験2(tube test) 図3に示すように、装置は直径3.5cm、長さ30cmの円筒である。筒の両端からそれぞれ13cmのところに抜き差し可能な2枚の透明な仕切り板があり、筒全体が3つの区画に分かれている。筒の両側から、比較したい2匹のマウスを装置内に入れ仕切り板を外すと、マウスはお互いに接近して接触する。この時、より攻撃性の高いマウスは、相手マウスを装置の外まで追い出すことが知られている(Hahn MEらの「Issues in the genetics of social behavior」(Revisited. Behavior Genetics 26、p.463−470(1996))。 まず、マウスを装置に慣れさせるため、2枚の仕切り板を外した状態で1匹ずつ、2分間、装置内を自由に探索させた。次に、比較したい2匹のマウスを装置内に入れて仕切り板を外した。仕切り板を外してから、2分以内に装置から4本の肢がでたマウスを「loser」、装置内にとどまったマウスを「winner」、2分以内にいずれのマウスも装置から出てこなかった場合は「draw」と定義し評価した。 また、施行は2回ずつ行った。 「winner」には2点、「loser」は0点、「draw」の場合は両方に1点ずつを加算することにし、2回の平均点を個々のマウスの得点として評価した。10日切除処理+PBS群では、切除処理なし+PBS群と比較して、攻撃性が有意に高くなることが分かった。幼若期に母マウスから一定時間隔離したマウスでも同様の攻撃性の亢進が起こることを考え合わせると、出生直後の頬髯除去に基づく外界認知能の低下が母マウスとの相互作用の低下を介して、成熟後の攻撃性亢進につながるのかもしれないと考えられた。この出生直後の頬髯除去に伴う攻撃性の亢進は0.5、2.5、5.0mg/kgのいずれの用量のPQQ−2Naを投与した群においてもキャンセルされた。一方、頬髯処理を行わなかったマウスでは0.5、2.5mg/kgPQQ−2Na投与群とPBS投与群の間には攻撃性の差がみられなかったことから、PQQ−2Naは正常マウスの攻撃性を積極的に低下させるのではなく、頬髯切除に伴う攻撃性の亢進を軽減している可能性が示唆された(図4参照)。 近年、増加傾向にある発達障害の発症原因には遺伝的要素が絡むことは間違いないが、幼児・小児期における心的外傷ストレス(虐待あるいは病態に特有の感覚過敏・鈍麻などの外界認知能の低下などのさまざまな要因に基づく)が病態を悪化させるあるいは発症の引き金を引くという仮説が提唱されている。本研究で得られた成果はPQQ類が発達障害の要因となる脳発達期における「感覚機能障害」、「心的外傷ストレス」の形成を予防できる可能性を示唆している。 すなわち、本試験結果は、PQQ類が発達障害の治療剤または予防剤として用いることができる可能性を示していると考えられる。(注射用溶液の調製) PQQ−2Naを1g/Lになるようにリン酸バッファーまたは水で溶かし、ガラス瓶に入れた。これを30℃で90日保存した。この溶液を高速液体クロマトグラフィーで分析した。測定条件は以下の通りである。装置:島津製作所、高速液体クロマトグラフィー、LC−20Aカラム:YMC−Pack ODS−TMS(5μm)、150x4.6mm I.D.測定温度:40℃検出:260nmにおける吸光度溶離液:100mM CH3COOH/100mM CH3COONH4(30/70、pH5.1)溶出速度:1.5mL/min結果:90日保存後の回収率100%(リン酸バッファー)90日保存後の回収率100%(水) 製造した溶液組成物は安定であった。注射用組成物として安定に使用できる。また、この組成物は注射用溶液として安定であるために、ドリンク剤として転用して使用することも可能である。 本発明は、発達障害の治療剤または予防剤を提供することができるため、産業上の利用可能性を有する。 ピロロキノリンキノン類を含む発達障害治療または予防剤。 ピロロキノリンキノン類がピロロキノリンキノンまたはその塩である、請求項1に記載の治療または予防剤。 発達障害が、精神遅滞、境界知能、自閉症スペクトラム障害、学習障害、注意欠陥多動性障害(ADHD)、発達性協調運動障害、子ども虐待などの不適切な養育を受けたことに由来する脳疾患、またはその他これに類する脳機能障害である、請求項1または2に記載の治療または予防剤。 発達障害が、自閉症スペクトラム障害、子ども虐待などの不適切な養育を受けたことに由来する脳疾患、またはその他これに類する脳機能障害である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の治療または予防剤。 経口剤または注射剤である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の治療または予防剤。 【課題】発達障害の治療または予防を行うことのできる化合物を提供すること。【解決手段】ピロロキノリンキノン類を含む発達障害治療または予防剤。【選択図】なし