タイトル: | 公開特許公報(A)_飼料の消化率測定方法および消化率測定システム |
出願番号: | 2012168281 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | C12Q 1/02,C12Q 1/34,C12M 1/34 |
木原 稔 伊藤 暁 三宅 謙嗣 三代 健造 JP 2014023505 公開特許公報(A) 20140206 2012168281 20120730 飼料の消化率測定方法および消化率測定システム 学校法人東海大学 000125369 株式会社マルハニチロ水産 000003274 林兼産業株式会社 000251130 特許業務法人SSINPAT 110001070 木原 稔 伊藤 暁 三宅 謙嗣 三代 健造 C12Q 1/02 20060101AFI20140110BHJP C12Q 1/34 20060101ALI20140110BHJP C12M 1/34 20060101ALI20140110BHJP JPC12Q1/02C12Q1/34C12M1/34 E 9 1 OL 15 4B029 4B063 4B029AA07 4B029BB11 4B029BB20 4B029CC03 4B029DB01 4B029FA15 4B063QA20 4B063QQ02 4B063QQ79 4B063QR48 4B063QR72 4B063QS02 4B063QS39 4B063QX01 本発明は、飼料の消化率の測定方法およびその測定システムに関し、より詳細には人工配合飼料、特に養殖魚類用の人工配合飼料の開発に有用な、飼料の消化率の測定方法およびその測定システムに関する。 日本のクロマグロ養殖は、資源保護、食糧供給の観点から国際的にも注目されている。しかしながら、養殖クロマグロの体重を1Kg増やすためにサバなどの天然資源が15〜20Kg以上も必要であって、その分、天然資源を脅かしている。そのため、生魚を使用しない人工配合飼料の開発が急務となっている。 このような中、さまざまな研究機関や企業において飼料開発が試みられている。 例えば、このような魚類用の飼料の研究・開発は、試験水槽やイケス内の魚に試験用の飼料を長期間給餌して魚の成長量から飼料評価する手法がこれまでとられてきた。 しかしながら、この手法は時間や労力(人件費)の点で、すなわち開発コストが高くなってしまうという問題があった。 こうした開発方法がある中、これまで例えばマグロ用の飼料開発研究は、大きく二通りの方法で行われていた。つまり、陸上の試験水槽などの小型で使いやすい試験水槽での飼育試験と、海上での大型海面イケスを利用したフィールドテストである。 陸上での試験水槽においては、そのサイズの制限から、マグロ稚魚から幼魚を使った飼育実験が主体となっており、ここから得た知見を成魚用飼料開発に活用している。 一方、海上での海面イケスにおいては、中間育成から出荷前にかけての成魚を使った飼育実験が主体となっている。 特に成魚を使った試験においては、大型になるマグロの魚体測定は出荷取上げ時に限られる。よって、マグロ用配合飼料の検討は、もっぱら出荷までの給餌量と出荷取上げ時の魚体重によって得られる成長量、増肉効率等を参考にしており、比較検討に3−4年の長い時間を要している。 したがって、試験の短期化やコストダウンのためには、試験飼料を給餌して成長を確認するという実際の飼育実験を行う一方、臓器や細胞、消化酵素等を使った生体外によるインビトロでの飼料消化率評価方法も必要であると考えられている。例えば、マグロ以外の産業動物においては様々な実験方法が提案され、実施されている。 例えばブリにおいては、ブリから採取した胃及び幽門垂から粗抽出した酵素を使った魚粉の試験管内消化が実施されている(非特許文献1参照)。 インビトロ消化実験は、現在までに人工消化液や粗酵素を使った試験管内での人工消化試験が実施されているが、これらは実際の魚類消化管内での消化の過程を模しているわけではない。 なぜなら、人工消化がガラス製容器内で実施されていることから、例えば消化液の分泌リズムや消化管運動、飼料による物理刺激などは完全に無視されているからである。つまり、従来の消化率測定法では、実際の消化管内での消化条件とは全く異なるわけである。 また、人工消化には精製された消化管由来酵素が用いられることもあるが、魚類の人工消化にブタの消化酵素等が用いられる例もある。このような異種動物の酵素はその特性が魚類とは異なる場合も多く、人工消化条件によっては得られた知見を誤って評価してしまうことにもつながる恐れがある。 したがって、有用なインビトロ評価法のない例えばマグロ類においては、種苗生産された稚魚等を用いた飼育実験が多く実施されている。しかしながら、稚魚や幼魚の消化管の発達程度は成魚の消化管とは異なる形態、機能も多く、したがって稚魚や幼魚を使って得た知見をそのまま成魚に当てはめようとする考え方には無理が生じる場合もある。 また多くの魚類はたんぱく質を主なエネルギー源としており、胃は摂取したたんぱく質の初期消化器官であるため、例えばマグロのように肉食性が強く、腸の短い魚種においては、胃におけるたんぱく質消化を評価することが、人工配合飼料の開発にとって極めて重要である。 一方、魚類から消化器官を摘出し、生体外でその消化機能を維持させるという技術は公知であり、例えば非特許文献2、3には、クロソイ等から胃を摘出して、培養する(生体外でその消化機能を維持する)という技術が開示されている。さらに、非特許文献3には、クロソイの胃を生体外で培養し、その胃内に投入された疑似飼料が消化されたことが記載されている。Satoh, K. (2004) Role of pepsin and trypsin on protein digestion and seasonal variations of those activities in yellowtail. Nippon Suisan Gakkaishi, 70, 607-609.木原稔、「生体外培養した魚類胃の刺激応答」、[平成24年7月17日検索、インターネット<http://www.ab.auone-net.jp/~mk_lab/Full.pdf>Suzuki, T., Itou, F., Igarashi, M., Kihara, M. (2008) Digestibility of kamaboko-diet in totally isolated stomach of black rockfish Sebastes schlegeri by in vitro culture method. Comparative Biochemistry and Physiology, 151B, 457. 本発明は、このような問題点に鑑みなされたものであって、インビトロ(生体外)で、しかも従来技術よりも生体に近い環境下で食用動物(例えばマグロ属などの魚類)の胃内での飼料の消化率を測定する方法、および該測定のためのシステムを提供することを目的としている。 本発明者等は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、食用動物(例えばマグロ属などの魚類)の新鮮な胃を丸ごと培養してその消化機能を保持しつつ、その胃により飼料を消化させてその消化率を評価することによって、上記課題を解決できることを独自に見出し、本発明を完成させるに至った。 すなわち、本発明は、産業上有用な以下の発明を包含する。 (1) 食用動物の体から摘出された胃の中に、消化に関するデータが予め取得された飼料を投入し、次いで前記胃を所定時間培養する(すなわち生体外において胃の消化機能を維持する)培養工程と、 前記培養工程後に、前記胃内の前記飼料の残渣から前記飼料の消化に関するデータを取得し、次いで胃の培養前後での前記飼料の消化に関するデータから前記飼料の消化率を算出する消化率算出工程と、を含むことを特徴とする飼料の消化率測定方法。 (2) 前記食用動物が魚類であることを特徴とする上記(1)に記載の飼料の消化率測定方法。 (3) 前記培養工程において、前記飼料と共に非消化吸収性マーカーを胃の中に投入することを特徴とする上記(1)または(2)に記載の飼料の消化率測定方法。 (4) 前記非消化吸収性マーカーが、セライト、酸化クロムおよびフェノールレッドからなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする上記(3)に記載の飼料の消化率測定方法。 (5) 前記非消化吸収性マーカーの量が、前記飼料と前記非消化吸収性マーカーとの合計100重量%に対して0.5〜5重量%であることを特徴とする上記(3)または(4)に記載の飼料の消化率測定方法。 (6) 前記魚類がマグロ属魚類であることを特徴とする上記(2)に記載の飼料の消化率測定方法。 (7) 前記培養工程が培養容器に培養液および前記の摘出された胃を入れて実施され、前記培養液の温度が0〜40℃であることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載の飼料の消化率測定方法。 (8) 前記所定時間が4〜12時間であることを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれかに記載の飼料の消化率測定方法。 (9) 食用動物の体から摘出された胃の中に、消化に関するデータが予め取得された飼料を投入し、次いで前記胃を所定時間培養するための培養手段と、 前記の培養の後に、前記胃内の前記飼料の残渣から前記飼料の消化に関するデータを取得し、次いで胃の培養前後での前記飼料の消化に関するデータから前記飼料の消化率を算出するための消化率算出手段と、を含むことを特徴とする飼料の消化率測定システム。 本発明に係る飼料の消化率測定方法および消化率測定システムによれば、インビトロで、しかも従来技術よりも生体に近い環境下で食用動物、特に魚類(マグロ等)の胃内での飼料の消化率を測定することができる。 本発明に係る飼料の消化率測定方法および消化率測定システムによれば、前記食用動物が魚類である場合には、従来のように稚魚に対し長期間飼料を与えてその稚魚の成長量から飼料評価する場合に比べて、短時間で飼料の消化率を知ることができる。この消化率測定方法は、例えば、養殖用の魚類の飼料の開発に有用である。 さらに、本発明では、例えば魚体の中の食用として用いない部位により飼料の消化率の評価試験を行うので、コスト安となる。 また、本発明の方法により飼料の消化率を測定すれば、配合改良、試験実施、結果解析、さらなる配合改良、という飼料の開発におけるPDCAサイクル(plan-do-check-act cycle)の回転率を上げることができる。 本発明で用いられる培養胃、すなわち生体外で培養される胃は「人工消化用の容器」とみなすことができ、消化液の分泌リズムや消化管運動、飼料による物理刺激などが確保されているので、この培養胃の中に評価したい飼料の原料や開発した飼料などを入れて消化することにより、実験室内において、従来法よりも生体に近い状態の実験、すなわち外挿性の高い実験で消化を評価することができる。 また、前記食用動物が魚類である場合には、成魚用の配合飼料の開発のために成魚の臓器を使うという点でも、今後の開発効果が高い。すなわち、肉食性で腸の短い魚類、例えば、マグロ属の消化機能に裏付けされた効率的・スピーディな飼料開発が実施できる。 さらに、魚類、例えばマグロは、食用目的で産業的に加工処理されている動物である。本発明で使用する胃は、魚類が上記の目的で処理される際に、多くは廃棄物として摘出されるものである。したがって、積極的に動物の生命を奪うものではなく、養殖された魚類の出荷という経済活動の産物として出てくる廃棄物を使うことができるので、生命あるものの価値を無駄にしない開発手法である。図1は胃の培養装置と、その培養装置内でマグロの胃を培養するときの状態を示す模式図である。図2は本発明に係る飼料の消化率測定方法を実施するための操作手順を示すフローチャートである。図3は、本発明に係る飼料の消化率測定システムを示す模式図である。 以下、本発明をより詳細に説明する。 [飼料の消化率測定方法] 本発明に係る飼料の消化率測定方法は、 食用動物の体から摘出された胃の中に、消化に関するデータが予め取得された飼料を投入し、次いで前記胃を所定時間培養する培養工程と、 前記培養工程後に、前記胃中の前記飼料の残渣から前記飼料の消化に関するデータを取得し、次いで胃の培養前後での前記飼料の消化に関するデータから前記飼料の消化率を算出する消化率算出工程とを含むことを特徴としている。 なお、以下では、前記食用動物が魚類である場合を一例に本発明を説明する。 <培養工程> 培養工程では、魚類の体から摘出された胃の中に、消化に関するデータが予め取得された飼料または混合物を投入し、次いで前記胃を所定時間培養、すなわち摘出された胃の消化機能を生体外で維持する。 上述のとおり、多くの魚類はたんぱく質を主なエネルギー源としており、胃は摂取したたんぱく質の初期消化器官であるため、肉食性が強く、腸の短い魚種においては、胃におけるたんぱく質消化を評価することが、人工配合飼料の開発にとって極めて重要である。このため、前記魚類としては、肉食性が強く腸の短い魚種の成魚が好ましく、例えばマグロ属(クロマグロ等)、ブリ属(ブリ、カンパチ等)の成魚などが挙げられる。 本発明に係る消化率測定をより生体に近い環境下で消化率測定を行う観点から、前記胃は、一部ではなく、全部(噴門部から幽門部まで)摘出して用いることが好ましい。 本発明に係る消化率測定をより生体に近い環境下で消化率測定を行う観点から、好ましくは生きた魚類の体から摘出された胃が用いられるが、培養により胃の消化機能を確保できる限りにおいては、死亡直後の魚類の体から摘出された胃が用いられてもよい。 摘出された胃の培養は、非特許文献2、3などに記載された公知の技術により実施可能であり、例えば、培養容器内に摘出された胃を収容し、培養容器内の環境を、胃の機能維持に適した条件に設定することにより実施することができる。 次に、この培養工程内の各工程および培養工程前に行ってもよい培養準備工程について説明する。 [培養準備工程] 培養工程に先立って、胃の消化機能維持に適した条件の設定や、胃が消化機能を維持していることの確認を行ってもよく、これらは、例えば以下の方法によって実施することができる。 先ず、摘出された胃の血液、体液、脂肪、結合組織および胃表面外膜を除去する。 次いで、胃の噴門部、幽門部に耐酸チューブを装着する。この際、固形飼料を模した物理的刺激物(例えばガラスビーズなど)を胃内に挿入してもよい。チューブは絹製縫合糸でしばって噴門部、幽門部に保定し、胃内部を閉鎖環境とする。この胃を図1に示すようなガラス製容器6内に収容し、酸素ガスに若干量の二酸化炭素ガスが混合された混合ガス(例えば酸素95%、二酸化炭素5%)を連続通気し、対象となる魚類、養殖の際の水温等を念頭に置いた温度(マグロ属魚類を常温で養殖することを念頭に置くならば、例えば24℃)に温度コントロールした培養液7にひたし、送液ポンプを介して生理的食塩水を噴門側から胃1内へ流入させる。 こうして胃内を通過し、幽門部から流出する培養液を計時的に定量回収する。このような胃培養を培養時間と生体と同等機能を保持する時間、例えば6時間以上継続し、回収した培養内液、すなわち胃流出液中に分泌される消化酸素活性(ペプシン様酵素活性)を確認すればよい。また、培養胃をビデオ撮影し、その運動を観察してもよい。 このように胃が消化器官として機能しているか否かの確認は、本発明に係る消化率測定方法を実施する前に、必要に応じて行えばよい。 [胃収容工程] 上述のように、前記培養工程では、摘出された胃を培養する。 摘出された胃の培養は、好ましくは前記胃を前記培養容器内に収容して行われる。収容に先立って、好ましくは、胃の外表面に付着した血液、体液、脂肪、結合組織および胃表面外膜を除去する。 そして、胃の噴門を閉じる。噴門を閉じる手段としては、例えば噴門に栓(例えば、シリコーン栓)を挿入して、これを固定してもよい。この固定には、例えばプラスチック製結紮バンドを用いることができる。 [飼料投入工程] 前記培養工程においては、消化に関するデータが予め取得された飼料を投入する。 消化に関するデータとは、消化率の測定対象となる成分の含有量ないし含有率であり、例えば、魚類用飼料のタンパク質の消化率を測定したい場合であれば、飼料中のタンパク質の含有量ないし含有率である。 また、好ましくは、前記飼料と共に非消化吸収性マーカーが胃の中に投入される。 前記非消化吸収性マーカーが用いられると、このマーカーは栄養素の消化に係わりなく減少しないので、培養工程後の胃の中から飼料の残渣を回収する際に、残渣が胃の内壁などに付着してしまうことにより全ての消化物を胃から回収できない場合であっても、非消化吸収性マーカーを基準として飼料の消化率を算出することができる。 非消化吸収性マーカーは、飼料と均一に混合する観点から、好ましくは、粉末、溶液または懸濁液の形態で用いられる。 非消化吸収性マーカーとしては、セライト、酸化クロム、フェノールレッド等が挙げられる。 非消化吸収性マーカーは、測定される消化率の精度を高める観点等から、好ましくは、前記飼料と前記非消化吸収性マーカーとの合計100重量%に対して0.5〜5重量%程度使用される。 飼料および非消化吸収性マーカー(以下、これらをまとめて「飼料混合物」ともいう。また、飼料と飼料混合物とを特に区別せず「飼料等」ともいう。)は、通常、幽門側から胃内に投入する。 胃内の環境を生体の胃内の環境になるべく近づける観点から、飼料等は、好ましくは海水、淡水または生理食塩水の懸濁液の形態で投入される。この海水、淡水または生理食塩水は、人工のものであってもよい。前記魚類が淡水魚である場合には、好ましくは生理食塩水が用いられる。 飼料等の投入方法は、飼料の形態に応じて適宜設定すればよく、例えば飼料として魚粉を含有する海水等の懸濁液であれば、これを駒込ピペットなどで胃内に投入すればよい。懸濁液の投入には、シリコンチューブをガイドとして用いてもよい。 [培養工程] 上述したように、本発明においては飼料が投入された胃を培養する。培養容器内を培養に適した条件とするために、通常、培養容器には培養液が充填される。培養容器、培養液、培養条件等の詳細については、公知技術、例えば非特許文献2、3などに記載された技術を参照することができる。 前記培養液としては、魚類の消化器官の生体外培養に通常用いられる培養液を、魚類の種類に応じて、適宜用いることができる。あるいは、細胞等の培養に通常用いられる培養液にpH調整剤(例えば、炭酸水素ナトリウム)を添加してpHを7から8程度(例えば7.2〜7.8)に調整したものを用いてもよい。 培養に要する時間は、魚類の種類、消化の速度等に応じて適宜設定すればよく、例えば4時間〜12時間、好ましくは4時間〜8時間であってもよい。このような培養時間であれば、所望とするデータを得ることができる。一方、この時間が過度に短いと、消化に関するデータの再現性が低くなる等の問題が生じる場合があり、この時間が過度に長いと、摘出された胃の諸機能を維持し、生体に近い環境下での消化率を得ることができない。 培養液の温度は、魚類の種類、魚類を養殖する際の水温等を考慮すればよく、例えば0〜40℃、あるいは20〜30℃であってもよい。例えば、マグロ属魚類を常温で養殖するための人工配合飼料の開発に本発明を利用する場合であれば、培養液の温度は20〜30℃程度であってもよく、寒冷地での魚類の養殖を念頭に置くのであれば0〜10℃程度であってもよい。 摘出された胃に酸素を供給するために、培養液に酸素ガスを供給することが好ましい。 また、培養液のpHを調整するために、酸素ガスに加えて、若干量の二酸化炭素ガスを供給することが好ましい。二酸化炭素ガスの供給量は、酸素ガスと二酸化炭素ガスとの合計100体積%に対して、例えば1〜10体積%程度である。 魚類から摘出された胃を、より生体に近い状態で長時間培養する観点から、培養液を撹拌しながら培養工程を実施することが好ましく、培養容器から培養液を排出しつつ培養容器に新しい培養液を供給しながら培養工程を実施することがさらに好ましい。 <消化率算出工程> 前記培養工程後の消化率算出工程では、前記胃内の前記飼料の残渣から、あるいは前記非消化吸収性マーカーを用いる場合であれば前記胃内の前記飼料および前記非消化吸収性マーカーの残渣から、前記飼料の消化に関するデータを取得し、次いで胃の培養前後での前記飼料の消化に関するデータから前記飼料の消化率を算出する。 前記飼料等の残渣から前記飼料の消化に関するデータを取得する方法としては、培養工程後の胃から残渣を回収し、回収した残渣から消化に関するデータを取得する方法が挙げられる。 次に、この消化率算出工程内の各工程について説明する。 [胃取出工程] 胃から前記残渣を回収する際には、好ましくは、培養容器から胃を取出して、はさみなどで胃の筋肉層を切開する。 この工程を経ることによって、培養容器中の胃から容易に高い回収率で残渣を回収することができる。 [飼料残渣回収工程] 胃から飼料等の残渣を回収する方法としては、飼料等の形態等に応じて適切な方法を選択すればよい。例えば、飼料等の残渣がある程度の大きさであれば、ピンセット等でこの残渣をつかんで回収してもよく、飼料等の残渣が細かい粒子状であれば駒込めピペットを使用して回収してもよい。 回収された飼料等の残渣は、残渣中に含まれる消化酵素による消化反応を停止させるという観点から、回収された飼料等の残渣を急速冷却することが好ましい。たとえば簡易な方法としては、回収後に10分間程度氷冷する等の方法がある。 [消化率算出工程] 上述のように、消化率算出工程では回収された飼料等の残渣から消化に関するデータを取得し、このデータと、前述した、胃に投入する前の飼料の消化に関するデータとに基づいて、飼料の消化率を算出する。なお、この工程で取得される消化に関するデータとは、消化率の測定対象となる成分の含有量ないし含有率であり、例えば、魚類用飼料のタンパク質の消化率を測定したい場合であれば、飼料中のタンパク質の含有量ないし含有率である。また、非消化吸収性マーカーを用いた場合であれば、飼料等の残渣中の非消化吸収性マーカーの含有量ないし含有率も測定する。 消化率の測定対象となる成分がタンパク質である場合、残渣におけるタンパク質の含有量としては、例えば、回収した残渣を遠心分離して得られた固形分中の窒素を公知の手法(例えばケルダール法)により定量し、得られた値にタンパク質に応じた適当な係数(後述する実施例では6.25)を乗じて得られた値を採用することができる。 また、残渣における非消化吸収性マーカーの含有量としては、マーカーが、セライト、酸化クロム等の無機系マーカーである場合には、後述する実施例に記載のように、加熱や酸処理等の公知の方法を組み合わせて残渣から有機物を実質的に消失させ、残った物質の重量を採用することができる。 マーカーが、フェノールレッド等の有機系マーカーである場合には、例えば、公知の方法により培養工程前後での飼料混合物ないし残渣中の有機系マーカーの吸光度の変化を測定することにより、残渣中のマーカーの含有率等を知ることができる。 消化率の測定対象となる成分がタンパク質である場合を例に挙げると、飼料(タンパク質)の消化率は、非消化吸収性マーカーを用いない場合であれば、下記式(1)から算出され、非消化吸収性マーカーを用いる場合であれば、下記式(2)から算出される。 [飼料の消化率測定システム] 本発明に係る飼料の消化率測定システムは、 食用動物の体から摘出された胃の中に、消化に関するデータが予め取得された飼料を投入し、次いで前記胃を所定時間培養するための培養手段と、 前記の培養の後に、前記胃内の前記飼料の残渣から前記飼料の消化に関するデータを取得し、次いで胃の培養前後での前記飼料の消化に関するデータから前記飼料の消化率を算出するための消化率算出手段と、を含むことを特徴としている。 すなわち、本発明に係る魚類用飼料の消化率測定システムは、胃の中で消化しきれなかった飼料の残渣を採取し、その残渣の有無を検出手段で検出したのち、測定対象成分(以下、測定対象成分がタンパク質である場合を例に説明する。)の量を定量手段で定量し、そのデータを用いて消化率算出手段で飼料(タンパク質)の消化率を算出するシステムである。 前記消化率算出手段は、残渣中のタンパク質の量を測定する定量手段と、投入される飼料中のタンパク質の量および該定量手段で測定された残渣中のタンパク質の量から、飼料(タンパク質)の消化率を算出する消化率算出手段とから構成されていてもよく、さらに、残渣中のタンパク質の有無を検出する検出手段を備えていてもよい。したがって、本発明のシステムとして、図3に示したような、培養手段30と、タンパク質の有無を検出する検出手段40と、タンパク質の量を測定する定量手段50と、消化率算出手段60とを備える消化率測定システムを挙げることができる。 培養手段30は、魚類との食用動物から摘出された胃の中に飼料を投入し、その状態で胃を所定時間培養するための手段であり、好ましくは、培養容器6(例えば、ガラス製容器)並びに該容器6内に収容された胃1および培養液7から構成される。 培養手段30は、培養液7の温度を管理するために、ヒータなどの温度調整手段8を備えていてもよい。 また、培養手段30は、培養液7を培養容器6内に貯留したままにせず、培養容器6から培養液7を排出しつつ培養容器6に新しい培養液7を供給するように構成されていることが好ましい。この場合に、配管35を介して培養容器6と接続される貯留タンク38を設け、一部の培養液を貯留タンク38からドレンパイプ36などにより系外に排出するとともに、新たな培養液7を配管37を介して貯留タンク38に供給し、培養容器6および貯留タンク38の間で培養液7を循環させてもよい。 タンパク質の検出手段40および定量手段50としては、質量分析計、クロマトグラフィー、灰分計などを用いることができるが、特に限定されるものではない。 消化率算出手段60は、投入される飼料中のタンパク質量ないしタンパク質含有率、および定量手段50で測定された残渣中のタンパク質量ないしタンパク質含有率から、例えば、前述した式(1)、(2)を用いた飼料(タンパク質)の消化率を算出するプログラムであってもよい。 その他、培養手段および消化率算出手段の詳細については、それぞれ、上述した培養工程および消化率算出工程の詳細と同様である。 以上、前記食用動物が魚類である場合を一例に本発明を説明したが、本発明を魚類以外の食用動物に適用してもよい。 以下、本発明について、実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。〔実施例1:クロマグロ摘出培養胃による魚粉中タンパク質の消化率測定〕 (1)胃の摘出および培養前処理 イケス内で飼育した平均体重68kgの太平洋クロマグロ成魚を捕獲し、直ちに胃を摘出した。摘出した胃を、海産魚類用生理食塩水(NaCl, 13.5; KCl, 0.6; MgCl2, 0.35; CaCl2, 0.25; NaHCO3, 0.2 g/リットル; pH8.3)で湿らせたペーパータオルに包み、クーラーボックス内に入れて一時的に保存した後、胃に付着した血液、体液、脂肪、結合組織および胃表面外膜を除去した。 (2)人工飼料の胃内挿入と培養方法 次に、胃の噴門にシリコン栓を挿入してプラスティック製結紮バンドで固定した後、アンチョビ魚粉とセライト(非消化吸収性マーカー)との混合物(乾燥混合物中タンパク質含量:79.3重量%、乾燥混合物中セライト含量:1.4重量%)の人工海水懸濁液(混合物10gに対し市販の人工海水40mL)を、長さ15cmのシリコンチューブ(内径7mm×外径10mm)をガイドとして、ガラス製駒込ピペットで幽門から胃内に投入した。駒込ピペットおよびシリコンチューブへの付着残渣は、人工海水10mLで洗浄しながら胃内に流し入れた。 次いで、幽門部を絹製縫合糸で結紮した後、前記胃を、2.5Lの培養液(細胞培養用の培地(表1に示す組成の“改変RPMI−1640”))を入れた培養容器(3Lのガラス製容器(φ110mm×450mm))中に浸し、培養液の温度を24℃に維持し、培養液内に混合ガス(O2ガス98体積%:CO2ガス2体積%)を0.1L/分の割合で供給し培養液をマグネチックスターラーで攪拌ながら、前記胃を6時間培養した(図1)。 図1は、上述のようにクロマグロの胃を生体外で培養する為に用いられた培養装置等を示す模式図である。 図1において、符号1はクロマグロの成魚から摘出された胃、符号2は投入された飼料、符号3は噴門に挿入されたシリコン栓、符号4は幽門に挿入されたシリコンチューブ4、符号5は培養装置全体、符号6は透明で内部の様子を確認できるガラス製容器、符号7は培養液、符号8は培養液7の温度を調整する温度調整手段、符号9はガス供給手段、符号10はマグネチックスターラーである。 (3)消化後の胃内容物処理 培養の終了後、ガラス製容器から胃を取り出して、はさみおよび鉗子を使って胃の筋肉層を切開し、駒込ピペットで消化物残渣(胃内で部分的に消化された残りの飼料)を採取した。消化物残渣をプラスティック製試験管内で10分間氷冷し、3000rpm、15分間の条件で遠心分離し、得られた固形分を分析に供した。 (4)分析方法 消化物残渣中のセライトは、以下の方法で分析した。なお、セライトは酸不溶性で、高温で気化しない成分である。 消化物残渣(遠心分離後の固形分)の一部をるつぼにとり、105℃で2時間乾燥させて、重量を測定した。このるつぼを600℃に調節したマッフル炉に入れ、16時間加熱して残渣を灰化させた。灰化物を10mLの2mol/L塩酸に加え、これらを5分間沸騰させ、ろ紙で濾過した後、ろ過残渣を沸騰水で洗浄した。洗浄後のろ過残渣を、ろ紙ごとマッフル炉で加熱し(600℃、16時間)、得られた加熱残渣の重量を測定し、この値をセライトの重量とした。 消化物残渣中のタンパク質については、消化物残渣(遠心分離後の固形分)の一部を測定用試料として用い、この測定用試料中の窒素量をケルダール法により求め、この値に係数6.25を乗じて得られた値をタンパク質の重量とした。 (5)消化率計算方法 培養前後でのタンパク質およびセライトの量に関するデータを用いて、上述した式(2)により消化率を求めた。 (6)結果 魚粉タンパク質の消化率は31%であった。なお、この消化率は9体のクロマグロの胃を使用して行った消化率測定の平均値である。 上記(1)から(6)までの工程を図2のフローチャートに記載する。 なお、図2のフローチャート中の符号X、符号A、符号B、符号C、符号Dは、消化率を算出するための(数2)式における各事項がどの工程に最も関連するかを示したものである。「消化率を計算する時」はXである。所定の割合でセライト(A)とタンパク質(D)とを含有する飼料混合物を用意し、胃の中に投入する時はA,Dである。消化率残渣中のセライト含有率を調べるためのデータ取得はBである。また、消化物残渣中のタンパク質含有率を調べるためのデータ取得はCである。 (7)結論 セライトをマーカーとして含有させた人工配合飼料を懸濁して培養胃内投入することが可能であり、このマーカーを指標にしてクロマグロ成魚の培養胃をつかってタンパク質等飼料栄養素の消化率測定が可能と判断できた。 なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。 また、本明細書中に記載された非特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。 本発明は、特に、肉食性が強く腸の短い魚種の成魚、例えばマグロ属魚類(クロマグロ等)、ブリ属魚類(カンパチ、ブリ等)の養殖用飼料の開発に役立てることができる。と同様に、産業動物に対しても、産業動物に合わせた条件で、同手法を用いて飼料開発に役立てることができる。 1 胃 2 人工配合飼料 3 シリコン栓 4 シリコンチューブ 5 培養容器 6 ガラス容器 7 培養液 8 温度調整手段 9 ガス供給手段 10 マグネチックスターラー 30 培養手段 35 配管 36 ドレンパイプ 37 配管 38 貯留タンク 40 検出手段 50 定量手段 60 消化率算出手段 食用動物の体から摘出された胃の中に、消化に関するデータが予め取得された飼料を投入し、次いで前記胃を所定時間培養する培養工程と、 前記培養工程後に、前記胃内の前記飼料の残渣から前記飼料の消化に関するデータを取得し、次いで胃の培養前後での前記飼料の消化に関するデータから前記飼料の消化率を算出する消化率算出工程と、を含むことを特徴とする飼料の消化率測定方法。 前記食用動物が魚類であることを特徴とする請求項1に記載の飼料の消化率測定方法。 前記培養工程において、前記飼料と共に非消化吸収性マーカーを胃の中に投入することを特徴とする請求項1または2に記載の飼料の消化率測定方法。 前記非消化吸収性マーカーが、セライト、酸化クロムおよびフェノールレッドからなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項3に記載の飼料の消化率測定方法。 前記非消化吸収性マーカーの量が、前記飼料と前記非消化吸収性マーカーとの合計100重量%に対して0.5〜5重量%であることを特徴とする請求項3または4に記載の飼料の消化率測定方法。 前記魚類がマグロ属魚類であることを特徴とする請求項2に記載の飼料の消化率測定方法。 前記培養工程が培養容器に培養液および前記の摘出された胃を入れて実施され、前記培養液の温度が0〜40℃であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の飼料の消化率測定方法。 前記所定時間が4〜12時間であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の飼料の消化率測定方法。 食用動物の体から摘出された胃の中に、消化に関するデータが予め取得された飼料を投入し、次いで前記胃を所定時間培養するための培養手段と、 前記の培養の後に、前記胃内の前記飼料の残渣から前記飼料の消化に関するデータを取得し、次いで胃の培養前後での前記飼料の消化に関するデータから前記飼料の消化率を算出するための消化率算出手段と、を含むことを特徴とする飼料の消化率測定システム。 【課題】インビトロ(生体外)で、しかも従来技術よりも生体に近い環境下で食用動物の胃内での飼料の消化率を測定する方法を提供すること。【解決手段】食用動物の体から摘出された胃の中に、消化に関するデータが予め取得された飼料を投入し、次いで前記胃を所定時間培養する培養工程と、前記培養工程後に、前記胃内の前記飼料の残渣から前記飼料の消化に関するデータを取得し、次いで胃の培養前後での前記飼料の消化に関するデータから前記飼料の消化率を算出する消化率算出工程と、を含むことを特徴とする飼料の消化率測定方法。【選択図】図1