タイトル: | 公開特許公報(A)_ミトコンドリアのATP産生能昂進剤 |
出願番号: | 2012164646 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | A61K 31/7008,A61P 43/00,A61P 25/00,A61P 3/10,A23L 1/30 |
村田 昌之 塩田 邦郎 八木 慎太郎 JP 2014024772 公開特許公報(A) 20140206 2012164646 20120725 ミトコンドリアのATP産生能昂進剤 国立大学法人 東京大学 504137912 高島 一 100080791 土井 京子 100125070 鎌田 光宜 100136629 田村 弥栄子 100121212 山本 健二 100122688 村田 美由紀 100117743 小池 順造 100163658 當麻 博文 100174296 村田 昌之 塩田 邦郎 八木 慎太郎 A61K 31/7008 20060101AFI20140110BHJP A61P 43/00 20060101ALI20140110BHJP A61P 25/00 20060101ALI20140110BHJP A61P 3/10 20060101ALI20140110BHJP A23L 1/30 20060101ALI20140110BHJP JPA61K31/7008A61P43/00 105A61P25/00A61P3/10A23L1/30 Z 8 OL 20 (出願人による申告)平成22年度、独立行政法人医薬基盤研究所基礎研究推進事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願 4B018 4C086 4B018MD07 4B018ME03 4B018ME14 4C086AA01 4C086AA02 4C086EA02 4C086MA01 4C086MA02 4C086MA04 4C086MA05 4C086NA14 4C086ZA01 4C086ZB21 4C086ZC35 本発明は、ミトコンドリアのATP産生能昂進剤に関し、詳しくは、N−アセチル−D−マンノサミンの医薬用途に関する。 ミトコンドリアは、細胞における糖および脂質代謝制御、ATP産生、アポトーシス誘導に中心的な役割を果たすオルガネラである。特に、神経細胞の発生および分化過程における軸索伸長には、軸索でのミトコンドリアのATP産生が必要不可欠であり、ミトコンドリアの巨大化は、軸索へのミトコンドリア移行を阻害して結果的には脳機能の低下を誘起することが知られている。また、ミトコンドリアの機能不全(膜電位の低下、ATP産生能の低下など)による細胞のアポトーシス誘導が多くの神経変性疾患の原因として注目されてきている。 細胞内のミトコンドリアのATP産生能の阻害剤としては、ATP産生に必要なミトコンドリア膜電位を消失させる多くの低分子化合物(カルボニルシアニド−p−トリフルオロメトキシフェニルヒドラゾン(FCCP)、ロテノン、アンチマイシンIII)を中心に多数知られているが、逆にATP産生を昂進させる低分子化合物はほとんど知られていない。 N−アセチル−D−グルコサミンの異性体であるN−アセチル−D−マンノサミンは、例えば、医薬品や医薬品原料となるシアル酸(N−アセチルノイラミン酸)の酵素合成原料として知られている。また、N−アセチル−D−マンノサミンは、その誘導体から、シアル酸誘導体を酵素合成することが可能であり、産業上、重要な物質である。N−アセチル−D−マンノサミンの製造方法として、N−アセチルグルコサミンをアルカリ条件下で異性化する際に、ホウ酸またはホウ酸塩を添加することにより、N−アセチルマンノサミンへのモル変換収率を増大させる方法が知られている(特許文献1)。また、シアル酸を基質としてN−アセチルノイラミン酸リアーゼを反応させることにより、N−アセチル−D−マンノサミンを製造する方法も知られている(特許文献2)。N−マンノサミンのアシル化体を細胞に接触することにより、細胞表面へのレクチン結合を調節する方法または神経細胞の増殖を調節する方法が提案されている(特許文献3)。 本発明者らは、N−アセチル−D−マンノサミンが老化に伴う脳機能低下を改善することを見出している(特許文献4)。また、本発明者らは、N−アセチル−D−マンノサミンがレム睡眠障害を改善することも見出している(特許文献5) N−アセチル−D−マンノサミンは、シアル酸の合成原料または医薬品の中間体として利用されているが、最終産物として医薬品または食品に使用されていないのが現状である。また、N−アセチル−D−マンノサミンがミトコンドリアに作用することは知られていない。特開平10−182685号公報特開2001−78794号公報米国特許第6274568号公報国際公開第2010/027028号特開2011−178702号公報 本発明は、上記事情に鑑み成されたもので、その解決しようとする課題は、ミトコンドリアの機能不全を改善するための、有効かつ安全性の高い剤および医薬などを提供することにある。 本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、意外にもN−アセチル−D−マンノサミンがミトコンドリアのATP産生能を昂進させることを見出し、さらに検証を進め、本発明を完成するに至った。 即ち、本発明は以下のとおりである。〔1〕 N−アセチル−D−マンノサミンを含有してなる、ミトコンドリアのATP産生能の昂進剤。〔2〕 医薬である、〔1〕記載の昂進剤。〔3〕 保健機能食品または食品添加物である、〔1〕記載の昂進剤。〔4〕 N−アセチル−D−マンノサミンの有効量および医薬として許容されうる担体を含有してなる、ミトコンドリアの機能不全に起因する障害を予防、改善または治療するための医薬組成物。〔5〕 ミトコンドリアの機能不全に起因する障害が神経変性疾患または2型糖尿病である、〔4〕に記載の医薬組成物。〔6〕 N−アセチル−D−マンノサミンの有効量をそれを必要とする対象に投与する工程を含む、ミトコンドリアの機能不全に起因する障害の予防、改善または治療方法。〔7〕 N−アセチル−D−マンノサミンの有効量をそれを必要とする対象に摂取させる工程を含む、ミトコンドリアの機能不全に起因する障害の予防または改善方法。〔8〕 ミトコンドリアの機能不全に起因する障害が神経変性疾患または2型糖尿病である、〔6〕または〔7〕に記載の方法。 従来は、低分子化合物を用いて細胞のミトコンドリアのATP産生を昂進させることは困難であった。本発明のミトコンドリアのATP産生能昂進剤によると、含有成分であるN−アセチル−D−マンノサミンは低分子化合物で取り扱いが容易であり、水に易可溶性であり、試験管内での細胞内のATP産生を容易に制御可能である。これにより、ミトコンドリアの機能とATP産生能との関連に関する基礎研究の進展が期待できる。N−アセチル−D−マンノサミンを有効成分として含有する本発明の医薬組成物は、ミトコンドリアのATP産生能を昂進させることによって、ミトコンドリアのATP産生能の低下に起因する様々な障害を予防、改善または治療することができる。また、本発明の昂進剤を医薬または食品として使用する場合、単糖であるN−アセチル−D−マンノサミンを含むものであることから安全であり、日常的に摂取することにより、ミトコンドリアのATP産生能を昂進させ、細胞の恒常性を良好に保つことが期待できる。神経分化誘導後の4日目のN14.5細胞におけるミトコンドリアの膜電位をTMRM染色により光学顕微鏡下で観察した顕微鏡写真である。図中、Mannose deriv.はManNAcを示す。神経分化誘導後の4日目のN14.5細胞におけるミトコンドリアの膜電位をTMRM染色により光学顕微鏡下で観察し、蛍光強度を相対的に示したグラフである。図中、mannose derivativeはManNAcを示す。ManNAc処理したHeLa細胞における細胞内ATP量を示すグラフである。図中、Mannose誘導体はManNAcを示す。ManNAc処理したHeLa細胞におけるATP消費量を示すグラフである。図中、Mannose誘導体はManNAcを示す。ManNAc処理したHeLa細胞におけるメチルピルベート(MeP)存在下の細胞内ATP量を示すグラフである。図中、ManNacはManNAcを示す。グラフは、3mM glucoseと10mM methylpyruvateを作用させた細胞内ATP量の比率を表している。ManNAc処理したHeLa細胞におけるメチルピルベート(MeP)存在下の酸素消費量を示すグラフである。図中、ManNacはManNAcを示す。HeLa細胞のアポトーシスに対するManNAcの影響を調べた図である。HeLa細胞をManNAcで前処理(0.5、1.0mg/ml、20時間)した後、UV(0.05J/cm2)照射し、血清フリーのDMAE培地で、0、1、1.5、2時間培養を続け細胞にアポトーシスを誘導した。各時間で細胞を固定し、アポトーシス誘導された細胞をTUNEL法(左図)とCytochrome C放出アッセイ法(右図)を用いて検出し、全細胞数に対するアポトーシス細胞の割合を比較した。**:P<0.05、n=3。HeLa細胞をdigitonin処理で細胞膜を透過性にし、biotin-ManNAcを添加または無添加(Mock)で培養した細胞をStreptoavidin-Alexa488で染色した図である。HeLa細胞をdigitonin処理で細胞膜を透過性にし、biotin-ManNAcを添加または無添加(Mock)で培養した細胞をStreptoavidin-Alexa488で染色し、さらにミトコンドリアマーカータンパク質に対する抗体(抗COX IV抗体)で染色した図である。 本発明のミトコンドリアのATP産生能昂進剤(以下、単に「昂進剤」または「剤」と省略する場合がある)は、N−アセチル−D−マンノサミンを含有することを特徴とする。 本発明において、N−アセチル−D−マンノサミン(以下、ManNAcと省略する場合がある)とは、下記式(I):で示される、D−マンノサミンのN−アセチル体である。 本発明において、N−アセチル−D−マンノサミンとは、上記式(I)で示される単体に限定されるものではなく、その塩、その溶媒和物またはその誘導体を含む概念である。 N−アセチル−D−マンノサミンの塩としては、薬理学的に許容し得る塩、例えば、無機酸との塩、有機酸との塩、塩基性または酸性アミノ酸との塩などがあげられる。 無機酸との塩の例としては、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などとの塩があげられる。 有機酸との塩の例としては、安息香酸、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などとの塩があげられる。 塩基性アミノ酸との塩の例としては、アルギニン、リジン、オルニチンなどとの塩があげられ、酸性アミノ酸との塩の好適な例としては、アスパラギン酸、グルタミン酸などとの塩があげられる。 N−アセチル−D−マンノサミンの溶媒和物としては、好ましくは水和物(例、一水和物、二水和物など)、エタノレートなどがあげられる。 N−アセチル−D−マンノサミンの誘導体としては、下記式(II)に示すものを含む。〔式中、R1、R2、R3、R4およびR5は各々独立して水素(H)、R6、−C(=O)R6、−C(=O)OR6、−C(=O)NR6R7を示し、R6は置換していてもよいC1−C7の鎖状炭化水素または環状炭化水素を示し、R7は水素(H)、置換していてもよいC1−C7の鎖状炭化水素または環状炭化水素を示す。〕 置換基としてはF、Cl、Brを用いることができる。 また、N−アセチル−D−マンノサミンの誘導体には、標識されたN−アセチル−D−マンノサミンも含まれる。ここで標識とは、生体内におけるN−アセチル−D−マンノサミンの挙動を可視化する目的のために、単独であるいは当該標識を特異的に認識可能な検出試薬とセットで用いられるものをいう。好適な標識としては、ビオチン、放射性同位元素(3H、32P、35S、125Iなど)等が挙げられる。ビオチン化N−アセチル−D−マンノサミンは、蛍光標識または酵素標識したアビジン等の検出試薬を用いて検出することができる。標識されたN−アセチル−D−マンノサミンは、OGT(O-glycosyltransferase)の細胞内局在の可視化または個体内の臓器の定量化に使用することもできる。 N−アセチル−D−マンノサミンは、市販品を用いてもよく、公知の方法により製造したものを用いてもよい。N−アセチル−D−マンノサミンの製造方法として、N−アセチルグルコサミンをアルカリ条件下で異性化する方法(特開平10−182685号公報)、シアル酸を基質としてN−アセチルノイラミン酸リアーゼを反応させることにより製造する方法(特開2001−78794号公報)があげられるが、これに限定されるものではない。 本発明において、「ミトコンドリアのATP産生を昂進させる」とは、ManNAc作用前に比べて、ManNAc作用後にミトコンドリアのATP産生量が増加することをいう。したがって、ミトコンドリアのATP産生の昂進の程度は、ManNAc作用前後においてミトコンドリア由来の細胞内ATP量(MeP存在下)を測定することによって確認することができる。ManNAc作用前に比べて、ManNAc作用後に有意にミトコンドリアのATP産生量が増加した場合、ミトコンドリアのATP産生が昂進していると判断することができる。 ミトコンドリア由来の細胞内ATP量の測定方法としては、細胞の培養液を10mM methylpyruvate(Sigma Aldrich)を混合した培養液に置換し、15分間培養を続け、その後、細胞を回収し、細胞内ATP量を測定する方法があげられる。測定方法の詳細は、実施例1に記載されている。 ミトコンドリアのATP産生の昂進は、ミトコンドリアの膜電位の増加によっても間接的に確認することができる。ミトコンドリアの膜電位の測定方法の一例として、分子プローブであるテトラメチルローダミン(tetramethylrhodamine: TMRM)を培養細胞に取り込ませ、37℃、15〜30分間CO2インキュベーター内でインキュベートした後、蛍光顕微鏡または蛍光定量用のフローサイトメーターなどを用いて測定する方法があげられる。ミトコンドリアの膜電位測定の試薬は、http://www.invitrogen.jp/catalogue/molecular_probes/cell_bio_new/apoptosis/mitochondrial.shtmlに記載されている。 本発明において、「ミトコンドリアの機能不全」とは、ミトコンドリアのATP産生能が低下した状態をいう。 本発明において、「ミトコンドリアの機能不全に起因する障害」とは、ミトコンドリアのATP産生能の低下により、細胞の恒常性の破綻を誘起しうる状態から細胞の恒常性が破綻した状態までをいう。 本発明の剤は、具体的には、神経変性疾患および2型糖尿病からなる群より選ばれる障害の予防または改善を目的として投与または摂取することができる。ここで神経変性疾患としては、パーキンソン病、アルツハイマー病などがあげられる。膵β細胞のグルコース依存的なインスリン分泌には細胞内のミトコンドリア由来のATP産生能が必須であるので、2型糖尿病の予防または改善を目的とすることが好ましい。 かかる目的のため、本発明の剤は、N−アセチル−D−マンノサミン単独で、あるいは賦形剤(例えば、乳糖、ショ糖、デンプン、シクロデキストリン等)、場合によっては、香料、色素、調味料、安定剤、保存剤等も含有し、錠剤、丸剤、顆粒、細粒、粉末、ペレット、カプセル、溶液、乳液、懸濁液、シロップおよびトローチ等に製剤化して、医薬または保健機能食品もしくは食品添加物として用いることができる。 また、本発明の剤は、研究用試薬として用いることもできる。研究用試薬として用いる場合、本発明の剤は、N−アセチル−D−マンノサミン単独からなるものであることが望ましい。ミトコンドリアの標識用途には、標識されたN−アセチル−D−マンノサミン単独からなるものであることが望ましい。 研究用試薬である本発明の剤は、細胞の試験管内培養において、培地に添加して用いることができる。この場合、培地中の本発明の剤の濃度は、N−アセチル−D−マンノサミンとして、0.01〜20mg/mlが例示され、好ましくは0.05〜10mg/mlであり、より好ましくは0.1〜5mg/mlである。かかる範囲内のN−アセチル−D−マンノサミンを含有する培地で細胞を培養することにより、ミトコンドリアのATP産生能の昂進を維持することができる。 本発明の剤に通常含まれるN−アセチル−D−マンノサミンの量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されるものではないが、通常0.0001〜100重量%であり、好ましくは0.001〜99.9重量%である。 また、本発明は、有効量のN−アセチル−D−マンノサミンおよび医薬として許容されうる担体を含有する、ミトコンドリアの機能不全に起因する障害の予防、改善または治療するための医薬組成物を提供する。 医薬として許容されうる担体としては、例えば、賦形剤(例えば、乳糖、ショ糖、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン等)、崩壊剤(例えば、デンプン、カルボキシメチルセルロース等)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム等)、界面活性剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等)、溶剤(例えば、水、食塩水、大豆油等)、保存剤(例えば、p-ヒドロキシ安息香酸エステル等)などがあげられるが、これらに限定されるものではない。 N−アセチル−D−マンノサミンの有効量は、医薬としての効果を奏する限り特に限定されるものではないが、通常0.0001〜99.5重量%であり、好ましくは0.001〜99.0重量%である。 本発明の剤または医薬組成物は、哺乳動物(例、マウス、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ウマ、サル、ヒト)に対して、経口的あるいは非経口的に安全に投与することができる。 本発明は、N−アセチル−D−マンノサミンを添加してなる食品を提供する。 本発明の「食品」は、食品全般を意味するが、いわゆる健康食品を含む一般食品の他、厚生労働省の保健機能食品制度に規定される特定保健用食品や栄養機能食品等の保健機能食品をも含むものであり、さらにサプリメント、飼料等も本発明の食品に包含される。 食品用途の場合、N−アセチル−D−マンノサミンを、例えば、パン、菓子等の一般食品(いわゆる健康食品を含む)に含有させて用いることもできる。また、N−アセチル−D−マンノサミンを、賦形剤(例えば、乳糖、ショ糖、デンプン等)、場合によっては、香料、色素等と共に、錠剤、丸剤、顆粒、細粒、粉末、ペレット、カプセル、溶液、乳液、懸濁液、シロップおよびトローチ等に製剤化して、特定保健用食品や栄養機能食品等の保健機能食品、サプリメントとして用いることができる。また、本発明の食品は、飼料用途にも適用することができ、家禽や家畜等には、通常の飼料に添加して摂取または投与することができる。 食品または飼料として摂取する場合、食品または飼料の1日当たりの摂取回数および1回当たりの摂取量の目安を概算し、1日摂取量を規定した上で1日摂取量の食品または飼料に含まれるN−アセチル−D−マンノサミンの量を決定する。N−アセチル−D−マンノサミンの含有量は、後述する用量に基づいて決定することができる。 本発明の剤は、当該剤がミトコンドリアのATP産生能の昂進に使用することができることまたは使用すべきであることを記載した当該予防または改善剤に関する説明を記載した記載物をも含む商業用パッケージとして提供することもできる。 本発明の医薬組成物は、当該医薬組成物がミトコンドリアの機能不全に起因する障害の予防、改善または治療に使用することができることまたは使用すべきであることを記載した当該医薬組成物に関する説明を記載した記載物をも含む商業用パッケージとして提供することもできる。 本発明の食品は、含有するN−アセチル−D−マンノサミンの生物学的作用を有効に発揮させるためには、特定保健用食品または栄養機能食品として用いられることが好ましく、その際、「細胞内のATP産生能を高める」、「細胞の恒常性を保つ」という表示を付すことが推奨される。 本発明の剤、食品または医薬組成物の摂取または投与量は、摂取または投与対象の年齢、体重、健康状態によって異なり、一概に決定することはできない。例えば、健康の維持および増進を目的とする場合は、通常、食品の形態にして、一方、ミトコンドリアのATP産生能の低下に起因する障害の治療や健康回復を目的とする場合には、通常、医薬品または食品の形態にして、N−アセチル−D−マンノサミンとして、成人1日当たり0.1〜10g、好ましくは0.2g〜7gを1日1回から数回に分けて摂取または服用することが好ましい。 本発明の医薬(剤または医薬組成物)の投与方法としては、上記障害または疾患に対する予防的および治療的な効果が得られる経路であれば特に限定されない。例えば、非経口的投与(静脈内投与、筋肉内投与、組織内直接投与、鼻腔内投与、皮内投与、髄液内投与など)または経口投与により投与することができ、特に、該医薬をヒトに適用するには、静脈内、筋肉内または経口投与によって投与することができる。また、剤型としても特に制限されることなく、各種投与剤型、例えば、経口剤(顆粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤など)、注射剤、点滴剤、外用剤(経鼻投与製剤、経皮製剤、軟膏剤など)として投与することが可能である。 また本発明は、ミトコンドリアのATP産生能の低下に起因する障害の予防、改善または治療用医薬を製造するためのN−アセチル−D−マンノサミンの使用を提供する。具体的には、N−アセチル−D−マンノサミンを使用したミトコンドリアのATP産生能の低下に起因する障害の予防、改善または治療用医薬の製造方法を提供する。 本発明の医薬の製造方法は、製剤分野において自体公知の方法を限定なく用いることができる。 N−アセチル−D−マンノサミンは、ヒトの細胞内に中間体として微量含まれており、毒性(例、急性毒性、慢性毒性、遺伝毒性、生殖毒性、心毒性、薬物相互作用、癌原性)を有さず、ヒトに対する安全性は高いと考えられる。 本発明の剤、医薬組成物または食品は、実施例で示されるように、特に下記のような効果を有する。(1)細胞、特に神経細胞のミトコンドリアの正常な形態変化を促進させる。具体的には、ミトコンドリアの形態を伸長させ、ミトコンドリアの膜電位を増加させる。(2)細胞内のATP量を増加させ、ATP量の増加は、主としてミトコンドリアのATP産生能の昂進によるものである。(3)上記(1)〜(2)の効果は、ミトコンドリアのアポトーシス耐性能と深く関わっている。(4)膵β細胞におけるメタボローム解析により、N−アセチル−D−マンノサミンはシアル酸合成経路、TCA回路およびコリン代謝の上昇を誘起させることが解明された。 以下、実施例を示してさらに具体的に本発明を説明する。以下は代表的な実施例を示すものでこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。材料および方法 ヒトHeLa細胞(ATCC Number: CCL-2)、Chinese Hamster Ovary細胞(CHO細胞、ATCC Number: CCL-61)は、それぞれDMEM培地(10%ウシ血清、100 units/ml ペニシリン、100 μg/mlストレプトマイシン含有)、HamF12培地(5%ウシ血清, 100 units/mlペニシリン、100 μg/mlストレプトマイシン, 10 mM Hepes-KOH (pH7.4)含有)で37℃, 5% CO2環境下で培養した。ラット視交叉上核腹外部由来神経細胞株N14.5細胞(橋本誠一博士より供与された。参考文献:Developmental Neuroscience, Vol. 140, Pages 849-856, 2006)は、増殖培地(Neurobasal Medium、5%ウシ血清、B27 supplement、0.5 mM L-グルタミン、20 ng/ml basic fibroblast growth factor (bFGF), 20 ng/ml epidermal growth factor (EGF)、100 units/ml ペニシリン、100 μg/mlストレプトマイシン)で33℃, 5% CO2環境下で培養し、神経分化誘導時には分化培地(Neurobasal Medium、5% dialyzedウシ血清(非動化、56℃, 30分)、B27 supplement,20 ng/ml bFGF、20 ng/ml EGF、100 units/mlペニシリン、100 μg/mlストレプトマイシン)で39℃, 5% CO2環境下で培養した。 N−アセチル−D−マンノサミン(ManNAc)を所定の濃度(0.5mg/ml〜1.0mg/ml)となるように培地に添加し、さらに24時間培養を続けることによって、ManNAcの培養細胞に対する影響を調べた。実施例1:ManNAc作用後の細胞内ATP量の測定1)細胞内ATP量 ManNAc作用後、細胞をPBSで洗浄し、Cell Culture Lysis Reagent (Promega)を適量加えた(6cm dish(400μl/dish)10cm dish(900μl/dish) 96well(20μl/well)。次に、培養ディッシュに付着した細胞を、加えた溶液ごと掻き取り微小遠心管に入れ、10,000×gで3分間遠心して細胞の破片を沈殿させ、遠心上清(細胞抽出液)を新しいチューブに移した。得られた上清を、ATP determination kit(Molecular Probe)を用いてルミノメーター(Perkin Elmer)で発光強度を測定した。測定値の規格化のため、溶解液中のタンパク質量を、BCA assay kit(Pierce)を用いて、プレートリーダー(BioRad)で吸光度を測定した。詳細なプロトコルは、下記を参照のこと。http://www.promega.com/~/media/Files/Resources/ProtCards/Luciferase%20Assay%20Systems%20Quick%20Protocol.pdf2)ATP消費量 グルコースを除去したKrebs Ringer buffer(130mM NaCl、3.6mM KCl、0.5mM NaH2PO4、0.5mM MgSO4、1.5mM CaCl2、10 mM HEPES、2mM NaHCO3、pH7.4)にManNAcを混合した溶液と混合しない溶液とを準備し、細胞をPBSで洗浄後、前記混合溶液または非混合溶液を作用させ、毎時間毎に細胞を回収し、上記1)と同様に、細胞内ATP量を測定した。3)ミトコンドリア由来の細胞内ATP量(MeP存在下) ManNAc作用後、低グルコース(3mM)または10mM methylpyruvate(Sigma Aldrich)を混合した培養液に置換し、15分間培養した。その後、細胞を回収し、上記1)と同様に、細胞内ATP量を測定した。4)酸素消費量 ManNAc作用後、トリプシンを作用して細胞を回収し、Hepes-KOH(30mM、pH7.3)をHanks Balance Salt mediumに混合した溶液で懸濁し、1×106個/mlの細胞数に調整した。その後、37℃に保温したチャンバー内でクラークタイプ電極(Hansatech)を使用し、細胞の酸素消費量を測定した。実験結果1.ManNAcによるN14.5細胞のミトコンドリア伸長促進効果 まず、本発明者らは、ManNAcがHeLa細胞、CHO細胞およびN14.5細胞のミトコンドリアを異常伸長させることを発見した。最近、ミトコンドリアの正常な形態変化が正常な神経分化過程に重要であるという報告(Ishihara et al., Nat. Cell Biol. 2009, 11: 958-966)がなされたことなどから、特にManNAcによるミトコンドリアの形態伸長メカニズムとそれに伴う機能変化に注目して実験を進めた。 Mitotracker染色またはTMRM染色によるミトコンドリア膜電位の光学顕微鏡下での計測によると、ManNAc処理(分化誘導後4日間、0.5mg/ml培地に添加)したN14.5細胞においては、コントロールのミトコンドリア膜電位に比べ、膜電位差が約1.2〜1.4倍高いこともわかった(図1)。一般に、ミトコンドリアの膜電位の増加は、ATP産生能の昂進を意味している。2.ManNAcのミトコンドリア機能に対する影響 ManNAcがN14.5細胞のミトコンドリア伸長促進と、その膜電位増加を誘起していることがわかった。次に、ミトコンドリアの機能に対するManNAcの効果をより詳細に検討するために、HeLa細胞およびCHO細胞を用いて研究を進めた。 その結果、ManNAc(0.5mg/ml、24時間)処理したHeLa細胞では、明らかに細胞全体のATP量が増加していることがわかった(図2A)。このATP量の増加は、ManNAc処理を少なくとも18時間以上行うときのみ現れる。次に、ManNAcが糖誘導体として代謝経路に入ることでミトコンドリアまたは解糖系でのATP産生量に変化を与えているかどうかを調べた。この目的のため、グルコース除去(グルコース(−))条件下で、ManNAc有る無しの条件下でHeLa細胞を培養し続け、細胞内ATP量を経時計測した。グルコース(−)条件では、細胞内のATP量は時間とともに減少していくが、ManNAc存在下においてもそのATP消費量の減少のキネティクスは、コントロールと比べて変化は見られなかった(図2B)。このことより、ManNAcは代謝経路に入ることなく細胞内のATP量の増加に寄与していることが明らかとなった。 次に、ManNAc処理した細胞におけるATP量の増加の原因を調べた。ミトコンドリアのATP産生の原料であるメチルピルベート(MeP)を細胞に添加すると、MePは即座にミトコンドリアに取り込まれて酸化的リン酸化の原料となり、細胞質で行われる解糖系に非依存的な細胞のATP産生を測定できる。MeP存在下で細胞内のATP濃度を測定してみたところ、コントロールに比べてManNAc処理した細胞では明らかにATP産生量が増加していることがわかった(図3A)。この結果は、ミトコンドリアのATP産生能昂進が細胞内のATP産生増加の原因であることを強く示唆した。実際、細胞のミトコンドリアの酸化的リン酸化の指標となる細胞全体の酸素消費量をクラーク電極で測定したところ、ManNAc前処理の細胞では、酸素消費量が有意に上昇していることもわかった(図3B)。 以上の結果より、ManNAc処理によりミトコンドリアのATP産生能は昂進しており、細胞全体の酸化的リン酸化も盛んになっていることが明らかになった。このManNAc処理によるミトコンドリアのATP産生能の昂進が、同じくManNAc処理によるN14.5神経細胞の軸索伸長を誘起した可能性は非常に高いが、その分子機構は不明な点が多い。ManNAc処理によるミトコンドリアの伸長やそれに伴う膜電位の増加、ATP産生能の昂進は、HeLa細胞をManNAcに暴露して15〜24時間経過しないと現れない効果であることより、ManNAcが細胞内の代謝系に入ることで現れる性急な効果ではないと想像させる。一方、ManNAc前処理した細胞では、OGT酵素による様々なタンパク質のO−グリコシレーションがコントロールやN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)処理の場合に比べて有意に増加していることも確認している。このことは、これらタンパク質の糖修飾産物がミトコンドリアの機能昂進に何らかの影響を与えている可能性も考えられる。 例えば、ミトコンドリア機能への影響の一つとして、本発明者らは、ManNAcによるHeLa細胞前処理(0.5-1.0mg/ml、20時間)により、HeLa細胞のアポトーシス耐性が増加していることを見出している(図4)。ミトコンドリアは、その細胞内環境(代謝)の変化を様々な仕組みでセンサーし、特にアポトーシス誘導因子(cytochrome Cなど)の放出制御の形で細胞の生死を制御している。そして、その形態変化、ATP産生能やミトコンドリアDNA(mtDNA)量は、ミトコンドリアのアポトーシス耐性能と深く関わっているとされている。実施例2:ManNAcの細胞内挙動 以上の結果から、ManNAcは実際に細胞内に入り、ミットコンドリアに作用し、未知の機構でそのATP産生能を向上させているようである。そこで、実際にManNAc分子が細胞内に導入されているかどうかを確認する実験を行った。方法としては、ビオチン化したManNAc(biotin化ManNAc)を合成し、HeLa細胞培地中に添加し、細胞内に導入されたbiotin化ManNAcを蛍光標識したAvidinにより検出する方法を用いた。その結果、biotin化ManNAcの検出はできなかった。この原因として、当該分子が細胞内に入らないか、または入ったとしてもその量が少量であり、Avidin-biotin法を用いた検出法では検出不可能であった可能性もある。そこで、次に、セミインタクト細胞法により、biotin化ManNAcは細胞内のオルガネラに直接ターゲットするかどうかを調べた。この方法では、細胞膜を通過した場合の、当該分子の局在がわかる。具体的には、HeLa細胞をdigitonin処理で細胞膜を透過性にし、biotin化ManNAcを添加した再構成系細胞質(biotin-ManNAc)もしくはbiotin-ManNAc無添加細胞質(Mock)を加え、32℃で20分間培養した。その後、PFAで固定し、再びTX-100で細胞膜を透過させ、Streptoavidin-Alexa488で染色を行った。 この結果、「細胞質依存的に」biotin化ManNAcが核または細胞質中の小器官にターゲットしていることがわかった(図5)。この細胞質に点在するbiotin化ManNAc陽性(染色された)小器官がミトコンドリアであることは、蛍光抗体法を用いたミトコンドリアのマーカータンパク質COX IVとの共染色でも明らかになった(図6)。これらの結果は、細胞に入ったManNAc分子は、核またはミトコンドリアへ「細胞質依存的に」ターゲットするということである。核またはミトコンドリアには、OGT(O-glycosyltransferase)が局在するとされており、その2つのオルガネラにManNAc分子自身がターゲットしたということは、このターゲットが生理的に意味があることを示唆している。また、そのターゲットが細胞質依存的であることも、当該分子の細胞内動態が単なる自然拡散ではなく、細胞質因子(タンパク質)により生理的に制御されたものであることを示唆している。実施例3:ManNAc処理後のMIN6細胞の網羅的メタボローム解析 糖感受性があるとされている膵β細胞のモデル細胞であるMIN6細胞を用いて、ManNAc処理(0.5mg/ml添加して24時間、CO2インキュベーター内で培養)後の細胞の網羅的メタボローム解析を行った。解析は、ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ(株)に依頼し、CE-TOFMS(キャピラリー電気泳動−飛行時間型質量分析計)を使用し、カチオンモード、アニオンモードによる測定を実施した。その結果、207ピーク(カチオン91、アニオン116)の検出に成功した。 メタボローム解析結果をまとめると、MIN6細胞において、ManNAc作用は、シアル酸合成経路、TCA回路、コリン代謝の上昇を誘起することがわかった。以下にその詳細を示す。シアル酸合成経路 ManNAcは、細胞に取り込まれた後、ManNAc-6-phosphate、NeuNAc、CMP-NeuNAcに変換され、ゴルジ体内での膜タンパク質のグリコシル化(シアル酸の膜タンパク質への付加)の材料として消費される。今回のメタボローム解析結果から、NeuNAc(9.5倍)、CMP-NeuNAc(2.9倍)の上昇が観察され、細胞内シアル酸量の上昇が示唆された。Wang(Wang Z, Sun Z, Li AV, Yarema KJ. Roles for UDP-GlcNAc 2-epimerase/ManNAc 6-kinase outside of sialic acid biosynthesis: modulation of sialyltransferase and BiP expression, GM3 and GD3 biosynthesis, proliferation, and apoptosis, and ERK1/2 phosphorylation. J. Biol. Chem. 2006 Sep 15;281(37):27016-28.(PMID:16847058):HEKAD293細胞における1細胞あたりのシアル酸量が、培養培地に5.0mMのManNAcを添加時には約2.5倍に、30mMでは約10倍に増加する事を示した。細胞内のシアル酸量は過ヨウ素酸-レゾルシノール法を適応して測定している。)らは、HEK細胞においてManNAcの作用が細胞内シアル酸の有意な上昇を誘起すること、また、ManNAc誘導体の細胞への作用は、細胞でのシアル酸が有意な上昇を示すこと(Kim et al., (Kim EJ, Sampathkumar SG, Jones MB, Rhee JK, Baskaran G, Goon S, Yarema KJ. Characterization of the metabolic flux and apoptotic effects of O-hydroxyl- and N-acyl-modified N-acetylmannosamine analogs in Jurkat cells. J. Biol. Chem. 2004 Apr 30;279(18):18342-52. (PMID:14966124):JurKat細胞における1細胞あたりのシアル酸量が、培養培地にヒドロキシル変性(O-Ac, O-Prop, O-But)ManNAc誘導体添加時には増加する事を示した。シアル酸量は添加前には1細胞あたり約5×108Mol程度だったが、MacNAc誘導体150μM添加時には1.5-4.5×109Mol程度に、500μM添加時には1.5-5.0×109Mol程度に増加した。細胞内のシアル酸量は過ヨウ素酸-レゾルシノール法を適応して測定した。))を示しており、これらの知見は、今回の解析結果を一致している。これらの事実から、ManNAcの作用は、シアル酸経路を活性化し、シアル酸合成を促進することが推測されるが、Wang、Kimらの報告から考察しても、細胞内シアル酸の上昇による細胞内機能の変化は不明である。しかし、最近、シアル酸は、抗酸化物質として作用し、過酸化水素水の作用による細胞死を抑制することが証明された(Iijima et al.(Iijima R, Takahashi H, Namme R, Ikegami S, Yamazaki M. Novel biological function of sialic acid (N-acetylneuraminic acid) as a hydrogen peroxide scavenger.FEBS Lett. 2004 Mar 12;561(1-3):163-6.(PMID:15013770):20-120μMのH2O2(過酸化水素)の培地への添加によるEL-4マウスリンパ腫細胞の細胞生存阻害が、糖鎖を構成するシアル酸であるN-アセチルノイラミン酸0.31-10mMの添加により、防止される事を示した。細胞生存率は、3-(4,5-ジメチル-2-チアゾリル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド((3-(4,5-dimethyl-2-thiazolyl)-2,5-diphenyl-2H-tetrazoliumbromide: MTT)法を用いて測定した。)。N-アセチルノイラミン酸(シアル酸)はManNAcを原料として生合成されるため、この報告から、ManNAcによる細胞内シアル酸の上昇がMIN6細胞において抗酸化作用を示す可能性も示唆される。 本メタボローム解析において注目すべき点は、GlcNAc(18倍)の異常な上昇である。ManNAcは、GlcNAcがUDP-GlcNAcに変換され、その後GNEの作用により、ManNAcが生成される。このことは、ManNAcの作用はシアル酸合成経路のManNAcの上流経路に影響を与えており、GlcNAcの消費を抑制させることで、GlcNAcの細胞内への蓄積を促進させていることが示唆された。GlcNAcは、O-GlcNAcylationの材料として消費され、O-GlcNAcylationされたタンパク質は、細胞内での転写やシグナル伝達を制御することが知られている。このことから、ManNAcの作用は、GlcNAcの上昇を誘起することでO-GlcNAcylationに関与する可能性が示唆された。TCA回路 ミトコンドリア内に取り込まれたピルビン酸は、ミトコンドリアのTCA回路と電子伝達系とを利用して、細胞のエネルギー源であるATPを産生する。本解析から、ManNAcの作用は、ピルビン酸(1.7倍)、cis-アコニット酸(1.2倍)、カプロン酸(1.1倍)、2-オキソグルタル酸(1.3倍)、コハク酸(1.2倍)、フマル酸(1.2倍)、マレイン酸(1.1倍)とTCA回路における中間代謝物が少量であるが軒並み上昇していることがわかった。この結果は、ManNAcの作用は、TCA回路の活性化を誘起することを示唆している。実際、本発明者らが観察したHeLa細胞における細胞内ATPは、少量であるが有意に上昇していることから、ManNAcの作用は、TCA回路を活性化することでミトコンドリア内の機能を制御していることがわかった。コリン コリンは必須栄養素であり、その代謝産物であるアセチルコリンは、神経伝達物質として働き、また、S−アデノシルメチオニンは、メチル基の原料として細胞内の重要な機能を担っている。本解析から、ManNAcの作用は、コリン(1.2倍)、N,N−ジメチルグリシン(1.2倍)の有意な上昇が観察された。N,N−ジメチルグリシンは、グリシンの誘導体であり、コリンからミトコンドリア内で生成される。このことは、ManNAcの作用により、何らかのミトコンドリアの機能を制御していることが示唆された。また、本解析からManNAcの作用は神経細胞におけるアセチルコリンの上昇を誘起する可能性が示唆された。 以上の網羅的メタボローム解析の結果と、biotin化ManNAcの細胞内局在の観察結果から、ManNAcが細胞に入り、明らかに細胞内で様々な代謝経路に影響を及ぼしていることがわかった。また、本メタボローム解析では、ManNAc濃度が0.5mg/mlと高めの濃度であったため、同じ細胞を用いてManNAc濃度を10μg/mlに下げて同じく網羅的メタボローム解析を行った。その結果もまとめると、高濃度のときよりも顕著な変化は見られないが、総じて細胞代謝の活性化状態は程度は低いが確実に起こっていることがわかった。 本発明により、ManNAcを有効成分として含有する医薬、食品などが提供される。本発明の医薬または食品の服用または摂取によりミトコンドリアのATP産生能の低下を予防、改善または治療することができる。 N−アセチル−D−マンノサミンを含有してなる、ミトコンドリアのATP産生能の昂進剤。 医薬である、請求項1記載の昂進剤。 保健機能食品または食品添加物である、請求項1記載の昂進剤。 N−アセチル−D−マンノサミンの有効量および医薬として許容されうる担体を含有してなる、ミトコンドリアの機能不全に起因する障害を予防、改善または治療するための医薬組成物。 ミトコンドリアの機能不全に起因する障害が神経変性疾患または2型糖尿病である、請求項4に記載の医薬組成物。 N−アセチル−D−マンノサミンの有効量をそれを必要とする対象に投与する工程を含む、ミトコンドリアの機能不全に起因する障害の予防、改善または治療方法。 N−アセチル−D−マンノサミンの有効量をそれを必要とする対象に摂取させる工程を含む、ミトコンドリアの機能不全に起因する障害の予防または改善方法。 ミトコンドリアの機能不全に起因する障害が神経変性疾患または2型糖尿病である、請求項6または7に記載の方法。 【課題】ミトコンドリアの機能不全を改善するための、有効かつ安全性の高い剤および医薬などを提供する。【解決手段】N−アセチル−D−マンノサミンを含有してなる、ミトコンドリアのATP産生能の昂進剤。本発明の剤は、医薬または保健機能食品もしくは食品添加物として用いられる。N−アセチル−D−マンノサミンの有効量および医薬として許容されうる担体を含有してなる、ミトコンドリアの機能不全に起因する障害を予防、改善または治療するための医薬組成物。【選択図】なし