生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_神経突起伸張剤
出願番号:2012153368
年次:2014
IPC分類:A61K 38/17,A61L 27/00,A61P 25/00,A61P 25/16,A61P 25/28


特許情報キャッシュ

佐々木 和夫 森松 文毅 加藤 道信 JP 2014015415 公開特許公報(A) 20140130 2012153368 20120709 神経突起伸張剤 日本ハム株式会社 000229519 特許業務法人特許事務所サイクス 110000109 佐々木 和夫 森松 文毅 加藤 道信 A61K 38/17 20060101AFI20131227BHJP A61L 27/00 20060101ALI20131227BHJP A61P 25/00 20060101ALI20131227BHJP A61P 25/16 20060101ALI20131227BHJP A61P 25/28 20060101ALI20131227BHJP JPA61K37/12A61L27/00 ZA61P25/00A61P25/16A61P25/28 9 1 OL 19 4C081 4C084 4C081AB18 4C081BA12 4C081BA13 4C081CD121 4C081EA02 4C081EA16 4C084AA02 4C084BA44 4C084CA21 4C084DA40 4C084NA14 4C084ZA01 4C084ZA02 4C084ZA15 4C084ZA16 本発明は、コラーゲンを有効成分とする、神経細胞の再生のために有効な剤に関する。本発明は、再生医療の分野等で有用である。 事故などで切断されてしまった末梢神経を再びつなげるために、末梢神経のギャップを人工チューブで連結し、神経再生を促す治療方法が臨床応用されつつある。 例えば、特許文献1は、耐圧性、形状回復性、耐キンク性、耐膜剥がれ性、外部組織進入防止性、及び耐漏れ性に優れた神経再生誘導管を製造する方法として、複数本の生分解性ポリマーからなる極細繊維で編んだ管状体の外部表面をコラーゲン溶液で複数回塗布することにより被覆し、さらに前記管状体の内部にコラーゲンを充填することを含む神経再生誘導管の製造方法において、管状体の外部表面に最初に塗布されるコラーゲン溶液の粘度が2CPS〜800CPS、好ましくは5CPS〜200CPSであることを特徴とする方法を提供する。また、特許文献2は、コラーゲンを神経再生の足場として使用する神経再生誘導管において、pH7.0以上、9.5以下の等電点沈殿を行い、塩化ナトリウム含有濃度を乾燥状態で2.0重量%以下になるように処理したコラーゲンを使用することを特徴とする神経再生誘導管を提供する。これによると、コラーゲンの製造工程で必然的に混入される塩化ナトリウムの含有濃度を2重量%以下に低下させた精製コラーゲンを使用することによって、神経細胞の接着性、細胞増殖能及び分化誘導能に優れた神経再生誘導管を提供することができるとしている。 一方、神経細胞の分化促進活性を有する物質がいくつか知られており、例えば特許文献3は、EPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)、DPA(ドコサペンタエン酸)およびこれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1つを有効成分として含有することを特徴とする神経幹細胞の神経分化促進剤を提案する。この剤は、神経組織、細胞の脱落・障害が原因となる神経系疾患、脳血管性あるいは老年性の認知症/認知障害、もしくはアルツハイマー病などにおける神経退行性疾患、筋萎縮性側索硬化症(ロウ・ゲーリッヒ病)、パーキンソン病など種々の脳血管障害もしくは神経性疾患、あるいは外傷による脊髄損傷等を治療する目的で使用することを期待したものである。また、特許文献4は、Gly−Pro−Alaで表されるペプチドまたはその塩を有効成分とする神経細胞分化促進剤を提供する。ここでは、この神経細胞分化促進剤の有効成分であるペプチド(Gly−Pro−Ala)は、コラーゲンなどの生体由来のものであるため、安全性が高いことが述べられている。この神経細胞分化促進剤は、ヒトや非ヒト動物内における神経疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、認知症、うつ病)の治療剤として提案されている。特開2009−136575(特許第4596335号)WO2010/087015(特許第4572996号)WO2006/090745特開2011−111440 損傷を受けた神経機能を復元させる再生医療は、従来法では治療困難であった障害・疾患への適用が期待されている革新的な技術である。神経再生機能がより高い医療用コラーゲンがあれば望ましいことは言うまでもない。 本発明は、以下を提供する:[1] 皮膚由来の、コラーゲンを有効成分とする、神経突起伸張剤。[2] コラーゲンが、ブタ由来である、[1]に記載の剤。[3] コラーゲンが、新鮮皮膚を脱脂して得られた脱脂原料を、酸性条件下にてペプシンで分解処理し、得られた水溶液を、pH2〜3にて塩化ナトリウム終濃度5%で塩析濃縮して得られるものである、[1]または[2]に記載の剤。[4] コラーゲンが、少なくともタイプIコラーゲンおよびタイプIIIコラーゲンを含む、[1]〜[3]のいずれか一に記載の剤。[5] コラーゲンにおけるチロシン含量が、アミノ酸1000残基中3以下である、請求[1]〜[4]のいずれか一に記載の剤。[6] [1]〜[5]のいずれか一に定義したコラーゲンを有効成分とする、シナプス形成剤。[7] 哺乳類の神経細胞に対して有効である、[1]〜[6]のいずれか一に記載の剤。[8] 胚性細胞由来の神経細胞に対して有効である、[1]〜[7]のいずれか一に記載の剤。[9] 医療用である、[1]〜[8]のいずれか一に記載の剤。 本発明の剤は、神経突起の伸張を促進しうる。また、シナプス形成も促進している可能性がある。 本発明の剤は、神経細胞において、クラスIVaβ-チューブリン、β1インテグリン、ラミニンα1鎖および/またはCaMK-IIγの転写を促進しうる。コラーゲンH(NMPコラーゲンPS)をコーティングした基剤で2日間培養した、マウス胚性腫瘍細胞株 P19由来の神経細胞の写真。大きな細胞塊を形成せず、1〜5個程度の細胞塊を形成し、細く長い神経突起を伸張させる。観察した限りにおいて一本の神経突起の長さは数百μmの達しており、また、近接した神経突起同士の結合も観察されることから、シナプスの形成も示唆された。コラーゲンH1(ブタ皮膚製コラーゲンI溶液)を用いて同様に培養した神経細胞の写真。セルマトリックスタイプ I -A(ブタ腱由来, 酸可溶性, 新田ゼラチン)を用いて同様に培養した神経細胞の写真。セルマトリックスタイプ I -P(ブタ腱由来, ペプシン可溶化, 新田ゼラチン)を用いて同様に培養した神経細胞の写真。セルマトリックスタイプ I -C(ブタ皮由来, 低粘度, 新田ゼラチン)コラーゲンN3を用いて同様に培養した神経細胞の写真。セルマトリックスタイプ III (ブタ皮由来, 新田ゼラチン)を用いて同様に培養した神経細胞の写真。コラーゲンタイプI ブタ真皮由来(ペプシン可溶化, ニッピ)を用いて同様に培養した神経細胞の写真。クラスIVaβ-チューブリン遺伝子発現解析の結果。H;NMPコラーゲンPS、H1;ブタ皮膚製コラーゲンI溶液、NA;セルマトリックスタイプ I -A、NP;セルマトリックスタイプ I -P、NC;セルマトリックスタイプ I -C、N3;セルマトリックスタイプ III、P;コラーゲンタイプI ブタ真皮由来(ペプシン可溶化)。以下の図において同じ。β1インテグリン遺伝子発現解析の結果。ラミニンα1鎖遺伝子発現解析の結果。CaMK-IIγ遺伝子発現解析の結果。 本明細書および本発明において、「 〜 」で範囲が表されている場合は、特に記載したときを除き、両端を含み、また、「%」や比で表された値は、特に記載したときを除き、重量に基づく値である。 〔コラーゲン〕 本発明の剤は、コラーゲンを有効成分とする。本発明者らの検討によると、特定のコラーゲンは、神経突起の伸張を促進させ、また近接した神経突起同士の間でのシナプスの形成を促進しうる。本発明の剤は、このような神経突起の伸張を促進する機能を有するコラーゲンを有効成分とする。本発明で「コラーゲン」というときは、出発原料からコラーゲンを得るための工程を経て得られた、主成分をコラーゲンとするものをいい、一のタイプのコラーゲンである場合もあり、数種のタイプのコラーゲンからなる組成物である場合もある。精製度合も様々であり得る。 本発明の有効成分であるコラーゲンの原料として、皮膚を用いることができる。原料を得るための動物種は特に限定されないが、哺乳類動物であることが好ましく、哺乳類動物の例として、例えば、ヒト、ブタ、牛、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジが挙げられる。このうち、比較的大量に入手でき、医療用材料としての安全性がよく検討されているとの観点からは、ブタが好ましい。 原料を得る部位としては、皮膚、腱、骨、軟骨、臓器等を挙げることができる。一種のみを用いてもよく、二種以上を用いてもよい。本発明のコラーゲン組成物を得るため原料の特に好ましい例は、新鮮な(原料採取後、数時間以内、好ましくは3時間以内に、必要な工程に供するかまたは凍結保存された)、ブタ由来の皮膚である。 本発明の一態様においては、コラーゲンは、少なくともタイプIコラーゲンとタイプIIIコラーゲンを含む。タイプIコラーゲンは、線維性コラーゲンであり、骨や皮膚の真皮に多く含まれる。α1鎖(I型)2本とα2鎖(I型)1本とにより、三重らせんを形成している。タイプIIIコラーゲンは、通常、細網線維を形成し、細胞などの足場となっているほか、創傷治癒過程においては、初期段階で増産され、やがてI型コラーゲンに置き換わることが知られている。 本発明の一態様においては、有効成分であるコラーゲンにおいて、タイプIコラーゲンとタイプIIIコラーゲンとの比(タイプIコラーゲンとタイプIIIコラーゲンとの総量を100とした場合)は、65.0〜97.0:35.0〜3.0であり、好ましくは70.0〜96.0:30.0〜4.0であり、より好ましくは75.0〜95.0:25.0〜5.0である。 本発明の一態様においては、コラーゲンは、タイプIおよびタイプIIIを含み、他のタイプのコラーゲンを実質的に含まない。 タイプIおよびIIIの割合を測定・算出する方法は、当業者にはよく知られている。また当業者であれば、本願明細書の実施例の項に示した具体的な方法にしたがって、適宜測定・算出することができる。 本発明の一態様においては、次のいずれの要件を満たしており、好ましくは次のすべての要件を満たすものである: ハイドロキシプロリン含量(全アミノ酸重量あたりのハイドロキシプロリン重量) 8〜17%、好ましくは9〜16%、より好ましくは10〜15%; チロシン含量(アミノ酸1000残基中) 4以下、好ましくは3以下; 比旋光度(°)(0.3mg/ml、20℃、100mm、D 線) −350〜−450、好ましくは−355〜−430、より好ましくは−360〜−420。 ハイドロキシプロリンはコラーゲンに特徴的なアミノ酸である。したがって、コラーゲン組成物中に占めるハイドロキシプロリンの割合は、コラーゲンの純度を表す指標となる。ハイドロキシプロリンの測定方法は、医療用コラーゲンの評価方法等として当業者にはよく知られているが、典型的には、6N 塩酸を用いて対象物を加水分解し、全自動アミノ酸分析計を用いて測定し、全アミノ酸重量あたりのハイドロキシプロリン重量をハイドロキシプロリン含量として算出することによる。 チロシンはコラーゲン分子の繰り返し配列内(三重らせん構造部分)にはほとんど存在せず、テロペプチド部分に多く含まれており、このテロペプチド部分は抗原性を有しうる。したがって、テロペプチドが酵素消化処理等で除かれている(アテロ化)ことが好ましい場合がある。チロシン含量は、アテロ化または低アレルゲン性(非抗原性)の指標となりうる。本発明でコラーゲンに関し、「低アレルゲン性」というときは、特に記載した場合を除き、チロシン含量(1000残基中)が4以下、好ましくは3以下であることをいう。チロシン含量の測定方法は、医療用コラーゲンの評価方法等として当業者にはよく知られているが、典型的には、6N 塩酸を用いて対象物を加水分解し、全自動アミノ酸分析計を用いて測定した後、アミノ酸1000 残基あたりのチロシン残基数をチロシン含量として算出することによる。 比旋光度は三重らせん構造の指標となりうる。旋光度が適切な範囲内にあることは、変性していないか、または変性がごく少ないことの指標となり得る。比旋光度の測定方法は、コラーゲンの評価方法等として当業者にはよく知られているが、典型的には、第十四改正日本薬局方一般試験法「旋光度測定法」(0.3mg/ml、20℃、100mm、D 線)による。 本発明の一態様においては、コラーゲンは、エンドトキシン含量が低い。また、本発明の一態様においては、コラーゲンは、ウイルス不活化処理がされている。 本発明の剤に用いられるコラーゲンは、出発原料から、種々の工程を経て、得ることができる。例えば、下記の工程による: 1)不要な部位を適宜除いた原料を、洗浄し、脱水した後、0〜30℃のイソプロパノールおよびアセトンそれぞれを用いて、洗浄し、数時間〜数日間、脱脂処理する。 2)脱脂済み原料を、酸性に、好ましくはpH1〜5に、より好ましくはpH2〜4に塩酸等で調整し、タンパク質分解酵素ペプシンを添加して、数時間〜数日間、分解処理する。 3)ペプシンの失活処理をした後、必要に応じてろ過して固形物を除き、酸性下、好ましくはpH1〜4、より好ましくはpH2〜3で塩析し、遠心分離により濃縮する。 必要に応じ、塩析濃縮ステップを繰り返し、また必要に応じ、除菌等の処理を行い、得られた溶液を凍結乾燥することにより、白色粉末のコラーゲンが得られる。 本発明一態様においては、上述の1)〜3)の工程に、コラーゲンIの含量を高めるための処理、すなわち下記の工程を加えることができる。 4)得られた白色粉末コラーゲンを精製水に、濃度0.1〜1%、好ましくは0.2〜0.5、より好ましくは0.3〜0.35%となるように溶解し、中性付近、好ましくはpH6〜8、より好ましくはpH7.4に水酸化ナトリウム溶液で調製し、終濃度が12%となるようNaClを添加して塩析を行う。 5)遠心分離して上清を回収し、酸性下、好ましくはpH1〜4、より好ましくはpH2〜3で塩析し、遠心分離により濃縮し、得られた濃縮物を濃度0.5〜2%程度に溶解し、必要に応じフィルターでろ過し、また必要に応じ、除菌等の処理を行い、pH調節(酸性、好ましくはpH2〜4、より好ましくはpH3)し、濃度調節し、約1%のコラーゲン溶液を得る。 本発明者らの検討によると、新鮮皮膚を脱脂して得られた脱脂原料を、酸性条件下にてペプシンで分解処理し、得られた水溶液を、pH2〜3にて塩化ナトリウム終濃度5%で塩析濃縮して得られたコラーゲン、すなわち上記の1)〜3)の工程を含むが、4)および5)の工程は含まない製造方法により得られたコラーゲンを塗布した基材上で培養したマウス胚性腫瘍細胞株P19由来の神経細胞は、大きな細胞塊を形成せず、1〜5個程度の細胞塊を形成し、細く長い神経突起を伸張させ、また、近接した神経突起同士の結合が観察され、シナプスの形成が示唆された。一方、上記の1)〜5)のすべての工程を含む製造方法により得られたコラーゲンを塗布した基材上で培養した同じ神経細胞は、100個近い細胞からなる細胞塊を形成し、その細胞塊から太くて短い神経突起を伸張させ、またその太い神経突起は、複数の突起が重なり合っているように観察された。それぞれのコラーゲンは、ともに神経突起伸張促進作用が見られるが、その形態学的特性が異なり、使用目的により使い分けられる可能性がある。 本発明に用いるコラーゲンを得るための工程は、いずれの場合においても、ウイルス不活性化のための工程を含んでもよい。ウイルス不活性化のための工程は、高pH処理工程および/または低pH処理工程であり得る。 なお、本発明で「剤」というときは、特に記載した場合を除き、有効成分であるコラーゲン組成物自体であってもよく、またコラーゲン組成物に、医薬または医療材料として許容される各種の添加物を加えたものであってもよい。 〔評価方法〕 本発明に用いられるコラーゲンは、神経細胞の神経突起の伸長を促進する作用を有する。 本発明において、「神経突起を伸長する(神経突起伸長)」というときは、特に記載した場合を除き、少なくとも、下記またはそれと同等の方法で神経細胞を培養した場合に、顕微鏡観察により、神経突起の伸長が認められる場合をいう: マウス胚性腫瘍細胞株P19を10%血清および1μMの全トランスレチノイン酸を含むα−MEM培地に、0.5〜2x105cells/mLとなるように懸濁して培養を開始し、3〜5日間(典型的には4日間)培養して、胚様体を形成させる。得られた胚様体をトリプシンにより分散させ、対象となる剤を含む培養条件で、上記の培地を用いて同様に0.5〜2x105cells/mLで播種して、さらに2日間培養を行う。なお、培地は、上述のほか、基本培地(BM)、DMEM(Dulbecco変法Eagle培地)、神経培養用基礎培地(neurobasal medium)、HBSS(Hanks’ Balanced Salt Solution)等の公知のものを用いることができ、必要に応じて、各種因子(例えばBDNFやNGF)、ビタミン、細胞培養用サプリメント(例えばB27)、ホルモン(例えばインスリン、プロゲステロン)、担体(例えばトランスフェリン、血清アルブミン、リポタンパク質)、抗酸化剤(例えばメルカプトエタノール、Se)、抗生物質(例えばペニシリン/ストレプトマイシン)、上記の細胞とともに用いることで一層の神経再生促進効果が期待できる他の細胞(例えば、別途調製した神経系の細胞)やその培養混合物等を含んでもよい。 神経細胞の形態観察のための方法は、当業者にはよく知られている。例えば、スライドチャンバー上で培養した場合には、培養終了後、スライドチャンバーを生理食塩水で洗浄し、−20℃に冷却した無水エタノール中で細胞を固定し、抗β−チューブリン抗体および適切に蛍光標識された二次抗体を用いた免疫学的染色、ならびに核染色を組み合わせ、共焦点レーザー顕微鏡にて観察することができる。 本発明で「神経突起を伸長する」というとき、突起の数、突起の長さは様々であり得る。本発明の一態様においては、胚様体から得た細胞を分化促進剤を含む条件下で2日間培養した場合に、少なくとも100μm、好ましくは200μm、より好ましくは300μmを超える神経突起が、少なくとも1本観察されることが好ましい。いずれの場合においても、2本以上観察されることが好ましい。このとき、50個を超える細胞塊が形成されていない場合があり、1〜10個で存在している場合がある。このような場合には近接した神経突起同士の結合が観察されることがあり、シナプス様の形成が観察されることがある。シナプスは、神経細胞間、または神経細胞と他種細胞間に形成され、シグナル伝達などの神経活動に関わる重要な部位である。本発明で「シナプス形成促進」というときは、特に記載した場合を除き、上述の条件で培養した場合に、近接した神経突起同士の結合が観察されることをいう。 対象コラーゲンが、本発明の有効成分として適しているかどうかの評価は、上述の神経突起伸長作用の評価に加えて、またはそれに代えて、神経細胞の再生に関連した遺伝子の発現解析によっても行うことができる。このような遺伝子には、β−チューブリン(class I, II, III, IVa, IVb)、ニューロフィラメント(NF−L, NF−M, NF−H)、ラミニン(α1鎖、α2鎖)、インテグリンβ1鎖、カルモディリンキナーゼII(CaMK− IIα,β,γ,δ)が含まれるが、本発明の一態様においては、これらのうちクラスIVaβ−チューブリン、β1インテグリン、ラミニンα1鎖および CaMK−IIγからなる群より選択されるいずれか、好ましくはこれら4つのすべてについて、高い発現がみられるかどうかにより、評価することができる。 発現が「高い」か否かは、ハウスキーピング遺伝子を指標に対象遺伝子のmRNA発現量をqPCR解析により判断することができる。このような方法は当業者にはよく知られており、また本願明細書の実施例の項を参照にすることができる。例えば、GAPDHを指標とした場合、クラスIVaβ−チューブリンの発現(GAPDHの発現量を1とした場合の比)が0.9以上であるとき、好ましくは1以上であるとき、より好ましくは1.5以上であるとき;β1インテグリンの発現(GAPDHの発現量を1とした場合の比)が4.0×10-6以上であるとき、好ましくは5.0×10-6以上であるとき、より好ましくは6.0×10-6以上であるとき;ラミニンα1鎖の発現(GAPDHの発現量を1とした場合の比)が4.0×10-5以上であるとき、好ましくは5.0×10-5以上であるとき、より好ましくは6.0×10-5以上であるとき; CaMK−IIγの発現(GAPDHの発現量を1とした場合の比)が2.0×10-6以上であるとき、好ましくは2.3×10-6以上であるとき、より好ましくは2.6×10-6以上であるときであるとき、「高い」と判断することができる。 あるコラーゲンが、本発明の有効成分として適しているかどうかを評価する際、対象となるコラーゲンは、典型的には、培養のための基材にコーティングされ、用いられる。コラーゲンコーティングは、単純な浸漬による方法、減圧下で行う方法、及び凍結乾燥を利用する方法により実施することができる。例えば、コラーゲン濃度として0.01〜1、好ましくは0.05〜0.5%、となるように適切な溶媒に溶解し、細胞を培養する基材に塗布し、乾燥させ、必要に応じ紫外線照射等の処理を行うことにより、達成できる。 凍結乾燥を利用する方法もよく知られており、具体的には、基材を減圧下(80Torr以下)でコラーゲン溶液に浸漬し、約−20℃で約3時間凍結させた後、凍結乾燥させることを含む。 〔用途、その他〕 本発明の剤は、本発明の剤は、神経細胞(P19細胞株から誘導したような、胚性の神経細胞も含む。)の、神経突起を伸長する作用を有する。そのため、本発明の剤は、切断、切除、機能障害、機能不全に陥った神経組織を再生するために用いることができる。神経の再生には、神経幹細胞から神経細胞(ニューロン)やグリア細胞へと分化すること、機能に必要なタンパクや神経伝達物質を産生すること、軸索、シナプスを形成すること、などの段階を経て、最終的に損傷部位が修復され、神経を介した情報伝達が回復されることが含まれる。 本発明の剤は、必要に応じて細胞に影響を与える因子や、その他の物質を含有することができ、またそのような因子・物質と組み合わせて用いることができる。 細胞に影響を与える因子の例は、神経幹細胞の分化誘導因子や、神経幹細胞の自己増殖を阻害する因子、分化した神経細胞の増殖因子などである。例えばplatelet growth factor(PDGF)、Insulin like growth factor(IGF-I)、brain derived neurotrophic factor(BDNF)、レチノイン酸(RA)とフォルスコリン(FSK)の共添加、transforming growth factorβ(TGFβ)、NGF、ciliary neurotrophic factor (CNTF)、NT-3、NT-4/5である。 本発明の剤は、適切な経路で対象へ投与することにより適用されうる。また本発明の剤は、それ自体を医療用材料として、あるいはコーティング等の手段により他の医療材料と組み合わせて用いることができる。本発明の剤が応用されうる医療機器・器具の形態は特に限定されず、シート、パッチ、縫合糸、ステープル、メッシュ、ステント、カテーテル、チューブ、弁、シャント、ポート、クリップ、ピン、ねじ、リベット、鋲、骨プレート、移植物、ペースメーカー、人工血管、薬物送達デバイス、接着剤、封止剤、包帯、接着障壁、組織足場等であり得る。 本発明の剤は、神経の切断、脱落・障害に関連した疾患または状態の治療のために、用いることができる。ヒトはもちろん、その他の哺乳動物、例えば、マウス、ラット、ウサギ、犬、猫、牛、馬、豚、ヒツジ、サル等)のためにも適用することもできる。 以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。 〔実施例1:マウス胚性腫瘍細胞株 P19の神経突起伸張に及ぼすコーティング用コラーゲンの検討〕 目的 各種コラーゲンのマウス胚性腫瘍細胞株P19の神経突起伸張に及ぼす差異について検討した。 材料と方法 培養用コラーゲン基材として、下記の7種類を用いた:NMPコラーゲンPS(日本ハム製)・・・医療材料用、ブタ皮膚製コラーゲン、タイプIコラーゲンとタイプIIIとの混合物ブタ皮膚製コラーゲンI溶液(日本ハム製)・・・主としてタイプIコラーゲンからなる;セルマトリックスタイプ I -A(ブタ腱由来, 酸可溶性, 新田ゼラチン)セルマトリックスタイプ I -P(ブタ腱由来, ペプシン可溶化, 新田ゼラチン)セルマトリックスタイプ I -C(ブタ皮由来, 低粘度, 新田ゼラチン)セルマトリックスタイプ III (ブタ皮由来, 新田ゼラチン)コラーゲンタイプI ブタ真皮由来(ペプシン可溶化, ニッピ) 各種コラーゲンは 1 mM 塩酸にて 0.1%になるように調製し、チャンバースライド並びにシャーレに塗布後、30分間紫外線照射下で滅菌・乾燥を行い、細胞播種直前に培地にて洗浄してから使用した。 P19細胞株は 10%ウシ胎児血清と抗生物質(ペニシリン-ストレプトマイシン-ネオマイシン)を含むα-MEM培地を用いて増殖させた。 神経分化誘導に際しては、まず、対象となる細胞を1x105 cells/mLの濃度になるように調整した後、最終濃度 1μM の全トランスレチノイン酸存在下で4日間培養し、胚様体を形成させた。続いて、胚様体を回収し、トリプシンにより分散させ、コラーゲンをコーティングした培養基に播種し、さらに、最終濃度 1μM の全トランスレチノイン酸を含む培地で2日間培養を行った。 培養終了後、免疫細胞化学的観察のため、スライドチャンバーは生理食塩水で洗浄後、-20℃に冷却した無水エタノール中で一晩以上固定した。一次抗体として、抗β-チューブリン・モノクローナル抗体( TUB2.1)を用い、 FITC標識二次抗体を反応させた。核染色には DAPIを使用し、ツアイス LSM-710共焦点レーザー顕微鏡にて観察、写真撮影を行った。 遺伝子発現解析にためには、培養終了後のシャーレの細胞から RNAiso Plus(タカラバイオ株式会社)を用いて全 RNAを抽出した後、逆転写したcDNAテンプレートを用い、リアルタイム PCR解析に供した。解析の対象とした遺伝子は、β-チューブリン(class I, II, III, IVa, IVb)、ニューロフィラメント(NF-L, NF-M, NF-H)、ラミニン(α1鎖、α2鎖)、インテグリンβ1鎖、カルモディリンキナーゼII(CaMK- IIα,β,γ,δ)とした。 結果および考察(各種コラーゲンが神経突起伸張に及ぼす影響の差異) 神経分化誘導のための培養後の各細胞の写真を図1〜7に示した。また、リアルタイムPCRの結果を、図8〜11に示した。 コラーゲンHを用いた場合、大きな細胞塊を形成せず、1〜5個程度の細胞塊を形成し、細く長い神経突起を伸張させた。観察した限りにおいて一本の神経突起の長さは数百μmの達しており、また、近接した神経突起同士の結合も観察されたことから、シナプスの形成が示唆された(図1)。コラーゲンH1を用いた場合、100個近い細胞からなる細胞塊を形成し、その細胞塊から太くて短い神経突起を伸張させているように観察されたが、それらの太い神経突起は、複数の突起が重なり合っているようにも観察された(図2)。コラーゲンNAでは、HとH1との中間的な特徴を示した。すなわち、細く短い(50〜100μm)神経突起を形成していた(図3)。コラーゲンNPを用いた場合、今回使用したコラーゲン中では最も神経突起伸張作用が低く、ごくまれに細く短い神経突起が散見されるのみで、多くの細胞塊からは神経突起伸張は観察されなかった(図4)。コラーゲンNCは、大きな細胞塊を形成しない点で、日本ハム製バルクコラーゲンに類似しており、多くの細胞塊より神経突起の伸張が観察されたが、その長さは日本ハム製バルクコラーゲンに比較してかなり短かった(図5)。N3はH1と神経突起形成の状態が非常に類似しており、100個近い細胞からなる細胞塊を形成し、その細胞塊から太くて短い神経突起を伸張させているように観察された(図6)。ニッピ製タイプIコラーゲンは細胞接着活性が低いため、細胞塊そのものの数が少なかったが、細胞塊から伸張する神経突起の性状については、細くある程度の長さを持っており、その点では日本ハム製バルクコラーゲンに類似していた(図7)。 遺伝子発現解析の結果、クラスIVaβ-チューブリン(図8)、β1インテグリン(図9)、ラミニンα1鎖(図10)および CaMK-IIγ(図11)で、コラーゲンHは、他のコラーゲン基材よりも高い発現が見られた。今回の実験では、これら以外の発現に差異はみられなかった。 以上の結果をまとめると、1)神経突起伸張促進作用は最も良好であったのは、コラーゲンHであり、神経突起伸張だけではなくシナプス形成も促進している可能性がある。2)皮膚由来コラーゲンと腱由来コラーゲンでは、神経突起伸張に及ぼす作用が大きく異なり、皮膚由来コラーゲンの方が良好な成績を示した。従って、腱を比較して皮膚に相対的に含量の多いマトリックス成分が神経突起伸張に促進的に働いている可能性が考えられる。3)コラーゲンH1とコラーゲンN3に、きわめて類似の形態的特徴が見られた。両者ともある程度精製され不純物の低いものであると考えられることから、純度の高い皮膚由来コラーゲンは大きな細胞塊を形成し、さらに太く短い神経突起を多数伸張させる特性を持つものと考えられる。4)コラーゲンHとコラーゲンH1は、ともに神経突起伸張促進作用が見られるが、その形態学的特性が大きく異なることから、使用目的により使い分けられる可能性がある。 〔製造例1〕 実施例1で用いたコラーゲンHおよびコラーゲンH1は、次のように製造された。 コラーゲンH: 1)食肉処理場にて採取・凍結(−20℃)された豚皮を除毛、洗浄し、脱水後、20℃のイソプロパノール、アセトンにて洗浄し、脱脂済み原料とした。 2)脱脂済み原料をpH2〜4に調整し、ペプシンを添加して分解処理した。 3)ペプシン失活後、溶液を孔径0.45umのフィルターでろ過し、ろ液に塩化ナトリウム溶液を加えて塩析(塩化ナトリウム終濃度 5%)し、遠心分離により濃縮し、凍結乾燥することにより、白色粉末の、コラーゲンHを得た。 コラーゲンH1: 1)コラーゲンHを冷却した精製水に溶解し、pH=7.4 に調整(水酸化ナトリウムにて)した後、終濃度12%となるようNaClを添加した。 2)遠心分離し、上清を回収し、所定の濃度に調整し、塩酸にてpHを3に調製した後、0.45umのフィルターでろ過し、コラーゲンH1溶液を得た。 〔参考例1〕 実施例1で用いたNMPコラーゲンPS(「コラーゲンH」とする。以下の参考例において同じ。)およびブタ皮膚製コラーゲンI溶液(「コラーゲンH1」とする。以下の参考例において同じ。)の評価結果を下記に示した。 なお、pHは、直接測定法、コラーゲン濃度はビュレット法(精製されたコラーゲンを標準物質とする。)、塩化ナトリウムは、第十四改正日本薬局方一般試験法「原子吸光光度法」に基づき、ナトリウム含量から塩化ナトリウム含量に換算した。ハイドロキシプロリン含量は、6N 塩酸を用いて加水分解し、全自動アミノ酸分析計を用いて測定した後、全アミノ酸重量あたりのハイドロキシプロリン重量をハイドロキシプロリン含量とした。また、チロシン含量は、6N 塩酸を用いて加水分解し、全自動アミノ酸分析計を用いて測定した後、アミノ酸1000 残基あたりのチロシン残基数をチロシン含量とした。比旋光度は、第十四改正日本薬局方一般試験法「旋光度測定法」(0.3mg/ml、20℃、100mm、D 線)に基づいた。 コラーゲン中のタイプIコラーゲン、タイプIIIコラーゲンの存在比については、尿素添加SDS-PAGE(1)の泳動パターンをデンシトメーター(BIO-RAD:GS800)により解析し、TypeI由来αおよびβ鎖とタイプIII由来αおよびβ鎖の存在比をもって、コラーゲン中のタイプIコラーゲン、タイプIIIコラーゲンの存在比とした(T. Hayashi et al.; Separation of the Chains of TypeI and III Collagens by SDS-Polyacrylamide Gel Electrophoresis; J. Biochem., 86, 43-49, 1979)。結果を下図および下表に示した。 皮膚由来の、コラーゲンを有効成分とする、神経突起伸張剤。 コラーゲンが、ブタ由来である、請求項1に記載の剤。 コラーゲンが、新鮮皮膚を脱脂して得られた脱脂原料を、酸性条件下にてペプシンで分解処理し、得られた水溶液を、pH2〜3にて塩化ナトリウム終濃度5%で塩析濃縮して得られるものである、請求項1または2に記載の剤。 コラーゲンが、少なくともタイプIコラーゲンおよびタイプIIIコラーゲンを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の剤。 コラーゲンにおけるチロシン含量が、アミノ酸1000残基中3以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の剤。 請求項1〜5のいずれか1項に定義したコラーゲンを有効成分とする、シナプス形成剤。 哺乳類の神経細胞に対して有効である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の剤。 胚性細胞由来の神経細胞に対して有効である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の剤。 医療用である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の剤。 【課題】神経再生機能がより高い医療用コラーゲンを提供する。【解決手段】皮膚由来の、コラーゲンを有効成分とする、神経突起伸張剤。コラーゲンは、好ましくは、ブタ由来であり、原料を脱脂して得られた脱脂原料を、酸性条件下にてペプシンで分解処理し、得られた水溶液を、pH2〜3にて塩化ナトリウム終濃度5%で塩析濃縮して得られるものである。本発明は、このようなコラーゲンを有効成分とする、シナプス形成剤も提供する。本発明の剤は、哺乳類の神経細胞に対して有効であり、また胚性細胞を分化させて得た神経細胞に対して有効である。【選択図】図1


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