タイトル: | 公開特許公報(A)_膠原病に伴うレイノー症状を診断する方法及び診断用キット |
出願番号: | 2012141434 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | G01N 33/564,G01N 33/53 |
仲 哲治 世良田 聡 藤本 穣 JP 2014006129 公開特許公報(A) 20140116 2012141434 20120622 膠原病に伴うレイノー症状を診断する方法及び診断用キット 独立行政法人医薬基盤研究所 505314022 高島 一 100080791 土井 京子 100125070 鎌田 光宜 100136629 田村 弥栄子 100121212 山本 健二 100122688 村田 美由紀 100117743 小池 順造 100163658 當麻 博文 100174296 仲 哲治 世良田 聡 藤本 穣 G01N 33/564 20060101AFI20131213BHJP G01N 33/53 20060101ALI20131213BHJP JPG01N33/564 ZG01N33/53 N 9 OL 14 本発明は、膠原病に伴うレイノー症状を診断する方法に関する。より詳細には、hnRNP−Kに対する自己抗体を血清マーカーとして使用する、膠原病に伴うレイノー症状を診断する方法に関する。本発明はまた、このような診断方法に使用するためのキットにも関する。 レイノー症状(レイノー現象とも称される)とは、寒冷刺激や精神的緊張などを引き金として血管の攣縮が起こり、主に手足の皮膚の色調が変化する現象(典型的には、白→紫→赤の3段階)を言い、時に手足の指のしびれや痛みを伴う。これらの症状は通常一時的なものとして回復するが、同様の刺激により再発を繰り返す。 レイノー症状は、その基礎疾患の有無によって、原発性レイノー症状(基礎疾患が認められない場合)と二次性/続発性レイノー症状(基礎疾患に伴って起こる場合)とに分類される。レイノー症状の発症メカニズムは未だ不明であるが、原発性レイノー症状は、症状も軽く予後も良好であるのに対し、二次性/続発性レイノー症状の予後は基礎疾患によって異なっており、潰瘍などにより重篤化する場合もあることから、二次性/続発性レイノー症状の発症にはそれぞれの基礎疾患に由来する独自のメカニズムの関与が疑われている。それ故、原発性レイノー症状の治療が、主に、寒冷の回避、禁煙、鎮静薬の投与やリラクゼーション法などにより行われるのに対して、二次性/続発性レイノー症状の治療は、病因となる基礎疾患の治療に主眼が置かれており、一見同じようなレイノー症状を呈していたとしても、レイノー症状が原発性であるか、二次性/続発性であるかによって、その治療方針は大きく異なるものとなる。 二次性/続発性レイノー症状を引き起こす基礎疾患としては、膠原病、内分泌疾患、血液疾患、神経疾患、腫瘍性疾患など、極めて多様な疾患が挙げられるが、その大部分は、強皮症、多発性筋炎、皮膚筋炎、混合結合組織病、シェーグレン症候群、ベーチェット病又は全身性エリテマトーデスなどの膠原病により引き起こされる。 原発性レイノー症状の方が二次性/続発性レイノー症状よりも遥かに一般的であり、予後も良好であるのに対し、膠原病に伴う二次性/続発性レイノー症状(以下、膠原病に伴うレイノー症状とも称す)は潰瘍や壊疽形成などによりしばしば重篤化する。さらに、膠原病の初発症状として主にレイノー症状のみが認められ、他に膠原病の臨床症状/所見が殆ど認められない場合に、これを原発性レイノー症状と誤診して膠原病治療を怠れば、緩やかながらも膠原病の症状が悪化し、そのうち急激に悪化して内臓などにダメージが蓄積され、後遺症が残る可能性が高くなる。加えて、副腎皮質ステロイドなどの膠原病の治療薬は、比較的副作用が強いことが知られており、膠原病を早期に発見できなければ、激しい薬の副作用に悩まされることにもなる。 以上の理由から、レイノー症状の検査の焦点は、レイノー症状が原発性であるか、二次性/続発性であるか、特に、膠原病に伴うものであるかどうかを区別することにある。 膠原病は全身性自己免疫疾患の代表であり、抗核抗体に代表される自己抗体産生が共通の特徴である。従って、レイノー症状が原発性であるか、あるいは膠原病に伴うものであるかの診断は、一般に、患者血清中に抗核抗体が存在するかを測定することにより行われる。 現在までに、抗核抗体を構成する特異自己抗体は50種類以上知られており、これらを一度で測定することは困難である。そのため、一次スクリーニングとして、間接蛍光抗体法による抗核抗体検査が一般に実施されている。間接蛍光抗体法による抗核抗体検査とは、ヒト喉頭癌由来の上皮細胞株であるHEp−2細胞をスライド上に固定し、患者血清中の自己抗体と反応させ、結合した自己抗体を蛍光標識し、それを鏡検することによってその染色パターンを判定するという検査方法であり、染色パターンによってある程度候補となる対応抗原を特定することができる。しかし、該検査では、抗体価が40倍の場合で健常人の31.7%に陽性が見られ、80倍で13.3%、160倍で5%、320倍でも3.3%に陽性が見られることが報告されている(非特許文献1)。従って、たとえ陽性反応が示されたとしても、膠原病に伴うレイノー症状であるか否かについての診断は、その他の臨床症状/所見を総合的に勘案して、医師の主観により判断する他なく、該抗核抗体検査は、その偽陽性率の高さと、膠原病を見落とした場合の結果の重大性などから、医師が「診断の混沌(Diagnostic confusion)」に陥るといった問題を抱えている(非特許文献2)。また、医師の主観的判断の結果、膠原病の疑いが強まれば、更に詳細な二次スクリーニング検査を行わなければならず、偽陽性であった場合の経済的負担の問題も指摘されている。 hnRNP(heterogeneous nuclear ribonucleoprotein)は、真核生物の核内に存在する主要なタンパク質であって、RNAスプライシング、成熟RNAの輸送や翻訳などに直接的な役割を果たす(非特許文献3)。hnRNP−Kは、およそ30種類存在するhnRNPファミリータンパク質の一つであって、核内だけでなく、細胞質やミトコンドリア中にも存在し、RNA/DNAと結合して、遺伝子発現やシグナル伝達などに機能し(非特許文献4及び5)、乳癌、肝細胞癌、食道癌、大腸癌などにおいて高発現していることが報告されている(非特許文献6〜10)。 しかし、hnRNP−Kと膠原病に伴うレイノー症状との関連については何ら知られていなかった。Tan EM, Feltkamp TE, Smolen JS, Butcher B, Dawkins R, Fritzler MJ, Gordon T, Hardin JA, Kalden JR, Lahita RG, Maini RN, McDougal JS, Rothfield NF, Smeenk RJ, Takasaki Y, Wiik A, Wilson MR, Koziol JA (1997) Range of antinuclear antibodies in "healthy" individuals. Arthritis Rheum.; 40(9):1601-11Illei GG, Klippel JH. (1999) Why is the ANA result positive? Bull Rheum Dis.; 48(1):1-4Caporali R, Bugatti S, Bruschi E, Cavagna L, Montecucco C (2005) Autoantibodies to heterogeneous nuclear ribonucleoproteins. Autoimmunity 38(1):25-32Bomsztyk K, VanSeuningen I, Suzuki H, Denisenko O, Ostrowski J (1997) Diverse molecular interactions of the hnRNP K protein. FEBS Lett 403(2):113-115Bomsztyk K, Denisenko O, Ostrowski J (2004) HnRNP K: One protein multiple processes. BioessaysMandal M, Vadlamudi R, Nguyen D, Wang RA, Costa L, Bagheri-Yarmand R, Mendelsohn J, Kumar R (2001) Growth factors regulate heterogeneous nuclear ribonucleoprotein K expression and function. J Biol Chem 276(13):9699-97041262 Ann Hematol (2010) 89:1255-1263Li C, Hong Y, Tan YX, Zhou H, Ai JH, Li SJ, Zhang L, Xia QC, Wu JR, Wang HY, Zeng R (2004) Accurate qualitative and quantitative proteomic analysis of clinical hepatocellular carcinoma using laser capture microdissection coupled with isotopecoded affinity tag and two-dimensional liquid chromatography mass spectrometry. Mol Cell Proteomics 3(4):399-409Hatakeyama H, Kondo T, Fujii K, Nakanishi Y, Kato H, Fukuda S Hirohashi S (2006) Protein clusters associated with carcinogenesis, histological differentiation and nodal metastasis in esophageal cancer. Proteomics 6(23):6300-6316. doi:10.1002/pmic.200600488Klimek-Tomczak K, Mikula M, Dzwonek A, Paziewska A, Karczmarski J, Hennig E, Bujnicki JM, Bragoszewski P, Denisenko O, Bomsztyk K, Ostrowski J (2006) Editing of hnRNP K protein mRNA in colorectal adenocarcinoma and surrounding mucosa. Br J Cancer 94(4):586-592 レイノー症状が、原発性レイノー症状であるか、膠原病に伴うレイノー症状であるかどうかを診断する方法としては、間接蛍光抗体法による抗核抗体検査が一般に利用されているが、該検査は偽陽性率が高く、診断精度に問題がある。一方、膠原病は、たとえ医師であっても分かりやすい種類の病気とは言えず、気が付かないまま治療されなければ、症状が悪化し、重篤な後遺症や激しい薬の副作用に苦しむことになる。 従って、本発明は、膠原病に伴うレイノー症状の機序を明らかにした上で、レイノー症状を呈した対象が、膠原病を基礎疾患として有しているかどうかを、より簡便に一度で診断できる方法を提供することを目的とする。 本発明者らは、上記目的に鑑み、鋭意検討を行った結果、寒冷刺激を受けたことによりhnRNP−Kが血管内皮細胞内から細胞表面に移行すること、及び細胞表面に移行したhnRNP−Kが、膠原病患者血清中に存在する抗hnRNP−K自己抗体と反応して、レイノー症状を誘発させることを発見した。本発明者らは、これらの知見に基づき更に検討を進め、膠原病患者の血液中に存在する抗hnRNP−K自己抗体が、膠原病に伴うレイノー症状を診断するマーカーとなり得ることを確認し、本発明を完成した。 即ち、本発明は以下に関する。[1]生体試料中の抗hnRNP−K自己抗体を検出することを特徴とする、膠原病に伴うレイノー症状を判定するための検査方法。[2]該生体試料が、血液試料である、上記[1]記載の方法。[3]該検出が、免疫学的手法による検出である、上記[1]又は[2]記載の方法。[4]膠原病が、強皮症、多発性筋炎、皮膚筋炎、混合結合組織病、シェーグレン症候群、ベーチェット病又は全身性エリテマトーデスである、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。[5]生体から分離された検体細胞について、細胞表面に存在するhnRNP−K抗原を検出する工程をさらに含む、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。[6]該検体細胞が、血管内皮細胞である、上記[5]記載の方法。[7]hnRNP−K抗原を含む、膠原病に伴うレイノー症状の診断用キット。[8]hnRNP−K抗原が固相に固定されたものである、上記[7]記載のキット。[9]膠原病が、強皮症、多発性筋炎、皮膚筋炎、混合結合組織病、シェーグレン症候群、ベーチェット病又は全身性エリテマトーデスである、上記[7]又は[8]記載のキット。 従来の間接蛍光抗体法による抗核抗体検査は、患者血清中の自己抗体を網羅的に検出するものであり、その診断精度に問題を抱えていたが、本発明によれば、レイノー症状を呈している対象に対して抗hnRNP−K自己抗体の有無を検出するだけで、膠原病に伴うレイノー症状であるかどうかをより簡便に一度で診断することができる。 また、本発明によれば、例えば、膠原病の初発症状としてレイノー症状が主に認められ、他に膠原病の臨床症状/所見が殆ど見られない場合に、これを原発性レイノー症状と誤診する可能性を低下させることができ、早期に的確な治療を施すことができる。あるいは、未だ膠原病を発症していないがその背景に膠原病につながる免疫異常がある場合にも、その膠原病リスクを早期に発見でき、慎重な経過観察や予防が可能となる。 膠原病とは、症状が悪化していればいるほど治療に時間がかかり、内臓などにダメージが蓄積されて後遺症が残る可能性が高くなり、しばしば激しい薬の副作用に悩まされることとなる疾患であるが、本発明によって、早期に診断を確定し、的確な治療/予防を施すことができるので、これら重篤な後遺症や激しい薬の副作用に苦しむことがなくなり、クオリティ・オブ・ライフ(QOL)の向上にも繋がる。図1は、寒冷刺激無し(37℃)又は有り(10℃、3時間)の正常ヒト皮膚微小血管内皮細胞(Normal Human Dermal Microvascular Endothelial Cells:HMVEC)と、レイノー症状陽性強皮症患者血清(Raynaud(+)Ssc serum)又は健常人血清(Healthy control’s serum)中の自己抗体との反応性を間接蛍光染色法にて調べた図である。図2Aは、培養細胞(HMVEC)のタンパク質抽出物についての2D−PAGE法によるタンパク質展開パターンを示す図である。図2Bは、Aで展開したタンパク質に対して、レイノー症状陽性強皮症患者血清を反応させたときのウェスタンブロッティング結果を示す図である。図2Cは、Aで展開したタンパク質に対して、健常人の血清を反応させたときのウェスタンブロッティング結果を示す図である。図3Aは、HMVECについて、寒冷刺激(刺激無し(37℃)、10℃ 30分、10℃ 1時間、10℃ 3時間)により細胞内のhnRNP−Kが細胞表面に移行することをウェスタンブロット法で検出した図である。図3A中、cell surface−hnRNPKは、細胞表面に移行したhnRNP−Kを示し、cell surface−VE−cadherinは、ポジティブコントロールを示す。図3Bは、HMVECについて、寒冷刺激(刺激無し(37℃)、10℃ 30分、10℃ 1時間、10℃ 3時間)により細胞内のhnRNP−K産生量(cell−lysate−hnRNPK)に変化がないことをウェスタンブロット法で検出した図である。図3B中、cell−lysate−GAPDHはポジティブコントロールを示す。図3Cは、HMVECについて、寒冷刺激(刺激無し(37℃)、10℃ 30分、10℃ 1時間、10℃ 3時間)により細胞内のhnRNP−Kが細胞表面に移行することをフローサイトメトリー法(FACS法)で検出した図である。図4Aは、レイノー症状陽性強皮症患者血清(Raynaud(+)Ssc sera)について抗hnRNP−K自己抗体の存在を確認するためのウェスタンブロッティング結果を示す図である。レイノー症状を有さない強皮症患者血清(Raynaud(−)Ssc sera)及び健常人血清(Healthy control’s sera)を対照として使用した。図4Bは、hnRNP−Kを抗原ペプチドとし、レイノー症状陽性強皮症患者血清(Ssc Raynaud(+))、レイノー症状を有さない強皮症患者血清(Ssc Raynaud(−))及び健常人血清(Healthy control)を使用したELISA結果を示す図である。図4Bのグラフ縦軸は結合ユニット(Binding unit)を示す。 一実施態様において、本発明は、生体試料中の抗hnRNP−K自己抗体を検出することを特徴とする、膠原病に伴うレイノー症状を診断する方法を提供する。 本明細書において、「膠原病」とは、皮膚・筋・関節などの全身の結合組織に炎症・変性が起こり、膠原線維が増える自己免疫疾患を意味し、膠原病類縁疾患も含まれる。膠原病の例としては、特に限定されないが、関節リウマチ(RA)、全身性エリテマトーデス(SLE)、強皮症(Ssc)、皮膚筋炎(DM)、多発性筋炎(PM)、結節性多発性動脈炎(PN)、混合性結合組織病(MCTD)、シェーグレン症候群(SjS)、顕微鏡的多発血管炎(MPA)、ベーチェット病(Behcet’s syndrome)などが挙げられる。好ましい実施態様において、本発明は、強皮症、多発性筋炎、皮膚筋炎、混合結合組織病、シェーグレン症候群、ベーチェット病又は全身性エリテマトーデスに伴うレイノー症状を診断する方法を提供する。さらに好ましい態様において、本発明は、強皮症に伴うレイノー症状を診断する方法を提供する。 本明細書において、「生体試料」とは、対象から排泄され、あるいは採取した試料を意味し、特に限定されないが、例えば、糞便・尿・喀痰などの排泄物、腹水、咽頭ぬぐい液、涙液、脳脊髄液、血液、血清、血漿などの体液、組織、細胞などが挙げられる。好ましい実施態様において、生体試料は、血液試料である。さらに好ましい実施態様において、生体試料は、血清試料である。前記血液の採取方法としては、特に制限はなく、常法により採取することができ、例えば、静脈採血や動脈採血などが挙げられる。また、前記血液が採取される部位としても、特に制限はなく、体のどの部位から採取された血液であっても好適に利用できる。 本明細書において、「対象」とは、哺乳動物(例えば、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、シカなど)であれば特に限定されないが、好ましくはヒトである。 本発明による抗hnRNP−K自己抗体の検出方法は、定量可能な方法であればよく、特に限定されない。ここで定量とは、抗hnRNP−K自己抗体の量を定量することであり、例えば、免疫学的手法による方法を適用することができる。そのような免疫学的手法の例としては、特に限定されないが、間接蛍光抗体法(IF法)、二重免疫拡散法(DID法、オクタロニー法)、ラジオイムノアッセイ法(RIA法)、酵素抗体法(ELISA法)、受身赤血球凝集反応(PHA法)、免疫沈降法(IPP法)、免疫ブロット法(IB法)、ラテックス凝集法、免疫クロマトグラフィー法など自体公知の手法を挙げることができる。多くの生体試料を処理し得るELISA法が、特に好ましい。具体的には、hnRNP−K抗原を固相に固定し、該固相に固定した抗原に生体試料を接触させ、抗原と生体試料中に含有可能性のある抗hnRNP−K自己抗体との免疫複合体、又は反応産物を検出することで、抗hnRNP−K自己抗体を検出することができる。ELISA法の実施に伴う非特異反応の抑制方法や、検出の際に使用し得る標識物質、測定機器などは、特に限定されず、例えば、自体公知のものを適用することができる。 本発明による診断方法を実施する時期は、目的に応じて適宜選択してよく、例えば、レイノー症状のみを呈し、他に未だ膠原病の臨床症状/所見を示さない対象に対して診断してもよく、レイノー症状を呈し、他の臨床所見などによっても膠原病が疑われると診断された対象に対して確認のために診断してもよい。 一実施態様において、本発明は、生体試料中の抗hnRNP−K自己抗体を検出する工程と、生体から分離された検体細胞について、細胞表面に存在するhnRNP−K抗原を検出する工程を含む、膠原病に伴うレイノー症状を診断する方法を提供する。 hnRNP−Kは、寒冷刺激を受けることにより血管内皮細胞内から細胞表面に移行し、細胞表面に移行したhnRNP−Kが膠原病患者血清中に存在する抗hnRNP−K自己抗体と反応して、レイノー症状を誘発させることから、対象血清中の抗hnRNP−K自己抗体の有無を検出するだけでなく、細胞表面に存在するhnRNP−K抗原の有無を検出することにより、より高い精度で、膠原病に伴うレイノー症状を診断することが可能となる。 本明細書において、「生体から分離された細胞」とは、特に限定されないが、例えば、血管内皮細胞、線維芽細胞、脂肪細胞、骨格筋細胞などが挙げられる。前記細胞の分離方法としては、特に制限はなく、常法により採取することができ、例えば、剥離や穿刺吸引などが挙げられる。好ましい実施態様において、生体から分離された細胞は、血管内皮細胞である。一実施態様において、生体から分離された細胞を細胞表面膜タンパク質ビオチン標識法に供し、細胞表面中に存在するhnRNP−K抗原の有無を検出することができる。 一実施態様において、本発明は、hnRNP−K抗原が固定された固相を含む、膠原病に伴うレイノー症状を診断するためのキットを提供する。 固相に固定されるhnRNP−K抗原は、抗hnRNP−K自己抗体と結合する限りにおいて、特に限定されないが、例えば、抗原をコードする遺伝子を発現ベクターに組み込み、大腸菌や各種動物細胞などに導入し、その体内で発現させることにより作製してもよく、抗体と結合特異性の高い抗原の一部分のみを発現させることにより作製してもよい。一実施態様において、hnRNP−K抗原をコーティングしたプレートなどの固相に、対象の生体試料を添加し、結合した抗hnRNP−K自己抗体を、例えば、HRP標識抗IgG抗体などを用いてELISA法などにより検出することができる。 以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。 (実施例1) レイノー症状を呈し、皮膚硬化、抗トポイソメラーゼI抗体又は抗セントロメア抗体陽性などの臨床症状/所見から強皮症であることが診断された患者血清を使用した。非透過性(non−permeabilized)寒冷刺激(10℃、3時間)した正常ヒト皮膚微小血管内皮細胞(Normal Human Dermal Microvascular Endothelial Cells:HMVEC)と、レイノー症状陽性強皮症患者血清又は健常人血清とを反応させ、結合した自己抗体をFITC標識抗ヒトIgG二次抗体で蛍光標識し、細胞表面抗原抗体反応の変化を細胞間接蛍光抗体法により観察した(図1を参照されたい)。その結果、寒冷刺激したHMVECは、刺激無しのHMVECに比べて、細胞表面抗原抗体反応が亢進していることが判明した。また、寒冷刺激により細胞内の自己抗原が細胞表面に移行していることが示唆された。 (実施例2) iTRAQ(isobaric tags for relative and absolute quantitation)(登録商標)法を用いてHMVECに対して低温刺激(10℃:0.5h;1h;3h)条件下における細胞表面膜タンパク質の網羅的かつ定量的な発現解析を行った。その結果、1605個のタンパク質が同定され、104種のタンパク質の発現が寒冷刺激3時間後に上昇(3.0倍以上)することが明らかとなった。 (実施例3) 実施例1で使用したレイノー症状陽性強皮症患者血清と同様の血清を用いて、HMVEC抽出タンパク質に対する自己抗体の対応抗原をプロテオミクス手法により探索した。その結果、表1及び図2に示すとおり、hnRNP−K抗原に対する自己抗体が二次元電気泳動法とウェスタンブロット法とを組み合わせたプロテオミクスのスクリーニング手法でも確認された。 (実施例4) 細胞表面膜タンパク質ビオチン標識法を用いて、寒冷刺激による、細胞内hnRNP−Kの細胞表面への移行をウェスタンブロット法とフローサイトメトリー法(FACS法)により解析した。具体的には、HMVECを寒冷刺激無し(37℃)又は寒冷刺激有り(10℃で30分、1時間及び3時間)で処理し、500μMのsulfo−NHS−SS−biotinで細胞表面膜タンパク質を15分間標識した。ついで、タンパク質を抽出し、ビオチン標識タンパク質をUltraLink(登録商標)Immobilized NeutrAvidin(タカラバイオ社)を用いて濃縮した。濃縮したビオチン標識タンパク質を用いて、細胞表面hnRNP−Kの存在をウサギ抗ヒトhnRNP−K抗体と抗ウサギIgG二次抗体を用いたウェスタンブロット法により解析した(図3A)。血管内皮細胞に発現する細胞間接着タンパク質であるVE−カドヘリン(cadherin)をポジティブコントロールとして使用した。その結果、寒冷刺激時間に依存して、細胞表面hnRNP−K量が増加することが示された(図3Aを参照されたい)。さらに、HMVECを寒冷刺激(刺激無し(37℃)、10℃ 30分、10℃ 1時間、10℃ 3時間)し、細胞抽出物をウサギ抗ヒトhnRNP−K抗体と抗ウサギIgG二次抗体を用いたウェスタンブロット法に供し、細胞全体のhnRNP−K産生量を検出した(図3Bを参照されたい)。ポジティブコントロールとしてGAPDHを使用した。その結果、細胞全体のhnRNP−K産生量には変化が見られなかった。細胞全体のhnRNP−K産生量に変化がないにも関わらず、寒冷刺激時間に依存して細胞表面hnRNP−K量が増加したことから、寒冷刺激によって、細胞内のhnRNP−Kが細胞表面へと移行することが実証された。また、HMVECを寒冷刺激無し(37℃)又は寒冷刺激有り(10℃で30分、1時間及び3時間)で処理し、4%パラホルムアルデヒドで固定し、細胞内hnRNP−Kの細胞表面への移行をFACS解析により確認した。その結果、図3Cに示す通り、FACS法によっても、寒冷刺激によって細胞内hnRNP−Kが細胞表面へ移行することが実証された。 (実施例5) hnRNP−K遺伝子は、HMVECのcDNAライブラリーに対し、hnRNP−Kに特異的なプライマー(forward primer 5’-tggaaactgaacagccagaagaa-3’ and reverse primer 5’-gcattagaatccttcaacatctgc-3’)を用いて、PCRにより増幅した。PCR産物を大腸菌発現ベクターであるpET28にクローニングした。DNAシーケンス解析により遺伝子配列が正しいことを確認した。組み換えタンパク質は、精製を容易にするため、N末端に6×Hisを融合したタンパク質として発現させた。pET28 hnRNP−KをBL21(DE3)codon plus RIL(Stratagene社)に形質転換し、組み換えhnRNP−Kの大量発現を行った。形質転換した大腸菌を50μg/mlカナマイシンを含むLB培地で培養し、濁度600nmが0.6に達してから、0.4mMのIPTG(β−ガラクトシターゼ活性の誘導物質)を加え、25℃、2時間で発現を誘導した。発現を誘導した大腸菌を遠心分離により回収し、PBS+1%トリトンX100+1%プロテアーゼ阻害剤(Protease inhibitor cocktail(ナカライテスク社))で懸濁し、超音波破砕により大腸菌を破砕した。大腸菌破砕液は高速遠心機により上清と沈殿とに分離した。組み換えhnRNP−Kは上清から精製した。まず、PBS+1mMイミダゾールで平衡化させたNiセファロース樹脂(GE healthcare社)と遠心上清を4℃で1時間インキュベートさせた後、カラムに移し、PBS+30mMイミダゾールで洗浄し、PBS+250mMイミダゾールで溶出した。溶出したタンパク質はPBSで透析し、遠心上清を−85℃で保存した。精製したタンパク質は、タンパク質定量キット(Bio−Rad Laboratories社)を用いて、BSAをスタンダードとして定量した。 大腸菌に発現させ、精製したHisタグ融合hnRNP−Kタンパク質を、レイノー症状陽性強皮症患者血清、レイノー症状を有さない強皮症患者血清、又は健常人血清と反応させ、抗ヒトIgG二次抗体を用いたウェスタンブロット法に供した。レイノー症状陽性強皮症患者血清は実施例1と同様にして得、レイノー症状を有さない強皮症患者血清は、レイノー症状を呈さないが、強皮症であると臨床症状から確定診断を受けている患者から得た。その結果、レイノー症状陽性強皮症患者血清中には抗hnRNP−K自己抗体が存在するのに対し、レイノー症状を有さない強皮症患者血清及び健常人血清中には抗hnRNP−K自己抗体は存在しなかった(図4Aを参照されたい)。従って、たとえ強皮症患者であっても、レイノー症状を呈していなければ、抗hnRNP−K自己抗体は検出可能な程産生されておらず、レイノー症状を呈していない自己免疫疾患の診断に抗hnRNP−K自己抗体を使用できるわけではないことが示唆された。 一方、レイノー症状を呈しかつ強皮症である患者と、レイノー症状を呈するが強皮症ではない患者とは、抗hnRNP−K自己抗体の有無によって区別可能であることが図4Aの結果から実証された。 また、精製したhnRNP−Kタンパク質を96ウェルマイクロプレートに固定化して、この抗原に対する血中自己抗体の量をELISA法により測定した。健常人の吸光度の平均値+3SDを100unitとして、自己抗体陽性を判定するカットオフ値とした。その結果、血清中の抗hnRNPK自己抗体は、レイノー症状陽性強皮症患者(Ssc Raynaud(+);N=114)の32.46%で検出され、健常人(control;N=25)及びレイノー症状を有さない強皮症患者(Ssc Raynaud(−);N=30)と比較して有意に高いことが示された。 本発明により、レイノー症状を呈している対象に対して、抗hnRNP−K自己抗体の有無を検出するだけで、より簡便に一度で膠原病かどうかを診断することができる。また、本発明によれば、例えば、膠原病の初発症状としてレイノー症状のみが主に認められ、他に膠原病の臨床症状/所見が殆ど見られない場合に、これを原発性レイノー症状と誤診する可能性を低下させることができ、早期に的確な治療を施すことができる。あるいは、未だ膠原病を発症していないがその背景に膠原病につながる免疫異常がある場合にも、その膠原病リスクを早期に発見でき、慎重な経過観察や予防が可能となる。結果として、本発明によって、膠原病の早期診断が可能となり、的確な治療/予防を施すことができるので、重篤な後遺症や激しい薬の副作用に苦しむことがなくなり、クオリティ・オブ・ライフ(QOL)の向上に繋がる。 生体試料中の抗hnRNP−K自己抗体を検出することを特徴とする、膠原病に伴うレイノー症状を判定するための検査方法。 該生体試料が、血液試料である、請求項1記載の方法。 該検出が、免疫学的手法による検出である、請求項1又は2記載の方法。 膠原病が、強皮症、多発性筋炎、皮膚筋炎、混合結合組織病、シェーグレン症候群、ベーチェット病又は全身性エリテマトーデスである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。 生体から分離された検体細胞について、細胞表面に存在するhnRNP−K抗原を検出する工程をさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。 該検体細胞が、血管内皮細胞である、請求項5記載の方法。 hnRNP−K抗原を含む、膠原病に伴うレイノー症状の診断用キット。 hnRNP−K抗原が固相に固定されたものである、請求項7記載のキット。 膠原病が、強皮症、多発性筋炎、皮膚筋炎、混合結合組織病、シェーグレン症候群、ベーチェット病又は全身性エリテマトーデスである、請求項7又は8記載のキット。 【課題】本発明は、レイノー症状を呈した対象が、膠原病を基礎疾患として有しているかどうかを、より簡便に一度で診断できる方法を提供することを目的とする。【解決手段】本発明は、膠原病に伴うレイノー症状を診断する方法、より詳細には、生体試料中の抗hnRNP−K自己抗体を検出することを特徴とする、膠原病に伴うレイノー症状を診断する方法を提供する。本発明はまた、生体試料中の抗hnRNP−K自己抗体を検出する工程と、生体から分離された検体細胞について細胞表面に存在するhnRNP−K抗原を検出する工程を含む、膠原病に伴うレイノー症状を診断する方法を提供する。さらに、本発明は、hnRNP−K抗原が固定された固相を含む、膠原病に伴うレイノー症状を診断するためのキットも提供する。【選択図】なし配列表