タイトル: | 公開特許公報(A)_酵母、この酵母を用いて製造される発酵飲食品、酵母分離方法、および、酵母作出方法 |
出願番号: | 2012135347 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | C12N 1/16,A21D 8/04,A21D 13/00,C12G 1/02,C12G 3/02,C12C 11/02 |
小川 雅裕 谷川 篤史 JP 2014000004 公開特許公報(A) 20140109 2012135347 20120615 酵母、この酵母を用いて製造される発酵飲食品、酵母分離方法、および、酵母作出方法 サッポロビール株式会社 303040183 農業生産法人 株式会社銀座ミツバチ 512157885 磯野 道造 100064414 多田 悦夫 100111545 小川 雅裕 谷川 篤史 C12N 1/16 20060101AFI20131206BHJP A21D 8/04 20060101ALI20131206BHJP A21D 13/00 20060101ALI20131206BHJP C12G 1/02 20060101ALI20131206BHJP C12G 3/02 20060101ALI20131206BHJP C12C 11/02 20060101ALI20131206BHJP JPC12N1/16 GC12N1/16 AA21D8/04A21D13/00C12G1/02C12G3/02 119GC12C11/02 5 2 OL 16 特許法第30条第2項適用申請有り (1)平成24年(2012年)5月23日に、農林水産省からの「食と地域の絆づくり優良事例」への選定を記念して紙パルプ会館で開催された銀ぱち受賞記念パーティーにて、「酵母を用いて製造される発酵飲食品」を口頭にて開示 4B032 4B065 4B032DB01 4B032DK54 4B065AA80X 4B065BA23 4B065BB06 4B065BB15 4B065BC05 4B065BC50 4B065CA42 本発明は、酵母、この酵母を用いて製造される発酵飲食品、酵母分離方法、および、酵母作出方法に係り、特に、ミツバチから採取された酵母、この酵母を用いて製造される発酵飲食品、酵母分離方法、および、酵母作出方法に関する。 現在、食品に対する消費者のニーズは多様化しており、各消費者の食品への購買意欲は、味、香り、外観等に左右されるだけでなく、材料、製造工程、さらには、食品の生み出された背景・経緯によっても大きく左右される。 このことは、ワイン、ビール、パンをはじめとする各種の発酵飲食品ついても例外ではなく、消費者の多様化したニーズを満たすために様々な発酵飲食品が開発されている。 ここで、発酵飲食品の多様化を図る1つの方法として、発酵飲食品の発酵を行う酵母について従来使用されてきたものとは異なる新規な酵母を使用するという方法が存在する。 この方法により発酵飲食品の多様化を図る技術に関して、以下のような様々な技術が提案されている。 例えば、特許文献1には、桜の花びらより採取された酵母(受託番号:FERM P−18560)、および、当該酵母を用いて製造される発酵飲食品が提案されている。 また、特許文献2には、ナラノヤエザクラの花びらより採取された酵母(受託番号:NITE P−684)、および、当該酵母を用いて製造される発酵飲食品が提案されている。 また、特許文献3には、梅の花から採取された酵母(受託番号:NITE P−1056)、および、当該酵母を用いて製造される発酵飲食品が提案されている。特許第3846623号公報特許第4601015号公報特許第4899138号公報 特許文献1〜3に係る技術は、それぞれ、桜や梅より採取された酵母を用いる技術であり、桜や梅は鑑賞用の植物として人気が高いことから、これらの酵母由来の発酵飲食品は、消費者の購買意欲を高められると考えられる。 ここで、桜や梅といった植物とは大きく異なるが、古来より、様々な効能・効果が謳われてきた蜂蜜(ミツバチにより集蜜された蜜)から酵母を採取することができれば、当該酵母由来の発酵飲食品を製造することにより、消費者の多様化したニーズをさらに満たすことができると考えられる。 そこで、本発明は、新規な酵母、この酵母を用いて製造される発酵飲食品、酵母分離方法、および、酵母作出方法を提供することを課題とする。 蜂蜜は、訪花した蜂が集蜜し、集蜜された蜜が蜂の巣内で加工、貯蔵されることで製造される。詳細には、蜂により集蜜された蜜が、蜂の体内(口器等)でグルコース(ブドウ糖)やフルクトース(果糖)に分解されるとともに、蜂の巣内による水分発散作業(羽での扇風等)により、糖度の高い蜂蜜が製造される。 ここで、蜂蜜は糖度が非常に高いことから、当該蜂蜜中に存在する酵母は高い浸透圧により大半が死滅してしまう。特に、発酵飲食品の製造に用いられる有効な酵母であるサッカロミセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae:以下、適宜、S.cerevisiaeという)は生存することが非常に難しい。よって、発明者らは、発酵飲食品の製造に用いられる有効な酵母を蜂蜜から分離するのは極めて困難であると判断した。 発明者らは鋭意研究した結果、糖度の高い蜂蜜から酵母を採取するよりも、糖度が高くなっていない状態の蜜を有するミツバチから酵母を採取するという新たな発想に基づき、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明に係る酵母は、サッカロミセス セレビシエに属するSBC5910(受領番号:NITE AP−1376)であることを特徴とする。そして、本発明に係る発酵飲食品は、前記酵母を用いて製造されることを特徴とする。 このように、本発明に係る酵母は、新規な酵母であることから、当該酵母由来の発酵飲食品を製造することにより、消費者の多様化したニーズを満たすことができる。 また、本発明に係る発酵飲食品は、前記酵母を用いて製造されることにより、燻製香(グアイヤコール)を有するから、従来のものとは異なる独特の香りを発酵飲食品に付与することができ、商品の差別化を図ることができる。 本発明に係る酵母分離方法は、ミツバチから酵母を分離する酵母分離方法であって、エタノールと炭素源とを含む培地を用いて、嫌気下において酵母を集積培養する集積培養工程を含むことを特徴とする。 このように、本発明に係る酵母分離方法は、前記集積培養工程を含むことから、ミツバチから所望の酵母の分離を適切に行うことができる。 また、本発明に係る酵母分離方法は、前記集積培養工程の後に、リジンを唯一の窒素源とする完全合成培地であるSDK寒天培地と、マルトースを唯一の炭素源とする完全合成培地であるSM寒天培地と、を用いて、リジン資化性を有さないとともにマルトース資化性を有する酵母を選抜する選抜工程を含むことを特徴とする。 このように、本発明に係る酵母分離方法は、前記選抜工程を含むことから、リジン資化性を有さないとともにマルトース資化性を有する所望の酵母の分離をさらに適切に行うことができる。 加えて、本発明に係る酵母分離方法は、SDK寒天培地、SM寒天培地という非常に作成し易い培地を使用することから、ミツバチから所望の酵母を簡便に分離することができる。 本発明に係る酵母作出方法は、前記酵母分離方法により分離した酵母を、マルトースに馴化させる馴化工程を含むことを特徴とする。 このように本発明に係る酵母作出方法は、酵母をマルトースに馴化させる馴化工程を含むことから、マルトース発酵性が高められた酵母を作出することができる。 本発明によれば、新規な酵母、この酵母を用いて製造される発酵飲食品、酵母分離方法、および、酵母作出方法を提供することができる。本発明に係る酵母分離方法のフローチャートである。各種酵母の顕微鏡写真であって、(a)は、天然培地(YEPD寒天培地)において培養した後の各種酵母の顕微鏡写真、(b)は、胞子形成培地(KAc寒天培地)において培養した後の各種酵母の顕微鏡写真である。各種酵母の発酵試験(麦汁)の結果を示すグラフである。 以下、本発明に係る酵母、この酵母を用いて製造される発酵飲食品、酵母分離方法、および、酵母作出方法を実施するための形態について説明する。[酵母] 本発明に係る酵母は、ミツバチから採取された新規な酵母であり、後記の分類学的特徴および生理学的特徴を有するS.cerevisiaeに属する菌株である。(分類学的特徴) 本発明に係る酵母のrRNAをコードするDNAの塩基配列のうち、LSU(large subunit、26S)D2領域およびITS1(internal transcribed spacer 1)領域の塩基配列をキャピラリーシーケンサー(ABI3500)で解析し、BLAST検索で同定を行った結果、S.cerevisiaeと100%マッチングした。 よって、本発明に係る酵母は、S.cerevisiaeに属する酵母である。 本発明に係る酵母は、微生物の表示(識別の表示)を「SBC5910」として、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに、「受領番号:NITE AP−1376」(受領日:2012年6月14日)として受領されている。(生理学的特徴) 本発明に係る酵母は、胞子形成能を有する。よって、本発明に係る酵母を使用して交配が可能であり、各発酵飲食品により適した優良株を作成することができる。 なお、図2(b)の一番右側の写真は、本発明に係る酵母を胞子形成培地で、25℃、5日間培養した状態の顕微鏡写真(対物×100、位相差)であるが、全ての酵母が胞子を形成していることがわかる。 本発明に係る酵母は、発酵するとグアイヤコールを発するという特徴を有する。よって、本発明に係る酵母を用いて、例えば、麦芽発酵飲料を製造した場合、従来のものとは異なる独特の香りを麦芽発酵飲料に付与することができ、商品の差別化を図ることができる。 ただし、発酵飲食品の中には、本発明に係る酵母を用いて製造しても、グアイヤコールがほとんど感じられないものも存在する。 本発明に係る酵母は、炭素源として、グルコース、マルトースを資化するという特徴を有する。よって、本発明に係る酵母は、グルコースを唯一の炭素源として生育することができるとともに、マルトースを唯一の炭素源として生育することができる。 一方、本発明に係る酵母は、リジンを資化しないという特徴を有する。よって、本発明に係る酵母は、リジンを唯一の窒素源として生育することができない。 なお、本発明に係る酵母の前記生理学的特徴およびその他の生理学的特徴について、下面ビール酵母(Saccharomyces pastorianus:以下、適宜、S.pastorianusという)、および、上面ビール酵母(S.cerevisiae)と比較して下記表1に示す。 表1中の「+」は陽性を示し、「−」は陰性を示す。[酵母を用いて製造される発酵飲食品] 本発明に係る発酵飲食品とは、本発明に係る酵母の発酵により製造された飲食品であり、例えば、ワイン、清酒、麦芽発酵飲料といった発酵飲料や、パンをはじめとする発酵食品を挙げることができる。 なお、本発明に係る発酵飲食品の製造方法については、従来公知の各発酵飲食品の製造方法を用いればよい。 ただし、本発明に係る酵母は、マルトースに馴化し、マルトース発酵性を高めた後でも、マルトース発酵性が若干弱いため、マルトースが多く含まれている発酵対象を取り扱う際には、マルトースを分解する酵素(例えば、グルコアミラーゼ)を発酵工程前(または発酵工程中)に添加するのが好ましい。[酵母分離方法] 本発明に係る酵母分離方法は、ミツバチから酵母を分離する酵母分離方法であって、エタノールと炭素源とを含む培地を用いて、嫌気下において酵母を集積培養する集積培養工程を含むことを特徴とする。 そして、本発明に係る酵母分離方法は、前記集積培養工程の後に、リジンを唯一の窒素源とする完全合成培地であるSDK寒天培地と、マルトースを唯一の炭素源とする完全合成培地であるSM寒天培地と、を用いて、リジン資化性を有さないとともにマルトース資化性を有する酵母を選抜する選抜工程を含むことが好ましい。 以下、図1のフローチャートを用いて、本発明に係る酵母分離方法を詳細に説明する。(サンプリング) サンプリングS1では、訪花から巣箱に帰還した蜂を、ピンセットで採取する。詳細には、東京都中央区銀座に設置されている巣箱に帰還したニホンミツバチ(Apis cerana japonica Rad)を採取する。 なお、蜂の採取場所については、前記場所に限定されない。(集積培養) 集積培養S2では、エタノールと炭素源とを含む液体培地に、サンプリングS1で採取した蜂を投入し、嫌気下において酵母を集積培養する(条件A)。この集積培養S2における培養温度は約25℃が好ましい。 なお、本発明における集積培養では、気泡の発生を確認するため、ダーラム管(ダーラム発酵管)を用いるのが好ましい。 この集積培養S2の培地は、エタノールと2w/v%以上の炭素源(グルコース、マルトース、スクロースのうちの1種または2種以上)とを含むことが好ましく、2〜4v/v%のエタノールと2〜6w/v%の炭素源とを含むのがさらに好ましい。その他、酵母エキス、麦芽エキス、ペプトン等を含んでもよい。 集積培養S2において、1週間以内に気泡が発生した場合は(Yes)、集積培養S4の処理に移行する。 一方、集積培養S2において、1週間経過しても気泡が発生しなかった場合は(No)、同じ条件(条件A)で、さらに1週間集積培養を行い、気泡の発生を確認する(集積培養S3)。 集積培養S3において、集積培養S2の開始時から起算して2週間以内に気泡が発生した場合は(Yes)、集積培養S4の処理に移行する。 一方、集積培養S3において、集積培養S2の開始時から起算して合計2週間経過しても気泡が発生しなかった場合は(No)、酵母の分離が失敗した(NG)と判断する。 集積培養S4では、集積培養S2の培地と異なる培地を使用する以外は、集積培養S2と同じ条件で酵母を集積培養する(条件B)。 この集積培養S4の培地は、4〜6v/v%のエタノールと6〜10w/v%の炭素源(グルコース、マルトース、スクロースのうちの1種または2種以上)とを含むことを特徴とする。そして、集積培養S4の培地は、集積培養S2の培地と比較して、エタノールおよび炭素源の含有量が高くなるように調製されているのが好ましい。その他、酵母エキス、麦芽エキス、ペプトン等を含んでもよい。 集積培養S4において、2週間以内に気泡が発生した場合は(Yes)、プレーティングS5の処理に移行する。 一方、集積培養S4において、2週間経過しても気泡が発生しなかった場合は(No)、酵母の分離が失敗した(NG)と判断する。 なお、請求項における集積培養工程とは、集積培養S2の処理のみを行う工程(S2でYesの場合はS5に移行、Noの場合はNG)、集積培養S2およびS3の処理のみを行う工程(S2またはS3でYesの場合はS5に移行、S2でNoの場合はS3に移行、S3でNoの場合はNG)、集積培養S2およびS4の処理のみを行う工程(S2でYesの場合はS4に移行、S2でNoの場合はNG、S4でYesの場合はS5に移行、S4でNoの場合はNG)のいずれかであってもよいが、前記のとおり集積培養S2、S3、S4の処理を行う工程であれば、より好適に酵母を集積培養することができる。(プレーティング・観察) プレーティングS5では、集積培養S4で得られた酵母をYEPD寒天培地で嫌気培養し、その後、培養した酵母を顕微鏡で観察する(観察S6)。 観察S6において、培養した酵母のコロニー形状や顕微鏡観察で、S.cerevisiaeの特徴を示した場合は(Yes)、選抜S7の処理に移行する。 一方、観察S6において、培養した酵母がS.cerevisiaeの特徴を示さなかった場合は(No)、酵母の分離が失敗した(NG)と判断する。(選抜) 選抜S7では、観察S6においてS.cerevisiaeである可能性が高い酵母から、リジン資化性を有さないとともにマルトース資化性を有する酵母を選抜する。 この選抜S7では、少なくとも、リジンを唯一の窒素源とする完全合成培地であるSDK寒天培地と、マルトースを唯一の炭素源とする完全合成培地であるSM寒天培地と、を用いるとともに、さらに、グルコースを唯一の炭素源とする完全合成培地であるSD寒天培地を用いるのが好ましい。 なお、SDK寒天培地は、SD寒天培地の窒素源をリジンに変更した培地であり、SM寒天培地は、SD寒天培地の炭素源をマルトースに変更した培地である。そして、完全合成培地とは、精製された化学薬品のみから調製可能な培地であり、組成が明確で培養の再現性が得やすい培地である。 詳細には、選抜S7では、SDK寒天培地、SD寒天培地、SM寒天培地にレプリカ培養を行い、SD寒天培地とSM寒天培地とで生育するとともに(SD+、SM+)、SDK寒天培地で生育しなかった(SDK−)酵母を選抜する。 選抜S7において、SD+、SM+、SDK−であった場合は(Yes)、シークエンスS8の処理に移行する。 一方、選抜S7において、SD−の場合は、SD+となるまで再度レプリカを行う。SD+の場合は、SM+またはSDK−のいずれかを満たさなかった場合(No)、酵母の分離が失敗した(NG)と判断する。(シークエンス) シークエンスS8では、選抜S7で選抜した酵母のrRNAをコードするDNAの塩基配列を解析し、公知のS.cerevisiaeの塩基配列と比較する。 詳細には、シークエンスS8では、選抜S7で選抜した酵母のrRNAをコードするDNAの塩基配列のうち、例えば、LSU(large subunit、26S)D2領域およびITS1(internal transcribed spacer 1)領域の塩基配列をキャピラリーシーケンサー(ABI3500)で解析し、BLAST検索で同定を行い、S.cerevisiaeと99%以上マッチングするか否かを判断する。 シークエンスS8において、S.cerevisiaeと99%以上マッチングした場合は(Yes)、候補株を取得することとなり(候補株取得S9)、酵母の分離を終了する(END)。 一方、シークエンスS8において、S.cerevisiaeとのマッチングが99%未満の場合は(No)、酵母の分離が失敗した(NG)と判断する。[酵母作出方法] 本発明に係る酵母作出方法は、前記分離方法により分離した酵母を、マルトースに馴化させる馴化工程を含むことを特徴とする。 馴化工程は、従来公知の酵母を馴化させる方法で行えば良く、例えば、マルトースを唯一の炭素源とする培地(2×YMM6)でマルトース資化性あるいは発酵性が向上するまで継代培養を実施する方法が挙げられる。[本発明の効果等] 本発明に係る酵母分離方法によれば、ミツバチからS.cerevisiaeを適切に分離することができる。詳細には、ミツバチからS.cerevisiaeを分離する際に、擬陽性(ノイズ)となり易い真菌、例えば、Mucor、Zygosaccharomyces、Wickerhamomyces anomalus、Candida glabrata、Candida humilisを適切に除外することができる。 また、本発明に係る酵母分離方法によれば、使用する培地(SDK寒天培地、SM寒天培地)が非常に作成し易いことから、ミツバチからS.cerevisiaeを簡便に分離することができる。 本発明に係る酵母作出方法によれば、酵母をマルトースに馴化させる馴化工程を含むことから、酵母のマルトース発酵性を高めることができる。その結果、発酵対象にマルトースが含まれている場合であっても、マルトースの発酵能を高めることができる。 本発明に係る酵母分離方法および酵母作出方法は以上説明したとおりであるが、本発明を行うにあたり、悪影響を与えない範囲において、前記各処理(工程)の間あるいは前後に、他の処理を含めてもよい。 そして、前記各処理において、明示していない条件については、従来公知の条件を用いればよく、前記各処理によって得られる効果を奏する限りにおいて、その条件を適宜変更できることは言うまでもない。 さらに、本発明に係る酵母分離方法は、ミツバチからのS.cerevisiaeの分離に非常に適した方法であるが、当該酵母以外の分離にも当然適用することができる。 例えば、リジン資化性の有無に基づき酵母を選抜したい場合は、SDK寒天培地を用いることで好適に所望の酵母を選抜することができ、マルトース資化性に基づき酵母を選抜したい場合は、SM寒天培地を用いることで好適に所望の酵母を選抜することができる。 なお、本発明に係る酵母分離方法で使用するSDK寒天培地は、前記のとおり非常に有用な培地であることから、当該培地を完成するに至った経緯について説明しておく。 現時点において、S.cerevisiaeやS.pastorianus等の発酵産業酵母を特異的に選抜することのできる培地は存在しない。 しかしながら、これらの発酵産業酵母は、産業上有用な酵母であるため、環境中から見出すことには重要な意義がある。そこで、特異的に選抜できなくとも、環境中の多くの他の酵母を排除することができれば、これらの発酵産業酵母の選抜を優位に進めることができる。 現在、リジンを主要な窒素源とするリジン培地という培地が知られており、このリジン培地ではS.cerevisiaeやS.pastorianus等の発酵産業酵母は生育しないが、多くの野生酵母が増殖することから、発酵産業酵母中の野生酵母の分離・算定に用いられている。 しかし、リジン培地は組成が複雑であるため、作成が非常に困難であった。 そこで、発明者らは、酵母の合成培地として一般に使用されているSD寒天培地を活用することにより培地作成の容易化を図り、当該SD寒天培地の窒素源をリジンに代えた培地(SDK寒天培地)を完成するに至った。 なお、SDK寒天培地で種々の酵母の増殖性を調べたところ、S.cerevisiaeやS.pastorianusは増殖しないのに対し、Zygosaccharomyces rouxii、Z.mellis、Candida apicola、C.magnoliae、Stamerell sp.、Rhodotorula sp.、Brettanomyces anomalusでは増殖が認められた。 次に、本発明に係る酵母分離方法により得られた酵母の塩基配列、胞子形成能、発酵性等の試験結果について説明する。[酵母分離方法および酵母作出方法] まず、東京都中央区銀座に設置されている巣箱に帰還したニホンミツバチ(Apis cerana japonica Rad)をピンセットで採取した。 そして、10mlの集積培地を含むダーラム管にサンプリングしたニホンミツバチ1〜4匹を無菌的に加え、25℃、嫌気(嫌気チェンバー、エスペック社EAN−140)という条件の下、1〜2週間静置して集積培養を行った。この集積培養において、菌体の増殖(目視による濁度の上昇)とダーラム管でのガス捕集が確認できたサンプルを一次候補とした。 なお、この集積培養で使用した集積培地は、後記表2に示す2×YM液体培地に、炭素源をグルコースからマルトースやスクロースに変更したり、炭素源濃度を2w/v%から2〜6w/v%に変更したり、エタノールを2〜4v/v%添加したり、条件を変えた培地を用いた(後記表2の2×YMD6液体培地、2×YMM6液体培地等)。 次に、10mlの確認培地(2×YMM6E6液体培地、2×YMU6E6液体培地)を含むダーラム管に一次候補株の集積培養液100μlを植菌して、25℃、嫌気という条件の下、2週間静置して集積培養を行った。この集積培養において、旺盛な増殖とガスの発生が確認できたサンプルを二次候補株とした。なお、2×YMM6E6液体培地を用いた場合は、ガスの発生が無くとも旺盛な増殖が確認できれば可とした。 その後、二次候補株の顕微鏡観察で、S.cerevisiaeの特徴を示すサンプルを三次候補株とした。 そして、三次候補株を100cells/100μl程度になるように蒸留水で希釈して、SM寒天培地とYEPD寒天培地に100μl塗布した。そして、SM寒天培地では25℃好気培養を、YEPD寒天培地では25℃嫌気培養を行い複数のコロニーを得た。 この際、2つの確認培地で取得したサンプルを、SM寒天培地、YEPD寒天培地に各々塗布を行った。 出現したコロニーの外観がS.cerevisiaeの特徴を示す事を確認した後、これをSD寒天培地、SDK寒天培地、SM寒天培地を用いてレプリカ培養を行い、SD寒天培地とSM寒天培地で生育し(SD+、SM+)、SDK寒天培地で生育しなかった(SDK−)コロニーを最終候補株とした。 最終候補株のrRNAをコードするDNAの塩基配列のうち、LSU(large subunit、26S)D2領域およびITS1(internal transcribed spacer 1)領域の塩基配列をキャピラリーシーケンサー(ABI3500)で解析し、BLAST検索で同定を行い、S.cerevisiaeと99%以上マッチングする株を取得した。 前記酵母分離方法より、ニホンミツバチからの酵母の分離を行った。そして、分離した酵母を、マルトースを唯一の炭素源とする培地(2×YMM6)でマルトース資化性あるいは発酵性が向上するまで継代培養を実施し、マルトースへの馴化を行うことで酵母(SBC5910)を作出した。 なお、実施例で使用した前記培地(2×YM、2×YMD6、2×YMM6、2×YMM6E6、2×YMU6E6、YEPD、SD、SDK、SM)の詳細な組成を表2、3に示す。表2、3中の「−」は含有量が0%であることを示す。 また、表2、3の培地について、集積培養(図1のS2、S3、S4)やプレーティング(図1のS5)の培地として用いる場合は、細菌やカビの増殖を防止するため、0.01w/v%のクロムフェニコール(和光純薬工業、分子生物学用試薬)と0.2w/v%のプロピオン酸ナトリウム(和光純薬工業、一級試薬)とを添加した。さらに、表2、3の培地について、寒天培地として用いる場合は、2w/v%の寒天(和光純薬工業)を添加した。[取得株の特徴解析](塩基配列) 前記酵母分離方法により取得した菌株の塩基配列をキャピラリーシーケンサー(ABI3500)で解析したところ、rRNAをコードするDNAの塩基配列のうち、LSUのD2領域およびITS領域について全て同一であるとともに、データベース上のS.cerevisiaeの塩基配列と100%のマッチングであったことから、S.cerevisiaeであるとの確証が得られた。(胞子形成能) 前記酵母分離方法により分離した酵母について、天然培地(YEPD寒天培地)、胞子形成培地(KAc寒天培地)を用いて、25℃、5日間培養した。培養後の状態について顕微鏡写真(対物×100、位相差)を撮影した。また、比較例として、下面ビール酵母、上面ビール酵母についても同じ条件で培養を行い、顕微鏡写真を撮影した。 なお、胞子形成培地は、酢酸カリウム1w/v%、酵母エキス0.1w/v%、グルコース0.05w/v%、寒天2w/v%を含んで構成される培地であった。 図2(a)は、天然培地で培養を行った後の状態を示す顕微鏡写真であり、図2(b)は、胞子形成培地で培養を行った後の状態を示す顕微鏡写真である。 図2(b)から明らかなように、下面ビール酵母は全く胞子を形成せず、上面ビール酵母もほとんど胞子を形成しなかったが、本発明に係る酵母(SBC5910)は、ほぼ全ての酵母が胞子を形成した。 また、図2(a)の天然培地で培養を行った場合でも、本発明に係る酵母(SBC5910)は、高頻度で4胞子を形成した。 したがって、本発明に係る酵母は、胞子形成能を有することがわかった。(発酵性:ダーラム管試験) 前記酵母分離方法により分離した酵母について、2×YMM6E6液体培地と、2×YMU6E6液体培地とを用いてダーラム管内でマルトースとスクロースとの発酵性を調べた。 その結果、本発明に係る酵母は、スクロース発酵性およびマルトース発酵性が確認された。(発酵性:80ml麦汁の発酵試験) 前記酵母分離方法により分離、マルトースに馴化した酵母(SBC5910)と、比較例として用意した上面ビール酵母、パン酵母と、を用いて、80ml麦汁の発酵試験を行った。 詳細には、80mlの麦汁に対して、各酵母を植菌して、20℃で7日間静置し、その後、培地内のエタノール濃度(v/v%)および仮性エキス(%)を測定した。 なお、発酵試験で用いた麦汁は、通常のビール麦汁であった。 図3は、発酵試験(麦汁)後のエタノール濃度および仮性エキスの結果を示すグラフである。 図3から明らかなように、本発明に係る酵母(SBC5910)は、麦汁中のエタノール濃度が若干低く、仮性エキスが若干多く残存してしまっていたことから、麦汁発酵性が若干弱いことがわかった。(発酵性:80ml果汁の発酵試験) 前記酵母分離方法により分離、マルトースに馴化した酵母(SBC5910)と、比較例として用意した下面ビール酵母、上面ビール酵母、パン酵母、ワイン酵母と、を用いて、80ml果汁の発酵試験を行った。 詳細には、ソーヴィニヨン・ブラン(Sauvignon Blanc)Brix68の濃縮果汁を水道水で5倍に希釈したもの、および、希釈したものに栄養分を添加したものを、各80ml用意し、植菌後、25℃で7日間静置し、各溶液中の成分を測定した。 なお、栄養分の添加については、硫酸アンモニウムが350mg/l、チアミン・HClが0.4mg/l、ビオチンが0.02mg/l、ピリドキシンが0.4mg/l、イノシトールが2mg/l、ニコチン酸が0.1mg/l、という終濃度となるように各物質を添加した。 80ml果汁の発酵試験の結果を表4に示す。 なお、表4中の「無添加」とは、濃縮果汁を希釈後に栄養分を添加していないもの、「栄養添加」とは、濃縮果汁を希釈後に栄養分を添加したものを示す。 表4から明らかなように、「無添加」、「栄養添加」のいずれの場合も、本発明に係る酵母(SBC5910)で発酵させた成分結果と、ワイン酵母で発酵させた成分結果との間において、エタノールおよび仮性エキスに大きな差異は存在しなかった。 したがって、本発明に係る酵母は、ワイン酵母と比較しても、遜色のない分析値ならびに香りのワインを製造できることがわかった。(発泡性麦芽発酵飲料の製造) 前記80ml麦汁の発酵試験では、本発明に係る酵母は、麦汁発酵性が若干弱いことがわかった。これは、マルトース発酵性が若干弱いことに起因するものであると考える。 したがって、発泡性麦芽発酵飲料(ビール)を製造するにあたり、麦芽等の原料から麦汁を作る工程である仕込工程時においてグルコアミラーゼ(アマノGAS)を添加することにより、マルトースを分解させた。 なお、前記仕込工程におけるグルコアミラーゼの添加以外の製造方法は、通常の麦芽100%ビールの製造方法で仕込、発酵、貯酒およびろ過を実施した。 本発明に係る酵母を使用して製造した発泡性麦芽発酵飲料をガスクロマトグラフィーで測定したところ、グアイヤコールの起因物資である4−ビニルグアイヤコール(4−VG)が3.1ppm検出された。 なお、測定の詳細な方法は、測定試料をSPMEで抽出後、ガスクロマトグラフィー(カラム:DB−WAX(J&W) 30m×0.25mm 膜圧0.25μm、キャリアガス:He、コンスタントフロー 1ml/min、注入:スプリットレス、注入口温度 270℃、オーブン:50℃,3min→5℃/min→240℃,2min、トランスファーライン:240℃、MS条件:4−vinylguaiacol m/z 150,135,107、ガスクロ:アジレント6890+5973N)で測定するというものであった。 下面ビール酵母を使用して製造する一般的な発泡性麦芽発酵飲料の4−VGが約0.2ppmであることを考慮すると、本発明に係る酵母を使用して製造した発泡性麦芽発酵飲料は、グアイヤコールという独特の香りを麦芽発酵飲料に付与することができ、商品の差別化を図ることができることがわかった。(パンの製造) 製パン機(サンヨー社製ホームベーカリーSPM−KP1)を使用し、当該製パン機に酵母を17.5g、強力粉260g、ショートニング20g、砂糖20g、塩4g、スキムミルク5g、水180mlを投入し、「天然酵母使用コース」(7時間)により、パンを製造した。 なお、酵母としては、本発明に係る酵母(SBC5910)と、比較例として用意したパン酵母とを使用した。 本発明に係る酵母を使用して製造したパン、および、パン酵母を使用して製造したパンについて、10名のパネラーにより官能試験を実施した。その結果、5名が本発明に係る酵母を使用して製造したパンの方が美味しいと判断し、3名がパン酵母を使用して製造したパンの方が美味しいと判断し、2名は両者に差が無いと判断した。 また、本発明に係る酵母を使用して製造したパンと、パン酵母を使用して製造したパンとでは、パンの高さがほとんど変わらず、膨張率は同じであることがわかった。 したがって、本発明に係る酵母は、パン酵母と比較しても、遜色のないパンを製造できることがわかった。 以上、本発明に係る酵母、この酵母を用いて製造される発酵飲食品、酵母分離方法、および、酵母作出方法について、発明を実施する形態および実施例により詳細に説明したが、本発明の趣旨はこれらの説明に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。 サッカロミセス セレビシエに属するSBC5910(受領番号:NITE AP−1376)であることを特徴とする酵母。 請求項1に記載の酵母を用いて製造されることを特徴とする発酵飲食品。 ミツバチから酵母を分離する酵母分離方法であって、 エタノールと炭素源とを含む培地を用いて、嫌気下において酵母を集積培養する集積培養工程を含むことを特徴とする酵母分離方法。 前記集積培養工程の後に、リジンを唯一の窒素源とする完全合成培地であるSDK寒天培地と、マルトースを唯一の炭素源とする完全合成培地であるSM寒天培地と、を用いて、リジン資化性を有さないとともにマルトース資化性を有する酵母を選抜する選抜工程を含むことを特徴とする請求項3に記載の酵母分離方法。 請求項3又は請求項4の酵母分離方法により分離した酵母を、マルトースに馴化させる馴化工程を含むことを特徴とする酵母作出方法。 【課題】本発明は、新規な酵母、この酵母を用いて製造される発酵飲食品、酵母分離方法、および、酵母作出方法を提供する。【解決手段】サッカロミセス セレビシエに属するSBC5910(受託番号:NITE P−1376)であることを特徴とする酵母。【選択図】図220120720A16333請求項13 サッカロミセス セレビシエに属するSBC5910(受託番号:NITE P−1376)であることを特徴とする酵母。A1633000103 すなわち、本発明に係る酵母は、サッカロミセス セレビシエに属するSBC5910(受託番号:NITE P−1376)であることを特徴とする。そして、本発明に係る発酵飲食品は、前記酵母を用いて製造されることを特徴とする。 このように、本発明に係る酵母は、新規な酵母であることから、当該酵母由来の発酵飲食品を製造することにより、消費者の多様化したニーズを満たすことができる。 また、本発明に係る発酵飲食品は、前記酵母を用いて製造されることにより、燻製香(グアイヤコール)を有するから、従来のものとは異なる独特の香りを発酵飲食品に付与することができ、商品の差別化を図ることができる。A1633000193 本発明に係る酵母は、微生物の表示(識別の表示)を「SBC5910」として、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに、「受託番号:NITE P−1376」(寄託日:2012年6月14日)として受託されている。